魔本物語 第4話

第4話

 とある国の王宮の一室、そこで、姫と数人の貴族が会議をしていた。だが、その雰囲気は重苦しい。
 その理由として、進めている議題が行き詰っていたからだ。だがそれより何より室内の中心にいる人物が、かなり不機嫌だということだ。
 豪華なドレスを着て、凛とたたずんでいるが、不機嫌オーラがあふれ出ている。おかげで、ほかの人はなかなかしゃべれない。何を隠そうその人物こそアルフィーナだった。

 この会議は、王都の一角にある区画の整理計画を話し合う場所だった。このような大事業の責任者はもちろん国王であるが、多忙な国王が細かな計画や支持を出すのは難しい。
 そこで、王族の一員を計画実行者に当てて、計画をまとめ、最終決定のみ国王がするということがよくとられる。別に家臣でも問題ないが、王族の一員のほうが何かと便利なのだ。
 なので、簡単な事業などは、子供を責任者に当てて、参謀に優秀な家臣をつけて経験をつませるということもある。
 今回の事業は、決して簡単ではない。ただ、国王や家臣もアルフィーナの優秀さは知っていた。それに参謀の一員に信頼できる家臣の一人である宰相を加えている。
 残りの参謀は若干癖があって、使いづらいが、それをうまくまとめることがアルフィーナの勉強になると考え、国王は実行者にアルフィーナを任命した。

 ここで、会議室にいる人物を紹介しておくと、宰相で実質この国で二番目に権力を持つのがラムゼル卿。
 古くから、国王に仕えている家臣だ。

 次に、立派な髭をはやし、勲章をつけた軍服を着た男がガーゼン将軍。彼は国王の弟であり、アルフィーナのおじでもある。

 残り二人は若い男で片方は眼鏡をかけ痩せている。ただ着ている服装はそれなりにいいが質素だ。もう一人のほうは太め都言うより太りすぎの男だ。
 着ている服も特注サイズな上派手を通り過ぎて下品なほどだ。
 やせ細ってるほうがバルド男爵。太ってるほうがヴァホン子爵だ。二人とも貴族だが、あまり言い噂を聞かない。

 バルド男爵は,妾の子だが、本妻の子が病気で無くなり、家督を継いだため、『本妻の子を暗殺した』との噂が流れている。
 だが、多くある職人ギルドに強いコネがあり、公共事業などに必要な多くの職人を手配するのには欠かせない。

 ヴァホン子爵のほうは、もっとたちが悪い。一言で言えば『ダメ貴族』なのだ。権力と金に物を言わせ、悪評なら若手貴族で一番だろう。
 後スケベで有名だ。ただ、彼の家は多くの商人とつながりを持っており、そこから生まれる資金は馬鹿にはできない。

 これが、今回の区画整理計画の実行者たちであり、軍人であるガーゼン将軍が現場で指揮し、バルド男爵が職人や資材の手配。ヴァボン子爵が、資金管理・調達。
 これら3人をラムゼル卿がまとめ、責任者のアルフィーナが決定すると言うのが役割だ。
 だが、この会議は揉めていた。本来なら協力して計画に望むべきなのだが、ばらばらなのだ。
 元々、アルフィーナとラムゼル卿が考えた計画を実施する予定であったが、バルド男爵とヴァホン子爵が反対したのだ。

 区画整理区域にあったある地域が問題だった。用水路に囲まれたその区画は、交通の便が悪く、ほかの区画より人気が無かったため、貧しいものたちが住み始めた。
 それだけなら問題ないが、たちの悪い連中が住み着き、ほかの場所より警備の目が届きにくいことをいいことに、法律に触れるような商売が横行していた。
 そういう区画であるため、ほかの区画ではおおぴらにできないようないかがわしい店も乱立していた。

 今回の計画で、そこを一掃し、再整備するのが肝だったのだが、反対が起こった。ヴァホン子爵は、彼の家が懇意している商人たちからの圧力だろう。
 全うな商売はそれなりの利益しか生まない。そうじゃない商売のほうが断然儲かる。そういう商売ができる場所をみすみすつぶされたくないのだ。
 本来なら、そういう意図を隠して反対するものだが、ダメ貴族代表といわれるヴァホン子爵は、詳細な理由も言わず、反対する商人の名前を挙げた。

