Night of Double Mirror 第二話

第二話 偽神の契約

 暗い湖の畔に、人が立っている。
 自分はその後ろに立って、その後姿をぼんやりと見つめている。
 その姿を……どこかで、見た事がある気がした。
 辺りは静寂。光もない。そんな真っ暗な空間に、その人は独りでいた――――

「――――っ」
 目を開くと日の光が射していた。だが、目覚めたその場所が自分の部屋ではない事に気づく。
 それに伴って、意識が覚醒していくのと、胸の上に重みがある事に気づく。
「――――すぅ」
 穏やかな寝息を立てて、俺の上でアイが眠っていた。落ちる事も無く、絶妙にバランスを保っている。
 眠りに落ちる前は確か何も身にまとっていなかった筈だが、今は何処から調達したのか男物のワイシャツを着て寝ている。
――――猫みたいな奴だな。
 尤も、猫は人には付かない。だが、犬と言うには少々イメージが違う気もする。
 軽く自分の額を小突いてから上体を起こすと、その上に頭を乗せていた彼女は床に落ちて頭を打った。
「あいたたた……」
 頭を抱えるアイを放って立ち上がる。ソファーとは言え、慣れない場所で寝ていた所為か痛む身体の節々を、柔軟で解していく。
「もう少し、優しい起こし方は出来ないんですか?」
 かすかに瞳の端に涙を浮かべ、アイは抗議の声を発する。対して俺は溜息を吐いた。
「性分でな。第一、オマエは物を通り抜けられるんじゃないのか」
 なら、頭を打つ事も無い。尤も、頭を打たなくても床にめり込むか、重力に従って地球の中心まで引っ張られるだけだが。
「そう、ですよね……」
 アイの手のひらが閉じたり開いたりしてから、床に近づいていく。すると、音も無くその手は床に沈んだ。
「……昨日は、使えなかったんです。確かに、自分の意思でこの世に実体を持つ事は出来ますけど、昨日は強制的に実体化させられていたような、そんな感じ……でしたかね」
 何故でしょう、とこちらを見上げられるが、そんな事を俺が知るはずは無い。
 ダイニングチェアーを引き出して、座る。
 何故、か。使わなかったのではなく、使えなかった。つまり、一時的に力が失われたと言う事。
「特別な事をした覚えは無いな」
 身体には触れたが、その後アイはしっかりとドアをすり抜けてきている。如いて言えば。
――――鎌?
 触れた瞬間に何かが流れ込んでくるとか、何かを吸い取るとか、そういう感覚を覚えた記憶は無いが、関連としては最も高いだろう。しかし、鎌は別に身体能力とは関係ない気もする。
 だが、触る、という事に関連して、一つ疑問が浮かんで、能力に関しての思考を掻き消す。
『――――私が見えるのですか?』
『え――――嘘?』
 二つの言葉。それが明確に甦ってくる。
「そういえば昨日、オマエが見える事と……触れられる事、か。それに対して驚いていなかったか?」
 気の所為と言われればそれまでだが、返された疑問の言葉と驚きのタイミングからそれ以外には考えられない。
「ええ、まあ」
 一息吐くと、アイは一転して真面目な顔になる。
「通常、私の姿は人には見えませんし、当然触れる事も出来ません」
 無論、声も聞こえませんね。と付け加えられる。
「ごく稀に、死に近付く事によって私たちの姿を知覚できる人間も居るらしいですが……」
 微かな悲壮感を浮かべて、アイは呟く。が、俺は逆に笑みを浮かべた。
「何だ。俺はもうすぐ死ぬってか」
 嘲笑するように言ってやると、アイはぶるぶると首を振る。
 まあどちらにしろ、ここで『まだ死にません』と言われても素直に信じる気にはならないが。無論、自分が死ぬとも思えない。
「俺の生死はどうでも良いか。続けろよ」
「…………はい。ですが、死神の鎌に切り裂かれない人となると、私は知りません」
 その言葉に、昨日の事を明確に思い出す。たしか、鎌で切りつけられたはずなのに、ハンマーか何かで殴られたかのように吹っ飛ばされただけだった。
「確かに。変な話だ」
 鎌と言うと現実味に欠けるが、要は刃物で突かれても、刺さらず押し飛ばされただけだった、とでも言うようなものだ。
 一瞬、自分の身体のどこかを鋭利な物で切ってみようかと思ったが、別に生きてきた中で怪我をした事が無いわけでもない。
「まあ、今はいいか」
 時計を見上げると、七時半を回った所だった。今日は平日だ。言わずもがなだが授業がある。
「風呂に入っている時間は無いな」
 なら、シャワーだけでも浴びるかと思い、部屋へ行き着替えを持ってくる。
 脱衣所に入って、カッターシャツのボタンを外す。
「――――何をやってる」
 視線を感じて後ろを振り向くと、同じように服を脱ごうとしているアイがいた。
「え? 一緒に入ろうかなと思って」
 悪びれる事も無く、素直にそう言い放つアイに、溜息を吐く。
「俺が入った後で入れ」
「私も早く入りたいんです」
 そうは言うが、僅かに視線を下げるのを見ると、何が目的だかわからなくなってくる。
「単純にオマエの相手をしてる時間が無いんだよ」
 さっさと服を脱ぎ捨てて、バスルームのドアを閉めた。
 溜息を吐きながら、蛇口を捻ってシャワーを出す。四十℃の湯を頭からかぶると、僅かに曇っていた思考すらリアルになっていく。
「……饒舌すぎだな、俺」
 昨日からの流れを思い出してみる。普段、俺は合計で一〇分話しているか話していないかと言う生活を送っている。そうすると、口を開きっぱなしだった昨日は二週間分くらいの量を消費している気がする。
 思わず、溜息を吐く。呼吸をする度に、湯で温められた空気が喉を通っていく。
 風呂場に備え付けられた鏡を見ると、そこには無表情な自分の顔が映っていた。

――――それで。オマエの心触(シンショク)はいつも発動してるのか?
 心の中で、アイに話しかける。俺が学校に行くと言うと、一緒に行くと言った。それはいい。姿を見られないのなら特に問題は無いのだが、それは会話をしていると俺が独り言を喋っているようにしか見えないと言う事でもある。そこで、心の声を聞かれた事を思い出したわけだ。アイが言うには『心触』と言うらしい。心の声を、口で話したように、その人間の声色で聞き取るもの、らしい。
「いいえ。スイッチを切り替えるみたいに発動する力です。範囲は絞れますが、範囲内なら意図していない声も拾ってしまいます」
――――使いどころの難しい力だ。
 最大限に効果を発揮するのは一対一と言う事になる。複数にも使えるし、声色から誰がそう想っているのかはわかるだろうが、混線してしまっては特定は難しくなる。
 同様に、特定の相手から聞き取りたい場合に周囲に人間が群がっている場合も――――
――――いや、そうでもないのか。
 単純な事を忘れていた。こいつは、見えない、すり抜けられる、と言う便利な能力の持ち主だ。
――――不可視化して、零距離まで詰めればいいだけか。
 俺がそう『言う』と、アイは、はあ、なんて間の抜けた声を漏らした。
「ああ、そういう方法があったんですね。気づきませんでした」
「やっぱり頭悪いんだな、オマエ」
 その言葉は、感想を思わず口に出してしまうほど、俺を落胆させた。

