つい・すと 2日目・夜1

2日目・夜1 実演

 風呂から上がって、俺は昨晩と同様、トランクスの上に浴衣を羽織った。
 腰回りが細くなっていたので、トランクスを少しきつめに縛った。
「ねえ、俊ちゃん」
 千晶から声がかかった。
「何?」
「もし、俊ちゃんがカモメだったら、どうかな」
 千晶は俺を、「ふしぎな世界」に誘った。
「カモメかあ」
 俺は目をつぶって、考える。
「とりあえず千晶は、後ろからついてくるよな」
「あはは、そうだね」
 千晶はちゃんとついてこられるだろうか。不安だ。
「マコトは先頭で、絶対俺と競争するよな」
「うん」
「叶は後ろから呆れて見てそう」
「うん、わかる」
 四人分のイメージが出そろって、千晶は満足したようにうなずいた。
 すると、奥の扉からこんこん、と音がした。俺が扉を開けると、昨夜と同じ格好で、マコトが立っていた。そして、右手指を一本、俺の方に突き出す。
「リベンジ!」
 暖炉の前には、すでに駒が並んだ将棋盤が置いてあった。

 千晶と叶は早々にソファーでじゃれている。ふと、叶がレズであることを思い出したが、千晶に嫌がっているそぶりがないので、いいことにする。千晶とじゃれてるのがマコトなら即座にからかってやるところだが、叶にそれをやるのは怖い。それに、二人がじゃれているのはとても絵になっていた。特に、二人の頭に色の違うバラの花が咲いているのがいい。
 盤面に目を落とすと、そのタイミングでマコトが盤上の駒を一つ突き出した。
「ん?」
 その駒は、何の代償もなく取れる、いわゆる「タダ」の場所にいた。マヌケめ、と思い、速攻でその駒をとる。そして、
「あっ」
「待ったなしだぞ、シュン」
 マコトが持ち駒を打ち、綺麗な「王手・飛車取り」がかかった。初歩的で、かつ致命的なミスだった。気落ちした俺は、そのまま一方的に負けた。
「へへ、やった」
 リベンジ達成、とばかりに、マコトは会心の笑みを浮かべる。昨夜といい、今朝といい、サシの勝負に連敗していたのがよほど悔しかったらしい。

 マコトが満足してから、今度は四人でババ抜きをした。
「んー」
 叶がマコトの手札を睨み、カードを一枚引き抜こうとする。
「む」
 何かに気づいたのか、とっさに叶は、引き抜こうとしたカードの隣を抜いた。マコトは悔しそうに顔をしかめる。ババを引かせ損ねたようだ。
「真琴さん、わかりやすいです。これで終わりですね」
 叶の手持ちカードは一枚になり、俺に引き抜かせて上がりだ。そして俺も、二枚のカードを場に捨て、手持ち一枚になる。
「ちくしょー」
 と言いつつ、マコトがそのカードを引き抜き、最下位が決定した。ちなみに、千晶は既にトップ抜けしている。あいつはポーカーフェイスになるからババ抜きは強いのだ。

 時間も遅くなり、そろそろ就寝時間だった。四人がそれに気づき、お開きになりかけたとき、それは起こった。

「ん?」
「どうした、シュン」
「ああ……なんか、身体が変な感じするな、と思って」
 何となくムズムズする感覚があって、俺は身体を見下ろす。俺の身体は普通の状態じゃないので、何かが起こったのかもしれない、と思う。
「どんな?」
 マコトも同じ考えに思い至ったらしい。マコトの顔はアルコールで赤らんでいたが、少し真剣な表情だった。
「うーん」
 もやもやしている上に、経験のない感覚なので、自分でも実態を掴みかねて、説明に時間がかかった。
「まず、お腹の中がムズムズする。あと、ちょっと熱いかな。あと、何となく寂しい感じがするなあ、感覚的に……あれ?」
 気づいた。いや、関係のないことだが。
「マコト、頭の花が光ってるみたいだぞ」
「え?」
 見ると、マコトの頭上にあるカーネーションが、淡く白い光りを放っていた。
「……あ、シュンもだ」
「マジか。って、千晶達もじゃねえか」
 どうやら、四人とも頭上の花が白い光を放っているようだった。……そして、千晶と叶の様子が、おかしかった。
「どうした、千晶」
「うん……ちょっと」
 そう言いながら、千晶は下を向く。何となく、腰が落ち着かない様子だ。
 一方の叶は、首をひねっていた。だが、こちらは異変というより、腑に落ちない、といった様子だ。

