第4話
大学生の特権とも言える長い夏休みが終わり、初秋の風を肌に感じながら大学部の構内を早足で歩く。
「よぉ、久しぶり、森沢」
賑わう教室にたどり着くと、俺に真っ先に声をかけてきたのは吉倉(よしくら)である。吉倉は同じ学科なこともあり、大学で顔を合わせることが最も多い友人だ。
「語学たっるいなぁ、なんでこんな朝早くから」
頭の上で手を組みながら、吉倉がぼやく。一限なのでその気持ちは分かるが、あいにくこの講義は必修だ。出席しなければ卒業はできない。
「森沢は休み中何してたん?」
「あー……最近はバイトとかだな」
「ふーん、そっか」
旅行やらハルカとの外食やらで出費が嵩んだこともあり、ハルカの学校が再開してからはしばらく労働に勤しむことになった。学費は親に出してもらっているとはいえ、自分で使う分はできるだけ自分の手で稼ぎたい。
「……そういやお前、カノジョとはどうなんだよ」
ふと思い出したように吉倉が言い、俺は内心で顔をしかめた。
「どう、ってなんだよ。別に何もないぞ」
「ふぅん?」
吉倉が目配せする。いかにも含みのある表情だった。
「なんだ?」
「相変わらず口が堅いなぁお前。付き合ってりゃ何もないわけないだろうに、少しくらいはカノジョについて教えてくれてもいいだろ」
予想通り絡まれた。吉倉は基本的には気の良い奴なのだが、女にあまりモテないらしく、たまに僻みが出る。
「あの、妹? には似てるん? 年下なんだろ?」
「まあ、似てるっちゃ似てるんじゃないか?」
俺は吉倉に限らず、大学の人間にはハルカのことをほとんど話していないが、本当のところ、吉倉とハルカは会ったことがある。俺と一緒に買い物に行った時にばったりと出くわしたのだ。だがその時のハルカの機転で、吉倉はハルカのことを俺の妹だと思っている。ただその思い込みは俺にとって都合がいいので、訂正せずに適当に話を合わせておく。ハルカは俺の「妹」ではあるので、別に嘘はついていない。
「……森沢、前から思ってたが、さては独占欲強いな?」
俺の反応に業を煮やしたのか、吉倉が突っ込んできた。
「そんなんじゃねえよ。言いふらすもんじゃないってだけだ」
「へぇー、そうかねぇ。写真くらい見せてくれても良いだろうに」
吉倉は納得いかない様子だったが、そこに見覚えのある二人からさらに声をかけられた。
「おはよ」
「おはよー」
ユニゾンするように挨拶してきたのは、稲瀬(いなせ)と宮脇(みやわき)だ。稲瀬はワイシャツにスラックスのややラフな格好で、宮脇は肩をひらひらさせたフェミニンなブラウスにロングスカートを合わせている。二人は吉倉の隣に並んで座った。
「よう、おはよう。お前らは相変わらず仲いいなぁ、ちくしょう」
吉倉は返事がてら冷やかす。二人は大学部に入学してすぐの頃から付き合っていて、構内ではことあるごとに一緒にいるのを見かける。そのせいか、学部の中では割と知名度のあるカップルだ。
「二人は夏休みどうしてたん?」
「うん? まあ旅行とバイトかな」
吉倉の問いへの回答は、奇しくも俺と代わり映えのしないものだった。吉倉と稲瀬は高校時代からの級友らしく、気心が知れているのが端からも分かる。稲瀬は平然とやりとりしながら、隣の宮脇と手を繋いでいる。
「へー、どこ行ってたの」
「ほら、前に話したテーマパーク。あそこ」
「あー、あれか。遠かっただろ」
「まあな。でも中で一泊できたし楽しかったぞ」
「ほー」
稲瀬が自慢げに言うと、吉倉が羨ましそうな声を上げた。
(一泊かあ。……俺達は三週間だったけどな)
ふと、ハルカとの夏の日々を思う。改めて振り返るまでもなく、長い旅行だった。旅行中にいろんなことは起こったが、あの旅行は俺とハルカの関係ならではのものだったとは言える。付き合って数ヶ月程度の恋人なら、普通は稲瀬と宮脇のように数日間の旅行がせいぜいだろう。
「……どうした森沢、にやついて」
