ライフ=シェアリング 青葉と紅葉 

(『ライフ=シェアリング』は、Panyanさんの作品です)

- 序 -

 ライフ=シェアリングとは、死すべき身体を、命を、心を、グランツ(与える者)が、アクセプツ(受諾する者)に命を分け与える事で繋ぎ止める技術を言う。
 それは、素晴らしい技術のように思える。しかし、弊害が無い訳ではない。
 ライフ=シェアリングは、グランツがアクセプツの心を、身体を、支配する事が出来るようになってしまうからだ。
 それは、脅迫というレベルでは無く、文字通り相手を支配する事が可能になるという事だ。
 また、グランツが死ぬ時、アクセプツも死んでしまう。
 それ故に、ライフ=シェアリングは廃れていくのも必然だったのかも知れない。

 ――あなたは、大事な人が死にそうな時、ライフ=シェアリングしますか?

- 1 -

 いつものように味気ない学校から帰ってきた私は、ベランダに今朝干した洗濯物が出しっぱなしになっているのを見つけ、舌打ちをしながら我が家の扉を開けた。

「ただいま」

 少しして、ぺたぺたと足音を立てながら、全裸の姉さんが奥の和室から出てきた。
 そう言えば、昨日むしゃくしゃしたついでに『家の中では全裸』って命令したんだっけ、と思い当たる。
 加えて言えば、姉さんの股間はつるつるで、きれいな割れ目が覗いていた。全裸ついでに下の毛も剃る様に命令した結果だ。
 そろそろ寒くなり始める季節に、そんな格好では風邪を引くかもしれなかったが、別にどうでもいいかと思い直した。

「おかえり、青葉ちゃん」

 姉さんはそう言って、全裸のまま私に向かって微笑む。
 目が赤い。それに、少し腫れているようだ。また、いつものように泣いていたんだろうか。
 私は、すっかり仕事を忘れているであろう姉さんを睨みつける。

「……ど、どうしたの、青葉ちゃん? 何か、嫌なことでもあったの?」

 心配そうに私の顔を覗き込む姉さんを見ていると、どんどん苛立ちがこみ上げてくる。

「洗濯物」
「え?」
「昼過ぎには取り込んでおいて、って言ったよね、私」
「あ……!」

 今気づいたという風に声を上げた後、姉さんは顔を青ざめさせる。
 仕事を忘れた時に、私が与える罰を思い出したからだ。

「ご、ごめんなさい青葉ちゃん! お姉ちゃん、すっかり忘れちゃってて……! い、今すぐ取り込んでくるから!」
「別にいいよ、もう。私が取り込んでくるから。姉さんは邪魔だから、下に居てて」
「うぅ……ごめんね、本当にごめんなさい!」
「……はぁ」

 放って置けばいつまでも謝り続けそうな姉さんに聞こえるように、私は大きくため息をつく。それだけで、姉さんの身体がびくっと震える。

「もういいよ。それより、頼んだ仕事もできない姉さんは、晩御飯なんかいらないよね?」
「え……そ、そんな……。お姉ちゃん、今日は朝からずっと何も食べてなくて、それで……」
「知らないよ。それは、姉さんが昨日トイレと風呂を洗うのを忘れたからでしょ」
「で、でも……」
「ああもう、うるさいなぁ。『姉さんは私の言うことに従うのが嬉しい』んでしょ?」

 ぐずぐずと尚も何かを言おうとする姉さんを遮るようにして、命令をする。

「あ……」

 私の言葉が姉さんの脳に浸透するのと同時に、姉さんはにっこりと微笑んだ。

「うん、そうだよ。仕事を忘れちゃったのはお姉ちゃんが悪かったから、青葉ちゃんの言う通り今日の晩はドッグフードなしで過ごすね」
「そうそう、それでいいの」

 私は姉さんの豹変に満足しながら、洗濯物を取り込むために二階へとあがる。
 ふと気になって下を見ると、姉さんはにこにことしながら再び和室へ戻るところだった。

 私たちは、狂っている。
 あの日から、ずっと。

- 2 -

 今ではろくに仕事もできない姉さんだけど、昔は違った。
 昔の姉さんは優等生で、明るくて、美人で、いつもきらきら輝いていた。
 いつでもみんなの人気者で、人の輪の中心には姉さんの笑顔が咲いていた。
 なかなか人となじめず、教室の隅でこっそりと息をしている私とは大違いだった。
 姉さんは完璧で、誰もが姉さんの一番になりたがったが、姉さんの一番は決まって私だった。

