27
「どうして? あたしは嫌!」
学校から帰ってきた奈緒はそう叫んだ。
特徴のあるセーラー服姿でラクロスのラケットにバッグをぶら下げている。腰のところで巻き上げているのか、スカートはかなり短く膝上から15センチくらい見えているふとももは健康そうな色艶だった。ポニーテールにした髪は染めているらしく明るい栗色で、卵形の顔によく似合っているが、印象としては服部早苗をきつくした感じだ。
意志の強そうな眼には炎が宿っているようだ。
「ずっと教えてきたように、あなたは『ム』なのよ」
「わかってるわよ! でも、あたしが選んだんじゃない!」
「でもこれは・・・」
「運命なんて嫌い!」
「ならば、私がひとりで舞います」
母娘の言い争いを聞いていた結花が立ち上がって言った。
服部早苗から提供された白い小袖に緋袴という巫女の装束に身を包んでいた。
「だれ? あなた・・・」
結花の格好を見て毒気を抜かれた様子になった奈緒が言った。
「私は壬生結花。『ミ』の者です。そして、今日は斎部隼人様にお仕えすることを祝う大切な日。あなたが舞わないのなら私ひとりで式を執り行います」
そう言う結花は、すでに神がかって見えた。舞っているときのようなオーラが漂っている。
「い、嫌よ! ここは、あたしの家。あなたの舞なんかより・・・」
奈緒の声は畏れで震えていた。
「あなたが嫌なら、この家は引き払うしかありません。すべてを捨てて野に下るのもいいでしょう。結花さんに舞ってもらいましょう」
服部早苗が冷たい口調で言った。
「い・・・いや・・・あたしだって・・・」
「あなたにも舞いは教えたはずです」
「ど・・・どうすれば・・・?」
「禊ぎをして着替えるのです。手順は幼いころより教えているはず」
「でも・・・あたし・・・まだ・・・」
「覚悟を決めるときが来たのです。昔のように強制はできない時代だから無理にとは言いません。あなたが『ム』を絶えさせるのなら私も責任を取ります」
「そんな・・・」
「大丈夫。私があなたの記憶を消してしまえばそれで終わりです。これは母の言葉ではなく『ム』の長としての務め」
そう言う服部早苗の声にも威厳と覚悟が感じられた。
「舞えば・・・いいのね・・・?」
「ええ。あとは、この隼人さんの思し召し次第」
奈緒は隼人を燃えるような眼で見つめた。
「はじめまして。僕は斎部隼人。『サイ』の修行中なんだ。不思議な縁に導かれてここへ来たけど、僕は奈緒さんの気持ちも尊重したい。早苗さんの言う覚悟がないんだったら無理強いはしたくないんだ」
隼人は静かに言った。その口調を葉月が聞いたら驚いたに違いない。雄大そっくりな重々しいものだったからだ。
「あなたが・・・サ・・・イ・・・?」
奈緒は気圧されたように言う。すっかり隼人のペースに巻き込まれた感じだ。
「そう。奈緒さんが望むなら運命を共有できる」
「舞うのはいい・・・そこにいる結花さんに負けたくない・・・でも・・・」
奈緒は唇をかみしめる。
「わかった。じゃあ、こうしよう。舞うだけでいい。僕は奈緒さんに術をかけるけど、奈緒さんが嫌だと思ったときには自分の意志で逃げられるようにしてあげる。僕は早苗さんのためにも儀式を司らなきゃならない。途中でやめるのは奈緒さん次第にしよう。早苗さん、それでもいいですよね?」
「はい。仰せのままに。奈緒が抜けるのなら、わたくしが代わりとなってお仕えいたします」
服部早苗は凛とした声で答える。
「わかったわ。着替えてくる」
奈緒は隼人を一瞬だけキッと睨むと、踵を返して奥へと走っていった。
「申し訳ありません。あんなふうに育ててしまったのは私のいたらなさです」
「どうやら、結花ちゃんに対してライバル意識があるみたいですね」
「ええ。血ですから、あの娘だって舞うのは好きなんです。きっと誰にも負けないって思っているに違いありません」
「ちょっと楽しみ」
結花が言った。
「だって、二人で舞うのって初めてなんだもん。ワクワクする」
奈緒とは反対に結花はリラックスしている様子だ。これが力を得た後の余裕なんだと隼人は思った。
「早苗さん、いまごろ気がついたんですが、僕は式次第なんて知らないんです。どうすればいいんですか?」
「思うがままに。決まり事はありません。二人が舞って、あなたと結ばれればよいのです」
「それだけ?」