「いや、別に」
吉倉に見とがめられ、しらを切る。
「そういえば」
つられるように俺の方を見た稲瀬が、何かを思い出したように口を開く。
「森沢君、今日誕生日じゃなかったっけ?」
「ああ。……なんで知ってんだ?」
「春頃に聞いたよ。おめでとう」
言われてみれば、こいつらに出会った頃に話したかもしれない。宮脇と吉倉の方はその話を覚えてはいなかったようだが、稲瀬の言葉を聞いて俺を祝ってくれた。
「森沢、それなら遊びに行かね? 今日、最後のコマ空いてる?」
吉倉が提案する。気軽に誘いをかけてくれるのはこいつのいいところだ。だが。
「悪いな、先約がある」
「えー」
吉倉が一瞬不満の声を上げる。
「ダメだよ吉倉くん、彼女さんに譲ってあげなきゃ」
そこに声をかけたのは宮脇だった。さすが稲瀬の彼女、察したらしい。
「そういうわけで、また今度な」
ちょうど教員が教室に入り、俺は黒板に向き直る。
「……お前のカノジョ、本当に実在するんだな」
吉倉がぼそりと言った言葉は、聞こえなかったことにしておいた。失礼な。
★
俺が寮に帰ってきた頃には、外が大分暗くなってきていた。季節が着実に進んでいるのを感じる。
「ただいま」
「おかえりー」
自室のドアを開けると、ハルカがキッチンで何か作業をしている。俺が寝室で着替えて戻ってくると、その正体が分かった。
「ケーキか」
「うん」
ハルカが運んでいたのは、小さめのホールケーキだった。見た目で手作りと分かる。
「一人で作ったのか?」
「うん、家庭科室借りて」
正直、少し驚いた。ハルカはもともと料理はある程度できたし、実家にいた頃は俺の母親のケーキ作りを手伝っていたこともある。しかし、小さいとはいえホールケーキを一人で作れるとは思わなかった。
「ずいぶん気合い入ってんな」
「だって四年ぶりだし」
ああ、と思う。学期の途中に誕生日があるのだから、俺の高校時代は、ハルカから直接祝われることがなかった。
「もうちょっと待ってね」
ハルカはそう言うとロウソクを取り出し、ケーキに刺していく。色のついた大きい一本と、白くて細い九本。
「電気消すよー」
ハルカは部屋を暗くすると、バースデーソングを歌う。
「――はっぴばーすでーおにーちゃーん」
歌い終わりと同時に、俺は炎に息を吹きかける。一息とはいかなかったが、何度目かの息で火を消しきった。
ハルカは拍手をしたあと電気をつけ、今度はケーキにナイフを入れる。四分の一を切り出したと思ったら、俺に残りの四分の三の方を差し出してきた。
「そっちかい」
「食べるでしょ?」
「食べるけど」
ショートケーキの端にフォークを刺す。上に乗っているイチゴを落とさないようにし、そのまま口に運ぶ。
《うん、うまい》
酸味とともに、生クリームの甘みが舌に広がる。甘みが強くて固めの食感は、おそらくハルカ自身の好みによるものだ。舌触りに若干ムラがあるのはご愛敬だが、上出来である。
《まあまあかなー》
同様にケーキを口に含んだハルカも上機嫌だ。課題を感じつつも満足というところだろう。
ケーキを順調に頬張っていると、ハルカはふと何かを思い出したように、ポケットから小さい紙袋を取り出した。
「お兄ちゃん、これプレゼント」
「ありがとう……開けて良いか?」
「うん」
慎重にシールを剥がして中身を目の前に掲げると、それはデフォルメされた鍵の形をしていた。メタリックな作りで、少し青みがかっている。
「ん?」
よく見ると文字が彫ってあった。
「MASATO & HARUKA……」
「うん」
ハルカはもう一つ、キーホルダーを俺に見せる。
「お揃い」
それは同じ鍵型だった。質感も彫っている文字も同じで、しかし色合いがピンクがかっているのだけが違う。
俺は寝室から通学用の鞄を持ち出し、もらったキーホルダーを金具につけた。ハルカも俺の動きを見て、同じように自分の鞄につける。
