魔女見習いは年相応!? 第2話 前編

第2話 前編

「ふぅ……」
 思ったより忙しい一日を終え、俺はベッドに倒れ込んだ。
 懐かしい天井が目に入る。少し色の濃い木目は、俺が中学の頃までに見慣れきった実家の自室のものに相違ない。

 今年のゴールデンウィークは、月曜と金曜が平日という最悪のスケジュールだったが、ハルカは間の三連休で帰省したいと言い出し、結局その通りになった。朝食を食べてから荷物をまとめ、実家に付いたのは昼過ぎだった。

 だが、俺の身体を襲う疲労は、今日帰省したという旅の疲れによるものだけではない。
 実家に到着した俺とハルカは、俺の母さんに招かれ、リビングで根掘り葉掘りの質問攻めに遭ったのだ。
 俺とハルカが正式に付き合ったこと自体は、翌朝には母さんに知られていた。おそらくハルカがハルカの母親に伝え、そこから母さんに伝わったのだろう。
 あのとき、母さんからメッセージアプリでたった一言、「即堕ち乙」と送ってこられた時の何とも言えない気分は、しばらく忘れられないくらいのものだったが、今日の質問攻めはそれを越えるキツさだった。母さんの質問も、顔を赤らめながら答えるハルカの言葉も、俺の心を的確にえぐっていく。こういうのは一対一でさえ勝ち目がないのに、ハルカに加勢されてはひとたまりもない。二人の責めから解放されたときには、既に自室に戻るのがせいぜいの気力しか残っていなかった。
「あぁー……」
 まるで脳内をツタで引っかき回された時のような声が出てしまう。マジ辛かった……。

「入るぞー」
「ん……」
 部屋に声が響き、俺は目を覚ました。ん、誰だ? 母さん?
「部屋真っ暗じゃねーか……」
 いや、母さんじゃない。誰とも分からない(しかし聞き覚えのある)女の声で、俺は部屋が真っ暗になっていることに気づいた。感覚的にはさっき息をついたばかりのはずだったのだが、あっという間に眠りこけてしまったらしい。
 ぱちりと部屋の電気が付き、それでやっと、侵入者の正体が分かった。
「舞耶さん」
 それは、母さんは母さんでもハルカの母親、姶良 舞耶(あいら・まや)さんだった。

 長らく留守にしていた俺の自室には、俺の鞄以外には、ベッドと、古い勉強机しか置いていない。どうして摩耶さんが俺の部屋に来たのか分からないが、とりあえず机に備え付けの椅子に座ってもらった。俺はベッドから起き上がり、縁に腰掛ける。

「とりあえず、おめでとう。ありがとう、の方が良いかもしんねえけど」
 舞耶さんは、そう言いながら椅子に座り、足を組んだ。黒のサブリナパンツから、ストッキングに包まれた滑らかな足首が覗いている。仕事帰りだろうか。
「あ、ありがとうございます」
 交際相手の親と話すなんてことは、普通ならば緊迫した状況なのだが、俺と舞耶さんは、ある意味では勝手知ったる間柄なので、そこまでではない。とはいえ、付き合ってから顔を合わせたのは初めてなので、多少の緊張はある。今はそれに、何をしに来たのだろうという疑問が、その緊張に拍車をかけていた。
「予想通り、あっという間だったな」
「……面目ない」
 母さんにも舞耶さんにも、付き合うならハルカがもう少し成長してから、と言っていた手前、そこを突かれるのは本当に痛かった。
「いいんだ、男はそうじゃないと。男は女を喰ってこそ一人前だ。……いや、真面目にありがとうな、ハルカを受け止めてくれて」
 しかし舞耶さんは、それ以上俺の傷をえぐることなく、からからと笑った。フォローの内容は下世話だが。

 ごそごそ、と摩耶さんは胸元から板ガムを取り出し、口に入れた。摩耶さんはたばこを吸うのだが、最近はできるだけ自重するようにしているらしく、そのときは代わりにガムを噛むことが多い。
 舞耶さんはかなりのヘビースモーカーらしいのだけど、とても肌が綺麗で、俺の母さんより若く見える。見た目はせいぜい、二十年代の中盤から後半といったところだろう。舞耶さんは顕性のサキュバスで、老化することがないためだ。
「ところで何しに来たんですか、舞耶さん」
「ん? ああ」
 舞耶さんが包み紙をポケットにしまったところで、俺は聞いた。物言いがはっきりしている舞耶さんには珍しく、答えに躊躇があった。
「さっきハルからお前との話を聞いててな。ちょっと気になって」
「はあ」
「身体の関係、うまくいってるか?」
「……はい?」
 何を言いやがったこの人。
「おちょくりじゃねえぞ、一応言っとくけど」
 口あんぐりしている俺に構わず、舞耶さんは真剣な顔で俺を見つめていた。
「…………どこまで聞いたんですか」
「マサが上手とか下手とかは聞いてない」
「聞かれても困りますよ、そんなこと」
 ガムを口の中で転がしながら、舞耶さんは答えになっていないことを答える。
「ただ、うまくいってるとはあんまり聞こえなかったな」
「……そうですか」
「あー、ハルは何も言ってないぞ。あいつは不満をはっきり言わないからな。だけど、雰囲気で分かる。多分、ハルの思ってた感じになってない」
「…………」
「心当たりあるか、マサ」
 ある。と、すぐに応じるのは何となく悔しくて、俺は何となく言いよどんだ。

 俺とハルカが身体の関係を持った日から、一番変わったと言えるのは、多分――二人、一緒にベッドで寝るようになったことだろうか。
 結局、俺が布団を使ったのは初日だけで、それ以降は備え付けのダブルベッドに、並んで寝るようになった。ハルカは同衾をとても喜び、俺の胸に抱きつくようにして眠りにつくことが多くなった。

