第十五話
漆黒の石材で造られた魔王城の玉座の間。闇が満ちるその空間に、二つの人影が対峙していた。禍々しさを持つ闇の玉座にもたれかかる屈強な魔人と、それに向かい合うように立つ魔術師のローブに身を包んだ人族の青年。人族の青年は魔人の怪力によってその右半身を砕かれて、屈強な魔人は人族の青年が放った魔術による氷の刃で左半身を引き裂かれていた。魔人と青年は、既に息絶えてもおかしくないほどに肉体を失いながら、なお戦意を失わずに向かい合っていた。
「およそ、七日間か……俺たちの戦いも、これで終わりのようだな。人間よ」
玉座に身体をあずけながら、天井を仰ぐ魔人が苦々しく言う。
「結局、合い打ちということになるな……魔王」
半ば崩れかかるようになりながら、手に持った魔術師の杖で身を支え、かろうじて立ち続ける青年が答える。
「人間よ。魔王である俺は、このまま死ぬだろう。だが、俺が死んでも、力ある次の魔族が新たな魔王となる。それに時間はかかろうが、いずれ次の魔王が、お前の世界を呑み込もうとするだろう。この俺と同じようにな」
そう語る魔王の言葉は、気管からもれる空気の音でひどく聞き取りづらい。青年は、意識が空間を満たす闇に溶け込みそうになりながらも、必死に眼を開く。
「だがな、人間よ。“俺としては”このまま死ぬのは気に食わんのよ。そこで、取引だ……」
魔王が、ひどく人間臭い言い方で、青年のほうを向いた。
「なんだ? 魔王。僕と何を取引するというのだ」
青年は、全身から血が抜け落ちていく感覚に侵されながら、どうにか返事をする。
「俺と貴様で、欠けた肉体を補い、一つになるのだ。俺と貴様は、一つの身体の中で、この七日間以上の長い時間を戦い合う……くくく。貴様が勝てば、魔王は貴様だ。俺の世界が、貴様の世界を呑み込もうとすることはもうなくなる。だが、俺が勝った場合は……」
魔王は、ひどく楽しそうに笑い声をこぼす。青年は、弱々しく頷き返した。
「なるほど……いいだろう、魔王。お前の取引に乗ってやる」
青年と魔王は、残された片腕をお互いに差し伸ばしていく。
「最後に聞いておこう。人間、貴様の名前は?」
「……ハルベルトだ。魔王、お前は?」
「覚えておくといい。魔王には、名前はない……」
青年と魔王、二人の手が重なり、お互いの視界が闇へと閉ざされた……
我は、一瞬だけ意識が飛んでいたことに気がついた。おそらく、ごくわずかな時間だったと思う。その間に、何か夢のようなものを見た気がしたが、思い出せなかった。
聖女を魔界に連れ去り、魔界が結界により閉ざされて、それなりの時間がたった。人界の時間にして、数年か……もしかしたら、十年近く経ったのかもしれない。魔に堕ちたものは、老いることはない。聖女だけではなく、三王女と二人の王女までも、初めて我の前に現れたときと同じ姿をしているため、ますます、時の感覚はあいまいになる。
我は時折、考えを巡らせる。我が、ティアナの言う通り、ハルベルトという名の人間であったのか、と。
しかし、千年以上前の記憶をたどろうとしても、その先にたどり着くことはやはりできなかった。ましてや、我が人界の仇敵として魔界に君臨した時間は、確固として存在する。ティアナが語った物語ですら、彼女が千年の時のうちに生み出した妄執でないと言う保証もない。
我が下僕となった元聖女のティアナは、我の疑問に答えることもなければ、その必要もなかった。我は、いまや元聖女と三王女の支配者であり、ただそれだけだった。
「はぁ……あぁん……」
「ふぅ、ふあぁぁぁ……」
玉座の間にて、嬌声が響いていた。人界にいたときは女王であった二人の女、クレメンティアとリリアーネが、玉座の間の中央で、四つん這いになっている。二人は、全裸で甘いうめき声をあげていた。その腹は大きく膨れ、孕んだ魔の出産が近いことを感じさせる。
「うふふ。お腹を膨らませたお母様、とっても綺麗よ?」
「元気な仔を、たくさん産んでくださいね。お姉様」
