後編
この温もりが欲しくて
翌日。
「ああもう、遅くなっちゃったよぉー」
放課後、唇を尖らせながら愛莉は保健室に向かっていた。
昨日は保健室でセックスをして、自分でも知らないうちに気を失ってしまっていたけど、気持ちよさと体の冷えがいっぺんに吹き飛ぶほどの熱さははっきりと覚えていた。
だからその日は授業中に抜け出すのは我慢して放課後になってから保健室に行こうと思ったのに、担任の木下に呼ばれて話を聞いている間に少し遅くなってしまったのだった。
昨日みたいにいっぱい体を温めて、そして気持ちよくしてもらいたい。
そう思いながら愛莉が保健室に駆け込んでみると……。
「……えっ?」
そこで愛莉が目にしたのはベッドの上に仰向けに寝ている竜泉寺と、その腰に跨がるように乗っかっている裸の栗原由佳の姿だった。
「……栗原さん?」
「……ん……んん、はっ……んっ」
恍惚とした表情で目を閉じ、くぐもった声をあげながら由佳がゆっくりと腰を上下させていく。
かと思えば深く腰を沈めて前後に揺らし、あるいは円を描くように捻りを入れる。
「んっ……はん……ぁん……んんっ」
心もち胸を突き出すように背中を反らせた由佳が体をくねらせる動きに合わせて、形のいい乳房が揺れている。
汗の浮かんだその肌が、滑らかに濡れて光っていた。
「あんっ……ん……あぁん……はんんっ」
「栗原さん……きれい……」
くびれた腰からほっそりとした上半身のライン。
それでいてふっくらとした胸は、愛莉のそれよりも一回りくらい大きく見える。
それになにより、漂わせている色気がとても自分と同い年だとは思えない大人の雰囲気を漂わせていた。
そんな由佳が艶めかしく腰をくねらせている姿は、女の愛莉からみてもとてもきれいに思えた。
「……ぁああんっ! んっ……はうんっ……あんっ、んふぅんっ!」
不意に由佳の顎がかくんと跳ねて、ゆっくりしていた腰の動きが少しずつ激しくなっていく。
「あんっ、はぁんっ……んっ、んんっ……ぁあっ、いいっ!」
後ろに手を突いて体を支えて豊かな乳房を見せつけるように胸を張って、由佳は明らかにさっきよりも大きなストライドで腰をくねらせる。
その体はすっかり汗ばんで、前髪が額に貼り付いていた。
「あっ、ぁあっ……くるぅっ! はぁああああああああっ!」
由佳が深々と腰を沈めたかと思うと、弓なりに大きく仰け反った。
彫刻のようにその体勢を保ったまま、ヒクヒクと体を痙攣させる。
「あぁ……はぁ……ぁんっ、んふぅうう……」
まだビクンビクンと震えている体を起こすと、そのまま竜泉寺にしなだれかかる。
そして、その胸に両手をつくと腰を持ち上げて咥え込んでいた肉棒を引き抜いた。
「ふう、いい汗かいたわぁ……あら? 岬さん来てたんだ?」
ベッドから降りた由佳がはじめて愛莉の存在に気がついたように話しかけてくる。
「ええ。……もしかして、栗原さんも冷え性なの?」
「えっ? ……あ、うん、そうよ」
愛莉の言葉に、由佳は驚いてるとも笑っているともつかない微妙な表情を浮かべる。
しかし、すぐに明るい笑顔を浮かべて頷いた。
もちろん愛莉は、今まで由佳がやっていたことがセックスだということはわかっている。
でも、今の愛莉には保健室の中で竜泉寺とするセックスは冷え性の治療のための行為だとしか考えられなかった。
「そっか……栗原さんも大変なんだね」
「ありがとう、心配してくれて」
と、由佳が今度は満面の笑みで返す。
そして、愛莉の背中を押した。
「今度は岬さんの番よ」
「えっ?」
「だって、竜泉寺先生に体を温めてもらいに来たんでしょ」
「えっと……うん……」
由佳の言葉に頷いて、ベッドの方を見る。
そこには、体を起こした竜泉寺が笑みを浮かべていた。
愛莉は、視線を落として竜泉寺の股間に目をやる。
そこにあるペニスは、昨日見たよりも明らかに萎びて小さかった。
「でも……先生は栗原さんとしたばかりだし、大丈夫なんですか?」
ちらちらと竜泉寺の股間に視線を落としながら、愛莉が不安そうな表情を浮かべる。
すると、愛莉がなにを気にしているのか察したのか、由佳がポンとベッドに腰を下ろして竜泉寺のものを手で握った。
