黒い虚塔 第1話

第1話

〔あのディー・フォンに、新アプリ登場!わくわく動物アプリで、どんな動物も使い魔に!動物なら、魔獣よりも簡単に使い魔にできますよ!さらに、わくわく動物アプリにはキメラ機能も!いろんな動物を掛け合わせて、自分だけのオリジナル使い魔をゲットしよう!〕

「いまいちだな……」
 広報部から送られて来た、新型アプリのCMサンプルをチェックして思わずそう呟き、内線に手をかける。えーと、広報部宣伝課の番号は、と……。
「……あ、こちら、商品開発部の倭文ですけど、ディー・フォンの動物対応アプリの、CM担当の方に代わってもらえますか?……ああ、どうも、倭文です。CMのサンプルチェックさせてもらいましたけど……、はい、そうです、それでですね、このアプリは、女性や子供をターゲットにしているんで、もう少し、可愛らしい感じにするとターゲットの購入意欲をそそると思うんですが。……ええ、そうです、もう魔獣アプリが出てるんで、使い魔といっても、ペット感覚みたいな感じで。……はい……はい、それで、キメラ機能のところにも、ちょっとペットっぽい、可愛らしいサンプル映像とか付けた方が……、そうですね、使い魔の定番の、黒猫とカラスを掛け合わせた、翼を持った空飛ぶ黒猫とかいいんじゃないですか?ええ……はい……あ、そんな感じです。はい、では、そういうことでお願いします」

 電話を切り、ふう、と一息つく。
 CMといっても、もちろん、人間界向けじゃない、魔界向けのものだ。
 今や、<魔獣バトラー>のおかげで、男の悪魔の大半がディー・フォンを持っている状況だが、マーケティング部の調査の結果では、女の悪魔への売り上げがいまいち弱い。
 たしかに、魔獣をコレクションして戦わせるのは、あんまり女性陣の興味は引かないだろう。人間操り系のアプリも、男用に偏っていて、女が使えるものは、極端に少ない。
 この手の道具は、人間界にそうそう大量にばらまくわけにもいかないし、ディー・フォン本体の売り上げを伸ばす余地がある市場は、魔界の女性くらいしかない。
 そこで手がけたのが、動物用アプリだ。
 まあ、動物を取り込む機能はすぐ開発できた。苦労したのは、実力で動物を従えて使い魔にした場合と同じように、動物との意志の疎通ができるようにする機能を組み込むことだった。
 とはいえ、動物を使い魔にするのは、悪魔には朝飯前なので、それだけだと、あまり有り難みがない。そこで、目玉機能として付けたのが、この、キメラ機能だ。
 これは、登録した動物を掛け合わせることができる機能で、これで、普通では使い魔にできない、オリジナルの動物を作り出せるようになる。
 とはいえ、あくまでもペット感覚でという感じだ。
「可愛らしい感じで、って、最初に言ったはずなんだけどなぁ」
 思わず、ボソッと口に出る。
 やっぱり、うちの広報部に頼むより、外部の製作会社に任せた方がよかったかなぁ。でも、それも後々面倒なんだよなぁ……。
 まあ、これで宣伝課も手直ししてくるだろう。
 しかし、このアプリ、意外と人間界でも売れるんじゃないか?
 でも、動物を思い通りに操るだけじゃ、その人間は地獄に堕ちないから、魂の回収率が上がらないな。
 えーと、ノーベル賞とかいうの?あれはもらえるかもしれないけど。
 
「さて……」
 次に、下からの企画書に目を通す。今では、新商品の企画書は、商品開発部部長補佐兼統轄マネージャーである、自分のところに上がってくるようになっている。
「はい……?」
 洗脳機……?て、これ、巨大な洗濯機じゃないのか?なになに?人間をぶち込んで、記憶を洗い流し、新しい記憶と人格を入れる?
 洗脳って……本当に洗ってどうするんだよ。だいたい、どうやって人間をこの中に入れるんだ?
 誰だよ、こんな企画出した奴は?えーと、北米エリア担当第1製作課、伴天院祐二……。
 あの人、今あそこにいるのか……。
 洗濯機型の機械で洗脳機……いろんな意味で、もっと名前捻ろよ、とつっこみたくなるな。相変わらずネーミングセンスないよなぁ、あの人。……製品のセンスはもっとないけど。
 おおかた、アメリカの、燃費が悪そうな、ばかでかい洗濯機見て思いついたんだろうな。そもそも、ここに上げる前に、課長が止めろよ。はい、却下。
 まったく、悪魔ってのは、常識とか勤労意欲に欠けてる奴が多いものだけど、もうちょっとちゃんと仕事して欲しいなぁ。その点、あいつは課長としてはまともだったよな……。