 始業開始時間。それが俺の登校時間だ。
 騒がしい空気は煩わしい。なら、静かになる時間を狙うのが尤も賢いやり方だ。遅刻をした事も無い。かと言って、五分前に来るわけでもない。体裁はよくなかったが、教師からは黙認されていた。遅刻をしているわけでもないし、早く来いとは言えないだろう。
「はい、連絡事項は以上です」
 教壇では、クラス担任である進藤春音(しんどうはるね)が笑顔で連絡事項を伝え終わった所だ。今年の春から赴任してきた新任で、その外見と、生徒に近い精神構造から男女問わず生徒に人気がある。――――まあ、どういう理由でかは知らないが。
「それから、氷原君」
 考え事をしていると、そんな声が耳に入る。進藤春音の左、何も無い黒板に向けていた視線を、壇上の人物の方に向ける。
「――――なんですか?」
「え、と。昼休み、進路指導室に来てください。話があります」
 表情を観察する。困惑したような、気乗りで無いような、そんな表情だ。
「わかりました。昼休みですね」
 俺はそれだけ答えると、興味がなくなった事を示すように視線を外した。

「何の用ですかね、あの人」
 昼休み、言われたとおりに進路指導室に向かう。
――――さあな。あまりいい話じゃなさそうだが。
 今のアイは、可聴範囲を自分のごく周辺――俺をカバーするあたりまで絞っている所為で、かなり接近しなければ他人の『声』は聞こえないらしい。つまり、あの時進藤春音が何を考えていたかは、本人しか知らないと言う事だ。
 いつの間にか、アイはうちの学園の女子制服に服を替えていた。ホームルームが終わった所で気づくと、
『実は、服だけなら自由に変えられるんです。気分ですよ、気分』
 とか、都合のいい事を言っていた。
「それにしても、祥――――」
 俺の名前を言った所で、アイの口の動きがもごもごとしたものに変わる。なんとなく斜め上を見上げて、考え込んでいるようにも見える。
――――どうした。
「いえ、あの。名前で呼ぶのも、なにかなーと」
 昨日の夜に気安く呼んでおいて、今更何を気にしているのかわからないが、アイはもごもごと何かを口の中で咀嚼する。
――――名前で良い。敬称も邪魔だ。
「……わかりました、えっと………祥」
 そのまま歩き続けて、進路指導室までやってくる。職員室の傍と言う立地条件のお陰か、進藤春音は先に到着していた。
「お待たせしました、先生」
「え、ああ。氷原君。私も今来た所だから」
 そう言うと、彼女は慌てながら進路指導室の鍵を鍵穴に差し込んだ。逆に俺は落ち着きを崩して呆れてしまう。
――――デートの待ち合わせか、これは。
 思わず、そう『喋って』しまう。と、隣にいるアイが笑った。
「この人も、同じ事考えてますよ」
 ここに着く前にアイには『進藤春音の心が読めるくらいまで範囲を広げておけ』と命じた。すると、アイは
『それは良いですけど……』
 と僅かに渋り『ま、いいですか』とわけのわからない言葉を発して、こう続けた。
『ちょっとおかしな事になりますから、気をつけて喋ってくださいね?』
――――しかし、気をつけて『喋れ』ってのは、どういう事だ?
 進路指導室に入りながら、横にいるであろうアイに話しかける。
「『心の中で言う』言葉ではなくて、『実際に口にする』言葉の方ですよ」
 そう言って、アイは楽しそうに笑っているだけだ。疑問に思いながらも、生徒用の椅子に腰を下ろす。生徒用とは言っても、教室に並べてある椅子と変わりない。位置的に下座にあるから生徒用なだけで、ここにあるのは少しの資料と、一般教室にある生徒用の机とを向かい合わせにくっ付けた物、それに付随していた椅子二脚だけだ。部屋自体も八畳あるかないか程度でそれほど広くない。基本的に二人用なのだから当たり前なのだが。
 とりあえず、僅かに浅めに座って口端が開かれるのを待つ。
 座った相手の方も、話し始めようとしているのはわかるが、視線が泳いだりしてどうも乗り気でないように見える。
「……どうかしたんですか、先生?」
 アイに聞けばすぐにわかりそうだが、「本題に関する事は極力口にするな」とも言ってある。
「ちょっと困惑しちゃってね」
 答えは特に問題のないものだったが、軽い違和感を覚えた。
「はあ。なんかやりましたか俺?」
「ううん、それを聞きたくて」
 会話としては申し分ないが、やはり何か違和感を覚える。
 何がおかしいのかと思って口を閉じると、会話が止まってしまう。
「……先生、続きは?」
「氷原君、女の子に何かした?」
 対面の相手は何のためらいもなくそう言い放って、あ、と口を開いた状態で固まる。次いで、顔が赤に染まっていく。
「あ、あれ? 私、何でこんなストレートに。あ、あの。ごめんね、氷原君」
 あたふたと慌てる彼女を見た瞬間。カチリ、と音を立ててパズルのピースがはまる。
――――思考時間がないな。言い淀んでもいない。
 俺がそう『思う』と、アイは楽しそうに笑った。
「心介入(シンカイニュウ)と言って――――」
「説明の必要はない」
 能力の内容を話し出そうとしたアイを止める。が、『思う』はずがしっかりと口に出してしまっていた。
「え、あの、氷原君?」
「あ、すいません。こっちの事です」
 特に慌てる様子を見せず、真面目な顔で返す。進藤も多少は不振に思ったのだろうが、こっちが慌てる様子を見せないので落ち着きを取り戻していく。
「え、あ、うん。やっぱり大事な事だから、ちゃんと答えて欲しいんだけど」
 外面を繕い直して、この能力について推理する。アイに説明させるのは簡単だが、コイツはイマイチ自分の能力の使い方をわかっていない節がある。それどころか、単なる死神の付随能力としてしか見ていないような気にさえなってくる。
 反応する言葉と反応しない言葉――――問いと、そうでないもの?
――――試してみるか。
「今回の事に関して先生は、どう思うんですか?」
「氷原君はそんな事をする人じゃない――って、あれ? なんで私こんな事を……あう」
 言い終わると、頬を染めて俯いてしまう。信頼することに関しては特に問題があるわけではないが、それを直接口に出すのは気恥ずかしい行為だろう。
 疑問に素直に答える。もしくは隠し事ができない。やっぱりそれが心介入の能力……か?
 次いで、朝礼での一件を思い出す。

