元気になっちゃう、おまじない

 

 キーンコーンカーンコーン……

 

「あうぅぅぅ……」

 

 終わりのホームルーム後、僕は大きなため息をつきながら机に突っ伏した。

 今日も里美先輩の催眠暗示のせいで恥ずかしい目に遭わされてしまったのだ。

 

「はぁ……こんなんじゃ僕、まともな学園生活も送れないよ……」

 

 一体どうして僕に目をつけてくるのか分からないけど、早くこんなこと終わりにしないととんでもないことになってしまう。

 思い悩んで僕が頭を抱えていると──

 

「やっほー、和くん♪」

 

 聞き覚えのある声が正面から聞こえて僕が顔を上げる。目の前にいたのは誰であろう、僕の頭を悩ませている張本人の姿だった。

 

「さ、里美先輩……! 一体何の用ですか!」

 

「何の用って……たまたま近くを通りかかったら元気なさそうにしてたから心配して声をかけたのに、つれないなあ」

 

 のほほんとした口調でしらばっくれる里美先輩。

 

「元気ないのは誰のせいだと思ってるのさ! いつもいつも僕に変な暗示ばっかりかけて……!」

 

「えー、可愛い後輩に対する、ほんの軽い悪戯じゃない♪」

 

「先輩にとっては軽い悪戯なのかもしれないけど、やられる側としてはたまったものじゃないよっ!」

 

 僕は怒りをあらわにするが、先輩はどこ吹く風といった面持ちだ。

 

「分かったからそう怒らないでよ……そうしたら、今までひどいことをしちゃったお詫びとして、和くんが元気を取り戻せるようにおまじないをかけてあげる♪」

 

「そんなおまじないなんかより、とにかく二度と僕に催眠を──」

 

 あまりの自分本位な物言いに僕は立ち上がって抗議する。

 そんな僕の言葉を無視して、先輩はすっと軽く握った状態の右手を胸くらいの高さに持ち上げる。

 

「まあまあ、そんなこと言わずに一度試させてよ……『ぱおーん♪』」

 

 その言葉とともに、先輩は右手の人差し指だけを水平に伸ばしていく。

 

「そんなおまじないで元気になんてなるわけ──っ!?」

 

 まくし立てていた僕の言葉が、下半身に生じた違和感によって不意に止まる。そして──

 

「う……うあぁっ!?」

 

 次の瞬間、慌てて椅子に座りなおした。そんな僕の様子を里美先輩は楽しそうに眺める。

 

「あらぁ? とっておきのおまじないなんだけど、効果がなかったかしら? それとも……しっかり『元気』になってくれた? くすくす……」

 

「あ……あ……」

 

 僕は言葉を詰まらせる。何せ、先輩が人差し指を立てた瞬間に、しっかりと『元気』になってしまったのだ……体の一部分だけが。

 

「し、知らないよっ……そんなことより、僕に催眠術をかけるのを、やめ──」

 

「あら、まだ『おまじない』が弱かったかしら? それならもっと『元気』にしてあげるね♪」

 

 そう言いながら、右手の人差し指を水平の状態からさらに大きく反らすようにぐぐぐ、と持ち上げる。

 

「あ、あああっ……! だ、ダメっ……も、もう元気になったから、やめてっ……!」

 

 真っ赤になって必死でズボンを抑える僕。このままでは、座っている状態でも周囲からバレてしまいそうだ。

 

「ふふっ、良かった♪ あ、そういえばさっき和くん、私に何か言いかけてたみたいだったから聞いてあげる。でも──『抗議したいことがあったら、しっかり立ち上がって両手を後ろに回してね』」

 

「だ、だから僕にもう二度と──っ!?」

 

 そこまで口に出した僕は、言葉を続けることができなかった。

 何せ、自分でも気付かないうちに両足がしっかりと立ちあがってしまっただけでなく、自分の両手が後ろで組まれてしまったのだ。そして里美先輩の視線は僕のズボンに──

 

「あらあら、本当に元気いっぱい♪」

 

「ああああああっ!?」

 

 悲鳴を上げながら一瞬で椅子に座りなおすと辺りを見回す。幸いにも周囲のクラスメイト達には見られていなかったみたいだけど、今の悲鳴で完全に注目を集めてしまった。

 

 冷汗をだらだらと流している僕を、里美先輩は心底楽しそうに見下ろす。

 

「くすくす……何も言わないってことは、特に抗議したいことはないのかしら?」

 

 もちろん、あるに決まっている。だが、これだけ周囲からの注目を浴びている状態で立ち上がることは学園生活の終わりを意味していた。

 

「な……何も、ないです……」

 

「ふぅん……? じゃあ、これからも和くんには催眠術の実験台として『協力』してほしいんだけど、大丈夫?」

 

「……は、はい……」

 

 この状況では、僕は自ら催眠術の実験台という屈辱を受け入れるほかない。その回答に里美先輩は満足したように頷くと右手を元通りに下ろした。

 

「ふふ、よくできました。それじゃ、おまじないの効果も確認できたことだし、私は先に帰るねー。

 あ、そうそう……和くんの『元気』な状態はこのまましばらくしたら元に戻るけど、これから当分の間、私に対して反抗的な態度を取ろうとする度に今みたいな状態になっちゃうから気を付けてね♪」

 

 ひらひらと手を振りながら教室を後にする里美先輩を、僕は真っ赤になりながら見送ることしかできなかった。

 

<終>

4件のコメント

  1. 読ませていただきましたでよ~。

    なんて小悪魔な先輩。
    いや、小悪魔ではなく和くんにとっては悪魔なんだろうけど。
    一シーン過ぎて背景も何も見えないので感想書きにくいw
    というか「前に進めない催眠暗示に抵抗しようとする女の子のお話」のシリーズになってるのでぅけど、前作と今のところかけらも関係がみえないので設定ミスを疑ったレベルなのでぅw
    次回では浩一くんと里見先輩が対決でもするんだろうか・・・?

    まあ、和くんにはいつか里見先輩の寝首を掻いて欲しい所でぅ。
    であ、次回?も楽しみにしていますでよ~。

    1. ほんとだ!
      多分シリーズ設定をしていなかったためですね。浩一君とは関係ないです。すみません。
      とりあえず繋がりとしては「里美先輩の常識変換」の後日譚的な奴になります。
      まあ催眠術を悪用してこういう逆セクハラしてくる先輩っているよね? って感じです。(いない)
      寝首は……かけないだろうなあ。

  2. こんばんは(*^▽^*)

    こちらも読ませていただきました。

    年上先輩(勝手に巨乳なお姉さんをイメージしております)にいじられる年下後輩(勝手にショタをイメージしております)……大好物(ーqー)じゅるり

    日常エロ、流石ですm(__)m

    次回も楽しみにしています(^◇^)

    1. 感想ありがとうございます!
      はい、もちろんおねショタですとも!
      ショタがお姉さんにちょっとえっちに弄ばれちゃうの大好きなので!
      こんな感じの日常的なえっちな催眠を書いてきます!

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