僕の彼女はメスメリスト 1

 学園に入って、ムカついたことのひとつは、かわいい同級生を、上級生がかっさらってしまうことだ。
 気になっている子を勝手に取っていってしまう、それってずるくない?
 要するに、僕も、取られてしまったのだ、好きな子を、上級生に。あーあ。

「ふさぎこんでいるじゃないか、鳩山くん」

 妖しい風貌の女が声をかけてくる。
 っていうか上級生だけど。
 うちのサークルの先輩だけど。
 烏丸あきら先輩。
 細い糸のような目をした、不健康そうに白い肌の女。
 ぞっとするほど黒い髪。学園にいる女の子はけっこう染めているが、この人は脱色をしていない。
 声だけは妙に色気があるけど、そのギャップが萌えると言う人には、会ったことがない。
 どの子ががわいいと思う?
 なんて質問を男だけでしたら、名前も出ずに終わるようなタイプだ。
 まあ、悪い人ではないんだけど。

「告白する前に恋が散ったか」

 悪い人ではないんだけど、察しがよすぎる人は嫌いだ。
 僕は何も言わずに、顔を机に伏せた。

「一つ、聞いていいかな」
「なんすか」
「しんどい?」
「しんどくないように見えます?」
「悪かったよ。実は――ちょっとした、ストレス解消法があるんだが」

 僕は、その言葉に、顔をあげた。
 話を聞いて、そのうさんくささに、僕は警戒する。
 が、この人がうさんくさいのは今にはじまったことじゃない。
 それに、昔いろいろあったのだけど、この人は、僕の知っている中でも、信頼度だけでいったらかなり上位に位置する人だ。
 まあ、試してみても悪くないかな、という気持ちで、僕は先輩の言う、「メスメリズム」とやらに頼って、ストレスを解消してみることにした。

 くっそやべえ。
 僕は、先輩の部屋に来たことをはやくも後悔しはじめる。
 メスメリズム(催眠術の祖先のようなものらしい)によるストレス解消法なんてわけのわからない得体のしれないものにすがってでも、このしんどい気持ちをなんとかしたかった。
 それは本当だ。
 しかし、うーん。
 はじめて先輩の部屋に入ったけれど。
 僕の目の前には、黒一色で統一された部屋があった。
 ベッドシーツも黒、というのが、こんなにインパクトがあり、威圧感をかもしだすものだとは知らなかったな。
 知りたくもなかったが。

「じゃ、前に座って。わたしの前に。うん、ベッドの上でいい」
「は、はい」

 ベッドの前に先輩が立っているものだから、ベッドの上に座らざるを得ない。

「じゃ、いくよ。わたしの手から、動物磁気が出るから、それを感じて」

 どうやら、先輩の説明によると、手からなにかエネルギーのようなものが出て、相手をいやすらしい。
 そのエネルギーを、動物磁気、というらしいのだ。
 オルゴンや、エーテルやフロギストンとおなじにおいを感じるぜ。

「お香もたくね。眠たくなったら、寝ていいよ」

 僕は目を閉じる。
 最初は、なにごとも起こらない。
 部屋の中で、音楽が小さく聞こえる。
 なにかつけたのかな。
 なにか甘いにおいもする。
 お香?
 そっ、と先輩の手が、僕のまぶたにふれる。

「目を開けないでね。リラックスして。わたしの言葉を聞いて」
「わかる? 眉間にじりじりとした感覚があるでしょう?」

 眉間に指先をつきつけたような、あの感じがしてくる。

「エネルギーがだんだん拡散していくよ。顔全体に広がってる」

 僕の顔をつつむように、エネルギーが広がっていく。

「肩にだんだんおりていくよ。あったかいものにつつまれているね」

 肩、肩にあったかい、膜のような、磁気のようなものが降りてくる。
 じょじょにそれは下におりていく。

「そう、心臓のあたりまで来たよ――腰のところまで、ゆっくり行くね。ゆーっくりおりていくの、感じてね」

 ゆっくり、ゆっくり、何かが僕をおおっていくのを感じる。
 もう、腰までつかってしまった。

「右腕、いくよ。ゆっくりゆっくり。そう、いいね。指先まではいっちゃうよ。はい、右腕終わり。左腕もいくね」
「うん、ひじを通って、そう、手首まで来たよ。そしたら指先だね」

