四話
「ちゅぷっ……ちゅぽっ……んっ……」
股間を蠢く感触に、意識が覚醒していく。
朝。
吸血鬼にとって本来睡眠の時間だが、学生生活を営む伊藤清吾にとっては、通学の時間だ。
起きなくてはいけない。
そうおもった瞬間、猛烈な射精の衝動が陰嚢から屹立へと駆け上がる。
「んっ!!!」
「んぶふあぁ……ん……ふぁ……おむ……ふぁ、おはほうほはいはふ」
「……おはよう、セラ」
勃起した肉竿に、ウットリした表情のままセラは唇を寄せ、舌を這わせて精液を舐める。
従属させた彼女に俺が与えるソレは、彼女にとって唯一無二の食事であり絶対の快楽だ。
「あっふぁ……ご主人様のチ●ポ汁、形が分るくらい濃くてオイシイですぅ……もっとお恵みくださいぃ……あむ、んふぅ……」
不自然に蠢く腰から漂う、濃厚な発情した雌の臭い。
太ももを伝う愛液は、濡れそぼった下着を超えてなお量を増し続ける。
「……ああ、くれてやるさ。お前が一番欲しい場所に……」
言うと、下着を引き裂いて、一気に秘洞に肉竿を捻じ込んだ。
前戯は要らない。既にコイツにとって、俺は全てを支配する主だ。
「あ、あああああああああああああああああああっ!!」
目を白黒させながらも、奴隷の秘裂は主の肉竿をくわえ込んだ喜びに、打ち震える。
「あおおおおおおうううう、ごひゅりんはまぁ、ごひゅりんはまぁ!!」
テクニックも何も無い。
ただ己の業欲を満たすべく、獣そのものの腰の動きで、主の肉竿をむさぼるメス奴隷。
「ひんぽぉ、ごひゅりんはまのひんぽぉぉぉぉぉ!!」
狂乱の余り、ろれつが回りきらないセラの肉壷を、俺はさらに体ごと突き上げた。
「さあ……狂え」
「あ、ひ、い、ぎひぃぃぃいいいいぃぃぃいぃぃいい!」
突き上げられるたびに達する絶頂の連続に、とうに理性は消し飛んでいる。蠢く秘洞は、くわえ込んだ肉茎がもたらす快楽をさらに貪るべく、貪欲に締め上げる。
「あ、あが、あおおおおおおおおおお!! くらはい、ごひゅりんはまのらーへんふひあえてはひいいいいいい」
ドクン!!
肉体が待ち望んだソレを与えられた衝動に、体を突っ張らせてセラは絶叫し……目を見開き、淫蕩な絶頂のままの表情で昏倒した。
「……もらうぞ」
「ぁ……は……ひぅうぅぅぅぅ」
奴隷の首筋に牙をあてがい、血を啜る。
正確には、血ではない。
俺が送り込んだ猛毒に染め尽くされた、血に似て非なるソレは、セラ自身の快楽という味付けを成されており……それが、俺の最近の『食事』だった。
「あ……ぁぁあぁぁひえぇあぁぁ……」
血を吸われ、再び、イッたのだろう。
甘い声をあげて、セラは狂気じみた恍惚の表情を浮かべる。
「……ご馳走様」
最後に、吸血痕を舐めて流れ出るソレを留める。
「美味しかったよ、セラ」
「あ……ありがとう……ござい、ま……す」
ヒクヒクと余韻に震え、倒れ伏しながら、セラはそれだけを口走り、気絶した。
「……奴隷、飼い始めたんだ」
開口一番。
通学の迎えに現れた佐奈に、一番に見抜かれた。
「うっ! ……ん、まぁ……って、なんでわかった!?」
「臭い。女の」
じろり、と睨まれる。
「……そんなにするか?」
くんくんと匂いをかいでみる。
「する」
ぷいっ、と不機嫌になった佐奈は、そのままズカズカと歩き出した。
「あ、おい!」
「拗ねてないわよ」
「いや、何も言って……」
「いいから放っておいて!!」
そう言って、俺を置き去りにして佐奈は走り去っていった。
「……むう」
その日一日、佐奈は不機嫌だった。
いや、不機嫌というより、思いつめてると言った風情もある。
「参ったなぁ……」
昼休み。
トマトジュースを飲みながら、俺は佐奈の様子を伺った。
