へたれ悪魔と七英雄 へたれ悪魔、大森林に突撃する

「……凶兆についてはあれからどう? マグダレーネ」

 一通りの近況報告、各セクションの進捗状況などの確認が済んだあと、紅茶を飲みながらさりげなくイリーナが尋ねる。
 しかし、マグダレーネはゆっくり首を振る。ついでにずり落ちてきた三角帽子を直しながら答えた。

「いや、相変わらずだ。占星術的な異常は何も無い。……だが、違和感を感じるのもまた確かなのだ。いや、すまん、抽象的すぎるな……」
「全くマグダレーネは心配性すぎるなぁ。……いいかい、『師曰く、臆病な軍こそ最強なり』だよ。……あれ?」
「私の貸した本を読んでいるようなのは感心だが、使い方を間違ってるぞ」

 ニャムカに軽い突っ込みを入れると、マグダレーネは全員を見渡す。

「まあとにかく、警戒してしすぎると言う事は無い。皆、身辺には充分注意してくれ」

 円卓会議室に集まった一同が頷く。その時だった。湿った破裂音がした。およそこの場所には相応しくない、しかし誰もが思い当たる音だった。

「あー、誰か、おな……」
「全く、お前は少しデリカシーというものを持て」

 マグダレーネがソーサラースタッフで素早くニャムカの頭を叩く。
 叩かれたニャムカも流石にバツの悪そうな顔をして黙り込んでしまう。

 ……ソフィーヤが見る見る真っ赤になって俯いてしまうのが見えたからだ。
 ソフィーヤはそういった人前での恥じらいの感情がメンバーの中で一番強い。それはここに居る誰もが知っている事だった。
 場が一気に居たたまれない空気になる。
 サーフィアは気づかなかった振りをして窓の外を見ているし、ハヤでさえ気の毒そうな顔をした後、なるべくソフィーヤを見ないように顔を少し反らしていた。
 しかし今ここに居る人間がソフィーヤの内心を読めたとしたら、きっと全員が驚愕しただろう。

(ああ、マルコーダ様の精液がお尻の穴から溢れてきてしまいました。んぅっ、勿体無いけど、凄く気持ちいいです……。あっ、トロトロとアソコの方に流れいってます。皆に匂いで気づかれないでしょうか……ゾクゾクします……ううん、本当は気づいて欲しい。皆にこの幸せや楽しさを大きな声で伝えたいです……。)

「それでは今日の会議はここまでね。皆、お疲れ様」

 取り成すように発したイリーナの言葉で円卓会議が終了する。廊下で一人になったソフィーヤにすぐさまニャムカが話し掛けてきた。

「あ、あの……ごめんね、ソフィーヤ……ボク、さっき……」
「いいえ、気にしないでください、ニャムカ。私は何とも思っていませんよ」

 いつも通りの柔らかな微笑みを返してくれるソフィーヤに、ニャムカは心底安心したようだった。

(そう、気にしないでください、ニャムカ。あなたもすぐに私と同じになれます。愛するマルコーダ様にお口やお尻の穴を使って頂いて、気持ち良くなって頂く事が悦びのエロ奴隷にすぐになれますよ。……ああ、その時が楽しみです……。)

 二人の側をサーフィアが足早に通り過ぎる。

「どうかしたのですか、サーフィア?」
「私の森でちょっと、精霊力の乱れを感じるのよ。急いで帰らないと……」
「ボクも行こうか? サーフィア」
「ありがとう、ニャムカ。でも大丈夫よ、大した乱れでもないし、どうせゴブリンでも出たんでしょ……それに……」
「あ、そっか、あそこはエルフの森だったね……」
「ごめんなさい、いつか人間もエルフも仲良くあの森を使える日が来るといいんだけどね……」

 少し寂しげな顔をすると、サーフィアはそのまま歩み去っていった。

 ソフィーヤからサーフィアが森に戻ったという念話が届いたが、俺はそれどころじゃなかった。
 彼女から聞いたエルフの集落に向かう途中、間の悪い事にアリキーノとチリアットに出くわしたからだ。

「……あれ、君も来てたのかい、マルコーダ……」
「………………」

 相変わらずチリアットが喋り、アリキーノが無言というスタイルは変わらないようだ。
 俺は出来る限り動揺を悟られないように声を出す。……上手く出来たかは不安だが。

「……来ちゃ悪いのかよ……」
「うん、どちらかというと悪いかな。……六英雄の事は僕たちに任せてくれないかな……君みたいのにウロウロされると邪魔なだけだし……ねぇ、兄さん?」
「ああ……そうだな……」

 昔からくっそ生意気なガキだ。いや、悪魔に外見年齢は関係ないから、俺はこいつがいくつだか知らないが。

「……俺だってせっかく来たんだし、このまま帰るってのはないだろ。大体お前らで本当に六英雄に勝てるのかよ……」
「ふぅん、僕たちの力を疑ってるんだ……。じゃあ今ここで、君相手に証明してあげようか、マルコーダ?」
「………………」

