リアル術師の異世界催眠体験6

※この作品には一部フィクションが含まれています。

 

 

◆西の塔の剣士

 

 

 ――ミリちゃんの魔術実験から3日。

 

「……ここでの暮らしにも慣れてきたなあ」

 などと言ってみるが、実のところショックというか、困ったことが起きてもいる。先日、この世界に召喚されて以来気になっていたことをミリちゃんに尋ねてみたのだが――。

 

 ――回想ここから。

 

「元の世界にはどうやって帰るの?」

「……そういえば、神盟者が元の世界へ帰ったという話はついぞ聞いたことがないですね」

「マジ?????」

 

 回想ここまで――。

 

 あんまりじゃない?

 それではと、当面の目標について聞いてみても――。

 

「魔王とか居たりしないの」

「なんですかそれ?」

 

 ――と来たのだった。

 

 どうやら自分の催眠術が役に立つとわかって、当面の目標だった大賢者ミリちゃん爆誕についても……運用とか改善の余地はありそうだけど――ひとまず達成。

 何のために必要か、と言うとどうやらこの世界、人間同士での戦争が絶えないみたいだった。嫌だね。

 とりあえず今はミリちゃんはこの王都シレニスタに居残っての内政任務に就いているそうだから、神盟者とかいう立場である自分の仕事も、当分はあるわけではない。

 一応、例の大雨が何だったのかの説明は上にあげて、『神盟者レシヒトは魔術を強化する能力を持っている』という体で報告してあるとのこと。まあ、間違ってはいないよね。

 ミリちゃんは目下報告書の作成やら、催眠による大魔法現象の利用計画やらを机に向かってガリガリやりつつ、空いた時間ではトレーニングと銘打って催眠遊びをしている。これも間違ってはいない、ミリちゃんが催眠に深く掛かれるようになるほど、大賢者ミリセンティアは強力な魔法使いになるはずなのだ。

 時間が許せば、ミリちゃんには大掛かりな催眠で想像力を鍛えてもらっている。もちろん僕とリルは、それを全力で面白がっている。

 

 そんで今は、かの賢者さまは書類仕事をしており――神盟者レシヒトは待機しているというわけだ。

 

「暇なんだよな、それは」

 困ったものだった。催眠術師を退屈させちゃいけないぞ、碌なことをしないんだから。

 

「おや。おはようございます、レシヒトさん」

「あ、リルさん」

 そうして散歩をしていると、洗濯物の桶を抱えたリルに出会った。彼女は桶をいったん置いて、ぺこりと挨拶してくれた。

 周囲に人の目は……ない。もともと宮廷魔術師の塔の周辺には、あまり王宮の人間もやってこないのだ。やりやすくて助かる。

 では早速――碌でもないことをしていこう。

 

「今日はいい天気だね、せっかくだし……『リルの宿題』の調子は?」

「……ぁ」

 途端に、リルはぼんやりと立ち尽くしてしまう。『リルの宿題』はここ3日使っている彼女のためのキーワードだ。目的は単にイタズラだけど。

「リルは……今日も、言われた通りに催眠状態になれました。それがとても嬉しくて……幸せになれるよ。リル。君は心から幸福を感じる。うっとりと……それに浸ることができる」

「ぁ……♥」

 自分は親切な善良催眠術師なので、こうしてキーワードで催眠状態になるだけでも、ふわふわとした恍惚を味わわせてあげるようにしている。こうすることで、何度でも掛けてもらいたくなるからだ。善良催眠術師は相手のメンタルケアを忘れないのである。

 

「幸せになったら……さて、今日の宿題は何だった?」

「今日の宿題は……おしっこをすると感じてしまうことです……」

「そうだったね。報告してよ」

「昨日から……5回、おしっこをしました。……5回、イきました。おしっこを出すと……腰がむずむずして……声が出てしまいました。こぼれないようにするのが、やっとでした。おしっこが気持ちいいのは、当たり前なので……気にはなりませんでした」

 さすが、リルは優等生だなあ。

 彼女は以前の後催眠暗示がずいぶんと気に入ったらしく、よくせがんでくるようになった。特にエッチな後催眠を知らないうちに仕込まれて、後で全部思い出す瞬間がたまらないのだそうで。

 変態じゃないか。知ってたけどさ。

「わかりました。では明日までの宿題を出してあげる」

「はい……」

 こうして、宿題を回収したら次の宿題を出す。何にしようかな、毎回特に考えているわけではなく、その場のノリで無意味でアホでエッチな宿題を出している。

「リルが、部屋で一人で休んでいる間は……無意識に乳首を弄ってしまう。手が空いていると、なぜだか自然に胸にいってしまい……ぼんやりしているとすぐ、乳首オナニーで気持ちよくなってしまうよ」

「……ちくび……いじる」

 リルは、こうして催眠状態になり、暗示を入れられている間でも意識がある。きっと内心『そんなん気付くに決まってるじゃないですか』とか思っているんだろうな。でも大丈夫。

「気付いたらやめることができるけど……それが催眠のせいだという考えは、何故か出てこない。また一人でぼんやりすると、どういうわけか、やっぱりすぐに乳首を弄ってしまうね……」

「……ぁ……」

 おかしな行動をさせる後催眠暗示への認識をどのようにさせるかは、3つの方法がある。1つは、『特に関与しない』。まあリルなら『これは催眠暗示のせいに違いない』と気付いて、抵抗するか暗示が抜けてしまうかだろう。2つ目は、『それが普通だと思い込ませる』。『おしっこが気持ちいいのは当たり前だから気にしない』という、さっき回収した『宿題』で使ったやつだ。常識改変とでも言うだろうか。

 そして今回やっているのは3つ目、『疑問を持てないようにする』の一種に当たる。使い勝手がいいので、リルみたいな疑り深い性格でも催眠を楽しめるようにするために、重宝しているやり方だ。

 ちなみに、以前リルを発情させたときには、『催眠でこんなことはできないので、催眠のせいではない』という考えを持つという、2と3を合わせたような暗示を使っていた。

 

「それじゃあ、この宿題は深く……深くしまい込んで、思い出さずに持って帰りましょう。さあ……『宿題を返すよ』」

 ぱんっ。強めに手を叩く。

「……ぁっ」

 すうっ、と意識が戻ってきたような反応。リルは催眠中、意識があるようだけれど……そういう相手には、こうして忘却暗示を入れてから勢いよく起こすのがよい。

「うう……また入れられた……」

「下腹部を擦りながら誤解を招くことを言わないでくれませんか」

「さっき、絶対聞いてたんですよ……でも思い出せないのです」

「みたいだねえ」

 ――といった具合に、聞いたことや考えていたことが全部飛んでしまうのだ。上手く行かない相手も居るには居るが、リルにはうまいことこれで入る。彼女自身も楽しんでいるのが大きいのかな。

「起きたら、さっきまで見ていた夢が思い出せないってことない?」

「あります……そんな感じです」

 

「それじゃあ、ご褒美をあげるね」

「はい?」

「リル、『答え合わせをしよう』。宿題、ちゃんとできたね。えらいえらい」

 ぽんぽん、と頭に手を置いてあげる。これは、リルが一番好きなやつの合図。

「ぁ……っう、わ」

 答え合わせ――つまり、前回の暗示を思い出すのである。

 トイレに行くたびに、おしっこをして気持ちよくなって、イったこと……5回だったっけ。それを今、ちゃんと理解して思い出している。

 普通だと思っていたことが、実は催眠暗示で捻じ曲げられていたのに、気付いていなかっただけ。

 ――リルは、そういうのが大好きになったようだ。

 

「……う、うぅぅ……なんで私、トイレで気持ちよく……」

 見る見るうちに真っ赤になって、下腹部を押さえる。誰かに見られたわけではなくとも、やっぱり恥ずかしいものだろう。それ以上に、操られていた事実に気持ちよくなっているのかもしれないけど。変態だしなこの子。

「そういうものだったんでしょ?」

「意地悪ですね……うー、今日は何させられるんでしょうか……」

「やだ?」

「……いえ。すっごく、楽しいです」

 うーん。リルもやっぱり、可愛い。

 

「そういえば、宿題って言葉を使っておいてなんだけど」

「はい」

「リルさんは学校とか、わかるのかな」

 この世界の文化水準、よくわからない。

「あー……はい、まあ。この国の学校は出ておりませんが」

「ふうん。他の国から来てるんだ?」

「……ええ、そうですね。北の方の出身です……ほら、他の方より少し色素が薄いでしょう?」

 言われてみれば、そうかもしれないな。北の方に何があるのかとか、よく知らんけど。

 ……いや、一つ知ってたか。

「北って、あれ。確か……」

「そうですね、現在戦争になっています」

「うへー。実家とか、大丈夫なんですか」

「それは――まあ、はい。気にしないでくださいね?」

 リルの出身は、北方だという。それは多分例の戦争相手の国なんだろう。すると、立場とかけっこう、辛いこともあるんじゃないのかな。

「よかったら今度、話聞かせてよ」

「そうですね、今日のところはお仕事もあるので、また今度でしたら」

 うん。そういう複雑そうな事情を抱えているんなら、彼女にはストレスを溜めさせず、気持ちよく過ごしてもらいたいな。リルの大好きな、面白おかしいスケベ暗示を、今後もじゃんじゃん入れてあげなくてはならない。

 善良催眠術師として、決意を新たにした。

 

「あ、その荷物くらいなら持つよ」

「神盟者の方にそんなことをさせるわけにはいかないですよ」

「そういうもんなの?」

「見つかったら私が怒られてしまいますので」

 そうか……。身分というか雇用関係というか、そういうのって大変だなあ。

「じゃあ、どうしても駄目?」

「……ええと、一応……私と同じく使用人として働いている神盟者の方も、いるんですが」

「へえ、会ったことないや」

 ミリちゃんの神盟者は自分一人だけ、と聞いている。その神盟者は西の塔の魔術師が召喚した奴、ということになる。

「でしょうね。彼女は出征中ですから、北方戦線の方へ」

「あれ、またさっきの話に戻っちゃったな」

「ふふ、気にしなくていいと言ったじゃないですか。彼女――ミライさんは、少し変わった方なんです」

 その神盟者は、ミライという名前で、女らしい。おや、ことによると同じ日本人ってことがありえるか?

