○○なあたし02 第2話のじゅうっ!

2の、じゅうっ!(一週間後) あたしは誰のモノ?

※エロはありますが催眠はありませんのでご注意ください。

「へぇー、それは大変だったねー」
 そう言って、目の前の流はぶどうジュースをストローで一口。
「まったく、あいつもすごいことするもんだ」
 そう呆れたようにつぶやいて、隣の女性はチョコレートケーキにフォークを。
「ほんっとだよ!」
 そう吐き捨てて、あたしは手元のラズベリーパフェにスプーンを突き刺した。

 9月も下旬の月曜日は、さすがにもう秋が近づいてきたからか、かなり涼しくなっている。
 今日は、いつもと違う、学校近くのファミレスで、窓際の席を占拠している。今は2時を過ぎた頃で、そんなに人が入る時間じゃないから、ファミレスはがらがらだ。
 ちなみに今日は、あたしと流の二人じゃなくて……

「はぁ~……あいつもムッツリだと思ってたけど、そこまでとはねえ」
「あははー、美智ちゃん、厳しー。
 でも私は涼くん、そのくらいすると思ったけどなー」
「ちょ……流、それどういう意味だよ」
 呆れた声で厳しいことを言ったのは、木更津 美智(きさらづ・みさと)。黒のスラックスに、胸の谷間が見えるカットソーを着てる。背も胸も大きくて、とっても大人っぽく見えるんだけど、これでもあたしと同じ学年だ。名前からもわかるように、木更津先輩の妹でもある。
「そりゃー、涼くんが都ちゃんをどうしたいかって、話いっぱい聞いたもんー」
「あっそ……」
「だから私、都ちゃんの手を縛るとか、痴漢してあげるとか、いろいろアイディア出したんだよー」
「……ちょまてっ! 元凶はお前かあっ!」
「あははー……でも、お外でイカせちゃおーとか、そんなことは言ってないよー」
 涼に余計な入れ知恵をしていたことが発覚した流が、にこっと笑う。
 ……やっぱ、サド。

 気がついたら、何故かあたしはラブホの部屋の入り口に寝ていた。服は着てたけどショーツだけ脱げていて、靴も履いたまんまだった。
 そのままぼーっと、1分くらい何が起こったのか考えてたんだけど、段々思い出してきて、あたしの横で男が寝ているのに気づいた途端、あたしの脳みそは爆発した。
 とりあえず、野郎の腹に3発ほど蹴りを入れて叩き起こし、あらん限りの言葉で罵倒した。一通りボコったあと、紙袋に入ってた服に着替えようとしたけど、穿けるショーツがないことに気づいて、野郎にコインロッカーの荷物を取りに行かせた。
 あたしはシャワーを軽く浴びて、戻ってきた男から荷物をふんだくり、着替えてそのまま部屋を出た。野郎が「しまった、延滞金が足りない」とか抜かしてたけど、無視無視。

 ちなみに、
「涼くん、お金無くてコンビニでお金下ろしたって言ってたよー。
 3000円くらい残ってた全財産使い果たしたってー」
 とは、その後の流からの報告。ざまあみろ。

 ただ、何があったのか電車の中で(真っ赤になりながら)思い出そうとしたんだけど、どんなに考えても何でラブホなんかにいたかは思い出せなかった。
 駅に向かって歩いていったくらいまでは覚えてるんだけど……駅に入ったくらいからの記憶がない。
 しばらく考えたけど、何となくイヤーな予感がして、途中で思い出すのを諦めた。

