形而上の散歩者

「あ、ダメ、ちょっと……」

 渡辺の大きな胸を、俺は後ろから両手で掴んだ。さらに身をよじって逃げようとする彼女を強引に抱き寄せた。
 彼女はクラスでも上位レベルの美少女。俺的にはランク2位。しかも俺が大嫌いな男の彼女。
 今、俺はそんな女の胸を揉んでいるんだ。すっげえ柔らかい。すっげえいい匂い。
 昨日までの俺からは考えられないシチュエーションに、興奮しすぎてクラクラする。
 いずれ自分史を編纂するときは1ページ目に今日のことをエロく書いてやろう。自分でも何を言ってるかよくわからない。
「ダメ、やばいって、ちょっとぉ……胸、揉んじゃダメだってば、ふぅん、んんっ」
 嫌がるフリをしてるけど、彼女の柔らかい尻は誘うように俺の腰にまとわりついてくる。
 渡辺だって興奮してるんだ。俺にはわかる。彼女自身も知らない彼女の本当の心と俺は触れあっている。どんな男に抱かれても感じることのなかった体が、今、初めて味わう快感に戸惑っているんだ。
 しかも相手が俺だなんて。クラスのイジられ役の俺に、あの渡辺が抱かれるなんてな。
 笑っちまう。でも事実だ。
 渡辺は俺に感じている。感じまくってる。
「あん、ダメ、倉島ぁ。ちょっと……ダメ、待って。なんか、変。私、変、みたいなの。ねえ、お願い」
 息を荒くして、力のない抵抗をする渡辺が、余計に俺の興奮を煽る。
 ベッド代わりにクッションを敷き詰めたローソファの上で絡み合う俺たち。床に散らばるファッション誌とネイルグッズ。彼氏と教室で撮った写真。
 初めて見た女子の部屋の生々しさも俺を興奮させる。
 すげえ。何やってんだよ俺。信じられねえ。やっべえなマジで。
「ああっ、ダメ! やめっ、やめてっ!」
 渡辺が俺を振り払る。胸をかばうようにして俺と向き合う。
 上気した頬。荒い息。乱れた制服。
「はっ…はっ…はあ……はあー……」
 渡辺、マジ色っぽい。さすが美少女。この顔だけで俺なら100万回ヌケる。
「ほんと、これ以上はやばいから……篤に……あんたも、篤に殺されちゃうよ……?」
 篤? 寺田のこと? 
 あんなヤツ怖くねえよ。寺田はもう俺の言いなりだ。お前の彼氏はもう一生俺には逆らえないんだよ。
 もちろん渡辺には内緒だけどな。
「ゴメン、倉島。やめよ? 今日はもうやめよ? ほんとゴメン」
 両手を合わせて拝むように彼女は懇願する。彼女の鉄の城が起動したってわけだ。
 でも、俺はその正体を知っている。倫理観、道徳、プライド、感情……そういうめんどくさいの全部とっぱらった奥にある彼女の姿を。
 彼女の両手を優しく包み込む。グラっと視界が揺れるけど、前みたいな不快さはもうない。
 俺はこの能力を使いこなせるようになった。
 こうして触れるだけで……。

 ホラ、もうここは渡辺の心の中だ。

 こないだから、チャリで30分ほどのコンビニでバイトを始めた。
 学校以外は同人ショップくらいしか外出することのない半ヒキの俺にとって、それは大きな冒険だった。全身にバターを塗りたくってサバンナに飛び出すほどの無駄な勇気だった。
 そもそも俺には、今の学校に入ってすぐくらいに脱オタして友だちを作ろうとしたけど、逆にそのキャラが痛い感じになって失敗するという過去がある。そのときに無理してた反動なのか、なおさら人と話すのが面倒だしキョドっちゃうしで、正直、他人と関わるのが苦痛でしょうがなかった。
 だがそんなとき、2コ下の妹が俺に向かって言った一言が、俺の人生を変えた。
「お兄ちゃんって夢がないよね」
 うちが歯科医ならバラバラ殺人事件に発展しそうなセリフだ。だが、そうじゃいけないと俺は思い直し、再チャレンジの意欲を燃やしたのだ。
 夢は無いかもしれないが、自分を変えようとする意欲はある。俺はダメ兄なんかじゃない。
 人並みの社会性を手に入れるため、俺はまずはバイトを始めることにした。
 バイト先に選んだこの店は、準大手くらいの地味なコンビニチェーンだ。住宅街の中にある地域密着型の店舗で、酔っぱらいや駐車場にたむろする兄ちゃん達も来ないし、夕方以降の普通なら忙しい時間でも、ここだけは静かなものだ。たぶんもうすぐつぶれるが、まあ、とりあえず社会との接点としては程良いところだ。
 学校では軽くイジメられてるので、同クラの連中があまりいないこともバイト始める前にリサーチ済みだった。たまに変な客は来るけど、それ以外はいい職場だ。
 今では仕事もだいたい覚えて、職場の先輩ともある程度普通にしゃべれるようになってきたころだった。

「おう、倉島ー。なにお前、バイトしてんの?」

 恐れていたことが起こった。同級生に見つかってしまった。しかも俺の嫌いな寺田だ。同クラのイケメングループに所属するあんまりイケてない男。
 俺が頑張ってクラスに馴染もうとした新学期の頃、最初に属していた(と思っていた)グループのリーダー格だ。なんでも中学の頃に空手の全国大会で3位になったとか自慢してるが、もちろんそんなの誰も信じてるヤツはいないというナイスガイ。
 始めのうちは俺もそれなりに会話してたが、やがて俺の無理してるキャラが崩壊して、イジりがひどくなってイジメになる前に俺はオタクグループに転向した。やがてそこからもドロップアウトして、さらにどんどんクラスから孤立化して今日に至るわけだが、今でも変なタイミングでコイツらの目に止まっちゃうと、こうしてイジられるときがある。
「おい、バイトかって聞いてんだろ」
「う、うん、ちょっと……」
 見りゃわかるだろうが。俺がおでんの具に見えんのかよ。バイトの店員だよ。
 なんでこう、意味もなく威圧的なんだろうなコイツ。とにかく疲れるんだよクラスの連中と喋ってると。特にこういうタイプ。
「へー、いつから? 全然気づかなかったよ、私」
 しかも寺田の横には彼女の渡辺もいる。彼女も同じくクラスのイケてる女子グループの一員だ。寺田たちと一緒に、俺も少しは仲良くしてもらっていた時期も会ったのさ。
 いかにもモテ系の女子で、はっきりした顔立ちの綺麗な子だ。大きくて少しつり上がったシャープな目が最初キツい感じに見えたけど、話してみるとわりと真面目で気の利くタイプで、あとスタイルが良いのもポイント高い。ぶっちゃけ、当時はよくネタにしていた1人だ。
 すぐに寺田とくっついたから冷めたけどね。
「私んち、ここから近いんだよねー。知ってた?」
「え、いや、知らないし……」
 知ってたらこんなとこでバイトしねーし。
 ていうか明日やめるよ俺。
「テメー、はるか(渡辺のこと)狙ってんじゃないだろーな?」
「うぇ、いや、そんなことは……」
「アハハ、バカ言ってんなよ、篤。ホラ、さっさと菓子買おうぜ」
「おー」
 完全びびりモードな俺を見切って、渡辺が寺田を菓子コーナーに引っ張っていく。
 嫌な緊張がようやく解けた。汗で濡れた手をジーンズに擦りつける。
 ビビりな俺がイジメにまでいってないのは、うちのクラスの女子に出来た人間が多いおかげだ。こんな俺でも一時は友だち付き合いがあった義理なのか、なにげにフォローされてるケースが多い気がする。
 とにかく渡辺のナイス判断に感謝だ。今夜は久しぶりに渡辺をネタにシングルプレイを楽しむことにしよう。
 よおし、万引きした渡辺を捕まえて事務所でレイプしてやる。
 と、俺が童貞丸出しの妄想に没頭しようとしていたところ、寺田がこっちを向いて手招きした。
 嫌な笑みだ。悪い予感を引きずりながら菓子コーナーに行ってみたら、案の定、寺田の言うことは最低だった。
「これ貰ってっていいよな?」
 軽く揺すってみせるバスケットの中にあるのは、スナックとグミとチョコとペットボトルが2本ずつ。せめてコンドームがないことが俺的に幸いだったと言えようか。
 そんぐらいテメエの金で買えよ。こんなことで自分の力を誇示しようなんて、情けない男だな。
「デヘ、いや、貰ってくとか言われても……」
 つーか、こんなときでもニヤニヤしてる俺の方が情けないって話か。
「篤、やめな。いいよ倉島。あとでちゃんと買うから、仕事に戻って」
 渡辺は、ちょっと怒った顔で寺田の腕を掴んで止めようとする。
 うちの女子はやっぱりまともなヤツ多いよな。寺田にはもったいない女だ。
 さっきは妄想で犯してすまん。
「いいじゃんよ別に。せっかく倉島がバイトしてる店なんだからよ。なぁ、倉島?」
「いや、でもさ……」
「でも何よ? いいよな別に?」
「あーつーしー!」
「いいんだって。オイ、倉島―――」

