サイの血族 18

39

 空腹に気づいた隼人は後悔した。

 行き当たりばったりで美香と彩を抱いてしまい前後のことを考えていなかった。もう時刻は夕方に近い。今夜の宿を確保しなければならないし、食事もしなければならない。でも疲れのせいか「サイ」を使うのも億劫なのだ。

 歩きながら、隼人は美香の家に転がり込めばよかったと考えていた。母親と二人ならば「サイ」が通用するから寝床と食事は同時に手に入ったはずだ。しかし後戻りは許されないと雄大は言ってた。歩き続けるしかなかった。

 隼人は、なぜあのときに南川琴音のことを思い浮かべてしまったのかを考えた。女性に対して「サイ」は万能に近い。すくなくとも欲望を満たす目的に限れば恐ろしい力を手に入れてしまったとさえ思う。しかし、南川琴音と結ばれたときには「サイ」を使わなかった。「気」のせいでハードルは低くなってはいたが、生身の女と駆け引きがあり達成感があった。なんでも言うことを聞く女とセックスをするよりは数倍おもしろいのではないか、だから、彩が美香に対して言葉で抵抗しているのを聞いて興奮したのではないか、などと、とりとめもないことを考えながら歩く。

 もうひとつ感じていることがあった。新しいアイテムを授かったのではなく、技に磨きがかかったというか、「サイ」をかけた相手の精神操作がより細やかにできるようになったことを隼人は自覚していた。美香と彩の相手をしているときには自分の存在を消して交わったりもできた。ただし、これは隼人自身の体力を恐ろしく消耗させるようだった。「鍛えろ」と頭の中の声が告げている。

 それに、美香や彩にしたことは後で考えると自分らしくない。心の中に鬼がいるんだと思った。もしかしたら「サイ」の力に隼人自身も変えられてしまったのかもしれないと思う。それが旅の意味なのかもしれない。一人前になるには必要なことなのかもしれない。だとしたら、欲望に逆らう必要はない。何ごとも修行だし、旅の転換点のような気もする。行くところまで行ってしまおうと隼人は思った。

 やがて掛川の市内に入った。東海道は自動車用に整備されていて歩いていても、ほとんど人に会うことはない。街並みが見えて隼人はホッとした。同時に疲れが一気に出て道ばたに座り込んでしまう。

「こんにちは。あなた、どこの生徒? 身分を証明するものある?」

 女の声で隼人は顔を上げた。かなり長い間座り込んでいた。もう日が暮れかけている。

 声の主は野暮ったいグレーのスーツに身を包んだ20代後半に見える女だった。黒いセルフレームのメガネ、清潔そうだが魅力的ではない後ろでまとめた黒髪。隼人はいぶかしげに女の顔を見る。

「私は掛川署の補導員よ。こんなところで、なにをしてるの? 家はどこ? ザックの中を見せなさい」

 高飛車な言い方にイラッときた。隼人は無言で立ち上がって歩き出した。

「ちょっと、あなた。待ちなさい!」

 ヒールの音を響かせて女が追いかけてくる。

「サイ!」

 隼人は振り向きざまに「サイ」を唱えた。「うるさい!」の「さい」だったらオヤジギャクだななんて一瞬考えたらおかしくなった。

 棒立ちになった女を見て、ちょうどいいから食事を奢ってもらおうと隼人は考えていた。

 近くにあったチェーン店の名前を模したファミレスに入り、お勧めだと書かれたハンバーグと海老フライのセットを食べながら、隼人は向かいに座った女を観察していた。

 化粧っ気のない肌はわりと白く、目の下にはソバカスがまばらにある。唇には口紅ではなくリップクリーム程度のものしかつけていないらしく、それが野暮ったい印象を強めているように思えた。よく見れば整った顔立ちで、きつい視線が補導員らしかった。

「えっと・・・あの・・・呼びにくいな。名前はなんていうの?」

「堀江加代・・・です・・・」

「じゃあ、加代さんって呼ぶね」

「はい・・・」

「加代さんは婦人警官なの?」

「はい。普通、補導員は嘱託なんですが、私は掛川署の警察官です」

「へぇ、そうなんだ。知らなかった。加代さんは、どうして補導員なんかやってるの?」

「私は本庁から掛川署に赴任して見習い期間なんです。平和な街だから現場を勉強するにはこういう役職しかなかったんです」

「じゃあ偉いんだ」

「警視です」

「警察の階級なんてわからないけど、普通のお巡りさんじゃないんだよね?」

「はい。いちおうキャリアですから」

 聞けば加代は国立大学の法学部を卒業して警視庁に入庁した才媛らしい。

 その話を聞いたとき隼人の心の中で破壊欲が芽生えた。だいたい最初から、上からものを言うような態度が気に食わなかったのだ。能力を鍛えるのには恰好の相手だ。余分な情を抱かないで済む。

「加代さんはどこに住んでいるの?」

「公務員宿舎の空きがなくて今はマンションを借りています」

「ひとりぐらし?」

「はい」

「じゃあ、今夜は僕を泊めてね」

「わかりました・・・」

 さっきまでの疲れがウソのようだった。隼人は獲物を見つけたハンターの気持ちはこんなものじゃないかと思った。アドレナリンが沸いてくる感じなのだ。

「仕事が終わるのは何時? 警察に帰らなきゃならないんだよね?」

「正式勤務外なので署に報告を入れれば帰る必要はありません」

「だったら報告して。加代さん家へ連れてってよ」

「わかりました・・・」

 加代は携帯を取りだして電話をしはじめた。

 マンションはファミレスから歩いて10分ほどのところにあった。市内の中心部だ。新しい建物で要塞のように感じたのは警察官の部屋というイメージのせいかもしれない。加代の部屋は最上階角の2LDKだった。