 途端に二人の殺気の量が跳ね上がる。……マジかよ、淫魔の癖になんて好戦的な奴らだ……いや、俺が弱腰なだけなのか……?
 それよりマズい。俺もちょっとは強くなったとはいえ、二人がかりは……。
 俺は慌てて手を振り戦意の無い事を示す。命あっての物種だ、こんな所で死にたくない。

「い、いや、お前等の力を疑ってる訳じゃ無いんだ。……分かった、分かったよ。俺はこの件から手を引く……それでいいだろ?」
「ふふ、『へたれの』マルコーダは相変わらずみたいだね……いいよ、許してあげるよ。僕たちだって無駄な魔力は使いたくないからね」
「………………」
「じゃ、俺はもう行っていいな?」
「ああ、いいよ。……故郷……辺境のどっかだっけ? そこでゆっくり吉報を待ってるといい。……あ、そうだ、この先に六英雄のサーフィアが管理するエルフの集落があるのを知ってるかい?」
「……いや、知らない」

 俺は出来る限り平静を装って答える。余計な情報を知ってる事で怪しまれるのが怖かった。

「なんだそんな事も知らないで、ここに来たのか。……君こそどんな勝算があったのか、聞いてみたいものだね……」
「ここにエルフがよく居るって聞いて来てみただけだよ……」
「ふぅん? せっかく来たんだし、エルフの一匹くらいはあげてもいいんだけど、皆、綺麗な作品になっちゃったしなぁ……。……よかったら帰り際にでも覗いていってよ、きっと気に入って貰えると思うよ? ……本当に素敵なミュージアムだから……」
「分かったよ、寄らせて貰う……」
「僕たちはここでサーフィアとかいうエルフを待ち伏せするよ……分かってると思うけど、邪魔なんかしたらただじゃ済まないよ……」

 釘を刺された。俺は二人と別れるとふらふらと歩き出す。まとまらない頭でエルフの集落を目指す。別になにかアイディアがあった訳じゃない。どちらかといえばどうにでもなれといった気持ちだった。
 俺は敗北感に打ちのめされていた。あいつらはサーフィアを堕とす事に成功するかもしれない。その余勢をかって他の英雄達も……教会の皆も……。
 あの後、ソフィーヤに確認したところ一度解除した<絶対聖域>を張りなおすには本人を呼んでの儀式が必要って事だった。……つまり打つ手なしだ。
 しかし、俺に何が出来た?ビビって戦う事も出来なかった俺に何が?戦ってれば多分俺は死んでただろう、それでも俺は戦うべきだったのか?

 『へたれ悪魔』……か。俺に相応しい二つ名だ。

 俺はやさぐれた気分のまま、エルフの集落に辿り着く。
 そこで俺が見たのは……月並みな言い方をすれば、狂気の沙汰だった。

 目の焦点が合ってないエルフ達が奇声を上げながら走り回っている。座り込んでなんだかよく分からないものを、くちゃくちゃと噛んでる奴もいた。
 一心不乱に木の同じ場所をコンコン叩き続けてる奴、比較的まともに見える奴は自分のアナルに木の棒を突っ込んでふぅふぅと喘ぎ声をあげていた。
 バシャバシャと水音がしたのでそちらに目を向けると、集落の中央に流れる川で二人のエルフが水を跳ね散らかせて転げ回っている。
 キラキラと水飛沫をあげ、楽しそうに戯れているエルフの女達は一見牧歌的に見えるが、よく聞くとお互いを口汚く罵りあっている。……笑顔で。
 相手を捕まえるとその細い首に手をかけ締め付けながら、甘い吐息を零す。
 全員が全裸でエルフらしい貧乳を晒しながら、夕暮れの集落を狂気の色に染め上げていた。

 俺はそのあまりに狂った光景に眩暈を覚える。
 これが……こんなのが素敵なミュージアムだって?

「わたしえみーあなたは?」

 ぼけっとしていた俺は突然話しかけられ、心臓が口から飛び出そうになる。エルフは白髪や銀髪が多い。
 俺に話しかけてきたこの娘も絹糸のような美しい白髪の持ち主だった。

「わたしえみーあなたは?」

 全く抑揚の無い口調で同じ台詞を繰り返すエルフを見て俺は暗澹とした気分になる。
 ……ああ、こいつも狂っている。瞳がこの世ではない、どこか別の場所を見てる。
 こんな可愛いのに。
 俺が無言でその場を離れようとすると、突然エミーの顔つきが変わった。

「わたしをあいするのにわたしをあいさないのかあなたむじゅんしているあなたにのろいをかけてやるまっていろ!」
 
 句読点を一切無視して一息に叫ぶと、その場にぺたりと座り込むとオナニーを始める。
 
「わたしののろいはおなにーをすることによりこうりょくをはっきするわたしのえねるぎーがこのだいちのおおいなるいしにはんのうしてすばらしいのろいをわたしとあなたでむすびつけるといいのだろう」

 ……もういい、もう充分だ、もう勘弁してくれ……。
 俺はヨロヨロとその場から立ち去る。
 後ろでは必死にオナニーをするエミーのくちゅくちゅといういやらしい水音が聴こえていた。
 全く自分の身体を気遣わない無茶な自慰行為。最後にちらりと見たエミーの顔は泣き笑いのようだった。