「どうしたの、青葉ちゃん? お姉ちゃんに相談してごらん?」

 私が両親と上手くいかずに一人で部屋に篭って泣いていると、決まって姉さんはそう言って私を励まそうとした。
 自分が、その原因を作っているとも知らずに。
 なんでも出来る姉さんに、私はいつも比べられていた。
 両親は、いつでも完璧な姉さんばかりを大事にしていた。

「どうして、紅葉はあんなにできるのに、あなたは全然できないのかしらね。似たのは顔だけなのかしら」

 何度、お母さんにそう言われたかもわからない。
 そう言われる度、私の心はバカみたいに何度でも深く傷ついた。
 いつまでたっても、慣れることは無かった。
 家に居れば常に、両親が私の不出来を責めているように感じた。 
 学校に居れば常に、周囲が私と姉さんを比べては私を笑っているように思えた。
 普通だったら不登校になったり、引きこもったりするのかもしれないが、私にはそれが許されなかった。

「元気出して、青葉ちゃん。お姉ちゃんは、いつでも青葉ちゃんの味方だからね」

 姉さんはいつもそう言って、私が自分の殻に閉じこもろうとするのを邪魔した。
 暗くてじめじめしたところが似合う私を、無理やり日の光が当たるところに引きずり出した。
 姉さんに、悪気は無かった。
 ただ、暗いところを好む人間が居るということを、理解できていないだけだった。
 私はそれにつき合わされ、浴びたくも無い日光を浴びさせられた。
 姉さんはいつもそうやって私を消毒すると、やり遂げたような顔をして笑った。
 滅菌された私は、自分の身を守るものが無い状態で、衆目に晒され続けた。

 転機は、唐突だった。
 それは、姉さんの誕生日の前日だった。
 姉さんがかねてから欲しがっていたジュエリーが完成したとの知らせを受け、車で取りに行くことになった。
 姉さんは何度も私を誘ったが、私は頑なに留守番を希望した。
 ほんの僅かの間だけでも、暗くてじめじめした空間に篭りたかった。
 少し寂しそうな顔をした姉さんと、出来の良い娘と一緒に外出できる喜びに顔をほころばせた両親は、そのまま車で出かけていった。
 私は、誰も居なくなった家の中で一人、本を読んだり、テレビを見たり、二階の自分の部屋に閉じこもったりして、孤独な闇を味わいながら過ごした。
 そうして、そろそろ姉さんたちが帰ってくる時間になった。
 暗闇でうとうととまどろんでいた私は、窓の外から聞こえた轟音で目を覚ました。
 誰かが叫ぶような甲高い音、そして何かが壊れる音だった。
 嫌な胸騒ぎがした私は、急いで外に出てみた。

 姉さんと両親を乗せた車が、トラックにめり込んでいた。

 私は呆然としながらも、前がぺちゃんこになった車に駆け寄った。
 車内はぐちゃぐちゃに真っ赤だった。
 両親の血とか、肉とか、そういったものが辺り中に飛び散っていた。
 微かなうめき声が聞こえた。
 その方向へ顔を向けると、姉さんが頭から真っ赤な血を流しながら私へ手を伸ばしていた。
 見た感じ、凄く血が出ていた。あちこちの骨も折れているようだった。
 そして、もうすぐ、死にそうだった。
 姉さんが、死ぬ。
 姉さんが、居なくなってしまう。
 私は何かをでたらめに叫びながら、がむしゃらに走った。
 気がつくと、私の手には小さな機械が握られていた。
 目の前には、動かなくなった姉さんが居た。
 姉さんは、死んでも綺麗だった。
 私は当然のように、青いリングを自分の、赤いリングを姉さんの小指にはめて、赤いボタンを押した。
 躊躇いは、なかった。
 ボタンを押した瞬間、じめじめした私の命が、きらきらした姉さんの身体に流れ込んでいくのがわかった。
 そして、私は気を失った。

 それからが大変だった。
 両親の保険金のおかげでお金に困ることはなかったけれど、あの事故の日以来、姉さんは変わってしまった。
 時間があるときはいつも、そして時には無いときでさえ、和室にある両親の仏壇の前で泣くようになった。
 きらきらと輝いていた姉さんは、私と同じようにじめじめするようになってしまった。
 姉さんが駄目になったせいで、家の中の用事はすべて私がすることになった。と言っても、普段から両親に気に入られようと頑張ってきたから、それほど難しいことは無かった。
 もっとも、褒めてくれる人はもう誰も居ないのだけれど。
 あの事故以来、私と姉さんの立場は完全に逆転した。
 そんなある日。
 いつものように仏壇の前でじめじめと泣く姉さんを見て、ふと、何故か無性に腹が立った。
 家の仕事を全て私に押し付け、一人で感傷に浸っている姉さんが、とても愚鈍に見えた。
 そんな姉さんは、見たくなかった。