クレメンティアのそばには踊り子の衣装のエレノアが、リリアーネのそばにはメイドの衣装のリーゼが寄り添っている。二人は、それぞれの母と姉の身体を優しく撫でながら、新しい魔が誕生するときを待っていた。そして、すぐにそのときは来る。
「あ……ああぁッ……くる、妾の奥から、来る!!」
「ふぁあ! イクぅ! 産みながら、イッちゃうぅ!!」
女王と姉姫が、快楽の叫びを上げる。四つん這いとなり、丸見えとなった秘裂を割り開いて、粘液に包まれた魔物の仔が産み落とされる。クレメンティアは三匹、リリアーネは二匹の仔を産んでいた。クレメンティアの仔はエレノアの仔と同じ蛇の下半身を持ち、リリアーネの仔はリーゼの仔と同じ蜘蛛の脚を持っている。ただ、鱗と殻の色合いが異なっていた。
「魔王様、私のことも、もっとぉ……」
我のすぐ目の前で、切ない声が上がる。我は、玉座の上で、堕ちた聖女ティアナと交わっていた。ただ、ティアナの腹は、二人の女王と同様に大きく膨れ上がっている。
「仔を孕んでも、なお交わりを求めるとはな……あきれるほどの淫婦ぶりだ」
我は、身体を跳ねさせる聖女の乳房を、背後から鷲掴みにする。
「はぁん……だって、お腹の赤ちゃんが、もっと私と一緒に気持ち良くなりたいって……はあぁっ! イク! また、イクぅ!!」
聖女は、仔を孕んだ腹を揺らしながら、絶頂に身を震えさせる。
「念願の仔だろう? もっと大切に扱ってもらわなければ困るな」
我は、ティアナが身を倒さぬように身体を支えながら、声をかける。その身に残された聖女としての力が、我の魔の精と反発するためか、ティアナはなかなか我の仔を孕むことができなかった。いま、臨月を迎えた腹にいる仔は、我とティアナとの間にできた初めての仔なのだ。
「申し訳ありません、ハルベルト様……でも、あぁ……もう、産まれます、から……」
ティアナは、フラフラと立ち上がると、玉座から降りていく。我のほうを向き直ると、そのまま床に尻をついた。両足を広げ、愛液と精液がこぼれる秘裂を我に見せつける。
「産まれ、ます……見ていて、ください……私と、ハルベルト様の……あぁぁん!!」
ティアナが、嬌声を上げる。全身がビクビクと震え、秘裂から、愛液とも羊水ともとれる液体がプシッと噴き出す。続いて、一匹の魔物の仔が、聖女の胎からゆっくりと姿を現す。
「あぁ、赤ちゃん……私と、ハルベルト様の赤ちゃん……」
ティアナはぐったりとしながら、まだ粘液にまみれた魔物の仔を抱きしめる。その姿は、人間の赤子とほとんど変わらない。違いは、背中に黒い羽根と尻尾を生やしていることだけだった。
灰色の衣に身を包んだフィオの娘が、ティアナの前に歩み出る。ティアナは、少し名残惜しげにしながらも、フィオの娘に我が仔をあずける。フィオの娘は、湯に浸した布で、魔物の仔の身体にこびりついた粘液を拭きとると、清潔な布にくるんでやった。みれば、クレメンティアとリリアーネの仔らにも、同様のことをやっている。
さらに、出産後で消耗している母親たちを、フィオの娘たちは数匹がかりで担ぎあげる。そして、玉座の間の脇にしつらえた安楽椅子の上に横たえて、休ませてやる。フィオの娘は、ティアナにも同様のことを申し出たが、当のティアナは首を横に振り、フラフラの身体で我が座る玉座に身をあずけた。
かつての聖女と王女たちの出産が終わると、踊り子の格好のエレノア、メイドの衣装のリーゼ、一糸まとわぬ姿のフィオが、我の前に歩み出た。それぞれ、自分の娘のうち一人を連れている。三王女と三匹の魔物の娘は、我の前で深々と頭を下げる。
「ご主人様。新たなご主人様の仔の誕生、おめでとうございます」
「お祝いと言ってはなんだけど、今日も、私たち三人でご奉仕させていただきますわ」
「魔王様もくつろいで、いつも以上に、気持ち良くなってくださいね?」
エレノアは、蛇の下半身の娘に濃い酒の注がれた杯を用意させる。娘が、それを運んでくると、自らは胸元をはだけ、白く豊かな乳房を揉みしだく。やがて、エレノアの乳頭からは、噴水のように白い乳汁があふれ出し、杯に注がれる。
