催眠事件簿 第3話

第3話

 20XX年
 超能力の存在が確認され、地球人口の1割が何らかの超能力を持つ世界
 そしてある日降ってわいたように身につけたその能力を悪用する人間も現れ始めた。
 各国は法律などでそれに対処してきたがそれにも限界があった。
 そして今日も誰かが自らに宿った力で人々を弄んでいる・・・・

 都心の某所、ここは政府が設立した対能力者犯罪の特務捜査機関、「特殊能力事案対策局」の庁舎がある。
 サイコキネシスやテレポーテーション、電撃やら発火能力、そして催眠・・・多発する超能力犯罪への捜査は
 能力を阻害するテクノロジーの開発や世界規模での努力の甲斐あってある程度は地方警察規模でも対処可能になったが
 能力者の実力次第で凶悪で大規模な事案に発展することも多いこともあって、このような組織が誕生するのは自然な流れであった。
 組織の特徴として、国防や治安維持を受け持つあらゆる組織はもちろん、実際に超能力を持つ人材を積極的に取り入れていることが挙げられる。
 能力者の逮捕・無力化に直結する実戦に役立つ能力はもちろんのこと、読心術や予知能力といった心理系能力者を採用して捜査に活用することも行われていた。

 『特事』こと特殊能力事案対策局に出向という形で所属する警察官、小島正平は庁舎のゲートを出て、車を走らせながら隣に座る若手の質問に答えた。
 この組織は能力者による事案に対し、あらゆる分野のエキスパートを集めた組織・・・と言えば聞こえがいいが、寄り合い所帯のような側面が強い。
 実際のところ、超能力という未知の分野に対して政府は手さぐりで対応にあたっているというのが実情だった。これについてはどの国も似たり寄ったりだ。
 隣に座る饗庭恭介は、今こそ警察官である饗庭と共に背広を着こんでいるが、元は政府のとある機関の人間らしい。
 20代中盤の今風の若者のようなこの男もこの組織に来るにあたって諸々の情報保全や審査をパスしている。それに加えて能力持ちでもあるらしい。

「ところで小島さん、これからどこに行かれるので?」

「あ? お前何言ってんだ。これから能力者による押し入り強盗事件の被害者に聞き込みだ・・・ろ・・・」

 突然、小島の目の前が暗くなる。それは実際瞬きと同じくらいの一瞬の出来事だったのだが、小島には長く感じられた。
 何かが頭の中に侵食する感覚が通り抜けた気がした。

『小島さん、その件捜査中止になったんじゃありませんでしたっけ?』

「う、・・・ぁ?」

 部下の言葉に違和感が残った。

 ソ ン ナ ハ ズ ナ イ ノ ニ ・ ・ ・ ツ カ レ テ ル ノ カ ? オ レ ハ ・ ・ ・

~2時間後、特殊能力事案対策局局長室~

 マンガに出てきそうな博士キャラの男、と政治家やらマスコミやらそういう人たちから揶揄される男、その名も饗庭恭造。
 優秀な学者でありながら自身も複数の能力を使いこなすこの男こそ、饗庭恭介の父であり特殊能力事案対策局の初代局長その人である。
 饗庭恭介はその局長室の大仰なドアをさも自宅のドアのように自然に開けて入室した。

「終わったよ、父さん。」

「おお恭介! わが息子よ! すまんのう! こんな尻拭いを手伝わせてしまって…」

「いや、まぁそれはかまわないんだけどさ。そうやって謝るシチュエーションにしてはちょっとひどすぎると思うんだけど」

 そういう恭介の目の前には一糸乱れず整列した女性局員たちの姿があった。
 その顔触れは様々だ、政府や警察、自衛隊等から出向してきたキャリア感バリバリの美人から、能力者ということで特別に局員待遇で任務にあたる年端もいかぬ少女たち。
(何故かその少女たちは魔法少女っぽいコスプレ衣装を着ている。これは恭造の趣味で「強引に」導入したれっきとした制服の一つである)
 恭造曰く、この組織の女性局員は完全に見た目の美しさだけで採用しているとは二人きりの席で聞かされていたが
 彼女らはその中で何らかの素養を持ちえた幹部クラスや即戦力と言われる優秀な人材たちだった。

「仕方あるまい、ワシらの裏稼業がばれてしまっては、ワシ以外の仲間に迷惑がかかるのでな」
「これもやむを得ない処置じゃ、能力を使って人を傷つける悪がいる以上、この組織をなくすわけにもいかん」