「ちょっと!この間のこの企画書出してきたの誰!」
 後森部長の大声が、こっちのデスクの方まで響いてくる。……あれは、ヨーロッパエリア担当の方向だな。
「キミねっ!なによ、この企画書は!書式間違ってるし、誤字だらけじゃないの!」
 ああ、今日も元気だな、あの人は……。
 あいつの起こした事件の後、大変なことになっていた部長を元に戻したのは自分だ。
 あいつは、あのダーツでの洗脳は、解除できないと思っていたようだった。
 たしかに、なかなか厄介な代物だったが、僕の力を使えば、なんとかならないほどのものではなかった。
「だいたいね、企画自体がどうなってるのよ!女性を釣り上げて、操る釣り竿ですって!?」
 釣り竿、ねぇ……あれ?それって、先週却下しなかったっけ?
 まさか、部長に直に持ち込んだのか?度胸のある奴もいるもんだなあ。
「……ヨーロッパでは釣りがポピュラーだって!?だからって、こんな物どうやって街なかで使うのよ!」
 ごもっともです……。
「……女を落とすことを釣り上げるって言う!?喩えでしょ、喩え!本当に釣り竿で釣り上げるわけじゃないでしょうが!」
 ……こんな社員ばかりで、よく利益上げられるよな、うちの会社。
 さてと、残った書類を片付けるとするか。

「お疲れさま、倭文くん。さ、どうぞ」
 カチャ、とデスクの上にカップが置かれる。顔を上げると、部長がお盆を抱えていた。
「あ、すみません。部長にお茶を淹れてもらうなんて……」
「いいのよいいのよ、キミはうちのホープなんだし」
 気にするな、という風に、部長が、ひらひらと手を振る。
「それに、キミは私の恩人なんだから」
 どうでもいいけど、さっき、向こうの方で怒鳴ってた時とは、えらい口調が違うんですけど。
「ありがとうございます。それでは、ありがたくいただきます。」
 お茶を啜りながら、眼鏡越しに部長を見つめる。
 すると、端から見てわかるほど頬が染まってくる。
 ……よし、効いてる効いてる。
「ねぇ……倭文くん、今夜暇かしら?」
「そうですね、今日は、もう時間のかかりそうな仕事はないですし、特に予定もないですし」
「そう、それじゃ、一緒に食事でもどうかしら?ホラ、私を治してくれたお礼も兼ねて……」
「いや、まあ、僕は当然のことをしただけですから。でも、せっかくのお誘いですし、ご一緒させていただきます」
 それだけで、部長は満面の笑顔になる。
 ホント、あいつと会話してた時とは全然違うよな。

 ――魔界でも有名な高級レストランの前。
「部長、今夜はどうも、ごちそうさまです」
「いやいや、いいのよ、このくらい」
 このくらいって、たしかこの店ってすごい高いんじゃ……。
 ……うーん、この人、本気モードだ。
「ね、どう、倭文くん、もう1軒つき合わない?」
 うわー、そう来ますか……。
 向こうがその気なら……そろそろいい頃合いかもな。
「はい、お供させていただきます」

「もう~、ホントにありがとうね~、倭文く~ん」
 そう言うと、部長は、カクテルグラスを一息に空にする。
 ……そのカクテルって、たしかギブソンでしょ。ほとんど、ジンを一気してるようなもんじゃん。
 さっきのレストランでも、結構ワイン空けてたし……。
「それにしてもっ!大門の奴、ホンッとに最低よね~!」
「……そうですね、部長にあんなことをするなんて」
「あいつ!今度会ったら、八つ裂きにして、熨しイカの裂きイカにしてやるわっ!」
 ……なんですか、熨しイカの裂きイカって?
 とはいえ、あいつと部長の関係を考えたら、いつか、ああいうことになるのは想定していた。
 そのために、道具をいろいろとあいつに渡してやったんだから。
 予想外なのは、自分がこんなに早く出世することになったのと、波留間のダーツが思ったより強力だったことだ。
 まあ、そのおかげであいつが事件を起こしてくれたわけだし、必要なデータも取れた。
「部長、そんなにお飲みになって大丈夫ですか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!これくらい何とも……きゃ!」
 バランスを崩した部長を、手を出して支える。
「あ、ありがとう……倭文くん」
 部長を見つめていると、どんどん頬が染まっていく。
 あいつが事件を起こしたとき、部長につけられている洗脳操作感知センサー、あれが反応したのは、波留間のダーツに対してだ。
 赤い糸や、<反転のささやき>を使ったときには、ほとんど反応をしていなかった。
 そのことからわかるのは、洗脳操作感知センサーは、即堕ち系や、直接洗脳型には強く反応するが、認識誘導型への反応は鈍い、ということだろう。
 ましてや、この眼鏡は、相手の好感度を上げるだけのもの。
 これにまで反応していては、単なる感情の変化でも反応しなければならなくなる。
 それに、部長の僕に対する好感度は、もともと高い。この眼鏡を使ってセンサーが反応することはまず無いだろう。
「部長、そろそろお開きということにしませんか?」
 そう言いながらも、部長を見つめ続けたままだ。
 それだけで、もう、部長の目は潤み、息が荒くなっている。
「……ねえ、倭文くん。……私の部屋に寄っていかない?」
 部長は、そう、喘ぐように言った。

