浮気調査(中)
「あぶなっ。間に合ったー」
着いた先は峰林琴音の家。現在彼女のほか、京子と阪井様が同棲している。
写真で見た光景と全く同じ。可もなく不可もない、ごく普通の一軒家だった。
早速私はインターホンを押し、浮気調査に来たことを告げる。仕事モード仕事モード
「あっ、先輩。今玄関開けますね」
ほどなくして琴音が出迎えてくれた。
彼女は全裸で、私に手を振った。その後彼女は寝起きなのか手を組み天を仰ぎ、伸びをする。
「『おっはようございまーす!』 っうーん! 快晴ですね~」
まぁもう8月前半だし、快晴過ぎると暑くてダルイんだけど。ただでさえ私は冬用のアクリル繊維のダークブラウントレンチコートを着ているんだから。靴も黒のサイハイブーツだし。
……にしても常識知らずな女性だ。いきなり世間話から入るとは。
私はズカズカと玄関前に乗り込み、琴音の前に立った。
「全く。人に挨拶したらまずキスでしょ……。……ちゅ……む」
私は琴音を抱きしめ唇を奪う。
琴音も軽い調子で謝罪の意を示すと、抱きしめ返して舌を絡ませてきた。
琴音は経験がある分、私よりも感じるポイントが分かっているようだった。
すぐに私は圧倒され、受け身になる。
「んふぅ……せんぱい、可愛いですぅ……」
琴音は突然顔を離す。私は頭を撫でられ、ぼぅ、とする。
なんだか恥ずかしくなって、目をつむり、琴音の右側の首筋に顔を埋めた。
「あぁ……せんぱい……くすぐったいですよ。……やっぱりせんぱいは素敵ですね」
優しく頭を撫でられ、なんだかもうこのままで良くなってきた。
すると突然、琴音の雰囲気が明らかに変わった。
彼女の体が熱くなり、発情し始めているのが分かる。
「阪井さん……んふぅ……れぉ……」
ぴちゃ、ぴちゃと水音が響く。
目をあげると、琴音は首を左に回して、殿方とキスをしていた。
阪井様だ。
彼女のすぐ後ろ、私から見れば目の前にいる阪井様と挨拶をしていた。
彼はサニークラウズの青パジャマを着ている。やはり寝起きなのだろうか。少し寝ぼけ眼気味でカッコいい。
それにしても、いつの間に目の前に現れたのだろう。
そんな疑問が頭に浮かぶ前に、私は女の子に声を掛けられた。
「はじめまして。私がご主人様の奴隷、紗崎京子です」
彼女もいつの間にか私の後ろにいた。私は琴音を離し、京子に向き直る。
「あなたが……」
「はい。今日は一日よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀する姿は、私にいつぞやの琴音を思い出させた。京子は全裸だけど。
一緒になるとお互いの癖や行動が似るとかいうけど、本当なんだろうな。羨ましい。
顔をあげて、まじまじと彼女を観察する。
京子は少し恥ずかしがってるけど、初対面の相手なんだから当然だ。
目の前の京子は写真で見るのと変わらず可愛い。実物の彼女は清楚なお嬢様、という表現がぴったりだろう。
その内京子は、複雑な表情で可愛らしい乳房を手で隠す。
「あの、私、Bカップなんです。中々大きくなれなくて……ほら、琴音もAじゃないですか。やっぱりどちらかは大きい方がいいのかなって……」
ちょっとむっとした。
「あら、私もBよ。女性は胸じゃない。胸じゃないから。大体胸で人を判断する人間なんて断罪すべきよ。琴音は多分貧乳派だから安心しなさい。もう一度言っておくけど女性は胸じゃないから」
「あ、あはは」
ちょっと引き気味に笑われてしまった。おっぱいは大きさじゃないんだ……と自分に言い聞かせ、気を取り直して彼女の体を観察する。
京子は自分の体に自信を持ってないようだ。でも彼女の肢体は若い女の子特有のモノ。肌のキメ細かさ、成熟しきっていない身体。
30の大台が見えている私からしてみれば、眩しすぎて目が眩みそうである。
私は彼女の腹部に注目した。
「たてヘソかぁ」
「え、ええ。琴音のためにちょっと努力してみたんです」
はにかみながら答える彼女の表情はとても魅力的だった。
私も一応努力してるけど、相手がいないとねぇ……。
「でもいいわね。私なんか冬用のコート着てるんだもん。暑くて死にそうよ……。京子ちゃんも琴音も涼しそうでいいわねぇ」
「もぅ。玲奈さんはお仕事なんですから。頑張ってくださいね? 『おはようございます』」
京子がくすくす笑いながら、はいはいと流す。彼女は手を左右に広げた。
やっぱり年上の私からすべきなんだろう。
「友好の証です」
「そんな仰々しく言わなくても……んっ」
単なる挨拶程度でにやにやしなくてもいいのに。
京子と琴音は付き合って長いのかな。二人とキスしてみてそう思った。
二人とも妙にこなれているというか、なんというか。
