幸せのつきあたり 最終話b

最終話b 知佳は私の、私は知佳の

「本当に知佳は悪くないから。……ちょっとね、幸せすぎて涙が出てきちゃったの」
「幸せすぎて?」
「うん。私、男の人を好きになることができなかったから、今まで恋愛で嬉しいことなんかなかったから。知佳とこうやって恋人同士になれて、これまでのつらかったことを思うと、本当に幸せで涙が出ちゃって……」

 とっさにそう言ってごまかす。

「本当に?でも、サッちゃん、本当につらそうな顔してたよ」
「うん、それだけつらいことがいろいろあったから。でも、今は知佳と一緒にいられて幸せ」
「そう……?だったらいいんだけど……」

 まだ腑に落ちないのか、不安そうな顔をしている知佳をぎゅっと抱きしめる。

「こうやってると、知佳をいっぱいに感じる……。私、ずっとずっと、知佳と一緒にいたい」
「うん、あたしも……」

 やっと納得してくれたのか、知佳も私を抱き返してきた。

 知佳は、私と一緒にいるだけで幸せでいられる。
 そこには、一片の曇りもない。
 知佳は私のことを、私と一緒にいる幸せを信じて疑わない。

 そんな知佳が、うらやましく思えた。
 私も、知佳と一緒にいられる幸せを信じたい。
 知佳のように、なんの疑いもなく信じれるようになりたい。

 でも、私には拭いきれない罪悪感がある。
 どうしても、後ろめたさを感じてしまう。
 だって、知佳が私のことを信じて疑わないのは催眠術のせいだから。
 催眠術を使って、知佳にそんなことをしたのは私なんだから……。
 

 ……え?
 そうだっ、催眠術!

 催眠術を使って、疑いも後ろめたさも感じることがないようにできたら。
 知佳と同じように、ふたりで一緒にいるだけで幸せだけを感じていられるようになれたら……。

 たしか……自己催眠。
 私が持ってる本にも書いてあった。
 自分で自分を催眠状態にして、暗示をかける。
 悩みや不安の解決や、自己カウンセリング、イメージトレーニングとか、いろいろな目的のために使われてるって。
 本にはそのやり方も書いてあったはず。
 自己催眠で、自分に暗示をかけることができたら……。

「どうしたの?サッちゃん?」

 気がつくと、また知佳が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「ううん、なんでもないの。ちょっと考え事をしてただけ」

 笑顔を作って、知佳の顔に頬を寄せる。
 すると、知佳もこっちに頬ずりを返してきた。

 きっと、催眠術を使って私の中の後ろめたさを消しても、嘘の上塗りになるだけ。
 でも、それでもかまわない。
 私たちが本当に幸せになれる方法は、それしかないんだから。

 早く自己催眠を試したい衝動に駆られながら、私は知佳を抱きしめていた。

* * *

 だけど、自己催眠はうまくいかなかった。

 本に書いてあったとおりに体をリラックスさせて、意識を催眠状態に持って行くための誘導法をやってみる。
 だけど、うまく催眠状態には入れない。
 というよりも、自分が催眠状態になったのかどうかすらわからない。
 たしかに精神的には落ち着いて、すごくリラックスしてるとは思うけど、それ以外には特に変わった感じはしない。
 自分の意識もはっきりしてるし、催眠状態になってるんだっていう実感もない。
 そんなものなのかと思って暗示をかける練習もしてみたけど、やっぱり不安は消えなかったから、きっと成功してないんだと思う。

 知佳に催眠術をかけたときにはあんなにうまくいったのに……。

 そう思って、知佳にやったのと同じ方法をキャンドルをペンライトに変えて鏡の前でやってみることさえした。
 だけど、それもうまくいかなかった。

 ……どうしたらいいんだろう?

 せっかく、これでうまくいくと思っていたのに思わぬところで躓いてしまった。

 どうやったら、自分に催眠術をかけることができるのかな?

 私は、知佳に催眠術をかけたときのことを思い出す。
 あの時は、知佳は簡単に催眠術にかかってくれた。
 人にかける時は、あんなに簡単にできたのに……。

 ん?人にかける時は?