「すごいね。キャリアってこんなところに住めるんだ」

 高級そうなリビングの内部を見渡しながら隼人は言った。

「セキュリティのしっかりしたところに住むよう指示されていますから」

「ふ~ん・・・こんなところに住んでいるんだったら、もっといい格好すればいいのに」

「どういうことでしょうか?」

「その服ダサいよ」

「えっ?」

「部屋の中もダサい。なんか、かっこわるいんだ。お洒落とかしないの?」

「そう言われても・・・」

 理解の範疇にないことを言われて加代は本気で戸惑っているようだった。

「加代さんは彼氏とかいないの?」

「婚約者がいます」

「その人に、お洒落とかして見せたくないの?」

「考えたことありません・・・」

「だって、デートとかするんでしょ?」

「はい。東京に帰ったとき一緒に食事します。ホテルのレストランとかで」

「そのあとでエッチとかするんでしょ。気分を盛り上げるためにもお洒落しなくっちゃダメだよ」

「いえ・・・食事だけです。ホテルにはスーツで行きますから礼儀にはかなっているはずですし、まだ婚約中ですからそんなことは・・・」

「ええっ、しないの?」

「はい」

「そういう人だから補導員とかやってるんだね。僕が加代さんを変えてあげるよ」

「どういう・・・ことでしょうか・・・?」

 隼人は本気で呆れた。

「加代さん、僕の話をよく聞くんだ。いいね」

「はい」

 加代はトランス特有の口調で答える。

「僕は、これまで加代さんが補導してきた少年たちの怨念なんだ。だから、すごい力を持っている。僕に逆らうことはできない」

「・・・」

 加代は返事ができないでいる。

「これからは加代って呼び捨てにする。わかったら返事をしろ!」

 隼人は雄大仕込みの強い口調で言う。

「はい」

 もともと縦社会で生きてきたせいか高圧的な言い方に加代ははっきりと返事をした。

「これから僕は加代にお仕置きをしてやる。そして、いい子ぶった化けの皮を剥がしてやる。くだらない正義のために、どれだけの人間が嫌な思いをしてきたか思い知らせてやるよ」

「・・・」

 お仕置きという言葉を聞いて何を思い浮かべたのか加代はブルッと震えた。

「僕が何をしても加代は逃げられないし僕に危害を加えようとすると身体が動かなくなる。そして一番大切なことだ。僕の命令には逆らえない。わかったら復唱するんだ」

「私は逃げられない・・・私はあなたに危害を加えられない・・・逃げようとしたり、危害を加えようとすると身体が動かなくなる・・・そして、あなたの命令には逆らえない・・・」

 さすがはエリート、飲み込みが早い。加代は正確に答えた。

「僕は怨念の固まりだ。これからは精霊様と呼べ」

「はい・・・精霊様・・・」

「いま、加代は夢の中にいる。僕が『サイ』と言うと現実に戻る。でも、僕が言ったことはそのまま心に残って有効だ。わかるか?」

「現実に戻っても、私は精霊様から逃げられず、危害も加えられません。命令には逆らうこともできない・・・」

 正確な理解力に隼人は舌を巻いた。しかし、その方が都合がいい。

「サイ!」

 隼人は加代の目を見つめながら言った。

 加代の瞳に光が戻る。

「加代。僕は誰だ?」

 隼人を見る加代の目に怯えが走った。

「せ・・・精霊様・・・あ・・・どうして・・・そんなわけ・・・ない・・・」

「どうした?」

「怨念とか、そんなものが存在するはずが・・・」

「なら僕は誰だ?」

「せいれい・・・そ、そんな・・・いや・・・」

 まるで亡霊を見るような目で加代は隼人を見た。

「いままで、お前が補導という名目でどれだけ青少年の心を踏みにじってきたかわかるか?」

「ちがう・・・私は秩序と平和のために・・・」

「ふん。法なんてものは馴れ合いのための方便に過ぎない。そして、そこから逸脱した者にとっては忌まわしい妄想なんだよ。さあ、僕から逃げられるものなら逃げてみろ」

 言葉が勝手に出てくる。口から出任せのつもりだったのに、ほんとうに怨念が取り憑いてしまったんじゃないかと隼人は思った。しかし、もう勢いは止まらない。

 隼人は手を伸ばして加代のスーツを脱がそうとした。

「やっ、やめなさい! 人を呼びますよ!」

「どうぞ」

 隼人がニヤリと笑うと加代は大きな声を出そうと口を開けたまま固まってしまった。

「はやく呼べよ」

「ど・・・どうして・・・」

 加代の目に悔しさが滲む。

「僕が怨念の固まりだからさ。お前は僕に逆らえないんだ」

 隼人はそう言いながらスーツをむしり取るように剥ぎ取った。

「いやぁっ!」

 勢いで加代はカーペットの上に転がる。

 素肌が透けない肌色のストッキングに包まれた脚が剥き出しになった。

 あわてて加代はスカートの裾を直して隼人を睨んだ。

「そんなダサいストッキングって、どこに売ってんの? みっともないから脱がしてやるよ。それとも自分で脱ぐ?」

「あなたのしていることは犯罪です! 訴えます! 訴えてやる!」

「そうかな。見も知らぬ男を招き入れたのは加代じゃないか」

 笑いを浮かべながら隼人は加代に近づいていく。

「いやっ! 来ないでっ!」

「命令だ! ストッキングを脱げ!」

 一瞬、加代の身体がビクンと震えた。

「聞こえただろ。命令だ」

「あ・・・ああ・・・どうして・・・」

 泣くような声を発しながら加代はスカートの中へ手を入れる。そしてストッキングを下ろしはじめた。思ったよりも滑らかできれいなふとももが露出した。

「へぇ、けっこうきれいな脚をしてるんだね。見直したよ。こんどはスカートも脱ぐんだ」

「い・・・いやです・・・」

「命令が聞けないの?」

「ああっ・・・」

「はやく!」

「うっ・・・うううっ・・・」

 泣き声が嗚咽に変わる。加代はぎこちない動きでスカートのホックを外した。

 コットンらしいプレーンな白のショーツが露わになった。

「お前に補導されて悔しい思いをした男たちは、みんな、お前を裸に剥いてしまいたいと思っていたんだ。どう? 怨念に見られている気分は? 怨念を訴えることなんてできない。それに僕は手を下していない。お前が自分で脱いで見せているんだ」

