ツインズ! 第6話

第6話 女子会へようこそ

 亜希、明日菜、羽実の順に交代で、しかも妹としてうちにお泊まりするという、わけのわからない出来事があって、そして、ようやく今日は日曜日。

「空ー!陸ー!羽実ちゃんたちが来たわよー!」

 お昼ご飯を食べて、さあ、これから何をしようかと考えていた昼下がりにインターホンが鳴ったかと思うと、玄関から母さんの声が聞こえてきた。

「はいはい~!」

 空が小走りに玄関の方に駆けていく。

 あれ?これって、この間……。
 たしか、羽実が空になってたときに日曜にみんなで遊ぼうって行ってたけど、空のやつ、あれを覚えてたのか……。

 そんなことを考えながら、僕も空の後から玄関の方に向かう。

「……そういえば、水泳部の練習は?」

 玄関先に亜希の姿があるのを見て、ふとそんな疑問が浮かんだ。

「ああ。日曜は午前中だけなのよ」
「へぇ、そうだったんだ……」

 昔からそうなんだけど、特に高校に入ってから亜希は水泳部の練習の時間が増えたみたいで、うちに遊びに来る頻度は以前より減っていた。
 もちろん、だからといって疎遠になったわけじゃないけど。
 でも、たしか去年は、部活が忙しいからって日曜もほとんど来なかった時期があったから。

「これ、私が焼いたクッキーです!おばさんたちも食べてくださいね!」
「まあ、いつもありがとうね、明日菜ちゃん」

 僕たちの横では、明日菜が母さんに包みを渡していた。

 料理好きの明日菜は、うちに遊びに来るときにはいっつも手作りのお菓子を持ってくる。
 それも、自分たちが食べる分だけじゃなくて、母さんや父さんの分まで。
 お調子者すぎるのが玉にキズだけど、そういうところには気を遣ったりするやつだよな。

「こんにちは、陸くん」
「うん」

 靴を脱いで上がってきた羽実が、ニコッと笑ってくる。

 今日の羽実は、白いブラウスにボーダーのレギンスと、膝くらいまでの丈の茶色のジャンパースカートっていう格好だった。
 頭に、ピンクのリボンの付いた帽子がちょこんと乗っている。

 やっぱり、羽実って可愛いよな……。

 もちろん、前から可愛いとは思っていたけど、あのことがあってから余計にそう感じる気がする。

「よく考えたら、ここに来るのってけっこう久しぶりかも」
「そうだね。前に来たのは春休みだったもんね」
「そうかぁ、そうだね」

 亜希たちが、口々にそんなことを言っている。

 て、いやいや、3人とも、つい最近うちに来てたんだけど。
 それも、泊まっていったんだけどなぁ……。

 3人とも、本当にあの時のことは覚えてないみたいだった。

「おっと!陸はそこまでね!」

 と、いきなり空が僕たちの間に割り込んできた。

「そこまでってなんだよ、空?」
「今日は女子会よ!女の子だけでいいことするの!」
「はい?」

 女子会って……。
 わざわざ言うほどのこと?
 だって、別に羽実たちが遊びに来たからって、いっつも僕も混ざってるわけじゃないし、それは、女の子同士でしか盛り上がらないことだってあるだろうし。

 心配なのは、ここ最近の空の行動を考えると、また何か変なことを考えてるんじゃないかってことだけど。

「ん~?女の子だけでいいことって?なんか特別なことでもやるの、空?」
「えっ、なになに!?私聞いてないけど、なんかあるの!?」
「へへへっ、それは上がってからのお楽しみ。さ、じゃあ、あたしの部屋行こうか!」
「うん……ごめんね、陸くん」
「ううん、いいんだよ、僕は別に」

 すまなそうにしてる羽実に手を振ると、みんなの後ろから僕も2階に上がって、自分の部屋に入る。

 まあ、いいけどね。

 ……ゲームでもするかな。

 部屋に戻ると、とりあえずゲームでもして過ごすことにする。
 なんていうか、さっきの空の様子が何か企んでるみたいで気になるといえば気になるんだけど……。

 そんな感じで、ゲームにもあんまり集中できずにいること30分ほど。

「陸~、入っていい?」

 ノックもなしにドアが開くと、空たちが中に入ってきた。

「へへへっ、やっぱり来ちゃった」
「来ちゃった……て、今日は女子会じゃなかったの?」
「うん。まあ、陸は名誉女子会員だから」
「……は?」

 ……名誉女子会員?
 なに、それ?

「陸ったら、なんて顔してるの?陸もあたしたちの中に入れてあげるってことよ」
「……へ?」

 て、亜希、それはいいんだけど、それっていつも遊んでるのとどう違うの?

「もうっ、女の子だけのお楽しみに陸も入れてあげようって言ってるんじゃないの!」
「……ほ?」

 いや、明日菜……でも、僕が入ったら女の子だけのお楽しみにならないんじゃないの?

「ね?みんなああ言ってるし、陸くんも仲間に入ろうよ」
「いや……それはいいんだけど、女の子だけのお楽しみって、そもそも何をするのさ?」

 羽実にそう言ってもらえるのはいいんだけど、何をするのかが全然わからないよ。

 と、その時、空がすっと進み出てきた。

「それは決まってるわ!恋バナよ!」
「…………なんだって?」
「もうっ、ノリが悪いわね!コ・イ・バ・ナ!恋愛トークに決まってるじゃないの!」

 そう言うと、空はふふんと胸を張ったのだった。

* * *

 そんなわけで、母さんが持ってきてくれた冷たいお茶と、明日菜の持ってきたお菓子を囲んで車座になってる僕たち。

 ……て、女の子たちが集まってするのが恋愛トークって決まってるなんて初耳だけど。

「じゃあ、始めよっか!みんな正直に答えてね!この中で、つきあったことがある人手を挙げて!」

 と、まずは空の大きな声が響く。

 そもそも、なんで空が仕切ってるんだよ?

「この中で、男の子とつきあったことがある人!あ、陸の場合は女の子とね!」

 わざわざ言い直すなんて、まったく、いやみったらしいたらありゃしない。

 僕が今まで誰ともつきあったことがないのを知ってるくせに。
 ていうか、空こそ誰かとつきあったことがあるなんて聞いたことないんだけど。
 まあ、それを言ったら他の3人もそんな話を聞いたことないし。

 ……て、え?
 えええっ!?

「そ、そんなっ!?」
「うそ!?」
「亜希!?」
「本当にっ!?」

 5人の中でたったひとり、亜希が手を挙げた。
 僕はもちろん、他の全員の反応を見ても、誰もそのことを知らなかったっぽいのがわかる。

「ちょちょちょっ、亜希、だ、誰と誰と!?」

 いや、驚きすぎだろ、明日菜。
 まあ、僕もけっこう驚いてるけど。

「うん……水泳部の先輩とね……」

 顔を赤らめて、少し照れくさそうに答える亜希。

「そ、そんな……全然気がつかなかったわ」
「うん、ほら、みんな部活してないし、授業終わったらすぐ帰るでしょ。あたしは練習が終わってから一緒に帰ったり、日曜の練習の後、午後にデートとかしてたから」

 ……ああ、だからか。
 それで、去年は日曜もほとんどうちに遊びに来ることはなかったんだな。
 でも、今日うちに来てるってことは……?

「ねっ、ねっ、その人とはまだつきあってるの!?」

 勢い込んで尋ねる明日菜の言葉に、亜希が苦笑いを浮かべた。

「……ううん。半年と少しほどつきあってたけど、今年になってから別れちゃったの」
「あちゃ、私、まずいこと聞いちゃった?」
「ううん、いいの。あたしの方から振ったんだし」
「へぇ、そうなんだ……?」
「その人、自由形で泳ぐのがすごく早くて、憧れの先輩だったんだけど。でも、実際につきあってみるとデリカシーに欠けるところがあるっていうか、良くも悪くも体育バカで、がさつな人だったんだよね」
「そう言う亜希だって、どっちかっていうとがさつな方じゃないの?」
「うるさい。……でね、そんな人だからケンカになることも多くてね。それも、いつも向こうは絶対に謝らないから、最後にはあたしの方がキレちゃってそれっきり」
「ふーん、そうだったんだ」
「でも、それって気まずくない?亜希ちゃんとその先輩、部活で顔を合わせるんでしょ?」
「まあね。でも、この夏の大会が終わったら向こうは引退だし。もう顔を合わせることもなくなるわよ」

 と、むしろ、サバサバした表情でいう亜希。
 そういうのを引きずってないところは亜希らしいとは思うけど。

 でも、やっぱり亜希も傷ついたんじゃないかな……。

 この間、亜希の女の子っぽいところを垣間見ただけに、ついそんなことを考えてしまう。

「やっぱりよそうよ、この話」
「ふふっ、気にしなくていいよ、陸」
「でも……」
「ありがと、陸。まあ、あの人に陸の10分の1くらいの優しさとデリカシーがあったら別れてなかったかもしれないけどね」
「ふーん……。じゃあさっ、陸なんか彼氏にどう?」

 おい、なに言ってるんだよ、明日菜?

