にった~せぶん 表編み

表編み

 ピピピ、ピピピ、ピピピ…。
(ん…、目覚まし、止めなきゃ…)
 ピ…。布団の中から伸ばした私の手が目覚まし時計に触れると音が止まった。もうちょっと布団の中にいたいけど頑張って体を起こす。天井に向かってぐ~っと体を伸ばす。
「んん~…ふぁ…。あ、そうだ!毛糸!ちゃんと乾いたかな?」
 ベッドから降りて、テーブルの上を占領している毛糸を触ってみる。
「良かった…ちゃんと乾いてる。でも縮んだりしてないかな?…まだ時間あるし、ちょっと編んでみよ」
 目覚ましは早めに鳴らすようにしてるから、着替えたり顔洗ったりしなきゃいけない時間まで少し余裕がある。普段は目覚まし時計で起きてから、ケータイの方にセットしたアラームが鳴るまで部屋でのんびりしてるんだけどね。やっぱり毛糸が縮んでないか気になるし、それに持ち運びできるように巻いて玉にしておかないと。私はベッド脇に置いてある眼鏡を掛けて勉強机の引き出しから棒針を取り出した。
 一目、二目、三目、四目……………。うん、大丈夫。縮んでないみたい。良かった。じゃあ、一玉ずつ巻いておこっと。くるくる~…。これで良し。手提げの鞄に巻き終わった毛糸の玉を入れて…あ、あと棒針も入れておかなくちゃ。さっき使った玉付きの二本針と、輪編み用の四本針は…あ、そうだ引き出しの中だ。そう思って立ち上がった時、下着に違和感を感じた。パジャマのズボンを前に引っ張って下着をチェックする。
(や、やだ!?濡れてる!?ど、どうしてこんな…)
 机の上に開きっ放しで置いてある本が目に入る。そこに書いてあるのは編む時の注意事項。
『編む時はカレのことを考えながら編みましょう。でも我慢できなくなったらトイレに行きましょうね。カレのことを考えてドキドキしてしまうのは当然のこと。トイレでスッキリしてからまた続きを編みましょう。恥ずかしがらなくても大丈夫。その行為もカレを振り向かせる為には重要なことなのですから』
(我慢できなくなったらってトイレのことじゃなくて、も、もしかして、お、オナニー?朝からこんなに濡れちゃったのはさっき編んでたから?は、恥ずかしいけど、でも、おまじないには大事なことみたいだし…)
 そうやって考えている間にもどんどん下着の染みが広がっていく。昨日お風呂でした時の気持ちよさを思い出してしまう。何だか編み物をしている時みたいに頭がボーっとしてくる。自分の手が谷崎さんの手に見えてくる。ちらっと時計を見ると、アラームが鳴るまでまだ余裕があった。ゆっくりと手が動き始める。
「ふぁあああ!!」
 パジャマのウエストゴムをくぐり抜けた指が、下着の上から大事なところに触れる。それだけなのに軽くイってしまった。膝が震えて立っていられない。パジャマに手を突っ込んだまま崩れるようにその場に座り込む。私の大事なところを優しく撫でるように、ゆっくり揉むように動く谷崎さんの手。
「だ、だめ!谷崎さぁん…そんな風にされたら私、私ぃ…ああん!やぁ…きもちいいよぉ」
 谷崎さんの手に触られるだけで熱く火照ってしまう体。荒くなる息。視界が涙でぼやける。またすぐにイってしまいそうになる。でもイきそうになる直前、谷崎さんの指はスッと私の下着を離れる。
「た、たに、ざき、さん…どうして?わたし、もう、すこしで…んああああああ!!」
 離れたと思った指が下着の中に潜り込んでくる。途中でクリちゃんを掠めて、曲がった指の先が少しだけ割れ目に入り込む。入り込んだ指が中を掻き回すように激しく動く。時々、親指の付け根がクリちゃんに押し当てられる。
「やぁん、あ、あ、ら、らめぇ、そんなに、ふぁぁ、したら、んんん、も、もぉ、らめらよぉ、たにざきしゃあん、わたしぃ…ああああああああ!!」
 ピピピ、ピピピ、ピピピ…。あ…アラーム鳴ってる。着替えなきゃ…。アラームを止める為に伸びた手は、もう谷崎さんの手じゃなくて、ちゃんと私の手だった。
(替えの下着、多めに持っていこう。…あと一応ナプキンも、た、垂れてきちゃうかもしれないし、念の為)
 のろのろとパジャマを脱ぎ、下着を替えて、制服に袖を通しながらボーっとした頭で私は考えていた。

