※この作品は生成AI「ChatGPT4o」を利用して製作しています
ゆっくりと両膝を揃えて座った“千夏”は、しばらくのあいだ下を向いて黙っていた。
中にいるのは――蓮。
正確には、千夏が“蓮だったらこうする”と想像して作り出した、蓮の人格。
現実の蓮とは少しズレているかもしれないが、
でも、それでもやっぱり――「奴らしい」動きをする。
今の彼女(?)もまた、まさにそんな感じだった。
「……そういえばさ」
不意に、“千夏”がぽつりと呟いた。
(……ん?)
思考の流れを変えるような口調だった。
俺は手を止めて、なんとなく警戒しながら彼女――いや、中身は“蓮”――の動きを見る。
「チカの身体ってことは……当然、チカの口なわけで」
指で自分の唇をつん、と突く。
「で、口の中には――チカの唾液がある」
(……は?)
嫌な予感がした。
なんかもう、全身で“ろくでもないこと言います”って予兆が溢れてる。
そして案の定、にやっと笑ってこう言った。
「実質、ディープキスじゃねーか!!!」
「…………」
(バカだ。こいつ、バカだ。蓮だ)
笑顔全開で何を言ってるんだこのイマジナリー童貞。
「すげえ! しかもこれ、自分でやってもチカの唾液! チカの舌! チカの味!!」
口を開いて、自分の指をべろりと舐めてる。
目がマジだった。キラキラしてた。千夏の顔で。
……つらい。見ててつらい。
「うお、ほんとにチカの味がする!」
そんなバカ丸出しの感想を、誇らしげに口にしたそのとき――
「……あれ? じゃあ中西くん、チカの味知ってるってことなん?」
さらりとした美琴の声が横から差し込む。
俺は美琴の方をちらりと見て――そして、言葉の意味に気づく。
(……あ)
そういえば、そうか。
これは本物の蓮じゃない。
千夏が作り出した、“蓮だったらこう言う”っていう人格だ。
でも、もしその“蓮”が千夏の味を知ってるって発言したのなら――
それはつまり、千夏自身が、
「蓮なら、私の味を知っている」と思ってる、ということだ。
(……ってことは、少なくともそこまでは――)
自然に、そこまでのことは経験してるってことになる。
ディープキス、確定。
“やってない”とは言ってたけど、 その一歩手前までは、どう考えても行ってる。
そりゃまあ、そうか。 あの二人の感じで、“一切触れてません”の方が逆に不自然だ。
美琴は、そんな俺の顔を見ながら、くいっと眉を上げて笑う。
「……やっぱ、やってんじゃん、ちょっとは」
俺は答えず、ただ小さく息を吐いた。
“千夏”が、唐突に顔を上げた。
「……いや、待てよ?」
まるでとんでもない発明を思いついた子どもみたいな顔で、声に出す。
「オレがチカの身体に入ってるってことは……見たことないところも、触ったことないところも、イケるのか!?」
(来たな)
スケベな想像が、ダダ漏れどころか口から飛び出してる。
目はキラッキラだ。 千夏の顔で。
「……イケるだろうなあ」
そう答える俺もどうかと思うが、事実ではある。
まあ、さっきまでやってたことの方が、よっぽど予想外だったけど。
「やべぇ……マジでやべぇ……え、え、どっちからいく? 胸? いや、スカート……いやいやいや、でも……!」
完全に悩んでいる。
胸元とスカートの裾を交互に見て、どっちから攻略するか本気で迷ってる千夏の姿は――なかなか笑えないやつだった。
「童貞ってこんな感じなんだ~」
声に呆れも混じってるけど、目の奥はめちゃくちゃ楽しそうだ。
見てて引いてるというより、ツッコミながらニヤニヤしてる。
「……美琴」
「ん?」
「ありがとうな」
「は? なにがさ」
「……一人でこれを見るのは、ちょっとキツいもんがある」
「ぷっ、あははっ、たしかに~! これはヤバいわ~!」
肩を揺らしながら笑う美琴の声に、ちょっと救われた気がした。
“千夏”が、両膝を揃えて座り直すと、スカートの裾にそっと手を添えた。
「決めたぞ。さて――ここが、オレだけの……チカの、秘密の花園……」
そんなふざけたセリフを口にしながら、両手で慎重にスカートの端をつまむ。
ぐぐっと、わずかに裾が持ち上がった。
……が。
そのまま、彼女――いや、“蓮”は、ぴたりと動きを止めた。
しばらく沈黙したあと、なぜかスカートの裾をそっと戻し、 そのまま胸元へと視線を移す。
「やっぱ、こっちかな……うん、胸だな……うん」
ブツブツ言いながら、千夏のシャツのボタンを指先でなぞっている。
(……なんでスカートの方やめたんだ?)
