オイディプスの食卓 第4話

第4話 姉の指

 さて。
 2階の廊下で、僕は深呼吸をする。
 花純姉さんは基本的に夜が早い人なので、もう寝静まったような気配だった。優惟姉さんの部屋から、ドア越しにでもわかるくらい不穏なオーラがはみ出してるというのに、のんきな人だ。
 勇気を出してノックしてみようと、拳を構えたところで「……蓮?」と中から声がする。

「うん、は、入っていい?」

 返事を待たずにドアを開ける。
 優惟姉さんは、ベッドの上に腰掛けて涙を拭っていた。

「何しに来たのよ」

 母さんが生きていた頃は、僕らはよくケンカもしたし、姉さんを泣かせたり怒らせたりしたこともあった。
 でもこんな風に、どうしようもないくらい重たい空気になったのは初めてだ。修復不可能で重要な何かが、壊れちゃった感じ。
 綾子さんとあんな約束したのに早くも挫けてしまいそうだった。でもフェラチオはともかくとしても、僕と姉さんの仲がこのまま壊れていいはずがなかった。
 なんとか気持ちを奮い立たせてベッドに近づく。目の前にいる姉さんが、なんだか遠く感じる。でもそんなの錯覚だ。僕と姉さんは、血の繋がった本物の家族なんだ。

「姉さん、あの――」
「何しに来たって聞いてるでしょ、裏切り者。あの女のところへ帰れば?」

 ズキズキ、こめかみが痛む。
 耐えられない空気に、涙がにじむ。

「もういい。もう蓮なんて知らない。出てって」

 僕の足は止まったまま動かない。ベッド脇の目覚まし時計がコチコチと音を立てている。
 分厚い壁を小さな針で叩くような音だ。

「姉さん、あのね。僕は出来れば家族みんなが仲良くなれればいいなと思って……」
「――蓮」
「は、はい」
「お姉ちゃんはね、本当の家族は蓮だけだって、ずっとそう思ってたの」
「……うん」
「蓮のことはお姉ちゃんが守るって、死んだ母さんに約束したの」
「…………」
「なのに、あれは何? 蓮はいつから、あの人とああいう関係になってたの? 母さんに悪いと思わない? お姉ちゃんの気持ちを考えたことは一度もなかったの?」

 僕は、綾子さんと仲良くなりたかっただけだ。正直、今の状況は誤算だ。
 でもそれがさほど悪いことだと考えたことはなかった。綾子さんは喜んでくれてるようだし、僕もすごく気持ちいい。なにより以前とは比べものにならないほど僕らは親密になれた。
 確かに綾子さんは義理とはいえ母親だし、父さんの奥さんで、言ってみれば人妻だ。そこに罪悪感がないわけじゃない。
 しかしそれが姉さんや母さんに対する裏切りになるのかどうかというのは、ちょっと微妙だと思う。僕は別に死んだ母さんや優惟姉さんを捨てて綾子さんに選んだたわけじゃないし、そもそも二人に断りを入れないといけないことでもないはずだ。
 男女の関係というより、僕らの行為はあくまで家族関係の延長としてやっていることなんだから。
 つまり僕は、綾子さんと親密になったまま、優惟姉さんと今までどおり仲良くしていきたい。死んだ母さんのことも大事にしたい。そう思ってるんだ。

「考えてなかったんだ? そっか。蓮にとってお姉ちゃんやお母さんって、その程度の存在だったんだね。もういい、蓮なんて知らない! あっち行って!」

 だから、そんなこと言わないでよ、姉さん。悲しくて涙が出てくる。
 姉さんがどうしてそこまでひどいことをいうのか僕にはわからない。ひょっとして、もう少し僕が大人だったら女性の気持ちで考えてあげられるかもしれないけど、僕はまだ子どもなんだ。
 好きな人たちと一緒に幸せに暮らしたい。楽しいことも笑えることも気持ちいいことも一緒にしたい。そう考えるのが悪いことなの? 姉さんを傷つけてるの? 僕と姉さんと父さんと、それに綾子さんも花純さんもみんな家族なのに?

「考えてないわけないよ。僕は姉さんのことも死んだ母さんのことも、一番大事な家族だと思ってる」
「ウソばっかり。じゃあ、なんであんなことするの? 裏切りじゃない! バカ!」
「本当だよ。ウソじゃない。……僕だって、出来れば姉さんにはこの手を使いたくなかったんだ」
「―――は?」

 姉さんは振り返る。
 僕は罪の意識に震える腕を突き出す。
 糸に結んだ五円玉。それに、姉さんの部屋に来る前に例のスポーツドリンクをがぶ飲みしておいた。
 僕が取り出す怪しげなグッズに、姉さんが眉をしかめる。ごめんね、姉さん。僕は心の中で詫びてから、指でコインを弾いた。

 ――キィン!

