馴奴 六 最後の……

最後の……

 そして、文子が竜泉寺に貸し出されて2度目の週末がやってきた。

「ねっ、由佳先輩、服、脱ぎませんか!?」

 朝、竜泉寺の部屋に来ると文子はそう提案した。

「ど、どうしたの?文子ちゃん?」
「だって、裸でいると便利だって言ったのは先輩ですよ!」

 目を丸くしている由佳の前で、文子は自分から服を脱いでいく。
 それが、一晩経って文子が出した結論だった。

 自分が竜泉寺に貸し出されている、この限られた時間を精一杯楽しもう、と。
 そして、竜泉寺にも楽しんでもらおう、と。

 そして、そこにわずかな希望を託していた。

 文子自身、図書室で気に入った本は何度も借りることがあった。
 だから、竜泉寺に楽しんでもらえたら、また自分を貸し出してもらえるんじゃないだろうかと、そう思ったのだった。

「だから、先輩も早く服を脱ぎましょうよ!」
「今日の文子ちゃんってばすごい積極的ね」
「もうっ、この週末はいっぱい楽しもうって言ったのは先輩じゃないですか!」

 一足先に裸になった文子に急かされて、由佳も服を脱いでいく。

「ねえ、文子ちゃん、裸になったのはいいけど、私たちこれからお昼ご飯の支度をするのよ?」
「だったら、このままエプロンを着けたらいいじゃないですか」
「ふふふっ!それもそうね……はい、これ、文子ちゃんのエプロン」
「はい!」

 ふたりで裸にエプロンを身につけると、顔を見合わせて微笑み合う。

「ちょっとこの格好を先生に見てもらおうか、文子ちゃん!」
「はい、先輩!」

 由佳の提案で、ふたりは竜泉寺の部屋に向かう。

「先生!ほら、裸エプロンですよ~!」
「ん?なんだなんだ?」
「これはね、文子ちゃんがやろうっていったんですよ!ねえ、どうですか?」
「うーん、本多さんの方が初々しくてかわいいかな」

 裸に黄緑色のエプロンを着けた由佳と、ピンクのエプロンを着けた文子を見比べて、竜泉寺が論評すると、文子が嬉しそうに頬を染めた。

「えーっ、じゃあ私は?」
「おまえはなんかいやらしすぎるんだよ」
「もうっ!それって褒めてるんですか、けなしてるんですか?」
「いや、別にけなしてはないだろうが」

 不満そうに唇を尖らせる由佳と、やれやれと肩をすくめる竜泉寺。
 ふたりの軽口のたたき合いにも、もうすっかりなじめた気がする。

「ま、いいか。じゃ、お昼の準備しましょうか、文子ちゃん!」
「はいっ!」

 キッチンに戻ると、由佳の手伝いをしてお昼の支度をする。
 由佳が冗談を言っては、文子が笑う。キッチンはそんな明るい雰囲気に包まれていた。
 裸にエプロンを着けただけという格好の開放感も、そんな雰囲気を醸し出す手助けになっていたのかもしれなかった。

 そして、竜泉寺と3人でお昼ご飯を食べて、由佳とふたりで後片付けを終えても、まだふたりは裸エプロンのままだった。
 その後で、先週と同じく3人分のコーヒーを淹れると竜泉寺の部屋に持っていく。

「先生、コーヒーをどうぞ」
「うん、ありがとう」
「先生、ほらほら!ちょっと見てくださいよ」

 文子が机の上にコーヒーを置くと、由佳がふたりの前に立ってくるりと背中を向けた。

「ほら、エプロンの下は裸だから、ほら、後ろががら空き!」

 そう言って、由佳はきゅっとお尻を突き出している。

「おまえ、はしゃぎすぎじゃないか。本多さんに笑われるぞ」
「あ、いえ!私も、ほら……」

 文子も慌てて由佳の隣に並ぶと、竜泉寺の方にお尻を向けて腰をくいっくいっとくねらせた。

 そんないやらしい仕草も、もうちっとも恥ずかしくない。
 それどころか、竜泉寺が目を細めて笑ったのが嬉しかった。
 竜泉寺が喜んでいる、だから、この後でまた気持ちよくしてもらえる。
 その期待に、体がじんと熱く疼いてくる。

「まったく、しかたないな、ふたりとも……」

 苦笑しながら竜泉寺は立ち上がった。
 そして、腰を突き出しているふたりの側まで来ると、それぞれの股間に両手を伸ばした。

「やぁん、はあぁ!」
「あんっ、せんせえぇ……」
「なんだ、ふたりとももうこんなに濡らしてるのか」
「だってぇ、なんだかこの格好、興奮するんですもの……あはぁんっ!」
「興奮するって、いつも保健室じゃ裸でいるだろうが」
「あ……でも、私もそれわかります。裸でいるよりもなんだかいやらしく感じるんですよね、先輩……あふぅんっ!ひあっ、そこっ、いいですうううっ!」