お互いの鞄にぶら下がったキーホルダーを見て、自然と二人の笑みがこぼれた。
★
「ふぅ……」
風呂から上て洗面所に戻った俺は、すぐにドライヤーを手に取り、自分の髪に熱風をかける。
(……そういえば)
ドライヤーを使いながらぼんやりと思う。夏休みの前は、俺が風呂から出ても洗面所にドライヤーがないことが多かった。ハルカが部屋で使っていたからである。長い髪を乾かすのは、かなりの時間を要するようだった。
夏休み明けから、そういうのは一度も無いな……などととりとめなく考えながら、寝間着用のズボンを穿く。上は――とりあえずいいだろう、と思い、風呂の熱さと湿気から逃れるように、洗面所から出た。
俺が寝室に戻ると、それを合図にするかのように、自らの勉強机に座っていたハルカが立ち上がり、俺に近づいてきた。その姿を見て、俺はハルカの意図を察する。
「宿題終わってるか?」
「うん」
それに直接的には触れず、一応の、しかし大事な確認をした。俺達の関係が枷になって、成績を落とすようではいけない。実際、今年のハルカは旅行や友人との遊びにかまけすぎて、夏休みの宿題を終わらせるのに若干苦労していた。最終的には間に合ったようだが、保護者の立場でもある俺としては少しヒヤリとしたものだ。
「お兄ちゃん、あったかーい」
風呂上がりの俺に寄りかかり、ハルカは心地良さげに目を細める。ベッドの上に座る俺の前が、ハルカのお気に入りのポジションである。シャンプーのものなのか、爽やかな香りが俺の鼻をくすぐった。
寄りかかってくるハルカを、俺はいつものように軽く抱き留め、姿勢を安定させてからハルカの頭をなでる。
「この撫で心地にもだいぶ慣れたな」
髪の毛が指からすっと抜けていく感触を味わいながら、俺はつぶやく。旅行の直後、ハルカは美容院に行き、髪をバッサリと切ってきた。ハルカの長い髪に慣れていた俺としては少し寂しい気もしたが、実際に切ってしまえば今のハルカには長髪より似合っているように思える。現金なものだ。
「日焼けはすっかりなくなっちゃったけどね」
「あれはあれで似合ってたがなあ」
旅行でこんがり焼けていたハルカの肌も、一ヶ月以上経って元の白いものに戻っている。髪を切ってすぐの頃は、肌の色に合わせてスプレーで派手な髪色にしていたが、学園では夏休み前と変わらず黒髪である。これについては正直、日焼けをしていようがハルカは黒髪の方が似合うと思う。
「そういえば夏休み終わったら、クラスの中でも雰囲気変わった子が結構いた気がする」
「へー。部活の子に新しい彼氏出来たのは聞いたけど」
「美怜ちゃんね」
夏休み中に彼氏と別れたと聞いていたが、その夏休み中に別の彼氏を見つけていたらしい。
「クラスの方も、大人っぽくなってる女の子が何人かいてさ」
「ほぅ」
夏休みというのは長いものだ。その間に色々あった女子もいることだろう。
「あと男子も、かっこよくなってた子いるよ」
「…………ほぅ?」
意図せず、オクターブが一つ下がる。
「男女別で体育やってる時にたまに男子の様子が見えるんだけど、気になってる男子がいる女の子が多くなってる気がするなぁ」
「なるほど」
まあ、ハルカの年代の男女がクラスメイト同士ともなれば、気になるようになるのは自然なことだ。
「この前の学園祭の時も、荷物運ぶの男子に手伝ってもらって、ちょっといいなって思っちゃった」
「……」
学園祭。ハルカの所属する第一部は、夏休み明けわりとすぐに、第二部と共同で学園祭をやっていた(大学部は別にやっている)。俺はまだ休み期間であり、寮に戻ってきたのは学園祭の本番の日だったので、準備期間に何が起こっていたかを聞くのは初めてだった。
「いつも私のおっぱいチラ見してくる子だけど、良いとこもあるんだなって」
「…………あんまり男子をからかうのは止めとけよ、前にも言ったけど」
「別にからかってないよ?」