 ただ、それは、俺達の身体の関係とは、必ずしも直結したものではなかった。

 ハルカは、毎晩俺に抱きついてくるのは良いものの、そこから先を望んでいるのかが、どうしてもはっきり分からないのだ。うきうきで抱きついてキスしてきたと思ったら、それとなく首元のボタンを防御していたり、珍しく背中を向けて寝転んだと思ったら、身体を左右によじってそれとなく誘惑するようなそぶりをしたり。そんな、積極的か消極的かよく分からないハルカの行為に、俺は毎晩翻弄されていた。
 一方、俺は俺で、ハルカと関係を持ったあとも、ハルカを蹂躙したいという気持ちより、大事にしたいという気持ちの方がまだ強く、行為には積極的ではなかった。その一方で、全く求めないと、彼氏としてハルカを大事にしてないように思われるんじゃないか、などと考え出して勝手に思考の板挟みになり、結局三回ほどハルカと身体を重ねた。
 ひとたび営みを始めれば、ハルカも俺自身もスイッチが入ったように積極的になり、最後まで突っ走ることになるのだが、翌朝になると、ハルカが軽く拗ねたり、何故か少し悲しげな様子を見せたりするため、抱いて良かったのかは結局はっきりしないのだ。

 それは、気にしないようにしていれば気にならない程度の、小さな違和感。だが、休日のお出かけや、それ以外の私生活は円満そのものなのに対して、夜だけがそんな感じなのが、実は気になっていた。

 本来なら話したくないのは当然だったが、ハルカを一番よく知っているに違いない舞耶さんに相談できる願っても無い機会だったので、恥を忍んで俺の悩みを舞耶さんに伝えた。
「大体分かった。やっぱなー」
 すると舞耶さんは、困ったような、それでいて少し呆れたような表情で顔をしかめ、追加のガムを咥えた。
「何か分かりましたか」
「お前ヘタレすぎ」
「ぶっ」
 むせた。
「女に抱きつかれて週一とかインポかよ。普通の人間でももう少しヤリ狂うだろ、おい」
「余計なお世話です。俺はハルカが大事なんです」
 ヤリ狂うとか言うなよ。仮にも娘の彼氏に。
「元々もう少し待つつもりだったんですから」
「即落ちして言う台詞じゃねえな」
「…………でも本当です」
 痛い痛い。顔をしかめながらも何とか言い返すと、一瞬、舞耶さんが黙り込んだ。
「……まあそれより、相当我慢してんな」
「へ? あ、いや、そういうつもりは」
「馬鹿、ハルの方だよ」
 舞耶さんは煙草の煙を上に吹き上げるような息をつく。もちろん煙は出ない。
「そうなんですかね」
「間違いねえ。いくら不顕性のクォーターでも、ただでさえ『開通』したばかりのサキュバスが週一で耐えられる訳ねーわ普通」
 俺は返す言葉が見つからず、黙り込んだ。
「だけど、さっきのハルカは、確かに週一しかヤってない雰囲気だった。その代わり、欲求不満の気配がすごかったぞ、放っておいたらお前どころか他の男に襲いかかっても不思議じゃねえくらいだ」
 「他の男」、という言葉に、血の気が引いた。
 ハルカがそこまで追い詰められてるのが本当だとしたら、さすがの俺も、悠長なことは言っていられない。
「でも、お前もハルも、そこまで我慢することねえのになあ……」
 今度は本気で困ったように、舞耶さんは溜息をついた。口にしていたガムを吐き出し、紙に包んでポケットにしまった。
「マサ。これはあたしの予想で、そこまで自信はねえんだが」
 そこまで言って、再び新しいガムを取り出し、舞耶さんは再び口を開いた。
「ハルは自分の身体が貧相なのを気にしてるんじゃねえかと思う」
 その言葉に、俺は黙って舞耶さんがガムを口に入れるのを見つめた。
「背だけはやっと伸びてきたが、体型があんまり成長してねえ。成長が遅めなこともあるが、もしかしたら、あんまり凹凸なく終わっちまうかもしれん。あたしみたいに」
 舞耶さんは足を組み替え、意識的なのか、俺に全身を見せるように座り直した。
 椅子に座った舞耶さんを改めて見る。足首の見える九分丈のサブリナパンツにシックなジャケットを羽織り、丸首のシャツをインナーとした出で立ちは、OLというよりは仕事のできるキャリアウーマンといった様子だ。それでいて男が付け入りやすそうな雰囲気を持ち、サキュバスらしい色香を存分に放っているのは、舞耶さんの生来の魅力としか言いようがない。
 ただ、女性として結構な長身であることに比べれば、舞耶さんのボディラインはそれほど目立たない。胸元は、モータル基準としてもせいぜい標準的か、むしろ少し小さい方に属するだろう。
「あたしの母さんは巨乳だったから、素質はあるはずなんだけど」
「はぁ」
 そのつぶやきへの正しい応答は、俺には分からない。
「マサも、ロリぃ身体はそれほど好みじゃないんだろ、実際」
「……正直言うと、そうです」
 ハルカと関係を持って、全く無理ではないことは分かったのだが、やはりハルカの今の体型では、子供を相手にしているようでちょっと気が引ける。
 すると、我が意を得たりとばかりに、舞耶さんは言った。

「だから、お前のツタでハルの身体を改造してやれ」
「何言ってんですか!?」

 反射的に突っ込んでしまった。
「できんだろ? お前の爺さんから聞いたことあるぞ」
「できますけど、それ以前によく提案できますね、自分の娘にそんなこと」
 非常識すぎるだろ。
「そんな変なことを頼んじゃいないさ」
 だが、俺の言葉に舞耶さんは全く動じなかった。
「ハルの成長に合わせて、ちょっとずつ調整してやりゃいい。『中翼』でなら誰も疑問を持たんだろう」
 話が噛み合ってない。
「そういう問題じゃなくて……そんなことしていいんですか、本当に」
「ツタ使いが今さら何を抜かしてやがるんだ。ハルの脳弄ったくせに」
「っ!」
 一番痛いところを突かれ、俺は黙り込んだ。
 俺の様子を見た舞耶さんは、ふ、と笑う。
「マサ、そんな深く考えるな。お前もハルも人間だけど、淫魔だ。淫魔同士、エロいことは好きにやればいい。淫魔はそういう種族だ」
「………………」
 舞耶さんの言葉に、俺は思わず考え込む。数秒の沈黙を経て、俺は言葉を紡ぎ出した。
「……ハルカと決めます。ハルカがそれでいいって言うなら、やります」
「お前、ほんとに律儀だなあ」
「はい。俺達は淫魔ですが、人間です。筋は通したいです」
「そっか、好きにしろ。……確かに、お前とハルの問題だしな」
 舞耶さんは特に不満というわけでもなさそうな様子で突き放した。