「そりゃ、1週間くらい反省させた方がいいわよ」
「そだねー、忙しくてあんまり話聞けなかったけどー、正解だったみたいー」
 先週一週間、あたしは涼をまるっきり無視してて、涼は世界の終わりが来たような顔をしてた。やっぱり、あたしが本気でぶち切れたのが大ショックだったらしい。
 いつもならこういう時に活躍する流だけど、今回は忙しくてそれどころじゃなかった。なぜなら、
「いいタイミングで、文化祭だったねー」
 ……だったからだ。
 そう。実はうちの学校、一昨日と昨日は文化祭だったのだ。そのおかげで、今日と明日は代休。
 もっともあたし達のクラスはろくな出し物もなく、クラスとしては忙しくなかったんだけど、流達は……
「生徒会ってやっぱり大変だったねー」
「そうよねぇ。くっだらない雑用ばっかでさあ。
 まあでも、その代わりに予算で打ち上げできたんだから、いいでしょ」
「ついでに都ちゃんまで巻き込んでねー」
 そう。今日はお昼に生徒会メンバーが打ち上げしてて、友達のよしみで何故かあたしも打ち上げに参加した。
 実は流、こう見えて、なんと生徒会の副会長なのだ。美智は書記。
 こんな間延びしたしゃべりで、知らない人が見れば単なるアイドルというか、お飾りみたいに見えちゃうんだけど、実は流は、ものすごい「やり手副会長」として有名だ。
 というのも、流はいろんな逸話の持ち主で……

 あたしたちがまだ中1の頃(ちなみにうちの学校は一貫校)、あたしと流のいたクラスで、クラス委員の選出があった。
 と言っても、学校に入ったばっかりで、クラスの人をよく知らないし(ちなみに、クラスで流と同じ学校出身だったのはあたしだけだった)、めんどくさいしで、なかなか決まらず、20分くらい経って、(外見は)かわいい流が男子の推薦で女子クラス委員として選ばれたのだ。
 クラス委員として選ばれた流(と男の子1人)は、先生からバトンタッチしてクラスの係とかを決めることになったんだけど、当然のように流は男の子達になめられ、ほとんど流の話を聞いていなかった。
 だけど5分後、すっかり油断していた男子達が、

「静かにッ!!!!!!!!!!!」

 というものすごい一喝で、瞬間冷却。

 さっきまでニコニコしていたはずの流の、良く声が通るナイスタイミングな一喝で、クラスを黙らせてしまった。

 そんなこんなで、流は早くもクラスのリーダーとして認知され、そのまま有名人になっていったんだ。
 ちなみに、こんな経緯のせいか、流は実は男の子より女の子に人気がある。男の子は流を怖がって、女の子は流を頼ってくるのだ。

 んで去年、流は進学してから選挙に立候補して、主に女の子の支持を得て生徒会副会長に選ばれた。
 そして、このときに生徒会会長に選ばれたのが、今の流の彼氏である木更津先輩。
 このとき、二人にはいろいろあったみたいだけど……それはまた別の話。

「でさー」
「ん?」
「悩みって、なにー? 仲裁して欲しいのー?」
「あ……」
 そうだった。
 いや確かに、涼との関係も問題だけど、いま流達に相談したいのはそっちじゃなくて……
「いや、実は……」
「身体がいやらしくなっちゃったとかー?」
「っ!!!!」
 ず、図星。
「あははー、あたりー」
「なに、みゃーこ(あたしのことね by 都)、そんなことで悩んでたのぉ?」
「そ、そんなことって……あたしにとっては大事な問題だぞっ」
「まーまー、美智ちゃん、話聞いてあげようよー……でー? どーしたのー?」
「あ、あの……いや……」
「……」
 にこっ、と笑う流。
 ……うん。
「あのね……その、あたし……
 デートしてから……その、身体が、ものすごく熱くて……
 学校にいても……えぇと、疼いちゃって……
 家に帰ると……あそこが、濡れてて……ショーツが……湿ってて……
 どーしても……毎日、ひ、ひとりで、しないと、我慢できなく、なっちゃって……
 今日はもう、しょうがないから……生理用のナプキンしいてるの……」
 あの日、家に帰ったときは、本当に怒り心頭だったんだけど……
 次の日、学校に行くと、(もちろん涼は無視してたんだけど)どうもお昼ご飯を食べた当たりから身体が熱くなってきて、家に帰る頃には……もう、したくてしたくてたまらなくなっていた。
 今までは、こんなにしたくなったことはなかったのに。
 それから毎日、ずっとそんな感じで。
 そして毎日、我慢できなくなって、してしまった。昨日なんか、2回。
 ついでに、デートから帰ってきたら、今まで着けていたブラのサイズが合わなくなっていた。
 お店で測ってもらったらCカップになっていて、結局涼にもらったブラ以外は全部取り替えることになってしまった。

