1話・~図南の翼~
環状線のとある駅から少し歩いた高級マンション、その一室に、その組織は存在した・・・
恐らく誰もが惹かれるキャッチコピーとともに・・・
「寝取り、復讐のご依頼はお任せ下さい」
通称「デオペット」・・・
話は少し遡る。これは組織が出来る時の話だ・・・
2028年3月・・・高級マンションの最上階。
一番奥の部屋・・・1501号室・・・昼・・・
「龍正さ~ん。これどこに置きますか?」
「ああ。それは机の上から2番目の引き出しに入れてくれ」
どうやら引越ししたてらしく、男1人と女2人が荷物の整理している。
今声をかけた女性は羽山麻衣。
大学を卒業したばかりの23歳。身長は165。AB型。髪は肩まで伸びた美しい黒髪、雪のような綺麗な白い肌。
顔は綺麗系。スリーサイズ86、59、84。周囲から妬まれるほどの美女。
数々のむごい仕打ちも受けてきた。だが自分の心に素直な女性。
彼女の過去については龍正も聞かない・・・
龍正は彼女の過去に起きた悲しい事件を知っている。
何故彼女は今まで無事で居られたのか・・・
何故彼女は龍正に積極的なのか・・・
能力によってその全てを知っている・・・
そんな彼女の能力は「テレパシー」。
特定の範囲内の特定の人物と通信する能力だ。
使用するには麻衣側から通信しなければならない。
受け答えしたのが結城龍正だ。
24歳。身長は178。B型。短髪でぼさぼさの髪。やや筋肉質の、どこにでも居るような普通の男。
彼の過去には深い闇がある。決して忘れる事の出来ない過去・・・
彼は全てを拭い去るように勉学に励み、数々の危ない橋を渡ってきた。
龍正の知識、体力・・・全てが努力の証である。
その彼の能力は「ライブラリー」。
他人の心を図書館として具現化し、本を書き換える事で心を変えてしまう。
1つ火を放てば時限爆弾のように相手の記憶が消え去る・・・
そんな恐ろしい使い方も出来るのだ。
「りゅ~せ~。こっち手伝ってよ~」
向こうで重そうにソファを持ってるのが黒田優嘉。
身長は163。O型。美しいウェーブの赤髪、健康的な肌。
身体はスレンダーで顔はかわいい系。スリーサイズ83、56、81。龍正もたじたじの、大きな瞳が特徴。
スリーサイズというのはほとんどが偽証だ。実際はウエストが60以上がほとんどだと龍正は知っている。
彼女らのスリーサイズは龍正の能力で知り得た正確なものだ。
話を戻そう。優嘉は一応龍正の彼女だ。
23歳で龍正とは高校からの仲。元々の性格は荒んでいた。
高校時代にお金目当てで龍正に近づいた悪女。
龍正が能力を使って美しい自分の彼女にしたのだが、今となっては彼女の気持ちは能力の影響ではないようだ。
ある日龍正は麻衣を助けてしまった事により、麻衣が熱烈に龍正にアピールしてくるようになった。
優嘉を捨ててしまうと正義に反するのではないか?と考えた龍正は、どちらかを捨てる選択肢を諦め、2人共に同居させる事に決めた。
そのため優嘉は、龍正の能力の事も麻衣より後で知ったのである。
「ふう。大体片付いたな」
龍正はソファにドスンと座る。そんな龍正を見て、優嘉が擦り寄ってくる。
「ねぇりゅ~せ~・・・」
「ダ・メ・だ!」
「まだ何も言った無いじゃ・・・」
「昼間っから体力消耗してこれからどうするんだよ。これだから同居は嫌なんだ」
「・・・ケチ。アタシたちは仲間で恋人で未来の夫婦で未来の親でしょ!」
「・・・後半からはお前の妄想だ」
どうやら優嘉の目的はセックスだったようだ。
麻衣がお茶を3人分持ってくる。
「今日は私がシてもいいですよね?」
麻衣が龍正にそう言うと、とたんに優嘉の機嫌が悪くなる。
「ダメよ!2番手は私が終わってから使いなさい!」
(つ、使うっておい・・・)
優嘉はチャンピオン。麻衣は挑戦者・・・ということで麻衣に言いくるめられた優嘉。
「え~・・・優嘉さん。私最近1番にさせてもらってないです・・・」
優嘉の独占欲は強い。
「嫌なら止めれば!とにかく許さないからね!ただでさえこんな関係おかしいってのに」
「仕方ないじゃないですか!龍正さんはどちらかを捨てる事は出来ないと言ってます!」
(・・・あの、俺の意思は?)
