堕天使の憂鬱

 ※このお話は、『悪魔の流儀』大門エンドの後日談です。

「あっ! 綾さんっ!」

 キッチンの方から、梨央の大声が聞こえた。
 それとほぼ同時に、ガシャン! と皿の割れる音も。

「もうー! 綾さんったら何してるんですか!?」
「ごめんなさい、梨央ちゃん」

 続けて、梨央がブツブツいう声と綾の謝る声が漏れてくる。

「ふたりとも、それは後よ。それよりも早く掃除機を持ってきて!」

 と、今度は冴子の声が聞こえた。

 ……だけど、綾のやつが食器を壊すのってけっこう久しぶりだよな。

 新聞に目を通しながら、俺は前に綾が皿を割ったのはいつだったっけな? と考えていた。

 我が家のメイドには、天使がひとりいる。
 こいつときたら、見た目はそりゃあもう美人でマジ天使だし、ちょっと強引なところもあるけどかわいいやつだし、それでいてものすごく腕は立つときてるし、しかも本当に天使かと疑いたくなるくらいいやらしいやつだ。
 ただ、家事がからきしダメなのがメイドとしては難点ありだが。

「朝からみんな元気ですね、武彦さん」
「ん? ああ、そうだな」

 空になった俺のカップにコーヒーを注ぎながら、幸がにっこりと微笑む。

「それに、冴子さんも元気なって本当によかったわ。局長もそう思いますよね?」
「ああ」

 その日の俺のスケジュールをチェックしていた薫も、顔を上げて嬉しそうに目を細める。
 まあ、薫は冴子とは仲がいいし、喜びもひとしおなんだろう。

 あの時、悪魔に負わされた冴子の傷も、もうすっかり治って後遺症も全く残ってない。
 これも、綾が天界から持って帰ってきたっていう薬と、毎日の献身的な看護があったからこそだと思う。

「ところで、おまえたちはもう大丈夫なのか?」
「え? 私はもうなんともないですけど」
「私たちは、別に怪我をしてたわけではないですし」

 俺の問いかけに、幸も薫もきょとんとした顔で首を傾げている。

 本人たちはそういうものの、倭文の奴によって強制的にさせられたこととはいえ俺のあんな無茶苦茶な魔力を注ぎ込まれて、普通なら無事じゃ済まないはずだ。
 それがこうして無事でいられるのも、ボロボロになっていたふたりの精神を綾が治してくれたからなんだが。

「ねえ、武彦さん」
「なんだ?」
「私、思うんです。綾ちゃんは、みんなを助けるために神様が遣わしてくれたんじゃないかって」
「あ、私も同感」
「やっぱり薫もそう思うよね」
「うん。でもね、幸、綾ちゃんが神様の遣いでもそうじゃなくても、私は別にかまわないわよ。綾ちゃんはもう、私たちの大切な家族なんだから」
「私だってそうよ。綾ちゃんは本当にいい子だし、あの子がうちに来てくれてよかったって思ってるもの」

 そう言って、幸と薫はふたりで頷き合っている。

 まあ、当たらずとも遠からずだな……。
 神様が遣わしたのかどうかはともかく、綾が天から来たのは間違いないし。
 それに結局、俺も含めた全員が綾に助けられたようなもんだし。

 綾が言ったとおり、あれからすぐに幸も薫も目を覚ました。
 ふたりともあの夜のことはほとんど覚えてないみたいだが、なんとなく綾に助けてもらったというのは感じているらしい。
 自分が天使だということは、綾は俺にしか明かしていないし、本人が話そうとしないものを詮索するようなデリカシーのないやつは我が家にはいないけど、それでも綾がただ者じゃないってことは感じているみたいだ。
 それに、ふたりにとっては綾の正体はどうでもいいみたいだしな。
 薫の言うとおり、綾はもう我が家の一員なんだから。 

