プロジェクトD 第6話

エピローグ

「さてと、今日はここまでにしておくか。……薫。明日の予定はどうなっている?」
「明日は、10時から、例のインド企業との提携に関して、本社会議室での会議が予定されています。その後、14時から、セリザワ土地開発の田坂本部長との会談の予定が入っています」
「ああ、あのショッピングモール開発予定地の件だな」
「そうです」
「資料はあるか?」
「こちらに」
「……よし、じゃあ、車の中で目を通すとするか」
「そうですね。それでは局長、表に車を回しておきます」
 そう言うと、秘書の望月薫は先に部屋を出ていく。

 ここは、タカトオ・コーポレーション本社、特別渉外局。といっても、ここは局長の俺と秘書の薫だけの部署だが。それでも、特別渉外局長は役員待遇だ。

 あの後、俺は社内規則違反で、マジック・クラフト・エンジニアリングを解雇された。

 マジック・クラフト・エンジニアリング社内規則第7条
 第1項 マジック・クラフト・エンジニアリングの社員は、社内において、他の社員を洗脳・操作してはならない。
 第2項 上項を破った場合、その社員は直ちに解雇処分とする。

 魔界は基本的に無法地帯だから、別に他の悪魔を洗脳しようが何をしようが構わない。まぁ、自分より格上の悪魔を洗脳しようとしても、返り討ちにあうのがオチだが。
 しかし、各企業においては、会社内での秩序を守るため、社内規則でこのような条項が設けられていることが少なくない。
 しかも、マジック・クラフト・エンジニアリングでは、部長クラス以上の悪魔には、洗脳操作感知センサーがつけられていたようだった。
 俺は、会議室になだれ込んできた保安部の連中に、その場で取り押さえられた。
 会社をクビになってしまえば、俺なんかただの中級悪魔にすぎない。

 結局、俺は人間界に来て幸の兄の会社に入った。
 
 百歳を越える人間が、大量に生きていることになっているようなこの国だ。戸籍なんかは、ちょっと操作すればいくらでも都合はついた。
 タカトオ・コーポレーションで俺は、主に契約交渉をまとめる仕事でめざましい業績を上げ、わずか3年で今の役職を得ることになった。
 人間界の尺度では、三十代半ばで天下のタカトオ・コーポレーションの役員というのは異例のことだが、現社長の娘婿で、次期社長の覚えもめでたいとなれば、少なくとも社内では表だって不満を唱える者はいない。
 だいいち、落とすことのできない大型契約や、交渉の難航している契約、深刻なトラブルの場合には、特別渉外局局長たる俺に、必ず出番が回ってくるし、俺は、それら全てを、絶対といっていい確率で解決している。
 
 部屋を出て、エレベーターホールに向かう途中で、背後から肩を叩かれた。
「おお!武彦くん!今日はもうあがりかね?」
「あ、常務、おつかれさまです」
「なにを言っているんだ、業務時間外では常務はよしてくれよ!」
「はい……弘志さんも今日はもうお帰りですか?」
「ああ。そういえば武彦くん、この間の大型契約、なかなか難しそうな状況だったが、あれを成立させたのは大したものだね。親父も喜んでいたぞ。親父は厳格な人だから、表にこそ出さないが、君のことはいつも高く評価しているんだから」
「まぁ、交渉をまとめるのが僕の役割ですから……」
「口で言うほど簡単じゃないとは思うがね。そうやって武彦くんが大きな取引を成立させてくれると、会社に引っ張り込んだ私としても面目が立つというものだ」
「ありがとうございます」
「まあ、また今度一緒に飲もうじゃないか。そうそう、今度は幸も連れてくるといい」
「そうですね、そうしましょう」
「それじゃ、おつかれさま」
「おつかれさまです」
 まあ、あの常務も俺の前ではバカ義兄モードだが、あれで仕事はかなりできるから、うちの会社も安泰だろう。

