にった~せぶん 作り目

作り目

「ねぇねぇ~、キヨノぉ。今日って、ばいとの日?」
「そうだけど、何?ミノルってばタカリに来るつもり?」
「ちがうよぉ!ちゃんと、おきゃくさんだもん。あのねぇ、太一といっしょに行きたいのぉ♪」
「申し訳ありませんが、当店はラブラブカップルはお断りさせていただいています」
「ええ~!?そうなのぉ!?」
「ミノルちゃん、安心して。キヨノちゃんの冗談だから」
「え?ナナぁ、それホント?」
「本当よ。私もあの店行ったことあるけど、ちゃんとカップルのお客さんもいたもの」
「ぶ~!キヨノ、ミノルをだましたな~。ぷんぷん」
「ゴメンゴメン。まさか信じるなんてね」
「ゆるさないもん。でも、ぱふぇオゴってくれるなら…ミノル、ゆるしてあげちゃうよ♪」
「しょ~がないな~、ひとつだけだよ。カレシの分まではオゴんないからね」
「やった~♪ねぇねぇ、ナナもいっしょに来る?」
「え、私?で、でもお邪魔じゃないかな?ミノルちゃん、デートなんでしょ?」
「ナナも来るの?いっそのこと邪魔しちゃいなよ。ミノルのカレシ、誘惑しちゃえ」
「ええ~!?ゆ、誘惑だなんて…む、無理無理」
「だいじょ~ぶ!太一はねぇ、ミノルがいちばんだもん。太一はえっちだけどぉ、らぶらぶなのはミノルにだけなんだもん」
「ミノル、ノロケすぎ~」
「うふふ、それなら私が一緒でも安心ね。…あ!駄目だ!」
「ふぇ?ナナ、ど~したの?」
「今日は図書館に行かなきゃ。返却日なの。新しいのも借りたいし…」
「あ~、イケメン司書に会いに行くのね。も~、みんなしてラブラブ?どうして私には素敵な出会いがないのかなぁ」
「ち、違うよ。谷崎さんは別に関係な…」
「とか言って、名前ゲット済み?」
「すご~い!ナナぁ、お~えんするよぉ♪」
「ち、違うからね…あの図書館、手芸関連の蔵書が多いから、編み図が載ってるのとか…」
「あ、また新しいの編むんだ。ひょっとして愛しの谷崎さんの為?」
「あぁ~!ナナ、まっかっかだぁ」
「わ、私は、ただ本を…」
「私の本が目当てだったのね!?」
「きゃ~、ナナのえっちぃ♪」
「も、もう…二人ともからかわないで!」

 放課後、私はひとりで図書館に向かって歩きながら昼間の会話を思い出していた。確かに谷崎さんは素敵な人だけど…だったら尚更私なんかじゃ無理だよ。私はキヨノちゃんみたいにスタイルも良くないし、社交的でもないから。ふ、太ってはいないけどちょっとぽっちゃりしてるし、人見知りで引っ込み思案なんだもん。ミノルちゃんみたいに元気で可愛い訳でもないしね。私、すぐ体調崩したりするし、見た目も…眼鏡で三つ編みだし、かと言って流行の髪型やコンタクトでイメチェンする勇気もない。編み物だけが趣味の暗くて地味な女の子。それが私、新田ナナコ。

