インターミッション
「裕翔先生、おはようございます」
僕が、学院の中を歩いていると、みんなが口ぐちに声をかけてくる。
「ああ、おはよう」
女の子が声をかける。
別のクラスの人だが、僕も顔を覚えてきた。
「おはようございます、先生」
「おはよう、鮎川さん」
「おはよっ、せんせ」
「おはよう、井守さん」
やっぱり、自分のクラスの女の子たちに会うと恥ずかしい。
どうしようもないほどはしたない気持ちが、僕の背中をはい回っていく。
自分のクラスの女の子たちに見られるのは、やっぱり、他の子に見られるのとは、ずいぶん違う。
「おはようございます、裕翔先生」
「あ、おはよう、こざ……きつねちゃん」
狐崎(こざき)と言いそうになると、きゅっと目が細くなる。
きつねちゃんと言わないといけないのだが、今でもつい間違えてしまう。
「裕翔先生って、変態ですね」
「え、ええっ!?」
急に何を言うんだろう。
「だって、そうじゃないですか? さっき、他のクラスの子たちと話していたときは、なんともなかったのに」
そう言って、僕の下半身を、無遠慮に指さす。
「亞希ちゃんとせつなちゃんに挨拶されて、ほら? 元気になっちゃってますよ?」
僕のペニスが、勃起して、元気よく上を向いていることを指摘される。
周りで、クスクスと笑い声が起こる。
その笑い声さえ、今の僕には、ペニスをさらに大きくさせる理由にしかならない。
「先生、わかってると思いますけど、今は魔法使ってないんですよ。でも、生徒の女の子たちに笑われて勃っちゃうなんて。最高です――」
鮎川さんが、どこか熱にうかされたように言う。
彼女の手が、僕の胸板に触る。
「こんなに興奮してもらえるなんて、やっぱり正解でした――。早めに、全裸生活してもらうのは」
そう。
僕は、何も着ていなかった。
制服をきっちり着こなす女の子たちの間で、僕だけが全裸だった。
朝、今日起きると、僕は、服を着れないことに気づいた。
すごくがんばったのだけど、どうしても服を着れない。
これは、また生徒のみんなに何かされたのだと思った。
正直、学院内の宿舎だとはいえ、これで出勤するのはまずいと思い、部屋に閉じこもっておくつもりだったのだ。
だが、「どうしても行きたくなってしまった」。
行かなければならないという義務感。
それに駆られて、僕は部屋を出て、学院に行くことにしたのだ。
「あらあら、ちゃんと魔法の効果が出たみたいで、よかったわ」
僕が教室に、全裸で入ると、鶇澤先生が、にこにこ笑いながら迎えてくれた。
じゃあ、これは鶇澤先生の仕業か。
「さすがに、ここまでの義務感の強制は、教官クラスじゃないときついですからね」
僕の疑問を見越したように、鮎川さんが言う。
なんとなくだが、誘導に近いことは、学生の魔法でもできるが、意志に反した強制までいくと、先生レベルの魔法になるらしい。
これが正しいのか確証はないが、経験則だと、そういうことだ。
「あ、裕翔先生だ。ほらっ!」
他の学年の生徒が、あっという間に、ぴらっ、とスカートをめくる。
きれいで上品なレースのパンティが、僕の目に、くっきりと映る。
「あれ?」
「パンツを見せたら射精するという暗示は、もう消してあります」
「え、えええっ!? ……きゃあっ!!!」
かわいらしい声を出して、その子は教室を飛び出していってしまう。
それなら最初から見せなければいいのに……。
見せ損はいやだということだろうか。
僕は、こんな学院の生徒でも、かわいらしいところがあることに、どこかほっとした。
結局、僕はアパートを引き払って、学院の寮で暮らしている。
生徒が住む寮も、先生が住む寮もあって、おそらく僕はある種の監視か拘束のもとにあるのだろうけれど、僕にはよくわからない。