「ん……はい。おしまいです」
「あっ……」
そう言って京子は離れた。
彼女は私の後ろにいた琴音と手を繋いで、二人は琴音の家の中に戻った。
えー。もう少し長くしてたかったなぁ。
そう思う私はちょっと……、いやかなり緊張してるから、というか、心の準備がまだできてないというか。
もうちょっと心を整えるために挨拶を続けたかったのである。
何せ、次にご挨拶するであろう今日の協力者が……。
「今日はよろしく頼む」
思わずビクッと心が高鳴り、身体ごと飛び上がった。
肩に手を乗せられ、私の筋肉が強張り、固まる。
阪井様は本当にいつの間にかいなくなっていて、突然現れる。
「ひゃあ……!」
「はぁ。……やれやれ」
また阪井様を失望させてしまった。
阪井様に声をかけられたこと、彼をがっかりさせてしまったこと。
そして彼に肩を触られたことで、全身が熱く火照る。
私はとにかく返事しなきゃと思って、考えがまとまらないまま声を出してしまった。
彼の方に振り返って必死に唇を動かす。
「お、おはようございます。えっと。さ、ささ……ささ……」
「阪井だ」
存じてます。上がってしまって声が出せなかったんです。
そう言おうと思ったけど、口がぱくぱく動くだけだった。
今の私絶対顔真っ赤になってる。
あきれた様子の彼は続けざまにこう言った。
「声を掛けられた程度でその反応か。昨日とはえらい違いじゃないか?」
「申し訳ありません! わわわたしは、あにょ。えっと……男のひと、苦手で……その」
どんどん尻つぼみになる言葉に自分で情けなくなる。男の人を前にするといつもこうだ。
終いには訳が分からなくなって逃走するのが落ち。死にたい。
「私! 昨日! ど、どどど」
片言で必死に弁解しようと、身振り手振りをする私。
普通の人なら全く通じないだろうけど、人の心を読める阪井様は、私が何を言いたいか理解できたようだ。
阪井様は呆れを通り越して愉快そうに笑った。
「ああ。奴隷になれると思ったから精一杯甘えて見せたのか」
私はぶんぶん頭を上下に動かす。
「そして断られたから今私は、素のお前を見せつけられていると」
視界が涙でぼやけつつも、私は壊れた機械のように頷いた。
「ごめんなさい……」
「この女こんな性格だったのか。時間がなかったとはいえもう少し見ておくべきだったか……」
なんだか気まずくて。黒のロングブーツの足先に焦点を合わせる事しかできない。
「まぁいい。『おはよう』」
わ。挨拶されちゃった。私はどん底の気分から一瞬で空へと翔けるかの如く舞い上がった。
挨拶。なんて素敵な響きなんだろう。
素敵な男性に挨拶される機会なんて全然ないから、熱に浮かされてしまう。
私は顔を上げる。彼の左の胸ポケット辺りに手を置いて、顔を傾け口づけをした。
「おお。おは……よぅ……ゴザイマス……んむ……」
唇同士で触れ合った瞬間に分かる。女と男の人の違い。
知的で冷たい印象の顔に似合わず、と言っていいのだろうか。
温かくて、包まれるようで。どこか悠遠の楽園の地に連れ去られてしまうかのような、そんな気持ちにさせられる。
私は、琴音達の時と同様に、舌を伸ばして彼の口内に侵入しようとした。
「さかいひゃまぁ……ちゅ……。……ふぇ?」
しかし、すぐに離されてしまった。
と、いうのも琴音の家の中から絶叫が聞こえてきたためだ。
「いやぁあぁああ!!?」
これは……京子の声?
一体どうしたんだろう。
「おお。そうか。そろそろ仕事の時間のようだ」
「え。あ……」
もう少し挨拶を続けたかったんだけど。仕事なら仕方ないか。
……でもただの挨拶でここまで気持ちよくなれるなんて、やっぱり男性ってすごいなぁ。
「さて、仕事内容はきちんと把握してるかね?」
「ひゃい!」
ええと、京子の浮気相手を探る、と。
琴音の持ってきた写真からして、相手がいるのは確実。男の影を見つけて裏が取れたら、依頼人である琴音に報告。
浮気相手を見つける為に、阪井様にはその都度私に協力してもらう。
うーん我ながら最高の契約が出来たと思う。
しかも阪井様が協力してくれるたびに彼から、依頼料ががっぽがっぽ入ってくる。こんなお仕事引き受けないはずがない。
「……大丈夫みたいだな」
「はっ! ごめんなさい!」
ま、またやってしまった……。
「そそそれでは私は」
と言いかけたところで、京子がものすごい勢いで玄関のドアを開けた。あぶなっ。
京子は先ほどとは違い、学園指定の薄い赤のスカート、そして夏らしい半袖Yシャツだ。相変わらず短いスカートなのね。黒のハイソも良く似合ってる。
黒のセミロングと制服っていいなぁ。私は黒ニーソ派だった気がする。
……あれ、この子泣いてない?
