戻れない、あの夏へ Extra Stage アスカ 前編

Extra Stage アスカ 前編

ふたりの”アスカ”

 アスカの意識は、暖かくて柔らかな空間を漂っていた。
 宙に浮かんでいるような、まるで自分が雲かなにかになったような感じがしてただただ心地よい。
 その心地よさに全てを委ねたくなる。

 だが、次の瞬間、周囲が闇に包まれた。
 それまでの暖かさも心地よさも消え失せ、薄ら寒く、不安をかき立てる。
 
 いったい、なにがあったの?
 え?あれは……何?なんなの?

 漆黒の闇の中、何も見えない心細さに怯えていた飛鳥の目の前にぼんやりと何かが現れた。

 なんなの?あの……赤い粒みたいなのは?

 目を凝らして見ていると、はじめは小さな点だったそれは、まるで染みが広がるように大きくなっていく。
 そして、飛鳥の視界いっぱいに赤い色が広がる。
 それは、血の色だった。

 そして、その中に。

 あれはっ、いやああああああっ!

 血の海の中に倒れている、結依と宏平の姿を見て、飛鳥は悲鳴を上げる。

 いやっ、いやああああっ……。

 手で顔を覆い、わなわなと体を慄わせる飛鳥。

 だが、不意に結依と宏平の姿は掻き消え、周囲が明るくなった。
 さっきの、光の海に漂っているような、暖かさと心地よさに再び包まれる。

(ほら、僕の声を聞いているととても気持ちよくなってくるよ)

 その時、そんな言葉が聞こえたような気がした。

 あ、あああ……。

 その声を聞くと、本当に気持ちがよくて、不思議なことにさっきまでの不安と悲しみがなかったことのように消え去ってしまう。

 しかし、時を待たずしてまた深く昏い闇が襲い、血の中に浮かび上がる結依と宏平の姿。
 胸が張り裂けるほどの悲しみに、茫然と立ちつくす飛鳥の目から涙が溢れる。

 それを、あの声が救ってくれる。

(ほーら、僕の声を聞いているとどんどん気分が軽くなって、楽になってくる)

 すると、再び光に包まれ、飛鳥の中から悲しみも不安も消え失せていく。

 だが、世界は再び暗転する……。

 いや……こんなの、本当じゃない……。

 闇の中に浮かぶ惨劇。
 それを見るのは何度目だろうか。

 違う、こんなの、現実じゃない……絶対に違う……。
 こんなはずはないもの……こんなことは絶対にあるはずがないんだから……。

 ねえ、お願い……もうやめて……早く、あたしを助けて……。

 飛鳥の意識はもう、それに耐えられそうになかった。
 目の前に浮かぶ、血塗れになって倒れる親友の姿から目を背け、この不安から自分を救ってくれる誰かを捜す。

 彼女にはわかっていた。
 その『誰か』とは、この闇から何度も救い出してくれたあの声。

 ねえ……早く助けに来て……。

 飛鳥は、縋るような思いでその声を待つ。

「僕のものになるんだ。そうなれば、きみは、もっと僕の言葉を聞くことができる。きみはいっぱい気持ちよくなれるんだ」

 その時、その声が聞こえた。
 今までになかったくらいはっきりと。

 そして、光の中に男の姿が浮かび上がる。

 ああ……この人があたしを救ってくれる。
 この人のものになれば、あたしは救われるんだ……。

 なる……。あたし、あなたのものになるから……。

 まるで、夢の中にいるような心地で、飛鳥はただ、その男の姿を見つめていた。

~1~

 それは、異様な光景だった。
 日の暮れた公園の中、血塗れで倒れているふたりの若い男女。
 そして、その傍らに立つ中年の男と、うっとりとした表情でその男を見上げたままで地面にへたり込んでいる女。

 もし、目撃者がいたら直ちに警察に通報していたことだろう。
 だが、幸か不幸か、公園には他に人影は見あたらなかった。
 いや、少なくとも彼女、朝日奈飛鳥にとっては不幸だったに違いない。
 もし、その場に誰か他の人間がいたならば彼女の運命は違ったものになっていたはずなのだから。

 それとも、目の前で親友ふたりを失った彼女にとっては、この方が幸せだったのか。

「立つんだ」
「……はい」

 その男、津雲雄司に命じられて、飛鳥は恍惚とした笑みを浮かべたまま、よろ、と立ち上がる。

「さあ、僕の後についてこい」
「……はい」

 歩きはじめた男の後ろについて、ふらふらと歩いていく飛鳥。
 夜の帷の降りた公園を抜けて、街の中を歩いていくふたりの人影。
 住宅やマンションの多いこのエリアは薄暗くて人通りも少なく、すれ違う者もほとんどいない。
 それに、自分から歩いている飛鳥はうっすらと笑みを浮かべ、無理矢理連れて行かれているような気配も感じられないので、通りすがりの人に怪しまれることもなかった。

 そして、ふたりは一軒のマンションに辿り着く。

 津雲が、エントランスのオートロックを開けて中に入ると、飛鳥もそれに続いて入っていくj。
 その視線はぼんやりと、しかし、津雲の後ろ姿だけを見つめていた。

「こっちに来るんだ」
「……はい」

 手招きされて、飛鳥もエレベーターに乗り込む。
 そして、14階で降りると、津雲の後に従って通路を歩いていく。
 改めて明るい場所で見ると、ふらふらと歩く飛鳥は虚ろな笑みを浮かべ、まるで夢遊病のようだった。
 時々よろめくたびに、不規則な靴音が響く。

 そして、津雲は角の部屋の鍵を開けると、飛鳥の肩を抱いて中に連れ込んだ。
 部屋の中に入ると、津雲は飛鳥の背中を押すようにして廊下を進み、突き当たりのリビングへと誘導する。

 かなり広めのリビングは一見質素に見えるが、ローズウッド調で統一された家具はシンプルながら細部にこだわりを感じさせるものだった。
 津雲は椅子の背もたれに手をかけると、飛鳥の目の前に向ける。