「さ、どうぞ。お父様?」
エレノアは、強い酒を母乳で割った杯を我に差し出した。我は、杯を受け取り、口をつける。エレノアの母乳と、芳醇な酒の香りがまじりあった妖艶な匂いが鼻孔をくすぐる。
「私たちは、こちらをご奉仕させていただきます……」
そう言ったのはリーゼだった。リーゼは、蜘蛛の脚を持った娘とともに、我の足下にひざまずく。そのまま、うやうやしく我の脚を、そのしなやか手で掲げた。リーゼと娘は、迷うことなく、足の指先に接吻すると、足全体に舌を這わせ、舐め清めていく。
優しく手でさすり、妖しく舐めまわすリーゼの動きと、寸分違わぬ娘の姿は、あまりに淫靡で、我の色欲を煽っていく。
「硬くなってき魔王様のここは、フィオ達にお任せくださぁい」
いつの間にやら、フィオは、蛸の触手を持つ娘とともに、我の股間にもぐり込んでいた。二人は、小さな舌を目一杯伸ばして、我の男根に絡みつかせる。二人の舌使いが一体となり、蕩けて一つになったように、我に快感を与えてくる。
「んん……魔王様と、聖女様の味がして……美味しいですぅ」
フィオがうっとりと呟き、その娘もつられて幸せそうな表情になる。この感触を味わい続けても良かったが、我はそのまま精を放ってやった。白濁した粘液が、フィオとその娘の顔を汚す。二人は、ますます表情を蕩けさせ、嬉しそうにお互いの顔を舐めあった。
「お父様。今日は、もう一つ余興を用意したのよ」
エレノアが、そう言いながら、玉座の間の空間を仰いだ。すると、広間の両脇から、エレノアの娘たちが十数人ほど、歩み出る。皆、エレノアとおそろいの踊り子の衣装を身につけていた。
エレノアが軽く手を叩いて合図をすると、娘たちは人の上半身と蛇の下半身をくねらせながら、妖艶で情熱的な舞を踊り始める。エレノアの娘たちのうち、奥に控えた者は良く澄んだ声で歌い始めた。エレノアが我に初めて踊りを見せたときと同じ、古代語の恋歌だった。ただ、あのときと異なり、不思議と不快さは感じない。
「お父様にヒミツで、こっそり歌と踊りを教えていたの。踊り子の衣装は、リーゼと、リーゼの娘たちが仕立ててくれたわ」
エレノアは、自慢げにそう言った。
三王女が産み落とした仔の数が増えるにつれ、娘たちの間には自ずと役割のようなものが生まれていた。リーゼの娘たちは、母親譲りの器用さで裁縫や細工を行い、職人のような仕事をこなしている。エレノアは、自分が覚えていた歌や音楽、踊りを娘たちに伝え、芸術をつかさどっている。そして、フィオは娘たちとともに、病気の治療や、助産を行うようになり、医術師としての役割を果たすことが多くなっていた。
かつて欲望のままに混沌が支配していた魔界は、新しい住人達によって、奇妙に整然とした秩序のようなものが生まれつつあった。
「ねえ、ハルベルト様……」
耳元で、ささやく声が消えた。玉座に寄りかかっている、聖女ティアナだ。
「……どうした?」
我は、ティアナを振り返りながら尋ねる。ティアナは、出産で疲れ切った表情をしながら、満面の笑みを浮かべる。
「もう一回、私を犯してくださりませんか?」
笑顔に、妖しく淫らな色が混じり、ティアナはおねだりの言葉を口にする。
「良かろう……」
我は、聖女にうなずき返すと、フラフラと立ち上がった。聖女を我のものに堕とす時に消耗した力は、それなりの時間がたったにもかかわらず、いまだ回復しきってはいなかった。だが、我はそれでもかまわない。我には千年を超す時間があり、何より今は我の興味を満たすものが目の前にあるからだ。
「ハルベルト様ぁ……」
ティアナが、甘えた声をこぼす。仔を産み落とし消耗したティアナと、いまだ自らの力を取り戻せていない我は、お互いがお互いを支えるように、立ったまま身体を抱きしめ合う。
「ゆくぞ? ティアナ」
「はい、ハルベルト様……」