 アソコの中に指を入れてかき混ぜてやると、ふたりとも体をひくつかせて喘ぐ。
 特に、文子は激しく腰をくねらせて、太ももを伝ってボタボタと愛液が滴り落ちていた。

「本当に感じやすいんだね、本多さんは?」
「んふぅっ、はいぃっ!先生に気持ちよくしてもらえると思ったら、すごくっ、感じてしまうんですうううっ!あぁうんっ!」
「しかたないね。じゃあ、本多さんから先にしてあげようか」
「そうしてあげて、先生、私はっ、文子ちゃんの後でいいからっ!ねっ、文子ちゃん……あんっ!」
「ありがとうございますっ、先輩っ!」
「じゃあ、行くよ、本多さん」
「はいいぃ、きてっ、きてください!……あ、あぁ、ああ……んんっ!」

 竜泉寺が腰を掴んで肉棒を宛がっただけで、文子の顔に恍惚とした表情が浮かぶ。
 押しつけた腰を突いて、ゆっくりと肉棒をアソコの中に押し込んでいくと、文子の背筋がピンと反った。

「んんんっ、はっ、入ってっ、んふううううううっ、きてますううううっ!」

 待ち望んでいた快感に、文子の表情がいっぺんに蕩けた。
 この、自分の中を掻き分けて堅くて熱いものが入ってくる瞬間が文子は好きだった。

 自分のアソコが狭いのか、息苦しいくらいに内側をいっぱいに擦って入ってくる。
 でも、それだけに竜泉寺のおちんちんを体全体で感じられるような気がして、頭の中がほわんとしてきて幸せな気分になれる。

 そして、お腹をいっぱいに満たしたそれがいったん後ろに引いて、ずん、とまた奥まで入ってくる。

「んふうぅううううんっ!ああっ、イイッ、気持ちッ、いいですううううぅっ!」

 ずん、ずん、とリズミカルに奥を突かれ、中を擦られて文子は体を悶えさせる。
 なんの躊躇いもなく快感を口にして、より強く快感を味わおうと自分でも腰を動かし始めた。

「すごいねっ、本多さん。いつもより締め付けがきついよっ!」
「はうっ!はいいぃ!先生のおちんちんがっ、気持ちいいからっ!あうんっ、アソコがきゅうってなるんですっ!」

 お下げ髪を振り乱して喘ぎながら文子が答える。
 実際、この快感を味わえるのもあと少しだと思うと、アソコが勝手に締まる気がした。

「んふうううっ!ああっ、先生はっ、気持ちいいですかっ!?」
「うん、すごく気持ちいいよ、本多さん」
「よかったぁっ!私のアソコでっ、もっと、もっと気持ちよくなってくださいいいいぃ!」

 竜泉寺か気持ちよく感じてくれている。
 そのことが文子を安堵させた。

 だからいっそう下腹にぐっと力を入れて、竜泉寺に向かって腰を突き出すように動かす。
 そうしていると、おちんちんがアソコの奥にまでぐっと入ってくる。
 全身にビリビリ痺れるほどの快感が走り、目の前で火花が散る。
 いつもなら、意識が飛びかけるくらいの快感。
 だけど、今日は気を失いたくなかった。この快感をずっと感じていたかった。

 この気持ちのいい幸せな時間を、ずっと感じていたかった。
 そして……。

「はうううっ、あ゛あ゛っ!はっ、はんっ、んふうぅぅううううん!」

 竜泉寺の机に突っ伏して、文子はガクガクと腰を揺らしていた。
 もう、下半身に力が入らなくて、机に縋っていないと立っていることもできなかった。

「すごい、今日の文子ちゃん、なんかすごいよ」

 その顔がすぐ見える位置で頬杖をつきながら、由佳が足をモゾモゾとくねらせていた。
 文子の乱れっぷりに当てられたのか、そのももを愛液が滴り落ちている。

「はぅぅううんっ、んんっ、あ゛う゛っ、ふあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 由佳の声が聞こえているのかいないのか、文子は言葉にならない喘ぎ声をあげながら竜泉寺の動きに合わせてガクガクと体を震わせるだけだった。
 だらんと舌を出して、時々白目を剥いているから、もう、ほとんど意識はないのかもしれない。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!あ゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーっ!」

 竜泉寺が深く打ち付けた腰がブルブルッと震えたかと思うと、悲鳴のような声を上げて文子の体がビクビクッと痙攣する。
 だが、だらしなく開いたその口許には、ふやけた笑みが浮かんでいた。