一瞬不思議に思って――そして、すぐに気づいた。
(……これは、もしかすると)
千夏自身が――無意識のどこかで、恥ずかしがっているんじゃないか。
このイマジナリー蓮は、あくまで“千夏が想像する蓮”だ。
本物ではない。だからこそ、その行動には“千夏自身の認識”が出る。
つまり、彼女の中で「スカートの中を見る」という行為が、“一線を越える”ということ。
それを避けて、胸に向かった。
(……これは使えるな。千夏には悪いけど)
俺はそっと歩み寄り、“千夏”の耳元に言葉を落とす。
「――蓮」
“千夏”の肩が、ぴくっと揺れた。
「お前が千夏に対して抱いてた欲望が、ちゃんと蘇ってくるよ」
声は低く、優しく。暗示を送り込むように。
「どんな目で彼女を見ていたか。どこを、どんなふうに見ていたか。その視線、感情、興奮が――思い出として、よみがえる」
“千夏”の呼吸が、わずかに深くなった。
「胸に触れた感触、ふとももの柔らかさ、声、仕草、匂い。千夏の身体にお前がどれほど惹かれていたのか――全部、思い出す」
(……そう。千夏は、知ってるんだ)
蓮にどう見られていたか。
どこに視線を感じていたか。
どんな目で、どんな風に見られていたのか。
彼女は、それをずっと感じてたはずだ。
だから、今――
“蓮”として、それをなぞるように再確認していくこの時間は、
千夏自身が、蓮から向けられていた“欲望”を、全身で再体験していく時間でもある。
指が、胸元の布越しに沈んでいく。
呼吸が、わずかに震えた。
ごくりと唾を飲み込んだのが見える。
(……よし)
千夏が、塗り替えられていく。
蓮の欲望で――そして、それに晒されていた千夏の実感で。
そして――
“千夏”が、スカートの裾を指でつまんで、すこしだけ持ち上げた。
「うわ……やっば……」
興奮の混じった声が、思わず漏れた。
でも、止まらない。
細い太もも、なめらかな肌。
下着が見えるか見えないかという、その微妙な角度で――指が止まる。
「……うおおお……チカ……お前、こんな……」
足をさすりながら、ふとももをゆっくり撫でていく。
その手つきが、最初のふざけた調子とはまるで違う。
指先が震えてる。
……息も、少し荒い。
境界線が崩れてきてるのがわかった。
これはもう、
“彼女の体を借りてふざけてる”んじゃない。
“この体に、欲望している”んだ。
中にいるのは蓮。
でも、その蓮が触れているのは、千夏そのもの。
自分の指が触れた場所に、震えるほどの実感が走っていて、
それを自分で感じ取っていることに、気づいてしまっている。
下唇を噛んで、スカートの裾がもう少し上がる。
「……チカ……マジで、可愛いな……
いや、やっべ……やっべ……これ、ホントに俺……?」
自分の胸に反対の手を当てる。
小さく、柔らかく、温かくて、
ブラ越しに指が沈んでいく感触は、当然リアルなものだろう――
「……これが、俺の……?」
その声はもう、茶化しでもネタでもなかった。
興奮で、震えている。
その震えが、胸元から手首、指先まで連動している。
(本当は、蓮じゃない。千夏が、感じ取ってる)
千夏は、知ってしまった。
自分の身体が、どれだけ蓮に欲望されていたのか。
どこをどう見られて、何に興奮されていたのか。
そして、蓮がそれをどれほど抑え込んできたのか――
すべてが、実感として、彼女の内側に沈んでいく。
千夏――いや、中にいる“蓮”は、一旦スカートから手を放し……
自分の胸を両手でそっと持ち上げ、目を丸くしていた。
「……これ、マジで……」
ブラの内側に、指が差し込まれていく。
「うわ……やっべ……なにこれ……」
手つきがぎこちないのは、