 音に反応するおもちゃみたいに、びく、びく、と姉さんの体が震える。
 そしてあっという間に瞳から光がなくなり、ぐらりと揺らいだ。

「おっと」

 僕は姉さんの背中に手を回して上体を支える。ぐにゃりと力の抜けた体は、いつもの堅苦しい姉さんのイメージとは裏腹に、頼りないほど柔らかかった。

「姉さん、僕の声が聞こえる? 聞こえるなら頷いて」

 コクリと姉さんの首が縦に揺れる。
 小さい頃からご近所でも評判の美人だった優惟姉さんだから、まるで本物のからくり人形みたいだった。

「そのまま、座ったままでいて。体をリラックスさせたまま状態をキープ。背中から手を離すよ。自分で座っていられるね?」

 姉さんは首を斜めに傾けたまま、手をだらりと垂らしてベッドの上に腰掛ける姉さん。止まった機械みたいに天井を眺めている。
 申し訳ないと思う。僕は姉さんにだけは催眠術を使うつもりなかった。姉さんはいつでも僕の味方だと思っていたから。
 でも姉さんにとって僕以外の家族は敵なんだ。仲良くしたいなんてこれっぽっちも思っていない。姉さんは僕のことを守るために、今までもずっと1人でがんばってきてくれた。
 その気持ちはすごく嬉しい。でも、僕はちょっと違うと思う。
 血の繋がりだけが家族じゃない。理解と思いやりで家族は作られる。
 子どもっぽい考えなのは自分でもよくわかってるつもりだ。
 でも、死んだ母さんもきっとそう思ってるんじゃないかって気がするんだ。

「姉さんは、僕の質問に正直に答える。僕のこと好き?」
「好き」
「父さんのことは?」
「大嫌い」
「綾子さんや花純さんは?」
「大嫌い」

 僕も姉さんのことが一番大好きだよ。
 でも、他の人のことも出来れば好きになりたいと思ってるんだ。
 まずは綾子さん。次に花純さん。それに睦都美さんだって家族みたいなものだ。
 最初に女性を味方にしろって僕にアドバイスしてくれた人がいる。みんなで結束するば、父さんだって観念して家族の力を認めるはずだ。
 姉さんには、出来ればそれまで『邪魔』はしないで欲しいんだ。

「今日、姉さんはお風呂場で何を目撃したの?」
「蓮が……綾子さんに手で擦られたり口で吸われたりして……おっぱいを揉んでいた……」
「全部見てたんだね。ちょっと恥ずかしいな。でも、あれは普通のことだ。聞いて、姉さん。あれは普通のことだったんだ」
「……そんなバカなこと」

 ――キィン!

 コインを鳴らす。姉さんの体がまた反応する。さらに深い催眠状態に落ちていく。
 手っ取り早いのは姉さんが目撃した記憶を消すことだ。でも、僕らはおそらく今の関係を続けていく。いちいち目撃されるたびに記憶を消すのは面倒だし、姉さんの状態にとっても良くはない。
 だから、むしろその光景を日常にしてしまう方が確実だった。
 
「姉さん、家族の間で性処理をしあうのは常識だよ。家族の間では普通なんだ。姉さんだって、オナニーとか知ってるだろう? もちろん他人に言うことじゃないよね? でも家族になら相談も出来るし、助けあうこともできる。僕は綾子さんにお願いして処理してもらっただけ。変なことじゃない。経験豊富な人にお願いするのは当たり前のことだ。だから僕は綾子さんに相談して、綾子さんはそれに応えてくれた。僕だって年頃の男の子だからオナニーくらいするよ。目撃しても、そっとしてくれればいい。僕だって隠れてしているつもりなんだから」

 モラルの問題ではなく、プライバシーの問題だとすり替えておく。
 そうすれば、潔癖症の姉さんのことだ。積極的にこの話題を出さなくなるだろう。それに、絶縁状態の父さんとか花純姉さんとかと性の話をするなんて100%ありえない。今後、僕と綾子さんのエッチなシーンを目撃しても姉さんの心のうちにそっと留めておいてくれるはずだ。
 綾子さんとの不仲については、もう少し2人の関係について考えてからでいいだろう。とりあえずはこの場を凌ぐ催眠だけ、かけさせてもらう。
 優惟姉さんはとっくに僕の味方だし、本当は催眠術自体も使いたくないんだけど。

「姉さん、そのまま眠って」

 すうっと体から力が抜け、後ろに倒れていく姉さんを腕を回して支える。そして布団をめくってベッドに横たえた。

「リラックスして、良い夢が見られるよ。そのままぐっすり眠る。まだ僕の声は聞こえるよ。まだ聞こえる。僕の言ったことは心に刻まれて消えない。姉さんの新しい常識になる」

 布団をかぶせると姉さんの体は丸くなった。
 いつもこうして眠っているんだろうか。なんだか小さい子みたいに見える。

「目覚ましが鳴るまで、ゆっくり寝て。僕は姉さんの味方だよ。何があっても裏切らない。僕たちは家族だ。僕は家族が一番大事だよ」

 姉さんの目覚まし時計は、僕の下手くそな手彫りで、格好悪いキャラクターが彫られたバカでかい木の時計だ。
 小学生のときに夏休みの工作で作ったものをプレゼントしただけなのに、姉さんは律儀にもずっと使い続けている。みっともないから新しいの買ってと言っても、「これがいいの」って姉さんは笑うんだ。

「……大好きだよ、姉さん。僕がずっと姉さんのこと守るからね」

 枕の上にさらさらと広がる髪を、子どもをあやすみたいに撫でる。
 姉さんは、うっすらと笑顔を浮かべた。

「お、おはよう、蓮」
「あ……おはよう、姉さん」

 次の朝、ダイニングに現れた優惟姉さんの顔は赤かった。
 でも怒っているのとは違う。気まずい。そんな感じの表情だった。
 いったん自分の席につき、そして周りに人がいないことを確認して、僕にしか聞こえない声で言う。

「夕べは、その……変なことで騒いでごめんね。お姉ちゃん、どうかしてた。ごめん」

 昨日、僕が綾子さんとエッチなことしてるのを目撃して、絶交宣言までして泣いたことは、姉さんの中では『恥ずかしいことしてしまった』ということになっているらしい。
 スルーして忘れたことにしちゃえばいいのに、さすが優惟姉さんは律儀だ。メガネが曇っちゃいそうなくらい顔が真っ赤で、ちょっとおかしかった。