龍正が今にも喧嘩しそうな2人の間を割る。
「とりあえず日用品や食料の買い出しに行って来る」
「あ、」「え、」「「わたしも一緒に・・・」」
ほぼ同時に2人が立ち上がり、お互いを睨みつける。
「彼女のアタシが行くって言ってるんだからあんたは留守番よ~!」
「いえ!私の方がサポートになります!!」
「・・・・そうだ麻衣。お前確かネット回線に詳しいよな。ここのサイト作ってくれ」
「え?・・・わ、わかりました」
渋々了解した麻衣を見て得意げになる優嘉。
「やった!よろしくね~♪」
(くう・・・同じ学科に転入すればよかったわ・・・)
一通り買い物をしていく龍正と優嘉。
優嘉の美貌に皆が振り返る・・・・って程でもないようだ。
確かに子供っぽい顔をしているから無理も無い。
しばらくは龍正の横にニコニコくっついていた優嘉だが・・・
「りゅ~せ~。疲れた~。休も~」
優嘉が龍正の腕にしがみ付く。
「まだ食品買ってないだろ。お前は晩飯要らないのか?」
(ったく・・・ベッドの技術はピカイチでもこういうときは麻衣の方が素直で良いな・・・いや、ある意味優嘉の方が素直か?)
「でも疲れた~。ちょっとでいいからさ~。ほら、そのカフェなんかどう?レッツティータイム!」
龍正はお構い無しにずるずると優嘉を引きずる。
その様子に通行人が注目する。
「うわ、あの男女の子引きずってるよ・・・かわいそう・・・」
「酷い兄だな~」
「嫌がる女をハメようとするなんて最低の男だな」
(だ、断じてそれは違うぞ~)
「・・・・・仕方ねぇな・・・でもドリンクだけにしとけよ」
龍正が腕を振り払い、ため息をついて優嘉の方を見ると・・・
「もう居ねぇ!!」
「すみませ~ん。カフェラテ2つとフルーツパフェ」
「もう中で頼んでるし・・・」
優嘉はかなり行動力がある。昔の影響だ。
店内・・・注文の品が運ばれた。
「ん~おいし。りゅ~せ~もあ~ん・・・」
満面の笑みでパフェをスプーンにすくって口に持ってくる。
「アホか」
龍正は窓の外を眺めている。
「りゅ~せ~・・・私のこと嫌い?」
優嘉が泣きそうな顔で目をうるうるさせる。
(まただよ・・・このウルウル目・・・これで負かされる俺も俺だ)
龍正はしぶしぶそれを口に運ぶ。周囲の視線が突き刺さる。
(うっ・・・周りの視線がイタい・・・)
龍正が美味しそうにパフェを食べる優嘉を見つめる。
「しっかしお前よく食うなー。たいした運動もしてないし、太るぞ」
「うん。・・・そしたらさ、りゅ~せ~の能力で消化や燃焼能力上げてよ」
「アホか。めんどくさい」
「ぶくぶくに太っちゃってもいいの?あ、そうだ、もっと胸おっきくしてくれない?それから身長も欲しいな♪」
「・・・あのな・・・この能力はそんな為に使うんじゃない」
「ふうん・・・昔のアタシを変えちゃったのは誰かな~」
痛いところを突かれ、龍正は顔を伏せる。
「・・・それ言われるとつらいが・・・」
怒ってくると思っていたが、予想外の反応に優嘉は戸惑う。
「あ、嘘よ。そんな顔しないで。アタシは感謝してるんだから。あのままだったら地獄だったよ?きっと」
その言葉で、龍正が顔を上げる。
「ん。そうか・・・・」
(なんだかんだで負い目感じてるのね~。心配しなくてもアタシは龍正が居れば幸せだよ)
龍正の視線の先に一人の女性が座っていた。
髪を後ろで束ねた女性だ。見た目でスタイルがいいのが分かる。
(へぇ~なかなか美人・・・ん?)
その女性の目は虚ろだった。
(あれは・・・そう、たしか麗を落としたときに・・・そうだ、催眠状態だ!こんな状況にはそうそう出くわす物ではないな。よし!あいつを落としてみるか!「ライブラリー」発動!3人!)