「んー、文子ちゃんのイキ顔、かわいい」

 竜泉寺が手を離すと、ドサリと床に転がった。
 胸が上下しているから息をしているのはわかるが、ぐったりとしたまま文子はピクリとも動かない。
 
「じゃあ、次は私の番ですね」
「おまえ、見てただけでそんなに濡らしてたのか?」

 呆れたように言う竜泉寺の視線の先、エプロンの股間にあたる部分に、明らかに染みができていた。

「まったく、ふたりともエプロンがドロドロじゃないか」
「これは後で洗濯しておきますから、早く、ね、先生?」
「しかたないな」

 竜泉寺が抱き寄せると、由佳はそのまま流れるように竜泉寺の口に吸いついた。

「ん、ちゅ、んんむ……ん、ふうぅ……それにしても、今日からこんなに飛ばしちゃって、明日はどうするんでしょうね、文子ちゃん」
「そうだな。明日くらいは彼女のやりたいようにさせてやるか」
「あ、なにか考えてますね、先生?」
「なに、そんなたいしたことじゃないさ。それに、どうなるかは彼女次第で僕にもわからないしな。それよりも、まずはおまえが先だ」
「はい……んっ、あっ、あぁん!」

 いやらしく体をくねらせながら、由佳が喘ぎ声を洩らす。

 その足下で、文子は幸せそうな笑みを浮かべて眠り続けていた。

* * *

 翌日。

「先生、由佳先輩、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「おはよう、文子ちゃん」

 竜泉寺の部屋にきて、ふたりに挨拶をしてから文子はバッグを降ろす。

 そして、昨日のように裸になろうとワンピースのボタンに手をかけたとき。

 カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ……。

「あ……」

 その音を聞いて、ぼんやりと突っ立ったまま文子の瞳から光が失せる。
 竜泉寺がその肩に手をかけてソファーの方に誘導して、そっと腰掛けさせる。

「ほら、どんどん気持ちよくなって眠ってしまう。ほーら、もう、目を開けていられない」
「は……い……」

 竜泉寺の誘導に、文子は目を閉じてソファーの上に横になった。

 それを見て、由佳が首を傾げる。

「いきなり文子ちゃんを寝かせちゃって、いったいどうするんですか?」

 竜泉寺は、含み笑いを浮かべたまま立ち上がると、自分のデスクに着く。

 そして。

「こうするのさ」

 そう言ってパソコンのキーを叩くと、スピーカーから音楽が流れ始めた。
 それは、ゆったりしたテンポの、外国の民族音楽風の変わった旋律だった。

「せ…ん…せ……い……こ…れ……は……」

 その曲を聴いた途端に、由佳の瞳が大きく見開かれ、その動きが止まった。

 それは、彼女がかつて何度も聴いた旋律。
 自分が竜泉寺のものに堕ちていくときに、体の自由を奪う鍵として使われた曲。
 自ら竜泉寺のものになった今でも、それは心の奥深いところに刻み込まれている。
 この曲と、竜泉寺の命令には抗えない……。

「僕の人形に戻るんだ、由佳」
「は……い……」

 そう答えた由佳の瞳から、急速に光が失われていく。
 焦点の定まらない瞳でぼんやりと前を見つめながら、木偶人形のように突っ立っていた。

「いいかい、由佳、よく聞くんだ。今日は、きみは本多さんの思いのままだ」 
「今日……私は…本多さんの……思いのまま……」
「僕が解除するまで、きみの性格、記憶も全て彼女が言ったとおりのものになる」
「先生が……解除するまで…私の性格も記憶も……本多さんが…言ったとおりになります」

 うつろな表情のまま、抑揚のない口調で由佳は竜泉寺の言葉を復唱していく。

「きみは、本多さんが言ったとおりに感じ、考え、行動してしまうよ」
「私は…本多さんがいったとおりに……感じ…考え……行動します……」
「うん。それでいい。じゃあ、今それを僕に命令されたと言うことはちょっと忘れておこうか。きみならすぐ気づくと思うけどね。じゃあ、僕が手を叩いたらきみは元に戻る、いいかい?」