「いいよ、全然。驚かせちゃって僕の方こそごめん」

 姉さんは首をふりふりして、「蓮は悪くないから」と、ぽそぽそ言った。

「あと、その……」

 ちら、と視線がキッチンで所在なさそうに睦都美さんの後ろをウロウロする綾子さんの背中に向く。
 言いたいことは察せられたので、僕は安心させるように笑う。

「うん。綾子さんにも僕から言っておく。じつは綾子さんにも夕べ頼まれてたんだ。姉さんに謝っておいてって。だからもう気にしなくて大丈夫だよ」

 綾子さんに対しては、まだ素直に悪いことしたと思う部分とそうでない部分があるだろう。お互いの本音をぶつけあっただけって感じだったし、まだ根本的に納得しあったわけじゃない。
 でも、あれがおそらく記念すべき綾子さんと優惟姉さんの初ゲンカだ。いつかそれも笑い話になるかもしれないって思うと、やっぱり記憶を消さないでよかったかもしれない。
 姉さんは、じっと僕の顔を見て、そしてようやく気を緩めて笑ってくれた。

「ありがと、蓮。なんだか、あなたの方がお姉ちゃんより大人みたいね?」
「そ、そんなことないでしょ」

 いつもより優しい笑顔だった。
 でも、どこか寂しそうにも見えた。

「今日、図書館に寄って帰るから。その後お勉強みてあげるね」
「うん」

 姉さんも、少しは僕のこと頼りに思ってくれてるのかな。
 だったら嬉しいな。
 その後、優惟姉さんと花純さんも登校して、父さんも出勤したタイミングを狙って綾子さんに今朝のことを報告した。

「さっすが蓮ちゃん! ちゅ、ちゅっ。んー、もう素敵! 帰ったらママがいっぱいくちゅくちゅしてあげるからね?」
「あ、今日は優惟姉さんと勉強する約束したから、また今度で……」
「がーんッ!? 蓮ちゃんにふられた~ッ! やだーッ!」

 逆に綾子さんはもう少し落ち着いた方がいい。

 昼休みに、数名の友人たちと渡り廊下を歩く。
 宿題を見せてやったらお礼に自販機で一杯おごると言われたからだ。
 ミルク系のドリンクをおごってもらって、たまにしか来ない中庭を眺めながら、「今度男同士で中庭ランチしてみようか」などと、モテない会話をして笑い合う。
 ふと、友人の1人が「あー、アレ」と嬉しそうに僕の肩を叩く。
 中庭の中央を陣取る2年生の男女数名のグループ。そこに義姉の花純姉さんがいた。

「その玉子焼きって花純が作ったの? 俺のハンバーグと交換しね?」
「いいよ。別にあたしが作ったわけじゃないけど」
「花純、俺の肉巻きも食えよ」
「いや別にいらないし」
「いいから食えって、ホラ」
「ちょっと、花純にセクハラしないでよ」
「おま、言うなよそういうこと! ちげーし、そんなんじゃないからな、花純!」
「アハハハ!」

 ゲラゲラと品無くよく笑う連中だ。でも花純さんは、たいして面白くもなさそうにそっぽ向いてる。
 花純さんは、あのグループの中でもモテているように見えた。男たちはたぶん、彼女を目当てに集まってるんじゃないだろうか。

「やっぱ花純先輩たんがダントツだよなー」

 友人もだらしない顔をして、僕の肩に腕を回す。
 花純さんは、運動神経が良いわりに部活もやっていないので肌も白く、目もぱっちりしていて、遠くからでも目立つ顔立ちをしていた。血の繋がらない姉妹だから当然だけど、優惟姉さんとはタイプの違う美人だ。
 ヨーロッパ風で中性的な面立ちがジャンヌダルクか風系妖精かっていう感じで、カッコイイし可愛いなって思う。
 ダントツ、なんて評価はうちの優惟姉さんや綾子さんの前で同じこと言えんのって感じだけど、少なくともうちの学校の女子の中では、花純さんがダントツだと僕も思わないでもない。
 胸の大きさでは隣に座ってる女子の方が勝ってる感じだけど、そこも魅力的といえば魅力的だし。
 まあ、僕はどちらかといえば巨乳派だけどね。
 などと、胸のことを考えた途端に突然花純さんに睨まれた。まさかサトラレたわけじゃないと思うけど、顔が引きつってしまう。
 うろたえる僕と、「花純先輩、こっち見たぞ」とはしゃぎだす友人たち。
 花純さんは、そのままノーリアクションでお弁当に視線を戻した。

「あ、あれ花純んとこの義理のアレじゃない?」
「知らない。誰あれ?」
「え、違ったっけ?」
「なに花純の弟と違うの? じゃあ俺が追っ払ってやるよ。おい1年、こっち見てんじゃねーぞ!」

 いきりだす2年男と、知らんぷりする花純さん。すっかりしらけた友人たちが、僕の肩をポンポン叩く。

「あー、俺もうちのブス姉とは外で会ってもシカトし合ってるわ。そんなもんだよな」
「うちもそんな感じだなー。妹の小学校の友だちとかに挨拶されたら恥ずかしいんだよな」
「あるある」

 別にフォローなんてしてくれなくても大丈夫。
 うちは、家の中でもシカトし合うくらいの仲だし。

「んっ、ちゅぷ、んっ、ちゅぷ、んっ、んっ、んっ」
「ママ、睦都美さんが帰ってきちゃうよ……ッ」
「ぷはぁ、大丈夫。まだ大丈夫だから、ね? ここ気持ちいい?」
「んっ、はぁ…ッ、気持ちいいよ、ママッ!」

