鑑賞用催眠人形 第2話

第二話

「どうやら今週のターゲットも決めたようだね」

「はい、校長、今回も必ず素晴らしい作品をご用意致しますので、どうか楽しみにしていて下さい」

「そうか、君には期待しているからね、前回の人形も大変好評だったみたいだ」

「それは良かった、素晴らしい引き取り先で、じっくりと鑑賞して貰えるんだ、きっと人形達も喜んでいると思います」

「はっはっはっ!君はなかなか面白いことを言うな」

「いえいえ、そんなことは……あ、そろそろ少女が来る時間だ、旧校舎の扉を開けておかないと」

「そうか、それは急がないといけないね、さぁ、早く少女を美しく変えてあげなさい」

「……はい、校長」

 学園内の事件は未だ未解決のまま。
 ニュースになっている新しい行方不明の少女も、やっぱり見つかっていない。
 どうやら新しい行方不明者は、4組で美人と噂の少女らしい。
 何度か図書室ですれ違ったことのある、色素の薄い髪をしたあの子のことだろう。
 ガラスケースに飾られている人形によく似た……とても綺麗な女の子だ。
 彼女は今、何処で何をしているのだろうか。
 そして何より、この人形と何か関係はあるのだろうか。
 いくら考えてみたところで、答えなど出るはずもない。

「その人形が気に入ったのかな?」

 ギシっと言う床の軋んだ音と共に、奥のほうの教室から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
 そちらを振り返ってみれば、ほら、やっぱり。
 あの不気味な優しさを漂わせる、その男性がこちらを見ていた。

「……先生」

 ギシッギキィ。
 先生が近付いて来るその足音に合わせて、不快なその音も一緒に近付いて来る。
 私はその音にほんの少しだけぞくりとしたけれど、どうしてか私はその音が嫌いではなかった。
 っというか、先生という人物を私は多分それほど嫌ってはいないので、その音への不快感もそんなに強くは感じないのだろう。
 先生はいつも私にたくさんの話を聞かせてくれる。
 私はなんだかんだ、先生と過ごすお昼休みが心地良いのだ。

「髪の綺麗な人形だろう? そして大人しそうな顔をしているのに、実はわがままそうな八重歯を持っている、この人形はきっとたくさんの人が欲しがるはずだ」

「……欲しがる、この人形、どこかに売り出されるの?」

「鑑賞用に作った人形だからね、誰かに鑑賞されないと意味がないだろう?」

「……もしかして、先生がこの人形を作ったの?」

「…………そうだなぁ、もっとこの話を聞きたいなら、あっちで一緒にお茶でも飲みながらにしないかい?」

 ガララ、と先生は近くにある教室の扉を開けた。
 先生はそのままスッとその教室へと入って行ってしまったので、私は急いでその後を追う。
 特別、その人形や事件との関連性に興味を持ったわけではない。
 確かに元々疑問ではあったが、私が知りたいのはむしろ先生のほう。
 ミステリアスなその先生が、この不思議でなんとも奇妙な人形に関わっているなんて、私でなくても絶対に気になってしまう。
 っというか、先生はいつだって人に興味を持たせる語りをするのが得意なのだ。
 その語りに私や他の生徒をブクブクと溺れさせ、授業は勿論、お昼休みという私にとって苦痛な時間も、あっという間に終わらせてしまう。
 
「……この人形はね、特別な人形なんだ」

「……特別?」

「そう、特別、だけど君だって特別だろう?」

「……私が? どういう意味?」

 すると先生は水筒からお茶を注ぎ、私へと渡した。
 くらくらとめまいするような、不思議な香りがそのお茶から漂っている。
 先生は目を少し細めて「お茶でも飲みながらと言っただろう?」そういって私のほうを少し見ながら、不気味に笑った。

「お昼休みはまだまだ長い、ゆっくり話をしようじゃないか、あ、そうそう、君はこのお茶をとても気に入ってくれたみたいだね?」

「え? わたしが?」

「覚えていないのかな? 昨日ここで一緒に過ごした時、君はこのお茶を……ハーブの香りを堪能していたじゃないか」

「……ハーブ、かお、り?」

 そうして話をするうちに、段々と瞼が重くなっていくのを感じた。
 あぁ、そういえば確か昨日も、こうやってお茶を飲んでいた気がする。
 このお茶を飲んで、ハーブの香りに包まれて、先生の言葉でより一層リラックスして……それから……
 昨日の夜、どうしてか思い出すことが出来なかったその記憶が、ゆっくり、ゆっくりと、私の記憶の海から浮かんで来る。