 一時間ほど集落の惨状を眺めていたのだろうか。俺はどうしてもこの場所から離れる事が出来なかった。
 何か、自分でも分からないモヤモヤとした何かが俺の脚をこの場に繋ぎ止めていた。
 かといってアリキーノとチリアットに逆らって戦おうとしていた訳でもない。
 只、その場に立ちつくしていただけだ。……くそ、情けないな、俺は。
 
 ふいに森の中からガサガサと下生えを掻き分ける音がして、三つの影が転がり出てくる。俺は慌てて丸太で出来た簡素な住宅の影に身を隠す。
 アレは……サーフィアとアリキーノ、それにチリアットだ。戦闘が始まってしまっている。
 サーフィアは集落の様子を一瞥すると、怒気を孕んだ声で叫ぶ。

「……酷い……あなた方の仕業ね……絶対に許さない!」

 弓をつがえるサーフィアにチリアットが薄い笑いを返す。

「許さなかったらどうするってのさ……兄さん!」
「……ああ」

 アリキーノが魔力を込めた視線でサーフィアを見た瞬間、彼女の身体がビクンと震える。
 弓と矢を取り落とす。

「……ほらね、もう兄さんの事が大好きになっちゃってるんでしょ? それに凄く気持ちがいい……」
「ふざけないで! 誰がそいつの事なんかぁっ!」

 否定するサーフィアだったがその顔は真っ赤になっていた。それに動きもおかしい。なんだかやけにもじもじしている。

 ……悪い予感が当たってしまった。今は強靭な精神力で耐えてるようだが、既にサーフィアは二人の魔力に絡め取られているようだ。
 おそらく不意打ちが成功しちまったんだ。
 じゃなければ六英雄ともあろうものが、中級淫魔二匹にこんなにてこずる訳が無い。

「いやぁっ、何でこんな……こんなの効かない筈なのにぃっ」
「それが効いちゃうんだよねぇ……ほら君はどんどん兄さんが好きになる……身体も疼いて堪らない……」

 必死に自然魔法の呪印を結ぼうとするが、指の動きがへなへなと定まらない。ついにサーフィアはがっくりと膝を着いてしまった。
 はぁはぁと荒い息を付き、怒りと憎しみを込めた……それでいてどこか切なげな表情で二人を睨みつける。

「まあ、六英雄なんて言ってもこんなもんか……僕たち相手によく頑張ったほうだよ……ねぇ、兄さん?」
「ああ……そうだな……」

 くそっ、勝手な事言いやがって。今のお前らの優位は俺のお蔭だぞ!
 しかし俺の足はブルっちまって、全く動かない。歯噛みしながら状況を見守る。

「それじゃ、作品製作に取り掛かるか……魔王様さえ倒した六英雄を壊せるなんてゾクゾクするねぇ……兄さん?」
「ああ……そうだな……」
「ダメ……こんなの……私はこんな奴の事、好きじゃない……身体も気持ちよくなんかない……」

 サーフィアが地面に向かってぶつぶつ呟く。押し寄せる恋慕の情と快感に抗うので精一杯のようだ。ダメだ、もう一押しでサーフィアは堕ちる。
 そして身体を自由に弄ばれたあと、ここに居る他のエルフ達のように滅茶苦茶に壊される。

 ……嫌だ。
 そんなのは嫌だ。

 ああ、くそ、もうどうにでもなれ!

「待てーーーい! そいつは俺んだ。俺のエロ奴隷候補に手を出すんじゃねえ!!」

 ……カッコよく登場したつもりだったが、皆ぽかんとしている。どうも俺はテンパるとおかしなテンションになってしまうようだ。
 最初に立ち直ったのはチリアットだった。俺に剣呑な視線を向けてくる。

「……よく聞こえなかったな……今、なんて言ったんだい、マルコーダ?」

 うお、怖ぇ。やっぱり出てこない方がよかったか?
 いや、頑張れ、俺。勝算は無い訳じゃない……限りなく低いが。今やらないと間に合わない。
 俺はアリキーノに向けて、思い切り右手を突き出す。
 パワーアップした俺が新たに使えるようになった力、<念動>。
 アリキーノの頭が目に見えない力に弾かれる。そのままヨロヨロと二、三歩後退すると後ろの木に後頭部をぶつける。ざまあみろ。
 もちろん俺の<念動>は大した威力じゃない……こんなんで勝てる訳が無い。
 ……でも、一瞬でも六英雄に隙を見せたら……。

 ……どうやら俺の目論見は当たったようだ。

 突然空気がびりびりと震えると、アリキーノの身体は突然地面から出現した数十本もの石の槍に刺し貫かれ、無数の鎌鼬にズタズタに切り刻まれ、爆炎に吹き飛ばされ、激しい水流に押し流されてボロ雑巾のように地面に転がる。
 高位の自然魔法<四大招霊>だ。俺も初めて見た。
 俺の前には息を切らせながらも右手を突き出し、その空色の瞳に怒りを滾らせたサーフィアが居た。
 ほらな、やっぱりこいつらは化け物なんだ。一度戦った俺だから分かる……信じてよかった……。

