夢から始まる物語 1st plane

1st plane 「レオン」と「力」と「美佳」

※長編ですのでお時間にご注意下さい。現在全6話(5+α)の予定です。予めご了承ください。です~。

≪プロローグ≫

 夢とは・・・
  ①・・・睡眠中にもつ幻覚。ふつう目覚めた後に意識される。
  ②・・・はかない、頼みがたいもののたとえ。夢幻。
  ③・・・空想的な願望。心のまよい。迷夢。
  ④・・・将来実現したい願い。理想。
(広辞苑より)

 この話は、天界と下界で振り回される『天使と悪魔のハーフ』と、彼を望んだ少女。そして、それを取り巻く人物達の話。

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――――――――――――――――――――

 とある場所・・・逆光で顔がよくわからないその場所では、討論が行われていた。
 青年は怒っていた。それはそれは激しく。
「な、何で俺が行かなきゃいけないんだよ!!」

 激怒する青年に対して、相手も一歩も引かなかった。
「煩い!これも修行のうちだと思え!」
「単なる厄介払いだろ!!おい、ま、待ってくれ!!俺は・・・」
 青年には怒る理由が2つあった。

 そんな討論の場に女性が現れた。
 走ってきたのだろうか、女性は荒い呼吸を抑え、叫んだ。
「シオン!!そ、そんな!!ま、待ってください!!彼は!!」

 その女性が呼んだ男。『シオン』はその女性を見て顔色を変えた。そして呟いた。
「リファイス・・・畜生っ!!リファ――」
 彼の声はそこで途切れた。

 リファイス・・・そう呼ばれた女性は、周りの護衛と思われる男達に取り押さえられながら男の名を叫んだ。
「シオーーンッ!!」

――――――――――――――――――――

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 季節は春・・・出会いと別れの季節。
 そして進学の季節。

 ここはとある小さめの一軒家。2階の一室。
 外は夕暮れ。窓から入ってくる日差しが眩しい。
 この部屋の少女の前に男が現れた。
 どこからとも無く、ブゥゥンと空間を歪めて現れた。

「わあ・・・ホントに出てきた・・・」
 少女が驚いてその様子を見ていた。

 均整の取れた筋肉、やや長めの金髪、エメラルド色の目、すらっとして整った美形の顔、小麦色の肌。
 そして推定190cmの長身。
 大人の女性であれば一目見ただけでコロッと心を奪われてしまうような美青年だ。
 白いズボン以外身につけていない彼は、少女と反対方向をじっと見つめている。

 少女はそんな青年を見て興味深そうに目を輝かせた。
「か、かっくいい~・・・ね、ねえ。あなたのお名前は?」

 少女に話しかけられた青年は振り返って少女をじっと見つめた。
 青年は複雑な表情だった。
「・・・お前が呼んだのか・・・」
 青年は少女を冷めた目で見据える。

「え??・・・」
 少女が困惑した。怒られるようなことをした覚えは無かった。

 青年はそんな幼い少女の顔を見て1つため息をついた。
「・・・いや、何でもない・・・名前だったな。俺に名前は無い」
 名前が無い・・・そんなことが有るだろうか。では青年は何と呼ばれているのか。
 だが少女はそんなことを気にかける様子も無かった。

「??え~っと・・・じゃあ、私がつけていい?」
 見ず知らずの青年の名前を少女が決める・・・おかしな話だ。
 青年は少し考え込んで答えを出した。
「・・・好きにしろ。どうせお前が満足しなければ帰れないんだ・・・」

「じゃあねぇ・・・・・・」
 少女はテレビに目をやる。
 どうやら野球をやっているようだ。
 歓声と実況の声が一際大きくなった。

『ライオンズ!ツーアウトから主砲の一振りで同点!!ツーランホームラ~ン!!試合を振り出しに戻しました!』

 そして少女はその青年の顔をじ~っと見る・・・
 そう・・・その青年を例えるなら・・・
「・・・レオ・・・レオン!!レオンでどう?ライオンみたいじゃん」

「・・・レオンか・・・」
 青年はそう言って空を見上げた。そして続けてこう呟いた。
「・・・・・・好きにしろ・・・『願い主』」

 こうして青年はレオンとして暮らすことになった。

 肝心の少女の名前は今野明日香(こんのあすか)。小学3年。
 そして話は遡る・・・
 まだ明るい午前中の話だ。

 明日香は久しぶりに母親と買い物に行くことになって浮かれていた。
 あちこち走り回っては興味深そうに眺めていた。

 ふと明日香は、路地裏でこそこそと隠れているお爺さんを見つけた。
 好奇心旺盛な明日香は、早速お爺さんの側に歩み寄った。
「ねえ。お爺さん。そんなところで何してるの?」

 明日香が声をかけたお爺さんは、ふさふさした白髪、白ひげ、杖・・・そして綺麗な白い衣を羽織っている。
「ん?・・・お前さんはまだ若いな・・・嬢ちゃんには関係ないことじゃよ」
 お爺さんは明日香をしっしっと追い返す仕種を見せた。

 明日香はポケットから小銭を取り出した。
 そしてそれをお爺さんに差し出した。
「はい。どうぞ」

 お爺さんはまじまじと小銭を眺めた。
「な、なんじゃこれは・・・」
「お爺さん、さっきから食べ物分けてくれ~っていろんな人にお願いしてたから。お腹すいてるんでしょ?どうぞ」
 明日香は無邪気な笑顔で両手を差し出す。
 どうやらお爺さんは食べ物に困っているらしい。

「い、いや・・・あれは大人たちを試すために・・・」
 お爺さんは明日香が真に受けていることに困惑する。
 この言い草からするとお爺さんは芝居だったようだ。
 試す・・・というのはどういうことなのだろうか。誰かを選んでいるのだろうか。

 対して明日香は、食べ物じゃなかったから受け取らないのだと思っていた。
「お金しかなくてごめんなさい・・・」
 がっかりと肩を落とす。

「い、いや・・・そうじゃなくて・・・まいったのう・・・わかった。貰おう!!ありがとうよ」
 お爺さんはしっかりと小銭を受け取った。
 おそらくパン一個ぐらいしか買えない金額だ。