 竜泉寺は、パソコンのキーを叩いて音楽を止めると、パチン、と手を叩いた。
 すると、由佳は我に返ったようにキョロキョロと周囲を見回す。

「……え?あれ?私?……先生、私に何かしました」
「いや、なにもしてないよ。それよりも、本多さんを起こそうじゃないか」

 素知らぬ顔でそう言うと、首を傾げている由佳を尻目にソファーで横になっている文子に近づいた。

「本多さん、さあ、起きて、本多さん」

 竜泉寺が体を揺すると、文子がゆっくりと目を開いた。

「……あれ?私?」
「どうしたんだい、本多さん?昨日の疲れでも残っているのかな?」
「あ、いえ、そんなことは……」

 来たばかりだというのに、どうして自分が眠っていたのかわからなくて文子は首を傾げている。

「それよりも、今日はちょっとしたゲームをしないか?」
「ゲーム、ですか?」
「うん。きみの筋書きどおりの役を、僕も由佳も演じるっていうゲーム」
「私の筋書き?」
「まあ、筋書きっていってもそんなに難しいことじゃないよ。本多さんも図書委員をしてるんだから本が好きだろ?だから、好きな小説のシチュエーションを、僕らでやろうってこと。その人物の説明をしてもらったら、それに合わせて僕たちは行動するから。いいね、由佳」
「はい、いいですよ」

 興味津々で竜泉寺の説明を聞いていた由佳も同意する。
 まだ、自分に仕込まれた暗示には全く気づいていない。

「そういうわけで、まあ、別に小説じゃなくても、マンガとかでもなんでもいいから」
「そうですね……」

 竜泉寺の説明を受けて、文子はしばらく考え込む。

 それは、好きな小説はたくさんあったけど、自分と竜泉寺と由佳でぴったりくるようなものは……。

「あっ、そうだ!こんなのはどうですか!?」

 数分考え込んだ後でポンと手を叩くと、文子は説明を始めた。

「先生と先輩は結婚してるんです。ふたりは互いのことを大好きで、すっごく愛し合っているんです」
「ふんふん、なるほど」

 竜泉寺は、笑みを浮かべて文子の説明に相づちを打っていた。
 由佳もはじめは楽しそうに文子の説明を聞いていたが、不意に、その表情から笑みが消えた。
 そして、真っ赤になって竜泉寺を見つめ、明らかに狼狽えている様子だった。

「これはっ!?……私に、仕込みましたね、先生!?」

 由佳は、ようやく自分に仕込まれた暗示に気づく。
 だが、その言葉を文子が聞きとがめた。

「もう!ふたりは夫婦なんですから、”先生”じゃなくて、”あなた”か”岳夫さん”って呼ぶんです!」
「……あなた?」
「ん?どうしたんだ、由佳?」

 顔を赤らめながら竜泉寺のことを”あなた”と呼んだ自分の中に、竜泉寺と夫婦だという認識ができあがっていくのを由佳は止めることができなかった。

「私は、由佳お姉ちゃんの妹の文子。私と由佳お姉ちゃんはすっごく仲が良くて、由佳お姉ちゃんはとても妹思いの優しいお姉さんで、私も由佳お姉ちゃんのことが大好きで、由佳お姉ちゃんも私のことを大好きなの。で、お姉ちゃんは私のことをアヤちゃん、て呼んでくれてるの」
「……アヤちゃん?」
「ん?なに、お姉ちゃん」

 アヤちゃんと呼ばれて、文子は満面の笑みでお姉ちゃんと返していた。
 由佳が自分の話に乗ってくれているのが、文子にはすごく嬉しく感じられた。
 もっとも、それが竜泉寺の暗示のせいで、由佳は文子の言ったとおりのキャラクターになっていっていることなど、文子が気づくはずもなかった。
 それに、由佳としても、お下げ髪ですこし幼い雰囲気のある文子をごく自然に妹として認識してしまっていた。

「だけどね、みんな仲良しだったんだけど、文子は義理のお兄さんを好きになっちゃったの。すごく好きになっちゃったんだけど、お義兄さんは、由佳お姉ちゃんと結婚してるから、私、私……」

 話しているうちに、文子にも感情がこもってきていた。
 実際に、それは文子の好きな短編小説のあらすじで、そのお話では、主人公の女の子は義理のお兄さんへの思いを諦めて、その淡い恋心を青春の苦い思い出にして大人への階段をひとつ登っていく、そんな話だった。
 だけど、今の文子の考える理想の筋書きは違っていた。

「私、本当にお義兄さんのことが好きになっちゃったんだけど、言い出せなくて、辛かったの。だって、お姉ちゃんとお義兄さんはすごく愛し合っていて、それに、私もお姉ちゃんのことが大好きだから……。だから、本当はお姉ちゃんとお義兄さんと私の三人で、いっぱい幸せになりたいんだけど、それがずっと言えなくて……」
「ごめんね、アヤちゃん」
「……お姉ちゃん?」