「陸?でもねぇ……陸って、スポーツ全般に興味ないでしょ」
「う、うん……」
「あたしは、自分がずっと水泳やってきたせいもあるんだけど、彼氏とスポーツ観戦とか行きたいのよね。だから、ごめんね、陸」
「いや、いいよ、そんなこと」

 まあ、確かに僕と亜希じゃ共通の好みってあんまりないからね。
 亜希はいいやつだし、幼馴染みとして、友達としてはいいけど、それ以上にはならないだろうなと僕も思う。

 そういえば、空が初めて僕たちの前で催眠術を使ったときに、亜希に迫られたことがあったっけ。
 あの時だって、ドキドキするっていうよりは、むしろ困ったな、て思ったし。

「それにしても、つきあったことがあるのが亜希だけとはねー」
「ねぇねぇ、それって、どっちから告白したの?」
「あ、それは向こうの方。その頃はまだその人、あたしにとっては憧れの先輩だったからね、ちょっといいかなって思ったの」

 そう言うと、嘆息するようにため息をつく亜希。
 その様子を見ると、相当嫌な別れ方をしたんだろうな……。

「ふうん、なるほどねぇ。いろいろあるんだぁ……。ね、みんなはさ、告白するのとされるのとどっちがいい?」

 さっきまで黙って明日菜と亜希の会話を聞いていた空が、そう尋ねてくる。

 で、まず口を開いたのは明日菜だった。

「私は告白する方!だって、いいなって思ったら自分からいかないと絶対に損だもん!」

 うん、いかにも明日菜らしい答えだよな。

「で、今までいいなって思った相手はいたの?」
「全っ然!」

 ……いや、ダメじゃん。
 なに胸張ってんだよ、おまえは?

「でも、そう思うだけでもすごいよね、明日菜ちゃんは。私は、自分から告白するなんて絶対に無理」

 と、感心した様子の羽実。

「羽実ったらなに言ってんのよ?そんなこと言ってるといい男逃しちゃうよ!」
「でも……やっぱり恥ずかしいし、きっと私には無理だよ」
「もうー、羽実はもうちょっと積極的にならないとー」
「ふふっ、でも、羽実らしいけどね」

 うん、亜希の言うとおりだ。
 いかにも羽実らしくて僕はいいと思うけどな。

「で、告白された経験のある亜希としてはどうなの?」
「んー、あたしはどっちでもいいかな?」
「へ?なによ、それ?」
「あ、どっちでもいいっていうか、どっちもありなんじゃないかなって。だって、告白してくる相手があたしのタイプばかりとは限らないし、いいなって思っても、本当にいい人かどうかはつきあってみないとわからないじゃない。それに、もし、本当にいい人に会って、すごく好きになったらあたしの方から告白するかもしれないし。それは、その時になってみないとわからないわよ」
「へえー、なるほどねぇ」
「亜希ちゃん、なんか大人ー」

 亜希の返事に、明日菜と羽実が感嘆の声を上げる。
 でも、たしかに亜希らしいよな、そういうの。

 明日菜、羽実、亜希、3人とも答えは全然違うけど、いかにもそれらしい答えだった。

「あとは……そうだ、陸!」
「へ?」
「あんたはどうなのよ!?」

 いきなり、空がこっちに身を乗り出してきた。

「うーん……向こうから告白してきたら嬉しいかな……」
「なによそれは?つまり、自分からは告白しないってこと?」
「まあ、恥ずかしいっていうか、照れくさいっていうか……」

 空に問い詰められてそう答えながら。ちらっと羽実の方を見る。

 あ、でも、羽実は自分から告白するのは無理だって言ってたよな……。
 ……じゃあ、僕の方から?

 と、そんな僕と空のやりとりを聞いていた亜希と明日菜が苦笑を浮かべる。

「ふふっ、まあ、それも陸らしいっていうかなんていうか……」
「でも、ちょっと情けないよねー」
「ちょっと、明日菜ちゃん……」
「いや、明日菜の言うとおりだわ!男なんだから、陸はもっとしっかりしてないと!好きな子には自分から告白するくらい男らしくないとダメよ!」

 と、空が明日菜の感想に乗っかってくる。
 て、なに偉そうに言ってるんだよ、おまえは?

「じゃあ、そう言う空はどうなのさ?」
「へ?あたし?」
「ああ。空は、好きになった相手にはどうするんだよ?」
「そうねぇ……うーん、あたしも自分からは告白できないかな……」

 僕の言葉に、少し考えながらそう答える空。

 て、おい!
 なにらしくないこと言ってるんだよ!?
 それこそ、好きになった相手は何をしてでも自分のものにしそうな感じなのに。
 そもそも、僕にあれだけ偉そうに言っといてそれかよ?

「なんだよ、それは!?」
「へえー、空でもそういうのは恥ずかしいんだー」
「うん、あたしもちょっと意外だな」
「んー、恥ずかしいとか、そういうんじゃなくて。……えっとね、告白できないっていうか、したらいけないって感じ?」

 は?なにそれ?

「……空?」
「告白したらいけないって?」
「どういうことなの?」

 ほら、亜希も明日菜も、もちろん羽実もわけがわからないって顔してるじゃないか。

「いやね、好きになった相手に自分から告白したら、軽い女に見られちゃうかもって思って。だから、絶対にあたしからは告白しないの。その代わり、好きになった相手をあたしに惚れさせて、向こうから告白してくるようにするのよ!」

 ああ、なるほど。
 そのために催眠術を覚えたのか。

 ……て、違うだろ!
 なに言ってるんだよ、おまえは?

 ほら、みんなもポカンってしてる。

「空ちゃん……?」
「……空、あんた、恋愛小説の読みすぎじゃない?」
「……ていうかそれって、私が軽い女だって言いたいのー!?」
「やっ、ゴメンゴメン明日菜!そんなつもりで言ったんじゃないのよ~!きゃはははっ!」

 明日菜にポカポカと叩かれて笑い声を上げる空。
 もちろん、ふざけ合ってるだけだけど。

 まあでも、かなり軽いよな、明日菜は。

「もうっ、空ったら!」
「ゴメンゴメン。でもさ、実際、この中で相手に告白するって答えたのは明日菜だけだし、告白するかもしれないのを入れても亜希とふたりでしょ。で、ふたりは誰かに告白したことあるの?」
「だから、ないってば」
「あたしもないわね」

 空の質問に、首を横に振る明日菜と亜希。

「じゃあさ、反対にこの中で告白されたことがある人は?」

 という空の質問に、亜希が手を挙げる。
 まあ、その話はさっき聞いたけど。

 ……て、えええええっ!?

 亜希に続いて、質問した当の空が手を挙げたのにはさすがにビックリしてしまった。

 ていうか、やっぱり告白されたことがあるんだ、あいつ。

「へえぇ……亜希だけじゃなくて空も?」
「ホントなの?空ちゃん?」
「うん、今まで、5回くらいね」

 しかも、そんなにかよ?
 全然気がつかなかった。

「でも、さっき手を挙げなかったってことは、空はつきあったことはないのよね?」
「うん。全部断ったから」
「どうして?」
「だって、あたしの好みじゃなかったんだもん」

 好みじゃないって、ミもフタもないなぁ……。

「空……さっきあんた、好きな相手を自分に惚れさせて、向こうから告白させるって言ってなかった?」
「だって、そんなにうまくいくわけないじゃない!あたしの好みじゃない相手が勝手に惚れて、勝手に告白してきたんだもん、しかたないじゃないの!」

 ……いや、おまえの言ってることが勝手だっての。

 明日菜に対する空の返答を聞きながら胸の内でつっこんでいると、いきなり空がこっちを指さした。

「それよりも、陸!最初に、正直に答えてって言ったでしょ!」
「はい?」
「陸だって告白されたことあるでしょ!?」

 ああっ!空っ、おまえっ!

「そうなの!?」
「そーよっ!あたし、知ってるんだから!」

 ああもう、こいつは……。
 はいはい、ありますよ。
 おまえに催眠術かけられて僕に告白してきた子が、両手の指の数じゃ足りないくらい。

 ていうか、全部おまえのせいだろ!?

