オイディプスの食卓 第5話

第5話 そして家族にはならない

【助けて】激おこの仲間たちに土下座するため誠意ある贈り物を探してます【初心者ゆえの過ち】

 オフランドにログインして、メッセージを吹き出しにして広場の近くをうろうろする。
 姉さんと勉強している間にLINEでクラスメートに狩りに誘われてた。だいぶ遅れてから気づいたから、みんなもうログアウトしてるみたい。
 お詫びに今度会ったとき何かアイテムでも配ろうかと思って、良い品をトレードしてくれそうな人を探しているところ。ソシャゲー全盛の時代にいまだオフランドに常駐してる人たちっていうのは、基本的に『初心者大歓迎イジり倒すぜ』のスタンスなので、このように適当なメッセージを出しておけば、物好きな人たちが余計なアイテムをどんどん押しつけにきてくれる。
 まあ、そんな感じで簡単に手に入るアイテムにたいした価値はないんだけど、誠意っていうのは大事だ。
 ベテランユーザーのみなさんに感謝しながら大量のカボチャをゲットする。どうしてみんなカボチャなのかはわからないけど、たぶんおっさんたちのツボなんだろう。
 そもそもそんなに怒ってるはずもないんで、こんなもんで大丈夫。もうカボチャは十分すぎるくらい集まったので、今度はカボチャ以外に手に入った良い品で、違うトレードしようと広場周りをうろうろしている。
 そうしてトレード狙いの集団でポップアップされてる吹き出しを見て回っていると、何件か同じメッセージを上げている人たちを見かけた。

【警告】kirikiri舞は信用するな。彼女は運営側の人間【警告】

 『kirikiri舞』さんは超レアジョブの有名プレイヤーなので、いろいろとやっかまれる事が多い。
 そのことは他のユーザーからも聞いてたけど、こうして実際の場面を見たことなかったので、なんだか嫌な気持ちになった。
 オフランドの人たちはみんなで馴れ合ってる雰囲気があったし、初心者アピールしてれば親切にしてくれたり絡んできてくれたりしてたので、良い大人たちってイメージが勝手にあったんだけど。
 やっぱりこういうイジメとか嫉妬とかもあるんだな。インターネットは大人を幼稚にしてしまうから怖いよ。
 これだってただの有名ユーザーに対する僻みだ。第一、仮に『kirikiri舞』さんが運営の中の人だとしたところで、プレイヤーとしてログインしてるんなら別に関係ないだろって思うんだけど、何か組合的な敵対意識でもあるんだろうか。意味がわからない。
 だけど、適当に流そうと思って吹き出しを眺めていると、その『kirikiri舞』批判のコメントを掲げている中に、知り合いの『teico.P』さんの姿を見かけた。
 驚いた。この人は彼女の信者だと思ってたんだけど。僕の知らないところで何かあったのかな。
 話しかけても反応はない。AFK(離席中)らしい。
 メッセージを掲げて直立不動で佇むだけのその姿は、まるで誰かに催眠術でもかけられたみたいで、不気味だった。

「あの、睦都美さん。ミルクのおかわりいいですか?」
「はい、ただいま」
「あ、睦都美さん、いいわ。私がやります」
「奥様、朝食のご用意は私の――」
「私がやります。いいですね?」
「……はい」

 僕が睦都美さんに頼んだ用事を、綾子さんが率先して代わってくれる。
 今までならありえない綾子さんの行動に、睦都美さんがチラリと父さんの方を見ながら、渋々と頷く。父さんは相変わらず新聞の向こう側にいて、こっちの世界のことなど関心もないようだった。
 綾子さんは機嫌を良くして僕のミルクの用意をする。ミルクパンで丁寧に温め、少しハチミツを落としてマグカップに注ぐ。
 フーフーと自分の息で冷ましてから、「たっぷり飲んで、たっぷり出してね」とエロい耳うちをして僕の前に置いていった。くすぐったい吐息に背中がぞくぞくとし、色っぽい彼女の愛情を感じる。
 ふふっ、そんなに僕のホットミルクが飲みたいのか。
 と言って綾子さんを押し倒すように跪かせ、ずぶずぶとその口に僕のを押し込む光景を想像してしまった。
 何考えてんだ、僕。エロいこと覚えたせいでなんだか頭も悪くなった気がする。

「んん゛っ」

 優惟姉さんが、そんな僕を見透かすようにわざとらしい咳払いをする。

「蓮、今日は予定あるの?」
「いや、別に何も……」
「そう。お姉ちゃん、今日も図書館に寄ってから帰るから。夜またお勉強みてあげる」
「あ、う、うん!」

 昨夜のことを思い出して、ドキっとした。
 姉さんは平然とした顔で紅茶を飲んでいる。

「…………」

 綾子さんは、そんな優惟姉さんをジトっとした目で見つめている。

「ねえ、蓮君は今日は早く帰れるの?」
「え、はい、綾子さん」

 他の家族の前では、あくまで以前どおりに振る舞おうと約束している綾子さんと僕だけど、なんていうか綾子さんは常に「親密な雰囲気」みたいのを視線で発してくるものだから、みんなの前で個人的な会話をするのは緊張した。
 彼女はそのこと、ちっとも気にしてないみたいだけど。

「今日は体育がある日よね? 汗いっぱいかいちゃうかもしれないから、お風呂湧かして待ってるわね」
「お、お風呂? いやいいですよ、そんなの夜で」
「ふふっ、だめよぉ。清潔にしてないと女の子にモテないわよ。いつでも入れるようにしておくから、おうちに帰ったらすぐキレイキレイにしましょうね。うふふふ」

 これ誘われてるんじゃないだろうか。ていうか誘い込まれているよね。露骨すぎて怖いくらいに。
 でも、花純さんは僕らの会話なんて聞いてもいない感じでスマホにイヤホン挿して音楽聞いてるし、父さんはカップにコーヒーを注ぐ睦都美さんのお尻をこっそり撫でるのに余念がない。
 誰も気づかないんだろうか。我が家のお母さんが朝っぱらこんなに妖艶な空気を醸し出してるというのに。

「あなたの方こそ、汗よりも濃い匂いを発しておいて何言ってるんですか」

 良いツッコミを挟んでくれるのは、優惟姉さんくらいだった。
 
「お風呂なんて少しくらい入らなくても平気よ、蓮。それよりお姉ちゃんが帰る前に復習と予習を済ませておくこと」
「あら、汗をかいた体をそのままにしておくと風邪をひくかもしれないし、お肌にもよくないのよ。私、心配だわ……蓮君って、とっても敏感な体質ですから」

 優惟姉さんの眉毛が、ぴくっと動いた。
 綾子さんは「ふふっ」と微笑みを浮かべる。

「大丈夫ですよ、綾子さん。蓮はこう見えて丈夫ですし体調管理も自分で出来る子ですから、風邪なんてもう何年もひいてません。小さい頃からずっと一緒に暮らしてきた本当の家族なら当然知ってることです」

 ぴくぴくっと、綾子さんの眉が動いた。
 優惟姉さんは無表情にティーカップを置き、目をつり上げて綾子さんを睨み返した。
 僕は、ダイニングにテレビを設置するかせめてラジオで落語でも流してはどうかと、父さんに注進すべきか真剣に悩んだ。