 話の途中で、由佳がそっと文子を抱きしめてくれた。
 まるで、本当のお姉さんのように優しく。

「ごめんね、お姉ちゃん、アヤちゃんの気持ちに気づいてあげなくて」

 文子を抱きしめながら謝る由佳の口調も、雰囲気も、普段の彼女とは全然違っていた。
 今の彼女は、文子の先輩の栗原由佳ではなくて、完璧に文子の由佳お姉ちゃんになりきっていた。

「でも、お姉ちゃんどうしたらいいのかしら?」
「うん、私ね、お義兄さんとお姉ちゃんと一緒に、いっぱい気持ちいいことしたいの。お姉ちゃんとお義兄さんがしてるようなこと……せ、セックスとか、私にもね、して欲しいの……」
「まあっ、アヤちゃんったら……」
「……だめ?」

 文子にねだられて、由佳は困った様子で竜泉寺の方を見る。
 その仕草も表情も、完全に夫に対する妻のそれだった。

「どうしましょう、岳夫さん?」
「んー、そうだな、由佳さえ良ければ僕はかまわないよ」
「本当に?」
「ああ。だって、文子ちゃんがあんなに頼んでいるんだから」

 おそらく、この即興劇を冷静に楽しんでいる唯一の人物である竜泉寺も、そんなことは表情にも出さずに文子の話に調子を合わせる。

「しかたないわね。岳夫さんもああ言ってるから」
「やった!ありがとう!お義兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「でも、その前にご飯にしましょ」
「えーっ!」
「だって、もうお昼よ。ほら、ご飯の支度をするからアヤちゃんも手伝って」
「は~い……」

 少し残念そうなふりをしながら、胸の内で文子は楽しんでいた。
 演技のはずなのに、由佳の態度は本当のお姉さんにしか見えなかった。

 ふたりだけでキッチンにいるときも、由佳は完璧にお姉さんの演技をしているように文子には見えた。
 最もそれは誤解で、今の由佳が文子の姉になりきっているだけだったのだが。

 お昼の支度ができると、3人でご飯を食べる。
 その間も、竜泉寺と由佳が夫婦として振る舞っているのも文子には新鮮だった。

 そして、食後の後片付けも済んだ頃。

「じゃあ、みんなでお風呂に入らないか?」

 竜泉寺が、そんなことを言い出した。

「ちょ、ちょっと、あなた!?」
「いいじゃないか、家族水入らずでっていうのも、ね、文子ちゃん」
「うん!」
「もう……」

 竜泉寺と文子に押し切られる形で、しかたなく同意する由佳がまた新鮮だった。
 普段だったら、由佳の方こそ率先してそんなことを言い出しそうなのに、そんなところまでキャラクターを作っているのが驚きだった。

 そして、3人で一緒にお風呂に入る。

 洗い場も湯船もそんなに広くないから、3人ではいるといっぱいだった。

「アヤちゃんの胸、こんなに大きくなって……。そうよね、いつまでも子供だって思ってたけど、アヤちゃんもすっかり大きくなったのよね」

 裸になった自分を見て、由佳がしみじみとそう言ったときには、思わず「昨日までずっと私の裸を見てたじゃないですか、先輩!」と声を上げそうになった。
 でも、それも演技なんだと思い直して、由佳の体にじゃれついた。

「そうだよ、お姉ちゃん!だから私、こんなことも知ってるんだよ!」

 いつもの由佳のお株を奪うように、胸に抱きついて敏感なところを責める。

「きゃあっ!やんっ、あぁん!」
「どう?お姉ちゃん、気持ちいい?」
「あふぅうん!ああっ、もうっ、アヤちゃんたら、お風呂の中でふざけちゃだめでしょ!はぁんっ、やっ、そこっ!」

