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……時間は少し遡り、武がこの世界に復帰する前日。
「はい、次の議題に取り掛かるわよ!」
威勢のいい、しかし涼やかな声が放課後の生徒会室に響く。
テキパキと仕事をこなし、皆を引っ張るこの部屋の主。
生徒会長の小鳥遊弥生だ。
校内美少女ランキングでは常にトップ3入りし、成績優秀スポーツ万能。
それでいて気さくな性格で、しっかり者で面倒見がいいと来れば人気が出ない筈が無い。
告白した男子は数知れず、だがガードが固く、誰一人として成功した者はいない。
正に学校のアイドル“高嶺の花“だった。
今日も男子生徒会役員の熱い視線を受けながら、速やかに議題をこなしていた。
「さて、と。次はなんだっけ……」
弥生がプリントを手にしようとした時、ガタンと何かが倒れる音がした。
驚いてその方向を見ると、役員である女子生徒が倒れていた。
「大丈夫!?」
弥生は急いで女子生徒に駆け寄った。
見るからに顔色が悪い。
「保健室に運ぶわよ。男子、悪いけど手伝って。先生にも連絡」
騒然としかけた生徒会室に、弥生の指示が飛ぶ。
それだけで皆平静を取り戻し、行動に移った。
すぐに担架が持ち込まれ、女子生徒を乗せると保健室に向かった。
弥生はそれに付き添った。
すぐに保健室に到着し、女子生徒をベットに寝かせる。
そして保険医に報告した。
「生徒会役員の吉沢茜が倒れたので、診察をお願いします」
「ごめんね、迷惑でしょ……」
夕暮れに染まる通学路、茜にしては珍しく落ち込んだ調子で言う。
「気にしなくていい」
それにどこか素っ気無く答えたのは、付き添いを申し出た武だ。
たまたま学校に残っていたと武は言うが、茜が心配で待っていたのはバレバレである。
もっと優しく言えないものかと考えてはみるが、不器用な武は上手くいかない。
だが、その気持ちは伝わった様だった。
「ありがと」
若干元気が戻った調子で茜が答えた。
「でも、最近倒れ過ぎだよ。私どっか悪いのかな……」
もともとそんなにタフな方では無いが、一般的な体力はあると思っていた。
だが、1年程前から体調が徐々に悪化し、この3ヶ月に至っては何と12回も倒れている。
体調不良で休む事など数える気にもならない。
今ではすっかり保健室の常連と化し、クラスでも病弱キャラが浸透してしまっていた。
生徒会も休みがちなり、今回の様に無理して参加してみれば、かえって迷惑をかけてしまった。
会長は気にしないでと言ってくれるが、それは無理だろう。
無論病院には行っている。
それも複数の病院にだ。
が、診断結果は毎回軽い貧血だった。
大丈夫だろうと医者は言うが、薬を飲み生活習慣を正してみても、悪化こそあれ何の改善も見られないのだ。
こうなるとただの貧血とは思えない。
茜は精神的にも疲れ始めていた。
「もう少し様子を見てみよう。俺も何か方法を考える」
武がどこかぶっきら棒に言う。
だが、その瞳に宿る心配や気遣いに、茜は気付いていた。
「もう、武はお医者さんじゃないんだから、何も分かんないでしょ~」
憎まれ口だが、それは照れ隠しだった。
「それもそうだな」
武がニヤリとした笑みを浮かべた時――世界が一変した。
結界――それもセイバー達が使うにでは無い、どこか虚無に満ちた空間。
妖魔が現れたのだ。
「あ……あれ……」
茜はどこか夢心地になり、ふらふらと立ち尽くす。
それを囲む様に複数の気配が湧き上がってくる。
「全く、性懲りもなく……」
武が気配に注意しながら呟いた。
「セイバーか? 悪いが邪魔はしないでくれるかな?」
武と慧の正面の気配が実体化して、ザラザラした耳障りな声で言った。
姿こそ人の形をしているが、ピンクっぽいブヨブヨしたモノで出来ていて不気味に蠢いている。
一般人なら生理的な嫌悪感と、言い知れない恐怖を抱くだろう。
だが、武はこの程度の化け物など見慣れている。
特に動揺した様子は無い。
慧を庇う為に前に出る。
「茜に指1本触れさせないよ」
「ほう、見逃してあげようと言うのに、退きませんか」
その声を合図に他の気配も実体化した。
2人を取り囲む様に4体。
大人程の大きさの、粘液にまみれた肉腫だった。
その姿をどう表現すればいいのか。
生物を袋状にして、裏返したモノとでも言えばいいのか。
一般人どころか並のセイバーなら、恐慌状態に陥ってもおかしくない程の禍々しい姿だった。
しかし、武はまるで動じない。
寧ろ、余裕すら感じさせる表情を浮かべていた。
その両手に冷気が宿り、周囲の空気が凍ってキラキラと輝く。
突如として4体の肉腫が、足が無いとは思えないスピードで距離を詰めた。
恐らく接地面に無数の管足があるのだろう。
そして2メートル程まで近付いた瞬間、肉腫から触手が2本飛び出し2人を襲う。
その速さはまるで鞭の如きだった。
目にも止まらぬ8本の触手は、しかし1本も2人の届くことは無かった。
2人の寸前で、全てが凍り付いていた。
見る間に本体の肉腫まで凍りつき、動きを止めた。
武が静かに指を鳴らす。
すると、全てが砕けてダイアモンドダストの様に宙に舞った。
「ば…ばかな……」
1体だけ残された妖魔が、信じらないと言った声を出す。
「どうした? かかってこないのか?」
武が挑発的な笑みを作る。
「貴様……その力は……まるで……」
妖魔は続きを言えなかった。
視界がキラキラと輝く。
気付いた時には自分もすでに全身が凍っていた。
凍らされた事を自覚出来ない程の、圧倒的な冷気。
こんな力は如何にセイバーと言えど、人間には不可能だ。
妖魔が知る限り、この力を持っていた者はただ1人。
白銀の魔王――銀の女王だけだ。
そう思った瞬間、視界が砕けた。
いや、砕けたのは自分自身だった。
「あ……あれ? 私、いったい……」
妖魔が散った事で結界が解除され、茜が夢から覚めた様な口調で言う。
「大丈夫か? 早く帰って寝た方がいいな」
さっきまでの戦闘など無かったかの様に武が言う。
「……そだね。ありがと、武」
どこか釈然としない物を感じながらも茜は頷き、2人は歩き出した。
「う~ん、遅くなっちゃったな~」
暫く経った同じ場所に、1人の女子高生が通りかかった。
長いポニーテールが揺れる。
メリハリの利いた体に、理知的な瞳。
皆のアイドル、小鳥遊弥生だった。
もうすっかり遅くなり、周りに人影も無い。
いくら生徒会長とは言え、普段ならこれ程遅くなる事は無い。
だが今日は役員の茜が倒れた事もあって、仕事が遅れてしまった。
皆を残すのも悪いと考えた弥生が、1人で残りの仕事をこなしたのだ。
自分でも背負い込み過ぎかな~と弥生は思うが、こればかりは性分なので如何しようも無かった。
「……あれ?」
考え事をしていた所為か、周りの景色が変わっている事に気付くのが遅くなった。
道を間違えた?