「変わってる? ちゃんと食事を摂らないとか?」

 前にそんな話を食堂で聞いた気がする。

「ええ。ミライさんは食事を摂られないですね……彼女は、人間とは違うそうです。それと、本人の希望で、西の塔の侍女を兼務しています」

「ふーん。いろんな奴がいるんだな……」

 残念だけど、同郷ってことはなさそうだった。自分の暮らしていた世界に、人間以外の知的生命体は多分まだ居なかったので。

「ですが、レシヒトさんも変わっていますよ」

「ほう、どうして?」

「こんなに普通の人っぽい神盟者は他にいませんでした」

「そう……」

 同郷の仲間、期待できそうにないな……。

 

「まあいいや、他にも雑用をする神盟者がいるんだったら、自分がやっちゃいけないこともないだろ」

「そう言えないこともないですが……いいんですか?」

「暇なんだ、手伝わせてよ。ミリちゃんは構ってくれないしさ」

「……ふふ、わかりました。それでは、残りを持ってきますので、一緒に運んでいただけますか?」

 そういうわけで、自分とリルは二人で洗濯物を運ぶことになった。

 

 

 ――。

 

 

「よいしょ、っと」

 洗い場は王宮を挟んで反対側、西の方にあった。これは結構な重労働だね。

「お疲れ様です、ありがとうございました」

「いやいや。ところで……あれが西の塔?」

「あ、そうです。見た目は大体同じだと思いますが」

 今まで王宮の食堂や中庭までは来ていても、西側に来たのは初めてだ。なので、西の塔を近くで見るのも初めてだった。

 西の宮廷魔術師アウレイラとやらが住むという塔は、周辺ともども静かだった。

 

「ちょっと見に行ってもいいかな。ミリちゃん、西の話をすると怒るんだもん」

「あー、はい。いいですよ、ご一緒します」

 

 

 ――。

 

 

「ほーん」

「西の魔術師様と、神盟者の多くは、北方戦線に出向しています。この塔にはほとんど誰もいなくて、留守の番のために何人か残っているくらいですね」

「……あれが、その、留守番なわけ?」

 西の塔の佇まいは、確かにミリちゃんの東の塔と大差ないようだった。そして、一人の剣士と思しき……男? か? まあ剣士が、不機嫌そうにうろうろと、塔の周りを歩き回っている。

「はい。西の神盟者の一人、ユキツナ様です」

 

「……“東の”侍女リル様。それから……そちらはどなた様か?」

 ユキツナと呼ばれた男? の瞳がぎょろりと動き、こちらの姿を捉えた。

「ええと、僕はレシヒト。レシヒト・マネカで通っている。あー、貴方はガチャで呼ばれた……、その、西の塔の、神盟者? かな?」

 ちょっとしどろもどろになる。いや、だって仕方ないだろこんなの。聞いてなかったぞ。

「如何にも。我、名をユキツナと申す。……レシヒト殿、此処に如何なる用で参られたか?」

 ちゃき、と音がする。あれは刀だね。誰だよ異世界に日本刀がないとか言ったやつは。

 そして、その声も眼光も、なんなら顔つきまで、この男? は刀のようだった。

「いや、散歩に来ただけだよ。邪魔して悪かったね……ところで、君はどんな世界から来たの……?」

 

 剣士ユキツナは――顔面が、どこから見ても魚だった。

 

「我、大洋の世より参った。無辺なる海に生きる一族の海よ。我ら一族は泳ぎを止めることなく、陸をも手にした……が、よもやこのように陸の民が栄える地があろうとは」

 ユキツナの顔を見て話を聞こうとするが、どっちの眼球を目を合わせたらいいかわからない。と言うか、この顔立ちはマグロだな? ツナってそういうことか?

「まあそうだよね、泳ぎを止めるのはよくないだろうね」

 マグロはそうだろうね。歩みを、じゃないあたりが魚の言葉なんだろうな。笑うところじゃないんだろうけどさ。

「レシヒト殿、我は貴殿の出自に興味は持たぬ。疾く立ち去るのであれば友好を結ぶこともできよう。……しかし、此の塔に狼藉を働くのであれば、その頭落とし、身を三枚に下ろしてくれよう」

「ユキツナさん、レシヒトさんはそんなことは……」

「いや、いやいや、マジで何もしないって。自分来たばかりだったからね、あまり近寄らないようにするから、まあ、よろしく頼みますよ。その方がそちらもいいでしょう」

「宣に」

「では、行きましょうか……レシヒトさん?」

「ああ。ユキツナさんも、また」

 自分たちが立ち去ると、ユキツナ氏はまた不機嫌そうに、塔の周りをぐるぐる回り始めた。

 

 

 ――。

 

 

「手伝っていただいてありがとうございました。それと、驚かせてしまったみたいで」

「ええと、顔に?」

「それはともかく、いきなり脅されてしまいましたから」

 ともかくでいいのか?

「まあ、職務に忠実な人? 人……? 方なんだろうさ。大丈夫大丈夫」

 三枚下ろしはちょっと遠慮したいが。

「神盟者の方は普通、あのように武勇に長けた方が多いです」

「そうなんだ……やっぱり自分は外れってことなんだろうなあ」

「……そんなことはないと思いますよ。私は、レシヒトさんで良かったと思います」

「うん、ありがと……」

 わかってるぞ。どうせ、リルのことだから、エッチなイタズラで気持ちよくしてもらえるから自分でよかったって思ってるんだろう。知ってる。

 

「それでは、まだ他に仕事もありますので」

「あ、待って。うちの塔にはああいう門番って居ないよね」

「……まあ、居ませんね。西と違い、神盟者の方は一人しかおりませんから」

 まあそこだよね。

「やっぱり居た方がいいのかなあ、それとも自分がユキツナさんみたいに見張りをするとか?」

「必要であれば、衛兵を回していただくことはできますが」

「ふむ」

 衛兵。王宮のいろんな場所で見かける。双頭の竜がデザインされた――恐らくはシレニスタ王国の――紋章のついた鎧に、木製の柄に穂先をつけた槍で武装した兵士たちだ。

 総じて歳は若く、10代の者も多い。話してみると街の青年や、田舎から出てきた若者などが、簡単な試験で採用されるという話だった。

 

「ミリセンティアさんに相談してみますか?」

「そうだね……面白いかも、しれないなあ」

 また一つ、思いついたことがあるのだった。

 ――これはちょっと、楽しいことができるかもしれない。

 

 

 

◆東の塔の衛兵 その1

 

 

 

 僕はトーマス。この王都シレニスタで働く衛兵の一人だ。

 16歳で田舎から出てきて、運良く見つけた働き口。まだ働き始めて2か月の新人なんだけど、昨日、転属が決まったらしい。

 

「ここが東の塔か……」

 新しい勤務先はこの、東西に一つずつ存在する宮廷魔術師の塔……の、東の方。僕はどうやら、この塔の番兵として勤めることになるらしかった。

 

 ごくり。

 

 思わず唾を飲んでしまう。ドキドキして、喉がカラカラだった。

 だって。

 だって――この塔には、あの――あの、リルさんが住んでいるんだから。

 

 リル・セイレナンドさん……僕の、僕の憧れの人!

 田舎から出てきたばかりの僕にも、いつも優しくしてくれて……北方民族由来の透き通るような髪、すらりと伸びた脚、甘い声、穏やかな笑顔、それからふわりと柔らかそうな、む、胸――。

 

 ――い、いけないいけない。あんな綺麗な人に対して、僕ってやつは何てことを。

 

 転属先が決まったとき、僕は嬉しすぎてしばらくぽかんと呆けていたらしい。

 本当に東の塔でよかった。西の塔の魔術師様はとても怖いらしいから。

 その点、東の魔術師様は才色兼備、多芸多才に加えてお人柄も優しく、素晴らしい方なのだとか。あのリルさんが心酔して働いているというんだから、すごい人に違いない。

 

 そんな思いを巡らせていると、塔の中から鈴の鳴るような美しい声がした。

「トーマスさん、入ってください」

「はっ、はい!」

 リルさんが、僕の名前を憶えていて、呼んでくれる。それだけでもう、舞い上がる心持ちだった。

 

 ――。

 

 塔の1階のホールで僕を出迎えてくれたのは、リルさんと……なんだか胡散臭そうな男だった。

「やあ、君がトーマスくんだよね」

「は、はい。今日からここで働くことになりました!」

 緊張する。東の魔術師様は女性のはずだ。この男はいったい誰だろう。

「まずは座って。リルさん、お茶を」

「はい。どうぞ……」

「わわわわわっ、あ、ありがとうございます!」

 

 

「僕はレシヒト。東の魔術師ミリセンティアに召喚された、神盟者だ。ここに住ませてもらっているから、仲良くしてね」

「は、はあ。よろしくお願いします……?」

 神盟者、というと、あれだ。神盟者召喚(ガチャ)という儀式で呼び出される神の戦士。戦士? こんな普通っぽい人が? なんか僕でも勝てそうだけど……。

「君のことはリルさんから聞いたよ。門番を探しているなら、信用できる衛兵の子がいるって君を紹介してくれたんだ」

「え!!」

 そ、そんな! リルさんが僕のことを!? 名前を憶えてもらえていただけでも感激だったのに。

「とても真面目でよく勤められる方だと思っていましたので……もっと近くで仕事ができれば、と」

「えええええっ!!」

 嘘。嘘だろ? リルさんが、僕と、近づきたいってことだ。夢か? ほっぺたを引っ張ってみる。痛いな。うん、夢じゃないなこれ?