 その時、ぐぅ、と俺の腹が鳴った。うっかり寝てしまったせいで、本来の夕飯の時刻はとっくに過ぎていた。それを聞いて舞耶さんは再びガムを紙に吐き出した。
「悪い、ちょっと長居しすぎた」
「いえ、ありがとうございます」
 立ち上がった舞耶さんに、俺は頭を下げ、一緒に部屋を出る。

「ああ、忘れてた、もう一個」
 玄関に立ち、パンプスに足を通した舞耶さんは、去り際に言った。
「ハルは多分、お前にリードされたがってる。ちゃんと導いてやれ」
 それがベッドの上でのことを指しているのは明らかだった。……いや、普段もか?
「……ホントですか?」
「ああ。多分そこも、ハルの悩みどころだ。何とかしてやれ。じゃ」
 それだけ言い残して、舞耶さんは玄関を出て行く。同時に、摩耶さんが胸ポケットの煙草を探るのが見えた。

 翌日。
 天気が良くない上、ハルカが旧知の女友達と買い物に行ったのをいいことに、俺は自室にこもり、本を開いていた。
 書斎(もどきの部屋)から何冊かの本を抜き出して勉強机に置き、手元にはスマホ。
 古びた本は、ざっと百年以上前に書かれた、辞書のような体裁の本。それは俺の爺さん所有だったと思われる、「ツタ使い」の技能に関するものだった。
 あまりにも古すぎて一部文語で書かれているので、辞書代わりのスマホが必須になる。さっきから何度も、スマホ辞書のお世話になっていた。
 ハルカに使うべき技能に、見当は付いていた。俺はページをめくり、目を皿のようにして必要な情報を探し続けた。

 数時間後。
 技能に関する知識を一通り頭に入れた俺は、スマホでグラビアアイドルの画像を検索していた。

 断じて、サボっているのではない。技能を勉強した結果、魅力的な女の体型を知る必要があると分かったからだ。
 技能を使うことによる最終的な体型は、かなりの部分、施術者の俺がどのような体型に誘導するかにかかっている。だから、俺自身が魅力的な体型を頭に描ける必要があったのだ。
 ところが、グラビアアイドルのスリーサイズを調べたところで、とあるページでその数字(特に体重とウエスト)がウソだらけであることを理解してしまい、一気に課題が膨らんでしまった。
 例えばもし、俺が野郎なメルヘンを元に非現実的な体型を望めば、ハルカはその体型に近づいてしまうし、ハルカの身体へ負担をかけてしまうことになる。さらに、年齢や身長ごとに適切な体型の範囲も違うことに気づいて、女性の身体数値に関するあらゆるデータを検索する羽目になり、気づいた時には、いつの間にか夜が更け、日付が変わっていた。

 俺の隣で、ハルカが眠りこけている。ベッドではない。電車内だ。誕生日プレゼントにしたニットを身につけたハルカは、電車に乗った途端に意識を手放していた。
 三連休の最終日は、二人で実家近くの水族館に行った。時期も時期だけにかなり混んでいたが、ハルカは楽しかったらしく、両目をキラキラさせて水槽を眺めていた。寝不足の俺はついて行くのがやっとだったが、ハルカが楽しそうだったので良しとする。

 通勤型電車の窓の向こうには、今にも沈もうとしている夕日が、林の向こうからオレンジの光を放っていた。その光量と眠気に俺もいよいよ耐えられなくなり、まぶたが降りてきた。
 視界からの情報を失った俺の脳が、昨日の思考の続きを伝えてくる。

 やり方は分かった。計画も考えた。だが、解決していない難問が一つあった。
 ――俺は、どのようにハルカに切り出せばいいのだろう。

「ん?」
 うとうとしながらも、学園の最寄り駅直前で何とか目が覚めた俺は、無事にハルカと寮にたどり着き、荷物を置いてすぐに食堂に入った。学園の食堂は、休日でも、平日直後の朝食と、直前の夕食の時間は開けてもらえるので、とても便利だ。本当は学園前のどこかで夕飯にするつもりだったのだが、何故かハルカが食堂を希望した。まあ、いいのだが。
「随分少ないな、今日」
「そうかな」
 ハルカの手元には、いつもの大盛りのサラダの他には、小さいご飯しか置かれていなかった。いつもなら、普通盛りのご飯におかずを一品つけるはずだ。
「今日、ちょっと疲れちゃって。だからかな」
「そうか。じゃあ、今日は早く寝るか」
「……うん。いただきます」
 心持ち、いつもよりゆっくりと箸を動かすハルカを見ながら、ぼんやり思った。
 とりあえず今日はやめておこう。

 ところが、ハルカの異変は、その時だけにとどまらなかった。
 翌日の朝は、トースト半切れ。平日だったので昼は分からないが、夜は、やはり小盛りご飯。
 代わりにサラダが何故か特盛りになっていたが、それを差し引いても、食事量が少なすぎる。
「本当に大丈夫か、ハルカ。どっか具合悪いのか?」
「ううん、違う。まだちょっと、疲れてるだけかも」
 心配になってハルカに聞いてみても、何となく要領を得ない。俺はだんだん不安になってきた。

 そして、さらに翌日の土曜日。
 ハルカのトーストが半切れですらなく、四分の一切れになったのを見て、俺はハルカに宣告した。
「ハルカ、食い終わったら病院行くぞ」
「へ?」
 ハルカにぽかんとされたが、今日は退くつもりはない。
「絶対どっか悪いだろ、ハルカ。診てもらったほうがいい」
 そうに違いない。むしろ、そうでないと……。
「え、あ、違う、違うよ、どこも悪くないから」
「お前が気づいてないだけかもしれんだろ、何かあってからじゃ遅い」
「違うの、そうじゃなくて」
「違わないって分かればそれでいいだろ、とりあえず行くぞ」
「そういうことじゃないのっ!」
 一瞬、あたりに響き渡るような声で、ハルカが叫んだ。
 俺達の周囲にいる人間が一斉にこっちを向き、ハルカが焦ったように「なんでもないです、ごめんなさい」と頭を下げる。
 そして、唖然としている俺の耳元で、ハルカが言った。
「部屋に戻ったらちゃんと話すから」
 その言葉と表情に、何故か、俺の血の気が引いていくのを感じた。
 嫌な予感がした。