「ふふっ、そうだったの。蓮君はえらいのね。優惟さんにもいろいろと私の知らない昔のこと教えて欲しいわ。今は私の方が詳しい部分も多いと思うけどぉ」
「あら? 綾子さんのおっしゃってる詳しい部分というのが例の部分のことでしたら、お生憎さまかもしれません。蓮もやっぱり本当の家族の方が相談しやすいみたいで昨夜の自習ではより実践的な保健体育を――」
「ご、ごちそうさまー!」

 僕は大急ぎで朝食を流し込み、いったん席を立つ。
 とりあえずは2階に避難だ。
 考えてもみれば、せっかく催眠術を使えるようになったというのに、肝心の綾子さんと優惟姉さんの仲が改善されていない。綾子さんには僕に対する好感度を上げただけだし、優惟姉さんは自慰の手伝いを『自然なもの』と誤認させただけだ。
 目の前の危機を一個一個つぶしていくのが精一杯で、僕はまだまだ家族のために働いていないぞ。むしろ険悪な原因を増やしてしまっている。
 この二人の仲を良くするだけなら簡単だ。そのまま『仲良くなって』と催眠術でお願いするだけだし、僕の目的もあっさり達成されるだろう。
 時間をかけて家族を作る、なんて余裕してる場合ではなかった。まずは家族関係の改善をやってみるべきなんだ。
 その上で問題があるなら修正していけばいい。戦略変更だ。ものすごくやっつけ仕事な気はするけど、とにかく緊急的な対応が必要だ。
 僕は糸にぶら下げた五円玉を持って下へ降りる。
 そこではまだ綾子さんと優惟姉さんが「どっちが蓮を気持ちよくできたか」で言い争っていた。
 花純さんはそんな不毛な争いなど気づきもしないでイヤホン挿したままケータイをいじっていたし、睦都美さんは黙々と僕の残した食器の後片付けを始め、父さんは新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
 まず花純さんの前でひらひらと手を振る。そして面倒くさそうに彼女がイヤホンを外したところで、僕はコインを指で鳴らした。
 
 ――キィン!
 
 全員が、時間を止めた。
 僕はこの場の全員がこの音にひっかっかったことに手応えを感じた。
 
「これから家族の大事なルールを決めたいと思います」

 花純さんはイヤホンを持ったままぼんやりと僕を見つめ、優惟姉さんと綾子さんは口を開いたまま顔を合わせ、睦都美さんは食器を持ち上げようとする体勢のまま固まり、父さんも新聞の向こう側でたぶん同じような顔をしている。

「それは、家族はみんな仲良くするということです。お互いを思いやり、信頼し、会話を楽しむこと。それがこの家の一番大切なルールです。睦都美さんも家族と一緒だよ。みんなで仲良くしよう」

 ぼんやりしたまま、かすかに頷く家族のみんな。
 僕は安堵してコインを下げる。

「僕が手を叩いたら、みんな目を覚ます。僕が決めたルールに従って、それをいつもどおりだと思うこと。我が家は前から仲良し家族だよ。それじゃ、朝食を続けよう」

 パン、と手を打ち鳴らす。
 ふっとみんなの表情が緩んで、催眠状態が解ける。

「……えっと、それで蓮も喜んでくれたみたいだから、これからは私も蓮のお手伝いをしていきたいんだけど」
「ええ、いいわね。私も一応主婦だから、いろいろと優惟さんにもアドバイスできると思うの。今度、一緒に蓮ちゃんのお手伝いしましょうか?」
「いいんですか? ふふっ、よろしくお願いします」
「任せて。ふふっ、一緒にがんばりましょうね、蓮ちゃんのために」

 綾子さんと優惟姉さんが口調をがらりと優しく変えて、仲良くおしゃべりを続けている。
 内容はともかく、すごく和やかな雰囲気で。

「なに、蓮? あたしに何か用?」

 花純さんはいつものようにそっけないしゃべり方だけど、刺々しさはまるでなく、普通な感じで僕に小首を傾げている。
 用事はとっくに済んでしまっているので、「あー、いつも何分くらいに家を出てるの?」と、どうでもいい質問を思いつくまま口にする。
 花純さんは、「はあ?」とあきれたように笑った。

「なにそれ? あたしと一緒に学校行きたいの?」
「え、いやー、ていうか……」

 思わぬ切り返しにまごついた僕を、片方の唇の端を上げて花純さん薄く笑い、そしてスマホを置いて残ったパンを齧る。

「いいよ。じゃ、今日は花純お姉ちゃんと一緒にガッコ行こっか? 準備できたら言いな」

 甘えん坊な弟をからかうように言って、花純さんは「ごちそうさま」と席を立つ。
 意外な展開に驚く僕の前で、睦都美さんはいつもと同じように淡々と花純さんの食器を片付けていく。

「蓮さん、ミルクのおかわりお持ちしましょうか?」
「え?」

 睦都美さんが、片付けの手を止めて僕の顔を覗き込む。いつもの義務的な感じではなく、柔らかな口調で。
 確かにまだ時間に余裕がありそうだから、おかわりをお願いすることにする。

「はい、かしこまりました」

 笑顔こそ見られなかったけど、優しい顔で睦都美さんは頷き、キッチンへ向かっていく。
 地味なワンピースの後ろ姿をなんとなく見つめながら、僕は睦都美さんから今までにない親密感を感じ取る。
 じつは父さんの愛人である睦都美さんが、父さん以外の家族のことにこういう気遣いをしてくれることはあまりなかった。たかがミルクの一杯とはいえ、睦都美さんの内心で大きな変化が起こっていることは間違いなかった。

「今日は早めにうちに帰る」

 そして新聞を広げたまま、父さんがぼそりとそんなことを呟いた。

「晩飯はすき焼きにしてくれ」

 今日の最大の変化は、父さんの口からもたらされた。
 この人が、食事のメニューにリクエストを出すのは、僕の記憶にある限り初めてのことだった。

「はい」

 綾子さんが嬉しそうに微笑む。
 それは、団らんを描く幸せな家族を象徴する笑顔。
 これでいいんだ。もっと早くにやってしまえばよかったんだ。
 
 僕らは、こうして本当の家族になった。

「蓮、なにジロジロ見てんの?」
「え? あぁ、ごめんね」

 花純さんと一緒に登校する。
 信じられない光景だと、僕の横にいる1つ年上の彼女をついつい見つめてしまう。

「そういや蓮の担任って、五十嵐だっけ? あいつ去年さぁ――」
「へぇー」

 なんでもない会話。たわいのない学校の話。
 花純さんとそんなおしゃべりをするのは初めてだった。口調はあいかわらずぞんざいだけどツンツンした感じはない。花純さんは普段こんな風にしゃべるんだ。優惟姉さんはお堅い女の子って感じだけど、花純さんはずっとフランクで、ちょっとギャルっぽいというか、僕があんまりしゃべり慣れていないタイプだから緊張する。
 というより、『家族』としてフレンドリーに接してくる彼女に慣れなくて、違和感が強かった。

「じゃ、あたしこっから先に行くから。あんたはちょっと遅れて来なよ」
「え?」

 もうすぐ校門にさしかかるあたりで、突然、花純さんはそんなことを言い出した。
 言ってることが飲み込めなくて、僕は首を傾げる。

「弟と一緒に登校してきたって言われるの恥ずかしいじゃん。だからタイミングをずらすの」

 やや顔を赤らめて、「それくらいわかれ」と花純さんは僕の肩を軽くパンチして、さっさと先を歩いて行く。
 ちょっと残念だけど、ちょっと可愛いなと不覚にも思ってしまい、僕はその背中をしばらく見送る。