 あ、やべ。
 気分悪い。頭痛い。
 目の前がグルグルする。
「どうした? 聞いてんのかお前?」
 変な感じだ。倒れそうだ。
 あーこれやばい。この感じはやばいぞ。
 いつものアレとちょっと違う。強烈につらい。ちょっと吐きそう。
 前に『布団ババア』に捕まったときみたいだ。 
「おい?」
「え、なんか倉島、顔色ヤバくない? ねえ、大丈夫?」
 コイツらの声が遠くなる。
 また気ぃ失うのか、俺? こんなときに……。
 くそぅ。

 あのババア……俺に何しやがったんだよ?

 ―――それは俺が、ここでのバイト始めたその日のことだった。
 俺に初日の仕事を教えてくれた先輩は、かなりごっつい体をした大学生で、こんな俺にも気軽に話しかけてくれる良い人だった。
「この店はまあ、騒々しいヤツらもこないし、ヒマでいいところだよ」
 それは俺も事前にリサーチ済みのことだった。
「時々は変なヤツも来るけどな。いっつも緑のジャージ着て何時間もエロ本立ち読みする『みどジャー君』とか、2人で山ほどポテチとか買ってく『ファット姉妹』とか、布団叩きで商品殴りまくる『布団ババア』とか……あ、いっつもアホみたいにコンドーム買いまくる『ゴム姉さん』とかな」
「はあ」
「中でも『布団ババア』が一番タチ悪いぞ。止めようとしたら布団叩きで殴られるしよ。あの人が来たらほっといていいから。店長もそう言ってるし」
「はあ」
「ま、ここならレジで忙しいってこともないからよ。のんびり仕事覚えていけばいいよ」
「はい」
「いらっしゃ……あー……言ってたら来たよ。ホラ、あれが『布団ババア』だ」
 入って来たのはデブったおばさんだった。
 化粧っけのまるでない浅黒い顔。ひっつめた髪を頭頂部でまとめて、小さい目が妙に光っている。
「……いらっ、しゃいませ……」
 レジにいる俺と先輩をギロっと睨みつけて、布団ババアは店内をノシノシと歩き回る。
 そして手にした布団叩きでバンバン陳列ケースを叩きまくってる。しきりに何かを喋りながらだ。
 あー、確かにやっべーババアだな。 
「ああやって気が済むまで歩き回るんだよ。ほっといたら帰るから、あとで商品チェックな。壊れたもんあったらババアの家の人が弁償してくれるから」
「あの人、家庭あるんすか?」
「おう。それがまあフツーのお父さんと娘でさあ。しかも娘ってのが可愛いんだよなー。信じられんことに」
 布団ババアはしきり何か喋りながら商品叩きまくってる。ちゃんと家庭もあるっていうのに、何がどういう感じになったらあんな人間になるんだろうか。不幸なおばさんだ。
「ん、こっちくるな。目ぇ合わすなよ」
 布団ババアがレジ前で止まった。目を合わせないように別の作業をやっているフリをしている俺たちをじっと睨みつけている。何やらブツブツ喋りながら、しかもレジテーブルをバシバシ布団叩きで叩きながらだ。
 怖ぇ。俺、失禁しちゃうかも。
「……それで誤魔化したつもりかい」
 ババアは確かにそんなことを呟いた。チラっと顔を上げてみると、ババアは先輩のほうを睨んでいる。
 さすがに慣れているらしく、先輩は完全無視だ。
「鎧のつもりで鍛えたんだろうけど、そんなのスカスカのスポンジだね。あんたの弱虫が治ったわけじゃないよ。ポッキーちゃん」
 先輩が顔を上げた。まるで幽霊でもみたような顔で布団ババアを凝視する。
「お兄ちゃんがそんなに怖いのかい。情けない男だね」
 バンバンバンバンとレジテーブルを叩く音がうるさく店内に響く。
 布団ババアは浅黒い顔でジッと先輩を睨みつけていた。
 先輩の青ざめた顔と唇が小刻みに震えていた。
 俺にはわけがわからない。何のことだ? ポッキー? 兄ちゃん?
「う、うわあ!」
「ちょっと、先輩!?」
 先輩がいきなり事務所に駆け込んでいった。追いかけようにも店内には俺とババアだけだ。俺が行っていいものかどうか。
 取り残された俺の顔をババアはジッと見ている。ギラギラした目だ。猛禽系の。
 なんだこの展開。どうしたらいいんだよ、俺?
「……なんだい、アンタ?」
 俺のこと聞いてるのかな? そうだよね、この場合。
 やべえぞ。絶対に返事するな。無視だ無視。ガン無視。シカトを貫き通せ!
「なんだって聞いてんだろ!」
「バイトの倉島修吾です。今日が初日なんで失礼ありましたらすみません、ホントすみません」
「そんなこと聞いてないよ! 何者なんだよ、アンタ! なんでアンタみたいのがいるんだよ!」
「すみません、まだ研修期間なんで、ホントすみません」
「バカヤロウが! このバカヤロウが!」
「すみません、すみません、すみません……っ!」

 ……自動ドアの音に顔を上げてみると、ババアはいつの間にか外に出て行ったようだ。
 入ってきたときよりもさらに機嫌悪そうに、電柱なんかを叩きまくっている。
 どうやら無事にやりすごしたようだ。毅然とした態度で対応する俺の迫力にびびったのだろうか。
 しかし、その後の先輩の方が大変だった。
 気分が悪いと言って早退し、次のバイトは欠勤してしまった。で、次に同じシフトになったときは、なぜか顔に痣を作っていた。
 先輩はあのときのことは何も言わなかったし、口下手な俺も何も聞かなかった。

