MC三都物語 京都編 後編

京都編:後編 闇の蠢く街で

8.夏の虫

 四条の駅で降りて階段を上ると、すぐそこの四条大橋のたもとに立っているツインテールに髪を結った姿が目に飛び込んできた。
 まだ約束の10時まで15分あるっていうのに、もう由那ちゃんは来ていたんや。

「もう来てたんや、由那ちゃん!?」
「あ~、早かったんやね、律ちゃん」

 急いで駆け寄ると、由那ちゃんは無邪気な笑顔を見せる。

 彼女、岡崎由那(おかざき ゆな)とあたし、吉田律子(よしだ りつこ)は母方のいとこ同士だ。
 同い年の由那ちゃんとあたしは、女の子同士、小さい頃から仲がよかった。
 住んでいるのも大阪と京都で、他のいとこたちよりも近いこともあって、会って遊ぶこともしょっちゅうだった。

 今日も、お互い夏休みだしどちらからともなく会って遊ぼうということになって、あたしの方が京都まで出てきたのだった。

「やっぱり京都は暑いわー」
「ええ~?大阪もたいして変わらへんやろ?」
「いーや、絶対京都の方が暑いて」
「もう、律ちゃんったら、またそんなこと言うてからに」
「で、今日はどこ行くのん?」
「それがな、ちょっとおもろい店見つけてな」
「なになに?どんな店やの?」
「ん~、猫カフェ?」
「猫カフェいうたら、最近流行ってる、可愛らしい猫がたくさんいてる喫茶店?」
「あ、ほなら違うわ」
「もう、なんやの!由那ちゃんったら!」
「ごめんごめん。あんな……あれや、町屋の1階が猫グッズや猫のデザインの雑貨のギャラリーになっててな、2階がおしゃれなカフェになっとんのや」
「なんや、そうやったんか」
「でも、きっと律ちゃんも気に入るで。ホンマに可愛らしい雑貨がぎょうさんあるんやから」
「へえぇ」
「それにな、カフェのシフォンケーキがめっちゃ美味しいねん。抹茶シフォンにたっぷりのホイップクリームが添えてあってな」
「あ、美味しそうやな、それ」
「もう、律ちゃんは食い気の方が先に来るんやから~」

 そんな、他愛のない会話をしながら四条大橋を渡って繁華街の方に歩いていた時だった。

「……あれは?友加里ちゃん!?」
「ちょ、ちょっと、由那ちゃん!?」

 いきなり、由那ちゃんが早歩きになって商店街に向かう方向とは反対側へと横断歩道を渡っていくのを、慌てて追いかける。

「ねえ、どないしたのん?」
「間違いない。あれは友加里ちゃんや」
「友加里ちゃん?」

 まっすぐに前を見つめる由那ちゃんの視線の先に、マニッシュショートの女の子の後ろ姿があった。

「ああ。うちの学校のテニス部の友達で、ダブルスのパートナーやった子や」

 そう言って、前を行く子を早足で追いかける由那ちゃんの顔は真剣で、普段のおっとりした雰囲気とは全然違っていた。
 まあ、それを言ったらいつもの由那ちゃんの、のほほんとした話し方からはテニス部の選手だなんてとても想像できないけど、これはずっと前から知ってたから別に驚きはしない。

「でも、それがどうしたん?」
「友加里ちゃんと私はな、夏休み前の最後の大会に出ようって練習しとったのに、友加里ちゃんったらいきなりテニス部を辞めてしもうてな」
「そうやったんや……」
「まあ、うちらも3年生やし、別にインターハイとか狙えるレベルでもないから、受験勉強やらなんやらで夏休み前に引退するのはようある話なんやけどな。でも、私と友加里ちゃんは、その大会を引退前の最後の思い出にしようって言うとったのに」
「あの子からは何も話はなかったん?」
「うん、突然部活に来えへんようになってな。私も、友加里ちゃんと直接話そうとしたんやけど、クラスは別々やし、授業終わってあの子のクラスに行ってもいつもおらへんでな、話もできへんままにそのまま夏休みになってしもうたんや」
「なるほどな、そういうことやったんや」

 由那ちゃんの話を聞きながら、あたしも前を行く子を追いかける。

 でも、あたしはさっきからなんか違和感を感じていた。

 あの子、さっきちらりとこっちに振り向いたと思ったけど……。
 あたしはともかく、由那ちゃんには気づいてもええはずやのに。

 それに、あの子、普通に歩いているだけに見えるのに、なんで早足のあたしたちが追いつけへんのや?

 友加里ちゃんっていう子を追いかけているうちに、辺りの人通りが少なくなって、店も減ってきた。
 ここがどの辺りなのか、あたしにはよくわからない。
 地元の人間ならまだしも、観光客はもちろん、あたしみたいな関西の人間も来ないエリアだ。

「なあ、由那ちゃん、ここ、どこらへんなん?ちょっと変やで」

 由那ちゃんに私が声をかけた時、前を行くその子が角を曲がった。

 その後を追う由那ちゃんに続いてあたしも角を曲がる。

 その時、周囲の景色が揺らいだような気がした。
 まるで、陽炎のように。

「……え?」

 由那ちゃんが立ち止まったのは、先にその通りに入ったはずの子を見失ったからだった。

「由那ちゃん?」

 戸惑って立ち尽くしている由那ちゃんに声をかける。

 だけど、あたしも戸惑っていた。
 目の前には、古めかしい木造の町屋が立ち並ぶ細い通りがあった。

 でも、何か変。
 今日は抜けるような快晴で、朝からすごく暑かったのに、ここは薄暗くてなんだか靄がかかっているみたいに霞んでいる。

 それに、最近はこんな古い雰囲気の町屋を改装した雑貨店やカフェが人気なのに、そんな感じは全くしない。
 店も一軒もないし、歩く人もいない。

「あら、どうしたの?」

 いきなり、人の声がしてあたしは飛び上がりそうになった。

 振り向くと、女の人が立っていた。

 優しそうな笑顔をしてるきれいな人だけど、何歳くらいなのかよくわからない。

 うちのおかんより年上にも見えるし、もっと若いような気もする。

「あ、いえ、ちょっと学校の友達を見かけて声をかけようとしたんですけど、この通りに入って見失ってしもうたんです」

 由那ちゃんがその人にそう言って答える。

「あら、そうだったの?でも、変ね。ここは袋小路なのに」
「あの……ここ、なんていう通りなんですか?」
「ああ、ここは暗闇図子よ」

 ……クラヤミノズシ?

 その女の人から、聞き慣れない言葉が出てきた。

「……もしかしたら、そのお友達って、あそこの神社の巫女さんかもね」
「え?」
「ほら、向こうの突き当たりに鳥居が見えるでしょ。あそこに神社があるの。小さい神社だけど由緒はあるのよ。あそこに、若い巫女さんがいるから、その子かもしれないわ」
「はあ……?」
「もし、まちがいだったらごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございます」

 釈然としない顔をしてるけど、由那ちゃんはその人に頭を下げる。

「ほな、行ってみようか、律ちゃん」
「……うん」

 由那ちゃんに促されてあたしは通りの奥へと歩き始める。

「なあ、由那ちゃん、ズシってなんなの?」

 さっきの会話の意味がわからなかったあたしは、由那ちゃんにそう聞いてみる。

「ああ、律ちゃんは大阪の子やからわからへんよなぁ。律ちゃんは京都の通りはどれくらい知っとるん?」
「あねさんろっかくたこにしき……て数え歌にあるやつ?」
「うん、それは横の通りを北から順にいったやつやな。上から姉小路通り、三条通り、六角通り、蛸薬師通り、錦通り、やんな。通り、いうのは、京都の町を縦横碁盤の目に通っとるんや」
「でも、大阪でもそうやで。あ、でも大阪は縦の通りが筋で、横が通りやけど」
「あ、そうか、御堂筋とかいうもんなぁ」
「じゃあ、ズシって筋みたいなこと?」
「いや、違うねん。大阪の筋とか、京都の通りは町を貫いとるやろ、京都の図子、いうんは通りと通りの間の一区画しか通っとらんのや」
「どういうこと?」
「律ちゃんは盆や正月に私んちに来るやろ。実はな、うちの前の通りも図子なんや。あの通りはうちのある区画だけで両隣の区画には続いてへんねん」
「あ、そうやったんや」
「私も小さい頃に図子の意味がわからんかってな、おばあちゃんに訊いたことがあるんや。おばあちゃんの話やと、通り、いうのは京都の町を作るときにできた大きな通りの名残で、図子、いうのは最初は道がなかったところに暮らしの中でできた通りらしいねん。せやから、一区画の間しかないし、車も通れへんような狭い図子も多いんや」
「ふーん」

 由那ちゃんの説明を聞きながら、奥の神社に向かって歩いて行く。

 それにしても、両側の建物、古い木造の町屋やけど雰囲気があるとか、全然そんな感じやない。
 本当にただ古いだけで、戸も閉め切って、暗い雰囲気しかしない。
 それなのに、その向こうに誰かが息を潜めているような気配がして薄気味悪い。

「……で、図子は生活に必要でできた道やから、こうやって行き止まりになってることもよくあるんやけどな」

 突き当たりの神社に着いて、あたしたちはいったん立ち止まる。

「まあ、どっちかの端が通りに抜けとったらええんやし、こうやって突き当たりに神社やお寺さんがあったら退かすわけにもいかへんしなぁ」
「そんなもんなんや」
「京都の町なんてそんなもんやで。……でも、友加里ちゃんが巫女さんしとるなんて話、聞いたこともないしなぁ」