「本当なの、陸?」
「うん、まあ……」
「へえぇ、何回くらい?」
「10……は超えてるかなぁ……」
「そんなに!?」
「すごい、陸くん……」

 いや、そんなに驚かないでよ、羽実。
 これには事情があるんだから。

 羽実に、僕がプレイボーイみたいに思われたりしたら嫌だな。

「やだっ!陸ったらプレイボーイみたい!」

 だから、やめろよなっ、明日菜!

「あれ?でも、さっき、つきあったことがあるかどうか空ちゃんが訊いた時……」
「そうか、陸は手を挙げてなかったわよね」
「ていうことは、もしかしてっ、陸!?」
「……うん、全部断った」
「どどどっ、どうして!?」

 いや、明日菜……だから、驚きすぎだって。

 でも、本当のことなんか言えるわけがないよ。
 みんな、空の催眠術に掛かって僕のことを好きになって告白してきてたから断りました、なんて。

「うん、まあ、ちょっと……」
「まさか、空みたいに好みじゃないからとかっ!?」
「まあね……」

 そう言ってごまかすしかないけど、それはそれで僕のイメージが悪くなるような気がする。

「好みじゃないって、10人以上から告白されてるのに、ひとりも好みの子がいなかったの?」

 だから、そこをそれ以上追求しないでよ、亜希……。

「うん、まあ……」
「うわー、陸ったらどんだけ好みにうるさいのよ?」
「そうよね。あたしたちだからまあいいけど、自分から告白するのは嫌で、向こうから告白してきたら好みじゃないなんて、他の子が聞いたら何様?って感じよね」

 ほらぁ、やっぱり僕のイメージが悪くなってる。

「明日菜ちゃんも亜希ちゃんも、そんなこと言ったら陸くんに悪いよ」

 あ、ありがとう、羽実。
 そう言ってくれるのは羽実だけだよ。

「でもさ、実際のところ、陸の好みのタイプってどんな子なの?」
「えっ?それは……」

 亜希にそう言われて、つい羽実の方を見そうになる。
 でも、見たらばれそうだから我慢我慢……。

「そーよね!それだけの告白を断ってきた陸の好みを聞いてみたいよね!」

 明日菜……おまえ、ただの野次馬根性だろ。

「ねっ、教えてよ、陸。せっかくの女子会なんだし」
「んー、あたしもちょっと気になるかな。陸がそんなに理想が高かったなんてちょっと意外だし」

 だから、僕がいたら女子会じゃないだろうが。
 なんか、明日菜も、それに珍しく亜希もすっかりゴシップモードになってるよな。
 これが、女の子同士のおしゃべりのノリなのかな?

「ほらほら、陸、私たちは誰にも言わないからさ」
「もう、しかたないな……。ひと言で言うと、かわいい子、かな」
「ちょっとー、ひと言で言いすぎだってばー!もうちょっと詳しく教えてよー!」
「なんだよ、もう……おとなしくて、かわいらしい感じがして、一緒にするとホッとするような、それでいて少しおっちょこちょいなところもあって、ほっとけないっていうか、守ってあげたくなるような感じの子」

 羽実のことを考えながら言葉を選んでいく。
 ていうか、これってすごく恥ずかしいじゃんか。
 なんか、羽実のことを想像して言葉を並べるだけで、顔が熱くなってくるんだけど。

「……へ?それだけ?」

 それだけってなんだよ、明日菜?

「まあ、陸らしいっていえば陸らしいわね」
「そうだね、なんか、陸くんらしいよね」
「でもさー、そういう子ってけっこういそうじゃない。そんなに難しい条件かなー?例えばさ、この中だったら羽実とかそうじゃない?」
「おいっ!」
「ちょっと、明日菜ちゃん!」

 そそそっ、そうだよ!なに言ってんだよ、明日菜!

 明日菜の言葉に、僕と羽実の腰が同時に浮いた。
 ていうか、羽実ったら顔が真っ赤だよ

「なにふたりとも顔真っ赤にしてんの?」
「そ、それはっ……」
「もうっ!明日菜ちゃんったら、からかわないでよ!」
「でも、さっき陸が言ったのって、そのまま羽実に当てはまるじゃない」
「そんなぁ。私はおっちょこちょいじゃないもん」

 いやいや、羽実……。
 本人は気付いてないのかな?
 けっこう天然の入ったドジッ子なところがあるのを、ついこの間見せてもらったんだけど。

「そう?でも、羽実ってちょっと抜けてる時があるよね」
「あ、ひどーい」
「でも、あたしもなんとなくわかるな。羽実って、時々大事なことを忘れてたりするものね。空もそう思うでしょ?」
「え?あ、うん、そうだよね」

 ん?
 なんか今、空の反応が薄かったけど。
 話聞いてなかったのかな?

 そういえば、さっきから僕たちの会話に入ってきてなかったし。

「どしたの、空?なんか、考え事でもしてたみたいだけど」
「え?いや、たいしたことじゃないわよ。ただ、守ってあげたいなんて、陸も言うようになったな~、て思うと、あたしもなんか感慨もひとしおで」

 いやいやいや、おまえはおまえでどこに食いついてるんだ?
 ていうか、なんつう言い方だよ、それ。
 だいいち、なんでおまえが感慨に浸るんだよ?

「あ、でもたしかにね。陸の口からそんな言葉が出るなんて、あたしも思ってなかったな」

 て、おーい、亜希……。

「うんうん!陸って、守ってもらうっていうか、守ってあげたくなるような感じだもんね」

 いや、明日菜……おまえにそんなことを言われる筋合いはないんだけど。

「なんだよ、もう。じゃあ、おまえらこそどんな相手がタイプなんだよ?」
「えっ、私?」
「そうねぇ……」
「じゃあさ、今度はそれぞれの好みのタイプを言ってみない?あ、陸はさっきのでオッケーね。じゃ、まず、亜希は?」

 僕が亜希たちに訊いたのに乗っかって、また空が仕切り始める。
 そして、返ってきた亜希の答えは。

「あたしはさっきも言ったけど、スポーツが好きな、活動的な人がいいな。でも、がさつなのやバカは嫌。デリカシーがあって、女心もわかってくれるような人ね」
「それってけっこうハードル高くない?スポーツマンで、女心もわかるような人ってなかなかいないよー」
「そうかなぁ?」

 明日菜につっこまれても、亜希は納得がいかないように首を傾げている。
 と、そこに空が割り込んできた。

「もしかして、亜希のお兄さんみたいなタイプじゃない?」
「へ?アニキ?ダメダメ、うちのアニキはチャラすぎるよ。特に、大学入ってからすっかり人間が軽くなっちゃってさ」
「そうかなぁ?スポーツマンでかっこいいし、女の子の扱いも慣れてるって感じだけど」
「だからチャラいんだって、アニキは。ていうか、空、最近どっかでうちのアニキに会ったの?」
「え、あ、いや、あたし、亜希のお兄さんって昔からそんなイメージがあったけどな~」

 亜希に突っ込まれて、空は慌てた様子でごまかそうとする。

 なんだかなぁ。
 空のやつ、この間亜希の家に行って何してきたんだか……。
 ていうか、あまりしゃべると墓穴掘るぞ、あいつ。

「じゃ、じゃあっ、次、明日菜は?」
「え、私?……うーん、私は、面白い人、かなぁ……」

 ちょっと考えてから、明日菜はそう答える。
 て、考えたのにそれだけ?

「面白い人?」
「うん。とにかく、一緒にいるだけで楽しくて、退屈しない人がいいな」

 そう言って、明日菜はへらへらと笑う。

 まあでも、明日菜らしいっちゃらしいよなぁ。

「面白い人ねぇ……たとえば、陸なんかはどうなの?」

 と、空が明日菜に尋ねる。

 だから、なんでいちいち僕が引き合いに出されるんだよ?