ハルカがきょとんとしたフリをするが、実際にはとぼけているだけなのは経験で知っている。俺の含意が分からないハルカではない。
ハルカの交友関係が男女を問わないのは昔からだし、いくら俺がハルカの彼氏であるとはいえ、ハルカがクラスの男と関わるのを咎めるつもりはない。ただ最近思い当たったことだが、こいつには男にそれとなくちょっかいを出しては反応を見て楽しむ癖があるようで、そのことについては正直、多少気になっている。わざわざ胸を見せつけるようなことはしなくとも、見てくることを嫌がるよりは、面白がるくらいのことはしているタイプだ。
「ふふっ」
鼻にかかるハルカの笑い声がして、そこで俺の視線がハルカの膨らみに吸い寄せられていることに気付いた。
ハルカはキャミソールの上に、部屋用の上着を羽織っている。キャミソールは胸元にV字の切れ込みがあって、旅行中に深さを増した胸の谷間を露わにしていた。最近になってハルカが新しく買ってきた部屋着だが、これまでのものとは少し、趣が違う。
「そういやその胸、クラスメイトに驚かれなかったか?」
「まあね、でも私以外にも何人か大きくなってたから、どっちかっていうと日焼けの方が驚かれた気がする」
「そうか」
確かにそっちの方がインパクトあったか……と思いながら、俺はおもむろにハルカの肩に指をかけ、上着を持ち上げた。そのまま袖に沿って下ろし、ハルカから引き剥がす。そしてそのまま、キャミソールの裾に手をかけ、ゆっくりとまくる。
端からは突然の行動に見えるかもしれないが、当のハルカは予期していたようで、抵抗することもなく両腕を上げ、脱がされるに任せている。
俺達は同じ部屋に住んでいて、毎晩同じベッドで寝ているが、セックスに及ぶのは週に二、三度ほどである。夏休み前は曜日を決めていて、今はそれは曖昧になっているものの、むしろ曖昧になったがゆえに、お互いがお互いの雰囲気を読むようになっている。
もっとも、ハルカが求めているかどうかを見分けるのは比較的たやすい。今夜のハルカは、キャミソールの上からでも分かるくらい、乳首をしこり立たせている。そもそも、普段のハルカはキャミソールの内側にブラカップをつけているのだが、それを外してキャミソールに乳首が浮いているのは、ハルカの「OKサイン」そのものだ。
ショーツも脱がされて全裸になったハルカは、再び俺に身体を預けている。
「おっぱい出すの、やっぱりちょっと気持ちいい」
「俺以外には見せるなよ?」
「さすがの私もそこまでサービスはしないかなあ」
南の島でいろいろあった影響をハルカの言葉から感じ、苦笑する。第三者的には破廉恥な経験も積んだし、俺もハルカの頭を弄ったりした。そんな諸々の結果、肌を晒すことへの抵抗が弱くなったのだろう。今脱がせたばかりの寝間着ほど露骨ではなくとも、どことなく、外出の時の服装も少し変わった印象を受けていた。
「今日は好きにしていいよ。お兄ちゃんの誕生日だし」
「ずいぶんなプレゼントだな……普段からまあまあ好きにしてるつもりだけど」
「……お兄ちゃん」
不意に、ハルカは真剣な目を俺に向ける。
「私、もっとお兄ちゃんにいろんなことしてほしい」
その言葉に、俺は思わずハルカを見つめ返した。
「いろんなこと?」
「私だって、……ちょっとオトナになってるし」
ちょっとオトナになってる。控えめな言葉に、却ってハルカの成長を感じる。前なら、私はオトナだ、と言い張っていたところだ。
「本当にいいのか? 俺が本気でしたら、お前ぐちゃぐちゃになるかもしれないぞ」
ハルカの覚悟を確かめるため、少し脅し含みの問いを投げる。
「……うん」
ハルカはうなずくが、躊躇があったのを俺は見逃さなかった。もっとも、それは当然の反応だと思う。冷静に考えれば、俺は「ハルカの脳を自由に弄れる男」だ。いくらハルカも淫魔の血を引いているとはいえ、全幅の信頼を置くのは無邪気すぎる。