「やあ、ナナコちゃん。返却かい?」
 図書館に入って返却カウンターへ向かう途中、後ろから話し掛けられた。振り返ると沢山の本が積まれた台車を押してこちらへ近付いて来る谷崎さんがいた。
「谷崎さん!?こ、こんにちは!」
「ちょっと待ってね。返却ポストの本を回収してきたところなんだ。よいしょっと…さあ、もう良いよ。ええと、この三冊を返却だね」
 私がカウンターに出した本の返却手続きを谷崎さんが済ませていく。手続きとは言え本に貼られたバーコードをハンディスキャナーで読み取るだけだからすぐに終わっちゃう。そう、谷崎さんの大きな手にみとれてる内に…。
「…ナコちゃん、ナナコちゃん」
「え!?あ、はい!」
「返却手続きは終了だよ、これでまた新しく借りられるからね。何だかボーっとしてたけど、大丈夫?もしかして風邪の引き始めかな?」
 スッと差し出された手が私の額に添えられる。た、谷崎さんの手が…。
「う~ん、ちょっと熱っぽいかも。風邪を引きやすい季節だから注意してね」
 谷崎さんは自分の額にあてた手の感覚と比べて言った。そ、そんなことされたらいつだって熱っぽくなっちゃいます!
「は、はい!気をつけます!」
「ほら、得意の編み物で防寒対策きっちりね」
 谷崎さんがにっこり笑って棒針のジェスチャーをする。あ、私が編み物好きって覚えててくれてる…。でも毎回毎回編み物関係の本だし、閲覧室で編んでたこともあるし、ちょっと見ればわかることよね。べ、別に谷崎さんが私のことを特別に気にしてる訳じゃ…もし気にしてくれてるんだったら、う、嬉しいけど。
「あれ?顔赤いよ。ホントに風邪?」
 いつの間にか目の前に谷崎さんがいて、私の顔を覗き込むようにしている。え!?ちょ、顔が近…。
「だ、大丈夫です!じゃ、じゃあ私は本を探しに行きますんで…」
 私は蒸気機関車みたいにその場を離れた。

 さっきはビックリしたなぁ…。いきなりあんなすぐ近くに谷崎さんの顔があるんだもん。あとほんのちょっと動いたらキスしちゃいそうな…って私、何考えてるの!?ぶんぶんと顔を振る。そんなことしてる内に手芸関連のコーナーへ辿り着いた。
「何にしようかな~。通学用にミトン編もうかな。それとも制服の下に着るカーディガンとかセーターかな。新しいニットワンピも良いなぁ」
 本棚に並んだ背表紙を指で順番に撫でながらチェックしていく。時々棚から取り出して写真や編み図をパラパラ見たりする。できあがる物のことを考えてウキウキしながらチェックしていると一冊の本が目に留まった。
『手作りニットで素敵なカレをゲットするお呪い』
 その本の上でピタリと指が止まってしまう。
「てづくりにっとですてきなかれをげっとするおまじない」
 背表紙のタイトルを声に出してみる。…ゴクリ。唾を飲み込む音が殊更大きく聞こえた。
「わ、私は女の子だから、お、おまじないとかジンクスとか占いとか結構気になっちゃう訳で、べ、別にた、谷崎さんとはそんな…。そ、そう!ちょ、ちょっと女の子的に興味があるだけでね。そう、そうなのよ。べ、別に私みたいな年頃の女の子が読んでも全然おかしくないわ。ほ、ほら、この本のブックカバー、こっそり手作りっぽいし、手芸的にも興味があるっていうか…」
 …私は一体誰に言い訳をしているのかしら。きょろきょろと周りを見渡し、誰もいない事を再確認する。それでも何だかビクビクしながら私はその本を棚からスッと抜き出してパラパラとページをめくっていく。
 あ、凄い。おまじないだけじゃなくて編み図も載ってるんだ。編み方も図解入りの丁寧な説明が付いてる。ふむふむ、作る行程もおまじないの一環なのね。帽子にマフラーにカーディガン…色々載ってるけどセーターはないみたい。ん、何々…『手編みのセーターをプレゼントするのはちょっと重い』…う。そ、そうね。『その点、前あきボタン留めのカーディガンは気軽に着れるアイテムなので貰う方も気が楽、しかも色々な服に合わせやすいからオススメ!』…確かに、被って着なきゃいけないセーターとは違ってカーディガンは羽織れるし、ボタンでちょっとした体感温度の調節もできるし、ネクタイ締めたワイシャツの上に着ても全然不自然じゃないし…良いかも。ええと『手作りの帽子・マフラー・カーデが揃って初めて効果があります』か…毛糸沢山買わなきゃ。どんな色にしようかな?ええと、谷崎さんに似合う色は…。そこまで考えてハッとなる。な、何でもう、谷崎さんにあげること考えて…、ワイシャツにネクタイとか、まんま谷崎さんの服装だし。あ、で、でもいつもワイシャツだけでジャケット着てるとこ見たことない。寒くないのかな?谷崎さんも『得意の編み物で防寒対策』するようにって言ってたし…そう、風邪の予防!風邪をこじらせたりすると大変だし、あくまで予防の為に渡すだけで、ゲットとか全然…で、でもおまじないはちょっぴりやってみても良いかな。この本借りていこう、うん。