 ……て、俺はあいつを一度は天界に戻したはずなんだけど。
 
 とにかく、今ではすっかり平和が戻って、みんなも幸せそうな毎日が続いている。
 天界に帰したはずの綾が、すぐにまた戻ってきて押しかけメイドをしていることも込みで、全部元通りの生活だ。

* * *

 そして、夜の生活もまた、すっかりいつもの調子を取り戻していた。
 ……はずなんだが。

「どうしたんだ、綾?」

 夜、俺の相手をするのは平日は5人が持ち回りで、それでもって週末はみんなで楽しむことになっていた。
 って、別に俺が決めたわけじゃなくて、幸たちが話し合って決めたんだが。
 なんでも、みんながみんな俺としたいから、平等にするにはそれしかないらしい。
 ……それって、俺の気分次第で昼間っから会社でやることがある薫なんかはどうなんだとも思うが、余計な波乱は立てたくないので黙っておこう。

 で、その夜は綾が当番だったんだが、これが浮かない顔というか、どこか思い詰めたように真剣な顔をしていた。

 もしかして、天界に戻らなくてはいけなくなったのか?

「大門様……私は、大門様の下僕ですよね?」
「俺はそのつもりだが。なんか問題でもあるのか?」
「あ、いえ……。でも、私は奥様たちみたいになんらかの道具で下僕にされたわけじゃないですよね?」

 ……うん、そうだな。
 冴子はディー・フォンで俺のものになったし、梨央もあの怪しいことこの上ないダーツで俺の下僕になった。
 幸は、倭文の奴が作った赤い糸で、薫もまた、あいつが作ったあの青い宝石の力で俺のものになった。
 ……そうえば、倭文の奴は俺が消滅させたけど、あの糸と宝石はまだ俺の中に埋め込まれたままなんだよな。

 しかし、綾に対してはなんらの道具も使っちゃいない。
 あの日……俺たちがバティンに襲われた後、綾の方から俺の下僕になったあの夜だって、俺は綾に向かって、完全に俺のモノだと口で言っただけで道具は一切使っていない(嘘だと思うんなら、『悪魔の流儀』の第7話を読み返してみてくれ)。
 というか、あの時点でこいつは俺に対する好感度が18万とかいうふざけた数値をたたき出してて、すでに俺のモノも同然だったし。
 言っとくけど、そんなに俺のことを好きになっているやつをそれ以上俺のモノにさせるような道具は持ってないぞ、俺は。
 しかも、倭文を倒した後に一度天界に帰らせたっていうのに、勝手に戻ってきて押しかけ下僕をしてるときたもんだ。
 そりゃ、どっからどう見ても俺の下僕だろうが。

 でも、事実は事実だ。

「ああ。たしかに、おまえに対しては何も使っちゃいないな」
「だったらお願いがあります! 今夜、私に大門様の道具を使ってください!」
「……はい?」

 なに言ってるんですかこの子は?

 綾の言ってることの意味がわからずに、目が点になる。
 すると、綾のやつは涙目になってさらに訴えてきた。

「大門様の道具で、今度こそ私を大門様のモノにしてください! 奥様たちみたいな、本当の下僕にしてください!」

 と、ものすごい真剣な顔で迫ってくる。

「なにかあったのか?」
「いえ、別になにかあったって言うわけじゃないんですけど、奥様たちを見てると毎日本当に楽しそうで、幸せそうで。……いや、それは、私だって大門様や奥様たちと一緒にいられて幸せですし、毎日楽しいですけど、奥様や薫さんや冴子さんや梨央ちゃんの方がもっともっと幸せそうな気がするんです。それはなんでかなって思ったら、奥様たちは大門様の道具で下僕になったのに、私は違うからじゃないかと思って。だから、大門様に道具を使っていただいて、本当の下僕にしてもらったら、私もみんなと同じくらいに幸せになれるんじゃないかなと、そう思って……」

 ……おまえはガキか?
 それはもう、切り分けたケーキのどっちが大きいかで子供が喧嘩するのと一緒だぞ。

 ていうか、おまえは曲がりなりにも天界から俺を監視しに来てる立場なんだろ?
 それが、監視する対象の本当の下僕になりたいとか、なに寝言をほざいとるんだ?
 俺がもし、天界でのおまえの上司だったら説教のひとつやふたつじゃ済まんと思うぞ。

 だいいち、さっきも言ったけどおまえの俺に対する好感度は18万超えてんだからな。
 レベルで言ったら幸たちと全然変わらんのだが、それをこれ以上どうしろと?