「部長、ホントに大丈夫ですか?」
「もう……だいじょーぶだって!」
 いや、足が完全に千鳥足になってますって。
 こっちが部屋に寄って行くと言ったとたん、またテンションがだいぶ上がってるなぁ。
 しかし、これじゃ、寄って行く、じゃなくて、どう見ても、送って行く、だよな。
「さ、部長、6階に着きましたよ。」
「あ、じゃ、こっちこっち~!」
「はい、こっちですね」
「はい~、ストップ!ここ~!」
 部長の肩を支えて部屋に入り、灯りをつけて一瞬目眩がした。
 壁紙も、絨毯も、カーテンも……なんで、一面ワインレッドなんだ?どういう趣味ですか?
「ありがとうねー、倭文くん!まあ、お茶でも……きゃあ!」
「もう、ホントに大丈夫なんですか?お茶はいいですから……部長?こんなところで寝てたら風邪引きますよ」
 完全に飲みすぎだな、これは。……仕方ないか。
「部長、ベッドで寝ないと風邪引きますって」
 そもそも、悪魔が風邪引くかどうかも怪しいけど、とりあえず放ってはおけない。
「……と、部長、ここでいいですね?……うわ!」
 なんとか部長を寝室まで連れていくと、いきなり、ベッドの上に押し倒される。
「部長?」
「ふふ~ん、倭文く~ん……」
 ベッドの上に仰向けになった僕の上に、のしかかるように乗っかってきて、潤んだ目でこっちを見つめる部長。
 なにより、自分を押さえつけてるこの力。さっきまで、泥酔して台所で寝かけていた人のものとは思えない。
 ……演技ですか。一本取られたな、これは。
「ぶ、部長?」
「今夜は帰さないわよ、倭文くん……」
 そう言うと、部長は僕の服のボタンを外しにかかる。
 お決まりのセリフだなぁ……。まあいい、こっちも演技させてもらうとしますか。
「ぶ、部長!そ、それはちょっと!」
「うふふ、ウブなのね、倭文くん」
 ウブな悪魔って、存在が矛盾してるでしょうに……。
「倭文くん、私の言うとおりにしていれば、悪いようにはしないから。……実は、ディー・フォンに次ぐ、新商品の開発を目指すプロジェクトチームを作る話があって、それを君に任せようと思ってるの」
 そういうプロジェクト任せられるの、僕以外いないでしょう……じゃなかった。
 ……ああ、そうですか、パワハラで逆セクハラのパターンですか。
 ていうか、そうだよな、この人って、こういう人だよな。さっきまで、いつになく、可愛らしい感じムンムンだったのも演技だろうなぁ。
「このプロジェクトは、上からの肝煎りだから、成功させれば、私は製品事業部全体をまとめる本部長に、倭文くんは私の後任の商品開発部部長、いや、製品事業部本部長代理も夢じゃないわよ」
 そう言うと、部長は自分の服も脱ぐ。
 いや、自分が出世したいのか、僕を引っ張っていきたいのかどっちなんですか?ああ……どっちもか。
 などということを考えつつ、裸になって迫ってくる部長への演技は忘れない。
「部長!ま、まずいですよ!」
「まずくなんてないの、倭文くんは、黙って私についてくればいいのよ……」
 部長が目を閉じて、その顔がこちらに迫ってくる。
 まあ、例の眼鏡を使って好感度を上げたのは僕なんだけど……。
 なんか、この人の場合、眼鏡使わなくても、そう遠くないうちにこうなっていたような気もするなぁ……。
「ぶ、ぶちょ……う!……」
 部長の舌が口の中にねじ込まれてくる。
「ん……んんん……ん……倭文くん……」
「はぁ…はぁ……ぶ、部長……」
「ふふ……可愛いのね、倭文くん……」
 いや、まあ、演技ですけど。
「もう……倭文くんのここ、もう、こんなに堅くなってる……」
 それは、いちおう男のはしくれですから。
「あ!ああ!部長!そこはっ!」
 もちろん、演技は忘れない。
「んふ、倭文くんったら……ホントに可愛い」
 部長は、熱っぽい目でこっちを見つめながら、僕のアレを握りしめている。
 こっちの足に絡めてくる部長の腿に、ヌラ、という感触がある。……この人、もうこんなに濡らしてるのか。