 あたしのそんな相談を、美智はじっと、流はなぜか優しい笑みを浮かべて、静かに聞いていた。
 あたしが話し終えるのを見計らって、流が口を開く。
「それは、都ちゃん、しょうがないよー。
 だって、都ちゃんの身体、セックスの味覚えちゃったんだもんー」
「な……!」
 かああぁぁぁぁっ
 いつもの流のいやらしい単語に、顔を真っ赤にするあたし。
「あらら、身体の割にずいぶん初々しいこと」
「だってー、都ちゃんだもんー」
「……どーいう意味だ?」
「別にー」
 ちゅー、とストローを吸って、
「女の子がみんなそうってわけじゃないけどねー、女の子も男の子といっしょで、セックスが好きな身体にできてるんだよー。
 だから、身体がセックスを覚えちゃうと、しばらくはセックスしたくてたまらなくなったりするのー」
「あーそうね、あたしもそうだったよ。
 初カレとセックスしまくったら、身体が発情期みたいになっちゃってねえ。
 ほんと、あんときはサルだった」
「あははー、私は今もサルだけどねー」
「りゅーはあのバカアニキのせいでしょ」
「んふふー」
 流と美智は元々どっか変なんだよ、という突っ込みがのどまで出かかったけど、さすがに質問する空気をぶちこわしそうだったのでやめた。
 ってちょっと待て、流や美智と同じってことは……
「あ、あたしもヘンタイってこと!?」
「ちょ、あんたそれどーいう意味よ」
「ひどーい」
 ちょっとむっとする美智と、クスクス笑う流。
 美智はむっとした顔をすることが多いけど、別に機嫌が悪くなったわけじゃないんだよね。
 むっとするのは美智のクセなのだ。
「でもねー」
 そんなことを考えてると流が、
「都ちゃんはヘンタイだと思うよー」
「なっ……!」
 さらっと飛んでもないことを言いやがった。
「だってー、都ちゃんマゾだとは思ってたけど、ペットにされちゃって悦ぶとは思ってなかったしー。
 それに露出狂でしょー?
 じゅーぶんヘンタイだよー」
「あたしも同感。それが変態じゃなかったらあたしなんかバージンよバージン」
「美智ちゃん、それ言い過ぎー」
「なによ」
「ま……だって、それは催眠で……」
「都ちゃん?」
「ん?」
「催眠ってね、かかる人が本当に嫌がってることはさせられないんだよー?
 だから、犬にされるのも、外でするのも、催眠にかかっちゃったってことは、そんなに嫌がってなかったってことよー?」
「ぇ……」
 そうなの……?
 いや確かに……犬にされたこと自体は、そこまで嫌がった覚えはないけど……
 外でしたのも……
「あたしがしたかった、っていうこと……?」
「そこまでいかなくても、あんたが『本気で嫌がってなかった』ってこと。
 かけられてる方が本気で嫌がってるときは、催眠なんて簡単に吹き飛んじゃうのよ……集団催眠とか、あるいはよっぽどの技術を使えば別だけどね」
 そういえば、ラブホの部屋の玄関で目を覚ましたとき、あたしは首輪をつけたまんまだった。
 シャワーを浴びようとしたときに気づいたんだけど、その時はあたしは犬にならなかったな……
「都ちゃんの場合はねー」
 流が続ける。
「多分だけど、本当はねー、マゾとか露出狂っていうより、『涼くんとなら何でもしたい病』なんじゃないかなー、って思うよー?」
「思う思う。ってより、『涼のものになりたい病』なんじゃない?」
 ぎくっ。
 ……確かにそれには心当たりがある。
「…………実は、その……
 デート中、えーっと……
 『涼のモノに、なりたい』って……思っちゃったり……して……」
「やっぱりー」
「みゃーこ、それ重傷」
「じゅっ……!」
「あー、もしかして、『もの』って、涼くんに全部操られたいとか、そういう意味ー?」
 ……………………………………こく。
「あははー、『モノ』ねー」
「あー、『モノ』か……」
 何だかよくわからないけど、うんうんとうなずく二人。
「みゃーこ、それ重傷ってより末期症状。手遅れだわ」
「は……?」
「あははー、そうだねー」
「へ……?」
「都ちゃん、今言ってる言葉の意味わかってるー?」
「ぅ……わかってる、つもりだけど……」
「じゃ、言ってみ?」
 珍しくニヤニヤしながらあたしを問い詰める美智。
「ぇ……いや、その……涼に、心の奥まで、全部操ってもらえたら、きもちいい、かな、って……」
「はぁ……」
「都ちゃん、それわかってないと思うよー?」
 期待はずれ、とでも言いたげに溜息をつく美智と、逆に口の端をひくひくさせてあたしに話しかける流。
「ほぇ……?」