「いや、おまえな……」
「とにかく! 大門様が道具を使ってくださったら、私はもっと幸せになれると思うんです!」

 ああもう、この、今にも泣き出しそうな綾の顔。
 こういう顔してるときのこいつは絶対に折れないんだよな……。
 はぁ……しかたないか……。

 と、そんなわけで……。

「あの男の魔力の気配はもちろん、怪しげなトラップなどの類も感じられませんね。感じられるのは大門様の魔力だけです」

 俺が出したあの赤い糸に手をかざしながら、綾が呟く。
 直接触れてみたり、魔力探知ができる宝石とかいうのを取り出してきたり、はてはしち面倒くさい感知魔法まで使って、かなり長い時間かけて詳細に調査した末の結論だった。
 ていうか、そこまでしてこれを自分に使って欲しいのかよ?

「たぶん、これを使ってもなにも問題はないはずです」
「いや、おまえな、よくもまぁあいつが作ったものを自分に使おうって気になるよな」
「でも、あの男は大門様が消し去ってくれました。あの男は……シトリーはもう存在していないのです。だからおそらく、これはもう大門様の魔力だけで動いているんでしょう。ですから、これを私に使っても絶対に大丈夫です」

 そう言って、綾が期待に満ちた視線を向けてくる。
 って、いや、これを使われるって時点で俺に操られるってことなんだけど、それを大丈夫と言い切ることができる神経が俺にはわからん。

「もう一度よく考えろ。本当にこれをおまえに使っていいのか?」
「もちろんです!」
「おまえの場合、これを使ってもそんなに大きく変わらないかもしれないぞ?」
「かまいません!」
「後で後悔するかもしれないぞ?」
「後悔なんかするはずありません!」

 おーい……こいつもう完全に洗脳されてないか?
 なんか、盲目的に俺のことを信じ切ってるんだが。

「いや、俺は今のままでもいいんじゃないかと思うんだけどな……」
「どうしてそんなことをおっしゃるんですか!? もしかして、大門様は私を本当の下僕にしたくないんですか!?」

 と、俺に迫ってくる綾の目が、溢れてくる涙で潤んでくる。

「わかったわかった! してやるから、おまえを本当の下僕にしてやるから!」

 とにかく、そうしないとこの場が収まりそうにないので、結局俺が折れるしかなかった。

* * *

「じゃあ、一番強力な使い方をするからな、ちょっと苦しいかもしれないぞ」
「はい、大丈夫です」

 俺の言葉に、さすがに綾も少し緊張した表情を浮かべるが、それ以上に嬉しそうに見えるのはどういうことなんだろうか。

「よし、行くぞ」

 そう言って綾の胸に手を当てると、そのまま零距離使用で一気にその魂を縛る。

「ひぐっ!? はうっ……あっ、うああっ……」

 呻き声をあげた綾が大きく目を見開き、その瞳孔がしゅっと収縮する。

(なに? なんなの、これはっ!? 体がっ、動かない……声も……)

 糸を伝って、怯えたような綾の心の声が聞こえてくる。
 俺は、薫にこの糸を受かったのと同じように、俺の言葉として伝わるように思念を送った。

{心配するな、綾}
(大門様?)
{今、この糸でおまえの魂を縛ったんだ。これでもう、おまえは俺の思うままになってしまう。俺のモノになってしまったも同然だな}
(大門様のモノになったも同然……あぁ……)

 おい、今、うっとりしたような響きが混じらなかったか?