「どういたしまして~」
 それでも明日香は満足そうに去っていった。

 大人の女性が走って明日香のもとにやってきた。
「明日香!どこに行ってたの!」
 どうやら女性は母親らしい。

「あ、お母さん!ごめんなさい」
 明日香は母親と手を繋いで遠ざかっていった・・・

 お爺さんは明日香の後ろ姿を眺めていた。
「ふむむ・・・しまったのぉ。ちょっとお遊びが過ぎたかの。あんないたいけな子供を騙してしまったとは・・・子供は『願い主』の対象としては若すぎるんじゃが・・・貰ってしまった以上はお返しをせねばなるまい」
 お爺さんはそう呟いて一瞬で姿を消した。

 そして昼過ぎ・・・
 明日香は部屋で宿題をしていた。

「お嬢ちゃん・・・お嬢ちゃん」
 さっきのお爺さんの声が聞こえた。
 明日香は辺りを見渡す。そして気のせいだと思った頃・・・明日香の部屋に突然お爺さんが現れた。
 明日香は突然の出来事に飛び退いた。
「うわあっ!!昼前に会ったお爺さん!ど、どこから入ってきたの?」

 お爺さんはその明日香を無視して続けた。
「それより、お礼がしたいんじゃ。お前さんは何か願い事はあるかな?」
「ね、願い事・・・う~んっと・・・え~っと・・・」
 明日香は突然願い事を聞かれて悩む。
 まだ汚れの無い心で一生懸命考える。

 そしてもじもじと照れながら答えた。
「あ、あのね、明日香は~。う~んと強くってう~んと逞しくってう~んとかっこよくって、何でも出来ちゃうような男の人が欲しい!!」
 明日香は悩んだ末に照れながらそう答えた。

 お爺さんは目を丸くして驚いた。
「お、男の人・・・じゃとぉ?」
 おもちゃでもなく、お金でもなく・・・男とは。

「う、うん・・・明日香のお父さんはね、小さい頃に病気で死んじゃったの・・・お母さんはずっとずっと頑張ってるの」
 明日香が暗い顔をして俯いた。
 まだ幼い少女にとって、父親が居ないこと、母親が苦労していることは辛いのだろう。

 お爺さんはじっと考え込む。
「そ、そういうことか・・・う~ん・・・・・・」
 なにせ男だ。そうそうと「はいどうぞ」と渡せるものでもなかった。

 あまりにも長い沈黙に、明日香が困った声を出した。
「だ、ダメかな?」

 だが、お爺さんには考えがあった。男を渡す方法だ。
 そしてそれはお爺さんにとって一石二鳥でもあった。
「・・・よし!わかったぞ!すぐにプレゼントしてやろう!」
 お爺さんがそう言うと、明日香は純粋に喜んだ。
「やったー!!ありがとうお爺さん!!」

 その数時間後・・・つまり今だ。
 察するにレオンはお爺さんによって派遣されたのだ。

 明日香はレオンの身体をぺたぺたと触っていた。
 レオンは黙ってされるがままになっている。

 と、玄関の扉が開く音がした。
「ただいま~!!明日香~っ!!すぐご飯にするからね~!!」
 どうやら明日香の母親が帰ってきたようだ。

 そこで明日香は、レオンを紹介しようと考えた。
「あ、お母さんに紹介するね」

 レオンはそんな甘っちょろい考えの明日香の提案を否定した。
「・・・やめとけ。どうせ俺が変態扱いされて警察とやらに捕まるんだ」
「そ、そんなぁ。レオン何にも悪い事してないのに~」
「黙っていろ・・・今はな」

 興味深そうにひっついたまま離れない明日香に、レオンが尋ねた。
「・・・ところで・・・俺はどこに居ればいいんだ?」
「あ、レオンのお部屋・・・この押入れとかでいい?」
 明日香が押入れのふすまを開ける。
 中はかなり狭い。レオンなら身体を丸めなければならない。

 さすがにレオンにとっても嫌だったが、とりあえずは我慢することにした。
「む・・・・・・仕方ない・・・だがそのうち用意してくれ」
「私に言っても無理だよ~。やっぱりお母さんに言わないと~」

 レオンは窓を開けて空を見た。
「・・・ふぅ・・・こんな形で下界に来るとは・・・」

「・・・・・・」
 レオンは『天界』での日々を思い返していた・・・

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 ≪「本編開始だ」byレオン≫

 -コンコン-
 明日香の部屋がノックされた。
「明日香~。ご飯よ~」
 明日香の母親のようだ。
 仕事から帰ってきてすぐに夕食を作っていたらしい。

 明日香は返事をして宿題を中断した。
「は~い・・・・・・あ、レオンはどうするの?」
 部屋を出ようとして、レオンの食事のことが気になったようだ。

「俺は今は要らない・・・まだ下界に来て数十分だ。腹は減っていない」
 レオンが返事をする。『まだ』『下界』といろいろと普通なら疑問に思うところがあるが、マイペースな明日香はお構いなしだ。
「ふ~ん・・・じゃあ行ってくるね。私の物、触っちゃダメだよ。特に日記はね」
 明日香は階段を下りて食事に向かった。

 レオンは明日香のベッドに腰掛けた。ボロボロになったぬいぐるみが幾つか置いてある。
「なんだかごちゃごちゃとした部屋だな」
 レオンは小さなテレビをしばらく見ていたが、目を閉じた。

 レオンが唇を軽く噛み締める。
「・・・どいつもこいつも・・・特にあのクソじじい・・・」
 そもそも何故自分が下界に送られたのか。
 1つ溜め息をついてイラついた気分を抑え込む。
「・・・で、俺は明日香とやらに付いて何をしろって言うんだ?」

 天界では願った者を『願い主』、願いを叶えるために派遣された天使を『付き人』と呼ぶ。
 天使は天界に住み、下界の生物の願いを叶える為に働く。
 良いことをすれば褒美がもらえる。いわゆる慈善活動だ。
 悪魔は魔界に住み、下界の生物の欲求を満たすことで寿命などと取引をする。
 対価を払えば願いが叶う。その対価とはほとんどが魂か体力である。
 悪魔にとって魂は何にも勝るご馳走である。

 天使は長く活躍することを重視され平均寿命600年。悪魔は闘うために力が重視され、平均寿命は500年と言われている。
 また、天界には幾つかの地区があり、ほとんどの天使は地区ごとに配属される。
(今作はレオンの住む地区、「ルナ地区」しか登場しない。)
 レオンは30歳ほど。
 しかしながら、幼年期や老年期が短く、青年期が長い為、人間で言うところの18歳ぐらいである。また、レオンに関しては正確な記録があるわけではない。