「おいおいおいおい! いいな、いいな、花純先輩たんと一緒に登校なんて!」

 空気を読まないことと、そのくせ妙にタイミングが良いことに定評のある悪友が、いつの間にか後ろにいたらしくいきなり肩に手を回してきた。

「いいよなー、相変わらず家族構成が神がかってるよな、蓮のうちって。もはやエロいことが起こらないほうがおかしいぐらいだぜ。お前、どっちの姉ちゃんで童貞捨てる予定? 余ったほうもらっていい? 俺、お前んちの母ちゃんでもいけるけど」
「父さんなら余ってるよ」
「マジ? まあ、お前の父ちゃんならいけるかもしれないなー」
「すまないけどホモは帰ってくれないか」

 肩に乗せられた手を払いのけ、校門へと向かう。
 後ろで悪友が、「独り占めはずるいぞー!」とわめいていた。
 独り占め、か。
 それに、エロいことが起こらない方がおかしい、か。
 なんとなく、その言葉がひっかかった。

「それじゃ、今日は蓮ちゃんのお手伝いを優惟さんを一緒にしようと思います」
「はぁ……」
「よ、よろしくお願いします、綾子さん」

 不思議な光景だった。
 学校から帰ってきて、着替えを済ませて、宿題を片付けてしまおうと思った僕の前に、綾子さんと優惟姉さんがやってきてそんな宣言をする。
 そういや今朝、そんなようなことを言ってた気がする。手伝いというのは……もちろん、オナニーのことだろう。

「じゃ、蓮ちゃんズボンを下ろして」
「え、いきなり? でも急にそんなことを言われても……」
「ふふっ、家族の前で恥ずかしがってもしかたないじゃない。せっかく優惟さんが勉強したいって言ってるんだから、蓮ちゃんもしっかりがんばってもらわないとね」
「ご、ごめんね、蓮。でもこういうことは宿題の前に済ませたほうが集中できると思って」

 真面目すぎる姉さんと、おおらかすぎる義母に挟まれ、僕は逃げ場を失ってしまう。
 この二人が仲良くなってくれるのは嬉しいけど、共通の話題がとりあえず僕のオチンチンについてっていうのが恥ずかしくてしかたない。
 当然、興奮よりも萎縮する気持ちの方が大きくて。

「あ……ちっちゃい」

 優惟姉さんの正直な一言が、ぐっさりと胸に刺さった。

「これはね、ちっちゃいんじゃなくて、普段はこのくらいのサイズなの。蓮ちゃんはまだ興奮してないのね」
「興奮前……つまり、平常時ってことですね。ふぅん、確かにあんなにいつも大きいわけないものね」

 綾子さんが優しくフォローしてくれる。そして優惟姉さんの正直な一言が、今度は自信に繋がった。

「蓮は今、オ、オナ……性的な気分じゃないのね?」

 優惟姉さんは慎重に言葉を選びながら、真っ赤な顔で僕のオチンチンを見つめる。
 そりゃいくら僕でも四六時中エッチな気分でいるわけじゃない。でも、こうして二人の美人にオチンチンを近くで見られることに、いつまでも興奮しないでいられるわけもない。

「あ、ぴくってなった。どうして? 寒いの?」
「ふふっ。違うわよね、蓮ちゃん。少しずつ……あったかくなってきたのよね?」

 僕の包皮から半分くらい覗く亀頭が、赤みを増していく。そして皮を押し広げるようにして膨らんでいく。
 その変化をじっくりと二人に観察されて、ますます恥ずかしい気持ちになっていく。

「す、すごいっ。こんなふうに大きくなるの? 発芽する植物のような……」

 でも、優惟姉さんの本気で驚く顔なんて滅多に見れないものが見れちゃったりもして、僕のオチンチンはむしろ誇らしげに大人であることを証明しようとしていた。
 むくむくと勃起が止められない。むしろ、もっと驚かせてやりたい気持ちになっていく。
 物知りで勉強が出来る優惟姉さんをビックリさせてやれることが自分にもあるっていうのが、嬉しくなってくる。
 
「これがボッキです。男の子が興奮するとオチンチンが大きく固くなるの。蓮ちゃんの場合、特に大きくなるタイプみたい。ふふっ、将来有望ね」
「そ、そうなんですか……蓮が将来有望……つまり、大物になるっていうことですね?」
「もちろん。女の子にもモテモテ間違いなしよ。だからお嫁さん選びは慎重にしないと。蓮ちゃんは可愛くて賢くて将来の大器だから、絶対に女の子が殺到すると思う。あと、悪い人妻とかに誘惑されたりしないか心配だわ……私の蓮ちゃんが……よその人妻になんて、そんな……」
「蓮、いい? むやみやたらに女の子に手を出しちゃダメよ。交際相手は1人だけに絞ること。付き合う前に必ずお姉ちゃんに会わせること。変な子に引っかかったら許さないんだから」
「そうよ。エッチなことしたくなったらママに言いなさい。蓮ちゃんが結婚するまで、蓮ちゃんの下半身のお世話はママがみますからね」
「お姉ちゃんもいるんだから。蓮は成人式終わるまでよその子に手を出すの禁止ね」

 むしろ、将来的にも僕に彼女が出来るのかどうかの方が心配だった。いや、まともな社会人になれるかどうかも。
 これだけ美人の母姉にオチンチンの面倒をみてもらえるなら、僕は喜んで自宅警備会社に就職するかもしれない。

「それじゃ、その……」

 さっそく、二人に面倒をみてほしい。
 恥ずかしくて口には出来ないけど、僕のオチンチンはそのぶん雄弁に僕の気持ちを震えて語ってくれた。
 ゴクリ、と優惟姉さんが唾を飲み込んでいた。

「そうね。いつまでも蓮ちゃんのオチンチンちゃんを待たせるのはかわいそう。ふふっ」

 綾子さんの細い指が僕のに絡んでくる。
 ドキっと心臓が跳ね、僕のオチンチンもびくんとなる。

「敏感よね……ふふっ、ママは蓮ちゃんのオチンチンの大きさとか色とか、いっぱい好きなとこあるけど、一番好きなのはやっぱり敏感なところだなぁ」

 優しく撫でられる感触にゾクゾクと震える。
 綾子さんは妖艶に微笑み、優惟姉さんは恥ずかしそうにチラチラと僕のそこに視線を向け、それぞれの表情に余計に興奮させられる。

「優惟さんは、昨日は手でしてあげたのよね?」
「そ、そうです。その状態で、こう……上下に揺すりました」

 手を筒のように丸めて、シコシコと昨日してた動きを綾子さんに見せる優惟姉さん。真面目な顔してそんなことする姉さんが、なんだか微笑ましくて、やらしい。
 
「こう?」

 綾子さんの手がゆっくり上下する。
 ゆうべ、優惟姉さんがやったとおりに。いや、もっと柔らかいスナップと絞るような強弱を付けて、いやらしい刺激があった。

「……そうです、けど……なんだか、綾子さんの方がやらしい……」

 優惟姉さんもそのことに気づいたのか、メガネの位置を直して瞠目している。
 綾子さんは、シコシコと僕のを擦りながら、するりと人差し指で僕の先端をまたぎ、中指との間を割って擦るような変化を加えてくる。
 敏感な亀頭を刺激されて、思わずうめき声を上げる。綾子さんはシコシコを続けながら、時折そうやって僕の先端を撫で、刺激を変化させてきた。