 アリキーノの身体は霧が闇に溶けるように、消滅していく。
 自分がやった事とはいえ、俺は思わず目を逸らしてしまう。
 俺は仲魔とかいう理由とは別に悪魔が死ぬ瞬間が嫌いだ。
 人間が死んだら屍が残る。でも悪魔が死んでも何も残らない。まるでそんな奴は始めからこの世に存在しなかったとでもいうように……。

「ああっ! うわあああっ!! 兄さんっ、兄さぁぁぁんっ!!」

 チリアットの慟哭に俺は現実に引き戻される。サーフィアは新たな呪文を唱えようとしている。

「やめろ……やめてくれ、サーフィア……チリアット、逃げろ……」
「あなた誰? 見たとこあなたも淫魔みたいだけど……仲間割れって訳?」
「俺の事はあとで説明してやる! チリアット、逃げろ! 走れ! もう二度と戻ってくるな!」
「ひぃっ、ひいいいぃぃぃっ!!」

 弾かれたようにチリアットが森の奥に逃げていく。さてここから俺のターンが始まる訳だが……てゆうか、本当に始まるんだろうか……。
 俺は訝しげにこっちを見ているサーフィアに視線を移す。エルフらしく小柄で身体の作りが全体的に華奢だ。
 そしてエルフらしく生意気そうで、でも神秘的な瞳に吸い込まれそうになる。
 頼むぞ、『奈落の義眼』―――――。

 ―――――こいつは一体何を考えてるのかしら……。
 私は目の前のひょろりとした淫魔を眺める。突然現れ、仲魔の一人を私に殺させた後、もう一人は逃がした。
 分かっているのはそれだけ。行動に全く一貫性がない。大した魔力は持って無さそうだけど、油断は出来ないわ。
 さっきは何故か<絶対聖域>が効かなくて危ない所だったもの。……あとでソフィーヤに原因を調べて貰わなくちゃ……。

「初めまして、俺はマルコーダ……淫魔だ」

 目の前の男が場違いな自己紹介を始める。あなたの名前なんかに興味があるとでも思ってるの?
 それより、集落の皆を元に戻しなさい!
 よっぽどそう言い返してやりたかったが、なんとか踏み止まる。
 一応、淫魔とはいえ挨拶をしてきたものね。返礼くらいはしてやってもいいだろう。六英雄が礼儀知らずだと思われるのも癪だし。

「初めまして、マルコーダ。私はエルフのサーフィア、六英雄の一人よ」
「ああ、知ってる……俺はお前をエロ奴隷にする為にここに来たんだからな……」

 はぁ?エロ奴隷?今こいつエロ奴隷って言ったの?……バカバカしい……ちょっとでも思慮遠謀があるのかと思った自分が恥ずかしくなる。
 淫魔や悪魔ってのは私たちエルフより長い寿命をもってるのに、そんな事しか考えられないのかしら?
 でもここでこいつを殺しちゃうのは得策とは言えない。こいつが集落の皆を元に戻す鍵を握ってるかもしれないもの。
 情けないけど、暫くはこいつの与太話に付き合うしかないみたい。

「それで? マルコーダさんは一体どうやって、私をエロ奴隷とやらにしてくれるのかしら?」
「ちょっと遠すぎてよく聞こえないな、もう少しこっちに来てくれ」

 どうもこいつは耳もあまり良くないようね。私はしかたなく側まで近づいて耳元で同じ質問を繰り返す。

「だからあ! マルコーダさんは一体どうやってえ……!」
「ちょ、でかい、声がでかすぎる! もうちょっと囁くように喋ってくれ……」

 なんて我が儘な奴なのかしら。溜め息がでる。私は仕方なく、出来るだけ囁くような小声で話す。耳に息が掛かりそうなくらいの距離で馬鹿な悪魔に向かって質問をした。
 
「質問の意味が良く分からないな、耳に息を吹きかけ舐めながら話してくれ。……それなら覚えられそうだ」

 どこまで馬鹿なのかしら、こいつは?思わず殺してしまいたくなる。こんな汚れた悪魔など一秒で殺せる。でも仲間の……集落の皆の為だ。
 単純にこいつの耳と頭が異常に悪いだけで、別にいやらしい事をさせられる訳でもないし、これくらいなら我慢するべきだわ。
 最初エロ奴隷なんて言われた時は、どんな事をさせられるのか身構えたが、拍子抜けだ。

 私はつま先立ちになると、馬鹿淫魔の首に腕を回し頭を抱き寄せ、その耳に舌を這わせる。身長差がありすぎて、こうしないと耳まで舌が届かない。
 エルフにしてはある方だと自負している―――少なくとも、マグダレーネには勝ってる―――胸が淫魔の腕に当たり、お腹が手の甲に触れ、足が絡みつく格好になるが仕方ない。
 何か間違った事をしている訳じゃないし、堂々としてればいいのよ。