それが自分の身体だとわかっていて、
なおかつ“触れたい”という欲望が勝ってるから。
触れるたびに体が反応して、
それがまた自分に跳ね返ってくる。
「……え、なにこれ、ヤッバ……」
ぽつりとつぶやく。
「女の子の身体って、やっべぇ……柔らか……っ」
「うおっ、なんか、じわって……え、これ、感じてんの? オレ? え、チカ? どっち? うわっ……」
彼女の身体に対して向けられていたすべての興奮が、
そのまま、今、自分の中にある。
「……これ以上は、なんか、マズい……でも……マズいけど、エロい……チカって、こんな……」
まるで初めて触るものみたいに、興奮と戸惑いが入り混じった声。
そのとき――ふわっと軽く、別の声がした。
「……そだよ~? 女の子はね、マジで気持ちよくなれるんよ、これマジ♡」
美琴。……の、声。
不意に投げかけられたその言葉は、妙に楽しそうで、まったく悪気がない。
「やばっ……え、え、お前……うわっ……やめろ、そういうの……!」
「ほらほら~、中西くん的にはさ、スカートの中気になってんじゃないの? 今見とかないと後悔するぞ童貞♡」
美琴の爆弾ワードが、教室の空気を一瞬止めた。
その瞬間――千夏の中にいる“蓮”が、ぴくんと肩を跳ねさせる。
「ど、童貞って……おい、オレ、そんなんじゃ――」
反射的に反論しようとする声が、千夏の口から飛び出しかけた、そのとき。
「じゃあ、チカとは――ヤったの?」
美琴が、にこっ、と無邪気に言った。
千夏(の中身)が一瞬で黙り込む。
目線が宙を泳いで、口がぱくぱく動いて――でも何も言えない。
(……あ、そこはやっぱ図星なんだな)
その様子を見てすぐに察した。
蓮はスケベだし、口ではああ言ってても――
でも、千夏を大切にしてる。
本当に、まだそういうことはしてない。
……それが、千夏の口からバレるっていうのが、なんとも言えない地獄だ。
「んふふ~、答えられない時点で確定ですぅ~。はい童貞確定~♡」
美琴はノリノリで畳みかける。
千夏の顔が、というより“蓮の心”が、完全に赤面。
「うっ、うるせー!! ……純情男子の青春をバカにすんな!!」
(……会話の内容は最悪なのに、見た目が千夏だから可愛いの、ずるいよな)
声が高い。動きも仕草も可愛すぎて、
“逆ギレしてる女子”にしか見えないのがまた、なんとも。
そして当然、美琴は――止まらない。
「えっ、純情男子はさ~、この状況だとさ、勃つ? 勃っちゃうんでしょ?♡」
スマホを構えたまま、カメラを下に向けてさらに追撃。
「でもほら、ないよ♡ そこ♡ ね? どうなってるか気になるじゃん?♡」
(……俺、いらないかもな)
美琴だけで、十分回ってる気がした。
一瞬空気が固まったが、蓮(千夏)が口を開く。
「……うわ、マジだ……」
ポツリと零れたその声は、さっきまでの勢いとは打って変わって静かで、
だけど明らかに混乱していた。
「こんなの絶対ギンギンなはずなのに……全く存在感がねえ……こっわ……」
ぽつぽつと独り言のようにつぶやきながら、ふらりと椅子に腰を下ろす。
そのまま、制服のスカートを膝の上でぐっと抑えながら、股間をまさぐり――完全に夢中になっていた。
顔は真っ赤。でも目は真剣。
そしてその横で、またも美琴が畳みかける。
「ねえ、代わりに湿ってるのわかんね? ていうか、童貞にはわかんないか♡」
にやにやと笑いながら覗き込むが、もう聞いていない。
蓮(千夏)は、ただただ自分の身体に没頭していた。
神妙な顔で、時折スカートを押さえたり、脚をそろえ直したり――
(……真顔で何してんだ、こいつ)
蓮がやっていると思うと間抜けなのに、千夏の身体だと異様なエロさだ。