セラは学校に連れてきていない。
そもそも、今のアイツは俺以外の存在が精神的に見えてない状態なので、放置しておいたら何をしでかすか分かったものじゃない。
一応、学校に席はあるが『病気のため長期療養中』という事になっている。……まさか『調教中』なんて書けるワケもなし。
「……」
しかし、ホントに参った。
相変わらず、佐奈が不機嫌極まりない表情だ。
まあ、ある意味仕方ないと言えば仕方ないのだが……と、何やら意を決した表情で、ツカツカと佐奈が近づいてきた。
「放課後、保健室に」
「……あ?」
「大事な話しがあるの。待ってるから。逃げないでね」
おもいっきり釘を刺した後、そっけなくもとの席に戻り、そ知らぬ顔をする。
「……なんなんだ、おい」
考えても始まらない。
幸いにして、きっかけは向こうから切り出してきたのだ。ならば素直に時を待つべきだ。
始業のチャイムと共に、午後の授業が始まった。
「……失礼しますー」
ガラガラと扉を開ける音が廊下に響く。
放課後。
俺は佐奈の呼び出しに応じて、保健室に顔を出した。
幸いにして、養護教諭の熊谷センセはどっか行ってるようだ。無論、佐奈の奴が人払いをしたという可能性もあるが。
と、そこに……
「……」
眼鏡越しに窓の向こうを眺めながら、ベッドに腰掛け、何やら真剣な表情で思いつめている佐奈の姿があった。
「あー、佐奈」
「…………」
「おーい、佐奈」
「………………」
返事が無い。ので、暫らく凝視してみる。
「……………………」
「…………………………」
「………………………………」
「……………………………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………」
「………………………………………………てい」
見続けているのも飽きたので、首筋を軽く、トン、と叩いてみた。
「うにゃあああああああああああっ!!」
次の瞬間、奇声を上げて佐奈が飛び上がった。
「な、な、なっ、せ、セイくん、何時の間に!!」
「『何時の間に』じゃねぇよ。さっきからココに居たよ」
と……言うが早いか、てき面にうろたえた表情を浮かべる佐奈。
「み、見た!? な、なんかヘンな顔してなかった、私!?」
「うん、今、現在進行形で変な顔」
おーおー、なんか顔面がピカソに変わっていく。面白いなぁ。
「……………ごめん、ちょっと一呼吸入れて、仕切りなおさせて」
そう言って、くるっと後ろを向いて、深呼吸を始める佐奈。
やがて、精神的再建を果たしたのか、先ほどの思いつめた表情に、戻っていた。
「ごほんっ……ねえ、セイ君。ひとつだけ聞かせて欲しいんだけど、いいかな」
「なんだよ、改まって」
「その……あのさ、覚えてる? セイ君がダークストーカーに転生した夜の事」
忘れようハズも無い。
それは、今に至る諸々の騒動の元凶だ。
「忘れるもんか。忘れられるワケが無いだろうが」
苛立つ俺を、まっすぐな目で佐奈は見続ける。
「じゃあ、さ……あの夜の言葉も覚えてる?」
切り出された言葉。それは……まぎれもない告白だ。
「ああ、覚えてる」
「じゃ、じゃあ……さ。私の事、まだ……まだ、愛してる!?」
かすかに目の端に涙を浮かべたまま、それでも佐奈はまっすぐに、俺を見つめてくる。
「そ、そんなの……分かってるだろうが!」
目線をそらして、思わず動揺する俺。
「答えて!」
だが、そんな軽い甘えを許さんとばかりに、佐奈が詰め寄ってくる。
「あの夜から、私、どうしていいか分かんないの。
『奴隷は要らない』なんて……最初、嫌われたかと思った! 終わりだと思った! それならそれで仕方ないと思った! だって、全部全部、覚悟の上だったから!