「うーん、陸ってちょっと真面目すぎるかな。あ、別につまらないってわけじゃないよ。でも、なんていうか男らしくないし、ちょっと頼りないよねぇ」
「悪かったな、男らしくなくて」

 まったく……おまえ、この間もそう言ってたよな、空と入れ替わってうちに来てたときに。
 まあでも、僕の方もちょっと遠慮したいかな。
 それは、明日菜は悪いやつじゃないし、友達としては面白いやつだし、ちょっとかわいいところもあるけど、でも、あの時の明日菜の暴れっぷりを見たら、あのペースについてくのは大変だと思うよ、ホントに。

 と、明日菜に振り回されたときのことを思い出す僕。

「なんかね、危なっかしくて、いつも見てないといけないかなって感じよねー」
「そこまで頼りなくはないだろ!」
「そうだよ!もう、明日菜ちゃんったら陸くんのことをひどく言いすぎ。私は、陸くんは芯がしっかりしてて頼りになると思うけどな……」

 えっ、羽実、本当に!?
 なんか、羽実にそう言われると無茶苦茶嬉しいんだけど。

 羽実が、明日菜をたしなめるように僕をフォローしてくれた
 それだけで、飛び上がるほどに嬉しくなってくる。

 まさか、あの雷の夜の記憶でも残ってるの?
 ……て、それはないか。

「なに?どうしたの、羽実?珍しく大きな声出して?」
「え?あっ、いやっ、それはっ、明日菜ちゃんが陸くんのことをあんまり頼りないって言うから……」

 明日菜に突っ込まれて、羽実は急に顔を真っ赤にしてあたふたと弁解を始める。

「でも、羽実ったら顔が真っ赤だよ」
「そ、そんなことないよ……」
「いや、赤いよ。ね、亜希、空?」
「うんうん。耳の先まで真っ赤だよね」
「もうっ、亜希ちゃんまで!」
「まあまあ、ふたりともそのくらいにしとこうよ。だったらさ、次は羽実の好きなタイプを聞いてみようよ」

 ……あれ?
 今……明日菜が羽実を軽くからかっていたのに、空はさっさと話を先に進めようとしたよね?
 
 明日菜が羽実をからかうのはじゃれ合ってるようなもんだから、こうやっておしゃべりしてるとよくあることだし、ごくごく軽い感じなんだけど。
 むしろ、それに乗っかって騒ぎを大きくするのがいつもの空の行動パターンなんだけど。
 もしかして、羽実に気を遣ってあげてるのかな?
 いや……でも、そんな感じじゃなかったよな。

「えっ……私の……?」
「そう!次は羽実の番よ!」
「そんなこと言っても、空ちゃん……恥ずかしいよ……」
「ダメダメ!」
「そうだよ、私と亜希は話したんだからね!羽実も話してよー」

 空と明日菜に促されて、羽実は恥ずかしそうにもじもじしている。

「大丈夫よ、羽実。今日の話はあたしたち5人だけの秘密にしとくからさ」

 なんか、そう言うと羽実をフォローしてるようだけど、亜希も聞きたいんだね?
 興味津々って感じの笑みを浮かべてるし。
 なんだかんだ言っても、女の子ってこういう話題が好きなんだな……。

「もう……どうしても言わなくちゃダメ?」
「うん。だって、今日は恋バナの会だもん」
「そうだよねー」
「そうそう。あたしはつきあって別れた話までしたんだから」

 空、明日菜、亜希にそう言われて、羽実は小さくため息をついた。
 そして、恥ずかしそうに下を向いて話し始める。

「……あのね、私は……優しくて、真面目で、私がつらい目に遭ったり心細い思いをしてたりするときにずっと私の側にいてくれるような、そんな人がいいな……」

 いつもよりもっと小さな声で、やっとという感じで羽実がそう言う。

 それを聞いて、僕はあの雷の夜のことを思い出していた。
 あの時の、体を小さくして震えていた羽実の姿を見て、僕は、たしかにずっと守ってあげたいと思った。
 その思いが蘇ってきて、思わず胸が熱くなってくる。

 でも、そんなことを知らない亜希と明日菜の反応は……。

「ねぇ、それって……」
「うん、陸みたいだよね」
「て、おい!」
「ちょっと、明日菜ちゃん!?」
「だって、陸は優しくて真面目なのは間違いないし、何かあったときには側にいてくれそうだし」
「そうよね。あたしだったら側にいるだけじゃなくてもっと力になって、て思うけどね」
「そうそう。私も、陸だったらちょっと頼りないかなって思うけど、羽実はさっき陸は頼りになるって言ってたしね」
「おまえらなぁ!」
「もうっ、明日菜ちゃんも亜希ちゃんもなに言ってるのよ!?」

 明日菜と亜希に好き勝手なことを言われて、羽実が顔を真っ赤にして抗議する。
 そういう僕も顔が熱くなってるんだけど。

「だけどさ、本当に陸がぴったりじゃないの」
「そうだよねー。そういえば、陸のタイプの子も羽実そのまんまだったしねー」
「そうそう。いっそのこと、つきあっちゃえば?」
「ふたりともっ、からかうのはやめろって!」
「いや、からかってないってば。私も、羽実と陸ならいいカップルになるとおもうけどなー」
「もうっ、明日菜ちゃんったら!」

 楽しそう囃し立てる亜希と明日菜に、僕と羽実がムキになって反論していた、その時。

「はいはい!それまでにしようよ~!」

 それまで黙っていた空が、急に割って入ってきた。

「ん?どうしたの、空?」
「もうっ!盛り上がるのはいいけど、あたしの好みの人の話がまだなんだからね!」

 そう言って、拗ねたように唇を尖らせる空。

 ……まただ。
 いつもなら、真っ先に僕らをからかうはずの空がずっと黙ってた。
 それだけじゃなくて、話題を逸らそうとしてるような気がする。

 でも、なんでだろう?

 さっきからの空の態度に、僕はかすかな違和感を覚えていた。
 でも、なにがおかしいのかはよくわからない。

 だけど、そんな僕の疑問をよそに明日菜と空の会話は進んでいた。

「ゴメンゴメン、空。で、空の好みのタイプって、どんな人なの?」
「ん~、あたしの理想のタイプはね、男らしい人」
「男らしい人?」

 男らしい人、ねぇ……。
 そういえば、空のやつ、日頃から僕にも男らしくなれとか、もっとしっかりしろとか言ってるもんなぁ。
 僕がこんな感じだから、その反動なのかな?

「そう、男らしい人。でもね、ただ逞しいとか、しっかりしてるとかじゃなくて、ワイルドっていうか、情熱的っていうか、あたしの気持ちなんか関係なしにキスしてくるような身勝手なくらいに強引な人がいいの」

 と、なんか柄にもなくはにかみながら空はそんなことを言う。

 ていうか、どういうことだよ、それは?
 ほら、亜希も羽実もポカンと口を開けて聞いてるじゃないか。

「へえぇ……」
「空ちゃん、過激……」
「いや、なに言ってんの、おまえ?」
「なによ~、陸にはこの男らしさの良さがわからないの~?」
「わかるかっ!」

 ていうか、常日頃僕に男らしくなれと言ってるのがそういうことなら、絶対にわからないって。
 そんなの、わかりたくもないし。

「あー、でも、私はなんとなくわかるかなー」

 えっ?わかるの、明日菜!?
 だっておまえ、さっき、面白い人がいいって言ってたじゃないか。

「逞しい男の人に強引にアプローチされるのって、ちょっと憧れちゃうよねー」
「でしょ!そういう男の人に荒々しくベッドに押し倒されちゃって初めてを奪われるかも、とか思うとドキドキしちゃうよね!」

 なんか、やたら興奮したようにまくし立ててるけど……。
 いや……ホントになに言ってんの、おまえ?

「ちょっと、空ちゃん……?」
「ねぇ、あたしたちにはわからないわよね」
「ゴメン、それは私も無理だわ」

 ほら見ろ、誰も共感してくれてないじゃないか。
 ていうか、ドン引きって感じ?

「え~!?あたしなんか、ひとりエッチするときはいっつもそういうシーンを想像してるのに~!?」
「おい!なに言ってるんだよ、おまえ!?」

 いきなり、空がとんでもないことを言い出した。
 いやいや、これ以上みんなを引かせるつもりかよ、おまえは?

「だって、女子会なんだからいいじゃないの、このくらい」
「おまえなぁ!」

 だから、僕がいたら女子会じゃないだろ!
 ていうか、女子会でも話題にしていいことと悪ことってのはあるんじゃないか!?
 よりによって、ひとりエッチってどういうことだよ?

 ……あっ、こいつ、わざとだな!
 そういう話をすると僕が困るのをわかってて、それを楽しむためにそんな話してるんだろ!