 僕には、はっきりとエネルギーが感じられるまでになった。
 体に力が入らず、軽く揺れる。

「はい、じゃあ、ベッドによこになって。そう、足のほうも降ろすよ」

 足の先まで、ゆっくりゆっくり、エネルギーが降りていく。
 そして、足先までエネルギーが降りてくると、

「はい、全部、動物磁気につつまれました。あなたは、だんだん、心臓がおちついてきます」

 リラックスした気分だ。

「体中から余計な力が抜けます」

 あー、なんだか眠たくなってきたな。

「とても気持ちのいい気分で、横になります。眠たくなったら寝てください。起きたら、とてもすっきりした気分で目が覚めます」

 僕は、おだやかな気持ちにつつまれる。

「あ、起きた?」

 目が覚めると、先輩が、僕に飲み物を出してくれる。
 ひどく甘い紅茶だ。

「リラックス、できたかな?」
「ええ、まあ」

 ええ、まあ。
 なんていったけど、すごく体が軽くなった気分だ。

「なんつーか、よかったですよ」
「そりゃ、どうも」

 気が向いたら、いつでもやるよ。
 そう言って、その日は別れた。

 あれから、一週間のあいだ、ずっと僕は先輩にメスメリズムの治療というか、リラックス療法を受けている。
 やっぱり、リラックスできるっていうのは、すばらしい。

「そういえば、先輩。メスメリズムって僕も調べてみたんですけど」

 何度目かのセッションのあと、そう切り出す。
 実は、やってみたいことがあったのだ。

「催眠術の始祖みたいなものらしいじゃないですか。なんでも、やっている最中に透視能力のようなものまで発生したとかしないとか」

 いったい、何がいいたいのか、というような顔で、先輩がこっちを見る。

「その、催眠術、みたいなことができるんだったらですね……一度でいいんで、先輩を、好きな女の子に見える? ようにしてもらえませんかね?」

 あ、まずったかな。
 と思った。
 なんだか、一瞬だけど、雰囲気が、ぞっと冷えたような感じがしたのだ。
 だけれど、すぐに、おだやかな顔に戻る。

「絶対後悔すると思うよ?」

 おだやかな顔で、おだやかじゃないことを言われると、けっこう怖いものがあるんだな。

「後悔、しますかね」
「するね」
「それでもやりたいって言ったら?」
「覚悟はある? と聞く」
「覚悟?」
「君が傷つく覚悟を。あるいは、わたしにそんなことをさせる覚悟を」

 いつもの僕なら、断っていたように思う。
 でも、子どものころから好きで、十年以上も好きだった相手が、ぽっと出の先輩に取られて、いつもと同じ行動がとれるだろうか?
 そのときの僕には無理だった。

「リスクは――負うつもりです」
「ずいぶん簡単に言ってくれるじゃないか。下手したら、一生、わたしの顔がその女の子に見えるかもよ」
「それでも、いいです」
「君はいいかもしれないが、わたしは不愉快だね。まあ、いい」

 すっ、と手を僕の前に差し出す。
 どぷっ、と体に何かが流れ込んでくる感じがする。
 あれっ。こんな感覚、はじめてだ。
 一気に、ぐいっと持っていかれる感覚――。

「最初にはじめたのもわたしだし、そこまで言うなら、いけるところまでいってあげよう」

 どぷっ、どぽっ、と自分の体に動物磁気が満たされるのを感じながら、僕は思い出していた。
 メスメリズムの実験のときには、現代科学では解明できないようなことが何度も起きていたらしいということを。
 ブレイド催眠として近代化される前のその技術には、現行の物理法則を超越するような話題がつきものだったことを―――。

「ぁ――え、た、小鳥遊さん!?」
 
 ぎょっとする。
 僕が意識を取り戻したときには、目の前に小鳥遊小鳥ちゃんがいたのだ!