「どうした? もっと真剣に舐めてくれないと覚えられないな」
「……言われなくても分かってるわよ! れろっ、ちゅうっ、ぺろっ、れろぉっ」

 耳朶を吸い、中や裏、外側の輪郭まで丹念に舐め回す。唾液で馬鹿淫魔の耳がキラキラと光る。時々体をピクリと揺するのは気持ちいいのかしら?
 ……まあ、私には関係ない事だけどね。

「……ふわっ!」

 思わず口から耳を吐き出し、情けない声をあげてしまった。馬鹿淫魔が突然私の耳に触れてきたからだ。
 こんな奴に耳を触られるなんて耐えられない。私が怒りの視線を向けると必死の抗弁を始める。

「いや、俺だけ舐めて貰うのも悪いと思ってさ……お礼だよ、お礼」

 お礼ならしょうがないか。嬉しくはないが返礼は受け取るのが礼儀だろう。イリーナ達と一緒に居たせいで、ずいぶん私も人間臭くなったもんだわ。全てをありのままに受け入れるエルフの世界では、人の親切にお礼を返すなんて感覚は希薄だもの。でもそれは決して不快な感情では無い。
 こいつに耳を弄られるなんて嫌だけど、私は苦笑してそのお礼を受け取る事にした。

 私の長い耳が好き勝手に弄られていく。根元から後頭部の後ろに突き出た先っぽまで撫で回され、ふにふにと優しく折り曲げられる。
 そのまま前方に倒され、先端を口に含まれる。

「んっ、はぁっ、ふぅっ、あんっ」

 思わず声が出てしまう。悪魔とはいえ男に耳を舐められるなんて、初めての経験だ。思ったより気持ちよくてちょっと吃驚したけど、別にいやらしい事をしてる訳じゃないから平気。
 そうだ、それより集落の皆を元に戻す方法を聞き出さないと!
 ソフィーヤかマグダレーネならなんとか出来ると思うけど、万が一こいつの力が必要なんて事になったら大変だわ。

 でもこいつにそれを聞くのは少し怖い。人の事をエロ奴隷にするとか、気持ちの悪い事を抜かす奴だ。どんな交換条件を持ち出されるか……。
 ……皆の為だ。私は改めて自分に気合を入れなおす。たとえ、その……セックスを迫られたとしても受け入れる覚悟はある。
 私は意を決して聞いてみる。奴の耳に荒い息を吹きかけながら。

「……集落の皆を元に戻す方法を教えて貰える?」
「ああ、いいぜ。ただし条件がある」

 やっぱり条件だ。私は少し身構える。

「俺の息子を取り出して手で扱いてくれ。やり方は分かるだろ? 上下に優しく動かすんだ」

 なんだ、そんな事なの? 私は気づかれないように安堵の溜め息を漏らしていた。男性が興奮したら女性がその興奮を鎮めてあげる。当たり前の事だ。
 介抱で気持ち悪くなった人の背中をさするのと一緒だ。いやらしい事じゃなくて本当に良かった。
 軽い気持ちでズボンと下着を下ろし、出てきたモノに一瞬唖然とする。
 ……こんなものが身体の中に入るの? ……無理だ。少なくとも私とマグダレーネには絶対に無理だわ。
 
 恐る恐る手を伸ばして触れてみる。熱い。熱くて脈打ってて別の生き物のようだ。
 指示に従って親指を根元側に配置し、人差し指とでわっかを作る。その後他の指も握り、なんだか剣を持つような姿勢になる。
 逆手持ちだとか淫魔が言っていたが、そんな事どうでもいいのよ。掌が熱くて火傷しそうだ。
 私はゆっくりと竿の上下運動を始める。
 首に片腕を回し、お互いの耳を舐めあい、胸や腰を押し付け、足を絡ませながら、男のアソコを扱いてるだけ。
 全然いやらしくない。

 ほっとすると同時にだんだんと、耳を舐められてるのが気持ち良くなって来た。開いてる方の手はカチャカチャと器用に私の服を脱がしていく。
 今日は円卓会議だけの予定だったから、それなりにお気に入りの服とあとは矢筒くらいだ。
 あっという間に私の服は脱がされ、ほとんど日の光に晒した事の無い白い乳房がまろび出す。いつの間にか硬く尖った乳首はあまり大きいとは言えない私の胸の上で確かな主張をしていた。
 まあ、なんだか身体が熱かったしちょうどいいわ。私は胸をマルコーダの腕にぐりぐりと押し付ける。なんだかムズムズしてそうしないではいられない。
 マルコーダが私の胸に手を伸ばす。さわさわと乳輪の周りを撫ぜまわすと乳房に指をかけ、揉み解してくる。
 別に普通の事だ。お礼の一環だとしたら、結構律儀な男だわ。
 私も返礼として彼のアソコを扱くスピードを速める。透明な液体がさきっぽから溢れ出し、にちゃにちゃと音を奏でる。お蔭でかなり滑りがよくなった。
 胸をもまれ続けてると身体がますます火照ってくる。熱でもあるのかしら。……いや、今はそんなことより……。
 マルコーダの頭を思い切り引き寄せると、その唇に自分の唇を重ねる。