 そう言って由那ちゃんは首をひねる。

「でも、神社は裏にも出口があることがあるから、そこから向こうの通りに抜けとるんかもしれへん。行ってみよか?」
「……うん」

 あたしはそこまで京都の町に詳しいわけやないから、由那ちゃんの言葉に従うしかなかった。

「……あれ、おかしいなぁ。ここ、抜けられへんのや」

 結局、建物の裏に回っても塀があるだけで抜け道はなかった。

「うーん、たしかに友加里ちゃんはこの通りに入ってきたはずなんやけどなぁ……。どこ行ったんやろか?」

 由那ちゃんは、そう言って首を傾げている。

 あたしも、あの子がここに曲がって入るのは見ていた。
 だけど、こうしてその姿を見失って、しかもこうやって行き止まりになると、どこに行ったのか見当もつかない。

「あら?参拝の方ですか?」
「ひゃあっ!」

 不意に、女の人の声がしてあたしは思わず大きな声を上げてしまった。

 振り返ると、箒を持った巫女さんが立っていた。

 たしかに、さっきの人が言っていたとおり若い女の人やけど、あの子とは違う。

 由那ちゃんの友達の子の髪は短いマニッシュだったけど、この巫女さんは腰まである長い髪だった。
 それに、この人はあたしたちよりも少し年上に見える。

「あ、あの、友達がこの通りに入っていくのを見かけて探しとったんですけど。この神社って、向こうに抜ける出口ってありませんか?」
「ないですよ。この図子は袋小路やし、ここも表以外に出口はあらへんし」
「そうですか。ほなら、どこ行ったんやろか……」

 由那ちゃんが、途方に暮れたように考え込む。

 と、その時のことやった。

「お姉ちゃん、お待たせや」

 神社の向こう側から、もうひとり巫女さんが出てきた。

「ああっ!友加里ちゃん!?」

 その子を見て、由那ちゃんが大きな声を上げた。

「由那ちゃん!?」

 後から出てきた巫女さんも目を丸くしている。

 巫女さんの格好をしてるからさっきと雰囲気は違うけど、短めの髪はさっき追いかけてきた子と同じだ。
 なにより、由那ちゃんがそう言ってるんだから間違いないんだろう。

「こんなところでなにしとんの、由那ちゃん?」
「いや、友加里ちゃんこそなにしとんの?」
「なにしとんの、て、巫女しとるんやけど」
「……ふええ!?」

 そう言ったきり、由那ちゃんは口をパクパクさせている。

「まあ、立ち話もなんやから、ちょっと上がっていかへんか、由那ちゃん?」

 そう言って、その、友加里ちゃんっていう子はにっこりと笑みを浮かべた。

* * *

「こちらが、ここの神主の鬼無聡(きなし さとる)さん。で、こっちにおるのが私のお姉ちゃんや」
「どうも」
「葛野沙友里(かどの さゆり)です。妹がお世話になってるんやってね」
「は、はぁ……」

 そんなわけで、なぜかあたしと由那ちゃんは神社の中に上がらせてもらっていた。

「ところで由那ちゃん。そっちの子は誰なん?」
「あっ。大阪にいてるいとこで、吉田律子ちゃん。私たちと同じ3年生や」
「そうか、律子ちゃんか。私は由那ちゃんの同級生の葛野友加里(かどの ゆかり)や。よろしゅうな」
「う、うん……」

 まず、神社の中に入ることがあまりない経験なのに、神主さんまで紹介されてあたしたちは戸惑うばかりだった

「由那ちゃんにはすまんかったなぁ。私な、お姉ちゃんと一緒にこの神社で巫女をすることになってな。その修行で部活を続けられへんようになったんや」
「そ、そうやったんや」
「私がちゃんと説明したらよかったんやけどな。堪忍や」
「いや、それはもうええねんけど。……でも、友加里ちゃんの家って、神社かなんかやったっけ?」
「いいや。これは私が自分からやりたいって言うたことや。最初に巫女をしとったお姉ちゃんの影響やけどな」
「そうやったんや……」
「でも、今は私は一人前の巫女になるつもりでがんばっとるんや。卒業したら正式にここの巫女になるのも決まっとるし」
「へえぇ……」

 その子の話に、由那ちゃんはただただ驚くばかりだった。

 ていうか、なんであたしはこの場におるんやろか?

 由那ちゃんと遊ぶために出てきたはずなのに、成り行きでこんなことになってあたしは戸惑うばかりだった。

 それに、あの神主さん、笑っていても目つきが鋭くてちょっと怖い。
 この友加里ちゃんって子もすごく可愛いし、お姉さんの沙友里さんもきれいな人やけど、さっきからあたしたちを見る視線をすごく感じる。

 なんか、不気味や……。 

「ホンマにごめんな」
「そんな、友加里ちゃん……」
「ホンマは、最初に由那ちゃんに相談せんとあかんかったのにな」
「いや、もうええんや。ずっと会われへんかったから、なんで辞めてもうたんか、それだけでも聞きたかったんや。それが聞けたから、もうええんや」
「由那ちゃん……」
「ほなら、巫女さんの修行、がんばってな、友加里ちゃん」

 そう言って、由那ちゃんが立ち上がろうとした。

「帰らせへんよ」

 その子の、友加里ちゃんの口調が急に変わった。

「ひゃっ!?」
「きゃあっ!?」

 彼女が、胸の前で不思議な形に指を組んで何かぶつぶつ言ったかと思うと、立ち上がりかけていたあたしと由那ちゃんはぺたんと尻餅をついた。
 そのまま、体が動かなくなる。
 まるで、目に見えない力で押さえつけられているみたいに。

「どうですか、サトル様、お姉ちゃん?」
「ふむ、ふたり同時にとはなかなかやるやないか」
「すごいわ、友加里!もうそんなに上達したの!?」
「へへへ……」

 組んでいた手を解いて、彼女が嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ちょ、ちょっと。いったいなにしたんや、友加里ちゃん!?」

 すぐ目の前でへたり込んでいる由那ちゃんが狼狽えた声を上げる。
 あたしも体を動かそうとするけど、手足とお尻が床にひっついたみたいで動けない。

 と、友加里ちゃんがあたしたちの方に振り向いた。

「……飛んで火に入る、いうてな。ごめんやけど、帰すわけにはいかへんのや、由那ちゃん」
「ゆ、友加里ちゃん?」
「由那ちゃんは私の大切な友達や。私、昔から由那ちゃんのことが気に入っとったんやで。せやから、あとふたり必要やと聞いた時に、3人目は由那ちゃんにしようと思ったんや」
「な、なに言うとんのん!?」

 怯えたような由那ちゃんの声が響く。

 でも、それには答えようともせずに友加里ちゃんは今度はあたしの前に来た。

「……律子ちゃん、いうたなぁ。そうか、由那ちゃんのいとこなんか。あんたも由那ちゃんと似て可愛らしいなぁ」

 まるで、全身を舐め回すような視線が絡みついてくるのを感じる。

「決めた。律子ちゃん、あんたを4人目にするわ」

 そう言った時に浮かべた彼女の笑顔。

 背筋がぞくぞくするくらいにきれいで、妖しい笑みだった。
 とても、あたしと同い年とは思えないくらいに。

「ね、いいですよね、サトル様?」

 そう言って、友加里ちゃんが神主さんの方を向く。

 さっきから、彼女は神主さんのことをサトル様って呼んでいた。

「ああ、ええんやないか。……なるほど、おまえの言うとおり、可愛い顔しとるな」

 神主さんが、そう言いながらあたしたちの方に近づいてくる。

「じゃあっ、今から?」
「ククク……そうだな、沙友里、友加里、おまえたちに傀儡の術は教えたはずやな?」
「え?はい?」
「うん?」
「今日は俺が手本を見せてやるさかいに。あの術を完全に使うとどうことができるんかをな」
「傀儡の術を、完全に?」
「そうや。俺も今まではまだ体の引き継ぎが終わったばかりで力が戻っとらんかった。それもおまえたちのおかげでだいぶ力も戻ってきた。術を完全に使えるくらいにな」
「そうやったんですか」

 神主さんと沙友里さん、友加里ちゃんが何か話をしてる。

 ……クグツの術?
 クグツってなんや?

 3人の会話は聞こえるけど、言ってることの意味がよくわからない。
 ただ、ものすごく嫌な予感がする。

「おまえたち、よく見ておくんやで」
「「はいっ!」」

 神主さんが懐からお札みたいなものを出して由那ちゃんに手を伸ばした。

「やあっ!来ないでっ!?」
「ちょっと!由那ちゃんになにするつもりやねん!?」

 あたしと由那ちゃんの叫び声があがる。
 なにかよくないことになるのは間違いなのに、体が動かない。

 神主さんがお札みたいなものを由那ちゃんに押しつけて、ぶつぶつと何か唱えている。
 呪文みたいな、お経みたいな感じで、よく聞き取れない。

「いやあああっ!あ……」

 不意に、由那ちゃんの悲鳴が途切れた。

「ゆ、由那ちゃん?どないしたんやっ!?」

 私が呼んでも、由那ちゃんからの返事はない。

 せやのに……。

「友加里、こっちの娘だけ術を解くんや」
「はい、サトル様」

 友加里ちゃんが由那ちゃんに向かってまた手を組んで何か唱える。
 そして、神主さんの方を向いて頷いた。

「さあ、こっちにくるんや」
「……はい」

 ふらり、と由那ちゃんが体を起こした。

 その時にちらりと見えた由那ちゃんの横顔。
 ぼんやりとして、なんの表情も浮かんでなかった。

 そのまま、由那ちゃんはふらふらと神主さんと向かい合う。

「ええか、これからおまえは俺とすることは何でも気持ちええと感じるようになる」
「……はい」
「俺にされること、俺にすること、なんでも気持ちようてしょうがなくなるんや」
「……はい」

 ぼそぼそと、由那ちゃんのくぐもった返事が聞こえる。
 あたしの角度からは神主さんの背中に隠れて由那ちゃんの様子はわからない。

「ほなら、これをしゃぶってみ」
「……はい」

 神主さんが、穿いていた袴の裾を持ち上げる。

 その向こうで、由那ちゃんが膝をついた気配がした。

「ちょ……由那ちゃん?」
「ちゅむ、ちゅぱ……ちゅ、んむ……」

 神主さんの腰の辺りに、膝をついている由那ちゃんの顔がある。
 そこから、ちゅぱちゅぱという音が聞こえてくる。

 ちょっと由那ちゃん、なにしとんの?
 そんな、まさか……。

「んふ……ちゅば、あむ、んふう、ちゅる……んちゅ、れろ……」
「どうや、うまいか?」
「ぺろろ……はい……おちんちん、おいしくて、気持ちいいです……んちゅ、ちゅむ、ちゅぽ……」

 ぴちゃぴちゃと湿った音の合間に、ぼそぼそと由那ちゃんの声が聞こえてきた。

 そんなアホな……。
 由那ちゃん……なんで男の人のおちんちん舐めとんの……?

