清流女学院MC調教 1

「えー、みなさんの副担任になりました、杉沢裕翔といいます」
 黒板の前で、自己紹介。
 一度、学校の全校生徒の前で自己紹介したから、二度目だ。
 僕は、よく顔の見えないみんなの前で自己紹介するよりも、こんなこじんまりとしたクラスで自己紹介するほうがずっと緊張する。
 僕、こと、杉沢裕翔(すぎさわゆうと)が、この私立清流女学院にやってきたのは、春のことだった。
 おだやかで優しい季節。
 気分が浮き立ってくる。
 ここは、非常勤講師をやとっていない私立なのだけれど、それだけに倍率も高く、まさか自分が採用になるなんて思っていなかった。
 友だちには、「いいよなぁイケメンは」などと言われているが、顔採用ではないと信じたい。
 正直に言えば、顔を褒められることは多かった――が、それだけで採用試験をパスできるほど、学校は甘くないと思う。
 「またまたぁ、同じレベルのやつがいたらイケメンを取るっしょ」なんて訳知り顔で言うやつもいるが、いじめの芽をつむために、特に女子校にはあまり見目麗しい男性は配置しないという話も聞く。
 まあ、しょせん、うわさ話のレベルなのだけど。
 とにかく、僕は受かった以上、精いっぱいがんばるつもりだ。
「はい、それじゃあ、質問のある人はいるかしら」
 上品そうなおばさん――というには、品がありすぎるかもしれないな――が質問を投げかける。
 美人というわけではないけれど、あふれる気品によって、上品に見えているタイプの女の人、これがうちのクラスの担任の、鶇澤(つぐみさわ)先生だ。
 真面目そうな顔に、黒縁の眼鏡。黒いロングスカートに、紫色のブラウス。唯一目立つところといえば、胸の大きさだが、その形よく大きな胸を、僕は見ないようにする。
 この視線を捉えられたら、この学校で生きていけるか、僕は大変に心配である。
 やはり、清流女学院がお嬢様学校であるせいでもあるのだろうか、先生も、上品な人が多いようだ。
 というか、「つぐみさわ」なんて、名前からして上流階級という感じだ。自分の、杉沢という名前が、地味に思えてくる。
 実は、初見では「鶇澤」の漢字が読めなかった。英語の先生だからいいんだ、とは思わない。
「はい、鮎川さん」
 鶇澤先生が、僕の目の前に座っている女子生徒を指名する。
「先生、ごきげんよう。学級委員の、鮎川亞希です。先生は、体力はおありですか?」
 ごきげんようなんて本当に言うのか?
 そう考えたせいか、返答が不自然なほど遅れてしまう。
「え、ええっと、そうですね、まあ、ふつうかな、と思ってます」
「そうですか。ありがとうございます」
 鮎川さん。
 きれいな黒い髪を、肩のあたりまで伸ばしている。
 形のよい、色の濃い眉毛が、弓なりに目の上を覆っていて、セーラー服を着てまっすぐに直立している姿は、「凛とした」という言葉の意味を教えてくれる。
 中肉中背で、まっすぐにこちらを見る姿は、正統派美少女、という言葉を、僕に思い起こさせた。
 あまりにも正々堂々としているので、体力があるか、というあまりされないだろう質問の意味を、深く考えるということすら、僕は考えられなかった。
「はい、先生、はーい!」
 元気よく、教室の後ろから手が上がる。
 体の大きな――たぶん僕より背が高い――女の子が手をゆらゆら揺らしている。
 わりとがっしりした体格で、たぶん胸も大きいのだろうが、その身長と体格でまったく目立たない。
 ややハスキーな声と、高くまとめたポニーテールが、女の子にもてそうだな、なんて幻想を抱かせてしまう。
 あまり上品そうには見えないし勉強もあまりできるようには見えないが、この学校に入っている以上、学力の面では平均以上なのは間違いない。
「じゃあ、井守さん」
