つい・すと 1日目・夕

(はじめに)
 当作品は必ず作品分類をご確認の上お読み下さい。但し、未完の限りにおいては、予定変更により分類が「空振り」となることもありますのでご了承下さい。
 また、当作品はいかなる社会的問題をも提起し、または想起させることを目的とするものではありません。

1日目・夕 入り口

 車は山林地帯を走り抜けていた。初心者マークがついた小型の自動車は、曲がりくねった一本道をゆっくり進んでいく。
 車の中では、俺が必死の表情で運転していた。

 すぅ、と寝息が聞こえる。後ろの席に座っている女二人は、長旅に疲れて既に意識を失っている。
 運転してるときに寝られるとムカツクって本当だな、と思った。
「こっちで良さそうか、マコト」
 俺はハンドルを握りながら助手席の親友に声をかける。
「おう、間違いない」
 サングラス越しにスマホの画面を見ていたマコトが、自信たっぷりに応える。
 マコトはホテルの案内アプリを開いていた。ホテルを予約した時に、全員がインストールしておくように、メールで案内されていた。
「こりゃあ確かに、アプリ無いと危ないな……」
 ハンドルを気にしつつ、俺はつぶやく。山林だけあってスマホの電波は届いておらず、GPSしか機能していない。万が一迷子になったら一大事だ。
「シュンの運転も危ないけどな。代わるか?」
「うるせえ黙れ」
 確かに、今年の春に免許をとったばかりの俺よりは、昨夏にとったマコトの方が運転は上手いだろうが、五十歩百歩だ。それに、「運転疲れた」と肝心なところで俺にバトンタッチしたのはマコト自身だ。
 とは言っても、運転しているのはそのマコトの車なので、傷つけるわけにはいかない。俺は気合いを入れ直して、慎重にハンドルを握りこんだ。

「お、あれか」
 急に視界が開け、夕焼けと広大な海が眼前に広がる。その下の、海岸線にほど近いところに、丸太作りの建物が見えた。
「あれだ」
 マコトもうなずく。そして、後ろを振り向いた。
「おーい、叶(かなえ)、ちー、目え覚ませ」
 後ろの席にいた叶と、ちー――と呼ばれた千晶(ちあき)からは、その声からしばらくして、やっとの事で動き出す気配があった。

 到着したホテルは、大きめのログハウス、またはコテージという造りだった。入口をくぐると、
「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました」
 メイドドレスを着た、――とびきりの美人が頭を下げた。
 思わず、俺達の動きが止まる。
「本日からの世話役と案内役を務めさせて頂きます、ミリアと申します。よろしくお願いします」
 そう自己紹介したメイドさんは、その外見に違わないたおやかな仕草で自己紹介をした。ミリア、と言う名の通り、その顔立ちと肌の白さは日本人離れしている。瞳の色素が薄く、髪も染めたとは思えないナチュラルなブロンズだった。そして、顔は俺達より年下に見える。労基法の観点から、十八歳だろうと勝手に推定する。あと……おっぱいが大きい。ヤバイ、見ないようにしよう。
「まずはチェックインをお願いします」
 そう言い残して、ミリアはカウンターに歩を進めた。

「あー、疲れた」
「お疲れ様、俊ちゃん」
 千晶が俺の言葉にねぎらいの言葉を返した。左右に垂れた三つ編みが揺れ、かわいらしい表情がにこりとする。俺達は部屋への荷物運びを終えて、一旦部屋の鍵を閉め、綺麗に整えられたダブルベッドの縁に腰掛けていた。

