オイディプスの食卓 第10話

第10話 たそがれのエロ戦士

 次の日の朝、父さんは会議でもあるみたいで、いつもより早い時間に秘書さんが迎えに来て出て行った。
 朝食のテーブルには僕と優惟姉さん。睦都美さんは普段どおりの無表情で働いている。
 短い睡眠時間を経て、昨夜のことがまるで夢だったみたいに錯覚する。でも体に残る疲労感とオチンチンの疼き、そしてメイド服のスカートから覗く睦都美さんの素足が、昨日までと違う事実を主張していた。
 本物のセックスじゃないけど、僕は女性の膣を体験した。睦都美さんは僕のメイド人形になり、僕のためにストッキングをやめた。
 昨夜の感触を思い出してイライラしてくるオチンチンを牛乳のカルシウムで宥める。あのすべすべした足を僕は自分の思いどおりに出来るんだ。何も知らないで朝から機嫌の良い優惟姉さんが微笑む。

「昨夜あれから、さっそく論文に手をつけてみたんだけど。概要はだいたい出来たかなって思うんだ」
「え、もう? 早いね」
「書きやすいテーマを選んだって言ったでしょ? 今日、先生にも見てもらうつもりだけど、学校から帰ったら蓮にも見てもらうから」
「先生の意見を聞くんなら、僕の意見なんて……」
「協力するって約束したでしょー? はい、イチゴあげる」
「……姉さんはすぐ食べ物でごまかすからなぁ」
「じゃあ、卵もあげる」
「まあ、ここまで接待されてしまっては協力せざるをえないけど」
「ありがと。ふふっ」

 他の家族がいないとき、姉さんの表情は明るい。ピリピリと張り合う相手がいないからだ。そして睦都美さんのことは空気のように扱っている。いてもいなくても同じだ。姉さんには姉さんなりの家庭内の順位付けみたいのがあるんだろう。
 父さんと睦都美さんの関係を姉さんは知っているのかな。知っていれば今もトゲトゲの空気を出してるはずだから、たぶん知らないと思うけど。
 姉さんがいつも笑顔でいられる家庭を作らないと。
 柔らかい表情で食卓に座る姉さんを見ていると、頑張ろうって気持ちになった。
 そして、例によって僕の家族愛は性欲に繋がってしまうんだけど。

「じゃあさ、論文の手伝いしたら、またしてくれる?」
「何を?」
「あれ。お口でするやつ」
「ッ!? ン、ケホッ、ケホッ」

 コーヒーを喉に詰まらせむせ返る姉さんの背中をさする。「朝から何の話をしてるのよ!」っと、顔を真っ赤にして怒る姉さんはなんだか可愛いと思った。

「お食事中にそんな話はしないの。そういうのはね、その、どうしても我慢できなくなったときに、こっそり小さい声でお姉ちゃんに言うの」
「うん、ごめんなさい。でも、して欲しいなって思ったから」
「……して欲しいの? お姉ちゃんに?」
「うん」
「しょうがないわね、もう……いいわよ」

 文句言いながらも僕に甘い姉さんはフェラチオを約束してくれる。でも、まだちょっと頬を赤くしていた。
 昨日のお風呂場では姉さんの方から大胆だったくせに、明るいうちにこういう話題をするのは恥ずかしいのかな? オナニーのお手伝いは家族でするのが常識と思いつつも、オナニー自体が秘め事であるという認識は変わっていないし。
 夜のことを想像しちゃって今から恥ずかしがってる姉さんは、なんだか「女の子」って感じで可愛いと思う。
 にやにやしながら見ていたら、姉さんはウィンナーをフォークに刺し、僕の顔を見ながらガブッと噛み千切った。
 袋がひゅんってなった。 

 優惟姉さんとの朝食を終えたあたりで、入れ替わるように花純さんが降りてきて一人の朝食を摂り始める。
 睦都美さんは僕らの分の後片付けを始め、優惟姉さんは2階へ上がっていて、おそらく学校の準備をしていると思う。
 僕はキッチンへ向かっていた。
 放課後、優惟姉さんがお口で世話してくれる約束をしてくれたけど、中学生の健康的な男子としては朝からだって世話して欲しいし、我が家は美人には困らない。
 ゴム手袋を履いて洗い物をしていた睦都美さんが(ちなみに我が家は食洗機を使わない。お手伝いさんがいるからだ)、僕の気配に気づいて振り返る。「何か?」いつもの調子で事務的な視線を向ける彼女に僕は言う。

「『メイド人形が欲しい』」

 望むものがすぐに手に入る呪文。
 皿を持ったまま睦都美さんは人形と化した。

「お皿を置いて。そっと、傷つけないようにだよ。そう。じゃ、次はゴム手袋を脱いで」

 顔をこちらに向けたまま、危なっかしい手つきで皿をシンクに置き、手袋も脱がせる。
 長い睫毛の下にある瞳には何も映っていない。僕の声だけしか今の彼女には届いていない。

「顔は正面を向いて。で、両手は下に垂らして」

 キッチン前に立つメイドマネキン。
 僕はそのスカートをまくった。

「……黒か。下着は白がいいと思うよ。聞いて、よく覚えて。下着は白がいい。メイド服には白がよく似合う」

 お尻にぴったりと貼り付く黒い影のような下着もセクシーで悪くはないんだけど、イメージとしてメイドさんの下着は白だった。清潔感と色気の両立された感じの。
 でもまあ、この下着の手触りは悪くない。さらさらとした絹の感じとすべすべとした球体の取り合わせは、朝っぱらだというのにベッドに連れて行きたい衝動に駆られた。
 僕は自分のファスナーを下ろして、かちこちになったオチンチンを取り出す。そして睦都美さんの隣に並んだ。

「握って」

 睦都美さんの右手を導いて僕のオチンチンを握らせる。手袋の中でこもっていたせいか、とても温かくて気持ちいい。

「擦って。前後に。そう、そんな感じで」

 シュッ、シュッ。
 機械的な反復を繰り返し、一定の圧力を変えることなくメイドさんの右手が僕のオチンチンをなぞる。
 僕の性欲を満足させるためでもなく、不倫相手の息子との情事を楽しむでもなく、ただ無意識下に指示された命令を実行するだけの行動。
 彼女にとってこれは普段の家事と変わらない。いや、『マスター』である僕の言葉に反応しているという以外に特別な意味も動機もなく、本人の認識すらないのだからもっと不随意的だ。
 その無機質さが逆に僕の興奮を煽った。
 催眠術だからこそ可能な一方的精神陵辱。催眠術だからこそ可能な肉体操作。
 ダイニングでは、花純さんが朝食を食べながらテレビをつけた。父さんや綾子さんがいるときは出来ない贅沢な朝を彼女なりに楽しんでいるようだ。
 朝のくだらないワイドショーが、役に立たない情報を耳障りな声で流している。そんなものより、もっと有意義なものがこのキッチンにはある。