「どうした? 堪らなくなってきたか?」
「ちゅうっ。……馬鹿言わないで。悪魔なんかにキスして気持ちよくなる訳無いでしょ! ちゅ、単にやらなければならない事をやってるだけよ!」
「なるほど、じゃあ口の中に舌を入れてくれ」
「ん……あむっ、じゅ、じゅるっ、これでいいっ? ぴちゃっ、」
「ああ、いいぞ。そのまま口の中を舐めまわしてくれ」
「勝手な事ばかり言って……私が本気出したらあなたなんか直ぐに殺せるんだからね……ちゅ、ぺろっ、くちゅくちゅ……」

 私は言われた通り、啄ばむようにマルコーダの唇に何度もキスすると、口の中に舌を捻じ込んでいく。
 マルコーダはあっさり私の侵入を受け入れると、好きなように口を蹂躙されていく。
 やっぱり悪魔なんてこんなもんだわ。私の攻撃に全く抵抗も出来ないじゃない。このまま皆を助ける方法を聞きださないと。

 とはいえ胸への愛撫は気持ちいい。指の間に乳首を挟むと乳房事捻るように回してくる。
 でもこれは仕方ない。気持ちいい事をされて感じてしまうのは仕方のない事だもの。
 気が付いたら下着が濡れていた。ああ、気持ち悪い。早く脱いじゃいたいな、こんなの……。
 マルコーダの指が私の自慢の銀髪に触れる。人間には絶対に出せない色、しなやかで滑らかな私の髪がさらさらと悪魔の指で梳かされる。
 
「あ……あ……そんなに優しく梳かさないで……」
「なんだ、髪が弱いのか?」
「弱いとか、そんなんじゃなくてっ、んっ、ただの生理現象よ! はぁんっ」
「そうか、じゃあもう少し触らせてくれ、凄くいい手触りなんだ」
「ちょ、ちょっと待って、んぅっ」

 相変わらず絶妙な手つきで髪を触ってくる。大きく横に持ち上げられ、さらさらと指の間を通って私の髪が私の身体に帰ってくる。
 肩や背中に擦れる感触にゾクゾクする。
 胸を揉まれながら髪を好き勝手に弄られてるだけなのに、何でこんなに切ない気持ちになるんだろう。

「ああっ!」
「結構、濡れてるな」

 胸の手がいつの間にか下に……アソコに移っていた。軽くラインを撫ぜられただけで甘い声がでてしまう。
 それだけじゃなくて私の体内からとろりと蜜が溢れ出してくるのが、自分でも分かった。

「んっ、んっ、んぅっ、はぁっ、あっ、はぁっ」
 
 我慢しようとしたが、気持ちいいのだから声がでてしまうのは仕方ない。でもただ気持ちいいだけ。私は身体を触られたくらいで屈してしまうような弱い女じゃないわ。
 あまり甘く見ない事ね。

「あぁんっ、ああっ、あっ、んっ、気持ちいいっ、あくぅっ」

 下着の中に突っ込まれた指に直接アソコを弄られる。自分でも信じられないけど私の意志とは無関係にそこはヒクヒクと蠢き、指を吸い込もうとしているみたいだった。
 でもこれは私の意志じゃない。身体を弄られたら当然そうなる反応なんだから。大丈夫、私は何一つ変わってない。
 でもその快感はやっぱり圧倒的で、私は思わずマルコーダの腕にしがみついてしまう。エルフとは違うたくましい腕。男の匂いがする。
 くちゅくちゅと私のアソコからこぼれる水音を聞きながらマルコーダが呟く。
 
「そろそろ直接見せて貰うぞ」
「見たければ、勝手に見たらっ、はぁっ、いいじゃないっ、別にわざわざ断る程の事じゃっ、あっ、ないでしょ」
 
 マルコーダは身体を屈めると私の下着を一気に引き下ろした。下着と私の間にはとろりとした愛液が一筋繋がっていた。
 涼しくはなったが、私のアソコをマジマジと見つめて一体何が楽しいのかしら?
 邪魔な下着を取ってくれたのはありがたいけど、身体の内側、とくにアソコの内側からジンジンと痺れるような刺激がやってくる。
 何とかして欲しくて、思わず腰を突き出すようなポーズをとってしまった。

「それじゃ、舐めるぞ」
「どうぞ、ご自由に……でも、そんな事で六英雄が屈するなんて思わない事ね」
「ふむ、それじゃ遠慮なく」
「ふぁっ、ふぅっ、あっ、あっ、あっ、あっ、んぁっ、くぅっ、んっ、あぁっ、ああぁっ!」

 声が止まらない。我慢も全く出来ない。何これ?何でこんなに気持ちいいの?別にいやらしい事をされてる訳じゃないのに!
 今までで最高の快感に意識がどこかに吹き飛ばされそう。こんな事って……。