『――――なんですか?』
『え、と。昼休み、進路指導室に来てください。話があります』

 あの時、俺は疑問を口にしていたにも関わらず彼女は言い淀んでいた。つまり、効果はアイが心に触れている人間にだけ現れる、と言う事か。
 大体把握できたとは言え、記憶にはしっかりと残っているようではあるし、使いどころは難しい。おかしな質問をすれば、それはしっかりと記憶に残される。下手に疑問を口にすると、相手はそれに正直に反応してしまう。一回や二回ならまだしも、回数を重ねればそれだけ不信感は積もっていく。俺は、小さく溜息を吐いた。昨日の今日だ。思い当たる事はアレしかない。
「先生の期待に沿えてよかったですよ。俺は何かをした覚えはありませんし」
 まあ、『居ただけ』で『何かをした』事になるのなら、確かに俺は何かしているが、問題はそういうことではなく、悪戯の類を行ったかどうかだろう。
「そ、そう。やっぱりそうだよね。よかった」
 あはは、と小さく笑って、進藤は顔を赤らめている。その顔を見て、小さな疑問を感じた。
――――なんだ、この反応は?
 どっちの、とは言及しないが、教え子を心配していると言う反応にしては少々おかしい。問題が問題ではあり、手を出した、と言う事はそういう事を示しているのだろうとは思うが……
――――単にそういう事に免疫がないだけ、か?
 そう考えれば辻褄が合わなくもない。いや、それだと何処か嬉しそうなこの表情は説明がつかなくはないか?
 そんな俺の思考を読み取ったのか、アイはクスクスと可笑しそうに笑いだす。
「この人、祥の事を心配してますよ」
 言われなくてもそれは大体わかる。が、続けてアイはその理由を口にした。
「祥の事、好きみたいですね」
「――――――――――――――――――――は?」
 あまりにも荒唐無稽な言葉に、思考が追いついてこない。進藤春音が俺の事を好き、だと?
 よほど間の抜けた顔を晒していたのか、向かいに座る進藤もこちらの事を首を傾げながら見ている。
――――本気で言ってるのか?
 思わず問いかけてしまうが、アイは彼女の心を読み取っている。残る疑問は、アイが嘘を言っているのではないのかという事だが、別に騙して楽しむ所でもない。
「だってこの人、何かしたとか言いながら、自分はされてもいいとかしてくれないかとか、そういう事ばっかり考えてますから」
 そう言いながらも、アイは可笑しそうに笑っている。その顔を見ていると、嘘を言っているようには思えず、本当にそう考えている事を笑っているように見える。
――――へえ。
 面白いとは思う。だが、外から見える関係は面倒だ。昨日一人例外ができてしまったが、俺は基本的に独りがいい。
 そう結論付けて、腰を浮かす。
「先生、もう行っていいですか?」
「ダメ!」
 大音量の声に、浮かせていた腰が落ちる。背を向けていたアイも、びっくりして振り向いている。
――――チ、すっかり忘れてた。
 意識の中で毒づく。アイが進藤を心触の範囲に入れたままだ。なら、疑問はそのまま包み隠されない本音を導き出す。
「あ、う……」
 室内が一気に気不味くなる。と言っても、そういう雰囲気を出しているのは目の前の担任だけで、俺の方は、
――――出て行けなくなったな。
 と言う事ぐらいしか考えていない。アイに心触をカットさせてもう一度同じ台詞を言わせればいいのだが、記憶に残る以上、二度口にすれば違和感が生まれるし、単純に流れる事はできないだろう。
 この状況で穏便に出て行く方法を考えるが、案が思いつかない。どうせまた後で会えば進藤は気不味い空気を出すだろうし、それを感じ取った奴らが邪推をしないとも限らない。
 それでも今までそういう空気を感じ取らせなかったのは、彼女の中で何処か折り合いがついていたお陰だろう。だが、ついさっきそれは崩れてしまった。
――――自業自得、か。せめて記憶の捏造くらいは出来たらいいんだがな。
 心の中で『呟く』。と、固まったままだったアイが口を開く。
「記憶の捏造はできませんけど、それに近い事ならできますよ。私と繋がっている今ならできると思います」
 今の状況では魅力的な提案だった。俺は迷わずそれに飛びつく。
――――で、方法は?
「身体の一部が触れていれば、相手に強制的に命令を送りつける事ができます」
――――強制力の程度は?
「命に関わったり、物理的に不可能だったりする事は無理ですね。そんなに分析するほど試した事はないですけど」
 つまり、触れるだけで体質を無視して催眠をかけられる、と言う事か。問題は『触れる』と言う工程がどう働くか。触れるだけでいいのか、触れなければならないのか。なんにせよ、一長一短ではある。
 後の問題は、俺がその能力を試した事がない以上、何処まで使えるのか、本当に使えるのかがわからないと言う事。
――――何にせよ、賭けか。
 机の上に載せられた手を掴む。
「え、あの、氷原君?」
「――――今日の昼休みの事は、忘れてください」
『接触』して『命じる』。これで条件は満たしたはず、だが。
「えーっと、どういう事……かな?」
 彼女は、瞬きを繰り返すだけだった。正直、こっちが聞きたい気分だ。だが、それより早くアイから指摘が飛ぶ。
「それじゃ『お願い』ですよ。ちゃんと『命令』しないと」
 命令。つまり、『ください』じゃ足りないと言う事か。
「――――今日の昼休みの事は、忘れろ」
 語尾を変えて、再び言葉を発する。瞬間、相手の瞳の焦点が揺らいだように見えた。とりあえず、手を離して言葉を発する。
「先生、早く話を始めてください」
「え? うん、ごめんね」
――――なるほど。
 本当に忘れているらしい。忘却とは言っても一時的なものだろう。いつかは再生されるかもしれないが、記憶の封印は可能らしい。
――――もう少し、試してみるか。
 自分が笑っているのがわかる。誰もが内に持っている僅かな狂気が表に出たような、そんな感じがする。
「……氷原君?」
 そんな俺を不審に思ったのだろう。進藤は訝しむ様な顔でこちらを見ている。
「先生、俺の事好きですか?」
「うん――――――――え、ええええ!?」
 彼女は俺の疑問に対して本音を言い、椅子を鳴らして絶叫した。その後、慌ててガタガタと椅子を引きなおし、外面だけは取り繕おうとしている。
「ち、違う、じゃなくて違わないけど、それはほら、教師と生徒としてね、氷原君は真面目だし、優等生だし」
 彼女は、顔を真っ赤にしながら手を振って否定している。それを見ていると、評判どおり精神構造は俺たちと変わらないか、あるいは少々下のようにも感じる。
「俺が言ってるのは、肩書き的なものじゃありませんけど。つまり……異性として好き、なんですよね?」
「うん――――あ、あれ? あわわ、どうして私こんな……違う、違うから」
 熱を持った頬に手を当てて慌てる相手を見ていると、笑ってしまう。教師という職業に幻想を抱いているわけではないが、これでは思春期の少女と対して変わりない。
「はは、先生って思ってたより可愛いですね」
「か、かわ!?」
 漫画なら爆発していそうなほど顔の色が赤に染まっていく。
「教師だって人間なんですから、恋ぐらいしますよね。第一、先生は大学出たばかりだし、職務経験を積んでる人たちとはまだ間もあるでしょうし」
「う、うん。みんないい人なんだけど、なんて言うか。私、昔から男運が無くてあんまりいい人に出逢わないの」
 心底残念そうに彼女は語った。男運が無いと言ったが、俺だって自分の事をそんなにマシな人間だとは思っていない。断言できる。進藤春音は、もっと男の内面を見るべきだ。だから上辺に騙される。これでは偶像に憧れる少女と変わらない。
「へえ。じゃあ、彼氏とかは居ないんですね」
「う、うん――って、何で私こんな事ぺらぺらと……」
 進藤は身体を縮こませながら赤くなっている。
「じゃあ男性経験も無いって事ですか?」
「そうなの――――――――っ!」
 身体が跳ね上がって、ガタガタと椅子が大袈裟な音を立てる。オーバーアクションは結構だが、正直うっとおしいと思ってしまった。が、努めて表情を変えずに話題の方向を修正していく。
「じゃあ、俺とキスしたいと思った事は?」
「あるよ――――あ」
 進藤は、今度は手を口に押し当てて黙ってしまう。これ以上喋らないという意思表示だろうか。俺は微笑を浮かべながら席を立つ。
「あ、氷原君」
 俺が呆れて出て行こうとしたとでも思ったのか、進藤春音はか細い声で俺の名前を呼んだ。が、俺は彼女の予想とは逆に、座ったままの彼女に近づいて行く。
「ひ、氷原……君?」
 何を感じたのか椅子から立ち上がって、進藤は俺から遠ざかろうとする。
「先生、俺とキスしたいんですよね?」
「うん――――あ、違う、そうじゃない。本気にしないで」
 ずるずると後ずさり、彼女は進路指導室の壁に背を付ける。俺は微笑を浮かべながら彼女を追い詰めていった。
「俺とキスしたいんだろ、春音」
 そして、疑問系ではなく、単純な言葉を叩きつける。
「あ――――」
 少なからず好意を寄せていた相手に名前を呼ばれた事で、動作が一瞬停止する。その隙を逃さずに、腕を掴む。接触したが、特に送る命令はない。微笑を浮かべたまま、俺は偽りの会話を続ける。
「名前で呼んだ方がいい?」
「うん、お願い――――ぁ」
『俺の疑問に素直に答えてしまう』というおかしな事がこれだけ続けば、多少は違和感が生まれるだろうとは思うのだが、思考が麻痺しているのか彼女は疑問すら抱いていないようだ。
「目を閉じて、春音」
「ぁ……うん」
 素直に目を閉じる彼女には、俺の笑った顔は見えないだろう。俺は口を結ぶと、静かに顔を近づけていく。
「は、うん、んむ」
 唇に柔らかい感触が伝わってくる。鼻で息をして、そのまま唇を当て続ける。
「は、ん、んんん」
 十数秒続けて、進藤が苦しげな声を上げた所で唇を離す。
「あう、キスしちゃった」
 恥ずかしそうに視線が逸れる。が、俺は進藤を引き寄せて、再び唇を奪う。
「ん、んん」
 背中に手を回して、強く抱き寄せる。恋人同士がするキスがどんなものかは知らないが、大凡こんなものだろう。さっきと同じ程度の間隔で、唇を離すと、進藤は赤い顔を更に赤くして視線を逸らせてしまう。