 明日香の願いは『男の人』という漠然としたものだった。
 父親代わりということらしいが、どうすれば満足するのだろうか。

 レオンの見上げた空は月明かりで星が綺麗に見えていた。

 静寂・・・
 レオンの耳に会話が聞こえてくる・・・
 明日香とその母親の会話。
 畳み掛けるように話している明日香。そして疲れているのかただ聞き手に徹する母親。
 そしてついにあの話題が出た。
「・・・・・・あのバカ・・・黙ってろって言ったのに・・・」
 レオンはイスから立ち上がってゆっくりと階段を下りていった。

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 私の名前は今野美佳。明日香の母親。
 夫が病気で早くに死んでしまって、今は私1人で明日香を育てている。
 家のローンも残っていて、正直なところ生活は苦しい・・・
 仕事と家事で私の一日は終わる・・・
 だけど明日香がいるから頑張れる。素直ないい子なのよ。私の命より大切な子。
 きっと寂しいはずなのに1つも文句を言わない。思いやりのある子。

 だけど、今日は明日香の様子が変なの。
 何だか私をちらちらと顔色を伺うように見ている。

「どうしたの?何か話があるんなら聞くわよ」
 私がそういうと明日香は口を開けて何かを言おうとする。
 でもすぐにハッとして口を手で押さえる。
 言いたいけれど友達同士の内緒ごとなの?

「なあに?お母さんにも言えないことなの?何か悪い事でもしたの?」
 私がそう言うと明日香は慌てて否定した。
「え?ち、違うよ・・・ただ、お母さんにとっても嬉しいことかな~って」

 嬉しいこと。またこの子は・・・いつも漠然としてる。
「嬉しい事?何よそれ。お母さんにも教えて」
「え~?でも口止めされてるから~。お母さん、警察呼ばない?」
 明日香がもったいぶる。ホントは言いたいくせに・・・
 でも警察って何?余計わからなくなったわ。

「はあ?嬉しい事で警察なんて呼ぶわけ無いでしょ?」
「じゃあ教えちゃお」

 ようやく明日香の顔が笑顔になって、私に話をしてくれた。

 ところが!レオンとかいう男の人をお爺さんに貰ったとか意味不明な事を言い出した。
 何でも瞬間移動するお爺さんらしい・・・さっきも家に来たとかどうとか・・・
 この子・・・頭大丈夫かしら。

 はっ!我が子にこんなことを思うなんて・・・
 いけない。きっと寂しいから嘘をついてるのよね。構って欲しいのね。

「はいはい。よかったわね~」
 私はがっかりさせないように話をあわせてやる。

「あ~っ!!ぜったい信じてないでしょ!」
 すぐにそれを察して頬を膨らませてしまった。
「・・・当たり前じゃない」
 つい本当のことを言ってしまった。明日香がムッと機嫌を悪くする。
「じゃあいいよ!お母さんには会わせてあげない」

 レオンってぬいぐるみか何かかしら・・・
 そう思っていた時だった。
 誰も居ないはずなのに、キッチンの入り口から人影が見えた。

「!!?だ、誰!!?あ、明日香!警察を!!」
 私は慌てて身構える。
 泥棒!?ま、まさか我が家に・・・盗るものなんてないわよ。
 あ、明日香・・・い、今の間に早く警察を・・・

「ほら~。警察呼ばないって言ったでしょ!嘘つきー!この人がレオンだよ!」
 明日香は平気な顔をしている。

「へぇ?・・・ど、どどどどど・・・どういうこと?」
 ああ、目の前が歪んで見える・・・あ・・・意識がフッと・・・
「あ、しっかりしてよお母さん!!」
 明日香が支えてくれる。

「あ、ありがとう・・・」
 何とか起き上がった私は、改めてその青年を見る。
 上半身は裸。肌は小麦色。白いズボン。
 ちょっと長めの金髪。エメラルド色の目・・・う、ちょっとカッコイイかも・・・
 ・・・って!!違うわよ!何よ!この男は!!この人がレオン!?はあ!?

「おい!言っただろ!?今はややこしくなるから黙っていろと」
 青年が明日香にきつく言うと、明日香が落ち込んだ。
「ご、ごめんなさい・・・だって嬉しかったんだもん・・・」

 私はようやくまともな考えができるようになった。
「あ、あなたは何なんですか!!」
 私のごく当たり前の質問に、青年は怪訝そうな顔を見せた。

「俺が何か?娘から聞いただろ。俺はあんたの娘の願いのせいで選ばれちまったのさ。俺は天界に住んでいる」
 は、はああっ?願い?選ばれる??てんかいぃぃっっ????
 だ、ダメ・・・こいつ絶対ラリってる・・・

 そ、そうだ!明日香を守らなきゃ!!
「あ、明日香!!早く逃げなさい!!ここはお母さんが食い止めるから!!」
 あ、明日香の命だけでも守らなければ!!
 青年がゆっくりと近づいてくる・・・

「明日香、お前が『何でも出来る』と願ったおかげで余計に俺が選ばれた・・・なぜだか分かるか?」
 青年が明日香に話しかける。明日香も平気な顔でそれに答える。
「レオンが『何でも出来る』から?」
 何でそんなに暢気で居られるの?
 そんなこと言ってないで早く逃げて!!

 青年が片手を私に突き出しながら言った・・・
「そうだな。俺は普通の天使達より遥かに強い力と魔力を持つ・・・よく見ていろ・・・」

『マスターオブスペース!!』

 その瞬間、私は何が起こったのか全く分からなかった・・・
 全身の感覚が抜け落ちたような・・・不思議な感じ・・・
 でもぜんぜん怖くない・・・何?これ・・・
 変な感じ・・・きもち・・・いい・・・

「あ、あれ?お母さんが固まっちゃった」
 明日香の声が聞こえる・・・私、動けないみたい。

 目も開いてる・・・青年の姿が見える・・・
 でもそれだけ・・・何も出来ない・・・
 でも・・・動きたいとは思わない・・・
 ずっとこのままでもいいかも・・・
 あれ?確か変な人が入ってきて・・・
 う~ん・・・頭がうまく働かない・・・

「この力は天使に備わった力だ。通常の天使は半径10m以内の空間に居る生物・物質を支配する」
 青年の声が聞こえる・・・支配?・・・どういう意味?
「俺の場合は半径50mを支配できる」