「『笑え』」

 気づけば、そう、声に出していた。
 姉さんは、眼を真っ赤に腫らしながら、私を見てにっこりと笑った。

 その日から、私たちは狂い始めた。

- 3 -

 洗濯物を取り込み終えた私は、台所でご飯を食べていた。
 もちろん、私のご飯は普通のご飯だ。
 今日のメニューは、野菜炒めと焼肉。肉汁を野菜が吸って、なかなかコクがある味になった。個人的には成功だ。
 そして、ドッグフードを抜かれた姉さんはと言えば、ひもじそうに私の足元の近くにうずくまっていた。
 少し哀れに思ったので、食べ物を分けてあげることにした。

「姉さん」

 私の声に、姉さんは顔を上げる。

「ほら、これ。あげるよ」

 私はそう言って、お肉を一枚、箸でつまんで床に投げる。

「あ、ありがとう、青葉ちゃん!」

 姉さんはさも嬉しそうに、床に這いつくばってお肉を口に運ぶ。手は使わない。犬のように、顔を床にこすりつけながら、私が投げたお肉を何度も咀嚼する。

「もったいないから、床についた汁も舐めるんだよ」
「うん。わかってるよ、青葉ちゃん」

 そう言って姉さんは、舌を出してぺろぺろと床を舐める。
 その姿を見ていると、なんだか、笑いがこみ上げてきた。きっと、これは愉快な気分なんだ。

「姉さん、こっちに来て」

 私はそう言うと、パンツを脱いで姉さんに向けて股を開いた。

「ちょっとおしっこしたくなったから、『姉さんが飲んで』」
「あ……うん、わかったよ。青葉ちゃんのおしっこ、お姉ちゃんに飲ませて?」

 そう言って姉さんは、目を瞑って大きく口を開ける。
 私はその大きく開いた口の中に、おしっこをする。

「んぐ、んぐ、んぐ……」
「こぼさないでね、一滴も」

 喉を鳴らし、次から次へと口の中に注がれる私のおしっこを、姉さんは嬉しそうに喉を鳴らしながら飲んでいく。

「んぐ、んぐ……ふぅ。いっぱいでたね、青葉ちゃん」

 姉さんは私のおしっこを全部飲み干すと、そう言ってにっこりと笑った。
 ああ、とても愉快だ。
 あの姉さんが、私のおしっこを飲んで笑うなんて。

「じゃあ、私は食器を洗うから、姉さんはお風呂を洗ってきてね」
「うん、わかった。お姉ちゃん、頑張るからね」

 姉さんはそう言うと、風呂を洗うために立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
 その後姿に、私は声をかけた。

「ねえ、姉さん」
「ん、何? 青葉ちゃん」
「私のおしっこ、おいしかった?」
「え? んー……」
「『美味しかった』、よね?」
「あ……うん。ちょっとしょっぱくて、でも青葉ちゃんの味がして、おいしかったよ」
「そう。それはよかった。また気が向いたら飲ませてあげるから。じゃあ姉さん、お風呂洗いよろしくね」
「うん、お姉ちゃんに任せて!」

 姉さんはそう言って、張り切って台所から出て行った。
 そして、少し経ってから、風呂場で何かを倒すような派手な音が聞こえた。
 私はため息をついて、一人分の食器を洗う手を止めると、風呂場に向かって歩き出した。
 ねえ、姉さん。
 今度は、どんな罰がいい?

 私たちは、狂っている。
 あの日から、ずっと。

- 4 -

「なあ、マジでやっていいの、お前?」

 私の前の、いかにも頭が足りなさそうな髪の色をした男子が、そう遠慮がちに言った。

「別に。それより、ちゃんと金はあるんでしょうね」
「あ、ああ……。ほら、四人分」

 そう言ってそいつが差し出した手には、一万円札が四枚握られていた。
 私はそれを受け取ると、自分の財布にしまう。

「何度も言うけど、露出プレイとか、他の人に見られる可能性があることは禁止。写真やビデオとか、後まで残るものも禁止。あと、もちろん身体に傷をつけたりとかは禁止。それ以外なら、何してもいいから。あ、使っていいのは今日の午後六時までだからね」
「そりゃ、わかってるけどよ……でも、お前の姉さんなんだろ?」
「それが?」