 お昼休み、キヨノちゃんとミノルちゃんと机を引っ付けてお弁当を食べる。三人の中では私のお弁当が一番小さい…と言うよりミノルちゃんのお弁当が大きすぎるのよ。あんな小さいミノルちゃんの何処に重箱三段分の食べ物が入るのかしら?
「ごちそ~さま~。えへへ、おなかいっぱい♪」
 なのにどうして私より食べるの速いのかしら?ほら、キヨノちゃんだってまだ食べ終わってないのに…。
「あ♪キヨノのたまごやきおいしそ~♪」
「ちょ、ミノル!?お腹一杯って言ったばかりじゃない!あぁ、私の卵焼き…」
「き、キヨノちゃん。私の卵焼きあげるから」
「あ~♪ナナのみ~とぼ~るもおいしそ~♪」
「い、いいけど…そんなに食べて大丈夫?」
「わ~い♪だいじょ~ぶだよぉ。ミノル、せぇたかくなりたいからいっぱい食べなきゃなんだ」
「そ、そうなの。じゃあ私、お腹一杯だから残りはミノルちゃんにあげるね」
「え~?いいのぉ?ナナ、ありがと~♪」
「ナナ、半分も食べてないじゃない」
「私、太りやすいから。食べ過ぎ厳禁。それにお昼休みの間に続きを編みたいしね」
「あ、そう言えば休み時間にも編んでたよね」
「ごちそ~さま~♪あ~、ナナぁ、またあむの~?」
「ミノル、ティッシュ持ってる?持ってたら口の周り拭こうね」
「は~い。むぐむぐ…」
 キヨノちゃんとミノルちゃんが食後のやり取りをしてる横で私は途中まで編んだマフラーを取り出す。
「もうそんなに編んだの!?」
「ナナ、すごぉ~い!」
「そ、そんな…凄くなんかないよ。私なんてまだまだ…」
 二人に注目されてちょっと恥ずかしいけど、目数と段数を確認して編み始める。
「は、速すぎて針先が見えないよ」
「ふひゃ~。ミノル、ゼッタイむり~」
「シンプルなガーター編みだから。それでちょっと速く見えてるだけよ」
 メリヤス編みだと丸まっちゃうし、リブ編みだとちょっと可愛すぎるから。
「え?いつもは色々工夫して可愛いの作るのに?」
「う、うん。た、たまにはね」
「ふふふ。ミノル、わかっちゃった~♪キヨノ、みみかして。ごにょごにょ…」
「え?ああ!そっか、そういうことね!」
「ふ、二人ともどうしたの?」
 手を止めずに顔だけ上げて見た二人の顔はなんて言うか…とってもニヤニヤしてる。
「…た・に・ざ・き・さ~ん♪」
 声を揃えて言う二人。途端に顔が熱くなる。
「おやおや~、まっかっかですねぇ」
「図星って感じねぇ。関係ないとか言ってたのにねぇ」
「…そ、その、これは、た、谷崎さんには渡すけど、風邪の予防の為で、そ、そういうのじゃ…」
「またまた~、まっかなかおでそんなこといわれてもぉ」
「素直になってごらん。おねぇさんたち応援するよ~」
「…ホントは谷崎さんのこと大好きです。本に載ってたおまじないに後押ししてもらったんで、渡す時に、ダメモトで告白しようと思ってます…」
「きゃ~♪」
 キヨノちゃんとミノルちゃんが手を取り合ってピョンピョン跳ねている。あ、あれ?私、何で言っちゃったの?問い詰めてくる二人の顔をまともに見れなくて編み地を見ていたら何だかボーっとして…気付いたら、自分にさえ言い訳して隠してた気持ちがぽろぽろと。流石に恥ずかしくなってマフラーを編む手を止めて顔を押さえる。全身が火を噴いたように熱い。谷崎さんの顔が脳裏に浮かぶ。心配そうな顔で私の額に手をあてる谷崎さん。
(そう、谷崎さんの手が、私の顔に…え?た、谷崎さん?だ、駄目!こんなところでなんて!)
 ゆっくりと私の顔を撫でてくる谷崎さんの手。椅子が大きな音を立てるのも構わずに立ち上がる。跳ねてた二人がこちらを見る。ああ、駄目…見ないで。今にも出そうな恥ずかしい声を何とか押し留めて、できるだけ普通の声を絞り出す。
「ちょ、ちょっと私…お手洗いに」
 何とかそれだけ言うと、今にも砕けそうな腰でふらふらしながらトイレに向かった。
「だ、大丈夫かな?ナナ、ふらふらしてたけど…」
「でもぉ…なんかすごいオトナのかおだったよ」
「大人の顔?」
「うん…とってもキレイ。キラキラなの」
「あ、ちょっとわかる。色っぽいっていうか…」