「本当ならミリちゃん……魔術師様にも会ってもらいたいんだけど、彼女は当分書類仕事でね。最上階からなかなか下りてこない。ま、そのうち会えるよ」

「はあ、分かりました。お忙しい方なんですね」

 確かに、魔術師様にもお会いしたいと思っていたけど、そういうことならしょうがない。宮廷魔術師と言えば内務大臣たちに助言をすることすらある、国のトップの一人。すごく立派な人なんだ。

「そういうわけで、君の面接をすることになるんだけど……」

「面接、ですか」

 そうか。ここでの勤務は別に決まったわけじゃないんだ。この人に認められないと、この塔で働かせてはもらえない。頑張らないと――僕は、リルさんのところで働きたいんだ。

「そう堅苦しくならなくていいよ。さすがリルさんの見立てだね……とても、被暗示性の高そうな男の子だ」

「はい? 被暗示性?」

 

 ――。

 

「こちらがトーマスさんの部屋になります」

「うわあ、すごい。衛兵の宿舎とは大違いです」

 官給品の槍は1階で預けて、塔を案内してもらう。ここは4階まで登ったところ。机やベッドがあって、とても整えられた部屋だった。

「本当は僕みたいな神盟者の部屋なんだけどね、うちには僕しかいないもんで、空いているそうなんだ。使ってくれて構わないから」

 レシヒトというらしい神盟者さんに促されて、ベッドに座ってみる。とても柔らかく、温かい。

「なるほど……ベッド、柔らかいですね……それに、いい匂いがします」

「それは……普段ここをメイクしているのはリルさんだから、彼女じゃないかな?」

「ふえ!? す、すすすすみません、そんなつもりじゃ!」

「ふふっ、いいんですよ……えっと、トーマスさんがそう言ってくれると、私も嬉しいのです」

「えっえっえっ」

 やばい、真っ赤になっている。ドキドキが止まらない。悪い冗談じゃないのだろうか。

 

「じゃあ、被暗示性テストをしていこう」

「何なんですか、それ?」

「僕は特殊な技能を持っていてね……『催眠術』というんだけど、知らないだろうからまずは見せようか」

「は、はい」

 催眠術。なんだろう……?

「リルさん、そっちの椅子へ」

「はい……♪」

 リルさん、なんだかやけに嬉しそうだけど……。

 慎重に足元を確かめるような仕草をして、椅子に座ると、神盟者のレシヒトさんが、彼女の前に立って――。

「リル。深い……催眠状態になるよ。僕が数を数えると、意識がどんどん……深いところへ落ちていく」

「ぁ……」

 ――そして、それは始まった。

 

 ――。

 

「……1……ゼロ。とても……とても深いところへ、落ちていく……この声の他には何も聞こえない……」

「え……」

 いつも澄まして笑っていたリルさんの顔が、見る見るうちに蕩けるように歪み、気持ちよさそうな吐息を、漏らして……腕を、だらりと下げて……首が、かくん、と倒れて……。

 寝て、る……?

「リル……深い催眠状態になることができて、とても嬉しいですね……私が貴方に質問すると……ゆっくりと、それに答えることができます……」

「ぁ……」

 鼻に掛かった、甘い声。リルさんの、こんな声……駄目だ。駄目だと、思う。

 だって、僕は今、こんなに……ドキドキ、してしまっているんだから。

「リル、あなたは今どんな状態ですか」

「……私は……催眠状態です……」

 ぼうっとした……力のない声。だけど、確かに彼女は返事をした。『催眠状態』、って、何だ?

「リル。それはどんな状態か、説明しなさい」

「催眠状態は……心が、ぜんぶ……開いてしまって……貴方の、声が……入って……きちゃいます……」

「よくできました。リル、催眠状態の気持ちよさが強くなる」

 パチン。彼が指を鳴らすと、『ぁっ』と声がして、リルさんは小さく震え……。

「ぁは……ぁ……♥」

 ものすごく……色っぽい声を、出していた。

 

「と、いった具合にね。とても気持ちいい状態にしたり……言われたことを何でも聞くようにしたり、人間の心を操ることもできる」

「ちょ、っと……そんなの」

 ――許せない。直観的にそう思った。リルさんに……リルさんに何てことを!

「ここで働く君にも、これを体験してもらう」

「いっ嫌ですよ!? それに、リルさんを返してください!!」

「おや。彼女と仲良くしたいんじゃなかったのかな」

「そ、それはこんなことのためじゃない!」

 仲良く、なりたかったのは、そうだけど、違う! こんなやり方は違う!

「……例えばだよ。僕が今、リルさんに……トーマス君とセックスしろ、と言ったらどうなると思う?」

「ちょ……、何だよ、それ、そんなの……!」

 何言ってるんだ? こいつ、何、第一、そんなこと、できるわけ……!

 そんな風に思いながらも、股間がムズムズするのが気になって、考えがまとまらない。駄目だ、駄目だ、駄目だ!

「させられるよ、僕なら簡単に。彼女に獣になってもらったっていいんだ。そうだなあ……リル、トーマス君のことをどう思う? 素直に言うことができるよ」

「えっや、やめてくれ、やめてよ!」

 そんなの、そんなのは聞きたくない!!

「……リルは……トーマスさんのことを、とっても……可愛いと思います……いじめて、あげたいです……♪」

「はは、リルさんらしいなあ」

「やめてってば!! お前、何なんだよ!!」

 リルさんは、この男に操られているんだ。邪悪な術を使うこいつに! 僕が守らなきゃいけない。槍は1階に置いて来てしまった。でも……こんな奴なら、素手でも……!

「おっと、怖い顔をしないでくれよ。……君に催眠の素晴らしさを教えてくれるのは、実は僕じゃないんだ。リル、僕の合図で目を覚ますと……君は、催眠術師だ。トーマス君にたっぷりと、その良さを教えてあげることができるよ……」

「なっ……え、ちょっと……」

 どう、いう……リルさんに、僕が、あんなふうに……される!?

 

 ぱちん。

 

 混乱している僕に構わず、指を鳴らす――合図の音が、響いた。

 

 

 ――。

 

 

「トーマスさん、ベッドに横になってくださいね」

「リルさん、目を覚ましてよ……あんな奴の言いなりになっちゃ駄目だ」

「トーマスくん、悪いけどリルさんは正気だよ。彼女はね、これが大好きだから――君にも体験して欲しいのさ」

 嘘だ、そんなことがあるもんか。

「……大丈夫です……とっても、気持ちよくなりますから……何も、怖いことはないですよ……♪」

 おかしい、絶対におかしい……そう思っても、リルさんに言われると……。

「変だと思ったら、すぐに……やめますからね。僕が、ここで働けなくなったとしても……!」

「はい……それじゃあ、私の目を……見てください。いいですか? そう、上手ですね……」

 リルさんは、仰向けに寝かされた僕の顔を、上から覗き込んでいる。

「そのまま、じーっと見つめて……私の目に、意識が、吸い込まれて、いきます……」

「ぉ、ぁ……」

 すごい。綺麗な瞳……見つめられると、心の底まで見られているみたいで。そして、リルさんの匂い、肩に置かれた手の温度、垂れている髪の毛の感触……何から何まで、とてもとても素敵で……。

 それで、ドキドキしていたのに、なぜか少しずつ――落ち着いて、いく。

「いい子です……ほら、ぼーっとしてきますよ……目を、開けているのが……だんだん、つらーくなって……でも、がんばって、もっと……見てください」

 穏やかで、囁くような低い声色。こんな声で言われたら、逆らおうなんて思えなくなる。リルさんの声は、僕のことを支配してしまうことができる。でも、これはあの男が言っていた、催眠術とかいう怪しい術なんかじゃない。ただ、リルさんが素敵すぎるから……。

