魔性の少女 第二章

第二章

― 0 ―

 彼女が何を考えているのか、まったく判らない。
 ぼくは異様な興奮に全身を蝕まれ、壊れかけた人形のようにただその光景を見詰める。
 目の前に映し出される、淫靡な光景。
 日常を逸脱した非日常。
 世界を侵食する異常。
 腐れ落ちる認識。
 ありえない。
 ぼくは無力に、ただ見詰めるのみだった。
 彼女を・・・。
 そして――。

「かあさん・・・」

 呟きは、太陽の暴虐に晒された雪よりも、淡く儚く消え去った。

― 1 ―

 いつものように、父さんだけがいない朝食。
 夜中に一回戻ってきて、お風呂に入ってすぐさま会社に戻っていったらしい。普通、それなりの地位にいる人間がこんなことしてたらまずいと思うんだけど、父さんの場合はただのワーカホリックかも知れない。

「最近うちの娘さんたちって、舞ちゃんととっても仲良しになったのね。なんだかママ、嬉しいな」

 にこにこと穏やかな笑みを浮かべながら、母さんがそう口にした。
 それというのも、長方形のテーブルの着席順が、短い辺は父さんとぼくが向かい合わせ、長い辺は母さんと胡桃、その向かいが苺と舞ちゃんという風になっていて、苺と胡桃が食事の都度、交互に舞ちゃんの隣に座るようになったからだろう。それまでは、誰が来ても必ず胡桃と苺は並んで座っていたのだから。ほわんとした印象の母さんだって、さすがに気付こうというものだと思う。

「私もこんなに良くしてもらって、とても嬉しいですわ」

 にこやかに応じる舞ちゃんの右手が、さりげなくテーブルの上から下ろされた。母さんの位置からは判らないだろうけど、ぼくの位置からは辛うじてその行方を見ることができた。

「っ!」

 もくもくとご飯を咀嚼していた苺が、目を見開いてピクンと身体を震わせた。舞ちゃんの右手が、ただ触れているというにはあまりにもねちっこい動きで、ミニスカートの裾から伸びた苺の健康的な太腿を撫で擦っていた。

「・・・」

 顔を朱色に染めて、苺が俯いた。
 小さく開いた唇から、は、とも、ふ、ともつかない吐息が漏れる。

「だって、もう家族ですもの」

 母さんは何も気付かず、舞ちゃんの他人行儀な言葉に応える。
 舞ちゃんは普段通りの表情を浮かべたままで、苺の太腿の内側へ手を伸ばした。その時、ぼくは苺が自分から脚を開いたのを、見てしまった。腰を少しだけ前にずらして、まるで愛撫をねだるようなはしたない姿勢。

「でも、ほんとに仲良くなってくれると、ママってば喜んじゃうわよ。そうね、今晩のお夕飯が豪華メニューになっちゃうくらいに、ね」

 うふふ、なんて本当に嬉しそうに母さんが笑う。けど、その斜め前では、愛娘が淫靡な悪戯を受け入れている。それは、なんて異様な状況。ぼくは止める事も出来ず、ただ母さんに見付からないで欲しいと祈るだけだった。

「んっ」

 苺の太腿の内側を焦らすように撫で上げていた舞ちゃんの指が、とうとう濡れ始めている下着へと辿り着いた。苺が我慢しきれずにぴくん、と震えて小さくうめいたが、母さんは気付かずに今度は胡桃に話し掛けている。

「そう言えば、まだリンゴが残ってたかしら。あの、胡桃ちゃんが美味しそうに食べてたやつ。いまから切ろうかしら。みんなも、食べるわよね?」

 いまにもスキップでもしそうな弾んだ様子で立ち上がると、母さんはキッチンに足を運んだ。
 これも気付かなかったみたいだけど、母さんの横に座ってる胡桃も、顔を赤らめて茫とした表情で、舞ちゃんと苺を見詰めながら、もじもじと太腿を擦り合わせるようにしていた。明らかに発情した様子で、胡桃を見詰める目には、羨望にも似た色があると思う。
 それが、隣に座ってるのに気付かないなんて、母さんの天然っぷりは凄いものがあるのかも知れない。舞ちゃんが突然こんなことを始めたのは、それも計算のうちなのかも。