 そうだ、自分で自分にかけるんじゃなくて、人にかけてもらえばうまくいくかもしれない。
 それも、知佳が催眠術をかけてくれたら。
 私にもできたんだから、知佳にだってきっとできるはずだわ。

 後は、どうやったら知佳が私に催眠術をかけてくれるかだけど。
 もう、やり方は決まっていた。
 それは、私が知佳に催眠術を使ってそうさせる。

 そうと決まれば、実行に移すのは早かった。

「”自分の中の鍵を開けて、知佳”」

 私の部屋でおしゃべりをしている時、会話が途切れた瞬間を狙ってあの言葉を言う。

「う……ん……」

 合い言葉を聞いて、くたっとなる知佳。
 ぐったりとして、虚ろな目をしている知佳に、私は話し始める。

「いい?よく聞いて、知佳」
「うん……」
「知佳は、サッちゃんと一緒にいられて幸せだよね?」
「うん……」
「じゃあ、もしサッちゃんが知佳から離れて行ってしまったら?」
「そんなはずない……。サッちゃんは絶対にあたしを裏切らないし……あたしを悲しませたりしないもん……」
「でも、人の心は変わるかもしれないよ。時間が経ったら、サッちゃんが知佳から離れていってしまうかもしれないよ」
「いやっ……。そんなの……絶対にいやだよ……」

 ぼんやりした知佳の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「そうだよね。絶対に嫌だよね。じゃあ、サッちゃんを絶対手放さなかったらいいんだよ」
「サッちゃんを……絶対に……?」
「そうだよ。サッちゃんが知佳から離れていかないようにする方法がひとつだけあるよ」
「それは……なに……?」
「催眠術よ」
「催眠……術?」
「そう。知佳だって聞いたことはあるでしょ?」
「うん……」
「それでね、サッちゃんに催眠術をかけて、ずっと知佳のことを好きなようにするの」
「サッちゃんに……催眠術を……」
「そうだよ。そして、そのことをサッちゃんが疑わないようにして、知佳と一緒にいることが幸せにさせるの。そうしたら知佳はずっとサッちゃんと一緒にいることができるから」
「あたしは……ずっとサッちゃんと一緒に……」
「そうだよ。知佳はサッちゃんとずっと一緒にいたいよね?」
「うん……」
「じゃあ決まりだね。サッちゃんに催眠術をかけて、ずっと知佳のものにするの」
「うん……。サッちゃんを……あたしのものに……する……」
「でも、催眠術って結構難しいから、これから催眠術についてしっかり勉強しないといけないよ。きっと、大きな本屋さんに行けばそういう本があるはずだから。それで勉強してから、サッちゃんに催眠術をかけるの。いいわね?」
「うん……」

 たぶん、これで大丈夫なはず。
 後は、知佳が私に催眠術をかけてくる時を待つだけ。

 これで、楽になれるのかな、私?

 まだ不安は残るけど、そこで私は知佳の催眠状態を解いた。

* * *

 それから何日か経って……。

「知佳、なに読んでるの?」

 その日は、私と知佳は別々の講義がある日で、授業が終わって待ち合わせの場所に行くと先に終わっていたのか、知佳が何か熱心に本を読んでいた。

「へへへっ、ちょっと、授業のテキストをねっ」

 声をかけると、知佳は笑いながらパタンと本を閉じて、そのまま鞄にしまう。
 その本には書店のカバーがしてあってなんの本かはわからなかったけど、きっと催眠術の本だと、直感的にそう思った。

 それから知佳は、暇を見つけては本を読んでいることが多くなった。
 なにを読んでるのか想像がついているから、それに関しては私はなにも言わなかったけど。

 そして、1ヶ月ほどが過ぎたある日の晩。

「うわー、サッちゃん、すごい肩凝ってるよー」

 晩ご飯の後にテレビを見ていたら、知佳がいきなり肩を揉んできた。

「そう?そんなに凝ってるかな?」
「凝ってるよー。じゃあっ、あたしがほぐしてあげるねー」

 そう言いながら、私の方を揉みほぐす知佳。
 たしかに、知佳のマッサージは絶妙の力加減で、すごく気持ちが良かった。

「サッちゃんはね、肩に力が入りすぎなんだよ」
「そ、そうかな?」
「そうだよー。肩の力を抜かなきゃ。じゃ、肩の力を抜く運動しようよっ!いい?」
「肩の力を抜く運動?」
「うん!私の言うとおりにしてみて。あたしが支えているから、いったん肩を上げるようにして、ストンッて落とすの」
「こうかな?」
「そうそう。もう一度、肩を持ち上げて、ストン!そう、そんな感じ。今度はそれを深呼吸しながらやってみようか。大きく息を吸いながら肩を持ち上げてー、息を吐きながらストン。ほら、もう一度」
「う、うん……」