「じっと、我慢していると……瞼が、重たくて、ぷるぷるして……がまん、がまんが……ちょっとずつ、気持ちよくなって……きちゃいますね……」

「ぁ、ぅ」

 ゾクっとした。気持ちいい……本当だ……何これ……オナニーより、気持ちいい……。

「私が……5、から、0まで……数を数えますから……そこまでは、我慢……我慢、できますよ……」

「がま、ん……」

 リルさんの目を、ずっと……見ていたい。だから、我慢……。

「5……ぷるぷる、してますね……4、頑張って……3、ふふ、もう少し……かなぁ……どうしましょう……?」

「ぁ、あぁぁ、やだ、ぁ……」

 はや、く。はやく……きもち、いいの……。

「どこまで、数えましたっけ……4ですか?」

「っくぅうん」

 何これ。女みたいな声。バカみたいだと思う。でも、リルさんにそうやって弄ばれるのが――どうしようもなく、気持ちいい。

「ふふ、いい子ですね……2、1……ほら、0――目を閉じて……すごく気持ちいいですね……」

「ぉ――ぁ」

 ずん。と暗闇が落ちてきた。重たくて暗いものに、意識ごと塗りつぶされる。顔のこの温かさは……リルさんの、手、だ。多分。

「きもちいい……からだじゅう、もう、力なんて入りません……ぜんぶ、リルの好きに……できちゃいます……」

「ぅぁ……」

 ずっと、ずっと気持ちよかった。甘い塊が、身体をずぶずぶ呑み込んでいくみたい。そして、さっきのリルさんは――これと同じくらい……気持ちよくなっていたのだろうと、理解した。

 そんなの、スケベすぎる。駄目、だけど。

 ――僕では、これに逆らうことなんて、できそうもなかった。

 

「トーマスさんは……私に、心のふかーいところまで、開かれてしまって……自分では、閉めることができなく、なっちゃいました……ぜんぶ、開いちゃったから……ぜんぶ、気持ちよく……聞いてしまう。なんにも、止められないんです……私の声も……彼の声も」

「っぎ……ぉぁ」

 駄目、だ。それは駄目……。

「そう……僕の声も気持ちよく聞こえてしまう……だって、リルを気持ちよくさせていたのは、この声なんだから……君が抗えるわけがないよね……ほら、お腹にずぅんと響く。この、ひくーい声が……気持ちいい、ほら」

「ぉ、ご……ぅあ……♥」

 じわぁ……と、漏らしたみたいな温かさが込み上げてくる。こんな男の声で、なんで、自分が、気持ちよく……いやだ、嫌、だ……。

「3つ数えると……トーマスくんの意識は、完全に真っ暗になる。何にも分からなくなって、全部……僕とリルの言うとおりに、なってしまうよ。気持ちいいから、それは仕方ないことだ……ほら、3……2、1」

「い、や……」

「ゼロ――さよなら、トーマスくん」

「だ――ぁ……」

 

 

 ――。

 

 

 僕は眠っている。深い催眠状態というやつになっている。

「君の甘い、甘い、砂糖みたいに甘い身体が……紅茶に落としたように、溶けていく……」

 だから、聞こえてくる声は理解できない。

「じゅわ、と甘く……滲んで、広がって……溶けて……ほら、消えてしまうね……」

 理解できないから……全部、心の奥まで、届いてしまう。

「消える……身体が無くなる……でも、大丈夫。リルが、君のための身体を作ってくれた……」

 わからなくても、全部……言われた通りになる。

「これは……人間と全く同じ、精巧な人形。ただし……女の子のお人形だね……」

 気持ちいいから、言われた通りに……なる。

「この身体は……人間の女の子と全く同じだ。とってもエッチで、可愛らしい、女の子の身体だね……」

 僕は……僕は。

「3つ数えると……君の意識はこの、女の子の身体に移ってしまう。そこはとても居心地がよくて……素敵な身体だから、きっと気に入ります」

 僕は――この人たちの言うとおりになる。

「……3……2、1……ゼロ。ほら、女の子の身体になった。君の身体はもう女の子。心はトーマスくん、男の子である君のまま……身体だけ、女の子になることができた……」

「トーマスさんは……すこし、エッチな男の子でしたから……女の子の身体に、興味が、ありましたね……ドキドキ、しちゃい、ますね……」

 なにか、へんな……かんじ。

 

「今度は私が……3つ数えてあげますから、トーマスさん……女の子の身体で、お目覚めしますよ……ひとつ、ふたつ、みーっつ、はぁい」

 

 ぽん。

 

 優しく、肩を叩かれて――。

 

「……は? え?」

「どう、ですか?」

「えええぇえええぇええぇぇええぇええ!!??」

 僕は、ベッドの上で――やけに高く聞こえる、叫び声を上げていた。

 

 

 

◆東の塔の衛兵 その2

 

 

 

 ――記憶を整理する。

 

 僕は、リルさんに……えっと、催眠術ってやつなのか? 何だか、すごく気持ちいいことをしてもらって……。

 そうだ。そのまま、気持ちよすぎて寝てしまったんだ。だめだ、そこから思い出せない。

 

「……ない……」

 マジでない。何がって、あれだよ、ちんちん。いわゆるペニスとかチンポとかいうあれだ!

 起こされるなり違和感があって、嫌な予感がして……股間をまさぐっても、引っかかるべき突起はなく、掌で……ぺたん。やっぱり無い!!

 

「うふふ、可愛い女の子になれましたね」

「嘘だ!? 嘘だよこんなの!?」

 ちょっと待って欲しかった。理解がぜんぜん追いつかない。さっき、あの男がリルさんをなんか気持ちよくさせて、『セックスさせようか』みたいなことを言って、そのときは確かに僕は男として……悔しいけど、めちゃくちゃムラムラしてたんだ。

 なのになんで今これ!? 女の子に……なった、って……いや、ちょ……。

「じゃあ、あとはリルさんに任せて、僕は下で休んでいようかな」

「あら。いいんでしょうか?」

 よくわからないけど、この男が出て行ってくれるのは歓迎だ。何一つ信用できない。本当に。

「うん。――あとは、『女の子同士』で楽しんでよ」

「なっ……僕は男……っ!」

「そうですねぇ、トーマスさんは立派な男の子でした……ふふ、ふふふっ」

 僕が言い返したのもまともに聞きやしないで、神盟者の男は部屋を出ると、階段を下りて行った。

 

 

 ――。

 

 

「すごい……本当に、女になってる……どうして……?」

 股間が平らになっているだけではなかった。声も高くなっている気がする。着ている兵士服だって、こんなにブカブカじゃなかったはず。第一、なんだこれ……これ、胸。胸に、膨らみ……その、おっぱいが、ある。あんまり大きくはないけど、確かに。こ、これ……。

「触ってみても、いいんですよ……?」

「えぅっ!?」

「女の子の身体はですね、本人が『嫌じゃないよ』って思っていたら……男の子が触っても、いいんです」

「で、でも……そ、そんなの、誰に聞いたらいいんですか……」

 この身体、女の子の身体……知らない身体。

「それは、私がトーマスさんに用意してあげた身体ですから……持ち主は、トーマスさんですよ」

「でも、僕の身体はこんなんじゃない」

「今はそれが、トーマスさんの身体です。催眠って、素敵でしょう? どうですか、トーマスさん。トーマスさんに触られるのは、嫌ですか?」

 ずるい。そんな聞き方絶対ずるいのに。そんなの、僕は男なんだから、触りたいに決まってるじゃないか。こんなエッチな、その、おっぱい……なんて。

「う、あ……」

 ふにゅ、と押したら簡単に潰れた。なんとなく、もっとプルプルと弾力のあるイメージだったけれど、水の入った皮袋……よりはもうちょっとプルンとしてる。それくらいの感触。そっか、中にはミルクが入っているはずなんだもんな。

 いや待て。入ってるわけないだろ。僕は男だぞ?

「どうなってるんだ、これ……?」

「催眠って、不思議ですよね……やろうと思えば、どんなことだってできちゃうんです。私も、いろいろびっくりしましたよ……」

「うう……これ、ちょっと気持ちいい……」

 ふにふにと、“自分の”おっぱいを揉んでみる。めちゃくちゃエッチだ。なんだこれ、おかしいだろ。催眠? そんなの僕は知らないけど、こんなことがあってたまるかよ!? うう、いや、確かに、これは、男として、たまらないけど……。

「服を脱いで、見てみたらどうですか」

「ぃいっ!?」

「今は女同士です。気にしなくていいですよ……?」

「いっ、いやいやそうじゃなくって、僕は男で、その」

「こんな可愛らしい男の子がいますか」

 つん、とおでこをつつかれた。ずるい、ずるいずるいずるい! リルさんはずるい!!

 

「じゃあ……私が先に、脱いであげたらいいですか? そうしたら、恥ずかしくないですよね……」

 言いながら、リルさんは自分の服に手を掛け始めた。いやいやいやいや僕は男なんですが!?

「ま、っ……」

 待って、とは、言えなかった。だって、仕方ないじゃないか。リルさんの肌が……本当に、びっくりするくらい、綺麗だったんだから。

 僕だって、男なんだから――大好きで大好きで、ずっと見たかったものに、『待って』なんて……言えない、じゃないか。

「う、わ……すごい、きれい……」

「まあ、ありがとうございます。……さあ、次はトーマスさんですよ」

「ぁう、ぇ……い、いいのかな……」

 手が震えている。脱ごうと、して、いる。上手く……脱げない、けど、少しずつ……うわ、脚、やわらかいんだ……。胸も……あ、こうなってたんだ……乳首、男の時より大きいかも……!

 頭の中が爆発しそう。熱い、何も考えられない。自分の身体をぼんやり見てから、リルさんの……自分の女体よりも、もっとエッチで綺麗な身体を見る。

「リルさんの方が、綺麗……」

「そんなこと、ないですよー……とっても、可愛いです……♥」

「おっぱいだって、リルさんの方が……大きいし、肌だって……」

「むむー。そんなのは、いいんです……大事なのは、これですから、ね」

 

「――ふぁッ」

 びくん、と身体が跳ね上がった。何をされたのか、一瞬、分からなかった。どうやら、乳首を指先で弾かれたみたいだった。何だこれ。女って、こんな感じ方、するのか?