でも……でも、セイ君は……翌日、何にも変わらないで私に接してきた。その時の私の気持ちが分かる!?」
言葉が無かった。
本当に分からなかったからだ。
「セイ君、卑怯よ! なんのために……なんのために私がダークストーカーになったと思ってるのよ!
……ごめん。勝手なのは分かってる。でも抑えられないの!
私はセイ君が好きなの! でも、私は勇気も何も無かったの。それでも……それでも、今まで通りの幼馴染なんて我慢できなかったの! だから……だから……」
後は言葉にならなかった。ただ、一言。
「おねがい……答えて……嫌いなら嫌いって言って……それなら諦めるから」
泣きじゃくりながら問いかけてくる。
「……参ったな」
俺は、頭を掻いた。
「参った。
その……俺は……ああ、そうだ。壊したくなかった。日常を……お前との関係を。その……お前が、好きだから。だから、あの日、凄く怖かった。怖くて、悲しかった。お前が、お前以外のモノになっちまったんだって……だから」
「変わらないよ……私は佐奈。セイ君の知ってる飯塚佐奈だよ」
そう言って、佐奈は俺に抱きついた。抱きついたまま……泣いていた。
「セイ君……貰って欲しいものがあるの」
ポツリ、と小さな声で佐奈が俺を見上げてきた。
「私の……」
ごにょごにょと言いよどむ佐奈。
「なんだよ?」
「だから、私の……て」
「なに? ごめん、小さくて聞こえない」
と……
「……こ、こっ……」
うつむいたまま、なにやらプルプルと震えている。
「こ? なんだよ、聞こえないって」
よく聞こえないので顔を近づけてみる……と、ぐぁばっ!! と襟首掴まれ……
「このトウヘンボク!! 私の! バージン!! もらってって! 言ってるのよーっ!!」
耳元で大声で叫ばれた。
「っ……さ、サナ!? お、お前、だって」
三半規管がぐらんぐらんするのも構わず、襟首掴んだまま耳元で叫ぶ佐奈。
「シテ無いわよ!! そ、そりゃ……じ、自分で弄ったり……精気すするためにフェラくらいはするけど……でも、でも決めてたんだから! だから我慢して我慢して、セイ君にあげるために取っておいたんだから!!」
顔を真っ赤に叫んで首絞めながら、ゆっさゆっさがっくんがっくんと俺を振り回す佐奈。
いや、マジで締まる。いや、おい、ちょっと、苦しいってば、タップ、タップ、タップしてますって、オーイ! ダークストーカーだって首絞められたら苦しいですって!
「さあ、答えて! セイ君! 私を愛してる!? 愛してるならバージン貰ってくれる!? どうなの!? ん!? どうなのーっ!?」
感情的に真っ赤な顔で首を絞める佐奈と、物理的に真っ赤な……というか赤黒くなってきた顔で首を絞められる俺。
だから、タップタップ!! 首絞まってるから声でない! でないって!!
