へたれ悪魔と七英雄 へたれ悪魔、大聖堂で対決する

 ……俺の前には現在世界最強であろう女の一人がいる。
 しかもその女が烈火の如く怒っている。
 この威圧感、絶望感は味わった者にしか分からないと思う。
 目の前に居るまだ20そこそこの綺麗な女がドラゴンより強いと言われて、『ああ、なるほど』なんて答える奴はいないだろう。

 とにかく俺の奥歯はガチガチ鳴りっぱなし、体には悪寒が走り冷や汗が噴き出し、小便を漏らさない事だけが唯一の矜持といった有様だった。
 その女、ソフィーヤが俺の前でぶつぶつと人間には理解出来ない言語を呟く。
 ヤバい、神聖語だ!強力な白魔法が―――――来る!
 しかし俺の足は恐怖のあまり、地面に根が這ったように動かない。ダメだ……死んだ……。

 その時突然、人影がソフィーヤに体当たりをしもろとも倒れこんだ。ルカだった。
 泣きながら必死の形相で叫ぶ。

「マルコーダ様、逃げて! 逃げてください!」

 ルカの気迫に押されるように俺の脚に僅かながら力が戻る。
 俺はヨロヨロと立ち上がり、傍らにあった布袋を引っ掴むと全裸のまま駆け出した。

「ルカ! 離してください!」
「ダメ! 駄目です! マルコーダ様を殺さないで!」
「そうです、マルコーダ様は私達の大事な人です! 絶対に殺させません!」

 後ろから聞こえる争いの声を背に俺は、脱兎の如くその場から逃げ出していた……。

 どうやってここに辿り着いたか覚えてない。
 俺は大聖堂にずらりと並んだ木製の長椅子の下で、ガキのようにガタガタと震えていた。
 どうすりゃいいんだ!どうすりゃ!
 半ばパニックの頭で俺は必死に考える。

 ……そしてふと気づく。
 このまま逃げればとりあえずは安全なのに、どうして俺はそうしなかった?
 もちろん全裸だからとか、そんな馬鹿な理由じゃない。

 ……これはひょっとしてチャンスなんじゃないか?
 ルカ達の事はもちろん心配だが、まさか殺されはしないだろう。
 俺の魔力がディスペルされるとしたら非常にピンチだが、<解呪>は黒魔法の領分だ。ソフィーヤには無理だ。
 <呪術治癒>もあるがアレは儀式が必要なはずだ。そんな事をしている暇は無いだろう。
 せいぜい<平心>で一時的に感情をフラットに戻す位だろう。若しくは<平和>で戦意を失わせるか……。
 なら、根っこに俺への忠誠が残ってるエロ奴隷達は戦力にはならないだろう。
 皆を起こしてる時間も無い以上、ソフィーヤはここまで一人で俺を追ってくる可能性が高い。
 冷静なら罠の可能性も考えるだろうが、今アイツは怒り心頭に発している。だからルカのタックルもあっさり喰らった。

 ……やっと頭が正常に機能してきた。
 俺は何とか持ち出す事に成功した布袋をギュッと握り締める。
 一回しか使えないし、たった一人にしか効かないが、今がコレを使える最初で最後のチャンスだ。
 頑張れ、俺!ここが正念場だ。……もの凄く怖いけど……。

 案の定、ソフィーヤは一人でやって来た。足音で分かる。
 俺はゆっくりと立ち上がり、彼女と対峙する。くそ、震えるな、足。

 ……それにしても……薄暗闇の中でもソフィーヤの美しさは際立っていた。
 緩やかなウェーブを描きながら腰まで伸びる金髪は、窓から差し込む月明かりの光でも輝きを失わず、まるで天の川のように煌いて見える。
 やや垂れ気味の優しそうな藍色の瞳は、今は怒りの為多少吊り上ってはいるものの、見る者に信頼や安心感を与えてくる。
 マリアに比べると胸のサイズは小さいが、それでも充分なボリュームで神官服を押し上げている。
 腰のくびれ、安産型の大きめで丸みを帯びた尻、すらりと伸びた長い足、細くて繊細そうな指。
 そして悪魔の俺だけが分かる事。ソフィーヤの体は白く光る薄い膜に覆われていた。あれが<絶対聖域>だ。

 ……完璧だ。

 今、分かった。俺が逃げなかったのは名案が思いつきそうだったからなんかじゃない。
 こいつが欲しかった。
 こいつを抱きたかったからだ。
 逃げてしまえばソフィーヤを抱くチャンスは二度と無くなる。
 それを俺の魂が拒否したんだ。
 ……俺はそんな事の為に、今、命を懸けようとしている。

 自分の馬鹿さ加減に呆れ、俺の唇が自然に笑いの形に歪んでいく。
 笑いながら足を震わせ、世界最強の女に挑む陰茎を勃起させた全裸の男。世の中にこんなマヌケなシチュエーションが存在するだろうか。

 俺の異様な精神状態を察したのだろうか、ソフィーヤが哀れむような声で尋ねてくる。

「もう、逃げたかと思っていました。……まさか戦うつもりですか?」

 その通りだと答えたいがビビリ過ぎて声が出ない。
 逃げてれば許してくれたのか?全く、お優しいな。でもそんなのは違う。俺はお前を抱きたい、犯したいんだよソフィーヤ!
 声が出ない俺の心で様々な思考が交錯する。ああ、こんな時にカッコいい台詞が吐ける立派な悪魔になりたかった。
 ……ちょ、ちょっと待て。ダメだ、この思考は死ぬモードだ。切り替えなきゃ……。