 今、指先で軽く触られただけで……頭の後ろの方に、ドロっと、気持ちいい塊がこびりついて、動かない。膝がぴっちり閉じて、腰の奥がムラムラする。これ、あれじゃん。射精したくなったときの、我慢したくなくなってしまう、あれだ……似てる。

 つまり僕は、めちゃくちゃ……欲情して、いるんだ。

「気持ちいいでしょう? その身体は特別なんです……とってもエッチで、感じやすくて……すぐ、幸せになっちゃいますよね……?」

「や、これ、これすご、い……」

「……触りたく、なってるんですよね。いいですよ? ほら、寝そべると、楽ですからね……」

「あ、や、そんな……」

 リルさんは、僕をまた仰向けに寝かせて……両手の手首を掴んできた。そしてそのまま……僕の、胸元へ。

 ――仰向けだと、さっきよりおっぱい小さく見えるな……なんて思ったのは、一瞬だけで。

「あ。やば、これやばい、です。だめ、あ、あ、あ、あ、あ♥ あっ♥ これ駄目だ♥ 助け、ひぅ♥」

 両手で、乳首をくりくり弄るのを、すぐにやめられなくなった。さっき言われたことはどうやら全部そのまま事実で。僕の身体は本当にエッチで、感じやすくて、ちょっとでもオナニーすると頭はすぐ、幸せでバカになる……そんな、本当にスケベな女の身体に、なっている。可愛い、とか思ってる場合じゃない。

 僕は今マジで、指を全く止められなくなっていて――。

「少し道具を出してますから、そのままおっぱいで楽しんでいてくださいね……」

「お、おぉ? おぉ、おぉっ、お、ぁ、あ、これ、これすご♥ こし、腰ヤバ、やっば♥」

 どういう原理なんだか、腰がかっくんかっくん暴れるのも止まらなくなっていた。そして、強烈に頭の中に叩き込まれてくるのが――『欲しい』『欲しい』『欲しい』っていう、どうかなりそうなほどの、衝動。ずくん、ずくん、ひっきりなしに、込み上げてくる。

 僕の、孔の中に、何か――欲しい。欲しい。欲しい……!!

 

「はい、いいですよ……まず、私のおまんこ、見てくださいね」

「えっ、えええぇええ!?」

 リルさんは、僕の上で四つん這いになって……片手で身体を支えて……ちょうど、僕の足の方に、頭が来るように……顔の上に、股間……な、なななな、なに、何!?

 これ……これ、リルさんの……まん――。

「んひぁッ!?」

 目をひん剥いて見入っていたら、股間から異常な感覚が込み上げてきた。リルさんに触られた。何を? その感覚はすぐに引いて、リルさんの右手が……彼女の股間の方に伸びてきた。

「ふ、ふふふ、今触ったここ、ここがぁ……クリトリス、陰核、ですっ、あぁぁ……♥」

 目の前で、リルさんの……皮に覆われた何かが、指で……捏ね回されて、いる。

「今、同じのしてあげますね……すっごく、気持ちいいんですよぉ……♥ ほらあ、ぬりゅ、ぬりゅ……♥」

「ぉぉお? ぉ、こ、これ、これだめ、だめですリルさん、出る、出るってばあぁ♥」

 これは、ちんちんの先端を弄ったときの感じだ。腰がカクカクして、すぐイきそうになる。こんなの、がまん、できるわけ――。

「出ませんよ……女の子として、イっちゃいましょうね……ほら、くり、くりっ♥」

「いぎゅ、イ、イっ♥ く――ぁ、ぁ、ぁあああ……」

 かくん、かくん。へこ、へこ。めちゃくちゃ、情けない声――そう、甘ったるくて、甲高い、完全に、女の子がイく声――を出しながら、僕は……リルさんに、イかされた。

 情けなくて、弱っちくて……男として、絶対、見られちゃダメなところを、よりによって……大好きな人に、ぜーんぶ見られて……。

「トーマスさんはぁ、可愛い女の子ですねぇ……ふふ、ふふふっ、本当に、可愛い、ですよぉ……♥」

「おんなの、こ……♥」

 女の子、なら、しょうがないのかなぁ……?

 

「はぁ、はぁー。はぁ、ふふ、ふふふ、トーマスさん♥ まだ、まだですよぉ、ほら、ちくび、とめちゃだめ♥ ですよっ」

「ひっ、ぁ、あ、ああ……むり、むり、むりぃ♥」

「つぎここっ、ここです、この穴、この中ですよっ、見えますかぁ……?」

 言われて、顔を上げて、ぎょっとした。目の前で、リルさんの――べっとり濡れて、ひくひく、動いている、つやつや光る、赤い肉色の――まんこ、が、広げられている。リルさんの指で。

「リルさん!!?? だめ、だめですそれ、だめです!!」

 勝手に腰がくいくい、跳ね上がった。ちんちんがまだあったら、勃起し過ぎで破裂していたかもしれない。エッチすぎる。こんなのエッチすぎる!!

「この中にぃ、指にゅるん♥ って入れるんです……そしたら、中で曲げて、お腹の方っあ、あぁ……♥」

 言っている通りに、リルさんの指は、中に入って……。

「あは、これ、トーマスさんにやってほしいです……ほらぁ、指、貸してください……♪」

 おっぱいいじりをやめられない僕の手を、降りてきたリルさんの手が掴む、掴まれた手首の一か所、彼女の中指が当たったところだけが……温かくて、ぬるりとしていた。どうなってるんだろう。どうして僕は、リルさんとこんなことになっているんだろう。こんな幸せなこと、あっていいのかな。

「あ、あぁ……し、します……ゆび……あ、はい、る……」

「ぁ……そ、そのへんでぇ、曲げて……ください。ひだひだ、ざらざらの……くぼんだところ、見つけ、てぇ……♥」

 言われるままに、中の様子を指の腹で探ってみると……確かに、ざらざら擦れる感触があった。何これ? 気持ちよさそうとかそういうレベルじゃないよ。こんなところでちんちん擦られたら、僕なんて一生リルさんの奴隷になっちゃう気がする。女になっててよかったような残念なような。

 とにかく、そこの感触をぬるぬる、ざらざら、確かめていると――。

「あ♥ そこ、あっあっあっだめ、つよ、あっ♥ イっ――き、まひゅ……♥ ふあぁ……」

 ぶるぶる震えて……リルさんは、イっていた。

「あ、き、きもちよかったん、ですか……?」

 僕が――この指で、あの、リルさんを、イかせた……んだ。

 

「あは、や、やった……。リルさん、きもち、よかったんだぁ……♥」

「ふふ、ふふふふ、や、やられちゃいましたね……お、お返しですからね……♥」

 リルさんはぐい、と姿勢を立て直すと、僕の股間の方に手をやって……。

「ふぇっ、あ、え、や……な、なななななにこれ、何ですかこれぇええ♥」

 ――孔の入り口を、ぬるぬる、撫で始めた。

「男の人は、知らないかもしれませんね……あ、でもぉ。男の人の、おしり……♥ お尻の中にも、さっきのくぼみ……あるらしい、ですよ……?」

「し、しらにゃい、しらないです」

「じゃあ、教えてあげますね……♥ ほぉら、にゅるん……っ」

 ぞぞぞぞ。背筋を、何かヤバいものが駆け上ってきた。

「ぉ゛? ぉ。ぉあ♥ ぉ、おぉぉぉ、おおおぉぉぉぉッ!?」

 本能で察する。さっきから、ずっと、ずっと『欲しい』になっていたのは、これ。これだって。僕は、これを欲しがっていたんだって。

 僕は――この孔を、ほじられて、犯されて……女として、屈服させられたかったんだって。

 

「見つけました……ここ、さっきのとこです……♥ ほら、こね、こね……♥」

「おご、っひゅ、あ゛♥ あー、あ♥ イ、イぐ♥ イ゛って♥ イっでゆ……っ♥」

「そうですねー……女の子の身体、最高ですね……♥ 何回でも、リルの指で、イってくださいね……♥」

 そのまましばらく――僕は、がくがく、がくがく、壊れた人形みたいに、イかされ続けた。

 

 

 ――。

 

 

 

 

◆東の塔の衛兵 その0

 

 

 

※読者の方が催眠に掛かっている可能性があります。認識阻害・誤認などの兆候がありましたらコメントにお知らせください。

 

 ――昨日、西の塔を見に行ったすぐ後のことでした。

 

「いいこと思いついちゃったんだよね」

「……思いついた? また何か、変なことをするんですか?」

「まあね。とりあえず、今から言うものを用意して欲しいんだけど――」

 

 ――。

 

 レシヒトさんに頼まれたもの。まあ、用意するだけであればさほど難しいものではありませんでした。

 王宮の洗濯場にはこれらの予備がありますので、あとは知っている方の協力を得て、問題なくそれらを用意したのです。私はいつものように、塔の前に居たのでした。

 

「リルさん、おはよう」

「おはようございます。ご機嫌ですね?」

「頼んでいたものは用意できたかなあって」

 私は頷いて、レシヒトさんを塔の1階に招き入れました。

 