逃げて告発するということも、最初は考えたし、今でも考えている。
でも―――
「じゃ、今日の日課、いってみよー!」
井守さんが、元気よく言うと、今日の日直の女の子が、僕の前に出てくる。
「お、おはようございます……」
「お、おはよう……」
緊張して、顔を赤くしている女の子に、こっちも緊張してしまう。
僕は、毎日、この学院の女性に射精させられている。
自分でオナニーしようとしてもダメなのだ。
この学院の女の人じゃないと、射精することができない。
まるで、魔法の貞操帯をつけられて、射精管理されているみたいだ。
その魔法の貞操帯を外すカギを持っているのは、この学院の女の人だけ。
無意識のうちに、この人たちに逆らってはいけないという意識が、上下関係が埋め込まれていくようで、怖い。
怖いのだけど、それはどこか甘さをともなった恐怖で、このまま堕ちていってもいいかな、と思う自分がいる。
「じゃ、いきますね、先生」
ゆっくりと、ぎこちない手つきで、僕のペニスがしごかれる。
「あっ……」
思わず、声が出てしまう。
「先生、かわいい……」
先ほどまで、緊張して赤みを帯びていた彼女の顔に、いたずらっぽい笑顔が浮かぶ。
そのまま、体を密着させる。
僕の足に、彼女のスカート。
僕の胸板に、彼女のブラウスが当たる。
それだけではない。
ブラウスの奥。
脈打つ心臓と、それを覆っている胸が、やわらかく僕に当たっている。
「せんせい……やらしいです……」
顔を赤くしながら、僕のペニスをしごいている手を見せる。
そこは、我慢汁でぬらぬらと濡れて、くちゅくちゅと粘液と性器がたてる音を発していた。
「興奮……してるんですか?」
若い女の子特有の生命力あふれるにおいと、シャンプーか香水だかの甘い香りが混ざって、僕の理性を溶かしていく。
「あっ、すごい、またおっきくなったぁ……」
すっ、とビンを取り出して、僕のペニスの先端にあてがう。
「いいですよ。たっくさん、出してくださいね」
頭を動かしたせいで、髪が僕の顔に当たって、甘い香りが広がった。
「うっ……あぁ」
びゅるるっ、と音が聞こえるかのように、精液が勢いよく射出される。
ビンの中に、どろりとした精液が、採取されてゆく。
「えへへ。ありがとうございます」
ビンに入れた精液をもって、彼女が嬉しそうに笑った。
一体、あの精液は、何に使われるのだろう。
また、何かの魔法に使われるんじゃないだろうか……。
「先生」
「ん、なにかな?」
「そろそろホームルーム、朝の会ですよ」
「あ、ああ、そうか」
僕は、あわてて、教卓のところに立つ。
「起立」
号令で、みんなが立つ。
「おはようございます」
「おはようございます!」
声がしたあとで、着席、という言葉が続くはずだった。
だが、みんなは立ったままで、ぱんっ、と大きく手を打ち鳴らして、何かを言った。
「おお! ちゃんと効いてる!」
井守せつなが、うれしそうに、ぺしぺしと裕翔の体を叩く。
「よしっ、じゃあ、あたしの錯覚魔法で、服を着ていないことを認識できないようにしよう」
「それだけじゃ面白くないから、勃起していることも自覚できないようにしようよ」
「おお、ナイスアイデア。ほかに何かアイデアある?」
「嘘をつけないようにするっていうのは?」
「面白そうだな。そういうの、亞希は得意だろ?」
「まぁね」
「じゃ、頼むわ」
「うふふ、面白そうね。じゃ、がんばってね」
鷺澤先生が出ていってしばらくすると、もう一度、クラスにばちん、という大きな音が響いた。
「ええっと」
あれ、なんだっけ。
確か、ホームルームの途中で……。
「先生、先生って、スクール水着って好きですか?」
「え、うん、好きだよ」
あれ?