 ああもう、やっぱりいつも通りじゃないか!
 さっき、いつもと感じが違うなんて心配して損したよ……。

 そう気付いたときにはすでに遅し、だった。
 僕が少々異議を唱えたくらいで空の暴走は止まらなかった。

「だってさ~、気になるじゃない。他の子はどうしてるのかなって。ね、みんなはひとりエッチしてるときになに想像してるの?」
「おいっ、空!」
「え?それは……」
「さすがに、それはちょっとねぇ……」

 だから、話題にしていいことと悪いことがあるだろっての!
 ほら、当たり前だけど、亜希も明日菜も僕の方をちらっと見てそのまま言い淀んでるじゃないか。

 それなのに……。

「もう~、ひとりエッチするときに想像してるシチュくらいなら話したっていいじゃないの~。だって、陸は”名誉女子会員”なんだから」
「あ、それもそうよね」
「そっか……陸は名誉女子会員なんだから、ま、いいか」

 ちょっ……亜希も明日菜もなに言ってんの!?
 ていうか、本当になんなんだよ?”名誉女子会員”って?

「そうそう、なにも気にすることも恥ずかしいこともないって。それに、あたしもみんながどんなシチュを想像してやってるのか知りたいし?」
「もう、空がそこまで言うんならしかたないわね。あたしはね、浜辺でイケメンのスポーツマンと一緒のとこ想像したりするかな……」
「わっ、さすがスイマーの亜希らしい!」

 ポカンとしてる僕をよそに、さっきまで言いにくそうだったのが嘘だったみたいに自分でやるときに想像するシチュを話し始める亜希たち。

「私はね!カレシと冗談言い合いながら、じゃれ合ってるところ想像しちゃうな!」
「カレシって、カレシいないでしょ、明日菜」
「もうっ、亜希ったらそんなこと言わないでよー!想像するくらいしたっていいじゃないの!でね、私は思いっきり彼に甘えちゃってるの、そういうのがおきまりかな?」
「へえ、明日菜ってけっこう甘々なんだ」
「そうなのよー、まあ、空のよりはインパクトないかなー」
「なによー、あたしのってそんなに変なの?」
「いや、変っていうか、過激よね」
「そうそう」
「ええ~!?」

 なに普通のおしゃべりのノリで盛り上がってるんだよ……?
 みんな、自分たちが何の話してるのかわかってる?

 明日菜と亜希と空で勝手に話が盛り上がってるけど、その中に入り込めないのがふたり。
 もちろん僕と、そして、もうひとりは、羽実。
 さっきから、顔を赤らめながら黙ってみんなの話を聞いているだけだ。

 とか思ってる端から、明日菜が羽実に話題を振った。

「そういやさ、羽実はどうなの?」
「えっ!?わ、私!?」
「そうそう。羽実は、ひとりエッチするときはどんなシチュを想像してるの?」
「えと……その……私、やったことがなくて……」

 恥ずかしそうにうつむきながら、そう答える羽実。
 その答えに、僕は思わずホッとしていた。
 なんとなく、そういう話には羽実に加わって欲しくないって思っている自分がいた。

「うそー?羽実ったら自分でやったことないんだー!?」
「やだ……恥ずかしいよ、明日菜ちゃん……」
「まあ、羽実らしいっちゃ羽実らしいけどね」
「うん……それに私……どうやってやるのか、やり方もわからないし……」
「へえぇ……」

 驚いている明日菜と、恥ずかしそうにしている羽実、そして、納得顔の亜希。
 と、そこに空がさらにとんでもない発言をした。

「じゃあさ!やり方を知らない羽実のために、あたしたちでやり方を教えてあげましょうか!」
「はぁ!?空、おまえなぁっ!」
「ええっ!?でも、ここで!?」
「そうよ~!」
「でも……」
「ちょっと、さすがにそれは……」

 一度、僕の方をちらっと見てから、気恥ずかしそうに顔を見合わせる明日菜と亜希。
 まあ、それが普通の反応だと僕も思うけど。

 だけど……。

「大丈夫大丈夫!なんたって、陸は”名誉女子会員”なんだから、今日は女子会なんだし、恥ずかしいことなんかないって!」
「……あ、そうか」
「まあ……それもそうよね」
「って、おい!」
「なに?恥ずかしいの、陸?そんなの気にしなくてもいいよ。今日は女子会なんだから」

 だから!僕がいたら女子会でもなんでもないだろうが!

 ていうか、なんなんだ、さっきから?
 空が、「陸は”名誉女子会員”なんだから」って言うと、みんな恥ずかしそうな反応がコロって180度変わるんだけど?
 明らかに、なんか変だよな……?

 ……あっ、そうか!催眠術!
 空が、催眠術でそうさせてるに違いないんだ!

 きっと、”名誉女子会員”っていうのがキーワードになってて、その言葉を言うと僕はなんていうか、女子扱いみたいになって、男がいると恥ずかしくてできないような話でも平気でできるようにさせてるに違いない!
 ……空のやつ、なんてことしやがるんだ!?
 そうか!だから女子会だって!
 みんなに催眠術をかけるために、最初は僕を除け者にしたんだな!

 ちょっと待てよ……?
 これをこのままほっといたら、羽実へのオナニーレクチャーが始まってしまうってこと!

 だけど、そのことに僕が気づいたときにはもう遅かった。

「……あ、明日菜っ!?」

 気がつけば、僕の目の前で明日菜が服をはだけさせると、ブラをずり上げてそのボリューム満点のおっぱいをさらけ出していた。

「もう、しかたないなぁ。でも、これも羽実のためだもんね。……いい、羽実?私、胸が感じちゃうのよね。だけど、直に揉まれるっていうのよりも、彼とじゃれ合っているうちに、彼の体がおっぱいに強く当たって……あんっ!こう、こんな声が出ちゃうの……んっ、んふう……」

 羽実に説明するように話しながら、自分の乳首を摘まむ明日菜。
 その口から、甘ったるい声が洩れていた。

 ていうか、それって、この間僕に抱きついてたシチュそのまんまだよね?
 ひょっとして、あれって明日菜の理想のエッチシチュだったの?

 て、いやいやいや!?なにやってんだよ、明日菜!?
 う、うわっ!?

 ひとり狼狽えている僕の目の前で、明日菜がスカートをめくって大きく足を広げた。

「でね、私の喘ぎ声に気付いた彼が、笑いながらキスしてきて、そのまま彼の手がアソコに伸びてくるの……」

 丸見えになっている、明日菜のピンク色のパンティー。

 そして、片方の手で乳首をいじったまま、明日菜はもう片方の手を股間に伸ばしていく。

「彼の指がショーツの上からアソコをなぞるとね……んんんっ!こうっ、ビリビリって電気が走るの……んっ、あんっ!」

 明日菜の指が、つつ……とパンティーの上を滑ると、喘ぎ声と一緒にその体が小さく震える。

 ……そうか。
 あの時、明日菜が僕の背中におっぱいを押しつけて喘いでいたときは、こうしてあげるのが正解だったのか。
 ……て、違うだろ!なに考えてるんだよ、僕は!?

 こんなのって、もう女子会でのおしゃべりとか、そんなレベルじゃないだろ!?
 それとも、女の子って、男のいないところだとこんなにいやらしいことで盛り上がったりするの?

 きっと、これも全部空の催眠術のせいなんだから。
 こんなこと、やめさせなくちゃ……。
 やめさせなくちゃいけないのに、だめだ、どうしても見入ってしまうよ……。

「彼にアソコ触られると、すっごく気持ちよくてね、思わず声上げちゃうの。で、私の声を聞くと彼がまたふふって笑って、私の胸に吸いついてきて、そして、彼の指が……はうんっ、きゃふっ!」
「すごい……明日菜ちゃん……」

 明日菜の右手が乳首を摘まんだまま捻って、左手はパンティーの中にもぐり込んで行くと、ビクンッて大きくその体が跳ねる。
 そんな明日菜の姿を、目を丸くして見ている羽実。
 僕も、そんな明日菜から目を離せないでいた。

 すごいや……女の子のオナニーって、こんな感じでやるんだ……。

 当たり前のことだけど、初めて見る女の子のオナニーから視線を逸らすことができない。

「ううっ……!」

 で、これまた当たり前のことだけど、そんな明日菜のいやらしい姿を見ていると、僕の股間のものが元気になってきて、小さく呻くとバレないように前屈みになる。

 そんな僕にはお構いなく、明日菜のオナニーは続いていた。

「でね、だんだん、彼の指が激しくなってきてね、こんな感じで……やんっ、んんんんっ!」

 股間に伸びた腕が突っ張ると、明日菜は甘ったるい喘ぎ声を上げて、また体を震わせる。
 その瞬間、大きく広げた足が床を掻くようにバタッと跳ねた。
 しかも、それをその大きなおっぱいを自分で揉みながらやってるから、すごくいやらしく見える。

 いつの間にか、僕は固唾を呑んで明日菜のオナニーを見つめていた。

「すごい……ひとりエッチってそんな風にやるんだ……」
「羽実、自分でやるのってね、やり方は人それぞれなんだよ。例えば、あたしなんかだとね……」

 明日菜のオナニーをじっと見つめていた羽実も、驚きを隠せない表情でぼそりと呟く。
 と、今度は亜希がそう言って、立ち上がってから穿いていたショートパンツを脱ぎ始めた。

「あたしは、寝る前にベッドの中でやることが多いから、こういう姿勢の方がやりやすいのよ」

 そう言ってショートパンツを脱ぎ捨てると、亜希はパンティー丸出し状態でもう一度座り、ベッドに凭れかかるような楽な姿勢になる。

「でね、ひとりエッチをする時って、やっぱり自分が好きな人を想像しながらの方がいいのよね。羽実が本当に好きな相手でもいいし、好きなタレントとかでもいいしね」

 かいつまんで話すような亜希の言葉に、黙って頷く羽実。

 ……羽実は、誰のことを想像するんだろうか?