「氷原君って、意外と強引なんだ」
 不平の言葉ではあるが、表情は嫌そうではない。俺は内心で嗤いながら、笑みを向ける。
「続き、したくない?」
「したい……ぅぅ」
 心介入の強制力からは逃れられないが、進藤自身も本音を本音として認めるようになってきたのか、今までのように慌てる様子も無い。
「それじゃあ、望みどおりに」
 三度唇を当て、今度は舌を出して進藤の唇をなぞっていく。
「ふ、ん、んあ」
 俺の行為を真似るように僅かに開いた唇に舌を差し入れていく。差し込めるほど開ききっていない歯の間をなぞって、少しずつ口の中を侵していく。
「ふ、んあ」
 何秒も経たない内に、進藤の舌が俺の舌と絡み合うようになる。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、ディープキスを続けていく。
「ふ、んん――――んん!」
 キスに意識を集中させていた進藤の胸に手を当てると、驚いたように身を捻ったが、抵抗はすぐに止んでしまう。
 手のひらから少し零れるくらいのサイズの胸をスーツとブラウスの上から撫で上げるように触ってやると、身じろぎをしながら舌が離れる。
「ほんとに、するの?」
 潤んだ目が俺を見つめる。それじゃ、続けてくれといっているのと同じだが、俺は進藤の思う俺を演じていく。
「怖い?」
「少し……でも、大丈夫」
 微笑んで、止めていた手を動かす。無茶苦茶にならないように、理性でブレーキをかけながら身体に手を這わせていく。
「気持ちいい?」
「わからない、でも、嫌じゃない」
 段々、引き出した本音と進藤自身の本音の境が曖昧になっていく。この分なら力に頼らなくても最後まで行けそうだ。
「ボタン、外すよ」
 確認を取らずに、逆の手でブラウスの前を開けていく。
「やだ、だめだよ」
 押し留める言葉が出てはいるが、止める意思は無いらしく、そのまますべてのボタンが外されてしまう。
 隠す間を与えずに、フロントホックを外してしまう。
「氷原君、こういう経験……あるの?」
「あるわけないよ。偶然上手く行ってるだけ」
 後ろから「ウソつき……」という声が聞こえたが、無視して左手を左胸に当てる。人差し指と中指の間に胸の先を挟んで、こね回していく。
「ん……うん」
 そのまま身体を半回転させて後ろから抱きかかえる格好にすると、髪が微かに鼻をくすぐった。
「こっちも、触ってあげないと」
 耳元で囁きながら、右手を腹に当てて、下へと下ろしていく。
「あ、やだ、そっちは」
 抗議の声を無視してスカートを捲り上げ、下着の中に直接手を入れた。柔らかい恥毛を通り過ぎて辿り着いた指先に水気を感じる。
「よかった、ちゃんと感じてくれたんだ」
「う……だって、氷原君、優しいから」
『優しい』と言われて苦笑してしまう。背後からも、押し殺した笑いが聞こえる。
「素直に『気持ちいい』って言ってよ」
 耳元で囁きながら両手を動かす。左手で先端を摘みながら甘く引っ張り、右手で愛液を溢れさせ始めているスリットを撫で上げる。
「うん、いい。気持ちいいよ」
 唇で人差し指を噛むようにしながら、進藤は俺の指に集中している。悪戯心が湧いたわけではないが、俺は進藤の耳に囁く。
「でもさ、こんな所でこんな事してたら……誰かに見つからないかな」
「――――っ!」
 今更自覚したのか、進藤は目を見開いて身を捩る。が、後ろから抱きかかえた俺が逃がすわけが無い。軽く引っ張られていただけだった胸が伸び、右手の中指が秘穴の中に少しだけ入り込む。
「ん、ああ」
「俺たち、こんな人に見つかりそうな所で隠れてセックスしようとしてるんだ」
 直接的な単語に、進藤の体温が上昇する。心なしか、脚の間の水分も増したような気がする。
「いやあ、やっぱりダメぇ」
 それでも、声には甘えの色があるし、身は軽く捩られるだけだ。結局、進藤自身もこの行為に没頭している。
「やめた方がいいのかな」
 考え込むフリをして、指と手の動きを止めてやる。すると、すぐに進藤は身を捩り始める。
「ダメ……止めないで」
 疑問は口にしていない。つまり、進藤は続きを求めている。そう感じた俺の顔に笑みが浮かぶ。
 彼女が吐き出す息は、身体の中の熱を吐き出すように熱いのだろう。
「じゃあ、早めに終わらせないとね」
 言葉の意味を示すように、右手の動きを早めていく。
「うん、んぁ……いい、いいよぉ、氷原くぅん」
 左手で顔をこちらに向けさせて舌を絡めると、腕が伸びてきて頭を抱えられる。空いた左手で思い切り身体を抱き寄せ、右手の人差し指と中指を秘穴の中に滑り込ませ、出し入れする。
「んん、ん、んああ」
 がくがくと震えだす身体を抱きとめて、舌と指に意識を集中させる。いつの間にか、下からもぐちゅぐちゅと水が泡立つような音が聞こえていた。
「んん、ダメ、もうイっちゃうよう――――ああっ!」
 最後に絶叫して、進藤の四肢が突っ張るように硬直する。
「はあ、あ」
 吐き出される息と共に、左腕に全体重がかかった。うっかり離さないように受け止めて、180度回転する。
 そのまま、部屋の真ん中に備え付けてある机に進藤の上半身を乗せてやる。
「はあ、ん、冷たっ」
 僅かに身じろぎするが、達したばかりで身体に力が入らないのかそのまま身体を落ち着けてしまう。そんな彼女を見ながら、ズボンのファスナーを下ろして自分のモノを露出させる。
 僅かな音で振り向いた進藤は、俺の腹の下で視線を止めて、息を吐き出す。
「入れて……いいかな?」
「うん――いいよ。入れて欲しいの……」
 今となっては、能力で引き出される本音よりも、進藤自身の言葉の方に重みがある気さえしてくる。
 俺はゆっくりと先端を入り口に当てて、
「行くよ……春音」
『氷原祥』らしく進藤の名前を呼んでやってから、腰を突き出した。
「っ、ううう」
 達したお陰で濡れ切っているとは言え、初めて迎える男のモノに進藤の膣は拒絶を示している。アイの時は無理矢理押し込んだが、今回はそれをやるわけには行かない。
「春音……もうちょっと力、抜いて」
「う、うん。は、はあ、ふうう」
 俺の言葉に答えて進藤は深呼吸をするが、異物を受け入れている所為かちゃんとした深呼吸になっていない。
「春音、少し我慢して」
 一応、そう声をかけてから、俺は腹に力を入れる。
「うん、いいよ、祥……」
 意識的にか無意識でかはわからないが、進藤は俺の事を名前で呼んだ。すっかり俺の事を信じきっているその様子に、興奮を覚えるのとは逆に笑ってしまいそうになる。意識から無理矢理締め出して、机に押し付けた進藤を押し潰すように腰を突き出す。
「――――――――っっっぅ!」
 ぎり、と進藤が歯を噛み締める音と突き破るような感触がして、俺のモノが進藤の中に滑り込んだ。
「っ、は」
 締め付けに、息を吐き出す。そのまま、俺は進藤の上に倒れこんだ。
「……入ったよ」
 手を伸ばして、進藤の頭を撫でてやる。
「うん、ちゃんと感じてるよ」
 瞳に涙を浮かべながら、進藤は嬉しそうに笑っていた。俺はそのまま、頭を撫で続ける。
「動いていいよ。このままじゃ、私が後悔しそうだから……」
 消えてしまいそうな声で、進藤はそう呟いた。答える代わりに頭から手を離して、両胸に手を伸ばして掬い上げる。
 そのまま両胸を愛撫しながら、腰を動かし始める。
「んん!」
 口を閉じながら、進藤は苦悶の声を上げている。中はまだキツくて、まともに動けそうにもなかった。
 腰を動かすのをしばらく止めて、胸への愛撫に集中する。同時に、左手を繋がっている部分へと下ろしていく。
「ん、はあ、ん」
 充血した肉芽を指先でつついてやると、進藤は甘い声を上げる。苦痛の色が納まってきたのを見計らって、腰の動きを再開する。
「うん、んん、あん」
 ずちゅ、ずちゅ、と俺のモノが進藤の中を滑らかに往復する。
「うあ、いい、いいよ、いいよぉ」
 空いた手を俺の手に重ねながら、進藤は快感を言葉にして表現する。
「っ、俺も、気持ちいいよ」
 息を荒げながら、俺も答える。アイの時はどちらかと言えば無理矢理抉っている感が強かったが、今日はゆっくり動かしている分だけ進藤の中が感じられる。歯を噛み締めて、腰を振る。ぐちゃぐちゃという水音が部屋に響く。
「あん、んん、あ、ああ、あ」
 俺の腰の動きに合わせて、進藤は嬌声を上げる。結合部においていた左手を胸に戻して、両手で身体を引き寄せる。
「あ、あう、うん、あん」
 動きが腰を叩きつける形から突き上げる形に変わる。同時に両手で胸を激しく捏ね上げる。
「ああん、ダメ、もうダメ、またイっちゃうぅ!」
「俺も――――もうっ!」
 腰を突き上げながら、胸を握りつぶす。
「ああああぁぁ!」
 進藤が達するのと同時に、膣が俺のモノを締め上げる。俺は耐え切れずに、彼女の中に精を放った。そのまま、二人で机に倒れこむ。
「っ、はあ、は」
 肩で息をする。同じように、進藤も机に突っ伏して荒い息を吐いていた。
「大丈夫、じゃないよな」
 軽く肩を持って抱き起こしてやると、俺のモノがずるりと抜けた。
「……ん」
 進藤は僅かに身じろぎすると、俺のモノに目を向けた。
「はあ、ん」
 熱っぽい息を吐き出して、彼女はゆっくりと俺の元に傅く。何をしようとしているのか理解できたが、彼女はそれを明確に言葉にした。
「ちゃんと、綺麗にしてあげるね」
 言葉自体は親が子供をあやすようなものだったが、吐かれた息には熱が篭もっていた。そのまま、薄く開いた口を俺のペニスに近づけていく。
「ん、ちゅ」
 何の躊躇いもなく、進藤はそれを口に含んで口の中で舐めまわした。全体を、舌が隈なく這いずり回っていく。しばらくそうした後、ちゅぷ、と音を立てて俺のモノが進藤の口から出てくる。
「ん、こく」
「――――な」
 何のためらいもなく唾液を嚥下するのを見た瞬間、体温が上昇するのを感じた。
 ただの軽い憧れ程度だと思っていたが、進藤は意外と本気らしい。
――――っ、クソ。
 内面の毒が外面に出そうになるが、それを押し留める。
「ありがとう、春音」
 礼を言いながら俺も傅いて抱きしめてやると、進藤は嬉しそうに笑っていた。