「ああ・・・お願いします・・・もう・・・ゆるして・・・ゆるしてください」

「だめだ。お前が一匹のメスだということをわからせてやる。ブラウスも脱ぐんだ」

「いや・・・ゆるして・・・ゆるして・・・」

 そう言いながら加代はブラウスのボタンを外している。

「加代!」

 ブラウスを脱ぎ終わった加代に声をかける。

「は・・・はい・・・」

「立つんだ。そして、お前の身体をよく見せるんだ」

「あああ・・・」

 泣きながら加代は立ち上がる。

「こっちを向け。胸を隠すんじゃない」

 腕組みをするように胸を隠している加代に隼人は命令を下す。

 飾りっ気のない白いブラジャー。いまどき。こんなものを着ている女がいるんだと隼人は思った。

「これからは、もっと色っぽい下着を着るんだ。男たちをよろこばせるためにね。持ってないの?」

「あ・・・ありません・・・」

「ほんとに?」

「はい・・・」

「じゃあ、確かめさせてもらうよ」

 隼人はリビングの一角にあるドアを開ける。はたして、そこはベッドルームだった。クローゼットを開けタンスの中を調べはじめる。

「や、やめてください・・・お願いします・・・」

 リビングに立ったまま逃げられない加代が懇願する。

「恥ずかしいのか?」

「はい・・・恥ずかしいから・・・やめてください・・・」

「人のプライバシーは詮索するくせに、自分の下着を見られるのは恥ずかしいんだ?」

「そ・・・そんな・・・」

「しかし、ほんとうに白い下着しか持ってないんだね。こんなんで世の中のことをわかろうなんて無理だよ。きっとエッチだって正常位しかしたことないんだろうね」

「してません・・・」

「えっ? なにを?」

「だ・・・だから・・・」

 見れば加代の顔は真っ赤だ。

「もしかして・・・処女・・・?」

 加代はうつむいてしまう。

「ふ~ん、そうなんだ。初めての相手が不純異性交遊なんて・・・おっかしいね。あれ、精霊に年齢なんてあるのかな?」

「やっ・・・やめてっ! お願い、それだけは・・・」

 加代は立ったままブルブルと震え出す。

「ふふふ、無理だよ。そのうち加代から欲しがるようになるんだから」

「そんな! そんなこと、あり得ません!」

「そうかな? だって、加代は自分で服を脱いで僕を誘惑してるじゃないか」

「違います!」

「どう違うの?」

「だって、あなたが命令して・・・」

「命令に従うのは加代の意思じゃないか」

「えっ・・・あ・・・う・・・」

 明晰な頭脳が混乱している様がおかしかった。

「僕はここでお願いしてるだけ。実行してるのは加代。そうだよね?」

「違う・・・嫌なのに・・・どうして・・・」

「僕は手を下してないよ」

「ああっ!」

 もはやパニックだった。

「さあ、加代はひとりでエッチしてるところを見せて僕を誘惑するんだ!」

「いやっ!!」

 加代が叫ぶ。

「どうして? はやく見せて。命令だよ」

「だ・・・だって・・・」

「はやく!」

「でも・・・どうしたらいいか・・・」

「もしかして、したことないの?」

「いけないことだから・・・してません・・・」

「ほんとに?」

「はい・・・」

「でも知識くらいはあるだろう?」

「あります・・・けど・・・」

「けど?」

「こわい・・・お願い・・・ゆるして・・・」

「僕が教えてあげるよ。ベッドに横になって。脚を開いて。中指でクリトリスを押さえてごらん」

「い・・・いや・・・」

「命令だよ」

「あああっ・・・いや・・・いやなのに・・・どうして・・・」

 這うようにして加代はベッドに上がって脚を開いた。

「中指でクリトリスを押さえて」

「いやぁ~っ・・・」

 そう言いながら加代は命令に従う。コットンの生地に秘肉のかたちのシワが寄った。気のせいか少し湿っているようにも見える。

「そうそう。強く押さえないで、まわりを円を描くようにさすってごらん」

「そんな・・・いやです・・・いや・・・いや・・・ああっ・・・」

 言葉では抗いながら指先は隼人の命令どおり動いている。最後にはピクンと身体を震わせて甘い声が漏れた。

「どんなふうに感じてるのか僕に教えるんだ。いいね」

「ああっ・・・熱いような・・・不思議な・・・ジンジンします・・・」

 命令とはいえ、ついに加代は壊れはじめたようだ。

「続けて」

「いやっ・・・こんなの・・・いやっ・・・ああっ・・・」

「気持ちいいくせに」

「で・・・でも・・・」

「そう。加代は僕に見せて感じてるんだ。恥ずかしいだろ?」

「いや・・・見ないで・・・恥ずかしい・・・いやぁ・・・」

「加代は見られてると感じる。そういう女だ」

「違う・・・ちが・・・うのに・・・ああんっ!」

 隼人の言葉が暗示となって加代の心と身体を蝕んでいく。

 加代は明らかに悦びの喘ぎをあげていた。

「気持ちいいなら、そう言うんだ」

「ああっ! し、知らなかったの・・・きもち・・・気持ちいいです・・・」

「どこが?」

「ああ・・・恥ずかしいところが・・・熱くて・・・溶けていくみたい・・・」

「そう、そうやって僕に教えると、もっと気持ちよくなっていく。そうだね?」

「だめなのに・・・いけないことなのに・・・あああっ!」

 加代は大きく叫ぶと痙攣した。

「もっと自分の感覚と欲望に素直になるんだ。くだらない常識を捨てると、もっと、もっと気持ちよくなれるよ。自分を解放するんだ」

「ああんっ! もう・・・おかしく・・・なるの・・・」

 加代から理性が消えていくのがわかる。

「まだまだ序の口だよ。左手でおっぱいを触ってごらん。ブラジャーの上からでいいから、指先で乳首を引っ掻くように」

「わ・・・わかりました・・・こう・・・ああっ・・・だめっ・・・」

 とうとう加代は抵抗の言葉を口にせず命令に従った。最後の言葉は自分自身に向けられたものだった。

「ほら、感じるだろ」

「ああっ! だめ・・・たまらなく・・・なっちゃうの・・・」

「どんなふうに?」

「む、胸を触っているのに・・・なんで? あそこがジンジンして・・・」

「あそこって?」

「そ・・・そんな・・・」

「言うんだ!」

「い・・・陰部・・・です・・・」

「そんな呼び方じゃダメだ! 補導員をやってるんだから僕らがそこをなんて呼んでるか知ってるはずだ」

「ああっ・・・マ・・・マンコですぅ・・・たまらない・・・どうしたら・・・いいの・・・」

 セルフレームの奥にある目は焦点を結んでおらず、半開きになった口から卑猥な言葉が飛び出した。怜悧な仮面が剥がれた瞬間だった。

 クリトリスを嬲っている指先に目をやるとクロッチの部分に大きな染みができていた。

「いっぱい、いやらしい汁がでているみたいだね。パンツに手を入れてじかに触ってごらん」

「こう・・・ですか? ああんっ!」

 よほど刺激が強かったらしい。加代は、また激しく痙攣した。

「あああっ! すごい・・・こんな・・・たまらない・・・」

「どこが、たまらないの?」

「わ・・・わかりません・・・奥が・・・奥の方がジンジンして・・・」

「そっか・・・僕が触ればいいのかもしれないけど・・・」

「お・・・おねがいします・・・たまらないの・・・」

「でも、いいのかなぁ・・・触っても・・・」

「いやっ! いじわるしないで。おねがい・・・」

「ちゃんと言ってくれないと」

「お願いします。触ってください」

「じゃあ、加代さんの意思だね?」

「そうです・・・おねがい・・・」

「じゃあ全部脱いで」

「わか・・・りました・・・」

「見せたいんだね?」

「見て・・・もっと見てください・・・」

 警察での訓練のせいか加代は引き締まった筋肉質の身体をしている。しかし、出るべきところは出ているし、バストのかたちは涎が出てしまうほどきれいだった。薄茶の乳首は可憐で磨いてない原石という感じがする。