「……」

「そう、昨日と同じように、君はリラックスして良いんだ」

「……リラックス」

「ところで、君は今、下着を身に着けていないね?」

「……シタギ」

「その理由は、何だったか思い出せるかな? ほら、もっと香りに集中して?」

「……」

「大丈夫、ゆっくり、ゆっくりで良いよ?」

「…………ケ、ツラク」

「そう、よく思い出せたね、さすがは僕が選んだ少女だ」

「……」

「今日もまた、僕は君を欠落させてあげようと考えている」

「……」

「今回は、君の感情を欠落させようと思う、人形になる為には、無になることが何よりも大切だ、分かるね?」

「……カンジョウ、ムニナル」

「あぁそうさ、君に感情なんていらない、だって感情なんて物があるから、心無い友人からの言葉で、君は傷付いて来たのだろう?」

 ハーブによるリラックス効果だろうか。
 私はいつも以上に先生の語りに引き込まれ、吸い込まれている。
 いつだって私を傷付けて来た、酷く棘の多い言葉達。
 あぁ、そうか。
 そうやって私を傷付けるものを、いちいち相手にするほうが馬鹿だったのだ。
 棘を気してしまうから、私は怪我をしてしまう。
 けれどそんなたくさんの棘、いいえ、茨の中に咲く1輪の薔薇になってしまえば、私はきっと美しくなれる。
 誰も私を汚させない。
 誰も私を傷付けない。
 だって、私はガラスケースの中で輝く薔薇、いいえ、お人形だもの。

「さぁ、さっきよりも意識が遠くなって来たね」

「……」

「今から君の感情を欠落させる、分かっているね? 君は今から何をされても何も感じなくなるんだ」

「……カンジ、ナク」

「そう、例えば今から僕が君にどんなことをしたって、君はまったく傷付いたりしない」

「……」

「だって君は完璧だろう? どんなことをされたってその事実は変わらない、だから、君はもう傷付く必要はないんだ」

「……キズツク、ヒツヨウ」

「君はずっと感情なんて物のせいで悩んでいたんだ」

「……」

「だけどもう大丈夫、君を傷付ける鎖はもう外れた」

「…………」

「さぁ、感情という欠陥品は……捨ててしまおう」

 そう先生が言ったのとほぼ同時だったと思う。
 グン!っと喉の奥に、何か太くて硬いものが入って来たのが分かった。

「!?」

 嗅いだこともない独特の香りがくちのなかに広がる。
 先のほうからは、何かぬるっとした液体が出ているし、どんどんその太いものは硬さを増していった。

「これが何か、分かるかな?」

「ッ、ツ!」

「おちんぽって言うんだよ、もしかしてこうやって咥えるのは、初めて?」

「オ、オヒン……フォ」

「そう、よく言えたね、どう?おちんぽをくちに無理やりくちに入れられて、君は嫌だったかい?」

「……! ツッ!」

「……ほら、よく考えて? 君はこうされて、嫌だったかい?」

「…………ッ」

 その質問に私は何も答えられなかった。
 だって、私は今何ひとつ嫌だと感じていないのだ。
 先生におちんぽをくちの中に入れられただけ。
 ただそれだけのこと。
 嫌だという理由もないし、抵抗する理由も勿論ない。
 先生のおちんぽが私の口内をどんなふうに使ったって、私が傷付く必要はないのだ。
 だって何度も私はこのくちの中に果物や肉や魚や野菜、お菓子や飲み物を入れて来たじゃないか。
 それをおちんぽだからという理由で拒むなんてどうかしている。
 そう、私は何も間違っていない。
 これだって、飴やアイスを舐めるみたいに、じっくりじっくり溶かしていけば良い。