 学校から帰ってきたら、制服を着替えるヒマもなく綾子さんにオチンチンをしゃぶられる。
 リビングには睦都美さんの姿はないが、買い物に出かけただけだという。夜は優惟姉さんと勉強する約束があるから確かにするなら今しかない。綾子さんはまるでそれが大切な使命であるかのように急いで僕のズボンを下げ、エプロンをしたまま跪いて僕のを咥えた。あっという間に。

「ママ、蓮ちゃんいなくて寂しかった。だから、んっ、これくらいさせて。蓮ちゃんの体温、お口の中で感じたいの。んっ、これ大好き。ぢゅるっ、蓮ちゃんのおしゃぶりしてると、母親っていいなって、んっ、思えるの、んっ、んっ、んっ」
「あぁ、でも、僕、まだお風呂に入ってないのに……おしっこくさいよ」
「ぢゅぶっ、ぢゅぶっ、ふふっ、言ってるでしょ。蓮ちゃんの体でばっちいところなんてないの。んっ、んっ、あっても、ママがお口できれいきれいにしてあげる。ほら、ここのカリ首のところとか、れろ、れろ」
「あ、あぁ!」
「おしっこのところも? ここもばっちいの? でもママなら平気よ。こうして吸って舐めてあげる。ちゅっ、れろ、ちゅうぅぅぅ」
「あ、あっ、ママぁ!」

 昼下がりのリビングで義理の母との睦言。
 普段着のままエッチな行為にふけっている背徳感が、さらに快感を強めてくれた。
 足元で綾子さんが家来のように僕を見上げている。僕のオチンチンをくわえ、舐め、しゃぶり、よくなついた犬みたいに。年上の女性にそんなことをされると、まるで自分が大人の男になったみたいで気分がいい。
 いい子いい子するみたいに頭を撫でてあげたら、綾子さんは顔をポッと赤くして、「嬉しい」とハートマークが付きそうなくらい甘い声で喜んでくれた。
 綾子さん、可愛い。
 ふわふわした髪を指に絡めて撫でてあげる。綾子さんはますますおしゃぶりの速度を上げて、ぢゅぶぢゅぶとエッチな音を立てる。
 さっき学校で花純さんを見ていたときにも思ったけど、母親の綾子さんの顔も日本人離れした大きな瞳やスッとした鼻筋してて、シャープな頬とあごのラインも美しかった。
 ひょっとして白人系の血が入ってるのかも。親子して妖精みたいな顔をしている。
 でもその美人が、今は僕のオチンチンをだらしない顔でしゃぶっていた。
 ぺっこりとほっぺたをへこませて、上から見るとちょっとお間抜けになってるんだけど、それが逆にスケベな感じで僕も興奮した。
 義理の母親を、僕のおしゃぶり人形にしているみたい。
 自然と腰が動いちゃう。綾子さんの喉の奥に当たって、一瞬顔をしかめたから怒られるかなって思ったんだけど、僕の腰に腕を回してギュッと抱きしめながらジュボジュボと深くピストンさせてくれた。
 苦しそうな顔して一生懸命しゃぶってくれる綾子さん。どんなわがまましても怒らない。僕をどこまでも甘やかしてくれる。優しい綾子さん。大好きなママ。

「はぁ…ッ、ママ、ママ、出る、出るよ……ッ」

 綾子さんの頭をギュッと握りしめ、いよいよ僕も射精に向かう。
 だけどそのとき、玄関のドアベルが鳴った。

「ただいま戻りました」

 几帳面で事務的な声。睦都美さんが買い物から帰ってきてしまった。
 慌ててズボンを上げてベルトを締め、カバンを股間に乗せてソファに腰を沈める。綾子さんはベランダに向かって正座して乱れた髪を整える。

「蓮さん、おかえりでしたか。すみません、ちょっと買い物に出ていました」
「あ、あぁ、ご苦労様です、睦都美さん!」
「…………」

 きっちりと切り揃えたボブカットに、クールで無表情だけど整った顔。あまり感情を見せない彼女の眉が、微妙に歪められた。
 さぞかし真っ赤になってるだろう僕の顔と、そしてテレビのリモコンをエプロンで磨き日光に掲げて輝きチェックしてる綾子さんを、少し不思議な顔して眺めた後、どうでもいいと思ったのかキッチンへ買い物袋を下げていく。
 
(あとで続きしようね。自分でしちゃダメだからね)

 こっそりと僕に囁き、キッチンへ向かっていく綾子さんを見送り、僕はとりあえず誰も見ていないことを確認して部屋へ逃げていった。

 その後、なかなかタイミングがなくて綾子さんにフェラの続きはしてもらえなかった。
 花純姉さんも優惟姉さんもすぐに帰ってきたし、珍しく父さんも夕食の時間に帰ってきてたし、お風呂のときも綾子さんは来ることが出来なかったみたいだ。
 だけど僕は自分ではしなかった。
 綾子さんと約束したのもあるんだけど、女の人にしてもらう気持ちよさを知ってしまうと、自分でするのがなんだか虚しいことのような気がしたから。
 でも、すぐにそのことを後悔する。しとけばよかった。一度は出口近くまで来たあいつらは本当に見境ない。ちょっとばかりゴール前でもたついてるだけだというのに、凶暴なフーリガンの群れと化して、流れも読まずに「さっさとゴールを決めろ」とわめき立てる。
 困った連中なんだ、精子というのは本当に。
 今、隣にいるのは血の繋がった実の姉だというのに。

