反復式ランダムマッサージセラピー

「坂崎さん、坂崎静香(さかざきしずか)さん」

 誰かが私を呼んでいます。

「坂崎さん、いらっしゃいませんか?」

(――答えたく、ないわ)
 白く霞んだ頭の中で、ぼんやりと私は思いました。
(だって……声が違う。***さんじゃ、ないんですもの)

 そうです。私の事を『坂崎さん』と呼ぶのは……私が呼んで欲しいのは、もっと違う声の方です。穏やかで優しくて、だけど時々ちょっぴりイジワルで――

「坂崎さんっ!」
「え? あ! は、はいっ!」
 ハッと目を覚ました私は手を上げ、慌てて椅子から立ち上がりました。
 年配の女性看護師の方が私にギロリと強い視線を送ります。
「……こちらへどうぞ」
「すみません」

 このところ微熱が続いたり、時折、吐き気やめまいがして、なんだか体の調子がおかしかったのと、ちょうど会社の健康診断の時期が重なったため、私は久々に休みを取って自宅に近い総合病院に検査に来ました。
 てっきりすぐ済むと思っていたのですが、最初の問診シートに答えて以降、あまり馴染みの無い検査が続き、だいぶ時間が経ってしまいました。
 自分で思っているより、疲労が溜っていたのでしょうか? 待合室で診断結果を待つ間に、私はついウトウトと眠り込んでしまったようです。
 慌てて診察室に入り丸椅子に座った私に、若い女医の方が開口一番、華やいだ声で告げました。

「今、約八週間――ニケ月というところですね。おめでとうございます!」

「――え? あの……すみません。何がでしょう?」
 まるで意味が分からず、思わず聞き返した私に、一瞬戸惑いの表情を見せた先生は『ああ、まだ……』と小さく呟いた後、再び明るく微笑んでこう答えました。

「おめでたですよ、奥さん!」

(――ええっ!!)
 あまりの驚きに口元に手を当て呆然と固まる私の事を“感激で声も出ないのだ”と思われたのでしょうか? 先生はそのまま続けて、妊娠初期の諸注意を聞かせてくださったのですが、正直なところ、お話の半分も私の耳には入りませんでした。
 その時、私の頭の中ではただ一つの思いがグルグルと空回りを続けていたのです。

(赤ちゃん? ニケ月? そんな……そんなハズないわ! だって私、あの人とは、もう三ケ月以上会ってないのよ!? だけど、主人の子供じゃないとしたら――一体、誰の赤ちゃんだっていうの!?)

■■■■

 その後の事はほとんど記憶にありません。
 ただ、途中何度も大声で『違うんです! 赤ちゃんなんているはずありません!』と叫びそうになるのを必死に堪えていた事と、最後に先生に見せていただいた超音波診断画像の『小さな人型をした何か』に愕然とした事だけは覚えています。
 よろけるように病院を出ると空はすっかり茜色に染まり、もう夕暮れ時でした。
 冬の街を吹く冷たい風が、怯える心に一層不安を募らせます。

(まさか……妊娠だなんて。どうしよう? やっぱり、あの人に相談するべきなのかしら? でも、先週のメールで“やっと仕事が軌道に乗り始めたところだ”って書いていたし、そう簡単に日本に戻れないわよね。それに――なんて言えばいいの? 全く身に覚えが無いのに急に赤ちゃんが出来た? そんな話、誰が信じてくれるの? そうよ。あの人だって、きっと色々疑うわ――ああ、一体どうしてこんな事にっ!?)

 今すぐ夫に帰ってきて欲しい、なのに、会うのが怖くてたまらない――こんな矛盾した気持ちは初めてです。
 混乱しきったまま自宅に帰り、ドアを開けると上品なお香の芳香が私を包みました。
(ああ、いい匂い……)
 私は思わず、玄関でそのまま立ち止まり、深々と深呼吸しました。
 カッチン。コッチン。カッチン。コッチン。カッチン。コッチン。
 下駄箱の上に置かれたメトロノームが小さな音を立てています。
 室内は適度に暖かく、困惑と緊張にガチガチだった体がゆるゆるとほぐれていく気がしました。新婚で入居してまだ一年も経っていないマンションですが、いつのまにか私の大切な安らぎの場所になっていたのだと実感します。
「あ……れ……?」
 木枯しの吹く屋外から温かい家の中に入り、一気に緊張がほぐれたせいでしょうか?
 急に激しい眠気が襲って来ました。
(待っ、て。そう……だわ。確かめ、なくちゃ――)
 そう。私はここ最近、こうして家に入った時に『何か』に気付くのです。
 些細だけれど、重要な事。でも、何故か普段は全く思い出さない事。
(なん、だった――かしら? いつも、必ず『ここ』――玄関で気が、付いて……)
 まぶたがどんどん重くなり、ゆうらりと風景が揺れていきます。
 このまま玄関で寝てしまうなんて最悪です。風邪をひいてしまうに違いありません。
(頭……はっきり……させ……なきゃ)
 必死でブルブルと首を振った私は、一瞬、バランスを失いかけ壁に手を突きました。

 パチン。

「あ……」
 うっかりスイッチに触れたらしく、玄関の電気が消えます。
(え……電気? あああっ!)
 不意に私の頭の中で火花が散りました。
 慌ててスイッチを入れ直します。
「今。点いて――たわ」
 背筋をゾッと冷たいものが駆け抜けました。
 海外赴任で夫が家におらず、私も会社に行っているのに、何故玄関の電気が点いているのでしょう? ……消し忘れ? いいえ! 常日頃、倹約を心がけ、必ず指さし確認をして家を出る私が、玄関の電気を消し忘れるはずがありません。
 それに、こんなに暖房の効いた暖かい室内と、上品な――
「えっ!? お香の匂い……ですって!?」
 私は一瞬、部屋を間違えて別のお宅に入ったのかと、慌てて周囲を見渡しました。
 でも、ここは確かに我が家です。
 いつもと同じ床、いつもと同じ壁、いつもと同じ――

    ((( 鏡 )))

(あ……)

「坂崎さん、お帰りなさい。検診はどうでした?」
 玄関で立ち尽くす私に穏やかな声がかけられました。

(――ああ、そうだわっ! これよ! この声だわ!)

 どくんっ!

 心臓が一つ脈打つ間に、私の中で何かが『カチリ』と切り替わりました。
 ソウデス。私ハ家ニ帰ッテキタノデス。ダカラ、挨拶ヲスルノデス。コノ人ハ――

「覚(さとる)さん……ただいま」
「今日は夕方から急に冷えこみましたね。ヒーター入れておきました」
 いつものようにふっくらと包み込むような笑顔で覚さんが私を迎えてくれます。
 ポッチャリした体形とつぶらな瞳、クルンと丸まる癖のある細い髪の毛――キューピーちゃんやクマのぬいぐるみを連想させて、なんだか見ているだけで心が和みます。
「普段この時間は会社の食堂で晩ご飯食べてらっしゃるんですよね? お腹が空いていると思って、料理作ってみたんですけど、坂崎さんのお口に合うかなぁ」
「まあ、すみません! そんな事までしていただいて――」
(……え? アレ? 私、今何を……あっ! そうだわ、覚さんよ! この人なら!)
 おぞましい検診結果に怯える私は、一も二もなく覚さんに相談する事に決めました。
 海外に長期単身赴任中の夫に、すぐに報告する勇気など今の私にありません。かと言って遠い故郷の両親や親友にも迂闊に言えないこんな悩みを打ち明けられる相手がすぐそばにいる幸運を、私は神様に感謝しました。

「何です、相談て?」
 私の上着をハンガーにかけながら、ニコニコと無邪気に覚さんが尋ねます。
「それが……その――」
 いつものようにスカートを脱いで覚さんに手渡しながら、私は少し躊躇しました。
(こんな事を相談したら……覚さん、どう思うかしら?)
 どうやら自分は夫の胤ではない赤ん坊を身籠ってしまったらしい。しかも、肝心の父親が誰なのかは皆目見当がつかない――そんな話を聞いたら、恐らく普通の人は私が強姦魔にでも襲われておぞましい行為の犠牲になったか、或いは口にするのもはばかられるような尻軽でハレンチな行為をしたのだと決めつけるに違いありません。
 どれほど、私には一切身に覚えが無いのだ、と主張したところで決して信じてはくれないでしょう。
(でも、きっと覚さんなら……)
 シワにならないよう丁寧にスカートをたたんだ覚さんは、いつものように私の着ているブラウスのボタンを外しながら、黙って私の言葉の続きを待っています。
 丸っこくて可愛らしい指先がボタンを一つ一つ丁寧に外し、ブラウスの中で圧迫されていた私の、平均より少し大きめな胸を解放していきます。
(ああ――ホッとするわ)
 胸の谷間を風がすり抜けるのを感じると、ようやく本当に自分の家に帰ってきたという実感が湧いてきます。
 そう。いつでも覚さんは私が考えをまとめて話せるようになるまで、こんな風にさりげなく、でも、忍耐強く待ち続けてくれるのです。それだけではありません。私がうまく表現できなくて苛立ってしまうような時は、あつらえたようにぴったりな言葉で助け舟を出してくれます。
 知的で上品で、落ち着いていてよく気が利いて――これでまだ十*歳、つまり、私より八歳も年下だなんてとても信じられません。外見は確かにまだ幼さの残る『少年』と言っておかしくない容貌なのですが、その柔かな物腰は私が知っているどんな男性よりも洗練されています。
 知り合ってから、まだニケ月くらいしか経っていませんが、私はすっかり覚さんを信頼して、何でも相談するようになっていました。

「あの……今日の検診なんですけれど、『女性特有の病気に詳しいお医者さんのいる病院の方がいいんじゃないですか?』って覚さんにアドバイスして頂いた通り、産婦人科のある総合病院に行って検査してもらったんです。そしたら……あ、アレ?」
 私がブラのホックを外すのに手間どっているのをみると、覚さんはすぐさま後ろに回って手際良く金具を外し、胸元からスルリと抜き取ってくれました。
「これも洗濯しておきますね」
「ありがとうございます!」
 ほんとに細やかな気の配りようです。この紳士ぶりは、是非、主人にも見習ってもらいたいものです。
「あの……覚さん。実は最近、やけにブラジャーがきつくなった気がするんですけれど、私、太ったのかしら?」
 いい機会なので、思い切って尋ねてみました。
「まさか! 僕と違って坂崎さんは全然太ってなんかいませんよ! あ、だけど……ちょっと失礼」
 そういうと覚さんはむちむちした両手を伸ばし、私の左右の乳房それぞれを下から軽く支えると、木に生えている果物の成長を確かめるように優しく上下に揺らします。
「……うーん」
「どうですか?」
 真剣な表情でタプタプとおっぱいを揺らす覚さんに協力するため、私は手を後ろに廻し、胸を前に突き出しました。
「ああ、確かに前より大きくなってる……かな? 以前より張りが出て、みっちりと手に吸い付くような手応えになった気がしますね」
(やっぱり!)
 妊娠の兆候はすでに現れていたのに、うかつな私は全く気付かずにいたのです。
「産婦人科のある総合病院というと、このへんだとK大病院ですか」
「え、ええ……よくご存知ですね。思ったより大きな病院でビックリしちゃいました」
「初めて行ったんですね。そういえば坂崎さんが体調を崩した所はこれまでは全く見た事ありませんでしたっけ。あ……ストッキング、伝線してますね」
「え? あ、本当! ……ショックだわ。私、ここに引っ越してきた当時は頭痛がひどくて、よく近くの病院に通っていたんですけど――きっと覚さんが毎日リラックスさせてくれているからだと思います」
「ふふ。坂崎さんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ――はい、足を上げて下さい」
 覚さんは私のストッキングを脱がせながら、本当に嬉しそうに輝くような素敵な笑顔を浮かべます。優しい目が細い線になって、まるで笑っている招き猫みたいです。
 こうしていつものように、一枚一枚服を脱ぎながら今日あった事を覚さんに報告しているうちに私はだんだん気分が落ち着いてきました。
(……そうよ。きっと、覚さんなら力になってくれるわ)
「じゃ、僕これを置いてきますから、坂崎さんは準備を進めておいて下さい」
 最後にショーツを手渡された覚さんが洗い場に私の洗濯物一式を置きに行っている間に、手早く髪をまとめ、自分専用の首輪をはめると、いつものようにリビングの壁の大きな鏡の前にプラスチックの椅子を置きます。真ん中がUの字状に窪んだこの奇妙な形状の椅子に、厚手のタオルを敷くと、とりあえず私の方の準備はおしまいです。
 ちなみに椅子の上にタオルを敷くのはそのまま座るとむきだしのお尻が冷たいのと、私自身がかなり濡れやすいタチだからなのですが、さすがにこの用意と後始末だけは覚さんにお任せする訳にいかず、毎回自分でやっています。
 毎晩、自分の愛液でグッショリになったタオルを洗濯するわけなのですが、さらに毎回、シャワーかお風呂で汗を流すので、当然、バスタオルも替えが必要です。
 覚さんが一番最初の頃から『シャワーは二人で一緒に入りましょう』と提案してくれたのは本当にありがたいと思っています。

(そうね。今日はまずリラックスさせてもらって――相談はその後にしましょう)
 そう決めると急に気分が楽になりました。
「覚さん、私の方は準備OKです」
「分かりました。僕もこれから準備しますから、もう少しだけ待って下さい」
「はい」
 後はクライアントである私同様に、全ての衣服を脱いで準備を整えた覚さんが出てくるのを待つだけです。

 カッチン。コッチン。カッチン。コッチン。カッチン。コッチン。

 玄関から小さくメトロノームの音が聞こえています。なんだかとても静かです。
 こうして一人きりで立っていると、やけに部屋の中が広く感じられます。
(ああ。覚さん、早く出て来て……お願い)
 いつもの事ですが、覚さんが出てくるまでのこの時間が一番長く感じます。
 待ち遠しいのは勿論なのですが、実は目の前の鏡が気になってしょうがないのです。

(私――今、リビングに……裸、で立ってる)

 赤く細い合成皮革で出来た首輪以外は一糸まとわぬ自分の姿をチラリと横目で見て、また慌てて視線を反らします。
 何故なのでしょう? 鼓動がドキドキ早くなり、頬が紅く染まるのを感じます。
 本当におかしな話です。
 私はこれから覚さんに全身をマッサージしていただくのです。ですから、私の名前が刻印してある名札がわりの首輪を除いて、邪魔になる衣服を脱ぐのは当然の事です。同様に施術者である覚さんが全身で私の反応を敏感に感じとるために邪魔な衣服を脱ぐのも至極当然です。どこにも恥じ入る要素などありません。
 水泳選手がプールで水着でいる自分を恥ずかしいと思うでしょうか?
 相撲の力士が土俵上でまわし一つで戦う自分を恥じ入るでしょうか?
 エステは? サウナは?
 私も頭の中ではちゃんと道理が分かっていますし、ただ覚さんを待つだけであれば、どうという事もありません。
 なのに……そう、やっぱり元凶は『鏡』です。何故、こんなにも当り前の事が、鏡を通すと途端に淫らでたまらなくいやらしい行為のように思えてしまうのでしょう?

(ああ……乳首があんなにピンて立ってるわ。覚さんにどう思われるかしら――)

 以前、覚さんに相談したところ、『それは淫視症の疑いがある』と診断されました。
 覚さんによると『淫視症』とは精神病の一種で、例えばTVや雑誌の写真のように本来自分とは関わり無い映像の登場人物に自分を投影して、あたかも自分がその人物であるかのように錯覚してしまう病気なのだそうです。症状が進むと現実と空想の境が分からなくなる恐ろしい心の病だそうで、進行を防ぐには『鏡の中の世界の出来事はしょせん、現実とは違う単なる虚像なのだから、どんな行為でも目を反らさずに受け入れ、自分との違いをきちんと認めなくてはいけない』とアドバイスされました。
 それからというもの『淫視症の治療のために』と必ずリビングの鏡の前で施術されるようになったのですが、未だに恥ずかしくて自分の姿がまともに見られません。
 覚さんからは冗談混じりに『このままいくと坂崎さんは【自宅の鏡を見るだけでいやらしい女に変わるようになってしまう】かもしれませんよ』とおどされているのですが、私も負けずに『クライアントの体調をきちんと管理するのが覚さんのお仕事なんですから、もし、そんな事になったら覚さんが責任を持って私の面倒を見てくださいね!』と言い返しています。
 幸い、これは鏡を見ている時だけの症状なので『私だけがとても恥ずかしいと感じてしまう』事以外に目立った不都合は無いのですが、最近、鏡に映る自分――特に覚さんと一緒に裸でいる自分を見ていると、なんだか嬉しいようなウキウキと浮き立つような気分になる事が多くて、少し困っています。

(そう……だわ。さっき、覚さんに胸の大きさを確かめてもらったけど、あの時にはもう、私の乳首ったらツンて堅く尖ってたわ。ああ……どうしよう? とっくに覚さんに知られているのね、こんなにいやらしい私の――)

「……おっぱい」

 きゅんっ!

 鏡に映る“その部分”を口にすると、私の奥深くで何かが疼くのが分かります。
 得体の知れない感情が胸をくすぐり、女の蜜がトロリと溢れてくるのです。

(ああ、お願いよ、覚さん。早く来てちょうだい。でないと、私……)

 心の奥底にうごめく妖しい兆しに怯える私は必死で覚さんの助けを求めます。
 鏡に映った『一糸まとわぬ私』も、頬を赤く染めながら、誰かを一心に待ち受けているように見えます。

 ――一体、誰を?

 まるで、恋人を待つ少女……いいえ、優しいご主人様の訪れを待ち焦がれるメス奴隷のようです。いやらしくて淫らで――けれど、それがたまらなく魅力的に思えてしまうのは何故なのでしょう? あんな恥知らずな格好を、どうして私は『美しい』とさえ感じてしまうのでしょう?
(そうね。きっとこれから、たくさん愛される……のね、あなたは)
 そうです。これから『鏡の向うの私』は、とても恥ずかしくて、だけど、とても気持ちが良い事をたくさんたくさんしてもらうつもりなのです。
 あの表情を見れば分かります。ほんとに、いやらしい顔! 『鏡の向こうの私』は、これからご主人様にしていただく淫らでハレンチな事をあれこれ想像しながら、もじもじと身悶えているのです。
 本当の私――この坂崎静香本人が、貞淑な人妻にふさわしいたしなみとして、又、愛する夫を少しでも喜ばせるようなカラダになるために、真剣に覚さんのマッサージを受けようとしているのに、鏡の向うではただただ色情の焔に身を委ねたあのメス犬が、甘えた声で愛撫をねだり、恥ずかし気もなく腰を振りたて、あたり構わず大声で絶頂を迎えるのです。
 一体、どういう事でしょう? 幾ら鏡の中とはいえ、そんな淫らな事が『私』に許されていいのでしょうか?
 ――ああ、なんだかひどく不公平です。

「ズルいわ。どうして、あなただけ……」

 ハッ!

 慌てて、口元を押さえたけれど無駄でした。
(私、今――何をっ?!)
 私は自分が口にした言葉の罪深さに震え慄きました。

(ああ……変よ。私、どんどんおかしくなってる。どうしてこんな風になってしまったのかしら? 私はただ、あの人に喜んでもらいたいと思っていただけなのに……)

 何故なのでしょう? 最近、主人の顔を思い浮かべるのに、少し時間がかかるようになってしまいました。けれど、その事を別段寂しいとも悲しいとも思っていない、薄情な自分がいます。

(私が愛しているのはあの人だけよ……そのはず、なのに――)

■■■■

「お待たせしました。さ、それじゃ食事前に手早く今日の分を済ませるとしましょう。準備はいいですか?」
 リビングに姿を現した覚さんが私に陽気に声をかけます。いつもの仕事モードです。
「あ……はいっ!」
 現金なもので、覚さんの顔を見た途端に私の気分はパアッと明るくなりました。
 むっちりとしたその体は女の私から見てもうらやましいくらい、白くて肌理の細かい餅肌です。ちょっと付き出た丸いお腹とつぶらな瞳のおかげで、裸の覚さんはなんだか白クマみたいです。とっても可愛くて、思わずギュッと抱きしめたくなります。
(そうよ……大丈夫だわ。ちょっとくらいおかしくなっても、きっと覚さんが私を正しく導いてくれるわ!)
「ふふ。今日もいい返事ですね。そんなに待ち遠しかったんですか、“奥さん”?」
 仕事モードに切り替わった覚さんは、私の事を『坂崎さん』ではなく『奥さん』と呼びます。もう二ケ月以上も一緒に暮らしているというのに、なんだかよそよそしくてちょっと寂しいな、とも思うのですが、きっちりプロとして振舞う覚さんに敬意を払って、私もこの時だけは『先生』とお呼びしています。

「ええ、“先生”! 早く、私を『ハラマセ』てください! お願いしますっ!」

 覚さんに毎日施していただいているこの特殊なマッサージは正式名称を『反復式ランダムマッサージセラピー』、略して『ハラマセ』と言うのだそうです。
 どこかで聞いたような、でも、どうしても類似した言葉が思い出せない奇妙な単語なのですが、日本語の文法として正しくは『私にハラマセをしてください』ではないかと思い、覚さんに尋ねたところ、これは挨拶のようなもので昔から慣習でこう言うのだと教えていただきました。以来、施術の前には必ず言うようにしています。
 私のこの言葉を聞くと、心なしか覚さんが目を細めた嬉しそうな表情になるので、慣習とは言え、やはり正しく作法を守るのは大切な事なのだと思います。
「さて、それじゃ椅子に――」
「先生、違います! 始める前にまず『匂いチェック』をしてください!」
「ああ、そうでしたね」
「もお! ちょっとスキを見せると、すぐ飛ばそうとするんだから!」
「はは……」
 覚さんが苦笑します。これで丸いメガネをかけて白いヒゲを付けたらケンタッキーおじさんに似ているかもしれません。
「笑ってごまかそうとしてもダメです!」
 日頃お世話になっている覚さんですけれど、これだけはどうしても譲れないところなので私も強気です。
「でも奥さん、夏場と違って、今はあまり汗をかかないでしょう? そんなに気にする必要は……」
「いいえ! 私は気にします! 先生が少しでもイヤな匂いと思ったら、時間がかかろうとシャワーを浴びてからにさせて頂きます。そういうお約束でしょう!? 面倒がらずに、きちんと私の匂いを嗅いでいただかないと困ります!」
 いつも素敵なマッサージをしていただけるのは大変ありがたいのですが、一つだけ頭を悩ませている事があります。それは『シャワーをいつ浴びるか?』です。
 実は『ハラマセ』は一回行うだけでも、かなりの運動量になります。毎回、施術の後半は必ず汗や愛液や唾液で体中がヌルヌルになるので、終った後はシャワーを浴びずにはいられません。また、幾ら覚さんが『ハラマセ』のプロとは言え、会社から帰宅したばかりで汗臭い体のまま施術していただくのは、女の身としては大変心苦しいのです。ですから、本音を言えば、まずシャワーで身を清めてから施術していただき、それからまた改めて汗を流したいのです。
 けれど、それが毎日となるとシャワー代も馬鹿になりません。
 幾ら二人で一緒に入るといっても節約出来る限度があります。
 そこで私から折衷案として提案したのがこの『匂いチェック』です。
 匂いが気になる場所を重点的に覚さんに嗅いでもらい、少しでもイヤだと感じたら施術を始める前にシャワーを浴びる、という事にしたのです。
 今では生理の時以外は、大抵このチェックをしていただいています。
 実は以前、一度だけ“どうせシャワーを使うのだから”とお風呂場で施術を試していただいた事もあるのですが、その時は私の出す声が大きすぎて、ダクトを通じてマンション中に響いてしまいそうで、大変恥ずかしかったのでそれきりになりました。

「それじゃ、先生。お願いします」
 そう言って、私は両腕を頭の上で組み、覚さんに脇の下を晒します。
「分かりました」
 福々しい笑顔を浮かべながら、覚さんが頷きます。
 先程のように、何かとこの作業を省こうとしては私に注意され、ようやくチェックを始める覚さんなのですが、不思議な事に決して嫌がっているようには見えません。
 まるで私に『ちゃんと匂いを嗅いで下さい!』と怒られる事自体を楽しんでいるようです。
 こんな時の覚さんは年齢相応のイタズラっ子のように見えて“なんだか可愛いな”と思うのですが、そうかと思うと――
「じゃあ、今日もじっくりと嗅がせてもらいますね……奥さんの匂い」
 ああ。急にそんな風に耳元で囁かれるとなんだかすごくドキドキしてしまいます。
(今日は大丈夫かしら? 汗をかくような検査は無かったけれど……)
 私の脇の下に覚さんの鼻先が近付き、クンクンと小さな音を立て嗅ぎ廻ります。
(あ、吐息が――)
 ゾクゾクッと背筋に震えが走ります。
 鏡に視線を向けると『向こう側の私』も潤んだ目でこちらを見つめ返してきます。
(イヤだわ。なんて顔……してるのよ、もぉ)
 ぼおっと桜色に頬を染め、切なく眉を寄せたその表情からは、誰の目にも明らかな性的な興奮の様子が読み取れます。
 そうです。色々な場所の匂いを嗅がれる事をたまらなく恥ずかしいと感じていながら、その一方で、ご主人様に嗅いでいただける事に無上の喜びを感じているのです。
 きちんと『ハラマセ』ていただくためのエチケットとして、わざわざ覚さんに匂いのチェックをお願いしているというのになんて恥知らずな女なんでしょう。
「どう、ですか、先生?」
 せめて、私だけでもしっかりしなくてはいけません。震えそうになる声を必死に押さえて、冷静な口調を装います。
「ええ。とてもいい匂いがしますよ、奥さんの脇の下」

 きゅううんっ!