 俺達四人は、小さい頃からの幼なじみだ。そして同時に、二組のカップルでもある。俺と千晶、マコトと叶がそれぞれ同室で、隣同士の二部屋になった。
 俺と千晶は、付き合い始めたのが中三の頃で、交際期間は丸五年を数える。
 今ではすっかり気楽な男女関係で、緊張することこそ減ったけれど、ほんの少しあった倦怠期も乗り越え、交際は順調だ。
 千晶は水色のワンピースの上に、白の夏物カーディガンを羽織っている。大人しい外見に、それはよく似合っていた。足下は海岸仕様で、素足にビーチサンダルだ。今は室内用サンダルだが。
 俺は千晶の右手を触りながら、部屋を眺めた。壁は全面丸太で、トイレも風呂も部屋別についている。奥の方には隣の部屋と続く扉がある。両側から簡易鍵がかかるが、マスターの鍵は開いていた。隣はマコト達の部屋なので、お互いが望めば通り抜けができるようになっている。
 そして外を見ると、もう日が落ちて、間もなく暗闇が訪れようとしていた。代わりに壁の、ランプを模した明かりがついている。
「もうちょっと早く来られればな」
「そうだね。でも、もしそうならクタクタだったから、これでよかったかな」
 今日は俺もマコトも午前中にそれぞれバイトがあり、出発が午後になった。少し道に迷ったのもあり、既に夕飯の時間だ。本当ならば、早速海に繰り出したいところだが、この時間ではもう厳しい。もっとも、今回は三泊なので、チャンスはいくらでもある。
 とりあえず、
「抱き締めて良い?」
「えっ」
 一瞬止まった千晶だが、すぐに「もぅ」と言いながら、千晶は両手を広げた。俺は千晶の右から腕を回し、座りながらも少し強引に千晶を引き寄せる。すぐに部屋を出ないといけないので、押し倒しはしない。
 千晶の顔が、俺の左胸上部に収まった。両腕に、衣服越しだが千晶の柔らかい感触を感じる。そして、三つ編みから少しだけ浮いた髪が、俺の鼻をくすぐる。千晶の匂いが立ち上って、身体が若干反応するけど、我慢した。千晶の顎に手をかけて顔を持ち上げ、唇を合わせた。千晶は抵抗せず、目を閉じて応えた。
 しばらくお互いの感触を味わって、どちらともなく顔を離す。
「さ、夕飯だ」
 俺は立ち上がり、千晶も続いた。
「スマホ、持ったか?」
「あ、そうだった」
 千晶は鞄に近寄り、スマホを取り出す。ミリア――好きなように呼んでいただいて構いません、と彼女は言った。呼び捨ては馴れ馴れしいとも思ったが、それが許されそうな雰囲気を彼女は持っていた――に、夕飯時に持ってきて欲しいと言われていた。

 一階のダイニングに向かうと、マコトと叶は既に、横に並んで席に着いていた。マコトは室内用の、色が薄めのサングラスに付け替えている。叶は、黒襟に薄いクリーム色のワンピースと、透明度の高いストッキング、ヒール無しのパンプスを身につけている。一見「お嬢様」といった出で立ちだ。
 俺はマコトの前に、千晶は叶の前に座った。俺とマコト、千晶と叶はそれぞれ背が近く(俺と叶の方がそれぞれ少し高い)、カップル間で二~三十センチの身長差があるので、いかにもカップル同士という様子になる。
 俺達二人が座ったのを見計らったように、ミリアが厨房から出てきて、飲み物のオーダーを取り始めた。

 料理はフランス料理のコースだった。海岸沿いということもあるのだろう、魚介系のメニューが多い。俺が滅多に口にしないタイプの食事だが、とても美味しい。
「そっちの大学は楽しいか?」
「ん……ああ、おかげさまで」
 パンのかけらを呑み込んだ後、叶をちらりと見つつ、マコトが応える。マコトは高校までずっと俺と千晶と同じ学校だったが、大学になって分かれた。最初は寂しかったが、大学入学と同時期から一人暮らししているマコトの家にはしょっちゅう押しかけているし、それに、大学が分かれてなければこの旅行が四人になることもきっとなかっただろう。
「どっちかって言うと、僕は勉強より遊ぶ方だけどな」
「大学ってそういうものじゃないですか。勉強や研究とプライベートを両方充実させることが大事です」
「はは、そうだね」
 マコトと叶が目配せしながら言う。すました様子の叶は、しかしマコトを見るときには表情が変わる。二人の関係はまだ一年を少し過ぎたくらいだ。俺達よりはまだ熱い。

 叶も、小学校高学年時代によく遊ぶ仲間だった。中高では親の都合で地方にいたが、大学生になって戻ってきたらしい。俺達はそれを全く知らなかったけれど、大学でマコトと鉢合わせしたらしく、そのまま付き合い始めたという。マコトに叶を彼女として紹介されたとき、いろんな意味でびっくりした。

「にしても、良いとこだな、ここ」
 そうつぶやいて、マコトが白ワインを口にした。同学年の四人だが、成人しているのはマコトだけで、他の三人は成人まで一ヶ月から数ヶ月残している。だから、アルコールを飲んでいるのはマコトだけだ。俺達も、全くアルコールを飲んだことがないかと言えば、口ごもってしまうが――外出してアルコールを飲むことはない。特に、ホテルでは年齢を把握されているし。
「そうですね、安かったんですよね」
 そう言って叶が口に含むのは、ジンジャエールだ。ちなみに俺はウーロン茶、千晶はグレープフルーツジュースを頼んでいる。
「うん。と言っても、モニター協力料込みらしいからな」
 それは、ホームページ経由で予約したときに書いてあった。「簡単なモニター調査にご協力いただくことを前提とした、特別料金です」とのことだ。ミリアによれば、モニター調査の説明は明日あるという。
「にしても、貸し切り状態だとは思わなかった」
 ダイニングには長机がもう一つあるが、今日は使われていない。客は俺達四人だけのようだった。