「彼らの頼みで計画は反対だ! 後、お気に入りの娼婦館がつぶれるのは困る」

 本来なら、国王に進言するところだが、彼が話した商人は国内でも有数の商人たちだ。明確な証拠が無い限り追求はできない。
 そして彼らはそんなへまをしないだろう。ヴァホン子爵の馬鹿さも計算しているはずだ。

 バルド男爵のほうはもっとたちが悪い。

「計画区画は確かに問題だが、そこにいるすべてのものが法律に反しているわけではない。それに、その区画には、娼婦館だけでなく飲み屋街など、普通の国民が利用する施設もある。それを一部の犯罪者のためにつぶすというの問題ではないか? そういう政策は、国王へのうらみをのこすのではないか?」

 言い分にも一理ある。確かに、国の将来に多くの禍根を残す可能性もあるのだ。こう理論整然と反対されると、下手に力ずくで押し進めることができない。
 元々、彼らが反対するのはわかっていた。そこで国王はラムゼル卿とガーゼン将軍を参謀に加えた。彼ら二人は、反対派の二人より、位も家柄も上だ。強く言われれば反対派も声をあげて反対することは難しい。ところが、ガーゼン将軍がバルド子爵の意見を聞いて、どっちつかずの対応をとり始めた。元々、荒事担当で軍方面に力基盤を持っているため、反対派の2人の影響を受けにくい。政治・経済の影響を多く受けるラムゼル卿より適任なのだ。なのに、二人をはっきりと止めてくれないのだ。こうなれば、反対派が俄然勢いを増す。結果、会議はとまってしまったのだ。

「これ以上は時間の無駄のようですね。今日は解散しましょう」

 アルフィーナの言葉で、張り詰めていた空気が少し緩んだ。彼らも、不機嫌MAXの国王の娘のそばにいるのはしんどかったのだ。だが彼らは知らなかった。
 アルフィーナが不機嫌なのは、会議が進まないからではなかったことに……。

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 会議のあった日の前夜。時間は深夜を回り、誰もが眠る時間。だがアルフィーナは眠るつもりは無く、自分の衣装部屋の中で、鼻歌交じりで機嫌よく、身支度を整えていた。

「~♪ あ~疲れた~。舞踏会にお茶会に各施設の視察。ほんと姫様の仕事ってツマンナイことばっか。おまけに明日はあの会議……。あの魔本の策略を防ぐためとはいえ、まじめに公務ってつらいわ……。ヤメヤメ! これから楽しいことがはじまるんだもの。嫌なことは忘れましょ」

 アルフィーナは誕生日が来たときと同じくらいドキドキしていた。何せ、今夜の変態ショーは、魔本がいないためアルフィーナの好きなようにできるからだ。
 魔本は必ず、ショーを行うようにとは言っていない。昨日までは魔本に操られ、無理やりやらされていたのだ。なので、魔本がいない今、する必要は無い。なのにアルフィーナは必ずすると決めていた。

「ふふ~ん♪ 今日は盛り上がるわよ~。大体、魔本のやることってありきたりなのよ。しらけかかったらおしっこで逃げて。劇とか見たことないのかしら……。よしっと。まず服装は準備OKね。パンツもお気に入りのかぶってるし。これを見たらご主人様たちのおチンポビンビンよね! ふふふ」

 衣裳部屋に設置されている化粧台の前でアルフィーナは満足そうに微笑んでいる。しかし準備OKという割には、明らかにおかしかった。
 なぜならほぼ裸だからだ。お姫様がする格好ではない。一応服は付けていた。ただし、白い手袋と白いニーソックスとガーターベルトだけ。
 隠さなければいけないところは、丸見えだから裸も同然だ。おまけにつけてるものは、絹でできており、王国直属の服職人がこしらえたものだった。
 アルフィーナも年に数回しかきることは無く、大事な行事のときに、セットの純白のドレス着用で付ける物だ。
 おまけに頭にはピンクで、こちらもふんだんにレースをつけた絹のパンツをかぶっていた。