「はい。力なき者が執り行う儀式なら威厳を保つためのかたちも必要なのでしょうが、我らの儀式は祭主の意のままに。奈緒に力を授けていただければよいのです」
そんなものかと隼人は思った。気が楽になった。
「どうぞ、こちらへ」
うながされるままに隼人と結花は庭へ出た。
篝火が焚かれ芝の上には毛氈が敷いてあった。
夕闇に浮かぶ海の景色が美しかった。
28
奈緒が巫女装束に着替えてきた。
その身体からはボディーシャンプーの香りが漂っていた。化粧はしていない。二重まぶたの大きな眼には、もう怒りの色はなかった。心が舞いのモードに切り替わっているようだった。
その姿を見た服部早苗は安堵の表情を見せて毛氈の傍らに正座した。毛氈が舞いの舞台だと察した隼人も、服部早苗に習って隣にあぐらをかいて座る。
結花が毛氈の上に歩み奈緒に手をさしのべた。意味がありそうなポーズだった。その姿を見ただけで隼人は背中がゾワゾワとして鳥肌が立った。景色など霞んでしまうほど美しかった。
釣られるように奈緒が毛氈へ上がると、なんの前触れもなく舞いははじまった。しなやかに両手をひろげた結花は滑るように毛氈の上を移動する。負けじと奈緒も舞いはじめる。息はぴったりだった。まるで何度も練習を重ねたようなコンビネーションだった。笙の笛の音色が聞こえてきそうな気がした。
隼人は儀式であることも忘れて見惚れていた。
やがて結花は天を仰ぎ激しく震えだした。
同じように奈緒も震えだす。
二人の背中から炎のようなオーラが見えた。
「いまです。あなたなら同時に『サイ』をかけられるはず」
服部早苗の言葉に従って隼人は二人に向かって手をかざし「サイ」を唱えた。
二人は爪先立ったまま硬直した。
ストップモーションのようだった。
隼人は舞台に上がる。
「僕は二人に会えてうれしい。二人とも、かけがえのないパートナーだと思う。でも、奈緒ちゃん、君は嫌だったらいつでもこの場所から去ることができる。わかったら返事をして」
「はい・・・」
巫女特有の眼をして奈緒が答える。
「結花ちゃん、君はすばらしい身体と感度の持ち主だ。もう『サイ』をかける必要はないかもしれない。でも、今回は違う。奈緒ちゃんに一族であるよろこびを教えて欲しいんだ。僕は力を使って結花ちゃんの感覚を奈緒ちゃんに転送する。だから、いままで以上によろこびは深くなる。足し算じゃあなくてかけ算だね」
「はい・・・」
結花も答える。
「奈緒ちゃん。もし、僕に心を開いてくれるなら、君はいままでにない快感を得られるようになるだろう。僕が触れば身体中に電気が走ったようになり絶頂を迎える。僕のものが君の中へ入ったときはなおさらだ。それが、どんなものかを結花ちゃんを通じて教えてあげる。判断するのはその後だ。まずは座って僕らを見ていればいい」
「はい・・・」
奈緒はその場に正座をした。
「結花、おいで」
隼人が両手をひろげると、結花はうれしそうにその胸に飛び込んだ。
しっかりと受け止めた隼人は結花の身体を抱きしめて、その感覚が奈緒にも伝わるように念じた。
唇を重ねたとき、奈緒の表情が蕩けたように変わった。
隼人はキスしたまま結花の袴の帯を解く。ふわりと袴が落ちて足元にまとわりついた。次に小袖の中へ手を差し込み襦袢と一緒に剥ぎ取るように脱がせてしまう。
足袋を履いただけで結花は裸になった。下着など着けていなかった。
隼人は手のひらを滑らせて結花のバストを包み込むと持ち上げるようにして揉んだ。
「あんっ」
身体を震わせて声をあげたのは奈緒だった。
隼人はその様子を薄目を開けてうかがいながら結花の乳首をつまんだ。
「うっ・・・」
奈緒は下を向いて堪えているように見えた。
隼人は毛氈の上に結花を横たえ足袋を脱がせて全裸にした。そして自分も服を脱ぐ。ひざまずいて足の親指を口にふくむと結花がビクンと反応した。
「ああ・・・どうして・・・そんなとこが・・・」
「サイ」によって結花の身体は全身が性感帯になっている。そうじゃなくても、ここ三日の体験が感度を高めている。
「結花ちゃん、僕の心が読める?」
隼人は結花のつま先から頭のてっぺんまで愛したいと思っていた。
「ああんっ! うれしい・・・そうなのね・・・あああっ!」
隼人の想いが結花の快感を加速させた。
「ああっ! はやと・・・さまぁっ!」
隼人の舌先がふとももにまで移動したとき結花は最初の絶頂を迎えた。隼人の心を読み、その思いに感激し、「サイ」で意識と感度が高められている結果だった。