「違う、私だ」
「うおおおお、なんか変な感じだ!」

 声まで違って聞こえるのに、口調が先輩じゃないか!

「な、なんか声まで違って聞こえる!!」
「ねえ、空くん?」

 そら、なんて名前で呼ばれて動揺してしまう。

「う、うん!?」
「好き」
「―――!!!」

 かああっ、とほっぺたが赤くなる。

「う・そ・だ・よ」

 そう言って、くるっと回る。
 だめだ、これは先輩なんだ!
 そう思っても、顔がにやけるのが止められない。

「うーん、幸せな顔でにやけるのを見るのは悪くないけど、私の顔じゃなくて別の人間の顔みて、そんな顔してるんだもんなあ。立つ瀬なーし」
「でも、だって、すっごくかわいいんですもん」
「だから、それ、私の顔じゃねーから」

 むっ、とした顔で僕をにらみつける。
 それもまたかわいい。

「えーい、ちょっと意地悪してやる」

 くいっ、と指を上にやる。

「立って」

 僕の体が、勝手に立ってしまう。

「ちょ、え?」

 僕はおどろく。

「ふふっ。リスクは負うって言ったよなあ?」

 くすくすと笑いながら、なまめかしい笑みを浮かべる。

「これで、君の体は、私のものだ。もう、自由に動くことはできないよ? 君は、私の支配下にある」

 そこで、僕は、致命的なミスを犯す。
 いや、犯すつもりがなかったミスなのだから、この言い方はおかしいかもしれない。
 僕は、先輩のその言葉に興奮してしまったのだ。
 ずっと好きだった女の子に、お前の体は私のものだとか、自由がないとか、私の支配下にあるとか言われて――僕は、興奮してしまった。
 はっきりいえば、勃起してしまった。

「――――っ、は、鳩山くん!」

 思わず、先輩が叫んでしまう。
 視線を追いかけて、自分が失敗したことに気づく。
 だけど、その恥ずかしさのせいで、ますます硬く、大きくなってしまう。
 恥ずかしいのに。
 今すぐ隠したいのに動けないのが、みじめで恥ずかしいのに。
 そう思うだけで、ますますペニスが、勃起してしまうのを止められない。
 びくんっ、びくんっ、とペニスが脈動する。
 絶対、先輩にも見られている。
 服の下で、僕の生殖器が、興奮してうちふるえているのを――。

「見られて――興奮してるのか?」
「っ!!」

 はい、と言うように、僕のペニスがまた跳ねる。
 こちらを上目づかいで見る先輩の顔は、あの子の顔で。
 それがまた、僕の心を興奮させる。

「―――変態」

 びくんっ!!
 ペニスが、また跳ねる。

「変態。変態。変態。変態。変態変態変態変態変態変態―――!」

 好きな女の子の顔で、さげすんだ眼で、そんなことを言われて、僕は、僕は――

「だ、だめですっ、せんぱ――」
「このっ」

 ぴんっ、と先輩がペニスをはじいたのは、単なる冗談、ちょっとした「お叱り」だったのだ、と後で聞かされた。
 でも、そのときの僕にとってそれは――――

「うあああっ!!?」

 最後の一撃になった。
 僕は、大好きな女の子の顔をした先輩の目の前で。
 服を着たまま、射精した。

「何やってんの?」

 なじるような言い方にさえ、興奮してしまう。

「出しちゃったんだ、ザーメン」

 好きな女の子に、意地悪されることで、興奮してしまう。

「脱ぎなよ」

 僕は、言われるがままに、服を脱ぐ。
 パンツの中に、べたべたした精液が見える。

「好きな女の子に、ああいうこと言われて、興奮する人だったんだね」

 幻滅したような言い方に、頭がくらくらする。

「正直に答えてね。きみ、女の子に、罵倒されて、うれしくなっちゃうの?」
「はい」
「ふうん。それって、好きな子にされたから? それとも、他の女の子でもそうなっちゃうの?」
「それは――わかりません」
「君の視界は元に戻る。私の顔は、私の顔として、認識される」