 自らブラジャーを外しショーツを脱いで全裸になった加代は大きく脚を開いて秘肉を隼人に晒した。

 ショーツで押さえられていたそれほど濃くないヘアーが蜜で濡れて大陰唇にへばりついている。花びらが開いてピンクの肉を覗かせているのは、よほど興奮している証拠だろう。

「触るより、こっちの方が気持ちいいよ。きっと」

 隼人は加代の秘肉へと顔を近づけていく。

「な・・・なに・・・?」

 不安げな加代。

「ここにキスするんだ」

「だめ・・・そんな・・・汚いから・・・恥ずかしいの・・・」

「もう、わかってるはずだ。恥ずかしさはエッチのスパイスだって」

「だって・・・」

「いやなら、もうしないよ」

「ああ・・・おねがい・・・」

「いやなんだね?」

「いじ・・・わる・・・」

「ちゃんと聞かせて」

「もう・・・おねがいします・・・キスして・・・ください・・・」

「どこに?」

「おねがい・・・いじわるしないで・・・精霊様の言うとおりにします・・・だから・・・好きに・・・好きにしてください・・・」

 隼人は墜としたと思った。いや、堕としたのかもしれない。いずれにせよ獲物を手にした達成感があった。いくら「サイ」で暗示をかけているとはいえ、加代は醒めている状態なのだ。トランスに陥っている女を抱くのとは比べものにならないくらい興奮するし、おもしろい。

 隼人は秘肉に顔を近づけ長い舌を伸ばしてクリトリスを舐めあげた。

「ああんっ!!!」

 加代は自分の指で直接触ったときよりも数段高い声で喘ぐ。

 隼人は舌先を震わせてクリトリスを転がすように舐めた。

「ああっ! すごい! あんっ! だめぇ・・・」

 加代は何度も腰をバウンドさせる。

「あうっ! そこ! いや! あああっ!」

 クリトリスを舐めながら蜜壺に人差し指を挿入させると声のトーンが変わった。

 隼人は念を込めてオーガズムを送り込む。

 しかし加代の反応に変化はなかった。

「サイ」がかかった状態じゃないと、この技は使えないことを思い出す。

 それが、かえって隼人のチャレンジ精神に火をつけることになった。日は浅いが葉月をはじめとして何人もの処女を奪ってきた経験が隼人を奮い立たせる。

 隼人はていねいに舌と指先で加代を愛撫する。

 加代は別人のような嬌声をあげて反応した。

 どれくらい時間をかけて愛撫を続けたのだろう。加代は激しく乱れ続けている。しかし、絶頂を迎えた様子はなかった。

 隼人はそれが悔しかった。どうすればいいのか、必死で考える。思い浮かんだのは梨花がバイブレーターを使って長谷川恭子を執拗に責めていたシーンだった。萎えた隼人を興奮させるため、梨花は道具を使って何度も長谷川恭子を絶頂に押し上げ見せつけたのだ。

