粘土遊び 第2話

第2話 奈落の底へ

 ある朝の事だった。
 ふ、と目がさめると、俺の手には・・・粘土があった。
 いつの間に、誰がつけたのだろう。
 家族の悪戯にしちゃあ、唐突すぎる。
 疑問を持ちつつも、俺はその粘土をごみ箱に投げ捨てた。

 だが、それは、その日の事だけではなかった。
 
 学校の授業中も。食事中も。風呂に入っている時も。
 気づけば、何時の間にか俺の手には粘土が張り付いていた。
 しかも、不思議な事に、それは誰にも見えない。
 友達に「こんな粘土が・・・」と手を見せても、ただ不思議そうな顔をして首を傾げるだけ。
 危うく、精神科を紹介されそうになった事もある。

 使い方が分かるまでには時間がかかった。
 まず、この粘土は俺にしか見えない、という事を知り。
 そして・・・ある日、粘土が勝手に知り合いに飛んでいったのだった。
 俺は、その知り合いが、あまり得意ではなかった。
 
 「失せろ」
 そう思った瞬間、粘土は、知り合いの身体に吸い込まれた。
 そして・・・知り合いはその場を去った。
 俺の、望んだとおりに。
 フラフラと、まるで・・・何かに操られるように
 
 そうやって手探りで、俺はこの粘土の「ルール」のようなものを学んでいったのだ。

 1、粘土には自分の意思を込め、相手に近づけ、吸い込ませる。
 俺の主観的な意見でいい。
 「これは青色だ。」と念じ、吸い込ませれば、相手は赤いボールが青に見える。

 2、粘土は相手の心臓付近に吸い込ませないと効果がない。
 手を胸にかなり近づけないと、粘土は吸い込まれない。

 3、粘土は自由自在に「消す」事が出来る。
 逆にいえば、粘土を相手の心に貼り付けたままだと、その粘土の意思が、対象に効果を永遠に齎してしまう。。
 粘土を消す際も、心臓付近に手を近づけなければならない。

 4、粘土を消すと同時に、粘土を取り付けていた間の記憶は本人から消える。

 5、粘土は1日3回使うのが限度らしい。
 これは不確かだが、俺の精神力が持たないらしい。
 3回以上使うと、強烈な眠気が襲って、俺が活動できなくなる。
 ただ、一度眠れば、例え対象に粘土を取り付けたままでも、再び粘土を作る事が出来る。

 多少不便な点もある。
 しかし・・・これほどすばらしい能力はない。
 これを使って、俺は・・・己の欲望を満たしてやる。
 そうだ、今まで、己の内に秘めた欲望を。
 全て、開放し、満たし・・・そして・・・

 

 狭い路地から出て、大通りを抜ければ、俺の家に辿り着いた。
 ごく一般的な、広くも狭くもない家。
 俺の部屋があるだけ良い。
 ・・・部屋がないと色々不便だろうからな。
 今日は、両親が出かけている。
 それを知って、粘土遊びを今日にしたのだから。
 
「ここ・・・桂クンの家?」

「ああ、そうだよ。・・・さ、中に入ろうか」

 俺は強引に早耶香の腕を引っ張り、家の中に入る。
 こうも強引にされれば、ついつい早耶香も家の中に入っていってしまう。
 玄関のドアを開け、明かりを点ける。

「・・・お邪魔・・・します」

 躊躇いがちに早耶香は家の玄関をくぐり、靴を脱ぐ。
 二階へと上がり俺の部屋のドアを開けて、俺はベッドに座る。
 早耶香は部屋のドアの前に立って、俺をジッと見ている。

「・・・ねぇ・・・それで、話って何なの・・・?いい加減、話してよ」

 少し怒っているのだろうか。早耶香の目線がキツくなっている。
 まぁ、本題に入るのが遅すぎたかな。
 ここに来るまで抵抗しなかった早耶香に礼を言いたいところだが。
 俺はベッドに座ったまま、早耶香の目をジッと見る。