 指をつきだして、僕の額にあて、先輩がとなえる。
 次の瞬間、小鳥遊さんは消えて、烏丸先輩が僕の目の前に現れる。
 そして、その細い目で、僕のペニスをじっと見つめた。
 見つめられている。
 そう思ったら―――

「そっか。だれでもいいのかな? もう勃起してる」

 指摘の通り、さっき出したばかりなのに、服をきた女の子の前で、裸の僕は、おちんちんを大きくさせている。
 ティッシュで、パンツの中に出された精液を取る。
 そして、それをゆっくりと広げ、また閉じる。
 その動きにあわせて、精液が、べっとりと伸びたり、またつぶされたりする。

「すごいね、ぐちょぐちょだよ。ねばっこくて、いやらしい―――ねえ、どんな気分?」
「ぞ、ぞくぞくします……」
「そっか。変態なんだね」
「は、はいっ、ぼ、僕は変態ですっ」
「女の子におちんちん見られて感じちゃう変態マゾなんだ?」
「そ、そうですっ、僕はおちんちん見られて感じちゃう変態マゾですっ、あっ、あああっ」

 いやらしい言葉を自分で言うたびに、自分が興奮していくのがわかる。

「そっかぁ。こーんなに変態さんなら、サークルの部室で、みんなの前で、服を着たまま射精させてあげようか? どう思う?」
「か、考えただけで、い、いっちゃいそうですっ、んっ、んんんっ」

 僕は、射精欲求がどんどん高まっていくのを感じる。

「いっ、いきそうですっ、あ、ああ」
「だめ。私の命令があるまで、射精するのは許さない』

 手をペニスにかざして、そう言うと、動物磁気が流れ込んでくるのを感じ――そして、射精が止まってしまう。

「あああっ! い、いけないっ、なんで!!」
「そう命令したから」
「ん、おおおっ、お、お願いです、先輩っ、しゃ、射精させて、くださいっ」
「ふふっ、そんなこと言っちゃって。本当は、うれしいんでしょ? 射精管理だよ? 一生、自分で射精することができない。素敵じゃない?」
「そ、それは――」
「正直に言いなさい」
「す、素敵、です……」

 その言葉を聞くと、先輩は一歩、後ろに下がる。

「あのさ、こんなときに言うのもなんだけど」

 口調も、ふつうに戻る。

「わたし、きみのこと、けっこう好きだった」
「え?」
「だから、失恋したとき、正直、ちょっとうれしかった。それでわたしが君と付き合えるわけじゃないんだけど」
「―――」
「でも、だから、君がわたしに、好きな女の子の顔になれって言ったとき、ちょっと傷ついた」
「ご、ごめんなさい」
「いや、それはいいんだ」
「?」
「もうひとつ、言わなきゃならないことがある」
「なん、ですか?」
「私、好きな人のことを思ってオナニーすることがあるんだけど。―――いつも、想像の中で、男の子をいじめてるの」

 びくびくっ!!
 ペニスが、期待にふくらみ、はねまわる。
 それを、冷静に見ながら、先輩は言う。

「こんな風になっちゃったのは事故だけど。こんな事故でもなかったら、自分の性癖は言えなかったかもしれない」
「……先輩なら、時間が経てば、ちゃんと言えそうですけどね」
「そうかな。まあ、とにかくさ。もっと後から、君が回復してから言おうと思ってたんだけど」

 ぎゅっ、と後ろから抱きしめられて、ペニスをにぎりしめられう。

「好き。私と、付き合ってください」
「だめって言ったら?」
「それでも、ちゃんと射精してあげる。メスメリズムも解除する」
「オッケーって言ったら」
「そのときは、二人で相談しよ?」

 そういえば、この人の声って、めちゃくちゃ色っぽいんだよな、と、そのとき僕は思い出した。
 失恋してから、こんなにすぐに付き合うのってどうかと思う。
 でも――。
 でも、僕は一人はつらかったし、先輩は悪い人じゃないし、それに自分の秘めた性癖だって言っちゃったし、なんかもう―――