 大混乱の俺にソフィーヤが厳かに宣告する。

「今からあなたに<浄化>を掛けます。……痛みや苦しみはありません」

 走馬灯の中で母上様に会っていた俺は、その言葉でようやく我に返る。
 ……死にたくない。もっとエロい事したい。……やるしかない!
 俺はソフィーヤから死角になるように、前の長椅子の背もたれの背後に垂らしていた腕を持ち上げる。そして掴んでいた禍々しい装飾の施された楕円形の鏡にありったけの魔力を込め、彼女に向けた。
 鏡は俺の魔力を貪欲に吸い込み、漆黒の光をソフィーヤに向け放つ。

「きゃああああああああぁぁぁっ!!」

 チラッと鏡を見たと思った瞬間、ソフィーヤが絶叫を放つ。そして身を捩り、顔を押さえて倒れこんでしまった。そのままピクリとも動かない。
 お、おいおい、大丈夫か?こんな風になるなんて聞いてないそ。……まさか死んだんじゃ……。
 ソフィーヤの体を包んでいた淡く白い光は消えていた。
 俺は恐る恐るソフィーヤの元に近寄ると肩を揺すってみる。

「……おい、おい、ソフィーヤ? 大丈……」
「んだぁ、てめぇ、気安く触ってんじゃねーよ! そんなに触りたきゃ金払え、糞フニャチン野郎が!!」

 いきなり乱暴に手を払いのけられ、ドスの効いた声と共に俺を睨みつけてくる。ソフィーヤが。……あの、ソフィーヤが。

「い、いや、あの……」
「んだよ、てめぇ、言いたい事あんなら、はっきり喋れよ、マジウゼェ」
「えーと、その……」
「キモい、マジお前キモいよ、そのうえ全裸かよ……最悪じゃねーか」
「あ……悪い……」

 思わず謝ってしまった。……てゆうかサマエラァァァ!!

 『反逆の鏡』……サマエラから借りた、今、俺がソフィーヤに使った魔具の名前だ。この鏡を覗いた人間は、その鏡に映し出されたそいつの真逆の人格になってしまう。
 <絶対聖域>とはいえ、自分や仲間からの精神補助呪文は普通に効く。なら、自らが望んで自らに掛けたと思い込ませる事が出来たら……。
 サマエラはしたり顔で言ったものだ。

『だからねぇ……私達の力で<絶対聖域>を破るのが不可能なら、向こうから解かせちゃえばいいのよ。人格反転しちゃえば当然白魔法も大嫌いになるはずでしょお? 清廉潔白、品行方正の大司教様には効果絶大だと思うわよぉ』

 ……効果絶大すぎんだよ、バカヤロォォォ!どうすんだ、これ?マジにどうしよう。
 俺が悩んでる間にソフィーヤは俺にのしかかって来た。魔力空っぽで青息吐息の俺は簡単に組み敷かれてしまう。

「ホント、キモいなお前。素っ裸で誘ってきやがって。そんなに私とやりてえのか?」

 そう言って、ぺロリと舌なめずりする。……エロい。あ、いや、そうじゃなくて、やりたいのはやりたいけど、今のお前じゃなくて……。
 俺の返事も待たずソフィーヤは俺の乳首を舐めてくる。それも触れるか触れないかの所で焦らすように……。
 ヤバい、凄い興奮する。目覚めてはいけない性癖に目覚めそうだ。ソフィーヤも興奮しているらしい。顔を紅潮させている。

「悪魔とやるなんてスゲー興奮するな。お前のくっせぇチンポしゃぶってやるよ、ありがたく思え」

 ソフィーヤの頭がするすると俺の下半身の方に下がっていく。俺の息子は既に臨戦態勢だ。だってしょうがない。口調はアレだが、顔も体もまんまソフィーヤなんだ。興奮しない方がどうかしてる。最も表情はいつもの優しげな微笑ではなく、意地悪そうな嘲笑に変わっていたが。
 このまま犯しちゃうっていうか、犯されちゃってもいいのかもしれないが、それは淫魔としての沽券に係わる気がする。
 ……ん?待てよ。今、ソフィーヤは<絶対聖域>を張っていない。
 あった。魔力ゼロの今の俺に出来る事がたった一つだけあった。

「ソフィーヤ、使命を思い出せ! 大司教としてのお前の務めは妹として、大聖堂にやって来た悪魔に尽くし抜く事だ!」

 『支配者の鉄杭』の力を使う。結界魔具は一度設置すれば、破壊されない限り永遠に効力を発揮する。俺はそれに賭けた。
 ソフィーヤの顔に明らかな表情の変化が浮かぶ。意地悪そうな顔からどちらかといえば生意気そうな顔になってる。

「はぁ、大司教の仕事じゃしょうがない。さっさと辞めてえよ、こんな仕事……兄ちゃん、ちんちんしゃぶらせてくれ……これでいいんだろ?」
「いや、尽くし抜く事と言っただろう。そんなんじゃ可愛い妹とは言えないな」
「ちっ、分かったよ。……お兄ちゃん、エッチなソフィーヤにおちんちん舐めさせてよ……」
「そうだ、常に奉仕の精神を忘れるな、それが妹奴隷として大切な事だ」

 ソフィーヤは真っ赤な顔でおねだりをしてくる。真逆になった人格に新たな常識を上塗りされて、なんだかややこしい処理に戸惑っているようだ。
 因みに妹にしたのは咄嗟の判断だったが、その方が従順になるかと……あとは俺の趣味だ。
 それでもソフィーヤは小悪魔的な微笑を浮かべると俺に囁いてきた。