 マルコーダの舌は巧みに動いて陰唇をぞろりと舐め上げると、包皮で包まれていた私のクリトリスを器用に剥いてしまう。
 外気に当たって敏感なソレに吸い付き、転がし、舐め回す。

「ひゃあっ、あんっ、あんっ、あっ、あっ、気持ちいいっ、気持ちいいよぉっ、こんなのっ、ああっ、くるっちゃうっ」

 私は堪らず地面に転がってしまう。マルコーダがそれを追いかけて来たので、その首筋を両足でがっちりホールドする。
 もっと舐めて欲しい。もっとお礼を……。
 あれ?お礼ってなんだったかしら?それに何か重要な事を忘れてる気がする。
 最初彼が私をエロ奴隷にするって宣言して、私はどうぞと答え……。
 あれ?やっぱり何かおかしい。私は終始一貫して自分の意思を持ってた自覚はあるけど、それでも何かおかしい。

 私の中の何かが危機を告げている。私はほとんど無意識に魔法詠唱をしようとして……両手をしっかりに握られてしまった。
 片手が開いてないと自然魔法は使えないし、エルフの筋力では振り払う事も出来ない。

 でも……そんな事どうでもいいような気がする。相変わらずマルコーダの口淫は続いてる。
 やっぱりこの状況は私が自分で望んだ状況だ。そんな考えがますます強くなる。
 この快楽に比べたら、他の些細な問題などどうでもいいわ。私は操られてなんかいない。
 とすれば答えはたった一つだけ。 
 自分が何をすべきか分かった気がする。
 ……私はきっとマルコーダの事が好きなんだ。だからいやらしい事もされてないのにこんなに感じてしまう。
 そう考えると一気に気持ちが楽になった。目の前の霧が晴れた気分だわ。
 彼の顔を見る。彼の声を聞く。彼の匂いを嗅ぐ。彼に触れる。それだけで凄く幸せな気分になる。

「マルコーダ……好き……」

 口に出すとやっぱりずっと昔からそうだったんだと思えてくる。
 マルコーダは私が充分濡れた事を確認すると、そのたくましいモノを見せ付けてきた。
 なんだかうっとりする。さっきは入らないかもなんて思ったけど、今は入れて欲しい。
 好きな人のモノを自分の中に導く。それは自然な事だもの。
 私は精一杯の哀願の表情を作るとお願いする。

「……来て」

 私の誘うような呟きに、マルコーダは慌てて陰茎を私のアソコにあてがう。なんだかちょっと緊張しているようだ。ふふっ、可愛い……。
 ……もっとも私も初めてなんだけどね―――――。

 ―――――いざ入れる段になって俺は少なからず、いや、多分に緊張していた。
 最後の最後で魔法を使われそうになった時は本当に焦った。なんとか事なきを得たが、死ぬかと思った。
 でも、ここまで来て引き返す訳にはいかない。既に俺の股間はギンギンなんだ。まさか告白されるとは思わなかったがここまでは順調だ。

 目の前には草の上に寝転んだ、絶世の美女エルフがその銀髪を地面に這わし、媚るような瞳で俺を見上げている。
 身体がしっとりと汗ばみ、熱い息をしている。華奢だがしなやかな身体はまさに森の妖精といった感じだし、銀髪や神秘的な空色の瞳は夕闇の光でこの世のものとは思えない幻想的な色味を作り出している。

「……来て」

 それにこの声だ。流石に『歌声の君』の二つ名は伊達じゃない。森のせせらぎのような涼しげで澄んだ声、この声だけで興奮する。
 俺は慌てて自分の息子をサーフィアの秘裂にあてがった。
 足を持ち上げ、腰をやや浮かせて彼女に告げる。

「入れるぞ……」
「うん……」

 覚悟を決めたサーフィアの声。俺は今から六英雄を犯す。二人目だがソフィーヤとは違った緊張感だ。
 だいぶ慣らしたから大丈夫だとは思うが、俺はゆっくりとサーフィアの身体に陰茎を沈めていく。
 ぬるぬると俺のモノを奥へ奥へ導いていこうとするサーフィアの身体。

「んっ」
「……大丈夫か?」
「……大丈夫よ、あなたの痛みなら私は耐えられるわ……」

 ああ、エロい。こいつはさっきまで俺を殺そうとしてたんだ。……淫魔に生まれてよかった。
 俺はその言葉に甘え、もっと深く挿入する。
 先っぽに当たるコツコツしたものをゆっくり割り広げていく。

「んんっ、あっ、ふぅっ」
「今、処女膜だ。それを過ぎれば楽になる」
「んっ、全然平気よ、アバドンに足を溶かされた時に比べればこれくらい……」

 ……怖い事言うなよ。

「俺も悪魔だけどいいのか?」
「……あなたは特別よ……マルコーダ……」

 そう言うとサーフィアは俺の首に腕を巻きつけキスしてきた。その勢いで一気に処女膜は突き破られ、俺の息子は根元までサーフィアの体内に飲み込まれる。
 華奢なサーフィアの子宮口に俺の鈴口が当たってるのが分かる。