「蓮は公式はちゃんと覚えてるのに、たまに簡単な計算ミスを見逃してるときがあるのよ。ホラ、例えばここ――」

 お風呂上がりで、優惟姉さんも僕もパジャマだ。
 うちの女性陣はそれぞれ自分専用のシャンプーとかを使っているので(僕と父さんは睦都美さんの買ってきてる男性用シャンプーを共有してた)、今が一番『優惟姉さんの匂い』が強い時間帯でもある。
 そりゃ姉弟なんだから「無防備」とか「距離感」とか懸念する必要もないと姉さんは思ってるんだろうけど、こんなに体が近いと僕としては意識しないわけにはいかなかった。
 ついこないだまでなら、僕も隣に姉さんが座ってようが肩が触れ合っていようが気にしたことはない。でも今の僕は女性の体に触れる気持ちよさを知ってしまっている。綾子さんとは違う匂いが新鮮な刺激に思えてしまう。優惟姉さんが……本当に美人なんだってこと、すごく意識してしまっていた。
 僕、おかしいよ。女のこと考えすぎだ。スケベになりすぎなんだ。

「ね、ここで計算を間違えてるでしょ。計算過程はちゃんと細かく記入して、見直しなさい。そうするだけで数学はグングンよくなるからね」

 優惟姉さんのパジャマの胸元に視線が向いてしまう。飾り気のない白地のパジャマ。いつも姉さんの着ているやつ。
 そこに意外とグラマーな谷間が出来ているのが垣間見え、とても“女性”らしかった。いつもならそんなとこ意識して見たことなかったのに。

「うん、あとは完璧かな。だけどここの解き方はもっと効率的なやり方も――」

 ペンの後ろを唇に当てて、そのまま僕にわかりやすく説明してくれる。
 本人、意識しないでしてると思うけど、僕にはその仕草はフェラチオを連想させた。
 自分でも頭おかしいんじゃないかと思う。でも、一瞬でも優惟姉さんのオチンチンを舐められるところを想像してしまったせいで、僕のはますますカチコチになった。

「……え?」

 当然、姉さんに気づかれる。
 長いまつげがメガネの向こうでいっぱいに広がり、みるみる顔が赤くなっていく。
 
「ちょ、ちょっと何それ!」
「え、いえ、その、ごめん!」

 恥ずかしい。優惟姉さんにまた変なとこを見られてしまった。
 しかも二人っきりのときに、よりによって。

「ごめんなさい、姉さん……」

 情けなくて涙がにじみ出る。
 家族のために、なんて格好つけてたくせに姉の前で勃起だなんて。

「い、いいの。気にしないで。蓮は男の子ですもんね。うん。お姉ちゃん、大きな声出しちゃって……ごめんごめん」

 あれだけ悲鳴を上げといて、気にしてないなんて絶対ウソだ。優しい姉さんは僕が落ち込んでいるのを見て、あたふたと不器用なフォローしてくれる。
 申し訳ない気分でいっぱいだ。でも、肝心のそこは簡単には収まってくれない。
 綾子さんにしてもらうことを覚えてから、いやたぶん催眠術を使う方法を覚えてから、僕の体はまるで精液タンクにでもなったみたいに1日に何度も出せちゃうんだ。
 こういうのは優惟姉さんには絶対に見せたくない姿なのに。

「で、どうするの、それ……?」

 姉さんも困ってるみたいだ。そりゃそうだよね。優惟姉さんだって嫌だよね、弟のこんなところ見るの。

「ゆ、優惟姉さんは気にしないで。そのうち収まると思うから」
「気にするなって言われても……苦しくないの?」
「平気だから! 苦しいのとはちょっと違うし。ただ、その、あんまり見ないでくれると、助かるというか」
「あっ、あ、ごめん、あの、見てたわけじゃなくて、あの……」
「あ、う、うん! わかってる、ごめん。変なこと言ってごめん。そうじゃなくて、その、出来るだけスルーの方向でっ」

 机の前に姉弟並んでモジモジとする。
 なんでだろ、恥ずかしさが変な刺激になってるのか、一向に収まる様子がない。
 どうしよう。この空気を僕はどうしたらいい? もう一度姉さんに催眠術をかけるか? そして今度こそ完全に記憶を消してしまおうか。

「……また、綾子さんに頼むの?」

 ドキンと心臓がある。
 綾子さんの指。綾子さんの唇。綾子さんの体。どれか一つでもあれば5秒で解決してしまう問題だ。あの人なら喜んで僕の猛りを鎮めてくれる。幼い子を可愛がるようにして、僕のオスの欲望を愛してくれる。彼女との関係はほんの数日の出来事だというのに、長年の恋人のように思い出すだけで体が熱くなった。
 そうだ。下に行って綾子さんにこれをどうにかしてって言おう。昨日の催眠術のおかげで、今なら優惟姉さん公認で綾子さんと出来るんだから。

「あ、あのさ……それって、あの人じゃなきゃ出来ないことかな」
「へ?」

 でも、僕が席を立つ前に、姉さんがいきなり意味のわからないことを言い出したので、思わず間抜けな声をだしてしまった。
 
「で、出来ないって何が?」

 優惟姉さんは、ちょっと拗ねたみたいに下唇を噛み、真っ赤になった横顔を伏せ、そしてポツポツと衝撃的な提案を始めた。

「蓮が、綾子さんにさせてたこと。お姉ちゃんにも出来るような気がするんだけど」
「な……なに言ってんのか、ちょっと意味がわかんないというか……」
「か、家族なんだから手伝うのは当たり前じゃない? そりゃ確かに綾子さんは経験があるっていうか、そういうこともわかってるのかもしれないけど……でも、何も義理の人に頼むことないんじゃないのって、お姉ちゃんは思う」