「……く……」
「『く』っ!? 『く』ってナニ!? はっきりお言い!!」
「首……締まって……」
「あ」
タップされてる事にようやく気づいて、あわてて手を離す佐奈。……人間だったら頚骨砕かれて死んでるぞ、これ。
「っ……ぷはぁ……はぁ……はぁ……」
「ご、ごめん、セイ君、大丈夫!?」
大丈夫じゃない。
そう、いろんな意味で……大丈夫じゃなかった。
「えっ」
次の瞬間、俺は保健室のベッドに、佐奈を押し倒していた。
物も言わず、唇を奪う。甘い感触に我を忘れて俺はそれを貪った。
いつしか……にちゃにちゃと舌を絡め合わせる音だけが、保健室に響いていた。
「……いいよ」
ぽそり、と濡れた眼差しで、佐奈はつぶやく。
「好きに……シテ」
乱れた制服のボタンを外していく。ブラウスがはだけて、下着が現れる。
意外にも……あのときの淫夜からは想像もつかない、普通の、なんの変哲も無い白い下着だった。
「綺麗だな」
だが、それでも……あの日の夜の情景が脳裏によみがえり、俺は息を呑んだ。
「綺麗な、だけ?」
「興奮する」
「……じゃあ、次はもっとHな下着つけてきてあげる」
「ああ」
上の空で返事を返す。こっちはそんな『次』なんて考えられなかった。
そんな余裕、吹き飛んでしまうくらい……佐奈の裸に、俺は興奮していた。
「ねえ、セイ君のも、見せて」
今度は、俺が服を脱がされる。
ベッドの上で、お互いに座り込む状態になりながら、ベルトを外され、今度は佐奈は大きく息を呑んだ。
じっ、と、俺の股間に見入っている。
「なんだ?」
「いや、改めて……これがセイ君のなんだ、って……」
「……おう」
気恥ずかしさに目をそらす。
と、
「えい」
ぱくっ、と……なんの躊躇もなく、佐奈の奴は俺のいちもつをくわえ込んだ。
「っ、佐奈っ!」
「ん……んふ……ああセイ君の味……」
舐るように、愛しむように、佐奈は俺の股間に舌を這わせる。
「や、やめっ……佐奈」
陰嚢をやわやわと揉みしだかれるたび、腰が砕けそうな快楽が走る。
「ん、かわいい……それに……おいしい」
先ほどまでの無防備なイメージは無い。そこに、居たのは、紛れも無く淫魔であり……それでも、飯塚佐奈だった。
「……佐奈……」
ホシイ。
ズクン、と。
唐突に、そんな衝動が体を、脳を駆け抜けた。
ホシイ。
次の瞬間肉竿からもたらされる快楽をすら飲み込み、ただ一点、その衝動が俺を支配する。
コノ雌ガ……欲シイ。
「サ……ナ」
ヤメロ。
心の奥、確かにあったソレが、今では片隅に追いやられ……それでも叫んでいた。
「あは、ひくひくしてる……セイ君の……」
抗いえぬ射精の衝動に、俺は精を吐き出し……同時に、佐奈を押し倒すと、その首筋に噛み付いていた。
「っ!」
肉を、神経を、血管を貫き、文字通りこの『メス』を毒牙にかけた。
一口、すすった液体は、たとえ様も無い美味。
あとはもう……ひたすら『メス』を貪る事しか考えられなかった。
「あっ、あっ、あっ……」
血をすするたび『メス』の瞳から意思が奪われていく。
かまうものか。
だって……『コノ雌ハ俺ノ物ダ』
「ああああああああああああああああああっ!!」
ひときわ大きな声に、俺は正気に戻った。
「佐奈?」
にちゃり、と牙から粘度の高い赤が糸を引く。
荒い息をついて……佐奈が俺に目を向けてきた。
「……あ」
快楽に濁った空ろな眼差しに、俺は混乱していた。
俺は。
一体。
何を。
した。
思考が分断され、混乱する。
だが、そんな混乱をよそに……佐奈は俺に体を寄せてきた。
「セイ……君……」
「お、俺……そんなっ!」
「セイ君……アイシテル……ダイテ……」
「佐奈、おい、しっかりしろっ、佐奈っ! 佐奈っ!」
『ソレ』は佐奈であって佐奈じゃなかった。
確かに、姿かたちは佐奈だ。だが……その中身は壊れ、俺に従属するだけの人形だ。
壊した。
俺が……佐奈を……
「うっ、うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!! 佐奈っ、佐奈っ、佐奈ぁぁぁぁぁっ!!」
どう償えばいい。俺は……俺はっ!!
「なーんちゃって♪」
……は?