有り得ない。
ここは通い慣れた通学路、しかも一本道だ。
しかし、どう見ても見慣れた通学路とは一変していた。
「なに……どうなったの……」
流石に怖くなり、辺りを見回す。
すると、道端にピンク色した丸いモノがあった。
大きさは弥生でも一抱えに出来る程度。
たまに蠢く様は不気味ではあるが、その色と形からあまり恐怖は感じなかった。
寧ろとあるキャラクターと被って見えた。
「まさか……かーび」
言い掛けた時、突如ピンクの塊に大きな穴が開いた。
まるで弥生が言い掛けたキャラが口を開いた様だった。
そして物凄い勢いで空気を吸い込む。
「ちょ……ほんとに……そうなの!?」
必死で吸い込まれない様に耐える。
余りの吸引力に立っていられなくなり、地面に這いつくばった。
それでもジリジリと吸い寄せられていく。
「や……やだ……やめ……」
弥生は懸命に耐えたが、遂に限界が来た。
叫び声と共にピンクの塊に吸い込まれる。
取り込んだ弥生と共に、塊はグネグネと蠢いた。
弥生は自分がおかれた状況に恐怖した。
そんな弥生に何処からか声が聞こえた。
「……カラダ……ココロ……ヨコセ……」
弥生は愕然とした。
このままではダメだ。
何とか脱出しようとするが、体は全く自由にならない。
寧ろ、どんどん感覚が薄れていく。
塊が動く度に、自分が吸い取られていく様な感じがした。
塊は尚も弥生と共に動き続ける。
まるで自らの体を弥生に馴染ませる様に。
その度に自分が吸われていく恐怖に弥生は狂いそうだった。
いや、狂った方が幸せだったのかも知れない。
自分が食われ消えていく感覚を、弥生はゆっくりゆっくりと味合わされるのだから。
途中、弥生の着ていた服が器用に剥ぎ取られ、外に吐き出された。
やがて動きが激しくなっていき、塊が弥生に満遍無く纏わり付く。
弥生の表情がどこか恍惚とした物になっていた。
いや、最早“弥生“が誰なのかさえ分からなくなっていた。
その手が豊かな胸を揉んだ。
「あ……ぁぁあああぁっ!」
外見からは想像も出来ない様な卑猥な声が響く。
まるで感触を楽しむ様に、両手で激しく揉みしだく。
「あっ! ひぃっ! あ……や……ぁぁああっ!」
弥生の全身が快楽に震えた。
やがて、手が下へと伸び、秘部に触れた。
「ひぎぃぃぃっ!」
弥生は短い悲鳴を上げ、瞬時にイッた。
しかし、手は弥生を休ませるつもりは無い様で、更に激しい愛撫を開始する。
「ひぃっ! ぁぁああああっ! ぎっ! ひぃぃぁあぁぁぁあぁああああぁあっ!」
弥生は休む間も無くイかされ続けた。
……どれ位イッただろうか……。
弥生の表情は淫蕩に蕩け切り、元の凛とした雰囲気はまるで残っていなかった。
すると、弥生に纏わり付いていたモノが、蠢き始めた。
弥生の肌を這いずり回ると、穴という穴から侵入したのだ。
「ごっ! がぁっ! ぐぼっ!」
弥生から苦しげな呻きが、断続的に上がる。
が、容赦なく体内に侵入していった。
暫くして全てが入りきると、弥生の瞳に力が戻った。
「ふ~、危ない危ない、この体が通りかからなきゃヤバかったわ」
口調は弥生だが、内容は全く別人である。
「まさかあんなヤツが敵になるとはね……何か手を考えなきゃ……」
言いながら、裸のままの体を弄る。
「でも、この体が手に入ったのはラッキーかな……あぁん!」
妖艶な表情で喘ぐ。
「マナも充分あるし……あんっ! 何より標的と顔見知りとはね……」
弥生が不敵に笑った。
「これなら何とかなりそう……ひぃぃぁぁんっ!」
自慰で軽くイッた後、服を拾って着替える。
表情を凛とした、いつもの弥生に戻すと結界を解いた。
「さて、これから忙しくなりそうね」
清楚な笑みを浮かべながら、弥生は帰路に着いた。
< 続く >