わたしが、その村にやってきたのは、春先のことだった。
奇妙なお祭りがある。
そのお祭りには、お寺にある秘仏が関係しているそうだ。
そんなうわさを(ネットで)聞き付けたわたしは、現地に直行した。
そういうことをするのは、わたしが文化人類学を専攻していて、フィールドワークを大切にしていたからと、おそらく、そこが地元に近かったからだろう。 あと、わたしがそのとき、暇だったというのも、大切な理由だったと思う。
そうでなければ、ネットの情報だけで動こうなんて思わない。
マスメディアが真実を伝えないことがある、というのは、ジョージ・オーウェルも書いていることだし、我が国の大本営発表でも明らかである。
そして、一般書籍でさえ、信頼できないことが書いてあるものもある。
一番信頼性が高いと呼ばれている論文も、完全無欠というわけにはいかない。
さて、ならば一番信頼できるものは何か。
自分自身の目だ。
自分で体験したこと、これすなわち、自分にとっての真理である――。
なんてことを考えながら、わたしは車を村の近くに停めた。
道が広くて助かった。
ここまで田舎だと、あまり駐車場は期待できない。
中途半端な田舎なら、無料で停められる駐車スペースがあったりするものだが。
コンビニさえない、という事実が、ここが日本の中でも、辺境の地にあることを如実に物語ってくる。
わたしは、パーカーのすそをひるがえし、とりあえず、ここにあるという寺に向かうことにした。
いろいろ歩いて回った結果、この小さな村にある寺は、ここひとつしかないことがわかった。
「いや、ですから、これは一般公開できるものではないのです」
「では、なんとか、この仏さまの由来、のようなものを教えていただくことはできないでしょうか」
「由来もなにも、急に来てもらっても……」
若いお坊さんに、わたしは質問していた。
あまり相手の機嫌を損ねると悪い。
もっとも、相手の顔色をうかがうかぎり、不愉快というよりも、ただただ、純粋な困惑があるだけのようだった。
一瞬、そのすずやかな目が、わたしの少し大きめにあいた谷間の見える胸元と、ホットパンツから見える、ニーハイソックスが生み出す絶対領域へと向かうが、すぐに元に戻る。
それは、いやらしい感じではなくて、一瞬の隙をついた本能の行動を、理性で抑えたかのようだった。
わたしは、けっこう肌を見せたファッションが好きだから、わりと見られることがあるけれど、こういう風にしっかり目をそらしてくれる人は珍しい。
この人に好感を持つ。
と、同時に、こういうファッションをすると相手の口が軽くなることがあるが、この人には期待できそうもないと思う。
「まあ、申し訳ないんですが、一般の人にはお見せできないということで、由来などこちらでも調べておきますから」
いろいろとそのあと話を聞いたが、あまり役に立つ話は聞けなかったので、わたしの手帳に、名前と連絡先を書いてくれる。
「竜生(りゅうせい)さん、と読まれるのですか」
もしかして、たつお、とかだったりして、と思う。
「はい、それで合ってます」
けっこう、仏教にゆかりのある人の名前は、和語というより漢語系の発音になると思うのは、偏見だろうか。
わたしは、礼を言って、寺をあとにした。
が、わたしは黙って帰らない。
わたしの得た、眉唾情報が確かなら、今日、まさにそのお祭りが始まるはずなのだ。
適当に車を見つからなくて安全そうなところに停めて、もう一度村に戻る。
けっこう日が落ちてきていたが、それ以外は、あまり変わりがないように見えた。
だが、しばらく見ていると、家から人が出てきて、寺に向かうのがわかる。
どうやら、寺が最終目的地のようだ。
わたしは、見つからないように、そっと寺に近づくことにした。
住民に見つからないように、裏側から回ったためか、どうやら、わたしがたどり着いたときには、みんな集まっているようだった。
そろそろ、こっそりのぞいてみるか、と思ったとき。
夕日に照らされて、はだかにお面をかぶった男女が、寺から出てきた。
思わず、叫びそうになる口を押える。
(はだか!? お面? なにこれ!? いや、これが奇祭なのか?)