「あ、あの、綾子さん、それは?」

 優惟姉さんが人差し指を立て、綾子さんがしているみたいに左右にヒョイとずらす。
 綾子さんは、誇らしげに笑みを浮かべて答える。

「男の子を喜ばせるテクニックの一つよ。この先端の部分が一番敏感なの。だからシコシコするときも、茎の方だけを擦るんじゃなくて、ここの出っ張ったカサの部分も引っかけるように擦るの。それで、人差し指の柔らかい部分で時々先っちょも撫でてあげる。さらに中指と人差し指で疑似オマンコを作って挿入する感触も味わってもらってるの」
「疑似……ッ!?」

 綾子さんの大胆な発言に、優惟姉さんは思わず復唱しそうになったらしく、慌てて口をつぐむ。
 言った本人も、頬を赤らめ、興奮と恥ずかしさの交じった表情を浮かべる。

「そう、疑似オマンコ。男の子のオチンチンは女の子の体を貫くのが本当の仕事でしょ。だから、何かに割って入る刺激が好きなの。こうやって、ちょっと狭いところへ潜っていくのが――」

 するすると、綾子さんの人差し指と中指が作る狭いスペースで、僕のオチンチンが擦られる。
 引っかかるような感触が気持ちよかった。まるで綾子さんの唇の中で擦られたときみたいに。

「好きなのよ、男の子は」

 優惟姉さんは、綾子さんの指の形を真似して、呆然とした表情のままコクコクと首を縦にふっていた。

「じゃ、優惟さんがやってみて」
「え、私が……は、はい、やってみます」

 僕のを擦る指が交代する。ひやりと冷えた姉さんの指に、思わず腰が震えてしまう。

「い、いくね」

 余裕のない姉さんはさっそく僕を擦り始める。
 シコシコと、昨夜と同じように。いや、さっきの綾子さんの動きを真似しようと、昨日よりもぎこちなく。
 僕の顔とオチンチンと、視線を忙しなく動かしながら姉さんは真剣な顔をしている。

「擦るときはね、気持ち前に引っ張るような感じで。男の子は精子をたくさん外に出したいんだから、それを助けるような動きで擦って上げるの。でも強くしすぎても痛いだけだから。ほんの気持ち、心がけるようにして」
「はい。引っ張る気持ち……出させてあげるつもり……」

 ますます姉さんは真剣な顔になる。僕の顔をじっと見上げたり、自分の動きをじっと確認したり、とにかく真面目にオチンチンをシコってくれてるのがおかしいというか、嬉しいというか、逆にエッチだった。
 少しずつ動きがスムーズになり、僕の感じる刺激も安定してくる。さすが僕の優惟姉さんは飲み込みが早い。
 
「……人差し指、いきます」

 わざわざそう宣言して、優惟姉さんはさっき綾子さんがしてたみたいに指で亀頭を撫でる。でも指の間に僕の先っちょが引っかかり、強い刺激になったものだから、思わず僕は呻いてしまった。

「ご、ごめん。痛かった?」

 姉さんが僕のを握ったまま心配そうな顔をする。痛いわけじゃないけど、予想してたより強い刺激が来たのでビックリしてしまった。

「蓮ちゃんは敏感なの。痛くはないけど、急に強くされるのは好きじゃないのよね?」
「そ、そうなんですか……ごめんね、蓮」

 綾子さんが僕の言いたいことを代弁してくれた。というより、2日ほど面倒をみてくれただけで、もう僕の好みとか把握してしまっているのか。
 女の人ってすごい。それとも、綾子さんがそういうの得意な人なのかな。

「ゆっくり高めてあげるのが蓮ちゃんの好みよ。大事なことだから覚えておきましょう」
「はい、綾子さん」
「じゃあ、次はこのあたりを少し撫で撫でしてあげましょうか?」

 綾子さんはそう言って、僕のカリ首の裏の繋がってる部分を指先でくすぐる。
 敏感なところを撫でられ、ぞくぞくしてしまった。

「ここですか?」

 優惟姉さんが同じところをくすぐる。単純で優しい刺激なのに、ピンポイントで弱いところを責められて腰が砕けそうになった。

「あと、ここからスーッて」

 次に綾子さんは、いわゆる裏スジと呼ばれる部分を指先でひと撫でする。そこも弱い部分だった。

「オチンチンって、よく観察すると攻略は簡単なのよ。ちょっと他と違う部分があるなって思ったら、だいたい弱点。無防備で可愛いよね。優惟さんは頭がいいから、きっとすぐにオチンチンマイスターになれると思うわ」
「マ、マイスターって……いいんです、私はそういうの目指してませんから」
「ふふっ、そう?」

 恥ずかしそうにしながら、姉さんは綾子さんがしていたように裏スジを撫でる。
 そして、じっと僕のオチンチンを見ているなと思ったら、いきなり、スッと尿道口を指で撫でられた。

「うぅッ!」
「え、痛かった?」
「いや……そうじゃないけど」

 優惟姉さんは、ちょっと嬉しそうな顔して、「ここも弱点だった?」と僕のオチンチンを握りしめ、逃げられないようにしながら尿道口をくすぐってくる。
 僕は悲鳴を上げ、そしてそこも重要な弱点であることを白状させられた。

「ほら、やっぱり優惟さんは才能あるわ。天才よ」
「そ、そんなことありませんよ。だって、どう見てもここは怪しいって誰でもわかると思うし……」

 とか言って、どうして満更でもなさそうな顔して照れてんだ。
 綾子さんも綾子さんで、おそらくわざと姉さんに気づかせるよう誘導したに違いない。ドヤ顔でほくそ笑んでるし。
 姉さん。あなたは綾子さんに調教されているのかもしれません。

「さて、だいたいの弱点がわかってきたところで、ちょっと駆け足だけど次のテクニックを覚えてもらいます」
「あ、はい。お願いします」

 すっかり綾子さんの弟子になった優惟姉さんが、膝を正して向き直る。

「次はお口でしてみましょうか」
「え、お、お口ですか?」

 姉さんは、口元を隠して恥ずかしそうに僕の顔を見上げる。
 
「でも姉弟で、キスはちょっと……」
「……え? 違う違う。キスじゃなくてフェラのことよ」
「フェラ? フェラってなんです?」

 きょとんとする姉さんに、僕と綾子さんもきょとんとなった。
 目をパチクリさせて僕らを見回す様子はとぼけているようには見えない。本気で知らないときの顔だ。
 姉さん、あなたって……イメージを裏切らない人ですね。

「優惟さん、フェラチオって聞いたことないの?」
「フェラチオ、ですか……聞いたことない言葉ですけど、何かの略ですか?」
「え、フェラチオって何かの略なの?」
「いや僕に振られても」

 たぶんラテン語あたりじゃないか。エッチな言葉ってだいたいラテン語だし。
 おそらく、当時スケベに関しては世界の中でも先鋭的な人たちの言語だったんだろう。最近、日本語のHENTAIが万国共通語になろうとしていると同じで。
 しかしそんなことは今はどうでもいい。
 優惟姉さんにフェラチオ。
 それって、当たり前だけど、僕が姉さんにしてもらうってことだよね?