 ところが、部屋に戻り、寝室の丸椅子に座ったハルカが切り出したのは、俺の予感とは全く違う言葉だった。
「……直ちゃんって覚えてる?」
「ん? ああ。お前の友達な」
 『中翼』に入る前は、たびたびハルカの家に来ていた子だ。俺も長期休み中に顔を見たことがある。確か、連休中に一緒に買い物に行っていたはずだ。ちなみに、モータルだ。多分。
「……直ちゃん最近、カレシに振られたんだって」
「はあ」
「そのカレシが、新しいカノジョ作ったんだって」
「うん」
「カノジョが、……直ちゃんより痩せてたんだって」
「………………」
「だから、男の人はやっぱり、痩せてる女の子の方が良いのかな、って……思って」
「…………お前……」
 俺は耐えられずに、ハルカの目の前で頭を抱えた。
 まずい。どう突っ込んでいいのか分からねえ。
 とりあえずものすごく「バカ」もしくは「アホ」って言ってやりたいのだが、女のダイエット思考に対してその言葉が危険だというのはさすがの俺でも分かったので、必死で思考を巡らした。
 そして。
「……お前はどう思ってるんだ」
「えっ」
「お前は、今の自分が太ってるって思ってるのか?」
 俺はハルカに聞いた。
 お前が太ってるわけねえだろう、と言いたくてたまらないが、ストレートにそれを言えば、ハルカは拗ねるだろう。
「………………わかんない」
 たっぷりの沈黙のあとに帰ってきたのは、肯定でも否定でもなかった。
「わかんないのか」
 俺の確認に、ハルカは無言でうなずいた。そして、ぽつぽつと、語り出す。
「……あたし、早くお兄ちゃんに釣り合うようになりたいって、思ってた。……最近になって、やっと背が伸びたの、うれしかった」
 ハルカは目を伏せ、俺はそんなハルカの顔を見つめる。
「でも、背が伸びると、どうしても、太っちゃって、……それに、お兄ちゃんがまだ、大人扱いしてくれなくて」
「……」
 言いたいことはあるのだが、ハルカの気持ちを汲むことを優先する。
「あたし、大きくなればいいのか、太らないようにすればいいのか、……わかんなくなっちゃって……」
 力なく言い、目を伏せた。
「そっか……」
 相づちで一息つき、俺は一番言うべきことを言うために、慎重に言葉を選んだ。
「……お前を太ってるって言う奴は、いないと思うぞ」
 俺が言い終わる前に、ハルカは首を強く横に振った。
「体重が、……すごく増えるの、最近」
「当たり前だ」
 俺は強く応じた。
「それは太ったんじゃなくて、成長したって言うんだ。背が伸びてるのに、体重が増えないわけないだろ」
 俺の指摘に、ハルカは黙り込む。俺はしびれを切らして、ハルカに手を伸ばす。強引に抱き上げつつ起ち上がり、ハルカを「だっこ」した。
「こんなに軽々持ち上がる奴が、太ってるわけないだろ」
 本当は、どんなに軽いとはいえ俺の筋力では「軽々」ではないのだが、それはおくびにも出さない。
 ハルカは何も言わず、俺に抱きつく力を強める。
「お前、確実に40kgないだろ。35kg……も、最近越えたくらいじゃないか?」
 具体的な数字を出すのは少し躊躇したが、俺の会話能力ではこれ以上のごまかしは無理だ。ハルカはなお無言だが、首元でうなずく気配がした。

 ちなみに、BMIを基準にすれば、ハルカの150cmだと、BMI20にあたるのが45kgで、これが美容体重と呼ばれる。ところが、ハルカの体重は美容体重どころか、痩せすぎ基準の41.6kg(BMI18.5)すら軽々下回る。ちなみに、36kgだとBMI16で、これ以下だとヨーロッパのどこかではモデルの体重規制に引っかかるらしいのだが、ハルカの体重はこれにかなり近いはずだ。ハルカは背の割に骨格が細いのでそれほど貧相には見えないものの、肉付きが全然足りないのは間違いない。
 ……ちょうど連休中に調べた知識が、こんなところで役に立ってしまった。

 俺はベッドの縁に移動し、ハルカを抱えながら腰を下ろしてから、ハルカの顔と少し強引に向き合った。
「そんなに不安か」
 ハルカは黙ったまま、目を下にそらす。

 俺はハルカに甘えすぎていたのかもしれない、と思う。

 ハルカが何も言わないのをいいことに、ハルカとの関係の進展を引き延ばしていた。そんな俺の態度がきっと、ハルカの中にあった不安を、一ヶ月もの間、増幅させ続けた。その不安感がハルカを惑わせ、不相応なダイエットに繋がったのだろう。
 だが、ハルカの不安を煽ったのが俺なら、その不安を取り除くのも、俺の役目だ。

「ハルカ。お前は俺の彼女だ。そうだろう」
「…………」
「だから、お前が太っているか痩せてるかは、お前じゃなくて、俺が決める。いいな」
「え?」
 久しぶりにハルカらしい、血の通った反応があった。
「俺の好みを気にするなら、俺の言うことを聞け。文句ないだろ」
 強引なのは分かっている。だが、ハルカが一人で思考の袋小路にはまるなら、いっそのこと、主導権を奪ってやる方が良いと思った。
「お前は太ってない。むしろ、痩せすぎだ。だから、もっと『成長』しろ。彼氏としての命令だ」
「えぇ……」
 ハルカは困惑したような声を上げたが、声の感触は悪くない。俺はハルカの耳元に、口を近づけた。
 いつの間にか、その話をするチャンスが巡ってきていた。
「その代わり、お前を綺麗に成長させてやる」
「えっ!?」
 その声は、俺が予想した以上に、驚きと困惑、そして期待に満ちた声だった。
「ただし、条件がある」
 その反応に気をよくして、詳細を語らず、ハルカに突きつける。
「今日の昼と夜、ちゃんと食え。それが条件だ」