「倭文くん……期待してるわよ」
 んー、それは仕事の方なんでしょうか?アソコの方なんでしょうか?
「ん……そろそろ行くわ、いいわね?」
 いや、僕には選択権ないんでしょ。……おっと、演技演技。
「あ……は、はい、部長……」
「ん!んんん!ああうん!」
 僕のの上に跨って、僕のアレを握ったまま、部長が、腰を浮かせて、自分の裂け目に挿し込む。
「あ!あああ!ぶ、部長!」
 ……なんか、ただの童貞みたいだな。この演技で合ってるのかな?
「あ!……はあん……ん!倭文くんの……大きい……」
 最初は、味わうように、ゆっくりと腰を動かす部長。
「あ……うん……はあっ!ああん!いいわ!いいわよ!倭文くん!」
 次第に、部長の動きが大きくなっていく。
「あん!はあん!ひあん!はあっ!ああ!!」
「うう!部長!」
 部長の喘ぐ声に、合いの手を入れることも忘れない。
「ああん!んん……はぁ……うんん……ねえ、気持ちいい?倭文くん?」
 さっきまで、縦に動かしていた腰を、大きく輪を描くような動きに変えてこっちを見つめる部長。
 うわー、あれは、かなりやばい目つきだな。獲物を見つめるケダモノの目だ……。
「あ……ぼ、僕も気持ちいいです、部長……」
 いや、僕、あのディー・フォン開発者ですよ。そんな奴が、ウブでオクテだって、本気でこの人思ってんのかなぁ……。
 しかし、気持ちいいのは事実です、ハイ。
 部長が腰を回すたびに、ゾワワ、とアソコの中が、僕のアレにまとわりついてくる。
「あん……うふん……はん……あっ!ああん!し、倭文くんの!まだ大きくなってる!」
 そりゃ、これだけ気持ちよけりゃ大きくなるでしょうよ。
「はあん!ああん!はあっ!倭文くん!ああうん!」
 ひとりで腰を動かして、勝手に喘ぎまくっている部長。
 たしかに、今の自分って、ただのマグロ状態だよなー。なんか、ホントに童貞みたいだなー。
 じゃ、ちょっとはサービスしとくか……。
「ひゃん!あああ!す!すごいの!倭文くん!あああん!」
 僕が下から腰を突き上げると、部長の声が一気に何オクターブか上がる。
 その巨胸が跳ねるように揺れ、髪を振り乱して喘ぐ。
「はあん!はあっ!ううん!し!倭文くん!」
「ああ!ぶ!部長!ぼ、僕!もう!」
「ダメ!まだダメよ!倭文くん!はあん!」
「ぶ!部長!?」
「め!命令よ!はああっ!い!一緒にイキなさいっ!」
 ……どういう命令ですか。
「ああああん!ううんっ!んん!ふあんっ!」
 ていうか、アナタもうすぐイキそうでしょ。
「ふああああっ!イイ!イイわっ!倭文くん!ふうううんっ!さ、最高よ!」
 僕の方は、いつでもスタンバイOKですよ。
「うう!ぶ!部長っ!」
「はあああっ!し!倭文くん!いいわ!来てちょうだい!」
 じゃ、遠慮なく。
 僕は、両手で部長の腰を押さえて、グンッ、と突き上げ、思い切りぶちまける。
「あ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!倭文くんの!熱いのがっ!ああああああーッ!」
 部長は、首を反らせて思い切り絶叫する。
「はああああぁ……ん!……あん!……はあん……」
 身体を、ビクッ、と痙攣させて精液を受けとめる部長。
「ふううん……うふん……良かったわ、倭文くん……」
「部長……僕もです……」
「うふ……でも、まだまだこれからよ……」
 ……ホントに今夜は帰れそうにないな。
「ねえ……聞いてるの、倭文くん?」
 部長は身体をこっち側に倒し、胸を僕の身体に押しつけ、耳を舐めるように囁く。
「はい、部長……ん……んん」
 そう返事をして、僕は部長の舌に自分の舌を絡めていく。

 完全に主導権は部長にあるな……。
 でも、今はそれでいい、今はまだ……。

< 続く >

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