「ちゅぼ、ちゅ……ぺろっ、んちゅ、ちゅば……」
「由那ちゃん……なんでや……?」

 呆然としているあたしをよそに、由那ちゃんがおちんちんをしゃぶる音が響く。

「ほら、大きくなったやろ」
「……はい」
「これを中に入れるとな、もっと気持ちようなれるんやで。どうや、入れて欲しいか?」
「……はい」
「やったら、服を脱いで裸になるんや」
「……はい」

「あかんっ!あかんでっ、由那ちゃん!…………ゆ、由那ちゃん?」

 あたしは、精一杯由那ちゃんに向かって叫ぶ。

 でも、神主さんの体越しに由那ちゃんの細い腕が見えたかと思うと、脱ぎ捨てたブラウスがふぁさっと床に落ちる。

「そんなんあかん!目え覚ましてや、由那ちゃん!」

 どれだけ叫んでも、あたしの声は由那ちゃんには届いていなかった。

「ゆ、由那ちゃん……」

 神主さんがその場に腰掛けると、裸になった由那ちゃんの上半身が丸見えになった。

 でも、ぼんやりと前を見たままのその顔は相変わらず無表情で、明らかに様子がおかしい。

「さあ、こっちに寄るんや」
「……はい」

 無表情のままで由那ちゃんが一歩前に出て神主さんの肩に手を置いた。

「ほら、そのまま腰を沈めてみいや」
「……はい」
「あかんっ!それだけはあかんっ!」

 必死で止めるあたしに構わず、スローモーションのようにゆっくりと由那ちゃんの体が沈んでいく。

「んっ、んぐうううううううっ」

 ほんの一瞬、由那ちゃんの顔に苦しそうな表情が浮かんだ。
 でも、それもすぐに消えてもとの無表情になる。

「どうや、気持ちええか?」
「……んんっ……はいぃ、きもち、ええです」
「なら、自分で動いてみるんや」
「……はい。……ん、んんっ、ん、ん、んっくぅ、ん、ん」

 神主さんの肩に手をかけて、ゆっくりと由那ちゃんの体が動き始める。

「どうや、気持ちええやろ?」
「ん、ん……は、はい……んん、んっ、ん、ん、ん」
「気持ちよかったらそう言ってみぃや」
「ん、んっ、んんん……き、きもち、ええです……んんっ、ん、ん、ん……」

 あたしの見ている前で、由那ちゃんが男の人に抱きついて腰を浮かせたり下ろしたりしている。

「……そんな、なんでや、由那ちゃん?」
「あら、でも、由那ちゃんは気持ちええって言うとるやないの」

 いつの間にか、あたしの脇に友加里ちゃんが立っていた。

「で、でもっ、全然気持ちよさそうやないやないの!」
「そう?でも、嫌がっているようにも見えんけどなぁ」
「そ、それはそうやけど!」

 たしかに、この子の言うとおり由那ちゃんは嫌がっている様子も苦しそうな様子もない。
 でも、気持ちよさそうでもない。

 由那ちゃんの顔は凍りついたみたいに無表情で、ぼんやりと前だけを見つめているだけだ。

「あんなん、言わされとるだけや!なんかおかしなことされて、そう言わされとるんや!ホンマに気持ちええんやあらへん!」

「ククク……ホンマにそうか?」

 顔だけこっちに向けて、神主さんが言った。

「え?」

 思わずあたしが聞き返すと、神主さんはまた由那ちゃんの方を向く。

「おまえも気持ちええやろ?」
「ん、ん……は、はいぃ。ん、んんぅ、ん、ん、ん……」
「こうしとるのが気持ちようて、止まらへんようになる。ええか?」
「ん、んんっ、はっ、はい……ん、ん、ん、ん、ん」

 由那ちゃんは、感情のない顔のまま返事をして体を動かし続けている。

 と、男の人がまたなにか唱え始めた。
 すると、由那ちゃんの胸にお札のようなものが浮かび上がってきた。

 え?あれはさっきの?
 でも、さっきまであんなの貼ってなかったはずや……。

 そして、神主さんが由那ちゃんの胸のお札を剥がした。

 すると……。

「んっ、んんんっ、はうっ、んふううううっ!」

 それまで無表情だった由那ちゃんが、苦しそうに顔を歪めた。

 ……いや、苦しそうなだけやない。

「んっ、あふうんっ、あっ、ああんっ!やあっ、くっ、苦しいけど、これっ、気持ちいいっ!あっ、ああんっ、気持ちようてっ、止まらへん」

 ぎゅっと神主さんに抱きついている由那ちゃんの口許がだらしなく緩む。
 どこか、嬉しそうな顔……。

 それに、さっきよりも由那ちゃんの動きが激しゅうなっとる……。

「なんでや、由那ちゃん……?」

 呆然としているあたしと、由那ちゃんの目が合った。

「あっ、ああんっ、あっ、律ちゃんに見られとんのにっ、気持ちようて、やめられへん!あんっ、あっ、んくうううっ!」

 由那ちゃん、笑ってる……。
 溶けたような、なんてだらしない笑顔。
 あんな顔の由那ちゃん、見たことない……。

「んくうううっ!あふうっ!気持ちよすぎてっ、体っ、ちからはいらへんっ!あっ、んふうううっ!」
「そうか、力が入らへんのやったら俺が突いてやろう」
「んっ、んぐううううううううううっ!」

 一瞬、由那ちゃんが顎を上げて仰け反った。

「くううっ、あっ、はあっ、はああっ、あぐっ、んぐうっ、あっ、はあああんっ!」

 振り子のように体を振って体勢を戻し、神主さんにしがみついた由那ちゃんの瞳は、ぼんやりと霞んでいた。
 あたしの方に顔を向けているのに、どこを見ているのかわからない。

 でも、さっきまでの感情のない顔と違う。
 目尻は下がって、口許は笑ったままだ。

「あぐっ、ぐううっ、んはあっ!あっ、はああっ、あんっ、はうっ、んくうううっ!」

 踊るように由那ちゃんの身体が跳ねる。

 それはきっと、あの神主さんが下から動いてるからや。
 由那ちゃんは、目を開けたまま気を失ってしもうとるんちゃうか?

「あぐっ、ああっ、はううっ、うっ、うあああああああああああああああああっ!」

 大きな声で叫ぶと、また、由那ちゃんの体がきゅうって反り返った。
 そのまま、体をひくひくと震わせている。

 そんな……まさか、まさか……。

「由那ちゃん!」

 あたしが呼んでも、由那ちゃんからの返事は返ってこない。

「ああああああ……ああぁ……あ…………」

 由那ちゃんの声が、どんどん小さくなっていく。

 そのまま、ごろんと床に寝かされた由那ちゃんは、ぐったりしたままピクリとも動かない。

「由那ちゃん!大丈夫!?由那ちゃんってば!」

 あたしがいくら呼んでも、由那ちゃんは全く身動きしない。

「ほら、次は律子ちゃん、あんたの番やで」

 その声に見上げると、友加里ちゃんがにやにやしながらあたしを見下ろしていた。

「あ、あたしの番って……?」

 まさか、あたしも由那ちゃんみたいに?

「いっ、いややっ!」

 必死であがくけど、体が言うことをきいてくれない。

「無駄やで。もうあんたは逃げられへんのや」

 そう言うと、友加里ちゃんはまたあのぞくりと背筋が寒くなるような笑みを浮かべた。

「なっ、何をするつもりなんや!?」
「そうやねえ……どうしてあげようかしら?どうしましょうか、サトル様?」

 友加里ちゃんが、そう言って神主さんの方を伺う。

「そうやな。友加里、この間渡した瓶はも持っとるか?」
「え?……はい」
「よし、あれを使おうか。練習や、自分でやってみぃ」
「はいっ!」

 弾けるような笑顔で返事をすると、友加里ちゃんは向こうの方に走っていく。

 そして、あたしのところに戻ってきた彼女は、手に赤いものの入った小さな瓶と、黒っぽい棒のようなものを手にしていた。

「律子ちゃんは由那ちゃんのいとこやからなぁ。丁重におもてなしせなあかんなぁ」

 そう言って、友加里ちゃんがまたニヤリと笑う。

「い、いや……なにすんのん……?」

 恐怖で体が震えているのがわかる。

 あたしも、由那ちゃんみたいにされてまうの?

「いっ、いややっ!やめてっ!」
「もう、暴れたらあかんで。これは、もうちょっときつく縛らなあかんかなぁ」

 持っていた瓶と棒を下に降ろすと、友加里ちゃんは手を組んで何か唱える。

「きゃ、きゃああっ!」

 体をピクリとも動かせなくなって、あたしは悲鳴を上げる。

 口だけはかろうじて動くけど、頭を振ることすらできない。

「そうそう。そうやってじっとしといてな」

 友加里ちゃんがあたしの顔を覗き込む。
 手には、さっきの瓶を持っていた。

 そして、目の前でその蓋を取ると、ぶつぶつと何か唱えながらそれをゆっくりと傾けた。

「……ひっ!」

 あたしの額に、何か温かいものが滴り落ちてくる……。
 でも、結構な量が垂れてきたはずなのに、顔を流れていく感触はない。

 なんで?どうなっとんの?