「奴隷……ふふ、ソフィーヤお兄ちゃんのエッチな奴隷になっちゃんたんだ……」

 奴隷という言葉に過敏に反応する、ソフィーヤ。以前の彼女なら毛嫌いしただろう言葉を、うっとりした顔で反芻している。そのまま顔を下げると俺の息子の先っぽをチロリと舐めてくる。
挑発的な顔。俺の体にぞくぞくと快感が走り抜ける。その表情だけで、射精しそうだ。
 だって、あの六英雄だぞ。六英雄のソフィーヤ・レーシュが俺のモノを舐めてるんだ。半日前、いや十分前だってこんな状況は信じられなかった。
 夢のようだ。淫魔で夢魔の俺が言うのもなんだが、夢なら覚めないでくれ。
 ソフィーヤは相変わらず焦らすように俺の陰茎をチロチロと舐めてくる。俺の反応を窺うように。楽しみながら。

「お兄ちゃん、気持ちいいのぉ? こんなビンビンにしちゃって。……妹相手に興奮するなんてホント変態だよねぇ」

 ……当たり前だが性格の悪さは治ってないらしい。エロ奴隷になぶられるプレイなんて初めてだ。経験しないと分からない世界ってあるんだな。
 <魅了>も<精神操作>も使えない俺は黙って攻められるしかない。
 いや、気持ちよくないわけじゃない。むしろとんでもなく気持ちいい。下手糞な口淫だが、自信満々な態度がかえって欲情をそそる。

「ちゅ、ぺろっ、あれぇ、さきっちょからエッチな汁が出てきたよぉ、変態お兄ちゃん。ぺろっ、んっ、あぁっ」

 俺の先走り液を舐めて、嬌声を上げるソフィーヤ。つくづく俺は淫魔としての自分の体の作りに感謝する。
 ソフィーヤはそこそこの性知識も持っているようだ。ここからちょっとは俺のターンでもいいだろ。

「ソフィーヤ、そろそろ咥えてくれ、咥えたら舌で竿を舐りまわすんだ」
「えー、もう我慢出来なくなっちゃったのぉ? ダサーイ。……しょうがないなぁ、咥えてあげますか」
 
 余裕を見せつつ、俺のモノを咥えるソフィーヤだが、それはポーズだけだ。さっきの快感をもう一度味わいたくて、右手を竿に沿え、熱心な上下運動を繰り返す。
 左手で垂れてきた髪を耳の後ろに持っていく仕草がたまらなくエロイ。
 その奉仕の一生懸命さはきつく締められた唇からも伝わってくる。締められてるのにプルプルした唇の感触が最高だ。

「んっ、んぅっ、すうっ、んっ、ちゅぱっ、んじゅうっ」

 くちゅくちゅと接合部から魅惑的な音が漏れ出す。口の端から涎と先走り汁の混ざった透明な液体が流れ竿を伝って流れ落ちる。一旦、口を離すとソフィーヤは舌を突き出し、竿を根元から亀頭までベロリと舐め上げ、勿体無さそうにそれを飲み下す。上目遣いで俺を見る。ああ、そんな目で見られたら興奮しちゃうじゃないか。
 口の中で舌が滅茶苦茶に動き回る。唾液と絡まってくぐもった音が鳴ってる。

「れろぉっ、ああっ、なんでこんなに美味しいのぉっ、こんなの、汚くて臭いだけなのに、んっ、んっ、んっ」
「汚くて臭くても感じるだろ? 精液を飲めばもっと感じるぞ」
「んっ、嘘っ、そんなの嘘でしょっ、エロくて変態のお兄ちゃんが適当な事言ってるだけっ、んっ、ちゅ、れろれろ」
「嘘だと思うなら、止めてもいいぞ? でも止めたくても止められないだろ?」
「ふぅっ、口っ、口止まんないっ、勝手に動いちゃうっ、じゅぽ、じゅぽ、舐めてるだけなのに感じちゃうっ、んっんっ、あぅん、ちゅ」

 思った以上にソフィーヤは高まっていた。でも絶対的に経験が足りないので自分の状況が分かってない。もじもじと太腿を擦り合わせ、甘い声を上げている。
 太腿は既にべっとりと濡れていた。
 淫乱妹奴隷になったと思い込んでる事で性感も強まってるらしい。
 俺の頭もどうにかなりそうだった。あの六英雄の一人を俺が自由に操っている。俺の股間に顔を埋め、一心不乱に俺のを舐めしゃぶっている。
 そっと手を伸ばし、豊かな胸の双丘を掴む。ソフィーヤが甘い悲鳴をあげる。服の上からやわやわと揉みしだく。
 本当は服なんか破り捨ててやりたいが、今の俺にそんな力は無いし、そろそろ限界だ。

「はぁっ、胸揉まれてるっ、お兄ちゃんのいやらしい指で、胸の形変えられてるっ、あはぁっ」
「出してやる、妹奴隷は全部飲むのが決まりだっ」
「んっ、じゅぷっ、出すの? 変態のお兄ちゃんの精液、ソフィーヤの口の中に出しちゃうの?」

 ふぅっと荒い息。淫蕩に蕩けた瞳。藍色の美しい瞳で真っ直ぐ俺を見つめてくる。
 俺は返事もせず、ソフィーヤの頭を掴むとその口の中に欲望をぶちまけた。

「ふあっ? んぁ、んっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、んぶっ、ごくっ、んっ、ああっ、気持ちいいっ、気持ちいいよぉっ、はあああっ」