 知佳の言うとおりにしながら、私は内心でついに来た!と思った。
 たぶん、こうやってリラックスさせてから、催眠誘導に持っていこうとしてるんだ。

「息を吸いながら肩を持ち上げてー、息を吐きながらストン。もう一度、大きく息を吸いながら肩を持ち上げてー、息を吐きながらストン。ほーら、どんどん楽になっていくよー。じゃあ、もっと楽にして、今度は上半身の力を抜く運動だよ。あたしが支えてるからサッちゃんは安心してていいよ。ほら、肩の力を抜いて、頭を回すようにゆっくりと体を回していこうよ。まずは右回りに、ゆらーりゆらり。……今度は左回りにゆらーりゆらり」
「うん……」

 言われるままに、肩の力を抜いて、ゆっくりと上半身を回転させる。
 知佳が私の体を支えながら、楽に回せるように誘導してくれる。

「じゃあ、また右回りに、ゆらーりゆらり……今度は左回りにゆらーりゆらり……そうやってると、どんどん気持ちが楽になってくるよ」
「うん……」

 知佳の言葉に導かれて、体を揺らし続けていると、本当に気持ちが楽になっていくみたい。
 それに、頭を回転させるように動かしているせいもあってか、なんだか少しくらくらする。
 でも、それがかえって宙に浮いているような感じで、心も体もふわふわしてくる。
 こんなの、自己催眠を試しているときには感じたことがなかった。
 これが、催眠状態に入っていくってことなのかな?

「ほら、ゆらーりゆらり……今度は反対側にゆらーりゆらり。そうやっていると、どんどん気持ちが楽になって、暖かいところにゆっくりと沈んでいくみたいに気持ちいいよ」
「うん……」
「ほら、どんどん気持ちよくなって、どんどん楽になっていく。ほら、ゆらーりゆらり……」
「うん……」

 体を揺らしながら、私は知佳の言葉にだけ耳を傾けていた。
 本当に暖かい中に漂っているみたいで、すごく気持ちよくて、他のことを考えるのも億劫になってきていた。
 耳許で囁く知佳の声だけにすべてを委ねる。
 それ以外の感覚が、全部遮断されていくような感じ。
 でも、それが心地いい。
 この声に、全部任せていればいいんだから……。

「ゆらーりゆらり……ほら、もっと楽になっていくよ。ゆらーりゆらり……どんどん気持ちよくなって、もっと深いところに沈んでいくよ。ゆらーりゆらり……」
「うん……」

 知佳の声に導かれて、私の心はどんどん深いところに沈んでいったのだった。

 パチンッ!

 ……あれ?今、手を叩く音が聞こえた。
 そうだ、この音が聞こえたら目を開けないと……。

「……ん?……あれ、私?」

 目を開けると、自分の部屋にいて、目の前に知佳がいた。

 ……私、たしか晩ご飯の後でテレビを見ていたよね?

 なんだか、居眠りしてたみたいに気持ちがいい。
 私、テレビを見ながらうたた寝してたのかな?
 なにか忘れてしまってるような気がするけど、なにも覚えてない。

 ただ、知佳がいつになく真剣な顔をして私を見つめている。

「知佳?……私、今、何してたんだっけ?」
「ねえ、サッちゃん、私の言うことをよく聞いて」

 問いかける私に向かって、知佳が口を開いた。

「え?知佳?」
「サッちゃんは、あたしのものなの」
「ひゃあっ!?えっ、えええっ!?」

 なに?今のは!?
 背中を、ゾクゾクするような感覚が駆け抜けていった。

「ちょっと……知佳!?」
「いい?サッちゃんは、あたしのものなの」
「きゃううぅん!?」

 まただ!?
 体を貫く、痺れるような刺激。
 頭の中がくらっとなって、体が熱くなるこの感じ。
 この感覚には覚えがある。
 というか、知佳と体を重ねるときにいっつも感じてる。

 やだ……私、感じちゃってる……。
 ……でも、なんで?

 はっ!まさか!?