 覚さんの言葉に、思わず体の芯が熱く疼きます。
「や、やだわ。からかわないで下さい、先生!」
「いえ。本気ですよ。こうしていつまでも奥さんの匂いを嗅いでいたいくらいです」
 覚さんは私の脇の下ぎりぎりまで顔を寄せ、深々と深呼吸してみせます。
「もおっ! お上手なんだからっ! 早く次に移って下さい! 首筋です!」
 そんな風に言いながらも私の胸は嬉しさに弾みます。
(いつまでも奥さんの匂いを嗅いでいたい、だなんて……そんな)
 仮にお世辞だとしても、なんだかとても可愛らしくて、思わず覚さんに身を委ねて、そのままずっと嗅ぎ続けて欲しくなってしまいます。
「いつ見ても綺麗な鎖骨と首のラインですね、奥さん」
「あん……」
 いつのまにか後ろに回された指先が私の首輪の周りを優しく撫でました。ゾクゾクした感触に思わずのけぞった私の肩口に、覚さんがスッと自然に鼻先を寄せます。
 私の大きなおっぱいが覚さんの肉付きの良い胸に優しく押され、ゆるりと形を変えていきます。
 触れ合った素肌の体温が直接伝わり、また少し鼓動が早くなります。
(ああ、これじゃ、まるで――)
 そう。少し顎を上げ、正面からぴったりと覚さんに体を寄せられた『私』の姿は、鏡で見ると首筋にキスを求めているみたいです。まるで――

【ふくよかな胸で愛しいご主人様を受け止め、優しく唇を寄せられるメス奴隷】

(ダメよ! 違うわ! これは単なるマッサージのための確認なの。他に意味は無いのよ。変な事想像しちゃダメ!)

 必死に自分を諌める私――けれど、すぐ目の前の覚さんの横顔に心を奪われます。
 きれいな形のピンク色の耳、クルンと癖のある細い髪、まだヒゲも生えていない柔かい顎の曲線――もし、いきなりギュッと抱きしめたら、覚さん、驚くでしょうか?
 いいえ。きっと、優しく笑って――

「うん。首筋も全く問題無しですよ。次はどこにしますか、奥さん?」
「え? あ! は、はいっ! えと……し、下をお願いしますっ!」
「ん? 下……ですか?」
(――あっ!)
 ぼおっとしていたところに急に尋ねられ、慌てた私はついつい最初に浮かんだ場所を答えてしまいました。いつもなら背中や胸元やおへそといったあたりを順に経て、最後に嗅いでいただくのですが――
(これじゃ、私……我慢出来なくなっているみたいじゃない! もおっ!)
 思わず、顔がカアッと熱く火照ります。
 でも、覚さんはいつものように『いいですよ』と優しく微笑むと、私の前に膝を突いてくれました。丸いお腹がぴょこんと突き出て、可愛いタヌキの置き物みたいです。
「それじゃ、嗅ぎますね」
「は……はいっ!」
(私――今日は本当に大丈夫なのかしら?)
 急に不安になってきました。下の毛は毎晩二人でシャワーを浴びるついでに覚さんに綺麗に剃っていただいていますから、蒸れたりする心配は無いのですが、今日はいつもと違い、まだ『ハラマセ』が始まってもいないのに、かなり濡れています。
 自分でも知らないうちに愛液を滴らせて、発情したメスのフェロモンを振りまき、覚さんに不快な思いをさせてしまったら、と思うと気が気ではありません。
(どうしよう――もし、覚さんが顔をしかめたりしたら……)
 そんな事になったら、恥ずかしくて恥ずかしくて、もう『ハラマセ』ていただくどころの話ではありません。
(ああ……覚さんたら、あんなに顔を近付けて――)
 膝を突いて私のツルリとした秘所に鼻先を近付ける覚さんと、立ったままそれを待ち受ける私――鏡に写った二人はまるで臣下の礼を尽くす家来と女王様のようです。
 でも、この『裸の女王様』がキスを受けるのは手の甲ではありません。きっと、体中で一番敏感なところ――大切な人にしか触らせない秘密の場所に違いありません。
(やっぱり、嗅ぎ取られてしまうのかしら? 私がこんなに興奮している事……)
 変です。たまらなく恥ずかしいと感じている一方で、ドキドキとスリルを味わっている自分がいます。
 ――いいえ。私はいっそ、気付いて欲しいと願っているのかもしれません。
 こんなにも自分が疼いている事……覚さんに触れて欲しがっている事を。
 けれど、私の心を知ってか知らずか、覚さんはそ知らぬ顔で、ただ、鼻先を私の秘所に埋め、クンクンと匂いを嗅ぎ続けています。
(……ワンちゃんみたい)
 それも若くて逞しいオス犬です。きっと、四つんばいになった私を後ろから力強く優しく――ああ、なんだか、こうして見ているだけでますます濡れてきてしまいます。
(早く……お願いだから、早くしてちょうだい)
「どう、ですか――覚さん?」
 堪え切れず、ついに私は尋ねてしまいました。
「ええ、全然大丈夫ですよ。安心して下さい」
「――そう」
 大きな安堵とほんのちょっぴりの落胆を覚えた私に、覚さんは言葉を続けます。
「ただ……」

 ドキッ!

(えっ!? 何? 何なの?)
 狼狽と、微妙な喜びと、恥ずかしさとが胸の中で絡まり合い、動悸が早くなります。
「外が寒かったせいですかね? 奥さんのここ、今日はまだ剥けていませんね?」
「――あっ! す、すいませんっ!」
 全く別の種類の恥ずかしさで顔が真っ赤になります。
(いやだ。私ったら……)
 覚さんに『ハラマセ』ていただく準備として、『あらかじめクリトリスは露出させておく事』という決まりがあります。これは出来るだけ敏感にマッサージの効果を感じとるために重要な事なので、施術前には必ず自分でよく刺激して大きくして、包皮を剥くようにしています。今日は心配事があったせいか、バタバタしているうちに、すっかり忘れていたのです。
「すみません! すぐに準備しますから、ちょっとだけ待って下さい!」
 慌てて覚さんに背中を向け、右手の人差し指と中指を唾液で塗らした私は――

【鏡に写った二人はまるで臣下の礼を尽くす家来と女王様のよう】

 どくんっ!

「あ……」
 不意に思い浮かんだ先ほどの『鏡の中の光景』に、ざわりと全身が沸き立つのを感じました。

【この『裸の女王様』がキスを受けるのは手の甲ではありません。きっと……】

(ダメよ! 私ったら、何を考えているのっ!?)

 心の中では必死に自分を抑えようとしているのです。けれど――
「覚……さん?」
 錆びついた機械人形のように、ギクシャクした動作で、『私』はまた覚さんの方に向き直りました。
「はい?」
 覚さんはまだ膝をついた格好で私を待っています。
(ああ、ダメよ! ダメダメダメ!)
「あの……お願いが、あるんです」
 鏡の中で、頬を紅く染め、瞳を潤ませた『私』が口を開きます。
(やめなさいっ! 幾ら覚さんでもそんな事引き受けて下さるはずないわ!)
 必死の抗弁も虚しく、『鏡の中の私』は“恥ずかし過ぎるお願い”を続けます。
「ここ、を……剥いて、いただけませんか?」
(あああっ!)
 これまで私達は施術者とクライアントという関係を、きっちりと守ってきました。
 私から無理をお願いした事はありませんし、今のようにうっかり忘れてしまった場合を除き、約束事は必ず守り、節度のある関係を築いてきたと思っています。
 なのに、今日の『私』は、一体どうしたんでしょう? 急にこんな厚かましいお願いをするなんて! 幾ら優しい覚さんとはいえ、引き受けて下さるはずが――
「ええ。構いませんよ」
(……えっ!?)
「指のマッサージと舌と唇のマッサージ、どちらにしましょう?」
「舌と唇……で、お願いします」
(ウソウソウソ! ああ、私……どうしようっ?!)
 思いがけない覚さんの言葉に、私はたちまち舞い上がってしまいました。
「わかりました。じゃあ、少し足を開いてもらえますか?」
「はい!」
 ああ、本当になんて優しい方なんでしょう。こんなずうずうしいお願いまで聞いて下さるなんて。申し訳なさと思いがけない喜びと激しい期待とで胸が一杯になります。
「もし、痛かったら言って下さいね」
「はいっ!」
 覚さんが痛くなんかするはずがありません。指でのマッサージはもちろんですが、舌と唇を使ったマッサージでも覚さんは天才的な技量の持ち主なんです。
 私はいそいそと両足を広げて少し腰を落とすと、覚さんが口を寄せやすいよう、出来るだけ前の方に『恥ずかしい場所』を突きだしました。
(イヤだわ。『私』ったら、あんなに濡らして――)
 鏡に写った『私』は、まるでこれからリンボーダンスでも始めるような体勢です。
 大きく股を開き、ヌラヌラ光る秘肉をぱっくりと見せつけています。
 裸で、まして、リビングでは普段なら恥ずかしくてとても出来ない格好なのですが、これはマッサージの準備なのです。きちんと『ハラマセ』ていただくには、どうしても必要な事なのだ、と自分に必死に言い聞かせます。
「よろしく……お願いします」
「分かりました」
 小さく頷いた覚さんの肉付きの良い唇が、私の一番敏感な場所に近付きます。
(……ああ。来る、わ)

 あと10cm……あと5cm……あと3cm……あと――

 ちゅぷっ。

「はううぅっ!」
 ビクンと感電したように体が硬直し、思わず洩らしてしまった声に、必死で手で口元を塞ぎます。
(ダメよ……これはただの、準備なの。声、押さえ、なきゃ……)

 ぬろん。

「くふうううぅぅっ!」
(ああ! どうして? どうして、こんなに上手なのよおぉぉっ!)

 まるでテレパシーでも使えるかのように、覚さんの舌と唇が私の一番弱いところを、一番『そうして欲しいやり方』で的確に攻めてきます。

(そう……そうなの、いきなり剥いてはダメ。最初は皮の上から優しくそっと挟んで欲しいの……ああ、そうよ。スゴいわ、どうしてそんなに分かってしまうの?)

 ヌラヌラとたっぷりの唾液にまみれた覚さんの肉感的な唇が、私のクリトリスを包皮ごと優しくくわえて弄びます。はむはむと縦に押し揉むようにしたかと思うと、唇同士を左右にずらして横方向にねぶります。
「う、ううぅ……」
 強すぎず、弱すぎず、柔らかな唇に挟まれた私のお豆さんが、もどかしい刺激にじわじわと疼き始めた頃、今度はいたずらな舌先が周囲をチロチロと舐め回し始めました。私の小さな小さな敏感な丘の周りを覚さんのぼってりした舌がハケのように軽くタッチしていきます。

 ぬろん。にゅるん。ちゅろ。ちゅぷ。ちゅるん。にゅる。

「あっ! くっ! ふうぅっ!」
(あああ、来るのね? 来ちゃうのね? もうすぐ……もうすぐ――)
 期待と慄きが下半身をジンと痺れさせます。
 そうです。覚さんはこれから『本格的に攻め入る事』を私の肌に予感させているのです。柔らかな襞に守られた私のピンクの真珠を目覚めさせるつもりなのだ、と。

 くいっ。

「あっ……」
 ソッと包皮の端を覚さんの舌先が押しました。
(あああ、来たっ! 来たわっ!)
 待ち受ける大きな快楽への期待にゾワリと鳥肌が立ちます。
 そのまま、覚さんの舌はゆっくりと優しく私のクリトリスの外側をなぞるように、小さな小さな弧を描いて、皮と中身の間を押し広げ――

 ちゅるん!

「ひあああっ!」
 あらかじめ充分に予告されていたにも拘らず、私は大きな声を上げてしまいました。
 急に吸い上げられたクリトリスが、覚さんの肉厚な唇にすっぽり覆われる形で剥き出しにされてしまったのです。
(ああ。とうとう捕まってしまったのね、私の……クリトリス)
 生暖かくヌラヌラした肉の軛に因われた私の小さな真珠――ぴったりと唇で覆われてしまったその場所は、もはや覚さんの思うままです。
 逞しく優しい『騎士』に籠絡されてしまった『女王』は、剥き出しの姿のまま、その身に迫る淫らな責めの全てを受け入れるしかないのです。
 ――一体、どんな事をされてしまうのでしょう?
 甘く危うい予感に、ジンと下半身が痺れます。
(……え?)
 けれど何故か、そのまま覚さんの動きがピタリと止まりました。
 大切な場所を押さえられた私は、ピンで止められた蝶のように身動き出来ません。
 鏡の中の『裸の女王様』も腰を突き出したまま、小さく震えています。
(一体、どういうつもりなの?)
 恥丘に感じる微かなくすぐったさから、覚さんが深くゆっくりと鼻で息を吸ったり吐いたりを繰り返しているのが分かります。
 そして、ひときわ深々と息を吐き出した後――
(まさか……!?)

 ちゅっ!

「あっ!」

 ちゅうううぅっ!

「あああああああああっ!」

 ぢゅっ! ぢゅるっ! ぢゅぢゅぢゅぢゅ!

「いや! いやいやいやいや! いやあああああああ!」

 吸い付かれながら、舐め回され、唇でこねられ、揉まれ、くわえられ、押されつけられ、転がされ……私のソコはたちまち大変な事になってしまいました。

(ダメ! ダメダメダメダメダメエェッ!)

 ガクガクと足がふらつき、その場に崩れそうになるのを、覚さんの丸々した屈強な両腕が下からしっかりと支えます。お尻を力強く押し上げられ、私は倒れる事さえ許されず、覚さんの舌と唇が送り込む強烈な快感の嵐に耐え続けるしかありません。

 ぢゅうううううううううううっ!

「ああっ! も、もうダメ! 私のクリトリス! クリちゃん、許してええぇっ!」

 ひときわ長く強く吸いつかれ、私が泣き叫びながら、大きくのけぞった瞬間――

 ちゅぽん!

 ようやく覚さんの唇が離れました。
「あああぁっ!」
 ガクガクと腰が砕けた私は、覚さんの柔かな手で支えられたまま、ソッと優しく先程用意したプラスチック椅子に座らされました。

 はっ! はっ! はっ! はっ、はっ、はあ、はあぁ……。

 油汗でびっしょりの全身が、ヒクヒクとかるく痙攣しています。
(ああ、『私』ったら、あんなに乱れて……)
 鏡の中に、だらしなく両足を広げ、うつろな目であえぐ『私』が写っています。
 覚さんの唾液と自分の愛液でヌルヌルになった秘裂はヒクヒクと物欲しげに蠢き、その中央には、ぼってりと赤く、腫れ上がったように大きさを増したクリトリスが誇らしげにピンと突き立っています。覚さんの唇から解放され、自由になった今も、まだ何かに吸い付かれているようにズクンズクンと微かに疼いています。

(初めて、だわ……あんなに、大きくなって――)

 覚さんの舌と唇で、そんなにまでしていただいた事が、誇らしくて嬉しくて、なんだか胸が一杯になります。
 鏡の中の『私』も、まるで『ご主人様に可愛がっていただいた印』とでも言いたげに、両足をさらにゆるゆると広げ、しどけないポーズで私に見せつけます。
 記念に写真にでも撮ってもらいたい気分のようです。

(そうね。あなたは今……立派な『メス』なのね)

 たくましく優しいオス――ご主人様の舌と唇に存分に愛された喜びを全身で表す、『鏡の向こうのメス奴隷』に私はなんだか複雑な気持ちになりました。

(私、あんな風になるまで、あの人に愛された事……有ったかしら?)

 ――ああ、いけません。そんな事考えてはいけないのです。
『鏡の向こうの世界』はあくまで虚像なのです。現実の私とは違うのです。
 本当の私は【新婚の私よりも仕事を選んだあの人】の貞淑な妻で、誰よりも【私にも仕事があるから一緒には行けないと言ったら不機嫌になったあの人】を愛していて、一日も早く【もう顔も忘れかけているあの人】に帰ってきて欲しくて――

「奥さん、明日からは“これ”も取り入れましょうか?」
「……えっ?」
 また、ぼおっと物思いに浸っていた私は、最初、覚さんの言葉の意味が分かりませんでした。
「“これ”……って?」
「きちんと奥さんの準備を整えて差し上げるのも、僕の仕事だと思うんです」
「――私の、準備?」
「ええ。ずいぶん、お気に召したようですし」
「お気に……え? ええっ!? わ、私……の、準備って――その……」
「毎日、剥いて差し上げますよ」
「!!!!」
 一瞬で、私の顔は真っ赤になりました。
「あ……あああ、あの、えと、私――」
「もちろん、おイヤでしたら、無理に、とは言いませんが」
 覚さんがイタズラっぽく微笑みます。

(“これ”を、明日から……毎日?!)

 ゾクゾクッ!

 淫らな笑みを浮かべたメス奴隷が鏡の向こうで小さく身震いするのが分かりました。
「……はい」
 うつむいて目を反らし、消え入りそうな声で答えます。
「お願い、します」

 アア――ワタシ、カワッテシマウ。

 カラダのどこか奥深くで、何かが私に囁きます。
「どうしよう。私のココ……きっと、大きくなっちゃうわ」
 震えながら小さく呟くと、ピンと突き立った私のピンクの真珠がまた微かに疼き、触られてもいないのに、一筋、トロリと糸を引いてオンナの蜜が滴りました。

■■■■

「さて、今日はどこからにしますか、奥さん?」
 ようやく、今日の『ハラマセ』の開始です。いつものように覚さんはプラスチックの椅子に座った私の後ろに立ち、そっと優しく肩に手を当て尋ねました。
(あぁん……)
 むきだしの素肌に触れる覚さんのむちむちした手の平はとても温かくて、それだけでため息が出そうなくらい気持ち良いのです。本当に何度施術していただいても飽きる事がありません。
 毎回こうして最初に『揉みほぐして欲しい場所』を確認して下さるので、いつもなら迷わず『肩』と答えるのですが、もう、散々『ほぐされ』、すでに体中の火照りと疼きが止められなくなっている私は、勇気を出して初めてこうお願いしました。
「胸と……あ、アソコでお願いします」
 鏡に映った覚さんは、一瞬、驚いた表情を見せました。けれど、ニッコリと笑い、おどけたように一礼してみせます。
「了解いたしました、奥様」
 そして、普段は後半にしか使わないもう一つのプラスチック椅子を持って来て、私のすぐ後ろに腰かけました。
「さ、それじゃ奥さん、リラックスして背中を僕に預けて下さい」
「……はい」
 いつもなら、肩や首や背中をとろけるように優しく揉みほぐされ、うっとりと陶酔している間に、いつのまにか覚さんの腕の中にいるのですが、今日は全く勝手が違います。ドキドキしながら私は上体を後ろに傾け、甘えるように背中を委ねました。
(――あっ)
 胸毛など一本も無い、柔かいクッションのような覚さんの素肌が私を受け止めます。
「はあぁん……」
 むっちりスベスベしたその体に私の背中が密着していきます。ゾクゾクするような素敵な感触に思わずため息を洩らすと、後ろからソッと私の肩に顎を乗せた覚さんが耳元で優しく囁きました。
「さ。奥さん、次は大きく両足を広げてください」
「は、はい」
 言われた通り、大きく足を広げていくと、正面の鏡に映った『私』も、細く赤い首輪以外は一切隠すところのない生まれたままの姿で大股を広げていきます。
(ああ、『私』ったら……あんな格好で。恥ずかしい……恥ずかし過ぎるわ)
 こうして覚さんと二人で一緒に『鏡の向こうの自分』のはしたない姿を覗きこむのはいつまで経って慣れません。このままだと、私は本当に重度の『淫視症』になって【自宅の鏡を見るだけでいやらしい女に変わるようになってしまう】かもしれません。
(でも……)
 不思議です。こうして覚さんに包み込まれるように優しく抱かれていると、それがちっとも怖くありません。
(そうよ。もし、そうなったら、責任感の強い覚さんの事ですもの。きっと、きちんと責任をもって私の『面倒』を見てくれるわ)
 そんな風に自分に言い聞かせる度に、何故か胸が甘くときめくのです。

「ああ、本当に色といい形といい、奥さんのアソコはいつ見ても最高に美しいですね」
 私の耳元で感心しきった口調で覚さんが呟きます。
「い、いやだわ、先生。何回も言ってるでしょ。そんなお世辞言わないでいい、って」
 そう言いながらも、何故かこみ上げる嬉しさで私の胸はトクンと高鳴ります。
(あんなにいやらしい『私』のアソコを……“美しい”って言ってくれるのね?)
「いや、ホントですよ。僕はいつだって心の底から思ってるんです。奥さんは顔も体もアソコも最高だって。ホラ、自分でも見えるでしょう? この可愛らしいピンク色のクリトリス」

 トン。

(あんっ!)
 覚さんの丸々した指先がほんの軽く『私』の肉の茅をつつきました。
 さきほど覚さんの舌と唇で目覚めさせられたソコは過剰なほど敏感になっていて、たったそれだけの刺激で電気が走ったようにビクビクと体全体で反応してしまいます。
「そして、ひっそりと控えめなのにすぐヌルヌルになってヨダレを垂らしてしまう、堪え症のない可愛いラヴィア」

 ちゅぷ。

「はああぁんっ!」
 ほんの浅く小指の先でなぞられただけなのに、もう声が洩れてしまいます。
(イヤイヤイヤ! 覚さんのイジワル! もう、じらさないでっ!)
 いつも優しくて紳士的な覚さんが、今日はなんだか変です。
 でも、こんな風にイジワルされてしまうのも、心の底でちょっぴり嬉しく感じてしまう私は、少しMっ気があるのかもしれません。
 そんな事、あの人と交際していた頃には全く感じなかったのですが――

「こんな美しい奥さんに愛されているご主人が本当に羨ましくて仕方ありませんよ」

 ドキン!