私たちを見やった彼女は、憎悪を超えた何かの感情を発露させていた。
「琴音が……琴音がおかしくなって……っ! あなた達……!」
あ、やば。今の段階で調査対象に接触するのはよろしくない。露骨に警戒されてしまう。
京子は私に対して、何故か怒りを見せていた。ただ事もあろうに阪井様にあからさまな敵意を発している。
「お前の……お前のせいで私たち滅茶苦茶よ!」
京子が激情し、阪井様に平手打ちをかまそうとしてきた。
私は無意識に彼女の手を抑えて取り押さえる。
「落ち着きなさい。阪井様に手を出そうとするなんて……」
「あなただって琴音の事傷つけて! 絶対許さない! 離して!」
そんな逆恨みされても。恐らく私が琴音を振ったことを言ってるんだろうけどさ。逆に付き合ってたらもっと琴音は傷ついてたと思うけど。
わーわー喚かれても困る。
「あー。先輩。お手間をかけさせて申し訳ありません」
たはは。と笑いながら琴音も玄関から出てきた。
白のYシャツにタイトなパンツスーツ、ヒールの付いた靴を履く彼女はこれから出勤するのだろうか。
「でも大丈夫ですよ。京子は完全に自由がある訳ではないので。私たちに危害を加えることはできませんから」
あっ。そうなんだ。
京子を離してやると、彼女は私たちを睨めつけ、逃げるように出て行った。
……って行かせちゃ不味いじゃない。追いかけないと!
「私達も付いていきますね」
私が京子の後を追いかけると、二人は後ろから着いてくる。
阪井様はともかく琴音は依頼人なんだから私と一緒にいちゃ不味くない!? ていうかそれなら私に依頼する意味ないというか自分で調べりゃいいじゃん。
そう思ったところで私の頭の中に阪井様の声が響いた。
―気にするな。そして――――
……まぁいっか。そんな事よりも、浮気調査開始!
京子はそんなに遠くには行っていない。琴音が言った通り、体の自由が効かないようだ。
律儀に私たちが追いつくのを待ってくれていた。
「はぁ。何とかなりそうね」
「そうですね。ちゅーしていいですか先輩」
「無理。キスなんてしたことないし阪井様以外としたくない」
「依頼料の時と挨拶の時でキスしたじゃないですか?」
「あれは単なる報酬のキスであり、挨拶のキスでしょ?」
話の通じない人間はこれだから嫌だ。私の運命の御方は阪井様だけなんだから。
キスはその時まで大事に取っておきたい。
「あ。私と先輩がちゅーしろ。……って阪井さんが言ってます」
「はい、分かりました」
「んー♪」
京子はこちらを振り向くことなく、少し遅めのスピードで通学路を歩いている。
琴音が気を効かせてくれているのか、私が京子を見れるように、キスをしている。
琴音が私の横に付き、歩きながらの接吻だ。
「ぷはぁ……。役得役得♪ そう言えば先輩、世の中には探偵を探偵する職業があるらしいですよ? んあっ阪井さん、いきなりお尻触らないでぇ♪」
「へー。間抜けな探偵もいたものねー。他人の秘密をひそかに調査する人間がひそかに調査されちゃうなんて……。そんな馬鹿な探偵がいたら見てみたいわ……って聞いてる?」
私は京子から目を離せないからよく分からないけど、どうやら阪井様と琴音はいちゃついてるようだ。むー羨ましい。
「…………はい了解です。ねぇ玲奈先輩、先輩の詳しいプロフィールを教えて欲しい。……って阪井さんが言ってます」
8時30分きっかり。愛用の腕時計で時刻の確認。この時計は5年ぐらい身に着け続けてるかな。
私はメモ帳とペンを取り出し京子の行動を書き込んだ。これらは探偵七つ道具の一つね。
「はい、分かりました」
私は事前に作成しておいた資料を誰にも悟られないよう慎重に、内密に琴音に渡した。内容はこうだ。
私の名前は皆川玲奈。身長166cm。体重49kg。年齢は28歳です。B75-W53-H81cmです。元舞専学園生徒会長で、そのまま舞専女子大学へ進学いたしました。その後弁護士資格を取り現在に至ります。私は元国家公安委員長、皆川宗次朗の孫娘です。なので探偵事務所を開くに当たり祖父から少々手助けを受けましたが、私自身は権力に頼らず一人で生きたいという価値観の下、なるべく独力で業務を行ってまいりました。これまでの具体的な仕事内容は―。
あ、そうそう。
阪井様からの協力っていうのは、私に何か見落としがないか、探偵としてのやり方はまずくないか。
そう言ったことを阪井様にチェックしてもらうのだ。私は一人で何でもやってきたから完全に我流だし、いけない癖があったら今後の探偵人生に関わってくるし、阪井様からの指示は全部素直に聞かなければいけない。
その上で、阪井様が私の遍歴を尋ねるのは当然だと思う。まずは私の事を理解してもらわないと。昨日急ピッチで用意しておいて良かった。
「あー。やっぱり皆川議員のお孫さんだったんですねー。当時から噂にはなっていましたが。ところであっさり先輩が探偵されちゃったんですけど、ここは笑う場面でしょうか」
まぁ琴音にも見られてしまうけど、気にするなと今さっき阪井様から言われたしね。
お? 京子が顔を赤らめている。まさか登校途中で浮気相手と出会うのか?