「おお~、すごい。これだよ、これが欲しくてね」

「はあ……まあ、構いませんが、こんなものをどうするのですか?」

 私が用意したものを一つ一つ改めて、レシヒトさんは満足されたようでした。

「ん、それなんだけど……リルさんにも手伝ってもらう必要があってね」

「私、ですか……?」

 思わず怪訝な表情になります。しかし、よく考えたら警戒する必要はないと思いました。そもそも、レシヒトさんは私を使って何かしたいのであれば、私の許可を取る必要などないのです。であれば、わざわざ聞いてくれるということは、私にとって悪い話ではないのでしょう。

「――リルさんはさ、ミリちゃんとセックスしたくない?」

「……は???」

 そう、例えばこのように。

 

「すみません、意味がわからないのですが」

「ミリちゃんは、彼氏さんに義理立てしてるところがあるからさ。無理に自分がヤっちゃうよりは、際どいとこは当分リルさんに任せちゃおうかなって」

 何言ってんですかねこの人は。自分が何を言っているのかわかっているのでしょうか。朝から堂々と、宮廷魔術師をレイプする相談を、その従者に持ちかけるとは。

「素晴らしい計画ですね」

 最高すぎると思います。

 

「じゃあ話は決まりだ。早速、『リルの宿題』を見せてもらおうかな」

「ぁ……」

 あ、ずるい……。

 そう思った時にはもう、私の身体は私の意識の制御を離れ……彼からもらった宿題を、見てもらうだけの人形になってしまうのです。

 

 

 ――。

 

 

「ふむ、昨日は僕が手伝った分、少し早く休憩に入れたんだね」

「はい……おかげで……たくさん、乳首を……弄っていました。とても、気持ちよくて……やめても、すぐまた、勝手に……」

 ……そんな暗示が入っていたんですね。何かおかしいような気が、したりしなかったりしていたんです。

「楽しそうで何よりだ」

「夜には……そのまま、おまんこも弄っていました……乳首で感じると……したく、なっちゃうので……2回……しました……」

 私は何を口走っているんですか????

 そんなことまで言わなくてもいいと思うのです。催眠に掛かっている自分は本当に怖いです。

「いい子だ。では明日までの宿題を出すよ」

「はい……」

「リルは、ミリちゃんの裸を見続けると……性欲が我慢できなくなってしまう。とても興奮して、エッチな行為に夢中になる」

 ……そんなこと、当たり前では……?

「そして……どういうわけか、ミリちゃんがもともと男の子で……催眠で女の身体にされているのだ、と思い込んでしまうよ」

「……は、い」

 暗示が、よくわからない……私は、今のを理解したんでしょうか……。

「今日の宿題は、以上。それじゃあ……今日もすっかり忘れてしまおうね。『宿題を返すよ』」

 

 ぱんっ。

 

「あ」

 あれ?

「おかえり」

「……ええと、何でしたっけ」

 絶対何か言われたんですよ。何か変なことだったはずなんです。

「まあ、気にしない方が楽しいと思うよ」

 それはそうなのです。実際毎日、すっかり忘れていた『宿題』を思い出すあの瞬間が、本当に楽しみで……。

「そういうわけでリル」

「あ……はぁ、い」

「お待ちかねの、『答え合わせをしよう』」

「ぁ゛」

 びくん。ぞぞぞぞぞぞ、ぞわぁ。

 一瞬で身体が反応します。あ、まずいです。いつもより、キツい、です。

 思い出しました。昨日の、乳首オナニー14回と、本気オナニー2回。バカじゃないんですか? なんなんですかあの暗示?

「ひ……、や、イ……ッく♥」

 当然、思い出しただけで――私は、立てなくなってしまったのです。

 

 

 ――。

 

 

「今日はあんまり変なことしないでくださいね?」

 そういうわけでミリセンティアさんです。場所はいつも通り、レシヒトさんの部屋。

「まあまあ、リルさんも見てるしね」

「リルちゃんは全く信用できないということが、流石の私にも分かってきたので」

 ひどいことを言われてしまいました。

「でも、今日は特に何もされていないと思います。覚えている限りではですが……」

「そもそもシラフのリルちゃんが信用できないんですよ!!」

「残念だけど当然だなあ」

 そんな……どうして……?

 

「想像力のトレーニングだからね。大掛かりで複雑な暗示であるほどいいんだよ」

「うう……何か釈然としない……思い出したけど、前回は私、リルちゃんの妹にされてたんですが」

「あれは犯罪的な可愛らしさでした。ぜひまたやりましょうね」

 思い出すだけでときめきます。ミリセンティアさんに『おねえちゃん』と呼ばれて嬉しくない女子は居ません。

「まあ今回も大差ないかな。そこまでおかしなことはしないよ」

「本当か? 発情期の猫は嫌ですからね?」

「ちゃんと人間」

「……露出狂も嫌ですよ?」

「まあ、ごちゃごちゃうるさいから、落としちゃおうか」

「それがいいと思います」

「こらぁ!! 最近私の扱い雑じゃないです!?」

 大丈夫ですよ。私はもっと雑にしてもらっていますから。ふふん。

 

「そうやって怒っていても……ほら、この声を聞いたら、すぐ気持ちよくなってきちゃうよね……」

 あ、低くて落ち着いた……気持ちいい声。これ、好き……。

「っくそ、ずるいですよ……それ、ずるい……」

「怒っていても……どうして怒っていたのか、わからなく……なって、きますね……ほら」

「や、やだ……わかるもん、私バカじゃない……」

「怒っていた理由を、思い出そうとすると……自分の心に、目を、向けてしまうよね。あ、ほら……吸い込まれる。すうーっと……催眠の記憶に、吸い込まれて……また、気持ちよく……なって、しまいます」

「……ち、が……ぁ……」

 くた、と力が抜けて……ミリセンティアさんは、催眠状態になりました。横で聞いている私も、ちょっとトロトロしてきてはいるのですが……それにしても、見事なちょろさです。素晴らしいです。この方にだったら、私でも催眠を掛けることができるのではないでしょうか。

「ミリちゃんの心に呼びかけます……催眠状態の気持ちよさは、全身に広がっていき……頭の中にも染み渡り……考える力を奪っていく。……身を任せるのが、一番気持ちいい……そうするのが、一番、賢いことですから……貴方は当然、そうなりますね……」

 『ミリちゃん』と呼び掛けてくれることで、一緒に落ちるのは防ぐことができました。安心半分の残念半分でしょうか。しかし、レシヒトさんの催眠誘導――というそうです。教えてもらいました――は、本当に参考になります。

 催眠状態で『身を任せるのが一番賢いこと』なんて言われたら……賢いことにプライドがある、ミリセンティアさんは……そうなってしまうに決まっています。こんなの、ほとんど個人狙いの反則じゃないですか。知らないところで私も巧妙に嵌められているのでしょうか。最高です。

 

 

 ――。

 

 

「――あなたの人生が……溶けて、消えてしまいましたね。でも、大丈夫……魔術師ミリセンティアの人生は、私が……きちんと瓶に入れて、保存していますから……貴方はいつでも、元に戻ることができます。安心して……人生を、溶かしてしまうことが、できますよ……」

 なんか、見ているうちに……すごい暗示が、入っていきます。ミリセンティアさんは今、これまで生きてきた人生、そのすべてを……催眠の快楽に、溶かして、明け渡して……しまいました。

 目の前で今、心地よく蕩けている女性は――きっと、誰でもない、抜け殻なのです。

「では……貴方は、何者だったでしょう……思い出していきましょう。貴方は、そうですね。男の子、まだあどけなさの残る、16歳の少年でした。名前はトーマス。田舎から出稼ぎに出てきた貴方は、このシレニスタで働いていたのです……」

「……?」

 思わずぽかんとしてしまいました。そんな無茶苦茶、アリなんですか? でも、ミリセンティアさんは、瞼ヒクつかせて、気持ちよさそうに震えていますね。アリなんですかこれ?

「トーマス君。貴方は……田舎では優秀な若者で、この王都でも無事に試験を通過し、王宮の衛兵として勤めることができたのです。そのことをとても誇りに思っていますね……」

 ミリセンティアさんは、頬を緩ませながら、トーマスくんの物語を受け入れているようでした。

 あ、そうか。このサクセスストーリーは、ミリセンティアさんの自認に少し似ています。呑み込みやすいように、工夫されているようです。本当に悪知恵だけは回る人です。

「貴方は王宮に来てから二か月のあいだ。兵士として勤めていました。その間……貴方にとても良くしてくれた、王宮の使用人の女性がいます。東の魔術師の塔に住む、リルさんです」

「ぁ……」

 なるほど。私の役回りはそういうことらしいです。なるほど、なるほど。

「リルさんは、まだ王宮を良く知らない貴方の事を気にかけ、世話を焼いてくれました。貴方は彼女に、とても感謝して、心を許していましたね……」

「うん……」

 あ、すごいです。今の、完全に男の子の声ですね。そして、そういうことでしたら――。

「貴方にとってリルさんは、とても大切で、特別な女性となりました……そうですね」

 ――そういうことでしたら、私も。

「そう、貴方にとってリルは、憧れの人で……いつも、リルさんの胸とか、脚とか、お尻とか、見ていたんですよね……ばれないように、こっそり、じーっと、見てましたよね……♥」

「ぅ……ぅぅ」

 レシヒトさんが『うわぁ……』みたいな顔で見てきますが、特に止められませんでしたので続けます。

 

「とっても健康で、女の子に免疫のない貴方はぁ……毎日、リルさんのことを思って、おちんちん、にぎって……おなにー……してたんですね……ふふ」

「ぅ、あ、あぁ……」

 これでいいです。これくらいのディテールが欲しいです、私としては。

 レシヒトさんが『あのさあ……』みたいな顔で見てきますが、特に気にしないでおきます。

「……あー、なんだ。うん……えーっと。そう、トーマス君は、男の子だから……おちんちん、触った時の、気持ちよさ……射精の、開放感、快感……そういうものを、よく、知っています……」

「……」

「女性の、クリトリスにも、似ているそうですが……とても、敏感なところ……リルさんのことを考えると、そこが、いつも、みっちり勃起して……むずむず、むらむら、していましたね」

「ぅ、ぅぅ……ぁぁ……」

 ああ、素敵。素敵すぎますよレシヒトさん。それです、そういうのが欲しかったんです!