「じゃあ、そこに座って」
「……はい」

 言われるままに、素直に腰掛けると、飛鳥は虚ろな薄笑いを浮かべて津雲を見あげてきた。
 あたかも、津雲の姿しかその目に入らないかのようにじっと見つめている。

「そういえば、きみの名前をまだ聞いていなかったね。僕に教えてくれないか?」
「……朝日奈……飛鳥です」
「なるほど、アスカか。うん、いい名前だ」
「住所は?」
「……森下町3丁目……ヴィラ・モリシタ409号室です」
「家族と一緒に住んでるのか?」
「……いえ、一人暮らしです」
「なるほどね」

 津雲は、ふっと笑みを浮かべると、手を伸ばして飛鳥の頬に触れた。
 頬を撫でられて、飛鳥は嬉しそうに目を細める。

「もうひとつ聞くけど、きみは誰のものなんだ?」
「……はい。私は、あなたの……ものです」

 津雲の質問にそう答える飛鳥の顔は嬉しそうな表情なのに、その言葉は虚ろで、感情が感じられない。

「そうかい。じゃあ、これからは僕のことは社長、と呼ぶんだ」
「……社長?」
「そうだ。きみは僕のものになったんだから。僕のもとで働いてもらうことになる。だから、これからは僕がきみの社長だ」
「……はい、社長」

 津雲のことを社長、と呼んだ後、飛鳥の口許が、にっ、と緩む。

「そういえば、きみはどこでどんな仕事をしていたんだい?」
「……オリエント百貨店…7階……紳士服フロア担当です」

 質問に、飛鳥はポツリポツリと答えていく。

 その返答を聞いて、津雲はふむ、と腕を組んだ。

 なるほど、紳士服担当ね……”ラ・プッペ”で働くのにはもってこいだな。
 そうなると、記憶を全部消すのはもったいないが……。
 さすがに、人間関係の記憶は消しておかないと厄介だろうな。
 特に、あのふたりに関するものは徹底的に。

 上から下まで、飛鳥のすらっとした体を眺めながら、そんなことを考える。
 だが、飛鳥は笑みを浮かべてこちらを見つめているだけだ。

 まあ、とりあえずはこの子を僕のものにするのが先だな。

 飛鳥に歩み寄ると、津雲はその肩に手をかけた。

「アスカ、これからきみの体を僕のものにするよ、いいかい?」
「……私は、もう社長の……ものです。もちろん、体も……」
「うん、そうだね。だけど、ちょっと意味が違うんだよね。アスカ、きみはセックスしたことはあるか?」
「……あります」

 特に表情を変えることもなく飛鳥は答える。
 実際、宏平と別れた後、彼女は何人かとつき合ったことがあった。
 それほど長続きしたものはなかったが、それでも、体を重ねる関係になったものもあったのだ。

 聞いておきながら、津雲はそのこと自体には関心がなさそうだった。
 ただ、初めてだったら結依の時と同じように、痛みを消して快感だけを感じさせた方が都合がいいと思っていただけなのだから。
 それに、経験があったらあったで、逆手に取る方法もあった。

「そうか。でもね、僕とのセックスは今までしたどんなセックスよりも気持ちいい。だって、こうやって僕に触られるだけで体が蕩けそうなくらい気持ちいいんだから」
「……んっ、んむうううっ」

 さっきまでと同じ、ただ、肩に手を置いているだけなのに、飛鳥の体が小さく震えた。
 そして、鼻にかかったようなくぐもった声をあげて体をよじらせ始める。

「ほら、僕に触られているところは、どこでも性感帯になったように感じてしまうよ」
「……ひぐっ!むふうっ、んふううっ!」

 肩から首筋にかけて撫でてやると、ひゅっ、と笛の音のような息をもれた。
 津雲の手が肌を創動きに合わせて、その体がピクン、と跳ねる。

「どうだい?気持ちいいかい、アスカ?」
「……は、はい……気持ちっ、いいです……んふううっ!」
「うん。きみは僕に触られるとすごく気持ちいい。だって、きみはとてもいやらしいからね」
「私が……いやらしい?」
「ああ。きみは、僕と触れ合い、セックスをするのが大好きないやらしい女なんだ」
「……ふあっ!はいいいいいいっ!」

 津雲が、そう言って首筋を撫でさする。
 すると、飛鳥はさっきよりも激しく体を悶えさせる。

「こんなところを触られてそんなに気持ちいいんだから、もっと感じやすい場所を触ったらどうなるんだろうね」
「……んんっ、んはあああああっ!」

 服の上から手をかけて胸をまさぐると、飛鳥が熱い吐息を吐く。
 そして、胸を触っていた手がブラウスのボタンを外し、その中に入っていく。
 すると、飛鳥は堪えかねたように体を激しく悶えさせた。

 さらに、もう片方の手がベルトを外すと、スキニーパンツの中に入っていく。

「んふううううううっ!ああっ、しゃっ、しゃちょおおおっ!」

 ショーツの上から、敏感なところをなぞる。
 すると、飛鳥がひくひくと体を震わせて叫んだ。
 もう、そのショーツはぐっしょりと濡れて、指がヌルッと滑るほどだった。

「ん?どうしたんだい?やめて欲しいのか?」
「いやあああっ!やめっ、やめないでっ、ください!んんっ、んふうううっ!」

 津雲が手を引っ込めようとすると、それまで、なすがままにされていた飛鳥が手を伸ばしてそれを押し止めた。
 はぁはぁと喘ぎながら津雲を見上げる飛鳥の瞳は、焦点が定まらないようにぼんやりとしているというのに、その顔は蕩け、微笑んでいるように緩んだ口許から涎が流れ落ちていた。

「じゃあ、自分を解き放つんだ、アスカ。僕とセックスがしたくて堪らない、いやらしい自分をね」
「……はいっ、はいいいっ!」
「うん、いい子だ。さあ、きみのやりたいようにしてごらん」
「……は、はい。……んっ、むふううっ。んんっ!」

 股間に入れられた手が、感じやすい部分に当たるように飛鳥は腰をくねらせる。
 さらには、津雲の腕に乗るような格好になってアソコを擦りつけ始めた。
 タイトなスキニーパンツをももの辺りまで下ろして体を前後に動かしている飛鳥。
 ニチャ、という音を立てて、その体が津雲の腕の上を滑っていく。
 その刺激が心地よいのか、くぐもった声で喘いでいるその顔は快楽に蕩けていた。