と、いうことは相手は学生? いやいや先生かもしれないし、決めつけるのはまだまだ早計だ。とりあえずメモメモ。
「もっと近づいても平気ですよ。今の京子は私達の姿を確認することが出来ないですから。……って阪井さんが言ってます。ついでに先輩の言葉が、京子にとっては絶対の真実になるようにしておいたらしいです。不用意な発言したら、京子が死んじゃいますからお気をつけて。……って阪井さんが言ってます。面倒じゃないですかこれ?」
ああ、やっぱり我流というのは不味いんだなと思った。第三者の意見がこれほど頼りになるとは。
妙に納得しつつ、私達は京子のすぐ近くに寄った。
「い……嫌。こんな……ところで…………そんな……」
京子は何かを我慢してるようだ。太ももにぎゅっと力を入れている。
ところで、ここら辺は閑静な住宅街でちょっとした田舎なので、割かし空地が多い。
京子は道を外れてその数ある空地の一つに入っていった。
京子は我慢した表情のまま人目に付きにくい隅の方へ行く。
道路側から見ると、手前にいくつか土管があって、奥には林が広がっている。
京子は林と土管の間に、なるべく目立たないようにし、しゃがみこむ。
きょろきょろと周りを注意深く見渡し、誰もいないことを確認してから、薄桃色のパンティーを降ろした。
無論すぐ側に私たちはいるんだけど。
「あっ。これって……」
「京子はおしっこしたいみたいですね。昨日からわざと出させないようにしていたみたいです。阪井さんは変態さんですね……ふぁぁ!? っごめんなさいぃぃ」
私は阪井様が何をやっているか気にしないことになっているから色っぽい喘ぎ声を聞き流しつつ、一方の女子学生を観察する。
彼女は羞恥に耐えつつ早く放尿したいみたいだけど、中々出てこないようだ。
当たり前だけど。
「なんで……なんでなの!?」
「そりゃあパンツ降ろしただけじゃ、おしっこは出てこないに決まってるじゃない。靴と靴下以外全部脱がないとダメでしょ? 後もっと足開いて踵上げないと力が出ないじゃない」
「……ぅあ!?」
一瞬痛みを覚えたのか、頭に何かを埋め込まれたかのように仰け反る京子。
「うう……。……ああもう! あの下種男! こんな……こんなのって……」
京子は立ち上がり、シャツを脱ぐ。ブラはパンティとおそろいのピンクだ。
彼女は吹っ切れた様子で、ブラを外す。一旦靴を脱ぎ、スカートを降ろす。
二十分弱ほど前に見た裸だけど、何度見ても綺麗ね。
丁寧に衣服を折りたたみ、再度しゃがみこんだ。
京子は大胆につま先立ちになり、足を開く。
「……っ……もう……お……。おねがい……ぐすっ……」
あ、あれ? まだ出ないみたい。早く出させてあげないと尿道が炎症起こしちゃう。
おしっこする時って他に何かあったっけ?
「あふっ……あぁん! さかいさぁん……ちゅうぅん……はぅ……あ……。りょ、了解です……。あの先輩?」
後ろにいる京子が話しかけてきた。今考え中で忙しいんだけどなぁ。あれー。(ローファーとハイソ以外)裸の蹲踞でおしっこをするのが普通なはずなんだけど……。
「また一人の世界に入ってるんですか。阪井さんあの性格直した方がいいんじゃ……。え? そ、そうなんですか……」
私っていつもどんな感じでシテたっけかなぁ。あれー?
「せ! ん! ぱ! い!」
「……何よ? 私忙しいんだけど」
「……。おしっこする為には上体仰け反って、おまんこ手で開かないと……って阪井さんが言ってまぁす」
……あ! そうだった! なんで忘れてたのかしら。
「ありがとう琴音! 京子ちゃん聞いてる? 上体仰け反って、おまんこ手で開かないとダメよ!」
「ぅぐ……ぅ! もう……いやぁ……」
京子はもう形振り構ってられないのか、直ぐに上体を後ろに仰け反らせた。
左手で地面に手を付き、右手で秘所を開く。
まるでリンボーダンスをしているかのような状態で、成熟しきっていない白い肌が真夏の光に照らされていた。
彼女の下半身がふるふると震えた。ずっと我慢してきたからか、最初は流れ出てこなかった。
だけど、京子のお腹が僅かにへこむ。力を入れているんだ。
少しずつ、彼女の恥ずかしい場所から放尿が始まった。
「あっ……はぁぅ……」
周りに人が来ないか、もし人が来てしまったらどんな反応をされるのか。
そんな事を考えているのか彼女は緊張していて、中々黄金水が出て行かない。
「はやくぅ……終わってよぉ」
こんなに間近で同性の放尿シーンを見る事なんてないからついつい見入ってしまう。
一応メモメモ。時刻は……8時43分ね。
「んんぅ……はい。……先輩、おしっこを出す度に笑いが込み上げるようにして、全部出し切ったら絶頂するようにしてあげて下さい」
「なんでそんな事を?」
「……って阪井さんがぁー言ってまーす」
「はい、分かりました」
私がまた京子に伝えると、彼女から出される美しい放物線が震えた。
「あ……あははっ……。い、いやっ。ちょ……くぅ……」