 バカらしい。
 言葉こそ遠慮をしているように聞こえるが、落ち着きの無さや視線の彷徨い具合から見れば、期待しているのは一目瞭然だ。
 第一、悪いと思っているなら普通、金なんか用意しないだろう。
 結局こいつは、責任を負いたくないだけだ。
 私に、全ての原因をかぶせて、自分たちだけいい思いをしたいだけだ。
 くだらない。
 そんなに自分が大事なら、いいよ。乗ってあげる。

「グランツの私がいいって言ってるんだからいいのよ。何、それとも今更になってビビッてるの? あ、もしかして童貞君?」
「ばっ……ふざけんなよ!」

 あらあら。
 ものの試しで言ってみたけど、案外図星をついちゃったかな。
 こいつは怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。

「わかったよ! ただし、俺はもう知らないからな! お前がいいって言ったんだからな!」

 そうそう。そうやって、私のせいにしたかったんでしょ?
 よかったね、上手くいって。

「わかったならいいのよ。じゃあね」

 私はそう言って、さっさとそいつの前から立ち去った。
 そいつはまだ、私の後姿に向けてなにか叫んでいた。

 ・
 ・
 ・

 帰宅した私は、姉さんに事情を説明してあげた。

「え……? い、今なんて、青葉ちゃん?」
「だから、姉さんは今から私の同級生四人に犯されにいくの。わかる? 輪姦ってやつ」
「そ、そんな……」

 姉さんは、面白いくらいに顔を真っ青にする。

「なに、文句があるの?」
「そ、それだけはやめて! お願い、青葉ちゃん!」

 まただ。
 姉さんにそんな顔をされると、どんどん苛立ちが募ってくる。
 私の姉さんが、そんな惨めな顔をするな。

「だって、昨日言ったでしょ。お風呂掃除も満足に出来ない姉さんには、とびっきりの罰を与えるって」
「そ、それにしたって、り、輪姦なんて……!」
「……なに、私が悪いの?」
「う……」
「違うよね? 姉さんが仕事をちゃんとできないから、罰があるんだよね?」
「そ、それはそうだけど、でも……」
「『黙れ』」

 命令すれば、すぐに姉さんは口を閉じる。
 ああ、全く本当にイライラする。
 ろくに仕事も出来なくて、挙句じめじめしていて。
 まるで、少し前までの私みたいで。

「いい、姉さんに命令。『姉さんは、私の言うことは何でも喜んで従う』の」
「あ……」
「『男たちにマワされるのは、とても気持ちがいいこと。姉さんは、何をされても感じてしまう淫乱。姉さんは、犯されるのが楽しみでたまらない』」
「あ、あ……」
「さあ、わかったらいってらっしゃい」
「……うん」

 さっきまでの抵抗はどこへやら。
 姉さんは、今は期待に目を輝かせながら頷いた。

「じゃあ、お姉ちゃん頑張ってくるからね!」
「はいはい、いってらっしゃい」
「いってきます!」

 姉さんはハミングしながら、妹の同級生にマワされに行った。
 私は、学校で受け取った四万円を財布から取り出し、眺める。
 姉さんを売った、お金だ。
 さて、このお金でどう遊ぼうか。
 どこか旅行に行くのもいいし、何かをパーっと一気に大人買いするのも楽しいかもしれない。
 とりあえず、部屋の電気を消して考えよう。