「もっと速く手を動かして」

 メイド人形睦都美さんの美しい横顔こそ、朝イチで眺める価値がある思う。
 睫毛が本当に長いな。マッチ棒どころか箸でも乗りそうなくらい。もちろん、つけまなんかじゃない。化粧も最低限しかしてないと思う。すっぴん美人だ。ヘッドドレスもメイド服も本当によく似合っている。フィギュアみたいに均衡のとれた顔と衣装のスタイル。匠の作った芸術作品と言っても通じるだろう。
 でも、右手は忙しなく動いている。男のオチンチンを握っていやらしく擦っている。
 彼女は芸術作品ではなく、僕の欲望を満たすために作られた人形だから。
 僕は彼女に何だってやらせられる。

「睦都美さん。そのまま動いていて。あなたは今、食器を洗っている。いつもの家事をしているだけだ。何もおかしいことじゃない。毎朝の家事だ」

 表情はもちろん変わらない。彼女の内面では、人形の心がきっと普段の家事を思い出して働いているはずだけど。
 体と心はバラバラに動かせる。睦都美さんの『マスター』は僕だから。
 
「今日はとても機嫌がいい。お皿もどんどんピカピカになっていく。とても楽しく家事が出来る。鼻歌を歌いたくなってくる」

 実際は、家事どころか棒立ちになって右手だけを動かし、雇い主の息子に命令されて手コキしているところだ。
 だけど睦都美さんは、表情を動かさないまま、微かな鼻歌を響かせる。

「ふん、ふん、ふふんふふんふんふん、ふ~ふふんふんふんふんふん♪」

 意外な選曲というか、『アンパ○ンマンのマーチ』だった。
 あまり彼女のイメージじゃないというか、クラシックか女性ボーカルの曲かと思ったんだけど。
 リズムは全然合っていないのに、心と体の別れている今の睦都美さんは器用に右手をペースを保ちながら、アニメソングを口ずさんでいる。
 僕たちが学校へ行っている間、こっそりこんな曲を歌いながら家事をしているのかと思ったら、なんだか急に睦都美さんが可愛く思えてくる。
 綾子さんはこのこと知っているんだろうか。うっかり家族に見られて動揺する睦都美さんとか見てみたいんだけど。
 
「ふんふんふん、ふふんふんふん、ふ~ふふんふんふ~ん♪」

 などと、可愛らしい睦都美さんを想像することで余計に射精欲が刺激される。
 キッチンペーパーを巻き取り、射精に備える。シンクのヘリを掴んで、お尻に力を込める。

「もうすぐ出るよ…ッ!」
「ふんふんふん、ふふんふんふん、ふ~んふんふ~ん♪」

 人形の彼女には意味が届いていないけど、口に出して宣言する。
 登校の前の朝のキッチンで、『アンパ○ンマンのマーチ』を奏でるメイドオルゴールの手で、僕は射精しようとしている。
 日常風景に混ざり込む非日常的なシチュエーションに、脳内麻薬がじわりと溶ける。

「出る…ッ!」

 ドクドクと、大量の精液が出た。今日も僕は健康だ。
 射精が終わっても手コキを続ける睦都美さんに停止を命じて、彼女の手とオチンチンの先を拭う。なおかつ、睦都美さんには手を洗うように命じた。

「これから人形を解除しても、何も覚えていない。あなたはお皿を洗っている最中だった。ゴム手袋を履いてください。そう、そしてお皿を持って。そうです。では、解除しますよ。あなたは食器洗いを続け、水を飲みに来ただけの僕もキッチンから出て行くから気にしないで。じゃ、『もうおしまい』」

 食器洗いを再開する睦都美さんの後ろを、僕は悠々と退出する。
 念のため振り返って見ると、睦都美さんは右手を掲げて、少し違和感があるみたいに振ったりしていた。
 そうか。あれだけ熱心に擦ってくれればさすがに疲労しているはず。次はそういうのも気をつけて解除しないと。

 ダイニングスペースに戻ってみると、花純さんはまだテレビを観ながらトーストをかじっていた。キッチンでのことは気づいてないようだ。
 テレビはちょうど今日の占いのコーナーをやっている。花純さんは何座なのか知らないけどそっちに集中して僕のことなど全然無視だ。
 女子って占いとか好きだよな。そんなの当たってもハズレてもどうでもいいんじゃないかと思うんだけど。
 せっかくここに僕の精液ボールがあるというのに。

 ――キィン!

 なので、コインを鳴らして催眠タイム始動。
 首をテレビに向けたまま停止している花純さんに僕はささやきかける。

「花純さんの今日のラッキーアイテムは『弟の精子』だ。今、テレビでそう言っていたよ。できるだけ新鮮なものを部屋に飾っておくのが風水的に良い感じ。ラッキーなことがあるって」

 そして催眠を解除して、なにげなくソファに座って、ぐしょぐしょのキッチンペーパーをテーブルに置く。
 花純さんは、僕の方を振り返り、そして堂々とテーブルに供えられた精液の花に目を丸くした。

「お……おい」
「え、なに?」
「それ、アレか?」
「これ?」

 僕はわざとらしくテーブルに目を落とし、「アレだけど」と頷く。

「もういらないんだよな、それ?」
「まあ、うん。僕はいらない」
「だったらさぁ……あー……」

 僕らの間のルールでは、僕の精子は花純さんにとってご褒美だ。
 でも、彼女の方からそれをねだったことはない。いつもぶっきらぼうに受け取って、機嫌が良いときに「さんきゅ」の一言があるくらい。
 だから、彼女の方からアプローチしてくるのはこれが初めてになる。