「涼くんに心の奥まで縛られるってことはねー、涼くんが都ちゃんを傷つけようとしたら簡単にできるってことなんだよー?」
 あ。
「もちろん、本当に嫌なことはさせられないけどねー。
 でも、涼くんに心の底まで預けちゃうってことは、『私に何してもいいよ』ってことよー?
 それって、涼くんの全部を信頼してるってことでしょー?」
「ある意味、プロポーズより強烈な発言よ、それ」
 い……言われてみれば、そうかも……
 流達に指摘されて、改めて「涼のモノになる」ということの重さに気づく。「ついでに聞くけど」
「え?」
「みゃーこ、この一週間、涼と別れようかって、考えたことある?」
 ………………
「……あれ?」
「……ないのね」
 言われて気づいた。
 あたし、あんだけ酷いことされた(はずな)のに……
 そういえば、一回も「別れようか」なんて考えなかった。
 「どれだけ涼を放置してやろうか」とは考えたけど。
「詰みね」
「詰みー」
「詰み……」
「まあ、結論は言わないであげるけどさ。
 もう、わかったでしょ?」
 ………………こく。
 考えがまとまらないうちにうなずいてしまったけど、なんか考えをまとめる前に答えを出されてしまったような感じだ。
「そうと決まったら、さっさと仲直りしなさい。
 今のあんたなら、できるでしょ?」
「……ん……」
「都ちゃん、電話これー」
「んぁ……ありがと」
 公衆電話を探してきょろきょろしてたら、流が携帯電話を出してくれたので受け取る。
 実はあたし、家の教育方針(というか、「携帯電話代は無駄」というのが我が家の(あたしの妹を除いた)共通認識だ)もあって携帯電話を持っていない。
 何か用があるときは公衆電話から電話するんだけど、たまに流から電話を借りるのだ。
 ……それはそれで申し訳ないような気がするけど。
 涼の番号を呼び出して(短縮番号までわかってるというのもどうなんだ)、コールする。
 えーっと、今から家帰って、着替えて、涼の家に行くと……
 とぅるるるるるるる とぅるるるるるるる
 できるだけ、機嫌悪そうに……
 がちゃ
「もしもし……ん、あたし。
 今日、時間ある?
 …………
 6時からは?
 …………ん。
 いや、そっちの家行くから。
 …………来なくていい。
 ……ん。
 じゃ、6時」
 ぷつっ。
「ツンデレー」
「っ……うるさいなぁっ!」
「はぁ……6時ねえ。
 あんた、そんなに時間とって何するつもり?
 あと3時間以上あるわよ」
「っ……心の準備とか、あるんだよ」
「んー……」
 流が何か言いたそうだが、ほっとく。
「じゃ、そろそろ「ねー、都ちゃん」
「ぅえ?」
 不意を突かれて、気の抜けた声を出してしまったあたし。
「何?」
「ごめんねー、タイミング悪くてー。
 都ちゃん、『ヘンタイ』って、どう思うー?」
「え……」
 ヘンタイって……
「例えばねー、都ちゃんは私がヘンタイだって知ってるよねー?」
「あ……うん」
 まあ、流自身がそう言ってるし。
「私も、健くんに縛ってもらったり、健くん縛ったり、イカされ続けたり、催眠かけられたりとかするの好きだけどー」
 ちょ……流そんなことしてんのかぁっ!
 ……と一瞬思ったけど、その話は前にも聞いたことを思い出した。
「でもそれはねー。
 私が健くんを信頼してるからなんだよー?」
 ……う。
「だってそーでしょー?
 健くんといて安心できなかったら、安心して縛られたりできないもんー」
 うん、確かに。
「私は、ヘンタイになるっていうのは、彼氏と安心していられる、ってことだと思うのー。
 だから、都ちゃんがヘンタイになっちゃったっていうのは、それだけ都ちゃんが涼くんといると安心できるってことじゃないかなー」
 あ……ぅ……
 なんかこじつけっぽい気もするけど……確かにそうかもしれない。
「だからねー、ヘンタイになれるっていうのは、幸せだと思うよー。
 都ちゃんも、涼くんがいるから、ヘンタイになれるんでしょー?」
 うん。
 確かに、それは即答できる。
 犬になったり、催眠で痴漢されたり……
 そういうことは、涼が相手じゃなきゃ、絶対に、死んでもイヤだ。
 ミヤコの「ご主人さま」は涼しかあり得ないし、痴漢相手が涼じゃなかったら、絶対に警察に突き出してる。
 涼だから……涼とだから、そういうことができるんだ。
「よし、じゃ、引き上げっか……みゃーこ」
「何?」
「あんたはもうオチちゃったんだから、今度はあんたがあいつをオトす番よ。
 頑張んなさい」
「……ありがと」
 ん。
 答えは、もう出た。