「・・・小さかった頃の事、覚えてる?」

「・・・え?」

 早耶香はキョトンとして、俺に疑問の声を投げかける。

「俺は君の事が好きだった。そして・・・手紙にその思いを書いて、君に送ったよね。・・・君はその手紙を破って捨てた。俺は・・・凄くショックだったよ」

「・・・え・・・あ・・・」

 何も言い返せないらしい。まさか指摘されるとは思わなかったのだろうな。
 彼女自身も、このことについて少し恐れていたようだし・・・
 ・・・こういう表情を見るのも、また楽しいものだな。クク。

「でも、俺は君の事がそれでも好きだった。その思いが、今の今までずっと続いてきたんだ。・・・苦しかったよ・・・早耶香。手に入らないものを、手に入れようとするのは・・・」

「・・・・・」

「・・・好きだ。・・・これが、今回話したかった事さ」

 
 しばらく、時間が過ぎた。
 沈黙が俺の部屋を包み、一分がもの凄く長く感じられた。
 時計の長針が動くと、彼女は意を決して話し始めた。

「・・・ごめん・・・。昔の事は、謝るよ・・・。・・・でも・・・本当にごめん。私・・・今付き合ってる人がいるんだ。だから・・・」

「分かってるよ」

「・・・え?」

「君の容姿だ。これだけ時もたてば、彼氏の一人や二人、いても当然だろうと思ってたよ。そのくらい、分かっていた。」

「・・・・じ、じゃあ・・・」

 早耶香の顔が少しだけ明るくなった。
 諦めていてくれた。それが分かったからだろう。
 ・・・しかし・・・
 俺は立ち上がり、早耶香の顎を強引に持ち上げる。
 自分でもわかる。
 俺の表情が、怒りに満ちている事が。

「勘違いするな・・・!」

「・・・え・・・」

 彼女の表情が一瞬で恐怖に変わる。
 俺の口調が急に変わったからだろう。

「俺は別に愛の告白をしているわけじゃない。お前と恋人になろうともしていない・・・。そんな事で俺は話をしているわけじゃないッ・・・!」

「・・・?・・・??じ、じゃあ・・・なんで・・・?」

「簡単さ」

「・・・あ・・・」

 俺は粘土を右手に作り、彼女の胸に埋め込む。
 粘土は彼女の身体に浸透し、彼女の目線が何処かに移る。
 俺は彼女の耳に顔を近づけ、一言つぶやく。

「下僕になれ・・・!」

 と。

 瞬間、彼女が、変わった。

(・・・あれ・・・ここ・・・どこだろ・・・)

「・・・どうしたの?麻生さん?」

(・・・え・・・この人・・・確か・・・
 ・・・桂クン、だぁ。ちっちゃい頃、確か同級生だった・・・)

「ふふ、大丈夫?何だかボーッとしてるけど・・・」

(・・・あ・・・そっか・・・私・・・桂クンの家に呼ばれて、来たんだっけ・・・。
 
 ・・・そうだ・・・全部、思い出した・・・!
 私はここに・・・。

 桂クンにエッチしてもらうために来たんだった・・・♪)

 早耶香は内股をモジモジと擦り合わせると、顔を赤らめてチラチラこちらを見る。
 完全に発情しているのが外見でも分かる。
 上目がちにチラチラ、俺の方を見て、こう言う。

「き、急に家に上がらせてもらっちゃって・・・ごめんね・・・?
 え、と・・・桂クンに、ちょっとお願いっていうか・・・そういう事があって、さ・・・。」

 設定まで変えてやった。
 早耶香は、強引に俺の家に押しかけ、俺の部屋にあがってきた、と。
 俺はその様子を、何も言わずににやにや見ている。

「そ、それでね・・・恥ずかしい話・・・なんだけど・・・
 ・・・あの・・・その・・・」

 くく・・・焦らす。
 心は変えたが、やはり片隅に恥じらいは残るか。
 まぁ・・・その様子を見るのも楽しいものだな。

「・・・なんだい?言ってみてよ・・・」

 俺が一言、質問すると、意を決して早耶香は言った。

「・・・私と・・・エッチしてください・・・!」

 ・・・はははははは・・・!
 成功だ!これを何年望んでいたことか・・・!
 粘土の意思通りの要求を、早耶香が口にした。
 「桂と、セックスをしたい。そのためにこの家に来た。」・・・そんな内容の粘土を、埋めてやった。
 念願がかなった・・・!
 俺をフった女が今!ここで!性交を望んでいるっ・・・!