 いつもは積極的にくるはずの由佳が、すっかり受け身になっているのも新鮮に感じられて、文子はゾクゾクする興奮を感じていた。

「ねっ、ここ、ヌルヌルしてきてるよ、感じてるんでしょ、お姉ちゃん?」
「やだっ、もうっ、アヤちゃんったら!あぁあん、んふううん!」

 自分のなすがままによがっている由佳を責めるのを楽しんでいると、竜泉寺の楽しげな声が聞こえてきた。

「はははは、由佳も文子ちゃんもそのくらいにして、続きはベッドの上でやったらどうだい?」
「うん!」
「ちょっと!あなた!」

 すっかり嬉しくなってお風呂から上がる文子と、顔を赤くしている由佳。
 普段と正反対の姿が好対照だった。

「ねえ、本当にいいの、岳夫さん?」

 体を拭いて、そのまま寝室へと向かい、ベッドの上で文子を挟むようにして由佳が気遣わしげに竜泉寺の顔を窺う。

「ああ、僕はかまわないよ」
「私も!」
「でも、アヤちゃん、あなた、初めてじゃないの?」
「違うよ、お姉ちゃんも知ってるでしょ」

 昨日まで自分がセックスをしてるのをあんなに見てるんだからと、ついつい軽く答えてしまった。

「知らないわよ!アヤちゃん、あなた、いったいいつの間に!?」
「あ、や、それは……」

 本気でびっくりしている様子の由佳に、演技だとは思いつつも、つい返事に困ってしまった。
 と、そこに竜泉寺が助け船を出してくれた。

「まあ、文子ちゃんももう子供じゃないってことだよ、由佳」
「でも……」
「それよりも、由佳こそいいのかい?」
「え?わ、私は……」
「もう、お姉ちゃんったらかわいいんだから!お姉ちゃんももっとエッチになってよ!」
「え、ええ?アヤちゃん……」

 文子の言葉に、明らかに由佳の様子が変わった。
 頬が上気して、恥ずかしそうに俯いている。

「じゃあ、まずは私が気持ちよくしてあげるね、お義兄ちゃん!」

 そう言うと、文子は体をかがめて竜泉寺の股間のものに舌を伸ばした。

「ちょ、ちょっと、アヤちゃん……?」
「ん、れる、れろ、あむ……んむ、ちゅ、えろぉ、はむ……」

 由佳の驚く声を背後に聞きながら、文子は目の前のおちんちんを舐め上げる。
 すると、それはむくむくと膨らんできた。

「んむ、あーむ、んぐ、じゅる……」
「やだ……アヤちゃんったらいつの間にそんなことを……でも、はぁん……アヤちゃんのいやらしい姿見てたら、私も……んんっ」

 熱心にフェラチオをする文子の姿を見つめながら、由佳がもぞもぞとふとももを擦り合わせ始めた。

「んふ、じゅるるっ……どう、気持ちよくなった、お義兄ちゃん?」
「ああ、気持ちよかったよ、文子ちゃん」
「じゃあ、いい?私はもういつでも大丈夫だよ」

 そう言って足を広げた文子の裂け目からは、愛液が溢れ出してきていた。
 竜泉寺が腕を伸ばして、文子を抱き寄せる。
 文子はいったん膝立ちになって抱き合うと、腰を沈めて竜泉寺の肉棒をアソコの中へと収めていく。

「んふううううっ!ああっ、ふあああああああっ!」

 竜泉寺にぎゅっとしがみついて、文子が体をブルブルと震わせた。
 今日が最後のセックスになるかもしれないと思うと、胸が締めつけられる思いがして、アソコもきゅっと締まるような気がした。

「んふうううっ、あっ、はぁん!ああっ、いいっ、気持ちいいよっ、お義兄ちゃん!」

 すぐに、文子は自分から腰をくねらせ始めていた。

「ふああああっ、ああっ、気持ちいいよっ、お義兄ちゃん!気持ちよすぎてっ、腰がっ、勝手に動いちゃうううっ!」

 アソコの中を突き上げる感じをもっと強く感じたくて、文子は激しく腰を跳ねさせる。
 この快感を忘れないように、アソコの奥深くまで刻んでおきたかった。

「ああ……アヤちゃんったら本当にいやらしくて、私も我慢できない……」
「お姉ちゃん!?」

 不意に、背中に柔らかい感触がして首筋にふっと息を吹きかけられた。
 文子に抱きついてきた由佳の手が、むにゅ、と胸を揉んできた。

「いやらしいアヤちゃん、かわいらしいわ……」
「んんっ、ふぁあああんっ!ああっ、気持ちいい!あんっ、大好きっ!お姉ちゃんもお義兄ちゃんも大好きだよっ、ふぁああああっ!」

 竜泉寺と由佳に抱きしめられて、文子は体をひくつかせながら喘ぐ。
 でも、その言葉が文子がこのストーリーに込めたメッセージだった。
 お話の中の役柄に絡めて、自分が竜泉寺を好きだと伝えたかった。
 それが、この話を選んだ本当の理由だった。

 今回のゲームのもとにした小説の主人公は、義理のお兄さんへの恋心を諦めて成長していったけど自分は違う。
 自分は思いを遂げて大人への階段を上っていきたい。
 たとえ、それがかりそめのお芝居ごっこだったとしても……。