 ババアは、それから2度ほど俺のバイト中に店に来た。
 初日のとき以来、先輩は布団ババアを見るとさっさと隠れてしまうし、そうなると俺1人でババアの見張りをさせられることになってしまう。しかも、最初のときみたいにババアが店内をうろつき回ることはない。まっすぐに俺のところに来て、ずっと俺の顔を睨んでブツブツと文句を言うんだ。

「なんなんだい、アンタ? 何者だ?」
「邪魔邪魔邪魔邪魔……あー! 邪魔くさい!」
「アンタみたいのがいるなんて信じられないね!」

 まったくもって意味わかんねえ。俺にどうしろと?
 はいはい言って聞き流していれば、そのうちババアも出て行くので気にしないようにしていた。ほっとけば害はないと思ってたし。

 だが、事件は3日前に起こった。

 バイトに向かう途中の商店街をチャリで抜けようとしていたときだった。俺の前方に見覚えのある巨体のババアが立ちふさがっている。
 最悪だ。長坂橋で張飛と出会った曹操はこんな気分だったに違いない。
 なるべく目を合わせないように横を通り過ぎようと思ったのに、布団ババアは俺の前に身を乗り出してきてチャリのハンドルを捕まえる。
「なにやってんだい、こんなところで!」
 いきなりハンドル捕られて焦ったことと、衆目の前で怒鳴られたことで、さすがにびびりな俺もキレてしまった。
「なにすんだよ!」
 それが失敗だった。払いのけようとした手をババアが掴んだ。ものすごい力だった。
 あっという間に俺の体はチャリから引きずり下ろされ、ババアが俺の頭をラグビーボールみたいに両手に抱える。
 そのまま、急に顔が近づいてきて、あれ、まさかキッスされるの? なんて死の予感を感じて反射的に俺もババアの頭っていうか顔を両手で押えた。
 ババアの顔がドアップで目の前に。俺は胸がムカついてきて、胃液が遡ってくる不快さと、目が回り始めた感覚で今にもぶっ倒れそうになった。
 変だと思った。意識の中に何かが入ってくる感覚。いや、俺の意識がどこかに出て行った感じ。上手く言えないけど俺がどこかに行っちゃう気がした。

 ―――そして俺は川原に立っていた。

 ありのまま起こったことを言うぜ。
 商店街でババアに唇奪われそうになったと思ったら、静かな田舎に立ってた。
 のどかな風景だ。遠くで鳥が鳴き、せせらぎの音が聞こえて、見上げれば入道雲がもくもくと広がる青空だ。
 でも、その美しい田舎の景観を壊すように川原に建っている、変な掘っ建て小屋が妙に気に障る。打ち棄てられた廃屋か、とてもイヤな空気がその小屋の辺りを漂っているんだ。
 で、そこをジッと見てると、なぜか小屋の扉からウサギが出てきた。何匹も何匹も飛び出してきた。
 なんでウサギ? と、思いながら見ているとだんだんと数が増えて、最後の方はもう土石流みたいに轟音を立ててウサギが噴き出てくる。
 そして、小屋からババアが出てきた。俺を見てニタ~っと笑った。
 妙な感じだ。目の前の光景には現実感がまるでないのに、これは現実だと俺は受け入れている。
 ねっとりした空気を纏う布団ババア。 ババアのように見えるけど、これは本当のババアじゃない。なんとなくだけど、ここはババアの記憶というか精神というか、ようするに他人の中にいるんだって頭の片隅で俺は理解していた。初めて見る光景なのに、なぜかそう直観してるんだ。
 ババアはいつもより大きく見える。というより巨大化してる。徐々に徐々にババアは大きな影になる。すでに見上げるまでの大きさだ。真っ黒な入道雲だ。
 びびる。マジびびる。
「やっぱりアンタもアタシと同じ人間なんだねえええ! バカにしやがってえええええ! アタシの邪魔するヤツは許さないよおおおおお!」
 上から響くババアの声。反響しまくって耳に痛い。
 ババアが何を腹立ててるか、俺にはわからない。俺が何をしたって? なんで俺がこんな目に遭うんだよ?
 逃げよう。と、頭では思ってるのに体が動かない。
「許さないよ許さないよこのクソガキぃぃいいい! アンタみたいのはいらないよおおおお! いらないんだよおおお!」
 ババアはどんどんでかくなっていく。俺は半狂乱。自分でもわけのわからない悲鳴を上げていた。
 でっかいババアが俺の上でドロドロに溶けていく。真っ黒な液体になって降り注いでくる。ひどい匂いだ。全身に絡まって身動きがとれない。息が詰まる。溺れる。
「ハハハハ! ガキがああ! アタシに勝てるわけないだろうがあああ!!」
 ババアに溺れて死ぬなんて最悪だ。死ぬ。殺される。ババアの笑い声がわんわんと頭に響いて―――

 ―――ごん。

 という鈍い音が、自分の倒れた音だと気づいたときには、俺はアスファルトの上に横たわっていて、ババアの背中を見上げていた。
「フン! 二度と顔見せるんじゃないよ!」
 ノシノシというババアの立ち去る音をアスファルトで聞きながら、俺はそのまま失神した。
 何が起こったかなんて、そのときの俺にわかるはずもない。商店街の人がバイト先に連絡してくれて、オーナーが家まで送ってくれたそうだ。ババアが俺に見せたあの悪夢の正体も、首を絞められて、気を失う直前に見た悪夢だろうと、そう思うことにした。
 それ以来、ババアが店に来ることはなかった。
 
 そして俺は、たびたび吐き気とめまいに襲われるようになった。
 クラスの連中が俺に向ける視線を意識したとき。妹が俺を小馬鹿にしたようなことを言うとき。オヤジが晩酌しながらため息ついたとき。
 昔から対人恐怖症の気があると思ってたが、それがさらにひどくなった。
 客相手のマニュアル会話くらいなら何ともないが、それ以外の他人との接触がひどく緊張するし、吐き気やめまいまでする。

 その症状が寺田と渡辺の前で始まった。
 しかもババアのとき以来の最大級の波。
 やばい。吐くかも。むしろさっさと気を失いたい。
 俺、一度病院行って精密検査だな。
「何コイツ? きめぇ」
「篤、やばいって。店の人呼んで」
「何でだよ? 行こうぜ、もう。うぜえってコイツ」
 寺田が俺を突き飛ばそうとしたときだった。反射的に伸ばした手が寺田の制服を握りしめる。それを嫌がった寺田が俺の手を払いのけようとして、互いの手が触れあった形になった。ほんの一瞬のことだ。
 俺は自分の不快感から逃げる場所を探していた。だからそれは本能的な判断だったのかもしれない。どうやったかなんて、自分にはわからない。

 ―――俺は、だだっ広い平野にいた。
 真っ白い地面と空。そして同じく真っ白くて巨大な積み木が、その平野に不格好な家や木を形作っている。
 吐き気もめまいもしない。逆にクリアーすぎるくらい頭がはっきりしている。俺は一瞬で理解していた。ごく当たり前のことのように今の状況を把握した。