大きな声を出したら通行人が来たらすぐにバレテしまう。近所の人にも聞こえてしまう。
しかし、お小水は昨日から溜りに溜まっている。笑いをこらえることで余計に力が入り、小水の勢いが強くなる。
黄金色は、その線が太くなり、勢いを増す。
股間の小さな穴が大きく開く。私はその光景に吸い込まれていた。
京子の笑いのボルテージが上がってきたようだ。大きな瞳から透明な涙が頬を伝う。
彼女が耐えるのも限界である。
「あはっ……も……だ、だめっ。あははははは!」
上体を反らし、右手で女陰を開いているため、彼女の体重は細い左腕に負荷がかかっている。
ぷるぷると震える細腕に、がくがく震える全身。
大きく股を開いた中心からは黄金色が飛び出している。
彼女の声が青空に響き渡る。京子はもう周りの事など気にも留めていないようだった。
「~~っっぷはひぃいいひふぅーふーあっっははははは!!」
必死に息を吸い込むけどその最中にも笑いは飛び出る。すっかり破顔した顔に清楚なお嬢様の面影はなかった。
「あひ! あひぃい……あっ……にゃ……にゃんか……」
だけどここまで長いことおしっこをしていれば当然終わりも来る。
おしっこを出し切ることは、すなわち絶頂すること。
「ダメ……やだ……こ、琴音、助、けて……ふぁ、あ……」
彼女はもう尿をほぼ出し切っている。少しずつ京子は既知のようで未知の感覚に囚われていた。
最後に股間に力を入れ、一筋の放物線がぴゅっと放たれた。
同時に京子の体が跳ね上がり、目が上を向く。口元から涎が垂れる。
「はぅ……っぅぅあぅ! ……ぁあ……」
控え目に声を上げ、彼女はぐったりと倒れた。
口元に架かる髪に涎の跡が付いた。
「たはは……。私も達しちゃいましたぁ……。先輩、京子を起こしてあげて下さい」
そうだ。ここで眠ってもらっても困るし、何より浮気調査が出来なくなってしまう。
「京子ちゃん、起きて」
「……うぅ」
彼女は焦点の合わない顔つきのまま体を起こし、女の子座りをする。ふと、私たちの裏側、土管の向こう側から少年の声と女性の声が聞こえてきた。
「ねぇおかーさん。変な声が聞こえたよー?」
「あら?何だったのかしらね。笑い……声?」
京子はさっと身を屈め、体を強張らせる。次第に少年と、その母の声が遠ざかっていく。
「……最悪」
アンモニア臭の中でぽつりと京子が呟く。
彼女は周りを一瞥し、素早く立ち上がる。
すると不思議なことに水たまりとアンモニア臭、そして京子に付着した尿やほこり、泥が消えた。
「阪井さん酷すぎて素敵です。周囲に張っていた認識誤認をわざと解いて羞恥プレイとは……。ほんと便利ですね。えっいいんですか? ありがとうございます! じゃー私も阪井さんみたいに、頭に手を乗せるだけで洗脳できるようになりたいです! 後個人的に京子がすっ転んでぱんつ丸見えになる暗示とか掛けて欲しいなぁって」
琴音がなんか言ってるけど私は気にしないから気にしない。京子はしばらく虚空を見つめていたが、ゆっくりと動き出す。
「……学校行こう」
ぽつり、と彼女はつぶやき、制服を着ると再び学校への道を歩き出した。
そういえば、もう学校って夏休み期間入ってるんじゃないのかな。
もしかして浮気相手と出会うために学校に行くのかも。
……む?
京子の後を追おうとした時、背後から、つまり林の側から視線を感じた。
何気なく見ると、木の後ろに隠れてこちらを窺う……女性? がいた。近所の人だろうか。
良く見えないけどどっかで見たような顔かたちをしてるような。妙に人間味が薄いというか何というか。
……とりあえず様子見ね。
「ところでせんぱーい」
「何よ?」
今私たちは学園のすぐ近くにまで来ている。
後はこの坂を上りきればゴールだけど、この上り坂がまた怠い。
時刻は……9時12分。メモメモ
ここまで来るのに何かおかしいところでもないかと、目を皿にして観察したけどなーんにもなかった。
強いて言えば、京子が一回転んで桃色パンティーが丸見えになったぐらい。顔真っ赤にしてスカートを抑える彼女は可愛かった。怪我もしてなかったみたいだし良かった良かった。
「なんでそんな暑苦しい恰好してるんですか?」
「そりゃ探偵だもの。夏とはいえコートは必須でしょうよ」
「……素じゃないですよね、これ……。あ、やっぱりそうでしたか。ところで、もういいですか? ……やったぁ」
うーほんと暑いわ。すごい汗が出てる。
「むふふ……」
気味の悪い声を発しつつ、琴音がすり寄ってきた。
「気持ち悪い。体温上がりそうだからやめて」
「女の子同士って良いと思いませんか?」
「私は無理だってば……ぁ……」
「ぐふふ。失礼しまーす」
頭に湿り気のある、生暖かい感触が来た。
ぼーっとする。
手がだらーんとして、手に持っていたメモ帳とペンが地面に落ちた。
しあわせ。
私、この感覚を知っている、ような……。