「それから……お尻。女の子の、犯される……感覚は、男性で言うと、そこに、近いのかもしれませんね……君は、お尻でそんな行為をしたことはなくても……想像することは、できますね……」

「ぁ、ぉ……ぉぉ……」

「男性の、お尻の中には……前立腺、という部分があって……それは、女性の膣の急所と同じくらい、気持ちよく、なれるところ……だから、トーマス君は……それを、両方……想像することが、できる」

 そうだったんですか。これは知らなかったことです。夢が広がります。絶対、今度、誰かにしてみたいですね。わくわくします。

 レシヒトさんは、させてくれるでしょうかね。

「トーマス君は……衛兵として、勤めていましたが……、昨日、兵舎に呼び出され、異動の話を受け取りました。行先は……東の魔術師の塔だそうです」

「……ぁ」

 ぱあ、と表情が明るくなりました。すごい。

「そう、とても嬉しいですね……君は、あのリルさんと同じ職場に、異動が決まったのです。さあ、この気持ちのいい状態のままで……いつも通りの兵士の服に着替えましょう」

「あ、持ってきますね」

 すべてを察したので、用意しておいた道具一式――すなわち、衛兵の服と装備を、取りにいきました。

 

 

 ――。

 

 

 戻って来て、服を渡すと……ミリセンティアさんは、ぼんやりしたままで、それらを身に着けていきました。

「と、いうわけ」

「とても面白いと思います。ミリ……いえ、トーマスさんは、男の子なんですね?」

 手つきが覚束ないのですが、私が手渡すときちんと受け取ります。どんな気分なのでしょうね。早く着て頂けないと、私の理性がピンチなのですが。今も結構、ムラムラと……。

「うん。兵士服を着ると、身体の違和感は消えるようにしておいた」

「ははあ……それで、どうするんですか?」

 着付けの手伝いをしていますが、これ少しサイズが大きいですね。仕方ないですが……。

「試験と称して催眠を掛けるつもり」

「面白そうですね」

「そこらへんは大体、憧れのお姉さんに任せちゃうから」

 あ。そうなるんですか? えっ、ど、どうしましょう。そんな、そんな素敵なこと。

「い、いいんです、か?」

 『トーマスさん』の着付けを一通り終えて……私は念を押しました。これは……。

 ――そんなことをさせたら、私は行くところまで行ってしまいますよ、という確認です。

「むしろ、ヤっちゃってよ。それで後で話聞かせて。隠しても全部喋らせるからさ」

「うぁ……わ、わかりました。ど、どうしよう……すごく楽しみ……です」

 

「じゃあ……トーマス君。君はこの後、新たな仕事場……東の塔の前へ連れていかれる。そこで君はしばらくぼんやりと……塔を見上げて立ち尽くしてしまうけど、ちゃんと自力で、ここへ来たことを、思い出すことができる」

「……おもい……だす」

「ここで話した内容は……全部、君の心の奥へしまい込まれて……当たり前のことに、なってしまう。催眠のことは……何も知らないし、覚えていない……塔の前で、我に返ったとき、君は完全に……兵士のトーマスとして、歩いてきたことを、思い出すんだ」

「うん……」

「じゃあ、行きましょうね……♥」

 そして私は、ミリセンティアさん――もとい、新米兵士トーマスさんの手を引いて、塔の前へ連れて行ったのでした。

 

 ――最高の一日になる、そんな予感とともに。

 

 

◆トーマス君の反省会

 

 

 

「――では、話を聞かせてもらいましょうか」

 私は二人に冷たく言い放った。怒りを通り越し最早呆れていた。

 なんだったのか。一体全体、私は何をやらされていたのか。

 

「ええと」

 びし。私の手にした槍(1階から持ってきた)が彼の首筋に当てられる。

「勝手な発言は許可していません。私の質問だけに答えてくださいね」

「……はい」

 レシヒトさんはしゅんとして……嘘だ。この男はこの程度のことでしおらしくなんかしない。私にはわかっている――とにかく、床に正座の姿勢に戻った。

「まず、『アレ』に一体何の意味があったんですか?」

「っ、だって可愛いじゃないですかっあう」

 びし。

 もう一人正座している色ボケ侍女を黙らせて、レシヒトさんの返答を待つ。

 

「まず、僕の役割はミリちゃんに催眠を掛けて、強力な魔法を使えるようにすることだった」

「そうですね」

「その際に、君にはとてつもない規模の想像ができる大賢者に成り切ってもらっている」

「……まあ、そういう話だったとは聞いてます」

 実際、アレをやっている間のことは良く覚えていない。暗示で思い出させてもらったけど、なかなかどうも信じがたい。だって私、世界を意のままにできるって信じてたらしいんですよ?

「自分と違う存在に成り切る――今回のは、そのための練習なわけだよ」

「ほう」

 一見筋が通っているようではあるが。そういう問題ではないのだ。

「そのために私はリルちゃんと性転換エッチを?」

 びし。

 どう考えてもあれは余計でしょう。私を男の子に変えるところまでは百歩……いや一万歩くらい? 譲って許容してもいいけど、その後のエッチは要らんでしょ。落ち着いて考えて欲しい。

「まあそれはその」

「私なら気にしていませんよ?」

「リルちゃんの気持ちは聞いてないんですよね」

 この子が時々私に邪な想いを向けてきているのは知ってたので。どうせ私を手籠めにしたかっただけでしょうがこのドスケベ使用人は。わかってきたんですよ。

「自分と違う意識で自分の身体を見つめるために必要なことだったんだよ。これは『大賢者』としても必要な能力じゃないかな」

「そう、そういうやつじゃないかと」

「どう考えても他に方法があるでしょうが!!」

 くそ恥ずかしいんですよこっちは。なんなんですかあのトーマス君というのは。

「ミリちゃんは、リルさんとそういうことをするのは嫌じゃないと思って」

「んな……」

「前の猥談もなんだかんだ乗り気だったし……?」

 あれは、エッチな話が楽しくなるような暗示が入っていて……。

「そっそれは、催眠で……!」

「そうだけど、エッチな話をする暗示から、乳首の触りっこになるのは、ミリちゃんもリルさんとそういうことを、してもいいと思っているんじゃないかって」

「なるほど!!!」

 リルちゃん本当に少し黙っててくれないかな。

「……してもいいかどうかと、したいかどうかは、別でしょ」

「してもいいとは思ってたと」

「う……」

 リルちゃんにはその、ずっとお世話になっているし、綺麗で可愛いとも思ってますからねそれは。だからといって積極的にそのような関係になりたいわけではない!

「どうしても嫌ってわけじゃないよね」

「むー!! べ、別に女同士ですし、特に拒む理由もないってだけで……!」

「私には挑む理由があります!」

「ちょっと黙ってて」

「はい……」

 かっこよく言えばいいってもんじゃないんですよ。

 

「と、とにかくです。トーマスって誰なんですか」

「君だけど」

「そうじゃなくて。どこから来たんですか……?」

「別に……適当に決めた名前だからなあ。しいて言えば、脳内を機関車が走った……?」

「はあ」

 意味はわからないが、特に意味はなかったということなのだろう。

「私に入っていたのは……トーマスという男の子になりきる暗示ですよね。あと設定は……」

「適当に考えて吹き込んだ。リルさんが口裏を合わせてくれた」

「ひどすぎる」

 私はそんなんでまんまとトーマス君16歳になっていたのか? 適当と言うには妙にディテール細かくなかった?