「あ~楽しみ。これに、昨日みたいに一杯かけられて、おチンポ汁ドレスになったら、それで公務に出ようかしら。テラスで大勢の国民向かって手を振るの。なんてね。あははは」

 卑猥な想像をして、おマンコの奥をジンジンに濡らしていた。かなり浮かれている。

「あ! こっちのほうも忘れないうちに準備しておかないと。もらったときは邪魔でしょうがなかったけど、これがおチンポ汁になるんだから今では感謝ね。これからは断らないでもらっておきましょうっと」

 そういって、アクセサリー箱から、指輪やイヤリング、ネックレスを取り出した。そのどれもが宝石や豪華な装飾品がついた高価そうなものだ。
 これらはアルフィーナに送られたものだったが、つけるつもりは無かったものだ。姫であるアルフィーナには、年中こうした贈り物が届けられる。
 だが、そのすべてを使っているわけではない。送り主やデザインなどの理由でしまわれていたものだ。
 正直いらないので、処分も考えたが、こうした贈り物を普通に処分すると、相手を傷つけてしまう。なので、ひとまずもらってこうやって衣裳部屋の奥に保管しておくのだ。

「ご主人様たちのほとんどが、貧しい人たちだったから、こういうものがもらえるとなると本気でグチョグチョにしてくれるはず! このくらいでいいかな? ……いいえ。一回1チンポって設定してるけど、そんなもの無視されちゃわよ。これがある限り続けられるから、もっと一杯持っていこうっと」

 アルフィーナは今夜のショーで、このいらないプレゼント品をおマンコに詰め込み、チンポを代金に、ほじくってとってもらおうと考えてるのだ。

「題して『アルフィーナのおマンチョ宝探し』って感じでいきましょう。そうね。最初はこのネックレスだけ仕込んで、鎖だけはみ出しておくの。それで、一番目の人はサービスとして、おマンコキッスだけで、引いてもらうことにしましょう。その後は、一杯詰め込んで思いっきり、ほじくって貰う……ああん! いい! すごくいい!」

 今夜の宴を想像しながら、アルフィーナは嬉しそうに、ネックレスをおマンコに埋め込んだ。
 そのネックレスを送ったものの顔はまったく思い出せず、代わりにファーストおマンコキッスの男の顔が浮かんだ。

「ふふふ……。初めての相手はいつまでも覚えてるって本当なのね。今日はもっと一杯おマンコキッスしたいわ。も……もし、可能ならディープおマンコキッスも……。ああぁ。想像するだけで逝っちゃう。でもだめ! 我慢するのよ。アルフィーナ! ショーの前に逝くだなんて、変態姫失格よ!」

 アルフィーナは完全に自分が変態姫だと認めていた。だがそのことに何の憂いも無かった。むしろ魔本に対して優位に戦える自分の本質を喜んでいた。
 この変態ショーも今では楽しみの一つだ。

「魔本の奴。今頃悔しがってるはずよ。策略をしかけたら、それが空振りどころか、天敵を目覚めさせるんだもの。せいぜい利用させて貰うわ。あなたが始めた変態ショーで私はさらにパワーアップするの。魔本を倒すためにね。あ! ……もうこんな時間。ご主人様たちを待たせちゃう」

 おマンコにネックレスを仕込み、景品のアクセサリーをつめた袋を持って、裸同然のアルフィーナは、自分の部屋の姿鏡の前に移動する。

「さて! だけど今日は魔本のことなんて忘れて、楽しもうっと。今までは魔本の指示で、オナニー姿を前座みたいにしてたけど。それじゃあインパクトが無いわ。やっぱり、じらして、いきなりバン! のほうが興奮するわよ。そしてそのまま踊るの。ショーの始まりにふさわしい演出ね」

 そういうと、アルフィーナは姿鏡にかかってる遮蔽布に手をかけた。そして深呼吸した後、ばっと勢いよく剥ぎ取り、投げ捨てる。

「今晩マンコ~♪ 皆様のおマンチョ奴隷! 変態姫アルフィーナ! ただいま参上! グチョグチョマンコの準備は万全! 皆様のおチンポ準備……ってあれ?」

 予定通り、鏡の前でマンコを広げてきめ台詞を言おうとしたアルフィーナは、異変に気がついた。鏡が真っ黒なのだ。
 いつもならたくさんのチンポや男たちが見えるのだが、今は真っ黒でアルフィーナの姿すら映さない。