 その、淫靡な表情は、普段の飛鳥とはまるで別人だった。
 それに、いやらしくくねらせているその腰つき。
 きっと、彼女をよく知る人間が見たら驚いたことだろう。

「ふふふ、まるでソープ嬢のようだね、アスカ」
「んふうう……こうしていると、クリトリスが擦れて、とっても気持ちいいですうぅ」

 涎を垂らして、潤んだ眼差しを津雲に向ける飛鳥。
 ズボンを少ししかずり下げていないので、まるで、その体を貫いて津雲の赤銅色の腕が突き出ているようにも見える。
 飛鳥が体を揺すると、その腕が挿入を繰り返すように動き、ニチャニチャと湿った音と、スキニーパンツが擦れる衣擦れの音、そして飛鳥の鼻にかかったような喘ぎ声が響く。

「でもアスカ。それだけじゃ満足できないんだろう?」

 そう言って津雲が腕を引き抜くと、飛鳥は怪訝そうな表情で見つめ返してきた。

「……え、社長?」
「僕のを挿れて欲しいんじゃないか、アスカ?僕のを中に挿れて、はじめてきみの体は僕のものになるんだよ」
「あ、ああ……ください。私の体を、社長のものに、して下さい……。社長のおちんちんを、私の、中に……」

 飛鳥は、津雲の体にしなだれかかるようにして膝をつくと、そのベルトに手をかける。
 催眠状態で指先がうまく動かないのか、いかにももどかしそうにガチャガチャと音を立ててベルトを外そうとしている飛鳥の姿を、にやつきながら津雲は見下ろしていた。 

「ああ……社長のおちんちん、もう、こんなに大きく……」

 ようやくベルトを外して下着ごとズボンを下ろすと、飛鳥は露わになった肉棒を掴んだ。

「すごい……もっと大きくなるんですね……」

 屹立した肉棒を握って、うっとりとした表情を浮かべる飛鳥。

「さあ、これが欲しいんだろう、アスカ」
「はい……欲しいです、社長」
「じゃあ、服を脱いで」
「はい」

 津雲の命令に頷いて立ち上がると、飛鳥はすでにふとももの当たり前までずり下げていたパンツを完全に脱ぐ。
 次に、ショーツも脱ぎ捨てると、ぐっしょりと濡れたショーツは、ビチャ、と湿った音を立てて重たげに床に落ちた。
 そして、ブラウスを脱いでブラを外す。

「準備が……できました、社長」

 すらりとした裸体を恥ずかしげもなく晒して、飛鳥は津雲の前に立つ。
 津雲は黙ったまま頷くと、飛鳥の体を抱き寄せた。

「あっ、んくうっ、しゃっ、しゃちょおおっ!」

 強く抱いてやるだけで、その快感に飛鳥は身を悶えさせる。

「あふうんっ……んっ、んむむっ!んん、んふうううう……んぐ、ん、む……」

 その唇に吸いついて舌を入れると、飛鳥は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに蕩けたように目を細めると自分から舌を絡めてくる。

「んむっ、んんんっ、むふう……」

 唇に吸いついたまま、飛鳥が腰を押しつけてくる。
 津雲は、その体を抱いたまま押し倒すようにテーブルの上に仰向けに寝かせた。
 そして、飛鳥の秘裂に肉棒を押し当てる。

 飛鳥は、はぁはぁと熱い吐息を漏らしてこちらを見上げていた。

「いいかい?いくよ、アスカ」
「はい……来て下さい社長。……はああっ!んはああああああっ!」

 一息に肉棒を突き入れると、飛鳥の体がぐっと反り返った。

「んふううううっ!はっ、入ってます!社長の太くてっ、ああっ、あああーっ!」

 津雲がおもむろに腰を動かし始めると、飛鳥が言葉を途切らせて大きく喘ぐ。

「はんっ、あんっ、ああーっ、すごひぃいいっ!こんなのっ、すごくてっ、んふううっ!」
「どうだ?気持ちいいか、アスカ?」
「はいっ、きもちっ、いいですっ!ああっ、こんなすごいのっ、はじめてっ、ああん、んっ、んんーっ!」

 飛鳥は、腕を伸ばして津雲の首に絡めると、自分でも腰を動かし始めた。

「あんっ、はあっ、はあんっ、あっ、あああああっ、んんっ、社長、しゃちょおおおおっ!」

 よほど気持ちいいのか、ひと突きするたびに飛鳥のそこが、きゅっ、と締まり、襞が痙攣するように震える。

「ふあああっ!すごいっ、社長のっ、大きくてっ、奥にっ、奥にいいいいっ!」

 津雲にしがみついて腰を動かしながら、飛鳥は歓喜の声をあげる。
 もうイキそうになっているのか、その体が時おりビクビク震えていた。

「ああっ、ふああああああああああっ!ああっ……あ?ええっ!?」

 意識が飛んだのか、一瞬、飛鳥の動きが止まった。
 いや、催眠状態なのだから、意識が飛んだ、というよりも、戻った、と言った方が正しいのかもしれない。
 とにかく、ほんの僅かな間だが、たしかに飛鳥の瞳に理性の光が戻っていた。

「あ、あたしっ?……や、こ、こんなの、うそ……」

 見開いた目が、泳ぎ、愕然とする飛鳥。
 当たり前のことだが、どうしてこんなことになっているのか理解できるわけがない。

 もちろん、津雲も飛鳥のその変化を見逃してはいなかった。
 いっそう激しく、腰を打ちつけ始める。
 さながら、飛鳥の意識ごと刈り取ろうとするかのように。

「いああああっ!あんっ、んくうううううううっ!」

 案の定、すぐにその瞳が霞み、快感に悶えはじめた。
 再び快楽に蕩けた表情を浮かべ、ぼんやりと焦点の定まらない視線は宙を彷徨っている。

「ああっ、んふううううっ、激しいっ、激しすぎますっ、しゃちょおおおおっ!」
「でも、気持ちいいだろう、アスカ?」
「はいいいいいっ!気持ちいいっ、気持ちいいですうううっ!」
「もう、きみは僕なしでは生きてはいけないし、僕以外の男では満足できない。きみの体は、僕から与えられる快感には抗えないよ」
「んふううううっ!こんなに気持ちがいいんですものっ!もう、社長でないとわたしっ!ああっ、あふううううっ!」