「それじゃあ、綾子さんが優惟さんに実践して教えてあげます。ただし、優惟さんが今まで想像したこともないくらいすごくエッチなことなので覚悟してください」
「う、お手柔らかにお願いします……」

 緊張した表情で綾子さんに頭を下げる優惟姉さんに、僕は奇妙な興奮を感じていた。
 フェラチオという言葉すら聞いたことのなかったウブな実姉に、今から義母がその行為を教えて弟で実践させる。
 そのことに僕のHENTAIの血が騒いだ。いや決して自分がHENTAIだとは思ってないんだけど、でも、禁断の行為に及ぼうとしている今、近親相姦の嫌悪感よりも好奇心の方が僕の中で勝っていた。
 姉さんは、どんな顔してオチンチンをしゃぶるのかなって思うと、素直に男心が刺激される。
 
「それじゃ、優惟さんは私がすることをまず見ていて」
「はい……えっ!?」

 綾子さんが僕のオチンチンをぺろりと舐める。優惟姉さんはギョッと目を丸くする。僕は快感に腰を震わせる。

「んっ、れろ、れろ、んっ、ぴちゅ……」

 ちろちろと舌が僕のオチンチンを丁寧に這っていく。
 柔らかい感触と濡れた音。手でしてもらったときの方が刺激は強いけど、義母が僕の足元に跪いて、犬みたいにぺろぺろ奉仕しているというビジュアルが手コキ以上に僕の興奮をあおる。自分の顔が緩んでしまうのがわかる。

「え、く、口でするって、そういう意味……い、いいんですか、そんな汚いところを舐めて。臭くないんですか? おしっこ付いてるんですよ? 大腸菌とか大丈夫なんですか? あと、その他感染症等のリスクは?」
「んっ、優惟さん、そんなこと言っちゃダメ。こういうときはね、んっ、『あなたのオチンチンだから汚くない』って言っておきなさい。実際は、んっ、確かにばっちいし、臭いわ。でも、そこをあえて『あなたのなら平気だもん』って可愛いことを言うのが女子の嗜みなの。というよりも、んっ、そう言っといたほうが、好感度は上がるし、んっ、男の人は早くイクし、クレバーなやりかたなのよ。あと、フェラでお腹を壊したことはとりあえずないからたぶん大丈夫。でも、んっ、何が付いてるかわからないから、後で必ずうがいか歯磨きしてお口の中を清潔にして。あと、どうしてもしたくない気分のときは、とりあえず『虫歯』って言っとけばサボれるから、覚えておくといいよ、ちゅぶっ」

 そうだったのか。勉強になるなあ。
 でも、できればそういう話題は女子だけのときにして欲しかったよ。

「な、なるほど……つまり、この男性に対して健気に見える姿勢を含めての愛撫、ということですね?」
「んっ!」

 僕の先っちょをチロチロしながら、綾子さんは優惟姉さんに親指をグッと立てる。
 優惟姉さんは真剣な顔をして頷く。
 僕はまるで保健体育の教材になった気分だった。

「さ、次は優惟さんの番」
「やっ、やっぱりやらなきゃダメなんですか?」
「平気よ。これくらい今どき誰でもしてるんだから。それに、男の人は手よりお口でされる方が好きなのよ」
「本当に、蓮?」
「きゅ、急にふらないでよ」
「いいから。蓮はお口でされる方がいいの?」
「うん、その、そっちがいい」

 姉さんは、メガネ越しにジトっと僕を睨んだ。

「やらしい」
「自分で言わせたんでしょ!?」

 しかたないじゃないか。男の子なんだもの。
 正直、手でも口でも射精させてもらえるならありがたいのは同じだけど、綾子さんもそんなようなこと言っていたとおり、女の人が奉仕してくれているっていう感動は口でしてもらってるときの方が大きい。
 それに、口の中でもにゅもにゅされると、なんだか温かくて安心できるんだ。セックスはまだしたことないからわからないけど、女の人に包まれる気持ちよさっていうのは手でしてもらうより実感できる。それが嫌いな男なんていないと思うんだ。
 
「仕方ないなぁ……ちょっとだけだからね?」

 そういって優惟姉さんが僕のオチンチンに開いた口を近づけてくる。
 僕は思わず腰を引っ込めてしまった。

「な、なによ? 嫌なの?」
「違うよ、その、でも、本当にいいのかな?」

 フェラは好きだ。たぶん、僕は女の子に口でされるのが大好きだ。
 でもそれを実の姉にしてもらうのは、ホント今さらなのはわかってるけど、いざとなるとさすがにちょっとやばい気がして腰が引けた。
 優惟姉さんは、ちょっと機嫌を悪くしたみたいだった。

「いいのかなって……まあ、お姉ちゃんは別にいいわよ。家族なんだし蓮のお手伝いくらいするわ。確かにお口でするのは初めてだけど、蓮だってこっちの方がいいんじゃないの?」
「え、あ、そ、そうだけど」
「それとも、蓮は綾子さんじゃなきゃフェラチオさせないっていうの?」

 姉さんは唇を尖らせる。綾子さんは目をくりっとさせて嬉しそうに微笑む。
 そうじゃない。僕は血の繋がりのことを言っている。
 でも、姉さんがこんなことを言ってるのも僕もせいだ。僕が催眠術で「オナニーを手伝うのは家族なら当たり前」と姉さんの常識を変換させたから。
 義理の母へのライバル意識と肉親への愛情で姉さんは僕にフェラチオすると言ってくれてるけど、本来の姉さんなら間違っても許すはずのない行為だ。
 これを受け入れてしまったら、僕はいよいよ倫理的危機を迎える。姉さんを催眠術で騙していやらしいことをさせ、なおかつ、それに興奮するような男に堕ちてしまう。
 手でしてもらったあとで姉さんの常識を戻しておけばよかったんだ。記憶の消去くらいならきっと催眠術でも出来たはずなのに。僕は自分の催眠術に舞い上がってしまっていた。
 姉さんは……姉さんなんだぞ?
 何をさせようとしているんだ、僕は。

「えいっ」
「あっ!?」

 という、煩悶をしている間に業を煮やした優惟姉さんが、僕のオチンチンを握って先っちょを舐めてきた。
 ゾクっと腰が震える。
 姉さんはそのままチロチロと舌を動かしながら、頬を赤くして僕を見上げてくる。
 その表情に、実の姉さんが僕のを舐める姿に、頭の奥が痺れて目が眩んだ。

「気持ちよさそうな、んっ、顔してる。なによ、やっぱりして欲しかったんでしょ? んっ、んっ」

 あぁ、優惟姉さんにフェラチオさせてしまった。
 姉さんが僕のことを愛してくれているのと同じように、僕も姉さんを家族として愛している。
 家族にしゃぶられる甘さと苦さ。禁断の果実の毒は、倫理感と正義を腐らせる。
 ごめん、姉さん。ごめんね、母さん。

「き、気持ちいい」

 僕は拳を握り、快感に耐えながら正直な感想を姉さんに伝える。

「ふふ、そう?」

 姉さんは意外なくらい嬉しそうな顔をして、僕のをますます熱心に舐めてくれる。

「お姉ちゃんのことは気にしないで、いっぱい気持ちよくなりなさい。……蓮のオチンチンなら、お姉ちゃん平気よ?」

 教えてもらったばかりのセリフを言いながら、僕のことを見上げて微笑む。
 本心から言ってるんじゃないってわかってるのに、やっぱり嬉しくなっちゃう男って本当に単純だと思う。