「はい」
「え?」
「答えは、はい、です」

 ゆっくりと、動物磁気が、僕の体に、後ろから流れ込んでくるのを感じる。

「もうひとつ、質問。君、これからも、こういうこと、したい?」
「―――したい、です」

 自分の意志で、正直に答えたのか。
 それとも、メスメリズムで言わされたのか。
 それはもう、どっちでもよかった。
 せきとめられた射精が、僕の脳に快感をたたきこんできて、だんだん何も考えられなくなっていく。
 そのとき、口元に寄せられた唇が、呪文をつむぐ。

「いいよ。ザーメン出しなさい」

 びゅるるるるる!!
 止めようもなくザーメンを先輩の手に吐き出しながら、僕は意識を失った。

* * *

 おちんちんほど、みだらな器官って、そうはないと思う。
 とても素直で、いやらしい器官。
 性的な興奮を感じると、海綿体に血が流れ込んで、勃起してしまうなんて。
 まわりの人から、エッチなこと考えてるってまるわかり。
 朝起きたら、勃起している朝立ちや、疲れたときに勃起してしまう疲れマラっていうのもあるらしい。
 それでも、いやらしいことを考えたら、すぐにおっきくなって、発情してることを周りに主張するのは確かだ。
 雄の発情を、まわりのすべての人に教えてしまう、どうしようもないほど淫乱な生殖器。
 びくん、びくん、と脈打つ、勃起したおちんちんのことを考えてみて。
 周りに、はりめぐらされた血管が、とても卑猥だ。
 男の人の手の甲に見える血管にも似た、静脈の青いあと。
 男の人の手がセクシーなのは、手の甲の血管がセクシーなのは、本能的におちんちんのまわりの血管を思い出させるからじゃないだろうか?
 勃起が長いこと続くと、おちんちんの先っぽ(鈴口っていうらしい。本当に鈴みたいな形)から、透明でねばねばとした液が出てくる。
 我慢汁。先走り汁。カウパー。どんな名前で呼んでもいいけど、本当にみだらな汁。
 にちゃにちゃねばつく液は、これがいやらしい目的のために分泌されていることをいやおうなしにつきつける。
 そのまま、摩擦刺激をおちんちんに与えると、びゅっ、びゅっ、びゅっ、と三回くらい痙攣して(回数には個人差があるらしい)、精液を出してくれる。
 精液。ザーメン。スペルマ。子種汁。いろいろな名前。素敵に卑猥な名前。
 精液には、黄色いものと、白いものがあるんだって。
 黄色い精液は、何日もオナニーしないで、溜めこんだ精液。新鮮じゃなくて、どろどろねばねば、ゼリーみたいで、すっごく濃いにおい。
 白い精液は、毎日オナニーしている新鮮なザーメン。適度にねばねば、きれいな白色、透明な液の中に、白いものが入っていて、きれいな精子って感じ。
 いつもは、白い精液のほうが好きだけど、たまに、黄色い精液のほうが好きになる。
 あんなにくさくて汚いイメージなのに、自分もエッチな気分になっているときは、ああいう汚いもので汚してほしい。

 そんなに素敵で、みだらな器官が、私の目の前にある。
 裸になった彼氏のものだ。
 私も裸になっている。
 私の、彼氏のものだ。
 私の、彼氏の、ちんぽ。
 つまり、私のものだ。
 正直、彼氏なんてできると思っていなかったから、生で見る機会があるとは思わなかった。
 せいぜい、オナニーのときに、海外の動画投稿サイトとか写真投稿サイトとかを見て、無修正ペニスを見るくらいだった。
 正直に言うが、そのせいで私の英語能力は多少はあがったと思う。

「ねえ、すごいね。空くんの、こーんなにかっちかちなんだ」
「だ、だって、三日、三日も出させてくれないから……」
「え? たった三日なのに、こんなになっちゃうの?」

 金玉を下からもちあげる。
 心なしか、前に持ったときよりも、重い気がする。
 これ、やっぱり精子たまってるのかな?