 何だか恥ずかしいから他にも数冊編み物の本を一緒に借りることにした。貸し出しカウンターに本を置く時も他のでちょっと隠して、でもバーコードだけはちゃんと見えるように置いた。
「谷崎さん、貸し出しお願いします」
「あ、また何か編むんだね。凄いなぁ、できあがったら見せてね」
「え、ええ。もちろんです。ちゃんと見せますよ」
 むしろその場で着て下さい。
「うん。じゃあ、二週間後に返却よろしくね。作品の方も楽しみにしてるから」
 そんな笑顔見せられたら五倍速で編んじゃいます!
「はい!それじゃあ谷崎さん、さようなら」
 小さく手を振って駆け出していく私、同じように手を振って見送ってくれる谷崎さん。あ、帰る前に手芸屋さんで毛糸を買おっと。えへへ、頑張るぞ~。
「ん、カウンターに何か落ちてる。フェルトの切れ端?『お』って何だろう?」
 もちろん私は谷崎さんを悩ませているものが、今は自分の鞄の中にあるものから剥がれ落ちたなんて全然気付かなかったの。

 自分の部屋で紙袋一杯に詰まった毛糸を一玉取り出す。色はね、とっても悩んだんだけど…茶色にしてみたの。茶色っていっても真っ茶色じゃなくて、薄い茶色と少し濃い茶色とあと白い毛糸が一緒によってあって、ちょうどカフェオレみたいな風合いの色になってるの。色番号だけじゃなくて、ロット番号が同じのがたくさん置いてあったのも決め手のひとつ。ロットが違うと微妙に色が変わっちゃうから…。
 た、多分似合うと思うんだけど…それに図書館の自販機でよくカフェオレ飲んでるし。き、嫌いじゃないと思うの、こういう色。私も最近はカフェオレよく飲むしね、こういう色好きなのよ。べ、別に自販機で谷崎さんと同じボタン押したいとかじゃないからね。
 
 まずは試し編みしてゲージを測らないと…。毛糸のラベルに標準ゲージは書いてあるけど、この通りに編めるとは限らないし…あ、ゲージってね、10cm四方の大きさの編み地が何目(横)何段(縦)になるかってことなの。そのゲージを測って、それを元に全部でどれくらいの毛糸が必要かとかわかるし、編み図を修正するのにも役立つの。ちゃんと修正しないとブカブカとかピチピチになっちゃうんだから。
 ええと、作り目はこれくらいで良いかな。とりあえず編んでみないとね。私は愛用の棒針で試し編みを始めた。

 最初は表編みで…一目、二目、三目、四目、五目、六目、七目、八目、九目………あ、もう端まで編んじゃった。私、編んでるとボーっとしちゃうんだよね。でも手は止まらないの。編み地を返すと今度は裏編みを始める。一目、二目、三目………。そうやって繰り返している内に試し編み終了。ええと、メジャーをあてて、測った数字をメモして。あとリブ編みのゲージも測らなきゃ。表、表、裏、裏、表、表、裏、裏…………。ええと縮んだ状態がこれで、伸ばした状態が…。うん、これなら買って来た分で足りそう。ゲージをメモに取った私は毛糸を解きながら借りてきた本のページをめくる。まずはマフラーから編もうかなぁ。ん?『編み始める前に毛糸に呪いを掛けましょう』…あ、そっか。おまじないしなきゃね。『お』が抜けてるのは誤植かしら?う~ん、まあ良いや。えへへ、おまじないで谷崎さんのハートをゲット~♪なんちゃって、うふふ。私は試し編みでちょっとぼんやりした頭のままそのページを読んでいく。
「え?おまじないって、こ、こんなことするんだ。ちょっと恥ずかしいかも…で、でも」
 私はおまじないの内容のあとに続く文章に強く惹きつけられた。
『呪いを掛けた毛糸で編んだモノをプレゼントすればカレとの仲は急速進展!!アナタの幸せはすぐそこです!さあ、カレのハートをゲットしよう!』
 幸せ…谷崎さんと…ハートゲット…ラブラブ…。
「ナナコ~。そろそろ晩ご飯よ~」
「…は、は~い。ちょっと待ってて、すぐ行くから」
 お母さんの声でハッとする。あ、もうこんな時間。おまじないのページを開いたまま本を伏せて部屋を出る。晩ご飯を食べている間も、頭の中は本に書いてあったおまじないのことばかり。ボーっとして、お味噌汁こぼしそうになってお父さんに心配されちゃった。