 あの事件の後、あからさまに怪しい波留間のダーツは没収された。まぁ、実際に後森がああなったのは、あのダーツのせいなのだからそれも当然だろう。
 だが、他のものは没収されなかった。
 たしかに、赤い糸や<反転のささやき>は、俺の体の中に取り込まれているから、よほど精密に検査しない限りわからないだろうし、この眼鏡も見た目は、なんの変哲もないただの眼鏡だ。
 それに、これらの道具が手元にあったからこそ、俺はいくつもの難しい交渉をまとめ、契約を成立させることができた。
(……それにしても、だ)
 倭文の奴なら全てを知っているはずだ。あいつがしゃべれば、全ての道具のことが知られてしまうはずだ。
 それが、今、こうして手元にあるということは、そのことを倭文が黙っているということなのだろう。
 なにか魂胆でもあるのか、それともただの気まぐれか……ま、あいつはもともと何考えてるかわからない奴だし。
 この道具があれば、俺が交渉ごとで失敗することはまずないし、とりあえず、今の生活が続くのならそれでいい。

「お疲れさまです、局長。それでは、車庫に車を入れてきますので」
「ああ、頼む」
 高級住宅地の一角にある俺の屋敷。日本有数の大企業の重役の邸宅とはいえ、少し大きすぎるくらいの豪邸だ。
 ま、同居人が多いからな……。

「おーい、いま帰ったぞ」
「あ、お帰りなさい、武彦さん」
「おかえりなさい!ご主人様!」
「旦那様、おつかれさまです」
 俺を出迎えたのは、高遠……いや、今では大門幸か。と、メイド姿の諏訪梨央、そして、高梨冴子だった。
 人間界に来てわりとすぐに、冴子を探しに行ってみたのだが、ばったり会ったとたん、顔を真っ赤にしてあきらかに挙動がおかしかった。
 それもそのはずで、眼鏡を通してみると、俺への好感度が8000もあった。そのくせ、あの時の記憶はたしかにないのだからこっちも驚いた。
 つうか、ディー・フォンの登録解除しても、識域下への影響ばっちりあるじゃねぇか。まぁ、おかげで、もう一度冴子を墜とすのは楽だったが。
 今では、冴子には大門家のメイド長をしてもらっている。家事だけなら梨央で充分なんだが、アイツの場合、それ以外の面で何かと不安だ。
 ちなみに、旦那様と呼ばせてはいるが、お冴モードではない。だいいち、今の俺ディー・フォン持ってないし。
 5人で一緒に住み始めた当初は、いろいろと面倒もあったが、今では皆仲良くやってもらっている。