「ねえ、三日でこんなになっちゃうなんて、やっぱり変態さんなんじゃない?」
「ち、ちがいますよ、先輩! 男の子にとってはふつうです!」
「ふつう? ふーん、まわりの人に確かめたの?」
「い、いや、それは……」

 言いよどんで、顔をふせる。
 加虐心をそそるような顔をしている。

「じゃあ、やっぱり、空くんが特別変態なんじゃないのかなあ?」
「ち、違うよっ!」
「わかんないよ? 他の男の子は、三日オナニー禁止されたくらいで、こんなに金玉重くならないし――それに、土下座してオナニーさせてくださいなんて、言わないんじゃないかなあ?」

 さっき、射精したいなら土下座して、といったら、土下座してくれた。
 もちろん、それだけで射精を許したりなんかしないけど。

「もう、床にはいつくばったとこ、見て? ほら、ここ。液がたれてるのわかるよね? これ、なんだかわかる?」
「えと、あの……」

 顔を真っ赤にする空くん。
 でも、その股間はバキバキに勃起している。
 男の子の生殖器官ってたまんない。
 自分が興奮してること、まるわかりじゃない。
 おちんちんの、こういう嘘のつけないところ、大好き。
 周りの女の子に、僕は発情してますよー、って自己主張するなんて、本当に卑猥な器官だ。
 なんで男の子にはこんなエッチなものがついてるんだろう。
 たまに、ちょんぎってしまいたくなる。

「あの、僕、の、液、です」
「ただの液じゃないよね?」
「えっと、精液の、前の、その……」
「もっとエッチな言葉、知ってるでしょ? 言いなさい」
「はい……………………。が、我慢、汁、です」

 そう言った瞬間、またびくんっ!と跳ねる。
 どんなことで興奮するのか、まるわかり。
 本当にはしたない器官ね。
 みだらなことにかけては、男性生殖器のほうが、女性生殖器よりも、ずーっとずーっと上だと思う。
 でも、これは私が異性愛者の女だから、そう思うのかな。

「なんでこぼしたの?」
「そ、その、出ちゃったから」
「違うよね。出ちゃったから、っていうのを聞いてるんじゃないの。なんで出ちゃったかを聞いてるの」
「っ、ぁああ。こ、興奮、したから、です」
「よくできました。ご褒美に、だっこしてあげるね」

 頭一つ分くらい小さい空くんを、ぎゅっと抱きしめる。
 私は、がたいはあまりよくないのだが、背だけは高いのだ。
 それにしても、もう、ホント、空くんかわいい。
 体を密着させて、胸を押し付けるだけで、だらだらとだらしなくあふれる、我慢汁が、私のおなかを伝ってゆく。
 こんなに出しちゃって、私がメスメライズしていなければ、もうとっくに射精してるんじゃないの?