 しかし、隼人はバイブレーターなんか持っていない。「サイ」の力を使えば、そんなものは必要じゃなかった。

 ふと、昨日コンビニで買った簡易型の電動歯ブラシのことを思い出した。あれなら代わりに使えるかもしれない。

「ちょっと待ってて」

 隼人は加代から離れる。

 リビングに戻ってザックを漁る。

 あった。

 パッケージを開けて電池を入れスイッチを入れる。

 ヴィ~ンと音を立ててブラシ部分が振動する。

 これなら大丈夫そうだと急いでベッドルームに戻る。加代は横になった姿勢のまま荒い息をしている。まだ興奮は冷めていないようだ。

「もっと、もっと感じさせてあげる」

 隼人はニヤッと笑って振動しているブラシの裏側部分を乳首に軽く触れさせた。

「ひいっ!」

 突然の刺激に加代は身体をバウンドさせる。

「な、なに! いや・・・ああんっ!」

 背中をのけ反らせて悶える加代を見て、これならいけると思った。

「僕の好きにしていいんだろ? これを使うと、いままでよりもずっと感じるようになるんだ。感じることに素直に、自分を解放するんだ」

 隼人の言葉が加代の潜在意識に浸透していく。

「ああっ! いいの・・・あそこに・・・ひびくみたい・・・」

「じゃあ、その響いているところをいじめてあげる」

 隼人は乳首のまわりを一周させると電動歯ブラシの先端を脇腹から下腹へと移動させていく。そして、その乳首を口にふくんだ。

「はうっ!」

 だんだん加代の反応をかわいらしいと隼人は思うようになってきた。

 乳首を舐めながら電動歯ブラシの先端をふとももの内側にあてて、なぞり上げていく。

「いやぁぁぁっ!!」

 秘肉へ到達したとき加代は全身を硬直させながら絶叫した。

 無意識か本能なのか、なにかを求めるように隼人の二の腕をつかんで引き寄せようとしている。

「あっ!あっ!あっ!ああっ!!!」

 そして、強く短い喘ぎをあげ、その声にシンクロして痙攣を繰り返す。隼人の二の腕に爪が立てられ、最後には長く硬直した。明らかに絶頂を迎えているのがわかった。

「さて、仕上げだ。加代は怨念に処女を捧げるんだ」

 身体を離して不敵な笑みを浮かべる隼人を加代は畏怖の目で見あげる。

「それだけは・・・い・・・いや・・・ゆるして・・・たすけて・・・ください・・・」

「いくよ」

 懇願する加代の言葉を無視して、素早く脚の間に移動した隼人は屹立に手を添えて一気に挿入した。

「いいいっ! いたぁぁいっ!」

 悲鳴がベッドルームいっぱいに響く。

「どうだ? 怨念に処女を奪われた気分は?」

 隼人は加代の目を見ながら言う。

「ああっ! ああっ!」

 加代は涙を流していた。

「答えろ!」

 強い口調で言っても加代は荒い息をして隼人を見つめるだけだった。

「うそ・・・うそよ・・・」

 やがて、痛みのせいか、それとも喪失のショックからか少しだけ現実に戻ったらしい加代は首を振りながらそう言った。

「ウソじゃない。加代はもう僕のものだ。こうしてあげれば、わかるよね?」

 隼人は挿送をはじめる。痛みを与えるのではなく快感を引き出すためにストロークは浅くリズムはゆっくりとしたものだ。

「あっ・・・ぐっ・・・うううっ・・・」

 それでも刺激が強いらしく加代の顔が歪む。

「痛いのか?」

 隼人が聞くと加代は何度もうなずいた。

「しかたがない。怨念の報いだからな。でも、じきによくなる。あそこへ意識を集中させてみろ」

 隼人は、そう言いながら加代にのしかかる。身体を密着させて肌の感触を楽しみたかった。

「あ・・・ああ・・・」

 それが功を奏したらしい。少しだが甘さを含んだ吐息が加代から漏れた。

「安心しろ。お前に苦痛を与えるのが目的じゃない。お前がひとりの女だとわからせたいだけだ」

 浅い挿送を繰り返しながら、隼人は加代の耳元でささやく。

 加代の手が背中にまわされた。

「どんな感じだ?」

「精霊様の・・・身体が・・・熱い・・・」

 隼人を引き寄せるようにして加代が答える。

「あそこは? まだ痛いか?」

「す、すこしだけ・・・いっぱいになって・・・いるのが・・・わかります・・・」

「これはどうだ?」

 隼人はストロークを長くしてみる。肉を引きずる感触があった。

「あうぅぅっ・・・いた・・・い・・・けど・・・」

「けど?」

「なんか・・・ああっ・・・ヘンな・・・かんじ・・・が・・・」

「そうか・・・もうすこしだけ、がまんするんだ」

 隼人はそう言って加代の首筋に舌を這わせた。

「はうんっ・・・」

 加代の口から甘い声が漏れる。

「これが気持ちいいんだ」

「はい・・・電気が・・・はしったみたい・・・」

「なら、もっとしてあげるよ」

 隼人は首筋を舐め、耳たぶを軽く噛んだりした。

「あっ・・・いいっ・・・」

 加代の指先に力がこもる。

 隼人は右手を密着した肌の間に差し込んで乳首を探り当てる。そして、指先で転がしてみた。

「あっ・・・ああんっ・・・」

 身体をヒクリと震わせながら加代は甘い声を漏らしはじめる。

「すこし、よくなってきたみたいだね。もっと気持ちよくなれるよ」

 隼人はわざと耳の穴へ息を吹き込むようにして言う。

「はぁんっ!」

 効果はてきめんだった。加代は自分から腰を蠢かせはじめる。

「気持ちいいんだね?」

「ああ・・・どうして・・・耳が・・・ゾクゾクする・・・」

 耳が性感帯だと知った隼人は耳たぶを軽く噛んだり、耳の内側に舌を這わせたりしながら挿送を早めた。もちろん乳首への愛撫もやめてない。

「あんっ! あんっ!」

 ついに快感の回路がつながった。加代は挿送のリズムに合わせて喘ぎ声をあげるようになった。

 隼人は加代の様子を見ながら慎重にストロークを早めていく。

 やがて加代はすべてを委ねるように全身の力を抜いた。背中にまわされた手のひらだけに力がこもっている。

 心なしか蜜の量が増えて滑りがよくなってきたように感じる。

 スパートのときだと隼人は思った。

「ああっ! なに・・・すごい!」

 射精直前の膨らみを感じたのか、それとも激しくなったストロークのせいか、加代は目を見開いて喘いだ。

「あぁぁっ! あっつい・・・とけちゃうぅぅぅっ!」

 放出の瞬間、加代はそう叫んだ。

 隼人もブルッと身体を震わせる。

「あっ・・・ああっ・・・も、もしかして・・・」

「なに?」

「な、中で・・・」

「そうだよ」

「だめ・・・ああっ・・・あかちゃんが・・・」

「ふふふ・・・怨念の子を孕みたいんだ・・・」

 上半身を起こした隼人が不敵に笑う。

「ああ・・・どうしよう・・・そしたら・・・おわりだわ・・・」

「なにが?」

「だって・・・」

「安心しろ。精霊と交わっても妊娠しない」

「ほ・・・んと・・・に・・・?」

「僕は誰だ?」

「せいれい・・・さま・・・」

「精霊の子を孕めると思うか?」

「あ・・・」

 加代はすこしだけ安心したようだ。しかし、かなり混乱しているのは間違いない。

「ああっ・・・でも・・・あああっ・・・」

 隼人が萎えたものを引き抜いて立ち上がると薄い朱に染まったシーツを見て加代は泣き出した。

「どうした?」

「私・・・たいへんなことを・・・もう・・・結婚できない・・・」

「どうして?」

「不貞を・・・不貞をはたらいてしまった・・・から・・・」

「くだらない」

 隼人は吐き捨てるように言う。

「それに・・・わたしは・・・淫行を・・・あなたは・・・いったい・・・いくつなの?」

「ふん。精霊に年齢などないと言ったはずだ」

「でも・・・これは現実・・・」

 シーツの汚れから目を離せないまま加代は声を震わせた。

 そんな加代の姿を見て、隼人は心底面倒臭くなった。

「加代、こっちを見るんだ」

 目が合った瞬間、隼人は「サイ」を唱えた。

 加代の眼から光が消える。

「加代、よく聞くんだ。お前は精霊から女の悦びを教えられた。もう、後戻りすることはできない。これは不貞でも淫行でもない。お前の運命だ。法ばかりに偏っていたお前の心を僕が解放してやった。生身の人間の業がどんなものかわかったはずだ。それとも、お前は自分を否定するのか? 答えろ」

「人間の業・・・」

「そうだ。官能に溺れた気分はどうだった。それとも気持ちよくなかったのか?」

「気持ち・・・よかった・・・わたしが・・・あんなになるなんて・・・思いもよらなかった・・・」

「そうだろう。それは、お前が生身の人間だからだ。そして美しく素晴らしい身体を持っている。法なんかとは関係のない世界だ。たしかに方便として法が必要なときもあるかもしれない。でも、それに縛られるほどバカバカしいものはない。お前は、お前の悦びに素直に向かい合わなければならない」