 と、四人のスマホが鳴った。それぞれ、スマホを手に取り、通知を開ける。

『当ホテルは非日常を提供するホテルですので、当ホテルをチェックアウトされるまでは、性的な興味や滾りをお感じの際には、考えるより先に、お連れ様にお伝えになることを強くお勧めします』

 一瞬、意味が分からなかった。今の俺自身の状況と関係が見いだせなかったからだ。しかし、顔を上げる直前、別のことに思い当たった。
 千晶だ。

 千晶の顔を見た。俺と千晶の目が合い、千晶は俺に寄ってきた。そのまま、しなだれかかる。
 そのまま、千晶の肩を抱いてやると、千晶は下を向いたまま、溜息にも似た熱い吐息を漏らした。
 ドキッとした。
「千晶、……興奮してる?」
 思わず、そんなことを口走る。千晶はそのまま、動かない。……うーん、肯定なのかそうでないのか、微妙な反応だが、とりあえず機嫌を損ねてはいない。ロングキャミソールからは胸元が深くのぞいているけれど、その頂がどうなっているかは判別がつかなかった。
「千晶さんもなんですね」
 そう声を上げたのは、叶だった。叶はマコトを見て、言う。
「私も真琴さんと……性交がしたくなってきました」
 顔を真っ赤にして、しかしはっきりと叶はそう告げた。叶は千晶と違って、息が上がっているという感じではないが、そのかわりに意思表示がはっきりしている。その意思をぶつけられたマコトが、息を呑んだ。心持ち、叶もマコトに身体を寄せる。前屈みになり、ピンクのネグリジェとカーディガンに隠れてはいるが、大きいおっぱいを両腕で寄せるような格好になっていた。
「今、どんどん真琴さんに触りたくなってきてます。寂しいです。……俊一君の言ってる感覚と、同じかもしれません。なんで突然……」
「あー、……なるほど」
 合点がいったというように――多少の現実逃避含みだったかもしれないが――マコトがうなずく。
「シュン、それは身体が欲求不満になってるんだ、多分。シュンだけじゃなくて、……僕達全員」
 顔を赤くして、マコトは俺に言った。それはアルコールだけの赤さではない。つられるように、俺の顔にも血が上る。僕達――というのが本当なら、千晶だけでなくマコトと叶も、普通じゃなくなってるということで。
「そう、なのか?」
 だがその割には、四人とも反応が違うようだ。でも、言われてみれば「自分が欲求不満になっている」というのが分かる気がする。千晶と触れている肌が気持ちいい。この感覚は、忙しくて何日もセックスやオナニーをしていない状態で、千晶とやっと触れ合えたときの歓楽に似ていた。
「シュン、男の子と違って、女の子は身体が欲求不満でも、心が反応しないと乱れない生き物なんだ。ちーは心が身体に連動しやすいタイプなんだと思う。けど、僕は身体だけだとほとんど分からないんだ。何かもやもやするのも今気づいた」
 黒のハーフトップの下にさらけ出された、自分のお腹をさすりながら、マコトは言った。
「……アトラクションか」
「間違いないね、こんな同時になんて、それ以外に考えられない」
「そうか……」
「僕達の頭の花のせいだろうね、……まったく」
 そう吐き捨てたマコトの顔は、しかし満更ではないといった様子だった。その気持ちは分かる。俺も、この非日常空間に、いい知れない興奮を感じていたから。まさに、この空間こそが「アトラクション」だった。
 しかし、参ったな、と思う。千晶が発情したのはいいとしても、今の俺は千晶とセックスできない。チンコがないからだ。

 その時、再び四人のスマホが鳴った。俺達はそれぞれスマホの画面を見た。

『お客様は、女性同士の性交について経験が乏しいかと思います。そのため、デモンストレーションとして、お客様のお連れ様が、皆様の目前で性交を行います。是非、じっくりとお楽しみの上、パートナーの方との性交の参考にして下さい。』