「っ、へぇ、自分から舐めるなんて、君はなかなか素質があるみたいだね」

「……」

「ふふ、髪が邪魔になっているみたいだね?よだれでせっかくの綺麗な黒髪がベトベトだ」

「…………」

「じゃあ、次はどれだけ無感情でいられるか、試してみようか、な!」

 先生は私の髪をグイッとひっぱり、おちんぽを喉の奥のほうまで入れて来た。
 今にも吐き出してしまいそうなくらい、勢いよく私のくちの中へ出し入れを繰り返す。
 けれどそんな私を苦しめる行為をしている先生の顔は、なんとも楽しそうな表情をしていた。
 つまり、私はこの人を喜ばせているのだ。
 今まで不快だと暴言を吐かれて来た私が、こうやって誰かを喜ばせ、楽しませている。
 きっとそれは他の誰でもない、私だから出来ること。
 私が美しい人形になれる人物だからこそ、出来ることなのだ。

「ンン、グッ……ムゥ! グゥ…………ウ!」

「苦しいかい? 苦しいよね? だって君は感情は欠落していても、まだ肉体の感覚は人間のそれと同じなのだから、苦しいに決まってるんだ」

「グ、フゥウ!!! ンン、ゥア!」

「例えどんなにこの行為に対して嫌だという感情がなくたって、喉の奥まで何度も出し入れされれば、君はやっぱり苦しいだろう、現に今の君の表情は、どう見たって快楽的なものでは無い」

「……! ン!!! ッツ……!」

「…………はぁ、どうやら感情は、きちんと無くせているようだね、成功だ、君は今日も美しい人形に……近付けた!」

「…………!? ン、ゥ」

 おちんぽがさっきよりもずっと硬く、張っているのが分かる。
 くちの中がおちんぽでもうキツキツだ。
 きっとこれ以上大きくなったら、私のくちでは入りきらない。
 そんなことを考えていると、先生が小さく「イク」っと呟き、その瞬間ドクン、っと跳ねるような感覚がした。

ドピュ……ドピュドピュ! ビュクッ、ビクビクン!

「!!!?」

 くちの中に生臭く熱い液体が注ぎ込まれる。
 何が起きているのかは分からない。
 ただ、脈打つ先生のおちんぽに合わせて、くちの中に勢いよくその液体が出されたのだ。
 私はどうしたらいいのか分からなかった。
 けれど先生がこっちをじっと見ているので、私は急いでこの液体をどうにかしないといけないと感じ、そのままごくり、とそれを飲んだ。

「ゲホッ! グェ……ゲホッ! ゲホッ……ェエ!」

「はぁ、はぁ、ははっ凄い、きちんと飲むことが出来るなんて、君はやっぱり素晴らしい」

「……ハァ、ハァ、ッ」

「だけど君はあくまでお人形だ、次はそんな風に苦しんではいけないよ」

「……ハァ…………ハッ」

「明日はきっと、もっと君は欠落できる、大丈夫、だって君は昨日より今日のが美しいんだ、あと少し、あと少しで、君は完全な美の象徴、人形へと生まれ変われるだろう」

「…………ッ」

「今日は少し疲れたね、さぁ、ゆっくり目を閉じて? 君は今日のことを一時的に忘れるだろう、だけどあの香りを嗅げば、またすぐに思い出せるよ」

「……」

「もう、あの香りは覚えたね?」

「……カオ、リ」

「あぁ、そうだ、あのハーブの香りだよ、分かったら今日はもう眠ってしまおう、ゆっくり、明日を待ってみれば良い、君はここに来れば変われる、そうだろう?」

「…………」

 瞼の重さを感じながら、私は今日の記憶を少しずつ沈めていく。
 けれどなんの心配もいらない。
 大丈夫。
 だって……ただ記憶を沈めているだけだもの。
 すぐにその記憶に繋がる鎖を引き上げて、そっと脳内へと戻せば良い。
 ただ、それだけ……

「やぁ先生、今日の少女はどうでしたかね?」

「そうですね、まだ未完成とはいえ、なかなか魅力のある人形になりそうです」

「そうか、ちなみにこの間の人形だけど、宮部様に鑑賞されることが決まったそうだ」

「宮部様の、それは良かった、きっとあの人形も宮部様のような方に鑑賞していただけるのを待っていたことでしょう」

「……全く、やっぱり君は面白いことを言うな」

「いえいえ、ただの人形なら『観賞』するだけで良い、だけど、僕の作っている人形は、あくまで『鑑賞用』ですから」

< 続く >

1件のコメント

  1. 1話、話2共に読ませてもらいました。
    人形に対する芸術的観念での情熱や催眠のかけ方の丁寧さはとても素晴らしいと思います。
    此の感想が届いているかは分かりませんが、感想を伝えさせてもらいました。

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