「ね?サッちゃんは、あたしのものなの」
「あんっ、ひゃううううん!」

 知佳が、悪戯っぽい笑みを浮かべて囁く。
 すると、また全身を快感が駆け抜けていって、私は喘ぎ声を上げて身悶えする。

 間違いない!催眠術だわ!
 言葉だけでこんなに感じちゃうなんて、催眠術でそういう暗示をかけられたのに決まってる。

 どんな暗示をかけられたのかも、いや、それ以前に自分が催眠術をかけられたことすら覚えてない。
 だけど、たぶんさっき自分が催眠術をかけられたことは想像できた。
 だって、そうするように私が知佳に暗示をかけたんだから。
 いつかその日が来ることを待ってたんだから。

 すごい……催眠術ってこんなことができるんだ……。
 それに、こんな暗示をかけられたことを全然思い出せない。
 私が知佳にそうさせたんじゃなかったら、自分が催眠術をかけられたってことに気づくことすらなかったかもしれない。

「ほらね。サッちゃんは、あたしのものなの」
「やんっ!それ以上はっ、はんんんんっ!」

 やだっ!知佳は私に触れてもないのに、全身の敏感なところを触られているみたいに快感が駆け巡る。
 知佳がその言葉を繰り返すたびに、私の中で弾ける快感がどんどん大きくなっているような気がする。

 本当にすごい……これ以上されたら私、おかしくなっちゃう……。

 アソコの奥まできゅんきゅん快感が響いて、頭がおかしくなりそうなくらいだった。

 それなのに……。

 知佳は、私の体を抱きしめて耳許で優しく囁いた。

「もう一度言うよ。サッちゃんは、あたしのものなの」
「だめえええっ、わたしっ、イッちゃうううううううううっ!」

 目の前が、真っ白に弾けた。
 知佳の腕の中で、全身がひくひくと痙攣する。

 私……知佳の言葉だけでイッちゃった……。

 体から力が抜ける。
 ふわふわと浮かんでいるような、気怠くて、それでいて心地いい絶頂の余韻。

 ああ……私、知佳のものなんだぁ……。

 くたっとなったまま、知佳に体を預けていると、その温もりに全身を包み込まれているように感じる。
 自分は知佳のものになったんだって、そんな思いが蕩けた心に染みこんでいくみたい。

「ふふっ、イッちゃったんだぁ。エッチだね、サッちゃん」
「んんっ、やだぁ、知佳ったら……」
「でも、いいだよ、エッチで」
「……え?」
「サッちゃんは、あたしの前ではどんなにエッチでもいいんだよ。だってサッちゃんは、あたしのものなんだから」
「はんんんんっ!」

 また、知佳の言葉に反応して、お腹の奥からズキンと気持ちいいのがこみ上げてくる。

「だから、サッちゃんはあたしと一緒にいるだけでとっても幸せなの。余計なことは考えなくていいの。サッちゃんは、なにも心配しなくていいんだよ」
「あ、ああ……知佳ぁ……」

 そうなんだぁ……私はなにも考えなくていいんだぁ……。
 うん……私は、知佳と一緒にいたい。
 そうしていれば、私は幸せなんだから……。

 そんな気持ちが、私の心を満たしていく。

 それが、知佳が私にかけた暗示のせいだっていうことはわかってる。
 でも、もうそんなことはどうでもいい。
 自分の全てが知佳と一緒にいられる幸せで塗りつぶされていくのを、私はもう抑えることができなかった。

「だから、サッちゃん……」
「あんっ!」

 いきなり、知佳に押し倒された。

「……知佳?」
「だから、サッちゃんのここも、あたしのものなの。……ちゅっ」
「んんっ!?んむむむむむっ!」

 知佳がキスしてきた瞬間、目の前で光が弾けた。

 今まで何度もしてきたキスとは全然違う。
 唇が、そして舌が、まるでアソコやクリトリスになったみたい。
 なまじ頭に近い分、直接快感が頭の中に響いてくらくらと目眩がする。

 と、知佳の手がするすると私のブラウスのボタンを外していく。
 そして、前をはだけさせてブラをずり上げさせた。

「んふうっ、んん……知佳ぁ?」
「ふふふっ……サッちゃんのおっぱい、ツンッて上を向いて、すごくエッチだね。でも、きれいだよ。……ここも、あたしのものなの。……んちゅ」
「きゃうんっ!ふわぁあああああっ!」