 ちょうど同じタイミングで主人の事を話題にされ、私の心臓は跳ね上がりました。
(ああ、そうだわっ! 私――今、あの人じゃない『誰か』の赤ちゃんを……)
 今の今まですっかり忘れていた、不安と緊張がまた甦りかけます。
(イヤよっ! そんなの、まだ考えたくないっ!)
 今、この瞬間にカラダ全体で感じている悦びを手放したくなくて、私は覚さんとの言葉の戯れに必死ですがりました。
「そ、そうですよ! 私が世界で一番愛してるのは主人なんです! だから、いくらお世辞を言われても――はうぅっ!!」
 いつのまにか伸ばされた覚さんの指先がソッと私の左の乳首を摘んでいました。
 左の方が感じるなんて、覚さんに教えられるまで全く気付かなかったのに、今ではそこは私の立派な弱点の一つです。
(ああ……乳首……触られてる……摘まれてる……オモチャにされちゃう)
 私はいつもより積極的に、自ら進んで快感に身を委ねて行きました。
「ふふ。そんな風にご主人の事をノロけられるとすごく妬けてしまいますね。『いくらお世辞を言われても』――何です、奥さん?」
 優しく穏やかに尋ねる口調とは裏腹に、イタズラでイジワルなその指は――
「あっ! あっ! ああぁんっ!」

 クニュクニュ。ヌプッ。ニュルン。トントン。コリコリ。

 こ憎らしいほどの的確さで覚さんは私の気持ちいい場所を、一番気持ちのいい触り方で攻めてきます。そうです、すでに覚さんの『ハラマセ』は始まっていたのです。
「ず、ズルいぃ……せんせぇ、ふ、不意打ちは、卑怯で……きゃううぅっ!」
 ズン、とカラダの中心を何かが貫きました。
「そうですねぇ。それじゃあ、不意打ちじゃなくて、ちゃんと教えてあげましょう。ほら、僕の中指が奥さんのナカの上の方の気持ちいいトコに当たっているでしょう? 何をされるか分かりますよね、奥さん?」
(え? まさか……)
「そう。その通り」
 鏡の向こうでイタズラっ子の笑みが浮かびます。私は慌てて叫びました。
「ダ、ダメですっ! ねぇ、知ってるでしょ!? 私、ソコをいじられちゃうと……あっ! あああっ!」
「たくさん吹き出して下さいね」
「ダメよ! あっ! イヤイヤッ! いやあああっ!」

 たちまち、ぐちゅぐちゅと淫らな水音がリビングに響きます。
 ソコも、つい最近、覚さんに教えられるまで、全く知らなかった私の『弱点』です。
『潮吹き』や『Gスポット』という言葉の意味を、ビショビショのシーツや叫び過ぎて枯れた喉と引替えにイヤというほど教えこまれた私は『寝室では絶対に禁止です!』と覚さんに入念に釘を刺しました。それ以来、強要される事など無かったのに――

「あっ! あっ! あっ! あああっ!」
 ぴったりとピンポイントで『こすられるとダメになっちゃう秘密の場所』に当てられた覚さんの丸っこい指先が、くにくにくりくりと私をナカから操ります。
「ほら、奥さんのココ、ぷっくり膨らんできましたよ。ほんとに敏感ですねぇ」

(ああ。出ちゃうっ! もうダメ……ダメなの! 出ちゃうのよおぉ!)

「お願い。覚さん、お願いだから、もう……」
「ふふ。なかなか健気に頑張りますね。じゃあ、ごほうびにこちらも……」
「ひっ! ク……クリはダメ! 今触られると、私もう堪えられ――あ! いやいやいやあああああっ!」

 ぴしゅっ!

 たまらない爽快感と共に、あっけなく私の堤防は決壊しました。
「あっ! あっ! あっ! あああっ!」

 ぴしゃっ! ぷしゃっ! ぷっしゃあああああっ!

 覚さんの太めの中指が出し入れされる度に、私の体はこらえようなくもビクビクと痙攣し、盛大なアーチを描いて潮が吹き出していきます。

「いやあああああああああああああああああっ!」

 フローリングの床、鏡、壁――いたるところに恥ずかしい滴が巻き散らされていく様を見せつけられながら、私はただただ身悶え、泣き叫ぶしかありませんでした。

 はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。

「おやおや、床がこんなに大洪水ですよ。どうしましょうね、奥さん?」
 やわやわと私のおっぱいをまさぐりながら、覚さんが尋ねます。
「せ、先生のイジワルぅ。だから、ダメって……あん! 言ったのにぃ……」
 まだ体に残る余韻に小さく痙攣しながら、私は甘えた声で覚さんに抗議します。
「そうですねぇ。じゃあ、奥さんをもう少し我慢強くするために、“これ”ももっと頻繁にメニューに加えましょうね」
「えっ? だ、ダメですっ! お部屋が、また……汚れちゃいます」
「ふむ。それなら、お風呂場でしましょう。どうですか、奥さん?」
 サラリと覚さんが言います。ああ、もぉ! 分かってるくせに!
「だ、だって……お風呂場だと、私、声が……」
 恥ずかしくて、もごもごと口籠る私に、覚さんが笑いかけます。
「ああ。声なら大丈夫。奥さんの口は僕が舌と唇のマッサージで塞いであげますよ」
「舌と唇のマッサージで……塞ぐ?」
「ええ。こんな風にね」
 そういうと、また覚さんは、私のナカに中指をヌルリと差し込みました。
「あ、またっ?! だ、ダメよ……んんんっ!?」
 驚いて声を上げようとした私の唇が覚さんに奪われます。
 覚さんの唇が私の唇を塞ぎ、私の舌と覚さんの舌とが絡め合わされます。
「んっ! ふっ! んんっ! んくっ! んうぅっ!」
 舌と唇のマッサージ――確かにこれはそうです。その通りなのですが――
(ああ。まるで私……)

 鏡に写った『メス奴隷』が、うっとりとした表情でご主人様のキスを貪っています。
 ご主人様のぼってりした唇が優しく『私』の唇をついばみ、肉厚な舌先が『私』の口の中を這い回ります。心の籠ったとても気持ちのいいキス――そうです。ご主人様のキスはいつでも、頭の中がとろけそうになるくらい素敵なのです。こんなに気持ち良くしていただいているのに、さらにキスまでしていただけるなんて。ああ、『私』はこんなに幸せでいいのでしょうか?

 ちゅぷっ。

 糸をひいて覚さんの唇が離れます。
「どうです、奥さん?」
「……えっ? あっ! あっ! ああっ!」
 覚さんの舌と唇のマッサージの心地よさに、また、ぼぉっと陶酔していた私は、クチュクチュと淫らな水音と下腹が痺れるような快感にハッと我に帰りました。
(出ちゃうっ! 出ちゃううぅっ!)
「だ、ダメッ! 私、また――」
「そうですか。まだ、ダメですか。それじゃあ……」
「んっ! んうぅっ!」
 またしても、唇が塞がれます。
(――ひどいわ。私が頷くまで止めないつもりなのね?)

 ぐしゅっ。ぴしゅっ。ぴちゃぴちゃ。

 私のあそこから恥ずかしい音を立て、タラタラと透明な液体が滴り落ちていきます。
「ん、ふっ! んくっ! んうぅ!」
(ああ。こんな……こんなのムリよぉ。私、こんなのに耐えられるハズないわ)

 唇と舌にはとろけるようなマッサージ、『ナカの上の方の弱いトコロ』は見掛けは丸々しているのにとても繊細な動きをする指先でコスり立てられ、優しくおっぱいを揉まれる――私の弱いトコロを知り尽くした覚さんに、こんな風に攻められては耐えられるハズがありません。

(イジワル。イジワル。イジワル。イジワル……)

 ちゅぷっ。

 再び唇が離れた時、私に許された言葉は一つしかありませんでした。
「わ、わかり……ました」
 震えながら涙を浮かべて答える私に、覚さんは優しく微笑みます。
「そう。それじゃ、明日はお風呂場で特訓にしましょうね。しっかりクリを剥き出した後は、そのまま続けて何回も潮を吹いてもらいますよ。いいですね、奥さん?」
「は、い」

 ああ。明日から私はどうなってしまうのでしょう?
 きゅうん、とカラダの奥が疼きます。

「じゃあ、僕は奥さんの『洪水』の跡を片付けますから、ちょっと待って下さいね」
(……えっ?!)
「あ、あのっ! それは私がっ!」
 慌てて立とうとした私を、覚さんが優しく止めます。
「いいえ。これも僕の仕事ですよ。こんな風にさせたのは僕ですしね。それに後半は体力を使いますから、今のうちに奥さんは休んでいて下さい。いいですね?」
「……はい」

 仕方なく私は引き下がります。
 本当は自分の『潮吹き』の後片付けを覚さんにしていただくなんて、恥ずかし過ぎてイヤなのです。それに『休んでいて下さい』と言われても、こんな風にカラダを燃え上がらされてしまったら、休むどころではありません。今すぐ『ハラマセ』て欲しいのに――

(……イジワル)

 私は手際良く雑布で床を拭き始めた覚さんに、うらめしげな目を向けます。
 フローリングの床によつんばいになった覚さんの丸々したお尻がとてもキュートです。身動きする度にフルフルと揺れています。
 むっちりした太腿、タプタプと肉付きのいいウェスト――まるでぬいぐるみのクマのような可愛らしさが全身から溢れています。
 白くすべすべした餅肌とフニフニの柔かいお腹、そして――

(ああ……『マッサージ棒』が、もう、あんなになってる)

 ごくり。

 思わず、唾を呑み込み、ポーッと眺めてしまいます。
(今日は一段とスゴいわ……一体、どうしたのかしら?)

 むっちりした太腿の付け根に、隆々とそびえ立つカタマリ――そう、あれが覚さんの自慢の『マッサージ棒』です。
 正式名称は『Organic Teenage Pole』。そして、その略称は――

(【オ・チン・ポ】)

 きゅうぅんっ!

 ああ。何故なのでしょう? 初めて覚さんにこの言葉を教えていただいた時から、私は少し変なのです。

(別に変な言葉じゃないのよ。普通の英単語なのに……)

 覚さんのように若く優れた『ハラマセ』の技能を持つ天才的なマッサージ師にだけ使用が許されるというこの特殊な『マッサージ棒』は、最先端のバイオテクノロジーを駆使した、いわば『生きたマッサージ機』なのだそうです。
 その性能は本当に素晴らしいもので、クライアントの体調や口腔内や膣内の状態を敏感に感じとって、ダイレクトに覚さんに伝えるだけでなく、施術者の精神状態と密接に連動して形状を変え、クライアントと施術者を効果的に結び付けてくれます。
 私は日々、その驚異的な性能に圧倒され続けています。
 けれど――

「覚さんの……【オチンポ】」

 きゅううううぅん!

(イヤイヤイヤッ! どうしてなのっ!?)
 この『マッサージ棒』の略称を口にしたり、考えたりするだけで、私はなんだか、たまらなく恥ずかしくなってしまうのです。まるで魔法にでもかかったみたいです。
 しかも影響はそれだけではありません。
(ああ。どうしよう……また、あんなに――)
 鏡に写る『私』のアソコがヒクヒク蠢いています。タラリとオンナの蜜を垂らした秘裂は、自分のカラダの一部とは認めたくないほど淫らで物欲しげに見えます。
(そうなのね。やっぱり私……『淫視症』なんだわ)
 悲しいけれど、もう事実を認めないわけにはいきません。
 ごく普通の単語や何でもない光景に異常に興奮し、発情してしまう――ああ、私はどうしてこんな淫らではしたない女になってしまったのでしょう?
(イヤイヤ! お願いよ、覚さん! 早く私を助けてっ!)
 カラダが熱く疼き、止めようもなく小さく震え続けています。
 鏡の中の『私』が、まるで秘密のスイッチを探すように、乳房とアソコに向かってソロソロと手を伸ばしていきます。私は鏡の中の淫らな行為に気付いていながらも、目をつぶり、敢えて『見なかった事』にしてしまいます。

 くちゅり。

(はううぅっ!)
 ああ。今すぐ、『ハラマセ』て欲しいんです! 覚さんのあの立派な【オチンポ】で奥深くまで貫かれたい! 頭の中が真っ白になるくらい激しくこねくり回されて、オンナの悦びに泣き叫びたいのっ!
 そして……私のカラダの一番奥、あの人では絶対に届かない、深くて切ない場所にドクドクとたまらなく熱い――

「おや? 何をしているんですか、奥さん?」

 ハッ!

「……あああっ!」
 私は慌てて両足を閉じました。
 でも、もう手遅れです。秘裂の奥深くまで差し込まれた右手の中指や、情感たっぷりに乳房を揉みしだく左手の淫靡な動きを覚さんにしっかりと見られてしまいました。
(いやあああああっ!)
「いけませんねぇ――奥さん」
 あきれたように覚さんが首を振ります。
「あ、あの……こ、これは、そのっ!」
(ああ。私……私、なんて事を――)
 本当に顔から火が出るような恥ずかしさで、気が遠くなりそうです。
「キチンと『待て』が出来ないようだと、『おしおき』をしないといけないかな?」

(『おしおき』!?)

「イヤッ! イヤイヤイヤ! お願いです、許してっ! 許して下さいっ!」
 以前、一度『おしおき』された時は、裸のままベランダに連れていかれ、まるで聞き分けの無い子供や犬を叱る時のように、何度も平手でお尻を叩かれました。
 マンションの下を通る通行人に見られたり、隣の人に音を聞かれはしないかと、私は心底怯え、必死で声を抑えようとするあまり、お漏らしまでしてしまったのです。
 その後は、いつもよりずっと濡れてしまったアソコにゆるゆると指を出し入れされながら『こんなに濡らしてしまったのは何故です、奥さん?』と、何時間もイかせてもらえないまま弄ばれました。
 その時、自分が夢我夢中で何を叫んだかよく覚えていないのですが、覚さんからは『今度“おしおき”する時は、裸のまま家の外に連れていきますよ』と宣言されてしまったのです。

「イヤイヤ! 『おしおき』はイヤああぁっ!」
 私は小さな子供のように、今にも泣きそうな声で必死に覚さんにすがります。
 首輪をはめた全裸の姿でお尻を叩かれている所を、もし近所の人に見つかったら?
 ――考えるだけでも恐ろしい身の破滅です。

「……ふふ。冗談ですよ」
「えっ!? ひ、ひどいわっ! 覚さんのイジワル!」
 私は思わず『先生』と呼びかけるのを忘れて叫んでしまいました。
 覚さんは私の言葉などサラリと聞き流し、ふっくらした顔にニコニコと楽しげな笑みを浮かべています。
(ホントにヒドイわ! 覚さんたら、もおぉ!)
「そうですか。そんなに待ち切れなかったんですね、奥さん?」
(う……)
 改めて聞かれると、またたまらない恥ずかしさがこみ上げてきます。
 そうです。私が覚さんに隠れて淫らな指遊びをしていたのは事実なのです。
 こんなにも恥ずかしい、発情しきった姿を晒してしまった以上、もはや包み隠さず、素直にお願いするしかありません。
「お……お願いです、覚さん! 私を早く『ハラマセ』て下さいっ!」
 必死にお願いする私をじっと見つめた覚さんは、改まった表情で尋ねました。
「奥さん、今日は何か深刻な悩み事でもあるんじゃありませんか?」
「えっ?!」

 ドキン!

 図星を指され、心臓が跳ね上がります。
「ど、どうして――」
「いえ、特に理由は無いのですが、今日の奥さんはいつもと違って、なんだか無理にマッサージにのめり込もうとしているように感じたものですから」
(やっぱり……分かってしまうものなのね)
 私は覚さんのマッサージ師としての直観に素直に感銘を受けました。
「良かったら話してもらえませんか? それって、さっきおっしゃっていた『相談したい事』ですよね?」
 優しく覚さんが問いかけます。
「え、ええ……」
 ああ。本当はその力強い腕で今すぐ抱きしめて欲しいのです。私の事を優しく包み込んで、何もかも忘れさせて欲しいのに――けれど、こんな風に尋ねられてしまっては、もう言えません。
(覚さんの……イジワル)
「実は――」
 私は奥深いところに感じている疼きを必死に抑えながら、相談を始めました。

「今日の検査で分かったんです。私のお腹に、その……赤ちゃんがいる、って」
「え! 本当ですかっ! 妊娠したんですねっ!? うわあっ! スゴいっ!」
 ああ。キラキラと目を輝かせて、覚さんが喜んでくれます。
 私に赤ちゃんが出来た事を、まるで自分の事のように喜んでくれる、こんな優しい覚さんに、真実を告げるのがイヤでイヤでたまりません。でも――
「待って……違うの」
「えっ? 『違う』って――誤診だったんですか?」
「いいえ。その……」
(ああ、何て思われるのかしら? 神様!)

「夫の子供じゃ……ないんです」

「――え?」
 キョトンとした表情――誤解されないうちに早く説明しなくては、とあせります。
「私、あの人と最後に『した』のはもう三ケ月以上前なんです。それに、その時は確かゴムを付けた記憶があります。なのに、お医者様は『今、約八週間――ニケ月というところですね』って!」
 私は目に涙を浮かべながら、必死で訴えます。
「でも――でも、私、全然身に覚えが無いんです! お願いです、信じて下さいっ! 私、夫以外の人とは絶対に『そんな事』してませんっ!」
「……」
 覚さんはいつもの思慮深い目で私をじっと見つめたまま黙っています。
(ああ。どうしよう? 覚さんに疑われたら、私、もう――)
「お願い、信じてっ! 私、『して』ないのっ! 本当よ! 絶対『して』ないのに、いつのまにか、お腹に赤ちゃんが……」
 もう半分以上、涙声でした。
「落ち着いて下さい、奥さん。僕は信じますよ」
 穏やかな声と包み込むような優しい笑顔――ああ、いつもの覚さんですっ!
「え?! ほ……ホントですか? ホントにっ!?」
「ええ。奥さんがどれだけご主人を愛しているかは、よく理解しているつもりです。だいたい、ご主人が喜ぶようなカラダになるために、こうして毎日真面目にマッサージを受けている奥さんが、そんな『ご主人を裏切るような事』をするはずがないじゃないですか。奥さんの事なら、この二ケ月間、お風呂もベッドもご一緒している僕が一番よく知っていますよ。奥さんは愛する人を裏切るような、そんなふしだらな女性じゃありません!」
 そう言って覚さんが力強く頷きます。
(ああ――そうよ。いつでもこうやって覚さんは私の力になってくれるんだわ!)
 熱いものが胸にこみ上げ、安堵の涙で景色が滲みます。
「ありがとう、覚さんっ!」
 思わず、私は椅子から立ち上がり、覚さんに抱きつきました。
「お……奥さん」
「ありがとう! ありがとう! ありがとう! 私、怖かったの! 覚さんに信じてもらえなかったら、私……私――」
 震えながら、ギュッと抱きつく私の髪を覚さんが優しく撫でてくれます。
 ああ、むっちりと肉付きのいい胸。優しくて、丸々した力強い腕。そして――

(あら……?)

 その時、私は奇妙な事に気付きました。
(どうして『マッサージ棒』が――こんなに?)
 何故なのでしょう? 私をそっと抱きしめ、小さな子供を安心させるように髪を撫でてくれている優しい覚さんの股間で【オチンポ】が、見た事も無いほどガチガチに膨れ上がっています。青筋を立て、先端からうっすらと潤滑液を漏らしています。
【オチンポ】は覚さんの精神状態と密接に関係していますから、普通なら絶対こんな風にはなりません。ここまで膨れ上がったという事は、つまり――

(まさか、興奮しているの? 私の今の話……で?)

 ぞくりっ。

 得体の知れない昏い愉悦が胸に湧き上がります。
(ああ、覚さんたら、こんなに興奮しているのね? 私に赤ちゃんが出来た事で――)
 ぞわぞわと何かが背筋を這い上がって来ます。
 これまで一度も感じた事の無い激しい喜びと期待の入り混じった感情。
(そうよ。私がこんなにしてさしあげたんだわ!)
 誇らしさに胸を熱くした私は、いつの間にかソロソロと手を伸ばし始めていました。
(なら……この【オチンポ】は、私の――)

「よし! それじゃあ、奥さん。検証してみましょう!」
「えっ!?」
 突然、明るく語りかけてきた覚さんに私は飛び上がるほど驚いてしまいました。
「け……検証、ですか?」
「ええ。奥さんに全く身に覚えが無くて、ご主人としか『して』いないなら、さっきおっしゃった『最後にした時』が一番怪しいですよね?」
「え……ええ。でも、それだと時期が合わないんです。それに私、確かゴムを――」
「赤ちゃんの成長なんてそんなに正確には分かりませんよ。ホルモンのバランスのせいで発育が遅れる可能性だって十分あります。それにさっきから二度も『確か』っておっしゃってるのは、三ケ月も前の事で、多少記憶が曖昧なのでしょう?」
「……ええ」
(そうなの、かしら? この子は……あの時に出来た赤ちゃんなの?)
 覚さんの確信に満ちた言葉を聞いているうちに、だんだん希望が湧いてきました。
「だけど――ゴムは……」
 私達夫婦はどちらもそれなりに責任のある仕事を任されているため、子作りは計画的に行おうと普段から避妊には気を配り、必ずゴムを使うようにしていました。
 もっとも、そう言い出したのは【上昇指向の強さが鼻につきはじめたあの人】の方からで、私は別にいつ出来てもいいと思っていたのですが――
「だから、検証するんです。僕がご主人の役をやりますから、三ケ月前のその日の事を二人で再現してみませんか?」
「再現?」
「ええ。その時喋った言葉や、行った行動を一つずつ丁寧になぞってみれば、忘れている事や、見逃していた事実に気付く可能性が高いと思うんです。どうですか?」
「え……ええ」
 キラキラしたつぶらな瞳で提案してくれる覚さんの前で、私が考えていたのは少し別の事でした。
(『再現』……て、一体、どこまでなぞるつもりなのかしら? まさか――)

 ぞくぞくっ!

 瞬間、湧き上がった甘い危うい期待にカラダの奥が疼き、私は無意識に内股をこすり合わせていました。
(ああ。バカね! 私ったら、何を考えているのよ! もぉ!)
 そうです。まさか、『そこまで』するハズがありません。これはあくまで私の記憶を辿るためのお芝居なのです。

(だけど……もし、『どうしても必要な事なんです、奥さん!』って言われたら? そして、ベッドに連れていかれて……覚さんと二人で――)

「一つずつ、丁寧に……なぞる」

 きゅうううんっ!

 ああ。私は『淫視症』です。だから、これは本当は私の考えではないのです。
 きっとあの『鏡の中のインランなメス奴隷』あたりが考えた事に違いありません。
 けれど――

(ごめんなさい……あなた。だけど、判ってちょうだい。私達夫婦にとって、これはとても大切な事なのよ。どうしてもハッキリさせなくてはいけないの。だから――)

「先生。お願い、します」
 鏡の中の『私』が浮かべた小さな微笑みの意味に、気付いた者は誰もいません。
 ――そう、私を除いて。

■■■■

「さ、それじゃ奥さん、ご主人が帰ってきたところから辿ってみましょう。僕はご主人のコートを借りますね。奥さんは――そうだな、これを着てもらえますか?」

 ぱさっ。

(えっ? ……コレっ?!)
 覚さんから渡されたのは私が普段使っているエプロンでした。
「どうしました? それ、奥さんのお気に入りのエプロンですよね? 当日も使っていたんじゃありませんか?」
「え、ええ……」

(裸に――コレを?)

 ああ……なんだか、すごくドキドキします。
 フランスのデザイナーが手掛けたそのエプロンは、あの人からの贈り物で、実用性からというより、可愛らしいデザインが気に入って使っているものでした。ですから、元々、体を覆う面積はあまり広くありません。
(これって、こんなにミニだったのね。それに……やっぱり、胸は半分も隠せないわ)
 試しに鏡を見ながら、体に当ててみたのですが、下はおへそから20cmほどを申し訳程度に覆うだけですし、上は衿元をキュッと絞り込まれたデザインのため、私の大きなおっぱいは半分以上が布地からはみだしてしまいます。
(ああ……どうしよう?)
 私はうっかり鏡を見てしまった事を後悔しました。
 そうです、『淫視症』です。もう、恥ずかしくてたまらなくなっています。
「さ。こちらは準備出来ましたよ。そちらはどうですか、奥さん?」
 覚さんが玄関の方から私に呼びかけます。
 準備と言ってもコートを一枚羽織るだけですから、すぐに終ってしまったようです。
 本当は私も細かい事は気にせず、ただコレを着ればいいだけの話なのですが――
「す、すいません。もう少しだけ待って下さい!」
(……とにかく、着てみなきゃ)
 意を決して、素早くエプロンを身にまとい、背中で紐を結びます。

「!!!!」

 鏡に写った自分の姿を見た瞬間、その想像以上の『いやらしさ』に私はショックで固まってしまいました。
(ああ……どうしよう? どうしよう!?)
 私の目の前で、エプロンから大きなおっぱいをはみ出させた『メス奴隷』が真っ赤に頬を染めています。
 大きな胸のせいで布地はズンと前にせりだし、側面はほぼ丸見えです。
 かろうじて乳首は隠れていますが、桜色の乳輪はしっかりと見えていますし、ツンと突き出した乳首の落とす影がはっきり分かります。
 おまけに――
(やだ。クリちゃんまで……見えちゃう)
 下は超ミニどころか、ほんの少し上体を反らすだけで、ツルリとした割れ目とピンと突き立ったピンク色の真珠が露わになってしまいます。だからと言って、それを隠そうと布地を下に向かって引っ張ると、今度は乳首がピョコンと顔を出します。
(お尻も全部丸見え……ああ、なんていやらしい格好なの――)
 不思議です。たった一枚、布地を身につけただけなのに、裸でいるより遥かに淫らな格好に思えるのです。本当に『淫視症』の影響ときたら、全く予想がつきません。
(私、この姿で――覚さんの前に?!)

 ぞくぞくぞくっ!