「男に人のおちんちんなんてね、こうしたらすぐに大きくなるんだから」
「おいおい、まいったな。人のものをなんだと思ってるんだい?」
由佳が手で扱くと、苦笑いを浮かべている竜泉寺のペニスがみるみる膨れていく。
「まあ、そんなわけだから。僕は大丈夫だよ、岬さん」
「ほら、岬さんもやってみたら? こういうのもやり慣れてないとダメよ」
「え? あ、うん……」
由佳に促されて、おずおずと竜泉寺のものを握る。
昨日握ってみたときとは違って、まだ少しふにゃりと柔らかかった。
「軽く握ってね、上下に滑らせるようにして扱くの。少し力を入れたくらいの方がいいみたいだけど、あんまり入れすぎたらダメだからね」
「……うん」
由佳のアドバイスを聞きながら、ゆっくりとペニスを扱く。
すると、愛莉の手の中で昨日握ったそれと同じように硬く熱くなっていくのがわかった。
「うんうん、上手よ、岬さん」
自分を褒める由佳の声が聞こえないくらいくらいに、愛莉はペニスを扱くのに夢中になっていた。
手のひらに伝わる、トクトクと脈打つ熱さと弾力のある硬さを感じるだけで昨日のことを思い出してしまっていた。
これが自分の中に入ったときの快感を今から想像しただけで体が疼いてくる。
「ああ、岬さん、もう大丈夫だよ」
「……え?」
竜泉寺に頭をポンと叩かれてようやく我に返る。
それくらいペニスを扱くのに集中してしまっていた。
「それじゃあ始めようか。さあ、服を脱いで」
「はい、わかりました」
もう、服を脱ぐことに抵抗は全くなかった。
昨日も裸になってセックスをしたし、愛莉にとって竜泉寺とのセックスは冷え性の治療のために体を温めるものだったのだから。
制服も下着も脱いで裸になった愛莉のふとももを雫が滴り落ちていく。
それほどまでに、その体は昨日与えられた温もりと快感を求めてしまっていた。
「それじゃあ始めようか。今日はこの体勢でやってみようか」
そう言って、竜泉寺はベッドの上に仰向けに寝転がる。
「さっき栗原くんがしてるのを見てただろ? あんな感じでやればいいんだよ」
「は、はい……」
促されるままにベッドに上がり、とりあえず竜泉寺の体を跨いで立つが勝手がわからずに戸惑っていた。
「もう、岬さんたらなにしてるの? まずはそこで膝立ちになって」
「え? ……うん」
愛莉の様子を傍から見ていた由佳が、我慢できずに口を挟んでくる。
「で、そのままじゃ先生のおちんちんがどこにあるかわからないでしょ? だから、こうやって……」
竜泉寺の腰の上で膝立ちにさせると、由佳は愛莉の手を取ってその肉棒を握らせた。
「おちんちんの位置を確かめながら少しずつ腰を落として、先っぽをアソコの入り口に持ってくるの。そうそう……そうよ、岬さん」
由佳の手ほどきを受けながら、愛莉は手に握った竜泉寺のペニスを自分の秘所に宛がう。
「いい? それじゃそのまま腰を沈めておちんちんをアソコに入れるのよ」
「わかったわ。……んんっ! ぁああああああんっ!」
息を詰めてゆっくりと腰を沈めると、たちまち身を焼くような快感が愛莉の体を貫く。
昨日のことを思い出して身構えていたのに、思っていたよりもすんなりと入ってきた気がした。
……すごい。
こんなに奥に当たってる。
竜泉寺の上にペタンと座り込んだこの体勢だと、昨日は届いていなかったところまで当たっているのを感じる。
こんなにアソコの中がおちんちんでいっぱいになっているのに、昨日あれだけ感じた息苦しさも全然ない。
それどころか足りなかったものが満たされたようにすら思う。
「どうしたの、岬さん? 動かないと体が温まらないわよ?」
「う、うん……はんんんんんっ! ……あふっ、んふぅううううっ! はぁあああんっ!」
由佳に促されて、ゆっくりと腰を浮かせてまた沈めていく。
さっき見た由佳の動きをイメージしながら、そして、昨日の竜泉寺のゆっくりとした動きを思い出しながら。
しかし、引き抜くときに膣壁を擦られたときのビリビリする刺激ですら踏ん張る足から力が抜けそうなくらいに気持ちいいというのに、折り返しでまたおちんちんをアソコで飲み込む快感に腰が抜けたようになって最後は一気に腰を落としてしまう。