 今日の予定は映画鑑賞だった。学園の最寄り駅から二つ移動したところに大規模なショッピングセンターがあり、その最上階にシネコンがある。
 映画を見る前にセンター内のレストランに入ったハルカは、朝とは人が変わったようにランチセットを平らげ、ご飯のおかわりまでした。きっと、二日間の過剰な節制で、ストレスが溜まっていたんだろう。
 続いて見た映画は、以前見た邦画の続編だった。設定は奇想天外だが、ハルカが原作と出演者のファンで、お気に入りのものだった。内容は期待通りの面白さで、見終わったあとにカフェの感想談義が盛り上がった。ハルカはイチゴパフェを食べた。
 日が暮れた頃に学園に戻り、近くのファミレスで夕飯にした(今夜は食堂が開いていない)。昼とおやつをかなり食べたハルカは、さすがに食の勢いが落ちていたが、それでもいつもより多めの食物を口に入れた。見ていると分かるが、ハルカは太りにくいだけで、食べること自体は好きなのだ。幸せそうに食べる様子を見ていると、心が温かくなった。

「ツタを使って、お前の体型を綺麗に成長させてやる」
 寮に戻り、いつもより早い風呂を順に済ませて、身支度をして、俺達は再び、ベッドに腰掛けていた。そこまで来てやっと、種明かしをする。
「そんなことできるんだ」
 いつも通り、クリーム色のパジャマを身につけたハルカが、少し驚いたように言った。ふわっと、ジャスミンの香りが漂ってきた。

 ツタで体型を変えることが可能なのは、前から知っていた。一時的な体型の変化は、既に何度か経験がある。自分自身で試したのだ。
 しかし、連休中に俺が調べたのは、一時的ではなく、半永久的に持続する体型変化。技能的に似ても似つかぬものだ。
 一時的な体型変化は、身体の器官に直接ツタを刺し、形を変えるのが技能の中心だ。そのため、劇的な変化を導く――例えば、真っ平らな胸をいきなり爆乳にしたりすることができる。その一方、体内の秩序を無視しているため、長期間維持するつもりの変化には向いておらず、無理に維持しようとすれば身体に大きな負担がかかってしまう。
 一方、持続的な体型変化の技能は、脳の成長回路を刺激することが中心だ。脳を刺激することで、脳から各部位に成長を促させ、間接的に体型を変化させるのだ。この方法は、一回で与えられる影響は僅かだが(それでも、技能が高ければサイズを二~三センチは動かせるようだ)、体内の機構を最大限に活用しているため、特に成長期が終わっていないハルカならば、負担は最小限で済むはずだ。

 ……という俺の知識からかいつまんでハルカに説明してやると、ハルカは意外に興味を持ってくれた。
「じゃあ、胸大きくしたり、ウエスト細くしたりもできるの?」
「ああ、ただ条件があってな。体重は増やしたり減らしたりできないんだ」
 ツタによる体型変化は、質量が保存される。つまり、体内の物質しか材料にならない。
「だから体重がないと、体型が作れない。無理すると、骨や内臓がスカスカになる」
「うわ……」
 ハルカは思わず、口を押さえた。
「だから、ちゃんと食わないとダメだ。あと、さっきも言ったが、これは一気にはできない。一ヶ月か二ヶ月くらい、継続的にやる必要がある。今日はちょっとだけだ」
「うん」
「よし、じゃあ脱がすぞ」
 そうなると予感していたのだろう。ハルカは息を呑み、一瞬下を向く。
「……電気」
 その一言を聞いて、俺は立ち上がり、壁のスイッチに向かった。

 豆電球の中、ハルカをベッドの前に立ち上がらせ、ハルカのパジャマを脱がせにかかった。
「?」
 しかし、俺が手をハルカの首元に伸ばしたのを見て、ハルカが俺の顔を見る。そこで俺は意思の疎通が正しくできていなかったことに気づいた。
「手で脱がす。今日はツタは使わないぞ」
「そうなんだ」
 その一言でハルカは従順になり、俺はパジャマのボタンを外し始めた。程なく滑らかで小さい胸、ついでシンプルなショーツがあらわになる。だが、今日はショーツも脱がせ、ハルカを一糸まとわぬ姿にした。
「手を横に広げてくれ」
「え? こう?」
 胸を隠そうとしたハルカの動きを言葉で制し、俺はそこで初めて、指先からツタを伸ばした。
 いつもは頭に刺すが、今の目的は違う。出すツタもかなり太めだ。
「それでいい」
 言われた通り、手を横に広げたハルカの胸に、ツタを巻き付けた。
「あっ」
 そのまま、撫でるようにツタを下に下ろしていく。ゆっくり、胸からお腹、そしてお尻を通して、俺はツタを解いた。
「もういいぞ」
 その言葉に、ハルカは手を下げる。

 B71、W55、H74。

 それが、俺の知りたかった情報だった。ツタが俺に伝えてきたハルカの肉体のサイズだ。やはり、細い。
 この情報を、ハルカが興奮する前にとっておきたかった。女体は興奮すると、胸を中心にサイズが変わってしまう。だからパジャマを脱がすのにツタを使わなかったのだ。

 測定を終えてから、俺もトランクス一枚になって、ベッドに座った。そして、ハルカを膝の上に乗せた。直後、ハルカが身をよじってこちらを向いたので、軽く口づけを施してやる。
 ハルカの肌には、風呂の温かさが少し残っている。しっとりとした肌が俺の肌に擦れ、小さくて優しい快感がもたらされた。
「今日は少しだけ、おっぱいを大きくするぞ」
「うん」
 そう言って、おれはハルカの頭を両手で優しく抑える。
「体型を変えるには、少し深いところにツタを刺す。だから、その前に脳を柔らかくする必要がある」
「……うん」
 おそらく、ハルカは意味を察した。
 だが、念のため、俺はハルカに宣告する。
「だから、最初は何も考えずに気持ちよくなれ」
 そして俺はハルカの両耳を覆い、ツタを放つ。ツタは鼓膜に微細な穴を開けて貫通し、僅か数秒で最初の目的地にたどり着いた。
「んっ、あっ、あっ、あっ」
 そしてそこを刺激すると同時に、ハルカの身体から力が抜け、代わりに声が上がる。
「あっ、あっ、あっあっあっあっあっあっ」
 俺の「弄り」に同調して、ハルカは滑らかで小気味の良い声を上げ始めた。寮で通算五回目になる脳姦に、少しずつ順応し始めているのだろう。