彼らは、くつもはかずに、元気よく飛び出していく。
老若男女、よりどりみどりだ。
わたしは、寺のほうへと足を進めた。
寺のほうで音がする。竜生さんだ。
子供たちを、ふとんに寝かせているらしい。
むしろ、あんな短時間で、みんなが寝ていることのほうが不思議だ。
しかし、竜生さんは、ふつうのかっこうのようだ。
こっそりと靴を脱いで、寺の中へあがる。
おそらく、秘仏があるはずだ。
寺の奥、といっても、表からひとつ障子を開けたところに、それはあった。
部屋には、着物が脱ぎ捨てられており、お面の残りが、机の上に載っている。
仏壇があり、扉が開かれている。
これが秘仏か。
わたしは、中を見た。
観音さま、のようだ。
胸が大きく、女性に見える。
そして、全裸だ。
全裸の観音さま。
観音さまが全裸なのだから、わたしも全裸にならなくては。
あれ?
なにかおかしいと思う。
わたしの手が、パーカーを脱ぎ捨てる。
早く脱がなくては。
でも、なんで脱がなきゃいけないんだっけ?
頭の中で疑問が流れ、わたしはホットパンツとパンティを一気におろして、足から引き抜く。
なんで脱ぐかって、そりゃあ、観音さまが脱いでいらっしゃるからに決まっている。
そうだ、なんでそんなこともわからなかったのか。
シャツもブラジャーも脱いで、ニーハイソックスにも別れを告げて、全裸になる。
観音さまをもう一度見る。
美しいお顔だ。
悟りを開いたかのようなお顔。
それにくらべて、わたしの顔のなんと未熟なことか。
悟りを開いていない、欲望にまみれた顔に違いない。
隠さなくては。
わたしは、手近にあったお面を取る。
さて、これから、どこに行くのか。
決まっている、祭事の前には湯あみである。
体を清めなければ。
わたしは、いそいでお風呂屋さんへと向かった。
お風呂屋さん、といっても、そんなに立派なものではない。
ただ、それなりの広さの浴場である。
田舎にしては十分に大きい。
男湯も女湯も、どちらも、男女混合で入っている。
わたしは、手近な男湯に入ることにした。
仮面をつけた男と、仮面をつけた女が、身を清めていた。
ばしゃばしゃとお湯をかける。
すると、後ろから抱きすくめられた。
太めの男の人が、体中をせっけんまみれにしながら、わたしの体を洗ってくれている。
さながら、スポンジのように、自分のからだ全体をわたしの背中にこすりつける。
ああ、これできれいになる。
摩擦のせいで刺激されてしまったのだろう、勃起したおちんちんが背中に当たって、心地よい。
前から、がっしりとした男の人が歩いてきて、おっぱいやおなか、足にせっけんをつけ、こすってくれる。
こすられたせっけんが、泡になり、ヌメヌメ、ヌルヌルと、体の上で伸ばされていく。
筋肉質な男の腕が、わたしの股間をこすりあげる。
生理的に快感を感じてしまい、軽く甘い声をあげる。
それにはお構いなしに、筋肉質な腕が、わたしの腕を取り、せっけんで洗ってくれる。
いつのまにか、後ろから手が伸びてきて、太った男のやわらかい指が、わたしのおっぱいをぐにぐにと形が変わるくらいにもみこんで洗ってくれる。
わたしも、相手を清め返す必要がある。
手にせっけんをつけ、くしゅくしゅと、もみこむ。
せっけんが泡立ち、わたしの手はスポンジになる。
目の前の筋肉質な男の胸板に手をやり、こすっていく。
ぬめりが体全体に広がる。
後ろの男の手は、わたしのお尻をていねいに洗ってくれている。
目の前の男の胸板だけでなく、足も洗う。
後ろの男が、おしりを洗えなくなるといけないので、お尻をつきだしてあげる。
はりだしたお尻を、ていねいにていねいに、円をかき、もみしだくように、太った男が洗ってくれる。
わたしは、目の前の男の、筋肉質な足を、丁寧に洗う。
目の前の男のオチンポも、すっかり勃起している。
わたしは舌なめずりをする。
わたしが足を洗うときに、仮面にぶつかる。
目の穴から、かたくてたくましいオチンポが、泡に濡れているのが見える。
三人で体を流す。
仮面も軽く洗う。
そうして、わたしたちは三人で仲良く湯船に入る。
その間、わたしは、筋肉質な男の胸元や、太った男の太ももを触る。
二人の男も、わたしのおっぱいや、背中、太もも、いろんなところを触ってくれる。
観音さまがきれいな裸であったように、わたしたちもきれいな裸になることができた。