「……こっちはこれでよしやな」

 瓶にまた蓋をすると、友加里ちゃんは黒い棒を手に取る。

「今度はこっちや」
「……え?やっ、どこ触っとんの!?」

 スカートをめくられて、ショーツをずらされる感触にあたしは狼狽える。
 でも、どんなに狼狽えても体を動かせないのは変わらない。

「やめてんかっ!……やっ!?なにっ、なんやねん、これ!?」

 アソコに、固くて冷たいものが当たる感触。
 それが、ぎゅうとアソコの中に入ってくる。

「やあああっ!やめてっ、いやあああっ!」

 いや……気持ち悪い……。
 アソコの中に固くて冷たいものが入っとる……。

「んぐううううっ!そ、そんな奥までええええっ!?」

 あ……今、何かブチッて……それに、アソコが痛い……。
 まさか、まさか……。

「うううっ、やめてっ、やめてよう……」

 涙が溢れてきて、視界が歪んでくる。

「泣かんでもええよ。すぐに気持ちようなるんやから」
「ひぐっ……ひっ!?ひいいぃ!?」

 友加里ちゃんがまた何かぶつぶつ呪文を言うと、額がカッと熱くなった。

「ひいっ!いいいいいっ!?」
「よし、これで準備完了や。どうですか、サトル様?」
「ああ。なかなかええ手際やったで」
「ありがとうございます!じゃあ、早速始めましょうか!」

 友加里ちゃんと、あの神主さんの声が聞こえる。

「くうううぅ……。始めるって、あたしも由那ちゃんみたいに……?」
「違うで、今度は私の番や。でも、今の私と律子ちゃんは繋がっとるからな」
「……ど、どういうことやねん?」
「まあ、すぐにわかるよって。さあ、サトル様……」
「なんや、いきなり始めるんかいな」
「だって、由那ちゃんのいやらしい姿見てたら、もうアソコがぐしょぐしょになってもうて」
「しようのないやっちゃな。ほら、来い」

 頭をそっちに向けることもできないので、あたしにはふたりの声を聞くことしかできない。

「はい!」

 友加里ちゃんの弾んだ声が聞こえた、次の瞬間。

「……んっ、んはあああああああああっ!」
「ひっ!?ひいいいいいいいいいいっ!」

 何かが、あたしの体を貫いた。
 電気のような刺激が脳天まで突き抜ける。

「はあああっ!ああんっ、私の中っ、サトル様でいっぱいになっとる!あんっ、ふうううううんっ!」
「いあああああああっ!なんやっ!?なんやねん、これっ!?あっ、あくうううううっ!」

 あたしのアソコに突っ込まれた固いもの。
 さっきまで冷たかったそれが急に熱くなって、しかもアソコを出たり入ったりしているような感覚に襲われる。

 それに、さっきから額の辺りが熱くて熱くて、頭が痺れてくるような感じがする。

「はあんっ、ああっ、サトル様のおちんちんがっ、中っ、擦って、燃えるようやっ!あんっ、ああっ、ええっ、すごくええようっ!」
「なっ、なんでやっ!?どうなっとんのっ……あっ、んくうううううううっ!」

 あ、あたしの中が擦れて、ものすごく熱い……。
 こんなの、おかしいのに……なんでや、なんでこんな……。

「ああんっ、すごいですっ、サトル様っ!あんっ、はんっ、あっ、ああんっ!あっ、今日の私、すごい感じてまう!ああっ、ふああああっ!」
「やっ、あかんっ!そんな激しくっ、うあああっ!こんなんっ、あかんねんっ!あかんのにっ、あうっ、気持ちええっ!くっ、くあああああっ!」

 友加里ちゃんの息づかいが荒くなるのに合わせて、あたしの中で暴れ回る感覚もどんどん激しくなっていく。

 それに、額から頭に直接響くような、このじんじんくる感覚。

 なんや……これ?
 気持ち、ええんか……?

 それが快感やと気づくのに、それほど時間がかからなかった。

「あっ、あかんっ!気持ちよすぎて、もうイってまう!ああんっ!あっ、ふあああああああああああんっ!」
「ひぐっ!ああっ、あかんっ、痛いっ!んんっ、んふうっ!んぐううううううううううううっ!」

 頭の中で何か弾けて、全身が強ばる。
 でも、動かすことができない体では、この弾けるようなうねりの逃げ場がなくて体中の筋肉が攣りそうになる。
 ひくひくと痙攣する体が、引き攣るように痛い。

 同時に、アソコが震えるほどの快感がこみ上げてきて、痛いのか気持ちいいのかわからなくなる。

 ひょっとして、これがイクっていうのんか?

 少しずつ、全身の痙攣が収まっていって、全身がだるくてふわふわする感じが残る。
 でも、まだアソコの熱い感触は消えない。
 
「なんや、もうイったんか?でも、これしきじゃ終われへんで」
「は、はいぃ。わかってます……んっ、んふうううううううううっ!」
「ひいいいいぃ!まっ、またああああああああああっ!?」

 あかんて、あたし、イってもうたのに、またっ!

 友加里ちゃんの声と一緒に、またアソコの中が擦られる快感。
 そして、目の前で光が弾けるように視界がフラッシュする。

「あんっ、ああっ、すごいっ、擦られるだけでっ、イってまうっ!ふああああっ、またっ、イクううううううう!」
「いやあああああああっ!もうやめてええええええええええええっ!」

 ああ……またイってもうた……。

 もう、わけがわからへん。
 アソコの中、熱くて、痺れるくらいに気持ちよくて、それが体中に広がっていく。

 なんか、頭の中がぐにゃりとして、何も考えられへん。
 気持ちええことしか、もう、考えられへんようになる……。

「ああっ、サトル様っ、サトル様っ!ああっ、んくううううううううっ!」
「ダメッ、もうだめえぇ!あたしっ、おかしくなるううううううっ!」

 もう、何度イったのかわからへん。

 また、全身がひくひくと痙攣する。
 頭の中が真っ白になって、それから後の記憶は、あたしには残っていない。

* * *

「ん、んん……」

 背中に当たる、堅い板の感触。

 全身が、ものすごくだるい。

 ええっと、あたし……。
 あたし、由那ちゃんと……。

「そうやっ、由那ちゃん!」

 あたしは、がばっと体を起こす。

 目に飛び込んできたのは、裸で横たわったままピクリともしない由那ちゃんの姿。

「やっと起きたんか、律子ちゃん」

 声がした方を見ると、友加里ちゃんがにやつきながらこっちを見ていた。

 そういえば、さっきまで動かなかった体が動く。

「由那ちゃん……ううっ!」

 立ち上がろうとしたあたしは、ふらついて尻餅をつく。

「もう、無理したらあかんで。気を失ってもイキっぱなしやったんやから、体に力が入らへんやろ」
「あ、あなたたち、由那ちゃんを……」
「ああ、由那ちゃんなら大丈夫や。でも、サトル様に直に精気を吸われたから、もうしばらく目を覚まさへんやろうなぁ」
「せ、精気って……?」
「まあ、そのうちわかることや。でな、サトル様が仰っとるんやけど、律子ちゃん、今日はもう家に帰り」
「な、なんやて?」
「次に会う時は律子ちゃんがサトル様の巫女になる時かなぁ?」
「な、なに言うとんねん!あたしは巫女になんかならんで!」
「いいや、きっとなる。サトル様がそう仰っとるんやもの」
「なんやて!?」
「せやから、今日のところは帰るんや」
「アホなこと言わんといてや!だいいいち、由那ちゃんを置いてけるわけないやんか!」
「心配せんでもええって。由那ちゃんは私がちゃんと家に帰すさかいに」
「あんたたちの言うことなんか信じられるわけないやん!」
「まあ、そう言わんと。あ、それと、帰る前にサトル様がもう一仕込みするんやって」
「え?やっ、なにすんねん!」

 両側から、友加里ちゃんとお姉さんに体を押さえつけられる。
 そして、私の足を掴む感触。

 見ると、あの神主さんがあたしの足を掴んでいた。

「な、なにすんの!やっ、やあああああっ!」

 アソコに神主さんの指が入ってくる。

 ええっ!?まだ、入っとんの!?
 アソコの奥に、あの固いものがまだ入っている感触があった。

「ひぐううううっ!?」

 それが、さらに奥まで押し込められる。

 そして、神主さんが呪文みたいなものを唱えた。

「ふうううううううっ!?」

 アソコの中が、カッと熱くなってあたしは呻く。

 そして、アソコの中に入った指が出て行く感触。

「とりあえずはこのくらいやな。よし、沙友里、友加里、こいつを外まで送ってやれ」
「はい」
「わかりました」
「ちょ、ちょっと!こんなもの入れっぱなしで帰れるわけないやん!出してよ!」
「ククク……それはその時が来たら勝手に出て行く」
「ど、どういうことや、それ!?」
「まあ、その時が来るまではどうやっても出すことはできへんけどな、ククク……」

 そう言うと、神主さんは不気味に笑う。

「さ、今日のところはこれで帰りや」

 私の体が、両側から抱え上げられる。

「ちょい待ちやっ!こんなんで帰れるわけないやろ!」
「ええから、今日はもう帰るんや」
「待ってや、由那ちゃんは!?ちょっと、由那ちゃん!」
「せやから、由那ちゃんは私が後でちゃんと家に帰す言うとるやろ」
「そんなん信じられへん!由那ちゃん!ちょっと、離してや!」

 友加里ちゃんと沙友里さんが、信じられないくらいの強い力で両側からあたしを抱える。
 そして、靴を履かせると神社の外まで連れ出した。

「やめてっ、離してえな!」
「もう、少しはおとなしくしてや」

 そのまま、神社の前の通りを引きずられるように連れて行かれる。

「ほな、またな、律子ちゃん」

 暗闇図子とかいうその通りの出口で、あたしは放り出されるように体を離される。

「ちょっと待ちいや!……え?えええっ!」

 慌てて振り向いたあたしは、驚いて立ち尽くす。

 そこには通りはなく、ビルとビルの間の細い隙間があるだけだった。
 しかも、人ひとりくらいなら入れるその隙間も、ほんの数メートル先で行き止まりなっている。

「なっ!?どういうこと!?」

 その隙間の奥まで入っていても、塀があるだけで、もちろんあの神社は影も形もない。

「……どうなってんねん?」

 その場で、途方に暮れるあたし。

 そんな、こんなことってあんの?
 それに、あそこにはまだ由那ちゃんもおるいうのに!