「うぃ、井守せつなです。先生って、好みのタイプっています?」
 ひゅう、とか、おおっ、とか、そういうざわつきも一切ない教室。
 それが上品さによるものだとしても、なかなか威圧感のある反応だった。
「えっと、そうですね……正直、特には――来る者拒まず去る者追わずと言ったら、言い過ぎになりますけど、あんまりこだわりはありません」
「えー、じゃあ、あたしみたいな元気いっぱい天真爛漫少女と、鮎川さんみたいな正統派美少女ではどっちが――」
「はい、狐崎さん」
 井守さんの言葉を、ざっくりと無視して、鶇澤先生が、次の子を指名する。
「鮎川さんと同じく、学級委員、といっても副ですけど、を、しています、狐崎(こざき)です。きつねの崎だから、きつねちゃん、って呼ばれてます。先生も、よければ、きつねちゃん、と呼んでください」
 かわいらしい声で、ささやくようにしゃべる少女に対して、僕が思った最初の言葉は、「トランジスタグラマー」だった。
 われながら、古すぎるうえに俗物な単語だな、と思う。
「えっと、先生って、彼女、いえ、恋人がいますか?」
 もし僕が同性愛者だったら、ということを考えると、彼女という言葉はふさわしくない。
 相手がどんな性的傾向を持っていても使える「恋人」という言葉を使うほうが、相手が同性愛者であった場合にも気遣える発言である――ということで発言を変更したのだろうか。
 他の学校だったら、考えすぎだと思うかもしれないが、この学校は、実際に「その程度の知的・教養レベルを持つ人」が入ってくる。
 実際に、今も教卓の上から、英語の本らしきものが教卓に置かれている少女が見える。(ついでにいえば、何語かわからないが、ラテン文字を使っていることからヨーロッパ系の言語であることが推測できるなんらかの外語語で書かれた本を置いている女の子もいる。あれがトルコ語やベトナム語じゃなければいいのだが。そうだったら、僕はこの学校で何を教えればいいのか自信を失うだろう)
 だから、こういうありそうな質問を受けてほっとしたと同時に、言葉の言いかえを瞬時にする、ある種の知性と教養に、僕は少したじろいだ。
 現代でも、このような知的エリート専用に思える教育機関はあるのだな、という驚きと、このレベルの教育になると、もはや私立でしかなしえないかもしれないと思った。
「えっと、いません。少なくとも、この一年は作るつもりもありません。まずは、仕事に一生懸命取り組みたいです。みなさんと一緒に、勉強していきたいと思っています。よろしくお願いします」
 鶇澤先生が、パチパチと拍手をする。
 それに従って、他のみんなからも拍手が起きる。
 これが四月のはじめのこと。

 そして、ゴールデンウィークが始まる少し前。
「いやぁぁぁあぁっ!!!」
 鮎川さんの悲鳴で、僕は、目を覚ます。
 目を、覚ます?
 いや、ここは、どこだ?
 体育館、なのか。
 いや、体育館の倉庫?
 僕は、清流女学院の先生で、名前は杉浦裕翔。英語を教えていて、オカルト研究会の暫定顧問で、今までずっと真面目に仕事をしてきて――。
「どうしたっ、亞希!」
 がんっ、と扉を開けて、井守さんが入ってくる。
「うおっ……!?」
 なんで、そこで絶句するんだろう。
「どしたの、いもりん。あ」
 きつねちゃん(そのころ、すでに僕はそう呼ばされていた)が、ひょっこりと顔を出し、携帯端末で写真を撮る。
「ほら、いもりんも早く。証拠写真」
「合点承知」
 ぽかんとしている僕に対して、井守さんが写真を撮影する。
 どうやら、きつねちゃんは、動画を取っているようだ。
 体育館倉庫。
 はだかの自分。
 スカートとセーラー服を脱がされかけた鮎川さん。
 はだかの自分?
 は?
 なんだ、これ?