 だからせめて、自分が竜泉寺のことを好きだということは伝えたい。

「んふううっ、はうぅんっ!ああっ、好きっ!先生も先輩も大好きいいいいっ!」

 竜泉寺に下から突かれ、由佳には胸を弄られ、文子の意識は瞬く間に快感に飲まれていく。
 もう、演技もできずに、先生、先輩と呼んでいることにも気づいていなかった。

* * *

 そして、月曜日になった。

 放課後、竜泉寺に付き添われた文子が図書室にやって来た。
 もう、だいぶ遅い時間になっていたので、司書当番の代役をしている佐知子の他には誰もいなかった。

「あら、竜泉寺先生、本多さん……」
「借りていた彼女を返却しに来ましたよ」

 竜泉寺にポンと背中を押されて、文子は一歩進み出る。
 しかし、心なしか元気が無いように見えた。

「どうかしたの、本多さん?」
「いえ、なんでもないです」

 佐知子が気遣うが、文子が元気のない理由が彼女にわかるはずがなかった。

 本当は返却して欲しくないけど、それは赦されないことだった。
 貸出期間は守らなければならない。
 そんなことは図書委員の文子には痛いほどわかっていた。

 また借りてくださいね、という喉元まで出かかった言葉も途中で飲み込んだ。
 もし、自分のことを気に入ってもらえたのなら、きっとまた借りてもらえる。
 でも、それはこっちから言うことではないような気がした。
 だって、本は決して自分からまた借りてくれとは言わないのだから。

「じゃあ、木下先生、返却手続きをお願いします」
「はい。じゃあ、本多さん、胸を出して」
「え?……はい、わかりました」

 一瞬きょとんとした表情を浮かべた文子が、納得したように制服のボタンを外していく。

 この一週間、いろいろなことがあってすっかり忘れていた。
 返却期限の日付印は右の乳房に、返却日の日付印は左の乳房に押すんだった。

「……さてと、これで返却手続きは完了ね」

 左胸に押された、”11.22”という日付を確認して、佐知子が文子の肩をぽんと叩く。

「どう?竜泉寺先生に貸し出されるのは楽しかった」
「はい、それはもう……。竜泉寺先生も由佳先輩もすごくいい人で、だから、少し寂しくて……」
「もう、なに言ってるのよ。しっかりしなさい。これからは図書委員の当番をしっかり頼むわよ」
「はい」

 返事をする文子の声にはやっぱり少し元気がなかった。

「じゃあ、僕はこれで失礼しますね」

 竜泉寺の声に、佐知子と文子が振り返った。
 ふたりに向かって軽く会釈すると、背中を向けて図書室を出て行く。

「じゃあ、また必要なときに図書委員を借りに来ますよ」

 竜泉寺が出がけに言ったその言葉を聞いたとき、文子は胸が高鳴るのを抑えることができなかった。

* * *

「文子ちゃん、返しちゃいましたね」

 図書室から出た竜泉寺を待っていたのは由佳だった。
 そして、ふたりで並んで廊下を進み、階段を降りていく。

「それにしても昨日はびっくりしましたよ、まさかあんな暗示を私に仕込むなんて……」
「まあ、あれはメンテナンスみたいなもんだ。おまえがちゃんと僕の人形でいるかっていうね」
「もうっ!そんなことしなくても、私はいつでも先生のお人形ですよ。そう、先生の命令ならどんな女でも演じてみせますから」
「まあ、そう言うなって」

 唇を尖らして不平を言う由佳を、竜泉寺は軽くいなす。

「でも、おまえだって楽しめただろ?」
「まあ……ああいうのもたまには新鮮ですけどね。あ、でも今回はすごく時間をかけてましたよね。快感を感じさせるところからじっくりと……」
「まあ、最初にあの子の体に触ったときの反応で、そういう経験が全くないってわかったからな」
「でも、私のときは違ったじゃないですか。私だってあのときが初めてでしたよ」
「そうは言っても自分でやったことくらいあっただろうが」
「それは、そうですけど……」
「ああいう感覚っていうのは、オナニーすら経験のない未成熟な体にはなかなかわかりにくいもんだからな。だからああやってじっくり感覚を目覚めさせる必要があったんだよ。その後のはあれだ、彼女の不安と警戒心を取り除いて僕のことを信用させることができるかどうかだったんだけど。まあ、あれは佐知子のおかげだな。でも、僕としてはよく2週間であそこまでもって行けたと思うけどな」
「ふうん……難しいんですねぇ。私もまだまだ勉強しなくちゃいけませんね」
「まあ、おまえも今回はいい演技してたけどな」
「でも、あれって半分は演技なんですけど、半分は素みたいなんですよね」
「なるほどな。まあ、昔のおまえは吃音のせいですっかり人間が萎縮してしまっていたけど、本来はそういう性格だったんだろう」
「はい、先生には本当に感謝してますよ。先生のものにしてもらって、いろいろ教えてくださいましたし」
「なんか、トゲがあるように聞こえるのは気のせいか?」
「気のせいですよ。……でも、文子ちゃん、あのまま放って置いていいんですか?あんなに先生のことを好きにさせて、向こうから押しかけてきたらどうするんですか?」
「んー、まあその可能性は低いだろうな。あれは僕に貸し出されている間だけのことだと思ってるだろうし。もちろん、そんな暗示なんか仕込んじゃないけどね。ただ、彼女は真面目だから、そういう自分の感情は抑え込むと思うけどね。ああやって乱れるのは僕に貸し出されているときの自分で、普段の自分は別だって。そう思って、図書委員の中でも一番真面目そうな子を選んだんだから。まあ、このまま放って置いてどうなるかっていうのも含めて実験のうちだからね。この後も観察は続けるさ」
「相変わらずヒドいですね、先生は」
「それは、褒めてるのか?」
「ええ、素敵ですよ。そのうち誰かに刺されそうで心配ですけど」