しかし、わたしたちは煩悩のある俗世の人間である。
体の穢れが取れても、心の穢れが取れていない。
だから、心の穢れを取らなくてはならない。
そのために、わたしは男たちの体をまさぐり、男たちはわたしの体をまさぐる。
清いからだにならなくてはならない。
湯船を出て、三人みんなで手ぬぐいを共用して体をふく。
みんなで使うことで、みんながひとつになる。
わたしたちの中に、仲間意識が生まれるのを感じる。
わたしたちが、ひとりひとり別な存在ではなく、きちんとつながっていることを感じる。
お風呂屋さんは旅館なのか公民館なのかわからないが、大きな部屋を持つ屋敷とつながっていた。
そこの大広間では、やわらかい布がたくさんしかれ、その上で、邪気を払う心の清めが行われていた。
みだらな喘ぎ声が響き、女たちと男たちがからみあい、女性自身の中に、男性自身を迎えている。
よこしまな考えをここで捨てさることによって、きよい体と心を手にすることができるのだ。
おじいちゃんやおばあちゃん、おじさんにおばさん、若い男若い女。
年齢関係なく、交わりたいものが自由にまじりあう。
おじいちゃんのような体つきの仮面をつけた男が、立派に勃起した男根を、若い女に挿入している。
甘い声をあげ、幸せそうにそれを受け入れる若い女。
おばあちゃんのような体つきをした女が、若い男に後ろから犯されている。
きっと、孫には絶対に聞かせられないような声やセリフを、恥ずかしげもなく叫んでいる。
これでいいのだ。
わたしは理解する。
ここで出し切ることによって、わたしたちはきれいになれる。
わたしもいつしか、筋肉質な男からペニスを挿入されている。
組み伏せられ、乱暴に、性欲のおもむくままに腰をふる獣のような男の獣欲を、受け止め、搾り取り、清めようと努力する。
そして、先ほどからの刺激で待ちきれなくなっていた、わたしの下の口が、貪欲にえさを貪り食う。
わたしは淫らな声をあげ、卑猥な言葉を口にし、男から精液をしぼりとろうと、必死に腰を振り、わたしの性欲を霧散させようと努力する。
絶頂にこちらがいたる前に、わたしにのしかかっていた男が、腰ふりを止める。
じんわりと熱いものが広がって、わたしの中に、精液が出されているのだとわかる。
精液を出すことで、一時的ではあれ、性欲が収まるはずだ。
一回では収まらなくても、二回、三回やればいい。
筋肉質な男は、ほかの相手を求めて、その場を離れていく。
わたしは、太った男のペニスに指をはわす。
その棒は、ぬめぬめとした液でおおわれていて、わたしが指を離すと、みだらな糸を引いた。
さきほど、わたしが筋肉質な男に犯されている間、わたしのおっぱいをもんでくれた親切にお返しをしよう。
わたしは、彼の前に、後ろむきでよつんばいになり、お尻を高くあげ、くいっくいっと上下に動かす。
しとどに濡れたわたしの肉穴が、きっと期待に膨らんで、黒々とした穴を大きく広げていることだろう。
ひくひくと、いやらしい口元を淫らにゆがませながら、「それ」を食べたくて食べたくて我慢できないのが、彼にも見えるだろう。
獣のような声をあげながら、太った男がわたしを貫く。
姿が見えないため、まるで人間ではないものに犯されているのではないかという考えが、わたしに浮かぶ。
そうだ、きっとわたしを犯しているこれは人間ではないのだ。
ちゃんとした人間に戻って、観音さまに祈りをささげるため、今この男は、人間のどす黒い部分に呑み込まれているのだ。
そしてわたしも、今は人間であることをやめ、獣に堕ちて、わたしの中にある下卑た欲求を解放し、発散している。
わたしも、今まであげたことのない、牝の獣のうなりをあげて、オスの獣に貫かれる悦びを表現する。、
さかりのついた獣のように、わたしたちは交尾し、性の喜びにひたる。
ひときわ大きなうなりをあげて、わたしの中に、交尾汁が出される。
もしかして、しばらく溜めてあったのか、しばらくその勢いがやむことはなく、その勢いにわたし自身も絶頂に上り詰める。
喜びをわかちあい、わたしたちは抱き合う。
そして、自分の欲望を発散させるため、別の生殖相手を求めて、手がすいているものに、それぞれ分かれていく。
知らないだれかと、仮面越しに見つめ合い、そのまま硬く勃起した生殖器を叩きこまれ、絶頂にむせび、射精を受け入れ、欲望を発散する。