「うおおおおおっ!?」
 思わず、大きな声を出す。
「こっ、これ、これはっ、こここれは、ちが、ちがちがちがうんだっ、ちがう」
「何が違うんですか」
 鮎川さんの、冷たい声が響いた。
「レイプしようとしましたよね」
「いや、全然、そんなつもりは、っていうか、あれ、僕は何をして――」
 なんだっけ。
 オカルト研究会。ふと出てきた単語。
 きれいな指。甘い声。だめだ、そんなつもりは。わたしの声が聞こえますか。わたしはあなた。
 顧問になって、オカルト研究会、インセンス、それで、なんか、ふつうの先生をやっていて、あれ、記憶、呪文、魔法の本、女の子たち。
「何をしていたって、レイプしようとしていたんですよね」
 鮎川さんの声で、一瞬のうちに、頭の中を駆け巡った、整理されていない断片的な意識のかけらが、粉々に砕けて、きらきらとどこか心の深いところに消えていく。
 すぐには取り出せないね。無意識のうちに、僕はそう思った。
「警察沙汰ですね」
「証拠写真も映像もあるよー」
 その言葉が、僕を自分の心の中から、心の外へと向かわせる。
 きつねちゃんが、ゆっくりと携帯端末を振る。
「おっと、こいつを壊そうとしたら、あたしが容赦しないぜー?」
 すっ、と井守さんが前に出る。
 そうだ、井守さんは、確か格闘技をやっていたはずだ。
 勝てるわけがない。それくらいには強いはずだ。
「んー、どうする、亞希ちゃん。やっぱり、警察に突き出す?」
 きつねちゃんが、鮎川さんに声をかける。
 警察。逮捕。淫行。全国ニュース。人生の終わり。
 一瞬で、なにもかもがおしまいになるイメージが湧きでてくる。
「そうだね――警察に突き出すべきだろうね――ただし――」
 そう言って、鮎川さんは、僕を見て笑った。
 その笑顔は、僕が見た彼女の笑顔の中で、一番邪悪で――一番、美しいと思った。

 ただし、先生が、わたしの言うこと、なんでも聞いてくれるなら、警察には突き出しません。
 その条件をのむこと以外に、僕に何ができただろう?
「はーい、放送部の井守、スタンバイオーケー。バッチリカメラ回ってまーす」
 鍵のかかった放送室。
 僕は、いすにはだかで座らされている。
 後ろの手は、縄跳びで椅子にがっしりと固定されていて、動かせない。
 どこでこんな結び方を学んだのだろうか。
「はーい、じゃあ、インタビューいってみよー」
 椅子の周りには、三人の女の子。
 カメラを回す井守さん。
 写真を撮っているきつねちゃん。
 そして、僕をただただ見つめる、鮎川さん。
 あのあと、とりあえず家に帰されて、次の日に、もうこれだ。
 きっと、データは安全なところに隠してあるんだろう。
 いくつか手を打ってあるに違いない。それくらいの知恵は回る子たちだ。
 そう、僕には何もできない。
「じゃあ、裕翔先生は、セックスをしたことがありますか?」
 たとえなんでも言うことを聞く、の内容が、このようなものだったとしても、僕に何ができただろう。
 そして、どうして、僕はこんな状況で、ペニスを勃起させているんだろう。
「あ、ありません」
 おお、と歓声があがる。
「つまり、童貞ということですよね?」
 井守さんが、嬉しそうに聞く。
「はい、そうです……」
 ぴくり、とペニスが興奮で震える。
 でも、なんで興奮しているんだろう?
「せんせぇわぁ、もしかして、しばられて興奮しているんですか?」
 あまったるい声で、きつねちゃんが聞く。
「…………」
 びくっ、びくびくっ!