 一瞬、全身を電気のようなものが駆け抜け、途端に『鏡の中のメス奴隷』の表情がトロンと妖艶なものに変わりました。
「どうですか、奥さん?」

「はい……今、行きます」

 玄関で待つご主人様に向かってふらふらと歩き始めた『私』の太腿を、ツッと愛液が伝って行きます。

(そうよ。お出迎え、しなきゃ)

「お待たせ……しました」
 私はドキドキと鼓動の高鳴りを感じながら、玄関の覚さんの前に姿を見せました。
 まるで初めてのデートに緊張する少女のように、うつむいて足もとばかりを見つめてしまいます。

「!!」

 覚さんがハッと息を呑んだ気配を感じました。
 ああ、恥ずかしくて顔が上げられません。私の今の姿は覚さんの目に、一体、どんな風に写っているのでしょう?
(どうかしら、覚さん? 私……いやらしい? それとも――)
 そろそろと視線を上げていくと――

(ああっ!!)

 スゴい! 覚さんの【オチンポ】が天を衝かんばかりに隆々と反り返っています!

(私に……反応してくれているのねっ?! 私のこの格好に――こんな恥ずかしい、いやらしい姿に――)

 きゅうううううんっ!

 カラダの奥底から、熱く激しい歓喜の想いが溢れ出してきます。
 見つめられる喜び――ああ、『オンナ』として『メス奴隷』として、なんて誇らしくて、なんて素敵な気分なんでしょう!

(見てっ! 私を見て、覚さん! ああ、嬉しい! あなたが喜んでくれるなら、私、何でもするわ! どんな事だってしてあげたいのっ!)

 急に自信が出てきた私は、顔を上げ、まっすぐに覚さんの顔を見つめます。
 少しどぎまぎした様子で慌てて視線を反らす覚さん――まぁ、どこを見ていたの?
(……ふふ。可愛い)
 また、キュンと胸が疼きます。
(そうね。考えてみたら、覚さん、まだ*校生なんですものね。エッチな事にだって、当然興味あるわよね?)
 いつも落ち着いていて、知的ですごく頼りになるため、ついつい忘れてしまうのですが覚さんはまだ十*歳です。普通なら学生服を着て*校に通っている年頃なのです。
 反らした視線を、チラリとこちらに戻しては、また慌ててそっぽを向く覚さん。
(そう。私みたいなオバさんでも……やっぱり見たいのね? うふふ)
 *校生にとって、八歳も年上の女性はどう見えるのでしょう?
 いつもと違う覚さんのうろたえぶりが、なんだか楽しくて仕方がありません。
 普段の思慮深く落ち着いた様子とも、マッサージの時の仕事モードともまた違う、覚さんの素顔が垣間見られた気がして、とても嬉しくなります。
「髪、おろしますね」
 私はわざと胸を見せつけるように両手を上げ、アップにしていた髪をほどきました。
 すると、思った通り、エプロンがズレて両方のおっぱいがはみ出てしまいます。
「あら……」
 玄関の鏡を見ながら、心持ちゆっくりと胸元を直します。

 ゴクッ。

 覚さんが唾を呑み込む音が聞こえました。
(見えてるかしら? どう、覚さん? 私のおっぱい)
 ああ。私、喜んでます。覚さんの熱い視線が、すごくすごく嬉しいんです。
 露出行為をする人の気持ちが、少しだけ分かったような気がします。

「あの……そ、それじゃ、奥さん。いいですか?」
「はいっ!」
 勢い良く覚さんに向き直ると、フルルンと胸が揺れて弾みます。
 少し困ったような、でも、どことなく嬉しそうな覚さんに私はニッコリ微笑みます。
(そうよ。遠慮しないで、たくさん見て下さいね)
「え……と、その日、ご主人の様子はどうでした? 何かいつもと違うところは?」
 真面目な覚さんは、私のために一所懸命『検証』を続けようとしてくれています。
 私も顔を引き締め直しました。
「はい。あの日、主人は酔っ払って帰って来たんです。珍しく、へべれけでした」
 話し始めるとだんだん思い出してきました。確かにこうやって、あの日起こった事を再現するのは記憶を刺激するのに有効みたいです。
「歩くのもおぼつかない様子でドアを開けるなり、『愛してるよ、静香!』って叫んで……あっ!」
 急に思い出した情景に、私は思わず声を上げてしまいました。
「どうしました?」
 不思議そうに覚さんが尋ねます。
(どうしよう? コレも再現した方がいいのかしら? いいはず……よね?)
「それで、主人は私に抱きついて、その……キスを――」
「!」
 私の思った事が伝わったみたいで、覚さんがハッと息を呑みます。
「……」「……」
 まるで幼いカップル同士のように、私達は少しの間、無言で頬を赤らめ合いました。
(ああ、私――喜んでる)
「奥さん。別に、無理に全てを再現する必要は無いんですよ。おイヤでしたら――」
「い、いいえ! 全然っ! 私、全然イヤじゃないですっ!」
 私は慌てて首を振りました。
「え?」
(あ! ヤダ、これじゃまるで『飢えてるオンナ』みたいじゃない!)
「その……こ、これって、出来るだけ同じ事をした方が効果的ですよね? ねっ?!」
「……ええ、まぁ」
 覚さんが、ふっくらした頬をほんのりピンクに染めたまま頷きます。
「あの。覚さんこそ……おイヤじゃないですか? 私みたいなオバさんと、なんて」
「いいえっ! 何を言うんです! 坂崎さんは全然『オバさん』じゃありませんよっ! 僕が知っている女性の中で一番魅力的で……あ、いや、その――」
(まぁ!)
 口ごもりうろたえる覚さんに、思わず抱きつきたくなってしまいます。
(『僕が知っている女性の中で一番魅力的』――ですって!?)
 ジンと体の芯から、熱いモノがこみあげてきます。
 覚さんは恥ずかしそうに目を反らしたままです。
 そうです。ここは年上の私がキチンとリードしてあげなきゃいけません。
「それじゃあ……ちゃんと『キス』もしていただけますか、『先生』?」
 ああ。なんだか、すごくエッチなセリフです。
「は、はい。ただ――『ちゃんと』出来るかは、正直自信無いです。すいません」
 覚さんがペコリと頭を下げます。
「……え? どうしてですか?」
「その――恥ずかしい話なんですが、僕、まだ……女性と『お付き合い』した事が無いものですから」
(えええっ!?)
 あまりに意外な告白に、私は思わずポカンと口を開けてしまいました。
 こんなに優しくて、細かく気配りが出来て、知的で頼りになって、素晴らしいマッサージの腕を持った覚さんが、まだ『お付き合い』した事が無いだなんて――
「あの。それじゃ、もしかして……まだ?」
「……ハイ。ちゃんと『キス』をした事は――まだ一度も無いです」
 恥ずかしそうに、覚さんが頷きます。ああもぉ、なんて可愛いのかしらっ!
「でも……そしたら、やっぱり、私なんかじゃあ――」
「いいえっ!」
 慌てたように覚さんが叫びます。
「坂崎さんじゃなきゃ、イヤですっ!」
(あっ!)
 ぎゅっと手を握られ、心臓が跳ね上がります。
「あっ! す……すいません! つい、取り乱して――」
 覚さんはすぐに手を放してくれましたが、熱くて力強い男の人の手の感触に、私の鼓動はドキドキ激しくなる一方です。
「本当に――すみません」
 まるで叱られたサーカスのクマのようにシュンとしおれてうつむく覚さんに、私はなんだかたまらなくなってしまいました。
(もぉ! 覚さんたらっ! もぉ!)
「それじゃあ……責任重大ですね、私」
「え?」
「こんな形ですけど、覚さんの――大事なファースト・キスですもの、ね?」
「坂崎……さん」
 覚さんが驚いた顔で私を見つめます。
「ふふ。今は主人の代わりなんですから、ちゃんと『静香』って呼んでくれなきゃ、ダメですよ、覚さん」
「え?」
「ほら、呼んで下さい。練習です」
 私に促され、数度ためらった後、ようやく覚さんは口を開きました。
「……静香、さん」
「ダメダメ! 『さん』は無しです。それに、ちゃんと私の目を見て言って下さい!」
(ああ、私――こんなに、ドキドキしてる)
 覚さんが私をまっすぐ見つめ、恥ずかしそうに、だけど、とても嬉しそうに微笑みながら、私の名前を呼びます。

「……『静香』」

 きゅんっ!

「はい……『あなた』」

 きゅうううううんっ!

 どうしよう? 嬉しくて、なんだか泣いちゃいそうです。
 ついさっきまで、心配で泣きそうだったのが、嘘のようです。
 どうして、今まで気付かなかったんでしょう? ……いいえ、本当は気付いていたのです。けれど、わざと目を反らして、気付かないふりをしてきました。
 ――でも、もうダメ。自分が抑えきれません。

(そうなのね。私、こんなにも覚さんの事を……ああ、悪いオンナだわ)

 年若い少年を誘惑する人妻――まるで低俗な女性週刊誌の見出しのようです。
 けれど、これは本当に『罪』なのでしょうか?
 私達、心と心で惹かれあっているだけなんです。私が覚さんに微笑むと、覚さんが優しく微笑み返してくれる――本当に、ただそれだけですごく幸せなんです。
 誰かを慈しむように愛しく思う――こんな気持ち、すっかり忘れていました。

(『好き』って言っちゃ……ダメよ。それは絶対許されないコトなの)

 カラダの奥に今もくすぶり続けている淫らな『肉の欲求』とはまるで違う、清らかで夢見がちな『少女の心』が切なく疼きます。

「それじゃ……始めますね」
「はい」

 ずいぶん長い間、見つめ合っていた気がします。
 でも、実際はほんの数秒だったのでしょう。
 優しく微笑んだ覚さんが、玄関の入口付近に立ちました。

(私――これから、キスするのね? あなたと)

 すごくドキドキしています。本当はまだ、全然心の準備が出来ていません。
 うろたえる私と、はちきれんばかりの喜びを抑えきれない私、少しでも覚さんを喜ばせたいと願う私――どの私も切なく甘い予感にときめいています。
(そうよ。きっと……大丈夫)
 小さく頷く私を見て、覚さんが『検証』を始めました。

「う~、たらいまぁ~!」

(あらあら……)
 少しコントじみた覚さんの『酔っ払いのマネ』に、一瞬笑いそうになったのですが、私も顔を引き締めて応えます。
「お帰りなさい、あなた」
「しずかあぁ~!」

(……あっ!)

 グッと肩を掴まれ、引き寄せられます。覚さんの顔がグンと接近し、目の前で止まります。
「……」「……」
 私達は思わず、また見つめ合ってしまいました。
 覚さんの優しい目、ふっくらしたピンクの頬、ぽっちゃりと可愛い唇――

(お願い! 早くセリフを言って、覚さん! じゃないと、私……)

 ゴクッ。

 唾を呑み込んだ覚さんが、緊張に掠れた声で私に囁きます。

「……愛してるよ、静香」

 ゾクゾクゾクウウウウッ!

(ああ。ダメよ、覚さん! それじゃダメ! お芝居に聞こえないわ!)

 心の中で叫びながら、私はうっとりと目を閉じ――
 両手を広げて、覚さんを抱きしめ――
 やがて、唇と唇とが――

           ちゅぷっ。

(あああああんっ! キス! 覚さんのキス! 私と覚さんのファーストキスっ!)

 唇が触れあった瞬間、感激と激しい欲情が同時に心を満たし、気付くと私は覚さんの唇の間に舌をねじこませていました。
「ん! んっ! んんっ! んくっ! んふううぅ!」
 貪るようなディープキス――あの人とさえ、こんなに情熱を込めてキスした事はありません。一瞬、驚いた表情の覚さんでしたが、すぐに舌を絡め合わせ、私に応えてくれます。

(ああ、ごめんなさい! 私、こんなにエッチでごめんなさい! 初めてなのに――本当は私がちゃんと教えてあげなきゃいけないのに……)

 触れ合う唇が、絡み合う舌がゾクゾクするような喜びを伝えてきます。
 心の中で謝りながら、私は覚さんとのキスにどんどんのめりこんでいきます。

(好きっ! キス、好きっ! 大好きなのっ! 覚さんっ!)

 不思議です。いつの間に私はこんなにも『キス好き』になっていたのでしょう?
 厳しい躾の両親の元、中学から大学まで一貫の女子校に通っていた私は、覚さん同様、キスはおろか、男性とお付き合いした経験がまるでありませんでした。
 そして、社会に出て始めてのお付き合いの末、プロポーズをお受けした【前戯も後戯もあまりしてくれない淡白すぎるあの人】は、あまりキスが好きではありません。
 ですから、私にはキスをした経験などほとんどないはずなのですが――

(ああ、スゴい……これで『初めて』だなんて信じられない)

『肌が合う』というのはこういう事なのでしょうか? まるで毎日欠かさずキスをし続けてきた息の合った恋人同士のように、私と覚さんの唇と舌はお互いの『キモチ良イ所』をとてもよく心得ているのです。舌先を甘噛みし、濡れた唇を優しく触れ合わせ、ぬるぬると舌を重ね合う――全てが素晴らしく気持ち良くて、全身が疼きます。
 鏡の中でも、『メス奴隷』がまるで飢えた獣のようにご主人様の唇を貪っています。
“ようやく目覚めたの?”とでもいいたげな得意そうな表情で私に笑いかけます。
 全くもう! なんて、いやらしいオンナ! あなたと一緒にしないでっ!
 私には全然経験が無いんです。こんなに素敵な、うっとりするようなキス――

 ちゅぷっ。

 ……だから、覚さんの唇が離れた時、私は耐えがたいほどの喪失感に襲われました。

(いやいやいやっ! もっとキスしたい! やめちゃイヤあああぁ!)

「それで……奥さん。次は?」
 薔薇色に上気した頬の覚さんが、少し潤んだ目で尋ねます。
「え……えと、主人は――」

(もっとするの! たくさんたくさんキスするのっ!)

「主人はそのまま……な、何回も、『愛してるよ、静香』って言って、私にキスしました。ええ……そうだわ。あの人、私に何回も何回もキスしてくれたんです」

(そうよ。私、本当は『そうして欲しかった』の。だから、これは全部が『嘘』ってワケじゃないわ)

 私の小さな嘘に気付いているのでしょうか? 覚さんが優しく微笑みます。
「そうですか。それは……こんな風に?」
 顎の下に丸々した指先を添えられ、クイッと少し上を向かされます。
 潤んだ瞳で覚さんを見つめ、私は『覚さんの言葉』を待ち受けます。

「――愛してるよ、静香」

 ああ……涙が――

「はい、『あなた』」
 ぼやけた視界一杯に、愛しい顔が広がります。
 私は目を閉じ、全てを委ねました。

■■■■

 ちゅっ。ちゅぷっ。ちゅっちゅっ。ちゅぱっ!

「ん、はああぁっ!」

 はぁっ。はぁっ。はぁっ。はあぁっ。はうぅっ。

 もう、何度目でしょう? 息継ぎするように、一旦、唇を放し、荒い息をつく私の耳に、優しく心をとろけさせるような囁きが流し込まれます。

「愛してるよ、静香」

 そして、すぐにまた、貪るような口づけ。

「んっ! んんっ! んううぅ!」
(……ああ、私も! 私も愛してるわっ!)

 先程から、私はフワフワと『天国』に登ったままです。
(気持ちいいっ! 気持ちいいの、覚さん! 素敵よっ!)
 私は大きなぬいぐるみに抱き付くように、ギュッと覚さんの体にしがみつきます。
 どんどん大胆になっていく覚さんは私の全身に指先を這わせ始めています。
 背中を撫でながら、もう片方の手で首の後ろを優しく揉みほぐす。
 素肌のラインをなぞるように脇から腰に手を這わせ、お尻を撫で回す。
 両手の小指を頬に沿わせた後、そおっと耳の中に差し入れてくる。

 ゾクゾクゾクッ!

 まるで自分でも知らないスイッチが次々と押されているようで、私のカラダはどんどんとろけていきます。

(あああ、スゴいぃ……)

 私はもっともっと触れ合いたくて、キスしながら、覚さんの着ているコートを脱がせようとしました。
 覚さんはすぐに気付いてくれて、自分からコートを脱ぎ捨てます。
(今度は……私の番)
 一旦、唇を放した私は手を後ろに回し、蝶結びにしていたエプロンの紐を解きます。
 そして、甘えるような上目使いで、覚さんに向かって、おっぱいを半分以上こぼれさせたエプロンの胸を突き出しました。

(ね。脱がせて……『あなた』)

 今すぐ、この場で抱いて欲しい――本気でそう思いました。
 さすがに私の口から『抱いて』なんて、はしたない事は言えません。でも、二人ともこんなに燃え上がってしまったら、もう、男と女の間に言葉は要らないハズです。

 ――けれど、とてもとても誠実で、真面目過ぎるくらい真面目な覚さんは、ここまで私をトロけさせておきながら、あくまで『検証』を続けようとします。
「……それで奥さん、ご主人はキスの後、何て言ったんですか?」

(ああもぉ、覚さんたらっ! そんなのどうでもいいのにっ!)

 やっぱり、男の子ですね。女の子の気持ちなんかちっとも分かってくれません。
「え……ええ。あの人は『大きな仕事を任されたんだ! 海外赴任だぞ、一緒に行こう!』って、言いました。ほんとに……勝手なんだからっ!」
 その時の気持ちも少し甦った私は、スネた表情で不機嫌に言いました。
「それを聞いて、奥さんはどう思ったんですか?」
「え? 私ですか? 私は……」
(そうね。私、あの時、あの人にものすごく腹が立ったんだわ。そんな大事な事を勝手に一人で決めないで欲しいって。だけど、あれは――)
「……はい。私、その時、こう思いました。“外国に行ったら、もっと寂しくなるかも知れない”って」
「もっと寂しくなる?」
 きょとんと不思議そうな顔の覚さん。

(そうよね、分からないわよね。急にそんな事言われても――)

 今思うと私はただただ不安だったのだと思います。
 幼い頃から、周りの人に『可愛い』とか『美しい』などと言われ続けて育ってきた私なのですが、ほとんど男性とお付き合いする事なく結婚してしまったせいか、心の底では自分の『女性としての魅力』にあまり自信が持てずにいました。
“もっと主人を喜ばせたい、女として深く愛されたい”――そう思えば思うほど、自分が本当にあの人に愛されているのか分からなくなっていたのです。
 元々、かなりの野心家で【目標を目指す間は一心不乱だけれど、いざ手に入ってしまうと振り向きもしなくなる薄情なタイプのあの人】は、新婚の私がベッドでどのように振舞えばいいか分からずにまごついているうちに、興味を失ってしまったようで、互いの忙しさも災いして、いつの間にか肌を合わせる機会がすっかり減っていました。
 もしかすると、この長期海外出張こそ私達の絆を深める絶好の機会だったのかも知れません。けれど、『異国の地で一人孤独に怯える自分』を予感した私は自分の仕事を言い訳にあの人に付いて行く事を拒みました。

「……怖かったんです、生活が変わるのが。だから、言いました。『私にも仕事があるの。一緒には行けないわ』って。そしたらあの人、不機嫌な顔で黙りこんで――」
(そう――あの人、なんだか怖かったわ。その後も……)
「奥さん。ご主人はその後、急に態度が荒々しくなって、奥さんを少しばかり強引に抱こうとしませんでしたか?」
「えっ? ……ええ、よくお分かりですね。その通りです。主人は無言のまま、手荒く私の服を脱がせようとして――」

(あ、待って! 覚さん、コレも……『再現』するつもりなのかしら?)

 ドクン。ドクン。ドクン。

 心臓がまた、大きく音を立て始めました。
(そんな、困るわ……どうしよう?)
 無理矢理なのは、やっぱりイヤです。けれど、ほんの少し――ほんの心の片隅に、『覚さんに荒々しく扱われてみたい』という願望があるのも事実でした。
(困るけど……そうね。もし、覚さんが『どうしても』って言うなら――)
 ちょっぴりの怖さと期待を込めて、私は覚さんの表情を窺います。
 でも、覚さんはいつもと同じ思慮深く優しい目で私をじっと見つめたままです。
「……奥さん」
「は、はいっ!」
 穏やかな声を掛けられたのですが、だいぶ大袈裟に反応してしまいました。
「自分の思い通りにならないメス――それも自分のつがいのメスが、目の前にいる時、オスが本能的にどんな事を考えるか分かりますか?」
「え? つがいのメス? 本能? えと……“殴って言う事をきかせてやろう”とか、ですか?」
 急に聞かれて一応答えましたが、質問の意図がさっぱり分かりません。
「ああ、自分がよく知らないメスやオス相手にはそうかも知れませんね。でも、自分のつがいの相手――『これから一生を共にしようというメス』に対しては、長い目でみると暴力よりももっと効果的な方法があるんですよ」
「暴力より……効果的?」
「ええ。メスがオスに自発的に従わざるを得ない状況――全面的にオスを頼りにせざるを得ない状態にすればいい。それには『妊娠させる』のが一番です」
(あ……)
「ご主人はひどく酔っぱらっていらしたんですよね? きっと自分でも意識せずに『このオンナを妊娠させろ!』という本能の声に従っていたんだと思います」
 なんだか、ストンと納得が行く答えです。
「ええ。確かにあの時の主人はいつもと違っていました。怖いくらい乱暴に私の服を脱がせて、そのままベッドに……だから私、慌てて聞いたんです。『あなた、ゴムは付けなくていいの?』って。それで――」
「奥さん。その時、奥さんはどう思いました?」
「え? 私ですか?」
(私は……どうだったかしら? 少し怖くて――)
「じゃあ、さっきとは逆の質問です。自分の元からつがいのオスが離れようとしている時、メスは本能的に何を考えると思います?」
「逆の……質問?」
「ええ。この『オス』――をこの場に繋ぎとめるにはどうすればいいか?」
(あっ!)
 覚さんが私の手を取り、そそり立つマッサージ棒を握らせます。
(……すごい。ずっしりして、こんな熱い。それになんて堅さなの――)
「この『オス』との繋がり――絆を深めるため、メスはどうすると思います?」
「えと……その――」
 ああ、ダメです。手に感じる『雄々しさ』――たまらない熱さでドクドクと脈打つカタマリに心を奪われた私は、頭にカアッと血が登って何も考えられません。
(覚さんの【オチンポ】……スゴいわ。手がヤケドしちゃいそう)
「奥さん――そんな時、たいていのメスはこう思うんじゃないですか?」
 私の手に丸々した手を添え、熱い【オチンポ】を握らせながら、耳元に口を寄せた覚さんが、優しく囁きます。

「『このオスの子供を産もう』――って」

 ゾクゾクゾクウゥッ!

(あああああああああああっ!)

 瞬間、“何か”が私の心臓を貫きました。それはたちまち私の全身を巡り、カラダの芯を甘く危うく痺れさせていきます。
「どうでした? 奥さんは、ここが……」
 覚さんは手を伸ばすと、エプロンの上から私の下腹部にソッと触れました。
(――あぁんっ!)
 覚さんの手のぬくもりが布地を通して伝わり、優しく触れているだけなのに、そこに全神経が集中します。
「じんわりと、疼きませんでしたか?」
「わ、わたし……私ぃ――」
 頭の中にぼおっと霞がかかったみたいです。覚さんが触れている場所から、カラダの奥深くに向かって、キュウッとたまらない刺激が伝わっていきます。
(ああ、子宮が――疼いてる)
「どうです? ご主人の荒々しさ、オスらしさを、奥さんはどう受け止めました? 怖かったですか? でも、その怖さの奥に何かを感じませんでしたか? 求められ、そして、求めている感覚を?」
 覚さんの囁きが、優しく甘く、私の中に染み込んでいきます。

(どう……だったの、かしら? 私、あの時、何を……)

 ああ。頭が混乱して、考えが全然まとまりません。
 ぐるぐると部屋が回り出したような錯覚さえ感じます。
 そんな私を支えるように、いつのまにか後ろに廻った覚さんが背中から優しく抱き止めてくれました。覚さんのすべすべした素肌と私の剥き出しの背中が触れ合い、ゾクゾクします。
(あぁん――当たってる)
 覚さんに導かれるまま後ろ手に握る向きを変えた【オチンポ】が私のお尻に当たり、手の中でグンと跳ね上がります。
(すごいわ……まるで、ここだけ別の生き物みたい)
 私は陶然としながら、覚さんの抱擁に身を委ねました。
「ほら、あそこの鏡をみて下さい、奥さん」
 覚さんが指さす先にはリビングの大きな鏡があり、そこには優しいご主人様に後ろから抱かれた『メス奴隷』が写っていました。エプロンからおっぱいを半分以上はみ出させ、下半身を露出した『メス奴隷』はトロけそうな顔でうっとり微笑んでいます。
 なんていやらしい格好――そして、ああ、なんて幸せそうな表情なんでしょう。
(愛されているのね、ご主人様に――羨ましいわ)
 妬ましさで胸がチクリと疼きます。
「さ。もうこれは要らないですね」
 そう言うとご主人様は『メス奴隷』の着ているエプロンを優しく脱がせました。

 ふるるん!