 ・
 ・
 ・

 姉さんが帰ってきたのは、その日の夕方だった。
 身体中からぷんぷん精液の臭いを漂わせながら、姉さんは笑顔で私に「上手に相手をしてきたよ」と報告した。

「最初は、みんなのちんぽを舐めることからはじめたの。もちろん、四人同時にしゃぶるのは無理だから、手を使ったり髪を使ったりしてね。胸を使えればよかったんだけど、あいにくお姉ちゃんのサイズじゃ無理だったの。そうそう、みんな、全然洗ってなかったらしくて、すごく臭かったんだよ。でも、何度もしゃぶっているうちに、なんだか頭がぼーっとしてきてね。いつの間にか、しゃぶるのが好きになってたの。あ、そうそう、中には我慢できなくて出しちゃった人もいたよ。後でちゃんとお姉ちゃんとセックスできるのに、もったいないよね。まあ、精液はおいしかったからいいんだけど。
「みんなのちんぽをしゃぶり終えたら、いよいよ本番。初めは、お姉ちゃんが仰向けになって足を開いてハメたんだけど、二人目の人は、上から入れるように命令したから、その通りにしたの。そしたら、なんだか凄く気持ちよくなっちゃって。多分、子宮が降りてきたんだろうね。あ、もちろん、その人のちんぽが長かったってのもあるんだけど。三人目は、お姉ちゃんを犬みたいに四つんばいにして、後ろからハメたの。前の二人の時は、まんこの裏側……背中側って言えばいいのかな? とにかく、そこにちんぽの先が当たってたんだけど、後ろからハメられると、今度は反対側、おへそ側にちんぽが当たってね。お姉ちゃん、何度もお馬鹿みたいな声を出してイッちゃった。四人目の人は、ちょっと変わった体勢をしたがってね。なんだっけ……まんぐり返し、だっけ? お姉ちゃんに身体を丸めさせて寝転ばせて、上を向いたまんこにちんぽを入れたんだよ。ちょっと苦しかったけど、さっきまででいっぱいまんこの中かき回してもらったから、もう気持ちいいってことしかわかんなくなっちゃった。あ、全員、お姉ちゃんに中出ししたよ、もちろん。ゴムをつけると、感触がよくわからないんだって。それで、その次にね……」

 楽しそうに自分がどのように犯されたのかを報告をする姉さんを見ていると、何故か、無性に腹が立った。
 原因を少し考えて、姉さんが臭いからだという結論にたどり着いた。

「わかったから、もう黙って。ついて来て」
「……? わかったよ」

 姉さんを裏庭に連れて行き、裸にさせる。

「ほら、さっさと服を脱いで。全裸になって」
「う、うん……」

 この時間は外も暗くなってきている上に、ここは通りや近所の窓からは上手い具合に死角になっている。
 私は水撒き用のホースを持つと、水流を最大にして、その先を裸の姉さんに向けた。

「きゃあっ!? つ、冷た……!」
「我慢して」

 突然の冷水に悲鳴を上げる姉さんには構わず、私は水を姉さんの身体中に当てる。
 散々揉まれたであろう胸や、何回もチンコを突き刺されたマンコに水が当たると、姉さんは一際大きく身体を震わせる。
 なんだか、射撃みたいでちょっと面白い。

「つ、冷たいよ、青葉ちゃん……」
「何? 折角人が洗ってあげてるんだから、つべこべ言わないでよ」
「あ、ご、ごめんね……。ありがとう、青葉ちゃん。お姉ちゃんを、洗ってくれて」

 そう言って、姉さんは私に向けて弱々しく笑いかける。
 まただ。
 またイライラする。
 そんな顔をするな。
 そんな顔で、私を見るな。

「……だいたい、洗い終わったよ」
「うん、お姉ちゃんも綺麗になった気がする。ありがとうね、青葉ちゃん。わざわざ洗ってくれて」
「そうだね。あ、でも、まだ洗ってないところがあるよ」
「え……」

 姉さんが不思議そうな顔をするが、私は構わずにホースを持って姉さんに近づく。

「ひぎぃっ!?」

 そして、水が出ているホースの先端を、姉さんのマンコにねじ込んだ。

「ひゃ、うああっ!」
「ほら、ここの中は洗えてないでしょ?」

 突然のことに身体中を震わせる姉さんに構わず、私は続ける。

「姉さん、ほら、こうやって自分で中を洗うの。『マンコに自分で浣腸しなさい』。そうね……『前と後ろ、十回ずつ浣腸したらおしまい』。ほら、頑張って」
「ひ、ひぐ……!」
「姉さん、『返事』は?」

 私の言葉に、姉さんは従う。

「わ、わかったよ青葉ちゃん! お姉ちゃん、自分でまんこと尻にお水の浣腸を十回ずつするね……っ!」
「そうそう、それでいいの。大丈夫だよ、『姉さんは浣腸に感じちゃう変態さん』だから。じゃ、終わったら後片付けしといてね」
「わかったよっ……! ひぐ、そ、それじゃお姉ちゃん、頑張るから……ッッ!」

 恐らくは冷水のショックだけではない理由でびくびく痙攣しながらも、律儀に返事を返す姉さんを尻目に、私は家の中に戻っていった。 
 今度失敗したら、何をさせようかな。
 犬とヤらせるのも、面白いかな。
 そんなことを考えながら。