その際に奥まで勢いよく突かれる形になって、脳天まで突き刺さるような痺れに大きく喘ぐ。
「ね、そうやって自分で動くのも気持ちいいでしょ?」
「うん……気持ちいいっ……」
「その気持ちよさに身を委ねて、感じるままに動いていいのよ」
「うん。……あふぅううううっ……はふぅううううっ、あぁああんっ! ……くぅううんっ、んふぅうううっ……んふぅううううううんっ、ああっ、すごいいいいいっ!」
由佳の言葉に導かれて、繰り返し腰を上下させる。
そのたびに全身を駆け抜ける快感に、体が熱くなるのを感じる。
仰け反るように顎を上げ、うっとりと目を閉じて腰をふる愛莉を竜泉寺がニヤニヤしながら見上げているが、当の本人はそんなことに気づく様子もなかった。
「……ひゃうっ! ……んっ……んふぅううううっ! あんっ、ああっ、気持ちいいっ! 体が熱くてっ、すごくいいのぉおおおおっ!」
一瞬バランスを崩しかけて、竜泉寺の胸に両手をついて体を支え、愛莉は一心不乱に腰を上下させる。
その肌が、みるみるほの赤く染まっていき、汗の玉が浮かんでくる。
「んああああっ、すごいっ、これすごいのぉっ! んっ、はぁああああんっ……ひうっ!? ふぁああああああっ!」
あっけなく絶頂に持っていかれた愛莉の背筋が伸びた。
竜泉寺の上にペタッと腰を沈めたその体が何度も小刻みに震えている。
「もっと……もっと熱くなりたいの……んっ、はんんんっ!」
エクスタシーに体をひくつかせながら、深々と腰を落とした体勢でいまだ射精に達さず自分の中を満たして自己主張しているペニスを感じて、ほとんど無意識のうちに愛莉は腰を前後に動かしていた。
「……んっ! あぁああんっ、あっちこっちで擦れてっ、んんんんっ!」
腰を動かすたびに、さっきよりもさらに大きくなったのではないかと思うほどに膨れた硬い感触が膣内を擦る。
……ああ、すごい。
おちんちんがいろんなとこに当たってる。
こんなのすごすぎておかしくなりそう。
アソコの中も頭の中もおちんちんのことでいっぱいになっちゃう……。
「んっ、はぁんっ……ふあっ! あきゅうううううっ! ……はんんんっ、あんんっ!」
汗に濡れた乳房を揺らせながら腰をくねらせる愛莉の体が、何度も何度も痙攣する。
膣内だけでなく、頭の中までぐちゃぐちゃになって、あまりの熱さにぼうっとしてきていた。
「はぁああああっ、いいっ、すごくいいのっ! ああんっ、はぅううっ! んっ、はぁああああっ!」
「くっ、岬さんっ、そんなにきつく締めつけて……」
愛莉の膣の締めつけがもたらす快感に、竜泉寺の射精感も急速に高まってくる。
実際、絶頂の連続で愛莉のそこは精液を搾り取ろうとするようにひくつきながら肉棒をきつく締めつけていた。
「あああんっ、熱いっ、熱くてすごくいいのっ、あんっ、ふぁああっ、はんっ、んんんん……!」
「くうっ、すごいな……そんなに、されたらっ」
「あふっ、あふぁあああああああああっ!? あっ、あづいのがっ、ふぁあああああああああっ!」
一番大きな絶頂の波が来たかと思うと、お腹の中にひときわ熱いものを感じて頭の中が真っ白になる。
「あああ……すごい……お腹の中、熱くて……気持ちよくて……しあわせぇ……」
体を硬直させたまま膣を収縮させて最後の一滴まで精液を搾り取ると、愛莉は竜泉寺の上にガクンと倒れ込んだ。
その姿勢で大きく息をしたまま動けなかった愛莉がようやく体を起こすと、ゆるゆるした動きでベッドから降りた。
「はい、岬さん。ちゃんと汗を拭かないとまた体が冷えちゃうわよ」
「……あ、ありがとう、栗原さん」
まだ軽く喘ぎながら由佳の差し出したタオルを受け取る。
まだ火照りの残る体は、汗でぐっしょりと濡れていた。
「どうだい、岬さん。僕の言ったとおり、このやり方は効果があるだろ?」
「はい、すごく体が温まってぇ、それに気持ちよくって、最高ですね」
体を拭いながら、愛莉は満ち足りた思いで竜泉寺の言葉に頷いていた。
そして、愛莉が帰った後……。
