とある王国の悲劇 剣姫編4 前編

剣姫編 4(前編)

 街を出た翌日、討伐隊一行は王国首都に到着した。
 まず目を引くのが、天に聳えるような尖塔を持つ天守閣である。
 その周囲を2重の城壁で取り囲んでいる。
 もし鳥の視点を持てれば、城壁が完全な真円を描いている事に気付いただろう。
 いったいどうすれば、こんな長大な城壁が築けるのか。
 現代の技術では解明できていない。
 一枚目の城壁を越えると城下町が広がる。
 高い壁に守られ外敵からの脅威は無いはずだが、町に活気は無かった。
 ……敵は寧ろ、内側にいるのだ。
「姫様! お帰りなさい!」
 討伐隊の帰還を知り、住民が迎えに集まってくる。
 皆一様に疲れた表情をして、身に着ける物もみすぼらしかった。
「皆、出迎えありがとう。負傷者も多い。手伝ってもらえるか?」
 姫がそう言うと、待ってましたとばかり皆が討伐隊に群がる。
「ありがたいですな」
 副官が姫に近付いてきた。
「だが、頼ってばかりはいられぬ」
 姫の表情は優れない。
「いったい何時になれば、皆の生活が正しくなるのだ」
 住民はどう見ても他人を気遣う余裕があるようには見えない。
 それでも何故討伐隊を、いや姫を支援してくれるのか。 
 住民が期待しているのは……。
「焦っても仕方ありませぬ。地道な努力をいたしましょう」
 それでは遅い。
 それを充分に分かっていながら副官は言う。
「……まだ時ではございません」
――では、何時になれば時が来る?
 言いかけて姫は止めた。
 それを判断するのは自分の役目だろう。
 王族と平民の血を持つ自分の……。
「王に報告に行ってくる。亡骸は手厚く葬ってやってくれ」
「お任せ下さい」
 そう言うと副官は去っていった。
 姫は憂鬱な気持ちで二枚目の城壁の向こうにある、天守閣を見た。

 姫は体を清め、礼服に着替えると玉座の間に向かった。
 城内の装飾品の何と豪華な事か。
 城内事態は寧ろ質実剛健な造りをしているが、それを台無しにしていた。
――似合わない服を着せられた人形。
 姫にはそう感じられた。
 擦れ違う人々も煌びやかに着飾り、城下町の住民とは何もかも違う。
 姫も王族であり、また国王に謁見するのだから、高価な礼服を着ている。
 しかし、ささやかな抵抗として形や色合いはいつも極力地味にしていた。
 その為、喪服のようだと陰口を言われている。
 玉座の間に着くと、すぐに名を呼ばれ入室した。
 姫は玉座の前で跪いた。
「ご苦労であった。顔を上げよ」
 威厳のある声が響く。
「はっ」
 姫が顔を上げると、国王が見下ろしていた。
 王の隣の椅子には誰もいない。
 王妃が亡くなってからずっと空席だった。
「賊を見事討ち取ったそうだな。流石は我が娘だ」
「はっ。ですが、犠牲者が出て……」
「――お前が無事ならばそれで良い」
 その言葉に姫の手が痛い程握り締められた。
 爪が刺さり、血が溢れる。
「お言葉ですが、今回の犠牲は……」
「――良い、と言った」
 やはり、無駄か……。
 姫は激しい憤りを何とか抑えた。
「……はっ」
「また何かあるかも知れん。今日はもう休め」
「御意」
 姫は身を翻し歩み去る。
 その背中を王は酷く陰湿な目で追った。