「んっ、れろ、れろ、ちゅる」
「あ、姉さん……」

 僕の先端を軽く唇で挟むようにして、にゅるにゅると舌を使って舐め回す。
 尿道口は姉さんが自分で見つけた僕の弱点。そこが姉さんも気に入ってるらしく重点的に攻めてくる。

「ちゅ、んんっ? なんか、しょっぱい。蓮、何か出した?」
「えっ、その、それは、あの」
「ふふっ、優惟さん、それは先走り汁よ。カウパー液っていうやつ。聞いたことあるかしら?」
「先走り汁? それって、男性器の尿道球腺から分泌させる液体のことですか? つまり、女性でいうところのバルトリン腺液に該当するもので、一般的にはカウパー氏腺液と呼ばれるもの。蓮は性交のための潤滑剤を分泌したわけですね?」
「えっ、はい、そうです。たぶん」
「そうですか。もっと油っぽいものかと勝手に想像してましたが、成分的には女性のものと大きく違いはないみたいですね。これって、舐めるの続けても大丈夫なんですか? 本来の目的を考えれば、舐め取らずに伸ばしてあげるべきと思いますが?」
「う、うん。いえ、いいのよ、フェラチオのときはとくにそれ使わないし。どんどん舐めてあげて。蓮ちゃんが喜んでくれてる証拠だから、『たっぷり出してね』とか言ってあげて」
「わかりました。んっ、んんっ、尿道球腺をたっぷり分泌させてね、蓮?」
「……優惟さんの知識のギャップには驚かされるわ……」

 わかる。
 姉さんて、そういう人だ。

「じゃ、次はこうしてみましょう」

 綾子さんは姉さんから僕のオチンチンを取り上げると、ぱくりと咥えた。
 そして、そのまま顔を前後に揺すり、僕のを唇で擦ってくれる。
 じゅぶ、じゅぶ、ぢゅう、ぢゅぽん。
 強い吸引と唾液まじりの摩擦が、いやらしい音を立てる。刺激がきつくて思わず僕も呻いてしまう。

「す、すごい……」

 アイスをしゃぶるように。
 というよりも、ドネルケバブを口でこそげ落とすような激しい綾子さんの愛撫に、僕と姉さんは圧倒されていた。
 頭の後ろが痺れる感じ。腰から下が全部綾子さんに吸われていく。あぁ、もうダメかも。出る。出ちゃう。
 やっぱりママがナンバーワンだ……!

「はい、こんな感じ」
「あぁっ、そんな……っ」

 でゅぽん。
 イク寸前で綾子さんは口を離し、快楽の寸止めを味わった僕のが、濡れた体で哀れに震えた。

「優惟さん、見て。蓮ちゃんのがヒクヒクしてるわね」
「は、はい。今にも爆発しそうで……ひょっとして死ぬんですか、これ?」
「いいえ。これがイク寸前ってことなの。このぷくぷくした可愛い小袋の中で、蓮ちゃんのお精子がフットーしてるのよ。ふふっ、かぁいい」

 綾子さんが爪で僕の袋をなぞる。
 びくっ、びくっと僕のオチンチンが跳ねて、優惟姉さんが短い悲鳴を上げる。

「早くイきたいのよね、蓮ちゃん? 優惟さん、続きをしてあげて」
「わ、私がですか?」
「そうよ。お姉ちゃんが、蓮ちゃんを最後まで気持ちよくしてあげるの。最後まで、の意味はわかるわね?」
「……はい。知ってます」
「それじゃ、私がしたようにやってみて」

 僕は口の中にたまったツバを飲み込んだ。優惟姉さんも同じ音を立てた。
 綾子さんみたいなフェラチオを姉さんが。
 想像しただけで腰がうずく。きれいで、真面目で、エッチなことなんて絶対しないような優惟姉さんが、僕のオチンチンをくわえてジュブジュブするとかありえない。
 でも、姉さんの開いた口が僕に近づいてくる。目をぎゅっとつむり、あごを震わせて、小さな舌も覗かせている。
 誰も汚したことのない姉さんの唇が、僕のに――吸い付いた。

「んんっ!」

 優惟姉さんが驚いた声を出す。「歯を立てちゃダメ」って、すかさず綾子さんが姉さんのほっぺたをつかむ。

「味のこととか匂いとか、今は気にしちゃダメ。あなたは今、弟の一番大事な部分を咥えているの。お姉さんなら絶対に歯を立てちゃダメよ。そのままじっとして、いい?」

 姉さんのほっぺたを掴んだまま、綾子さんがゆっくりと手を動かす。ぬるりと姉さんの唇が僕のオチンチンを擦っていく。
 先っぽの方まで口が抜けたあたりで、姉さんは「ふはぁ」と安堵の吐息をこぼした。その生ぬるい息が股間にくすぐったかった。

「今度は、吸って。吸いながら飲み込んでいくわよ」
「……う」

 姉さんが何か言いかける前に、綾子さんは姉さんの顔を前へ押し出してくる。僕のが口にズブブと埋まっていき、姉さんが「んむぅっ」と眉を寄せた。

「歯を立てない。大丈夫ね? 本当はもっと深くまで飲み込んであげなきゃいけないんだけど、それはやりながら自分で挑戦していって。飲み込んで、ゆっくり出して。吸って、舐めて、お口の肉を上手く使ってたくさん擦ってあげるの。まずは、今したみたいに顔を前と後ろに動かして」
「……んっ、ふぁい。ん……じゅぶ……ず……」

 姉さんが僕の咥えて顔を動かしている。
 お上品に、なるべく音を立てないようにと、そっちにばかり気を使っているらしく、綾子さんと比べるととても大人しいフェラチオだ。
 にゅるにゅると動く唇の感触は気持ちいいけど、姉さんはギュッと目をつぶって僕の方を見てくれないし、綾子さんみたいに口の中で舌でペロペロとかヂューヂュー音立てて吸ってくれたりとかしてくれないので、愛撫としては「へたくそ」と断じるに些かの躊躇もない。

「んっ……ふぅ……ん……ず……」

 でも、この感じはなんだろう。
 小さい頃からよく知っている人が、僕のオチンチンを咥えている。
 一緒にお風呂に入ったり、お漏らししたときの世話もしてくれたり、僕が犬に追いかけられて泣いてたときには自分も泣きながらホウキ振り回して追っ払ってくれたり、眠れないときは添い寝してくれたりした、あの優惟姉さんが。
 生まれたときからずっと僕の味方だった優しいあの姉さんが、僕を射精させるためにオチンチンをしゃぶっているんだ。
 じわっと、目に涙が浮かんだ。優惟姉さんが大好きだと思った。
 罪悪感だってもちろんあったけど、それ以上に、彼女は僕のためならこんなことだってしてくれるんだっていう喜びと愛情の再確認と、そして何より、この姉さんの弟だという優越感に心が満たされた。
 幸せで胸がいっぱいだった。

「優惟さん、下手ね」
「うっ……」

 しかし、綾子さんは些かの躊躇もなく姉さんを断じた。
 そしてもう一度手本を示すために僕のを咥えると、いやらしく舌を絡ませる。

「可愛い蓮ちゃんのオチンチンなんだから、もっといっぱい愛してあげないと。ホラ、こうやってさっきも舌で舐めてあげたでしょ? お口の中でもいろいろ擦り方や舐め方があるの。おっかなびっくりでしゃぶっていたら、蓮ちゃんだっていつまでもイけないわよ」
「あ、愛してって言われても、姉弟ですし……」
「愛よ。そうじゃなかったら、そもそもこんなこと出来ないわ。じゃあ優惟さんは違う男性にも同じこと出来るの?」