「皆川玲奈さん。あなたは両性愛者さんなんです。ほら思い出してみて下さい。琴音や京子の裸を。とっても興奮しますね。一番好きで興奮しちゃうのは阪井さんですけど、琴音と京子の事もとっても意識しちゃいます。恋しちゃうんです」
琴音……京子の裸。
今までこんなことあり得なかったのに、彼女達を想像すると胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
女性を好きになるなんておかしいのに……。
「微笑んでる……可愛いですよ先輩。心配することなんて何もないんです。先輩は可愛い女の子が美人な女の子が好き。大好き。体の内側が快楽で痺れちゃいそうなほど好きなんです。余計な貞操観念なんて捨てちゃいましょう。ぽい、です。先輩は浮気相手を見つける為に、京子に悪戯したくなっちゃいますよね。だって好きなんですもん。好きな子を知りたくなるのは普通の事です。琴音の事も大好きだから、ついつい甘えちゃいます。思いっきり甘えちゃいます。可愛い先輩をいっぱい見せつけちゃいましょう。大丈夫。あなたの琴音なら全部受け入れてくれますよ。私が手を離したら全部そうなっちゃいます。今私に変えられたこと、前までバイじゃなかったことなんてどうでもいいことです。大切なのは京子を愛でる事、琴音とちゅーする事です。とりあえず一旦阪井さんのことは忘れて私と楽しみましょう。あ、暗示の内容は忘れますが、絶対そうなります」
頭をゆすられる。それに伴って、私の中から何かが抜けて行って、何かがすっぽりと入ってきた。
京子。京子の事いっぱい知りたい。ちょっかい出して、彼女を知りたい。反応を見たい。
琴音に甘えたい。琴音は私のだから、絶対受け入れてくれる。
脳が徐々に覚醒する。なんで私意識がなかったんだろ。あ、ペンとメモ帳落とすなんて、私らしくない。
「よいしょっと。よし、まだ京子はそこにい……る……」
あ、あれなんだこの気持ち。京子を見ているとうずうずしてくる。なんだか、ちょっと彼女に悪戯したくなってきた。
「せーんーぱい!」
「ふひゃぁ!? なななによ」
「どうしたんですかー。つんつん♪」
「何でもないってば! ほっぺた触らないで!」
びっくりしたぁ。
なんで琴音なんかに……。
琴音……。
「酷いことやらせますね~。秘密を加えて曝け出させるなんて」
誰と話してるの?
琴音。
ことね。
私の事、見て欲しい。
「ことねぇ……」
「どうしました? ぐふ」
琴音が腕を開いて私を見ている。
これ、飛び込んでいいってことだよね。
「不安がらなくていいですよ。先輩の事、受け入れますから……きゃ! ん……ふぅ」
私は琴音の胸に飛び込んだ。続けざまにキスをする。
「ことねぇ……ぅんぅ……じゅっっぅ」
「せんぱい……せんぱい……」
琴音に甘えるように、猫みたいに甘える。
唇を擦り付ける。顔ごとぐいぐいと肌を合わせる。
どれだけ長いことそうしただろうか。
琴音が私を離した。すぐに私を胸に埋めさせてくれる。
「先輩は甘えんぼさんですね♪ ほらよしよし」
「あぁ……もっとぉ……」
素敵。なでなでされて、私はノックアウト状態だ。
ぎゅーっとくっつく。
彼女の体温が心地いい。
「先輩は琴音のおっぱいをちゅーちゅーしたくなります。それにもっと甘えちゃいましょう。猫みたいな語尾をつけると琴音は喜びますよ。一人称はもちろん玲奈です。私の事お姉ちゃんって呼んで下さい!」
ぱっと手が離れる。もっとしてほしいのに。
「ことね……おねえちゃん……好きだにゃぁん」
お姉ちゃんは、悶えているみたい。喜んでくれているなら嬉しい。
玲奈はお姉ちゃんの洋服を脱がした。だっておっぱい吸いたいんだもの。
「お姉ちゃん、玲奈、これほしいにゃ……」
「っ~~! ……いっぱい……吸って? 玲奈ぁ」
お姉ちゃんの乳首はツンと立っていて、思わず唾を飲み込んでしまった。
「お姉ちゃん! ……にゃ……んむ……ちゅっ」
「はう! ぅ! もっと……ふぁぁ……そう、上手いよ……」
お姉ちゃんが頭を撫でてくれる。
玲奈は頭の中が蕩けながら、一生懸命ご奉仕した。
お姉ちゃんのを舐める、吸う。
もう片方のも寂しそうだったからちゅーちゅーする。
片手で、さっきまでなめなめしてた方をつんつんする。
「もぅさいっこ……ふぁ!? あふぅ……。……玲奈、おまんこ、なめなめしてくれるかな?」
「はぁい分かったにゃん」
お姉ちゃんの体が少しだけびくびく、した後お姉ちゃんが玲奈の頭をナデナデしながら地面の方に力を入れた。
玲奈は力に素直に従って、地面にしゃがみこむ。
「ん……しょ」
玲奈はお姉ちゃんのパンツスーツを降ろした。
まずは綺麗な青色のぱんつの上から舐めてみた。
「ぴちゃ……んぷはぁ……。お姉ちゃん、玲奈上手くできてるかにゃ?」
「最高だよ。ぱんつも降ろして、もっと激しくしてみてね」
お姉ちゃんの目が少し据わっていて怖いけど、ほめてくれたのは嬉しい。