 ちょっとまずかったかもな、と思った。

 料理が進み、デザートが出された。アイスクリームがイチゴのソースで彩られ、上に大きめの果物が載っていた。
「なんだ、これ」
 俺とマコト、千晶と叶でそれぞれ同じ果物が載っていたが、どちらも見たことのないものだ。
「それは、どちらも南国のフルーツです。珍しい物ですが、美味ですよ。切らずにそのまま口に入れることをお勧めします。少し大きめの種が入っていますが一緒にお呑み下さい。のどごしが爽やかになります」
 ミリアに薦められて、俺はその果物にフォークを刺し、口に運んだ。かむと最初は甘く、そして少し酸味を感じる。そして、確かに種があった。俺にとってはたいして大きくないが、千晶や叶にとってはなるほど、大きめかもしれない。
 言われた通り、種をそのまま呑み込んだ。
「お」
 種を呑み込むと、爽やかなミントの香りが鼻を抜けた。なるほど、これはいい。
 気づくと、マコトが俺と同じような顔をしていた。横を見ると、千晶と叶も果物を頬張っていた。千晶が種を飲み下し、にこりとするところまで見届ける。気に入ったようだ。
 四人とも最初に果物を呑み込み、それからアイスクリームに取りかかった。

「それでは、当ホテルのシステムをご案内します」
 夕食が終わって一息ついた後、ミリアがやってきて言った。
「当ホテルはこのように隔絶された場所にありますので、皆様が退屈にならないよう、ちょっとしたアトラクションを提供致しております。皆様、スマートフォンをお持ちですか」
「はい」
 それは、夕食に持ってこいと言われていた。画面を見ると、「圏外」と表示されている。
「当ホテルのアプリをダウンロードいただいていますか」
「はい」
 俺を含めた四人がうなずいた。
「ではアプリを開いて下さい。当ホテルのアプリは、当ホテルへのご案内をする役目もありますが、当ホテルでのアトラクションをご案内する機能もあります」
 アプリを立ち上げると、ホテルの名前が出て、数秒の準備の後、メッセージ画面が表示された。ダウンロードして試しに開いたときとは違う挙動だった。

「通知を許可しますか、と出ますので、OKを押して下さい。すると通知が来ますので、それを開けてお読み下さい」

 言われた通りOKを押すと、アプリが閉じて、代わりに通知が届いた。
 通知を開ける。――なんで圏外なのに通知が届くんだろう、と少し思ったが。

『本日は当ホテルをご利用頂きまして、誠にありがとうございます。
 案内役から説明があったかと思いますが、当ホテルではモニターをお願いするのと同時に、ご宿泊のお客様に楽しんで頂くため、様々なアトラクションを用意しております。
 当ホテルの宿泊中、様々な出来事が起こりますが、お客様におかれましてはアトラクションとご理解の上、割り切ってご参加頂ければ幸いです。
 当アプリからは、今回のように皆様に通知を通じて情報をお伝えします。通知が届いたことに気づかれましたら、必ずすぐに通知をご覧下さい。なお、お読みになった通知は自動的に消去されます。
 また、スマートフォンについては宿泊中、必ずご携帯頂き、充電中も通知を見逃さないよう、ご注意下さい。ただし、上記にかかわらず、海や風呂などをご利用の際には、スマートフォンを破損等しないよう、十分ご注意下さい。』

 ふむふむ、と読み切って顔を上げる。マコト、叶、千晶の順に、顔が上がった。
「ただいま通知にてご案内の通り、宿泊中は私からもご案内しますが、基本的には通知を用いてご案内を致します」
 ブルル、とスマホが震える。また通知が届いていたので、それを開く。

『これ以降の通知は、特に記載のない限り、お読みになった後に皆様が内容を思い出すことはできません。ただし、皆様が思い出せなくても、通知通りとなりますのでご安心下さい。』

 えっ? と思って、顔を上げた。だが、上げた途端に何が気になったのか分からなくなった。千晶達も、顔を上げてきょとんとしている。もう一度スマホに目を落としたが、通知はもう消えていた。