それを数回繰り返し、わたしたちは、みんなそれぞれ枯れ果て、きれいに性欲がなくなる。
そして、今度は、歌い、おどりだす。
きれいに欲望が消え、身も心も清められたわたしたちは、観音さまをたたえる歌を歌う。
観音さまをたたえる踊りを踊る。
いや、もうこれは、はだかの観音さまだけの問題ではない。
生きていることが楽しいと歌い、踊り、手に手を取り合う。
みんなと一体感を感じる。
穢れはまたたまっていく、しかし、それでいいのだ。
また洗い流せばいい。
汚れをためて、それを一気に発散する、気持ちよさ。
そして、解放されたすがすがしい気持ちで、はだかの観音さまをわたしたちはたたえる。
はだか。
そう、もう隠すものは何もない。
もう汚れている部分は何もないのだから。
わたしたちは仮面を脱ぎ捨て、みんな笑顔で、踊り狂った。
みんなの素顔が見える。
みんな笑っている。
わたしたちは、ひとつだとわかる。
そして、よろこびをわかちあいながら、布を踊りながらかたづけ、歌いながらふとんをしいて、みんなで手をつないで眠った。
目が覚めたのは夜明けだった。
もう起きている人も何人かいるようだ。
竜生さんが、ちょっと気まずそうな顔で、わたしの前に立っている。
無言で手招きするので、玄関に出ると、そこにはくつがそろっていた。
自分のくつを探して、竜生さんに従って、外に出る。
理性の戻った頭で考えたのは、アフターピルを飲まないと妊娠するかなぁということと、結局、あの祭りは何の意味があるんだろうということ。
それから、あの観音さまはすごいということと、案外楽しかったという気持ちだった。
朝の大気の中を、くつをはいた以外はすっぱだかで戻る。
記憶はばっちり残っている。
ずいぶんみだらに乱れたものだ。
正直、オナニーのネタには、むこう十年、ひょっとしたら一生困らないかもしれない。
さらに、大自然の中ではだかになるのは、とても気持ちがいい。
仮面をつけていたとはいえ、みんなに裸を見られるのも気持ちがよかった。
そんなことを考えていると、いつの間にか寺についていて、観音さまのいた部屋に案内された。
もう、扉は閉まっていて、観音さまは見えない。
「えっと、服がどれかわからなかったんで、とりあえず探してきてください」
「あっ、はーい」
わたしが比較的、明るい声を出したのが意外だったのか、竜生さんはちょっと眉をあげた。
「えっと。まあ、こういう祭りなんで、部外者の人には見せられないんですよね」
「あぁ、たしかに」
わたしは、自分の服を見て、着替えだす。
「僕もよくわからないんですが、この観音さまには不思議な力があるらしくて、これを見ると、みんな裸になって、体を清めて、せ……セックスして、それで歌ったり踊ったりするんです」
セックス、というときに、言葉をつまらせるあたりかわいい。
「一応、なんでそういうことをするのか、理由を聞いてみたこともあるんですけど、どうもみんな覚えていないらしくて。やっている最中は、わかっているらしいんですけど。適当に聞いて、適当にあなたに伝えようとしたら、このありさまですわ」
「えっ? わたし、覚えてますけど、理由」
「えっ?」
竜生さんが驚く。
しかし、納得するように首を振る。
「いや、もしかしたら、これも観音さまのお導きだったのかもしれません。あんまりこの村でパソコン使える人いませんし、ここを出ていっただれかも、村の名前まで載せて話すかどうか疑問でしたから」
「それって、つまり、観音さまがネットに書きこみをしたとでも?」
少々、笑いをふくんで、わたしは聞いた。
「ええ、この祭りの由来というか、意味を、ちゃんとだれかに知ってほしかったのかもしれませんよ」
しかし、竜生さんは、真顔でそう答えた。
「あと、この祭りで妊娠することは、たぶんないはずです……少なくとも、この村では、ないです」
「そうなんですか?」
「結婚している夫婦からしか、この村では、子供は生まれてませんから。未婚の人やセックスレスの人からは、生まれてないんです。まず、間違いないと思います。でも――」
「でも?」
「あなたはいろいろ例外みたいですし……もし、妊娠していたら、僕が責任を取ります」
その生真面目で心配そうな顔に、「こいつ、いいやつだなぁ」なんて思ってしまう。
「まあ、大丈夫だと思います。なんとなく、ですけど。そういう気がします」