「えへ、ビックリした?」
……ごめん。今、ビックリ通り越して石化中。
「さっ、佐奈ぁっ!!」
たっぷり十秒。ようやっと精神的再建を果たした瞬間、俺は本気で叫んだ。
「ごめんね、すごい気持ちよくて……あのままだと、本当に壊れそうだったの……」
「え?」
思わず、再度呆然となる。
「人格は残ったけど……んっ……体が……」
ぽふっ、と体を横に倒す。
「セイ君に自決しろって言われたら、しちゃうかもしれない……自分を保つのが精一杯で……あぁ……だめ……体が……熱くて言うことを聞かないの」
「佐奈?」
「お願い……私を愛して……私が壊れる前に」
「そんな……おい、冗談だろう!?」
再び、衝撃が揺さぶる。
「いいの、セイ君と一緒なら……私は奴隷でもダークストーカーでもいいの。お願い」
「ばっ……」
腹が立った。
猛烈に自分に腹が立った。
馬鹿らしい。好きな相手一人、十全に愛する事も成し得ないで、何が覇王だ!
俺の中では、相変わらず『犯セ』だの『支配シロ』だのと言った衝動が渦巻いている。
だが……だが、それ以上に、俺は怒っていた。
『だ・ま・れ・よ』
己が内の借り物の『力』。ともすれば、俺を乗っ取ろうとする『力』に対し、俺は始めて自覚し、命じ、そして支配して捻じ伏せた。
誰に萎縮せず、誰に怯えず、誰を支配せず、誰を蔑まず。ただ、己は己たれ。
なればこそ、
「佐奈……お前が欲しい。お前の心も体も、全部が」
壊しはしない。
奴隷は要らない。
「だから、壊さない。支配しない。全力で、愛してやる」
唇を奪う。
胸を弄り、秘唇を愛撫する。
言葉は要らなかった。
佐奈から漏れる快楽の声を聞きながら、俺は、暴力的な『力』ではなく、自分自身が自然に昂っていくのを自覚していた。
「初めて、もらうよ」
いきり立った先端をあてがい、ゆっくりと……佐奈に負担をかけないように、腰をすすめていく。
「うん……っっ! あっ、あっ、ああぁあぁああぁっ!!」
ブツリ。
何かが壊れる感触。
……その瞬間に、佐奈は女に……そして、本物の淫魔へと生まれ変わった。
「大丈夫?」
「ん」
荒い息遣いのまま、小さく首をうなずく。
「ねぇ……動いて」
涙を浮かべたまま、佐奈はぎこちなく腰を動かそうとする。
「痛くない?」
「痛いけど動いて。セイ君に気持ちよくなって欲しいの。それに……何か、来るの……凄いのが。私の中から」
「……ん、わかったよ。ゆっくり動かすから」
ゆっくりと……腰を前後左右に動かす。
そのたびに小さな悲鳴があがり、それを懸命に押し殺そうとする佐奈。
やがて……その押し殺した声に艶が混じり始める。
「……」
その様子を見て……ふと、悪戯心が芽生えた俺は、腰を動かすのを止めた。
「あっ……」
案の定、残念そうな表情を浮かべる。
「大丈夫?凄く痛そうだったから」
「やっ、で、でもセイ君が……」
「俺の事はどうでもいいんだ。お前が心配だから……」
あえて、とぼけて佐奈を気遣うフリをする。
本当は今すぐにでも激しく動かしたいが……それよりも佐奈の困惑する顔が見たいという衝動に駆られた。
「やめるか」
「……で」
消え入りそうな声で、つぶやく。
「ん? なあに?」
「やめないで……いじわるしないで……セイ君のおちんち●んもっとズボズボして……」
「よく、言えました」
血を啜った痕を舐る。押し殺した悲鳴が唇から漏れた。
「やっ、あっ……なに、なにコレ……ああ、来る……クル……クルクル狂狂狂ぅうううううううう!!!」
……不意に、佐奈の目の焦点がブレた。
「っ、佐奈っ!?」
「あ、あああああおおおおおおおううううう!! スゴいィィィィィ!!」
次の瞬間……爆発的に魔力の風が開放され、俺は繋がったままひっくり返り……それを佐奈が押し倒す形になった。