 亜希の話を聞きながら、僕は、そんなことが気になっていた。

 もし……もしも僕のことを想像してたら……。

 それは単なる願望にすぎないけど、もしそうだったらと思うと胸がドキドキしてくる。

「それでさ、そういう気分を盛り上げるのには、相手のイメージもそうだけど、そういう場面の雰囲気とか流れとか、そういうのが大事でしょ?だから、ドラマとか映画とかで興奮したシーンを、自分に置き換えて想像してみるのもいいしね。相手を自分の好きな俳優さんとかでイメージしたらドキドキしてくるでしょ?」

 ふーん……。
 女の子って、雰囲気とか流れとかで興奮するんだ。
 そう言うのって、男とは少し違ってるのかもしれないな。

 亜希の話を聞いていると、このとんでもない雰囲気の中で、明日菜のオナニーを見てるだけで自分のムスコが元気になっている自分が我ながら情けなく思えている。
 男って、こんなので簡単に興奮するんだよな……。
 ていうか、目の前で女の子の生オナニーを見て興奮しない男がいたら見てみたいよ。

 で、空の場合はそれが、強引に押し倒されてやられるっての?
 やっぱりどうかしてるよ、あいつ。

 僕がそんなことを考えている間も、亜希の丁寧なレクチャーは続いていた。

「私はね、前にドラマで水泳選手の役をやっていた俳優さんがね、すごいイケメンなのに海パンだけの格好になったときに、とても芸能人には見えない体つきをしててね、この人、日頃から体を鍛えてるんだなぁって思って、気になって見てたら水泳選手の役もぴったりはまっててね。見ているうちにすごいドキドキしちゃって。で、その人がヒロインの女の子と海に行って、夕暮れ時の海辺でキスするシーンがあるんだけど、それがすごい好きでね、ドラマではなかったんだけど、そのキスの後のシーンをいっつも想像しちゃうの」

 そう言うと、亜希はブラウスのボタンを外し始める。
 そのまま、胸元をはだけさせると、淡い緑のブラに包まれた胸が顔を出した。

「キスの後で、彼が、いい?っていう風にあたしの顔を見つめるから、あたしが頷き返すと彼の手が水着の中に入ってくるの……ん、んふ……」

 自分の手をブラの下に滑り込ませると、亜希は目を閉じて悩ましげな吐息を吐く。
 どうやら、気分はすっかり夕暮れ時のビーチにいるみたいだ。

「で、彼に優しく胸をいじられながらもう一度キスするとね、今度はもう片方の手がアソコの方に伸びてきてね……あふっ、んっ!」

 亜希のもう片方の手がパンティーの中に潜り込んでいくと、軽く眉間に皺を寄せてその体が小さく震えた。

 ていうか、それってもうその彼とそういう関係ができあがってる前提じゃん。
 あ、でも、それでいいのか。
 要はいやらしい気分を盛り上げるためのものなんだから。

「んくふうっ!……あっ、あたしね、クッ、クリがすごく弱いの!彼もそのことを知ってるから、そこばっかり攻めてくるの……あうっ、はくううううっ!

 今、亜希の手がパンティーの中でどんな動きをしたのかはわからないけど、その体がビクビクッて震えて仰け反った。
 それと同時に、亜希の足がキュッて内股になる。
 大きく足を広げてる明日菜とは対照的だけど、これはこれでものすごくエロい。

「くっ、やだっ!はううっ!かっ、彼の指先でねっ、クリをつぶすくらいに擦られると、もうっ、頭の中っ、わけわかんなくなって、アソコがすごく熱くなってっ、あたしっ、あたしっ、んんんんっ!」

 ブラとパンティーの下で、亜希の手が小刻みに動き回っているのはなんとなくわかる。
 それに合わせて、髪をばさばさと振り乱しながら、亜希は何度も体をひくつかせていた。

 あれって、ひょっとしてイッてるっていうの?

 女の子の体のことはよくわからないけど、いつもより少し甲高い声を上げて体を悶えさせている亜希がとてもいやらしく見える。

 そして、その横では……。

「やんっ!ああっ、そんなっ、激しいよぉっ!あんっ、そこっ、あふっ、いいっ、いいっ!」

 仰向けに倒れ込んだ明日菜が、その大きなおっぱいを突き上げるように体を反らせていた。
 もう、パンティーは透け透けになるくらいにびっしょり濡れていて、その中で指先が激しく動いているのがよく見える。

 ……なんなの、これは?
 目の前で、明日菜と亜希が恥ずかしい場所を惜しげもなくさらけ出して、激しくオナニーしている。
 それを、顔を真っ赤にしながらも食い入るように見つめている羽実。
 羽実は、ふたりの姿を見てどんなことを感じているんだろう?

 男の僕には、女の子のオナニーはものすごくエロく見えるんだけど……。
 自分の手で鷲掴みにされた明日菜の大きなおっぱいがぷにぷにと形を変えていくのも、大きく足を広げたパンティーの中に入れられた手が動くたびに体がビクッて跳ねるのも、亜希が、パンティーの中に潜り込ませた自分の手をふとももで挟み込むくらいに内股にして、体をひくつかせながら体をよじっているのも、本当にいやらしかった。
 だから、さっきから僕の股間はぱんぱんに膨らんで破裂しそうだ。
 こんなのを目の前で見せつけられたら、誰だってたまらないよ。

 じっと見つめる僕たちの前で、明日菜と亜希のオナニーはどんどん激しさを増していって。

「ふああああっ、私っ、もうイッちゃう!イッちゃううううぅーっ!」
「あたしもっ!もうだめっ、はんんっ、んくぅううううううっ!」

 明日菜の体が、腰を浮かせるように反り返る。
 反対に、亜希は「く」の字に体を折って、内側に絞り込んだ両足の指先が何かを掴もうとするように床を掻いた。
 そのまま、ビクビクと何度も何度も体を痙攣させるふたり。

 これが……本当にイッてるんだ……。

 初めて見る、女の子の絶頂。
 それも、僕のよく知ってる明日菜と亜希の。
 小さい頃からの幼馴染みのそんな姿は、ものすごく現実離れしてるように感じる。
 でも、同時にそれはすごくいやらしくて、興奮を抑えることができない自分がいた。

「はぁああああ……」
「んふうううううぅ……」

 ふたりの体がぐったりとなると、そのまま、大きく息を吐いた。

「ふたりとも、大丈夫……?」

 ようやく、我に返ったように羽実がふたりに尋ねる。

 たしかに、明日菜も亜希も激しい運動をした後みたいに呼吸が荒い。
 男は、自分でやった後でもそんなにはならないのに、やっぱり男と女だと全然違うんだ。

「……うん、大丈夫だよ、羽実」
「どうだった、あたしたちのひとりエッチ?」

 羽実にそう答えた明日菜と亜希は、まだ、ほのかに頬を染めて、トロンとした目をしていた。

「どうって……すごかったけど……やっぱり私にはあんなのできないよ」

 そう言うと、顔を真っ赤にしてうつむく羽実。

「もう、羽実ったら好きな人はいないの?」
「す、好きな人がいても、だって、恥ずかしいし……」
「羽実も、一度男の子とつきあったらわかるわよ。好きな人とやることをね、いろいろと想像してると、エッチなことを想像してそういう気持ちになることがあるのよ」
「で、でも……」

 亜希の言葉に、恥ずかしそうにうつむいたまま何も言い返せない羽実。

 ていうか、女の子もそうやっていやらしい妄想を膨らませてエッチなことするんだ。
 そういうところは、男と同じなのかも。
 でも、羽実にはそうなって欲しくないと、勝手なことを思っている自分もいた。

「そうよね、亜希の言う通りかもね。私はつきあったことないから大きなことは言えないけど、羽実もそのうちわかるようになるよ、きっと」

 今度は、明日菜がそう言って笑う。

 まだ丸見えになったままの、その大きなおっぱいが気になって明日菜の方を見ると、こっちを見た明日菜と目が合った。

「へへへ……陸にもひとりエッチしてるとこ見られちゃったね」
「あ、いや、それは……」

 僕にオナニーしてるところを見られていたっていうのに、明日菜は恥じらう様子もなく笑っている。
 むしろ、僕の方がオタオタしてしまう。

 そんな僕を見て、今度は亜希が微笑んだ。

「そんなに、慌てなくてもいいよ、陸。だって、今日は女子会なんだから」

 いや、だから、もともと女子会とかそういうのじゃないから。
 これって、全部空のせいだから。

 と、僕を見ていた亜希と明日菜が不意に首を傾げた。

「あ、でも、陸ってひとりエッチするの?」
「そうよね。男がしてるのって見たことないよね」

 あっ、当たり前だろ!
 そんなの、見たことある方がどうかしてるよ!