「……ぷっ……うふふふっ!」
乱れたシーツを直しながら、由佳が思い出したように笑い出した。
「ん? どうしたんだ?」
「だって、岬さんったら。……栗原さんも大変なんだね、ですって……ばっかみたい! ぷふふっ!」
「でも、思ってたよりも素直な子じゃないか」
「それでもやっぱりおかしすぎですよ。……くすっ、ふふふふっ!」
「いや、おまえね……」
クスクスと楽しそうに笑ってシーツを直している由佳を眺めながら、竜泉寺も苦笑いを浮かべるしかなかった。
* * *
それからしばらくして。
「あっ、竜泉寺先生! おはようございますー!」
朝、登校してきた愛莉が竜泉寺の姿を見て駆け寄ってくる。
「おはよう、岬さん。このところ保健室に来なくなったけど調子はどうだい?」
「すっごく調子いいんですよぉ! あんなに辛かった冷え性が本当に軽くなって!」
もともと明るくて人なつっこい話し方をする愛莉だが、よほど体調がいいのかいかにも嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「そうか、それは良かったね」
「これも全部先生のおかげです。ホントに感謝してるんですから。あ、それとぉ、実はすっごくいいものを見つけちゃってぇ……」
と、愛莉は鞄の中をガサゴソと探る。
「これこれ! つま先が冷えてきたかなってときにこれを使うと、すっごく体が温まるんですよぉ!」
そう言って愛莉が取り出したのは淡いピンクのバイブレーターだった。
「でもぉ、先生とする方がずっと気持ちいいし、また冷え性がひどくなったらお願いしますね!」
「うん、僕はいつでもいいけどね。でも、別に僕じゃなくても他の男の人でも頼めば体を温めてくれると思うよ」
「ええっ、そうなんですかぁ!?」
「まあ、きみの頼み方次第だけどね」
「わかりましたぁ! 機会があったら試してみますね!」
竜泉寺の言葉を疑う素振りすら見せずに手を振ると、屈託のない笑顔を浮かべて愛莉は教室へと駆けていく。
「……まったく、どこであんな物手に入れたんだか」
愛莉の後ろ姿を見送りながら、竜泉寺は呆れ顔で呟いていた。
そして、授業中。
……あ、ちょっと足が冷えてきたかも。
つま先がじーんと冷たくなってくる感覚に、愛莉は体をモゾモゾさせた。
愛用の膝掛けの下に手を入れると、あらかじめスカートの中でふとももに挟んでいたバイブをアソコの入り口に宛がう。
冷え性がひどいので授業中に膝掛けを使いたいという愛莉の申し出を、先生たちはみな快く許可してくれた。
きっと、竜泉寺が根回しをしていてくれたのだろう。
今では、愛莉の他にも数人の女子が足に膝掛けを乗せて授業を受けていた。
竜泉寺の言ったとおり、冷え性に悩まされている女の子は多いんだと改めて実感させられる。
しかし、膝掛けはたしかに冷え性のひどい愛莉にはありがたかったが、もうひとつの利点もあった。
「んっ……」
……ああ、いい……アソコの中に入ってくる、この感じ。
バイブを押して挿入すると、もうすっかり馴染んだ快感が駆け抜けていく。
男の人のおちんちんみたいに熱くはないけれど、これでも膣内で動かしていると充分に体が温まる。
しかし、さすがにその行為を他の生徒に知られるのはまずい。
だからこうやって授業中にバイブを使って体を温めるのを隠すのに、膝掛けは好都合だった。
「……んっ……ぁん」
大きな声を出して周りに気づかれないように気をつけながら、バイブをぐりっと捻る。
そのために、声を殺して自慰をする練習を家で繰り返してきたのだから。
……あぁん、アソコの中で擦れて……気持ちいい。
ブーン……。
うっかり指が当たってバイブのスイッチが入ってしまい、鈍い振動音が響いた。
「……ひゃっ!?」
慌ててスイッチを切り、様子を窺う。
さすがに、今の音は先生も気がついたようだった。
「ん? 誰だ? 携帯を持ってくるなとは言わんが、授業中は電源を切っておきなさい」
どうやらスマホのバイブ音だと思ったらしい先生の言葉に、愛莉はホッと胸を撫で下ろす。
気をつけなくっちゃ……んっ、はんっ!