我は、立ったまま腰を突き出した。聖女の匂いを感じ、興奮を隠すことのない剛直で、ティアナの秘所を貫く。仔を産んだばかりにもかかわらず、聖女の秘所はぴったりとまとわりつくように我の肉棒をもてなしてくる。我とティアナは、舞踏の拍子を踏むように、お互いを抱きしめ、貪りあう。ティアナの蜜壺は、何度犯しても飽きることがない。まるで、柔らかい極上の羽毛でできた牢獄に閉じ込められたように錯覚する。
そのとき、自らの背後に気配を感じた。
「うふふ、お父様ぁ」
肩越しに、我を背後からエレノアが抱きすくめている。見れば、ティアナの背側には、リーゼが立っていた。
「お二人で愛し合うのも、とっても素敵だと思うのだけど……私たちのことも忘れちゃイヤよ?」
「聖女様、ご主人様……お二人が、もっと快感を得られるように、どうぞ私たちにもお手伝いをさせてください」
二人はそう言うと、エレノアは我の背筋を、リーゼはティアナの背を舐めながら、ゆっくりと膝をつく。やがて、エレノアとリーゼは、我と聖女の尻穴に唇を這わせる。
「うふ、私だって、お父様のことを愛しているんだから……」
エレノアは、そう言うと、我の尻穴へと自らの舌を捻りこんだ。羞恥も嫌悪も感じさせない動きで、ぐりぐりと半ば強引に舌で、我の尻の内側をえぐろうとする。
「私だって、そうです。ご主人様……それに、聖女様のことも、敬愛しております」
リーゼも、同じようにティアナの尻を舌で責め始めたらしい。「はぅっ」と、聖女が嬌声を上げる。
「あぁ、リーゼ……そこは、そこはぁ!!」
リーゼが、巧みに聖女の悦楽のツボをついているらしい。ティアナが、感極まりながら背筋を伸ばす。肉壁の内側の締め付けが、ますます強くなる。さらには、エレノアの刺激が、我の男根の硬さと大きさを増していく。
「あぁ、はあぁぁぁ……ダメぇ……」
快楽の頂へ突き上げられるのを、寸でのところで耐えるティアナ。我は、そんなティアナを焦らすように出来るだけゆっくり、肉棒を注挿する。
「えへへ……聖女様ぁ、魔王様ぁ」
足下から、声が聞こえた。フィオの声だ。フィオは、我とティアナの脚の間に潜り込んでいる。
「もう、フィオだけ仲間はずれなんて、イヤですよぅ」
そう言う声が聞こえたかと思うと、新しい感触が伝わってくる。フィオは、我とティアナが結び合う部分に唇を擦りつけていた。おそらく、聖女の愛液と我の先走りの汁がまじりあったもので、顔が濡れているだろう。フィオは、そんなことには構わず、ペチャペチャと秘唇と男根の結び目に舌を這わせる。
「フィオも、リーゼも、エレノアも……それに、ハルベルト様も……」
ティアナは、快楽の限界線に立たされ、ガタガタと肩を震わせる。その様子を確かめたリーゼとエレノアは、舌を一層深く打ち込み、フィオは、ちゅうと結合部を吸引した。
「ああ! ああぁぁぁ!! イクぅ!!!」
我とティアナは、深く交わったまま、絶頂を迎える。聖女の肉壺が激しい締め付けで我を咥えこみ、それに合わせて我は熱いたぎりを聖女の子宮に向けて、打ち込んでいく。全身を脱力感が襲うも、どうにか、ティアナを抱きしめ続ける。
「ハルベルト様……」
ティアナが、潤んだ瞳で我を見つめる。ティアナが、我を抱きしめる腕に力がこもる。
「ごめんなさい、ハルベルト様……私、まだ、足りないんです……」
ティアナがそう言うと、我の身体が揺らぐ。聖女が、力任せに我を突き押したらしい。我は、そのまま玉座に押し倒されたような格好になる。聖女は、そのまま有無を言わさず、玉座の上にまたがった。全身から力が抜けても、我が男根は萎えていない。それが、自分自身でも滑稽だった。
「ハルベルト様ぁ! もっと! もっとぉ!!」
ティアナは、狂乱したかのように情交をねだる言葉を叫ぶ。そのまま、我の剛直に腰をおろし、三度、聖女の蜜壺の中へ導いていく。
「あぁ……ティアナ……」
ティアナの内側は、交わるほどにその熱を増しているようだった。ティアナは、我の上で激しく腰を振り始める。我は、目を閉じ、聖女のもたらす快楽に身をゆだねる。激しくも、包み込むような感触が、男根から全身へと広がっていく。
「あぁ、またイキます! ハルベルト様も! 来て!!」