「あの、ね・・・私、彼氏がいるの・・・。
 それは自分でもわかってるんだけど・・・な、何だか・・・急にね・・・。
 桂クンと、エッチしたくなっちゃって・・・。
 ・・・あ、は・・・ごめんね・・・こんなコトお願いするのも・・・本当に変なんだけど・・・。」

 本当に、変だな。自分でもよく分かっていないらしいな。
 何故、桂と性交をするのか、ということが。
 しかし、それ以上に、欲情した心が強いらしい。
 早耶香はスカートの上から秘所を抑え、溢れ出る性への欲求を抑えていた。
 既に中は濡れているのだろう。軽く指を動かして、その欲望をかろうじて我慢している。

「・・・唐突だな・・・。大体、なんで俺が麻生さんにセックスしなくちゃいけないの?
 麻生さん、彼氏がいるんでしょ?そんなコトして・・・平気なの・・・?」

 わざと聞いてやる。

「確かに・・・私、彼氏がいる・・・。
 で、でも・・・ォッ・・・。も・・・我慢・・・出来なくて、ェ・・・!」

 本当に辛そうだ。
 どれ・・・ではそろそろ意地悪はやめてやるか。

「分かった」

「・・・え・・・?」

 期待と、驚き。
 そんな表情で、早耶香は俺を見ている。
 俺は立ち上がり、早耶香に顔を近づけると、唐突に唇を奪う。

「何だか分からないけど・・・麻生さんみたいな美人に言われて、断る話でもないさ。
 喜んでお受けするよ。」

「・・・ほ、ほんと・・・なの・・・!?・・・あ、は・・・す、すごい・・・
 夢じゃ・・・ないんだよ、ね・・・?っく・・・!
 桂・・・クン・・・♪」

 早耶香は嬉し涙を流しながら、俺に抱きついてくる。
 夢じゃないかは俺が確かめたいくらいなのにな・・・まさか憧れの人からこう言うとは。
 
「・・・ただし・・・条件が、ひとつだけ」

「・・・何?わ、私・・・何でも、するから・・・!」

 早く交わってくれ、と言った感じか。

「・・・ふふ、まぁ・・・やりながらでも話せるか」

 実は俺も我慢できない。
 既に男根が痛いくらいに張っていて、表から分かるほどだ。
 早耶香も、その出っ張りをジッと眺めていた。

 俺は強引に早耶香を押し倒し、首筋を舐める。

「っ・・・ひゃ、ァ・・・!あ・・・!」

 喘ぎ声を聞き俺は少し笑い、早耶香のスカートに手をかける。
 服を脱がす手間も惜しい。破るようにスカートを強引に脱がすと、下着の秘所の部分は、十分過ぎる程濡れていた。
 
 構う事はない、一気に行こう。
 俺は早耶香の下着を下にずらし、その秘所に指を触れる。

「ぁああッ!ぅ、ぁああんッ!くゥゥゥッ・・・!!」

 突起物をグリグリと弄り、それに飽きると、指を秘所の奥へと入れていく。
 これが・・・早耶香の中。
 ずっと、ずっと妄想し、憧れていた女の、中。
 支配する快感。征服する喜び。鏡を見れば、俺は自分の笑顔に恐怖するだろう。

「くひゃアアアアアアっ!か、桂、くぅん・・・っ!もっと、もっと掻き回してェェェェッ!!」

 言われなくてもしてやるさ。
 俺は指を、肘を使って、腕ごと動かしてやる。
 1本しか入れていなかった指を2本、3本と増やし、更に早耶香の快楽を掻き出そうとした。
 
 そのまま、唇を奪う。荒い息と、唇の温かい感触が、俺の唇に宿る。
 早耶香の表情を見れば、完全に彼女は、喜びの表情を見せている。口元は緩み、目線は、俺を見て微笑む。
 