――そして、次の瞬間。
“蓮”は、ゆっくりと顔を引き締め、
スカートの裾に手をかけた。
「……あー……やっぱ、確認しとかないと……だよな……」
震える手が、太ももをなぞりながら奥へ。
目の前で、千夏のスカートがめくられ、
自分の下腹部へ、千夏の手がそっと伸びていく。
一瞬、息を止めたように動きが止まり――
「…………あっ」
短い、けれどすべてを物語る吐息が、静かに漏れた。
指先が触れたその瞬間――
そこには「あるはずのもの」が、ない。そういう。
「蒼真ぁ……ない……」
(……こっちを見るなよ。気持ちはわかるけど)
黙殺すると、また自分の身体に集中した。
熱い息遣いが聞こえる。
(蓮のくせに、エロいな……)
「……っ」
震える指先。
小さく、触れるだけでも敏感に跳ね返ってくる突起。
下着越しに感じる、自分ではない“なにか”。
初めて味わう、女。
「………………ぁ」
しばらくの沈黙のあと――
「…………マジか」
それだけを、かすれた声で呟いた。
興奮とも動揺ともつかない、濁った声。
手は、止まらない。
(ああ……)
知っちゃったな、完全に。
千夏自身が、“蓮が何に興奮しているか”を、
どう見られていて、どう欲されているかを、
もう全部、身体の内側で理解してしまった。
これは――蓮が千夏に抱いている“欲”そのもの。
――いつのまにか、
美琴ももう、何も言わなくなった。
指先に、柔らかくて、あたたかい感触があった。
じっとりと汗ばむ手のひらが、太ももを這って――
スカートの内側で、その先へ。
でも、いつもあるはずの“それ”が、ない。
触れても、掴もうとしても、やっぱり何もない。
「…………あっ」
息が詰まった。
それがないことが、こんなにも動揺するものだとは思わなかった。
そして、ないくせに――代わりにそこにある“感触”の繊細さに、ぞくりとする。
そこには、
“千夏”の身体があって。
そして今、自分は――その身体で、感じている。
(うそだろ……やべぇ……)
誰にも見せたくなかった“奥の奥”を、
誰よりも欲しかった“場所”を――
今、自分の手で触れている。
信じられなかった。
けど、すぐに信じたくなるくらい、リアルで。
触れた瞬間、腰がびくりと跳ねた。
(……これが……チカ?)
自分の恋人。
ずっと側にいて、隣で笑ってくれて、
だけど本当の意味では、触れたことのなかった部分。
どんなに近くにいても、超えられなかった境界。
その先が、今、まるごと“自分”になっている。
背筋が震えた。
呼吸が浅くなる。
頭が、少しずつ熱を帯びてくる。
(……チカって、いつもこんなふうに……?
やべ……俺、こんなに……チカのこと、欲しかったのか……)
それが、胸の奥で――いや、
下腹部の奥で、じんじんと疼いていた。
欲しい。
触れたい。
でも同時に、守りたい。
その気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって、
どこかで「こんなことしちゃだめだ」って声が聞こえるのに、
それが遠くなっていく。
(やば……やばい……これ以上、触ったら……)
理性が言う。
だけど――
(……俺、ほんとに、チカのこと――)
その先は思考にならず、女の快感の中へと沈んでいく。
――あれ?
なんか……おかしい。
触れた指先が、熱い。
いや、さっきまでよりもずっと、あり得ないくらいの温度を感じる。
下着越しなのに、指がじっとりと濡れて――
(……なんで……?)
あわてて少しだけ手を引く。
けど、そのときもう一度、指先にぬるりとした感触がはっきりとあった。
(ちょ、待て待て待て――これ、マジで……!?)