 乳首が、柔らかくて湿った感触に包まれる。
 おっぱいにキスされて、もう片方の乳首を指でコリコリッてされて、それだけでまた軽くイッちゃった。

「ちゅぱ……。サッちゃんのおっぱい、おいし……それに、コリコリに固くなって、いやらしいね……」
「ふぁあああああんっ!ああっ、知佳っ、知佳ぁあああっ!」

 舌先と指でねっとりと乳首をいじり回されて、快感に身をよじる。
 本当にそこが知佳のものになったみたいに、どうしようもなく感じてしまっていた。

「ここも、そして、ここもあたしのもの」
「あうぅん!やあっ、知佳ぁっ!」

 知佳の舌が、胸からお臍のあたりまで降りていく。
 温かくてヌメッとした感触が肌を這っていって、ビリビリと快感が走る。

 そして、知佳が私のスカートを捲り上げると、ショーツを脱がせた。

「やあぁ……知佳ぁ、そこはダメぇ……。そこ、弄られたら私、変になっちゃうよぉ……」
「だめ。サッちゃんの全部があたしのものなんだから。だから、ここもあたしのものなの」
「あうっ!んふぅうううううううううっ!」

 知佳の舌が、私のアソコをクチュクチュッてかき回した。
 ツンと尖らせた舌先がアソコに入ってきて、入り口のあたりの敏感な場所を刺激する。
 温かくてヌメッとした感触が、おツユでぐしょぐしょのアソコをかき混ぜるいやらしい音が聞こえる。

「あうううっ!だめっ!それだめぇえええええええっ!」

 あまりの快感に腰がビクッと跳ね上がって、一瞬、意識が飛んだ。

「はうううっ、ふああああああああああっ!」

 弓なりになった体の震えが収まらない。
 頭の中でバチバチと火花が散って、もう降りてこれないんじゃないかと思うくらいに私は思いきりイッてしまっていた。

「んっ、はうううっ!う……ううぅ……」

 痙攣が収まると、そのまま全身から力が抜ける。
 私、知佳にこんなにいっぱい感じさせられてしまった。
 本当に、私の体は知佳のものになっちゃったんだ……。

 そんなぁ……。
 私の全部知佳のものだなんて、欲張りだよ、知佳ぁ……。

 ああ、でも……。
 そうなんだぁ。
 知佳も、私と同じだったんだ。
 私を失うのが怖くて、他の誰にも渡したくなくて、私を独占していたくて、だから私の全部を自分のものにしようとしたんだ。
 私が知佳を自分だけのものにしようとしたのと一緒。
 好きになった相手を、自分だけのものにしたいんだよね……。

 ついこの間までの私なら、それすらも私がそうさせたことだと思って罪悪感を感じていたかもしれない。
 でも、今となっては、もうそんなのはどうでもいいことだった。

 だって……。

「どう?幸せ、サッちゃん?」

 私の方に顔を寄せて、知佳が尋ねてくる。

「うん、すっごく幸せだよ、知佳」

 そう答えた私の意識は、ぼんやりとして、まるで夢を見ているようにふわふわしている。
 でも、本当にすごく幸せ。

 だって、私はもう、知佳のものなんだから。
 知佳と一緒にいられる、この幸せのことしか考えられない。
 もう、他のものはなにも要らない。もう、迷いも後ろめたさもない。
 こうしていられる幸せを、心の底から信じられる。
 本当に、私の全てが知佳のものになってしまったことを実感できる。

 だけど……。
 私は知ってるんだ。

「”知佳は、ここが感じちゃうの”」

 そう言って、知佳の耳たぶを甘噛みする。

「あんっ、サッちゃぁあああん!」

 それだけのことなのに、さっきまでと攻守交代して、知佳がビクビクと体を震わせた。
 そんな知佳のブラウスのボタンを、手際よく外していく。

「ほら、ここも。”知佳は、ここが感じちゃうの”。……ちゅっ!」
「あふぅん!ふぁああああああっ!」

 服もブラもはだけさせて露わになった、ぷるんと形のいい胸の先に吸いつくと、知佳は甘い声を上げて身をよじる。

 私には、この魔法の言葉がある。
 これさえ言えば、知佳は私と一緒にいる幸せをいっぱいに感じてくれる。

「ほらっ。”知佳は、ここが感じちゃうの”」
「きゃふぅううううううううううん!」

 顔を真っ赤にして体をビクつかせている知佳が可愛らしくて、魔法の言葉を言って思い切り抱きしめた。
 それでイッてしまったのか、私の体に、ビクビクと痙攣する知佳の震えが伝わってくる。

 ……そう。
 私は知佳のものだけど、知佳も私のもの。
 お互いがお互いの専有物。

 だから、一緒にいっぱい気持ちよくなろうね。
 そして、ふたりでもっともっと幸せになろうね。

 私は、いっぱいの幸福感に包まれながら、知佳を固く抱きしめたのだった。

< 完 >

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