「全部、はぁっ、入ったのね、んっ、嬉しい……動いて、マルコーダ、あなたの好きなように……」

 お腹を撫でながらそんな事は言われては、俺の理性も限界だった。
 俺は言われるがままに抽送を始める。陰茎に纏わりついてくる赤黒い血に欲情する。

「はっ、あっ、いいわ、マルコーダっ、私の事なんか気にしないで一杯気持ちよくなってねっ」
「ああっ、そうさせて貰うっ」
「うんっ、あっ、ああっ、はぁっ」

 とはいえ、俺も限界だった。さんざん今まで操ってエロい事をさせてきたんだ、当然だろう。緊張で射精まではいかなかったが、こんな事ならさっきの手コキで出しとけばよかった。
 サーフィアの方も痛みは無くなり、かなり感じてきてるようだ。
 俺の淫魔としての体質と魔具のお蔭だろう。
 とりあえず、この場で一発は出しておこう。俺は腰のストロークを速める。
 血と淫水が混じったぴちゃぴちゃという音、お互いの腰がぶつかり合う音、静かな森に卑猥な音が響き渡る。

「はんっ、あっ、あっ、あっ、私初めてなのにっ、凄く感じるっ、あっ、はぁっ」
「俺もだ、サーフィア、俺も凄く感じてるっ、サーフィアお前の中に出すぞっ」
「うん、出して、マルコーダっ、一杯っ、ああっ、出していいわっ」
「うおっ、おおおおぉぉっ」
「ああっ、はぁああああぁぁぁっ」

 どくどくとサーフィアの体内に俺の精子が注ぎ込まれる。直接子宮の中に射精するような快感が俺の身体を突き抜ける。
 もっとも人間やエルフと悪魔の間に子供など出来るはずも無いから、妊娠の心配は無いが。

 ……しかし……生きてる間も死んでからも何も残せない。……俺たち悪魔はってのは……。
 いや、くだらない考えに耽ってる場合じゃない。俺は自分の足元で細かく痙攣しているサーフィアを眺める。
 ソフィーヤに聞いた通り左手上腕部の包帯を取ると、そこにくっきりと封印の呪印が浮かび上がっていた。
 ……これからが本番だ。
 
 それにしても六英雄の精気はやっぱり桁違いだ。魔具に殆ど費やされていた俺の魔力がほぼ回復する。
 俺は自分の目をそっと撫ぜる。この目はサマエラに埋め込まれた『奈落の義眼』だ。
 アイツは悪魔だ。本当に埋め込みやがった。……まあ、悪魔だからそれでいいんだが。
 俺はサマエラの言葉を思い出す。

「『奈落の義眼』はねぇ、簡単に言えば見た相手に精神変化を起こさせるのよぉ。それも徐々に……。この徐々ってのポイントねぇ。こっちが何も言わなくても自分の常識から外れない範囲で、勝手に自分の精神を作り変えていってくれるのよぉ。坂道を転がるように堕ちてゆくから『奈落の義眼』、プライドの高いエルフさんには効果的だと思うわよぉ」

 確かに助かった。一気に堕とそうとすればあの二人のように精神抵抗されていただろう。しかし、これはもう使えない。完全に堕とすにはやはり俺自身がやらなければ……。
 俺はごくりと唾を飲み込む。
 ……そういえば、チリアットは上手く逃げられたのか……?

 深い森の中をチリアットは必死に走っていた。途中何度も木の枝に引っかかり、服はボロボロに裂け、その裂け目に出来た傷口からは血が滲んでいた。
 しかし、チリアットにとってそんな事はどうでも良かった。
 頭の中はマルコーダに対する憎しみで煮えたぎっていた。自分から兄を奪った仇敵。絶対に許さない、もう六英雄なんてどうでもいい。……この世でもっとも惨めな死に方をさせてやる。
 ふと、チリアットの足が止まる。前方に人影が見えたからだ。
 そしてその人物が自分の見知った人物である事を確認すると、今度は足を速めその人物の足元に恥も外聞もなく跪いていた。

「ああ、サマエラ、君も来てたのかい? いい所で会えた! 兄さんが……アリキーノが卑怯な手でマルコーダに……! お願いだ! 僕を助けてくれ! マルコーダさえ殺せれば僕は何もいらない! 権利を全て君に譲る〝契約〟をするから、僕を助けてくれ!!」

 蛇を基調とした薄手の漆黒のドレスに黒いマントを羽織ったサマエラは、柔和な笑みを崩さずチリアットの側に近寄った。

「そうねぇ……助けてあげるわぁ」
「ほ、本当かい? 恩に着……」

 チリアットは最後まで言い切る事が出来なかった。サマエラがふわっと身を翻した時に触れた彼女のマントが、まるで刃物のように彼の首を切り裂き、空中高くへ飛ばしていたからだ。
 
「サ……マ……エ……」
「これで大好きなお兄さんといつも一緒ねぇ……助かって良かったわぁ……」

 しゅうしゅうと消えていくチリアットに一瞥もくれる事なく、サマエラは深い森の奥へ踵を返す。
 その顔はいつも通りの柔和な笑みを湛えていた―――――。

< 続く >

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