「姫姉さま」
 姫を呼び止める者があった。
 振り返るとまだ幼さの残る少年がいた。
「何ですか? 王子」
 彼こそは王国第二王子であった。
 第一王子と年齢的な開きがある事。
 また、王妃に似たのか温厚で争いを好まない性格をしていた。
 その為、王位からは遠いと見られ、側近から軽んじられていた。
 それ故、血の事で疎まれている姫にも屈託なく接していた。
「ちょっと相談があるんだけど……いい?」
 上目使いで恥ずかしげに問う。
 どこか、怯えた小動物を連想させた。
「わかりました。私の部屋に来ますか?」
 姫が応じると、王子は嬉しそうに笑った。
 その単純さが微笑ましく、姫もつられて微笑を浮かべた。
 姫の部屋は少し離れた場所にあり、人もあまり寄り付かない。
 秘密の相談話があるなら最適だった。
 部屋に入ってもしばらくもじもじとしていた王子だったが、意を決したのか話し始めた。
「実は……王女様の事なんだ」
 王女と呼ばれる立場の者は複数いる。姫自身も王女である。
 だが、王子がこの呼び方をした時の人物は、ただ一人であった。
「隣国から来た、兄上の婚約者ですか?」
 第一王子の婚約者。それは将来の王妃である。
――婚約者。
 その単語が出た時、王子の目が曇った。
「最近僕、少し変なんだ。王女様を見るとドキドキして胸が苦しくなって……」
 あまりにも初々しい告白に、思わず姫の顔が緩む。
「あぁ~、笑うなんて酷いよ~」
 子供っぽく膨れっ面をする王子に、またも表情は緩んでしまう。
「申し訳ありません、王子」
 王子とて本気で怒っている訳ではない。
 少しの間沈黙すると、恥ずかしそうに言った。
「……これって……恋……なのかな?」
 それ以外に何があると言うのだろう。
 母親を物心付く前の亡くしている王子にとって、王女様は憧れだった。
 優しく包容力のある彼女は、理想の母親像に見えるはずだ。
 それがいつの間にか淡い恋心へと発展したのだろう。
「わかってるんだ。王女様は兄上と結婚して、御后様になるって」
 王子の言葉に力が篭る。
「でも、少しでいいんだ。僕にも振り向いて欲しいんだよ」
 そう言うと姫の目を見た。
「そこまで王女様の事を……」
 正直意外だった。
 あの気弱な王子がここまでの執着を見せるとは。
 恋を得て、少年が大人へと成長しようとしているようだった。
「本気なのですか?」
 立場を考えれば、ただで済むはずが無い。
 軽はずみな気持ちでは、待っているのは破滅だけだ。
「……うん」 
 声は小さかったが、その目は真剣だった。
「……わかりました。他ならぬ王子の為、協力しましょう」
「ほんと? ありがとう!」
 こういう所はまだまだ子供だな、と思いながら付け足した。
「では、夕刻にまたこの部屋に来て貰えますか?」
「うん、わかった。よろしく頼むよ!」
 そう言って部屋を飛び出して行く王子を見送りながら、姫は薄く笑った。

 王城の廊下を1人の女性が歩いていた。
 衣服や物腰から気品が感じられる。
 女中や侍女では無く、貴族の令嬢だろう。
「ちょっといいですか?」  
 そこに声がかかった。 
 振り返ると剣姫が立っていた。
「姫様、何でしょ――」
 言い終わる前に姫は間合いを詰め、女性の腰を引き寄せると唇を合わせた。
「――っ!」
 女性は驚きの表情を浮かべるが、姫に抱き寄せられ動けない。
 すると、すぐに女性から力が抜けた。
 恍惚の表情を浮かべ、姫に体を預けている。
 姫が口の中を舌で蹂躙しても、積極的に対応していた。
「はぁ……」 
 吐息と共に唇を離すと、彼女はうっとりとしていた。
「付いてきてもらえますか?」
「……はぃ」
 姫が歩き出すと、彼女はふらふらとした足取りで後に続いた。
 