 精液を飲みながらソフィーヤがビクビクと痙攣する。俺にとっては見慣れた光景だが、いつもとは満足感がまるで違う。
 ソフィーヤがイった瞬間俺に流れこんできた精気は、俺の魔力をほぼ全快させていた。
 ……まだ完全に堕とした訳じゃないのに。……どこまで化け物なんだ、こいつらは……。

 とにかくこれはチャンスだ。ソフィーヤを完全に堕とせるとしたら、今しかない。
 俺は右手を念の為手首までアストラル化させるとソフィーヤの耳の中に侵入させる。……これで、決まりだ。
 
 ―――――次の瞬間、バチンと強烈な衝撃を受け、俺の右手は元の位置に戻っていた。
 痛てっ、痛てええええっ、えっ、何コレ?どういう事?
 びりびりと痺れる右手を押さえながら、俺は慌てて考える。
 俺の右手は確かに耳の中に侵入した。……だが、入るかは入らないかの内に弾き出された。まさか<絶対聖域>か!?
 ……いや、それはありえない。<絶対聖域>だとしたら、俺の右手首から先は完全に消滅していたはずだ。
 だとすると……単純にソフィーヤの精神抵抗力が凄まじいのか?
 それこそ俺程度の魔力では侵入さえ出来ない程に?

 馬鹿な!
 俺は焦って立ち上がる。
 そんな馬鹿な!そんな事ってあるかよ!せっかくここまで追い詰めたのに!死ぬ思いまでしてここまで辿り着いたのに!
 <精神操作>が効かないなら当然<魅了>も効かないだろう。……打つ手無しだ。

 い、いや、待て、落ち着け、俺。
 全魔力を集中すればどうだ?全魔力を集中しての<精神潜行>……。
 <絶対聖域>じゃない、普通の精神抵抗ならそれで突破出来るかもしれない。

 しかし……。俺は窓を見る。まだ夜だがそろそろ夜明けが近いはずだ。
 チャンスは多分、一回しかない。つくづくエロに夢中になったのが悔やまれる。
 何か、何かないか。あと一つ決定的な何か……。
 藁にも縋る思いで周囲をキョロキョロ見回していた俺は視界の隅に鏡を捉える。『反逆の鏡』だ。

 ドクンと俺の心臓が跳ね上がる。
 これを使うか……。
 いや、だが、しかし、それは本当に一か八かだ。そんな危ない橋なんか渡らず、このまま逃げちゃってもいいんじゃないか?
 俺はよくやった。俺にしては頑張った方だよ。……正直、もう帰りたい。

 ……だけどそうすると俺は全てを失う。
 ……身を挺して俺を守ったルカの顔を思い出す。
 ―――――やっぱり俺は女に励まされてばっかだ。

「あぁん、お兄ちゃん、もっとぉ……」

 俺の足元で呻いているソフィーヤに一瞥をくれ、俺は『反逆の鏡』を取り上げると、頭上高く持ち上げ、一気に地面に叩きつけた。
 鏡が粉々に割れる。鏡の魔力が失われる。
 俺を蕩けた目で見つめていたソフィーヤの顔に徐々に正気が戻り始める。
 最初は呆然としていたその顔に、みるみる朱がさす。羞恥か憤怒どっちだろうか。
 予想通り六英雄にしては動揺してくれているようだ。その点だけはホッとする。

「あ、あなたは……」

 俺はソフィーヤがなにか言いかける前に、全身を精神体にすると一気に彼女の体に覆いかぶさる。

「や、止めてください……入って……入ってこないで……くぅっ……」

 もう一度<絶対聖域>を使われたら何の意味もない。あとは俺が動揺に揺れる彼女の精神抵抗を突破出来るかだ。
 ソフィーヤの体と俺の体が同化していく。
 バチッ、バチッ、バチッと雷撃を浴びせられるような衝撃が、身を引き裂く。ちょっとでも気を抜くとあっという間に弾き飛ばされそうだ。
 俺は気絶しそうな激痛の中、必死にもがく。手を伸ばす。足を踏み出す。じりじりとちょっとずつ。焦らずゆっくり。
 自分にこんな根性があるなんて今の今まで知らなかった。
 精神体の俺の体がボロボロと剥げ落ちていく。あ、ヤバイ、もうダメかも。
 指を鉤状に曲げ、闇を泳ぐ。既に痛みは無くなってる。なんだかいい気持ちだ。目の前に光が見える気がする。目もほとんど見えなくなってるから良く分からないが。
 俺はゆっくりと光に向かって倒れ―――――。

 ―――――気が付くとソフィーヤの精神世界にいた。
 ふわふわと空中に漂いながら、俺は絶叫したい程の興奮に包まれていた。やった、俺はやった!今までどんな淫魔にも出来なかった事を俺はやり遂げた!
 体の組織はボロボロに剥がれ落ち、右耳、右目、右腕がどっかに吹っ飛んでいたが、そんな事どうでもいい。

 俺とソフィーヤは今、完全に繋がった。彼女の夢、精神、深層心理……呼び方はなんでもいい。俺はソフィーヤの心の一番深い部分と完全に繋がった。
 そして一番重要な事は、俺がこの世界を自由に蹂躙出来るって事だ。