 私たちは、狂っている。
 あの日から、ずっと。

- 5 -

 その夜。
 私は、家族の夢を見た。
 夢の中で、私は、姉さんと両親と一緒に、どこかに遊びに行っていた。
 両親は、姉さんと同じくらい、私に向かって微笑んでくれた。
 世界中のすべてが、姉さんと同じようにきらきら輝いていた。
 その世界には、驚くべきことに私も含まれていた。
 私は、姉さんと手を繋いでいた。
 私が笑うと、姉さんも笑った。
 姉さんが笑えば、私も幸せな気分になって、笑った。
 私は、姉さんと同じように輝いていた。
 姉さんと同じように、両親から愛されていた。
 そして、姉さんに心から愛されていた。
 私の中で世界は美しく、彩を持って輝いていた。
 私はその世界の中で、日の当たる場所の美しさを知っていた。
 日光がきらびやかに降り注ぐ中、私と姉さんは、いつまでも、いつまでも遊び続けた。

「……」

 気がつけば、私はいつも寝ている布団に横たわっていた。
 いつの間にか、目が覚めていた。
 目が覚めた後の現実は、いつも通りだった。
 私はやっぱり、じめじめしていた。
 暗闇の中で、ひっそりと息をすることのみを許された存在だった。

「……う……!」

 気づけば、私は泣いていた。
 見てはいけないはずの夢だった。
 姉さんみたいになりたいなんて、思っていないはずだった。
 姉さんみたいにみんなから愛されることなんて、望んではいけないはずだった。 
 私は、姉さんとは違う。
 姉さんみたいにきらきら輝けないし、姉さんみたいに完璧でもない。
 そんなことはわかりきっていたはずなのに、私は心のどこかでそれを望んでしまっていた。
 そのことがとても悲しくて、悔しくて。
 私は、布団にもぐりこんで泣き続けた。

「……青葉ちゃん」

 いつの間にか、姉さんが布団の横に座っていた。
 水に濡れた髪からは、ぽたぽたと雫が垂れている。
 そしてその目は、心配そうに私を見ていた。
 どくん。
 私の心臓が、震えた。
 どうして。
 どうして姉さんは、そんな目で私を見れるのよ。

「青葉ちゃん……? 大丈夫?」

 姉さんは、あくまで心配そうに私に尋ねる。

「どうしたの、青葉ちゃん? お姉ちゃんに相談してごらん?」

 どくん。
 また、心臓が震えた。

「……して」
「え?」
「……どうして、姉さんはそんな風に言えるのよっ!」

 私は、思わず叫んでいた。
 突然叫んだ私に、姉さんはおろおろするばかりだ。
 私だって、なんで叫ぶのかわからない。
 でも、叫ばないと、駄目になってしまう気がした。

「え、え? どうしたの、落ち着いてよ青葉ちゃん」
「何なのよ、姉さんは! どうして、自分をいじめる妹にそんな目を向けられるのよ!」
「そ、そんなこと言っても……。だって、青葉ちゃんは、私の大事な妹だし……」
「はぁ!? その大事な妹は、姉さんに犬の餌を食べさせたり、おしっこを飲ませたり、同級生に輪姦させたり、冷水で浣腸させたりするのよ!? それなのに、どうしてよっ……!」
「……え、そのこと?」

 姉さんは一瞬きょとんとした後、いつものように笑顔を浮かべて言った。

「だって、それが幸せなように青葉ちゃんが私を変えたんでしょ?」

 あ。
 あ。
 ああ、あああああああああああ。

「――いやあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 私は、耳を塞いで絶叫した。

「ど、どうしたの青葉ちゃん!?」

 姉さんは。
 姉さんは姉さんは姉さんは。
 いつもいつもいつも、私の言う通りに心を変えられて。
 それを幸せだと感じて。
 おしっこを飲んで、笑って。
 輪姦されて、楽しんで。
 浣腸されて、喜んで。
 虐める私を、愛して。
 そんな風に、私が姉さんを壊したんだ。

「やめてやめてやめてぇぇっ! 違う、違うの、そんなつもりじゃなかったのよぉっ!」
「ちょ……落ち着いて、青葉ちゃん! どうしたの!? 大丈夫、お姉ちゃんは怒ってないよ? むしろ、嫌なはずのことが楽しくなって、お姉ちゃん、逆に嬉しいくらいなんだよ?」
「違う違う違うっ! 違うの、私はただ、姉さんに笑っていて欲しかっただけなのぉっ! なのに、なのに……!」