 マコトと叶は、「寝る」準備を始めた。これからのことを気にしていないかのように、てきぱきと動いている。マコトは暖炉の前で、軽いストレッチを始めた。紺のショートパンツが目一杯に開かれる。
 かくいう俺は、そのマコトの目の前で、息の荒い千晶を抱きかかえるようにして座っていた。千晶は俺が身体を触ると楽になるらしく、あまり発情させないように注意しながら、全身を撫でてやる。千晶からは良い匂いが立ち上っていたが、まだ発情臭は感じない。もっとも、脱がす前にこの体勢で発情臭がするなんてのは本当に酷いときだけだが。
 浴衣に隠れた俺の肌を、千晶のキャミソールの上から背中に擦り合わせる。触れ合うその温度が、どこにというわけでなく、小さい快楽をもたらした。

 その快楽をきっかけに、意識が俺自身の身体に向く。自分の身体も、火照っていた。腰の奥の方に薪(たきぎ)がくべられ、チリチリとくすぶっているように感じる。
 身体の感覚が明らかにこれまでと違うのは、俺が女の身体になっているからだろう。女の身体での欲求不満は、男の身体でのそれとは確かに違った。男の身体だったら、それは「外に出したい欲求」だった。その欲求は、下半身をそわそわさせて、実際に出さないと解消しない。対して、今の欲求は、身体の内側にも外側にも染み出していくようなものだった。温かい食べ物が放つ熱のように、ずっと染み出していけば、やがて消えてしまいそうな感覚。一方で、自分の身体の内部をいつまでも炙り、一つ間違えればそのまま蕩かしてしまいそうな感覚。
 きっと、今の俺が一人ならば、オナニーを試みただろう。股間だけが女だったさっきはそれほどでもなかったが、全身が女になっている今、自分の身体への興味はかなり強くなっていた。かといって、今の状況を放り出してまでしたいほどではなかった。きっと身体が男だったら、何としてでも快楽を求めようと考えただろう。女が基本的に性を「受け入れる」存在だというのを実感した。外に出すものがない女の身体だと、外に向かう欲求は、抑えようと思えば抑えられるのだ。

 「心と身体は違う」というマコトの言葉は、最初は分からなかったけれど、心当たりはあった。俺が遠い昔にマコトに振られて、千晶と付き合う前、俺はマコトを「男友達」として扱うように努力した。その結果、マコトの色気に身体が反応しても、心がついてこなくなったことが確かにあった。……だが、その境地に至るまでに、俺は数ヶ月の努力を要した気がする。女は、そんな簡単に二つを別物と切り分けられるものなんだろうか。現に今の俺は、身体に釣られて、心までエロいことで占められている。それは、俺の心が男のままだからなのだろうか。

 女の身体になって女の性欲を感じるのは、別にショックではなかった。なぜなら、俺が欲しくなったのは、ただ一つ――千晶の身体だったからだ。それは俺が男――そして「俺そのもの」だという証明で、とても安心した。その事実で、俺は俺自身にOKサインを出した。間違っても、今触れたいのは男の肌ではないし、ましてや、他人の男の股間をどうこうするなんて考えたくもなかった。

『お連れ様に、女性同士の性交について経験が乏しい方がいらっしゃいますので、デモンストレーションとして、お連れ様の目前で性交をお願いします。極力普段通りの性交をお見せ下さい。なお、電気は消して結構です。また、性交後はぐっすりお休み下さい。』

 僕は顔を上げた。叶と目が合う。叶は見た感じはまだ落ち着いていたが、瞳が潤んできていた。顎で合図して、二人で身支度に入る。まだ「寝る」準備はできていなかった。「ちょっと待っててくれ」と、シュンとちーに告げて、立ち上がる。するとシュンとちーは、トランプを片付けだした。
 僕が戻ってきて、代わりに叶が用を済ませている間、僕は軽くストレッチをした。これは毎日のルーチンで、これからのことには関係ない。