 例えば……俺はソフィーヤの苦手なモノに手を伸ばす。俺の左手の先でモゾモゾもがいてるのは一匹の小さな蜘蛛だ。俺は蜘蛛の中の記憶を読む。
 ソフィーヤは蜘蛛が苦手だ。とあるダンジョンでジャイアントスパイダーが大量に出た時なんか気絶しそうになった。
 仲間の手前平静を装ったが、本当は逃げ出したい程怖かった。

 六英雄に弱点があるなんて想像もしなかった。その強さや凛々しさのみで語られる事が多い六英雄だが、意外に内面深いところは普通の女なのかもしれない。
 もちろん今の俺ならソフィーヤに蜘蛛を大好きにさせるどころか、毎日一匹蜘蛛を食べないと生きていけない蜘蛛フェチにする事も可能なわけだが、そんな事はしない。
 だってそんなのはエロくないし。
 わざとそういう風に精神を滅茶苦茶に弄って、楽しむ淫魔もいるみたいだが、俺には理解出来ない。

 あとは……これはソフィーヤの出自だ。
 ソフィーヤは孤児だった。赤ん坊の頃、この教会の前に捨てられていたのを拾われた。
 ……ま、これはどうでもいいか。

 精神世界では時間は比較的ゆっくり進む。外の時間と比べたら止まってるも同然だ。

 俺は続けてソフィーヤの恥ずかしい思い出に手を伸ばす。絡み付いてきたのは一枚の綺麗なシーツだった。ただ真ん中へんに濡れたような染みが付いてる。
 ソフィーヤの一番恥ずかしい事……五歳までおねしょをしていたのを知られる事。
 ……なんだそりゃ?いや、人間の基準は良く分からんが、それ位の年齢なら普通なんじゃないのか?
 というか、他に恥ずかしい意識体は見当たらない。という事は五歳でおねしょを克服してからこの年まで、人に恥ずべき事は一切してないってのか?
 どれだけ品行方正なんだよ、コイツ。
 因みに淫魔に妹にされ体を汚された記憶は、どちらかというと怒りの方に入っていた。当たり前か。

 とはいえ、これは使える。俺は表層のソフィーヤの意識に声を掛ける。

「おーい、ソフィーヤ。おねしょって恥ずかしいのか? 誰にも知られたくない?」
「はい、恥ずかしいです。小さかった頃とはいえ、誰にも知られたくありません」

 深層心理と完全に融合している俺の声に、ソフィーヤの人格は素直に答える。今のソフィーヤはただ心の深い所にある自分の声に耳を傾けているだけだ。
 そして俺は強い調子で決め付ける。

「それは違う、ソフィーヤ。お前はお漏らしが大好きな、変態だ」
「はい、私はお漏らしが大好きな変態でした。……何故忘れていたのか、自分でも不思議です」
「そういう細かい事は気にするな。お前がおねしょをしたのもわざとだ。子供心にそれは気持ちのいい事だとお前は知っていた」
「そう……そうです。思い出しました。おねしょってとっても気持ちよかった。お母様に叱られても止められなかったんです……私はいけない子でした。」
「今でもそうだ。お前はお漏らしに至福の快感を感じる。お漏らしが嬉しい。お漏らしが楽しい。お漏らしが大好きだ」
 
 お漏らしお漏らしうるさいが、これだけ刷り込んでおけば大丈夫だろう。表層意識は深層心理の考えに絶対逆らえない。

「それじゃ、その場でお漏らししてしまう。大丈夫、これは自分が望んだ事だ」

 ソフィーヤはその場にぺたんと座り込むと下腹部に意識を集中する。
 彼女の多幸感、嬉しさ、楽しさ、背徳感、恥ずかしさ、そんな感情がダイレクトに伝わってくる。
 ソフィーヤの頬が赤らんでいるのも、荒く息を付いているのも、自分のアソコをまじまじと凝視しているのも、彼女の精神からはっきり分かる。
 そして彼女が今何を考えているのかも。……ソフィーヤ出したいんだろ?恥ずかしがらずに出していいぞ。

 ソフィーヤはぶるっと身を震わせると、ゆっくりと放尿を始めた。最初は申し訳程度だったがだんだんと勢いを増し、あっという間に下着と神官服の防水キャパを超えると、大聖堂の神聖な床に大きな水溜りをつくっていく。

「ふぅぅっ、いっぱい出しちゃいましたぁ……恥ずかしいのに……いけない事なのに……」

 呆けたように水溜りの上に座り込むと、羞恥と恍惚感で複雑な顔をしながらソフィーヤが呟く。

「それでいいんだ、ソフィーヤ。お前はいつでもお漏らししたくてたまらない変態だ。……ただそれをしていいのは俺が命令した時だけだ」
「? 誰ですか?」
「お前の体を汚した、淫魔だ。名前はマルコーダ」
「そんな! そんな事は神がお許しになりません!」

 ま、そりゃそうだ。また夢中になって本題を忘れるとこだった。
 俺はソフィーヤの心から俺に対する怒りや憎しみを抜き出すと簡単に握りつぶす。……俺のイメージ体はピィピィ鳴く、もの凄く醜悪な悪魔の人形だった。分かってた事だが、嫌われたもんだ。
 時間がない、ちょっと勿体無いが一気に片付けるか。
 俺はソフィーヤの心に巨大で強大な俺の像を建立する。そしてそれを愛情の部位にしっかりと根をはるように固定する。
 イメージの植え付けは書き換えより大量の魔力を消費するがしかたない。