――夕刻。
「……姫姉さま?」
 扉を叩く音と共に声がした。王子が時間通りに来たようだ。
「開いてますよ。入ってきて下さい」
 姫が答えると、王子は扉を開けて部屋に入った。
 部屋は暗く、中が見えない。
「姫姉さま? どこ?」
「こっちですよ」
 声のする方にゆっくり歩いていくと、寝台に腰掛ける姫の姿があった。
 そしてもう1人、女性が寝台に横たわっていた。
「えっ?」
 王子は驚いた。
 見知らぬ女性が居る事もだが、2人とも全裸だったのだ。
 あまりの事に、初心な王子は言葉も無い。
「大丈夫ですよ。この方は王子の為に来てもらったのです」
 暗くて表情はわからないが、姫は笑っているようだった。
「さぁ、こっちへ」
 王子は言われるがまま、寝台まで歩いていった。
「王子は王女様に振り向いて欲しいんですよね?」
 確認するかのように聞くと、王子は頷いた。
「分かりました。では、その方法を教えましょう」
「ほんとっ?」
 王子の顔に期待と不安が浮かぶ。
「えぇ、大丈夫です。まずは寝台に横になって下さい」
「わかった」
 そう言うと王子は女性と並ぶように横になる。
 王女様を想う一心からだろうか、女性が全く動かないのも気にならない。
「いいですよ……」
 姫が王子と女性の手を握らせると、掌に軽い痛みが走った。
 その瞬間。
「ぁあっ!」
 王子は目の前が真っ暗になり、何も感じなくなった。
 全身の感覚が無くなり、自分がどんな体勢なのかもわからない。
 声も出せず、何も聞こえない。
 錯乱しそうになった時、姫の声が聞こえてきた。
「王子、聞こえますか?」
 それが合図だったかのように、全ての感覚が戻ってきた。
 手足も動く……が、何かおかしい。
 そう思い、手をよく見てみると、それは自分の手では無かった。
 王子は女性になっていた。
「こ、これは?」
 声も女性の物になっている。
「慌てないで下さい。大丈夫ですよ」
 姫が宥める。
「まずは女性の体を知ってもらおうと思い、体を交換しました」
 スッと近付くと姫の唇が女性の唇を奪った。
「んんっ!」
 王子は唇を割って入ってくる舌の異物感に喘ぐ。
 姫の舌がうねり、口の中を蹂躙する。
 接吻すら初めての王子は、ただただ翻弄されるだけだった。
 その時、王子の舌に姫の舌が絡みついた。
「……っ!」 
 初めての感覚に王子は戸惑う。
(な、何? これは……舌……なの?)
 姫の舌はまるで別の生き物の様に蠢いた。
 時に優しく、時に強く、王子の舌に吸い付き、絡みつく。
(ぁあ……あぁあ……あ……ん)
 女性の口の中で踊るように絡み合う2人の舌。
 そこから生まれる快感に、王子は圧倒された。
 姫はたっぷりと舌の快感を教え込んだ後、唇を放した。
 2人の間に唾液が糸を引いた。
「これが大人の接吻です。わかりましたか?」
「ぁあ……」 
 半開きで舌を出したままの状態で、王子が頷いた。
「気持ちよかったでしょう? その感覚を忘れないで下さいね」
 そう言うと、まだ快感に呆けている王子に覆いかぶさる。
「次に進みますね」
 姫の舌が頬から首、そして鎖骨へと滑っていく。
「ぁあっ! あ……ぁ……ああ!」
 そして更に下へと向かう。
「胸の膨らみを……このように……」
 姫が胸を手で優しく包み、その先端に舌を這わせた。
「あぁあぁああっ!」
 姫の口が乳首を吸い、挟む。舌が踊る。
 その快感に王子は喘いだ。
 乳首が硬くなっていくのが分かる。
 そして硬くなればなるほど、強い快感を王子に与えていた。
「あっぁぁぁあぁあ……ぁぁぁ……あぁぁぁぁあっ!」
 快感に翻弄され、ただ喘ぐしか出来ない。
「しっかり感じて下さいね」
 姫の舌が更に下へと下がっていく。
 胸から腹、腰へ……。
 その舌が体を這い回る感覚に、王子は我を忘れて喘ぐ。
「そして……ここも……」
「……あぅ? ぅあぁっぁあぁ……ぁぁあああ、あぁぁああぁっ!」
 姫の舌が、とうとう王子の秘部へと辿り着く。
 そして、丹念に舐め上げていく。
 舌が秘部を抉じ開け、蹂躙し、吸い上げる。
「あはっ! あああっぁああぁあ……」
 精神は男性である王子には未知の快感。
 それが信じられない快楽を王子に与え、体の震えと喘ぎが止まらない。
「気持ちいいですか?」
 いつの間にか姫が王子を覗き込んでいた。
「はあぁ……」
 王子の口から深い喘ぎが漏れる。
「ふふ、こんなに濡れていますよ」
 そう言うと手を秘部に這わし、王子の顔の前に翳す。
 指の間に糸が引いている。
 それを信じられないといった表情で王子は見る。
「いやらしいでしょう? 女性とはこういうものなのです」
「……王女様……も?」
「勿論です」
 姫が優しく答える。
「このようにすれば、王女様も楽しんで貰えますよ」
「王女……様……が……こんな……ふう……に……」
 どこか期待に満ちた表情で呟く。
「では、もう一度やりますね。ご自分でも出来るように、しっかり覚えて下さい」
 再び、妖しい交わりが始まり、王子は激しい快楽に溺れていった。