 ドキドキしてきていた。僕は身体から来る性欲は少なくて、「二人遊び」をするときは、身体より、圧倒的に精神で興奮するタイプだ。そして今日は、精神で興奮するための条件が揃っていた。二人遊びの翌日にこんなにドキドキするのは初めて……どころか、二日連続で二人遊びをすること自体が初めてだった。

 ストレッチの途中で顔を上げると、シュンが後ろからちーに抱きついていた。ちーは下を向いていて、顔が赤くなっているけど、今は落ち着いているようだ。
「大丈夫か?」
 というシュンの声に、ちーは黙ってうなずいている。
 シュンは、意識的に低い声を出そうとしていたようだけど、そのベースは高く澄んだ、変声前の少女の声だった。髪型が男の時と同じなのを除けば、元からそこそこ整っていた顔は、男の時の面影を残しつつも、綺麗な女の子のものになっている。シュンの背は変わっていなかったので(座高が高いので、むしろ大きくなったように見える)、ちーがとてもちっちゃく見えて、まるで年の離れた姉妹のようで、ほほえましい。「姉」の方が男の子であることと、二人の身体の状態を無視すれば、だけども。……ちーと比べると、シュンの肩幅が、さっきより一段と狭くなっている気がする。ちーよりはさすがに広いけど、もう僕より狭くなっているかもしれない。シュンにウイッグでも被せればもっと様になるな、なんて不謹慎なことを考えたりする。
「シュン、ちー、そこ座ってろよ」
 僕は化粧台を指さす。化粧台はベッドの近くにあり、椅子に座ればベッドが見える。シュンはうなずいて、ちーの手を引いて立ち上がった。

「いいですか?」
 叶が明かりのスイッチに触れつつ、最後の確認をする。僕がうなずくと、部屋の電気が消えた。真っ暗――にはならない。僕達の頭上の花は、今も淡く白い光を放っていて、各人の全身を辛うじて浮かび上がらせていた。
 僕はベッドの横に腰掛けていたけれど、電気が消えたのを確認して、ベッドに足を上げ、横座りに直した。ベッドの足側から、枕の方向に顔を向けて座る。叶もスリッパを脱いでベッドに上り、僕の目の前で、向かい合うようにして同じ格好で座る。

「恥ずかしいです……」
 消え入るような声で、だけどしっかり僕の目を捉えて、叶がささやく。羽織っていたカーディガンをするすると脱ぎ、ベッドの横に置いた。叶の姿勢が元に戻ると、ネグリジェをまとった叶の、大きい膨らみが僕の目に入った。僕はその膨らみ自体も好きだけど、それを見せてくれる叶の姿勢こそが、心を開いてくれる感じがして好きだった。

 僕は、両手を叶の両手に重ねるようにした。それが、僕達の「二人遊び」の始め方だった。
 両手にお互いの温度を感じると、身体の奥の方が、ほんのりと暖まってくるのを感じる。そういえば僕達、欲求不満なんだっけ、と、そこで思い出した。確かに、叶に触れた僕の両手が、いつもより喜んでいる気がする。
 叶の目は完全に潤んで、口元が既にすぼまっていた。僕はそこに自分の唇を合わせる。
 ちゅっ、ちゅっ。
 音を立てながら、ついばむようにキスをする。唇を中心に、おでこ、ほっぺた、首元、耳。お互いの思い思いに、僕からも叶からも、キスの雨を降らす。
 ここは、普段なら僕が積極的に叶を愛するところだけど、叶の息がもう上がってきていた。普段から、叶の方が火がつくのは早いのだけど、今日は特に早い。
 叶は腰を浮かせてきていて、僕の首元を積極的に狙う。
「っ」
 刺激に僕の声がほんの少しだけ漏れた。くすぐったいけど、叶の好きなようにさせる。
 僕の首回りを舐め回すようにした後、繋いでいた両手を振りきって、叶は僕に抱きついてきた。
「真琴……」
 僕を呼ぶ。呼び捨てだった。
「ん?」
 喉の音だけで応じる。
「脱がせて……」
 かすれたような声で、叶は求めた。
 僕はネグリジェのスカート部分に手をかけ、ゆっくりまくり上げる。今夜は叶の素肌が見えるので、ゆっくりと。
 叶は黒いショーツを穿いていた。ショーツには、バラの刺繍が入っていて、色気がある。そして、ブラはしていない。Eカップある叶の胸は、マシュマロのようにそこに鎮座していた。乳首は両方とも、つんと上を向いている。
 ネグリジェを畳んで、カーディガンの上に置いてやる。すると叶は、僕に再び抱きついてきた。叶の大きな胸が、ハーフトップ越しに僕の胸に触れた。暖かい感触を僕の胸にも感じる。全身の熱が僕の上半身に浸透して、僕の身体も心も温まってくる。
 僕は、抱きつく叶に、耳元でささやいた。
「僕のも、脱がせてくれるかな」
「イヤ」
 即答。冷たい声だった。
 思わず動きが止まる。
「あんだけ外で見せてたのに、今になってもったいぶるつもり?」
 低い声が響いた。その言葉は、僕の心を的確に組み敷いていく。
 僕から身体が離れた。その目には、高慢な光が宿っている。
「自分で脱ぎなさい、真琴。今すぐ」
 僕の身体からさっと血の気が引く感覚と、かあっと熱くなる感覚が、同時に襲った。それは、怒りに似ていて、全く違う熱。熱に浮かされるように、僕はつぶやいた。
「はい、……ご主人様」