「ソフィーヤこれが誰かわかるか?」
「マルコーダ……様です」
「そうだ、お前の一番大事な人、神の教えや、仲間達より大切な、お前の人生を捧げつくすご主人様だ」
「でも、神の教えに反します。……悪魔を愛するなど……」
「しかし、確かにお前は悪魔を愛してしまった。その事がますますお前を燃え上がらせる。俺の事が好きだ。身も心も捧げたい。お前の頭はその事で一杯だ」
「……そうなんです。あなたの事が気になってたまらない。好き……好きです、マルコーダ様! あぁっ、いけない事なのにっ」
「お前のその思いは俺に抱かれる度確信に変わっていく。俺なしでは生きられない、一生俺に仕えられる事に心から感謝する女になるんだ。ソフィーヤッ!」
「分かりましたっ、なりますっ、なりますからっ、正義より、神より、仲間より、マルコーダ様の方が大切ですっ。…………皆、御免なさい……私、もう、戻れません……」

 俺はその答えに満足するとソフィーヤの体から脱出する事にした。というかこれ以上はもたない。ボヤボヤしてると俺がソフィーヤの意識に飲み込まれる。
 ただ、脱出する時、多少の悪戯はしたが。この貪欲さは自分でも凄いと思う。
 俺が侵入する時は精神抵抗はしない事。初心な大司教様にある程度の性技を植え付ける。大事なのはある程度ってとこ。いきなり上手くなられちゃ教える楽しみが無くなっちゃうしな。あとは聖女様の背徳感を煽る為、お尻の穴でも感じるようにしてやった。努力が身上の項目に俺への奉仕を付け加える。あとは念話が出来るように指を一本ソフィーヤの身体に残して……。

 ひととおりの準備を終えて、再び肉体化させた体をソフィーヤの前に現した俺は本当にボロボロだった。
 魔力は空っぽで身体のあちこちが欠損している。
 ……でも、でも俺はやり遂げたんだよな……多分。
 俺は恐る恐るソフィーヤを見る。

 ぼうっと俺を見ていたソフィーヤだか、みるみるその藍色の瞳に涙が溢れ出す。ぴちゃりと音をたて立ち上がると、すぐさま俺の元へ走り寄ってくる。

「ああ、マルコーダ様! 私の為にこんなお姿になって……本当に申し訳ありません。今すぐ癒して差し上げますね」

 そう言うと直ぐに<再生>と<治癒>の呪文を唱え始める。俺の失われた腕や目、耳が驚くべきスピードで復元していく。
 いやいや、高位の白魔法<再生>は聞いた事があるが、こんな超回復出来るものなのか?
 ……やっぱりこの女、化け物だ……

 ―――――しかし今の俺はこの女を自由に出来るんだ。
 俺はゾクゾクと沸き立つ高揚感で心が満たされる。

 お互い膝立ちの姿勢のままだ。俺はソフィーヤの顎をつまみ上げると荒々しくキスをする。
 一瞬ソフィーヤの身体が硬直したが、すぐにその緊張が解けると俺の唇を求めてくる。
 なんというプルプル。頭がプルプル一色に塗りつぶされる。初めて淫魔として女を犯した時のようだ。
 俺はソフィーヤの口を強引にこじ開け舌を突き入れる。
 始めは吃驚したようだったが、ソフィーヤは素直に俺の舌を受け入れた。

「ん、ちゅく、んぅっ、ぷはっ、ダメですっ、マルコーダ様ぁ、まだ、まだ治療が終わってないですからぁっ、んぅっ」

 そんなものどうでもいい。どうせ精気を吸い取れば身体なんて回復するんだ。
 それよりもプルプルだ。
 俺は更にソフィーヤの口の中を蹂躙する。

 ソフィーヤも諦めたらしい。優しく俺の頭に腕を回すと自ら舌を絡めてきた。
 今のソフィーヤの視線。優しく慈愛に満ちたいつもの視線。それが俺に向けられる日が来るとは……。

「ちゅぷ、くちゅ、れろぉっ、んっ、仕方が無いです、でも終ったらちゃんと治療させてくださいね、ちゅぱっ」

 口を離すとお互いの唇の間に透明な涎の橋がキラキラと輝く。
 だから治療なんてどうでもいいってば。

「ふぅっ、キスだけで気持ちいいです。凄く幸せ……、ちゅうっ」

 俺の媚薬の唾液でソフィーヤはもう出来上がりそうだ。とろんとした目で更にキスをせがむ。
 こっちも六英雄を犯す興奮で限界だ。俺は一気にソフィーヤの服を脱がしに掛かる。
 優しく胸を弄りながら、俺は素早く服を……脱がせられない。なんで大司教用の神官服ってのはこんなにごちゃごちゃしてやがるんだ?
 しかも正装じゃないんだろ、コレ?

 ソフィーヤはそんな俺を優しく見つめると、自分から服を……脱ごうとして止めてしまった。それどころか胸を抱え込むようにして俺から離れていこうとする。
 なんだ?俺は青くなる。……まさか術が解けたのか?