「す、捨てるくらいならもらってやってもいいけど」

 素直ではない言い方が彼女らしくて、思わずニヤけてしまう。
 やはり花純さんにはツンデレの資質があるのかも。

「なにニヤニヤしてんだよ! いいからよこせ!」
「あっ!?」

 顔を真っ赤にした花純さんが僕の精液ペーパーを強奪し、べぇって舌を出してダイニングを出て行く。

「バーカ!」

 ドタドタとはしたなく階段を駆け上がっていく音を聞きながら、僕は彼女との間にある隔たりの遠さを感じる。
 なかなか強情な人だな。

「――で、昨日カノジョとヤったとか言ってた隣のクラスのやついたじゃん? あれウソだってよ」
「へぇ、そうなんだ」
「しょうもないウソつきやがって。全然イケてないもんな、あのへっぴり腰野郎。俺らと同レベルじゃん」」

 昼休みに、中庭で溜まってる花純さんたち2年生のイケてるグループを離れたところで眺めながら、僕らイケてない男子チームは芝生に座ってお弁当を食べていた。
 セックス体験済みという言葉のインパクトは、僕たち中学生男子には強烈すぎる。憧憬し、切望し、そして時には人を欺いてでも乗り越えたふりをしたい重要なハードルだ。
 ただ、ウソをついたところで童貞だという事実は変わらないんだけど。
 結局は自分を虚しくさせるだけだよね。

「まあ、気持ちはわからないでもないけどな。俺だってお前らよりは先に脱童したいし」
「わかる。俺もお前にだけは死んでも負けたくない」

 昨日は衝撃的だった同級生の体験話も、一晩過ぎたらどうでもよくなっていた。
 睦都美さんとした行為がセックスに該当するかどうかでいえば限りなく交尾だったとは思うけど、なんとなく『セックス』は成立していないんじゃないかって気がする。オナニーの延長じゃないかって。
 それに、僕は初めての相手は綾子さんにしたいなって思っている。
 僕に女性の気持ちよさを教えてくれたのは彼女だし、僕にその行為を許してくれそうな包容力もある。なにより、僕はその“包容力”を一番に母親に求めているから。
 血の繋がりのない僕らに絆を作るのはそういうものじゃないかと思う。母子関係で最も重要になるのはお母さんの包容力だ。綾子さんに僕の童貞を受け止めて欲しいんだ。
 問題は、彼女が父さんの妻で、戸籍上の母親で、世間一般的にはとても許されない行為だということだけど。
 でも、今までも催眠術でいろいろなことをこなしてきた僕には、それすらも些細なことだと思える。
 これは家族の問題なんだから、家族の中で決めて行えばいい。誰にも口出しなんてさせない。冷え切った今の家庭の危機を誰も救ってくれないのと同じだ。僕が作る家族関係がこれからの正義になるんだ。
 だけど、その肝心の綾子さんはまだ帰ってきていないんだけど。

「……早くセックスしたいなぁ」

 無意識のうちに遠い目でつぶやいてしまった僕の言葉に、友人たちは固まった。

「そうか……お前が、『たそがれのエロ戦士』だったのか」
「え?」
「これでとうとう5人揃ったな」
「あぁ、ホッとした。お前、なかなか正体を現さないから俺たちも焦ってたんだぜ?」
「だけど信じてたぞ、蓮。お前は俺たちの仲間だって疑ったことなかった」
「いや意味がわからないんだけど。何その『たそがれのエロ戦士』って? 『暴走のエロ戦士』なら聞いたことあるんだけど」
「そう、俺がリーダーのご存じ『暴走のエロ戦士』だ。そしてこいつが『動画のエロ戦士』で、あと『体操着のエロ戦士』と『児童公園のエロ戦士』もいる。俺たちはエロ探求のため人知れず戦うエロ戦隊だったのだ」
「ちょっと待って。それただの犯罪者予備軍じゃない?」
「頼むぞ、たそがれ。これからも空気も読まずに勝手に一人でエロ世界に引きこもって、俺たちにエロいつぶやきを聞かせてくれよ」
「コスチュームカラーはピンクだからな、お前」
「何を言ってるんだか、全然わけわかんないよまったく……あ~あ、そんなことよりセックスしたい」
「出た、たそがれ~」

 友人たちと実のない会話をしながら、だらだらと昼食をとる。
 綾子さんのいない寂しさを思うと元気もなくなるけど、でも、彼女の存在が自分の中で大きくなってるんだなってことに気づくと、なんだか嬉しいような気もした。
 催眠術のエッチばかりとはいえ、ふれあう機会が多くなると愛情も増してくるんだ。この積み重ねと感情が家族の絆になっていくんだと思うと切ないけど我慢は出来る。
 でも早く綾子さんに会いたい。
 綾子さんと、セックスしたい。

「花純、それ飲まないのー?」
「ん、いらない」

 僕たちがうだうだしている間に、花純さんたちのグループが先に移動を始めた。
 パックのジュースを未開封のままぶらぶらさせて僕らの近くを通りすぎる。
 そして、彼女へのマナーとして、『学校では無視』の姿勢で横向いてた僕の前に、直方体のそれは飛んできた。

「やる」

 胸でキャッチしたカルピスのパッケージ。
 自分で買ったのかあるいは誰かからの貢ぎ物なのか知らないけど、その真意は明らかにされないまま、彼女はツンと澄ました顔で友だちと去って行った。
 残されたのは、呆然とする悪友たちと、花純さんがカッコ良く僕にくれたカルピスだけだ。
 
「100円!」「110円!」「ひゃ、112円!」

 勝手にオークションを始める悪友たちの接戦を聞き流しながら、僕は今朝の花純さんとのやりとりを思い出していた。
 これはひょっとして、あのメイドさんの朝絞りでプレゼントした精液のお礼なんだろうか。カルピスというチョイスからその意図を見いだそうとするのは、あまりにもエロ戦士すぎるだろうか。
 とりあえず……最低落札価額は、140円からが妥当だろう。

 放課後、優惟姉さんは図書館に寄るとメールがあったので先に勉強を済ませておく。
 宿題を片付けて予習をしているとノックの音が聞こえた。待ってましたとばかりに迎えると、なぜか姉さんは不機嫌そうな顔をしていた。

「いろいろ意見を聞いてみたけど、んー、どうも根本的に見直した方がいいかもって思えてきて」

 優惟姉さんが論文コンクール用に書くつもりだったプロットが、どうやら手厳しい意見をいただいたらしい。
 僕の隣に座った姉さんは、ちょっと唇を尖らせる。

「別にこれで悪くはないとは言われたんだけど。でも、あんなにいっぱい指摘されたらさー。自信喪失ー」
「国語の先生になんか言われたの?」
「ん、いや、そうじゃなくて……私の師匠みたいな人なんだけど」