「ねえ、陸は自分でやるときはどうやってるの?」
「いっ、いやっ、そんなっ、たいしたもんじゃないから!」
「そんなの、見てみないとわからないよー」

 いやいやいや!
 本当に明日菜と亜希のに比べたら本当にたいしたものじゃないと思うよ、僕のは。

「本当に、見せるようなもんじゃないから!」
「えー、ズルいよー。陸ったら私たちのだけ見て、自分は見せないなんてー」
「そうよね。あたしたち、見せ損だよね」

 いや、無理だって!
 この中でオナニーしてみせるなんて、僕には絶対に無理!

「だから、見ても全然面白くないから!」
「ダーメ!そんなの認めないんだから。……亜希、ちょっと陸を押さえてて!」
「うん、わかった」
「へ……?お、おい、亜希!?痛ててて!」
「ちょっと、じっとしててよ、陸」

 亜希が、僕の背後に回り込んで両肩を抱え込んだ。
 さすがに体力には自信があるだけあって、亜希の力で両肩を極められると完全に押さえ込まれてしまう僕。
 と、今度は明日菜が僕の足下に這い寄ってきた。

「もうー、陸ったら恥ずかしがりやなんだからー」

 そう言って、僕のベルトに手をかける明日菜。
 て、恥ずかしがりやとか、そう言うんじゃないから!

「でも、私たちは陸に恥ずかしいところを見せたんだからね。これでおあいこだよ。えいっ!……わあぁ」
「あっ、こらっ!」

 明日菜がかけ声と一緒に僕のズボンをずり下ろした。
 そして、大きくなった僕のムスコで持ち上がったパンツを見て驚いたような声を上げる。

 でも、それだけじゃなくて、パンツにまで手をかける明日菜。

「こらっ、やめろてっ!おいっ!」
「えいっ……と。きゃっ、すごっ!」

 とうとうパンツもずらされて、起き上がったムスコがこんにちわしてしまった。

「きゃっ……男の人のって、そんなになるの?」

 と、羽実が小さな悲鳴を上げて顔を覆う。
 ていうか、見ないで、羽実……。

「うわぁ、大きい……でも、これって……」
「陸、もしかして、私たちのひとりエッチを見て興奮してたの?」

 亜希と明日菜が顔を見合わせると、悪戯っぽく笑う。
 だから、あんなのを見せつけられて興奮しない方がどうかしてるって!

「私、知ってるよ、男の子って、興奮するとおっきくなるんだよね!?」

 いや、だから、無邪気にそんなこと聞かないでよ、明日菜。

「でも、ちょうどいいや。陸のひとりエッチ、私たちにも見せてよ!」
「嫌!絶対に嫌だから!」
「もうー、陸のケチ!」
「そんなの絶対無理だって!」

 明日菜の無茶苦茶なリクエストを頑なに拒否する僕。当たり前だけど。
 でも、嫌がる僕に向かって明日菜は小悪魔みたいな笑みを浮かべた。

「もうー、しかたないなー。じゃ、こうだよ」
「あっ、こらっ、明日菜!」

 いきなり、明日菜の手が僕のムスコを掴んだ。

「へへへ……私、男の子がどういう風にするか、本で知ってるんだから!」

 そういって、握った手をゆっくりと動かし始める明日菜。

 ……て、どういう本を読んでるんだよ、おまえは!?
 ていうか、それって高校生が読んだらダメな本だろ、絶対!!

「おいっ、こら!」
「もう、じっとしててよ!陸のひとりエッチ、私が手伝ってあげるんだから!」

 いやいやいや!
 それってもうひとりエッチじゃないって!
 単におまえが僕にエッチなことしてるだけだって!

 だいいち、なんでこんなことになってるんだよ!?
 それもこれも、全部空が!

「おいっ、空!どうにかしろって!……え?」

 この状況を止めさせようと空の方を見た僕は、その様子がおかしいのに気づく。

 空は、驚いたような表情で頬を赤らめ、口を半開きにして僕の股間を見つめていた。

「空っ、おい、空っ!?」
「……すごい。……あんなに大きくなるんだ」

 いや、すごいとか、そんなんじゃなくて!

 僕が名前を呼んでも、全く聞こえていないみたいに、明日菜が扱いている僕のムスコを食い入るように見つめている空。
 ていうか、どうしちゃったんだよ、おまえ?

「もうー、空は関係ないでしょ!」
「あっ、こらっ!」
「うふふっ、どう?気持ちいい?」
「やっ、気持ちいいっていうかっ、あう!?」

 急に、股間に強烈な刺激が走って、僕は思わずうめき声を上げる。
 明日菜のやつ、力加減がわかってないから、かなりきつく扱き上げてきてやがる。
 でも、気持ちいいかよくないかと言うと、気持ちいい自分が情けない。

「それって痛くないの、陸くん?」

 羽実が心配したように訊いてくる。
 心配してくれるのは嬉しいけど、僕の方を見ないで、羽実……。

 それに、明日菜は僕のを扱くのを止めようとしないし。

「あっ!先っぽからおツユが出てきたよ!気持ちいいんだね、陸。そっか、気持ちよくなるとおツユが出てくるのは男も女も一緒なんだぁー!」

 いや、おまえはおまえでなに暢気なこと言ってんの?

 とか思って明日菜のを方を見ると、僕のを扱きながらこっちを見上げているのと目が合った。

「……うっ!」
「やっ、またちょっと大きくなったみたい!どしたの、陸?」

 どしたの?て、このアングル、ヤバすぎるだろうが!

 明日菜が、さっきオナニーしてたままの、おっぱい丸出しの格好で僕のムスコを手で扱きながら、上目遣いに笑いかけてくる。

 いや、ヤバい、これ、ホントにヤバすぎだって!

「あっ、手の中でビクビクッてしてるよ!ひょっとして、イキそうなの?イキそうならイッてもいいんだよ、陸」
「ダメダメダメ!それはダメだって!」
「私がいいって言ってるんだからいいの!」

 そう言うと、明日菜は手の動きをさらに激しくしていく。
 実際、これ以上やられると本当に出てしまいそうだ。
 でも、それだけはなんとか避けないと。

「おい、空っ!どうにかしてくれ!」

 もう一度空を呼ぶ。
 だけど、やっぱり空はポッと顔を赤くして、呆然と僕の股間を見つめたままだった。

「おいっ、聞いてんのかよ、空!おいってばっ!空ーーーっ!」
「……へ?……あっ、ああっ!”お遊戯する人この指とーまれ!”」

 僕が何度も呼ぶと、ようやく我に返ったようにハッとした表情になって空が叫ぶ。
 すると、明日菜の動きが止まった。
 いや、明日菜だけじゃなくて、僕を押さえつけていた亜希の体からも力が抜けている。

 だけど、時すでに遅しだった。

「うっ、ううっ!」
「きゃああっ!」

 明日菜に握られた息子の先から、白くドロドロした精液が噴き出したのを見て、空が悲鳴を上げる。

「うわわわっ!とりあえず、みんなじっとしてて!あたしが手を叩くまで、みんな、何も見えないし何も感じないの、いい?」

 慌てたように空がそう言うと、明日菜、亜希、羽実がコクリと頷く。
 その顔からは表情が消えて、目は開いているのにどこか虚ろで、どこを見ているのかわからないみたいに焦点が合っていなかった。

「……ひとまずはこでれよしと」

 そう言うと、空はふぅと息を吐く。

 どうやら声を出しても大丈夫そうなので、さっそく僕は空に抗議した。

「おいっ、空!これは一体どういうことなんだよ!」
「どういうこともなにもないわよ!陸こそ何してるのよ、こここ、こ、こんな汚いもの出して!」

 え?なに?逆ギレ?
 なに怒ってんだよ、おまえは?