「ど……どうした、ソフィーヤ?」
「あ、あの今日はちょっと……明日にしてくださいませんか?」

 術が解けたって感じでもない。……俺はソフィーヤが自分の下半身をなるべく俺から隠そうとしてるのに気づく。
 なんだそういう事か。
 さっきは俺の怪我の事で夢中だったから、自分が漏らしてる事なんて考えもしなかったんだろう。

「ソフィーヤ、気にするな。漏らしてるからって俺はお前の事が嫌いになったりしない。いや、むしろ大好きだ」
「あっ、ありがとうございます……でも……恥ずかしいんです」
「大丈夫だ、お漏らししているところを見られるのは恥ずかしいけど、嬉しいだろ?」
「あっ……はい……」

 顔を真っ赤にしてソフィーヤが俯く。

「俺にだけは全部見せていい。お前が恥ずかしがって喜んでるのは俺も楽しいんだ、ソフィーヤ」
「………………」
「お前が変態だって俺は気にしない。お前の幸せな姿を見るのは俺にとっても幸せだ」

 歯の浮くような台詞を並べ立てる。元々俺が植えこんだ性癖だが。

「……分かりました」

 ソフィーヤが凛とした表情で答える。おお凛々しい時のソフィーヤだ。……これもいいな。

「マルコーダ様には隠し事は出来ません。私は確かに放尿で興奮する変態です。でもその姿はマルコーダ様にしか見せる事はありません。その代わりマルコーダ様がお望みなら、私はいつでもどこでも構いません。ですから、その……私を抱いてください……」

 最後は羞恥のあまり失速したが充分だ。俺はソフィーヤが服を脱ぐのを手伝ってやる。……もちろん法衣の一部を残して。
 服を脱ぎ恥じらいを含んだ瞳でこちらを見つめてくるソフィーヤの裸身を一通り眺め、その左太腿の内側に封印の呪印を発見した時、俺はやっと当初の目的を思い出した。
 直径10センチほどの円形の呪印には複雑なルーン文字が刻まれている。
 一見、黒一色の刺青にしか見えないこれの為に俺はさんざん苦労させられてるんだ。
 俺は万感の思いを込め、その呪印に舌を這わす。

「ひゃあっ」

 ソフィーヤがビクンと跳ねる。

「やっ、やっぱり、マルコーダ様っ、水浴びをっ」
「いらん」

 ソフィーヤの願いをにべもなく断る。全く何を気にしてるんだか。排泄なんて人間誰でもするものだろ?俺は悪魔だからしないが。恥ずかしがる理由が分からん。
 人間の女は排泄を殊更恥ずかしがるから、その姿が見たくてやってるようなもんだ。

 執拗に太腿を攻めるとソフィーヤはその度にピクピクと震え、自分の服を硬く握り締める。
 それにしても裸を見た時も美しいと思ったが、その触り心地はそれ以上だった。なんというか掌に吸い付いてくるようだ。
 正座の姿勢でソフィーヤの腰を高く持ち上げ、ピンク色で美しい秘裂に舌を這わす。
 恥ずかしいと思えば思うほど興奮するソフィーヤのアソコは既にとろりとした蜜を滴らせていた。
 その蜜を舐め上げるとソフィーヤは腰を浮かせて嬌声をあげる。

「あっ、だめっ、だめですっ、あっ、死ぬっ、しんじゃいますっ、あぁっ」

 そのまま、脇腹の外側に手を伸ばし、たわわに実った双急を揉みしだきツンと尖った乳首を指で弾いてやる。
 
「あっ、ああっ、ああぁぁぁっ」

 ソフィーヤがイった瞬間、凄まじい量の精気が流れ込んでくる。よし、気力充実。これからが本番だ。
 軽く痙攣しているソフィーヤを眺めると、ちらりと呪印が目に入る。それはソフィーヤの内腿でまだ黒々と自己主張していた。
 ……本当に淫魔の力でこいつを堕とせば、コレは消えるんだろうか?
 漠然と胸に沸いてきた不安を追い払うようにソフィーヤを裏返し、バックの体勢をとらせる。
 ソフィーヤは間違いなく処女だ。〝中〟で見たから間違いない。完全に屈服させるなら……。

「入れるぞ、ソフィーヤ」
「あっ、はい、来てください……」

 素直なソフィーヤの返事に俺は彼女の肛門に陰茎をあてがう。

「あっ、マルコーダ様、そこは違いますっ」
「いや、違わない。確かにここでするのは背徳的行為だ。……しかし背徳的な事をすればするほどお前は感じてしまう」
「そ、そんな事……」
「無い……か?これでも?」

 そう言うと俺はいきなり指を二本、ソフィーヤのアナルに突っ込んだ。そのまま内部をやわやわとかき回す。
 始めは嫌がる素振りを見せていたソフィーヤだが、いくらもしない内にその口から甘ったるい声が出始めた。

「やぁん、んぁっ、お尻の穴で指がグニャグニャ動いてますぅっ、いやぁん、こんなのダメですぅ」
「ダメじゃないだろ? お前の身体は悦んでいるようだが」

 俺は空いた手でソフィーヤのアソコをなぞり、べっとりと濡れた指を見せ付けてやった。
 ソフィーヤが背中まで真っ赤に染まる。

「あっ、こんなことはいけませんっ、はぁっ、でもいけない事してると思うほど感じちゃうんですぅっ、ふあっ」
「よし、よく言った、ソフィーヤ。ご褒美に指を三本に増やしてやろう」
「あああっ、だめぇっ、かんじすぎて、おかしくなるぅっ、私、あんっ、ほんとにおかしくなっちゃいますっ、ああっ、かみよ、おゆるしくださぁ、あっ」

 溢れ出る腸液で俺の指先もべちゃべちゃだ。
 もう充分ほぐれただろう。俺はとどめを刺すべく、陰茎をアナルにあてがう……と、ソフィーヤが俺のモノを掴んだ。
 真剣な表情で振り向く。

「ご主人様……マルコーダ様。あなたは一生、私のご主人様で居てくれますか?」

 あ、お、おう……そのつもりだけど……。
 そんな軽い答えを許さないくらいソフィーヤの表情は真剣だった。一瞬、洗脳が解けたのかと思った。

 どういう事だ?なんかここで答えを間違ったら大変な事になるような気がする。
 こいつを堕とすにはなにか大きな壁がある。いや、鍵と言ってもいい。
 それは一体なんだ?精神の中は一通り見た筈だ。障害になりそうなものは全部排除した。
 過去の記憶はお漏らし以外弄ってないし……ん?過去……?