 ジャー…、がちゃり。キィ、ばたん。
(また、しちゃった…)
 たまたま午後の授業が自習だったので、私は早めに自習課題を片付けた後また編み物の続きをしていた。いつものように編んでいただけなのに、私の手は再び谷崎さんの手になった。そうなってしまうと、もう我慢できない。もしかしたら同じクラスの子がトイレにやってきて聞かれてしまうかもしれない…そんなことも考えたけど、遠くのトイレまで行く余裕なんてなかった。谷崎さんの手は待ってくれない。来る途中もスカートの裾を押さえるフリをして、私のお尻を撫でてきたし、トイレのドアを片手で開ける時も、もう片方の手で制服の上から私の胸を揉んできた。男の人は強引だって聞いていたけど、谷崎さんもそうだったんだ…。でも嫌じゃないの、谷崎さんに触られるのは凄く気持ちが良い。も、もう下着三回も替えてるし…。手を洗いながらふと鏡を見ると、そこにはえっちな顔の私がいる。男子が時々見てる雑誌に載ってる女の人みたいな顔。
(違うの、違うの!いつもの私はこんなえっちじゃないの!)
 ブンブンと頭を振る。谷崎さんの手が私をえっちにする…でも、そんな私を谷崎さんはどう思うだろう?
(お願いだから…嫌いにならないで)

 学校でも、家でも、それと…実は図書館でも私は何度も我慢できなくなってその度にトイレに駆け込んだ。図書館には谷崎さんもいるから、えっちな顔を見られたくない恥ずかしさで我慢できると思ったのに…。でも谷崎さんはそんな私を見て心配してくれる。
「大丈夫?何だか凄く調子が悪そうだけど…無理せず家に帰って休んだ方が良いんじゃない?」
 気付かないでくれるのは助かるし、気遣ってくれるのは嬉しい。でも胸が締め付けられる。
(ごめんなさい…えっちな子でごめんなさい)
 