「おまえなぁ!誰のせいでこんなことになったと思ってるんだよ!」
「そんなことは後でいいでしょ!とにかく、きれいにしないと!もうっ、とにかく、陸はそのドロッとした汚いの拭いてよね!」
「痛ででっ!?」

 僕にティッシュの箱を投げつけると、いったん空は部屋から出て行く。
 でも、すぐに濡れたタオルとドライヤーを持って戻ってきた。

「なによ、まだ拭いてないの?」
「いや、おまえなぁ!?」
「いいから早くそっち拭いて!……ごめんね、明日菜。こんなばっちいもの触らせちゃって」

 そう言うと、空はタオルで明日菜の手を拭き始める。
 ばっちいって……おまえがさせたんじゃないのかよ?

「ほらっ、陸も早くそっち拭いてよね!」
「あのなぁ……」
「もうっ、信じらんない!こんな……こんなことするなんて……」

 なに理不尽なこと言ってるんだよ、おまえは?
 僕からしたらおまえの方が信じらんないんだけど。

 ていうか、なに顔を赤くしてるんだよ?
 それに、なんだよ、その気まずそうな顔は?
 気まずくなるくらいならこんなことするなよな。

「陸、そっちはきれいになった?」
「ああ……」

 濡れタオルとティッシュで、なんとか射精の跡をきれいに拭き終えるのには数分かかった。

 すると、空は今度は明日菜と亜希のパンティーにドライヤーをあてる。

「バレないかな?ごわごわするから、怪しまれたりしないかな……?」

 そう言いながら、ふたりのパンティーを乾かしていく。
 ていうか、自分でさせといてなに言ってるんだよ。

「うん……これでいいかな?じゃあ、明日菜と亜希は服をちゃんと着て」

 空の言葉に頷くと、明日菜と亜希はぼんやりとした表情のまま、ゆっくりとした動きで服を整えていく。

 ふたりの服が元通りになったのを見て、空はまた明日菜、亜希、羽実に向かって口を開いた。

「じゃあ、あたしが手を叩いたらみんなは目を覚ますよ。その時には、みんなさっきのひとりエッチのことは全部忘れて、恋愛トークで盛り上がってたところで目が覚めるの、いい?」

 空の言葉に、3人はコクリと頷く。

「それじゃあ、手を叩くよ」

 そう言って空がパチンと手を叩くと、3人がピクッと体を震わせて、その目に光が戻ってきた。
 そして、互いに顔を見合わせる。

「ん……?」
「あれ、私?」
「私たち、何してたんだっけ?」
「もう~、なにボーッとしてるのよ~?みんなで恋バナしてて、羽実と陸が相性ぴったりだって話で盛り上がってたじゃん」
「あ、そうか」
「やだっ、もうっ、空ちゃんったら!」
「でも、たしかにあたしも羽実と陸ならいいカップルになると思うんだよね」
「もうっ、亜希ちゃんまで!」

 どうやら、目を覚ましたみんなは、さっきのオナニー大会のことをすっかり忘れてしまったみたいだった。
 で、さっそく僕と羽実をからかい始める明日菜。

 ていうか、そこまで会話は戻るのか……。
 でも、みんなにそのことを忘れさせるんだったら、空はなんのためにあんなことを?

 たしかに、空のすることはいつも無茶苦茶で、なんのためにやってるのかわからないことがあるけど、今日のは特にひどいんじゃないか?

 でも、さすがに今日のは怒ったぞ。
 とにかく、後でがつんと言ってやらなきゃ。

 何気なく会話に加わりながら、僕はそんなことを考えていた。

* * *

 で、結局その後は恋愛トークで僕と羽実がさんざんからかわれて……。

 そして、その夜。

「なによ~、陸ったら~?」

 ドアをノックすると、不機嫌そうに空が顔を出した。

「なによじゃないだろうが!今日のあれはなんなんだよ!」
「今日の?」
「そうだよ、明日菜と亜希にあんなことさせて、しかも、僕にまで!全部おまえのせいだろ!?」
「あっ、あれはたしかにあたしが悪かったわよ」

 あれ?
 てっきり、いつものように適当にかわされると思ったのに?

 予想に反して、素直に自分の非を認める空。
 なんか、悪戯を見つかった子供みたいにばつが悪そうな顔をしてるけど。

「でも、全部あたしのせいってわけじゃないからね!」
「なに言ってんだよ?おまえがああさせたんだろ!?」
「ち、違うわよ!」
「嘘つくなよな!」
「嘘じゃないってば!あたしがしたのはね、今日は女子会だから、どんなことしても恥ずかしくないっていうのと、陸は名誉女子会員だから女子会に参加する資格があるってことだけなの!だけどね、いくら恥ずかしくないからって、明日菜がそこまでするとは思ってなかったのよ!」

 ていうとなにか?
 空の催眠術と明日菜の暴走のコラボでああなったっていうことか?
 にしてもだな……。

「だったらなんで途中で止めさせなかったんだよ!」
「そそそ、それはっ、あたしもビックリしちゃって……」

 そう言って、顔を真っ赤にする空。
 なんか、柄にもなくもじもじとしゃべりにくそうにしている。

「なにかわい子ぶってんだよ!?」
「なによっ!あ、あたしだって女の子なんだからね!」
「普通の女の子が友達に催眠術使ってあんなことさせるかよ!?」
「だから、あれはあたしが悪かったって言ってるでしょ!」
「何でおまえが怒るんだよ!怒りたいのはこっちの方だよ!だいたい、なんであんなことしたんだよ!?」
「だから、本当は恋バナするのが目的だったんだってば!」

 そう言って、そらは唇を尖らせる。
 ていうか、なにカリカリしてんだよ?

「は?なんのために?」
「それは、みんなの好みのタイプを陸に聞かせるためよ。こういう場でも作らないと、女の子の好みを聞くことってないでしょ?」
「大きなお世話だよ!」
「でも、陸の好きな子のタイプと、羽実の好きな子のタイプが合うのがわかったじゃない!」
「何が言いたいんだよ、おまえは?」
「きっとね、羽実は陸のことを好きだと思うのよ」
「そ、そんなことは羽実は言ってなかっただろ!?」
「でも、羽実の言ってたのって、陸がぴったりじゃないの。……それに、陸も羽実のこと好きなんでしょ?」
「……なっ!」

 空の言うことは図星だけど、だけど、空に対して素直に認めたくはなかった。
 だいいち、催眠術を使ってそんなのを確かめようなんて大きなお世話だし。

「どうなの、陸?」
「そんなの、どうでもいいだろ!」
「よくないよ。今日も聞いたでしょ、羽実はきっと自分から告白できないから、もし、本当に羽実のことが好きだったら陸の方から告白しないと」
「だから大きなお世話だって言ってるだろ!」
「なんでよ!?羽実のこと好きじゃないの、陸は!?」
「好きとか、そういうのじゃなくて!」
「好きじゃなかったらなんなのよ!?他に好きな子でもいるっていうの!?」

 いつもはのらりくらりと僕の言葉をかわす空が、珍しく突っかかってくる。
 なんか、今日の空はずっと変な気がするけど、こうなったら売り言葉に買い言葉だ。

「おまえ、さっきからなにイラついてるんだよ!?」
「当たり前じゃない!陸は羽実のことを好きなんでしょ、そしてきっと羽実も陸のこと好きだから、告白したら絶対に大丈夫なのに、優柔不断で何もしないなんて、そんなの見てたら女としてイライラするに決まってるじゃないの!」
「だから!僕は羽実のことを好きだって言ってないだろ!」
「あ、そう?そうなんだ?じゃあ、他に好きな子を見つけないといけないよね!」

 はぁ?
 なに言ってるんだよ、おまえ?
 言ってることが支離滅裂だぞ?

 いつもの無茶苦茶ぶりとはなんか違う。
 ヒステリックで、話の筋が全然通ってない。

 なんなんだよ、いったい?

「だから、そんなこと誰も頼んでないだろ!」
「もうっ!陸ったら人の気も知らないで!もうわかったわ!陸がそういうつもりなら、あたしも好きにさせて貰うからね!」
「おいっ、空!」

 目の前で勢いよくドアが閉まると、ガチャリと鍵を掛ける音がした。
 そして、その後はいくらノックしても空は出てこなかった。

< 続く >

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