 大きなおっぱいが揺れながら姿を現します。ぬめるような素肌をピンク色に上気させた『メス奴隷』は発情しきった様子で、見ているこちらが恥ずかしくなるほどです。
 けれど、そんな『メス奴隷』をご主人様は背後からしっかりと抱きしめます。
 ああ、大きなおっぱいがご主人様の肉付きの良い腕に挟まれ、形を変えていきます。それは優しさと力強さを感じさせる抱擁でした。
(私も……ご主人様にあんな風に愛されたい)

「【あの日、奥さんとご主人もこんな風に裸になり抱き合った】――そうですね?」

「――はい」
 私は朦朧とした頭で、よく分からないまま頷きました。
「奥さん。ご主人はね、言葉に出さないけれど、きっとこう言いたかったんですよ」
 一旦言葉を切ったご主人様は、鏡越しに私/『私』の目を見つめてこう言いました。

「愛してるよ、静香。一緒に赤ちゃん作ろう。僕の子供を産んで欲しいんだ」

 キュウウウウウウウウウウウンッ!

(ああああああっ! 赤ちゃん! ご主人様の……赤ちゃん!)

 カラダの奥底から強烈なうねりが押し寄せ、一瞬のうちに理性が崩れ去りました。

「欲しいっ! 赤ちゃん、欲しいっ! 『私』、赤ちゃん産みたいですっ!」

 鏡に写った『メス奴隷』が心の底から叫びます。
 ああ、嬉しい! ご主人様にそんな風に言っていただけるなんてっ!
 喜びが胸にこみ上げ、少し涙ぐんでしまいます。
『私』とご主人様の赤ちゃん――どんなに可愛い事でしょう!

「思い出したね? 【静香はその時、とてもとても赤ちゃんが欲しくなった】んだ。そうだね?」
「はい! そうですっ!」
「いい子だ。可愛いよ、静香。愛してる」
 そう言ってご主人様は後ろから私の耳にキスします。
 まるで小さな子供にするような優しいキス――ああ、なんて幸せな気分なの。
「でも、静香は慎み深い女性だから、『きちんとゴムをつけましょう』って言ったはずだね?」
「はいっ! 言いました!」
 もちろんです。私達は普段から避妊に気を配っていましたから、あの日も私は慌ててゴムを用意しました。
「でも、【本当はすごく赤ちゃんが欲しいと思ってる】。そうだね?」
「はい。『私』、赤ちゃんが欲しいんです! すごく!」
(ご主人様の赤ちゃん――可愛い赤ちゃん)
 その事を考えるだけで全身が喜びでゾクゾク震えます。
「ご主人は酔っ払っている――自分じゃゴムがつけられないみたいだよ。どうする?」
「はい……私がつけてあげます!」
「その時、静香はどう思った? 【本当はすごく赤ちゃんが欲しいと思ってる静香】はご主人にゴムを付けながら、何を考えたかな?」
「私は――」
 熱い熱いご主人様の【オチンポ】が、私の手の中でヒクヒクと動いています。
(ああ、スゴいわ……早くコレを入れたい。コレで『私』を貫いて欲しい)
「ほおら、コレをうんと深いところまで差し込まれたら、静香はどうなるの? コレが奥の気持ちいいところまで届いて、静香のナカで暴れまわるんだよ」
「わ、『私』……メチャクチャになっちゃいます」
 まるで獣のように大声で叫んだ記憶があります。あまりの気持ち良さに泣き出した事も――ご主人様の【オチンポ】はいつも『私』を『天国』に連れて行くのです。
「そうだね。メチャクチャになった静香は、いつも最後にどうしてもらっていたかな? コレが静香のカラダの一番奥で膨れ上がった時の感じを覚えてるかい?」
「……はい! 覚えてます! 『私』……何度も何度も――」
 そう。私のカラダの奥でご主人様のカリがググッと大きく堅く膨れあがった直後、ビュクビュクと熱いほとばしりを受け止めた素敵な感覚が甦ります。これまで幾度となくご主人様に注いでいただいた愛の証。アレは――
「静香は【ナカにシャセイされるのが大好き】――そうだね?」
「ああああああああっ! 【シャセイ】! 【ナカにシャセイ】! はいっ! 大好きです! たくさんビュクビュクして欲しいのっ! えと……万能細胞活性――」
「【セイエキ】」
(そう、【セイエキ】! ああ――熱いのがドクドク『私』のナカいっぱいに……)
 思い出すだけでカラダの奥底がキュウッと疼きます。
「はい! そうです! 【セイエキ】、いっぱいいっぱい出して欲しいんですっ!」
「でも、【ゴムを付けているとナカにシャセイしてもらえない】ね」
「あ……」
 思わず唖然とするほどの失意と落胆が私を襲います。
(そんな! ひどいっ!)
「どうする? 【ナカにシャセイ】しなくていいのかな?」
 少し笑いを含んだ声でご主人様が『私』に尋ねます。
「いやいやいや! 【シャセイ】して欲しい! ナカに一杯出して欲しいの!」
(ご主人様のイジワル! どうしてそんな事言うの?!)
 また、いつものイジワルです。普段はすごく優しいのに、ご主人様は時々、こんな風にイジワルな質問をして『私』をイジメるのです。
(そんな事言われたら……ますます、欲しくなっちゃう)

「さあ、もう一回質問するよ。【本当はすごく赤ちゃんが欲しいと思ってる】静香はご主人にゴムを付けながら、何を考えたかな? 【ナカにシャセイされるのが大好き】で【ナカでビュクビュク、セイエキを一杯出して欲しい】静香はどうしたらいいと思う? 【酔っ払っていて、自分じゃゴムを付けているかどうかさえよく分からない】ご主人にどうしてあげたら、一番キモチ良くなれるのかな?」

「えと、『私』……『私』は、ゴムを――」
 目をつぶってその場面をイメージしながら、必死で考えます。

 ゴムを付けたままだとご主人様に【ナカにシャセイ】してもらえません。そんなの絶対にイヤです! けれど、主人と私はいつもゴムを使うようにしていましたから、やはり、付けないわけにはいきません。それなら――

「『私』は、ゴムを……少し――」
「【ゆるめに付けた】?」
「は……はい! そうですっ! 『私』、わざとゴムをゆるめに付けましたっ!」
 頭にリアルな情景を思い浮かべながら、私は勢いこんで答えました。
(そうよ。そうすれば、きっと途中で外れてくれるわ。ううん。あの人、酔っ払っているから、私がうまくやれば、気付かれないうちに――)
「……そう。静香はそんなに【ナカにシャセイしてもらいたかった】んだね」
 まるでテストでいい点を取った子供を褒めるように、『私』の頭を撫でながら覚さんが優しく微笑みます。『私』の胸は嬉しさと誇らしさで一杯になりました。
「はいっ!」
「それで、どうなったのかな? ゴムは――」
 続きを聞かれた私は、一所懸命想像しながら答えます。
「えと、ゴムは……はい! 途中で外れちゃいました! でもあの人、酔っ払っているから全然気付かないんですっ! それで……あの人はそのまま――」

「【シャセイ】」

(ああああああああああああっ!)

 ご主人様の囁きで、また『私』のカラダの奥でビュクビュクと【オチンポ】が跳ね回る感覚が甦ります。熱い万能細胞活性液――【セイエキ】がすごい勢いで『私』の中にドクドク吐き出され、膣や子宮を満たして行くあの心地良さ。

「静香は【そのままナカにシャセイしてもらった】――そうだね?」
「はいっ! そうです!」
「ちゃんと覚えているね?」
「はいっ!」

 そうです。あんな素晴らしい事を忘れるはずがありません!

「そう。それじゃ、おさらいするよ? あの日、酔っ払って帰ってきたご主人に抱かれた【本当はすごく赤ちゃんが欲しいと思ってる】静香は、【わざとゴムをゆるめに付けた】んだね?」
「はい、そうです!」
「そしたら、ご主人は【途中でゴムが外れてしまった事に全く気付かない】で【静香のナカにシャセイしてしまった】――そうだね?」
「はい! その通りですっ!」
「後でその事にご主人が気が付いた可能性は有るかな?」
 質問に答えようと、私は終った後の事を必死で思い返しました。
「……いいえ! あの人、終るとすぐそのまま寝てしまったから、その可能性はありません!」
「そう。それじゃあ、【それ以上の事はもう二度と思い出さなくていい】よ。これで真相は明らかになったんだからね」
「はいっ!」
 元気良く頷いた『私』をご主人様が後ろからギュッと抱きしめます。
「ああ、静香! 僕の……静香! やっと妊娠してくれたんだねっ! すごくすごく嬉しいよ。僕達の赤ちゃん――元気で可愛い赤ちゃんを産んでね!」
(ご主人様……)
『私』は振り返り、Yesの返事代わりにご主人様にキスをします。
 優しくて、時々イジワルで、だけど、とっても可愛い私のご主人様。
 静香はご主人様のためなら、何でもしてあげます。ご主人様がお望みなら、何人でも可愛い赤ちゃんを産みます。だから、これからもずっと可愛がってくださいね。

『私』が微笑むとご主人様が微笑み返してくれます。ああ……『私』は幸せです。

■■■■

「さ、それじゃ、ちょっと記憶を整理しようね――【紫の常闇】」

(あ……)

 ご主人様が『私』の耳に何か小さな声で呟くと、不意に目の前がちかちかと瞬き、一瞬、視界の全てが暗くなりました。そして、また急に明るさが戻ります。

「あ、れ? 停……電?」
 私は眩暈を振り払うように二、三度顔を振りました。
「奥さん、大丈夫ですか?」
 覚さんが心配そうな声で私に尋ねます。
「え……ええ、大丈夫です。ちょっと……立ちくらみがしたみたい」
 少し、頭がぼぉっとしています。けれど、気分はそんなに悪くありません。むしろ、心地よい気怠さが全身を包んでいます。

(えと……私、今、何を――)

「どうですか、奥さん。あの日の事を思い出せましたか?」
「あの日……あああっ!」
 私は不意にはっきりと『あの日』の事を思い出しました。
 こんなに大事な事をどうして今まで忘れていたんでしょう!?
「お、思い出しました! そう! あの晩、すごく酔っ払った主人が私を抱こうとしたんです! それで私、慌ててゴムを付けてあげようとしたんですけど、その時……」
 ――と、そこまで話して急に恥ずかしくなった私は言葉を止めました。
(ああ、私ったら――あんな事を……)
 ゴムを手にした自分がためらう様子が鮮明に思い浮かび、頬が紅く染まります。
「その時?」
 覚さんが優しく尋ねます。
(……そうね。私が思い出したのは覚さんがここまで『検証』して下さったお蔭ですものね。恥ずかしくても、きちんと説明しないと)
「私、急にすごく寂しくなったんです。『大きな仕事だっ! 海外赴任だっ!』って主人は意気揚々としているけれど、私一人が置き去りにされるみたいで――おかしいですね。『仕事があるからついて行けない』って言ったのは私の方からなのに」
「不安だったんですね」
 覚さんが深く頷きます。ああ、ちゃんと分かってくださるのねっ!
「はい……それで私、その時、不意に『赤ちゃんが欲しい!』って思ったんです」
「ご主人の赤ちゃんを?」
「ええ。ご主人様の赤ちゃんを」

【愛してるよ、静香。一緒に赤ちゃん作ろう。僕の子供を産んで欲しいんだ】

 子宮が疼き、全身が痺れるようなあの喜びの言葉――まるで、つい先程の事のように鮮やかな幸福感が胸に甦ります。
「だから、私、ゴムを……わざとゆるめにつけました。そしたら、案の定、途中で外れてしまって――だけど、あの人その事に全然気付かないで、そのまま中に……」
 恥ずかしさに頬を赤らめながら、私は説明を終えました。
(そうよ。凄かったわ――ご主人様の【シャセイ】)
 熱いほとばしりをビュクビュクとカラダの奥に流し込まれたあの悦びを思い出し、私は小さく身震いしました。あんなに素敵な『愛の証』を忘れてしまうなんて、本当にどうかしていたみたいです。

「奥さん。そうすると……お腹の赤ちゃんは?」
「はいっ! まぎれもなく、私のご主人様の赤ちゃんですっ!」
 私はありったけの安堵と喜びの思いを込めて頷きました。
 きっとご主人様もすごく喜んで下さる事でしょう!

【ああ、静香! 僕の……静香! やっと妊娠してくれたんだねっ!】

 今からその姿が目に浮かぶようです。

「やっぱりそうでしたか。良かったですね、疑いが晴れて」
 覚さんが私に笑いかけます。
「はいっ! 本当にありがとうございますっ! 全部、覚さんのお蔭です! もし、私一人だったら、一体どうなっていたか……」
「いえいえ。僕はほんの少しお手伝いしただけですよ。坂崎さんは全てご自分で考え、ご自分の力だけで結論を導き出されたんです。結局、一番信頼出来る答えを出せるのは、いつだって『自分自身』ですからね」
 あくまで謙虚な覚さんはニコニコしながらそんな事を言います。
(もぉ、覚さんたら、ホントに欲が無いんだから!)
 確かに、今冷静に振り返ってみれば『ちょっとした思い違い』で済んだ話なのですが、やはり、的確に私をリードしてくれた覚さんがいなければ、こんなに簡単に解決はしなかったでしょう。ポイントを押さえたアドバイスと分析力、そして――

(私ったら、ちょっと……ううん、かなり楽しんでいたわ)

 そう。ほんの短い間ですが、私と覚さんはまるで本当の恋人同士のようでした。
 見つめあった瞬間のときめき。情熱的なキスと今も耳に残る甘い囁き――二人きりの濃密な戯れ。
 思い返すと急に寂しさがこみ上げて来ます。
(私、また『坂崎さん』に戻ってしまったのね……)

 ずきんっ!

 なんだかひどく胸が痛みます。
 あれは私が『あの日の記憶』を取り戻すためのただのお芝居――そのはずなんです。
『あの日の記憶』を取り戻した私は、その代わり、ついさっきまでの『甘やかな思い』を捨て去らなくてはなりません。

(――そうよ。それでいいの。だって私、あの人の……妻なんですもの)

 大きな心配事が片付き、すっかり晴れやかな気分になっていいはずなのに、なんだか私の心はどんどん暗く重苦しく、悲しみにうち沈んで行きます。

【僕が知っている女性の中で一番魅力的で……あ、いや、その――】
【僕、まだ……女性と『お付き合い』した事が無いものですから】
【坂崎さんじゃなきゃ、イヤですっ!】

 胸を疼かせた覚さんの言葉の一つ一つが、今となっては私を苦しめます。

(ねぇ。あれは全部、ただのお芝居……嘘だったの? あんなに素敵なキスも――)

 心と心が触れ合い、涙ぐむほど幸せだったあの瞬間も幻なのでしょうか?
 もう二度とあんな風に愛しさをこめて微笑みかけてはもらえないのでしょうか?

(いやいやいやっ! そんなの……いやっ!!)

 不意に胸にこみ上げた激情に押され、私は深く考えもせず口を開きました。
「あ、あの……覚さんっ!」
「はい?」
 優しく包み込むような微笑みを返す覚さんに、私は一瞬躊躇します。

(――ああ。私ったら……一体、何を言うつもり?)

 胸の奥に妖しく揺らめく想いの罪深さに、私は震え慄きました。
 でも、もう止められません。そうです、とっくの昔に私は――

「その……私、覚さんの事をすごく尊敬してるんです。毎日、素敵なマッサージをしていただいて、いつもいつも私の事、助けていただいて……」
「いや。別に僕は――」
「いいえっ!」
 いつものように穏やかに謙遜しようとする覚さんを、私は敢えて強く遮ります。
「覚さんじゃなきゃ、私、毎日こんなに幸せじゃありませんっ! 本当に感謝してるんです! それに……私達、もうニケ月以上もこうして一緒に暮らしてますよね? お風呂もベッドも一緒で――もう、家族同然ですよね? だから……だから――」

 ああ。こんな事を言って、覚さんになんて思われるでしょう?
『はしたなく恥ずかしい女』と軽蔑されないでしょうか?
(どうしよう? 覚さんに嫌われたら、私……)
 まるで初めて告白する少女のように私の心は大きく揺れ動きます。
 でも、つい先程まで二人の間に満ちていた、あの優しく穏やかな想いを信じて、私は勇気を振り絞って言葉を続けました。

「私の事、『坂崎さん』じゃなくて、名前で――『静香』って呼んでくれませんか?」

「……えっ? でも、それは――」
 つぶらな瞳を丸くして、覚さんが絶句します。
「いいんです! 私がそう呼んで欲しいのっ! お願い! せめて……二人きりの時は、そう呼んでいただけませんか?」
 少し驚いた顔だった覚さんが、徐々にいつもの思慮深く穏やかな表情に変わっていきます。
「――いいんですね? 坂……静香さん」
「『静香』! もう敬語を使うのもやめて下さい! よそよそしくてイヤなの!」
「……」
(お願いよ! 覚さん! さっきみたいに私の名前を呼んでっ!)
 祈りにも似た切ない気持ちで見つめる私に、少し考えこむ様子を見せた覚さんは、やがて、にっこり微笑んで言いました。
「そう。それじゃあ……ねぇ、静香。僕からも一つ提案していいかな?」
「は、はいっ!」
 ああ、何を言われるのかしら? ドキドキと胸が高鳴ります。
「静香が僕のマッサージを受けているのは『ご主人のため』だよね?」
「……え、ええ」
 急に尋ねられると、少し、疑問に感じてしまいます。
(本当にそうなのかしら? 今の私は――)
「『少しでもご主人を喜ばせるカラダになりたい。深く愛されたい』――でも、そう簡単にカラダの反応は変わるものじゃないから、こうして毎日きちんとマッサージを受けて『オンナとしての悦び』を徐々にカラダに教えこませているんだよね?」
「ええ……」
 それは嘘ではありません。少なくとも一番最初はそのつもりだったはずです。
「でもね、それだけじゃ不十分だと思うんだ。【ご主人様に喜ばれるようになるには、常日頃からご主人様と接して、互いにより深く愛し愛されなくちゃいけない】よね?」

 ドキンッ!

「は……はい」
 ああ。何故なのでしょう? ごく当り前の事を言われただけなのに、心臓が大きく音を立てました。甘く危うい予感に、鼓動がどんどん早くなっていきます。
「それには、やっぱりコミュニケーションの積み重ねが一番大切だよね? でも残念ながら、ご主人は静香の所に当分帰って来ないから、そこだけは全然練習出来ない」
「……ええ」
「だから、ね。もし……もしも、静香がイヤじゃなかったらの話、なんだけど――」
 何故か急にためらいがちな口調になった覚さんは、一旦言葉を切った後、オズオズと私の顔色を窺いながら続けます。
「僕が、その……ご主人の役をやるから、静香はそれに合わせて――みない?」
「えっ!?」
(それって……それって――まさかっ!?)
 身震いする程の激しい期待と興奮が私を包みます。
「あの……それって、さっきみたいに、ですか?」
「う、うん。あんな感じ。あのお芝居を……その、普段からする、ってどうかな?」

 ああ! 覚さんたら、顔を赤くして私から目を反らしています!
 さっきの覚さんです! 少し自信無さげでちょっと不器用で可愛くて――だけど私の事を『一人の女性』として扱ってくれる素敵な男の子。

(私……今、『素顔の覚さん』に会っているんだわっ!)

 きゅううううううううんっ!

 ええ、そうです! 今なら分かります! 覚さんも私と同じ気持ちだったのです!
 私達は二人とも、あの魔法のような一刻をとてもとても大切に感じていたのです!
 けれど、そんな風に思う自分に怯え、どうしていいか分からず、不安と切なさに揺れていたのです!

(覚さん! 覚さん! 覚さん!)

『抱きしめたい』と『笑い出したい』と『嬉し泣きしたい』が一度にこみ上げた私は、結局、少し澄ました声でこう尋ねました。
「それって――主人のため、なんですよね?」
「う、うん。そうだよ。やっぱり、普段から練習しとかないといけないと思うんだ。その……僕じゃ、静香の相手として不満かも知れないけど――」
 足元を見つめてもじもじする覚さん。

(ああ、もう! どうしてそんなに可愛いのっ!?)

「やっぱり……イヤ、かな?」
 自信無さそうに小さな声で呟く覚さん――ふふ。いつもの冷静で頼りになるあなたは一体どこに行っちゃったのかしら?

「――ねぇ、覚さん?」
「は、はいっ?」
 ビクン!と跳ね上がるように覚さんが反応します。
「覚さん自身はどうなのかしら? 正直な話、私みたいなオバサンが奥さん役じゃ、不満でしょう?」
「な、何言ってるんだよっ! さっきも言ったじゃないか! 僕にとって静香は……その……なんて言うか、世界で一番綺麗で、可愛くて……」

(アハッ! そう言ってくれると思ってたのっ!)

 もごもごと口ごもる覚さんに、たまらなくなった私は笑顔で飛びつきました。
「わわわっ! し……静香!?」
 驚く覚さんをギュッと抱きしめると、耳元に精一杯の気持ちを込めて囁きます。

「ふつつか者ですけれど――どうか、よろしくお願いします」

「……え?」
 そして、ゆっくり顔を起こすと覚さんと見つめ合います。
 澄んだ瞳。優しい眉。赤ちゃんみたいにふっくらと柔かな頬――

(ああ、好きよっ! 好き好き好き好き! 大好きなの、覚さん!)

 愛しい愛しいご主人様に、私はうんと甘えた声でおねだりします。
「これからも……末永く可愛がってくださいね、『あなた』」
「あ……ああ!」
 まぶしい少年の笑顔で覚さんが頷きます。

「愛してるよ、静香! 好きだ! 大好きなんだ! ずっとずっと君が……」
「私もよっ! 好きなのっ! 『あなた』を……愛してるのっ!」

 ――んっ。

 私達はごく自然に唇を寄せ合いました。
 全ては演技なんです。何もかも【今では顔もよく思い出せないあの人】のためです。
 だけど――ああ、なんて素敵な『お芝居』なんでしょう!

「んっ! んく! んうぅ! んふうぅ!」

 さっきよりは少し余裕をもって――だけど、その分、思い入れたっぷりにお互いの唇を貪ります。

(いいこと? これはただのお芝居なの。でも、出来るだけ『本当に近い気持ち』を込めなきゃいけないんだわ――そうでしょ、覚さん?)

「大好きよっ! 愛してるわ、『あなた』!」
 覚さんの腕に抱かれ、覚さんの目を見つめながら、私は心の底から叫びます。
『アイシテル』――ああ、なんて素敵な響き。
 リビングの大きな鏡には生まれたままの姿で抱き合う私達が映し出されています。
 むっちりとした餅肌でつぶらな瞳の少年と私――ご主人様と『メス奴隷』――そして、互いに深く愛し合い求め合う『夫』と『妻』。
 清らかで淫らで、恥ずかしくて嬉しくて――私達二人の全てがそこにありました。
(いいのね? 私、『あなた』を愛していいのねっ!?)
 激しい喜びと期待にゾクゾクと背筋が震えます。
 たとえお芝居でも、今この瞬間、覚さんは私の大切なご主人様です。
【互いにより深く愛し愛されなくちゃいけない】のです。
 だから、私が『ご主人様にして差し上げたい事』を覚さんにするのは、とても正しい事です。ご主人様に喜んでいただけるなら、私はどんな恥ずかしい事でも、どんなにいやらしい事でもしていいのです。

(だって私……『あなた』の『妻』なんですもの!)

「ねぇ、『あなた』。私も『あなた』にマッサージをしてあげたいの。いいかしら?」
「ん? ああ……でも、これって意外と力が要る仕事だから、無理しなくていいよ」
(んもう! ニブいんだからっ!)
「じゃあ、『唇と舌のマッサージ』させて! それなら、力は要らないでしょう?」
「え? 唇と舌……?」
 ハッとした表情の覚さんに、私はチロリと舌なめずりして微笑みます。
(ええ、そうよ。私にもさせて欲しいの)
「そう……か」
 覚さんがとても嬉しそうに、だけど、ちょっと恥ずかしそうな表情で私に微笑みを返します。
「それじゃ、せっかくだから静香にお願……んんっ?!」
 最後まで言わせず、私は素早く覚さんの唇を奪います。

(これは『マッサージ』なのっ! 唇と舌でする『マッサージ』なのよ!)