 自分でも何を言っているのかわからない。
 頭の中が笑う姉さんと謝る姉さんと泣く姉さんとでぐちゃぐちゃに掻き混ざってどんどん崩れていく。
 私の頭の中に住む姉さんが私を私じゃなくしていく。
 輝いていた姉さんとじめじめした姉さんが混じり合って一つになって私の頭をシェイクして私をどんどん腐らせていく。
 そうしてぐざぐざになった私をじめじめと輝く姉さんが笑顔で見下ろす。
 きらきらと。

「どうして、どうしていっつも私の邪魔ばっかりするのよぉ……!」

 私がどんなに努力しても、いつも姉さんは私よりも上だった。
 姉さんには何一つ叶わなかった。
 なのに、私が諦めようとすれば、決まって姉さんが私を励ました。
 私はいつも、したくもない努力をすることになった。
 姉さんを超えることは、決して出来なかった。

「姉さんが、姉さんがいるから、私はこんなに辛いのにぃっ!」

 両親も、周囲も、世界も、みんなみんなみんな、姉さんばっかりを褒めて。
 傍に生きている私には少しも目をくれず、ただひたすらに姉さんばかりを愛して。
 私に愛を注いでくれるのは、世界でたった一人の姉さんだけで。
 その姉さんが私を世界で一人にした原因で。
 ああ、もう頭が割れそうに痛い。
 私はこのままどうなるんだろう。
 何がなんだかもうわからない。
 いろんな感情が頭の中を駆け巡って爆発して脳細胞を残らず虐殺して私が馬鹿になる。
 まるで駄々をこねる赤子みたいに何もかもが嫌になる。
 これも、姉さんが居るせいだ。
 姉さんが居るから、私はこんなに。

「私の前から消えてぇっ! もう、私に構わないでぇっ!」
「え……あ、あおばちゃ……」

 私に手を伸ばそうとする姉さんを払いのけて、私は叫んだ。

「――『姉さんなんて、死んじゃえばいい』のにぃっ!」

 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。

「うん、わかった」

 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。

「じゃあね、青葉ちゃん」

 ……。

 ぐしゃ。

 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……。
 ……え?
 ……『ぐしゃ』?

「ね……姉さん?」

 声を出す。
 姉さんを呼ぶ。
 いつもなら「なに、青葉ちゃん」と言ってくれるはずなのに、何も聞こえない。

「ね、姉さん。『返事をして』?」

 命令。
 アクセプツにとっては絶対であるはずの、命令。
 なのに。
 何も、聞こえない。
 と、私の部屋の窓が開いているのが目に入った。
 確か、この下は駐車場のはずだ。
 事故の後からは車なんて必要なくなったから、ただのコンクリートに固められた地面だけれど。
 コンクリート。
 コンクリートは、硬い。
 二階からスイカを落としたら、割れるくらいには。
 スイカよりも硬いものを落としても、もしかしたら割れるくらいには。

「……」

 私はふらふらと立ち上がって、窓から下を見る。
 変な格好で姉さんが倒れていた。
 手とか、足とか、首とか、ばらばらな方向を向いてて、しかもなんか赤くて、まるで  みたい。

「――」

 ひゅう、と喉が鳴る。
 大丈夫、大丈夫。
 これは、姉さんの冗談だ。
 私があんまり勝手なことばっかり言ってたから、仕返しに姉さんがいたずらしてるんだ。
 今までに一度も、姉さんが私にいたずらをしたことなんてなかったけれど。
 いたずらにしては、開いたままの目とか、流れ出る とか、随分リアルだけど。

「ね……姉さん」

 呼びかける。
 返事は無い。
 姉さんは、動かない。
 当たり前だ、姉さんは     だから。
 違う違う、これはいたずらなんだから、返事をしちゃったら私にばれちゃう。
 だから返事をしないんだ、それだけだ。

「……姉さん、『返事をして』」

 命令。
 グランツからの、命令。
 なのに、姉さんは何も言わない。
 姉さんは、動かない。
 当たり前だ、姉さんは   るんだから。

「ね……姉さん、『返事をしなさい』!」

 命令。
 命令。
 命令。
 なのに、姉さんは何も言わない。
 姉さんは、動かない。
 当たり前だ、姉さんは んでるんだから。

 姉さんは、死んでるんだから。

「……ひゃああっ!?」

 私は窓から一気に反対側の壁まで後ずさった。
 背中を壁につけたまま、ずるずると座り込む。
 身体中に力が入らない。
 だって、姉さんだよ。
 姉さんが、つぶれてるんだよ。
 頭を真っ赤にして。
 目とか開けたまま。
 ちっとも動かなくて。
 命令しても。
 お願いしても。
 死んじゃってて。
 姉さんが、死んでて。
 姉さんが。
 あの日みたいに。
 私を置いて。
 姉さんが。
 自分だけ。
 どこかに。
 いっちゃう。