言われたとおりにパンツを降ろした。
お姉ちゃんの光沢のあるおけけにうっとりしてしまう。
「早く舐めて」
「あっ……ごめんなさぁい。玲奈すぐなめなめするにゃん」
顔を上げてお姉ちゃんに謝る。少し首をかしげる位だったけど、許してくれたかな。
そう思ったら、お姉ちゃんが後頭部を押さえつけて無理やり顔を近づけさせた。
「んぶっ……ちゅる……ふにゃあぁ……れろぉ」
「あぁ! いぃ! 玲奈好き!」
お汁もいっぱい飲んで、いっぱい舐めて。
中に舌を入れてかき回したらお姉ちゃんがいっぱい喘いでくれた。
少し大きくなってた突起を吸ったらお姉ちゃんがいっぱい悦んでくれたから、玲奈はいっぱい舐めた。
強くそこを吸ったらお姉ちゃんがたくさん震えて、しゃがみこんでしまった。
「お姉ちゃん……大丈夫かゃ……?」
「ぁ……うん……ふぅ……。よし、よし。……先輩は……今撫でている一つ前に頭を撫でた時の暗示がなくなります。最後にメモ帳を見てから今までに起こったことを忘れます。私に対してもっと素直になります」
「…………あ、……あれ?」
私、何やってんだろ。琴音に頭を撫でられていたみたいで、琴音の手が私の頭を離れると同時に、はっ、とする。
ていうか、琴音、可愛い……。意識が琴音の唇に行ってしまう。私はそこに顔を近づけて……。
「先輩?」
「え? あっ、ご、ごめん」
琴音は悪い顔をして唇を突き出す。私から見たら小悪魔みたいにとってもかわいい。
「はいっ! どうぞです♪」
今までの私なら『無理』って断ってたかも……。
「うん……甘えるね……」
でも、私は琴音が好きだから。甘えても琴音は受け入れてくれるから。私は琴音に再度顔を近づける。私たちは長いキスを楽しんだ。
「先輩はデレると変貌するタイプですね」
琴音は呆れたように、でも楽しんでいるかのように私を笑う。
「だって、我慢できないから」
私は琴音の頬に顔を擦り付け、目を閉じている。あれ、何か忘れているような……。
「京子の浮気調査、忘れちゃいました?」
「あっ!!」
私としたことが。京子を愛でないと……じゃなくて、京子の浮気相手を見つけなければ。誰だ京子に手を出したのは……。私は静かな怒りに燃えつつ目を開き前方に直る。
少し京子から目を離していたせいか、京子は坂道を上がりきっていて、昇降口前で女子生徒と会話していた。ちょっと不機嫌気味に琴音に尋ねる。
「琴音! あれ、誰?」
琴音はくすくす笑いながら答えてくれた。
「先輩ったら、嫉妬しちゃって可愛いなぁもぅ。あれは高根 涼子(たかね りょうこ)さんですよ。先輩だって昨日調べて知ってるでしょ?」
京子にばかり目が言っていたのでよくよく見る。確かに彼女は舞専学園2年生の現生徒会長の高根さんのようだ。
「……可愛い、というより美人ね」
事前調査の段階では何も思わなかったけど、実際に見ると遠目からでもほれぼれしてしまう。シュッとした輪郭と口鼻目眉、それぞれのパーツがバランス良く整っていて、正統派美人だと思う。おまけにスポーツ万能学業優秀、更に空手を嗜んでいるとくれば、まぁ多分カリスマ性のある子なんだろう。
「アリですか?」
「アリね……って、ちょ」
「先輩は見境ないですね~。すぐ食いついちゃうんですから」
私は慌てて琴音の手を強く握って坂道を駆け上がる。だって美人なんだからしょうがないじゃない。
一気に坂を上ったことで琴音は息を切らして膝を着いているけど、私は無視する。ふん。
私は二人に近づくとあることに気が付いた。二人とも、時が止まったかのように笑顔のまま動きがないのだ。京子は口を両手に当て、開いた口を隠している。涼子は私よりも背が高い。もしかしたら170センチあるかもしれない。涼子は京子ににこやかに話しかけている様子だ。
「……………………」
「……………………」
口を半開きにしたまま微動だにしない京子と涼子。念のため二人の顔の前で手を振ってみるけど瞬きもしない。目が乾いてしまうと可愛そうなので目を閉じさせてあげる。というか私が触りたかったからって理由の方が強かったり。
目を閉じてあげて、二人の顔を見比べてみる。頼りがいのありそうな涼子に比べて、くりっとした目が印象的な京子はなんだか守りたくなるオーラ出ている。けど私はやっぱり、いやだからこそ京子に悪戯したくなる。
「ふふっ」
こんな絶好の機会なのだ。私は、二人はどうしたんだろうという疑問、思考の前に京子のスカートを捲り上げる行動を優先した。
薄い赤のスカートを捲り上げ、京子にスカートの端を持たせてやる。これで目の前の先輩にパンツ丸出しの所を見られてしまうだろう。調査によると京子は生徒会の書記で、一学年上の涼子のことを尊敬しているらしい。
まぁ明らかに高根さんって仕事できそうだし面倒見よさそうだからね。
「はぁ……ふぅ……。先輩、一旦下がりますよ」
琴音に軽くキスされたので、おとなしく下がる。彼女達から5、6歩離れたところで、私は琴音の後ろに回り込み、琴音の肩に顎を乗せる。琴音を強く抱きしめる。