 やられたことは非常に腹立たしいけど、催眠術というものの仕組み、できることについて、とにかく詳しく知っておきたい。

 ――今後同じ目に遭わされないためにも。

 

 ――。

 

「というわけ。面白いでしょ」

「なる、ほど……私は、身体はずっと元のままだったんですよね」

「そう。兵士服を着ていれば、言われるまでは自分の身体を気にすることはないようにした」

「……確かに」

 今、私はその兵士服を着ている。なんでって手近に他の服がなかったんだもの。で、この格好なら確かに、身体の性別なんてものはあまり意識されない。

 おっぱいもお尻も大きいむっちむちの女の人だったらさすがに目立つかもしれないけど、私は別に全然そんなんではないので。

 っていうか、『リルさんの方が大きくて綺麗』とか言ってなかったかな。ふざけるなよトーマス。主である私の身体にどういう言い草だ。

「つまり、私は女の身体のまま男になって、女の身体にされた……というか、身体がもともと女なのを、わかるようにされ、た? 回りくどいな……!」

「そうそう、そういう催眠だった」

「なんでこんな回りくどいことを? ……実際に、男の子の身体にするのは、難しいんですか?」

「できないことはないね。もっと丁寧に誘導すれば、完全に男になったつもりにすることもできると思う。ミリちゃんなら」

 『ミリちゃんなら』は非常に引っかかりますが、『できるけれど難しい』というのはわかった。

「そう、か。さすがに……おちんちん、無かったらわかりますよね」

「どうかな。ミリちゃんならそれも騙せると思うけど」

「私バカにされてます?」

「褒めてるんだよ。で、想像力がそれほど優れていない、普通の人にそれをやるのは確かに、ちょっと難しい」

 そういうことなんだろう。いくら催眠暗示で言われたことを信じ込んでいても、目の前にあるものは見えているから。以前、レシヒトさんを認識できなくなったときも、確かに見えてはいた。いやまあ見えてても全く気付かなかったわけなんだけど。

 

「エッチなことするつもりだったら、触るわけですからよけいに難しそうですね」

「確かに。なるほどなー」

「私、やっててミリセンティアさんが本当はどっちなのか、催眠でどうなってるのか、よくわからなくなってきちゃって……本当に男の子を虐めてるつもりで、やってたんですよね」

「ははあ」

 そういえばリルちゃんは、私の股間を直接見えないようにしていた。自分のを見せてから、『ここ触りますね』と言って、触ってくる感じだった。あれだったら、確かに……『トーマス』が本物の男の子だったとしても、騙せてしまうかもしれない。

「そんなことになってたんだ」

「はい……クリトリス弄りますよ、って言って――おちんちん弄ってあげようとしたんです。そしたら本当に女の子のクリトリスがあるみたいに見えて。本当にあったわけなんですけど」

「もし本当に男の子でも、そうしたらクリの方を弄られてるって感じるわけですね」

「……と、思って。実際は普通に女同士だったわけですが」

 回りくどすぎる!! リルちゃんも混乱してるんじゃないか!!

「まあ何となくそうなりそうな暗示は入れてたかも」

「やっぱり何か入ってたんですか? おかしいと思ったんです。私がミリセンティアさんにあんな酷いことをするわけがありません」

「いややっぱり黙りなさいよ」

 リルちゃんは本当にどうしてしまったのか。調子に乗るにもほどがあるのでは?

「あれ。そうすると、その……ナカの方をされたときには、リルちゃんはどこを触るつもりで……?」

「男の子だったらですよね? それはもちろん……お尻ですけど?」

「うわぁ……私、女で良かったなあ……」

 さすがにそれは、ちょっと恥ずかしすぎた。いや、他が許せるわけではないんだけども。

「女に生まれて良かった、って、エッチなセリフですよね」

「リルさんは本当に最近イキイキしてるなあ」

「どうしてうちの塔にはこんな奴らしかいないんですか???」

 私の貞操が、急速に、危険に晒されているのですが!

 

「とにかく、そんな感じ。催眠で性転換を演出するなら、『中身を変える』ほうが手っ取り早いと思う」

「はー。確かに、男の子の気持ちで自分の身体を見たら、びっくりしたもんなあ……」

「小さな感覚違和なら、簡単に騙せるんだけどね。感覚を騙すより、記憶を騙す方が簡単なケースもあるのさ」

「記憶……」

 そういえば、架空のストリップお漏らしショーの記憶を植え付けられたことがあったな……!

 それに、リルちゃんの猫化。あれができるのであれば、確かに、丸ごと別人になることもできるのだろう。それにしたって滅茶苦茶だと思うけど。

 

「催眠で感覚を欺く場合は、それが大規模で長時間で、強い違和感を持つほど、難しくなる。真に迫った説得力を持たせる必要があるわけだ」

「……あれ。魔法みたいですね」

 リルちゃんが言った。ホントだ、魔法の規模や時間、強度と魔術の難易度の関係とよく似ている。

「あれ、ほんとだ。しかし毎度、魔法みたいって面白いな。うちの世界だと、魔法なんて無かったからさ……魔法みたいって言うと、『普通は不可能なこと』って意味になる」

「はー。なるほど、私達が言うのは、『魔法と仕組みが似ている』から『可能なんだなあ』って感じに聞こえますね」

「でしょ、面白い」

「レシヒトさんの世界って、不思議なところですね」

「でも、催眠術が横行している世界って、怖くないです?」

「いやそれは……催眠に掛かって気持ちよくなるために、自分で音声を聞く人たちとかはいるけど。声だけを記録して後で聞ける道具、こっちにはない?」

「聞いたことはありませんが……」

「それ、そういう使い方するものなんです? 間違ってない?」

 いかにも便利そうな道具なのに……どうして……。

 

 ――。

 

「……とにかく、わかりました。えー、あんまり大掛かりにアホなことをやるのはやめましょう」

「はい」

「許してくれるんだ」

 ……そう言われると許したくなくなるんだけど。

「別に嫌なことをされたわけではない……かもですし、興味深い話ではあったので。でも調子に乗らないでくださいね」

「ミリちゃんは女神様やぁ」

「女神様です……」

「……レシヒトさんは、部屋に潜んでたとかじゃないんですよね?」

「うん、普通に下で待ってた」

 ……そこがやはり、気になっていた。トーマス……まあ、私と、リルちゃんのエッチを、見られていたりすると、流石にダメージが違ってくるため。

 アルスさんは女同士のじゃれあいなら許してくれたとしても、それを他の男に見せるのは絶対に嫌だろうから。そんなことで責められるのは、嫌だから。

「……いいでしょう」

 後気になるのは……。

「着替えのときと、終わってから助けるときは、よそ見してたよ」

「うるさい、思い出すな。死ね」

 どうして、そんな風に無駄な気を遣ってくるのだろう。

 彼は、私達にこれだけのことをしておいて――こんな辱めを加え、弄んでおいて――手を出そうとはして来ない。紳士然と振る舞うには無理がある狼藉をあれほど働いているにも関わらず、わざわざ肌を見ないように? 全く意味が分からなかった。

「えー」

「死んでは困りますからねー」

 意味は分からなかったけど、まあ、悪いとも思わなかった。

 

 ――。

 

「えー、では解散としますが、連絡があります」

「なんでしょう」

「リルちゃん、レシヒトさんに礼服を用意してください」

「あ、はい」

 近いうちに必要になることが決まった。さすがに普段来ている古着や、異世界の変な服では締まらないので。

「人に会うことがあるのかな。似合わないと思うけど、まあ……」

「聖王陛下との謁見があるので。私達はおまけのようなものですけど、一応参列するんで」

「おまけ?」

「……」

 あんまり、言いたくなかったんだけども。

 

「二日後だそうです。――北方戦線の出征部隊が帰ってくるので、凱旋式ですよ」

 

 ――あの人たちが、シレニスタに帰ってくる。

 

 

 

※認識阻害・誤認など、催眠の兆候を感じられた読者の方はぜひコメントまでお知らせください。

 

 

<続く>

3件のコメント

  1. どもー。
    いやー、この時は読んでいて物凄い違和感があったものの、すっかり騙されましたね……。
    真相を踏まえて読んでみると確かに自分に関する過去が伝聞だったりするし、
    ミリちゃんとかアウレイアに対する評価なんかがじわじわ来る。
    そして、同じようなことをさせるうえで、「どのように暗示を与えるのが最も実現しやすいか」というのは非常にリアル催眠の観点から勉強になりますね。
    別人としての記憶を植え付けるか、あるいは体全体の感覚を騙すか……催眠小説を書く上でも重要そうなポイントだと思います。
    ってか本当にすっかり騙されたな……。

  2. おねショタだー!(違う)
    ノクターンで読んでた時も突然の性転換に?となりながら0を読んでそういうことかと納得した話でぅね。
    そしてその上で読み返すと、ミリちゃんへの批評とかアウレイラさんへの批評とかミリちゃんの主観が混ざっててなかなか笑えるところでぅ。
    トーマスくんへの追加といいトーマスくんへの絡みといい今回はリルさんが八面六臂の活躍でぅね。正直ミリちゃんはレシヒトさんより先にリルさんをなんとかしたほうがいいと思うw

    >伝説
    あー・・・うん、言い逃れできねー!
    てぃーにゃんの言ってたみゃーや学校シリーズはともかく、まさかひめくりとか闇の脱走者まで出てくるとは思わなかったのでぅ。
    そんなものまで読んでいただいてありがとうございますでよ。
    でも伝説は断固拒否する!w

    であ、次回も楽しみにしていますでよ~。

  3. >ティーカ様
     騙されて楽しんでくれる人が一番のお客様です、ありがとうございます。
     そう、分かってから後で読むと「そういうことね」となるポイントがいっぱいあるようになっています。
     ミリちゃん自己評価高い。

     人によっては人格・記憶の改変は、暗示自体が入っても、実際に行動に表出させるのがその人の能力的に難しい場合があります。意識的に演じるわけではなくとも、普段と違う自分として振る舞うために参照しているのは想像力と演技力なので。他人の気持ちが分かる人、役割を演じきれる人であるほうがうまくいくはずです。
     上手く行かない場合、負荷が掛かるし暗示通りにならないため、覚めてしまう危険があります。
     一方で感覚の捏造は、触覚はまだしも、視覚はすごく入りにくい、難しい暗示です。
     どちらが適しているかはきっと相手によって違う、と思いますね。

    >みゃふ様
     そう、後で見ると主観のあちこちに「あっここミリちゃん漏れてるな」というのがあります。
     リルちゃんはなんか影の黒幕めいたオーラを持ち始めていますね。どうするんだこの女。

     > 伝説
     伝説は語り継ぐ者がいれば生まれるのです。わたしが語り継いで参ります。

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