 優惟姉さんは「はぁー」とため息をついて頬杖をつく。僕の前ではあまり負の表情を見せない人だから、ちょっと珍しい。

「私としてはね。蓮の成長やそのきっかけなんかを見守った立場としてエピソードを紹介してからの、自身も教育を受ける者として思うこととか、そこから広げて自己成長を促す環境の必要、そして提言、みたいな感じで展開したかったんだけど」
「弟としては最初のエピソードをすごく慎重に選んでもらいたいな」
「でも、まずその展開が急すぎるっていうか、ケース一つでそこまで語っちゃうのっていう、根本的な指摘をされちゃって」
「ふーん……普通は語っちゃわないものなの?」
「そうなの。お姉ちゃん恥ずかしかったの。学校代表だからって背伸びすることないよ、とか……うぅー、子ども扱いされちゃったよぉ」

 ジタバタと足踏みして、姉さんはプロット表に顔を埋める。これ、本気で照れてるときの姉さんだ。よほど恥をかいたと思ってるらしい。
 でも、それってそんなに変かなぁ?
 成育環境とか教育問題とかを大いに語っちゃう優惟姉さんはカッコいいと思うけど。それに、論文コンクールって「良い」と思ったことをバンバン発表する場じゃないの? 子どもだからとか、経験とかデータが少ないから大それたことは語っちゃダメなんてルールある?
 確かに、本気で世の中を説得するつもりで演説するならしっかりしたデータは必要だろうけど……でも高校生のコンクールなんだから、論旨がちゃんと通っていれば多少の飛躍は許されても良いような気がする。じゃないと時間の制約ある中で意義ある結論に到達しないし。というか、姉さんのプロットも指摘されるほど飛躍しているように思えない。
 僕がまだ作文世代の子どもだからなのかもしれないけど。

「じゃあ、最初からやり直すの?」
「うん……そうだね。出だしを変えるか、それとも結びをもっとコンパクトにするか……」
「でもそれ、今のアイディアよりつまらなくなっちゃうんじゃない?」
「他人事だと思って痛いとこを~」
「そ、そんなことないよ。ただ、僕は姉さんの最初の案でいいんじゃないかと思って」
「ダメ。無理。もう恥ずかしくて出せない。それは論文は別に面白くなくていいんだよ。体裁が大事」

 そういうものなのかなぁ。
 今の姉さんは、恥と思う気持ちばかりが先走り、必要もないルールを勝手に追加して出口を狭めちゃってるように見える。完璧主義な人にありがちなパターンだ。
 それに、姉さんにその指摘をしたのがどんな人なのか知らないけど、なんていうか……そこだけ聞くと、アドバイスっていうより、自分の優位を示したいだけの無益な指摘なんじゃないかって、ちょっと疑ってしまうけど。
 姉さん贔屓しすぎかなぁ、僕。

「いいの。別に内容自体を否定されたわけじゃないし、これはまた明日から考え直すから。それより蓮、宿題は終わったの?」

 そんなのとっくに終わってるし、優惟姉さんの帰りとフェラチオを待ってただけだ。
 でもなんとなく、役にも立てなかったのに今朝の約束を持ち出すのも子どもすぎるような気がして、とても「お口でして」なんて言えなかった。
 落ち込んでるのは姉さんの方だし……。
 あ、そうか!
 優惟姉さんはモヤモヤしてるんだ。そういうとき、どうすれば一番スッキリするのか僕は知っている。

「姉さん、今夜は僕が手伝ってあげるよ!」
「え、なにを?」
「オナニー!」

 ピシ、と空気が乾いてそのまま石になった。
 そして石になった姉さんの拳が振り上げられ、ゴチンと僕の頭に落ちてくる。

「いったぁ……」
「あ、ああああなた、何言ってるのよ、いやらしい! どうしてすぐそうエッチなことばっかり……蓮のこと見損なった!」
「でも、姉さんもスッキリするかと思って。オナニーって女の人もするんだよね?」
「お姉ちゃんはしません! もうバカなこと言わないで! ホラ、教科書出して。勉強しなさい、勉強!」

 そんなバカな。オナニーしない人なんているはずない。あんなに気持ちいいのに。モヤモヤも吹っ飛ぶのに。
 絶対、姉さんはウソをついてるんだ。むっつり上手なんだ。なんてったってあのたそがれの姉だもんな。してないはずないよ。きっとオナニー上手だよ。
 なんだい、僕にはあんなにねっとりしたフェラして射精させてるくせに、自分だけ聖人君子を気取っちゃってさ。
 何が君子だよ、クンニさせろオラァ。

 ――キィン!

 善意の申し出をゲンコツで撥ねつけられ、荒々しい気持ちになった僕はコインを鳴らした。
 とろんと優惟姉さんの瞳の色が落ちる。

「姉さん、僕の質問には何でも正直に答えてください。オナニーはしたことありますか?」
「……うん」

 してるでしょうが。やっぱりしてるんでしょうが。
 どんなに精錬潔癖な人生を歩みたいと願っても思春期が許してくれるはずがない。まともな人なら誰でもしている。聖人君子もたぶんしている。
 姉さんも恥ずかしがることなかったのに。

「どれくらいしますか?」
「……一度だけ」
「一度? いつ?」
「中学生のときに一度だけ自分でしてみて……すごく後悔して、それから二度としていない……」

 聖人君子だった。
 さすが僕の姉さんは素敵な女性だった。
 自分のスケベさが恥ずかしくなる。性の誘惑と戦って勝利し続けている人がこんな身近にいるっていうのに、僕ときたらここのところ一日に数回が当たり前になっていた。何かあるたびにエロ展開の毎日だ。最近、自分の部屋着を選ぶ基準も「脱ぎやすいかどうか」になってるし。
 でも、まるっきりオナニーしない姉さんもそれはそれで大変なストレスなんじゃないかと僕には思える。あんなに気持ちいいことをもう何年も我慢しているなんて。
 姉さんもたまには自分を開放してもいいと思うし、そのタイミングとしては今なんじゃないかなって気がしていた。
 スッキリしたいんじゃないかな、姉さんも。
 などと、自分に言い訳をしながら優惟姉さんを僕の共犯にしていく準備を進めていく。