「ん?りゅ~せ~?何見てんのよ!?アタシというものがありながら!」
不敵な笑みを浮かべながら女性に見入っている龍正を叱る。
「あ、ああ。獲物を見つけた。これから予行練習をする。帰るぞ」
「え?もう帰るの?」
優嘉はパフェをかきこむ。そして頭を抱える。
「イタタタタ・・・」
そして龍正のも含め、カフェラテを飲み干した。
「そんな無理しなくても・・・」
「勿体無いでしょ?それに・・・間接キス♪・・・・ってシカトかい!」
龍正は会計を済ませていた。
龍正の部屋・・・
「お帰りなさい。ホームページですが、まだ時間がかかりそうです」
優嘉が笑顔で麻衣に話しかける。
「お、本格的だねぇ。プログラムからやってるんだ。やっぱ麻衣ちゃんは凄いねぇ!麻衣ちゃんあっての仕事だもんねぇ」
「あ、どうも・・・」
そんなゴキゲンな優嘉を不信に思う麻衣。
『龍正さん。なにかあったんですか?』
『ん?ああ、テレパシーか。さあ。俺にもわからん・・・あ、そうだ。本番に向けて予行練習を行いたい。今日偶然最高の獲物が見つかったんだ』
『え、そうなんですか?』
『勿論テレパシーは調査に不可欠だからな。協力してくれ』
「では作戦会議を行う」
「はい!」
「え?あれ?あーっ!また2人でテレパシーで!ずるいぞ!」
やはり龍正に関しての勘は鋭い。普通なら絶対に気付かない。
『これでいいですか?優嘉さん?』
麻衣は優嘉にテレパシーで話しかける。
「そういう問題じゃなーい!」
龍正と二人は別の部屋に移動した。
会議室のような部屋だ。
2人が席に座り、龍正がホワイトボードの前に立つ。
「さて、今回の獲物を説明する」
「お、何か本格的ね~」
(こいつは・・・場を盛り下げるような事を・・・)
「コホン。今回は予行練習ということで依頼主はいない。が、相手は本物の一般人だ。しかも偶然にも条件は満たしている」
「はい」
「ふっふっふ・・・その人の支配者ってのも可愛そうなもんよね!りゅ~せ~に目をつけられちゃうなんてさ!勝ち目0ってやつよね~」
「・・・もういいか?今から説明する」
龍正はボードにデータを書いている。
「俺が短時間で覗いただけなので情報は少ない。が、実際、本番ならこれくらいの情報しかないだろう。名前は狩野樹莉(かりのじゅり)。27歳。身長は172。肩までの黒髪で、後ろで髪を束ねている。職業は受付嬢。MCの方法は催眠術と思われる」
「かりのさんか・・・かのさんかと思ったわ」
「ああ。まあどっちでも大差ないだろ」
『優嘉さん。MCって何の事ですか?』
『麻衣ちゃん知らないの?マインドコントロールの略よ。どっかのサイトで見たわ』
『ああ、なるほど』
優嘉は雑学に長けている。
もともと龍正と一緒に居たいが為だけに勉強したのだから無理も無い。
「次行くぞ。え~ターゲットがMCを受けているのは結構長い。4・5年ぐらいだろう。しかも、相当の技術があるようで、表層意識にもその影響は及んでいる。マスターの情報も得ている。相手は飛騨雄介(ひだゆうすけ)という精神科医だ。情報は以上だ」
「え?それだけでどうやって・・・」
「飛騨の住所もなんとなくならわかっている。これがだいたいの住所を書いた紙だ。正確には掴んでいない」
龍正は2人に紙を配った。
「へぇ~。さすがりゅ~せ~。私がパフェ食べてるうちにそこまで調べてるとは・・・あっ!!」
優嘉はどこかでミスをする天然タイプだ。
「パフェ?優嘉さん!自分だけ奢って貰うとは!」
「あちゃ~。仕方ないじゃない。だって・・・」
「そこまでだ!これから役割分担をする」
長引きそうなので龍正がカットに入る。
龍正は再びボードに書き始める。
「まず俺だ。狩野の家に行き、行動パターンを調査する・・・次は麻衣だ。お前は飛騨の人物像と行動を調査してくれ」
「あの~、りゅ~せ~。私は?」
名前がなかったことに驚いている優嘉。
「・・・・事務だ」
「な・・・なんでよ!?なんで雑用なの!?もっとこう・・・聞き込みとか周辺調査とかあるでしょ?」
「あ、そうだ・・・」
「もう、あるならもったいぶらずに・・・」
「ホームページ・・・以上」
「あ、そう・・・・」
拍子抜けする優嘉に、龍正が自信を持って言う。
「あのな。俺の能力で狩野の心を調べる。麻衣の能力で飛騨の情報を俺に伝える。もしヤバくなってもテレパシーで俺が助けに向かえるだろ。そしてお前は・・・ホームページだ」
「何よそれ!・・・もう知らない!」