 ああ、私は一体誰に言い訳しているのでしょう? なんだか、もう、どうでもよくなってきました。
 舌先をチロチロとご主人様の唇に這わせるだけで、恍惚とした気分になります。

(――隅から隅まで、全身を舐め回してあげたい)

「くっ……し、静香、それ――ああぁっ!」
(ふふ。気持ち良い?)
 覚さんの可愛らしいピンク色の乳首を舌先で弄び、ポッチリと堅く尖らせた私は、小さなボタンのようになったソコをいきなり激しくベロベロと舐め回します。
「あっ! ああっ! あうぅ!」
(可愛い声。敏感なのね、覚さん。たくさんたくさん感じさせてあげたくなっちゃう)
 覚さんの洩らす生々しい声に、自分がどんどん発情していくのが分かります。
「とっても美味しいわ、『あなた』。ほら、ココも……ココも……」
 チュッ、チュッと小さな音を立て、私は覚さんのむっちりした白い肌にキスマークを付けて回ります。なんて淫らで、そして……なんて楽しいんでしょう!
 自分からこんなに積極的にいやらしい事をするようになるなんて、なんだか嘘みたいです。あの人が相手では絶対に考えられない事です。

(ああ。私――狂ってるわ)

 *校生の少年と一緒に裸になり、そのカラダを思うままに弄ぶ――そう、心の奥底では、自分が今どれほど淫らで異常な事をしているのか理解しています。
 けれど、今の私は覚さんに対して自分がこんなにも『いやらしいオンナ』として振舞える事、それ自体に深い悦びを感じてしまうのです。
 もう『淫視症』など関係ありません。私、坂崎静香はただただご主人様を全身全霊で愛したいだけなのです。

「気持ちいいトコ、いっぱい教えてくださいね、『あなた』」
 ぬめぬめと光る唾液の後を残しながら、私は覚さんのすべすべで滑らかな肌の上に淫らな舌先をゆっくりと這わせて行きます。
「静香……ソコ、気持ち……いい。あっ! ああっ!」
 丸々した首筋から、肉付きのいい肩を通って、ふにふに柔かい胸元とピンク色の可憐な乳首を存分に味わった後は、柔かいお肉に包まれたウェストに軽く歯を立てて、むちむちした歯応えを楽しみます。
(――ふふ。美味しそうな、お・ニ・ク)
 きっと、『食べちゃいたいくらい可愛い』ってこういう事を言うんですね。
 腰からおヘソへ、さらに徐々に徐々に下へ――一番美味しい部分、楽しい事を最後に取っておくのは私の昔からの癖です。

「ああぁ……スゴぉい」
 思わず熱いため息が洩れます。
 膝を突くと、ちょうど目の前に悠然とそびえたつモノがあります。
(ガチガチにみなぎってるわ――こんなの見た事無い)
 まるで神様への捧げ物のように恭しく両手を添え、私は覚さんの大きくて堅くて、たまらなく熱い【オチンポ】に頬をすり寄せました。
(素敵よ、『あなた』。私……どうにかなっちゃいそう)
 そして潤んだ瞳で覚さんを見上げ、甘えた声でおねだりします。
「ねぇ、『あなた』。【オチンポ】にも……舌と唇のマッサージしていいかしら?」
「ふふ。僕が『ダメだよ』って言ったら、静香はどうするの?」
 そう言って笑いながら、覚さんは私の頬にヒタヒタと軽く【オチンポ】を当てます。
「んもぉ……イジワルぅ。いいわ、そしたら私――」
 私は【オチンポ】を両手で優しく掴むと、顔を前に突き出し唇を近付けます。
「『キス』――しちゃうもの」

 ちゅっ。

 私は覚さんの雄々しい『マッサージ棒』の先端に優しく唇を触れさせ、心を込めた『キス』をします。
「……あっ!」
 ビクン、と覚さんが体を強張らせます。
(ふふ。やっぱりココも敏感なのね、覚さん)

 ぬるるんっ!

 ゆっくりと首を前に突き出すと、大きくて堅いカタマリが私の唇を割り裂き、口の中に潜り込んできます。【オチンポ】とのディープキスです。
「ああああっ! し、静香っ!」
 ビクビクと覚さんが全身のお肉を震わせます。
(感じて、覚さん! たくさんたくさん気持ち良くしてあげたいのっ!)
 そうです。毎日、素敵なマッサージで『天国』に連れて行っていただいている私が、心の底で唯一物足りなく感じていたのは、自分が感じている気持ち良さや幸福感を少しもお返し出来ない事でした。
 もちろん、施術者の方を信頼して全てを委ねるのはクライアントとして正しい態度なのですが、日々、身も心もとろけるような素敵な悦びを味あわせていただくうち、いつしか私は自分が感じている快感を少しでも覚さんとわかち合いたいと願うようになっていたのです。
「あっ! そこ……い、いいっ! あああっ!」
 可愛い声をあげながら、覚さんがビクビクと敏感に反応します。
(ああ、嬉しい! 気持ちいいのね、『あなた』。私、こんなに幸せよっ!)
「ん! ふっ! んうっ!」
 私は精一杯の気持ちを込めて覚さんの【オチンポ】に舌を絡めます。
「――静香。き、気持ちいいよ。ああっ! う、嬉しいよ……最高だよっ!」
 覚さんが優しく私の髪を撫でてくれます。私はたまらなく嬉しくなって、喉の奥まで深々と覚さんの【オチンポ】を迎え入れます。

 ジュボ! ジュプ! ジュボジュブッ!

 チラリと横目でリビングの鏡を見ると、こちらと同じように、ご主人様の前に膝を突いた『メス奴隷』がうっとりと幸せそうに【オチンポ】をくわえています。
 淫らでいやらしいその姿を、とても『美しい』と感じてしまうのは、鏡に写る二人が、共に愛しあい慈しみあっているのが自然と伝わるせいでしょう。
(そう……あなたも幸せなのね。良かったわ)
 もう、『鏡の中の世界』を羨ましがる必要などありません。
 私は私自身の最愛のご主人様と【互いにより深く愛し愛され】ていけばいいのです。
 それにしても――ああ、なんて熱くてたくましい【オチンポ】なんでしょう!
 ただ口に含み舌を這わせているだけなのに、まるで脳にそのまま刺激を送り込まれているように、激しく感じてしまいます。
 今口の中に感じている堅さ、大きさ、熱さ――全てがカラダの芯を疼かせるのです。
(コレよ……コレなんだわ。この形――“コレ”が私を狂わせるの!)

 くちゅり。

(あああんっ!)
 右手の中指が自分でも知らない間に秘裂に潜りこみ、私はまた淫らな一人遊びを始めてしまいました。
(ああ。早く、コレで貫かれたい。私をメチャクチャにして欲しい……)
 今すぐ貫いて欲しいのに、いつまでもこうしてしゃぶり続けていたい――不思議な矛盾した気持ちで胸が一杯です。

「……ん?」
 目聡く私の動きに気付いた覚さんが、私の頬にソッと手を当てて微笑みます。
「ふふ。いけないなぁ、静香。隠れてそんな悪い事してるコには『おしおき』だよ」
 見上げた目と目が合い、私は【オチンポ】をくわえたままコクリと頷きます。
「――えっ!? い、いいのかいっ!? 『おしおき』だよ? このまま家の外に連れて行くよ? 裸のまま、外でお尻を叩かれるんだよ?」
 少し慌てた様子で覚さんが確認します。でも、もう私の気持ちは揺るぎません。
(ええ、いいわ――スキにして。『あなた』がそうしたいなら、私……)
 切なく潤んだ目で愛するご主人様を見上げた私は、また小さく頷くと一層気持ちを込めて【オチンポ】に舌を這わせます。
(ああ――欲しい。コレが欲しいの。もう、どうなってもいいわ。家の中でも外でも、他の人の目の前でも構わない。どこでもいいから、早くコレで私を貫いてっ!)
「――静香」
 微笑んだ覚さんが優しく私の髪を撫でます。
「そうか……ごめんね。もう、待ちきれないんだね? コレが欲しいの?」
 コクリと頷く私。
「そう。それじゃあ――“奥さん”」
 不意にいつもの仕事モードに切り変わった覚さんが丁重に私に尋ねます。
「ご指示をどうぞ。僕にどうして欲しいですか?」
 私は激しい欲情に掠れた声でお願いします。
「こ、コレで……この堅くて熱い【オチンポ】で私をメチャクチャにして下さいっ!
 お願い早く! 早く、私を『ハラマセ』て“先生”っ!」
「了解致しました」
 ニッコリ笑った覚さんが、胸に手を当てて一礼します。

■■■■

 シャリン。シャラシャラ。シャリン。

(あぁん……いやあぁん)
 四つんばいの私が寝室の入口で身をくねらせる度に、首輪に付けられた細い鎖がフローリングの床とこすれて小さな音を立てます。
「準備はいいですか、奥さん?」
「は……はい!」
 首輪に鎖を付けた後、しばし無言で優しく私の背中やお尻を撫でていた覚さんは、立ち上がって鎖の端をしっかり握ると、ペチンと優しく私のお尻を叩きます。
(ああ。ようやく……)
 始まりの合図――いよいよ、待ちに待った『ハラマセ』の後半のスタートです。
 私はいつものように四つんばいのまま寝室の中央に向かいます。
 何度施術していただいても、この瞬間は緊張します。覚さんが『ハラマセ』の記録のため、毎回、ビデオで撮影しているからです。今こうしている瞬間も、ベッドの脇に設置されたビデオカメラが刻一刻と私達二人の姿を記録し続けています。
 いい加減な気持ちで臨んでいると、すぐ覚さんに分かってしまいますから、気持ちを引き締め、一歩一歩しっかりと歩を進めます。
「そう……いいですよ、その調子。豹のように腰をしなやかにくねらせて下さい」
 私の横で鎖を握る覚さんが小さな声で指示します。
 最初の頃はまるでコツが掴めなかったこの『雌豹の歩法』にも、ずいぶん慣れてきました。裸のまま四つんばいで腰をくねらせて歩くこの特殊な歩法は確かにいい全身運動で、これから『ハラマセ』ていただくためのストレッチにもなっているようです。
 ただ、何故、私の首輪に鎖を付けて、覚さんが一緒に歩く必要があるのかは未だに良く分かりません。覚さんによると『ある種の心理的効果です』との事で、確かにこうして横に付き添っていただくと気分が落ち着くので、理屈は構わないのですが――
(これって、お散歩みたいよね……ワンちゃんの)
 恥ずかしくて口にした事はありませんが、手綱を握った覚さんにまるでメス犬のように導いていただいているのかと思うと、なんだか胸がキュンと疼きます。
 斜め上を見上げると、私の視線に気付いた覚さんがニッコリ微笑んでくれます。
(ああ。ご主人様と……【お散歩】)
 まるで尻尾を振って喜ぶ犬のようにお尻をくねらせながら私も微笑みを返します。
「さ、奥さん。こちらのカメラもスタートしていますから、いつものように自己紹介からお願いします」
「……はい」
 寝室の中央まで『雌豹の歩法』で進んだ私はそこで向きを変え、ベッドの脇の大きな鏡のすぐ横に設置された二台目のビデオカメラに向かって四つんばいのまま自己紹介を始めます。

「坂崎静香、二十*歳です。昨年結婚しました。夫は今、海外に長期単身赴任中です」

 この自己紹介も始めのうちは何を言っていいのかまるで分からず、まごついたのですが、毎日同じ事を繰り返すうちにどんどんスムーズに喋れるようになってきました。
(ああ……なんて、いやらしい顔、いやらしいカラダ。――素敵よ)
 鏡の向こうの『メス奴隷』が、首輪以外は何も身に付けない生まれたままの姿で誇らしげに微笑んでいます。私も負けずに微笑みを返しながら、少し上体を上げ、両腕の間に挟んだ胸の谷間をカメラに強調してみせます。
 覚さんに『とても綺麗だ』と誉められたポーズです。
 仕事熱心でアフターケアも万全の覚さんは、こうしてビデオに残した『ハラマセ』の記録を私と一緒に見ながら、週に二、三回の割合で反省会を行ってくれます。
 どこをどう攻められた時に一番感じたか、どんな触り方をして欲しかったか――とても熱心に復習しているお蔭で、今の私はほんの三ケ月程前の主人が赴任した頃に比べて格段に感度が増し、オンナとしての成熟度が上がった事を、日々実感しています。
 そう。私の『カラダで感じる悦び』は、全て覚さんに開発していただいたものなのです。肌を合わせている時間の合計は、もうとっくにあの人を越えているでしょう。

「素敵ですよ、奥さん」
「え? あ、あの、先生……何を? あっ! いやあぁんっ!」
 何故でしょう? いつもは私がキチンと自己紹介を終えるまで、傍らにじっと控えている覚さんが、サワサワと私の背中にいたずらな指先を這わせ始めました。
「さぁ、続けて下さい、奥さん」
(ダメよ、覚さん! ちゃんと記録しないと比較にならないって――あああっ!)
 覚さんは四つんばいの私に後ろから手を伸ばして、両方の乳首をソッと優しく摘むと、コリコリクニクニと弄び始めます。
「あっ……あんっ! いけません! ダ、ダメえぇっ!」
 すっかりトロけきっている私のカラダは、それだけでビクビクと震えてしまいます。
「ふふ。ちゃんと自己紹介が終らないと、いつまで経っても次に進みませんよ」
「い、イジワル! イジワルうぅ! あぁんっ! ダメよぉ、おっぱい弱いのぉ……」
 抗議の声も知らないうちに甘く潤んでしまいます。
「ほらほら、続けて」
 ああ、全然聞き入れてもらえません。ほんとにイジメっ子なんだから!
「わ……私は、オンナとし……ての、あぅ! 悦びを、教えていただく……ため、にこうして……せ、先生に……『ハラマセ』ていただ……きゃああっ!」
 背後から敏感な首筋をゾロリと舐め上げられ、悲鳴のような声を上げてしまいます。
(あん! 当たってる……当たってるわ)
 のしかかるように背後から攻められているためか、熱くてゴツゴツした『何か』が私のお尻の割れ目に当たっています。
(もうちょっとなの……あと、ほんのちょっとで――)
 私は少しお尻を持ち上げ、ちょうど『オンナの中心』に“ソレ”が当たるよう調節するのですが――

 ヌルンッ!

「あ、イヤイヤ! 逃げないでっ!」
「ふふ。まだですよ」
「もおっ! イジワル! 先生のイジワル! 早くちょうだい!」
「ちゃんと口に出して指示しなくちゃダメですよ、奥さん。僕に何をどうして欲しいんですか?」
「ううぅ……」
 ヒドいわ。覚さんたら、ここまで来て、まだ私をイジメて楽しむつもりなんです。
 覚さんのイタズラな指先が私の全身をまさぐり続けています。
 ココロもカラダもこれだけ燃え上がらされてしまっては、全身が性感帯になったも同然です。覚さんが私の背筋に沿って優しく指を這わせるだけでゾクゾクと震えが止まらなくなります。
「あっ! やっ! やああっ!」
「ふふ。とても可愛い声ですねぇ、奥さん。素敵ですよ。もっともっと哭かせてあげたくなりますね」
 もぉ、本当にヒドい人なんだから! きっと、私が口に出さなければ、いつまでもこうして発情させたまま放ってつもりなんです。
(後で覚えてらっしゃい!)
「お、【オチンポ】……あっ! く……くださいっ!」
「どこにですか? 背中かな?」

 ぬるるん。

(……あぁっ!)
 潤滑液で濡れた【オチンポ】が私の背中を滑ります。
「ち、違う! 違いますっ! 私の……その、アソコに――」
 さすがに恥ずかしすぎて、とっさに『その単語』は口に出せません。
「ふむ。『アソコ』ってどこですか? 口に出して言えないような場所なんですね?
 奥さんのお尻かなぁ?」
「もおぉっ! オ……オ○ンコですっ! 早く、私のオ○ンコに覚さんの【オチンポ】を――」

 ジュブリッ!

「きゃうううううううううううっ!」

 いきなりズンと私のカラダの中心に太くて熱い『杭』が打ちこまれました。
 さきほどの『潮吹き』の時とは全く比べものにならない、ずっしりと量感のある堅い肉の塊が、ヌルヌルにトロけた私のナカをゴリゴリ押し広げ、一番奥深くまでみっちりと満たします。

「うぅ……せんせぇ……ふ、不意打ちは、ひきょおぉ……ぅううううぅ……」

 カクンと両腕の力を失い、だらしなく床に頬を付けた私は、ヒクヒクと全身を痙攣させます。さんざんじらされた末の奇襲に耐え切れず、今の一突きだけで私はあっさりイッてしまったのです。
「ふふ。ちゃんと言えたごほうびですよ、奥さん」
「はうぅ……ヒドいわ……イジワル……イジワルうぅ……」

 あぁん、すごいんです。私のナカ、覚さんで一杯です。
 猛々しい【オチンポ】の洗礼を受け、背後からカラダの真ん中を深々と貫かれた私はグッタリと力を失い、もう覚さんの為すがままです。
 でも、憎たらしいくらい余裕綽々の覚さんはすぐには動きだそうとしません。
 絶頂の余韻にヒクヒク痙攣している私のナカをじっくり味わうように、両手でお尻を掴んだまま、ほんの小さな動きでコツンコツンと奥を攻めてきます。

(あうぅ……どうしてぇ? どうして私の弱いトコ、そんなに分かってしまうのぉ?)

 兇悪なほどエラを張り、グンと力強く反り返ったカリの部分が私の一番奥――子宮口にぴったり狙いを定めています。
 私はソコをクリクリとこすり上げられるたび、堪え切れず小さく甘い声を洩らしてしまうのです。
「あっ! あっ! はあぁんっ!」

(そうよ。ソコ……ソコなのっ! あの人じゃ全然届かない所――私の『秘密の場所』に来て欲しかったの! あああぁ……そうよっ! スゴいわ、覚さんっ!)

 たちまち私のカラダはナカからバターのようにトロトロに溶かされてしまいました。
「はぁん! あぉん! あふ……はふうぅ。い、いいぃぃ!」
 頬を床に付けたまま、だらしなく、はしたなく、甘い悦びの声を上げ続けます。
(ああ……スゴいわ。気持ち良いの。私……幸せよ。今、すごく幸せなの、覚さん)
 このままずっと繋がっていたい。いつまでも覚さんと一つに溶け合っていたい――心の底から素直にそう思いました。

 けれど――

「ほら、奥さん。あれを見てごらんなさい――【虚像の対偶】」
「……え?」
 小さく何かを呟いた覚さんに釣られ、ぼんやり顔を上げると、正面に置かれている大きな寝室の鏡が目に入りました。

 どきんっ!

(えっ……何? 一体、何なの?!)

 何故なのでしょう?
 鏡を目にしたその瞬間、私は心臓が止まりそうなほどのショックを受けました。
 まるで目に見えない透明なヴェールを突き破ってしまったような――そうとは知らずに世界の表層を覆う薄皮を剥ぎ取ってしまったような――そんな、得体の知れない激しい不安に襲われたのです。
 けれど、別に『見えているもの』が変わったわけではありません。
 鏡に写る『私』は先程までと変わらず、覚さんの力強い腕で支えられたお尻だけを高々と掲げ、力無く床に伏したまま、欲情に潤んだ目で待ち受けています。
 その姿は、まるで――
(ああ、そう……だわ。この格好って……)

【若く逞しいオス犬に種付けされるサカリのついたメス犬】

 きゅううううんっ!

 私のナカが激しくうねり、【オチンポ】を絞りあげます。
「うっ! す、スゴい……締まるっ!」
 覚さんが小さな呟きを洩らしました。
(サカリのついた……メス犬?)
 ――一体、誰の言葉だったでしょう?
 言われた状況を全く思い出せないのですが、その淫らな形容が今の『私』にぴったりな事は否定出来ません。そして――
「そう……よ。どうしてなの? どうして、私、こんな……」
 呆然と呟きます。
 これもまた淫視症のせいなのでしょうか? 鏡に写った自分の姿を見つめるうちに、急にこれまで一度も感じた事のないほど激しい羞恥心がこみ上げてきたのです。

(いや……いやいやいや、いやああああああぁ!!)

 違います! 淫視症のせいなんかじゃありません! 今の私は本当に『若いオスに交尾をねだるメス』そのものです! *校生の少年に裸のお尻を突き出して、甘えた喘ぎ声を上げて……ああ、なんて恥知らずなっ!

(恥ずかしい……恥ずかし過ぎるわっ! 恥ずかしくて死んじゃいそう!)

 私は本当に耳の先まで真っ赤になりました。
 貞淑な妻として、愛する夫を持つ身として、こんな事が許されるはずがありません!

(ダメよ! いけないわ! こんな……こんな淫らな事! 今すぐ止めないと――)

 なのに、頭でそう思ってもカラダは決して【オチンポ】を放そうとしません。今も私のアソコは覚さんの【オチンポ】をくわえ込み、ウネウネと絡み付き続けています。
 あせる気持ちとは裏腹に上半身に全く力が入らず、私はただ、覚さんと深く繋がりあった腰を弱々しくくねらせる事しか出来ませんでした。
「くっ! 奥さんのナカ、キュウッと締めつけてきますよ。気持ちいいんですね?」
「……」
(ああ……そんな。どうしよう!? 私、一体、どうして――)
 頬を赤く染めたまま答えられずにいる私に、覚さんがわざとらしい口調で尋ねます。
「おや? 気持ちよくないのかなぁ? それじゃ抜いちゃいましょうか、奥さん?」
「あ! ダ、ダメよっ! 抜いちゃイヤぁッ!」
 思わず首を後ろにひねって叫ぶ私に、覚さんがイタズラっぽく笑いかけます。
「じゃあ、『今、自分がどんな状態か』をカメラに向かって言ってもらえますか?」
「えっ?」

 どきんっ!

(カメラ!? あああ――そうだわっ!)

 そうです! 何故、今の今まで平気でいられたのでしょう!? 私は今、ビデオカメラで撮影されているのです! こんな淫らな……こんな『死にたくなるほど恥ずかしい姿』を――

(いやあああっ! ダメよ! ダメダメダメ! お願い! 撮らないで、こんな姿!)

 首を振り、必死で叫ぼうとするのですが、何故かパクパクと口元が動くだけで、全く声が出てきません。今の私はまるで覚さんの質問に答える以外は発言を許されない『お人形』のようです。
「ほらほら、奥さんは今、ここで一体何をしているんですか? 夫婦の寝室で」
「えっ? し、寝室? わたし? わ……私は、その――」
 立て続けのショックで私はすっかり頭が混乱してしまいました。
(そう、よ。ここは私達夫婦の寝室だわ。なのに……私ったら、覚さんと裸で――)

 こりんっ。

「きゃううううっ!」
 ピンポイントに私の“一番弱い所”に狙いを定められているため、ほんの軽い突き上げにもメス犬のような鳴き声を上げてしまいます。

(ああ、何なのっ?! 一体、私、今……何をっ?!)

 ココロもカラダも混乱しきった私に、覚さんは次々と質問を投げかけてきます。
「ねぇ、奥さん。今、奥さんのナカに入っているのは何です? 奥さんが僕に可愛くおねだりするから、仕方無く入れてあげた“コレ”は何て言う名前でしたっけ?」
 鏡越しに覗くその目に楽しげな光を感じるのは私の気のせいでしょうか?

(そんな! そんなの……言えないわ。だって――だって……)

 カメラを意識して、ためらい口ごもる私に、笑いながら覚さんが言います。
「ふふ。あと五つ数えるうちに答えないとどうなっても知りませんよ。ひとーつ、ふたーつ、みーっつ――」
「あっ! ま、待って! 言いますっ! お、【オチンポ】……です」

 きゅうううん!