「イカせてあげるね。がんばって、声・・・がまんしてね」

 苺の耳元でそう囁くと、舞ちゃんはぼくの方に視線を移して、にこりと邪気の感じられない笑みを浮かべた。
 それは、『これから苺ちゃんをたっぷりイカせるから、よぉく見ててね』とでも言っているような表情だった。
 舞ちゃんは一瞬だけキッチンの母さんの様子を覗ってから、音に気を付けながら、苺に寄り添う様に椅子ごと身を寄せた。

「ッ!」

 舞ちゃんは苺の青と白の縞パンのボトムを指で引っ張ると、そこから中指を苺の秘所に侵入させた。申し訳程度の陰毛や、ぷっくりとした入り口、そこから除いているサーモンピンクの粘膜など、まるでぼくに見せるかのように弄り始めた。苺は漏れ出る喘ぎを堪える為か、右手の人差し指の第二関節を噛んだ。

「ふふ、最近は、中が好きなのよね?」

 舞ちゃんは苺の耳に息を吹きかけて、ひくんと震える苺の反応を楽しむ。同時に指の第二関節までを膣内に挿入し、くちゅくちゅと音を立てて濡れた粘膜を刺激する。堪えきれない快楽に仰け反る苺を、舞ちゃんは一気に絶頂へと追い立てた。

「ぁんっ!」

 一際大きく身体をビクつかせて、苺は絶頂に達した。息を荒げながら、幸せそうに目を閉じて、舞ちゃんの肩に頭を乗せる。舞ちゃんは苺の重さを受け止めながら、愛液に濡れた指を自分の唇の前まで持ってきて、ぼくと視線を合わせながらちゅぴっと音を立てて舐め取った。それは酷く蠱惑的で、まるでぼくを誘っているように見えた。

― 2 ―

 ノックの音がした。
 ぼくが「どうぞ」と応えると、入ってきたのは胡桃と苺だった。
 実際のところ、舞ちゃんかと思っていたので、拍子抜けした気分だった。
 でも、ぼくはなんだかんだで舞ちゃんと妹たちのえっちな遊びを知っている訳で、しかもそれを知っている妹たちがどう思っているのか、それはそれで頭の痛い事ではあるのかも知れない。
 それは、妹たちがどう変わってしまったのか・・・どう、変えられてしまったのか、という事だったから。

「お兄ちゃんにちょっと見てもらいたいものがあるの。いーい?」
「・・・」

 胡桃がにこっと微笑んだ。その横では苺がナニカを企んでいる顔で、どこか邪悪っぽい笑みを浮かべていた。一瞬、天使と悪魔という単語がぼくの脳裏を駆け巡った。なんて言うか、真っ赤な警戒色を撒き散らかして、危機感を煽るサイレン付きで。

「きっと、楽しいから・・・ね?」
「保証・・・する・・・」

 胡桃と苺が、ぼくの両手を柔らかく握って、誘うように言う。
 それだけで、二人の行動には舞ちゃんが絡んでいると判った。そして、ぼく自身がそれから逃れる気が無いという事も。惚れた弱みというもので、ぼくはそこがどんな地獄だって、舞ちゃんが望むのなら踏み入る気になっていた。

「うん、判ったよ」

 普通の表情を装って、ぼくは立ち上がった。誘われるままに廊下に出て、そのまま苺の部屋に入る。実は、苺の部屋に入るのはこれが初めてだったりする。特に招かれなかったというのも原因の一つだけど、どんな呪いのアイテムが転がってるかも判らないという思いがあったからだったりもする。

「へぇ・・・」

 苺の部屋は、想像していたのとは違って、意外と普通な部屋だった。一般的な女の子の部屋とは違うけど、特におどろおどろしいアイテムは見当たらない。装着者を吸血鬼にする呪われた石仮面も無ければ、突然笑い出す怪しい人形も、3つの願いを皮肉な形で叶えてくれる猿の手も、人の皮で装丁された魔道書も無い。もっとも、ファンシーなぬいぐるみの類も一切なかったけど。
 代わりに大きめの学習机の上に鎮座してらっしゃるのは、結構グレードの高そうなデスクトップPCだった。ディスプレイなんて、19インチはありそうな液晶だし。他にはこれといって特徴の無い部屋だった。

「お兄ちゃんはテレビの前に座ってね。苺ちゃん、そろそろ始めて」
「ん」

 苺はPCの電源を入れた。ハードディスクのカチカチというアクセス音に続いて、画面にハード構成やらなにやらが表示され、OSが起動する。苺は手持ち無沙汰にマウスを弄くっていたが、何しろ本来の作業はぼくが今座っている椅子の上で行う訳で、苺は前かがみで身体を伸ばすような、やり辛そうな姿勢だった。