 姉さんは、苦いもの噛んだような表情を作り、真っ赤になった。

「そ、それは私だって、結婚くらいするつもりありますから。夫になる人には、するかもしれませんけど」
「ホラ、やっぱり愛でしょ。好きな人にだから出来ることよ。ラブラブでしょー」
「弟だからしてるだけですってば。変な理由なんてないです。綾子さんって、子どもみたいですね」
「んー、私はそれを愛と呼びたいだけなのになー」

 僕が2人に与えた催眠暗示はそれぞれ違う。
 綾子さんは僕に対して『無償で膨大な愛』を注ぐように感情操作されている。しかも常に愛情表現をしていないと僕が失われるという恐怖も無意識に抱いている。そのせいで暴走しがちな愛情は、彼女自身の性欲にも結びついて多少のエロにも寛容的。むしろ義理関係なのを良いことに息子の肉体を積極的に求めてきている。その結果、僕もフェラチオの気持ちよさを知ってしまったわけだけど。
 でも優惟姉さんは『家族同士でオナニー手伝うのは当然』という誤認でこんなことしているだけで、特別な感情など持っていない。姉としての責任感や家族愛が動機なので、必要以上に高ぶったりもしていない。さっさと終わらせて勉強に戻りたいとでも思っているのだろう。
 僕も、姉さんの初々しいフェラに甘えて、つい勘違いしそうになってた。
 優惟姉さんは僕を男性として愛してくれているわけじゃない。あくまで弟としてだ。僕のオチンチンを握りながら将来の夫のことを想像する姉さんに一抹の寂しさを感じないでもないけど、僕だって血の繋がった姉さんに異性としての愛やセックスを求めるつもりはない。
 ただ、将来の義兄のためにも、より良いフェラチオを覚えてもらいたいとは思う。

「姉さん、お願い。僕、もうイきたいんだ」
「……しょうがないわねえ」

 赤らんだ顔をしかめて、優惟姉さんが再び僕のを咥える。
 さっきよりも少しは工夫をこらしてくれて、口の中でモゴモゴ舌が動いているのがわかった。綾子さんに比べれば不器用な絡みだけど、教わったとおりに僕の敏感な場所を刺激しようと狙っているらしく、くすぐったさと気持ちよさの混じった感覚にゾクゾクした。

「んっ、ぐちゅっ」

 顔が前後に揺すらされる。僕の足元にぺたんと座って、口だけで僕のに繋がり、キツツキみたいに顔を揺する優惟姉さん。
 なんだか可愛らしく思えた。思わずその頭を撫でていた。

「その調子。蓮ちゃんも嬉しいみたいよ」
「んんっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ちゅぶっ」

 姉さんの速度が若干増して、水音も大きくなっていく。
 お上品なフェラチオをやめて、いやらしくなった姉さんの唇が僕の幹の周りでめくれあがり、生々しく唾液が濡れて光る。

「オチンチンを握った方がしやすいわよ。ついでに、キュッキュって締めてあげたり、擦ってあげるのも気持ちいいのよ」
「はい、んっ、こう? んっ、ちゅぐっ、ぶちゅ、ぐっ、んっ」

 姉さんの細い指が僕のに絡み、キュッと締め付けてくる。
 固定されたオチンチンに姉さんの唇はなめらかにピストンする。
 舌は動きを複雑にしていく。
 たまに擦れる歯の固い感触すら、程よい刺激に感じられるほど僕のオチンチンも固さと興奮を増している。

「疲れたらお口を離してもいいのよ。その代わり、手でコスコスしたり舌で尿道口のあたりをチロチロしてあげたり、オチンチンを冷まさないようにね」
「んっ……はぁ……はぁ……れろれろ」

 いったん口を離した姉さんは、呼吸を乱したまま、言われたとおりに指で僕のを擦り尿道口を舐めてくる。
 ピンポイントな刺激に、思わず僕も仰け反った。

「あぁっ、おねえちゃん……ッ!」

 ビリビリと腰が痺れる。ついつい『おねえちゃん』なんて子供の頃みたいな甘えた声を出してしまった。
 ふと、姉さんの舌が止まる。そして、僕の顔を見上げている彼女と目が合った。
 かぁっと、彼女の顔が赤くなっていく。
 と、思ったらいきなりジュブブと僕のを咥えて、激しく顔を前後に揺らしてきた。

「あっ、あっ、おね……姉さん! ダメ、あっ…!」

 ジュブ、ジュブ、ヂュグ、ジュブ。
 お上品さも欠片もない愛撫は綾子さん直伝のスケベさで、僕のはおそらく先走り汁を大量に垂らしているはずなのにお構いなしに姉さんは吸い取っていく。
 あまりにも強い刺激に頭がくらくらする。情けない声を出しながら、姉さんの頭に手を添えて、されるがままに僕はフェラに翻弄された。

「ふふっ、優惟さんったら。蓮ちゃんの感じてる声にキュンってきちゃったんでしょ?」
「じゅぶっ、じゅぶっ、れるっ、ぢゅう、ぢゅ、ぢゅっ」

 綾子さんの冷やかしも一顧だにせず、姉さんはひたすら濃厚なフェラを続ける。「はっ、はっ」と僕は必死で呼吸する。
 ずりゅっ。姉さんが顔の角度を変えて、ほっぺたの肉で僕の先端を擦った。僕は思わず悲鳴を上げた。
 ずりゅっ、ずりゅっ。頭のいい姉さんは僕の快楽のサインを見逃さず、さらに顔の角度を工夫して舌も絡めてくる。前後だけではく、左右に顔を振ったり、上あごで擦ったりもしてくる。
 すごい。やっぱり僕の姉さんはすごい人だ。「あぁっ、あぁっ」と、カラスみたいに間抜けな声を出しながら、僕は姉さんのきっちりと結んだ髪に指を入れる。姉さんは両手で僕のオチンチンを握り、吸い付きを強くしていく。

「姉弟って、いいわね……」

 うっとりと目を細める綾子さんの前で、僕たち姉弟は性の匂いをますます強め、だらしない声とスケベな吸引音で快楽に溺れていく。
 
「ぢゅっ! じゅぶっ! ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ、ぢゅっ! んっ、んっ、はむぅ!」

 甘噛みされた。優惟姉さんが僕のオチンチン噛んでる。
 もうダメだ。我慢できないよ、こんなの。
 噛んだあとの優しい舌の愛撫が、「もういいのよ」って姉さんに言ってもらってる気がした。

「出るっ、出る……おねえちゃん…ッ!」

 頭の奥がパチパチした。
 おしっこに近いくらいたくさんの塊が僕のオチンチンを通り抜け、一気に噴き出す。姉さんの口の中で爆発するような感じだった。

「むぐっ!?」

 姉さんは目を丸くして、ドプドプと流れ込む精液を喉で受け止める。
 みるみる顔が青くなり、僕のオチンチンから顔を離してむせこんだ。容赦を知らない僕の射精は、その横顔と髪にも精液をぶっかける。