 隼人は言葉を選びながら言った。「サイ」を使って加代の精神を壊してしまうのは簡単かもしれない。あるいは、すべてを忘れさせてしまうこともできる。しかし、それでは能力を鍛えることにはならないし、廃人にさせてしまうのは隼人の本意ではない。「サイ」を使って人格を操作するしかなさそうだった。

「僕の目の前でオナニーをさせられたね」

「はい・・・」

「どんな気持ちだった?」

「恥ずかしくて・・・それでいて・・・」

「感じている自分が見られている、恥ずかしい姿を見られるのがうれしかった。そうだね?」

「はい・・・そうです・・・」

「それはいけないこと?」

「わ・・・わかりません・・・」

「なぜ恥ずかしいんだろう?」

「そういうふうに教えられてきました・・・」

「女の身体はそういうふうにできているんだ。女は子供を産まなきゃならない。それも種にとって優秀な子供を。だから女は男を選ぶ。選ばれない男には見せてはいけない姿が恥ずかしさの源だ。その掛け金が外れたとき恥ずかしさは快感に変わる。お前は僕を選んだ。そして掛け金を外したんだ」

 何人もの女と交わって漠然と考えてきたことを隼人は口にした。「サイ」の能力は心の掛け金を操ることで成立しているんじゃないかとなんとなく考えていたのだ。

「お前は不貞をはたらいたと言った。不貞とはなんだ?」

 隼人は続ける。

「相手を裏切り傷つけることです」

「お前は、お前から望んで僕と関係を結んだ。それが婚約者へ対しての不貞、そういうことだね?」

「そうです・・・」

「どうするつもりだった?」

「正直に話して許しを請うつもりでした」

 さすがはエリート警察官だと隼人は心の中で舌打ちをした。やはり人格を変えた方がいいと思う。

「相手が怒って許されなかったらどうする?」

「私の責任ですから身を引くしかありません」

「では、許されて僕と三人の関係を続けたいと言われたらどうする?」

「そんな・・・あり得ない・・・」

「どんな場合も可能性はゼロじゃない。そうだろ?」

「わ・・・わからない・・・」

「現に一夫多妻やその逆の民族だっている。それは悪なのか?」

「あ・・・」

「お前は、そんな関係は世間に許されないと言うかもしれない。しかし、そんな常識は本人たちが幸せならば関係ないじゃないか。むしろ、その常識が幸せを壊す場合だってある。法も常識と同じだ。お前は、もう知らない世界の扉を開けてしまった。物事には表があって裏がある。お前は、その両面を見ることができるようになった。あとは考え方次第だ」

「ど・・・どういう・・・?」

「話を戻そう。お前はオナニーを覚えた。これから先、ひとりでするようになると思うか?」

「たぶん・・・しないと・・・思います・・・」

「うん。お前はそういう世界で生きてきたからな。じゃあ、僕が見たいと言ってもしないかな?」

「あ・・・」

 加代が戸惑う。

「答えろ」

「する・・・と・・・思います・・・」

「どうしてだ?」

「ああ・・・精霊様が・・・よろこぶから・・・」

「ウソだ。お前自身が気持ちいいからだ。僕の命令が免罪符となって自分の欲望を満たせるからだ」

「ああ・・・そ・・・そうです・・・」

「それが裏と表だ。お前は法によって人を縛り切り捨てようとしてきた。法は人の幸せを守るために生まれてきた。なのに人を苦しませることもある。その矛盾も裏と表だ」

「・・・」

 加代は答えられない。

 隼人は使い慣れない言葉を使ったせいで疲れてきた。さすがにエリート相手はしんどい。

「まだ納得できないみたいだね。思い知らせてやるよ。この歯ブラシを使ってオナニーをするんだ。僕の目の前で!」

 もう理屈じゃなかった。隼人は電動歯ブラシを差し出す。

「う・・・」

 加代は固まってしまう。

「するんだ! これは命令だよ」

 暗示は生きているはずだと隼人は語気を強める。

 はたして加代は電動歯ブラシを受け取った。スイッチを入れてその先端を見つめている。

「さあ、僕がやったように、おっぱいから・・・」

 その言葉がスイッチになったように加代の手が動き出した。

 先端が乳首に触れた瞬間、加代は音を立てて息を吸い込んだ。

 やがて息が荒くなり、救いを求めるような目で加代は隼人に顔を向ける。

「感じてる加代はすごくきれいだ。もっと見せて」

 そう言って隼人が微笑む。

「ほ・・・ほんとに・・・」

「ほんとだよ。見られてると感じるだろ? 下の方も、あそこにあててごらん」

「はい・・・ああんっ!!」

 隼人の命令に従った加代は電動歯ブラシの先端をクリトリスにあててのけ反った。

「もっとだ。恥ずかしい場所を見せて」

「ああっ・・・わか・・・り・・・ました。見て・・・ください・・・」

 加代は大きく脚を開いた。

 電動歯ブラシの先端が小さくクリトリスのまわりをなぞっていた。

「あんっ! だめ・・・どうして・・・ヘンになっちゃう・・・」

「もっと、いくまでやるんだ」

「は・・・い・・・ああっ!」

 もう加代は身体を震わせて喘いでいる。

「だ・・・だめ・・・ああんっ・・・」

 ついに軽く達してしまったようだ。

「もっと感じさせてあげる。僕が見ていてあげるから・・・」

 隼人は膝をつかんで脚をひろげさせて秘部を覗き込んだ。その瞬間にオーガズムを送り込む。

「ああ~んっ!!!」

 ベッドルームに絶叫が響く。

 虚空蔵の力でパワーアップした隼人の念は加代に今までにないくらいのレベルの絶頂をもたらした。

 露出したピンクの柔肉がヒクヒクと痙攣している。

「こんどは空いた手でおっぱいを触って見せて。歯ブラシはそのままだよ」

 隼人は加代の目を見つめながら言う。

「あっ・・・あうっ・・・精霊様の・・・言うとおりに・・・」

 加代は左手をバストの方へ持って行く。

「いやぁっ!」

 その指が乳首に触れたとき、隼人はふたたびオーガズムを送り込んだ。

「ああっ! くぅっ!」

 連続して絶頂を迎えた加代は身をよじらせて悶える。

「どう? わかった? これが加代の本性だよ」

「は・・・い・・・わ、わかりました・・・だから・・・おねがい・・・」

「なに?」

「おねがい・・・します・・・精霊様が・・・精霊様を・・・欲しい・・・」

 ついに命令したからでなく、加代自身が隼人を求めた。

「歯ブラシだけじゃ満足できないの?」

「ああ・・・抱いて・・・抱いて欲しいの・・・おねがい・・・」

「わかった・・・歯ブラシはそのままだよ」

 加代の反応を見て隼人のものも甦っていた。

「あうぅぅぅっ!」

 挿入と同時に隼人はまたオーガズムを送り込む。こうなれば徹底的に感じさせてやりたかった。

 けなげなことに、そんな状態になりながら加代は歯ブラシをクリトリスにあてている。よほど真面目な性格らしい。

「あんっ! ああんっ!」

 挿送に合わせて喘ぎをあげ、かたちのいいバストが揺れる。

 しかし、ついさっき出したばかりなので、なかなかフィニッシュに至らない。考えてみれば昼間に美香と彩の相手もしているのだ。そう思ったら、加代の後ろも征服したいという欲望が芽生えてきた。どうもアナルセックスはクセになるらしい。隼人は心の中で苦笑いした。