「はぁっ、はぁっ……だめ、もっと……もっとよ……」
繋がったままの陰部にまたがる形で激しく腰を動かす佐奈。
制服の背中を破って、翼が……漆黒の双翼が現実空間を切り抜いて飛び出す。
いや、一対ではない。副翼も含めて二対。計四枚の翼は、どれも黒夜を思わせるほど禍々しく淫靡だ。
「あっ、あっ、あ……精気を……もっと……もっとぉぉぉぉぉ!」
「佐奈、おいっ! サ……あぅっ!!」
猛烈な射精の衝動と共に、ゴッソリと精気を持っていかれ……今度は俺が意識を失った。
……意識が戻った。
「おはよ、セイ君」
窓から見える景色は夜空。煌々と輝く月だけが、保健室のベッドを照らす。
「……佐奈?」
そこに、別人と見まごうばかりの佐奈の姿が在った。
「ごめんね」
ねじくれた一対の角。二対四枚の禍々しい翼。先端の尖った尾。そして……それらの魔たる部品を備える佐奈自身の『艶』が増していたのだ。
それは、以前のようなコスプレじみた違和感を感じさせる事の無い、完全なる淫魔としての覚醒を意味していた。
「ふふ、たーっぷり搾り取っちゃった♪」
舐める舌が唇を朱に染める。それだけでその場の空気そのものが、限りなく淫らに染まっていく。
「ごちそうさま、セイ君」
ペロリ、と頬を舐められた。それだけで背徳の甘美な味が背筋を走る。
「どういたしまして」
少し……少しだけ。その……ああ、そうとも、俺は後悔してしまった。
ここまで『魔』として覚醒した佐奈を、奴隷として従える事は……もう覇王の力をもってしても難しいだろう。
そう思うと、少々残念だった。
だが……それが如何程の問題だろうか?
「佐奈」
「なに、セイ君」
暫し、躊躇の後、佐奈に向かって俺は問いかけた。
「俺はお前を愛してるから、お前は俺を愛しているのか?」
「セイ君は、私がセイ君を愛しているから、私が好きなの?」
質問を質問で返された。が……躊躇無く俺は答えた。
「違うよ。俺は飯塚佐奈が好きなだけだ。お前が俺を嫌うのなら……ああ、俺から離れても構わない。それでも思いは変わらないだろうし。お前が幸せになれるのなら、俺はそれでいい」
「そうでしょ? 誰に萎縮せず、誰に怯えず、誰を支配せず、誰を蔑まず。だから、私もまっすぐにあなたを見てる。
そう言いきれるほど、私は今、強くないけど……私もセイ君のように、そうで在りたい」
「馬鹿を言うな。俺だって半人前だ。そう在りたいと思い、そう在ろうとやってみてるだけだ。そうで『在れている』なんて欠片も思っちゃいない」
そのまま、軽く佐奈を抱き寄せた。
「ひゃん♪」
「ただ、まぁ」
その甘美な首筋に牙と舌を這わせながら、耳元で囁いた。
「ベッドの上では、お前を支配したいな」
「あ……」
甘い血が舌をぬらす。
己のサガに目覚めたばかりの淫魔は、その本能に抗えずに俺の腕の中に納まった。
「乱暴な搾り取り方しやがって」
「あん、だって美味しくて……つい」
「つい、こうしたくなった?」
首筋に這わせた牙を、再びゆっくりと中へと埋めた。
欲望のままに、本能のままに、その衝動を解き放っても、こいつはこいつで在り続けるのならば、遠慮はいらない。
「やっ、あっ……んぁああっ!!」
遠慮呵責なく、俺は愛しい淫魔の血をむさぼり飲み、淫楽の毒で媚肉を犯しぬいた。
こうして、俺たちはお互いを『支配』した。
だがこの時、本格的なダークストーカー同士の『戦い』がどういうものか、二人とも正直深く考えてなかった。そう。結局、今までの『人間』相手の戦いは前哨戦に過ぎなかった……などとは、二人とも想像もしていなかったのだ。
ただ……それでも。
俺は、この淫夜の出来事を、最後まで忘れる事は無かった。
< 続く >