「わあ、凄いねえ!さっすが『何でも出来る』んだ!」
 明日香の声・・・興味深いものを見つけたような無邪気な声・・・

 私の耳に声が届く・・・それはしっかりと言葉として認識される・・・
 だけど・・・深く考えられない・・・
 変なの・・・気持ちいいのにぼうっとしてる・・・
 ん?気持ちいいからぼうっとしてるのかな?あれ?どっちだろ・・・
 それに・・・心の奥底が丸裸になってる感じ・・・全てが曝け出される感じ・・・

「あれ、じゃあ何で私は平気なの?」
 明日香の声だ・・・
「対象者を選べるからだ。発動時に対象者を思い描く。それだけでいい」
「へぇ~。なるほど~」

「例えば・・・今回は『認識』を支配して見せる」
 青年の声・・・認識って?・・・私の考え?・・・
「お母さん、変わっちゃうの?」
 明日香が心配してる・・・

「俺が居る事が普通だと思わせないと、俺が居られないだろう」
 青年の声・・・気づいた。結構いい声・・・聞いてて気持ちいい・・・
「それだけなら・・・いいかな」
 明日香が許可した・・・
 そんな・・・この青年と暮らすなんて・・・
 こんなカッコイイ青年と暮らしたらよからぬ噂が立っちゃう・・・
 あれ?だから・・・こいつは怪しい人だってば。

「酷い話だ。俺は無理やり送り込まれたっていうのに・・・この扱いはあんまりだぜ」
 青年が私に向かって再び手を突き出している。

 私の心がドクンと揺さぶられた気がする・・・
 心を変えられてしまう・・・上手く言い表せないけど・・・
 そんな言いようの無い不安が襲ってくる・・・
 それなのに私の心の一部は冷静で・・・
 何故か彼の言葉をすんなりと聞き入れる・・・

「・・・俺は明日香の為にやってきた・・・明日香の為に居るんだから当然だ」
 彼の声が心地よい・・・
 すぅっと頭の中に入ってくる・・・気持ちいい・・・
 この男は・・・明日香の為に居る・・・
 だから・・・居るのは当然なのよ・・・

「・・・明日香の付き人をお前の都合で追い出してはいけない」
 明日香の付き人・・・
 だから・・・私がとやかく言ってはいけない・・・

「・・・俺は明日香の家族同然だ。だからお前の家族でもあるんだ」
 彼は明日香の家族・・・だから私の家族・・・

「・・・俺のことは友達のように接してもらって構わない。普通にレオンと呼べ」
 レオン・・・友達・・・
「・・・そして、天界から来たことには何も疑問に思わない」
 天界から来た・・・それは不思議じゃない・・・

「これは質問だ・・・まずお前の名は?そして年齢は?」
 質問・・・答えなきゃ・・・
 大丈夫・・・口が動く・・・
 思い浮かんだことがするっと口からこぼれる・・・
 不思議・・・気持ちいい・・・

「わたしのなは・・・こんの・・・みか・・・29さい・・・」

「この家に空き部屋はあるか?」
「あきべや・・・ありません・・・ものおきならひとへやありますが・・・」

「む・・・物置か。片付けられるか?」
「・・・むりです。おっとのいひんがたくさん・・・」

「そうか・・・思い出の部屋と言うわけだな。ならいい・・・明日香の押入れで我慢する」

『リリース!!』

 私はようやく自由を取り戻した。
「う・・・」
 頭が重い・・・何かがおかしい気がする・・・
 何が起こったんだろう・・・それが何かが分からない・・・
 周囲を見渡す・・・
 ・・・どうやら何も異変は起こっていないみたい。

「お母さん。大丈夫?」
 明日香の声が聞こえる。
 私は少し頭を整理した・・・

「うん。大丈夫・・・ちょっとめまいがしただけ・・・」
 私が明日香の方を見ると、青年の姿が見えた。
 そうだ、彼は・・・

「あ、レオン・・・あなたの分の夕食もいるかしら?女2人だと時々余っちゃって」
 彼はレオン。明日香が願ったから付き人にされたんだって。
 そんな彼だから私にとっても家族同然。
 そして彼と私は友達のように仲がいいのよ。

「ん・・・じゃあ少しだけいただくとする」
 レオンが返事した。じゃあ準備をしなくちゃ。

 レオンが黙々と私の作ったご飯を食べる・・・
 天界で暮らしていたレオンの口に合うかしら・・・
「ねえレオン。天界でも食事はするの?」
 いろいろ聞いてみたいことがある。私は積極的に質問した。

「天界では食事は要らない。ストレス発散のためのおやつみたいな物はあるけどな・・・まあ少しは食わないと消化器が弱ってしまうわけだ。睡眠をとれば体力は戻る。水分は必要だけどな」
 レオンが質問に答えた。別に無口ってわけではなさそうね。
 それにしても天界ってところは不思議なところね。
「へぇ~。食べなくてもいいなんて便利なのね~。何か娯楽とかはあるの?電気とかは?」
「天界ではほとんどが自然の物だ。鉱石でできた建物・・・そこで行われる演劇とかそのくらいだな・・・まさに古き良きニホンだ」
「へぇ~。原始的なのね~」

 私がレオンと話していると明日香が驚いた顔で私を見ている。
「??どうしたの?明日香。何か顔についてる?」
「え?別に・・・凄いんだな~っと思って・・・」
「凄い?・・・ああ、睡眠だけでいいってこと?」
 明日香は苦笑いをしてまた食事を食べ始めた。
 なんで驚いてたのかしら・・・私が言うのも変だけど、変な子。

「美佳。これは何と言う?」
 レオンが怪訝な顔をして料理の1品を指差した。
「あ、ああ。それはお味噌汁・・・不味かったかしら?」
「いや、逆だ。美味い・・・と言うのだろ?こういう気分の時は」
「ふふふふっ。天界の人にお味噌汁が合うなんて・・・」
 ホントにレオンったら面白いんだから。

――――――――――――――――――――

 食卓に3人が座っている。
 レオンは美佳の味噌汁は全て飲み干した。

「ねえ。レオンは天界で何をやっていたの?」
 明日香が質問をぶつけてみる。

 レオンは少し表情を曇らせて答えた。
「・・・何も。俺は天使と悪魔のハーフだ。悪魔のバカが天使の1人を強姦して子供を孕んだ・・・その時の子供が俺だ・・・母親は生まれてくる子供に罪は無いからと周囲の反対を押し切って俺を産んだ・・・母親は悪魔の子を生んだ負担があったせいか、すぐに死んだらしい・・・俺は優秀だった母親へのせめてもの情けで天界に置いてもらっているだけだ・・・悪魔の血のおかげで力はずば抜けているが・・・誰も俺を天使として認めてはくれないのさ」