その横で奈緒は結花と同じ姿勢になって震えていた。
隼人は横たわった結花に愛撫を続ける。その姿は琴の奏者にも見える。そして結花はどんな楽器より敏感に反応して啼き続ける。
「はうぅぅぅっ!!」
隼人のものが挿入されたとき結花の身体は一直線になって硬直した。
僅かに浮いた脚と足の甲も直線になっており震えているのが官能の深さを物語っていた。
奈緒の反応も同様だった。大きく眼を見開き、何度も腰をバウンドさせている。その姿を妖しい眼で見つめる服部早苗の眼も潤んでいて肩で息をしていた。
しかし隼人はフィニッシュに至っていない。結花を愉悦の奈落へと誘うように激しく律動を繰り返す。
「ああっ! ああっ! あああぁぁっ!!!」
ひときわ高い嬌声があがった。隼人が結花の内部へ「気」のこもった精液を放出していた。
ビンッ! ビンッ! と跳ねるように結花が痙攣した。
ゆっくりと身体を離した隼人は白目を剥いて震えている結花を見下ろした。なんと、その屹立は硬度と大きさを保ったままだった。
隼人が快感の転送をやめると奈緒はぐったりと弛緩してしまう。仰向けになった身体を折り曲げて寝返ると立ち上がろうとした。しかし、力が入らないようだ。 術によって絶頂を送り込まれた身体の中で「ム」としてのDNAが覚醒していた。隼人に従い、抱かれることが自分の運命なのだと悟った。いや、心の底から隼人に抱かれたいと思っている自分がいた。そんな奈緒に隼人は歩み寄り声をかけた。
そんな奈緒に隼人は歩み寄り声をかけた。
「さあ、奈緒ちゃんの番だ。嫌かい?」
「い・・・いいえ・・・私が何者であるかが・・・わかり・・・ました。どうぞ力を・・・授けてください」
奈緒は這って隼人の足元にかしずいた。
「ありがとう。わかってもらえてうれしいよ。自分で・・・脱げるかな?」
「仰せの・・・とおり・・・」
奈緒はヨロヨロと立ち上がり袴の帯を解きはじめた。
意外だったのは奈緒の巫女姿が妙に似合っていたことだ。ラクロスのラケットを担いでいた活動的な印象とはまるで違う。栗色に染めた髪をひとつにまとめていて、目鼻立ちのはっきりした顔立ちはハーフっぽくもあるのに伝統的な装束に身を包んだ姿には違和感どころか巫女とはかくあるべきという気持ちさえ覚えるほどなのだ。
奈緒は脱いだ袴を丁寧にたたむ。その姿も日本的だった。足袋を脱ぎ、小袖と襦袢も脱いだ奈緒は生まれたままの姿になって正座をする。
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
まるで嫁入りのときのように三つ指をついて頭を下げた。
「じゃあ、おんなじようにキスからはじめよう。立ってごらん」
隼人は結花にやったのと同じ手順を踏むつもりだった。
「こっちへ来て」
両手をひろげるとオズオズと立ち上がった奈緒は隼人を見つめる。
奈緒は裸身を恥じらうこともなく晒していた。ほんのすこし外側を向いた色の薄い乳首が愛らしかった。ラクロスかどうかはわからないがスポーツで鍛えられたらしい身体は伸びやかでバネを秘めている感じだ。その点では結花と共通しているが、奈緒の方が若干背が低く、丸みを帯びている。股間の翳りは細く柔らかそうなヘアーが密集している感じだった。
「怖くはない。僕に任せて」
隼人は奈緒の眼を見ながら言う。「サイ」の言葉は暗示よりも強い。
奈緒の表情から不安が消えた。ためらうことなく隼人の胸に飛び込む。隼人は背中に手をまわして抱きしめる。
「はぁぁぁ・・・」
肌が密着しただけで奈緒は熱い吐息を漏らす。奈緒の肌は滑らかで弾力に満ちていた。
隼人は顔の位置を変えて唇を重ねる。
舌を絡めたとき奈緒はビクンと震えて軽い絶頂に達したようだ。隼人の中のメーターが一瞬だけ振り切れた。
隼人の指がツボを探るように奈緒の背中を這う。
「んっ! んんんっ!!」
奈緒は身体をよじらせて悶える。触っただけで絶頂を迎えると言った暗示が効いているのだ。隼人は奈緒の体温が上がっていくのを感じていた。潮時だと思った隼人は唇を離して首筋へ、さらに下へと移動させていく。
「うあっ!」
隼人が身体をずらせて舌先が乳首に移動したとき奈緒が叫んだ。ものすごい勢いで身体が跳ねた。
「だめ・・・もう・・・立って・・・られない・・・」
途切れ途切れに言いながら奈緒は身体を震わせている。
「わかった。横になろうか」