 ペニスが、一度跳ね、二度、三度跳ねる。
「興奮、してるんですよねぇ?」
 きつねちゃんが、甘さの中に、なじるようになぶるように毒をたっぷりとこめた、その声で、僕をからめとる。
「そう、なのかも、しれません……」
 かろうじて、そうです、とは言わない。
「先生は、生徒とセックスしたいって思ってるんですか?」
 鮎川さんが、単刀直入に聞く。
「い、いや、そんなことはないです」
 これには、即座に否定の声が出てきた。
「じゃあ、レイプしようとしたのはどうして?」
「あ、あれは誤解です」
「じゃあ、もうそんなことしない?」
「しません、もちろん!」
「誓える?」
「誓えます!」
 ゆっくりと、甘い香りがたちこめる。
 ふと横を見ると、お香がたかれていた。お香。インセンス。
 そうだ、僕は、これをどこかで見たことがある。
「誓える? 本当に?」
「本当です」
「先生が誓ったら、それは本当のことになるよ」
 そう言って、鮎川さんが何かを唱える。
 それはまるで呪文のようで。
 でも、何を言っているのかわからないその声が、僕の耳の中に入り、脳を犯して、僕をぐずぐずに崩していく。
「先生。わたしたちのパンツを見て、射精しなかったら、許してあげる。その代り、射精したら、先生はわたしたちの奴隷だよ」
「きみたちの、奴隷……」
 なぜだろう。なぜ、奴隷という言葉に、そんなに甘い響きがあるのだろう。
「わかった……」
 気づいたら、僕の声がのどから出ていた。
「それからね、先生。先生は、わたしたちのパンツを見たら、絶対に射精するからね」
 『わたしたちのパンツを見たら、絶対に射精するからね』。
 ナイフが脳に優しく刺さった感覚がして、僕は前をはっきりと向く。
 そこには、三人の女の子たちが、スカートをたくしあげている姿があった。
 僕は、その瞬間に、射精した。
 びゅるっ、びゅるっ、とペニスが跳ねて、精液が高く舞い上がる。
「はい、契約終了だね。じゃ、いくよ。『夜の帳よ巻き上がれ』――さあ、すべてを思い出して」
 そして、僕は、思い出す。

「ここがオカルト研究会の部室?」
「部室ってほど立派なものじゃないんですけどね」
 鮎川さんに言われて、オカルト研究会の顧問めいたことをやることになった。
 とはいっても、実際の部活ではないので、やることなんて何もなくて、ただ部に昇格したときに顧問になってほしいという、ただそれだけの話だったのだけれど。
 それにしても、鮎川さんとオカルトって、そんなに似合っている感じがしない。
「そうだ、先生。先生に、魔法をかけてあげましょうか?」
「魔法?」
 そんなものあるわけないだろうと思う。
「魔法ってどんな魔法?」
「うーん、それは内緒です」
 そう言いながら、鮎川さんが、手際よく動いて、準備をする。
 魔方陣のかかれたマットレスを出して、その↑に椅子を置き、部屋の四方にお香をたいて、そして僕をマットの上の椅子に座らせる。
「さ、じゃあ、この椅子に座ってください」
 とりあえず、言われたとおりに座る。
 ゆっくりとお香のにおいがたちこめてくる。
「先生、お香って英語でなんて言うか、知ってます?」
「ははっ、僕は英語の先生だよ? インセンス、だろ?」
「正解です」
 話しているうちに、だんだんリラックスしてくる。
 ゆっくりと体から力が抜けて、意識がだんだん起きているんだか、眠っているんだか、わからないようになってくる。
「先生、立てます?」
「あ……」
 立とう、とする。
 けれど、うまくいかない。
「あれ……?」
「先生」
 鮎川さんの声が、僕の頭の中に入ってくる。
 僕は、何も考えることができない。
 ただ、鮎川さんの言葉を受け取るだけ。
「先生は、何をする仕事をしているの?」
「学校で……英語を教える仕事を……」
「それだけじゃないよね」
「え……?」
 他に、何かあったっけ?