 悪魔の種子は繁殖能力が高い。闘いによって命を落とすことが多いからだと言われている。
 そして男女とも強い者を本能的に求める。
 一方の天使の種子の場合は、女性が望まなければ孕まない。

 その話に反応したのは明日香だった。
「・・・へえ・・・孤独・・・なんだね・・・」
「・・・そうだな・・・ずっと1人で下界を眺めていた・・・」
 レオンは一瞬だけ悲しそうな目をしたが、ふとキツイ表情に戻った。弱さは見せたくないらしい。

「で、何でレオンが選ばれたの?」
 明日香は恐る恐る聞いてみる。何故レオンは嫌がっているのだろうか・・・
「・・・俺は・・・」
 レオンは落ち着いた口調で話し始めた。

――――――――――――――――――――

 天界で10年に1回の力を競う格闘大会があった・・・
 俺はとある理由でその大会に出る事にした・・・何せ体力にも魔力にも自身はあったからな。

「ぐあっ・・・ま、参った・・・」
「・・・弱いな。もっと強い奴は居ないのか!!」
 俺は間違いなくトップの実力だった。

 すると大会関係者が慌て始めた。
 純粋な天使ではない俺に優勝されては困るからだ。
 準決勝からはあらゆる手で俺を潰しにかかってきた。
 だが、俺は優勝した・・・

 そもそもこの大会は、審査でもあるんだ。
 うまく行けば天使階級が飛び飛びに上がっていく。
 失敗すれば稀に逆もあるがな。まあ大会に出てると言うことは皆自信があると言うことだ。

 大会関係者は協議の末、俺を試してみることにした。
 本来は階級を持つものしか任されない任務を俺にさせるというのだ。

 だがそれは、任務を与えて議論を先延ばしにするのが目的だった。
 大会優勝者を認めるわけにはいかない。かといって混血に階級を与えるわけにもいかない。
 そして与えられた任務が・・・明日香の願いをかなえることだった・・・

 俺は部屋に呼ばれた。そこで俺は任務を拒絶した。
「ふ、ふざけるな!!そんな不定期な長期任務!!5階級以上じゃなければ任されないはずだ!!何故試験でそこまでやる必要がある!!」
「う、煩いっ!!お前の実力を見込んだからじゃ!!」
 じじいが反論した。そのじじいがお前が日中に会った奴だ。

 じじいには悪い癖があってな。下界で色んな人物に物をねだっては反応を見て楽しんでるんだよ。
 そして勝手に能力を使ってプレゼントや天罰を与えたりしている。あれはボケてるな。半分。

 まあ当然だろう。俺はすかさずじじいの責任を追及した。
「大体お前が下界で遊んでいたのが原因だろうが!!」

「お、お前だと??わしに向かって・・・お前呼ばわりとは!!」
「話をすりかえるな!!お前の責任を俺に押し付けるなって言ってるんだよ!!」
「む・・・むむう・・・しかし・・・満場一致で決定したことじゃ・・・それに、強く逞しく魔力の大きい男といったらお前が一番ふさわしい!!」

 ふざけてるよな?俺がふさわしいから・・・本当の理由はそうじゃないのに・・・
 本当の理由は議論の先延ばし・・・下界の政治家もよくやってるだろ?
 だが俺は無駄だと知りつつも諦められなかった。
「な、何で俺が行かなきゃいけないんだよ!!」

 やはりじじいも一歩も退かなかった。
「煩い!これも修行のうちだと思え!」
「単なる厄介払いだろ!!おい、ま、待ってくれ!!俺は・・・」

 そのときだった。制止を振り払って入ってきた女性が居た。
「シオン!!そ、そんな!!ま、待ってください!!彼は!!」
 その女性は俺の婚約者・・・リファイスだ。
 おせっかいな奴で、明るくて、清楚で。そして美しい女だ。
 とにかく唯一俺が本気で愛した、いや、愛している女だ。

 そうそう。俺の天界での名はシオンって言うんだ。
 何故シオンと言うかというと・・・おっと。話が逸れてしまったな。

 俺はリファイスと離れたくなかった。ようやく結ばれるはずだった。色んな壁を取り払ったはずだった。
「リファイス・・・畜生っ!!リファ・・・」
「シオーーンッ!!」
 結局、俺とリファイスの仲も裂かれ、俺はじじいの魔法によって下界に強制送還された・・・

――――――――――――――――――――

「そしてここに送られたってわけだ・・・嫌々送られたんだ。がっかりしたか?」

 明日香はあまり理解できていないようだ。
「・・・よくわかんないけど・・・レオンも大変なんだね!」
『も』・・・ということは暗に自分も大変だと言いたいのだ。

 レオンは明日香に言ったことを後悔しながら、2階に上がろうとした。
「お前に心配される筋合いは無い・・・俺は部屋に戻る・・・」

「あ、レオン!お風呂はどうする?」
 美佳が洗い物をしながら話しかける。
「ああ、一番最後で良い・・・掃除も俺がしておく」
 さりげなく、忙しい美佳への気遣いもするレオン。

 明日香が部屋に戻ってきた。
「レオン~。お話もっと聞かせてよ~」
 押入れの扉ががらがらと開いて、レオンが顔を出した。

「・・・その前にどうすれば任務が終わるかを伝えておく・・・」
 そしてゆっくりと押入れから降りて明日香の前に立った。

 レオンは明日香の目の前にあぐらをかいて座った。そして話し始めた。
「お前が心から俺を『要らない!』と言えば任務失敗で帰れる・・・」
「で、でも・・・天使になれないよ?」

「任務成功も、俺を心から『要らない』と言うことだ・・・違いは分かるな?『もう十分だよ今まで有難う』っていう『要らない』だ・・・わかったか?」
「う、うん・・・」
「つまり・・・俺は最悪お前が死ぬまで居なければならない」
「へぇ~・・・私次第なんだね!」
「ああ・・・」
「私がレオンの運命を握ってるんだね!」
 明日香がニパッと笑顔を見せた。
 レオンはその悪戯っぽい笑顔の意味を察した。
「む・・・先が思いやられるぜ・・・」