『……ねえ、青葉ちゃんは本当に来ないの?』
『うん。ちょっと、気分がよくないから』
『大丈夫なの? やっぱり、今日は行くのやめようか?』
『平気だって。姉さん、楽しみにしてたんでしょ?』
『それは、そうだけど……』
『それなら、行ってきなよ。ほら、お母さんが呼んでるよ?』
『でも……それだと、青葉ちゃんが一人きりになっちゃうでしょ?』
『大丈夫。私は、一人でも大丈夫だって』
『そう……? 寂しかったりしない?』
『姉さん……。子供じゃないんだよ、私』
『そ、そうだけど』
『大丈夫だって。ほら、いってらっしゃい、姉さん』
『う、うん。じゃあね、青葉ちゃん』

 そう言って姉さんは、階段を下りていく。
 私は、暗い部屋に取り残される。
 姉さんという光を失った私は、暗闇でぐずぐずと腐っていく。
 そうして私は世界でたった一人になる。
 誰からも愛されず、じめじめと生きていく。
 嫌だ。
 また、置いていかれる。
 私が、一人になる。
 一人は、いやだ。
 暗いのは、いやだ。
 姉さんと会えなくなるのは、いやだ。

「いやだよ……」

 連れて行ってよ。
 私も、姉さんと一緒に行きたいよ。
 窓の外に、お父さん、お母さん、そして二人と手を繋ぐ姉さんが見える。
 姉さんたちは、どんどん空へ向かって歩いていく。
 私を置いて。
 どこか、遠くへ。

「置いて、行かないで……!」 

 姉さんが、振り返る。
 私を見る。
 笑って、手を振る。

「私も、一緒に……!」

 私は立ち上がる。
 姉さんが微笑む。
 姉さんは、きらきらと輝いている。

「姉さん……!!」

 私は、輝く姉さんへと手を伸ばす。
 私は、姉さんに向かって走り出す。
 私の手が、姉さんに触れ

- Epilogue -

 幼い女の子が、部屋の隅で膝を抱えて泣いている。
 夜も遅い時間。既に日は落ち、明かりをつけていない部屋の中は闇と同化している。

「ひぐ……えっぐ、う……おかあさんの、バカ……」

 何度も何度もしゃくりあげながら、女の子は膝に涙をこぼす。
 女の子は先ほど、母親に叱られたばかりだった。
 母親の言葉を思い出しては、女の子は目に涙を溢れさせる。

「……だいじょうぶ、あおばちゃん?」

 いつの間にか、すすり泣く女の子の前に、よく似た顔をした女の子が座っていた。

「なにがあったの、あおばちゃん?」
「う……おねえちゃん……」

 すすり泣く女の子は、何度もつっかえながらも、自分が母親に叱られたこと、そして傷ついたことを話す。
 目の前の姉はそれを黙って聞いていたが、泣きながら妹が最後まで語り終えたのと同時に、妹を強く抱きしめた。

「おねえちゃん……?」
「つらかったね、あおばちゃん。でも、げんきをだして」
「でも……みんな、わたしをだめなこっていって……」
「だいじょうぶ。なにがあっても、おねえちゃんはあおばちゃんのみかただよ」

 目の前の妹を抱きしめながら、姉は優しく囁く。
 その声に、妹はおそるおそる顔を上げる。

「……ほんとうに?」
「うん。おねえちゃんはぜったいに、あおばちゃんをきらいになったりしないよ。だから、あんしんして?」
「……でも、おねえちゃんも、どこかにいっちゃうんでしょ?」

 妹は、母親に先ほど言われた言葉を思い出し、震える。
 そんな妹を愛おしく思いながら、姉は宣言する。

「だいじょうぶ。おねえちゃんとあおばちゃんは、ずっといっしょだよ」
「ずっと、いっしょ?」
「そう。だから、げんきだして?」
「……ん」

 照れくさそうに微笑む妹の頭を、姉はにっこりと微笑みながら撫でる。
 世界で一番大切な妹の頭を撫でながら、姉は心の中で呟く。

 そう。
 私と青葉ちゃんは、ずっと、一緒だよ。
 死が、二人を別つまで――

< おわり >

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