 また顔が激しく火照るのを感じます。
 そう。私はついさっきまで平気で口にしていたこの単語が『本来、何を意味するか』を、今になって急に思い出したのです。

(ああ、今のも撮られてしまったのね……どうしよう? 私ったら、今までずっとこんな恥ずかしい言葉を――ヒドいわ、覚さん)

 覚さんに教えられるまま、ただの『マッサージ棒』の事を卑猥な『男性器の俗称』で呼び続けていた自分の、愚かさと恥ずかしさに身悶えします。

「奥さん、それは“ナマ”のですか?」
「……え? “ナマ”?」
 質問の意味が分かりません。
(“ナマ”って――『ゴムをつけていない』って意味かしら? だけど……)
 私達はこれまで一度も『マッサージ棒』にゴムを付けた事などありません。
 だいたい『クライアントの反応を敏感に察知するには直接の接触が不可欠なんです』と私に説明したのは覚さん本人です。質問するまでもなく、分かりきった事なのに――

 こりんっ。

「あううぅっ!」
 回答をためらう私に、また覚さんが腰を突き出して催促します。
「さぁさぁ、きちんと答えて、下さいっ! 今、奥さんが、ヌルヌルのオ○ンコに、くわえこんでいるのは、何ですっ? ホラ、コレですよ、コレ!」
「あっ! おぉっ! あぅんっ! はあぁん! い、いやああぁ……」
 コツコツと奥を突かれる度、全身の力が抜け、私は甘い声を上げてしまいます。
「せ、先生のぉ……お、【オチンポ】……“ナマ”の【オチンポ】……ですぅ」
 息も絶え絶えに答える私に、少し呆れたような口調で覚さんが尋ねます。
「おやおや? 何故、ゴムを付けないんですか、奥さん?」
 ああ。覚さんたら、どうしてまた、そんな分かりきった事を聞くのでしょう?
「だ、だってぇ、付けちゃったらぁ……」

(――えっ? ちょっと……待ってっ! ねぇ、ちょっと待ってっ!)

 私は『今、まさに自分の口が紡ぎ出そうとしている言葉』が信じられず、しゃべりながら呆然と固まってしまいました。

「出して……もらえないわ、ナカに」

「ほぅ。何をです、奥さん? ナカに出してもらうのは一体、何なんですか?」
 覚さんが私のお尻を撫で回しながら優しく尋ねます。
 口調は穏やかで優しいのに、何故か【オチンポ】には力がみなぎり、私のナカを押し広げるようにカリがググッと膨れ上がります。少し怖くなるくらい元気です。

(そうよ。“アレ”は……何なの? 毎晩毎晩、私のナカに――)

 覚さんはいつもマッサージの締めくくりに『カラダの内側から女性を美しくさせるための特殊な美容液』を『マッサージ棒』を使って私の膣内に注入します。
 ホルモンや良質のコラーゲンを大量に含み、一日わずかずつしか生成されないという貴重な『美容液』――このドロリと白濁した液体の熱いほとばしりをカラダの奥深く受け止める悦びは例えようもないほど素晴らしいものです。
 私は主人との夜の営みでは決して得られなかった、深い満足感に夢中でした。
 つい昨日まで、何の疑いもなく受け入れてきた“アレ”は、確か――
「万能……細胞、活性……」
「【セイエキ】?」

 ゾクゾクゾクゾクウウウウゥ!

(あああああああああああああっ!)
 覚さんの言葉に、もうすっかりお馴染みになったあの感覚――カラダの奥でビュクビュクと【オチンポ】がはじける素敵な感触が甦ります。
 たまらなく熱い万能細胞活性液――【セイエキ】が『私』の子宮を満たしていく、あの心地良さ。ああ、『私』はこんなに幸せでいいのでしょうか? ご主人様の――

(待ってっ! 何か……何か、変だわっ!)

 うっとりと陶酔の中にトロけていきそうな意識を必死で引き戻します。
 何かが私に警告を告げています。今、気付かなければ大変な事になる、と。

「あ……あの、先生、【セイエキ】……って、それは――」
「奥さんは【ナカにシャセイされるのが大好き】――そうですよね?」

(ああああああああっ! 【ナカ】に……私の【ナカ】に【シャセイ】っ!?)

 先程に勝るとも劣らない激しい歓喜の渦が、カラダの奥底から湧き上がります。
 そう。【ナカ】に【シャセイ】――それはご主人様に一番最初に教えていただいた『オンナの悦び』です。何も知らなかった私は、たくさんの『キモチ良イ事』を教えていただき、そのあまりの快感に泣き叫びながら、骨の髄まで『ご主人様のモノ』となる事を誓ったのです。
「あ……ああ……あ……」
 次々と湧き上がる悦びの想いにかき消され、筋道立って考える事が出来ません。
「さ、ちゃんとカメラに向かって言って下さい。新婚の奥さんがご主人が留守の間に、こうして夫婦の寝室で“ナマ”の【オチンポ】をくわえこんでいるのは、一体、何のためです? 奥さんのヌルヌルのオ○ンコは、何を欲しがって、さっきからこんなに僕をキュウキュウ締めつけているんですか?」
「そ、それ……は――」

 ああ。答えてはいけません。それだけは分っています。けれど――

「せ、先生ぇ……私達、な、『何』をして……いるん、ですか?」
 今の私には、たどたどしく質問に質問で返すのが精一杯です。
「こ、これって……ただの『マッサージ』……です、よね? 私のカラダを内側から、よくほぐして、それで……」

(お願い。『そうだ』って言って、覚さん! 私、怖いの。このままだと――)

「いいえ。違いますよ、奥さん」
「!!」
 ハッと息を呑み硬直する私を、後ろからしっかりと抱き締めた覚さんは、大きくて堅い【オチンポ】で私を貫いたまま、優しく上体を引き起こします。

 ぐりんっ!

「はっ……ううぅっ!」
 体勢が変わると、当然、貫かれている角度も変わります。今度は下から突き上げられる形になった私の子宮口がこれまでと全然違う方向で【オチンポ】とキスしました。
(ああぁん。すごい――ナカ、全然違うわ。こんなのされたら……トロけちゃう)
 こんな格好で貫かれた事は今まで一度もありません。すごく新鮮で刺激的です。
 ハァハァとあえぎながら、目の前の大きな鏡に写る全裸の私達二人の姿を見ていると、少し霞んだ記憶が甦ります。

(ああ、私……知ってるわ。この場面――)

 後ろからご主人様に優しく抱きしめられる『メス奴隷』――これは一体、いつ目にした光景でしょう? ずっと昔だったような、つい最近の事のような……でも記憶と違って、抱きしめられているのは私自身ですし、抱きしめているのは覚さんです。
(何だった……かしら? 確か、とても素敵な事を言われるのよ、アレは――)
 覚さんは私を後ろから熱く太い『肉の杭』で貫いたまま、鏡ごしにまっすぐ私の目を見つめて、こう囁きます。

「静香。僕はね、君を……『ハラマセ』ているんだよ」
「!!!!」

 不意に頭の中で何かがカチリと音を立てて繋がりました。
 そう。たった今、散らばっていた言葉のピースが一つになったのです。

(『ハラマセ』?! 覚さんが私を『ハラマセ』ている? “ナマ”の【オチンポ】で【精液】を【中に射精】して――『ハラマセ』? それって……まさか――)

「あ……あ、あああ――」
 カチカチと無意識に歯が鳴ります。
 そうです! 時折感じていた違和感――何か、とても重要なハズの言葉がスルリと意識の裏側に逃げ込んでしまう、あの『奇妙なもどかしさ』は正しかったのです!

(覚さんが私を……『孕ませ』……ているっ?!)

「ひっ! ひいいいいいいぃ!」
 歓喜と恐怖、欲情と混乱、理解と拒絶――その全てが同時に押し寄せ、一瞬で私の頭をショートさせました。

(嬉しい!/ダメよ! 欲しいの!/いけないわ! 私――私……わたしいぃぃ!)

「ああ。愛してるよ、僕の静香」
 そう言って、覚さんが後ろからゆっくりと上下に腰を揺すり始めます。
「あっ! ね……ねぇ、待って、覚さん! お願いだから、待ってちょうだい! 変なの! 私――今、おかしくなっちゃってるの!」
「いいんだよ。おかしくなっていいんだよ、静香。一緒に気持ち良くなろう、ほら!」
「あっ! ダメッ! あはあぁん! あっ! あっ! ああああぁんっ!」
 小さくこすり上げるだけだった先程までと違い、優しく大きく円をかいてこねくりまわすような腰のグラインドが加わり、たちまち私の全身は甘く痺れてしまいます。

(ダメよ……ダメなのおぉっ! ああ、どうしよう? このままじゃ、私――)

 なんとか理性を保とうとする必死の努力をあざわらうかのように、圧倒的な快楽が押し寄せ、抗う私を呑み込んでいきます。

(ううぅ、スゴいわ。カリで奥を広げるみたいにグリグリこね回して――それなのに、私の『弱いトコロ』から外れてくれない。『一番欲しくなっちゃう場所』を優しく丹念にこすり上げられて……あぁん、ダメよぉ。こんなの反則だわ……こんな――)
 ぐりんっ!

「はあぁんっ! き、気持ちいいっ! “ナマ”の【オチンポ】キモチいいいぃっ!」

 ……ああ、ついに言ってしまいました。
 この二ケ月間、毎晩そうだったように、一度悦びの叫び声を上げてしまった私は、理性のタガが外れ、発情しきった獣のようにあたり構わずわめき散らします。

「突いて! 突いて突いてっ! 突いてえええええぇっ!」

「いいんだね、静香!? ホラ! どこが気持ちいいのか言ってごらんっ!」
「オ○ンコ! オ○ンコ、いいの! 私のオ○ンコ、【オチンポ】でイッパイなの! あぁんっ! 奥に当たるの! 私の弱いトコロに当たってるのおぉっ! あんっ! あんっ! はあああああああああぁんっ!」
 大きな声で叫べば叫ぶほど悦びが増していきます。
 優しく突き上げられる度に子宮が疼き、頭が真っ白にトんでしまいそうです。

(ああ、狂ってる……私、狂ってるわ! もうダメ! 我慢なんか出来ない! キモチいいの! もう……もう、どうなってもいいわっ!)

 一旦、認めてしまえば『堕ちて』いくのは簡単でした。
 素直に快楽を貪ろうとしている『カラダ』に全てを委ねてしまえばいいのです。

「あっ! あっ! 来てっ! 来て来て来て来てえぇ!」
「静香! 静香っ! 静香あぁ!」
 私の名を呼びながら、覚さんが攻めたてます。
(ああ、スゴイわ。覚さん――『あなた』!)
『静香』と呼ばれる度に、私の胸はどんどん高鳴っていきます。

【静香。僕はね、君を……『ハラマセ』ているんだよ】

(そう――なの? 私……わたし、今――覚さんに?)

 ゾクゾクゾクウゥッ!

 もはや、先程胸をよぎったあの『恐ろしい疑惑』でさえ、背筋を甘く震えさせるスパイスに過ぎませんでした。

 グチュ! グチュ! プチュ! ジュブッ! ジュプッ!

 淫らな水音が、深く繋がりあった二人の間からこぼれます。
 それはもう、こすれ合う粘膜と粘膜とが奏でる『愛の調べ』に他なりません。

「気持ちいいんだね、静香! これまでで何番目くらい!?」
 興奮しきった声で覚さんが尋ねます。私は心の底から素直に答えました。
「一番よっ! 一番キモチいいわ! はあああぁっ! スゴおぉいっ!」
 目の前の鏡には全身から汗の滴を飛び散らせ、大きなおっぱいをぶるぶる震わせて、快感に身をよじる私が写っています。ああ、なんて淫らで――なんて気持ちいいの!
「ホントだね?! ホントのホントに、一番気持ち良いんだねっ!?」
「ええ! そうよっ! 最高なのっ! こんなの……こんなの初めてええぇっ!」

 ――そうです。それは決して嘘じゃありません。
 私は今、生まれて初めて味わう、深くて大きな『オンナとしての悦び』に呑み込まれようとしていました。これに比べたら――

「そうですか……それじゃあ、【ご主人より気持ちいい】んですね、“奥さん”?」

 びくんっ!

 瞬間、全てが止まりました。
 覚さんの動きも、私の鼓動も、空気も、時間さえも。

「あ……ああ、あああ……」
 小さくわななく私に、すっかり仕事モードに切り替わった覚さんが静かに尋ねます。
「さあ、答えてください、奥さん。『一番気持ち良い』という事は、当然、【ご主人より気持ちいい】んですよね? それとも、やっぱり『世界で一番愛しているご主人』は別格ですか?」

(そんな……そんな、ヒドい! あの人と比べるなんて、そんな事出来るハズが……)

 息を呑んだまま石のように固まる私の後ろで、覚さんが小さくタメ息をつきました。
「そうですか。ここまで来ても素直に答えていただけませんか――残念です」
「あっ! ま、待ってっ! ダメよ、抜いちゃ――」

 じゅぽっ。

「あああっ! イヤイヤイヤあぁ! 抜かないでえええええっ!」
 淫らな水音を立てて、私のカラダの中心から熱くて大きなモノが引き抜かれました。
 まるで魂を抜き取られてしまったような激しい喪失感と、今も全く衰えを見せずにカラダ全体を疼かせ燃え盛る肉欲の狭間で、私は軽いパニックに陥りました。

「ねぇ、待ってっ! お願い待って、覚さんっ!」
 必死にすがる私に、覚さんは冷たい視線を向けます。
「何故です? 奥さんの満足の度合を知るのは、僕にとって一番重要な事なんですよ。でも、『クライアントとしてその情報の開示には応じられない』という事であれば、もはや僕がいる意味などありませんね」
「だって――だって……」
「まぁ、結局、奥さんには『世界で一番愛しているご主人』が居ればそれで充分――そういう事ですよね?」

(そんな……違うわ! 違うのよっ!)

「わ、私――私は……」
 ああ。何を言えば伝わるのでしょう?
 私は口元に手を当て、苦悩に身悶えします。
「ねぇ、奥さん。僕が奥さんに答えて頂きたいのは、ごく簡単な事なんですよ」
 そう言って、覚さんはベッドの脇に置かれている電話機のスイッチを押しました。

『めっせーじガ 一件 アリマス。めっせーじ ヲ サイセイ シマス』

(え……何? 留守電?)

『×月×日 ×時×分 ノ めっせーじ デス』

 機械的なガイド音声が淡々と記録時刻を告げます。
 日付は今日なので、どうやら私が病院にいる間に掛かった電話のようです。
 一体、誰からでしょう? 私は普段、携帯しか使わないため、自宅に電話がかかってくるのは、かなり珍しい事で――

『もしもし、静香? 俺だ。携帯が繋がらないみたいだから、こっちに掛けた』

(――ええっ? あなたっ!?)

 本当に『背筋が凍るような思い』とはこういう事を言うのでしょうか? 久しぶりに主人の肉声を耳にした私は、目を大きく見開きショックで固まってしまいます。

『急な話だが来月末に日本で大きな会議が行われる事になった。こっちの副社長を連れていくので、いっぺん家に招待したいと思ってる。顔を売っておく良いチャンスなので粗相の無いよう頼む。細かい事は後でメールする。じゃ、よろしく』

 ぶっきらぼうな物言いは少しも変わっていません。出会ってすぐの頃は『男らしい』と思っていたのですが――

『めっせーじ ハ イジョウ デス』

 プツンと音を立て沈黙する電話機に向かってボソッと覚さんが呟きます。
「『愛してる』……の一言も無し、ね。ふん」

 ドキンッ!

 まるで私の心を読んだような言葉に、心臓が縮み上がります。
「良かったじゃないですか。来月末には奥さんが『世界で一番愛してる』ご主人のお帰りですよ。今度こそ、一緒に連れて行ってもらえばいいんじゃないですか?」
「……イヤよっ! イヤイヤイヤイヤあぁ!」

 ああ。たまらないほど、カラダの奥が疼いています。
 欲しがっているんです――毎晩、ビュクビュクしてもらっている“アレ”を。

「さ、奥さん。ごくごく単純な二択ですよ。今、目の前にある“コレ”を楽しむか。ほんの一ケ月ほど我慢して『世界で一番愛してる』ご主人に抱いてもらうか」
 そう言って、覚さんはゆったりとベッドに横たわります。
 私と主人のためのダブルベッド――今は毎晩、覚さんと裸で抱き合って眠っている、この大きなベッドに。

(ああ……あああああ……あんなに反り返ってるわ。血管が浮き出て、ゴツゴツみなぎって――)

 ほんのついさっきまで私のナカに収まっていた覚さんの【オチンポ】は、私の愛液で湯気が立ちそうなほど濡れそぼち、ヌラヌラと淫らな光を放っています。

 きゅうううううぅん!

 見ているだけでカラダの芯が疼きます。足が震え、その場にへたり込みそうです。
 先程まで味わっていたあの、奥深くまでみっちりと満たされた幸せ――『オンナとしての悦び』を生々しく覚えている私のカラダが必死に訴えかけているのです。
(欲しい……欲しいの。もう、我慢出来ない。コレで、私を――)
 フラリ、と足が一歩前に出ます。また、一歩……そして、また、一歩。

「ストップ!」

 ビクン!とカラダが跳ね上がります。
「そこまでです。そこから先に手を伸ばしたら――分かりますよね、奥さん?」
 片肘を枕に私に顔を向けニッコリと笑う覚さんの目には、まるで罠にかかった兎を見るような愉悦の表情が浮かんでいます。

「そ、そんな――」

 カラダの奥深くから来る震えが止まりません。膝がガクガク笑っています。
 今日の私はずっとずっと長い間、じらされ続けてきました。
 舌と唇でクリトリスを剥かれ、強引に『潮』を吹かされ、何度も素敵なキスを交わして……ようやく入れてもらえたのに、こんな中途半端な状態で――ああ、もうダメ! 限界なんです! これ以上は一分だって一秒だって待てませんっ!

「うぅ、あなた……あなたあぁ……ごめんなさい……ほ、ホントに、ごめんなさいぃ。もう……ダメなの。わ、私……わたしいぃぃ――」

 口元をわななかせ、ポロポロと涙を流しながら、私はそそり立つ肉の棒に震える手を伸ばします。

「っくっ!」「はああぁ!」

 手が触れた瞬間、互いに電流が流れたように反応しました。覚さんは小さくビクンと全身を震わせ、私は熱いタメ息を洩らします。

(堅い……わ。大きいわ。ああ、こんなモノを、また……私のナカに?)

 ゾクゾクゾクッ!

 まるで麻薬を手にした中毒患者のように、激しい後悔の念とそれを打ち消す大きな期待が胸に渦を巻きます。
「ふふ。本当に……イケナい人ですねぇ、奥さんは。人妻なのに――新婚なのに、こうして、『ご主人じゃない男』の【オチンポ】を自分から触りに来るなんて」
 覚さんが優しく私の手の上に自分の手を重ねながら囁きます。

「イヤ……イヤイヤイヤあぁ。イジメないで――もう、イジメないでえぇ……」

 小さな子供のように泣きながら――けれど、決して放すまいと【オチンポ】を握りしめる私。ここまで来てしまった以上、引き返す事など出来ません。
「イジメるだなんて、そんな。僕はただ奥さんに、今のご自分の状態を素直に認めて欲しいだけですよ。さ、カメラに向かって宣言して下さい。たった今、自分が『誰』を、そして『何』を選んだか」
「!!」

(ああ。言わなきゃ――いけない、のね? 私、また撮られてしまう……のね?)

 堕ちてゆく事への昏い悦びが、ゾクゾクとカラダの芯を疼かせます。
 もう、抗うのは止めました。小さく頷いた私は、覚さんがこちらの方向に向きを変えたベッド脇のビデオカメラを見つめながら、ためらいがちに口を開きます。

「お、お願いです。私にコレを――覚さんの【オチンポ】を入れさせて下さい。もう、ダメなんです……私、この【オチンポ】じゃなきゃ満足出来ないの。あの人より……か、堅いわっ! あの人より大きくて……うぅ……わ、私の一番奥深くまで届くのっ! お願い、覚さん! コレで私の一番気持ち良い所――あの人じゃ届かない場所を、メチャクチャにしてっ!」
 泣きながら叫ぶと、手の中で脈打っている【オチンポ】に熱烈にキスをします。

 ちゅ! ちゅっ! ちゅぽっ! ちゅぶっ! ぢゅぼっぢゅぶっ!

(ああ、もう……ダメなのね、私)
 愛する夫への重大な裏切り――そう、これはハッキリとした『裏切り行為』です。
 正気ではとても耐えきれないほど激しい『罪の苛責』から逃れるため、私は狂ったようにひたすら淫らな行為に熱中していきます。
 そうです。こんな、『人』として、愛する夫を持つ『妻』として決して許されない『淫らなお願い』を映像で記録されてしまった以上、もはや、後戻りは出来ません。

(ごめんなさい、あなた……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――)

 一体、どうしてこんな事になってしまったのか――何故、私は覚さんと二人きりで全裸で寝室にいるのか、本当の理由はもう分かりません。
 私は何か、淫らで妖しい『魔法』のようなものに絡めとられてしまったようです。
 けれど、今、手を伸ばしたのは、まぎれもなく『私自身の意志』でした。
 拒もうとすれば幾らでも出来たはずなのに、私の手は覚さんの【オチンポ】をしっかり握りしめたのです。
 歪んだ記憶、すり替えられた言葉の罠――何もかもが霧に覆われたように曖昧模糊とした中で、“それ”だけは誤魔化しようのない『真実』でした。
 たぎるように熱く雄々しい“オス”に、私の中の“メス”が屈伏したのです。

(そうよ。これが私の――ホントの気持ち、なんだわ)

「ふふ。よく言えましたねぇ、奥さん。いい子ですよ」
(……あっ!)
 首輪に繋がった鎖を引かれ、私の顔が覚さんの顔のすぐそばまで近付きます。
「さ、覚……さん――」

 澄んだ瞳。優しい眉。赤ちゃんみたいにふっくらと柔かな頬――

 そう。いつだったか、同じ事がありました。
 二人で見つめ合い、甘く優しいときめきを覚えた瞬間が。

 きゅうううううううんっ!

(ああ……覚さん! 覚さん! 覚さんっ!)
 カラダとココロの両方に感じる切なく激しい疼きが私をせきたてます。
 もうすぐなんです。もうすぐ、私は――

「奥さん」
「……は、はいっ?!」
「今日の記録は一生の記念になりそうですね」
 覚さんはそう言ってベッド脇にセットされていたビデオカメラを三脚から外して右手に持つと、レンズを私に向けます。
「あっ! イヤッ!」
「隠さないでっ!」
 思わず反射的に胸と下半身を隠そうとした私を覚さんは鋭く制します。
「隠しちゃダメですよ、奥さん。ハメ撮りです。これから奥さんが、その可愛らしいヌルヌルのオ○ンコに僕の“ナマ”の【オチンポ】をくわえこむところを、じっくり撮影するんですからね」
「そ……そんなっ!!」
「おやおや、何をいまさら恥ずかしがっているんです? これまでだって毎日一緒に撮影してきたじゃないですか。今日は三脚を使わずに、ほんのちょっぴり奥さんの近くに寄って撮るだけですよ。いつもと何の違いもありません。それに……ホラ、もう奥さんのソコは『欲しくて欲しくてたまらない』ってヨダレを垂らしているじゃないですか」
「えっ?! ……あっ! やあああああっ!」

 つぅっ――

 覚さんに指摘されて初めて、アソコから淫らな糸を引いて愛液が滴っている事に気付いた私は、思わず両手で股間を押さえ必死で叫びます。

「いやいやいや! ダメよっ! 撮らないでっ! お願い!」

(あああ……どうしよう、私――)
 不思議です。今、私の中に二人の『私』がいます。
 一人は今の状況を『たまらなく恥ずかしい』と感じ、なんとかここから逃れようと必死な『理性ある私』。そして、もう一人は――

「ふふ。悦んでますね、奥さん?」

 ドキンッ!

「え? ……な、何を?」
「隠しても無駄ですよ。分かってるんです。本当は『いやらしい事』をされるのが、好きで好きでたまらないんですよね、奥さんは」
「そ、そんなっ! 違います! 私は――あっ! ダメっ! ああぁんっ!」
 右手にカメラを構えた覚さんが、左手を伸ばし私の乳首をつまみます。
「今日は初めからコリコリに堅くなりっぱなしでしたねぇ、奥さんのココ」
 覚さんは私の乳首を触れるか触れないかの微妙なタッチで優しく弄びながら、カメラのレンズを近付けます。
「あっ! やっ! はぁんっ! ダ……ダメよおぉっ!」
 ほんの微かな指先だけの刺激なのに、全身がビクビク反応してしまいます。

(ああ……また、撮られちゃう――私、撮られちゃう)

 きゅうううんっ!

 そう。本当は覚さんの言う通りなのかもしれません。
 きっと、私は『いやらしい事』が大好きな『いやらしい女』なのです。その証拠にカメラを向けられるだけでジュンと奥が潤うのが分かります。
「お、お願い。もう――じらさないで。私……ああぁっ!」
 覚さんが長く伸ばした舌先でチロリと乳首の先を舐め上げました。
 冷たく光るレンズがほんの数センチの距離から、汗と唾液に濡れながらフルフル揺れるおっぱいを余す所なく撮り尽くします。
「ふっ! くうぅ! くっ! ふううぅ……」

(どうしてっ!? どうして『して』くれないのっ!? もう、じらさないでっ!)