 「弄り」の刺激で、比較的単調な、スタッカートの利いた声を出させるのは、「ツタ使い」の基本技能である。
 実は、「脳を弄られている」という感覚だけを相手に理解させることは難しい。脳に触覚そのものはないからだ。快感がなければ、弄られる側が受け取るのは、脳の近くにある神経が感じる「もぞもぞ」か、思考を外から操作されるという違和感だ(これも自分で試した)。
 「ツタ使い」は、その弄りに合わせて脳の快楽部分を同時に刺激することで、弄られる側に「脳を弄られるのは(全て)気持ちいい」と錯覚させる。
 そして、その弄りをパルスのようにリズム良く行うことで相手に声を出させ、相手の喉と聴覚を通して「脳を弄られて気持ちよくなっている」と全身に教え込むのだ。これを繰り返せば、最終的には快楽ポイントを触らずとも、最終的には脳弄りをすれば自然と快楽ポイントが反応するようになる。まさにパブロフの犬と同じ原理だ。

「あっあっあっあっあっあっ、あっあっあっあんっ」
 最初は明るさを残していた声がじきに湿り気を増していき、ハルカの快楽が膨らんでいく。ハルカは無意識にか、後ろ手を俺の首に回した。俺の膝からずり落ちないよう、決して離れないようにしがみつく。ハルカが抵抗なく受け入れられるように脳を弄っているのだが、それでも無意識(多分)とはいえ積極的な動作をするのはよい兆候だ。
 ハルカの乳首はぷっくりと膨れあがり、体温も上がり、全身がしっとりと汗をかいている。俺の下着越しに感じる熱いものは、ハルカのマン汁かもしれない。俺自身の股間も当然張り詰めているので、よくわからない。

 そして俺は、次の段階に進むため、ツタを快楽ポイントに刺したまま、別のツタを思考回路に這わせた。

「あっ、あっ、おに、ちゃ、あたま、感じ、あっ、ちゃう、ぐちゅってして、あ、あ、あ゛あ゛あ゛」
 パターンの変わった脳への刺激に、ハルカは自らの言葉を発した。だが俺の膝の上で悶えながら、逃れられない快楽を甘受している。

 今やっているのは、ハルカの思考への介入。もっと簡単に言うと、ハルカの思考力を奪う行為だ。
 自我は思考を産み、思考は自我を形作る。だから、人間の思考を奪うと、自我がぼやけていく。
 しかし、人間の思考を奪うのは簡単ではない。人間は無意識に思考するので。その無意識の思考を弱らせないといけない。技能の高いツタ使いなら思考機能自体を止めることもできるようだが、俺のツタでは強度が決定的に足りない。
 思考を弱らせるためには、ハルカの無意識の思考を探り、それと矛盾する思考を刺激する。

 YesならばNo。右ならば左。赤ならば緑。海ならば陸。

 うまくいけば、ハルカの思考は混濁し、疲弊し、力を失っていく。そこに、例外的に快楽だけを妨害しなければ、ハルカの脳は快楽に染まる。本当にうまくいけば、ハルカを俺の言葉に応えるだけの快楽木偶人形にすらできるはずだ。もちろん、一時的だが。

 ただ、この弄りは難しい。刺激する思考が離れすぎると、ただの走馬燈になる。しかし近すぎると、脳が混乱しすぎて快楽を阻害する。一番最初を除いて、今回は四回目の思考弄りになるが、コツが全く掴めていない。

「あ、だめ、だめ、お腹のおく、あつい、あ、あ、あ、えっち、えっちなき、きもち、とまらないよ、あ、あ、あっ!!」
 言葉では少し戸惑いながら、ハルカの声色が少し変わる。確かにハルカの快楽は高まっていく。絶頂へ向かい始めたようだ。前回より高まりが早いので、俺の思考弄りも上手くなってはいるのだろう。しかし、まだ声に芯がある。

 ――今回はこのくらいか。

 思考弄りは今日の狙いではないし、素直に絶頂を迎えさせることにした。ハルカが暴れすぎないように、ツタを刺したまま、右手でハルカの下腹を押さえる。
 せっかくなので、下腹からハルカのマンコに指を伸ばした。
「んんぅっ!」
 ハルカは一瞬、脳弄りと明らかに違う反応を示した。同時に俺の指に、じっとりとした液体がまとわりつく。
 そこは入口が完全にほころんで、侵入物を欲していた。だが本物を入れるには早すぎるので、そのまま指でクリトリスを刺激するに留める。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ゛っ、あ゛っくるっくる、くる、くるよお!」
 脳とクリトリスの挟み撃ちを食らったハルカはひとたまりもない。はぁはぁと荒い息をつき、口を閉じる余裕もなさそうな様子で、ハルカはついに絶頂を訴え始めた。
 俺は加えて、左手をハルカの乳首に導く。コリコリに固まったそこを指でつまみ上げ、くりくりと転がした。
「あ゛っ、あ゛っ、あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあひぅっひっい゛っい゛っい゛っい゛っ……!!!!」
 みるみるうちにハルカは追い詰められ、そのまま全身をビクン! と跳ねさせて、直後、下半身から分泌液が水鉄砲のように、数度噴き出した。

「気持ちよかった……」
 絶頂から帰ってきたハルカは、ぐったりと俺にしな垂れがかり、夢見心地でそうつぶやいた。完全に理性を置き去りにし、快楽に忠実な「魔女」になっている。自発的に感想を言えるのは、思考弄りの成果としてはまだまだだが、それは今はいい。
「まだ終わってないぞ」
 しかし、ここからが本番だ。
 俺はハルカの両耳にツタを突き刺したまま、両手を、胸元に回した。頂は完全に勃起し、「施術前」にもかかわらず脂肪部分に張りがある。女体の正常な反応だ。
 俺は手のひらで、ハルカの両乳首をもう一度撫で回した。
「はぁん……!」
 既に出来上がっているハルカは、テキメンに身もだえする。反射的に抵抗しようともするが、ハルカは両腕を俺の首に回したままだ。限界がある。
「お兄ちゃん、やっぱりおっきい方が好きなんだ」
「……ああ」
 ハルカに不意に聞かれ、俺は正直に答えた。機嫌を損ねるかもしれないが、はぐらかしてハルカを不安にさせるよりは、目標を示した方が良いだろう。
「じゃはるか、いっぱい食べて、おっぱい大きくなる」
「……無理しては食うなよ、時間はたっぷりあるからな」
「うん。……立つ」
 ハルカはすっくと立ち上がって、俺から離れた。ツタの指示だ。
「あっあっあっ」
 俺の方に振り向いたところでご褒美を与え、俺は一旦ツタを抜いた。そして俺自身が立ち上がり、唯一残っていたトランクスを脱ぎ捨てる。