「姉さんは、初めてオナニーをしたときのことを思い出して。どんな感じでした? 気持ちよかったんじゃないですか?」
「……変な気分だった。覚えちゃいけない感覚だと思った」
「では、僕のオナニーを手伝ってどう思いますか? 気持ちよさそうでしたよね?」
「うん……気持ちよさそうだった」
「気持ちよかったですよ。優惟姉さんにしてもらうオナニーは最高に気持ちいい。どう思いますか?」
「よかったと思う……手伝ったかいがあった」
「自分も、僕と同じくらい気持ちよくなりたいと思いませんか?」
「それは……ダメ、悪いことだから……」
「オナニーは悪いことじゃない。僕も姉さんにしてもらったあとは勉強が捗ってるでしょう? スッキリして集中できるからです。オナニーのおかげです」
「……うん」
「姉さんはオナニーがしたい。今のモヤモヤした気持ちをどうにかしたい。気持ちよくなりたい」
「うん……気持ちよくなりたい。スッキリしたい……オナニーしたい」
「オナニーは家族に手伝ってもらうのは常識だ。そうですね?」
「うん」
「だから、手伝ってもらいましょう。家族なら誰でもいいってわけじゃない。一番、心の許せる家族じゃないといけない。優惟姉さんにとって、それは誰ですか?」
「蓮。私の弟」
「ありがとう。僕も姉さんが一番心を許せる家族だよ。だから、手伝わせて欲しい」
「うん」
「それじゃ……催眠を解除します。今までの会話はすっぽり記憶から消えるけど、内容は姉さんの心の底に残ってます。オナニーがしたい。そして、家族の手伝いが必要。それが今、姉さんの一番したいことだ。いいね? じゃ、解除します」

 ――キィン!

 ピク、と姉さんが反応して瞳に光が戻る。
 そして、ノートを広げて普通に勉強を始めようとする僕の隣で、もぞ、と太ももを摺り合わせる。
 僕は気づかないふりを続けた。

「……ねえ、蓮」
「なに、姉さん? 数学からでいい?」
「え、うん……ごめん、その前にちょっといい?」
「いいけど。なに?」

 姉さんは頬を赤くして、太ももの間に手を挟んだままモジモジする。
 可愛らしい仕草にニヤけてしまいそうになるのを我慢するのが大変だった。
 
「ちょっと、蓮にお願いがあるの」
「いいよ。言ってよ」
「……言えないようなことなんだけど」
「ははっ、どういうこと? 言ってくれないとわからないよ」
「は、恥ずかしいことなんだってば」
「恥ずかしいこと? トイレとか?」
「……違う」
「おなかでもすいた」
「そんなんじゃなくて」
「じゃ、なに? 勉強しないの?」
「す、するから、その前に」
「その前に?」
「……蓮にしてあげてるようなこと、お姉ちゃんにして欲しいんだけど……」
「してもらってること? 勉強教えてって言われても無理だけど……」
「お、お勉強じゃなくて、もっとこう、体に関すること」
「お風呂で背中流す?」
「惜しい。ちょっと違う」
「耳かき?」
「だいぶ近い気がする」
「コーヒーでも入れてこよっか?」
「え、すごい離れた」
「何なのか言ってくれないとわからないよ」

 姉さんは唇を真一文字にして、真っ赤なほっぺたにえくぼを作る。
 そのまま数十秒の沈黙の後、意を決したように口を開いた。

「……お姉ちゃん、えっちな気分なの」

 録音しとけばよかった。何のためのスマホなんだよ、僕って本当に使えないやつ。
 まあ、今のセリフはいずれもう一度必ず言わせるとして、ここからどう持っていくかだ。
 姉さんはこの一言を発するために全精神力を使い切ったみたいで、憔悴したように顔を伏せっている。無理もない。姉さんにとっては絶対に弟の前で口にしたくなかった言葉だろう。あとは僕が男らしくリードしてあげなくちゃ。

「ベッドに行こうか?」

 僕が背中に手を添えて言うと、姉さんはコクリと頷き素直に立ち上がってベッドに向かった。
 なんだかひどく興奮した。
 優惟姉さんをまるで自分のカノジョみたいにベッドに誘ってる自分にも、それに従う姉さんにも。
 布団の上に並んで座る。そして、とりあえず咳払いをする。
 姉さんはうずくまったままだ。
 
「じゃ、その……どういう手順?」
「え?」
「姉さんが、自分でするときの順番っていうか……」
「し、しないって言ってるでしょ」

 そういやそうだ。一回しかしたことないんだっけ。
 でも、したことはしたんだから、忘れてるはずないけど。

「胸とか触ったりするの?」

 姉さんは何も答えなかった。
 このまま黙って質問だけしていてもしょうがない。
 あくまで「したことない」と主張するのなら、僕流でやってもかまわんということだろう。
 僕は姉さんの後ろに回って、脇の間から手を通した。
 
「やっ、なに」

 そして姉さんの胸を両手で触った。
 トレーナーとブラジャーの固い感触の下で、柔らかい弾力が僕の手を押し返してきた。
 
「やめて、蓮……」

 姉さんは肩をすくめて僕の腕を締め付ける。でも、胸を這う僕の手の邪魔はしない。僕はそのまま愛撫を続ける。むにむに、少し乱暴に揉むと「いやっ」て言って姉さんは身をよじった。それでも僕は姉さんの背中に体を密着させ、女の子の匂いを嗅ぎながら胸を揉み続ける。
 
「蓮……くふっ」

 鼻から息を抜いて、姉さんのあごが上がる。僕の手に彼女の手が重ねられる。拒否されてはいない。でも、緊張していた。体が強ばって震えている。たぶん気持ちいいとかそんなんじゃなく。
 
「姉さん、下着外してもいい?」
「え、ダメ」
「そのほうがきっと気持ちいいよ」
「いやよ。恥ずかしい」
「じゃ、トレーナーは着たままでいいよ。カーテンも閉めるし。その代わり、中に手を入れる」
「蓮のえっち」
「このままじゃいつまで経っても終わらないよ」
「……トレーナーは、脱がないからね?」
「わかってるよ」