僕は、こんなことを言うつもりじゃなかったのに。
てきとうにごまかそうと思ったのに、つい答えが出てしまった。
「そうですか~、よかったです」
よく見ると、きつねちゃんがスクール水着を着ている。
トランジスタグラマーな体に、ぴっちりとした生地が張り付いて、大きな胸を強調している。
「先生、えっちです」
「ええっ!? なんでさ?」
鮎川さんの突然の言葉に、僕は動揺する。
彼女の視線――たぶん下半身のどこかに向けられている――を追ってみるが、そこには何もない。
「あの、鮎川さん、何か?」
「いえ、なんでもありません」
なぜか、笑いをこらえるような声で、鮎川さんはそう言った。
「っていうか、先生は、きつねちゃんのスクール水着姿に興奮しているのか、それともあのエロい体に興奮しているのか、あたしは知りたいな」
「どっちも」
ぽろっ、とまた、答えがこぼれ出てしまう。
「うわぁ、せんせぇこわ~い。きつねちゃん犯されちゃう~♪」
全然こわそうに思えない声で、きつねちゃんが笑う。
だが、実際、まんざらでもなさそうだった。
「もう、先生、ますます興奮してるんですね」
「なんでわかるんだ?」
「あら、興奮してるのは否定しないんですね?」
「え、あ、それは……」
まただ。
つい、思ったことがすぐに口に出てしまう。
そういう性格じゃないはずなんだが……ということは、これも魔法か?
「ま、そろそろいいかな。みんなー、解除しちゃおっか」
みんなが、一斉に手を叩く。
すると、自分がはだかであったこと、自分のペニスが勃起していることを自覚する。
「あっ、君たちっ……」
僕は、顔を赤らめる。
「あはは、おちんちん勃起させてるのに、興奮してないなんて思うやつはいないよー」
「で、でも、勃起していても、興奮しているとは限らないんだよ?」
「ま、それはそうかもだけど、明らかにそれはねぇ?」
井守さんの元気のよい言葉に、あっさり論破されてしまう。
「あら? みんな、魔法は解いてしまったの?」
「あ、はい」
鶇澤先生が帰ってきた。
鮎川さんの答えに、少しだけ首をひねる。
「まあ、みんなでがんばって暗示をかけても、そんなに長くはもたないし、それは悪くないけれど――」
そう言って、壁の時間割りを見る。
「あら、次の時間は保健じゃない。ちょうどいいわ、これで終わるのもイヤでしょう?」
「鶇澤先生っ……」
「ふふっ、裕翔くん、かわいい」
赤いルージュがひかれたくちびるから、てろてろと濡れた舌が見える。
「はい、みなさん、よーく見てくださいね。裕翔くん、気を付け」
気を付け、は、「きょーつけ」と聞こえる。
僕は、なすすべもなく、びしっと腕を体の横につけて、直立不動の体勢になる。
やはり先生だからだろうか。
威圧感というか、支配力が全然違う。
「はい、これがおちんちんです。いいのよ、机から立って、もっと近くで見ても」
その言葉に従って、女の子たちが前の方に集まる。
「ちょっと、頭さげてよー、見えないー」
「うわぁ、まじまじと見たのはじめてだけど、こんな感じかぁ」
「きんたまかわいー」
「たまに毛が生えているんだね」
「いつも勃起してたの見てたけど、ちっちゃいのもいいなー」
彼女たちの遠慮ないコメントに、興奮してしまう。
まるで、自分が一種のモルモットになったみたいで。
女の子に、いいように扱われる、おもちゃになったみたいで。
それが、ぞくぞくするほど、うれしく感じてしまう。
もしかして、僕、マゾなのかな?