 幾度も続いた交わりがようやく終わり、王子が寝台に横になっていた。
 王子は精魂尽き果てた様子だった。
「そろそろ実践してみましょうか」
 そう言うと王子の本来の体を並べて寝かせ、手を繋がせる。
「――ひぃっ!」
 2人の体がびくりと痙攣した。
 最早用済みとなった女性の体が、砂のように崩れた。
 姫がそれを払い落とす。
「さて、これは私からの応援です」
 姫が王子の男性器に優しく手を伸ばす。
 指先から針が伸びて男性器に刺さり、何かを注入していく。
「ぁあぁあぁぁぁぁああぁあああぁぁぁぁああぁあああっ!」
 王子の口から叫び声が上がる。
「少し我慢して下さいね」
 すると、王子の男性器がみるみる大きくなっていった。
 太く逞しくなっていくそれは、あまりにも王子に似合っていなかった。
「素敵ですよ、王子」
 姫がうっとりと呟き、更に巨大化させていく。
 それは最早、人間の性器では無かった。
「あ……あぁぁあ……ぅぁああ……あぅ……」
 王子の喘ぎが続き、しばらくしてようやく止まった。
 そこにあったのは、余りに巨大で凶悪なものだった。
「王子、聞こえますか?」
 呼び掛けに王子の目が開いた。
「王子は女性の体の悦びを学びました」
 王子の顔が思い出したように赤くなる。
「ですが、殿方は悦ばせる側なのです」
 言いながら、王子の対面にゆっくりと腰を落とす。
「今度は私を悦ばせて下さい」
「……えっ?」
 王子が戸惑いの表情を浮かべる。
「大丈夫です。やり方は体が覚えたはずですよ」
「僕が……姫姉さまを……」
 不安、期待、そんな感情が入り混じっていた。
「さぁ、来て下さい」
 そう言うと姫は足を広げ、王子を誘った。
 それを見た瞬間、王子は姫を抱く事しか考えられなくなった。
 自分がされた愛撫を、自分がしたい。
 そんな感情に突き動かされた。
「姫……姉さま……僕……その……」
 どうにもならない性欲が、心の底から沸いて来る。
「ふふ、我慢しなくていいんですよ」
 姫が王子に手を伸ばす。
「抱きたくて堪らないでしょう?」
 王子は姫に飛び付くと、そのまま寝台に押し倒す。
「あぁ……慌てなくても……大丈夫ですよ」
 姫は形だけの抵抗をする。
 王子は全身で姫の体を押さえ込み、密着させた。
 そして愛撫していく。
「あぁぁ……」
 姫から喘ぎが漏れる。
 それが王子に堪らない快感を与えていく。
 まだまだ王子の動きはたどたどしく、姫の愛撫の足元にも及ばない。
 だが、的確に女性の性感帯を捉えていく。
「ほし……い……ほしぃ……い……んだ……」
 王子は形振り構わずにむしゃぶりつく。
 それは決して女性を悦ばせる動きでは無かった。
「こ……れでは強姦……ですよ……あぁっ……乱暴……すぎです……」
 胸を鷲掴みにし、体に顔を埋めて擦り付ける。
「はぁ……」
 姫は王子を見ながら溜息を付く。
(まぁ、最初はがっつくのも無理はありませんか)
 一心不乱に自分を愛撫する王子を見て、姫は妖艶に笑った。

< つづく >

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