「な……なんで? もしかしてじらしすぎて、みんな寝ちゃった?! いいえ! それとも昨日の痴態……やりすぎてて、あきれてこなくなっちゃった!?」

 アルフィーナは血の気が引いた。あんな痴態を晒しても、アルフィーナをかまってくれる人がいる。それが心の支えだったからだ。ふらふらしながら鏡に手を触れる。
 その瞬間、イヤリングが光だし、声が聞こえた。

『あれ~? 何で今日は出てこないんだよ』

『何だよ! せっかく楽しみにしてたのに! 』

『どうしてだよ! 精液も出してるのに! 変態マンコ! こっちこ~い!』

 その声を聞いて、アルフィーナはほっとした。引かれたわけでもじらしすぎたわけでもなかったのだ。しかし、次第にあせってきた。
 自分をかわいがってくれるご主人様が呼んでいるのだ。なのに鏡は何の反応もしないし、姿を写しもしない。

『……なんだよ。せっかく寝ずに待ってたのに』

『毎晩の楽しみだったのに。がっかりだよ』

 代わりに聞こえてくるのは、アルフィーナに対する落胆と不満の声だった。

「いや! いやあ~!! います! いるんです! アルフィーナはここにいます!! 見てください! 今夜のためにおしゃれして! いろいろ仕込んでるんです! ほらほら! 姫マンチョにプレゼントいれてぇぇ! だからいかないで! アルフィーナを無視しないで!」

 泣きながら鏡をばしばしたたくが、まったく写らず、しばらくして聞こえていた声も聞こえなくなった。

「ああぁぁ……。なんで……。なんでなのよ……。うわあぁあん」

 アルフィーナは泣きながら、マンコを弄っていた。そのままなきつかれ、おマンコ丸出しのまま朝まで眠ってしまったのだ。
 朝日が目に入り、最悪の気分で起き上がり、パンツやつけていた手袋やソックスを脱ぎ捨て、適当なドレスを着て、この会議に来たのだ。
 怒りのあまり、パンツもはかず、おマンコの中に仕込んだネックレスもそのままで。普段ならそんな格好で会議に出るなら興奮物だったが、まったくそんな気は起きなかった。
 ありていに言えば不完全燃焼の欲求不満だった。仕込んだネックレスが一番最初だからと小さいものを入れたため、刺激が少なかったのも原因だ。

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(ああん! もう! 最悪! いっそ、ここでドレスを脱いで机の上で踊ってやろうかしら……。却下ね。それをするならもっと人の多いところじゃないと満足できないわ。)

 会議のさなかだというのに、アルフィーナの頭の中は一杯だった。魔本の策略に、載らないため、公務はまじめにするといっていたが、昨日の出来事は、そんな宣言を完全にふっ飛ばさせていた。
 目の前に繰り広げられている口論がまったく出口が見えないのも原因だろう。

「確かに、今回の計画は国民は痛みを伴うだろう。だがそれは、将来のためなのだ。今わつらくても、未来、楽になるとなれば国民は納得するのではないのか?」

「ラムゼル卿。それは違いますよ。人は与えられた幸せより、受けた恨みをより強く感じます。先に国民を楽にしてからするのならまだ可能ですが、今回のように先に苦しみを与えては……。納得どころか作る必要のない敵を大勢作ることになりかねません」

 アルフィーナの味方のラムゼル卿の言い分は、反対派のバルド男爵の反論にあっさり言い負けている。アルフィーナも、反対派のほうに分があると感じているのだ。
 だが、この計画はアルフィーナが立ち上げたのだ。それを部下である……しかも位がかなり低いものの意見を受けて方向転換するというのは、「能力不足」ととられかねない。
 そのことをダシに、ほかの貴族にもなめられる可能性もある。かなり深刻な状況だったが、アルフィーナの意識は別のことでいっぱいだった。