 なんか、そこまであからさまに嬉しそうにされるのも面白くないな……。

{じゃあ、とりあえずおまえが俺のモノになった証拠に、ちょっとおまえの体で遊ぶことにするぞ}
(私の体で、ですか……?)
{なんだ? 不服なのか? おまえは俺のモノなんだから、俺の好きなようにしてもいいだろうが}
(あっ、いえっ、不服なんてとんでもありません! どうぞ大門様のお好きなように遊んでください!)

 魂を固く縛られて体は棒立ちになったままだが、慌てたようなその思念がどんどん流れ込んでくる。

{それでいい。じゃあ、始めるぞ}

 俺はそこで通話モードを止めて、綾を操るための思念を送り込んだ。

{大好きな大門様に触られると、鼻がまるでクリトリスのように感じてしまう}
(あうっ……!?)

 俺の思念を受け止めた瞬間、綾の体が小さく震えた。

 そのうえで、身動きが取れるように魂の縛りを緩めてやる。

「魂の拘束を緩めてやったから、もう声も出せるし体も動かせるぞ」
「……え? あ、本当です」

 俺の言葉に、綾は腕を動かしたりして不思議そうにしている。

 そこに、糸を出していない方の手を伸ばしてその鼻にそっと触れた。

「はうっ!? きゃあああああああっ!?」

 悲鳴を上げて顔を仰け反らせると、綾はその場に尻餅をついてしまう。

「なっ、なんですか今のは!? 大門様が鼻に触れたら、ビリビリって……!」
「まるで、クリトリスを弄られたみたいだったろ?」
「そっ、そんなことはっ……!」

 いや、そうやって顔を真っ赤にしてる時点で、そうですって言ってるようなもんだ。

「隠さなくていいぞ。それは俺がそうさせたんだからな。俺に鼻を触れられるとクリトリスを触られたように感じてしまうってな。……ほれ」
「……やっ! ひゃううううううううっ!? ああっ、そんなっ、大門さまぁあああああっ!」

 しゃがみ込んで綾の鼻を撫で回すと、後ずさろうとするのを追いかけてさらに触れる。

「ほれほれ、どうだ?」
「やぁあああっ! これぇっ、クリよりもすごいですぅうううっ! あっ、あたまにジンジン響いてっ、ひゃうぅううっ、わっ、わけがわからなくなりましゅぅううううっ!」

 体から力が抜けたのか、その場にへたり込んだ綾の呂律があっという間に怪しくなってきた。
 いつも、俺とのセックスで感じまくっているときみたいに、顔を真っ赤にして涙目になっている。

 なるほど、クリトリスよりも頭に近い分、快感が直接響くのかもしれないな。
 だったら……。

 実際にクリトリスを触るときのように、痛くないくらいの力加減で鼻を摘まんでやる。

「ひうっ! それらめれすぅううっ! はううっ、わたしっ、イッちゃうっ、イクイクイクッ! ふぁああああああああっ!」

 綾の足がビクッと絨毯を引っ掻いて、そのままつま先まで伸びきってビクビク震える。

「ふぁああああ……こ、こんらの、しゅごいれす……」

 そのまま体をヒクヒク痙攣させて、綾は絶頂の余韻に浸っていた。
 放心状態で、潤んだ瞳を俺に向けている。

「どうだ? おまえの体は、もう俺の思いのままなんだってわかったか?」
「はい……本当に、すばらしいです、大門さまぁああ……」

 て、そんなに素直に受けいられてもなぁ……。
 こういうプレイってのは、そこで自分が相手の思いのままなのを思い知って絶望に顔を歪めるのが……って、別にそんなプレイしてるわけじゃないんだけどな。