「思い出して。生徒を幸せにして、喜ばせる仕事でしょう?」
「生徒を、よろこばせる……」
 あー、そうだ、先生は生徒を幸せにして、喜ばせる仕事だ……。
「生徒の喜びは、先生の喜びだよね?」
「生徒の喜びは……先生の喜び……」
 動かない頭は、鮎川さんの言ったことを、スポンジのように吸収する。
 でも、別に違和感はない。
「わたしたちが悦ぶことなら、なんでもしてくれるよね?」
「なんでも……する、よ……」
「じゃあ、先生、ちょっと敬語使ってみて。そうすると、わたしたち『うれしい』から」
「ぁ……うん……」
「はい、だよ? ――うーん、慣習を変えるのはすぐには無理だよね」
「はい……」
「じゃあ、先生は、わたしたちが悦ぶなら、わたしたちの奴隷になってくれる?」
「ど、れい……?」
 よくわからないけど、なぜか「はい」と言えない。
「あー、やっぱりこの段階では無理みたいだなあ。採用試験の結果を見ると、けっこう魔法抵抗は低いみたいだったけど」
 何を言っているのか、よくわからない。
「無意識に言わせるんじゃなくて、意識下で言わせないとダメか……じゃあね、先生。先生は、これから、体育倉庫に行くよ」
「体育倉庫に、行く……」
「うん。一緒に行こうね」
 そして、僕と鮎川さんは、体育倉庫に行く。
 途中で、井守さんときつねちゃんに会ったようだけれど、僕にはよくわからない。
 他の女子生徒たちとすれちがっても、何も言われない。
 体育倉庫の中には、僕と鮎川さん。
「じゃ、先生、服、全部脱いで」
 言われたとおりに、服を全部脱ぐ。
「先生。素敵な体をしているね」
 そういって、僕のペニスを、さわりと撫でる。
「ふふっ。これからが楽しみだよ」
 そう言って、自分も服を軽くずらして、半脱ぎの状態にする。
「じゃあね、先生。先生は、今日の記憶を全部忘れちゃうよ。でも、『夜の帳よ巻き上がれ』ってわたしが言ったら思い出す。じゃあ、わたしが大きな声をあげたら、目を覚ましてね」
 忘れる。
 ――――――あれ、ここは、どこだっけ?
「いやぁぁぁあぁっ!!!」
 鮎川さんの悲鳴で、僕は、目を覚ます。

「鮎川さん、本当に、魔法使いだったの?」
 だらしなく射精したしばられた姿のまま、僕は、三人の女の子たちに言う。
「魔法使いっていうか、魔女、なのかなあ?」
「先生は知らないかもですけどぉ、この女学校って、魔法の勉強ができるんですよぉ」
 きつねちゃんが甘ったるい声で、説明してくれる。
「っていうか、なかなか先生も肝っ玉太いよね。この状況でそれを最初に質問しちゃうとか」
 井守さんが、あきれ半分、感心半分で笑う。
「いや、だって、まるで操られているみたいだったし」
「まるで、じゃなくて、本当にわたしが先生を操っていたんです」
 鮎川さんが、堂々と言い放つ。
「で、でも、そんなこと、どうやって?」
「魔法です。――体験したのに、信じられないんですか?」
 うーん、確かに、あれはパラノーマルって感じだったな。
「もっとも、いくら先生の魔法抵抗力が貧弱だと言っても、人を操るのは高度な魔法なので、記憶を一時間くらい封印するとか、非常に簡単な命令を刺激を与えられない状態で行わせるとか、その程度しかできないんですけどね、最初は」
 最初は、ってなんだ、最初はって。
「これでも、わたしたちがんばったんだよ? 先生の髪の毛を拾ったりとか、インセンスを用意したりとか、魔方陣を描いたりとか……それでもあの程度しか使えないなんて、しょぼすぎだよぉ。やっぱりわたしは、ビデオとかでガンガン脅迫するほうが好きだなぁ」
 きつねちゃん、かわいい声をしているが、言っていることは外道の極みだった。
「ちょっと、それじゃあ、魔法の練習にならないだろうが! あ、そういえば先生、あたしの『錯覚』の魔法、効いた? 絶対に自分が勝てないくらいに格闘技を修めているって、錯覚というか、印象を与える魔法なんだけど」
「あ、言われてみれば……」
 井守さんが格闘技を習っているなんて知らなかったし、そうか、あれは錯覚だったのか。
「ま、実際、格闘技習ってるし、たぶん先生じゃあたしに勝てないんだけどね」
「…………ハッタリの魔法じゃなくて、本当なの?」
「ふつうはハッタリに使うけど、あたしたちまだまだ見習いだからね。破られても問題ない程度の錯覚しか与えてないよ」
 そっか。
「え、それじゃあ、さっきの奴隷宣言は?」
「あれは、簡易的な服従魔法かな」
 簡易的?