「それに、その区画にできた歓楽街を敵視しておられるようですが、その大半は、貧しいものたちを主な客として扱い、全うな商売をしております。それに、そこは、貧しいものたちのストレス解消の場です。それを本人たちの不備無く奪うのは、耐え難い苦痛でしょう。下手をすればたまったストレスから、犯罪に走るものもでるやも知れません」

(そう! そのとおりよ! 私、ショーすることだけを楽しみに、ツマンナイ公務でも真面目にこなしたのよ。きちんと内容も考えて、時間をかけて準備して! 一杯笑ってもらえるはずだったのに。沢山かわいがってもらえるはずだったのに! 私悪くない! 変態ショーがつぶされるんなら、こんなくだらない会議だってつぶしてもいいはずよ!)

 反対派であるバルド男爵の意見に、本来なら怒りを覚えるべきだが、アルフィーナは心のそこでうなづき、賛同する。

「これ以上は時間の無駄のようですね。今日は解散しましょう」

 アルフィーナは、たまったストレスから、今日の会議を打ち切った。本来なら期日が迫っているため、早く計画を決めないといけないのだが、そんなことはどうでもよく感じていた。
 逆に今日はこの会議だけで一日中使う予定だったから、この会議がつぶれれば後は自由だ。なのでアルフィーナは部屋にこもって、ぬいぐるみを観客にしてショーをしようと決めた。止めるべき参謀も、これ幸いとその指示に従う。

「確かに。時間の無駄ですな。それではお先に。今日は大金を払って予約した娼婦とやる日なので早く帰りたかったのです。アルフィーナ様似でなかなかの上玉そうなので。イや~楽しみだ!」

 そういうと、ヴァホン子爵は太ったからだを揺らしながらすばやく退室していった。そのとき、アルフィーナのイヤリングが光り、声が聞こえてきた。

『ラッキー。こんな会議、父上の命令じゃなかったらこなかったからな。楽しみといえばアルフィーナ姫のやらしい身体を見ることだけだし。あんないやらしい身体してるのに、着る服装って言えば、清純そうなのか、今日みたいに色気のかけらも無い奴ばっかだからもったいないよな。まったく』

 頭の中にヴァホン子爵の汚い声が響いた。彼の心の声だ。

(し・・仕方が無いじゃない。今日のドレス適当に選んだから! それにしてもあいつ、頭の中も下品で最低なのね。……けど、私の身体いやらしいって……ほめてくれた……。次の会議はもっと胸が開いた奴着てこうかな……。)

 普通なら起こる反応だが、アルフィーナは少し機嫌がよくなった。心の声でイヤラシイからだと言われたのだ。自分では笑われるために自ら言っているが、他人から言われると嬉しい。ましてや嘘がない心の声だ。それがダメ貴族のヴァホン子爵であっても。

「では私も。いろいろ仕事がたまっておりますので。では姫様、お先に失礼します」

 バルド男爵も続いて、退出する。

『ふう……。何とか今日も乗り切ったか。計画通りにいかれると、あの子らは行き場をなくすからな。アレだけ明確な理由がある中で、押し進めるほど、アルフィーナ姫はおろかではあるまい。もし、押し進めていたら、あの噂を表に出して、時間を稼ぐつもりだったが、あんまり進められた手ではないからな』

 それと同時に彼の心の声も聞こえてきた。

(彼はヴァホン男爵と比べて、真面目ね。って噂! も……もしかして、あのこと! うう……なんて広まってるんだろう? 気になる。けど、昨日はやらなかったから、もしかして噂も収まって誰も呼ばなくなっちゃう?! どうしよう! 死活問題じゃない!?)

 姫が、淫魔と名乗って国民の前で痴態を晒しているというほうが、死活問題なのだが、今のアルフィーナにとって変態ショーができなくなるほうが死活問題だった。

「私もこれで。では!」

 軍人である、ガーゼン将軍は飾り気の無い挨拶で退室した。そして不思議なことに何も心の声が聞こえなかった。

(おじさま。私を見て何も感じていない? まあ……これ、いやらしいこととか、強く思っていないと聞こえないみたいだし、軍のこととか考えてるのかしら?)