 着衣を整えると、彼女は真っ赤になって視線を逸らせてしまった。
 しかし、あれだけ騒いで誰も飛び込んでこなかったのは奇跡に近い。目先の楽しみに捕らわれて考えなしに動くべきでもないなと思い直す。
――――何にせよ、今は改竄が先か。
 ぱし、と軽く進藤の手を掴む。進藤はあわてて振り解こうとするが、別に恋人の関係で掴んでいるわけではないので、『命令』を口にする。
「今後、俺がいいと言った時以外にさっきの事は思い出すな。そして俺が『違う』と言わない限り、進藤春音と氷原祥の関係は教師と生徒だ」
 ぐら、と瞳が揺らぐ。とりあえず、さっきの行為に関する記憶は封印された。続けて、昼の状況をやり直していく。
「俺とオマエはここに入ったばかりだ。質問は最初からやり直せ」
 再び瞳が揺らいだのを確認して、手を放す。
――――アイ。心触を縮めろ。
 心の中で、命令を放つ。わかりました、と声がした。
「えーっと、氷原君。それで話の方なんだけど……」
 振り出しに戻った事を確かめるために、慎重に言葉を選ぶ。
「はい。なんですか?」
「うん、あのね、こういう事は言いにくいんだけど……」
 心触も切れているし、彼女にさっきの問答の記憶はないようだ。
 まあ、忘れろと言っただけではあるし、何かの拍子に思い出すかもしれないが、とりあえず成功と見ていいだろう。