 谷崎さんはもちろん、他の人たちにも何かの拍子に悟られるんじゃないかって始終ビクビクしてるから、神経が参ってしまいそう。でも…何故かいつもよりも速く、綺麗に編み物が進む。あんなにも、その、オナニーで何度も中断しちゃってるのに…。
(何だかホントに五倍速で編めちゃいそう…)
 既にマフラーはできあがってるし、帽子もこの分だと今日中には編み上がる。あとはカーディガンだけ。しかも本の返却日にはまだ一週間とちょっと残ってる。返却日に本を返しに行く時、一緒に渡せてしまいそうなペース。
(これもおまじないの効果なのかな?)
 編みながらちらりと本を見る。そこには幾何学的な模様で埋め尽くされた編み図、その脇にはちょっとしたアドバイスが書かれている。
『カレがアナタのことだけを大好きでいてくれるように、他の女の子のことなど考えられなくなるように…そんな気持ちで帽子を編み上げましょう』
 …私だけを見てくれる。私だけを愛してくれる。これを編み上げればそんな幸せが私を待っている…。縦に横に揺れる四本の棒針で作られたひし形を目が追っている。歪み続けるひし形が頭をぼやけさせる。頭に浮かぶ本のアドバイス。
『マフラーは二人で巻けるように長めに編んでみましょう。そうすればきっとカレは永遠にアナタのそばにいてくれるでしょう』
 …永遠に、私のそばに、谷崎さんが…。
『カレに優しく抱きしめられることを考えながら編みましょう。カレがアナタを抱きしめる為にある服、それがこのカーディガンです』
 …谷崎さんが、私を抱きしめてくれる…。少しずつ私の手が輪郭を失っていく。眼鏡を拭いて掛け直しても私の手はぼやけていき、段々とその姿を変えていく。私の手ではなくなっていく。
(待って!あと一段だけ!減目したこの段を編んで絞れば帽子ができあがるの!)
 今にも変わってしまいそうな手を懸命に動かす。編み上げて一本の毛糸も絡まっていない棒針を脇に置き、とじ針に通した毛糸ですくいながら残りの棒針を外していく。最後に糸を引き絞った瞬間…帽子が手を離れテーブルにストンと落ちる。谷崎さんの手は編み物を知らないから仕方ない。谷崎さんの手が知っているのは…。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 私の体。何処を触ればどれくらい気持ち良くなるか…もう、谷崎さんの手は知り尽くしている。私以上に。
 帽子も何とか編み上がったし、カーディガンを編むのにはまだ充分時間がある。部屋にいるのは私だけだし、お母さんはさっき買い物に行ったし、お父さんはまだ帰ってきていないから誰かに見られたり聞かれたりする心配もない。
(たまには私からも…ちょっとくらい良いよね)
 そんな私の気持ちを察したのか谷崎さんの手が口元にやってくる。ゆっくりと口を開いて舌を伸ばしていく。震える舌が指に当たる。そのまま指の付け根まで顔ごと動かしていく。
「ん…ふぁ…」
 舌先でぺろぺろと舐める。少しずつ、動きが大胆になる。舌を這わせるように。横から口付けるように。谷崎さんの指が私の唾液にまみれていく。
(谷崎さんにも気持ちよくなってほしいの…)
 爪の辺りを小さく咥えて吸い込むようにしながらちろちろと舐めていると、谷崎さんの指がもぞもぞと動き出す。
(ああ、そっか。きっと寒いんだわ。…全部口の中に入れて暖めてあげなきゃ)
 段々強く吸い込むようにして指を口の中に迎え入れる。すっぽりと収まった指を舌と頬の内側でねぶる。
「んん、ひゃにじゃきしゃん…ひもひいいれしゅか?」
 咥えながら喋ると、にちゃにちゃといやらしい音が室内に響く。じっくりと、ねっとりと、しゃぶっていると突然指が動き出した。
「うにゅ!?むぐ、ぐぅ…」
 私の口の中を縦横無尽に動き回る指。前後に激しく出し入れしたり、歯茎や舌に擦りつけるように押しつけてきたり…そうやって口の中が谷崎さんの指に蹂躙されていく。眼鏡がガタガタずれる。視界が定まらない。ただでさえさっきから曇りがちなのに。
(…私の口、滅茶苦茶にされてる。なのに、少しも嫌じゃない。谷崎さんに気持ちよくなってもらおうと思ったのに…これじゃ、また、私が、いつもみたいに…)
「んん…にう…ぐみゅ…」
 ボーっとする頭。考えていられない。ふわふわして、とても、いいきもち…。動き回る指を追い回すように動く舌。もっと、もっと…。けれど、舌から、口から逃れるように離れていく指。ちゅぽん、とやけに大きく響く音が悲しい。私の唾液までが名残を惜しむように糸を引く。けれど唾液自体の重みでそれも垂れ下がっていきやがてぷちんと途切れた。
「ああ…やぁ、なんれぇ?」
 今の私の顔、きっとすごくいやらしい。鏡の方を向くのが怖い。でもそれ以上に悲しくて怖いことがある。
(もしかして気持ちよくなかった?それともえっち過ぎて嫌われちゃった?)
 谷崎さんの手が首に触れてくる。そのまま体のラインに沿ってゆっくりと下へ降りてくる。それだけでイってしまいそうになる。
(谷崎さん…胸触りたいのかな?でも私の胸、キヨノちゃんみたいに大きくないよ)
 けれど予想に反してその手は胸を通り過ぎる。
「や…だめぇ。そこは…はずかしいよぉ」
 谷崎さんが撫で始めたのは胸でもなければお股の間でもない。気持ち良いけど、でも…。
「やだぁ…おなか、ふにふにしないでぇ…」
 でも谷崎さんは止めてくれない。それどころかブラウスを捲り上げて直接手を潜り込ませてくる。
(キヨノちゃんもミノルちゃんも気にするほどじゃないって言ってくれるけど、それでも気になるお腹のお肉…コンプレックスなのに、なのに…)
「ふにゃああん…らめぇ、らめなのぉ…たにじゃきしゃんのばかぁ…はぁん」
 声が出てしまう。感じてしまう。どうして気持ちよくなっちゃうの?動きは次第に激しくなっていき、ふにふにがむにむにへと変わっていく。
(谷崎さん、意地悪だよぉ…。でも…好きなの。今更嫌いになんかなれないよぉ)
「つまんじゃやら、ひっぱっちゃ、らめ…ああん!」
 触られてるのはお腹なのに、嫌いな場所なのに、どんどん気持ちよくなる。下着がびちょびちょになるくらい、おつゆが溢れてきてるのがわかる。
「も、もぉ、らめ…あ、あ、あ、ああああ!!」
(おなか、さわられて、イっちゃった…)
 そこで私の意識は途切れた。

 部屋の外から聞こえてくる音で目が覚める。お母さんが買い物から帰ってきたんだ。私、寝てた?
「あ…や、やだ」
 下着が湿って冷たい。それでさっきまでのことを思い出した。急いで履き替えて乱れた服を整える。
(谷崎さんのばか。…とっても気持ちよかったけど、でも)
 時計を見る。晩ご飯までにはまだ結構余裕がある。
「もっと、優しくしてくれなくちゃ…駄目なんだから」
 小さく呟いて、私はカーディガンに取り掛かった。意地悪なんかしないで、優しく私を抱きしめてくれる谷崎さんを頭に浮かべながら。

< 続く >

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