「げほ、えほっ」
「優惟さん、ティッシュ。ここに出しちゃいなさい」

 綾子さんが手渡すティッシュの上に、姉さんが舌を伸ばして僕の精液を垂らす。
 口の中に溜まった白い液体は、自分でもちょっと引くくらいの量だった。それでもまだ完全に出し切ってない精液が、ムク、ムク、と小さく脈動しながらカーペットに染みを落としていった。
 真っ白になっていた頭の中に現実が戻ってくる。むせ返るようなオスの匂い。いつもの僕の部屋。綾子さんと優惟姉さん。
 射精を終えた倦怠感が、僕の行き過ぎた興奮を引き剥がして代わりに冷静を連れてくる。

「うえ、変な味……ネバネバ……」

 姉さんの唇からあふれ出る、僕の精液と小学生並の感想。
 達成感はもちろんあるし、姉を汚してやったという暗い悦びもあった。
 でもその光景はどこか非現実的で、射精後の虚脱感の訪れと一緒に僕から零れ落ちていく。
 どうして姉さんが僕の精液を口から出してるんだろうって、他人事みたいに目に映った。

「優惟さん、精液は一滴残さず飲んであげるのが女性の嗜みよ」
「綾子さんの言うことって、時々ウソくさいです」
「ひっどーい。ウソじゃないわよ~」

 仲良く精液の後始末する二人。
 気だるくなった体をベッドの上に腰掛ける。この性格も考え方も違う義理の母娘が仲睦まじくする姿に覚える違和感。それは僕が催眠術で望んで作った関係のはずだった。
 あまりにも昨日までの日常と違いすぎるその光景が、僕自身を軽く混乱させている。

「蓮、さっきから肉ばっか食ってるんだろ。なくなるの早すぎるって」
「花純、まだお肉はあるんだからゆっくり食べなさい」
「蓮もお肉ばっかり食べてちゃダメよ。おネギも食べなさい」
「ふふっ、蓮ちゃん、ママが取ってあげる。お豆腐は平気?」
「みなさん、お野菜は足りてますか? まだ切りましょうか?」
「お願いします、睦都美さん。みんな、お肉もまだまだ食べられるわよね。あら、あなた、もう食べないんですか? おビールにしましょうか?」
「あぁ」

 これが、僕の望み描いていた三沢家の団らん。
 花純さんは年の近い弟である僕に絡んできて、優惟姉さんもいつもの淡々とした口調で会話に交じってきて、綾子さんはニコニコと子どもたちの食事を見守り、睦都美さんは僕らのお世話を焼いてくれて、さっさと食事を終えた父さんは海外の業界新聞を開いてるけど、テーブルのそこにはいてくれて。
 一つの鍋をみんなで囲んで、ワイワイと会話をして、ちょっとケンカもしたり笑いあったり、賑やかな声が絶えない。昨日までなら考えられないことだった。まさしくこれは、普通の、幸せな家族の姿だ。僕が思い描いていたとおりの。

「蓮、このへんも食えよ。煮えてるぞ」

 花純さんが、なんだかんだと文句言ってたくせに、僕の小鉢に肉を入れてくれる。

「おネギも煮~えた」

 優惟姉さんが、僕以外の家族の前では見せたことない明るい笑顔で、僕の小鉢にネギを入れる。
 
「蓮ちゃん、サイダーでいい?」
「卵を足しましょうか?」

 綾子さんが空いたグラスに炭酸水を注いでくれて、睦都美さんが甲斐甲斐しく僕らの面倒を見てくれる。
 そして父さんは、相変わらず口数少なく、家族の中心の席に座っている。

「……ありがとう」

 誰にともなく、自然と感謝の言葉を言っていた。
 そうして口に出してみてから、あらためてその空々しさに寒くなった。
 ぐつぐつと煮える鍋。笑う家族。僕の夢見ていた幸せな光景に、心はなんだか冷えていく。
 興奮に身を任せて姉さんの口腔愛撫を受け入れたあの熱さが、恋しくなる。

「蓮、どうかしたの?」

 優惟姉さんが箸をおいて、僕の顔を覗き込む。花純さんも箸を咥えたまま小首を傾げて僕を見る。

「……僕はやっぱり、どこかおかしいのかもしれない」
「え、なに、蓮?」
「蓮ちゃん、何か言った?」

 何かが違うんだと思った。僕は家族がみんな仲良く笑っていられればそれで幸せだと思っていた。
 今でもそれは間違ってるとは思わない。でも、僕の中で噛み合わない異物感がゴロゴロと心をかき乱す。
 催眠術でようやく手に入れたはずの平穏が、まるで友達から最強セーブデータをもらってクリアしたゲームみたいに、虚しく見えた。
 そして僕は優惟姉さんの唇を見る。綾子さんのおっぱいを見る。オチンチンが疼くのを感じて、逆に気持ちが穏やかになっていく。
 おかしのは僕だ。家族を以前と同じような目で見れなくなっている自分だ。
 だから、こんなにも心がざわめく。一緒のテーブルでただ食事をするだけのことが、こんなにも落ち着かないなんて。

「蓮、本当にどうしたの。何か変なの入ってた?」

 偽物だった。
 この光景は白々しい僕の妄想で、キャストが演じているだけだ。
 催眠術で暴いてきた家族の本性と、そして催眠術で芽生えた僕の本性が、この間違い探しのような笑顔に悲鳴を上げている。
 とにかく今は、この空々しい家族ゴッコから早く逃げ出したい。息が詰まって死にそうだ。

 ――キィン!

 コインはポケットの中に常備している。僕は食卓の前で軽やかな音を立てる。
 
「……今朝、僕が決めた家族のルールは無効にします」

 ぐつぐつと湯気を立てる鍋の音しかしない。
 虚ろ色になった瞳を僕に向けて、みんな緩く口を開いている。

「別に、無理して仲良くする必要はありません。みんな、それぞれの自分に戻りましょう。今朝までの僕らに。僕が間違ってました。これは……僕たちらしくない。そうだよね? みんなもそう思ってるんだよね?」

 優しい母親になろうとしながら、その反面でどうせ無理と諦めて家族を拒絶している綾子さん。
 僕以外の家族を拒み、家族から離れて自立することを人生の目標にしている優惟姉さん。
 トゲトゲの反抗期をむき出しにして、誰にも心を開こうとしない花純さん。
 家族とは目も合わせようともしない父さんと愛人の睦都美さん。
 そして、義理の母と実の姉にいやらしいことをさせている僕。
 これが僕たち家族だ。
 本当の家族なんだ。

「もう、やめます。ごめんなさい。僕が間違ってました。手を叩いたら、目を覚ましましょう。いつもの僕たちが目を覚まします」

 パン!
 両手を打って、そしてテーブルの下におろす。静寂の中で、虚ろな瞳が光を戻していく。
 鍋が煮えている。みんなはそれを不思議そうな顔で見ている。
 そして、やがてみんな気づく。この家族で一つの鍋をつつくという行為の気持ち悪さに。

「……ごちそうさま」

 口元を押さえて優惟姉さんが立ち上がる。逃げるように二階へあがっていく。
 花純さんは苛立たしげに箸をテーブルに叩きつける。そして無言のままトイレへ向かう。
 父さんはいつの間にかいなくなっていた。睦都美さんは煮える鍋コンロのスイッチを無言で消した。

「蓮ちゃん、お風呂入ろっか?」

 綾子さんがこっそり耳打ちしてくる。でも僕は「あとにするよ」と言って部屋に戻る。
 僕はもうどうしていいかわからない。
 
 『kirikiri舞』さんに会いたいと思った。

< 続く >

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