 竜泉寺の講義を聴きながら、由佳はときに感心したように頷き、ときに茶々を入れる。
 もう、11月も終わりに近づき、傾いた日差しの射し込む校舎を、ふたりは保健室へと歩いて行った。

* * *

 2週間後、図書室。

 その日、放課後の司書当番をしながら、文子は頬杖をついて大きくため息をついていた。

 あれから、自分が変わったことと言えば、毎晩、寝る前にオナニーをするのがやめられなくなったということ。
 竜泉寺に教わったとおりのやり方でやると、すごく気持ちよくて、何度でもイクことができた。

 でも、それは夜、自分の家でだけ。

 普段、学校での振る舞いは前と全然変わらない。
 だって、あんなことをしたのは自分が竜泉寺に貸し出されていたから。
 自分を借りている竜泉寺に対してだからあんなことができたのだ。

 でも……。

 はあぁ……誰か、私を貸し出してくれないかなぁ。

 内心そう独りごちて、文子はまたため息をついた。

 本当は、誰か、ではない。
 自分を貸し出して欲しい人など、ひとりしかいないのだから……。

* * *

 実験記録 No.6

 対象:2年生、女子。

 今回の対象は、2年生の図書委員だ。まずは、図書委員を本のように貸し出すことができるということを信じさせるのが第1段階といえよう。採用した催眠導入法は、相手が混乱した隙を突いた指差しによる凝視法とメトロノーム法の併用。メトロノーム法は、正確なリズムで打ち込むための修練を必要とするが、手打ち式のカウンターを用いるとメトロノームよりも持ち運びが便利だ。なお、その後の実験のために、カウンターを打つ音を対象を催眠状態にさせるキーにすることにする。

 いささか反則と言えるかもしれないが、対象との信頼関係が希薄なため、対象の佐知子への信頼を利用することで第1段階はクリア。当然対象は戸惑っていたが、性格が真面目なためか、一度信じてしまうと、それに従おうとする心理が強く見受けられた。本当は数日かけて相手の警戒心を解す予定だったが、3日目に返却期限の日付印が消えていることを相手の方から申し出てきたため、それによる罪悪感を利用して裸にさせることに成功。もちろん、これには由佳の存在が大きかったことは言うまでもない。

 その後の経過から、こちらへの警戒がかなり薄れている様子から次の段階へと移行。催眠状態での反応から、男性との性行為はもちろん、自慰の経験もないと判断し、まずは快感を覚えさせることにする。その後、性行為の実行への段階に移るが、日曜日の時点では対象に性行為への恐怖と緊張が見られたため、その後の進行に支障をきたすと判断し実行を断念。翌日、佐知子を利用することで比較的スムーズにこの段階をクリア。その後の経過はいたって順調。こちらの指示には従順で、性的な方面での目覚めにもめざましいものが見られた。この時点で、実験の要点は全てクリアしたといっていいだろう。

 最終日には由佳を交えてゲーム的な実験を行ったが、対象のイマジネーションが豊かだったこともあり、なかなか興味深い結果を得た。事前に暗示を与えていた由佳はもちろん、対象自身が自分の設定にのめり込んでいたこと、特に普段の由佳と対象の攻守の立場が逆転していたことは今後の研究に値するかもしれない。以前、適切な舞台装置と人物設定を与えれば、人は容易に疑似催眠状態になって別人格を演じるという研究を見たことがあるが、今回のことも、おそらくそれに近いものではあるだろう。

 残る実験は、返却後の対象の行動と、貸し出し期間中の行為が対象に与える影響に関してであるが。今のところ特に問題のある行動は見られていない。多少欲求不満が溜まっている様子が見受けられるが、それがどう影響するかに関してはこれからも観察を必要であろう。

 20XX年、12月10日。竜泉寺岳夫。

 その報告書の最後には、赤い文字で「経過観察中」という一語が入っていたのだった。

< 終 >

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