「ひざ、貸して」

 苺はそう言うと、よいしょ、なんて感じにぼくの膝を跨いで腰を下ろした。

「んっ・・・ぁ・・・」

 まるで大事な場所をぼくの膝に押し付けるようにして、苺は熱い吐息を洩らした。横で胡桃が、「あっ」と声を上げたけど、それは驚いたというよりも、ずるいと非難するような、そんな響きを伴っていた。
 ぼくはというと、突然の苺の行動に石化の呪文でも掛けられたみたいに、身動きひとつ出来ないでいた。ジーンズ越しに、じんわりとした熱さと、ふにっとした感触が伝わってくる。

「い・・・苺?」

 ぼくが動揺した声を上げると、苺は肩越しにぼくを見詰めて、どこかトロンとした目を笑みの形に細めた。

「こっちの方が・・・やりやすいもの」

 なにやらアプリケーションを起動しながら、苺は呟くみたいに口にした。
 それはそうだろうけど、苺が穿いているジーンズ地のミニスカートは、足を広げて跨っているせいで、かなり際どい場所まで捲くれてて、しかもぼくの膝にあたっているのは、パンティ一枚を挟んだだけのアソコで・・・。
 脳みそが沸騰するような錯覚に、ぼくはディスプレイに目を向ける事で、なんとか気を逸らそうとした。でも、そこに表示されているものは、ぼくの頭を真っ白に染め上げるに相応しい映像だった。
 どこかいやらしい表情を浮かべて、苺は外部スピーカーの音量を上げた。

― 3 ―

 時は少しだけ遡る。
 その時、リビングにいたのは舞と春海の二人きりだった。
 いつもはにこにこと、自分の名前のようなおおらかで優しげな表情でいる事の多い春海だったが、今は少しだけ疲れたような表情で、小さく溜息を吐いた。

「お疲れですか?」

 少しだけ心配そうに、舞は春海に声を掛けた。「大丈夫よ」と明るく答える春海は、舞の表情の奥にあるナニカに、気付く事は無かった。

「肩、お揉みしましょうか?私、結構上手ってお父様に言われてたんですよ」

 舞の唇から自然に出た、『お父様』という言葉に春海は少しだけ表情を曇らせた。しかし、すぐに表情を柔らかなものにすると、舞に笑いかける。

「じゃあ、お願いしようかしら。でも、わたしの肩凝り、結構強力よ?」
「だって叔母様、すごくおおきな胸なんですもの。重たい・・・ですよね?

 春海は恥ずかしそうに両手で胸を押さえて、少女のような表情でコクンと頷いた。少しだけ羨ましそうな表情で、舞は春海の背後に回った。

「始めますから、リラックスして下さいね。眠くなったら、寝てもいいですから」
「ありがとう。お願いね」

 舞はその細い腕で、春海の肩を揉み始めた。
 力は無さそうだったが、やわやわとツボを押さえた揉み方で、春海は蕩けるように幸せな表情で、うっとりと瞳を閉じた。
 暫く続けると、春海は半分眠っているような、ぼんやりとした表情で身体を脱力させていた。舞はその様子を覗うと、肩を揉む手を少しずつ上へ――首へと伸ばした。マッサージする動きに、何かを押さえるような動きが追加される。春海はそうした変化には気付く事無く、すっかり舞に身体を預けてしまっていた。

「うふふ・・・」

 きれい・・・と呟いて、舞はマッサージを止めた。
 目を閉じてトロンとした表情の春海の耳元に、舞は形の良い唇を寄せた。舞の目には、どこか冷たくて淫靡な光が宿っていた。

「春海さん、春海さん、あなたの目の前に、深い深い地の底に続く、とっても長い階段があるわ。その階段を、一段一段、ゆっくりと下りていきましょう。階段を下りる毎に、心も身体も軽く、とても幸せな気持ちになっていく・・・そう、不安も疲れもどんどん消えていくの・・・」