スイッチに触れないよう注意しながら、ぐいっとバイブを奥まで押し込む。
本当はスイッチを入れた方が何倍も気持ちいいし、家でやるときには必ずスイッチを入れて使っている。
だけど、授業中にそれはまずい。
「ん……はぁああ……」
うん……体が温まってきたぁ……。
やっぱり、気持ちいいよう……。
こっそりとバイブを捻るように動かす愛莉の口から、熱を帯びた吐息が漏れた。
そのまま、クラスメイトに気づかれないように愛莉は自慰を続ける。
そのことに気がついているのはただひとり。
栗原由佳がちらちらと愛莉の様子を窺っては、立てた教科書で顔を隠す。
授業中に自慰に耽る姿を見ながら由佳が肩を震わせ、声を殺して笑いを堪えていることに愛莉は気がついていなかった。
* * *
実験記録 No.7
対象:3年生、女子。
今回の対象は由佳のクラスメイト。保健室が行った健康調査アンケートの未提出者ということで、遊び半分で本人に直接”聞き取り調査”を行うことにした。
用いた導入法はペンライトを使った凝視法。廊下ですれ違いざまに催眠導入に入るのは強引なように見えて、相手の思考を瞬間的に停止させて判断する余裕を与えないために被暗示性を高める効果がある。もちろん、そのまま廊下で人目に触れずに深い催眠状態に堕とすのは困難なため、いったん保健室に連れ帰ってより深く暗示を施すことにした。それにしても、最近のLEDライトは高性能で色や点滅の仕方が多彩である。いずれ、それが催眠導入に及ぼす効果についていろいろと試してみることにしよう。
改めて対象から聞き出した悩みは冷え性がひどいとのことだった。女性に多い症状ではあるし、最近は若年齢化も進んでいるから対処法については蓄積もそれなりにある。また、催眠術を用いた心理療法も行いやすい症状でもある。まず、暖色系のライトを使って温感を上げる暗示を施す。暖色系の色と体温の感覚は結びつきやすいのでそれを強化する形だ。そして、性行為による体温の上昇を冷え性の治療だと刷り込む暗示を仕込む。これがうまくいくかどうかが今回の実験の鍵となるが、予想以上にすんなりと受け入れてもらえた。これは毎回思うことでもあるが、やはり由佳の存在が大きいのだろう。密室の中に同じ年代の女の子がもうひとりいるだけで、女子の警戒心がかなり薄れる効果がある。
対象はよほど冷え性に悩んでいたのか、暗示を使って体を温めることに意識を集中させるだけでかなりの信頼を得ることができたようだ。そのため、翌日には簡単に深い催眠状態に堕とすことができるようになった。対象との信頼関係が築けたことで、由佳のいない場で冷え性の治療としてセックスを行うことにも成功した。
その後の経過を見ると、快感にやや依存している傾向はあるが本人はあくまでも冷え性のためだという認識のようだ。この先、性行為に対して開放的になる可能性もあるがまあ大きな問題はないだろう。冷え性に関してもこのまま規則正しい生活と適度な運動を続けていたらかなり改善されるものと思われる。
20XX年、10月12日。竜泉寺岳夫。
< 終 >