 「あたしが涼のモノになる」という言葉の重み。
 その重みをちゃんと感じて、それでも。
 あたしのカラダが、ココロが誰のモノか。
 それはもう、考えるまでもなかった。

「……ごめんなさい」
「……」
 目の前で土下座する、涼。
 ベッドに腰掛けて、にらみつけるあたし。

 午後6時、あたしは時間きっかりに涼の家を訪れた。
 涼は、家の前に出ていて、あたしをじっと見つめていた。
 涼の挨拶の言葉を無視して、何もしゃべらずに涼の家に入る。
 そのままあたしは、涼の部屋に通された。

「ごめん、ほんっとに、頭おかしくなってた……
 都ちゃんに、あんなことしちゃって、僕……っ」
 涼が、そう言ってうなだれる。
「……」
「…………」
「………………まっっったくっ!!!」
「っ!」
「お前な、あたしをなんだと思ってんだっ!
 あんなことされてなあっ! あたし恥ずかしくてもうあの街歩けねぇぞっ!
 どうしてくれんだっ!!」
「……ごめんっ!!」
「お前のせいで、あたしはっ! あたしは……っ!」
「……………………?」
 あたしの言葉が止まったことを不思議に思ったのか、涼が顔を上げる。
 あたしは、ゆっくり立ち上がって、涼に近づく。
 ……今のあたしの格好は、涼に買ってもらった、白のミニスカートとピンクのキャミソール。ファミレスから一回家に帰って、着替えた。一週間ぶりに、ペンダントもつけた。
 ……これで電車乗るの、メチャクチャ恥ずかしかったんだぞ。
 何か羽織ろうかとも思ったけど、あいにくあたしはそういうアイテムを持っていなかった。
「あたしはぁ……!」
 ドキドキする。
 緊張する。
 でも……言わなきゃ。
「こんなに、いやらしくなっちまったんだっ!」
「っ!!」
 脚を少し開いて、スカートの裾を掴んで、一気に持ち上げる。
 涼が、息を呑んだ。
 スカートの下は、ノーパン……は、一瞬考えたんだけど、さすがに恥ずかしすぎてできなかった。だから、涼に買ってもらった純白のショーツをはいている。
 その代わり、流達と会ったときにはつけていた、生理用のナプキンは捨ててきた。
 外してからも、順調にあたしのあそこは濡れ続けて……
 駅で確認したときには、もうショーツにシミができていた。
 だからきっと、今はもう、外側からも湿っているのがわかるはずだ。
「濡れてる、だろっ……?」
「…………」
 こく。
 涼が、小さくうなずく。
「あの日から……あたし、涼のことを考えるだけで……身体が反応するんだっ……