 まあでも、せっかくだしもう少し遊んでみるとするか。

「綾、まだまだ終わりじゃないぞ」
「え? ひあぁっ!」

 再び、魂への締め付けをきつくすると、綾の体が硬直する。

{全身の肌が敏感になって、着ている服が大門様の体の一部になって愛撫してくる}

 もう一度、操作のための思念を送ってから、また魂の縛めを緩める。

「こ、今度はなんですか? ……ひうっ!? はうぅんっ! こっ、これはっ!? いぁああああああっ!」

 綾が、驚いたように体を震わせたかと思うと、そのまま倒れ込んだ。

「今、おまえの服が俺の体の一部になっている。それに、全身の感度もよくしてあるからな。まるで俺に体中愛撫されているみたいだろう?」
「ふっ、服がっ、大門様の体の一部に? ふぁああっ、すごいぃいいっ! 大門様にっ、全身を包まれてっ、はぁあああああっ!」

 俺の言葉を反芻していた綾が、いきなり大きく喘ぎながら体を悶えさせ始める。

「はぁあああああんっ! 服がっ、ザワザワって蠢いてっ! ああんっ、体中を大門様に触られてるみたいっ、あんっ、ふぁあああああっ!」

 服の方が動いているみたいに綾は感じてるんだろうけど、実際は違う。
 動いているのは綾の方だ。
 綾が体を捩って悶えるたびに服の生地が肌と擦れるので、それで感じてるだけなんだと思うが。

 まあ、うちのメイド服は露出が少ない分スカートの丈も長いし、それがかえって全身を包み込むようになってるからな。
 感じる快感もハンパじゃないんだろう。

「すごいぃいいいっ、これすごいですぅっ! わたしっ、大門様にこんなに可愛がっていただいてっ! ああっ、気持ちいいっ! あっ、ふあっ、ああああーっ!」

 恍惚とした笑みを浮かべた綾が身悶えするたびに、その、輝くような銀色の長い髪が黒を基調にしたメイド服に絡まっていく。
 それはそれで、いやらしくもあり美しくもあるといった光景だった。

 次第に、綾は痙攣するように震え始め、時おりビクンッとその体が大きく跳ね上がるようになる。

「ふああっ! 全身感じすぎてっ、こんなのっ、気持ちよすぎてっ、おかしくなりますぅうううっ! らめぇっ、逃げ場がないのっ! ぜっ、全部っ、気持ちよくてっ、あっ、またイッちゃうっ、イッちゃううううううっ!」

 綾が背を浮かせて、弓なりに体を反らせる。

「んふぅうううううっ! ああっ、イッてるっ、イッてるのにっ、まだ気持ちいいのが止まらないのっ! はうんっ、あふぅうううううううっ!」

 体を硬直させてイッてる途中でまた絶頂に襲われて、綾の体がヒクヒクと痙攣する。

 ……さすがにこれはちょっとやりすぎかな?

「……ひぐっ!?」

 もう一度魂を固く縛ると、綾が短い悲鳴をあげる。
 そこで、服の感触への操作を解くと、ようやく綾の体から力が抜けた。

 続けて、通話モードで思念を送る。

{どうだ、綾? これでおまえは、俺の思いのままだってことがわかっただろ?}
(……はいぃ。よくわかりました)
{じゃあ、いよいよおまえが待ちかねたことをしてやる}
(私が……待ちかねたこと……)
{おまえを本当の俺の下僕にしてやる}
(大門様の、本当の下僕に……私もやっと……ああ、嬉しい……)

 糸を伝って、かみしめるような綾の思念が聞こえる。

{じゃあ、覚悟はいいか?}
(もちろんです)