 快感を心と体に焼き付けるように、暗示を植え付けながらグラインドを大きくしていく。

「じゃあ、そろそろ出すよ。中に出されたら、きみの体は晴れて僕のものだ」
「んんっ、はいいいいっ!出してっ、出してくださいっ!私の体をっ、社長のものにしてくださいいいいっ!」

 津雲の宣言に、飛鳥は悦びの声をあげてしがみついてくる。
 足を津雲の腰に絡ませて腰を押しつけ、肉棒をぐいぐいと締めつけていた。

「くっ、出すぞっ、アスカ!」
「ああっ、来てっ、来てますっ!社長の熱いのがっ、私の中にっ!ああああああっ!これでっ、わたしっ、社長のものにっ、んふうううううううううううう!」

 絶叫とともに津雲の腰に巻き付いた足が固く締まり、大きく仰け反って飛鳥の体が固まった。
 津雲の体がぶるっと震えて精液が注ぎ込まれるのに合わせて、飛鳥も体をびくっと震わせてそれを受けとめる。

「んんん……ふううううぅ。しゃ、しゃちょおおおおぉ……」

 津雲に抱きついたまま、甘えたように囁く飛鳥。
 その耳元で、津雲も囁き返す。

「気持ちよかったかい、アスカ?」
「は、はいいいぃ……」
「この気持ちよさを、いつでも味わいたいか?」
「はいいいぃ……」

 ぐったりと体を預けてきている飛鳥の耳元で囁くと、舌足らずに蕩けた返事が返ってくる。

「じゃあ、僕が”人形になれ、アスカ”と言うといつでもこの状態になるよ。この、僕のためにその体で奉仕するのが何よりも幸せな状態にね」
「はいぃ、社長……」
「そして、僕が”目を覚ませ、アスカ”と言ったら、目を覚まして元のきみに戻る」

「……いやです」

 津雲の言葉に、飛鳥がはっきりと首を振った。

「なんだって?」

 予想していなかった返事に、津雲は思わず飛鳥の顔を見つめる。

「元の私……それはきっと、さっき少しだけ出てきたもうひとりの私。あの時、彼女の感情が流れ込んできて……社長のことをすごく憎んでいました。私、そんなのいやです。社長のことを憎む私になるなんて……」

 潤んだ瞳で津雲を見つめ、飛鳥はきっぱりとそう言った。

「アスカ……」

 さすがに、津雲も驚きを隠せなかった。
 催眠状態の飛鳥が、本来の自分の意識を認識していたことに。
 そして、催眠状態の意識が、はっきりと自己主張をしていることに。

 これまでも、暗示をかけて人形にした女に新たな人格が形作られていったことはあった。
 その女の性格に基づきながらも、暗示で仕込んだ通りの、淫らで、津雲のことだけを愛する人格が。
 だが、そのような人格が生まれてくるのも、たいていの場合は、何度も暗示をかけて、セックスを重ねた結果や、もしくは、最初から人格を変えるつもりでじっくりと調教を加えたことによる、いずれにしても時間をかけた上でのことだった。
 それなのに、今、飛鳥は暗示をかけて一度体を交えただけなのに本来の人格とは違う人格が芽生えてきている。
 それも、はっきりと本当の自分を否定し、拒もうとしている。

 こんなことは初めてだった。

 津雲は、釈然としない思いで飛鳥を見つめていた。

 あるいはそれは、心理的なショックの反動だったのかもしれない。
 公園で津雲の催眠術に堕ちた時、あの惨劇を受け入れることができず、なんでもいいから現実から逃避したいという思いが飛鳥の中に生まれていた。
 それが、自ら進んで津雲の人形となる方向に進み、快楽に溺れることが一気に押し進めた。そんな説明もできたのかもしれない。
 ともあれあの時、飛鳥の目の前で起きたことは、彼女にとって直視するにはあまりにも残酷なことだった。
 だから、どんな形であれ、それを忘れさせてくれるものに縋りつこうとする思いが無意識のうちに湧いていたのかもしれない。
 それが、このような人格となって現れた、ということなのか。

 だが、いずれにせよ、本当のところはわからない。
 もちろん、津雲にも。
 おそらく、飛鳥自身にも。

 津雲は、しばしの間黙り込んで飛鳥を見つめていた。
 しかし、考えようによってはかえって都合がいいのかもしれないと考え直す。
 少なくとも、今、催眠状態の飛鳥は完全に自分のものだ。
 その状態の彼女に本来の人格を侵食させる。
 結依の時にもそうしたように。

「いいかい、アスカ。これは、本当にきみが僕を好きになるために必要なんだ」
「本当に社長を?」
「ああ、元に戻らなくても、僕のことを憎んでいるもうひとりのきみはずっと居続けることになる。それはきみも嫌だろう?」
「……はい」
「僕を憎む感情を心から消して、僕のためだけに生きるようにするんだ。きみだってそうなりたいだろう?」
「……はい」
「だったら、僕の言うことを聞くんだ」
「……わかりました」
「うん、いい子だ。もう一度確認しておこうか。僕が”人形になれ、アスカ”と言ったら、僕のものになった、今のこのアスカになる。”目を覚ませ、アスカ”と言ったら、目を覚まして元のきみに戻る。いいね?」
「……はい」
「よし。それじゃあ、もっと可愛がってあげよう。さあ、こっちへおいで」
「……はい、社長」

 津雲の言葉に、飛鳥は嬉しそうに微笑む。
 体を起こしてテーブルから降りると、津雲の後ろについてふらふらと寝室へと入っていった。

「さあ、これをしゃぶるんだ、アスカ」
「……はい」

 寝室のベッドに腰掛けて津雲が命じると、飛鳥は跪いてその股間に顔を埋めた。

「ぴちゃ……ぴちゃ……」

 灯りも点けず、暗い部屋の中に湿った音が響き始める。
 開け放ったままのドアから漏れ入る僅かな光が、頭を揺すって肉棒をしゃぶるシルエットを壁に映し出していた。

「ん……ぺろ……ぴちゃ……れろー……」

 肉棒の根元を掴んで、その先っぽをピチャピチャとしゃぶっていたかと思うと、舌を伸ばして裏筋を舐めあげていく。
 そんな飛鳥の頭を撫でてると、嬉しそうな表情を浮かべたように見えた。