「加代・・・」

 隼人は挿送をストップして語りかける。

「ああ・・・精霊様・・・」

「世の中には裏があることがわかったね?」

「はい・・・わかりました・・・」

「エッチにも裏側があることを教えてあげる」

「はい・・・精霊様の・・・言うとおりに・・・はぁん・・・」

 隼人が屹立を抜くと加代は残念そうに喘いだ。

「ここだよ」

 加代の腰を持ち上げ気味にしてアヌスに先端をあてがう。そして加代の目を見てニッコリと微笑む。

「えっ・・・?」

「お尻の穴でも僕らは愛し合えるんだ」

「そんな・・・」

 加代の目に怯えが走る。

「でも・・・精霊様が・・・愛し合えるって・・・」

「そうさ。感じている加代は最高にきれいだ」

「こわい・・・」

「大丈夫。僕に任せて。力を抜いて」

「は・・・い・・・」

 加代の返事を聞いてから、隼人は腰を進めた。

「ああっ! うそ・・・ああんっ!」

 挿入の直後から隼人はオーガズムを送っていた。

「あうぅぅっ! きつい・・・けど・・・ああんっ!」

「どう? 気持ちいい?」

 結合を深めながら隼人が聞く。その間にもオーガズムを送り続ける。

「あうっ! あうぅぅぅっ!」

 もう加代は返事ができる状態ではなかった。歯ブラシを放り出してシーツを握りしめ、連続して押し寄せる波に耐えている。その姿は一匹のメス以外の何者でもなかった。

 そんな加代の姿を見て隼人の下腹に「気」が充満してきた。

「いくぞ!」

 そう叫んだ隼人はありったけの念を込めて「気」を放出させた。

「・・・・・・」

 言葉も出せず加代は白目をむいて硬直した。

 うねるように腹筋が動いた後、がっくりと弛緩して意識を失ってしまう。

 隼人も加代の上に倒れ込む。

 意識の操作は想像以上に体力を消耗していた。

 起き上がるのも億劫だった。

 萎えたものを引き抜くのも面倒で、目と閉じると、そのまま眠りに落ちてしまっていた。

40

 味噌汁の香りで目が覚めた。

「精霊様、お目覚めになりましたか?」

「加代・・・」

 グレーのスエットに身を包んだ加代がベッドルームに入ってきた。

「朝起きて精霊様がいらっしゃるので安心しました」

 そういう加代の顔は晴れ晴れとして見えた。

「朝ごはん作ってくれたんだ」

「はい。お口に合うかはわかりませんが召し上がってください」

 やはり加代は典型的な模範人間なのだと隼人は思った。早起きで真面目、頭脳明晰、容姿端麗、エリートコースまっしぐら、そんな加代の人生を曲げてしまったのかもしれない。

「ありがとう。着替えるから待ってて」

 隼人が立ち上がる。その股間に見入る加代の視線は愛おしさに満ちていた。このまま「サイ」を解かずにおこうと隼人は思った。

「おいしいね、この味噌汁。加代は立派な警察官だけど、いいお嫁さんにもなれるね」

 ダイニングテーブルに座った隼人は湯気を立てている味噌汁をすすってニッコリと笑った。久しぶりの手作りの和食に本気で心が和んだ。加代に対する破壊欲は消えていた。

「ありがとうございます。でも・・・」

「裏と表さ。バランスだよ。婚約者と結婚するつもりなら黙っていればいい。なにしろ僕は精霊なんだから、夢の中で浮気をしたって誰もそれを責められない」

「でもこれは現実・・・」

「後悔してる?」

「いえ・・・むしろ感謝しています・・・」

「ならいいじゃないか。加代は生まれ変わったんだ。仕事はいままでどおりバリバリやればいい。人の裏側を理解できるいい警察官になれると思うよ。ときには迷える青少年を導いちゃったりしてね。それが、ほんとの補導かも」

 隼人はニッコリ笑う。

「そんな・・・」

 加代は頬を染める。

 そんな様子を見て、これなら大丈夫だと隼人は思った。

「僕は行かなくっちゃならない。でも、またきっと会えるさ」

「それが・・・一番心配だったんです・・・」

「僕は精霊だよ。ずっとここにいるわけにはいかない。加代だって困るはずだ」

「そんなこと・・・あなたのためなら・・・」

「だめだよ。それじゃ、僕が加代を目覚めさせた意味がない」

「は・・・い・・・」

 加代は悲しそうな顔になってうつむいてしまう。

「元気を出して」

 隼人はまたニッコリと笑う。

「ああ・・・忘れられそうもありません・・・せめて・・・もう一度だけ・・・」

「仕事は?」

「精霊様といられるのなら休みます」

「わかった・・・一度だけだよ」

「はい」

 加代の顔が輝く。

 無理矢理出て行ってしまうより、意識を失わせていなくなるのが精霊らしいと隼人は思った。

「加代、服を脱いで。僕に加代のすべてを見せて」

 食事が終わったタイミングで隼人は言った。

「はい」

 うれしそうな顔をして加代は立ち上がりスエットを脱ぎはじめる。

 化粧っ気のない顔、釣り鐘型の形のいいバスト、V字が重なったように見えるヘアー、量感のあるふともも、カッチリと締まった足首、昨夜、女の悦びを知った加代の身体は華やいで見えた。肌にも艶がある。