 周りが不思議な空気に包まれる。狐につままれた、というような表現が似合う感じだ。
 三度スマホが震える。同じように通知を開く。

『安全のため、案内役の指示には必ずお従い下さい。また、案内役はあくまで指示に従ってお客様の案内や世話を行う者であり、案内役にはアトラクションに関して決定や変更の権限はありません。そのため、案内役がいかなる言動をとっても、案内役に深い感情を抱くことはご遠慮下さい。
 ただし、上記にかかわらず、アトラクションやコテージ内外の活動に関してご不明の点やご要望がある場合には、何なりと案内役にご相談下さい。』

 首をひねりつつ、顔を上げる。顔を上げると、やはり何を読んだのか思い出せなかった。不思議な感覚だが、「まあいいか」と気を取り直した。
 そんな俺達の様子を確認するようにして、ミリアは最後に言った。

「これで本日のご案内は終了です。このダイニングは開放しておりますので、良きところで部屋にお戻り下さい」

「ふあー」
 風呂から上がり、備え付けの浴衣を纏った俺(トランクスは着けてるぞ)は、部屋の中ソファーに腰かけた。先に風呂に入っていた千晶が、ベッドから寄ってくる。付き合ってから五年以上経っているが、隙あらば近くに寄ってくるのも、小動物のような動きをするのも付き合い始め――どころか幼少の頃から全く変わらない。
 千晶は髪をほどいて、普段から寝間着にしている、クリーム色のロングキャミソールとホットパンツを身につけていた。化粧はもう落としていたが、十分にかわいらしい。
 千晶が隣に座ろうとしたので、膝の上を指示する。千晶は恥ずかしがったが、黙って座った。湯船で暖まった体温を浴衣越しに感じる。俺は千晶のお腹を抱えるように手を回した。
「やっぱり軽いなー」
 ふふ、と千晶が笑う。羽根のように……というのはさすがに比喩が過ぎるが、苦にならない程度に軽い。
 そのまま抱きついていると、千晶の身体から力が抜けてくるのを感じた。多分、ミリアと話していたので、人見知りである千晶は緊張していたのだろう。
 肩越しに千晶を見下ろす。千晶は150cmに届かない位の背なので、キャミソールに隠された千晶のおっぱいが容易に眼下に広がった。Cカップの千晶の胸は半分近くが露出し、柔らかさを主張している。その二つの膨らみは、五年間の付き合いで何百回も堪能しており、どこを、いつどのように触れば千晶がどういう反応を返すか、ほぼ全て分かっている。今日も感触を愉しませてくれるだろう。まだ触らないが。
 俺はおっぱいの代わりに、露出した太ももをなでる。ん、と少し声を漏らしたが、千晶は抵抗しなかった。むだ毛のないすべすべとした太ももは抵抗がほとんどなく、指が自然に滑る。

 しばらくその感触を味わっていると、こんこん、と扉をノックする音がした。

「はいはい」
 千晶をどかして、机に置いたスマホを手に取り、立ち上がる。そして部屋の奥の扉に近づく。ちなみに、もちろん入口の扉にはもう鍵をかけている。

 俺が鍵を外して、手前に引くと、扉が開く。そこには着替えたマコトが立っていた。
「準備できたよ、遊ぼう」
 マコトはそう言って、笑った。

 マコト側の部屋に入ると、叶が女の子座りで床に座っていた。俺達の部屋にもあるが、小さい暖炉の前にスペースが空いていて、円形のカーペットが敷いてある。海岸沿いのコテージだからか、カーペットは防水性らしい。部屋案内の時にミリアが言っていた。
 叶は、黒く長い髪をほどき、こちらも持参のピンクのネグリジェに着替えていた。スカート部分の裾に花柄が舞っている。言うまでもなく透過性はなく、少し色合いの違う寝間着用カーディガンを上から羽織っている。ただ、その隙間から覗く二つの塊は、千晶のそれより大きい。おそらく、二回りほど。
「じゃあ、トランプしようか」
 俺達を案内したマコトがあぐらをかいて座る。アルコールが入っている上、マコトも緊張から解き放たれたのだろう、声のトーンが高くなっていた。俺達は、マコトの動きに合わせて腰を下ろした。

 マコトは、トレーニングでも使うような紺のショートパンツに、身体に密着するタイプの黒のハーフトップを着用していた。さすがにサングラスはもう外している。濃いめの茶色に染めた髪は俺より短く、身体は細身だが、お腹からはよく鍛えられた腹筋がのぞく。中高では柔道部でかなりの戦績をあげたマコトだが、今も鍛えているのだろう。あぐらをかきつつも背筋をピンと伸ばしたマコトは、いかにもスポーツマンといった様子だった。

 ただし――ハーフトップの胸元に浮かぶ、小さめの二つの膨らみを除けば、だが。

< つづく >

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