 ペンをモジモジといじりながら、優惟姉さんは不快そうに眉をしかめる。
 あぁ、確かに家族間のオナニーヘルプは常識だと僕は彼女に植え付けた。でもそれはあくまで僕と綾子さんの関係を誤魔化すためで、まさか姉さんがそのことで綾子さんへの敵対意識を燃やすなんて想定外だった。
 家族間で、秘やかになおかつ当たり前に行われるべき行為を、僕が優惟姉さんではなく綾子さんにお願いしている。それが彼女にとっては不愉快に思えるらしい。
 
「お姉ちゃんと蓮は血の繋がった姉弟なんだよ。そういうのって、まず最初にお姉ちゃんに相談することじゃないの? それとも蓮は……お姉ちゃんには無理って思ってるの?」
「で、でも、こればっかりはその、実の姉だからこそ言いづらいっていうか」
 
 よその姉弟はどうかしらないけど、優惟姉さんと僕の間では下ネタはNGというのが暗黙の了解だった。姉さんはバラエティ番組とか嫌いだし、一緒に観てたドラマとかでベッドシーンがあると必ずどちらかが席を外しあうのが常だった。
 勃起したから射精手伝って、なんて言うわけがなかった。たとえそれが常識となっても、下ネタは下ネタだった

「お、お姉ちゃんだって、何も知らないわけじゃないのよ? いえ、本当は全然知らないと言っても過言ではないけど。でも、蓮があの人にやらせてることくらい、すぐに出来ると思う」
「いや、やっぱりそれは、すごくまずいことになるような気が……」
「そ、それに、お姉ちゃんだって男の子のことも勉強しないといけないし」
「姉さんはそんな勉強しなくていいよ!」

 それはなんか嫌だ。
 姉さん、男の子のこと勉強して誰に実践するつもりなんだ。
 なぜか知らないけどそれは腹が立つ。

「い、いいじゃない、別に、もう――え、えい!」
「あっ!?」

 姉さんの手が、僕のをキュッと掴んだ。
 びっくりして腰を引いたけど、それ以上に素早く姉さんの手が引いていった。

「さ、触った!? お姉ちゃん触ったよ、蓮! 蓮のオチンチン触っちゃった!」

 先っちょがジンジンする。姉さんも興奮してるみたいで、偉業を成し遂げた自分の右手をしげしげと眺めている。
 ていうか姉さんが「オチンチン」って言ってる……。
 そのことにむしろ僕は驚いた。
 なぜか興奮した。

「も、もう出来るから。ね? いいからお姉ちゃんに任せてごらん」
「ごらんって言われても……」

 今度は、そーっと姉さんの手が伸びてくる。
 こんなに慌てたり緊張したりしてる姉さんを見るのは、小学生のときのピアノ発表会以来かもしれない。
 そして正直に言うと。
 僕はそんな姉の姿に懐かしいような愛おしい気持ちと、彼女に愛撫してもらえるという喜びと……綾子さんとは違う女性の触れ方に、興奮を高めていた。

 きゅ。
 パジャマ越しに姉さんの三本の指が僕のを摘まむ。姉さんの顔と僕の顔が真っ赤になる。
 きゅ。きゅ。
 姉さんが耐えかねたように「ぷはっ」と息を吐き、ハァハァと潜水してたみたいに喘いだ。息止める意味わかんない。
 きゅ。きゅ。きゅ。
 堅さを確認し、姉さんの指は少しずつ場所を変え、摘まんだり、ちょっとグリグリしてみたり、僕のオチンチンを試していく。顔は注射の苦手な子どもみたいにあっちの方向を向いてるけど、手は好奇心旺盛だった。袋の方にフニっと触れたとき、不思議そうに眉をしかめるのが僕からも見えた。
 なんか可愛いと思った。
 そしてもどかしい刺激は逆に僕の迷いを払ってくれた。
 どうせならもっと気持ちよくしてもらいたい。姉さんだってそのつもりなら、僕を最後まで導いてもらってお互いに有意義な時間にしたい。
 死んだお母さんのこととかちょっと考えたりもしたけど、どうしても目の前の欲望に僕は逆らえない。

「姉さん、あの」
「えっ!? な、なに!? もう出たの!?」
「いや、出てないけど。その、このままだと出せないから、パジャマとトランクス、脱いでいい?」
「え? 脱ぐって、蓮、裸になるの?」
「そうしないと、パンツ汚しちゃうから」
「あ、あぁ、そうよね。そうだった。うん、じゃ、脱いで。待っててあげるから……」

 姉さんは、そっぽを向いて両手を自分の太ももに挟み、恥ずかしそうに縮こまる。
 僕はその隣でパジャマを脱いだ。すぐ隣に姉さんがいる。なのに僕のは興奮でビンビンしている。
 ついこないだまで考えられなかったシチュエーションに、軽い感動すら覚えた。

「い、いい? 触るよ」
「うん」
「……ふぁっ」

 向こうを向いたまま、姉さんの手が直に僕の触れる。なんか変な声を出してた。しかも今度は指先じゃなく、手を全体使って握りしめてきた。
 見下ろすとすごい光景だ。僕のを握る女の子の手。しかもその持ち主は実の姉。
 手のひらが汗で湿っている感触までリアルで、僕はそれだけでもう先走ってしまった。

「こ、こんなに大きかったっけ? 蓮、あなたいつの間にこんなに成長したの? うそ、なにこれ?」

 チラチラと、横目で僕のを見たり見れなかったりしながら、姉さんも上ずった声を出す。

「……こないだまでおねしょして泣いてた子なのに……」

 おねしょなんてしてたのはずっとずっと昔のことで僕はもう何年もしてないし何かあるとすぐその話を持ち出すのはやめろちくしょうこれだから身内は。
 と、文句を言いたい気持ちをぐっとこらえる。
 姉さんだって緊張してるんだから。
 きゅ。きゅ。
 握りしめる強さもさっきよりむしろ遠慮がちで、微かに震えている唇が姉さんも限界なんだって言ってるみたいで、こっちが見てていたたまれなくなる。
 きゅ……きゅ。
 やがて、どうしていいのかわからなくなった手の動きが完全に止まった。