 僕は背筋を伸ばして、手を前でクロスする。その時に、指がほんの少し、僕の左胸を擦った。
「っ」
 乳首が尖っているのが分かる。ご主人様の一言で、僕の心からあふれ出た性の熱が、身体を燃やし始めていた。
 クロスした両腕でハーフトップを掴み、ゆっくりまくり上げる。ハーフトップの下には何もないので、僕の胸がご主人様の前にさらされた。
 腕を抜いて、ご主人様のネグリジェの横に置き、元の姿勢に戻る。
 ご主人様は前屈みになって、僕の胸を見つめていた。でも、隠すと怒られるので、僕は姿勢を動かさない。
「勃ってる」
 ご主人様にからかわれ、顔が真っ赤になる。
 さっき白昼に晒したときは恥ずかしさで死にそうになったけれど、ご主人様のいたぶりはまた別格に恥ずかしい。
「下も脱ぎなさい」
 そしてご主人様は僕に命じた。途端に、ご主人様の前で衣服をまとっていることに、居心地の悪さを感じてしまう。身も心もシモベに染まっているなぁ――と、僅かに残った冷静な自分がつぶやいていた。
「一枚ずつよ」
 僕が腰を上げると、ご主人様が加えて命じた。紺のショートパンツに手をかけ、ゆっくり下ろす。中から、グレーのシンプルなショーツが現れた。
 ショートパンツから足を抜き、ハーフトップに重ねて、膝立ちに戻ると、
「濡れてる?」
 ご主人様が聞いた。僕が答えられないでいると(本当に分からなかった)、ご主人様がショーツの上から手を突っ込んできた。
「っ!」
「……まだね」
 ご主人様の指が、おまんこを軽く一往復する。けど、僕の身体はそこまで準備はできてなくて、それは単なる衝撃に終わった。
「ショーツを自分で汚したら、脱いでいいわ。濡らしても、漏らしても良いわよ」
 そんな。
 と、思ったけど、ご主人様に反論は許されない。さすがに漏らすことは死んでもできないので(横にシュン達がいるのを今さらながら思い出した)、濡らすしかない。
 早く、ショーツを汚したかった。だって、そうしないと、次の指示が出ないから。指示が出なければ、ご主人様に触れることができない。
 僕は一瞬悩んで、ショーツの上からおまんこに触れた。さっきのご主人様のは一瞬過ぎて効果がなかったけれど、心の準備をしてから触ったら、もしかしたら今夜は、刺激に性感を見いだせるかもしれない。
「ん……ぅっ」
 噛みしめた歯の奥から声が漏れる。やっぱり、いつもより盛り上がってくるのが早い。いつもならこれでもまだ全然感じないのだけれど、今夜は反応があった。やっぱり、欲求不満になっているのだろう。
「うぅ……」
 膝立ちのまま、僕は右手でおまんこを擦る。左手が空いていたので、自分の右脇腹にあてがった。脇腹はくすぐったいけど、その刺激は僕の身体を軌道に乗せるのには役に立つ。
「……おまんこ、気持ちいい……」
 さらに、その言葉を口に出して、僕自身を煽る。その言葉ははしたなくて、情けなくて、だから僕の心にさらに薪をくべた。ゆっくり、おまんこの温度が上がっていく。
 タイミングを見計らって、ショーツに指を入れる。クロッチ部分に指で輪をつくって、指の背の部分でおまんこを軽く擦った。
「んふっ!」
 この刺激がテキメンで、僕のおまんこがついにどろっとした感触を発した。そのまま擦り続けると、少しずつ指が湿ってくるのを感じる。十分に湿って、「くちくち」と音が立ったところで、おまんこから指を離した。その時に、指をクロッチで拭くのも忘れない。
「汚しました……」
「そう。じゃあ脱ぎなさい」
 ご主人様の許可が下りて、僕はショーツを下げた。汚した証拠を見せるように言われるかと思ったけど、ご主人様は何も言わなかったので、そのまま横に置く。ご主人様が僕を信頼してくれている気がして、嬉しかった。