 ……ハルカが見つめるところで脱ぐのは、少し恥ずかしいな。

 余計なことを考えながら俺はハルカの耳に、再びツタを伸ばした。

「あっあっあっ」
 一瞬にして腰を痙攣させて惚けるハルカ。腕で軽く頭を引っ張り、ベッドに誘導する。今度は座るのではなく、ベッドに乗っかり、突き当たりの壁により掛かる。
 あぐらを掻き、そして、

《挿入しろ》
「あっあっあはぁっ! ぃれる、いれなきゃ、」

 ツタを通し、ハルカの思考回路に命じた。途端にハルカの声が一段上がり、ハルカは俺の首に左手を回す。今度は、向かい合って。
 目が合った。
 表情は完全に蕩けている。口が開いたままで、涎も垂れている。俺は思わずハルカの口元に手を伸ばし、涎を拭った。しかし、ツタに隷属した魔女は、我関せずとばかりに幸せそうな笑みを浮かべている。
 そして、その表情のまま、右手を俺のチンコに伸ばし、捉えた。そしてすぐに、熱いものが亀頭に触れる。

 俺が主導でやるときは、ハルカの身体が耐えられるか、毎回不安に思う。だが、ツタに忠実な今のハルカに躊躇はない。挿入しろと言われた以上、挿入することしか考えていない。

 そしてハルカは、ゆっくり、腰を、落とした。

「あ゛っ!! あ゛っあ゛っ」

 それは、挿入の苦しみと悦びを同時に表す、呻きだった。同時に、俺のチンコを強烈な締め付けが襲う。
(キツい!)
 俺も思わず呻きそうになった。五度目の挿入。ハルカも痛みは感じなくなってきているようだが、サイズの差がやはり大きい。
 しかし、ハルカは腰を止めない。

「あ゛っう゛う゛う゛っ」
 呻きながら、ゆっくりと腰を落としていく。そして、一番奥に当たりそうなところで、やっと挿入が終わった。

「よくやった」
「……あ゛っあ゛っあ゛っ」
「ぅっ」
 ご褒美に頭を弄ってやると、ギチギチの膣壁が蠢いた。思わず俺の方が声を漏らす。
 そしてハルカはやっと、俺の首に右腕も回し、力を抜いた。はぁ、はぁ、と、荒い息をついている。

「どうだ」
「……ちょっと、らく。きもちいい……」

 座位は正常位より挿入が浅い。ハルカは俺を至近で見上げて、笑った。

 ――ああもう、可愛いな畜生。

 ハルカの一番いい顔は、コレだ。ツタで快楽を与えるときに、少し幸福感を足してやると、こういう顔をする。
 理性をかけらも残さず、知性を全て投げ出した顔つき。心から喜んで全てを差し出し、盲目的に隷属した笑顔。
 コレで堕ちない男はいない、とすら言いたくなるベストショット。それを、世界でただ一人、俺だけが独占できる。俺は幸せ者だ。

 思わず、下から突き上げてやりたい衝動に駆られる。しかし、今やることはそれではないと思い返し、堪えた。ほんの気晴らしに、ハルカのおでこにキスをする。

 ちなみに、肉体改造に本来、挿入は不要だ。それなのに挿入したのは、ハルカとの体勢をロックして、ハルカの体臭を直に嗅がないようにするためだ。これなら、主導権を奪われにくい。あと、こっちの方がハルカが喜ぶと思ったからというのもあるが。
 これから、俺はハルカの肉体を改造する。ハルカと繋がりながら。

 俺はぺたぺたと、ハルカの上半身を触る。少しでも「余分な肉」を探すためだ。
(ここか)
 少しぷにっとした感覚を、背中に感じる。これだ。
「ハルカ、始めるぞ、改造」
「え……うん……」
 まだぼうっとしている様子のハルカ。俺はそのハルカにはとりあえず構わないで、追加のツタをハルカの耳に放った。
 鼓膜付近で一旦極細になったツタは、鼓膜を突き抜けたところで膨らむ。これまでより硬く、太いツタだ。速やかにハルカの脳まで達し、快楽ポイントに突き刺さった。

「はうっ!」
 びくん! とハルカの全身が飛び上がる。膣がきゅんと締まり、チンコに圧迫を感じる。
 だがそれに負けず、俺はツタを奥深くまで進めていく。
 成長回路は、これまで俺が弄ってきたところより、少し「硬い」ところにある。

「あ、あ゛、あぁあぁあぁっ」
 ツタの掘削に、ハルカが強く反応した。そしてやっとのことで俺のツタがハルカの成長を司る部分を捉え、ハルカの全身が不随意に硬直する。
「ちゃんと掴まれ」
 それだけ言って、俺は改造を始めた。

「あひぃん!」
 不意打ちだったからか。背中の肉を動かした途端、ハルカは白目を剥いた。
 だが、ハルカに刺さっているツタからは、苦しさは伝わってこない。どうやら衝撃で意識が一瞬飛んだだけのようだ。
 それならまあ大丈夫だろう。続ける。
「あ゛ひっ! あ゛ひっ! あ゛ひっ!」
 身体の肉をツタで直接触る必要はない。肉付きを司る脳の部分を弄って、背中の脂肪を胸側に回すように指示する。「ありもの」を回すのは俺にとってもハルカにとっても少し重労働だが、それほど時間はかからない。マッサージで肉を寄せるのと同じだからだ。
 ぐいっ、ぐいっ、と肉が身体の内側から胸に寄せられていくたび、ハルカの喉が奇声を発し、全身が痙攣する。ツタが快楽ポイントを通って刺さっているので、ツタがハルカの脳を抉るたびに苛烈な快楽が襲っているはずだ。その証拠に、かどうかは分からないが、ハルカの膣は俺のチンコをより一層食い締め、玉袋の方にまでマン汁を溢れさせていた。
 背中にあったハルカの肉がおっぱいの部分まで来たことを触って確認しながら、別のツタをハルカの脳に通した。そちら側のツタで、ハルカの乳房の成長回路をグリグリと刺激する。
「あ、あー、あー」
 今度は、ハルカが平坦な声を発し始めた。苦悶に近かった表情が緩み、全身がぷるぷると小刻みに震え始める。
「あ、おっぱいが、おっぱいが」
 さっきの破壊的な快感とは質が違うのだろう。今度は意味のある言葉を発した。
「おっぱいがどうした」
「張ってる。あっ、すごく張ってるっ」
 そう言いながら、胸を突き出すように仰け反る。
 材料と刺激を与えられた成長回路が、ハルカの胸の近くに集まった脂肪を、ハルカの乳房の一部として形成していく。
「ハルカ、おっぱいが大きくなってきてるぞ」
 実は、見た目には分かるかどうかという程度の成長なのだが、神経が通っているハルカ当人には、その具合がよくわかるに違いない。口裏を合わせることにした。そして――