ティアナが叫ぶ。我は、それに合わせて、腰を突き上げる。聖女の肉の甘味なもてなしを味わいながら、精を何度も注ぎ込む。やがて、ティアナはぐったりと脱力し、糸の切れた操り人形のように、我の胸板に倒れ込んだ。
「ハルベルト様ぁ」
ティアナは、全身で甘えながらつぶやく。
「私、いま受精しました……分かります。次は、きっと、双子ですよ?」
我は、返事をする代わりに、ティアナの豊かな瑠璃色の髪をそっとなでる。ティアナも嬉しそうに、我の胸に顔をうずめた。
「あの……申し訳ありません……」
リーゼの声が聞こえた。我が、そちらを向くと、リーゼは潤んだ瞳を我に向ける。
「見てください……」
リーゼは、恥ずかしそうにそう言うと、メイドの衣装のスカートをまくりあげる。あらわになった下着は、失禁したかと見紛うくらい、秘所から染み出した愛蜜でビショビショになっていた。
「お二人のを見ていましたら……私、このままでは、治まりがつきそうにありません……」
リーゼは、顔を真っ赤にし、目を伏せながら、心底恥ずかしそうに言った。
「待って、お父様。私だってそうよ!!」
「フィオも! フィオだって、もう我慢できないんだから!!」
割り込むように、エレノアとフィオも叫ぶ。エレノアは、腰布を脱ぎ捨て、フィオは、腰をおろして、両足を目一杯広げる。二人の秘所から太ももにかけても、リーゼ同様に愛液の洪水があふれていた。
「ハルベルト様……どうしましょう?」
己の暴走を恥じたのか、ティアナが申し訳なさそうな顔をしながら、我に尋ねる。
「お預けをくらわすわけにも、いくまいな」
我は、そう言うと、三王女を一人ずつ順番に玉座の上に招く。三王女は、喜色を浮かべながら、我の言葉に従った。我は、子宮に向けて精を注ぎ込むまで、エレノアと、リーゼと、フィオを、一人ずつじっくりと愛してやった。
気の遠くなるような情交を終えて、我は玉座に身をあずける。聖女と三王女もまた、それぞれ、思い思いに玉座に寄りかかり、我の傍に身を任せていた。
「ご主人様……今度、娘たちに農耕を試させてみようかと思っているのですが……」
リーゼが、口を開いた。リーゼに限らず、三王女は、何か新しいことを試そうとする時、我に必ず話を通しに来る。
「あら、それは素晴らしいわ。リーゼ」
ティアナが満面の笑顔を浮かべて、リーゼの意見に同意する。
「でも、リーゼ。それは、以前やってみたけれど、うまくいかなかったじゃない? それに魔物と魔に堕ちた人間は、物を食べる必要は必ずしもないでしょう」
エレノアがめずらしく真面目な表情で、反論を口にした。
「やっぱり、お食事は大切だと思うわ。娘たちにも、一度食べさせてあげたいし……それに、あのときはダメだったけど、ご主人様にだって……」
リーゼは、少し申し訳なさそうにしながらも、自分の意見を述べる。
「フィオは、いい考えだと思うなぁ。ダメかもしれないけれど、もう一度やってみようよ」
リーゼとエレノアの話を聞いていたフィオも、議論の中に参加する。
我は内心で苦笑した。肉欲に乱れて、政策を話し合うのだから、こんな気楽な宮廷もないだろう。
「あら、誰かが、来たみたいですわ」
ティアナが、玉座の間の暗闇を仰ぐ。我がそちらを見ると、そこには、我の娘が三人、立っていた。エレノアと、リーゼと、フィオのそれぞれの娘たち。顔立ちは幼く、どこか緊張している。まだ、玉座の間に出入りすることも少ない年少の娘なのだろう。
「あら、どうかしたの?」
リーゼが、優しく声をかける。慈愛に満ちた表情は、母親の顔そのものだ。
「うふふ。ここにいるのは、あなたたちのお父様とお母様なんだから、緊張しなくていいの」
次いで、エレノアも柔らかい表情で笑いかける。
「何かあったのなら、遠慮せずにフィオ達に言っていいんだよ?」
そう話しかけるフィオは、幼い容姿のために、娘たちと姉妹にも見える。
三人の娘たちは、少しだけ顔を見合わせる。そして恥ずかしそうに、両手を差し出した。
その手には、赤く実ったリンゴの実が握られていた。
< 終 >