 時計の針が12時を回ってしばらく経った頃、私はそっと自分の部屋のドアを開けた。
(お父さんも、お母さんも…もう、寝ちゃったよね?)
 家の中はシンと静まり返っている。私は毛糸の詰まった紙袋を持って、足音を立てないように慎重にお風呂場へ向かった。
(み、見つかりませんように…)
 スッと脱衣所に体を滑り込ませてドアをピタリと閉めると思わず安堵の溜め息が漏れる。けれどおまじないはこれからが本番。まだまだ安心していられない。
(えっと、まだお湯が残ってるから抜かなくちゃ)
 私は電気を点けてお風呂場に入ると、浴槽の栓を抜いた。小さくはない水音と共にお湯が抜けていく。
(だ、大丈夫だよね?聞こえないよね?)
 お湯が少なくなってきたので、中に入って浴槽を洗った。
(私もだけど、お父さんもお母さんもみんな入ったしちょっと汚れてるよね)
 ちゃんと綺麗にしないと安心しておまじないができない。洗い終わって、泡を流すと再び栓を閉めた。
(あんまり熱くしちゃうとのぼせちゃうし、毛糸も駄目になっちゃう)
 温度を調節してぬるま湯を溜めていく。お湯が溜まるまで少し時間が掛かりそうだ。
(今の内に、もう一度体を洗っておこう)
 一旦脱衣所に戻り、眼鏡を置く。パジャマと下着を脱いで、再びお風呂場へ。時々お湯の溜まり具合を見ながら丹念に体を洗う、大事な所は特に念入りに。
 体を洗い終わった頃、ようやくお湯が溜まったので時計を確認する。もうすぐ深夜2時。何とか間に合ったみたい。私はお風呂場の電気を消した。磨り硝子から入る月明かりがぼんやりとお風呂場を照らす。そこにいる裸の私。何だかちょっと不思議な気分。これからやるおまじないの内容を思い出してドキドキが加速する。
『丑三つ時に月明かりに照らされたお風呂場。綺麗なお湯を張って、綺麗に洗った体で浸かりましょう』
 そっと片足を上げ浴槽をまたぐ。温かいお湯が爪先から少しずつ私を受け入れていく。そのままゆっくりと、お湯に身を委ねていく。おまじないの一節が頭に浮かぶ。
『大好きなカレのことを強く思い浮かべましょう。頭の上から爪の先、髪の毛の一本一本で、体中の細胞のひとつひとつで、大好きなカレのことを考えましょう』
 谷崎さんの笑顔…大きな手…声…カフェオレを飲んでいる時の唇…。そうやって谷崎さんのことを考えていると、また頭に浮かんでくる一節。
『カレのことだけを考えているアナタ。そんなアナタは今、何処にいるのでしょうか?』
「…お風呂場」
 私の口から小さく声が漏れる。
『ええ、さっきまではそうでした。でも今は違います。アナタは大好きなカレの腕の中にいるのです。温かくてとても幸せな気分です』
「…谷崎さんの腕の中…あったかい…しあわせ…」
『でも思い出して。今のアナタは産まれたままの姿。カレもそのことに気付いてドキドキしてきたみたいです』
「…あ、や、見ないで。恥ずかしい…」
『とっても恥ずかしいけれど大好きなカレにだったら…そんな風に考えているとカレの手がアナタの胸に…』
「…でも、谷崎さんだったら…ふぁぁぁ…」
 私の胸をそっと触ってくる手。優しく、撫でるように。キモチイイ…。お願い…もっと。
『アナタの反応を確かめるようにカレの優しい手がゆっくりとアナタの体中を撫で回してきます』
 胸を優しく撫でながら、もう片方の手が足の先から太ももを通ってゆっくりとお尻の方へ向かって撫で上げてくる。
「…あ、や、た、谷崎さん。そんな、とこ、はぁぁ…。あん!ち、乳首、勃っちゃう…」