 カーテンを閉めて振り返ると、姉さんはトレーナーの中でブラだけ外している最中だった。ブラは服を着たまま脱げるということを初めて知った。クソ仕様め。
 外したブラを姉さんはお尻の下の布団に隠している。女の人はどうして下着自体を恥ずかしがるんだろう。脱いだ下着になんて僕は用はないのに。
 さっきと同じ体勢に戻り、今度はトレーナーの中に手を潜り込ませる。柔らかくて温かい肌。僕が触れるとザワっと鳥肌が立った。構わず胸へ近づいていく。柔らかい肌の中でもひときわ柔らかいボールが、僕の手の中で弾んだ。
 
「ど、どうしよう……」

 姉さんは泣きそうな声を出す。今さら後悔したって手遅れだ。僕はとうとう、実の姉の、あの堅物で知られた優惟姉さんの、生おっぱいに触れてしまった。
 堅物のくせに柔らかく、肌には張りを感じる。握れば簡単に形を変えてしまう。ふにふにだ。女子高校生の、いわゆるJKのおっぱいは、すごくふにふにだった。
 
「蓮、やっぱり胸は……んんっ、どこ触ってんの、もうッ」

 グミみたいな先端をこりこり摘まむ。感触がすごくいい感じ。しゃぶったら美味しそう。お酒とか飲める年じゃないけど、これをつまみにぬる燗とかならスイスイいけそうな気がする。

「だ、ダメぇ!」

 ビク、ビク、姉さんの体が跳ねる。
 自分でもろくに触ったことのない場所を弟に触らせるんだから、そりゃすごい刺激的だろうな。
 すっかり余裕をなくしてしまった姉さんが僕の手の中にいる。なんだか優越感というか、自分が大人の男になった気分だった。
 
「姉さん、横になろうか。座ってるのつらいでしょ?」
「……え?」

 優しくエスコートしてベッドに横たえる。
 そして、姉さんの上に跨がり、トレーナーの下から手を潜り込ませる。

「あぁっ、やっ、恥ずかしいってば、こんな格好!」

 確かに余計に恥ずかしくなったけど、むしろ興奮するじゃない。
 僕の下で姉さんは顔を真っ赤にして悶え、声を我慢する。でも、おっぱいはもう僕のものだ。乳首を摘まみながらぐにぐに回すように揉んであげると、姉さんは体を仰け反らせて歯を軋ませた。
 まるで僕たちはセックスしてるみたいだった。
 
「はぁっ、はぁっ、んっ、はぁっ、んんっ、はっ、はっ、はぁっ」

 やがて姉さんは無言になり、荒い息を吐くだけになる。
 指を噛みしめ、もう一方の手は布団を握りしめ、たまに強い刺激を与えてあげると、「んんんんっ!」と必死に悲鳴を飲み込み、ますます苦しげに息を乱す。
 
「はぁっ、はぁっ、んっ、んんんんっ! はぁ、はぁ、はっ、はっ、はっ、はぁぁ、んっ、はぁ、はぁっ」

 乱れた呼吸と、軋むベッドの音。
 メガネの奥の濡れた瞳が、時々切なそうに僕を見上げる。
 これが優惟姉さんのオンナの顔。
 他の誰かに見られる前に、僕が見ることが出来てよかった。
 こんなきれいな顔、まだ他の男に見せるのは早いよ。
 僕は姉さんのスウェットズボンに手をかける。薄手のそれの中に履いてる下着と一緒に。

「あ、蓮、だめ、それは」
「大丈夫だよ」

 何が大丈夫なんだって自分でツッコミながら、手を止めることは出来ない。
 するりと脱げていく下着の中に、姉さんの薄い陰毛が見えた。姉さんは慌ててスウェットを掴む。
 
「ダメだってば、蓮。そこはダメなの」
「どうして? 僕にはしてくれたでしょ。僕も姉さんにしてあげたいんだ」
「でも……」
「大丈夫。姉弟でしょ?」
「そうだけど。姉弟なんだけどぉ」

 じっさいは姉弟だからこそやばい行為なんだけど、僕の催眠術で姉さんの常識は「姉弟だからオナニーの手伝いはあり」と書き換えられている。
 ただし、僕はせっかくの羞恥心を消すようなことはしない。あっけらかんと服を脱ぐ優惟姉さんなんて僕のイメージにないから。
 そんな言われるままポンポン脱いじゃうビッチっぽい優惟姉さんなんて僕は……あぁ、うん、機会があったら試してみるかもしれないな。
 でも今は、優惟姉さんを優惟姉さんのまま、脱がしてしまいたいんだ。常識的なこととは思いつつも、未体験の行為に怯えと恥ずかしさを感じている姉さんの可愛い部分も見たいから。

「や、やっぱりお姉ちゃん自分でするから」
「ダメだよ。姉さんにはいつも手伝ってもらってるから、今日は僕が姉さんにする」
「蓮、いいってば。お姉ちゃん自分で出来るし」
「いやだ。僕がする」
「なんでぇ?」
「姉さんにしてもらったらすごく気持ちいいから。だから姉さんにお返ししたい」
「…………」
「ダメ?」
「少しだけ、なら」

 姉さんの手が離れた。僕はそのまま姉さんのスウェットを脱がせていく。姉さんは枕を掴んで顔を隠した。僕が下着を脱がせると、膝を丸めてアソコも隠そうとした。そのせいでお尻もアソコ逆によく見えるようになっちゃってることには気づかないみたい。

「姉さん、聞きたいんだけど」
「な、なに?」
「姉さんって処女?」
「なっ!? 何のことよ!」
「大事なことだよ。どこまで触っていいかわからないし。知らないで傷つけたら大変だもん」

 具体的に言うと、指を入れたりなんかしていいかってことだ。
 その手の話題は今まであまりオープンにしてこなかった姉弟だけど、たとえば優惟姉さんに僕の知らない恋人がいたことあったかもしれないし、今もいるとかあるかもしれないし、もしもセックスもしているのなら、僕の出来ることの幅も広がる。綾子さんにしたみたいに指を入れてグリグリとか。
 でも、弟として当然まだ高校生の姉にはきれいな体でいて欲しいところだ。というか、処女に違いないって確信に近いものも持っている。姉さんが不純な異性交遊なんてするはずがないって。
 枕の下で、「ふぅー」と長いため息がつかれた。ノーブラのトレーナーが何度か大きく上下した。