「どうだい?美味しいだろう、アスカ?」
「んん……ふぁいぃ……社長のおちんちん、美味しいです……」
「それをしゃぶっていると、気持ちよくなって口いっぱいに頬張りたくなる」
「んんっ……ふぁ、ふぁい……ん、あむ……んふ……んぐっ、んむ……」

 言われるままに、飛鳥は口の中いっぱいに肉棒を含んだ。
 喉の奥に肉棒の先が当たって一瞬苦しそうな表情を浮かべるが、かまわずに舌を絡めてくる。

「そうやってると、どんどん気持ちよくなって、しゃぶるのが止まらなくなるよ」
「ん、んふ……んっ、んむっ……ぐっ、んふう、しゅばっ、ん……」

 飛鳥が、肉棒を咥えたまま頭を振り、唇で肉棒を扱き始める。

「そう。おまえはそれが大好物なんだ。そうやってしゃぶっていると、すごく気持ちよくて、何度でもイってしまう」
「んぐぐっ!……んんっ、んむむむっ!……んっ、んくっ、んぐっ、ぐぐぐーっ!」

 頭に手を添えて、奥まで肉棒を突き入れさせると、飛鳥は目を白黒させて呻く。
 目に涙を浮かべているが、自分から頭を振るのを止めようとしない。

「ぐむむむっ!んぐぐっ!ぐふううう!んんっ、んぐぐーっ!」

 喉の奥にごつごつと肉棒が当たるたびに、飛鳥の呻き声、いや、声にならない喘ぎ声が響く。
 そのひと突きごとにイっているのか、体をひくひくと痙攣させていた。

「んぐっ、ぐくうううっ!んぐぐぐっ!んくくくっ!ぐむうううううっ!」
「さあ、おまえを最高に気持ちよくさせるものを出してやる。この味をよく覚えておくんだ、アスカ」
「ぐぐっ、ぐっ、んぐむむむむむむむむむーっ!」

 飛鳥の頭を押しつけて喉の奥に精液を注ぎ込むと、くぐもった呻き声も頂点に達する。

「ぐうううっ、ぐっ、ぐふっ、んむううぅ、ごくっ、くふっ……」

 体を震わせて、少し咽せながら飛鳥は精液を飲み込んでいく。

「僕の味を覚えたかい、アスカ?」
「んっく……ふぁい、しゃちょおぉ……」

 口の中に残った精液を飲み下して、飛鳥がトロンとした視線で見上げてくる。
 立て続けにイカされて、その声までも蕩けきっていた。

「さあ、ベッドに上がるんだ。まだまだ足りないだろう?もっと気持ちよくしてあげるよ」
「ふぁい……もっともっときもちよくしてください、しゃちょお。……んっ、んふうっ!ふうぅ……ふあぁ、しゃちょお……」

 のろのろとベッドによじ登ってきて、飛鳥は四つん這いになって津雲に体を擦り寄せてきた。
 その乳首を、コリッ、と強く摘むと、鼻にかかった声をあげて体をよじらせる。

「んんんっ、ふわあっ、んふうっ、しゃちょおっ、しゃちょおおおっ!」

 手を伸ばして飛鳥の股間に指を突っ込むと、そこから溢れ出た蜜でふとももまでぐっしょりと濡らしていた。

「尻をこっちに向けてごらん」
「ふぁい……」

 ゆっくりとした動きで向きを変えると、飛鳥は命じられてもいないのに尻を上に突き上げるような体勢になった。
 その形のいい尻を、平手でパシンと軽く叩くと、甘ったるい声をあげて腰をくねくねと振り始める。
 さながら、牡を誘う牝のように。

 津雲は、笑みを浮かべて飛鳥の腰を掴むと、肉棒をその裂け目に突き入れた。

「んふううううううううっ!」

 甲高い声とともに飛鳥の体が反りかえった。

「あうっ、あんっ、はあっ、あっ、あうんっ!」

 津雲が腰を動かし始めると、その律動に合わせてリズミカルな喘ぎ声が部屋の中に響き続けた。

 そして、2時間ほどが過ぎた。

「はあっ……ああっ、しゃっ、しゃちょおおぉ!きもひっ…きもひ、いいっ、れしゅうううぅっ!」

 津雲の体に馬乗りになって、自分から腰をくねらせている飛鳥。
 もう、何度も絶頂に達して、その動きはだいぶ鈍り、言葉も途切れ途切れになって舌も回らなくなっているが、それでも快感を貪るのを止めようとしない。
 腰を揺すりながら中を見据えた視線も、快楽に蕩け、焦点を失っているように見える。
 というよりも、イキっぱなしの状態が続いて、完全にイった目をしていた。

「あっ、あふ、ふあっ、あああっ!しゃ、しゃちょおっ!もうっ、わらしっ、ふああっ!」

 これが、この日だけで何度目になるのであろうか。
 おそらく、二桁は軽く超すであろう絶頂の予感に、飛鳥の体がガクガクと震えた。
 咥えこんだ肉棒をきつく締めつけたかと思うと、そこから熱いものが注がれる。