 会議室には、アルフィーナ姫とラムゼル卿が残された。

「まったく……。姫様が、退室する前に先に出て行くとは、なんと無礼な。アルフィーナ様も注意してくれねば困ります。ただでさえ、若造たちは、王の権威を軽んじてるところがあるので。ガーゼン将軍も何を考えているのか……。それに確かに行き詰っておりましたが、時間をかけていれば、説得できる可能性もありましたよ。それを……」

『困ったぞ。これ以上長引けば、私の監督能力を王が疑われる。アルフィーナ姫は馬鹿ではないし、人気もあるから問題は無いと思ったが、こんなことになるとは。しかし、この小娘もあまり使えないな。このところ、私の味方もしてくれんし……。将来のために恩を売っておこうと思ったが、無駄になりそうだ。顔と身体はいいから、政略結婚や民衆の人気取りには使えると思うが』

 アルフィーナは、聞こえた声に、不機嫌を通り越して、気持ち悪くなった。国王である父も、困ったらラムゼル卿に頼りなさいといっていたし、初めて会ったとき、アルフィーナのために誠心誠意尽くすといっていたのに。

(何よ……。お父様はこんな信用できない男を、重用しているの? 話す言葉はきれいなこといってるけど、心の声は最低じゃない。まだ、ヴァホン子爵のほうがましだわ。だって、最低だけど、裏表ないし。それに私の身体は、あんたの地位確保のために、いやらしいんじゃないわ。ご主人様たちに笑って蔑んでもらうためにいやらしいの!)

 アルフィーナはラムゼル卿の声をこれ以上聞きたくなかった。表の声も、心の声も。自分を政治の道具としてしか見ていないことは、変態姫のプライドに泥をかけられた気分だった。

「もういいわ! あの二人は私が何とか説得します! だから今日は終わり! さがります!」

 声を上げ、有無も言わさず立ち上がって、会議室から出て行く。ラムゼル卿は、黙ってアルフィーナを見送るしかなかった。

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 会議を終え、自室に向かうアルフィーナはその途中、宮長官とあった。質素なドレスで、老婆といっても差し支えない年だが、彼女は、王宮内のことを一切取り仕切ってる。
 庭や部屋の清掃や維持、メイドの管理。要するに、政治にかかわりの無い部分で王宮を支えている重要人物だ。アルフィーナの幼いころの礼儀作法の教師でもある。
 噂では、国王ですら頭が上がらないこともあるそうだ。アルフィーナと同じように子供のころの先生で、そのときのトラウマがいまだ残っているらしい。

「姫様。ちょうどよかった。数日前、やめた姫様自室担当メイドの後任が決まりました。公務が終わり、自室に戻られるのでしたら今からつれていき、紹介致します」

 アルフィーナは、冷や汗をかきながらうなずいた。いまだに苦手なのだ、彼女は。おまけに最近は、後任が育ってきて、仕事が少なくなってきているらしい。
 なのでよく、メイドの仕事現場に行き、ちゃんと仕事をしているかチェックをするのだ。紹介の後、きっとしばらく部屋に留まり、チェックをするだろう。
 メイドなら下がらせることができるが、彼女はそうは行かない。彼女が唯一引く理由の『公務』も、今日はもう終わってしまった。

(後任のメイドが誰だなんて、どうでもいいけど、部屋に留まられるのはこまるわ。部屋に戻ったら夜できなかった分も含めて、存分に一人ショーをするつもりなのに!)

 部屋に戻りながら、何とかできないかとアルフィーナは考えた。そして、新しくくるというメイドに難癖つけて、出て行ってもらうことを思いついた。
 新しいメイドには悪いが、翌朝フォローをすれば大丈夫だろう。そうこうするうちに、部屋のドアがノックされ、宮長官と新しいメイドが入ってきた。
 心の中でゴメンナサイと謝りながら、新しいメイドの顔を見たとき、そんな悪巧みが全部吹っ飛んだ。

 なぜなら、……目の前にいる新しいメイドというのは、メイド服を着た魔本だったからだ。

< 続く >

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