「明日香~っ!!お風呂入るわよ~!!」
 美佳の声が聞こえる。
「わかった~。今行く~」
 美佳が着替えを持って階段を下りていった。

「・・・まだ風呂も親と一緒か・・・」
 レオンは窓を開けて空を見上げた。
「最高で80年程・・・リファイス・・・どうか俺を忘れないでくれ・・・」
 ・・・・・・・・・・

「レオンー!お風呂空いたよー!」
 明日香の声が聞こえる。
 レオンはすたすたと階段を下りて風呂場に向かった。

 風呂場へ向かう途中で、バスタオル姿の明日香と美佳に出会った。

「あ、レオン。シャンプーとかは適当に使ってね」
 そう言う美佳の身体は熟した女という感じだ。
 何より2つの膨らみがしっかりしているのが分かる。

(・・・リファイス・・・)
 レオンはリファイスの身体を思い返していた。
 そんなレオンを怪しんで美佳が声をかける。
「やだ、固まっちゃって・・・どうしたの?」
「!!なんでもない・・・気にするな」
 レオンは美佳の顔をちらりと見ると、風呂場の扉を開けた。

-ザーーーーッ-
 レオンは濡れた身体で鏡の前に立った。
「・・・んんっ!!」
 腕に力を入れて力む。
-バサァッ-
 背中からふわふわの天使の翼が生える。大きな翼だ。
 シャワーで濡れて、一枚の羽根が抜け落ちた。
 腕を伸ばしてその羽根を拾う。

「ふっ・・・聞いたことねえぜ・・・真っ黒な天使の羽根なんて・・・」
 そう。レオンの羽根は何故か黒だった。恐らく悪魔の翼の色だろう。
 レオンは自虐的な笑みを浮かべ、背中の羽根をシャワーで洗った。
(・・・・・・)

 「へぇ~。黒い翼か~」
 人影の無いところで俺は翼を開いていた。
 そこにアイツが現れた・・・リファイス・・・
 「な、何だよ・・・俺に近づくな」

 そいつは首をかしげて言った。
 「・・・どうして?」
「何?」
「どうして近づいちゃいけないの?」
 「お、お前が天使で俺は天使では無いからだ」
 「関係ないわ。そんな事・・・ねえ。もっと見せてよ。その翼」
 俺は何も言わずに翼を引っ込めた。

 「あ!・・・あ~あ・・・そんなに嫌わなくてもいいじゃない」
 「五月蝿い!俺に話しかけるな!」
 俺はそいつから離れるようにその場所を移動した。

 「あ、ねえ!この羽根・・・貰ってもいい?」
 そいつは落ちた黒い羽根を拾って俺に見せ付けた。
 「・・・好きにしろ」
 どうせ研究材料にするに決まっている。
 俺は即座にその場を離れた・・・

 レオンは手に持った羽根をぎゅっと握り締めると、翼を引っ込めた。
 そして窓を開けてその羽根を飛ばした。

 「・・・あなたはあなたなんだから・・・」

 レオンは月を見上げながら再び悲しい目を見せた。

 夜・・・
 明日香はすやすやと眠っている。
 レオンは押入れの中で考え事をしていた。
 天界でのこと・・・リファイスのこと。
 そして、リファイスを想っているうちにムラムラし始めた。
(リファイス・・・逢いたい・・・たまらない・・・)
 レオンは意を決して扉を開くと、音を立てないように階段を下りた。

――――――――――――――――――――

 私は自分の部屋で書類をまとめていた。
 明日香はもう眠ったようだけど、私はやる事が山ほどある。
 仕事に行って、買い物をして、食事を作って、家事をして、明日の仕事に備える。
 そして死んだように眠り込む・・・朝早く起きるために・・・
 もう数年間この調子・・・

-ガチャッ-
 レオンが入ってきた。
 私はいきなりの訪問に文句を言った。
「ちょっと!ノックぐらいしたらどうなの?」
 あきれた顔でレオンを見ると、レオンは俯いたままだった。
「レオン?・・・」
 何だか様子が変だった・・・

 私は次に聞こえた台詞に耳を疑った。
「・・・犯させてくれ・・・」

 今・・・とんでもない事を言わなかった?
 犯す?・・・天使が人間を?
 バカなことをいわないで!!
 いくら友達でも許せない!!
「何を言ってるのよ!私は明日香の母親なの!」

 レオンはあくまでも私を抱くみたい。
「・・・関係ない・・・」
 関係ないですって?冗談じゃないわ!!
「関係あるわよ!!」

 レオンは俯いたままでその表情は読めない。
 そしてぼそっと呟いた。
「・・・仕方ない・・・」
 ほっ。どうやら諦めたようね。
 でもそれは・・・諦める意味とは違ったみたい。

『マスターオブスペース!!』

 うっ・・・嘘・・・また・・・これ?
 ・・・え?・・・また?・・・
 もしかして1度受けたことがあるの?
 身体が動かない・・・
 ・・・きもち・・・いい・・・

「・・・今回もお前の『認識』を支配する」
 そう言って初めてレオンが顔を上げた。
 その表情には怪しい笑みが浮かんでいた。
 でもどこか寂しいような・・・悲しいような・・・そんな目だった。

 そして手を私に向ける。
 まただわ。あの心を鷲掴みにされるような不思議な感覚・・・

 今、私の全てがレオンの手の中にある・・・
 そして私はそれを受け入れている・・・

「・・・お前は寂しくないのか?ずっとこの生活が続いて・・・」
 寂しい?・・・質問?
「・・・さびしくない。あすかが・・・いるから」
 そうよ・・・明日香がいれば私は幸せなんだから。

「・・・そうか。火照ったりしたらどうしているんだ?」
 火照る?・・・ムラムラしたらってこと?
「・・・ときどきひとりでなぐさめてます・・・あすかにかくれて・・・といれで」

「・・・虚しくならないか?」
 レオンが言った言葉・・・心に引っかかった・・・
 虚しい?・・・そんなこと・・・考えた事も無かった。
 今まで考える暇も無かった・・・

 最後にあの人とセックスしてからずいぶん経った。
 時々性欲が湧き上がる。
 だって私だって熟れた女性なのよ。
 普段我慢しているから、たまに意識するとムラムラっとする。
 そして・・・アイドルの写真を見ながら妄想する・・・

 空想の相手とセックスする・・・
 その行為が終わったら・・・最後に残る感情は・・・

「・・・むなしい・・・」

「もっと自分の欲を持っても良いんじゃないか?」
 レオンの・・・優しい声・・・
 私の・・・欲・・・

「性欲だ。夫に先立たれて数年間・・・1人きりで辛かっただろ?」
 性欲?夫に死なれて・・・他の男にはそんな気は沸かなくて・・・
 だけど身体は女をやめることを許してくれなくて・・・

 ・・・私・・・相手が居ないから・・・ずっと1人で・・・抑えてきた・・・
 そして言いようの無い虚しさが込み上げる・・・

「・・・つらかった・・・ずっとひとり・・・」

「相手なら居る。レオンだ・・・久しぶりに男の身体を見て、お前の数年間抑えていた感情が爆発する」
 レオン・・・男・・・感情・・・爆発・・・
「もう我慢する必要は無い・・・レオンなら交わってもいい。なぜなら天界人だからだ。下界の人間じゃないからいいんだ」
 我慢しないでいい・・・レオンと交わる・・・
 本当にいいの?我慢しなくていいの?女で居ていいの?