 舞は妙に間延びした、そのくせ聞く者の耳を捕らえて離さない、不思議な抑揚のある口調で春海に語り続けた。
 それは、春海の心を変質させる言葉だった。

― 4 ―

 ディスプレイに、下着の上に前をはだけたワイシャツを纏っただけの母さんが、どこか虚ろな目で、ダイニングのソファーに深く腰掛けている。
 年齢の割に酷く若い母さんだけど、こういう格好をしていると、若いどころかまったくの現役・・・言い方を変えれば、息子であるぼくが見ても、目が離せなくなるほどに魅力的だった。
 多分CCDカメラとかそういうもので見ているのだろうけど、多少の荒い画像を通してすら、母さんのぬめるような肌の質感が、手にとるように伝わっていた。

「3つ数えると、春海さんはどんな質問にも、本当の事しか答えられなくなるわ。だって、嘘はいけない事だもの。嘘を吐いたり、黙り込んだりしたら、とっても辛いでしょう?でも、本当の事を答えると、とっても気持ちが良くなるの。それは、良い事だから。とっても良い事だから」

 デスクトップ横のスピーカーから聞こえる舞ちゃんの声は、普段の口調と違ってなんだかつい引き込まれるような、そんな抑揚があった。催眠術・・・そんな単語が頭の片隅に浮かんだ。

「春海さんは、気持ちいいこと・・・好き?」

 舞ちゃんは母さんの背後から柔らかく抱きしめるように、耳元で囁いた。心の底から信頼出来る人に抱きしめられたみたいに、母さんの表情がトロンと緩んだ。

「・・・すき・・・」

 吐息に紛れ込んだみたいな小さな、けれど確かな声で母さんが答えた。

「じゃあ、気持ちいいこと・・・するね?」

 舞ちゃんはちろりと自分の唇の端を舌で舐めると、小さな両手を母さんの豊満な胸に向かわせた。ブラの脇から細い指を滑り込ませながら、毒を注ぎ込むように言葉を紡ぐ。

「おっぱいが、身体中の神経が集まったみたいに敏感になるわ。表面だけじゃなくて、おっぱいの中いっぱいに神経が詰まってるみたいに、何をされても感じちゃうの。これから、その気持ちよさを教えてあげる」

 舞ちゃんはそう言うと、母さんの胸をブラの下で鷲掴みにして、形が歪むんじゃないかってぐらい、揉みしだいた。荒々しい愛撫というより、激しいマッサージのようにも見えるそれは、母さんに激しい快感を与えたらしい。
 みるみる母さんの顔が紅潮し、うっすらと汗が分泌される。「あっ!あっ!」と喘ぎながら、身体をヒクヒクと痙攣させる。
 ブラの上からでも、母さんの乳首が屹立するのが判った。

「気持ちいい?嬉しい?幸せ?もっと・・・して欲しい?」

 すっかり快楽の虜になっているのだろう。母さんは舞ちゃんの弄うような問いに、必死に首を縦に振った。娘ぐらいの年齢の舞ちゃんに胸をもまれる悦びに、心までが染まってしまっているみたいだった。

「うふふ・・・じゃあ・・・」

 舞ちゃんはあやとりするときみたいに手をくるっと捻って、ブラのカップから母さんの胸を剥き出しにした。ずっしりと重たそうなのに、垂れずに綺麗な曲線を描く胸は、指をめり込ませたらどこまでも沈みそうな、そのくせ弾力で指を弾き返しそうな、そんな矛盾するイメージを湧かせる。
 ・・・いや、素直になろう。
 ぼくは、あの胸に触れたい。揉みたい。舐めたい。噛みたい。吸いたい。
 ありとあらゆるいやらしい行為を、してみたい。
 ぼくは、気が付くと胡桃や苺のことも忘れて、ディスプレイに集中していた。

「やっぱり、お兄ちゃんも胸がおっきいのがいいんだ・・・」
「・・・えっち・・・」

 何か聞こえた気がしたけど、どこか遠くて。
 今は、母さんの痴態だけがすべてだった。
 ぼくは、その画像に魂を吸い込まれたかのように、ひたすら凝視する。
 どんな一瞬、どんな刹那さえも、見逃さないように。

「ちくびがすごく尖がってる。ゆびで摘まんだら、どんなに気持ちがいいかしらね。ねぇ春海さん・・・どうして欲しいかしら?」

 さわさわと、触れるか触れないかの微妙なタッチで、母さんの乳首の周りを、舞ちゃんの指が踊る。はぅっ、と・・・母さんが嬌声のような、悲鳴のような、吐息のような、甘い声を洩らした。