「じゃあ、私を愛して良いわ」
 僕が一糸まとわぬ姿になったのをじっくり確認してから、ご主人様はにっこりと笑って、僕に言った。その許可は、まさに僕へのご褒美だった。僕はご主人様の左足に手を伸ばす。ご主人様は後ろに手をつき、僕の動きに応じて脚を伸ばした。
 綺麗な爪先が僕の目の前に突きつけられ、僕はその親指を咥えた。順番に、足の指に奉仕していく。
 ご主人様の脚はとても綺麗で、嫌悪感は全然無い。ただ、僕の心がご主人様の足の裏で軽く踏まれている気分になる。そういう気分になると、心から熱があふれ出してしまうのが僕だった。
 僕は右足に奉仕する。ご主人様はもう、ベッドに背中を預けていた。僕は触れられていないのに、心と身体がかっかと熱くなる。もう、僕の全てが発情していた。おまんこがとっても切ないけど、今触ったら僕が潰れてしまうので、耐える。
 ご主人様はショーツ一枚の格好で、自分の指を咥えて、僕が奉仕する様子を見ていた。息が上がりながら、右人差し指の第二関節を咥えるその姿が、とても愛らしい。
「真琴……お願い」
 根負けしたのか、ご主人様が上ずった声を出した。
「もっと、愛して」
 しっとりとしたその声に、心臓を貫かれたような気がした。腰が抜けるようにして、僕はご主人様に覆い被さった。