 涼のこと、無視してても……っ、涼のこと、考えるだけで、……ぉ……おま○こが、熱くなってくんだよ!」
 理性が飛んだときしか言わない単語を、敢えて口に出す。
 恥ずかしい。
 でも、……美智に言われたように、……絶対に、涼をオトしたい。
 あたしだけオチるのは、許せない。
「あたしは、もう……っ、」
 ここだっ!
「もう、涼の、モノなんだよっ!」
 どんっ
 涼の肩を突いて、涼を押し倒す。
 涼が、目を見開く。
 もう、止まらない。
「ただの『もの』じゃねえぞっ! 涼に言われたら何でもしちまう、催眠かけられたら人間も捨てちまう、お前の所有物だっ!」
 あっけにとられたような表情で、涼はあたしを見る。
 少しずつ、怒鳴るような声を、小さくしていく。
「あたしは……涼が命令すんなら、一生涼のことだけ考えるドレイになってもいい!
 涼が望むんなら、涼といる間ずっと発情する雌になってもいいっ……!
 涼が言うなら、人間やめてもいいんだっ!
 我慢して、そうするんじゃねえぞ……あたしは、涼の好きなカタチに、なりたいんだ……!
 それが、キモチイイんだよ……っ」
 なぜか、涙が出る。
 でも、それでも、涼をきっとにらんで。
「あたしは、ヘンタイなんだ……っ、
 涼に、好きなようにされたい、ヘンタイ、なんだよ……!
 涼……あたしを、支配して……!
 あたしをこんなにした、責任、とってよ……っ!?」
 ぎゅっ。
 あたしの頭に、手が回って。
 涼に、頭を抱きしめられる。
「ごめん……」
 涼が、つぶやく。
「ごめん」
 もう一度。
 ふぅ、と息をついて、続ける。
「都ちゃん、先週、公園で都ちゃんが僕に聞いたこと、覚えてる?」
 ……覚えてる、と口に出す直前に、
「『もしもあたしが壊れても、あたしといっしょにいてくれる?』」
 涼が、あたしの言葉をなぞる。
「僕はそのときの答え、一字一句繰り返せるよ」
 そして、
「僕は、都ちゃんが壊れても、絶対放さない。
 僕は、都ちゃんがどうなっても、いっしょについていく」
 ぎゅぅっ
「都ちゃん。
 僕は、都ちゃんを、愛してる」
 ……確かに、そう言われた、と、思う。
「僕は、都ちゃんがどうなっても、いっしょについていく、よ」
 もう一回、言った。
「でもね」
 だけど涼は、
「僕、一応男だからさ……
 告白は、僕からさせて?」
 そんなワガママを言う。
「……」
 それじゃああたしがオトせないじゃん、とは口には出さなかったけど。
 涙が少し引いた顔を、涼に向ける。