 その後、あたしは自分の足であの通りを探して歩いた。
 でも、どこにも入り口は見つからない。
 近くの店で、暗闇図子の場所を聞いても誰も知っている人はいなかった。

「由那ちゃん……なんで、なんでや……んっ、くうううっ!」

 歩き回っているあたしのアソコの中に、たしかに何か固いものが入っている感触がある。
 動くたびにそれがアソコの中を圧迫して疼く。
 感じたらいけないのに、角度によっては膝が震えて腰が砕けそうになる。

 そんな、あんなものがまだアソコの中に入ってるなんて……。
 ものすごくおぞましい感じがする。

 しかも、それで感じている自分がいるのはもっと嫌だ。

 でも、それだけがさっきのことが夢じゃないということを証明している。

「くううぅ……うっ!」

 だめ……アソコの中でコリコリと当たる感触に足の力が抜けていく。
 それに、全身がだるくて頭もふらつく。

 これ以上は、もう歩き回れそうにない。

 そんな……あたし、どうしたらええねん……?
 ……あの子の言葉を信じるしかないの?
 見捨てるわけやない……ごめん、ごめんな、由那ちゃん……。

 由那ちゃんを見捨てるようで気が咎める。
 でも、熱でもあるみたいに頭がぼうっとしてきて、まともに考えることすらできのうなってる。
 それに、ただでさえこの辺りに土地勘のないあたしにはそれ以上どうしようもなかった。

 ふらふらの状態でなんとか駅にたどり着いたあたしは、電車に乗るとそのまま気を失うように眠ってしまった。

* * *

 駅員さんに起こされて目が覚めると、終点の淀屋橋だった。
 まだ、全身の気怠さはとれない。

 

 そこから、地下鉄に乗り換えて家に帰ると、すぐに由那ちゃんの家に電話をする。

「……あ、もしもし、吉田です、律子ですけど」
「ああ、律ちゃん。どうしたん?」

 電話に出たのは岡崎の叔母さんだった。

「あの、由那ちゃんは帰ってますか?」
「うん。ちょっと前に帰ってきて、すごく疲れたいうて寝とるけど。なんかあったん?」
「いえ……」

 由那ちゃんが帰ってきているって聞いて、あたしは少しほっとする。
 もちろん、それで今日あたしたちがあの神社でされたことが消えるわけやないけど、とりあえず由那ちゃんの無事が確認できただけでも本当によかった。

「なんやったら起こそうか?」
「いえっ、ええです!また明日電話する言うとってください」
「そう。わかったわ」

 電話を切ると、あたしもどっと疲れが出てきた。
 全身、鉛でも入っとるみたいに体が重い。

「どうしたん、律子、しんどそうやけど?」
「うん、ちょっと疲れたわ」
「まさか、熱中症やないやろうね?」
「大丈夫やと思うけど。……しんどいからちょっと横になるわ」

 おかんにそう言うと、重い足取りで階段を上り、自分の部屋に入る。

 ベッドの上に寝転がると猛烈な睡魔が襲ってきて、そのまま気を失うように眠ってしまった。

9.生殺し

 そのまま、目が覚めると朝になっていた。

 まるで、筋肉痛みたいな鈍い痛みが体のあちこちからする。
 それに、朝からものすごく体が重くてだるい。

 それでも、のそのそと起き出して階段を降りる。

「おはよう」
「やっと起きたんか?よう寝とったけど、ホンマになんともないか?」
「うん、大丈夫……」

 心配そうなおかんにそう言うと、電話の受話器を取って由那ちゃんの家に電話をかける。

「あ、叔母さんですか?律子です。由那ちゃんいてますか?」

 少し待つと、由那ちゃんが電話に出た。

「あ、由那ちゃん?」
「うん……」

 電話口の由那ちゃんの声は元気がなかった。
 きっと、昨日のことがショックやのに違いない。

「あんな……あの後、大丈夫やった?」
「うん……ごめんな、律ちゃん」
「え?」
「昨日は、律ちゃんをひとりにしてしもうて」
「なに言うとんの!あたしの方が由那ちゃんを残して行ってもうたんやんか!謝らなあかんのはあたしの方や!」
「私があの子を追いかけたから……ごめん……ホンマにごめんな……」
「ちょっと、由那ちゃん!?」
「ごめんな、律ちゃん」
「由那ちゃん!?ちょっと!?」

 そのまま切れてしまった電話に向かって由那ちゃんの名前を呼んでも、当たり前やけど返事はない。

 電話に出た由那ちゃんの沈んだ声。
 それが、昨日のことを思い出させてあたしの気分も沈ませる。

 受話器を置くと、あたしは重い足取りでリビングを出て行く。

「律子、あんた朝ご飯は?」
「うん、ちょっと食欲ないねん……」

 おかんにそれだけ答えると、そのまま、自分の部屋に戻る。

 なんで、あの時あの子を追いかけた由那ちゃんを止めへんかったんやろ。

 昨日、由那ちゃんを止めなかった自分を悔やみながら、ベッドに倒れ込む。 

「んっ、んくうっ!」

 その拍子に、アソコの中がゴリッと擦られて呻く。

 そうやった……。
 いつまでこんなもん入れとんねん。

 昨日は猛烈な眠気に襲われてそのまま寝てしもうたけど、あたしのそこにはその固いものが入りっぱなしだった。

「……んっ!んんんんっ!どっ、どんだけ深く入っとんの、これ!?」

 アソコの中に指を突っ込むと、かなり深いところに固い感触があった。
 随分と奥やけど、なんとか指が引っかかる。

「んくううううううっ!なんでっ、なんで出てけえへんねん!?あっ、あふうっ!」

 指先で挟んで引っ張り出そうとしても、それは全然動かない。

「くうううっ!なんでやねん!……ひっ!?あうんっ!んっ、んふうううううううううううう!」

 指の位置を変えようとした弾みに、アソコの中を思い切り擦ってしまった。

 その瞬間、頭の中で何かが弾けて、頭からつま先まで体がきゅうっと強ばる。

「いあああああああっ!」

 痺れるような感覚が全身を駆け巡って、仰け反ったまま思わず甘い声が出てしまた。

「はうんっ!はあっ、はあっ!……あかん、抜けへん……。んっ、んんんんんっ!」

 指の先で何とかそれを摘まんで引っ張ってもびくともしない。

「なんでっ、なんでや!?はうっ、んくううううっ!あっ、あかんっ、ふわあああああっ!」

 引き抜こうとすればするほど、かえって激しくひとりエッチしてるみたいになって、だんだん体に力が入らなくなってくる。

「んふううううううっ!あっ、ああああんっ!」

 引き抜こうとする自分の指がアソコの中で擦れる度に目の前でチカチカと光が弾け、体が勝手にビクビク跳ねる。
 体中を電気が走るみたいで、つま先や唇が痺れて感覚がなくなっていく。

「ああっ、ひああああああああああっ!」

 また、体がぎゅって反り返って、目の前が真っ白になった。

「あ、ああああ……ふああぁ……あ、ああ……はぁ、はぁ……」

 急に体の力が抜けて、ぐったりとベッドに横たわる。

 激しい運動をした後みたいに呼吸が整わない。
 ただでさえ朝から体がだるかったというのに、さらに疲労感が増したように思えた。

 それも、ひとりでものすごく感じて何度もイってもうて……。
 あかん……こんなことやっとたらおかしくなってまう。

「まさか、ホンマに抜けへんの……?」

 あの時、あの人はその時が来るまではどうやっても抜けへんって言うてた。

 その時っていつなんや?
 いつまでこんなのを入れとかなあかんのや?

 考えただけで憂鬱になってくる。

 せめてもの救いは、今が夏休みってことやった。
 こんなものを入れたままで、とてもやないけど学校なんか行かれへん。

 こんなものをアソコに入れっぱなしなんて、まるで拷問や……。

 ベッドの上でぐったりとしたまま、ぼんやりとそんなことを考える。

 そうか、これは拷問なんや。
 あの時あの子は言うとった。次にあたしがあの子に会う時はあたしが巫女になる時やって。
 あたしが音を上げるのをあの子らは待っとるんや。 
 この拷問に耐えられなくなって、あたしの方から巫女になるから許してくださいって言いに行くのを待っとるんや。
 それがあの子らの狙いなんや……。

 ……あかん。
 こんなのに負けたらあかん。
 でも、どうしたらええんや?
 こんなの、アソコに入れられたまんまで。

 でも、拷問はそれだけやなかった。

 自分がされていることがどんなに酷くて情けないことなのか、それを思い知らされたのはトイレに行った時のことだった。

「くううううぅ……はううっ!」

 アソコの奥にあの固いものが入っているせいでその隣のおしっこの出てくる管が圧迫されているのか、おしっこが出そうなのにちょろちょろとしか出てくれない。

 でも、出そうと思って力むと……。

「はううう!んっくぅううううう!」

 アソコの中で固いのがゴリゴリと擦れて情けない声を上げて悶える羽目になる。

「はうっ、んあああああっ!」

 ……こんなん、地獄や。

 情けのうて辛くて、涙がこぼれてくる。

 あたしは、いつまでこれに耐えることができるんやろうか……。

* * *

 翌日。
 それは、突然にやってきた。

 起き上がるとアソコの中が擦れてしまうので、体調が悪いことにしてあたしはその日もベッドで横になっていた。

「あうっ!いあああああっ!?」

 なるべく動かないようにしてたのに、アソコの中が擦れる感覚に襲われた。

「な、なんでや!?くううっ、んくうううううううっ!」

 お腹の中が擦れて、一気に体中が燃えるように熱くなる。

 いや、それだけやない……。

 この、額が熱くて痺れるような感じ。
 あの時と、同じや。

 次の瞬間、大きくて固いものにアソコの中をゴリゴリと思い切り擦られた。
 実際には違うけど、たしかにそう感じた。

「はううっ!んぐっ、ぐむむむむむむむむっ!」

 思わず大きな声を上げそうになったのを、顔を枕に押しつけて必死にこらえる。

 ……間違いない。

 あの子が、友加里ちゃんが神主さんとセックスしとった時と同じや。
 あの時、あたしと友加里ちゃんは繋がっとるって言うとった。
 そして、あの子が感じとることがあたしにも伝わってきた。

 なら、またあの子がセックスしとんの!?
 それがあたしに伝わって!?

 そんな!?ここ、大阪やで!
 京都におるはずのあの子が感じとることがここまで伝わってくるのん!?

「むむうっ!んぐぐぐぐぐっ!」

 いやあああっ!
 そんなに動かんといてっ!そんなにアソコの中、擦ったらあかんて!