 最後にもう一度その意志を確かめると、操作のための思念を送り込む。

{次に大門様とセックスすると身も心も大門様のモノになって、大門様への愛情はずっと消えなくなる}

 思念を流し込んだ瞬間、綾の体がピクッと震えた。

 ……まあ、こんなものでいいか。
 別に俺は、綾の心を完全に支配したいとか思ってるわけじゃないし。
 とりあえず、それでこいつの気が済めばいいんだから。

 そしてようやく、綾の魂に絡めていた糸を解く。

「もういいぞ、綾」
「……大門様? 私はこれで本当に大門様のモノになったんですか?」
「いや、まだだ。今、おまえの魂にちょっとしたスイッチを仕込んだんだ」
「スイッチですか?」
「ああ。それは、俺とセックスするとだ。次にセックスすると、おまえの身も心も俺のモノになって、俺への愛情がずっと消えなくなる」
「身も心も、大門様のモノになって……大門様への愛情が、ずっと消えなくなる……」

 俺の言ったことを繰り返して、うっとりと夢見るような笑みを浮かべる綾。

 いや、今その表情ができる時点でこんな仕込みは要らないと思うんだけどな、俺は。

「では、大門様、早く私を大門様のモノにしてくださいませ……」
「そうだな。じゃあ、今夜はまず服を着たままでやるか? そして、おまえの方から俺のモノになりに来い」
「私の方から? ……かしこまりました。それでは失礼します、大門様」

 綾がいやらしい笑みを浮かべると、片足を上げてショーツだけを脱いでいく。
 そして、抱きつくようにして俺をベッドの上に寝かせると、ズボンを脱がせた。

「ふふっ……大門様も興奮なさっていたのですね?」

 すでに勃起していた俺のチンポを嬉しそうに握った。
 それをさらに手で扱いて、さらに硬くそそり立たせる。

「ああ……こんなに熱く硬くなって。では、よろしいですか?」

 そう言うと、綾は立ち上がって俺の体を跨ぐと、スカートの裾を大きく捲り上げた。

「この方が、興奮なさるでしょう?」

 メイド姿の綾が、スカートの中を見せながら妖しく微笑む。
 そこは2回もイッたせいで真っ赤に充血した襞がぱっくりと開き、ひくつきながら蜜を垂れ流しているのが丸見えだった。

 まったく、どこでこんなことを覚えてくるんだか?
 時々、こいつは本当に天使なのか疑いたくなるよな。

 こいつとやるときはいつも思うことだが、天使というよりかはただの淫乱メイドって言った方が正しいんじゃないかと思える。

「それでは、参りますね。……んっ、入ってっ、はぅあああああんっ!」

 そのまま膝を落とした綾がゆっくりと腰を沈めて、チンポが熱い感触に包まれていく。

「ああっ、嬉しい……私、これで本当に大門様のモノになれたんですね、身も、そして心も……」

 綾が、アソコでチンポを根元まで飲み込む。
 入れただけだっていうのに、綾のそこはものすごく熱くトロトロになってて、襞のひとつひとつがまとわりついてくるようだった。
 そのまま、両手を俺の胸について恍惚とした表情で目を閉じてゆっくりと体を揺らしている。
 しかし、我慢できないかのようにすぐにその動きが大きくなってきた。

「……嬉しい……本当に嬉しい……ぁん、んっ、ああ、大門さまぁっ、これで私は大門様のモノですっ、ずっと、ずっと! ……はんっ、ああっ、いいっ、大門様のおちんちんっ、すごくいいですっ!」