 ふと、思いついて立ち上がる。
 これ、このまま突進したら逃げ出せるんじゃないか?
「座って」
 座らない。
 鮎川さんのその命令は、僕には効かなかった。
 ほら! やっぱり魔法は効いてないんだ! インセンスも、もう消えてるし、簡易的な服従魔法じゃ、なんでも命令を効かせるわけにはいかないんだ!
 ふぅ、とため息をつくと、鮎川さんは、スカートをたくしあげた。
 パンツが見えた瞬間、僕のペニスは、ギンギンに勃起する。
 見ているだけで射精しそうなくらいに――。
「先生、さすがにそのおちんちんで逃げるのは、やばいんじゃないですか?」
 鮎川さんが冷静にいう。
「わたしが先生にかけた魔法は、なんでも命令を聞いてもらえる魔法じゃないんですけど――性欲程度なら、操れるんですよ?」
 さっき、パンツを見たら射精する、と言ったあの命令が、まだ効いているわけか。
 鮎川さんがスカートを下したけれど、まだ僕のペニスは、硬さを保っていた。
「っていうか、先生、わたしたちがビデオ持っているんだから逃げても無駄だよー」
 きつねちゃんがひらひらと手を振る。
「やっぱ、魔法とか呪いってまどろっこしいんだよね。相手に害を与えるときも、ぶんなぐったほうが早い。だから、呪いを使うのは弱者だけ。でもね――弱者には弱者の凶器ってものがあるし、それはちゃんと、殴るのとは違った方法で、害をなすことができるんだよ? 一週間あれば、先生を大通りの真ん中で全裸オナニーさせて社会的に破滅させることだってできちゃうんだから」
 きつねちゃんの甘くて冷たい声が、僕の抵抗する気持ちをへし折る。
「だいじょーぶ。心配すんなって。あたしたち、悪いようにはしないからサ」
 井守さんが、後ろから肩をがっちりとつかんで、そう言う。
 ふりほどいて逃げることはできそうにない。
 そして、鮎川さんが、下から僕を見上げるようにして、かわいらしくこう言った。
「心配しないで、先生。たーっぷり、かわいがって、みんなの前で変態なことして喜ぶマゾに変えてあげるから。よかったね、彼女もいなくて? 彼女がいたら、きっと満足できなくなっちゃってたよ? わたしたちにご奉仕するのが大好きな性奴隷に調教してあげる」

「はい、それでは、朝のホームルームをはじめたいと思います」
 僕は、全裸で、朝の教壇に立っている。僕以外の人は、みんな服を着ている。
 進行を務めるのは、鶇澤先生だ。
「さて、みんな元気ですか?」
 そう言いながら、鶇澤先生の手が、僕のペニスに伸びる。
「体調の悪い人は、きちんと連絡してくださいね」
 そう言いながら、ゆっくりと鶇澤先生が僕のペニスをしごきあげる。
「はい、だれもいないようなので、今日の授業に入ります。今日は、男性を魔法で操るということについて」
 軽く、僕のペニスをちょんちょん、とつついて、鶇澤先生は、生徒たちの方を向く。
「さて、このクラスでは、鮎川さん、井守さん、そして狐崎さんのおかげで、無事、新しい男の先生を魔法にかけることができました。先生も監督していましたが、大変よい手際だったと思います」
 ぱちぱちぱち、と拍手が起こる。
「さて、みなさんも採用試験に参加してもらったと思うけれど、裕翔先生は、イケメンだし、体もがっちりしてるわよねぇ。先生も、ずっと食べちゃいたくてうずうずしてます」
 フライングはしないでくださいねー、などと笑い声が飛ぶ。
 僕は、地味で落ち着いて上品な感じの先生から、そんな言葉が飛び出たことに興奮して、ペニスを大きく跳ね上げてしまう。
 それを見て、鶇澤先生が、ちろりと舌を出す。上品な仮面の下にかくれた、獣の本性を見た気がするが、それもまた、今の僕には興奮を与えるスパイスにしかならない。
 はたして、これが僕の本当の性欲なのか、それともだれかに魔法にかけられてのことなのか、僕にはよくわからないのだ。