「ぐぐぐうぅ!ぐむむむむむっ!」

 枕に顔を埋めたまま、体がビクビク震えるのを止められない。

 一度経験してしまったあたしの体は、伝わってくるその感覚を自分でも情けないくらいに素直に快感だと認めてしまっていた。

「んんっ!んむううううううううううううううううっ!」

 全身がびりびりきて、足の指までピンと突っ張る。
 そのまま固まった体がヒクヒクと痙攣している。

 あたし……イってもうた……。
 こんな、人が感じてる感覚で、また……。

「んぐうっ!んっ、んぐっ、んんっ、んぐぐっ!むむうううううううううううっ!」

 まっ、またやっ!

 アソコの中、固くて太いのが削るみたいに擦って、奥まで当たっとる!

「んぐっ、ぐっ、ぐむっ!んふううううううううううっ!」

 また、全身の筋が引き攣る。

 あかん……もうやめて。
 もう、気持ちよくせんといて……。

「ひぐっ!んぐうっ、んっ、んっ、んんん!んぐっぐぅうううううううううううっ!」

 やめてっ、もう、イクのんやめてっ!
 これ以上イってもうたらっ、あたしっ、おかしくなる!

 あかん!そんなに激しく動いたらあかんて!

「んっ、んぐ、ぐっ、ぐぐっ、んっ、んっ、ぐぐぐっ!ひぐっ、いぐううううううううううううっ!」

 目の前で火花が散るのはこれで何度目やろか。
 頭の中がショートしたみたいに熱くて、じんじん痺れてくる。

 頭がぼんやりして、何も考えられなくなる。

 ……ああ……また、来るっ。

「ぐぐぐっ、ぐむううううううううううううっ!」

 そのまま、あたしの全てが真っ白になっていった。

「ちょっと、律子、起きいや」

 体を揺さぶるおかんの声で目が覚めた。

「……ん?あ、なんや……おかんか」
「なんややあらへんで、あんた、また寝とったんかいな?」
「ん……うん」

 いや、寝とったんやない。
 あたし、気を失っとったんや。

「あんた、ホンマに大丈夫かいな?医者行くか?」
「……いや、大丈夫やから」
「なんか、この間からしんどそうやで」
「うん、ホンマに大丈夫」
「せやったらええんやけど……。晩ご飯の準備できとんで」
「うん、すぐ降りるわ……」

 おかんが出て行くと、あたしはすぐに起き上がった。
 その時に突いた手が、冷たくて湿った感触に当たった。

 いや……シーツがこんなに濡れとる。

 栓をされていても溢れてきたお汁でシーツが濡れていた。

 それに、頭がまだふらふらする。

 ……たしか、あれはお昼ご飯食べてすぐやったのに。
 途中で意識失うて、そのまま夕方まで気絶しとったんか、あたし。

 もし、あんなのがもう一度あったら、あたし、まともでいられるかわからへん。

 そう思うと、陰鬱な気分になってくる。

 でも、その時のあたしはまだわかってなかった。
 自分がもう、おかしくなりかけていたことに。

10.抜け駆け

 翌日。

 今日もまた来るんやろか?
 また、あの子がセックスをしたら……。

 その日もベッドの上で寝転がったままぼんやりとしていると、自然と昨日のことを思い出してしまう。

 ……今日は、もう来えへんのかな?

 な、なに考えとんの!?
 まるで、期待しとるみたいやないの! 
 そ、そんなこと、あるわけないやん……。

 ……でも。

 こうやって何もしないでいると、アソコが熱くて、ムズムズしてくるみたい。

 ちょっとだけやで……。

「ん……んんっ……」

 アソコの中に指を入れると、そこに栓をしてる固いものに指先が当たる。

 一昨日、引っ張り出そうとしたときはびくともしなかったのに、奥に入れようとすると楽に動くみたい。

「んん……んっ、あんっ……」

 指先で押して角度を変えると、中のいろんなところに当たって気持ちいい。

 でも、昨日のはこんなものやなかった。

「はうんっ!んっ、んんっ!」

 思い切り押し込むと奥に当たって、脳天まできゅん、っていう刺激が走る。

 でも、まだ足りへん……。

 そんなに奥に押し込んだら本当に抜けなくなるんじゃないかという思いが頭をよぎったけど、もう止まらない。

 こんなのに負けたらあかん。
 そう思っとったのに、あたしの心はボキッと折れてしまったみたいや。
 もう、自分ではどうしようもない。

 どんどん体が熱くなって、意識がトロンとしてくる。

「んっ、んんっ!あん……もっと……もっとや……はんっ、んんんっ!」

 朦朧としたまま、あたしは一日中アソコを弄り続けた。

* * *

 その晩は眠りがすごく浅くて、夜中に何度も目が覚めた。

「ん……はあん、んっ……」

 目が覚めると、無意識のうちにアソコに手が行く。

 そうしていると、気分がほわんとしてきて少しまどろむ。
 そんなことの繰り返しだった。

 そのせいで、夜が明けたときには高熱でもあるみたいに全身が火照って、頭がぼうっとしていた。

 あかん……こんなんじゃもう満足できへん。
 もっと、もっと気持ちようなりたいんや……。

 ぼんやりと霞がかかったようなあたしの頭の中は、そのことでいっぱいになっていた。

「あら、今日は早いんやね、律子」
「……うん、ちょっと京都まで出かけてくる」
「京都?また由那ちゃんと遊ぶの?」
「……うん」

 朝早くから起き出すと、おかんの言葉に適当に生返事を返して家を出た。

 早う、早うせな……。

 京都に向かう電車の中で、それだけが頭の中を駆け巡っていた。
 何を早くせなあかんのかわからへんけど、気だけが急く。

 四条の駅を出ると、ふらふらと歩き始める。

 たしか……この角を曲がって……。

 体中が火照って、頭ものぼせてぼうっとしているのに、行こうとしているところへの道順ははっきりとわかった。

 近づくと、アソコの中に入っている固いのがどくんどくんと震えて正しい道順を教えてくれるみたいやった。

 そうや、ここを曲がるんや……。

 その角を曲がった時に、また陽炎のように周囲の景色が歪んだ気がした。

 すると、この間はあれだけ探してもたどり着けなかったあの通りが目の前に開けていた。
 突き当たりに、石造りの鳥居が見える。

 それを見ただけで、胸が高鳴っている自分がいた。
 いつの間にか、小走りになって鳥居に向かっていた。

 鳥居をくぐり、神社の建物に上がって古びた扉を開く。

 すると……。

「はううっ、あっ、ああんっ!気持ちええですっ、サトル様ああああああっ!」

 目の前の光景に、あたしは呆然として立ち尽くしていた。

「あんっ、サトル様のおちんちんがっ、奥までゴリゴリ擦ってっ!あんっ、んくううっ!」

 白い着物に赤い袴の巫女さんの格好をした由那ちゃんが、神主さんに抱きついて激しく腰を動かしていた。
 体の動きに合わせて、ツインテールに結った髪がバサバサと揺れている。

「はんっ、はああっ、あんっ!……あっ!」

 由那ちゃんの顔が、こっちを向いた。
 なんて……いやらしく蕩けて、嬉しそうな笑顔しとんのや。
 それに、たった4日会わなかっただけなのに、すごくきれいになった気がする。

 どこかで見たことがある、ぞくぞくするようなきれいで妖しい笑顔。
 そうや……友加里ちゃんの笑顔と同じや。

「り、りっちゃん?……あうっ!はあああああっ!」

 神主さんに強く抱きしめられて、由那ちゃんの体が大きく仰け反った。

「あうっ、はああっ!サトル様っ、はっ、激しすぎっ、れすううっ!あっ、はああっ!あうっ、う゛あああああっ!」

 抱きしめられたまま、由那ちゃんの頭がガクンガクンって揺れてる。

 苦しそうな声やけど、顔はホンマに嬉しそうやんか。

「あ゛あ゛あ゛っ!ふあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 由那ちゃんの目に靄がかかっていくみたいにどんよりと濁っていく。
 その視線は、もうどこを見ているのかわからない。
 口からだらしなく舌を出して、濁った声を上げて喘いでいる。

 たぶん、由那ちゃんはもう自分で動いとらへん。
 神主さんの動くままにされてるだけなんや。

 でも、すごく気持ちよさそう。
 きっと由那ちゃん、気持ちよすぎて意識が飛んでもうとるんや。

「あ゛う゛っ!あ゛あ゛あ゛っ!あ゛ぐううっ、あ゛あ゛っ!」

 ……ずるいよ、由那ちゃん。

 神主さんに抱かれてガクガクと体を揺らせている由那ちゃんを見ているうちに、そんな思いがこみ上げてきた。

 あたしはこんなバッタもん入れられて我慢せなあかんかったのに、その間、由那ちゃんは本物を入れてもらってそんなに気持ちようしてもろうとったなんて。

 早くあたしもそれを入れて欲しい……。

 そうか……そうやったんや。

 ここに来るまで、ずっと気が急いていた理由がわかった。
 あたしは、早く神主さんに気持ちよくして欲しかったんや。

 それやのに、先に由那ちゃんの方が。

「あ゛あ゛あ゛っ!ふあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーっ!」

 まるで、獣が叫ぶような由那ちゃんの叫び声が響いた。

 きつく抱きしめる神主さんの腕の中で、由那ちゃんの体がヒクヒクと震えている。
 
「あ゛あ゛あ゛……あ゛……あ゛あ゛ぁ……」

 喉から絞り出される声が掠れていって、由那ちゃんがくたっとなる。

 それを、神主さんがそっと床に寝かせた。

「ずるいわ!由那ちゃんばっかり!」

 次の瞬間、あたしは大声で叫んでいた。

「なんであたしはこんなバッタもんで、由那ちゃんはホンマもん入れてもらっとんねん!あたしっ、由那ちゃんのこと心配しとったのにホンマひどいわ!」

 大声でまくし立てているうちに、目から涙が溢れてきた。

 だって、あたしが家で情けない思いしとる間に、由那ちゃんは抜け駆けしとったなんてひどすぎるやんか。

「あたしかて本物が欲しいのに!神主さんとセックスしたいのに!」

 そう叫んでから、さすがにちょっと恥ずかしくなった。
 でも、自分が本当にして欲しかったことがわかって、素直にそれが出せたという思いもあった。

 と、その時やった。

「……!?えっ、えええっ!?」

 ずっと疼いていたアソコの中が蠢くのを感じて、戸惑いの声が上がった。

 何か、下がってくる。
 これは……。

「んっ!あうっ!」

 あたしの中に入っていたあの固いものが、ズルズルとずり落ちてきた。

 そして、いったんショーツに引っかかってから、ゴトンッ、と重そうな音を立てて床に落ちた。

「えええ?こ、これは?」

 突然のことに戸惑うばかりのあたしのアソコから、お漏らししたんじゃないかというくらいお汁が溢れてももを伝う。
 まるで、この数日栓をされて堰き止められていた分が全部出てくるみたいに。