『あのね、その。氷原君、女の子に何かした?』
『何か、ですか。特に何をした覚えもありませんけど』
『そう、うん、やっぱりそうだよね』
『はあ、なんかよくわかりませんけど、もう行っていいですか?』
『うん、ごめんね、時間とらせちゃって』

 ほとんど同じ内容の会話を交わして、立ち上がる。扉に手をかけた所で、ふと催眠の効果がどの程度のものか試してみようと思い立った。
「ああ、そうだ先生。俺は……先生の生徒、ですよね?」
 振り返りながら、進藤にそう聞いてみる。進藤は、しばし言葉の意味を考える様子を見せた後、そうだよ、と頷いた。どうやら、命令はしっかりと機能しているらしい。
「じゃあ、もう少し信用してくれると助かります」
 そんな、さっきの行為を微塵も感じさせない言葉を吐いて、俺はドアを開け放った。
 そのまま進路指導室を後にする。しばらく歩くと、うー、と唸り声が聞こえた。
「…………なんですか、アレ」
 最初にアイの口から出た言葉は、不平に近いものだった。
――――なんですかって、何がだ。
「さっきのですー。まるで恋人同士みたいじゃないですか。私にはあんなに無茶苦茶にしたのに」
 隣を歩いているアイの表情を見る気にはならない。照れながら怒るというわけのわからない顔をしているんだろう。俺は、何時もするように溜息を吐いて見せた。
――――ただの遊びだよ。
 別に本気になるつもりは無い。人を何処まで誘導できるかの実験だと言っても差し支えは無いかもしれないが、それでもやっぱり遊びには違いない。
「遊び、って、本気ですか。酷い人ですね。私は死神ですけど、祥って実は悪魔なんじゃありませんか?」
 横を流し見ると、『本当に疑ってます』と言いたそうな顔でアイがこちらを見上げていた。その顔が、何かに被って嫌な記憶を引きずり出す。が、昔の事だと割り切り、無意識に握り締めていた手を緩めて、ポケットに突っ込む。
――――面倒な人間関係を作る気はないんだ、俺は。
 と言うより、人間関係自体に俺はあまり興味がない。その上、恋愛関係となれば立場的に利害が発生する。生徒と恋仲になって免職なんてのは物語の中ぐらいでしか聞かないが、実際に無いとは言い切れない。
 向こうに勝手に教職を辞めてもらうのはかまわないが、こっちは生徒を辞める気はない。教室に戻るために、階段を上る。
――――第一俺は、踏み込ま――――?
 三階への階段に足をかけた所で振り向く。左右に広がる廊下の方から、視線を感じた気がしたからだ。
 そのまま首を動かして後方を確認する。
「……どうしたんですか?」
――――誰か、居なかったか?
 俺の言葉に反応して、アイがきょろきょろと後ろを見回す。俺も視線だけで周囲を再確認するが、人の気配は無い。
「誰も居ないみたいですけど」
 気の所為か。それにしては、悪意とも敵意とも取れる視線を感じたような気がしたんだが。よくよく考えてみれば、ここは三年の階だ。一年上に知り合いがいるわけでもない以上、誰かは見当も付かない。
 とりあえず、記憶に留めておく事にして階段を上る。が、上りきった先には、確かに人が待っていた。
「進藤先生に呼び出し食らったみたいね」
 確か昨日『ユキ』とか呼ばれていた奴だったか。声色や、顔が共通している。
――――アイ。進藤は、自分に報告したのは誰だと言っていた?
「えーと、誰でしたっけ。確か、イイモリさんの言う事がどうのとか、ミシロさんに直接聞いた方が、とか」
 イイモリとミシロ。シズカとユキ。報告した方がイイモリで、確認する方がミシロ。性格もあわせて考えて名前を結合する。次いで、記憶の中から一年の間に覚えた名前を思い出す。伊井森由紀と御城静香。昨日と今日の会話を総合すると、二人の名前は間違いなくそうなる。
 だが、そんな事は別にどうでもよかった。こいつと係わり合いになる気はない。それが御城静香という少女であってもそうだ。
 廊下の真ん中に仁王立ちしている伊井森に一瞥だけくれ、無言で横をすり抜ける。
「ちょっと、待ちなさいよ」
 抜き去った所で、肩を掴まれる。昨日とまったく同じ行為に感情の抑制が利かず、振り返って顔を睨みつけてしまう。
「――――離せよ」
 想像以上に低い声が出た。同時に、肩を掴んでいる彼女の行動が、銃弾で打ち抜かれたように止まった。
「――――」
 ぐら、と瞳が揺れ、手が離れる。
――――なるほど、心触の範囲に入ったわけか。
 アイから俺と伊井森の距離はほぼ変わらない。なら、俺の肩を掴んでいたこいつもアイの心触を受けていた事になる。しかし、直接触れていなくても、心介入の催眠は使えるのか。
――――ついでに試してみるか。
「もう俺に近づくな」
 距離が多少開いた状態、あと僅かで触れる距離で『命令』してみる。
「――――なんでよ」
 が、どうやらこの状態では『命令』は無効らしい。着衣も身体の一部、と言う解釈でいいと言う事だろう。
 威嚇するような顔を見せて、伊井森は俺と距離を開ける。そう言えば、こちらも嫌悪を表したままだったか。
――――仕方ない。
 ふ、と息を一つ吐いて嘲笑うような顔を作る。本当に嫌悪する奴に近づかれないのなら、嫌われることも厭わない。それが俺の在り方だ。
「オマエが気に入らないからだよ。オマエもそうなんだろ?」
 俺の『本音』をぶつけてやる。少々言い過ぎの感はあるが、これでも柔らかく言った方だ。打ちのめすのに十分な言葉なら、容易に出せる。伊井森は一瞬呆けたような顔をしてから、顔を怒りの赤に染めていく。
「――――っ! 気に入らないわよ、アンタなんか!」
 心触の範囲からは逃れたらしく、一瞬の間があった。だが、おそらくそれは本音だろう。人間、追い詰められた時に嘘は出ない。
 しかし、激昂して怒鳴り散らすのは精神構造が甘い証拠だ。作り笑いではなく、本当に嘲笑が浮かんでしまう。
「ニヤニヤ笑って、バカにしてんの?」
 伊井森は、精一杯の敵意を込めてこちらを睨みつけている。弱いな、と思った。余裕が足りなさ過ぎる。俺は前を向いて、歩き出そうとした。
「アンタなんかに、バカにされる筋合いないわよ」
 吐き出すように、そう言い捨てる声が聞こえる。だが、その声色には少しだけ悲しみが混じっているようにも聞こえた。理由はわからないがどうでもいい事だ。だが、その言葉は面白い。バカにされたくないというのなら、どうすればいいか教えてやろう。俺は、首だけ回して再び振り返る。
「――――なら、本気にさせてみな」
 どうでもいい事を報告するぐらいじゃ、俺は本気に出来ない。そういう意図を、嘲笑に込めてやったが、気づくかどうかはわからない。
「――――なっ」
 言うだけ言って、俺はその場を後にした。