「あああああああっ!んふうううううううううううううっ!」

 津雲の肉棒を締めつけたまま、きゅうっと反り返った飛鳥の体がひくひくと痙攣する。
 涎を垂らして絶叫するその目は大きく見開かれ、瞳孔が小さく震えていた。

「はううううううううううっ!ううぅ……」

 体を震わせて精液を受けとめていた飛鳥の体が力が抜けた。
 そのまま、ぐったりとなって意識を失う。

 その、飛鳥の体を自分の上から降ろしてベッドに寝かせると、津雲はリビングに戻って飛鳥が持っていたバッグを探る。

「よしよし、ちゃんと携帯は持ってきてるな」

 バッグから、飛鳥の携帯を取り出すと、津雲はにやりと笑みを浮かべた。

~2~

「……ん、んん」

 翌日、すっかり明るくなった部屋の中で、短い呻き声とともに飛鳥は目を開く。

「……あれ、あたし?……て、ここは?……ううん」

 気怠そうに頭を軽く振る飛鳥。
 まるで、ひどい宿酔いの朝のように頭がくらくらして、目が回りそうなほどにふらつく。
 それに、なぜか体もやけに重たくて怠い。

 寝覚めの気分としては最悪だった。
 それに、自分が寝ていたのは明らかに自分のベッドではない。

「……あたし、どうして?」

 飛鳥は、靄のかかったようにぼんやりした頭でなんとか記憶をつなぎ合わせようとする。

 と、その時。

「目が覚めたかい、アスカ?」

 背後から男の声がした。

「……え?ああっ、あんたはっ!」

 振り向いて、その姿を認めた瞬間、飛鳥の脳裡にあの惨劇が甦る。
 そこには、彼女からふたりの親友を奪い去ったあの男の姿があった。

「どうしてあんたがここにっ!?」
「これはご挨拶だね。ここは僕の部屋なんだから」
「ええっ!?」

 どうしてあたし、この男の部屋なんかにいるの!?

 いや、ここが自分の部屋ではないことは目が覚めたときからわかっていた。
 でも、よりによってこの男の部屋だったとは。
 それ以前に、どうしてそんな場所に自分が来てしまったのか。
 思い出そうとしても、頭がふらついて、あの公園であの何があったのか思い出せない。

「な、なんで……そんな……?」

 そんなはずはないわ……。
 あの後、いったい何があったの?
 ……だめ、思い出せない。

 自分がなぜこの男の部屋にいるのか理解できずに、きょろきょろと周囲を見回す。

 無理に考えようとすると、頭の芯がズキズキと痛むような感覚に襲われる。
 こめかみの辺りでドクンドクンと脈打つ音が、やけに大きく響くように感じた。

「でも、きみは自分でこの部屋に来たんだけどね」
「そんなはずない!だって、あんたは結依と宏平をっ!」
「あれは君たちが悪いんだよ。彼ときみが余計なことさえしなければあんなことにはならなかったんだよ」
「そんなっ、だって、あんたが最初に結依をっ!」
「でも、彼女だってあの方が幸せだったと思うんだけどね」
「バッ、バカなことを言わないでっ!」

 しれっとした顔で神経を逆撫でする言葉を吐く相手を飛鳥は睨み付ける。
 しかし、相手は平然とした顔で薄笑いを浮かべたままだった。
 それが、かえって薄気味悪く思える。

「な、なにがおかしいのよっ!?」
「いやね、そんな格好で凄まれても、と思ってね」
「なによ……え?きゃあああああっ!」

 その時になってはじめて自分が裸なのに気が付いて、飛鳥は慌ててシーツをたぐり寄せて体を隠した。

 そんな……なんであたしこの男の部屋でこんな……?
 だって、こいつは結依と宏平を……。

 ただでさえ、あの後何があったのか思い出せないというのに、憎い男の部屋で裸で寝ていことに、飛鳥はすっかり混乱していた。
 この、記憶がない間に何があったのか、想像するのが怖い。

「いやっ、なんでっ、どうしてよ!?」

 飛鳥は、半ばパニック状態に陥りながら叫ぶ。
 しかし、そんな彼女の言葉に男は答えようとしない。

 その代わり、男の口から聞こえてきたのは。

「”人形になれ、アスカ”」
「や……なに……?」

 その言葉を聞いた瞬間、それまでとは全く反対の感情がわき上がってきたのを感じて戸惑いの表情を浮かべる。
 憎いはずのこの男を、愛しいと思う感情が、たしかに自分の中にあった。
 でも、それは自分の感情ではない……はずだった。

 そんな……。
 こんなの、あたしの気持ちじゃない……。

 自分の中で、誰か別の人間が頭をもたげたような強烈な違和感に襲われる飛鳥。
 体の中を、そして心の中を得体の知れない”誰か”が蠢いている感覚。
 その、異様な感覚に、さわさわと肌が粟立ってくる。

「いや……あたしの、中に……誰か、いる……」

 自分ではない、”誰か”が自分の中にいる、その異物感と言いしれぬ恐怖に飛鳥は目を見開かせる。
 唇がわなわなと震え、言葉も途切れ途切れになっていた。

「ふむ、やっぱり強引に掛けると暗示の定着が悪いね」

 腕を組んで飛鳥の様子を眺めながら、男が大きく頷く。
 彼、津雲にはこのことはある程度は予想が付いていた。

 たしかに昨日は、催眠状態のアスカがそれ自身の意識を持った人格となっていることには驚いた。
 だがあの時は、飛鳥本来の記憶にも人格にも影響を与えるようなことはしていない。
 だから、一度眠って目が覚めたら普通に催眠状態が解けているであろうことは予想ができた。
 それに、昨日、彼女とセックスをしている最中に一度、催眠状態が解けそうになっていた。
 その状態で人格を弄ろうとしても暗示が定着しないだろうとは想像できた。

 そう、人格は無理でも。

「でも、体はどうだろうね」
「や……なに……こ、来ないで……」

 男がこちらに足を踏み出してきて、飛鳥は後ずさろうとする。
 でも、体がうまく言うことを聞いてくれない。

 そして、飛鳥の体を覆っていたシーツを男が引き剥がして、その腕を掴んだ。

「ひっ!?ひいいいっ!」

 男に腕を掴まれた、ただそれだけのことなのに、電流のような、痺れるような感覚が全身を駆け巡った。
 驚きに、飛鳥の体が竦む。
 なによりも彼女を驚かせていたのは、嫌な感じが全然しなかったこと。
 この男は結依と宏平を奪った相手なのに。
 そして、今も、間違いなく自分にも怪しげなことをしているのに。
 それなのに、そう、今、腕を掴まれて感じている、ゾクゾクするような感覚を、むしろ心地よいとすら思ってしまっていた。
 なにより、自分の中の”誰か”が悦びにうち震えているのを感じていた。

 そのことが、飛鳥をいっそう恐怖させる。

「ふうん、腕を掴まれただけでそんなに感じるのかい、きみは?」
「い、いや……ちがう……そんなんじゃ……」
「だったら、ここを触ったらどうなるんだろうね」
「や、やめてっ……あうっ!ふああああああああっ!」