「ふぅん」
俺はあえてハルカの返答を否定せず、右手をハルカの乳首に伸ばした。
「そんなことを考えてたから、乳首ずっとこんなに固くしてたんだな?」
「っ!」
ハルカが息をのむ。俺は人差し指で、先っぽをくすぐるように刺激する。
「あっ……ぁぅぅっ」
ハルカは俺の愛撫にてきめんに反応し、身体にぐっと力が入る。その声と仕草に刺激され、俺の股間に血が集まっていく。
「……今日、ずっとヘンな気持ちだったぁ……」
ハルカが身をよじりながら言う。身体の早すぎる反応が、ハルカの告白を裏付けている。今夜のことを期待していたのだろう。
「お前、スケベになったな」
「だってぇ、魔女だし」
乳首の愛撫に感じ入りながら、ハルカはあくまで強気に応じる。俺はその強気に応えるように、乳首を親指と人差し指でこね回した。
「ひぅんっ!」
ハルカは顎を仰け反らせ、嬌声を上げる。
「あ、あっ! かんじちゃぅぅ……っ!」
「もっと感じろ」
俺はハルカの乳首をこね続けながら、考えを巡らせていた。
(うーん、どうしようか……)
ハルカの気持ちはありがたいが、その言葉を真に受けて俺が本気を出せば、おそらく、いろんなものが壊れてしまうだろう。ハルカが成長しているのは間違いないが、俺の欲望を受け止めきれるほどでは決してない。かといって俺が何もしなければ、今度はハルカの機嫌を損ねてしまうかもしれない。ハルカの顔を立ててやる必要があった。
「ぁっ! ぁんっ! はぅぅんっ!」
俺は両手でハルカの両乳首を弄びながら考える。前から思っていたが、ハルカの勃起乳首は固さもサイズも手慰みとして最適の感触だ。こんな時に考え事をしてしまったので、ついいじめ倒してしまう。
「あっ、だめ、お兄ちゃん、だめ、イく、イく、イくっ」
やがてハルカが絶頂を訴え始めたので、俺はそのままハルカをイかせることにした。乳首を激しく擦り立ると、ハルカのあえぎ声のピッチが上がっていく。ハルカは抵抗するどころか、胸を突き出すようにして刺激を迎え入れる。
「ぁっ!ぁっ!あっ! イく、イく、イくイくイくイくっ……!!! あ゛っ!」
そして濁った声が漏れると同時に、全身を激しく震わせ、ハルカはイった。姿勢が崩れ、あられもない様子で絶頂を貪る。
「あ゛ぅ……っ!! ……ふぅ……」
何度かの絶頂痙攣のあと、ハルカの身体はスイッチが切れたかのように力が抜け、俺に再びしなだれかかった。
「大分イき慣れてきたな」
ハルカは「んぅ……」と喉を鳴らし、顔を俺の胸板にこすりつける。表情が幸せそうにふやけている。
(よし)
ハルカの様子を見ながら、俺は方針を決める。両指からツタを伸ばし、ハルカの目の前で一度アピールする。
絶頂の余韻を味わっていたハルカは、俺のツタを見ると目を開いた。それを感じてから、俺はツタをハルカの両耳に差し込む。一瞬の緊張がハルカの身体に走るが、鼓膜を小さく貫く頃には力が抜けていく。
そして。
「ぁっ、あっあっ」
脳を弄られた反射が、獲物の口から漏れる。
「あっあっあっあっ、あっあっ、あっあっあっ」
絶頂直前とは違う、やや平板な声。しかしそれが、他の何よりも俺の興奮をかき立てる。
「あっあっ、あ゛っ、あ゛っ」
びくん、びくん、と腕の中で女体が痙攣する。ハルカの脳の深いところにツタがたどり着き、根を張っていく。
「あっあっ、だめ、だっ、あっ、あはっあははぁっ、あっ、いいっ、いいよぉっ」
念のため、最初にハルカの抵抗する意思をブロックした。途端にハルカの声が蕩けきり、快楽に塗れる。
「あっ、すきっ、これすきぃっ、あ゛っ、お゛っ」
配線を組み替えるように、ハルカの脳の深いところを作りかえていく。抵抗ができなくなったハルカは、脳改造の快楽を一身に受け止め、時折濁った声を漏らす。
「あっ、あーっ、あぁーん……っ」