 家に帰り着いて、ダイニングチェアーに座り込む。ここ二日間で使いすぎてしまったエネルギーを補給するように、深呼吸をする。
 アイとの契約で手に入れた心介入の力。確かに使い道はあるが、使い所は難しい。下手に記憶を改竄させたりすれば、どうしても違和が生まれる。突き詰めていけば、俺がそういう持ち得ないはずの力を持っていると知れてしまうだろう。
「エネルギー、か」
 よくよく考えてみれば、今日は朝昼共に食事をしていない。朝は時間が無く、昼は進藤に呼び出し。いい加減、胃が鳴ってもおかしくはなさそうだ。
 が、そんな事を考えていると、別の場所から、くぅ、と音がした。
「うう、おなか空きましたよー」
 向かいの椅子に座って、ダイニングテーブルに突っ伏しているアイが、そんな事を口にした。その言葉に、思考が停止する。
「何……オマエ、食事するのか?」
 だとしたら、神様って言うのは随分を通り越して相当俗っぽい存在だ。
「しますよー。身体の構造は人間と変わらないんですから」
 机に突っ伏したまま、アイは溶けそうなほど表情をだらけさせている。しかし、コイツも食事をするのか。
「今までどうやって栄養補給してたんだ」
――――まさか食い逃げ、か?
 食事を注文して食べ終わった後、トイレにでも入ってから姿を消して逃げる。悪くない手法だ。問題は、先払いの店や、目立つ所では食事ができない事くらいか。
「失敬な! いくらなんでもそんな事しません!!」
 心触で俺の心を読み取ったのか、アイは椅子を鳴らして立ち上がった。が、すぐに空気が抜けたようにへたり込む。
「そうか、そう言えば昨日の夜も食ってないのか」
 昨日の夜は、何もせずに眠ってしまったのを忘れていた。道理で腹の中が淋しいわけだ。
 立ち上がって、キッチンに向かう。調理台にはパスタの袋が転がっていた。それを無造作に開封する。
「あれ、料理なんてできるんですか?」
 脱力状態から回復したアイが、カウンター越しにこちらを興味深そうに眺めている。
「一〇年近く一人暮らししてるんだ。そのぐらいはできるさ」
「へえ、そうですか。……………………一〇年?」
 無意識に出た俺の告白に、アイは疑問符を浮かべている。が、俺はそれを無視してパスタ鍋に水を注いでいく。

『――――祥って実は悪魔なんじゃありませんか?』

 昼間の言葉を思い出す。悪魔。そう言えば、実際にそう呼ばれていた時もあったか。
 あの、俺の周りを無駄に取り巻く奴らの蔑む様な目――――
 ガン、と音がした。何かと思ってゆっくりと辺りを観察すると、俺の握った拳が調理台に叩きつけられていた。沸騰した感情は、その八つ当たりの一撃で静かになったようだった。
「あ、あの……」
 そんな俺の行動を見ただけで、アイは驚いたようにうろたえている。聞いてはいけないことを聞いたのだと思ったのだろうが、俺の頭に血を上らせたのはそれとは別のことだ。
「なんでもない。こっちの問題だ」
 俺は抑揚の無い声でそう言って、水を止めた。そのままコンロへ持っていって火にかけ、換気扇を回す。
「この家に他に人間が居るようにでも見えたのか?」
 ふう、と息を吐き出して、コンロの向かいにある食器棚に背を預ける。青いガスの火を見つめながら心を落ち着けていく。
「そう、ですね。言われてみれば」
 答えながら、アイは辺りを見回していた。並べられたソファー。締め切られたドア。そこからは人の気配というものがまったく漂ってこない。この家を表現するなら、人の立ち入らないモデルルーム。そんな所か。
「第一、オマエ最初に『冷たい場所』だって言ってただろ」
 確かに、最初の言葉はそれだった。アイ自身も思い出したのか、ああ、と呟いていた。