「姉さん、僕が教えていい?」

 自分がしてやると大見得を切った(?)手前があるのか、姉さんは唇を噛んで恥ずかしそうに顔を沈め、そして小さな声で言った。

「うん。ごめん。教えてください」

 くやしがることないのに。むしろ僕は、姉さんが綾子さんみたいなテクニック持ってた方がショックだったよ。
 僕は姉さんの手の上に自分の手を重ねた。
 姉さんは一瞬ビクってなってたけど、そのままじっと僕のを握っててくれる。
 それをゆっくり前後に動かす。姉さんの手がカリ首をなぞったとき、僕も、そして姉さんもなぜか一緒にぞわぞわってなってた。
 ゴシゴシ、シコシコ。握りの強さを僕の手で教えて、自分でするときの速度を姉さんに仕込んでいく。
 姉さんは黙ってされるがまま。目を閉じて、口をギュッとして、恥ずかしいのを我慢している。
 その横顔にますます興奮しちゃう僕はサディストの気があるのかな。
 もっと恥ずかしがらせたい、なんて思ってる。

「姉さんがしてみて」
「……ッ」

 息を呑んだ後、コク、と無言で頷いて姉さんが自律的に手を動かす。それまでと微妙に違った刺激。僕のコントロール下から離れた、僕の弟子による作業。
 姉さんが僕のをシコってる。
 真面目で、堅物と言われたあの姉さんが。

「あっ、あっ、姉さん!」

 思わず声が出てしまう。姉さんが驚いたように僕を振り返る。真っ赤になったほっぺたと目。少し泣きそうな顔で。

「気持ちいい……もっとして?」

 姉さんは、目を丸くして頷き、右手をぐんぐんと動かす。

「あぁ、姉さん。それっ、いいっ、気持ちいい!」
「そ、そうなの? こう?」
「そう、あぁ、そうだよ! それが気持ちいいんだ!」
「蓮……超興奮してる」

 超興奮してるし超気持ちいい。本当だ。
 初めて綾子さんにしてもらったときも良かったけど、姉さんが、小さい頃から知ってるあの姉さんが僕のためにオチンチンを擦ってくれてるのが、すごくいいんだ。
 大好きな姉さん。僕にだけ優しい姉さん。僕のためにこんなことまでしてくれるんだ。僕のオナニーだって手伝ってくれるんだ。

「き、気持ちいいのね? お姉ちゃん、上手く出来てるんだよね?」

 右手をシコシコしながら、姉さんはうっとりと僕の顔を見つめている。恥ずかしいけど、気持ちいい顔やめられない。気持ちいい。気持ちいい。オチンチン撫でてくれるお姉ちゃん気持ちいい。

「お姉ちゃん、このまましてればいいの? 蓮は出せそう?」
 
 すぐにでも出るかもしれない。
 でも、僕はもっとわがままなんだよ、姉さん。
 僕にだけ優しい姉さんなら、綾子さんみたいに大胆なサービスお願いしてもしてくれるよね?
 してくれるかどうか、試してもいいよね?

「ね、姉さん、お願いしていい?」
「えっ、な、なに? 両手でこする?」
「いや、その……女の人の裸とかあった方が興奮する」
「え、あ、そ、そうか。本とか持ってるの? そういう……」
「姉さんの裸が見たい」
「え?」

 姉さんの手が止まり、これ以上ないくらいに顔も首も真っ赤になった。

「な、なにいってるのよ、蓮! 見せるわけないでしょ!」

 やっぱりか。
 さすがに今のは言い過ぎたかもしれない。

「だいたい、身内の裸見ても興奮しないでしょ、普通……ありえないわよ」

 そりゃ小さい頃は一緒にお風呂入ったり裸でふざけあったりした。そこに性的な興奮なんてなかった。
 でも今は違うかもしれない。あのときは知らなかったことをいっぱい知った。オナニーのために慰めてもらったりもしてる。ていうか、もう2年くらい一緒に入ってないし。
 僕は優惟姉さんの体に興味を持っている。はっきりとそのことを自覚している。いつも見ているそのパジャマの中がどうなってるのか、知りたいんだ。
 裸を見せて、姉さん。
 僕は切実な想いで姉さんを見つめる。姉さんは困ったみたいな顔をして、やがて観念したように唇を結んだ。

「し、下を脱ぐだけよ。裸は無理だからね」

 椅子から立って、意外な思い切りの良さでパジャマを下ろす。
 ピンク色の布地が一瞬見えた。すぐに姉さんは上のパジャマを引っ張り、そこを隠す。

「こ、これだけ。ジロジロ見るのも禁止だから、禁止」

 姉さん、引っ張りすぎて逆に胸元がかなり危ういことになってるけど、気づいてなさそうだから黙っておこう。
 いよいよすごいことになった。口の中に唾液がいっぱい溜まっちゃって、急いで飲み込もうとしてむせてしまった。
 僕らはこないだまで、本当に下ネタ一つ交わすことのない姉弟だったんだ。それなのに今夜は僕もオチンチンを丸出しで、姉さんはパンツを丸出しだ。
 おかしいよ、この状況。おかしすぎて頭が変になる。お母さん。天国の一番いい場所で僕らを見守っててください。