 ご主人様の上半身に,ひたすらキスの雨を降らせた。跡をつけると水着姿になったときに困る、というくらいの意識はあったけど、とにかく一心不乱に唇で奉仕した。肩にも、鎖骨にも、おへそにも、脇の下にも、胸の麓にも、山腹にも。
「ぅ……はぅっ……んっ……!」
 ご主人様がぴくん、ぴくん、と小さく全身を震わせる。ご主人様も蕩けてきていて、僕が奉仕する度に感じている。ご主人様の胸がぷるぷると揺れる。まだ触れられていない乳首は、目一杯に大きくなっていた。不意打ち気味に一度、右乳首に奉仕した。
「はん!」
 びくっ、とご主人様が跳ね上がり、胸がたぷんと波打った。
「いいわ、もっと……」
 ご主人様に褒められたので、タイミングを見計らって左乳首にも奉仕する。
「っ!」
 今度は身構えていたのか、少し反応が薄かった。でも、隠しきれない反応が全身から溢れている。
 僕は奉仕の範囲を胸に絞った。僕はご主人様に抱きつくようにして、身体を寄せる。
「ぅ……」
 僕の胸が、ご主人様の腰のあたりに擦れて、脳を快楽が襲う。ご主人様が悦ぶ姿を見ているだけで胸がいっぱいで、自分もなで回されたかと思うくらい全身が敏感だった。
 僕は勢いで、ご主人様の胸に舌を這わせた。
「あんっ……気持ちイイッ」
 ご主人様の嬌声に突き動かされて、ひたすらに舐め回す。舌が乳輪に、乳首に触れるたび、ご主人様の声が響き、胸が揺れた。僕は犬のように、ご主人様の胸以外が意識に入らなくなっていった。
「あっ……あっあっあっあっ! 真琴っ! 乳房が、乳首が気持ちイイ……!」
 ご主人様が理性を捨て始めた様子が、辛うじて耳に入った。そこでやっと、ご主人様が腰を必死にくねらせていることに気づく。
 でも、勝手に脱がせたらダメだ。怒られる。だから、僕はこうしなければならない。
「ご主人様ぁ……僕、おまんこがもう耐えられませんっ!」
 でも、それは事実だった。僕のおまんこからはもう熱があふれ出て、半分くらい腰の感覚がない。
「……仕方ないわね、こっち、向けなさい。私のもしてイイから」
 ご主人様の許可をもらって、僕は身体を起こし、ご主人様をまたいだ。僕の目の前には、黒いショーツがある。ゆっくりと脱がせてあげると、股布の部分がべっとりと、ご主人様のおまんこにくっついていた。
「あんっ!」
「あはは、すごおい。びっちゃびちゃ」
 同時に僕のおまんこに触れられ、僕にも衝撃が奔った。でも、それは気にせず、僕はご主人様のおまんこに食いついた。
「あっ! あ、あ、だめっ」
 僕の舌がおまんこを捉えた瞬間に、ご主人様の太ももが痙攣した。これはもう、最終段階に近い。きっと、このままフィニッシュになる。そして、ご主人様の指が、本格的に僕のおまんこに侵入した。
「んっ! ふぐぅっ!」
「えいっ、あんっ!」
 僕のおまんこが激しくほじられていく。体格差でご主人様の舌は届かないけど、ご主人様の指が入っていると思うだけで、頭が痺れる。
 僕も、ご主人様を絶頂にお連れするため、必死でおまんこを責め立てる。

 何十秒か、何分か、もしくは何時間かもしれない。時間の感覚がなくなってしまって、ひたすら僕の奉仕とご主人様のご褒美の時間が続いたように思えた。じゅる、じゅる、と音を立てて、クリトリスごとご主人様のおまんこ汁を吸い上げた。飲み込むと、鼻からメスの匂いが通り抜けて――その時、どくん、と全身が反応した。それは、絶頂のスタート台に立ったという身体の合図だった。
「あ、イキます!」
 僕は宣言する。するとご主人様は、より激しく、おまんこの指を出し入れした。僕は坂道を駆け上がっていくのを感じながら、さらにご主人様のおまんこを吸い上げる。意識がつながるうちに、ご主人様も同じところまで追い込まなくては。
「はああっ、イクわっ真琴っ」
 ご主人様のおまんこが痙攣して、ご主人様の声が上がった。これで大丈夫。あとは、僕が獣になっても同じことを続ければいい。
「んぐっ! ぐっ! んぐっ!」
 意識が快楽に塗りつぶされていくにつれ、僕の心は女として満たされていく。僕はひたすら、ご主人様のおまんこを責め続けた。
 そして、身体の奥から白い光が放たれ――僕の心が、真っ白に染まっていった。
「んぅ! ぐぅ! ぐぅ! ……んんんんんんっっっ!!!」
「はぁっ! あっ! あっ!あっ! ……あひぃいいっ!!!」

 どれだけ時間が経ったか、僕は意識を取り戻す。動かない身体に鞭を打ち、身体を何とか入れ替えて、枕に頭を載せる。
 そこで、二人の頭上の明かりが消えていることに気づいた。
「愛してる……真琴さん」
 その言葉――叶の言葉で、僕の心を的確に捉えていた鎖が外される。
 叶が僕に身を寄せる。叶の大きい胸が押しつけられて、とても心地良い。その心地よさと疲労で、僕の意識は急速に遠のいていく。
「僕も、愛し……てる……」
 限界だった。僕は、それだけ言い残して、意識を手放す。
「はあああああああっ」
 誰かの嬌声が耳に入ったけれど、それに反応する前に、僕の意識は完全に闇に落ちた。

< つづく >

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