息が止まる。
いや、息が詰まる。
たしかに触れただけ。
なのに、そこにある感覚が、異様だった。
熱くて、柔らかくて、じんじんとして――
ぬめってて、なんなら脈を打ってるようにさえ思えた。
「……は……?」
思わず、声が漏れる。
こんなの……触れたこと、ない。
どんな妄想をしたって、ここまでリアルな感覚はなかった。
自分の恋人の、一番奥の奥――
そこが、今、自分の指の先にある。
しかも、その“中”が、もう、ありえないくらい……敏感で。
(な、なんで……こんなに……?)
わからない。
けど――とんでもないことが、今、俺の中で起きてる。
その場に膝をつきそうになった。
全身が震えてる。
触れている場所も、
触れている自分の手も、
どこまでが“自分”なのか、もう境界が曖昧で――
(……やっべ……なにこれ……)
自分がどこまで“興奮している”のかも、もうわからなかった。
指が、もう勝手に動いていた。
いや、勝手じゃない。動かしてるのは、俺だ。
俺が……チカの体を、自分で……
(……やべ……マジで、やべ……)
触れた指先から、信じられないくらいの熱とぬめりがあって。
それが皮膚を通り越して、脳までじゅわっと伝わってくる。
どくん、って心臓が跳ねた。
震える指が、もう止まらない。
(……あっ……これ、ヤバい……)
喉の奥が熱くなって、何かがこみ上げてきて――
その瞬間、
「――ッあ……」
声が、出そうになった。
高くて、甘くて、
明らかに俺の声じゃない“千夏の声”。
(ち、ちがう! これ、俺の声じゃない!)
(このままじゃ……千夏のスケベな声を、俺が出すことになっちまう!)
(それはダメだ! それは違う!)
そう思ったら、もうパニックだった。
喉まで込み上げた声を、必死に飲み込んで――
「佐久間っ!!」
顔を真っ赤にしながら、俺は叫んだ。
「おい、マジで戻してくれ!! もう無理だ!!」
何が無理なのか、自分でもわからない。
けど、確かに限界だった。
「……このままだと、俺……千夏の声で、スケベなこと言っちゃう……
そんなん……そんなん、千夏がやらなきゃダメなんだよ……!」
なんでこんなに真剣なのか、わからない。
けど――本気で、そう思った。
これは千夏の体だ。
千夏の声だ。
だから、こんな気持ちよさそうな声は――
千夏自身が出すべきだ。
俺じゃない。
俺はまだ、この声を聞いちゃいけない。
――戻してくれ、か。
何かアホなことを言ってた気がするけど、不思議と迫力はあった。
俺は静かに立ち上がって、息を整えた。
千夏――いや、中身は限界を迎えた“蓮”が、
ひくひくと肩を震わせながら俺を見上げている。
「……ああ、わかったよ」
ゆっくりとその頭に手を乗せ、そっと撫でてやる。
「じゃあ、蓮――」
耳元に、優しく囁いた。
「そのまま、最高に楽しい状態のまま……深く、落ちるぞ」
指が、額に触れた。
「どんどん落ちる。
自分の声も、体も、どこにもなくなっていく。
気持ちよさだけが残って、ふわふわの、深い底まで――」
ぱちん、と指を鳴らす。
その瞬間、千夏の体がふっと力を抜いた。
顔を赤く染めたまま、トロンとしたまぶたが静かに閉じられていく。
ほんのかすかに震える唇が、余韻に満たされて――
千夏(蓮)、完全に沈黙。
俺はそっと、彼女の前髪を整えてやる。
「……よく頑張ったな、イマジナリー中西蓮――いや、千夏」
そうつぶやいたあと、ふと、
隣に立っている美琴に目をやった。
彼女は一応、スマホを構えていた――が。
構えていない方の手が、スカートの奥へ、するりと滑り込んでいた。
指先が震えてる。
小さく、かすれた息が漏れていた。
(……おっと。やっぱり、我慢できなかったか)
やけに静かになったとは思ってたんだよ。
俺はあえて、目を合わせずに軽く言った。
「それと――お前も、おあずけな」
「ふぇあっ!?♡」
明らかに“してる最中”に言われたんだろうな、って声が出た。
ガチでびっくりしてる顔のまま、美琴が俺を見て、
次の瞬間、手を引っ込めて、顔真っ赤にして口をパクパクさせて――