 ここは―――寺田の精神世界だ。

 つまんなくて幼稚。想像力の欠如と無味乾燥な感性。俺は寺田という人間を瞬時に理解する。
 そして俺自身から湧き出る妙な高揚感。まるで難攻不落の砦を崩したかのような勇猛な気力。そのときの俺の感覚はまさに研ぎ澄まされた戦士のように敏感だった。
 唸り声が聞こえる。積み木の建物から、虎や熊、ワニに恐竜、いかにも寺田の好みそうな猛獣が這い出てくる。俺に向かって吠え立てる。
 でも俺に恐れはない。見てみろ。寺田の出してきた猛獣は、全部張り子で作られた虚勢だ。これが寺田の本性だ。
 吠えるだけで襲ってくる気配のない猛獣たちに、俺は自分から近づく。頭を掴んでその皮を剥いでやると、あっという間に虎はぺしゃんこだ。
 断末魔の悲鳴を上げて紙くずになる虎。
 これが寺田という人間の本質だ。脆いな。強気の面の皮を剥いでやれば、中にあるのは張り子の虎。ババアに無理やり引きずり込まれた世界に比べれば、ここのなんて幼稚で浅薄なことか。
 ニセモノの猛獣たちを潰していくたびに俺の中に寺田の過去が見えてくる。猛獣たちは寺田が一匹ずつ作ってきた過去の虚勢だ。
 近所の悪ガキの仲間に入るために親の財布から盗んだ金でお菓子をおごった。親は文具会社の営業マンなのにマスコミ関係だということにしている。従兄弟が若い頃に珍走団の真似事やってただけなのに、親戚にヤクザがいると吹いて回ってる。
 中学時代の空手も今まで抱いた女の数も数々の喧嘩の武勇伝も。
 バカバカしい。痛すぎるぜ寺田。笑っちゃうくらい恥ずかしいデマカセばかりだ。全部叩き壊してやる。
 そして、最後に残ったのは汚いガキだった。5、6才くらいだろうか。でっかい積み木の裏で裸ん坊で泣いていた。生意気そうな顔してる。
「おい、寺田」
 ビクリとガキは身を震わせる。寺田の虚勢を壊しまくって、残ったのがこの小汚いガキだ。
 これが寺田の本性。あるいは本質。無意識。本心。自我とかそういうの。
 なんと呼べばいいのかわかんないけど、とにかく俺は寺田篤という人間を構成する芯の部分を目の前に引きずり出している。
「全部知ってるぞ。お前の正体は嘘つきで弱虫でつまんねークソガキだ」
 ガキ寺田がガタガタと歯を鳴らした。このガキにしてみれば、猛獣どもを引き裂いた俺はまるで悪魔のように映っていることだろう。
 征服者の快感が俺を満たす。
「よく覚えておけよ、俺のこと。俺にはどんなウソも脅しも使えない。全部ぶっ壊してやる。こんな風に」
 寺田の頭にゲンコツを落とした。火がついたように泣き出す寺田。
 無防備な心を殴られたら、その痛みはずっと消えない。どんなに覆い隠そうとしても、その恐怖は消せない。
 初めての経験する現象なのに、俺は確信を持って言い切れる。俺は自分に絶対の自信を持っている。本当の自分に目覚めた感じだ。
「お前はこれからずっと俺に恐怖する。お前は俺に逆らえない。逆らえば、痛い目に遭うことになる」
 寺田は怯えきって何度も頷いた。ガキをイジメているようで気が引けるが、コイツの正体はガキじゃない。俺の同級生だ。心のガードを全部剥がして、残ったのが子供の姿だったというだけだ。 
 そして、俺が話しかけたことは、寺田の剥き出しの心に刷り込まれる。一度刷り込まれてしまったことは、心の芯にくさびのように打ち込まれて、本人にも抜き取ることは不可能だ。
 さて、これくらい言い聞かせればもう十分だろう。ガキをイジメてるみたいで気分悪いし、帰るとするか。
 怯えきって震えるガキの寺田を見下ろし、ひと仕事終えた満足感を抱えて、俺は静かに目を閉じた。

 ―――俺たちはコンビニに帰ってきた。

「ねえ! ちょっと、あんたらどうしたの!? 篤! 篤!」
 渡辺が手を繋いだまま固まってる俺たちを揺さぶっている。
 俺たちは同時に目を覚ました。ここは俺がバイトしているコンビニ。あれからどれだけ時間が経ったのかわからない。だが、店に渡辺しかいないところを見ると、それほどではないようだ。
「篤! 大丈夫?」
 寺田もゆっくりと目を開けた。そして、俺を見て苦い顔をした。怯える自分を誤魔化すために、必死で我慢しているのがわかる。
「篤……?」
 渡辺の呼びかけにも寺田は応えられない。自分にもわからない恐怖を俺に感じているんだ。
「寺田。お前、もう帰れば?」
 俺がそう言ったら、弾けるように寺田は走り出した。自分の彼女も放り出して、一目散に店から飛び出した。
「え、なに? ちょっと、篤!」
 渡辺が慌てて追いかけようとする。だけど、俺は反射的に渡辺にも手を伸ばしていた。まるで自分が狩人になったみたいだ。
 触れた瞬間に俺は渡辺の世界に飛んでる。何かがこみ上げてくるような不快感。だがその一瞬を突き抜ければ、そこはもう渡辺の世界だ。

 ―――砂漠のオアシスのほとりに、巨大な鉄の城がそびえ立っている。

 城というよりただの鉄の塊だった。不格好で玄関すらないその建造物の周りには、カラフルなリボンや電飾が申し訳程度にその建物を飾っている。
 学祭なんかで美術系が作りそうな痛オブジェって感じ? これが渡辺の内面世界なのか?
 近くに寄ってみると、ただの塊に見えた鉄の城にも、ところどころに隙間があるのが見える。人が入れそうなほどだった。
 考えてみても、渡辺の中身は見えてこない。
 俺はこの隙間に身を入れて潜入してみることにした。中には鉄骨と鉄板で組まれた迷路が拡がっていた。1人しか通れない隙間だが、入ってみるとそれほど窮屈でもなく、暗くもない。侵入者歓迎っていう感じもする。
 俺はどんどん先に進んだ。そして進むにつれて、いろんなことが頭に流れ込んでくる。 

 渡辺は、元々は真面目な優等生だった。
 父親はスナックを経営している。母親は渡辺が中学に上がる直前に男を作って出て行った。
 理由はわからない。だから渡辺は悩んだ。母が別の男を作って自分たちを捨てた理由。それはセックスなのではないかと幼く生真面目な彼女は考えた。
 そしてその極端な考えを1人で思い詰めた彼女は、確信を得るために、そして抑えがたい興味からテレホンクラブに電話をかけ、そこで誘ってきた男とホテルに入った。
 苦痛だった。快楽はなかった。納得がいかずに何度か同じことを繰り返した。やがて苦痛は消えたが快楽はなかった。
 2コ上の男と真っ当な恋愛関係を築いた上で抱かれても同じだった。何人か彼氏を変えても、セックスに喜びを感じることができなかった。
 でも、渡辺はそのことを他人に相談したりはしない。自分一人の密かな悩みとして抱えている。
 親に捨てられた孤独と、他人と違うことを恐れて渡辺はみんなと同じように恋愛もするし、セックスにも付き合う。周りの友だちに合わせて飾る自分が、この鉄の城を覆う不格好な装飾の意味だ。
 ただし彼女にとってセックスとは、他人と同化するための儀式だ。母親のようになりたくない自分と、母親を求める自分がせめぎ合い、その葛藤から逃げるために彼女の心は強固な城の中に自分を閉じこめ、セックスから逃げてしまった。
 しかし彼女の、自分自身も気づいてない本心は、いつか誰かがこの城の中にいる自分を抱いて、セックスの喜びを教えて欲しいと願っている。
 その矛盾する気持ちが鉄の城の迷路を複雑にさせる。
 いずれ自分の城を破壊するか、解き明かす男が現われるを待っている。それがこの砂漠に誘い込むオアシス。
 クラスの男の中でも強さをアピールしている寺田と付き合った。でも寺田にはそんな強さも洞察力もなかった。セックスに対する興味と恐怖の間で城を築いたお姫様は、いつまでも攻略できない男たちに失望し始めている。
 そんな彼女の本音を―――俺は見つけた。