「ねえ、指、出してごらん?」
「はい――?」

 空くんの指を、ゆっくりと私自身のぬかるみへと導く。

「あっ」
「ね、聞こえる? くちゅくちゅ、っていう音。君を見てたら、興奮してきちゃったよ。どうなってるか、わかるでしょ?」
「す、すごい……びしょびしょ……」

 素直に感嘆する声。
 愛しくなってくる。

「ね。入れたい?」
「え……」
「呆然としてるよ? 入れたい? ここに」

 くちゅ、とぬかるみに、また恋人の指が触れる。

「いれ、たい、です」
「ダメだよ」

 間髪入れずに、否定する。

「えっ……」

 もう、そんなに悲しそうな顔、しないでよ。
 もっと意地悪したくなる。

「ねえ。一生、私の中に入れられないってなったら、どうかな。君がだした精液を、私が自分で膣内に入れるの。そしたら妊娠、できるでしょう?」
「そ、そんな、ひ、ひどいよぉ」
「なんで? 私の体は私のものだよね。君にどうこう言われる筋合い、ないよね?」
「ないっ、ないけど、でも、でも入れたいっ」
「そんな男の子のわがままに、女の子がつきあう義理はないよ。そうでしょ?」
「うう~、でも、入れたいもんっ、あきらちゃんの中に、いれたいよおっ」
「中?」
「な、なか、だよ……」
「もっといやらしい言葉で言えたら、気が変わるかもね」
「―――――お」
「お?」
「おまんこっ! オマンコに入れたいっ!」
「何を?」
「な、何って、えっと、おちんちん」
「そんなかわいい言い方じゃなくて。とびっきり変態な言い方、教えてあげたでしょ?」
「オ……オチンポ! あきらちゃんに興奮してる僕のはしたないオチンポを、どうかお願いしますから、あきらちゃんの大切なおまんこにいれさせてください!!」
 
 あー、もう我慢できないな。
 どんっ、と多少乱暴にベッドに押し倒す。
 そして、くちゅくちゅ、と勃起したペニスを、割れ目にあてる。

「っ、あ、きもち、いい―――」

 そのまま、私は腰をグラインドさせる。
 ぶちゅぶちゅ、と音がする。
 私の愛液でぬれた裂け目と、硬くなった雄生殖器の裏側が、こすれて音をたてる。

「な、なかには、い、いれさせ、て、くれないの?」
「はぁ? ダメに決まってるじゃない。一年間は、膣内に入れさせてあげないよ」
「そ、そんな―――」

 絶望したような表情の空くんの目を見つめて、にっこりと笑う。

「でも、我慢した方が、願いがかなったときの快感って、倍増すると思わない? 一年間我慢したら、入れただけでいっちゃうかもね」
「あ、ぁあ―――」

 彼の顔が、快楽への期待で蕩(とろ)ける。

「うれしいでしょ?」
「う、うれしいです―――」
「こんなにやさしい私のこと、どう思う?」
「大好きです」
「一生一緒にいたい?」
「はい……」
「じゃ、その気持ちを言葉にしなさい」
「はい―――僕は、僕は、一生、あきら先輩のものです」

 私に従う悦び、服従する快感にしびれたような声をあげて、空くんが宣言する。
 ずっと一緒にいたいじゃなくて、ずっと私のもの、か。
 ぞくぞくしちゃうな。

「ふふっ。わかった。じゃあ、君は私のものだよ。これからもずうっとね。たっぷりかわいがってあげる。他の女じゃ与えてくれないくらい、君を気持ちよくさせてあげる」
「はい―――これからも、よろしく、おねがいします―――」

 快楽に染まった彼の顔にあてられて、私もどんどん腰の速度をあげていく。
 そして、彼に限界が来る。
 しかし。

「ああ、あああ、いくっ、いくううっ、うううううう」
「止めてるから、いけないんだよね? ごめんね? ふふっ、でもかわいい」
「ああ、いきたいっ、いきたいっ、いきたいよおっ!!」
「うん、私と一緒にいこうね。私も、もう、我慢、できないから―――」

 どんどん腰を振る速さが速くなっていく。
 クリトリスにぬめる熱い肉棒がこすれて、やばいくらい気持ちいい。
 あ―――、これ、もう、私、も―――。

「いいよ。空くん、いきなさい」
「う、あがあああっっっ!!!」
「ん、んおっ――――あ―――――」

 どぴゅるるるるるる!!
 黄ばんだ精液が、空くんの上半身に飛び散る。
 私は、オーガズムの余韻にひたって、空くんを見る。
 うーん、ちょっと激しすぎたか?
 あんまり遠慮なさすぎると、ショック死するかもしれないな。
 慎重に見極めないと―――。

