好奇心は猫をも殺す 1

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――死にたくない
 ソレは残った力を振り絞り、前へ前へと進む。
――捕まれば、殺される
 その恐怖が、ソレを突き動かしていた。
 ずる……ずる……。
 ずる……ずる……。
 不気味な音を立てて、ソレが進む。
 ずる……ずる……。
 ずる……ずる……。
 そもそもソレを何と呼べばいいのだろうか。
 形の無い透明なゲル状で、簡単に言えばスライムが一番近いだろうか。
――死にたくない
 ソレは自分が何故こんな姿なのか、分からなかった。
 そもそも自分とは何だろう?
 意識が生まれた時からこの姿で、研究所のような所で実験を繰り返された。
 その結果、自分は失敗作の烙印を押され、処分を待つ身となった。
 死にたくなかった。
 何としても生きたかった。
 幸運な偶然が重なり、逃げ出す事に成功したのはつい先日である。
 その時からひたすら逃げ続けた。
 施設は人里離れた山奥にあったようで、進み続けても険しい森林だけが続く。
 あの施設から離れれば、自分は長く無い事も理解していた。
 ただ、何もせずに死を待つのは嫌だったのだ。
 何故そう思うのかも分からなかった。
 ただ生きたいという強い衝動に突き動かされたのだ。
 進む度に力が抜けていくのが分かった。
 ……あとどれだけ進めるのか。
 絶望が注意力を弱めたのか、ソレは目の前の地面が無くなった事に気付かなかった。
 崖だった。
 もうどうする事も出来ず、落下した。
 幸運だったのは下が川だった事だ。
 致命傷は免れた。
 しかし、かなりの力を失っていたソレは、流れに逆らう事が出来ない。
 ソレは流されていった。

「あ~ぁ、すっかり遅くなっちゃったな~」
 川沿いの道を、1人の女子高生が歩いていた。
 下校時間はとっくに過ぎ、辺りは真っ暗である。
 ポツポツとある外灯だけが、寂しげに光っていた。
「薄気味悪いな~」
 少女は呟くが、そんな風に思っているようには見えない。
 夜道を1人で歩く女の子としては、やけに堂々としている。
 それもその筈、少女はもう何度もこの道を利用していた。
 なのでこの道に危険が無い事も、また万が一の為の備えもしてあるのだ。
 少女は学校では真面目な優等生で通っていた。
 成績はトップクラスで、運動神経も悪くない。
 その外見も手伝って、友人の付けた愛称は「委員長」。
 本人以外は満場一致で納得した。
 その所為か、行事の際は仕事を押し付けられるのが常だった。
 それを持ち前の責任感と高い能力でこなしてしまう為、先生からの信頼も厚かった。
「ま、こんなので評価が上がるならいいか……」
 来年には受験が控えている。
 先生達の印象は良いに越した事は無い。
 そんな考えになるのも優等生だった。
 そんな事もあって、帰宅が遅くなる事は日常茶飯事となっていた。
「まぁいいや。帰ろ帰ろ」
 そう呟き足を速めた時、視界の隅で何かが光った。
「ん? 何かしら?」
 川の方で何かが反射しているようだった。
 何となく興味を引かれ、少女は川へと近付く。
 暗いので鞄から懐中電灯を取り出す。
 そんな物が鞄に入っているのも彼女らしい。
 それで川を照らすと、岸辺に何かが流れ着いていた。
 近付いてよく見ると、ゲル状の透明な物体だった。
「……クラゲ? 川なのに?」
 少女は不思議に思い、落ちていた木の枝を拾い、ソレを突付いた。
 その瞬間、ソレが瞬時に動き、少女の足から這い上がった。
「きゃっ! 何っ!」
 少女は慌ててそれを引き剥がそうとするが、ゲル状の為掴み所が無い。
 さらに粘液が出ているのか、表面がベタついていて滑る。
 瞬く間にソレは少女の股間に達した。
「いやぁっ!」
 反射的に少女は足を硬く閉じて、手で払い除け様と必死に抵抗する。
 ……だが。
「えっ? 何……で……」
 少女の動きが急に緩慢になった。
 まるで全身の力が抜けたかのように、ペタリと座り込んでしまう。
「どう……し……て……」
 少女は知る由も無かったが、ソレから滲み出す粘液が全身を弛緩させたのだ。
 少女の抵抗が止むとソレが薄く伸びた。
 制服の下に潜り込み、全身を包む。
「何……すん……の……よ……」
 少女は気丈にも抵抗しようとするが、体は言う事を聞いてくれない。
 ソレが一斉に蠢いた。
「ひっ!」
 少女の肌が粟立った。
 全身の肌をソレが撫で回したのだ。
 まるで体中を指や舌で弄られているようだった。
 まだ男性経験の無い少女にとって、それは初めての感触だった。
「やっ! め……て……」
 少女の言葉を無視するかのように愛撫は続く。
 まるで少女の感じる場所を探っているかのように。
 すると、少女に変化が現れた。
「何? 体が……変……に……」
 少女が感じたのは快感だった。
 ソレの粘液のもう1つの効果が現れ出したのだ。
 ソレが蠢く度に、信じられない程の快感が走る。
「あっ! く……や、やめっ!」
 どんどん気持ち良くなる感触に、少女は恐怖を感じた。
 自分は一体どうなってしまうのか……。
 しかしそんな気持ちも、より的確に性感帯を刺激されて快感に押し流される。
「あっ! ぁああぁああ……あぁっ!」
 ……やばい……おかしくなりそう……。
 そんな事を思った時、膣がゆっくりと広げられていく。
 ソレが侵入してきた。
「いひゃっ! うわっぁああぁおあおあぉぉぁあぉぉっ!」
 膣内を愛撫され、少女の頭は一瞬で沸騰した。
 処女膜を破られた痛みも問題にならない。
 思考は快感だけだった。
「あぁっ! あぁぁぁぁぁああぁあぁあっ! あぁっ!」
 体を覆っていたソレが集まり、少女の膣を押し広げながら侵入していく。
 少女は快感にのた打ち回った。
 涎を垂らし、蕩けきった表情を浮かべ、全身全霊で快感に酔っていた。
 暫くすると、ソレが全て少女の中に入った。
 そして一際大きく動いた。
「アァァァァっ! おおあおぁおぁぁぉあおぉあおぁぁおあぁおおぁおぁぁあああぁっ!」
 想像を絶する快感だった。
 少女は激しく痙攣した。
 そして、ぐったりと横になり動かなくなった。
 惚けたような笑みを浮かべ、その目は何も映していなかった。

 しばらくすると少女がゆっくりと身を起こした。
 自分の体を確認するかの様に手足を動かす。
 思い通りに動く事が分かると、大声で笑い出した。
「やった! 手に入れた! 体を! 思い出を!」
 ソレが彼女と同化したのだ。
 ソレは狂喜した。
 ソレには何も無かった。
 名前も。
 家族も。
 記憶も。
 何も無かった。
 だが、今はもう違う。
 ソレは少女となったのだ。
 名前もある。
 家族も、友達もいる。
 思い出だってある。
 何処にでもいる様な女子高生になったのだ。
 ソレは涙を流しながら笑い続けた。
 追手も最早怖くはない。
 ただの女子高生になった等とは思いもしないだろう。
 だが、用心に越した事は無い。
 ソレは、いや少女は身形を整えると、帰宅を再開した。
 愛しい家族の待つ、我が家へ。

 少女は満面の笑顔を浮かべ、待ち切れないかの様に走り出した。

< 続く >

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