「全く甘えんぼうさんですね」
「ぅん……」
ぴったりと寄り添い、京子たちを眺める。傍目からみれば、京子は笑みを浮かべたまま尊敬する生徒会長高根涼子にピンクのパンティを見せつけているのだ。しかもお互い目を閉じたまま。
私が琴音の体の感触を楽しんでいると、琴音はもぞもぞと動き出した。どうしたんだろうと思って琴音を見ると、琴音の顔が青ざめている。
「琴音? どう……っっ!?」
どうしたの? と、聞こうとした時、頭に衝撃が走った。この感覚を私は知っている。壊れそうなほどの快楽と多幸感。瞬時に意識を刈り取られそうな懐かしい快楽の渦。
「気分はどうかね」
悦楽が口からむせ返るような苦痛の時間を経て、私は琴音を放した。琴音はへたりと座り込み、がたがたと身を震わせているのが分かる。私は振り返り、琴音を守れるように彼女の前に立ち半身になる。
「…………えぇ、最悪よ」
私達の心身を隅から隅まで弄んだ男に相対した。実際私一人だけなら血相を変えて逃げ出していただろうけど、後ろに三人も大事な学園の後輩がいるとなるとこの場を逃げ出す訳にもいかない。小刻みに震える体を隠しつつ、精一杯の虚勢を張った。
「折角君達三人を元に戻してあげたというのに」
冗談じゃない。
「それで今度は高根さんの番って訳?」
「彼女の娘はそこの二人とは違って君と同じ大切なアクターだからな」
アクター? 娘? ……。
今まで起こった数々の摩訶不思議な出来事が目まぐるしく脳内を駆け巡る。考えろ。こいつに出来てこいつが出来ないことを。この状況で私が出来る精一杯の事を。
「お前の目的は何?」
「私達は未来の礎だ。君は君の果たすべき役割を踊れ」
そう言い放つと、男は目を瞑った。
「! っ待て!! ……っ! ……ぅあ……やめ…………ろ……」
私が何かを成そうとする前に、男は私の心に侵入する。
私の心が再度塗りつぶされていくのを感じる。どう変えられているのかが分からない。私は、私たちは一体どうなってしまうのだろう。
……。
………………。
「はぅ……ぁ…………。私……」
私は……。浮気調査してて……。阪井……に良いようにされてて……。
最初に洗脳されたときと同じ、ゆっくりと意識が覚醒する。
あれ。私、まともだ……。
状況を把握しようと周りを見渡そうとした時、元気な声が響いた。
「おはようございます! 阪井先生! 峰林先生!」
昇降口前で奇妙な光景が繰り広げられていた。いえ、奇妙なのはずっと前からだったか。
発言の主は京子。そこでは先ほどまであんなに憎んでいた阪井に笑顔で挨拶をしていた。思い出したくもない今朝の挨拶はキスだったが今回は違うようだ。
彼女はスカートを捲り上げ、綺麗な太もも、パンツを堂々と晒しながら挨拶をしていた。
隣で微笑んでいる生徒会長の涼子は満足げに口を開く。
「そうそう。君も生徒会の人間なんだからきちんと挨拶しないとね」
涼子も短いスカートの端をつまみ、当然であるかのように捲る。薄水色のパンティ―が晒された。
「阪井先生、峰林先生おはようございます」
涼子はにっこりとほほ笑み美少女二人は下着が丸出しになった。
琴音は阪井の横にいて、まるで普段と全く同じ様子で二人に話しかけている。
私は丁度阪井の背中側にいる。今、後ろから男を気絶させればこの絶望的な状況から脱せるかもしれない。あの男は危険すぎる。その結果やり過ぎて死んでしまっても構わない。寧ろ死んでしまえ。
私は気配を殺し静かに近づく。
一気に決める。勝負は一瞬だ。後一歩の距離だ。
「阪井!!」
私は大声を出して男を驚かせる。私はこの時の為にダークブラウンのコートを着てきたのだ。私は一気にボタンを外して両手でコートを開き、中を見せた。
当然私はコートとブーツ以外来ていないので裸だ。これで阪井を驚かせて気絶させるのだ。
ところが予想外に阪井は冷静だった。じっくりと私の裸を見て、それだけだった。
私は裸を見られたことに思わず恥ずかしくなって下を向いてしまった。だけどまだ阪井が気絶するかもしれないから、しっかりとコートは両手で開けたまま掴んでいる。
「先輩、おはようございます。今日は教育実習生として来られたんですよね? 紗崎さんと高根さんにしっかり色々なことを教えてあげて下さいね」
琴音が隣に来る。教育実習生?
「そ、そう……ね。えっと……二人とも今日はよろしくね。あはは……」
当てが外れてしまった以上仕方ない。琴音が上手く調子を合わせてくれたのでそれに乗る。まだ男を気絶させて無力化する機会はあるはずだ。浮気調査を最優先にしつつ、阪井の支配から皆を解き放つんだ!
私は琴音と阪井、京子と涼子の雑談に乗るふりをして、京子の浮気相手を探し、阪井の動向に目を光らせる。
京子と涼子はスカートを両手で捲ったまま、私はコートを掴んだまま学校の中に入っていき、教室へ向かうのだった。
< 続く >