「ね、ねえ―――」

 ぐったりしている空くんの体から、精液をティッシュでふきとっていると、声がかかる。

「も、もう終わり、なの?」
「まだ、したいの?」

 意地悪く聞くと、こくん、とうなづく。
 三日間我慢しただけで、もうこれなのか。
 旺盛な性欲で、お姉さんうれしいぞ。

「でも、今は疲れているからね。あんまり激しいのはやめよう?」
「でも、でも、まだいきたいよ……」
「大丈夫」

 手をペニスの上にかざす。

「ほら、わかる? ペニスが、動物磁気につつまれていくよ」
「あ、ああ―――」

 ゆっくり、ゆっくり、動物磁気をペニスにからめるイメージを描く。
 まるで水あめをたらして、ペニスのまわりにかためるように、手を動かす。

「おちんちんのまわりを、水あめみたいな動物磁気が、おおっているよ」
「う、うん……」
「動物磁気が、だんだんあったかく、きもちよく、ぬめぬめしたものに変わるよ。数字を数えるごとに、どんどんあったかく、気持ちよく、ぬめぬめしてくるよ」
「1」
「んんっ」
「2」
「はあっ」
「3」
「んふぁ……、き、きもちいいよ、あきらちゃん」
「4」
「ん、んんっ、これ、きもちいい……」
「10って言ったら、射精しちゃうよ」
「う、うん……」
「6」
「うわぁ、すごいっ、ぐちゅぐちゅして、早く出したいよっ」
「10」
「あひゃあっ!!!」

 びゅっ、びゅっ、とザーメンが飛ぶ。
 先ほど一発出しただけで、今はもう新鮮な白いザーメンだ。

「び、びっくりしたぁ」
「早く出したいって言ってたからね」
「う、うん……ありがと」
「まだ、する?」
「うん」
「じゃ、今度は手でしてあげる」

 動物磁気をまとった手で、空くんのペニスをしごく。
 そして、キスをする。

「ちゅっ。ちゅ、ちゅ……ちゅ」
「ん、んあぁ」
「どう、気持ちいい?」
「うん、気持ちいい」
「ね、さっきのこと、だけどさ」
「え?」

 精液をからめてしごきあげる。
 精液がローションがわりになって、気持ちいいらしい。
 くちゅくちゅと卑猥な音を立てるだけじゃなくて、見た目にもエロい。
 こうやって、気持ちよくしてあげると、空くんは、あえぎ声をあげて、気持ちよさげにうめく。
 ちょっとだけ、私は手を離す。
 そして、その間に、さらに動物磁気を手に溜める。
 そのすきに、私は言いたいことを言う。

「セックスは気持ちいいけど、他で合わないんだったら、別れたっていいんだよ」
「先輩――」
「私、セックスフレンドは嫌なの。君の全部を私のものにするか、あるいは、何も得られないか。好きな人はまるごと全部欲しいし、それがかなわないなら、全部いらない」
「ゼロか全部かってこと」
「うん」
「だから、駄目になりそうなときは教えてね」
「うん、でも―――」
「でも?」
「でも、今は。僕、僕の全部を、先輩にあげたっていいと、思ってるよ」

 それでいいのかもしれないな。

「ふふっ。わかったよ。じゃ、いっちゃおっか」

 動物磁気が、尿道から中に入るイメージをする。

「ん、んんんん!!」

 そして、そのまま、金玉から、精液をしぼりだすイメージをする。
 それも、勢いよくではなく、優しく、負担がかからないように。

「あっ、あああっ、いくっ、いくううっ!!」

 びゅっ、びゅっ、と精液が飛び出てくる。

「こ、これ好きぃ、気持ちいいっ、先輩、気持ちいいっ……」

 その日はたっぷり時間をかけて、精液が出なくなるまで、いや、出なくなっても、私は空くんを絶頂させていた。
 何回イカせたのかは覚えていない。
 でも、いきまくって意識がもうろうとした彼が言った言葉は覚えている。

「だいすき……」
「私も好きだよ」

 ひたいにキスをして、二人で眠る。
 明日はいい日になるだろう。
 そんな気がした。

あとがき
 ずっと前から書きたかった、女性術者のラブラブなMC小説。ライトで純愛、のつもり。愛のある催眠術ものを書きたかったのです。
 思ったより、ラブが減ってSM風に見えるような書き方になってしまったけれど、無理やり心を変質させたりはしてません。
 ちなみに、時間計測による執筆。二時間二十七分。

< 終 >

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