やがて、ハルカは今度はむしろ俺に媚びるように身体をくねらせ、あえぎ声も甘えるようなものに変わっていく。俺は弄りの成功を確信し、ツタの動きを止める。すると、ハルカもそれを感じたのか、荒い息をつきながら俺の方に視線を向ける。はにかむように笑っていた。
「せっかくだし、自己紹介してみろ」
「うん」
ハルカはツタを両耳に刺したまま、俺に向かって座り直す。いわゆる対面座位の姿勢だ。
そして、ためらいなく言う。
「私は姶良遥です。お兄ちゃんの、苗床です」
俺の願望であり、夏の因縁にもなった言葉が、ハルカの口から放たれた。
「よくできました」
俺はハルカの頭を撫でながら褒め、同時にツタで快楽を与える。ハルカは複数の刺激にひとたまりもなく顔を蕩けさせ、「あっイく」と小さくつぶやきながらイった。Dカップのおっぱいがぷるぷると震え、ハルカの股間が俺のズボンに滴を落とす。無意識だろうが、腰を前後に揺らし、何かを渇望しているように見えた。湿度とともに、ハルカから放たれた匂いが鼻をくすぐる。
「ハルカ、苗床ってなんだ?」
「あっ、あぅ……っ」
ハルカは一瞬何かを考え、おそらくは苗床の意義を意識しただけで身体を痙攣させた。拳を握った右手を自分の唇に当てて、快楽を我慢するような仕草をする。俺から聞かれたことに答える、というだけの行為に必死になっている。
「え、えっちなことであたまいっぱいで、お兄ちゃんと、えっちして、おにいちゃんの、赤ちゃんを産む存在ですっ」
「俺の子供産むんだな?」
「はいぃ……っ! イくっ……!」
そう答えると、ハルカは再び軽くイった。
(マジか……想像以上だな)
もちろん、「苗床」という役割に悦びを感じるようには弄っている。しかし、ハルカの悦びの反応は、弄った程度から想定したものを大幅に超えていた。
特に二度目の絶頂のとき、俺はハルカの脳を触っていない。俺の弄りがしくじっていなければ――それは、ハルカが今の状態を「本当に」悦んでいることを示している。
(これは……ダメだ、我慢できん)
ハルカの様子にあてられた俺のチンコは限界まで大きくなり、ズボンを突き破りそうなほどだ。
「ハルカ、そこで寝ろ」
「っ! はいっ」
俺がハルカに命じると、ハルカは俺から身体を離し、ベッドに仰向けに寝転がった。俺は急いでズボンを脱ぎ、ハルカにのしかかる。ハルカは足をM字に開き、じっとしていられないのか腰を僅かに揺らしている。そのハルカの様子はサキュバスとして一人前に近づきつつあるものでは決してなく、俺の苗床としての役割を果たすことしか頭にないようだった。
「ハルカ」
俺の呼びかけに何かを感じ取ったのだろうか。
「お兄ちゃん……私のぉ、はるかの苗床おまんこにぃ、いっぱい、お兄ちゃんのせいえき欲しいですぅ……っ」
ハルカは蕩けた声で、俺をねだる。俺はそれに答え、チンコをゆっくりと挿入した。
「あ……っ! あ゛ー……っ! 気持ちいいっ、イく、イきますぅっ!」
俺のチンコがハルカのマンコ肉をかき分けると、それだけでハルカが仰け反りイった。マンコがきゅぅっと締まり、俺のチンコに絡みつく。
「あぁ……苗床……なえどこぉ……っ」
ハルカは仰け反った姿勢のまま自分の存在意義を何度も口にし、そのたびに悦びに打ち震える。
「苗床がそんなに嬉しいか?」
「うんっ」
ハルカは即答した。
「はるか、おにいちゃんの赤ちゃん産みたい、ですっ」
あまりに幸せそうに俺達の子どもをねだるハルカの様子に、俺の中の本能が強烈に反応した。思わず、本当にハルカを妊娠させたくなって、俺はハルカに腰を激しく打ち付ける。
「おぉ゛ほぉ゛ぉ゛っっっ」
強烈な刺激に、ハルカは再び仰け反って悶えた。しかしハルカの身体は逃げることなく、むしろ歓迎するように腰を押しつけてくる。
「お゛っ、あ゛っ、もっと、もっとぉ……もぉっろぉ……っ」
呂律が怪しくなりつつも、ハルカは貪欲さをむき出しにして俺を求める。ハルカの声に応えるべく、俺はチンコを力一杯に突き込み、ハルカの子宮口を何度も責め立てる。