「気をつけて触って」
「え?」
「お姉ちゃん………経験ないから」

 優惟姉さんは、小さい頃から僕の期待を裏切ったことがない。
 自慢の姉だった。

「わかった。丁寧に触るね」

 姉さんのそこは薄明かりの中でもわかるくらい鮮明な色をしていた。
 まだ誰も触れたことのない、誰も見たことのない場所。
 こんなにも美味しそうな果実なのに。

「……ッ」

 僕の指が触れると、姉さんの体はピクンと跳ねた。

「痛い?」
「…………」

 返事がないのでそのまま続ける。
 そっと、刺激を与えないように刺激するっていうおかしなことを意識しながら、出来るだけ優しく。
 姉さんの体は時折跳ねて反応を返す。でも、同じ場所を触り続けても反応するときとしないときがあって難しい。
 綾子さんにしたみたいに『えっちポイント』を作ろうか。でもオナニー経験もろくにない優惟姉さんにはその「えっちな感覚」を再現できないだろう。
 僕が自分で教えていくしか――
 
「れ、蓮」
「なに、姉さん?」
「ちょっと、ひりひりする……」
「あ、ご、ごめん」

 枕越しにくぐもったクレームが入る。
 やはりどうにも難しい。優惟姉さんのは綾子さんみたいに濡れてないし。
 濡れる……そうか、濡れてないから痛いんじゃないだろうか。

「ひゃん!?」

 試しに舌で触れてみた。
 ふにっとした感触はあったけど、綾子さんみたいな濃い味はしなかった。

「あ、なに、これ、んっ、何してるの、んっ、蓮?」

 姉さんの反応は指でしてたときより柔らかくなった。
 でも、枕越しに自分の股間を覗き、そこにいる弟と目が合った姉さんはすごく驚いた顔をした。

「やっ!? ちょっと、ダメよ、そんなこと! 離して!」

 頭をぐいぐいと押される。でも僕も頑張って姉さんの太ももにしがみつく。
 なぜ頑張るのか自分でもわからないけど、離されるもんか。

「姉さんだって口でしてくれたでしょ。お手伝いするならこれくらいはするよ。姉さんは気にしないで気持ちよくなって」
「気にしないわけないでしょ! ダメよ、蓮。そこはばっちいとこなの。もういいからやめて。お姉ちゃんもう十分だから!」

 姉さんは強情になって僕の頭をぐいぐい押し戻す。
 恥ずかしい気持ちはわからないでもない。僕だって最初にオチンチンをしゃぶられたときは軽くパニックになった。しかも失神直後だったし。
 でも、だからこそ優惟姉さんには知ってほしい。この気持ちよさを。家族の助け合いの素晴らしさを。
 
「汚くなんかないよ。ウソじゃない。全然平気だからさせて欲しいんだ。僕だって、お姉ちゃんの役に立ちたいもん」

 我ながら卑怯な言い方だと思う。
 でも、姉さんの抵抗は止んだ。
 僕を拒んでいた手は離れ、真っ赤になった顔を再び枕で隠し、そして太ももから力が抜けた。

「続けるね?」
「…………」

 姉さんは何も言わない。
 だから、僕もそれ以上は何も聞かずに、アソコに舌をつけた。
 ピクン!
 姉さんのきれいな色したヒダが震える。ピクン、ピクン、舐めるたびにお尻の方まで震えていた。

「姉さんの、おいしいよ」
「~~~ッ!」

 枕の下でくぐもった悲鳴が聞こえた。
 思わずニヤけてしまいながらも、クンニを続行する。
 そう、クンニだ。
 僕はとうとう、優惟姉さんにクンニしてしまったんだ。

「ぴちゃ、ちゅ、ちゅ、れろ、んっ、ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅぷっ」

 濡らさなきゃいけないと思って、唾液を思いきりまぶして舐める。
 そのせいでエッチな音がした。優惟姉さんはお行儀悪いだって怒るだろうか。でも姉さんのために立ててるスケベな音だ。頑張ってご奉仕している証だと思って欲しい。

「ずずっ、ちゅっ、れる、れろ、ちゅぷ、ぴちゃ、んんっ、ちゅぅ、れる、れる」
「はっ、はっ、はっ、んんんっ!」

 僕の舌を余裕で受け入れてくれた綾子さんと違い、姉さんはいちいち大げさに反応してお尻をぴょこぴょこ浮かせる。
 でもその方がダメージ与えてる感じがして楽しいや。
 暴れがちな太ももを押さえつけ、僕は一生懸命に姉さんのオマンコを舐める。

「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー、はぁー」

 顔を上げると、枕に隠れた姉さんは百メートル走ったあとみたいに呼吸を荒げていた。ノーブラなせいで胸が色っぽく動いていた。
 アソコは僕の唾液でびしょびしょになっている。でも、だんだんしょっぱくなってきているから姉さんもたぶん感じているんだ。聞いてもどうせ「そんなことない!」って怒るから聞かないけど。
 指で姉さんのアソコを広げる。「あぁ……」恥ずかしそうな声が枕の下から聞こえる。とろりと中から液体が零れた。処女でも中から液は漏れるらしい。膜ってどういう状態になってるんだろう。
 さらに広げる。「やぁッ」と姉さんが身をよじる。怒らせるのは得策じゃないから、このへんにしておこう。
 その代わり、もっと舐める。

「……え?」

 僕は姉さんの太ももを持ち上げる。お尻が浮いてアソコもよく見えるようになる。
 自分がどんな格好をされているか枕の下のお姫様はわかっているだろうか? 大胆にめくれたアソコは真っ赤に充血していた。
 
「やっ、やぁっ」

 ようやく気づいたみたいで姉さんは足をばたつかせる。
 でも、黙らせてやる。僕は口を開けて姉さんの下の口を唇を合わせ、れろれろと舌を蠢かせる。

「くちゅ、くちゅ、ちゅぶ、れる、ちゅる、れる、れろ、れろ」
「はっ、はぁっ!? はっ、はっ、はっ、はっ、はぁーっ」
 
 枕を抱えたまま姉さんは息を乱して悶える。僕はアソコ全部を食べちゃうつもりで大きく口を開け、姉さんを吸い込む。
 太ももが僕の顔を挟む。苦しいけど僕はそんなもので怯まない。むしろその太もも押し返すように顔を押しつけ、舌を動かす。
 優惟姉さんのオマンコとディープキスだ。舌を思い切って膣の中に入れてみた。
 