「きれいだよ。加代はとってもきれいだ」

 生まれたままの姿になって正面を向いて立つ加代に隼人はそう言った。

「はずかしい・・・でも・・・うれしい・・・」

 加代の全身が桜色に染まっていく。

「もっと、よく見せて。後ろ姿も」

「こう・・・ですか・・・?」

 加代は回れ右をして後ろを向く。昨夜はよく見ることができなかった加代のヒップは果実を連想してしまうほど丸く見事としか言いようがない。ウエストも締まっていて筋肉質だが女らしい曲線を描いている。

「すごいね。僕が加代の魅力を発見したんだ。うれしいよ」

 歯の浮くようなセリフだが本音だった。それが伝わったらしく、加代はヒクリと身体を震わせた。

「どうする? ベッドへ行く?」

「はい・・・精霊様の望むままに・・・」

 加代の声は震えていた。

「じゃあ、ベッドへ行こう。加代を思いきり味わいたい」

 これも本音だった。昨夜は加代の快感を通して精神を操作するのに夢中だったが、やはり女体は味わうものだと隼人は思った。

「ベッドにうつ伏せになって」

 ベッドルームに入った加代に隼人はそう言った。

 加代はおとなしく指示に従う。

 服を脱いだ隼人は見事なヒップの頂にキスをしながら、もう片方の双丘を強くつかんだ。しっとりとした肌と押し返してくるような弾力を楽しむ。

「ああっ!」

 まだ快感を送り込んでいないのに加代は喘いだ。

「お風呂に入ったんだね」

 石鹸の匂いがする。

「はい。朝はシャワーを浴びるのが・・・あああっ!」

 加代の言葉が終わらないうちに隼人はヒップの谷間に舌を這わせていた。

「ああんっ! そこは・・・精霊様・・・ああっ!」

 谷間の奥にある蕾のようなところに舌先が到達したとき加代は身をよじった。

「昨夜はここでも感じていたくせに」

「でも・・・ああっ・・・汚い場所ですし・・・精霊様がお口にするようなところでは・・・ああんっ!」

 隼人は両手で双丘をひろげて尖らせた舌先をアヌスに差し込んでいた。

「ああっ! どうして・・・あああっ!」

 その舌先から快感を送り込まれた加代は激しく喘ぐ。隼人は送り込む快感に手心を加えていた。いきなりオーガズムを送るのではなく、その直前のたまらない疼きを意識して加代を感じさせる。技が熟練してきた感じだった。

「汚くなんてないさ。思い込みを捨てて感覚に素直にならなきゃ」

 そう言って隼人はまた舌を差し込む。

「あうぅぅぅっ!! わかりま・・・した・・・ああっ! だめぇ!」

 こんどは完全なオーガズムを送り込まれ、加代は求めるようにヒップを突き出して痙攣した。

 隼人は震えている加代を押さえ込むようにして舌先をふとももの裏側へ移動させていく。全身を舐め尽くしたかった。ふとももからふくらはぎへ、身体を仰向けにさせて足の指を口にふくみしゃぶった。

「あんっ! 食べて・・・加代を食べてください・・・」

 おもしろい表現だが、ひとつになりたいという気持ちの表れなのかもしれないと隼人は思った。もう加代は身も心も隼人に支配されている。隼人は触りたいところを触り、舐めたいところを舐める。その間、加代は嬌声をあげて悶え続けた。

 隼人は身体を離して波打つように震えている加代を見下ろす。

「加代、これ覚えてる?」

 隼人は電動歯ブラシを手にしていた。起きたとき床に転がっているのを見つけて、よく洗い朝食前に歯を磨いて持っていたのだ。

「は・・・い・・・」

「もう、加代は他の男に抱かれても満足できないかもしれない。そんなときは、これを使って自分を慰めるんだ。そうすれば、昨夜と同じように感じることができる。やってごらん」

 隼人は電動歯ブラシを手渡す。暗示でどこまで精神の操作ができるのか試してみる目的もあった。

 電動歯ブラシを手にした加代はためらっている。

「見たいんだ。加代がひとりで慰めていくところを」

「わか・・・り・・・ました・・・」

 加代は電動歯ブラシのスイッチを入れ先端をバストにあてがう。

「はぁん・・・」

 甘い吐息が漏れる。

 ひとしきり乳首をもてあそんでから加代は左手でバストを揉みながら歯ブラシを股間に移動させた。

「はうっ!」

 敏感な部分に先端が触れた瞬間、加代は腰をバウンドさせた。

 身体をくねらせながら息を荒げ、自らをもてあそぶ加代の姿はたまらなく色っぽかった。

「自分で指をお尻の穴に入れてごらん。歯ブラシはそのままだよ。そうするといっちゃうんだ」

 理性が吹っ飛んだ加代は腰を浮かせて左手をヒップへ持って行く。

「あうぅぅぅっ!!」

 加代は絶叫とともに硬直した。脛と足の甲が一直線になって震えている。

 見るだけで深い絶頂を迎えてしまったのがわかる。暗示の効果は完璧だった。

「ご褒美だよ」

 隼人は加代の上にのしかかる。そして素早く屹立を挿入した。

「あああああっ!!」

 オーガズム直後の挿入に加代はふたたび達してしまう。

 蜜壺が屹立をグイグイ締めつけてくる。

 心に余裕があるせいか内襞のひとつひとつが絡みついてくるのがわかる。その感触を楽しみながら隼人は挿送を繰り返す。

「ああっ・・・あの・・・耳も・・・」

「わかってるよ」

 隼人は笑顔で答え、加代の望みを叶える。

 ここでも直前の疼きを送り込む。

 加代の喘ぎがすすり泣きのようになっていった。

 隼人はまだ加代にキスしていないことに気がついた。

「加代・・・」

 隼人は耳元でささやいてから唇を重ねる。そして舌を差し込んだときにオーガズムを送り込んだ。

 跳ねるように痙攣する加代の身体を押さえ込みながら隼人は舌を絡めて激しく挿送する。密着した肌から伝わってくる悶える肉の感触が心地よかった。征服したという実感がある。加代も征服されるよろこびを感じているに違いなかった。隼人は容赦なくオーガズムを送り続ける。

 陰嚢の奥で「気」が高まってくる。

 隼人は思いっきり放出した。

 抱きしめている加代の身体が硬直する。

 そして三度ほど痙攣してから力が抜けた。

 深く達して意識を失ってしまったのが今までの経験からわかる。

 もう心の中の鬼は姿を潜めていた。

 静かに身体を離した隼人はシャワーを浴びて荷物をまとめる。

 もう加代に会うことはないだろう。これから自分のことを思い出して歯ブラシを使う加代を想像すると憐れだがおかしかった。

 隼人は旅に戻って西へと進む。

< 続く >

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