隼人は奈緒の身体を支えながら毛氈の上に横たえた。
「これからだよ」
奈緒の膝を割って脚を開かせながら隼人は言う。
縮れた細いヘアーが囲んだ奈緒の秘肉からは蜜の香りが漂っていた。それは南国の果実を思わせるような妖しいものだった。
「うあぁぁぁぁっ!」
隼人が秘貝を開いただけで奈緒は腰をバウンドさせながら叫ぶ。
蜜壺から溢れた愛液が秘肉を濡らして篝火の明かりで輝いていた。
揺らめく炎に照らされた入り口が奈緒の喘ぎにシンクロして開いたり閉じたりしている。まるで隼人を挑発しているようだった。
「はぅんっ!!」
隼人が秘肉を口にふくむと奈緒はそれだけで達してしまった。
「くっ! くぅっ!!」
跳ねる腰を抱えながら、隼人は何度も舌先を入り口からクリトリスまで舐め上げた。意識を失うまで責めて欲しいと言った服部早苗の言葉が頭の中でリフレインしていた。
いままでは意識せず放出のときに「気」も一緒に放っていたが、「サイ」を唱えるときのようにしたらどうなるのだろうと隼人は思った。単に早く結ばれたい口実かもしれないと心の中で苦笑しながら隼人は最終段階へと体勢を整える。
屹立を秘肉へあてがい、滑りをよくするために蜜を塗り拡げるように動かす。
「ああっ・・・わたしも・・・これで・・・あうぅぅっ!!」
挿入されたとき、奈緒は大きく眼を見開いて隼人を見た。
「奈緒ちゃん。これで僕らは一族の仲間だ。そして、君は僕のパートナー」
隼人は微笑んで言う。それは「サイ」の跡継ぎとして威厳のこもった口調だった。
しかし、隼人のものを受け入れた奈緒の表情は官能とは違うものだった。
「き・・・きつい・・・いたいの・・・」
涙を浮かべた眼で隼人を見ている。
その言葉を聞いて隼人は暗示が不十分だったのだと思った。
「奈緒ちゃん。痛いのは一瞬だ。僕のものが奥まで入ったとき、これまで経験したことのない快感が待ってる」
隼人は腰を進めて結合を深める。
「あうっ! な・・・なに・・・あああっ! ああ~んっ!!」
まるでスイッチが切り替わったように奈緒が喘ぎはじめた。
隼人は安堵する反面、たしかに「サイ」は便利だが面白味に欠けると思いはじめた。南川琴音の反応が懐かしく思い出された。祭主としての義務感から奈緒を抱いてしまったが、はたして自分の本心はどうなんだと自問しながら腹の下で悶える奈緒を見つめる。
何度も絶頂を迎えた奈緒の肌は興奮で桜色に染まり、押し寄せる波に流され飲み込まれることを堪えるように毛氈を握りしめている。
初めて会ったときに感じた挑みかかってくるような気の強さは影をひそめ、いまは隼人にすべてを委ねている。
そんな奈緒を隼人はあらためて愛おしいと感じた。これから一族の大切な仲間になるのがうれしいと本心から思った。
隼人は想いを込めて律動を開始する。
「あうっ! だめ! こわれ・・・ちゃうぅっ!」
奈緒の叫びは苦痛とは正反対のものだった。
「ああっ! いやぁっ! こんな・・・ああ~んっ!!」
自重で形を変えたバストが律動に合わせて揺れている。
身体を密着させると、その膨らみが柔らかくつぶれて体温を伝えてきた。
挿入したときよりも奈緒と一体になったのだという実感があった。
その気持ちが伝わったのか奈緒は隼人の背中に手をまわして震えだした。
隼人の頭に浮かぶメーターは振り切ったままだ。そんな奈緒の高ぶりに呼応するように隼人も限界を迎えていた。下腹部に貯まっているエネルギーが熱く膨れあがる。隼人は「サイ」を唱えるときのように意識を集中させる。すると「気」のかたまりが尿道を通って噴出した。
「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
奈緒が絶叫した。
身体が大きくバウンドを繰り返す。
隼人も恐ろしいほどの快感に目が眩む思いだった。直感的に「気」が子宮を直撃したことを理解していた。「サイ」を頂点として「ミ」と「ム」が美しい正三角形を作ったのがわかった。
奈緒は身体を一直線にしてビリビリと痙攣した後、ぐったりと弛緩してしまった。完全に意識を失っているようだった。
「ふたりとも明日の朝まで目を覚ますことはないでしょう」
大きく肩で息をしている隼人に服部早苗が語りかけた。
「すごかった・・・魂を抜かれちゃった気がする・・・」
仰向けになった隼人はそう答えるのがやっとだった。
胸の中の渦が銀河のように輝いていた。
< 続く >