「よう来たな、律子ちゃん」

 気がつくと、友加里ちゃんとお姉さんの沙友里さんがあたしの傍らに立っていた。

「ゆ、友加里ちゃん?」
「それはな、律子ちゃんが心の底からサトル様とセックスしとうなったら自分から抜けるようになっとったんや」
「え、えええっ!?」

 さっき自分で言った台詞やけど、人に言われるとますます恥ずかしい。

「そんなに赤くならんでもええよ。それにしても、すごい量のおツユやな。それに、すごいいやらしい匂いや。ホンマ、牝の匂いやなぁ」
「そ、そんな恥ずかしいこと言わんといてや……」
「いや、律子ちゃんがその気になってくれて、私はホンマに嬉しいんやで。でも、由那ちゃんがサトル様とセックスしとったからって、そんなに怒るのは筋違いや」
「え?」
「だって、由那ちゃんはもうサトル様の巫女なんやもの。サトル様とセックスするのは巫女の務めやからな。由那ちゃんはなんも悪うないんや」
「ほんなら、あたしも巫女になる!」

 もう、その時のあたしは神主さんとセックスしたい一心だった。

「うん。でもな、それは頼む相手が違うで」

 そう言って、友加里ちゃんが向けた視線の先をあたしも見る。
 そこには、にやにや笑いながら神主さんが立っていた。

 あ、そうか、友加里ちゃんにこんなこと言うてもしゃあないやんか。
 ここで一番偉いのは神主さんなんやから、神主さんに頼まんと。

「ほら、サトル様に直接お願いするんや」
「……あ、うん」

 友加里ちゃんに言われるまま、あたしはふらふらと神主さんの方に行く。

 視界の端に、気を失ってぐったりとしている巫女姿の由那ちゃんが映る。
 それだけで、あたしも気絶するくらい気持ちいいことをして欲しくて、アソコが疼いて胸が締めつけられる。

「……あの、あたしを巫女にしてください」

 神主さんの前に立って、おそるおそる頼む。

 そんなあたしを、神主さんはにやにやしながら見ているだけだ。
 それがあたしを不安な思いにさせる。

「ダメですか?」
「ああ、ええやろ」
「え?……ほんなら?」
「ああ、おまえを俺の巫女にしたる」
「ホンマ……ですか?」

 嬉しすぎて、頭がぼうっとしてしまった。
 望んでいた答えなのに、夢みたいで思わず聞き返してしまう。

「ホンマや。今からおまえを俺の巫女にしたる」
「あ、ありがとうございます!」

 そう言ったあたしの声は嬉しさで震えていた。

「ほなら、これから契約の儀式や」
「……契約の儀式、ですか?」

 なんか、大仰な言葉が出てきてまたちょっと不安になった。

「いや、簡単なもんや。……沙友里、友加里」
「はい」

 友加里ちゃんと沙友里さんが持ってきたのは、杯と小刀だった。

 と、神主さんがいきなり自分の手首を切った。

「ちょっ、何しはるんですか!?」

 驚いているあたしを見て、神主さんがおかしそうに笑う。

「ククク……ホンマ、これをした時の反応はみんな同じやなぁ」
「そうですね、サトル様」

 びっくりしているあたしをよそに、沙友里さんも楽しそうに笑っている。

「さあ、これを飲むんや。俺の血を啜る。これが、俺の巫女になる契約や」

 そう言って、神主さんが自分の血の入った杯をこっちに差し出した。

「こ、これを……ですか……?」

 手渡された杯を、まじまじと見つめる。
 少し大きめの白い杯の中で、赤い液体の表面がテラテラと光っていた。
 少し傾けてみると、まるで生きているみたいにうねる。

「そうや、俺の巫女になる者はみんなこれを飲んどるんや」

 ……ということは、由那ちゃんも?

 あたしは、床に横たわったまま目を覚まそうとしない由那ちゃんを見る。
 赤い袴に白い着物の巫女さんの格好の着物がはだけておっぱいが丸見えになっていて、すごくいやらしく見える。

「それを飲まんと俺の巫女にはなれへんけど、やっぱり嫌か?」

 巫女になれへん?

 ……嫌や、そんなん嫌や。
 せっかくここまで来たいうのに。

 こ、これを飲みさえすればええんやな……。

「の、飲みます!」

 あたしはぎゅっと目を瞑ると、杯を傾けて中の液体を飲み干す。

 口の中が、ドロリと生暖かいものでいっぱいになる。
 しょっぱいような、金臭いような、生臭い匂いがいっぱいに広がって気持ち悪い。

 でも、これを飲み込まんと……。

 吐き出しそうになるのを必死にこらえて飲み込む。

 ……なんや?
 わかる……あたしの中で、たった今飲み込んだそれが動いとるのがわかる。
 喉からお腹の中に入ってきたそれが、どんどん熱くなっていく。
 まるで、生き物みたいに動き回って、あたしの体に、血管の中に染みこんでいく。

 そしてそれが、あたしの血と混ざりあって……そして…そして……全身の血が……沸騰する!

「ううっ!うあああああっ!」

 一瞬、目の前が真っ赤になって何も見えなくなる。

「……う……な、なんや?」

 それもすぐに収まり、また目が見えるようになった。

 そして、あたしの目に映ったのは……。

「……あ」

 あたしのすぐ前で笑みを浮かべている人。

 その人を見ているだけで、全身の血がざわつく。
 あたしはこの人のものになったんやって、そう言うとる。

 じっと見つめとると、胸がどきどきして息苦しくなってくる。

「あ……はぁ、はぁ……」

 だめ、胸が弾けそうで息が荒くなる。
 体が火照って熱い。
 この人のんが欲しい……。

 ええと、この人は……。
 この人の名前は……。

 そうや。

「……サトル、様?」

 さっき、由那ちゃんもそう呼んどった。
 それに、友加里ちゃんも沙友里さんもそう呼んどる。

 だから、そう呼ばなあかんのや。

「なんや?律子?」

 え?律子……て、そう呼んでくれはるの?

「あたしのこと、名前で呼んでくれはるんですか?」
「もちろんや。おまえはもう俺の巫女なんやからな」
「あ、ありがとうございます……サトル様……」

 気がつくと、あたしはサトル様に抱きついていた。

 あ……なんであたし泣いとるんやろ?
 こんなに嬉しいのに、なんで?

「ところで律子」
「……はい?」
「おまえは俺にして欲しいことがあったんと違うか?」
「あっ」

 そうや!
 あたしも由那ちゃんみたいにいっぱい気持ちようして欲しかったんや。

「ククク……おまえのももに当たっとるそれを見てみるんや」

 そういえば、さっっきからふとももに堅いものが当たっとる。
 サトル様の袴の下に……。

「あ……」

 サトル様の袴を持ち上げて、あたしはそのまま言葉を失ってしまった。

 これが、男の人のおちんちん?
 こんなに大きいものやったんや!

 初めて見る男の人のそれは、ものすごく太くて大きかった。

 これ、ホンマにアソコの中に入るのん?

 無意識のうちに、あたしは手を伸ばしてサトル様のおちんちんを握っていた。

 すごい……堅くて熱くて、あたしの手の中でどくどくんしとる。
 こんなに大きくて堅くて熱いのがアソコの中に入ったら、あたし、どうなってまうんやろ?
 ……でも、入れたい。入れて欲しい。

「ああ……サトル様のおちんちんをあたしに……どうかあたしのアソコに入れてください」

 それを握ってさすっているうちに、どうしようもなくいやらしい気分になってきて、あたしはサトル様にそうお願いしていた。

「ああ、ええで。ほなら、服を脱ぐんや、律子。おまえの裸を見てみたい」
「はい……はいっ」

 サトル様に言われるまま、あたしは服を脱ぐ。
 気が急いてブラウスのボタンがうまく外れないのがもどかしい。

「……どうですか、サトル様」

 服も下着も全部脱ぐと、あたしは生まれたままの姿をサトル様に見せる。

「うん、きれいやで、律子。ええ体しとる」
「あ……ありがとうございます!」

 サトル様に褒めてもらった。
 それでまた、涙が出そうになる。

「ほなら、おまえに入れてやろう。こっちに来るんや」

 サトル様が胡座をかくと、あたしを迎え入れるように両手を広げた。

 もう、すっかり舞い上がっているあたしは、胸を高鳴らせてサトル様の方に進み出る。

「ほら、自分で入れるんや」
「はい」

 少し腰をかがめてサトル様のおちんちんを手に取り、アソコに宛がうとあたしはそのまま腰を沈めた。

「んぐぐっ!ぐうううううううううっ!」

 体が裂けるんじゃないかと思うくらいにアソコを押し広げて、サトル様のおちんちんが入ってくる。

 ……こ、こんなに奥まで入って来るんや!
 まるで、喉の奥の方まで来とるみたいやん。
 お腹の中がいっぱいになって、息が詰まる。

「苦しいか、律子?」
「ぐうっ……は、はい……少し。でも、大丈夫です……んぐっ、ぐくうぅ……」

 苦しくて、息がうまくできへん。
 でも、それ以上に嬉しく感じる。

 そうや、初めてやから、ちょっと苦しいだけ。
 あたしはこれが欲しかったんやから。

 あたしの中いっぱいに、サトル様の堅くて大きいのが入っとる。
 これ、動いたらどうなるんやろか?