 男の手が、乱暴に乳房を鷲掴みにした。
 目の前が真っ白になるほどの快感が飛鳥を飲み込んでいく。

「ふ、いやらしい声じゃないか」
「いやあ……ちがうっ、こっこれはぁ……あっ、あふうううっ!」

 嘲るような男の言葉に言い返そうとしても、胸への刺激が強すぎてうまく言葉が出てこない。
 男の手に力が入るたびに、ピクンと体が勝手に反応してしまう。

 愛撫に反応して色白の肌をほんのりと赤く染めて体をひくつかせている飛鳥の姿を、にやつきながら津雲は見下ろしていた。
 人格を変えるほどの催眠深度には至らなくても、知覚や感覚には充分に影響を与えることはできる。
 彼が思ったとおり、彼に触られたところはどこでも性感帯のように感じてしまうという暗示は残ったままだ。
 だったら、そこを突破口にしていけばいい。

 それに、さっきの飛鳥の反応を見て、彼は確信していた。
 彼女の中に、間違いなくアスカはいる。
 あの、アスカの人格を引き出しさえすれば……。

「あふううううううううううんっ!」

 飛鳥の体が、ビクン、と大きく震えた。
 そのまま、腰が抜けたようにへたり込む。

「なんだ、胸を揉まれただけでイったのか?」
「ち、ちがう……イってなんか……」

 痺れるような気怠さに全身を犯されて、それでも飛鳥はイったことを否定しようとする。
 しかし、それが心地よいということを、体は素直に受けとめてしまっていた。
 体の芯が熱くなって、アソコがジンジンとしている。
 そして、快感を感じれば感じるほど、ゾクリ、と自分の中の”誰か”が蠢く感覚が大きくなっていく。

「ふう、まだ物足りないのか。いやらしいやつだな」
「ちがう……あたしは……いやらしくなんか……ない……」
「なんだ、素直じゃないな。よし、そのひねくれた口にいいものをあげるとするか」

 そう言うと、津雲は自分のズボンをずらす。
 そこから出てきたのは、すでに赤黒く勃ち上がった肉棒だった。

「や……何を、する気っ?……んっ、んぐっ!?」

 飛鳥が、怯えた表情を浮かべるが、軽くイってしまってへたり込んだまま逃げることができない。
 その頭を押さえると、津雲はその口に肉棒を無理矢理咥えさせた。
 苦しげに顔を歪めて呻く飛鳥。

 しかし……。

「んんっ?んむむっ?」

 飛鳥の表情に、戸惑いが混じる。

 ……なんで?
 こんな男のおちんちん、無理矢理口の中に入れられて、こんなの嫌なはずなのに……。
 ……嫌じゃない?

 なんで?どうしてよ?
 こんなこと、今までつき合った男にだってやったことないのに。
 もっとしゃぶりたいなんて思っちゃう……それも、こんな男のものを……。

「んっ……んふ……んく、んむ……」

 苦しそうに涙を浮かべていた飛鳥の目尻が、トロンと下がってきた。
 ただ抑え込まれるままに咥えていた肉棒に、おそるおそる自分から舌を絡めていた。

「んふう……んむ……んっく……あむ……」

 こんなのおかしいよ。
 あたし、いったいどうしてしまったの?
 おちんちん、美味しいなんて……もっと舐めていたいなんて……。

「あふ……れる、れろっ……んむ、んっ……むふううぅ」

 いつの間にか、頭を押さえ込んでいた男の手は離れていた。
 今、飛鳥は自分から頭を振って熱心に肉棒を舐め回している。

 ……なんだか、体がカーッて熱くなって、アソコの辺りが……んんっ!

 無意識のうちに、手を自分の股間に伸ばしていた。
 裂け目をなぞった拍子に、飛鳥の体がピクッと震える。

 いやだ……アソコ、こんなにぐしょぐしょになってる。
 なんで……どうしてこんなことが……。

(それは、これが私たちの大好物だからよ)

 その時、たしかにその声が聞こえたように思った。

 ええ?なに?誰なの?

(私はアスカ……)

 そんなっ、それはあたしっ!

(そうよ。だって、私たちはひとつだもの)

 なにを言ってるの、あなた……。

(でも、私はあなたなのよ。私たちはこの人のことが好きなの)

 そ、そんなバカな……。

 自分の中に聞こえてきた声にそう答えながら、飛鳥は直感的に感じていた。
 その声の主は、さっきから自分の中で蠢いていた”誰か”だということを。

 しかし、それが自分のはずはない。
 なぜなら、この男は結依と宏平の仇。
 その相手を好きだなんてことがあるはずがない。

 でも、それなのに……。

「んっ、んぐっ……んんっ、んむっ……ぐむむむっ!」

 自分の体は肉棒を咥えたまま頭を振って、激しく扱きあげていた。
 口の中でパンパンに膨れたそれが喉の奥を突いて、本当なら苦しいはずなのに、頭の中が真っ白になるほど気持ちいい。

(ね、ほら、こんなに気持ちいいでしょ)

 ち、ちがう……これは……。

(何が違うの?だって、これをしゃぶっていると、とっても美味しくて、とっても気持ちいいのに)

「んむっ、えろっ、ちゅるっ、じゅるるっ!ん……んふう……んっ、んむむむっ、んぐっ、ぐっ!」

 いやっ、なんでっ?止まらないっ!止まらないの!

(止まるわけがないわ。だって、こうすることが私たちの望みなんだから)

 そんなはずない、そんなはずないのにっ!

「ぬぷっ、んぐっ!ぐむっ!んんっ、ぬぽっ、んくっ!ぐぐっ!」

 飛鳥自身の思いとは裏腹に、頭がぐいぐいと肉棒を扱いて、喉の奥を突き上げる。
 そのたびに、意識が飛びそうなほどの快感が体を貫く。

「ぐっ、んっふっ!んんっ、んぐぐっ!」

 ダメ……これ以上は……あたし、おかしくなっちゃう……。

(ふふ、いいのよ、おかしくなっても)

 そんな、ダメよ……こんな…こんな男なんかに……ああんっ!