 我慢の限界がきた。指を引き抜くと、俺はズボンから男根を取り出す。
 早耶香の秘所に男根を入れると、早耶香の顔に俺の顔を近づける。

「・・・入れるよ?」

「・・・お願い・・・します・・・♪」

 早耶香らしい答え方だ。嬉々としてそう答えるのを見て、俺もニッ、と笑う。
 そして・・・

 男根を、躊躇いなく一気に、秘所の奥に突き刺した。

「ああああああああーーーーーーッ!!!!!」

 悲鳴に近い声をあげ、早耶香は身体を仰け反らせた。
 構う事はない。俺は腰を突き入れ、どんどん己の快楽を引き出す。
 案の定、処女ではなかったのは、少し残念だ。
 しかし・・・関係ない。これからお前は・・・俺のものだ。

「あッ!ひぁあッ!く、ゥっ!ああっ!イイっ!」

 腰を入れる度、早耶香の喘ぐ声が聞こえる。
 最高の支配感だ。俺はそれに酔った。

「あがァッ!か、つら・・・くぅ、んッ・・・!!」

 早耶香は腰を浮かし、俺の身体に抱きつくと、急に唇を奪う。
 早耶香から、俺を求めている。
 俺の身体を、俺の男根を、俺の、全てを・・・!
 興奮のあまり腰の動きを早めていった。

「ひゃああああッ!いいッ、気持ちイイよぉぉぉッ!!!」

 俺は一旦腰の動きをやめ、早耶香の耳元でささやく。
 
「麻生・・・いや、早耶香。条件を・・・言う。
 このまま続けて欲しいなら・・・俺の、下僕になれ・・・!
 永遠に、俺についていくと・・・誓え!」

「・・・え・・・」

 早耶香の顔が急にこわばる。
 当然だろう。だって・・・彼氏がいるのだろう。

 粘土で、下僕にする事は出来る。しかし・・・それでは面白くない。
 俺は、本当の早耶香の心で、誓って欲しかった。彼氏を裏切ってほしかった。

「どうなんだ・・・ッ!おらァッ!」

 怒りも混じったか、俺はもう一度、腰を激しく打ち付け始める。
 
「くひゃあああああああァァーーーッ!!!あああ、ああっ、気持ちイイよぉぉぉおおお!!!」

「気持ちいいんだろう・・・?なら・・・」

 答えは決まっているはずだ。
 もう一度質問をしようとした、その前に。

「誓うっ!誓う、誓う、ちかうからぁぁぁあ!中に出してぇぇええええッ!!」

 俺はフ、と笑うと、腰の動きを強めていって。

「だす、ぞ・・・っ!くぅ・・・っ!」

「!!!ひぃああああああーーーーーーーっっっ!!!!」

 今までで一番大きな声を早耶香があげる。
 俺は、早耶香の中で果て、ありったけの精液を出し切る。
 早耶香も、それと同時に絶頂に達したようで、気絶したようにベッドに倒れこむ。

 俺も男根を引き抜き、早耶香の横に倒れこむ。

「っはぁ・・・はぁ・・・。桂、くん・・・ありがと、ね・・・?私の我侭、聞いて、くれて・・・」

 途切れ途切れにそう言う。我侭は、俺の意思なんだがな・・・気づかないか。

「・・・いいって事さ・・・。・・・それより・・・分かってる、よね?」

 俺がそう問いかけると、早耶香は少し頬を赤らめて・・・

「・・・はい・・・ご主人様・・・♪」

 そう、答える。

 ・・・堕ちた・・・!
 憧れていた女を、ついに・・・。

 俺は早耶香の胸に触れ、粘土を消す。
 そして・・・新たな粘土を埋めこむ。
 
 その内容を確認する前に、俺に降りかかった眠気は、俺の意識を奪った。
 
 おやすみ、早耶香・・・。

 また、明日・・・。

< つづく >

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