『カレの手が段々激しくなってきました。でもそんな激しい愛撫もアナタにとってはもはや快楽でしかありません』
「…ああ、もっと!谷崎さぁん。んん!おっぱい、揉んでぇ…。ああん!そ、そう、乳首もいいのぉ!や、だめ!そこ、クリちゃん…ん、やぁぁ!きもちよすぎちゃうのぉ。あ、あ、あ…」
 ぴちゃぴちゃと水音が聞こえる。
『アナタの体はもう準備万端、いつでもカレの愛を受け止められます。カレの指がアナタの入り口を出たり入ったりするたびにどんどんエッチなおつゆが溢れてきます』
 耳に届く水音が激しくなる。
「…ああああ!!た、たにざきさんのゆびぃ!きもちいいよぉぉ…わたしのアソコ、もうグチャグチャなのぉ。ああん、きこえちゃうよぉ、ふぁ、やぁぁ、えっちなおとぉ、あ、あ、ち、ちがうからぁ、わ、わたし、えっちなこじゃ、ないよぉ、たに、ざき、さん、だからぁ、んあああ!こんなに、なっちゃうのぉ、あ、ああ、も、もう、らめ、らめぇ、ゆびでぇ、たにざきさんのゆびでぇ、ああああああ!!」
『カレの情熱的な愛撫で絶頂してしまったアナタ。とっても気持ちよかった。すごく幸せな気分。いつまでも浸っていたい。でも思い出して。ここは何処ですか?』
「…たにざきさんの、うでのなか」
『ええ、さっきまではそうでした。でも今は違います。ここはお風呂場。思い出して下さい。アナタにはやらなければならないことがあるはずです』
「…おまじない、まだ、つづきが、ある…あ!」
 辺りを見回す。薄い月明かりの中、ぬるま湯に浸かっている私。さっきまでのことを思い出して顔が熱くなる。わ、私、じ、自分で…。でも、本に書いてあったようにイメージしながらしてたら、私じゃなくてホントに谷崎さんが触ってるみたいで…い、イっちゃったし。たまに自分でしたことはあったけど、あんなに気持ちよくなったことないのに。
(このおまじない…ホントに効くんだ。あ!そうだ!続き!おまじないの続きを!)
 私は急いでお風呂を出ると脱衣所に置いてあった毛糸を紙袋から全部出した。既にラベルも剥がしてあるし、ひとつひとつほぐしてある。
(えっと、確か…お、オナニーしたあとのお風呂の湯に香水を一滴垂らして…)
 以前誕生日にお母さんがくれた香水の瓶が紙袋から転がり出る。私は瓶の蓋を開けて中の液体を一滴だけお湯の中に垂らした。ちょっぴり大人の香りがふんわりと鼻をくすぐる。
(…それからこのお湯で毛糸を手洗いして、一晩陰干しして置けばバッチリなはず)
 毛糸をお湯の中に入れて洗い始める。洗ってる間はまだ服を着ちゃ駄目って書いてあったから私はまだ裸のまま。でも湯冷めして風邪引いちゃうといけないから急いで洗っちゃおう。
(ふぅ…やっと洗い終わった)
 洗い終わった毛糸を軽く絞って、タオルで包む。もちろん自分の体もしっかり拭いてパジャマを着直した。お湯を吸って少し重くなった毛糸を部屋に運ぶ、あと紙袋と香水も忘れずに。
(これで良し。明日から頑張って編むぞ~。谷崎さん、待ってて下さいね♪)
 夜更かししたせいか欠伸が出る。早く寝なきゃ、授業中居眠りしちゃう。私は電気を消して布団に潜り込む。幸いすぐに眠りが訪れて私は夢の中へ。だから、真っ暗な部屋の中で毛糸が淡い光を放っていただなんて…全然気付かなかったの。

< 続く >

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