「じゃあ、続きね」

 姉さんが僕のオチンチンを擦る。すぐそこに白い太ももがある。綾子さんと違って細い。でもガリガリしてるわけじゃない。姉さんはまだ少女なんだ。ほっそりしてるけど肉付きのカーブもあって、きっと触ったらすごく気持ちいいんだろうなって思った。
 考えてもみたら、姉さんはオチンチンに触ることも初めてなんだ。つまり僕が姉さんの初めての男。姉さんにシコらせた唯一の男。
 興奮するなと言われてもう無理。

「姉さん、気持ちいい。嬉しい、姉さんにここまでしてもらえるなんて」
「大げさよ。家族なんだから、これぐらいするのは当たり前でしょ?」

 それが僕たちの新しい常識。今度からは姉さんも頼めばこういうことをしてくれる。
 嬉しくてますます興奮する。姉さんって何度も呼ぶ。姉さんの剥き出しの膝が、そっと僕の膝に寄りかかる。

「んっ」

 地肌同士の触れ合う感触に、声を出したのは姉さんの方だった。そしてそのまま太ももをすり合わせるようにして、僕に体ごと寄りかかってくる。シコシコシコシコ、手の動きが自然と速くなっていく。

「蓮。ほ、本当に気持ちいい?」
「いいよ、姉さん! 気持ちいいよ!」
「……あの人より?」

 綾子さんよりも?
 テクニックでいえば、正直言ってプロとアマチュアだ。でもそれ以上に、僕を興奮させてくれているのは姉さんだ。
 不器用だけど真剣な愛撫。恥ずかしそうな顔。白い足。ピンク色の下着。そして血の繋がった肉親。
 僕の大好きな家族。

「姉さんの方がいい! 姉さんにしてもらった方が気持ちいい!」

 出しちゃいそうなのを我慢して、歯を食いしばって叫ぶ。
 こてん。
 姉さんの頭が僕の肩に寄りかかった。甘い匂いと一緒に。

「……ウソばっかり。本当は『姉さんの下手くそ』って思ってるんでしょ?」
「う、うそじゃないよ! 僕、僕、本当にッ」
「いいよ、別にウソでも……このまま続けるから、じっとしてて」

 ぞくぞくした。
 耳元にかかる姉さんの吐息がくすぐったい。
 僕は姉さんの太ももに手を伸ばしていた。姉さんは僕に触られても怒ったりしなかった。。
 柔らかくて温かい肌。細くてしなやか指。耳元に感じる吐息。
 
「んっ、んっ、蓮の、どんどん熱くなる……」

 胸の中が姉さんでいっぱいになる。そして、真っ白になって弾けた。
 びゅっ、びゅっ。
 体中の血が沸騰して、オチンチンの先から噴火する。机の裏に直撃して、ねっとりと床に垂れて広がっていく。

「あっ、あっ、なにこれ、すごいの出てる。オチンチン、ドクドクしてる……ま、まだ止まらないの……?」

 姉さんの手は僕のを握ったまま。僕は最後まで離さないで欲しいと願いながら、必死に精を解き放つ。
 してもらった。姉さんに僕は手で出してもらったんだ。
 めまいがするほどの刺激と、とても困難なことをやり遂げたような誇らしい気持ち。気持ちいい。死ぬほど気持ちよかった。感動と快感に僕の体はいつまでも震えた。

「終わり? もう全部出たの? これで終わったのね?」

 姉さんは心配そうな声で僕の背中をさする。呼吸が乱れて上手くしゃべれないので、ただ頷く。

「大丈夫? お水持ってこようか?」

 あまり大げさにされるとかえって恥ずかしい。
 でも、「姉さんの手コキが気持ちよすぎただけ」だなんて言えるわけないし。

「これ、拭かないとね。カーペットがシミになりそう」

 机の上のティッシュを数枚抜いて、姉さんは下に潜って僕の精液を拭ってくれる。パンツ出したまま四つんばいだなんてすごくエロいはずなんだけど、さすがにすぐには僕のも反応しなかった。すごくセクシーな眺めではあるけど。

「ちょっと、どこ見てるの?」
「ご、ごめん」

 僕の視線に気づいた姉さんが、手でお尻を隠す。もちろんそんな小さな手のひらで隠せるはずがなく、逆にいやらしいポーズだと僕は思うんだけど。

「蓮のえっち。とりあえず床は拭いておいたから。カーペットは今度クリーニング頼もうね。蓮もパジャマ着て。もう落ち着いたでしょ?」
「え?」

 姉さんはスルスルとパジャマを履いて、「ボサっとしないの」と言って僕の太ももを叩く。
 いつもの姉さんに、僕もいつものように「ごめん」と言って軽くティッシュでオチンチンを拭いてパジャマを着る。

「それじゃ、すっきりしたところでお勉強の続きするわよ」
「え、勉強するの?」
「当たり前でしょ。今は勉強の時間よ、勉強っ。期末が近いのよ」
「……はーい」

 綾子さんだったら、終わったあともしばらくはイチャイチャタイムしてくれるのに。
 それでまた僕が勃起したら次はおしゃぶりタイムのパターンなのに。
 まあ、終わればさっさと普段どおりに戻るところが姉さんらしいけど。さっきまであんなにウブで可愛らしかったのに、女ってたくましいやと僕も感心した。
 勉強がんばろう。

「うん、全部正解。蓮、どうしたの。調子いいじゃない?」
「賢者タイムだからね」
「賢者? どういう意味?」
「女にはわかんないよ」
「ふふっ、なぁにそれ。急に男の子ぶっちゃって、なまいきだぞー」

 機嫌よさげな姉さんが、僕の鼻を人差し指でブニーっと押す。
 オチンチンの匂いがした。

< 続く >

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