 あれから、たぶんそんなには経っていないはずだけれど、記憶が封印されているのか、状況がよくつかめない。
 ただ、どうやら、僕はアパートを引き払って、この学院付属の寮で暮らしているのは確かなようだ――ということは、二十四時間監視されているということだ。
「はいはい、わかってますよ。フライングはしません。さて、さっそくですから、みなさんに経過報告をしてください」
「はい」
 そう言って、鮎川さんが立ち上がって、教壇の僕の隣に来る。
「ご覧のとおり、先生を裸にしているわけですが、言うことをなんでも聞かせられるというわけではありません。でも、性欲をある程度支配することはできています」
 具体的にはどういうことができるんですか?と声が飛ぶ。
「はい。まず、この学校の女の先生と女子生徒に命令されると、性的に興奮するようになっています。また、女の子たちの目の前で裸をさらすことや注目されること、恥ずかしいと感じることに性的な快感を覚えるようにしました。ほら、見てください。ここにすっぱだかで立っている先生のおちんちんは、ギンギンに勃起していますよね?」
 ほんとだー、それって露出狂ってことですかー?、おちんちんかわいいー、ハメたーい、などの感想が飛ぶ。
 恥ずかしさで顔が真っ赤になるが、その恥ずかしさに比例するように、ペニスがぐんぐん屹立する。
「それに近いですね。でも、自分から見せたがるというよりは、見せた場合に快感を強制的に感じるということです。あと、屈辱的な言葉をかけられても、興奮しますよ。ね、マゾ奴隷の裕翔先生?」
 そう言って、すっ、とかすめるようにペニスを触る。
 それだけで、僕は射精しそうになってしまう。
「ふふっ、みんな見えますか?」
 そう言って、鮎川さんは、指と指をくっつけて、離す。
 指と指の間に、粘液の糸の橋がかかる。
「我慢汁、ですね。わたしの魔法で、すっかり興奮しちゃったみたいで、はしたない先走り汁をよだれみたいにたらしていますね。あっ、今のセリフ興奮しちゃいました? 床に我慢汁こぼれちゃいましたね」
 そう言って、ビーカーを取り出して、僕のペニスの先端へとかざす鮎川さん。
「今日の生物の授業では、先生の精子を見てみましょうね。じゃ、お願いします――射精しなさい、マゾの裕翔先生」
 なんだ、と思う間もなく、全員が起立した。
 ばっ、とクラス全員のスカートがたくしあげられ、みんなの下着が丸見えになる。
 どぴゅるるるるるるる!!
 今までの人生で一番の快感――みんなの前ではだかになっている快感、辱めを受けているという快感、注目されている快感、命令された快感、そして射精の快楽が、僕を襲う。
「あはっ、忘れてました? パンツ見せたら射精するって。楽しかったでしょ?」
 そう僕に言って、ビーカーの中にたっぷりと精液を流し込み、みんなに見せるように鮎川さんはかかげる。
「さあ! クラスのみんなで、先生をおもちゃにしましょう!」
 割れんばかりの歓声と拍手の中で、僕はおもちゃあつかいされた興奮から、またペニスを大きくさせるのだった。

あとがき
 「魔女のゲーム」では、登場人物の苗字と名前が、同じひらがなで始まるという規則性があります。この命名法は、フリーゲーム「小此木鶯太郎の事件簿」(倒叙もので読者への挑戦があり、推理物好きな方はぜひ!)からインスピレーションを得ました。今回も規則的につけてあります。
 今回の命名規則は、生き物です。先生が鳥類、生徒が魚類、両生類、哺乳類となっております。主人公だけ規則なしです。
 これで一区切りつけてますが、もしかしたら続くかも。……続かないかも。
 女性主導のものを書きたいと思って書いたのですが、思うように書けませんでした。でも、女性から男性へのMCは見たいのにあまりないので、自分で書けたのはよかったです。

< 終わり >

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