優嘉はかなり拗ねている。しかし龍正の意思は変わらない。
「お前が捕まったらもしもの時に助けられないだろ・・・お前の身を案じてだ」
「・・・そんな甘い言葉言ってもダメだからね!」
「・・・そうか。じゃあ勝手にしろ!」
-バタン-
怒った龍正が去っていった。
「優嘉さん・・・龍正さんの気持ちもくんであげてください」
「・・・アタシのために言ってることぐらいわかってるわよ・・・あんたのお得意の「割り切れない」ってやつよ」
「・・・失礼します・・・」
-バタン-
「麻衣。優嘉はまだ拗ねてるのか?」
「は、はい・・・割り切れないそうです」
「こればかりはどうしてもな・・・」
すると優嘉が出てきた。
「りゅ~せ~。さっきは我がまま言って悪かったわね。もう大丈夫だから」
「そうか」
「だからさ・・・りゅ~せ~?・・・シよ?」
「・・・・麻衣はいいのか?いつもなら私もって言い合いになるところだが?」
「え?あ、私は・・・いいです・・・・・その・・・優嘉さんと・・・・」
麻衣の顔は明らかに作り笑顔だ。心では優嘉に遠慮している。
(ふん。あいつも譲り合いの精神あるじゃないか)
-パンッパンッパンッ-
龍正が後ろから優嘉を激しく突く。
「はぁん!りゅ・・・っりゅうせい!もっと!激しくぅっ!」
「今日はいつに無く求めるじゃないか・・・安心しろ。お前は誰にもやらない!そら!」
「うっふぅぅんっ!!いい!もっと!もっと!」
「く!出る!」
「アタシも!イクっ!いっしょにぃっ!!」
-ドクンドクン-
「イっくううぅぅぅっ!!!」
-ビクッビクッ-
優嘉が身体を大きく反らして達した。
「ああ・・・中に・・・りゅ~せ~が・・・入ってくるぅ・・・」
優嘉は幸せな表情で長い余韻に浸る。
(ふ・・・こいつも俺の気持ちが分からないほどバカじゃない。もっと信じてやるか)
「はぁ、はぁ、いいなぁ優嘉さん・・・はぁ、はぁ、うっ・・・龍正さん・・・」
麻衣はその声を聴きながらオナニーで達した。
翌朝・・・・5:00
「じゃあ行動開始だ。頑張れよ」
「はい。任せてください!」
「優嘉。よろしくな」
「は~い。いってらっしゃい!」
二人を笑顔で見送った。
-バタンッ-
乾いた音が響く。
(私って・・・そんなに頼りないの?・・・)
優嘉は自分を信頼してくれない龍正に不満を持っていた。
「全く!今日はフルコースでやってやるんだから!」
6:30・・・
樹莉の家を張り込む龍正。
(ん!出てきた!)
-カツカツカツ-
(とりあえず飛騨の詳しい住所を調べないと麻衣が動けない。「ライブラリー」発動!2人!)
樹莉を尾行する龍正。同時進行で樹莉の心の中から飛騨の詳しい情報を得る。
(よしわかった。あとは交信を待つか・・・)
7:00・・・駅前
『龍正さん!麻衣です。詳しい場所を教えて下さい』
『お前の現在地は?』
『え~っと・・・・・・』
・・・・・・
『そこから大通りの方へ行くと一番高いビルが見えるはずだ・・・そのビルの角を・・・』
・・・・・・
龍正は交信中に駅のホームに入る。
(おっと・・・電車か・・・)
7:20・・・電車内
(今ならいけるかな・・・3人!)
龍正はもう一人心の中に送り込む。
(4人も出来るかも・・・いや、ここで体力を使いすぎてはマズいな・・・)
7:23・・・飛騨診療所
『着きました・・・ここですね・・・・飛騨診療所とありますが・・・』
『ああそこだ。精神科医というのは隠しているらしい。治療と称して×××だそうだ。くれぐれも気をつけて張り込んでくれ』
『了解』
7:30・・・飛騨診療所
スーツの男が中に入った。
(!現れた!あいつが飛騨だ。今日は診療日のようね。この人の専門は・・・一応内科のようだわ。でも見るからに不衛生な診療所ね)
7:50・・・とある食品会社
龍正は外で中の様子を伺う。
(へえ・・・ここの受付嬢か)
受付嬢が奥に入る。すると・・・
(!?何!?)
図書館の中にいた龍正は消えてしまった。
(くそ!能力の範囲外か・・・そんなこと今まで気にしたことも無かったぜ・・・これからどうする?)
8:00・・・龍正の自宅
「ふう・・・私の腕にかかればざっとこんなもんよ!といっても基本回路は麻衣ちゃんがほとんどやったんだけどね~。アタシはページ作っただけだけどさ・・・さて・・・・どうしよっかな~・・・」
優嘉は退屈しのぎに、ネットサーフィンをしていた。
< つづく >