「はぁーっ、はっ、はっ、はぅーっ、うっ、はっ、はっ、んんっ、はぁー、はぁーっ」

 姉さんの膜の安否がちょっと気になったけど、舌だし、破っちゃうことはないだろう。
 大胆に舌を動かし、しょっぱくなってく姉さんのアソコを縦横に蹂躙する。枕に顔を埋めて姉さんは悶え、ときおり掠れたような悲鳴を上げた。
 僕は今、姉さんを感じさせている。
 そう考えるとすごく興奮したし、自分を誇らしく思えた。
 優惟姉さんをエッチで泣かせた最初の男になるんだ。

「はぁっ、はぁっ、うぅ、ひんっ、はっ、はっ、うぅー、はっ、はぁ、はぁ、はぅんんっ」

 逃げようとする足を抱えて、僕はトレーナーの中に手を伸ばした。
 アソコを舐めながら、おっぱいも喜ばせてあげようって閃いたんだ。
 ふよふよのおっぱいの先っちょで、それはすごく固くなっていた。だから、おっぱいと一緒にほぐすつもりで強めに握った。
 
「んんーッ!」

 姉さんは慌てて脇を締め、肘で僕の手を邪魔しようとする。でももう遅い。おっぱいは僕の手の中だ。ちょっとはみ出してるけど。
 もにもに揉んで、ちゅぱちゅぱ吸う。もう片方の手でお尻も揉んだ。
 忙しいけどやりがいのある仕事だ。姉さんは体をよじってくぐもった悲鳴を上げる。僕は攻撃をやめない。泣くまでやめない。たぶん泣かれてもやめられない。

「はぁー、はぁー、はぁー、んんっ、はぁ、はぁ、はっ、んんんっ、はぁー、はぁー」

 姉さんもだいぶ参ってきたみたいだ。
 では、そろそろ仕上げにかかろう。
 ここまでのクンニであえて触れずにいた箇所があることに姉さんは気づいているだろうか。あるいは、そこのことを知らないという可能性だってある。
 どちらにしろ、僕はそこも舐めるつもりでいた。
 ショートケーキのイチゴを残すやつなんていない。

「んんんんんっ!?」

 どうやら姉さんは知らなかったらしい。
 それとも今まで避けてきたオナニーが忘れさせていたのか。

「んーッ!? んっ、んっ! はぁっ! はっ、はっ、はっ、んんーッ!」

 クリトリスを軽く舐めてあげただけで、姉さんは電流でも流されたみたいに全身で反応した。
 枕に爪を立て、背中を仰け反らせ、柔らかな肌の下の筋肉を緊張させ、必死で逃れるために暴れた。
 だけどここから漏れてくる液体はますます多くなり、匂いと味が濃くなっていった。
 気持ちは快楽を恐れても、体は間違いなく悦んでいる。僕は自信を持ってクリトリスを責める。舌で優しく転がし、時々軽く吸い付いてキスをする。乳首よりも固くなっていくそれは、心なしさっきより大きさも増している気がする。それでも、綾子さんのよりは小さいけど。
 姉さんは処女だし、だから可愛いのかもしれない。

「ひっ、んっ、はっ、はぁっ、はっ、んっ、あっ、んっ、んんっ、んーッ!」

 姉さんのお尻がバウンドする。僕も必死にそれについていって、クリトリスを執拗に舐める。
 間違って歯を当ててしまったとき、姉さんは「ひぃっ!」て悲鳴を上げた。なるべく痛くしないように気をつけて愛撫する。大事に大事にだ。
 やがて姉さんは足をバタバタさせて、僕の顔を押し戻そうとする。でも僕はがっちり太ももをロックして、アソコと乳首から離れないようにしてクンニを続ける。
 
「大丈夫だよ、姉さん。僕がここにいるから、怖くない」
「んんーっ、んんんっ、んんっ、んんんっ、んーッ!」

 僕も最初に綾子さんにイかせてもらうときは、ちょっと怖かった。自分でコントロールできない快感に振り回されるのが不安で。
 でもそれは最初だからだ。自分の手でイクよりもずっと気持ちいいことがわかれば、きっと姉さんも好きになる。
 家族で助け合うオナニーは最高だって、姉さんならわかってくれるはずだよ。

「イって、姉さん。僕が手伝ってあげるから、このままイきなよ姉さん!」

 ちゅぅぅぅぅ、と姉さんのクリトリスに吸い付いた。
 どん、と姉さんの足に肩を蹴られて顔が離れる。

「んんんんんんーッ!」

 枕に強く顔を押し当て、姉さんは悲鳴を噛み殺し、お尻を浮かせる。

「んっ……んんっ……んーっ」

 ゴロゴロとベッドを転がり、お尻をこっちに向けてピクっと姉さんは痙攣し、そのまましばらく体をピクピクと震わせ、そしてベッドにお尻が沈む。

「……はっ、はっ、はぁ……はぁー」

 枕が顔を離れ、姉さんの唇からヨダレが糸を引いた。
 いつものきれいな横顔はすっかり上気し、ずれたメガネから覗く瞳は涙に濡れ、そして催眠状態のときみたいに光がなかった。
 姉さんは、イッたのかな? たぶんこれ、イッたよね?
 あの優惟姉さんがお尻丸出してイッてしまうなんて、すごいことをしてしまったって気分になる。
 でも、大丈夫なのかな?
 おそるおそる姉さんの顔に近づいてみると――いきなり姉さんの腕が首に回り、締め付けられてしまった。

「むぐっ、姉さん?」

 姉さんのノーブラおっぱいが顔に押しつけられる。
 体勢が入れ替わって姉さんに抱きしめられる。
 そして、髪を優しく撫でられる。
 
「蓮……蓮……」

 何度も何度も僕の名を愛おしそうに呼ぶ姉さん。
 剥き出しの太ももが僕の足に絡み、逃げられない格好になる。

「蓮……ん」

 でも、姉さんの声も指も優しくて、僕は甘い匂いを嗅いでうっとりとしてしまう。
 姉さんは、僕の髪を梳くようにして何度も柔らかい胸の谷間に抱き寄せる。
 
「やっぱり、論文には蓮のこと書こうかな」

 そういやそんな話をしていたっけ。
 気持ちの良い場所に顔を埋めて、僕もぼんやりとそのことを思い出した。
 
「蓮のこと書きたい」

 ギュッと抱きしめられていると、僕のオチンチンはますます固くなっていくし、射精だってしたくなる。
 でも今は、もっとこの体勢を続けていたかった。

< 続く >

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