 ―――――そうか、もしかしたら……。

「…………ソフィーヤ、お前寂しかったのか?」
「!……」
「孤児として生まれ、ものごころついた頃には知らない大人に囲まれていた。お前はその中で自分の存在を認めて貰おうと必死だったはずだ。元々の才能もあったんだろうが、いつしかお前は六英雄と呼ばれるまでになった」
「………………」
「だが、そうなると今度は周りはお前を頼りにする人間ばかりだ。お前は怖かったんだソフィーヤ。人の期待に応えられないのが。逆に言えばいつか人の期待を裏切ってしまうかもしれない自分に怯えていたんだ」
「……マルコーダ様……」
「誰からも頼られない自分。……そんな孤独にお前は耐えられない。だけど安心しろ、ソフィーヤ」
「……マルコーダ様、好きです……」
「俺がお前を救ってやる。くだらないしがらみなんか忘れちまえ! 俺が一生、お前をエロ奴隷として可愛がってやる!」
「……ああ、マルコーダ様、好きです、愛してます!」

 ソフィーヤは感極まったように叫ぶと一気に俺の陰茎を自分のアナルに導いていた。俺の頭で花火が弾ける。ヤバい。最高に気持ちいい。
 気が付くと俺はソフィーヤの上に覆いかぶさり、狂ったように腰を振っていた。
 いや、狂っていたのはソフィーヤも一緒だった。

「ああっ、ああんっ、マルコーダ様っ、私はっ、ソフィーヤは、マルコーダ様の忠実な奴隷ですっ、はぁんっ、マルコーダ様のおっしゃる事は全て正しいっ、マルコーダ様のなさる事は全て正義ですっ、あんっ、私はマルコーダ様の為ならどんな事でも致しますぅっ、ああんっ」
「六英雄を裏切る事になってもか? 魔王様が復活なさってもか?」
「はいっ、私はマルコーダ様が喜んでくださるなら、他に何もいりません、あっ、六英雄なんかどうでもいいんですっ、あんっ、いえっ、他の方々にもこの悦びを伝えて、皆でマルコーダ様に尽くし抜きたいんですっ、はぁぁんっ」
「その誓いを忘れるな、ソフィーヤ。出すぞっ、これが誓いの刻印だっ」
「あっ、ありがとうございますっ、私の中で気持ちよくなって、お尻の中に一杯一杯出してくださいっ、あっ、あっ、あああっ、いくぅっっ」

 俺が欲望をぶちまけ、ソフィーヤがイった瞬間とんでもない事が起こった。とてつもない量の精気が流れ込んできて俺の意識が一瞬吹っ飛ぶ。
 魔力全快どころの騒ぎじゃない。俺は自分の魔力が明らかにパワーアップした事を実感していた。
 そして俺の足元で珠のような汗をかきながら、ぐったりしているソフィーヤの左足からは、封印の呪印が綺麗さっぱり消えていた。
 
 空がうっすらと白んで来ている。夜明けか……。
 俺は達成感や高揚感と同時にげんなりした気持ちに襲われる。こんなのがあと五人か……。
 パワーアップしたとはいえまだ六英雄の戦闘力は一人で俺九十人分くらいはあるだろう。それくらいは分かる。
 俺、ホントに生きて帰れるんだろうか……。

 とりあえず、まだ夢うつつで隙あらば抱きついて来そうになる、 ソフィーヤを押しとどめ、服を着させる。下着は使い物にならなかったが。
 今日はどうしよう。リズの所に戻ろうか、それとも……。

 俺がそんな事を考えていた時大聖堂に誰かが入ってきた。掃除道具を持っている。朝の清掃係のシスターだ。しかもあれ昨日の朝のおばちゃんシスターじゃねえか。
 マズイな。夜明けの人気の無い大聖堂に大司教と胡散臭い男。どう考えても怪しすぎる。……操るか?
 その時俺の身体が足元から消えていく。始めはビビったが、白魔法の<姿隠し>だ。どうやらソフィーヤが咄嗟に掛けてくれたらしい。

 おばちゃんシスターは鼻歌混じりにやって来て……ソフィーヤを見て目を丸くする。

「あらまあ、おはようございます。大司教様。どうかなされたんですか? こんな時間に」
「おはようございます、シスター・ベティ。早くに目が覚めてしまったので礼拝に来たのです」

 その説明でシスター・ベティとやらは納得したようだった。だが、大聖堂の床に溜まった水溜りを目ざとくみつける。

「あらやだ。こんな所に水溜りが……雨漏りかしら? けど変ねぇ、昨日は雨なんか降ってなかったけど……」
「あ、あ、あ、こ、これは私が拭きますから、シスター・ベティは他のところの掃除をお願いします!」
「いえいえ、大司教様にそんな事させるわけにはいきませんよ。でも変な匂いがするわねぇ、この水……」
「シスター・ベティ! 早く雑巾を! これは私が拭きます!」

 ……耳まで赤くしてるソフィーヤを見て、俺はもうちょっと頑張ってみようと思うのだった―――――。

< 続く >

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