 ハルカを下から突き上げた。

「きゃんっ!?」
 驚いた様子のハルカ。しかしそれを合図に、ハルカの本能が呼び覚まされ、腰が交合の動作を始めた。
 弄りは最終段階で、実質的には終わったようなものだ。このまま、胸の張る感覚と共にイカせてやりたい。というか、俺が限界だ。

「きもちいい、きもちいいよっ」
 長時間の結合で膣が慣れたのか、はたまた今の体位が合っているのか、ハルカの膣はかつてないほどスムーズに俺のチンコをしごいている。ハルカは跳ねるように身体を前後に揺らし、結合部を擦り立てていた。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と水音が響き、生々しいセックスが嫌でも耳で感じられる。肉付きの薄いハルカが快楽を求めて一生懸命腰を振る様子は背徳的で、ゾクゾクする。
 俺はハルカの腰を掴んで押さえつけ、腰を突き上げてグリグリとハルカの奥を責めた。
「はうぅっ!……あはぁ」
 奥の刺激が強烈なのか、ハルカが全身をがくがくと痙攣させる。ハルカの表情がみるみる力を失い、呆けていく。
「もっとぉ」
 人が変わり、知能を失ったような声色で、ハルカは奥責めをねだった。俺はハルカの求めに応じ、背もたれ代わりの壁から離れて寝転がり、ハルカに責めかかられないように注意しながら、騎乗位の体勢に移った。そしてハルカの腰をもう一度捕まえ、グリグリとチンコを押し込む。
「お゛っ、お゛っ、お゛っ」
《きもちいいきもちいいきもちいいきもちいい》
 奥で擦れるたびにハルカの身体が痙攣し、黒く長い髪が揺れる。声で応答できない代わりに言語回路を通ったツタが活発になる。ハルカはこれでも膣で痛みを感じていないようだ。今でも物理的にはとてもキツいのに、適応能力が高い。
「ハルカ、自分で動けるか」
《……うん》
 俺の指示に応じて、ハルカはなおも全身の痙攣に耐えながら、腰を浮かし、上下運動を始めた。
「あああっあっあ゛っ、ああ、あ、あ、ああ゛っ、ああああ」
《ああすごいこれもうすごいきもちいいわけわかんないきもちいい》
「うぉっ」
 痙攣のせいで不随意に力が入り、ハルカの膣がチンコを締め上げる。これが思った以上に効いて、ほんの数分で俺も追い詰められていく。
 たらり、とハルカの涎が俺の腹に落ちた。それを合図に、俺はハルカの動きを制し、正常位に移行した。ハルカの腕を物理的に戒め、ハルカにのしかかる。ラストスパートだ。
「あっあっあっあっあっあああっっああっあぁあぁっああっあんっあんっあんっ」
 ピストンと脳弄りの両方を与え、ハルカを絶頂に導いていく。俺の射精とハルカの絶頂が噛み合うように、微妙な調整を与える。だがすぐに、俺の下半身が暴走を始め、射精準備が整っていった。
「イクぞ」
「うんっ!」
 俺の宣告に、ハルカははっきりとうなずいた。絶頂回路に近い快楽ポイントを刺激し、同時に自分の下半身の戒めを解いて――
「出るっ」
「あっ、あっあっあっあっ、……あ゛っ!! ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああんっっっ!!!」

 前夜早々に意識を手放したハルカが目を覚ました時には、既に日がかなり昇っていた。
 ぺたりと胸を触ったハルカは、
「ちょっとおっきくなってるかな」
 と言った。しかし、拍子抜けといった口調だ。
「こんなもんなんだ」
「言っただろ、こんなもんだ、一回なら」
 ハルカがパジャマを着ようとするのを制止し、俺はもう一度、ハルカの身体測定を行う。

 B72、W55、H74。

 たかが一センチ、されど一センチ。ハルカの胸は、確かに大きくなっていた。

《これを続けていけば、必ず大きくなる》
「えっ?」
 俺の「言葉」に、ハルカは驚きを返した。耳からではなく、脳に直接伝わったからだ。当然、ハルカの耳にはツタは刺さっていない。

《お前の言語回路に、切り離したツタを刺しっぱなしにしてある》
 ツタは切り離されても、生命力が尽きるまでは活動する。本体である俺との連絡も出来るので、言語回路に刺せば無線のように使えるのだ。もちろん、近づいていないとダメだが。

《そのツタは胸の成長回路のところまで刺さってて、何もしなくてもちょっとずつ刺激される》
 鍼灸でいう「置き鍼」のようなものだ。

《ついでにツタで通信すればツタを刺激するから、効果が上がるかもしれないぞ》
《そうなんだ》
 俺の説明を聞いて、ハルカは早速ツタで相づちを返してきた。

 そして。
《ツタは三~四日ぐらいは絶対に保つ》
 俺はハルカにそう伝えた。
 嘘ではない。だが、実はたいていの場合、切り離されたツタの寿命は七~十日だ。そこをあえて、短く伝える。
《だから、土曜と水曜に取り替えるぞ。いいか?》
 俺は最後に問いかける。
《そう、分かった》
 その含意を当然理解したであろうハルカは、妙に素っ気なく、俺の問いに応じた。

< つづく >

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