 全身を小刻みに震わせながら必死に目で訴えかける私に、覚さんはイジワルな表情で笑い返すと、ビデオカメラのファインダーに片目を当てます。
 そしてまた、左手の指先で唾液でヌルヌルになった私の乳首をコリコリクニクニと弄びながら、悠然と私の表情を撮り続けます。

(ああ……まさか、そんな――)

 そう。今になってようやく気付きました。
 覚さんは私が自分から言い出すのを待っているのです。
『私のオ○ンコに覚さんの“ナマ”の【オチンポ】をくわえこむ瞬間を撮って欲しい』と。

「わ、私を――『はしたない女』に変えるつもり……なのね? 恥知らずで、イ……インランな、さかりのついた……メス犬に……ううぅっ!」
 うらめしげに問いかける私に覚さんはにっこり笑って答えます。
「ええ。そうですよ、奥さん。僕は奥さんに『オンナとしての悦び』を教えてあげるつもりなんです。ご主人とでは決して味わえない『本当の幸福』をね」
「そんな。ヒドいわ……ヒドい……あ、あぁっ!」
「ふふ。もう気付いているでしょう? 奥さんは生まれ変わろうとしているんですよ、『本当の自分』にね。ココロもカラダも――何もかも全て僕が造り変えてあげます」
 そう言って、また、鎖を引いて私を引き寄せると、耳元で甘く優しく囁きます。
「愛してるよ、静香」

 きゅうううううううううんっ!

(ああ、本当に……ズルい人。こんなに私を辱めて、こんなにイジメておいて――)

 ――んっ。

 そっと唇が触れ合います。
 軽く、優しく、愛しさを籠めたキス――私の中で『最後の砦』が崩れた瞬間でした。

(覚さんっ! 私の……本当のご主人様っ!)

「ああ、撮ってっ! お願いしますっ! 私を撮って……下さいっ!」
「どこを撮ればいいんですか、奥さん?」

(もう! もおっ! もおおぉっ!)

 私は両手で顔を覆い、叫びます。

「お、お願いっ! 私のオ……オ○ンコを撮ってっ! ヌルヌルでいやらしいオ○ンコ――覚さんの“ナマ”の【オチンポ】を欲しがってる静香の淫乱オ○ンコを撮って下さいっ!」

「ふふ。それじゃあ、まず、ここに片足を載せて下さい、奥さん」
 楽しげにそう言うと、覚さんは手を伸ばし、私の右足を掴みます。
(ああぁ……)
 ベッドの上に右足だけを一歩踏み出す形で載せられ、大きく足と足の間が割り裂かれます。
「おやおや、やっぱりだ。すごく濡れてますねぇ、奥さん。太股がまるでお漏らししたみたいにヌルヌルですよ。口ではあんなにイヤがってくせに、こんなに期待していたんですね? ホントにいやらしい人だ」
「イヤ……イヤイヤイヤあぁ……」
 顔を覆ったまま恥ずかしさにすすり泣く私の両足の付け根にカメラが近寄ります。

 ゾクゾクゾクゥッ!

(ああ。あんなに近付いてる――私のアソコ、撮られちゃう)
 そうです。私は顔を隠しつつも、指の隙間からしっかり覗いていました。

 ちゅぷっ。

「あっ――はうっ! はぁあああぁっ!」
 私は天井に向かってのけぞり、わなわなとカラダを震わせます。
 覚さんの指先が私のアソコを押し広げたのです。
(指でググッて広げられてる――私のナカ、開いて……風が……)
 敏感になり過ぎた今の私は、たったそれだけの刺激でも動けなくなってしまいます。
「ふふ。こんなにヌルヌル――ほらほら、分かりますか奥さん? うんと奥の方まで、くぱぁって開いてますよ。奥さんはやっぱりナカまでキレイですねぇ」
「うう……ううぅ……言わないで! 言わないでえぇぇ……」
 恥ずかしさの奥底から、得体の知れない感情が湧き上がってきます。

(全部……撮られてる。私――アソコの奥まで撮られてるんだわ。ああ……)

 じわりっ。

「おっ! いやらしいおツユが溢れてきましたよ! 奥の方もヒクヒクうごめいてる。興奮しているんですね、奥さん?!」
 鼻息も荒く覚さんが叫びます。

(そんな――見ないで。いやいやいや! いやああぁ……)

 そうです。全て見抜かれてしまうんです。何一つ隠す事は出来ません。
「ふふ。奥さんはこれからどうするんでしたっけ? こんな美しいトコロを使って、何をするつもりなんです?」
 カメラが私の表情を追っています。
 ああ。覚さんはどうしても私に『淫らな言葉』を言わせたいのです。
 私のカラダを、ココロを、全てを造り変えてしまうつもりなんです。

(ごめんなさい……あなた)

 最後に一つだけ心の中で謝り、私はカメラに向かって口を開きます。

「わ……私はこれから“ココ”に――ヌルヌルのいやらしいオ○ンコに『主人ではない方』の【オチンポ】――“ナマ”の【オチンポ】をくわえこみます。あの人では届かない奥深く――『私の一番気持ち良いトコロ』をたくさんたくさん突いてもらって、『天国』に連れていっていただくんです。そ、そして――」

(ああ……)

「私の【ナカ】に……た、たくさん【シャセイ】をしていただきますっ! 私のオ○ンコを熱い【セイエキ】で一杯にしていただくんですっ! ああぁ、お願いっ! お願いです! 早く……早く、私を『ハラマセ』てっ!」

 泣き叫ぶ私の表情をビデオカメラに収めた覚さんは満足気に微笑みます。

「……おいで」
「はいっ!」

 私は長い長い間、『おあずけ』されていた犬のように慌ててベッドの上に飛び乗り、横たわった覚さんの体をまたぐとガニ股で腰を沈めていきます。

 クチュリ。

「あああああぁ……」
 熱く雄々しい肉の塊――覚さんの【オチンポ】を自分の花びらに当てた私はカメラを構える覚さんに尋ねます。
「ね、ねぇ! いいですかっ?! 私、『して』もいいですかっ?!」
「いいですよ、奥さ――ぅくっ!」

 ジュブブブブブブブッ!

「あおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 私はのけぞり獣のように叫びます。

(はあああああっ! 嘘よ……こんな……こんな……こんなああぁっ!)

 再びカラダの中心を串刺しにした太く堅い肉の棒が、私を支配します。
 熱く雄々しいオスのしるしに、みっちりと奥まで満たされたこの感覚――何もかも全てを委ねたくなるメスの衝動――ああ、先程と……いえ、いつもと同じ【オチンポ】のはずなのに、一体、この違いは何でしょう?

(そうだわ。私……今、本当の****をしてる)

 不思議です。虫喰いのように私の意識から『その単語』が抜け落ちてしまうのに、何故か、それが『正しい答え』なのだと分かりました。
 全身の細胞が狂喜しています。繋がった場所から魂が溶けて流れ出していくようです。熱い法悦の涙が次から次へと溢れ出てきます。

 そうです。やっと分かりました! 私はこの瞬間のために生まれてきたのです!

「あっ! あっ! ああああああっ!」
 涙を流しながら、腰を押しつけ前後にグラインドさせます。
 私のナカはもう絶対に放すまいと覚さんの分身をキツくキツく締め上げています。
 でも、ゴツゴツした『堅い肉の塊』は私の腰の動きに反発するようにグンと反り返り、私の内側を容赦なくグリグリ押し広げます。
「気持ち――いいっ! 気持ちいいわ! たまらないの! あああ、スゴい!」
「くっ……お、奥さん。赤ちゃんに、気をつけないと――うくっ! な……流れちゃい……ますよ!」

(――えっ?)

「い……今、奥さんのお腹の中にいる赤ちゃん――産みたく、ないん……ですか?」
 冷たいレンズの光が、揺れながら私の表情を追います。
「イヤイヤイヤ! 産みたいっ! 私、赤ちゃん産みたいですっ!」

 そうです。私の中に芽生えた命――それは今ではなにより大切な私の宝物です。

「もし……ご主人が『産むな』って――言ったら、どう、するんです?」
「い、イジワル! 産むわ! あの人が何て言おうと、私、絶対この子を産みます!」

(ホントにイジワルなんだから……私の気持ち、知ってるクセに――)

「ほ、本当……ですね、奥さん? 奥さんは本当にご主人に――」
「もう、あの人の事なんか言わないでっ!」
「……え?」
「お願い! 私の事、『静香』って呼んでください、『あなた』! 『奥さん』なんて――そんな冷たい呼び方しないでっ! 私、もう、『あなた』に他の呼び方されたくないのっ!」
 腰が勝手にグラインドします。
「ああ! 好きよ、『あなた』! もう、『あなた』しか欲しくない! 何もかも忘れさせてっ! 『あなた』! 『あなた』あああぁっ!」
 泣きながら私は叫びます。
 そうです。私は生まれ変わるのです。
 誰から強制されたのでもなく、自らの意志で『本当の自分』に生まれ変わるのです!
「静香っ! 好きだ、静香っ! 愛してるよ!」
 カメラを放りだした覚さんが、私をギュッと抱きしめ、上から腰を抑えつけます。
「あああっ! す、すごいっ! すごいわ、『あなた』!」
【オチンポ】が子宮口にぴったり狙いを定め、甘く激しくこすり上げてきます。

(ああ、『あなた』。私を――『孕ませ』てくれるのね?)

 不思議です。
 もうすでに私のお腹の中には赤ちゃんが居るというのに、なんだか、今ここで初めて妊娠させていただくような、初々しく切ない気持ちになっています。

(私……欲しい。本当に、赤ちゃん欲しいの。『あなた』――私を孕ませて)

『愛する人の子胤をカラダの奥深くで受け止め、受胎する』――主人との夜の営みではまるで想像出来無かった『女としての本当の悦び』が全身を包みます。

「お……お願い、『あなた』。私……もうダメ。もうすぐ、イッちゃうの。だから……一緒にイッて! 『あなた』の濃くて熱い【精液】を私の子宮に流し込んで欲しいの! お願い、『あなた』! 今すぐここで、私を――『孕ませ』てっ!」
「静香――」
 覚さんの分身が私のナカで膨れ上がります。
「いいん、だね!? 出すよっ? 君を……孕ませるよっ!」
「はいっ! 孕ませて下さい! ああ……カリが広がってるわ! スゴいの……私のナカ、『あなた』で一杯よ! ああ――来てっ! 私の一番奥……来て来て来て来て来てえええぇっ!」
「静香っ! イクよ! 今、イク! イクイクイクイ――くううぅっ!」

(ああ――今よ! 今だわっ!)

 子宮口が開き、覚さんの亀頭の先端をくわえこんだ、その瞬間――

 ビュクンッ!

(熱いっ!)

「あっ! あっ! し、静……あああっ!」

 ビュクンッ! ビュクンッ! ビュクンッ! ビュクンッ!

「あっ! イク! 私、イクわ! イクイクイクイクイクイク……あーーーーーっ!」

 大きく堅い【オチンポ】が私のナカでビクビク跳ね廻り、熱湯のように熱い奔流がカラダの奥でしぶきます。私の腰をギュッと抑えつけた覚さんが、私を孕ませるため、【精液】を一滴残らず子宮に注ぎ込もうとしているのが分かります。

(赤ちゃんに――届いちゃう。染みこんじゃう……)

「静香っ! 愛してるよ、僕の静香っ! しずかああああああっ!」
「私も……愛してる、わ――さとる……さ、ん」

(ああ、いけないわ。私ったら……とうとう、口に出して――)

 満ち足りた気分に包まれ、薄れてゆく意識の中、私は小さく微笑みました。

■■■■

「坂崎さん、坂崎さん」

 誰かが私を呼んでいます。

(ああ――この声、だわ)

 白く霞んだ頭の中で、ぼんやりと私は思いました。
 そうです。私の事を『坂崎さん』と呼ぶのは……私が呼んで欲しいのはこの方です。穏やかで優しくて、だけど時々ちょっぴりイジワルで――

「……ふふっ。ちゃんと『静香』って呼んでくれなきゃ、ダメよ――あなた」
 私は微笑みながら、目を開けます。

(いい……気持ち)

 最高に満ち足りた気分です。
 私は適度に温かいぬるま湯に全身を浸していました。
 どうやら、気付かないうちに湯舟の中まで運ばれていたようです。
「ああ。そうだったね……静香」
 私を胸に抱いた愛しい人がぽっちゃりした顔に輝くような微笑みを浮かべました。
 私は広々した湯舟の中で覚さんに抱かれています。
 元々、広い浴槽が自慢のマンションだったのですが、先月の初めに数十万円かけて浴室を改造したのは、まさにこのため――二人で一緒に入るためでした。
(……あなた)

 んっ。

 そのまま、ごく自然に唇を重ね合わせます。
 甘く、優しく、心を込めた――

「ねぇ、あなた。これって『唇と舌のマッサージ』? それとも……『キス』?」
 フッと顔を離した私は覚さんにイタズラっぽく尋ねます。
「静香はどっちだと思う?」
「ふふ。私はね――」

 んっ。

 再び自分から唇を重ねに行きます。
「“こっち”――だと思うわ」
「ああ。それはきっと……正解だね」
 私達は額を寄せ合い、クツクツと小さく笑い合います。

「――そう。私、また乱れてしまったのね」
 ほぅ、と小さくタメ息をつきます。少し記憶が飛んでいるようです。
 これも『オンナとしての成熟度』が上がったせいなのでしょうか? 最近、あまりに激しい絶頂感のせいで、私は『ハラマセ』の最中によく気を失ってしまいます。
 その度、こうして湯舟の中で覚さんに抱かれて目覚めるのです。
 少し恥ずかしくて――だけど、身も心もとろけるような心地よい目覚め。
 本当の『天国』だと思います。

「どこまで覚えてる?」
「えと……玄関であなたが獣のように私を襲ったトコロまで」
「おやおや、今日はよく覚えているね」
「ふふ。嘘つき! おまけにイジメっ子で――」
 私は手を伸ばすと覚さんのオチンポを優しく握ります。
 まだ、少し芯に堅さが残っています。
 いつもいつも、私を『さかりのついたメス犬』に変えてしまう魔法の道具――今日も“コレ”のせいで私の記憶は飛ばされてしまったのです。
「ホント、憎らしい人」
 チロチロと覚さんの可愛らしい乳首を舐めながら、私はゆっくりと“ソレ”をしごきます。
「うっ! こ……コラ、静香!」
 覚さんも負けずに私の下半身に手を伸ばします。
「あ! いやん、エッチ! あ……はあぁん!」
 淫らでとても楽しい一刻――いつのまに私はこんな『いやらしい戯れ』が大好きになったのでしょう? あの人とは、とてもこんな風には――

「来月末――だね」
 ぽつりと呟いた覚さんの言葉に、瞬間、全身が固まります。
「楽しみかい?」
「う……うん」
 何故なのでしょう? 久々に主人に会えるというのに、ちっとも心が弾みません。
 正直なところ、私は最近、あの人の顔さえよく思い出せないのです。
「おやおや? 『世界で一番愛してるご主人』なのに?」
 少しからかうような表情で覚さんが私の顔を覗き込みます。
「……」
 私は少し口を尖らせると、無言で覚さんのお腹のお肉をつねります。
「いてっ!」
「――イジワル」
 そして小さな子供のように、柔かい覚さんの胸に顔を埋めます。
「どうしてかしら? なんだか私、少し……怖いの。まるで知らない人に会うみたい。あの人、出世する事しか頭に無いみたいで、いつだって張りつめていて――」
 覚さんは私をソッと抱きしめ、優しく髪を撫でてくれます。
「ねぇ、静香。それじゃあ、僕が――ご主人をリラックスさせてあげようか?」
「え……ホント?! 本当ですかっ?!」
 これまで覚さんは『奥さんは内緒で特訓しているんですから、僕の事はご主人には絶対に内緒ですよ』と、厳格な秘密主義を貫いてきました。
 ですから、主人に紹介する事はおろか、一緒に会う事さえ難しいだろうと勝手に決めつけていたのですが――
「そうしてもらえるとすごく嬉しいけど……本当にいいの、あなた?」
「うん。静香のためだものね。だけど、急に僕が現れたら、さすがにびっくりするだろうから、まずは静香の方から僕が調合した例のハーブティーを勧めて、ご主人を軽くリラックスさせてくれないかな? 最初にそうしてくれたら、後はすごく簡単なはずなんだ」
「ああ、いつものアレね。分かったわ!」
 そう。薬学の心得もある覚さんは、毎日とても爽やかなハーブティーを呑ませてくれます。調合は秘密だそうなのですが、いつ呑んでもカラダ中がポカポカして、とても気持ち良くなるので私は大好きなのです。

「緊張がほぐれて話を聞く態勢になったら、きっとご主人だって静香のお腹の赤ちゃんの事を素直に喜んでくれると思うよ」

(あ……)

 その瞬間、私はふと、奇妙な思いに因われました。
 どうしても覚さんに確認しなくてはいけない大切な事がある――急にそう思ったのです。
「ねぇ――あなた。私、教えて欲しい事が……あるの」
「なんだい?」
 ニコニコと微笑む覚さんを前に、私は何故か、とても緊張するのを感じました。
「あなたは……その、ホントは――誰だと思ってるの?」
「ん? 何が?」
「私の、赤ちゃんの……パパ」
「赤ちゃんのパパ?」

 ――ええ、分かっています。本当に愚かな質問です。
 私自身が丹念に記憶を辿り直し、自分自身の力でしっかり納得の行く答えを導き出したというのに、今更、何故覚さんに確認しなくてはいけないのでしょう?
 仮に覚さんが本心では私と違う事を思っていたとして、そんな事を確かめて何になるのでしょう? 私は、一体、覚さんがどんな風に思っていれば満足なのでしょう?
 本当に、突然こんな質問をするなんて愚か過ぎます。
 ああ、だけど――もう、骰は投げられてしまいました。
 私は激しく緊張しながら、覚さんの答えを待ち受けます。
「静香、それはね――」
 一度、言葉を切った覚さんが、ニッコリと満面の笑みを浮かべて答えます。

「『世界で一番、静香の事を愛してる男』――じゃないかな?」

(あああああっ!)
「……違うかい?」
 優しく、頼もしく、覚さんが微笑んでいます。
「ええっ! そうよ――そうだわ! ああ、素敵よ! 満点の答えだわ、あなた!」
 私は覚さんにギュッと抱き付くと、キスの嵐を降らせます。

(ああ、好きよ覚さん! 好き好き好き! 大好き! 素敵なあなたが大好きなの!)

 理由は無いけれど、全てがすっきり片付いたような気分です。大きな大きな安堵が私の胸を満たします。

「ねぇ、静香。それじゃあ、反対に質問なんだけど、君のお腹の赤ちゃんのパパは『世界で一番、静香に愛されてる男』なのかな?」
「えっ? そ、それは――」
 私は一瞬考えた後、イタズラっぽく微笑んで答えます。
「それはまだ……分からないわ」
「どうして?」
「だって――それにはまず私がその人を『世界で一番』愛さないといけないでしょ?
 たくさんたくさん、世界中の誰よりも愛し合わないといけないのよ。ふふふ」
 私は覚さんの手を取り、下半身に導くと自分から腰を押しつけます。
「そうか――それは頑張らないといけないねぇ」
 覚さんは微笑みながら、指先を這わせ始めます。
「え……ええ。そうよ、すごーく頑張らないと……あんっ!」
 まるで秘密のイタズラを思い付いた子供同士のように微笑みを交わし合った私達は、また互いのカラダをまさぐり合います。

「くっ! この……素敵なおっぱいから、じきにミルクが出てくるんだね?」
「んぅ! え……ええ、そうよ。あっ! ねぇ、入れていいかしら、あなた?」
「おや? お風呂場じゃ、声が響くからイヤなんじゃ……うっ!」
「わ、私の声が大きかったら、ちゃ……ちゃんとキスで塞ぐの! あああっ!」

 ズブズブッ。

 呆気無く私のアソコは覚さんの分身を呑み込みます。
(はああ……素敵)
 そのまましばらく余韻に浸るように、じっと動かず、覚さんのオチンポの感触を楽しみます。ナカでゆっくり大きくなっていく感じが、とても愛しいのです。

「ねぇ……あなた。あの人が帰ってきた時、私、なんて呼び分けたらいいのかしら?
 二人とも『あなた』じゃ、少し変よね」
「ふむ――」
 少し考えた覚さんは、またニッコリ笑って答えます。
「ご主人と僕の区別がつけばいいんだよね? それなら、僕の事は『ご主人様』って呼ぶのはどうかな?」

(――えっ! 『ご主人様』!?)

 きゅうううううううううんっ!

「う……締まるっ!」
 小さく呟く覚さん。でも、私はそれどころではありません。

(『ご主人様』……覚さんが『ご主人様』……私の、『ご主人様』?!)

「ご主人……様?」
「なんだい、静香?」

(ああああああああああああああああああああっ!)

 深い感動が胸を満たします。
 訳も無く涙が溢れてきます。こんな気持ちは生まれて初めてです。
「ご主人様……覚さんが、私の……ご主人様。いいの? 本当に……私で、いいの?」
「もちろん」

 ああ! 私の全てを包み込むような優しい笑顔――

「ご主人様! ご主人様! ご主人さまあああああぁ!」

 永い間、一人で迷子だった少女のように、私は必死でご主人様にしがみつきます。
「わ、私……わたし……わた、しいいぃぃ!」
 こみあげる嗚咽で言葉になりません。

(やっと……会えた! 私の――私だけのご主人様! 本当のご主人様!)

 心の奥底から湧き上がる歓喜が、何もかも全て吹き飛ばします。
 私は二十*年間の人生の中で一番の、最高の幸せに包まれていました。
「好きです! 愛してます、ご主人様! 静香はご主人様のメス奴隷です! ご主人様のためなら、どんな事でも喜んでします! だから――だから……」
 ああ、何を言ったら、この気持ちが伝わるのでしょう? 百万語を費しても現しきれない熱い想いが、かえって言葉を詰まらせます。
 そんな私を安心させるようにしっかりと抱きしめ、ご主人様は優しくキスをして下さいます。
「愛してるよ、静香。これからも、ずっとずっと一緒だよ」
「ほ……ホントに? ホントにずっと一緒っ!?」
 小さな子供のようにあどけない口調で尋ねる私。
「そうだよ。僕は世界でただ一人、坂崎静香専用のマッサージ師だからね。静香を『ハラマセ』ていいのは、僕だけなんだよ。いいね?」

 きゅんっ!

 ご主人様の真剣な問いかけに子宮が疼きます。
「は……はいっ! 私が孕ませていただきたいのは、ご主人様だけです!」

(ああ、こんな風に言えるなんて……嬉しい! 嬉しい嬉しい嬉しいっ!)

「二人目も三人目も僕が責任をもって『ハラマセ』てあげるからね。いいかい?」
「はいっ! 私、産みます! ご主人様の赤ちゃん……可愛い赤ちゃんをたくさん産みます! だから……お願い、これからもずっとずっと静香を可愛がって下さいね」
「ふふ。これからママになるのに、ずいぶん甘えん坊さんだね、静香は」
「だって……だってぇ――」
「可愛いよ、静香。僕の――静香」

 こりんっ!

「はああぁんっ!」
 ご主人様の堅くてたくましいオチンポが私のナカをこすり上げます。
「あぁん! ふ、不意打ちはひきょおぉ……あはあぁんっ!」
 こらえようもなく、甘い声が上がります。
 ちゃぷちゃぷと湯舟に盛大に波を立てながら、ご主人様が本格的に私を攻め始めました。

「ううっ! 声、出ちゃう――出ちゃうのぉっ! キス……お、お願い、ご主人様ぁ、静香にキスしてぇ――はああぁんっ!」
「ふふ。はしたないなぁ。お風呂場でそんな声を上げるいやらしい子は『おしおき』だよ?」
「いやぁ! イジワル! ご主人様のイジワルうぅ! 約束が……あんっ! 違……ああああん!」

(ああ、本当にエッチでイジワルなご主人様。静香は、そんなご主人様が――)

「好き好き! 好きいいいぃ! ご主人様、大好きなのおおおぉっ!」

 私はマンション中に響くような大きな悦びの声を上げます。
 二人の夜はまだまだ始まったばかりです。

< END >

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