「イぐっ! お゛っ、あ゛っ、お゛ほぉぉっ!」
もはや何度目か分からない、ハルカの絶頂。ハルカのマンコが俺のチンコを食い締め、それを引き金に、射精の衝動が溢れ始めた。
「もうすぐ出すぞ……っ」
「あ゛あ゛あ゛っ、お゛にいちゃん、お゛にぃぢゃんっ!!!」
俺の言葉に反応して、ハルカは腰を浮かせ、俺のピストンをマンコで真正面から受け止めようとする。俺はその期待に応えるように、ハルカの子宮に向けて大量の精液を解き放った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ! イっ……………………くっ!」
びくんっ! びくんっ! と、見たことがないくらいの勢いでハルカが全身を跳ねさせる。
「……………………ぁぁぁぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!」
注ぎ込まれる熱と快楽に、ハルカは狂乱の声を上げてのたうち回り。
しまった、やりすぎた、と思ったときは、ハルカは既に糸が切れたように意識を失い、ぐったりとベッドに沈んでいた。
★
《めっちゃ、めっちゃヤバかったぁ》
ハルカの洗脳を解き、後始末を全て終えたあと、俺達は全裸でベッドに寝転がっていた。意識を取り戻し、正気に戻ったハルカは俺の胸に顔を埋め、時折顔をこすりつけるように揺らす。
体力が戻っていないのか、それとも恥ずかしいのか、ハルカは口で語らず、ツタを通して話しかける。「めっちゃ」と二回言う(口で言ってはないが)のは初めて聞いた気がする。苗床体験(あくまで「体験」である)はそのくらい衝撃的だったのだろう。俺はとりあえずハルカに謝ったのだが、ハルカはどうもそれどころではないらしい。
《私、すっごく赤ちゃん産みたくなってた……》
《だな》
《洗脳、こわい》
《ああ、怖いな。知ってる》
俺達の身にはなじみすぎていて時折忘れてしまいそうになるが、洗脳、特に脳を直接弄る行為は本来、凄まじく強力だ。俺自身はそれを理解しているつもりなので、洗脳を解いたあともハルカが怖がることがないように気を遣ってはいる。だが今回のように、想定以上の効果が出てしまうことはある。さすがにハルカが気絶するところまで行くとは思わなかった。
俺はハルカの頭をなでながら、反対の手を腰に回し、ハルカを抱き寄せる。
「なあ、ハルカ。相談がある」
「…………んぅ?」
俺がツタではなく口に言葉を出したことで、ハルカも喉の奥で反応を示した。そして俺の方を見上げる。可愛らしい瞳と、俺の目が合った。
「次から、ゴムつけたい」
「えっ」
その可愛らしい瞳が見開かれる。
「悪い。今さら言うことじゃないんだが、ちょっと怖くなった。俺は今、ハルカを妊娠させるべきじゃない」
俺達はもともと、血筋のせいで子供がかなりできにくい。しかし、それでも心のどこかでうっすらと、ナマですることに引っかかりを感じていたのも事実だ。
今日の交合で、奇しくもその気持ちが具現化した。苗床になったハルカが心底悦んでいるのを見て、このままだと本当に妊娠させてしまう予感がした。
啖呵を切った俺だが、ハルカは動かない。沈黙が流れ、居心地の悪さを感じ始めたときだった。
「……無責任」
「えっ」
低い声で言葉を放たれ、俺の血の気が引いた。
「むーせーきーにーんー」
しかしそれはすぐに、別の感覚に取って代わられる。ハルカが俺を責めるというより、俺を煽っていることに気付いたからだった。
「お兄ちゃん、十三歳の女の子相手に無責任なえっちしたー!」
「いや、おい」
「お兄ちゃんは十三歳の女の子を苗床にして無責任に中出ししましたー! おまわりさーん!」
「待て! 何かあったら責任はとるけど!」
ハルカが俺の腕から抜けようとしたのを感じ、慌てて力を込める。さすがにハルカも本気ではなく、改めて俺の胸の中に収まる。