 城の中心部に小さな部屋があった。低い天井。子供っぽい壁紙。ファンシーなぬいぐるみとクッション。小さなベッド。
 いかにも女の子の部屋ってところの真ん中に、小さな女の子が膝に顔を埋めていた。
「……誰?」
 女の子が顔を上げる。年は今より5、6才下くらいだろうか。面影があるからすぐ渡辺だってわかる。
 髪が今よりも長くて、当然ながら背も低い。そしてここが重要なところなのだが、この子も全裸。俺は楽勝でボッキした。
 細くて白い、成長期が始まったばかりの体を、隠すことなく彼女は俺の前に立ち上がっている。
 これが渡辺の無防備で無垢な心。
「お兄ちゃん、誰?」
 幼い声で首を傾げる彼女に、俺はできるかぎりの笑顔で話しかける。
「倉島修吾っていうんだ。ようやく君を見つけたよ」
「ふうん? はるかを探してたの?」
 たぶん今の俺の顔を鏡で見たら変質者そのものに違いない。だけど渡辺は素直に嬉しそうな顔してる。
 無防備な心は疑うことを知らない。余計なフィルターのない状態で俺の言葉を受け入れている。
「どうしてはるかに会いたかったの?」
 渡辺の言葉使いは、見た目よりもさらに幼い気がする。まあ、人の心と体ってのは、元々アンバランスなものらしいしな。
「はるかちゃんが心配だったんだ。ママがいなくなって寂しいんじゃないかって」
「ママ? ……うん。はるか寂しいよ」
 先ほど仕入れたばかりの渡辺情報を利用して接近する。
 さっきの寺田みたいに脅したりしない。彼女の心に優しく取り入っていく。
「かわいそうに、はるかちゃん。俺が慰めてあげるよ」
 俺は少しずつ渡辺に近づいていく。白い裸身が長い黒髪だけをまとって輝いている。
 美人ってのは、このくらいの頃からもう美人なんだな。正直、このシチュエーションだけで射精しそうだ。
 渡辺の潤んだ目が俺を見上げている。俺より頭1つ小さい彼女を優しく抱きしめる。
「あ、ん……あったかい……」
 カチンカチンの股間を持て余しながら、俺は努めて優しく、優しく彼女の背中をさする。
「はるかちゃん、俺のこと信じる?」
「うん。お兄ちゃん、優しいから信じる……」
 ゆっくりと彼女の背中を撫でる。渡辺は気持ちよさそうに息を吐く。
 触れるか触れないかのタッチ。童貞の俺には苦行のようなスキンシップだが、今の彼女にはこのぐらいが気持ち良いはず。なんとなく、俺にはわかる。
「気持ちいいだろ?」
「……うん……」
 普通の女の子なら、セックスに限らず異性と体を触れ合うことで快感や安心感を得るだろう。
 でも、自らの中に鉄の城を築き、セックスとトラウマから逃げていた渡辺の『心』にとっては、これが初めての異性との触れ合いということになる。
 体はセックスを覚えていても、心はこのとおり純真な処女だ。
 むずるように体をくねらせる彼女の顔を持ち上げて、キスをする。さらば俺のファーストキス。初めてキスした場所が何次元かもわからない他人の心の中なんて、妄想主義者としては本望だ。
「ん……お兄ちゃん……」
 柔らかい渡辺の唇をゆっくりと貪っていく。唇で挟み合ったり、舌でなぞったり。
「ふわぁ……」
 うっとりとした表情で目を閉じる渡辺。その腰を優しく撫でてやりながら、俺は彼女の心の奥深いところに囁きかける。
「気持ちいいだろ? こうやってると寂しくなくなって、君は安心する。だろ?」
「うん……気持ちいい……」
「俺の言うとおりにしたらもっと気持ちよくなれるよ。そしてもっと幸せになれる。わかるね?」
「……はい……」
 渡辺はすっかり信頼しきった目で俺を見上げた。

 俺のこの能力を、自分なりに解説するとこうなる。
 どうやら俺は、他人に触れるだけで、そいつの人格を抽象的な風景として視てしまうらしい。俺はその中を自在に歩き回ることができるし、その風景の中から過去の体験やショックを読み取ることができる。そして人格の核となる部分(無意識の自己?)を発見すれば、直接対話したり接触することも可能だ。
 肉体や精神のガードを一切持たないそれらの核は、とても無垢で純真で、簡単に俺の言うことを信じ込んでしまう。
 そしてその無意識は本人の意識を支配する。つまり俺は、容易く自分の思うとおりに相手を誘導することができるんだ。
 我ながら、面白愉快で恐ろしい能力だ。
 
「はるかちゃんのこと、気持ち良くできる男は俺だけだよ。俺ははるかちゃんの特別な男だ。いいね?」
「うん……、お兄ちゃんははるかの特別な人……」
「いい子だ」
 これで渡辺は俺のもの。嬉しそうに微笑む渡辺にもう一度キスしてから、俺は現実の世界に帰る。