「あなたがそういうなら、そうなのかもしれません」
「ところで、責任って、どうとるの?」
わたしの質問に、大真面目で竜生さんは、答える。
「僕と結婚なりなんなりして、もしイヤでしたら、そのまま赤ちゃんはここに置いて、新しい生活をはじめてください」
「ふーん……」
竜生さんと、結婚、かぁ。
「ところで、竜生さんはどうして、仏像を見ても大丈夫なの?」
「坊主ですから」
「は?」
わたしの、ぽかんとした声が面白かったのか、竜生さんは笑った。
「この寺の住職は、観音さまの影響を受けないんですよ。そのかわり、みんなが脱ぎ捨てたくつを持っていかなくちゃならなかったりしますけどね」
そこで、また真面目な顔になって、
「申し訳ないんですが、このことはどうかご内密に……できませんか?」
わたしは、にっこり笑う。
「もちろん、できます。でも――」
「でも?」
竜生さん、不安そうな顔。
わたしが悪い女だったら、あっさりだませちゃいそうだなあ。
「また、遊びに来てもいいですか?」
「え? え、ええ」
わたしの申し出が意外だったのだろう、ちょっと動揺している。
「じゃ、今日のところはこれで。また連絡します」
「はい。きっとバタバタしていたから、部外者がお祭りを楽しんでいたことはわからないと思いますけど、見つからないように気を付けて」
その言葉に送り出され、わたしは帰ってゆく。
「最近、あんた抑え目なファッションになったねぇ」
友だちが、わたしに言う。
最近よく言われることだ。
わたしはあまりそうは思わないけれど。
「えー、そうかなぁ」
「そうだよ。夏だってのに、ロングスカートに黒いTシャツ。地味っていうか、露出が少ないっていうか」
「まあ、ちょっとしたファッションの変化ってやつよ」
「春あたりから変わったけど、なんかあった?」
「なんもない、なんもない」
ひらひらと手を振って、わたしは友人に別れを告げる。
今日は竜生さんに会う日だ。
あのあと、何度か会って、わたしは竜生さんと付き合うことになった。
わたしは、わりと真面目に、あの出会いは、観音さまが授けてくださったものなんじゃないか、と思っている。
でも、観音さまがわたしにくれたんじゃないかと思うものは、もうひとつある。
実は、わたしは、下着をつけていない。
ノーブラ、ノーパンだ。
あの一件以来、下着をつけないで外に出るのが、快感になってしまった。
これは、まだ竜生さんも知らないことだ。
でも、今日はこの、わたしの性癖も、ちゃんと告白しようと思う。
ロングスカートをたくしあげて、何も着けていないことを知ったら、あの人、なんて思うだろう?
そのまま、セックスできるといいなあ、って思う。
だって、まだ一度も彼とはしていない。
きっと、引いたりしないとは思うんだけど。そういう確信がある。
だが、わたしは、たまに考える。
たしかに、わたしが、みんなの前で仮面をつけてはだかになったり、朝にすっぱだかで村を歩いたのは、観音さまのせいだろう。
でも、そのあとは――これは、わたしの単なる性癖なんじゃないか?
それとも、そういう隠された欲望を持った女を、観音さまは見つけたのだろうか。
あのあと、観音さまのうわさを書いたサイトを探したけれど、見つからなかったし、どうも観音さまの手のひらで踊らされているような気がしないでもない。
「ま、どっちでもいいか」
わたしは、とりあえず今、幸せなのだから。
「できたら、竜生さんのところに永久就職できるといいなぁ」
車のキーを回し、アクセルを踏み込んで、わたしは、あの村へとまた戻る。
観音さまのいる、あの村へ。
あとがき
短編で、一人称で、MCなんだけど明るい感じのものを書こうと思って書いた作品です。Hなシーンのときにセリフをなくしてみました。
実在の場所や風習や仏像をモデルにしたわけではなく、似ているものがあったら、それは偶然の一致です。部分的に似ている風習は世界のどこかにありそうだと思いますが…。
あと最後に主人公が目覚めちゃったのは、観音さまのせいじゃなくて、自分自身の問題だ、というのが裏設定です(が、好きなように考えてください、あくまで裏設定なので)。
MCが解けたあとに、その後、MCとは関係なしに、後遺症や影響のようなものが残っている、というのは、個人的にはけっこうエロチックだと思います。
< 終 >