『リリース!!』

 私の体の自由が戻る・・・
 私の目の前に・・・レオンが居る・・・
 さっきはなんとも思わなかった彼の裸の上半身・・・
 モデルのような美しい顔・・・
 逞しい筋肉・・・
 ・・・オトコノカラダ・・・
 あれ・・・なんだろう・・・この胸がざわつく感じは・・・

「れ、レオン?・・・」
 何故か私は彼の名前を呼んだ。
 頭の中にさっきのレオンの台詞がこだまする。
 犯させてくれ・・・確かに彼はそういった。
 ・・・セックス・・・男性との・・・

 なんか・・・身体の内側が変な感じ・・・ぞわぞわする・・・
 か、身体が熱い・・・心臓がドキドキと速くなって・・・
 何より・・・下腹部が・・・物足りない・・・
 胸が・・・胸がじんじんしてる・・・触れて・・・思いっきり揉んで・・・
 欲しい・・・男性の・・・アレが・・・
 アレ?・・・そんな・・・数えるぐらいしか入れてないものなのに・・・

 いつもなら自分で慰める・・・けど・・・
 目の前に本物の男性が居る・・・
 私を犯したいと言った男性が居る・・・
 だから・・・今日はそれだけじゃあ足りないのよ・・・
 思いっきり・・・慰めるだけじゃダメ・・・激しく!!

 私の口から考えとは違う言葉が漏れる。
 だ、ダメ!!言ってはダメェ・・・
「あ、あなたが悪いのよ・・・あなたが明日香の付き人として家に来たから・・・」
 これじゃあレオンを誘っているみたい・・・
「わ、私・・・私を・・・」
 私は何かを言おうとしている・・・
 これを言ってしまえば何かが壊れてしまう気がする・・・

 夫・・・明日香・・・
 2人の顔が頭にちらつく。
 罪悪感が胸に込み上げてくる・・・
 でもそれ以上にレオンの身体が私の頭を支配する・・・
 罪悪感がゾクゾクと背中を走る・・・
 いけないことをする・・・頭がぼうっとする・・・

 どうすればいいの?言えばいいの?言ったらダメなの?
 何だか頭が混乱してくる・・・考えるのが億劫になってくる・・・
 いつの間にか口で荒い息をしている・・・
 息をするたびに胸が上下する・・・
 乳首が透けてないか意識してしまう・・・
 レオンが見ているような気がする・・・いや、見て欲しいんだ・・・
 そして・・・飛びついてむさぼりついて欲しい・・・私の身体に・・・

 だ、ダメ・・・今日の私はおかしい。どうしちゃったんだろ。
 い、今までこれほど激しい性欲なんて無かったのに・・・
 まるで今まで我慢していたものが一気に襲ってきたみたい。
 こ、これ以上我慢したら・・・どうにかなりそう・・・
 理性がどんどん沸騰して気化していく・・・
 心臓がバクバクして苦しい・・・
 何でレオンは何も言ってくれないの?
 さっき「犯したい」って言ってたじゃない。
 どうして抱きしめてくれないの?

 わ、私から・・・私から行けばいいんだ。
 きっと私の返事を待っている・・・

 身体が熱っぽい・・・吐く息がひどく熱い・・・
 もう身体中が熱くて熱くて・・・
 胸がぱんぱんに張ってる・・・きっと乳首もツンツンになってる・・・
 ちょっと触れば中に詰まった気持ちが弾けてしまいそう。
 下腹部がジュンってなって・・・
 あ・・・ひょっとしてパンツにまで染みてる?かな・・・

 求めているものはただ1つ・・・オトコノカラダ・・・
 その男の身体は目の前にある・・・欲しい・・・たまらない・・・
 少し・・・少し手を伸ばせば・・・

 あ、脚が勝手に動く・・・
 勝手に?違う・・・そんなのは言い訳・・・
 私は自分の意思で脚を動かしている・・・
 最後のひとかけらの理性が必死で止めようとする・・・
 じゃあ今の私は本能だけの存在?

 言ってしまえば・・・何かが壊れる・・・
 だったら・・・何も言わずに・・・抱きつけばいいじゃない。

 私はふらふらとレオンに近づき・・・
 最後は跳び付く様にレオンに抱きついた。
 くんくんと匂いをかぐと若い男の匂いがする。
 あ、ああ・・・これが・・・男の人の身体・・・
 天使でも男なのね・・・綺麗な身体・・・

 初めてと言ってもいいかもしれない・・・引き締まった身体の人は・・・
 ジャニーズにも入れるくらいの美青年と・・・セックス・・・
 それに、レオンも少しドキドキしてるみたい。

 久しぶりに感じた・・・安心感・・・
 抱かれているとすごくホッとする。
 このままずっと抱かれていたい・・・

 そしてそれをやめさせようとする別の感情が・・・
 はやく、はやくセックスしたい・・・

「美佳・・・」
 レオンがようやく喋った。

「はぁ・・・レ、レオン・・・」
 私の手は自然と彼の股間に伸びてさすっている。
 ズボンの上からでも分かる・・・おっきい・・・
 これが私のおま○こに入るのね・・・

 やだ、私・・・そんなはしたない女じゃない・・・

 何を言ってるの?・・・今更・・・

 ち、違う・・・長年我慢してたから反動で・・・

 違うわ・・・これが私の本当の姿・・・
 今までは明日香や夫を理由に抑えてきただけ・・・
 そして目の前で男を見た・・・もう我慢できない・・・

 抑えられない・・・ダメってわかってるのに・・・
 これを言ってしまえば・・・何かが壊れるのに・・・
 黙って受け入れるだけで済ませたかったのに・・・

「レオン・・・私・・・あなたが欲しい・・・」
 言ってしまった・・・私から誘ってしまった・・・

 きっと私は認めたんだ・・・男の身体が欲しい・・・
 そして、本気だと伝えたかった・・・

 ごめんなさい・・・あなた・・・私、出会ったばかりの天使とセックスする・・・
 ごめんね・・・明日香・・・あなたの付き人とセックスする・・・

 ・・・ごめんなさい?・・・ホントにそう思ってるの?