 ―――コンビニの有線が、オレンジレンなんとかいうバンドの脳天気な曲を流していた。

 俺たちはその真ん中で手を握り合っていた。
 数時間ぐらい渡辺の中を旅していた気がするけど、こっちの時間ではほんの一瞬くらいのことなんだろう。おそらく。
 渡辺は、潤んだ目で少し首を傾げて俺を見つめていた。色っぽい表情にドキドキする。
「はぁ……」
 息が熱い。彼女の手に熱がこもるのを感じる。
「渡辺」
「うん……なに?」
「あと一時間くらいでバイト終わりだから待っててくれる?」
 渡辺は時計を見た後、「……一時間もぉ?」と、寂しそうな声を出した。やべ、萌える。
「すぐだから。渡辺は一度家に帰ってくれてもいいし」
「うん……わかった」
 それから俺はバイトに戻ったわけだが、彼女は家に帰らず、コンビニの前で携帯をイジりながら時間を潰していた。
 上の空でバイトを終わらせ、そして、案内されるままに俺は渡辺の家に向かう。
 俺と彼女の二人っきり。初めて入る女の部屋の匂い。
「私んち、この時間はもう父さんいないから……」
 落ち着かない様子で、ローソファの上のクッションを脇によける渡辺。勧められてその上に座る。俺の横に渡辺もちょこんと腰掛ける。ドキドキして何を喋っていいかわからない。
「……何してんだろうね、私たち?」
 自分で言いつつ笑う渡辺。彼女も緊張しているようだ。
 俺はここで何をすべきか知っている。渡辺だって、わかっているはずだ。これから何が始まるのか。
 隣で膝を抱えてる渡辺の肩を、抱き寄せてみた。ちょっとだけ抵抗したけど、渡辺はすぐにされるがままに俺に体を預けてきた。暖かい重み。女の子の柔らかさが気持ちよくて嬉しい。ついこの間まで対人恐怖症だった自分が信じられない。
 思えば、あれは俺が自分の能力を認識してなかったせいで、視えそうで視えない別の世界を感覚的に恐怖していたんだろう。
 それがババアに無理やり扉を開けられて、こうして能力を使いこなせるようにもなった。皮肉なもんだ。ババアのおかげで、長年の病気が治った気分だ。
 俺の肩に頭を預けている渡辺を見つめる。視線に気づいて顔を上げた渡辺が、「……どうしたの……?」と、ゆるく唇を開いて俺を見上げる。
 しばらく、そのまま見つめ合う俺たち。
 俺は、自分の心臓が落ち着くようになるまで待とうと思ったんだけど、でも、待ちきれなくて、その唇に覆い被さるようにキスをした。
 現実世界ではこれが俺の初キス。
 しかも相手が渡辺級の美少女だなんて、神様ありがとう。一生の思い出にします。
「ん、んっ…ん……」
 少し唇を動かすだけで、渡辺は気持ちよさそうな声を出す。調子に乗って舌で唇に触れてみたら、ビクって体を震わせて俺の肩を強く掴んできた。
 でも、唇はまだ俺のモノだ。俺が舌を蠢かせる度に渡辺は震える。しばらくキスを堪能して顔を離すと、すっかり上気して瞳を潤ませた渡辺が、戸惑ったように俺の顔を見上げてきた。
 何が不思議なのか、俺にはわかる。
 気持ちいいんだ。どうしてこんなに気持ちいいのか、渡辺にはわからないんだ。
 もう一度唇を押し当てる。渡辺は「くふん」と甘い声を上げてしがみついてくる。そのまましばらく熱い口づけをしばらく交わした後、俺は渡辺の胸に手をかける。
「あ、ダメ、ちょっと……」
 渡辺の大きな胸を、俺は後ろから両手で掴んだ。さらに身をよじって逃げようとする彼女を強引に抱き寄せた。
 彼女はクラスでも上位レベルの美少女。俺的にはランク2位。しかも俺が大嫌いな男の彼女。
 今、俺はそんな女の胸を揉んでいるんだ。すっげえ柔らかい。すっげえいい匂い。
「ダメ、やばいって、ちょっとぉ……胸、揉んじゃダメだってば、ふぅん、んんっ」
 嫌がるフリをしてるけど、彼女の柔らかい尻は誘うように俺の腰にまとわりついてくる。
 どんな男に抱かれても感じることのなかった体が、今、初めて味わう快感に戸惑っているんだ。
「あん、ダメ、倉島ぁ。ちょっと……ダメ、待って。なんか、変。私、変、みたいなの。ねえ、お願い」
 息を荒くして、力のない抵抗をする渡辺が、余計に俺の興奮を煽る。
 すげえ。何やってんだよ俺。信じられねえ。やっべえなマジで。
「ああっ、ダメ! やめっ、やめてっ!」
 渡辺が俺を振り払る。胸をかばうようにして俺と向き合う。
 上気した頬。荒い息。乱れた制服。
 マジ色っぽいな。さすが美少女。この顔だけで俺なら100万回ヌケる。
「ほんと、これ以上はやばいから……篤に……あんたも、篤に殺されちゃうよ……?」
 あんなヤツ怖くねえよ。寺田はもう俺の言いなりだ。お前の彼氏はもう一生俺には逆らえないんだよ。
「ゴメン、倉島。やめよ? 今日はもうやめよ? ほんとゴメン」
 両手を合わせて拝むように彼女は懇願する。彼女の鉄の城が起動したってわけだ。
 でも、俺はその正体を知っている。彼女の両手を優しく包み込む。グラっと視界が揺れるけど、前みたいな不快さはもうない。
 ホラ、もうここは渡辺の心の中だ。
 
 ―――俺の前で鉄の扉が閉まっていた。

 彼女が今、両手で作った扉だ。俺はそれを無造作に開いてやる。その向こうの部屋に隠れていた今より小さな渡辺が、俺の登場に裸身を震わせる。
「あ……お兄ちゃん」
「どうしたの、はるかちゃん? どうして扉を閉めちゃったの?」
「ごめんなさい……はるか、怖くなっちゃって……」
 俺はゆっくりと彼女に近づいて、正面から抱きしめてやる。そして小さい子にそうするみたいに頭を優しく撫でてやる。
「……お兄ちゃん……」
「どうして怖くなったの?」
「だって……すっごく気持ちいいんだもん。あんなに気持ちいいの、はるか初めてだもん」
「そっか。でも、それは怖い事じゃないよ。気持ちいいのは良いことだよ。俺が一緒なら怖くないでしょ?」
「うん……お兄ちゃんが一緒なら、怖くない」
「それじゃ、もう扉を閉めちゃダメだよ。他の男は絶対に入れちゃダメだけど、俺の前ではいつも扉を開けていて。いいね?」
「うん。約束する」
「そうしたら、はるかちゃんはもっと気持ちよくなれるし、ママがいなくなって寂しいこと忘れられるよ」
「本当に? もう寂しくない?」
「そう。だから俺とセックスしようよ。そうすれば、もっと気持ちよくて、幸せになれるよ」
「セックス? あ、んん……」
 ゆっくりと背中を撫でてやる。なだらか胸も、手のひらで優しくさすってやる。
「気持ちいいよね?」
「うん……気持ちいい……」 
 隠すものない心を直接撫でてやってるんだから、気持ちいいに決まってる。体で感じる快感よりも、もっとダイレクトで強烈な快感だ。
 しかも、今までずっと心を閉ざして肉体の快感を抑圧してきた渡辺とっては、堪えられないだろう。
「気持ちいいよ……あんっ……お兄ちゃん……」
「ね? セックスしよ、はるかちゃん?」
 つるつるした股間に指を這わせる。ぷっくりして柔らかい肌。そこのわずかなヌメりを、ゆっくりと、焦らすようにかき混ぜてやる。
「あっ? あ、あ、あっ、お兄ちゃん、あ、あっ、あっ、あっ」
「ね、しよ? はるかちゃん?」
 無防備な心が、俺の言葉と刺激に抵抗なんてできるはずない。あどけない顔を蕩けそうにさせて、渡辺は叫んだ。
「ああっ、して! セックスして、お兄ちゃん!」