 俺のモノになった証と言わんばかりに、いやらしく腰をくねらして綾はチンポを貪っている。

 というか、やってることはいつもと全然変わらんのだがな、これが。

 あ、そういえば、さっき服への操作は解除したけど、鼻のやつは解除し忘れてたな……。

「あぁんっ、大門様っ、大門様のおちんちんが私の中でいっぱいになってます! ……きゃっ!?あんっ!」

 腕を伸ばして腰を揺らしている綾を抱き寄せると、目の前に来たその鼻にキスしてやる。

「あああっ!? ふわぁああああああああっ!」

 ギュッと俺に抱きついてきた綾のアソコが、チンポをきつく締めつけて痙攣した。

「なんだ、もうイッたのか?」
「はいぃ……お鼻へのキス、すごすぎます。あんなの、すぐイッてしまいます……」

 蕩けた表情でそう言いながらも、綾はまた腰をクイクイと動かし始めていた。

「もっと、もっと気持ちよくしてください……もっといっぱいイキたいんです……」
「そうか。じゃあ……」

 綾の背中に手を回すとファスナーを降ろして、袖から両腕を抜かせてやる。
 するとメイド服の上がはだけて、形のいい胸が姿を現した。

「じゃあ続けるぞ。しっかり動けよ」
「はい……んっ、はあっ、あんっ、大門さまっ、大門さまぁあああっ!」

 体を起き上がらせると、綾は再び腰を上下させ始めて、熱いうねりにチンポが扱かれる。
 俺は手を伸ばすと、目の前で揺れているその両のふくらみを掴んだ。

「はあんっ、おっぱいっ、そんなに揉まれたらっ! キュンキュンきてっ、あんっ、はんっ、あああんっ! だめぇっ、気持ちよすぎてっ、腰が勝手に動いちゃいますぅううっ!」

 胸を揉まれて顎を跳ね上げさせながら、綾の腰の動きがどんどん激しさを増していく。
 乳首を摘まんでコリコリと捏ねくり回すたびに綾のアソコがキュッて締まって、俺のチンポもとんでもなく扱かれてあっというまに射精寸前まで持っていかれる。

「はんっ、はうっ、いいっ、気持ちいいのっ! あぁあんっ、大門さまぁっ、わたしっ、まっ、またイキそうですっ!」
「くっ、俺ももう出そうだ!」
「だっ、出してくださいっ! 大門様の熱いのっ、いっぱい注いでくださいいいっ! はんっ、んんっ、はぅんっ!」

 うちの淫乱天使は、出そうだっていう俺の声を聞くと、そのまま精液を搾りだそうとでもするように腰の動きを速くしてくる。

「ああっ、イクッ、イクイクイクぅううううっ!」
「くぅっ! 出るっ!」
「はぁあああああっ! 来てますっ、大門様の熱い精液っ、私の中にいっぱい来てますぅうううううううっ!」

 ふたりほぼ同時に達して射精すると、綾も絶頂に体を強ばらせてそれを受け止める。
 綾のアソコがヒクヒク痙攣して、残っている精液を全部搾り取っていく。

 少しの間、体をひくつかせていた綾の体がクタッとなって俺の上に倒れ込んできた。

「本当の下僕になってのセックス……すごく気持ちよくて、私、とっても幸せです……」

 耳許で、綾の甘い囁きが聞こえる。

 ……本当にこんなことしてよかったのか?

 やっぱり、そう思わざるを得ない。
 でも、本人がこんなに幸せそうなんだから、これでよかったのかもな。
 そう、自分を納得させることにする。

「大門さまぁ……今夜は、もっといっぱい私のことを可愛がってくださいませぇ……」

 そう言うと、我が家の堕天使はとびきりいやらしい笑みを浮かべたのだった。

* * *

 で、翌日……。

「大門様! 本当に私を大門様のモノにしてくださったんですか!? なんだか昨日までとあんまり変わってないような気がするんですけどぉ!?」
「ああもう面倒くさいな! だからおまえの場合そんなに変わらねえって昨日も言っただろうが!」

 ……我が家のメイドには天使がひとりいる。
 この天使ときたら、家事はからきしダメだけど、そりゃあ美人だし、かわいいし、ものすごく強いし、ベッドの上じゃメチャクチャいやらしいんだが……。
 だけど、それはそれはもう、とんでもなく面倒くさいやつだ。

「だって、本当に変わってるような感じがしないんですよ!」
「んなこと言っても、俺は間違いなくおまえを下僕にしたっての!」
「だったら、もっとそれがよくわかるようにしてください!」
「はぁっ!? どうしろってんだよ!?」

 俺の部屋に、うちのわがまま堕天使の理不尽な要求が響く。
 まあ、今日も我が家は平和ってことなんだろうな……。

< 終わり >

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