「ら・・・らんぼうに、してっ。ぎゅっと摘まんで、こねて、いっぱい・・・いっぱい、いじってっ!!」

 まるで年齢が退行してしまったかのように、舌足らずな口調でねだる。母さんは自分から胸を突き出すようにして、少しでも多くの刺激を求めた。

「質問に答えてくれたら、してあげる。ふふ・・・このおっぱいは、もうどれくらい、他の人に愛してもらってないのかしら?」

 いやらしい質問をしながら、一瞬だけ掠るように乳首の先端を指で触れる。母さんはビク!と身体を震わせて、けれど更なる飢えに襲われる。どうしていいか判らないという風に、目に涙を浮かべて身を捩った。

「あのひとが最後に愛してくれたのは、もう1年以上まえなのっ!だから、おねがい!さわってっ!おっぱい、うずくのぉ!!」

 ボリュームのある胸が、ディスプレイ越しにたゆんと揺れる。
 一瞬、すぐにでも一階に下りて、この胸を思うままに弄りたい・・・そんな思いに駆られて、自分自身に愕然とした。そんな獣以下の行為さえ、今の自分は選択しかねないぐらいに昂ぶっている。
 いくら、見た目が若くて魅力的とはいえ、実の母親に・・・。

「よくできました。じゃあ、いっぱい触ってあげる」

 舞ちゃんの指が、母さんの興奮で勃起した乳首を摘まんだ。ぎり・・・と、音が聞こえてきそうなほどに潰された乳首は、それでも母さんに快感を伝達したみたいだった。
 苦痛にも似た表情を浮かべて、歓喜の涙を流す。
 胸を突き出すように、身体を仰け反らす。
 ぬらぬらと、汗を分泌する。
 大きく開いた口の端から、涎がつ・・・と流れる。
 それは、母さんの絶頂の姿。
 母親が、おんなに変わった瞬間。

「かっ・・・はぁっ・・・あっ・・・は・・・」

 呼吸困難になったみたいに、切れ切れに喘いでいる。
 今まで我慢していたものを発散したような、酷く嬉しそうな顔で。

「胸だけでこんなになっちゃうなんて、本当にして欲しかったのね。どうして裕司さんに頼まないの?」

 まるで、当たり前の事をなぜしないのかと、そんな口調で舞ちゃんが問い掛けた。あまりな言葉に、快楽の余韻に酔いしれていた母さんが、何かを恐れるみたいに顔を歪めた。

「だって、ゆうちゃんはわたしの子供だから・・・」
「でも、してもらったら凄く気持ちよくなれるのよ?春海さん、さっき気持ちいいのが好きって、頷いたわよね?」

 多分、それは普通の状態でなら、論理の欠片も無い話のつながり方で、説得力なんて1ミクロンだってありはしない。けど、母さんは今、あきらかに普通の状態じゃなかった。
 催眠術みたいなのに掛かっていること。
 快感をたっぷり味わわされたこと。
 気持ちいいのが好きと、頷いてしまったこと。
 絶頂に達した直後ということ。
 そんな、いろいろな要因が、母さんの判断力や常識を揺るがした。

「でも・・・」

 ほら、母さんの声は、自信がまったくなくなってる。舞ちゃんは天使のような微笑を浮かべると、母さんの両目を片手でふさいで、喉をさらけ出すように上を向かせた。まったく抵抗の様子を見せず、母さんは脱力した身体を舞ちゃんの動きに合わせた。

「想像して。春海さんの熱くてグチャグチャになったアソコに、裕司さんのお○んちんが入ってくるの。焼けた鉄の塊みたいなお○んちんが、春海さんの敏感な膣の粘膜を擦りながら奥へ奥へと入ってくるの」
「あ、ああっ・・・ひ・・・んぁ・・・」

 母さんが両目を舞ちゃんに押さえられたまま、ひくひくと身体を震わせた。まるで、本当に犯されているような、そんな反応。

「ほら、裕司さんのお○んちんが、春海さんのナカを荒々しく動いてるの。春海さんの膣の襞が、裕司さんのお○んちんに絡み付いて、一擦り毎にすごく気持ちいいでしょう?頭の中が真っ白になって、全身が性器になって感じちゃってるような、快感でしょう?」

 舞ちゃんの声に、母さんの喘ぎ声が大きくなった。
 母さんは舞ちゃんの言葉に翻弄されて、淫らな踊りのように、ソファーの上で身体をくねらせる。大きな胸が揺れて、それすらも母さんの快楽に変わる。