「ふふっ、先生も、ちっちゃいおちんちんは、かわいくて好きよ。触るのも大好き」
ふにふに、と、鶇澤先生が、僕のペニスを触る。
指輪が、ペニスを刺激して、心地よい。
「あらあら、勃起してきましたね。はい、では、この先端部分が、亀頭です」
そういって、敏感な先端を、ついっ、となであげる。
「ここが鈴口。鈴に似てるでしょう?」
似てるー、ほんとだー、と言った声が響く。
「これが裏筋で……ここを刺激するとよろこぶ人も多いの……はい、それでこの垂れてきているのが、みなさんご存じ、我慢汁です」
ねっとりとした液を、鶇澤先生は、自分の口に含む。
それは、とても卑猥な光景だった。
「うん、おいし。いい味ね……さて、それじゃあ、今からセックスをしますので、みなさんもよく見てお手本に―――」
その言葉がだされた瞬間、
「ちょっと待ってくださいよ、先生は童貞なんですよ!」
「勝手に先生が奪うなんて許さない!!}
「公平に決めるべきだよ、ぬけがけは駄目!!!」
ものすごい勢いでブーイングが飛んで、さすがの先生も目を白黒させてしまう。
「わ、わかりました、わかりましたから、落ち着いて!}
がくっ、と僕もバランスを崩してしまう。
どうやら、先生の動揺は、魔法を解除するくらいには大きかったようだ。
あるいは、魔法がデリケートなものなので、ちょっとした刺激で解除されるものなのかもしれないが。
「ええ、それでは、今日の保険体育で先生を使うのは、ここまでにします、以上!」
そう言って、鶇澤先生は、指輪のついた手で、僕の頭をなでると、そのまま僕を職員室へと行かせた。
――――結局、僕は、その日一日、ずっと全裸で過ごすことになった。
夜。
目を開けると、鶇澤先生が、僕の体の上に乗っていた。
体を動かそうとしても、体が動かない。
金縛りにあったようだ。
「うふふっ、どう? 体が動かせないまま、犯されちゃうっていうのは?」
黒縁の眼鏡のむこうで、卑猥な期待によろこんだ目が笑っている。
「うふふっ、もうバッキバキじゃない」
ぽろんっ、とペニスが飛び出してくる。
僕には、どうすることもできない。
「どう? 見えるかしら? おばさんおまんこ、ぐちょぐちょよ? 君みたいな、若くてかわいいオスの精子を欲しがってるの」
くちゅ、と僕のペニスの先端と、鶇澤先生の淫口が、キスをする。
「じゃ、入れるわよ――」
ねっとりと、熱い肉につつみこまれる。
それだけで、僕は絶頂に向かいそうになる。
「んんっ、いいっ、かたいわぁっ!!」
体の上で、ぬぷぬぷと跳ねながら、鶇澤先生は、快感をむさぼる。
「心配しなくていいのよ……思いっきり中出しして、先生を孕ませて」
ゆっくりと顔が近づいてくる。
品のある顔が、淫らな欲望で濡れ、しわの一本一本が、変態的な視覚快楽を与える。
「キス――しちゃうわよ」
ぐちゅり。
すでに、鶇澤先生の口の中にためこまれていた唾液が、僕の中へと流し込まれる。
それはまるで媚薬のように体をめぐり、僕を絶頂へと導いていく。
「んじゅっ、じゅっ、じゅるるっ、じゅぷっ!」
キスのいやらしい音とともに、僕の快感は、あっさり限界に達した。
「う、うぁああっ!」
「んんっ、来てるっ! 新鮮なザーメン来てるぅっ!!」
僕の体の上で、鶇澤先生も体を震わせたあとに、ゆっくりと体を起こし、ペニスを抜く。
ぼとり、と精液が、鶇澤先生の生殖器と僕の生殖器とを結んだ。
「ふふっ、ごちそうさまでした」
目が覚めると、朝だった。
パンツを見ると、夢精をしている。
夢精?
先生の中に出したはずならば、パンツの中に精液があるはずがない。
ということは、あの夢はきっと、魔法の一種だ。
そういえば、指輪で頭をなでられたような……あれかな。
ふと、時計を見る。
時間はたっぷりある。
僕は、これからの調教生活を思った。
はじめは、いやな気持ちもあった生活を思うと、ペニスが一人でたっていくのがわかる。
僕は、そのことは考えないようにして、服を着て学校へ向かった。
< 終わり >