「なんか善人ぶった言い方してるけど、そういうあんたも悪者側だってことは理解してる?」

「まぁのー、それはそれ、コレはコレ」

 能力者という存在が世界に知られ始めた時代、ある強力な催眠能力者が立ち上げた秘密結社があった。
 それは一部のある性癖を持った催眠能力者たちが、自分の能力で目当ての人間を支配し、奴隷にすることを目的としたものであり、恭造はその中心人物の一人であった。
 いつしか組織は自分たちも驚くほど肥大化し、国家の中枢を裏から支配するほどの力を得ていたのだ。
 ある国では王族の女性たちをモノにしたいとある幹部の意向で王室を支配し、姫君やメイドを肉便器にしているそうだが、独裁をしているわけではない。
 あくまで目的外の無関係な市民に影響を与えないというのも結社の掟の一つだった。
 ただし、末端構成員が奴隷を手に入れたりする場合等にサポートを行ったり、催眠奴隷の取引等を行ったりと、人道的にアレな組織であることに変わりない。
 特殊能力事案対策局はそんな偽善ともつかないそんな正義感(?)を持った結社の幹部の一人である饗庭恭造が立ち上げた組織なのだが・・・

「だから言ったじゃん、こうやって能力者集めてたらいつかはバレるって」

「いや、でもワシこう見えても対能力者の研究とかすごいし、大丈夫かなって」

「でも結局失敗だったじゃないか」

 きっかけは2週間前、今饗庭親子の前で整列している対策局の女性幹部達がこの結社の存在に気付いたことがきっかけで、あわや局長である恭造が逮捕されそうになったことだ。
 恭介自身と恭造の息のかかった部下は事前に女性陣の動きを察知しており、対処を進めていた途中、部外の組織への根回しだけでいいと恭造から指示された。
 恭介らは首をかしげたが、後日になって恭造の能力の恐ろしさを垣間見ることになる

「はい、みんなちょっとタンマ」

 それだけだった。
 女性陣が局長室に押し入った瞬間に発した一言、これだけで恭造と恭介たちを除く施設の建物にいた職員の思考は一時停止したのだ。
 そこからは恭介達が唖然とする中で物事が淡々と進められていった。
 女性陣一人一人に向き直り、二言三言声をかけた後、丸1日かけて施設内の各部署の職員らに「声掛け」をすませていった。
 なんだかんだで恭介もそういう性癖と能力を持った人間ではあり、いつもなら興奮してしまう光景ではあるが
 あまりのあっけなさと強力な催眠能力を見せつけた自分の父親に、恭介は成人してから初めて、この破天荒な父親に対して恐れを抱いたのであった。
 そんな息子の恐怖の念を気づいているのかいないのか、恭造は整列する女性陣の指揮官に話しかけていた。

「いやー、【施設職員への奉仕任務】ご苦労様だね。」

「いえ! 愚かにも局長に刃向かった我々にこのような任務を与えてくださり、感謝しております!」

 キャリア感バリバリの今回のクーデター騒ぎの首謀者である雅かおる副局長がいやにはきはきとした調子で応える。
 ここしばらく、恭介たちが全国各地で活動してる局員や、外部の連中への後始末で出払ってる間、恭造はクーデター騒ぎに荷担した女性陣に対してある仕事を行わせていた。
 それこそ、食事、睡眠、風呂を除くすべての時間で男性用トイレで職員の性欲処理に当たることであった。
 恭介は結局「使う」機会がなかったのだが、それが彼女らにとってどれほどの罰だったかは想像に難くない。
 副局長の後ろに並んだ女性たちに目をやると彼女らはそれぞれ何か言いたげな顔をしつつもそれぞれの制服やスーツ、そしてコスプレっぽい魔法少女の衣装に身を包んでいる。
 下半身素っ裸で、がに股で立たされている彼女らの股からは男の体液が際限なく溢れ、さめざめと泣く者や怒りや悔しさに顔を歪ませる者がほとんどだった。
 おそらく恭造によって体の自由を奪われているのだろう、上半身、というか体中が精子まみれで、臭いが鼻についた。
 そんな彼女らを尻目にバカみたいに恭造を賛美し、酔いしれてる雅かおる副局長殿はある意味シアワセだろう。
 あの時以降、人格を完全に破壊したんじゃないかというレベルまで洗脳された彼女は後ろに並ぶ女性陣が感じる無念など微塵も感じていないだろうから

 こうして、特殊能力事案対策局の組織改編は外部に伝わることなく完遂されたのである。

< 続く >

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