「都ちゃん……
 僕の、モノに、なってください」

 あぁ、ダメだ。
 あたしには、オトせない。

 こんな真剣な顔で、
 こんな飛んでもないことを言われて。
 メチャクチャ、嬉しい。
 あたしは、観念した。
 たった一言で、オチたのは……あたしの方だ。

「はい……っ
 あたし、涼のモノに……なりますっ」

 あたしは、やっぱり、涼のモノだ。

 涼が、あたしの頭をなでる。
 「モノ」になったあたしには、それを拒否する権利はない。
「ねえ、都ちゃん」
「ん、なに?」
「都ちゃん、僕のモノになったっていう、証拠、見せてくれる?」
「ん……もちろん」
 ちゅぅっ
 涼がキスをする。
 もちろん、拒否することはできない。
「だっこするよ、……んしょっ」
 涼が起き上がって、あたしをお姫様だっこする。
 あたしは、涼に逆らえない。
 そのまま、ベッドに運ばれた。
「命令するよ」
 命令、といっても、催眠のキーワードじゃない。
 だからこれは、涼のモノであるあたしが、自分で従わなきゃいけない命令。
「都ちゃん、ここでオナニーして」
「うんっ」
 即答。
 さっき涼の家に上がったとき、涼以外の家族はいなかった。
 いや、いてもあたしに逆らう権利はないけど。
 あたしは寝っ転がり、脚を開いて、スカートをまくり上げる。
 すでに濡れているあそこを、ショーツの上からさする。
「ぁ……ん」
 あえぎ声が、口から漏れる。
 涼の命令でしてるんだから、声を我慢することは許されないはずだ。
 だからあたしは、上ってくるあえぎ声を、そのまま口に出す。
「ぁぅ……はぁぅ……」
 すりすり……
「はうぅ……きもちいいよぉ……」
「僕のモノになるの、そんなに気持いいの?」
「うん……涼のモノになれたの……きもちいいのぉ……っ」
 やばい。
 ほんとに、きもちいい。
 涼の命令を逆らわずに聞くのが、こんなにきもちいいなんて。
 涼が、あたしの背後に寝っ転がる。
 後ろから手を伸ばして、ブラのフロントホックを外す。
「都ちゃん、バンザイして」
「ん」
 バンザイすると、ブラが抜かれた。
 それを確認して、あたしはオナニーを再開する。
 涼が後ろから、あたしのおっぱいを触る。
「はぅっ……おっぱい、きもちいいよぉ」
「おま○こは?」
「おま○こも、きもちいい……」
「ふふ……」
 ちょっと笑って、涼はあたしの耳元で囁く。
「都ちゃん、さっき、僕が望めば、都ちゃんは人間やめるって言ったよね?」
「うん……言ったよぉ……」
「じゃあ都ちゃん……都ちゃんはもう人間じゃない。人間の姿をした、僕のモノだよ……わかったね?」
「うん……! あたし、モノだよ……!
 人間は、今、やめたの……!」
 ぱくっ
「はあぁぅ……!」
 耳を食べられて、あたしはあえぐ。
「都ちゃんはモノだから、単なる僕の性欲のはけ口にしていいよね?」
「うんっ!」
 もちろん。
「よいしょっ、と」
 涼があたしから離れて、
「オナニー、ストップ。脱がすよ」
 あたしが手を放すと、涼がショーツを脱がす。
 涼はジーンズとトランクスを脱いで、あたしにのしかかる。
「いくよ」
「うん……」
 ちゅぷ
 ぐちゅうぅっ!
「くあぁぁぁぁ……! きもちいいっ! お○んちんきもちいいよぉ!」
 じゅぷ、にゅぷ、ずぷっ
「ふぁああぁぁぁ! にゃああああぁ! ひああぁぁああ! きもちぃいいい! さいこおぉぉおおっ!」
「ほらっ! もっと鳴けぇっ! 鳴けぇっ!!」
「うぁああああぁぁあぁ! やぁあぁあぁぁぁあぁ! しろくぅ、なるうぅぅううううぅっぅぅ! だめぇえぇぇええええ! もううぅっ! いっちゃううぅううぅぅうう!! 涼ぉお! いって、いいぃぃぃいいいっ!?」
「こんの、淫乱っ! もう、イク気かっ!」
「あぁああああぁぁぁたしいぃぃいい、インラン、なのおぉぉおおぉぉぉお! みやこ、インランなのぉおおおっ!!! いくのぉおおおおぉぉ!」
「うっしゃあぁ! 僕も、イクぞっ! そのままぁ、壊れちゃえぇっ!」
「がああぁぁああああぁぁぁ! もぉおお! こわれてるのぉおおお!!! みやこぉぉお、ヘンタイなのぉおおおおお!! ああぁぁぁあいくうううぅぅぅう! いくううぅぅぅうううううううう!!!!!」
「出るっ!」
「あああああああああああぁあっぁあっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁああっぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 涼と仲直りしたその日、
 あたしは、人間をやめた。
 後から考えたら、そんなことを言うのはとっても異常なことで。
 「モノ」になったって言っても、「そういうことにした」っていうのが、本当のトコロ。
 でもあたしは、モノになれて、とっても、幸せだった。
 今のあたしは、世界中に堂々と言える。

 あたしは、どんな人間よりも幸せな、モノになったんだ。

< 第2話終わり >

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