「ご馳走様でした」
 食事が終わると、アイは静かに手を合わせる。食事を始める前も同じような事をしていた。
 死神がキリスト教徒だなんていう話は聞いた事が無いが、不思議とおかしいとは思わなかった。
 皿を下げて洗物を始めると、ピピッ、と電子音が鳴る。
「あれ? 何の音ですか?」
「風呂」
 短く答えて、手を動かし続ける。と言っても、量は大して無いのですぐ終わってしまう。軽く手の水を切って、自分の部屋へと向かう。シャツとズボンを持って、脱衣所へと向かい、服を脱ぎ捨てて、シャワーで身体を流してから風呂に浸かる。
「――――は」
 息を吐いて、身体を滑らせ、肩まで湯に浸かる。特筆するほど疲労はしていないが、吐いた息の分だけ疲れは抜けた気がした。が、ゆっくりとする暇も無く、脱衣場と風呂場を仕切る扉がスライドする。その隙間から、アイの顔が覗いた。
「あの、入ってもいいですか?」
 ちらちらと、視線をこちらに向けたり逸らしたりしながら、アイは答えを待っている。俺は溜息を吐き出して、勝手にしろと答えた。
「お邪魔します」
 カラカラと扉が開く音を聞きながら、俺は目を閉じた。別に眠気はない。気をつければ溺れる事は無いだろう。暫くすると、シャワーが流れる音が止まった。
「よい、しょ」
 ちゃぷ、と閉じた暗闇の先で水音がして、下腹部の上に重みが乗る。ゆっくりと目を開くと、目の前には上気したアイの顔があった。
「――――何をやってる」
 呆れて溜息を吐く。が、アイはそのまま身体を密着させてこすり付けてきた。何もしていないはずなのに尖っていた胸の先端が、俺の胸に当たる。
「昼間から、ずっと我慢してたんです」
 か細い声が、風呂場の独特な空気で反響する。
「俺とくっつくのをか?」
 昼間から、と言う言葉が何を示すのかをわかっていて俺は聞き返してやった。
「違います……。昼間、あの人と祥が……してるのを見てからずっと……」
 呟きながら、アイは俺の手を掴んで脚の間に持っていく。そこには、粘り気のある液体が溢れていた。思わず笑いが漏れる。
「アイ、これじゃあオマエ、変態にしか見えないぞ」
 そう言いながらも、俺はその滑りの奥へと指を沈めていく。中指を差し込んでやると、甘い息を吐きながらアイは更に体重をかけてくる。
「はん、ん、変態でいいですから、もっと……」
 ぱしゃぱしゃと風呂の湯が波打つ。空いた手を胸に伸ばしてやると、アイは俺のモノに手を伸ばしてきた。
「はう、ん、私も……」
 触りなれていない所為か恐る恐る握られた手が、ゆっくりと上下する。
「あ、すごい……こんなのが入って……」
 余裕が無いのか途切れる声とは逆に、要領を得たのか、手は少しずつ擦る速度が上がっていく。未熟な手つきは、自分でする時よりもずっと快感を与えてくる。
「っ」
 主導権を取り返すために、中指と合わせて人差し指を差し込んで、折り曲げてやる。
「ふああ」
 身体が跳ねるのと同時に、モノを握っていた手が解ける。その瞬間を見計らって、一気に指を奥まで突っ込む。指を開いたり、折り曲げたりして、無茶苦茶に中をかき混ぜていく。
「あう、だめぇ、今日は私も」
 手が伸ばされるより早く、硬くなった胸の先端を左手の人差し指と親指で押しつぶしてやる。
「ふあぁぁ」
 ビクンと痙攣する身体から指を抜き去って、代わりに自分のモノを押し当てる。
「欲しかったんだろ、これが」
「あう、そんな、まだ」
 抗議の声を無視して、押し込むと、一気に奥まで入りきってしまった。
「なんだよ、ちゃんと準備できてるじゃないか」
 ざばざばと水面を揺らしながら突き上げてやると、アイの口はだらしなく半開きになる。
「は、はう、だって、仕方ないじゃ、無いですか」
 するりと、首の後ろに腕が回される。そのまま頭が近づいてきて、もたれかかってくるが、構わずに腰を振ってやる。
「どうせ昼から、こんなヌルヌルにしてたんだろ?」
「は、はい、そうです。お昼からずっと、脚の間がべたべたになってたんですっ」
 自棄になるように言って、アイは俺にキスをしてきた。唇を割り開いて、舌が入ってくる。俺も、答えるように舌を出して絡ませていく。アイの言う昼にしたよりも、ずっと荒いキスになる。気を抜くと窒息しそうになって、俺は腰を止めてしまった。
「はん、んちゅ、ん、ん」
 唇を離すと、唾液が糸を引いた。それを見て、アイは恥ずかしそうに笑っている。それを見て、溜息を吐いた。
「オマエ、キスがしたかっただけだろ」
「はい、まあ」
 否定もせずに、アイは再び顔を近づけてくる。俺は身を引いて、腰を突き上げた。
「ひゃう」
「調子に乗るな」
 そのまま、湯の浮力を借りて滅茶苦茶に腰を振る。角度や、何処まで突き込めるかなど関係無しに突き上げてやる。
「あう、あう、うう、祥、激しすぎですっ!」
 相当な快感があるのか、首に回された手に力が入るが、無視して突き上げ続ける。接合部が立てる音は聞こえないが、代わりに風呂の湯がざばざばと波打ち、こぼれていく。
「ひゃん!」
 何回か振り続けていると、一際高くアイの身体が跳ねる。俺は、その擦った部分に当たるように、アイの身体を固定してやる。
「ひゃ、ひゃう、ダメ、祥!」
 腰を振るたびに、アイは今までより高い嬌声を上げて身を捩る。
「へえ、ここがいいのか」
 顔に笑みを浮かべて、俺は腰を振り続ける。
「あ、は、はん、ひゃう、は、あ」
 アイは抗議の声も出せずに、短い悲鳴のような嬌声だけを上げて俺のモノが入った膣を締め上げ続ける。
「っ、く」
 アイも余裕が無さそうだが、こちらも余裕が無い。風呂から上がった湯気が、呼吸をするたびに喉を焼いて、思考を白く染めていく。アイを貫いているモノが自分の全てになったような気にさえなってくる。
「もう、だめ、イっちゃいますっ!」
 最も感じる部分を擦り上げられて続けて、アイは簡単に絶頂に達した。が、俺は切れそうになる意識を繋ぎ止めて声を発する。
「俺は、まだ出してないぞ」
 室温と湿度に息が上がる。が、吸い込んだ息は肺を満たすと共に喉を焼いていく。堂々巡りの中で何も考えられなくなり、壊れたように腰を振り続ける。
「あ、あん、ですから、だめぇ」
 アイの事情も考えずに奥を突き上げ続ける。二度目と言え、体格的に狭いアイの中は十分に俺のモノを締め上げている。
「アイ、行く、ぞ」
 言葉が切れ切れになる。理由はわかっているが、俺の動きは止まらない。突き上げるたびにアイは嬌声を上げ、俺は荒い息を繰り返す。
「わ、私も、また、イっちゃうう」
 最後に、アイの身体を押し上げて、思い切り引き下ろしながら突き上げた。
「んああああっ!」
 俺は朦朧とした意識の中、先端から何かを吐き出す感覚だけを感じていた。

 その後、アイは気絶するように倒れてしまった。俺は、ふらつく身体を何とか動かして脱衣所に倒れこんで、しばらく呆然と体力が回復するのを待った。
「っ、は」
 脱衣所の冷たい空気を吸い込んで一瞬眩暈を感じたが、直ぐに思考がクリアになっていく。上半身を起こして風呂場を覗くと、アイが転がっていた。
「ん、ふう、すう」
 多少は気遣ってやろうとしたが、微笑を浮かべながら寝息を上げる姿を見て、俺は再び脱力してしまった。
 とりあえず、風呂場からアイを引きずり出してやる。バスタオルを被せて、俺は着替えをしようとした。のだが、アイの股の間から零れる白濁に目が行ってしまう。
「……ふう」
 俺は着替えを止め、眠ったままのアイを抱いて風呂場に戻った。シャワーを出して、アイの脚の間を流してやる。
「ふ。んん、ん」
 くすぐったそうに僅かに身を震わせるだけで、アイは目を覚まさなかった。シャワーを止めて、バスタオルを巻きつける。
――――なにやってるんだろうな、俺。
 そんな自分に疑問を抱く。この十年間、静寂を物足りないと思った事は無い。むしろ望んでいたはずだ。
 湯を吸って重くなったバスタオルを取り替えてやると、アイはまたくすぐったそうに身じろぎした。そのまま脱衣所の床にアイを寝かせて、俺は着替えを終える。
「――――――――ふう」
 何度目かわからない溜息を吐いてアイを抱きかかえる。そのまま部屋まで歩き、ベッドに寝かせて布団をかけてやる。
 どこか嬉しそうな寝顔を見下ろしても、とても彼女自身が言うような死神には見えなかった。
「でも……俺を殺そうとした、んだよな」
 振り上げられた鎌の返した光を、まだ覚えている。だが、不思議なもので、今思い返してもそこに恐怖は抱かなかった。
――――あの瞬間、俺は……
 彼女になら、殺されてもいいと。確かにそう思った。
 理由はわからない。自暴自棄になるような心象でもないし、特に自殺願望があるわけでもない。
 左手を翳して、小指を見る。そこには、銀色の糸が繋がっている。光を反射して淡く輝く糸を右手で掴もうとするが、当たり前のようにするりと通り抜ける。
――――まあいい。
 何にしろ、そのうちわかるだろう――色々な事が。
 そんな、不思議な感覚を覚えて、俺は居慣れた自分の部屋を出た。

< つづく >

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