「んぐぐぐ……ぐうっ、くああああああああああああっ!」

 あたし、一回腰を動かしただけでイってもうた……。
 だって……サトル様の、大きいから、中でいっぱいに擦れるんやもん。
 さっきまでアソコに入っとった偽物とは全然違う。

 でも、今のでいっぺんに体が熱くなって、もっと欲しいって思ってまう。
 苦しかったのが、だんだん気持ちええのだけになってくる。

「んくうううううっ!あっ、くあああああっ!ああっ、ふああああっ!」

 あかん、これ、気持ちよすぎて止められへん。
 サトル様の、大きくて堅くて、熱くて、あたしの中で暴れ回って擦っとる!

「んぐっ、あっ、ふああっ!ああっ、サトル様あぁ!あうんっ!」

 もっと、もっとサトル様のおちんちんでアソコの中、擦って欲しい、もっと突いて欲しい。

「あああっ、んくううっ!はあっ、ああんっ!あふっ、んぐぐっ……」

 あ……れ?気持ちよすぎて、体に力が入らへん。
 頭がくらくらして、なんも考えられへんようになってくる。

「んくうううう!?あああああああああっ!」

 …………!
 サトル様がっ、下から突き上げてきてっ、今っ、意識が飛んだ!?
 まだっ、そんなに奥まで入ってくるのん?
 今、間違いなく子宮の一番奥まで当たっとったで!

「んぐううううううううっ!」

 ああっ、またぁっ!

「ふぐううううううううっ!んくううううううううっ!」

 ふあああっ!気持ちええ!
 気持ちええっ……けど、気が、遠くなる……!

「ふあああああああっ!あんっ、あふううううううんっ!」

 ……ああ、目の前が真っ白に……なる。
 なんも……なんも考えられへん。
 気持ちええことしか、もう、考えられへん……。

「……ん……んんっ」
「あ、友加里ちゃん、沙友里さん!律ちゃん、目が覚めたみたいやで」

 気がついたら、由那ちゃんの顔があたしを覗き込んでいた。
 その両脇には、友加里ちゃんも沙友里さんもいる。

「……由那ちゃん?」
「ん?どうしたんや、律ちゃん?」
「由那ちゃん、ずるいで!自分ばっかりさっさとサトル様の巫女になってからに!」
「ええっ?律ちゃん?」
「あたしが、どんだけ情けない思いしとったかわかっとんの?それに、あたしがどんだけ由那ちゃんのこと心配しとったか!」
「うん、ごめんな、律ちゃん」
「由那ちゃんったら、いつサトル様の巫女になったん?」
「あんな、あの次の日やねん」
「……て、あたしが電話した日!?」
「うん。あの時にはもうサトル様の巫女になるって心は決まっとったんや」
「そ、そんなぁ……」
「ホンマにごめんな、律ちゃん」
「あ、あの時のごめんってそういう意味やったん!?」

 あまりのことに憮然としているあたしの前で、由那ちゃんは申し訳なさそうにもじもじとしていた。

「ほらほら、由那ちゃんをあんまり責めたらあかんで」
「え?友加里ちゃん?」
「私たちはみんな、サトル様にお仕えする仲間や。巫女同士で嫉妬ややっかみなんてみっともないだけやで」
「友加里ちゃん……」

 友加里ちゃんに言われたことはもっともで、あたしはシュンとしおれてしまう。

「なに言うとんの。友加里かて私がサトル様のところに住み込むって言うた時はぶつぶつ文句言うてたやないの」
「もう、お姉ちゃんったら!それとこれとは話が別やろ」
「一緒や。……はい、律子ちゃん、これ」

 そう言って、沙友里さんがあたしに差し出したもの。

「沙友里さん、これって?」
「そうや、あなたの巫女装束や」
「あたしの!?ホンマですか!?」

 あたしも、巫女さんの着物もらえるんや!
 そのことが嬉しくて、由那ちゃんをなじってたことはすっかり吹っ飛んでしまった。

「ほなら、私が教えたるさかいに、これ、着てみようか」
「はいっ!」

 気づけば、あたしは裸のままやったけどそんなことはもうどうでもよかった。

 沙友里さんに教えてもらいながら、あたしは巫女さんの着物を着ていく。
 こういう着物って着慣れてないからけっこう難しい。

「さあ、できたで。サトル様に見てもらいや」
「はい!……どうですか、サトル様」

 サトル様は、少し離れたところで笑みを浮かべてあたしたちを見ていた。
 その前に行って、あたしは自分の巫女姿を見せる。

「ああ、よう似合うとるで、律子」
「ありがとうございます!」
「これで、律子ちゃんも私たちの仲間や」
「歓迎するわ、律子ちゃん」
「友加里ちゃん、沙友里さん……」
「律ちゃん……抜け駆けして、ホンマにごめんな」
「ううん、もうええねん、由那ちゃん」

 まだ申し訳なさそうにしてる由那ちゃんに、笑顔で応える。

 由那ちゃんと、友加里ちゃんと、沙友里さんとあたし。
 みんな、おそろいの巫女姿。
 そして、サトル様がいる……。

 その日、あたしはサトル様の巫女になった。
 みんなの笑顔に囲まれて、あたしは、言いようのない幸福感に包まれていた。

* * *

「じゃあ、出かけてくるわ。今日は遅うなるから」
「あいよ。気をつけるんやで」
「わかっとるって!」

 あたしがサトル様の巫女になって1ヶ月半が過ぎた。
 土曜日の朝、あたしは元気よく家を出ると電車に飛び乗る。

 サトル様の巫女になってから、あたしばっかりみんなの足を引っ張ってきた。
 沙友里さんはサトル様の屋敷に住み込んでるし、友加里ちゃんも由那ちゃんも京都に住んでるのに、あたしだけ大阪で少し離れている。
 そのせいで、あたしの巫女修行はなかなかはかどらなかった。
 術の修行は家でも少しは練習ができたけど、時間がなかなかとれないせいで、サトル様に精気を捧げて、サトル様の精を充分に受けることができなくて、あたしの体に必要なだけの魔力と精気が備わるのには少し時間がかかってしまった。

 でも、そんなもどかしさも昨日まで。

 昨日、サトル様に教えてもらった傀儡の呪符をおとんとおかんに仕込んだ。
 これで、おとんもおかんもあたしの言いなりだ。
 少しくらい遅くなっても、もう、文句を言われることはない。

 これからは、学校が終わってからでもサトル様のところに行って精気を捧げることができる。
 なにより、サトル様とあたしたちにとって一番大切な呪法を行うことができる。

 四条で電車を降りると、あたしは真っ直ぐ目的地に向かう。

 そして、あたしは暗闇図子に入る角を曲がった。
 サトル様の巫女になったあたしに対して、この通りが閉ざされることはもう二度とない。
 あたしは、いつでも、どんな時でもここに入ることができる。

 まだ、残暑の厳しい季節やけど、暗闇図子は薄暗くてひんやりとしている。
 この、全体が靄で霞むような陰湿な空気も、建物の向こうで蠢く闇の気配も、全てが今のあたしには心地いい。

「あっ、おはようございます、由紀子さん!」

 神社の門前を掃いていた由紀子さんに元気よく挨拶をする。

 この人は、サトル様の今の体を生んだ方で、巫女としてのあたしたちの大先輩だ。

「あら、今日は早いのね、律子ちゃん」
「はい!だって今日から呪法が始まるんやもの!」
「ああ、じゃあいよいよなのね。がんばってね、律子ちゃん」
「はい!ありがとうございます!」

 由紀子さんに軽く会釈すると、鳥居をくぐって、まずはサトル様の屋敷に向かう。

 中に入って、あたしに宛がわれた部屋に行く。
 ここは、高校を卒業してここで住み込むようになったらあたしの寝室になる予定だ。
 もう、沙友里さんはここに住み込んでサトル様のお世話をしている。
 あたしも由那ちゃんも友加里ちゃんも、卒業したらここに住み込むと決めていた。

 部屋で荷物を降ろして、自分の巫女装束を着る。
 そして、渡り廊下を駆けるようにして社殿に向かった。

「ただいま到着しました、サトル様!」

 社殿の中では、もう呪法の配置はできていた。

 三方の隅に、巫女姿の沙友里さん、友加里ちゃん、由那ちゃんが座っている。
 そして、中央に神主姿のサトル様がいた。

「揃ったな。律子も自分の位置に着くんや」
「はい」

 あたしは、残った一方の隅に座る。

「じゃあ、早速始めるで。やり方は教えた通りや」
「「「「はいっ!」」」」

 あたしたち、4人の巫女が一斉に返事をする。
 今日が初めてだから、みんな少し表情が硬い。

 あたしたちは、それぞれ決められた印を結び、呪文を唱え始める。
 すると、中央で呪文を唱えているサトル様にあたしの精気と魔力が注がれていくのを感じる。

 ……これ、けっこうきついやんか。

 サトル様に精気を捧げるときほどではないけど、かなりの量の精気を吸われる。
 これを1日に四刻だから、2時間も続けるとなると相当な量の精気を消耗するに違いない。
 それに、魔力の消費量も簡単な術を使う時の比やない。

 でも、泣き言なんか言うとる暇はない。

 これは、あたしたち巫女の悲願なんやから。

 あと、100年ほど呪法を続けたら封印が解けてサトル様の本当の体が解放される。
 きっと、あたしたちの生きてる間は無理やろう。

 でも、次の世代には……。

 いずれ、あたしたちの誰かがサトル様の子供を産むことになる。
 今はまだ、あたしたちの体が鬼の子を孕む準備ができていないから無理やけど、このままサトル様の精を受け続けていたら体が変化して必ず子供を産めるようになるってサトル様は仰ってた。
 だから、早ければあたしたちの子供か、遅くてもその孫の時にはきっと。

 きっと大丈夫や。
 沙友里さんがいて、友加里ちゃんがいて、由那ちゃんがいる。
 この仲間なら、きっと次の世代に引き継ぐことができる。

 いつの日か、サトル様の封印が解ける日のことを夢見て、あたしは呪文を唱え続けた。

< 京都編 終 >

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