 ―――再び現実に戻ってきた俺に、渡辺が猛烈ないきおいでしがみついてきた。

「んんっ、んん! んうん!」
 情熱的、というより暴力的なまでに熱いキス。舌がねじ込まれて唾液ごと口中をかき回される。
「ふぅんっ、んっ、はぁ、倉島ぁ、んんん! 倉島ぁ!」
 キスしながら、渡辺が俺の制服を脱がしていく。
 慌てて俺も渡辺を脱がそうとするが、慣れない俺の手つきがじれったいのか、渡辺が自分からポンポン服を脱いでいく。ブラも、パンツも。
 あ、おっぱいだ。あ、お○んこだ。と、俺が初めて見る同級生の裸に感動するヒマもなく、渡辺は俺のベルトを外してパンツをぐいぐい下げてくる。
「ねえ、しよぉ? 倉島ぁ、ねえ、しよぉ」
 渡辺がものすごい勢いで俺に迫ってくる。
 なに、この迫力? 俺、犯されちゃうの?
「ん。来て。いいよ。ね、入れていいよ。ねえ?」
 そのまま引きずり倒された。渡辺の足が下から俺の腰にしがみついてくる。
 初めて抱く女の肌は、熱くて柔らかくて折れてしまいそうなほど細い。
 この体で、男を受け入れるのか。
「倉島ぁ……」
 甘いキスでせがんでくる。俺だってもちろん早く入れたいさ。
 でも、どこ? 俺、童貞なんですが?
 俺がぐずぐずしてる間に、渡辺の指が俺のペニスに絡んでくる。
 そのまま強引に入り口まで誘導され、俺はその誘いに乗って、グッと腰を押し込んでみる。
 しかし熱く濡れた渡辺のソコに俺の童貞君は悲しく上滑りして、渡辺の濡れた陰毛を擦っただけだった。
 もう一度。
 同じやり方で押し込もうとした俺に、今度は渡辺は自分の腰を上げて、ちょうどいい角度に合わせてくれる。
「ああっ!」
 先っぽが温かいものに包まれた。渡辺がギュッとしがみついてきて、俺の耳元で囁く。
「いいよ……もっと来て」
 甘くてくすぐったく掠れた声。色っぽい。泣かせてやりたい。
 さらに力を入れて押し込む。きつくてぬめって熱いところを、思いっきり突き抜けていく。
「あああああああっ!」
 ……あせった。射精しちゃったかと思った。そのぐらいの、きつい快感。
 俺は女の中に入った。温かくてキュウキュウ締まって気持ちいい。これが女の感触か。
 さらば童貞! 今までお世話になりました!
 この感動と快感をもっと味わいたい。俺は小刻みに腰を動かす。
「ああ、あっ! あっあっあっああっ!」
 渡辺が俺の動きに合わせて嬌声を上げる。
 感動だ。AVみたいだ。しかも相手は渡辺だなんて。今まで何度もネタにしてたクラスメートの女が、俺に抱かれてよがってる! 最っ高だ!
 渡辺も俺のリズムに合わせて腰を振ってる。感じまくってる。グチュグチュって、すげぇ音だ。ホントにこんな音するんだ。
 不感症だった彼女をここまで乱れさせたのは、たぶん俺が初めてなんだろう。
 なんだこの征服感。これすげえ。これが本当のセックスか。みんなこんなことやってたのか、チキショウ。
 俺の動きは自然に大きくなっていく。もっとだ。もっと気持ちよくなりたい。
「いやっ、ああ、なんか、変っ! やば、やばいよ! ねえ! ねえっ!」
 ぶるんぶるん揺れるおっぱいを鷲づかみにして揉みしだく。生おっぱい、ごちそうさまです。堪能してます。
「倉島ぁ! なんか、私、やば……ッ! ねえ、ちょっと、待っ、やぁ! 倉島! ああっ! ダメェ!」
 バタバタと暴れ出す渡辺。怖いのか? 気持ちよすぎるの?
 すっげ。
 面白え。
 もっとヤリたい。
 もっと渡辺を狂わせてやりたい。
 俺は渡辺の頭を押えて、もう一度、心の中に踏み込んでいく。

 ―――もう一つの渡辺の部屋。少女時代を思わされるその部屋のベッドの上で。

「はっ、はっ、お兄ちゃ、あ、んっ、あっ、あっ、あっ、ああっ!」
 俺はまだ幼さの残る渡辺を抱いてた。
 うえ、やっべえ! これ、すげえ光景!
 あえぎ声を上げてる渡辺は、見た目だけは今より5、6才若い。その彼女が嬌声上げて俺とのセックスに没頭している。
「んんああっ! お兄ちゃん! ああっ! お兄ちゃん!」
 出ちまうって、こんな不意打ち。俺は深呼吸して、できるだけ心を落ち着かせて腰の動きを持続する。
 ていうか渡辺のあそこ、キツすぎ。ぎゅって締め付けてきて、やばいんだけど。
「……気持ちいい? はるかちゃん?」
 声にならない動きで何度も何度も彼女はうなづく。
 そんな彼女の耳元にキスをして、俺は努めて優しくささやく。
「もっともっと気持ちよくなろうよ、はるかちゃん。俺に全部任せて。あとのことは忘れて」
「お兄ちゃん! 気持ちいいよぉ、気持ちいいよぉ!」
 渡辺の中が熱くなって、少し動かしやすくなってきた。それでも十分すぎる以上にきついけど。
「ほら、もっとだよ。俺に抱かれるとはるかちゃんはもっと気持ちよくなるよ」
「気持ちいいよ! 気持ちいいよおっ! お兄ちゃん好きぃ! 大好きぃ!」
 渡辺が俺にしがみついてくる。俺の顔や耳にキスしたり舌で舐めたり、幼い奉仕で俺を悦ばせようと懸命になっている。
「この建物の通路は、もう必要ないから全部閉ざして。俺がいつでもはるかちゃんに会いに来るから、他の男には絶対に会わないで」
「ああっ、うん! お兄ちゃんの言うとおりにする! だから、して! もっとして!」
「はるかちゃんはもう俺のものだよ。だからこんなに気持ちいいんだよ。ホラ、もっとしよう」
「ふあっ! ああっ! はるか、お兄ちゃんのもの! ああ! もっとしてぇ! 気持ちいいのお!」
 彼女の頭を撫でてやりながら「その調子だよ」と囁いて、俺は現実の渡辺に会いに戻る。

 ―――渡辺の体が、大きく反り返って絶叫した。

 クッションをめちゃくちゃに掴んで暴れる渡辺。力ずくで押さえ込まなきゃならないほどの乱れっぷりだった。
「やだぁ! 倉島! 死んじゃう! やば、やばいの! ほんと、にィ! あああっ! すごいよ! すごいよぉ!」
 ははっ、やったぞ。すごいことになってるぞ、渡辺のヤツ。
 俺はドンドン腰を突き入れていく。逃げようとする渡辺を腰を捕まえてガンガン突っ込んでいく。
「ああっ、んああっ! はっ! ああああっ!」
 腰をぐるりと回してみる。ネットのエロ小説等で仕入れた知識が正しければ、これに女は感じるはず。
「やああっ! ああああっ!」
 ビク、ビクっと壁を擦るたびに渡辺は体を痙攣させる。俺が何かするたびに、大声を出して渡辺は反応する。
「倉島! 助けて、私っ、ああっ、すごい! すごいから! もうダメ! ダメなの!」
 すごいのはお前だ、渡辺。すっげー気持ちいいよ、お前の体。
 もうすぐ俺もイキそうだ。セックスすげー気持ちいい。渡辺最高だよ!
「ああっ! やあっ! 助けて! もう! ああっ!」
「気持ちいいんだろ? 渡辺、気持ちいいんだろ?」
「いいっ、けど……やばいのぉ! 倉島ぁ! 私もうダメぇ、ダメぇ!」
 渡辺の膝を持ち上げるように抱えて、上から突き下ろすようにガンガン攻める。渡辺が声にならない悲鳴を上げる。
「もうすぐだぞ、イクぞ、ホラ!」
「ああっ! やあっ!」
 ラストスパートで腰を振る。すげえ。溶けそう。グチョグチョって音がやらしすぎ。渡辺、ホントやらしすぎ。
「だめぇ! もう、ほんとに、だめなのぉ! 助けて! 助けて倉島ぁ! 死んじゃうよ! 死んじゃうよ!」
 涙を流してよがりまくる渡辺をガンガン突きまくる。
 もう何も考えられない。腰動かすことしか考えられない。気持ちいい。最高だ。
「やだっ、ああっ、もうやだぁ! 気持ち……いいの! 良すぎて、もう、ああっ! ああっ! ああああっ!」
 やがて背骨から震えるみたいな快感が押し寄せてくる。
 俺は頭の片隅で「抜かなきゃ」って、とっさに思って、思いっきり腰を引く。
「ああっ、ああっ、助けっ…ああっ! ママ! ママぁ! ああぁーーー!!」
 トラウマだった母親を呼んで、渡辺は折れるんじゃないかってくらい体を反って、何度も痙攣して、やがてぐったりとソファに体を沈める。
 俺はその渡辺の腹の上に、ドクドクっと、大量の精液を吐き出した。
 すごい快感だった。目の前が真っ白になるくらい。こんなに気持ちいい射精は初めて。むしろ精子を超える何かが出たと思う。きっとそうだ。