 立て続けに喉を突かれる快感に、意識がぼんやりしてくる。
 飛鳥の目は、はじめの苦しそうな涙目とは別の意味ですっかり潤んでいた。

 そんな飛鳥の姿は、端から見ると喜んでフェラチオをしている淫乱女と変わりがなかった。

「ふ、気持ちよさそうだね。やっぱり、いやらしいじゃないか、アスカ」

 頭上から、からかうような声が聞こえた。
 上目づかいに見上げると、男がニヤニヤしながらこちらを見下ろしていた。

 ……ちがう。
 あたしは……いやしくなんか……ない。

「んっく、んむむっ、むふう……んんっ!」

 反論しようとしても、肉棒を咥え込んでしゃぶるのを止めることができない。
 漏れ出てくるのは、熱い吐息と狂おしげな呻き声。

 飛鳥にできることは、抗議するかのように男を見上げることだけ。

 と、男の口がゆっくりと開いた。

「”人形になれ、アスカ”」

 また、あの言葉だ。
 その言葉を聞いた瞬間、自分の中の”誰か”が喜ぶのをはっきりと感じた。
 ざわざわと、なにかが自分の中に広がっていく……。

(今度こそ私の出番ね。あなたは寝てなさい)

 そう言ったその声は、明らかに弾んでいた。

 そして、飛鳥の意識はそこで閉じた。

* * *

 ん、んん……。
 ……っ!なっ、なにっ!?あっ、ああああっ!

 全身を貫く刺激に、飛鳥は目を覚ました。
 いや、正確には目を覚ましたといえるのかどうか……。
 たしかに、周囲も見えるし、感覚もある。
 自分では、意識もはっきりしているように思える。

 しかし。

「あんっ!はあんっ、ああっ!ここっ、深いいいっ!」

 自分は、あの男と激しくセックスしていた。

「いいっ、そこっ、いいですっ!はああんっ!」 

 飛鳥は、男の上に跨って自分から腰を激しく揺すっていた。
 そのたびに、男のものが自分の中を出たり入ったりしている。
 腰を一度持ち上げて沈めると、熱くて固いものが中で擦れて、火がついたように全身が熱くなる。
 そして、子宮まで届きそうなくらい奥まで突かれると、目の前が真っ白になりそうな刺激が全身を走った。

 いや……どうして、こんなっ!
 あっ、はうううっ!

 自分のやっていることに戸惑う飛鳥。
 止めようとしても体が言うことを聞いてくれない。
 そもそも、まるで自分の体ではないかのように。

(あら?起きちゃったの?でもダメよ。今は私の番なんだから)

 あなた……?

(あら、わからないの?私はアスカ)

 その言葉に、今、自分の体を動かしているのが、さっき自分の中にいた”誰か”だと飛鳥は悟る。

 あなたっ!やめてっ、こんなことっ!
 あうっ、はあああああんっ!

(やめられるわけないでしょ。いいところなのに)

 いいところって!?
 ああっ、ああああああっ!

「ああんっ、いいですっ、社長!あんっ、はあんっ!ああっ、深いっ、奥にっ、奥に届いてますうううっ!」

 自分の体が大きく上下する。
 体が沈むたびに、ごつごつと子宮の入り口を叩かれる。
 それも、男に突き上げられているからではなく、自分から腰を動かしてだ。
 どうにかして止めたくても、飛鳥にはどうにもできない。

 あの”誰か”と自分の立場が完全に入れ替わっていた。

 それに。

 しゃ、社長って!?

 男の上に馬乗りになって激しく腰を揺すりながら、相手のことを、社長、と呼んでいた。

(そうよ。だって私はこの方のために働くの。この方は私たちの社長なんだから)

 な、なにを言ってるのよ、あなた!
 いやあっ、ああああああああああっ!

「はあああんっ!あうっ、社長!しゃちょおおおっ!」

 ”誰か”の言葉を疑問に思う間こそあれ、ずん、と子宮口に届くまで深く突かれて、視界が弾ける。
 意識が飛びそうになって、思考が途切れる。
 それでも、体は腰を動かすのを止めない。
 むしろ、悦びにうち震えてさらに動きを大きくしていくのがわかる。
 その、強い快感と一緒に、男への深い愛情と、彼と体を重ね合う悦びが伝わってくる。

 ……いやっ、こんなのっ、あたしの気持ちじゃっ……ないっ!
 でっ、でもっ!

 実際、飛鳥の意識も押し寄せる快感の波に飲み込まれそうになっていた。

「ああっ、イイッ、気持ちいいですっ!はあんっ、ああっ!」

 いや……やめてっ!これ以上気持ちよくしないでっ!
 これ以上されたらっ、あたしっ、おかしくなっちゃう!

(だから、言ったでしょう、おかしくなってもいいんだって)

 だって、この男は結依と宏平をっ!
 ああっ、だめっ、もうっ、もうっ!
 だめえっ、もうっ、なにも考えられない!

 男と繋がっているところから伝わる刺激が、飛鳥から考える力を奪い去っていく。
 もう、その意識は、体を支配している”誰か”に抗えなくなっていた。
 飛鳥の心は、嵐の中の小舟のように体が感じている快感に翻弄されていた。

「あっ、ふあああああっ!イクっ!私、もうイっちゃいます!」

 全身がひくひくと痙攣して、視界に映るものが白くぼやけていく。

 ただ、絶頂に達しようとしていることはわかる。
 これほどの快感は、今まで感じたことはなかった。
 こんなのでイってしまったらどうなるのか、それが怖かった。

 ああっ!だめえっ!
 あなたがイってしまったら、あたしっ、あたしいいいいっ!

 このままイってしまったら自分が壊れてしまいそうで、飛鳥の心は怖れおののく。
 でも、体は止まらない。
 痺れるほどの快感に体を痙攣せながら腰を持ち上げると、一段と深く沈み込ませる。
 その瞬間、体の中に熱いものが注ぎ込まれた。

「いああっ、イクッ!イックうううううううううううっ!」

 体を支配している”誰か”が、頂点に達した快感と悦びに体を震わせる。
 アソコの中に突き立てられたものから、弓なりになったまま固まった体の奥に、どくどくと熱いものが噴き出すのがわかる。

 だが、その快感は、飛鳥には刺激が強すぎた。

 い、いああああ……。
 こ、こんなの……初めて……もう、訳がわからない……。

 そのまま、飛鳥の意識は真っ白に溶けて行った。

< 続く >

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