「もし妊娠したら、親に土下座してでもなんとかするつもりだった。でもやっぱり、今子供を作るわけにはいかないだろ」
「……うん、それはそう」
俺の言葉に、ハルカはそれまでの煽りを捨ててうなずいた。
「私もちょっと、軽く考えてたかもしれない」
その言葉は、これまでハルカから聞いていたものとはかなり違った。以前話したときは、子供を身ごもることについて前向きな雰囲気だったと思うが、苗床に洗脳された挙げ句に心の底から妊娠を望んでしまったことをきっかけに、ハルカにも思うところがあったのかもしれない。
ハルカの溜息が聞こえ、俺の胸板をくすぐる。
「苗床かぁ……」
そのあとの言葉は本当に微かで吐息に紛れたが、ふくざつ、と聞こえた気がした。
「お兄ちゃんも、やっぱりインキュバスなんだなあって」
「…………一応だけど、苗床にするのはヤるときだけだけのつもりだから」
「そうだと思ってるけど、そういうことじゃないよ」
「悪い、俺も分かってたけど、ほんとに一応言っとかないと」
ハルカの言いたいことは分かっている。そしてそれは、俺にとっては決して驚きではない。
「私の方が血が濃いんだよ?」
「でも、俺の方が年上だから」
つまり、ハルカはこう言いたいのだ。ベッドの上で二人の関係を支配するのは私の方だ、と。
ハルカがそう思っている――少なくとも、いつかの目標にしていることは、大分前から気付いていた。相手の女を支配しようとするのがインキュバスの本能であるのと同様、相手の男を支配しようとするのはサキュバスの本能である。
しかしそればかりは、いくらハルカの願いといえど、おいそれと受け入れるわけにはいかない。俺は男であり、インキュバスであり、ハルカより年上だ。
「だから、なえどこになんか、ならないもん」
そう言ってハルカは、俺の胸の中で身体を回転させ、背を向ける。反抗の姿勢、ということなのだろう。だが、俺がそれを額面通り受け取ることはない。
「俺も、そう簡単にはハルカには負けないからな?」
ハルカを抱きしめて、ふんわりと煽ってやる。
「ぜったい、私の方がお兄ちゃんを捕まえるんだから」
言葉は強気を崩さぬまま、しかしハルカは嫌がるそぶりもなく、背中を向けたまま、むしろ俺の腕に抱えられるように、俺の胸に再び納まる。
インキュバスとサキュバス――もとい、魔女見習い。彼氏と彼女だが、いや、だからこそ、二人とも譲れない。譲れないということを、お互いに受け入れる。
俺達は黙り、そのまま言葉を発することなく、眠りへと誘われた。
<続く>
*ご紹介*
オリヒト様(X @cetus_kkk)に有償にて、本話の挿絵を描いて頂きました。オリヒト様、ありがとうございました。
読ませていただきましたでよ~。
突然挿絵が入っててビビったw
島から帰ってきての日常回って感じでぅね。
そして正人くんが避妊に目覚める。
そうだよね、いくら出来にくいからって何も対策してないのは無責任だよね。
おまわりさん、このひとでぅ。
小さな成長を示したカップルがこの先どんなトラブルに巻き込まれるのか。
次回も楽しみにしていますでよ~。
>みゃふさん
>突然挿絵が入っててビビったw
今回もオリヒトさんに描いて頂いたものです。今話は以前描いて頂いたものを目標にして作っていたのですが、大分時間がかかってしまいました。
>正人くんが避妊に目覚める。
筆者としてもこの件はどうしようかと思っていたのですが、正人であれば段々危機感というか怖さを感じるようになりそうだと思ったのでこういう顛末にしました。
一応、裏設定としてはカウンセラーみたいな人に避妊はちゃんとするように毎回言われているんですよね。
>おまわりさん、このひとでぅ。
遥、割と今後この件を弄ってきそうな感じありますね。おまわりさーん!
次回は多分都会でデートになると思います。どうなるかはお楽しみ。