とある王国の悲劇 剣姫編6 後編

剣姫編 6(後編)

「女王陛下、万歳!」
 その日、城の広間には大観衆が集まった。
 そして露台に立ち手を振る新しい王に、歓声を上げた。
「皆の者」
 剣姫と呼ばれた新女王が話し出すと、静寂に包まれた。
「今までの辛い時代を良く耐え抜いてくれた」
 歓声が上がる。
「しかし、その時代を強いたのは他でも無い、王族だ」
 民衆が静かになる。
「その王族の1人として、皆には陳謝したい」
 そう言うと、女王は深々と頭を下げた。
 途端に民衆から声が上がる。
「顔を上げて下さい!」
「姫様は違います!」
「私達を救ってくれたのは姫様だ!」
 声は止まない。
 皆、女王に非が無い事を訴えていた。
「ありがとう。だが、簡単に許して貰おうとは思わぬ」
 女王が毅然と立つ。
「支配の象徴であった父王は崩御し、私が新王となったからにはこの国は変わる!」
 その声は国中に響くかの様だった。
「いや、変えてみせる」
 再び喝采。
「皆が笑って過ごせる国に、私はしたい。その為に、力を貸して欲しい」
 女王が見渡すと、皆活気に満ち溢れていた。
 女王はそれを見ると力強く言い放った。
「では、私と共に歩もう!」
「姫様、万歳!」
「新女王様、万歳!」
 女王を称える声は、何時までも何時までも止まなかった。
 それは、民衆が長年待ち望んだ瞬間だった。

「お疲れ様でした、姫様」
 露台から城内へ入った女王に、古強者が声を掛けた。
「いや、失礼を。女王陛下」
 慌てて言い直すのを、女王は笑みで返す。
  「あれで良かったか? 爺」
「はい、素晴らしかったですぞ」
 爺は感極まった様に、啜り上げた。
「ようやくここまで来ましたな……」
 今までの事を想い帰しているのか、どこか遠い目をして言う。
「確かに、ここまで来れた」
 それを女王が引き継いだ。
「だが、大変なのはこれからだぞ」
 その言葉に爺の顔が引き締まる。
「そうでしたな」
「そうだとも」
 女王が爺に向き直った。
「これからも私を助けてくれるか?」
 その顔は、どこか昔を感じさせる、幼さがあった。
 それが女王の幼少を知る爺にはよくわかった。
「御意」
 爺は短く返答した。
「ありがとう、爺」
 女王は屈託の無い笑顔で言った。
 女王のこんな笑顔を見るのはこれが最後だろう。
 爺は感じた。
 そう、これからが大変なのだ。
「行くぞ、爺」
「はっ!」
 そして女王は歩き出す。

 この国の平和へと。

< つづく >

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