「はぁー……もう、マジ死ぬかと思った……」
 荒い息を吐きながら呟く渡辺に俺は苦笑を浮かべる。
 横で頭を並べる俺も満ち足りた気持ちだった。本当に生まれて良かった。史上稀に見る素敵な童貞喪失だったんじゃないだろうか。
「倉島……私たち、やばいって」
 何を思い出したのか、俺の方に向き直って渡辺は赤くなった顔を俺の肩に寄せる。
「誰にも言わないよね? 私と……エッチしたって」
 俺の胸に指を這わせる仕草が可愛い。甘えてるつーの? これが一度寝た女の変化ってヤツ?
 ちょっと何この感動。
「……ねえ、聞いてんの?」
「ん、ああ」
「やばいって……あんただって、篤にバレたら殺されるんだからね」
 寺田か。そういえばそんな男もクラスのどこかにいたな。
 俺に決定的な弱みを握られ、あげく彼女を寝取られた哀れな寺田のことを思うと笑いがこみ上げてくる。
 その笑いを誤魔化すように俺はおどけて言った。
「どうしようかな? せっかくだから自慢したいんだけど。俺、渡辺とヤッたって」
「えー! 信じらんない!」
 ガバっと俺に覆い被さって、上から睨みつけるように渡辺は頬を膨らませる。
「ちょっとぉ、マジで言ってるの?」
「ゴメン、ゴメン。冗談だって。言わないよ」
 ていうか、たわわな胸がすぐそこで揺れてるのが気になるのですが。
「ホントに?」
 まだちょっと不機嫌そうに俺を睨んでるけど、俺だって別にこんなこと他人に喋ったところでメリットはない。
 ていうか、言う友達もいない。せいぜい2ちゃんにスレ立てるくらいが俺という男の限界だ。
「どうかなー?」
 と、軽く応えながら渡辺の胸をすくうようにして揉む。柔らかくて最高。
 渡辺も俺の好きにさせてくれている。
「もー……やらし……ふぅん、んっ……」
 渡辺だって俺の言うことが冗談とわかってるから、クスクス笑いながら怒ってる演技してる。
 今さらだけど、俺と渡辺がこういう軽いやりとりができる関係であることが、なんとなく嬉しい。なんだか本当の彼女みたいでくすぐったい。
「じゃあ、さ……倉島。ちょっと聞いて」
 渡辺が、ちょっとマジな顔をして、俺の顔をじっと覗き込む。赤く上気した頬が艶カワイイ。
「今からいいことしてあげるから、その代わり約束して。誰にも言わないって」
 そして、ゆっくりと俺の足の方に体をずらしていって、そして、俺の軽くまだボッキ気味の陰茎君に優しく手を添える。
 え、これってまさかひょっとして?
「あのさ……これ、私あんまり好きじゃないから、めったにしないんだよね」
 言い訳っぽいことを言いながら、渡辺は、そのまま口の中に俺の相棒を連れて行ってしまった。
 温かくて濡れた感触。膣の中とは違う固さと柔らかい舌の感触。
 うわ、なにこれ? なにこの宇宙との一体感?
「ん……れろ、ちゅ、ん、れろ、れろ……」
 口の中で渡辺の舌が動いている。
 一度口から出して、裏筋をゆっくり舐めあがって、カリのくびれを舌でくすぐる。
 あまりの快感に俺の腰がびくびく震える。
「んっ……なんか、久しぶりすぎて全然下手なんだけど。ごめんね?」
 照れくさそうに笑って、渡辺はその小さな口の奥まで俺のを飲み込んでいく。ゆっくりと唾液を馴染ませながらカリまで吐き出して、またゆっくりと飲み込んでいく。
 しびれる。腰が勝手に浮く。すっげ快感! 何ですかコレ!? 変態ですか!?
「気持ちいいっ、渡辺っ! 俺、こんなの初めて……っ」
「ん、ホントに……?」
 指で作った輪で上下に擦りながら、俺を見上げる。俺の顔を見ながら咥えていく。
 口の中で絡む渡辺の舌。ぐちゅぐちゅとかき混ぜられて頭の先までしびれてしまう。
「んっ、ん……ちゅ、んっ、んっ、んっ……ねえ……ここまでしてあげたんだから、みんなには絶対内緒だよ。ね?」
 俺は何度も頷いて渡辺に約束した。絶対誰にも喋らない! こんな気持ちいいことがこの世にあるなんて、他のヤツになんて教えるもんか!
 渡辺の頭が上下に動いてしごかれる。すげえ。気持ちいい。フェラチオまじ気持ちいい!
「ん、んっ、ん、ちゅく、んっ、ねえ……私、篤にもしてあげたことないんだよ……これ、かなりレアなんだよ……んっ、ちゅう」
「うん! うん! すげえ嬉しい!」
「気持ちいい?」
「いいっ、いいよ! 気持ちいいよ、渡辺!」
「んふふ」
 渡辺は嬉しそうに俺のチンポを飲み込んでいく。両手を俺のペニスに添えて、頬をすぼめてリズミカルに動く。器用に絡んでくる舌。温かさ。熱い吐息。吸い取られる感触。もう、全部気持ちいい!

「んん、んっ、んっ、ちゅぱ、んっ、んー、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」

 蕩けそうな快感に腰を突き出しながら、俺は頭の片隅で、この能力を使えばどんな女も抱けるんだなって考えてた。
 渡辺の友だちで美少女ランキング3位の超巨乳、三森。
 同じく渡辺グループの一員でランキング1位の美少女、藤沢。
 そして、なぜか生意気なうちの妹の顔なんかも思い浮かんでくる。

 それじゃあ、次は誰にしようか?
 じっくりと計画を練りたいところだ。

 しかし、今は俺の股間に顔をうずめているランキング2位の渡辺が、そんな俺の欲望も根こそぎ吸い取ってしまうのだ。

「ふっ、んっ、んっ、んちゅ、んー、ちゅぱ、ね? ちゅ、出すとき、ん、言ってよ? ん、んん、んっ、ん……うん…くちゅ…くちゅ…れろ…んっ、ちゅく……ちゅく……ずずっ、ん、ん、ん、ん、ん、ん、んー、ちゅぅぅ、ん、ん、ん、ん、ん……」

 くはぁ、もう……。

 渡辺、エロい!

< 了 >

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