「ひっ!やっ、だ、だめっ!」

 ぼくに犯されてよがるというシチュエーションを認めたくないのに、母さんの身体は母さんの意思を越えて快感に飲み込まれていく。舞ちゃんの前に陥落するのは、時間の問題に見えた。

「久し振りに男の人のもので中を突かれるの・・・すごく気持ちいいでしょう?」

 舞ちゃんが、母さんの同意を求めるみたいに・・・母さんの思考を誘導するみたいに、妖しく囁く。それがとどめの言葉だった。母さんは押さえられた目の端から涙を流しながら、ガクガクと何度も頷いた。

「いひぃっ!き、きもちいぃのっ!すご、いのっ!」

 ぼくの隣で苺がPCを操作すると、ディスプレイにいくつかウインドウが表示された。母さん達を上から俯瞰するような映像、横から母さんの胸を捉えた映像、ピンっ、と母さんの足の指先が緊張する様子を映し出している映像・・・いろいろな角度から、全てのウインドウは母さんを映している。その中のひとつは、母さんの足の付け根をアップで映していた。まるで下着がまったく意味をなさないくらい、濡れてぴっちりとアソコに張り付いた様子が鮮明に映し出されている。

「じゃあ・・・なにでそんなに気持ちよくなってるの?教えて、春海さん」
「ひあ・・・」

 一瞬、素に戻ったのかと思った。
 快感からくるものとは明らかに違う、泣きそうな母さんの声。
 だけど、戻れるはずなど、無かった。
 身体の内側から止め処なく湧き上がる快楽・・・それは、すでに母さんの全てを支配していたのだから。

「ほら・・・嘘を吐くのはいけないことよね?本当のこと、教えて?」
「・・・ゆ・・・ゆうちゃんの・・・おち・・・ん・・・ちんが・・・きもち・・・い・・・の・・・」

 言い終えた瞬間、母さんの顔が快楽に歪んだ。
『本当の事を答えるのは気持ちいい』――最初に舞ちゃんが母さんに言っていた言葉だっただろうか。
 ぼくのモノが入っていると思い込んだ母さんは、『本当の事』を言ってしまった事で、もう止まれなくなったようだった。それとも、もう帰れないと言った方が正しいのかも知れない。

「あっ、はぅっ、いいっ、イィッ!!ゆうちゃんのぉ、いいっ!!」

 全身が汗にまみれた状態で、母さんが全身を痙攣させた。呼吸も忙しなく、呼吸困難になりそうなのに、自分が感じている快感を言葉にしている。まるで、声にする事で快感が増しているかのようだった。
 泣き笑いのような表情で、母さんは身体をヒクヒクと震わせ、幸福感にまみれた喘ぎを洩らした。身体中が汗でてらてらとぬめるように光り、振り乱した髪が頬に張り付く。
 それは、オンナが快感を表現する様子。
 ひとつの幸せのカタチ。
 そして・・・その瞬間が訪れた。

「ひっ、あ・あはっ、いくっ、いくいくぅっ!!」

 一際大きな声を上げて、母さんの全身がブリッジをしたみたいに仰け反った。しばらくそのまま震えると、今度は全身の力が抜けたみたいにソファーに身体を沈ませた。

「いいのぉ・・・ゆうちゃんのぉ・・・すてき・・・」

 母さんは、酷く幸せそうに満たされた表情で、うわ言めいた言葉を呟いている。もう、息子に対する禁忌など、なくなってしまったのかも知れない。
 ぼくに向かって挨拶するように手を振る舞ちゃんの映像を最後に、苺は下の階の映像を映しているウインドウを閉じた。

「お母さん、とっても気持ちよさそうだったね」
「ん」

 つられて興奮したような、すこしだけ上ずった声で、胡桃と苺が話している。そこには、それが異常だなんて欠片も思っていない二人の姿がある。明らかに、二人の『普通』は変えられてしまったのだと実感した。

「あぁ・・・」

 知らず、ぼくは溜息を吐いていた。
 こんなにも異常と思えるのに、それを止める気が欠片も無い。
 きっと、ぼく自身も異常に組み込まれてしまっているからだろう。
 どこまでも坂道を転がり落ちるような絶望感に、ぼくは静かに目を閉じた。

< つづく >

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