 え?思ってるわよ・・・もちろん・・・

 ・・・違う・・・私を一人にした夫も・・・レオンを呼んだ明日香も・・・
 私は悪くない。そうよ。今まで我慢したのは私・・・
 なんだかバカみたい・・・もう我慢なんてしない。
 そうよ。これからは相手が居るじゃない。
 これからはレオンが居る・・・

 レオンは結構背が高い。
 私も高いほうだとは思うけど・・・
 背伸びをして彼の首に腕をまわす。
 そして口付けをする・・・深い深い口付け・・・
 レオンも私に答えて舌を絡み付けてくる。

 レオンの唾液が私の喉を通る。
 こんな味だっけ・・・キスって・・・
 もう・・・後には戻れない・・・
 今はとことん・・・この欲望におぼれたい・・・

「レオン・・・レオン!!」
 私は凄い形相でレオンを押し倒していた。

 きっと今の私は狂ってるんだ。
 いえ、今までが狂っていたのかも・・・
 そしてこれからが正常・・・
 そう。それが人間だもん。
 私、女だもん。

 急いで服を脱ぐ。
 急いで、急いで下着を脱ぐ。
 慌てすぎてなかなか脱げない・・・
 やだ・・・色気のない下着・・・嫌われないかな・・・

「はあ・・・はあ・・・」
 レオン・・・絶対に離さない・・・
 レオンをつかむ手に力が入る。
 厭らしい女だと思われるかもしれない・・・
 だけど私の理性はもう傍観することしか出来なかった。

 レオンは抵抗しない。
 よかった。私がリードして良いのね。
「ん・・・はあっ・・・レオン・・・」
 レオンの身体を、男の身体を確かめるように身体をこすり付ける。
 この肌触り・・・逞しい・・・身体を預けたくなる・・・
 夫なんかよりずっと素敵な身体・・・

 ぱんぱんに張った胸が擦れて・・・乳首が擦れて・・・
「はぁ・・・はぁ・・・んっ・・・はぁっ・・・」
 やだ・・・もう感じる・・・

「あっ・・・れ、レオンも!!私に触れて!!弄って!!めちゃくちゃにして!!」
 レオンの手が私の胸に伸びる。
 す~っと指をなぞって私を調べている。
「んあっ」
 私がビクンと反応すると、レオンはそこを重点的に再び調べ始めた。

「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
 凄く上手・・・手馴れてる・・・
 短時間で私の性感帯を探り当てた。
 そう、私が求めたのはこの快感。
 身体が喜んでいるのが分かる。
 もっと、もっと、と私の心臓は鼓動をもっとドキドキさせて私を急かす。

「っ!!!」
 軽くイッた・・・だけど身体は満足しない。
 再び快感を求めて動き出す。
「レオン!!し、下も!!」
 私はレオンの手を取って恥部へと導いた。

「・・・ずいぶん入念に手入れしているようだな」
 レオンが指の感覚だけでそう断言した。
 そうよ。だっていつこんな時があるか分からなかったから・・・
 いいでしょ?気分だけでも・・・
 あ、レオンの指が入った。

「あん・・・」
 私ははしたない声を出す・・・

「・・・思ったより締りが良い。1人産んだとは思えないな」
 レオンが褒めてくれる。
 私のお腹がきゅうっと音を立てたのが分かった。
 あれ?そんなに嬉しいの?
 くちゅくちゅと音が聞こえる。

 もう十分よね・・・ラストスパートをかけろと脳が命令する。

「レオンッ!!」
 私はレオンのズボンを急いで下ろした。
 痛かったのか、レオンが少し嫌な顔をした。
 ごめんね。止まらないの。

 私はレオンにまたがっておま○こを指で広げる。
 そしてゆっくりとレオンのペニスの上に腰を降ろす。
 私が上になるなんて、しかもまたがるなんて初めて・・・
 しかもペニスを握りながら・・・

「んんっ!!」
 レオンのペニスが私の膣を広げる。
 いい・・・凄くいい・・・この感じ・・・

「んっ!んっ!んんっ!あっ!」
 激しく腰を動かす。ときおり優しく・・・
 ざば~んと大きな波が私を飲み込んで、さざ波が私を浜に押し返す・・・
 私はただぷか~っと身を委ねるだけ・・・泳がないし泳げない・・・

 あ、明日の仕事・・・もうどうでもいいや・・・
 脚の付け根に力を入れて締め付ける。
 逃がさない。放さないんだから。

 レオンが途端に顔をしかめた。
「くっ・・・き、きつい・・・」
 レオンのペニスが脈打ってるのが分かる。
 直感で分かる。そろそろだ・・・
 あ、赤ちゃんできちゃう!・・・でもいいや。気持ちいいから。
 このまま中で・・・
「な、中で出してぇっ!!」

 レオンのペニスが膨らんで、お腹の中にドクドクと精液が流れ込んでくる。
「あああぁぁぁっっっ!!!!」
 あ、熱い・・・凄い勢い・・・子宮にまで入ってくる・・・
 それに凄い量・・・幸せ・・・

 そう実感した時、フッと力が抜けて、腰が砕けた。
 だめだ・・・力が入らないや・・・あはは・・・
 しかも・・・気持ち良すぎる・・・このまま眠りたい・・・凄く眠い・・・
 レオンに重なるようにして私は気を失った。
 凄い充実感・・・こんなに嬉しいのは初めて。

 また・・・しましょうね・・・レオン・・・・・・

――――――――――――――――――――

 レオンは幸せそうに眠る美佳をどかせた。
「ふう・・・なかなか良かったな」
 そして後始末をして明日香の部屋の押入れに戻った。
 あれだけの喘ぎ声を聞いても明日香は眠っているようだ。

「しばらくは美佳で発散するか」
 レオンはぼそっとそう呟いて下界で初めての眠りに付いた。

< つづく >

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