 梨央にカバンを、冴子に上着を渡して居間に入る、もう晩の支度はできているのか、隣のダイニングルームの方から、かすかにいい香りが漂ってくる。
「武彦さん、先にお風呂に入ります?それとも食事になさいますか?そ・れ・と・も・わ・た・し?」
 ……おーい、そんなエロ漫画みたいなセリフと言い方どこで覚えてきたんだ、幸。
 幸は、返事も待たずに俺のベルトを外し、ズボンをずらしにかかる。
「梨央もお手伝いします!」
「あらあら、奥様ったら……それに梨央ちゃんまで……」
 とか言いながら、冴子も俺の服を脱がしにかかっている。
「おまえら……俺の意向はどうでもいいのかよ」
「そんなこと言っちゃって、ご主人様もその気なんでしょ」
 もうすっかり服を脱いだ梨央が、自慢の胸を俺に押しつけてくる。
 ……やっぱりこいつは、いろんな意味でご主人様への態度がなってないと思うぞ。
「梨央ちゃん、はしたないですよ。メイドは、ちゃんとメイドらしく分をわきまえないと」
 うんうん、やっぱり冴子は大人だ。こいつがしっかりしているおかげで、俺も何かと助かっ……て!何でおまえももう裸なんだよ!
「いいでしょう?武彦さん、ね?」
 俺のズボンをすっかり剥ぎ、モノをさすりながら、潤んだ目で上目遣いに見上げてくる幸。
 その表情は、この3年でますます妖艶さを増し、見ているだけでクラクラしてくる。……悪魔認定、魔性の女。
「ま、しかたないな」
 俺が頷くと、幸は嬉しそうに俺のモノを咥え込む。
「はむっ……んふ……ん、ん……ちゅ……」
 幸は口をすぼめて、吸い込むように俺のモノをしごき、舌先で刺激を与えてくる。
「くっ!……さあ、おまえらも入ってきていいんだぞ」
 そう言うと俺は、胸を俺に押しつけている梨央の裂け目を指でなぞり、冴子を抱き寄せて舌を絡める。
「ひゃあん!ご主人様ぁ!」
「ちゅ…くちゅ……旦那様……ん……」
「ふん……はふ……じゅる……た、たへひほさん……」
 と、その時、バンッ、とリビングのドアが開けられる、
「……もう、局長も奥様もずるいです。それに、梨央ちゃんに冴子さんまで……」
 そこには、腰に手を当てて、すねたように頬を膨らませた薫が立っていた。
「あふ……薫ちゃん、家の中では奥様じゃなくて、いつもどおり幸でいいのよ」
「それに、薫さんだって、お昼もずっとご主人様と一緒じゃないですか。そっちの方がずるいですよぉ」
「あのね、梨央ちゃん、私はお仕事をしているの。遊んでいるわけじゃないのよ」
 ……実際には、局長と秘書プレイというのをやったりやらなかったりするんだが、それを言うと話がややこしくなるだけなので黙っておく。
「まあまあ、まだ始まったばっかりのところだし、薫も早くこっちに来たらどうだ」
「局長……」
 普段仕事場で一緒にいるせいか、俺のことを局長と呼ぶのがすっかり板に付いている。
「そうよ、さあ、こっちへいらっしゃい、薫ちゃん」
「幸……」
 このふたりの関係、今ではすっかり幸が主導権を握っている。
 公の場では、幸を奥様と呼んでいるせいもあるんだろうが、やっぱりあの時、幸が薫を墜としたせいだと俺はにらんでいる。
 スーツを脱いだ薫が幸の体に絡みつくと、幸はまた俺のモノを口に咥える。
「ん……たへひほさん……ちゅ…んむ……あ!か、かおるちゃん!」
「あ……みゆき……んん…きょ、きょくちょう……」
「うんん、ごしゅじんさまぁ……」
「ああ……だんなさま……」

 ……この平穏な日々が続けばいい。
 ほんの数年前までは、そんなことなど考えもしなかった。
 人間界に来てから、俺は悪魔の能力をほとんど抑えて生活している。交渉の時に道具を使う程度なら、魔界にも天界にも気づかれるおそれはないだろう。
 この力を使って世界制覇とか、そんな事を考えて天界や魔界に喧嘩を売るつもりはない。
 もともと魔界に身を置いていた者として、それがどんなに大それた事かよくわかる。だいたい、俺はただの中級悪魔だ。そんな野望は荷が勝ちすぎる。
 このちょっと……じゃないな、だいぶエッチな家族たちとの、平和で幸福な日々。悪魔の願いとしては、だいぶ慎ましやかだろうが、この生活を続けていくことができたら、というのが今の偽らざる心境だ。

「んん!んぐぐぐ!ぐぐぐうッ!」
 口の中に射精され、幸がくぐっもった声をあげる。
「んん……こく……はぁはぁ……たけひこさん……んん!」
「ちゅ……ん……みゆきの舌、局長の味がするわ……」
 ところどころ白く汚した幸の口に薫が舌を差し込む。
「じゃあ、次は梨央の番!」
 薫とくちづけを交わす幸と俺の間に、梨央が体を割り込ませてくる。
「そうがっつくな。だいたい、おまえの態度はだな、下僕としての自覚が足らんぞ」
「でも……梨央……もう我慢できません……だめですか、ご主人様ぁ?」
 ……くそ、最近、涙目で甘ったるくねだることを覚えやがった。いろんな意味でタチが悪い。
「とにかくだな、みんな平等だ。今日はとことん相手してやるからそんなに急くな」
「あらら、これじゃあ、せっかく用意したお夕飯がすっかり冷めてしまいますね」
 そんなことを言いつつ、冴子は俺の体に舌を這わしてくる。

「んん…んむ……」
「ちゅ……ふあぁ……」
「あ、ひゃん……」
「はあぁ…ぴちゃ……」

 ――幸せ、そう、幸せな生活じゃないか。
 4人の喘ぎ声を聞きながら、俺はそう呟いた。

< 終 >

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