「な、なななな、なんで!? うち何もしてないし!?!?」
「いや見てないけど、わかるって」
俺は軽く笑って肩をすくめた。
そもそも“見張り役”なのに、自分から誰よりも堕ちてるんだから、どうしようもない。
スマホの録画ボタンは、ちゃんと赤く光っていた。
仕事は果たしてるな、結構。
(……ほんと、わかりやすい)
俺はぐったりしている“千夏”に目を戻す。
そろそろ――彼女自身を、目覚めさせてやる頃合いか。
手の中に、またあのスマホが握らされた。
さっきも、これを持っていた気がする。
ずっとずっと、手の中に感じていた、温かさ。
知ってる重みと、ぬくもりと……誰かの気配。
でも今、その気配が、少しずつ……遠のいていく。
指先から、すうっと抜けていくような感覚。
何か大事なものが、静かに離れていく。
(あ……)
わかる。
この感じ。
俺が、蓮が――“あいつ”が、出ていってる。
自分の中にいた、あのお調子者で、バカで、スケベで、
でも、どうしようもなくにくめない“誰か”。
……でも。
(――ちがう。あれ、“本人”じゃなかったんだ)
それに、ふっと気づいた。
あれは、蓮のふりをした“私の中のイメージ”だった。
蒼真くんが見せてくれた“鏡”。
蓮が、私をどう見ているか。
私が、蓮にどう見られたいか。
蓮が、私にどう触れたいと思ってるか。
そして――私自身が、どうされたいと思ってるか。
全部、あの中にあった。
じわじわと意識が戻ってきて、目蓋の裏に光が差し込む。
ぼやけた世界が、次第に形を取り戻していく。
そして、最初に聞こえたのは――
「いやあ、蓮のやつ、彼女にもああいう感じなんだな。千夏も大変だな」
蒼真くんの、ちょっと笑った声だった。
「……は?」
口が勝手に反応していた。
でも、すぐにその言葉の意味が胸に届いて、
私は、顔から火が出そうなほど赤くなった。
(な……なに言ってんの、この人……!)
目の奥が熱い。
手のひらがじんじんする。
――でも、わかってる。
あれは、私の中の蓮。
そして、あれにあれだけ反応したのは――私自身。
「あれってやっぱ、本当は中西くんじゃなかったの?」
みこちんが言った。
まだ胸の奥がじんじんしていて、うまく息が整わない。
確かに、気になって仕方なかった。
私の中にいた“蓮”が、どこまで本物だったのか。
「ああ。あれは千夏が作り出したイメージ」
蒼真くんは、あっさりと言った。
「つまり、蓮は――いつも千夏に、あれくらいスケベなこと言ってるし、やってるんだろ」
「う、うう……それは……っ」
反論できなかった。
たしかに、あいつは口が悪いし、軽いし、下ネタばっかだし――
でも。
あんなふうに、苦しそうに、声を堪えて、必死で耐えて――
最後には“戻してくれ”って叫んで。
(……あんなに……切なかったなんて……)
思い返すだけで、胸の奥が痛くなる。
スケベなことばっか言ってたけど、
でもその奥にあったのは――我慢してたんだ、ずっと。
「好きな子に触れたい」「でも、嫌われたくない」「怖い」「大事にしたい」
そんな気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざった“蓮の声”が、
私の中から出てきていた。
(……私、蓮くんの気持ち……考えてなかった)
(ずっと、私ばっかり――わがまま言ってた)
(……すっごく、我慢させてたんだ……)
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
さっきまでの恥ずかしさとは、違う感情。
それは、あいつが私を――ちゃんと大事に思ってくれてた証拠で、
そして、私は……それに、ちゃんと気づいてなかった。
私はゆっくりと顔を上げた。
佐久間くんは、そんな私をじっと見てた。
なにか言うわけでもなく、いつもの落ち着いた目で、ただ黙って。
けど、わかってる。
この人は、知ってたんだ。
あいつが、私のことを本当に大事にしてるってことも、
バカみたいなこと言いながら、必死で我慢してたことも。
そして、それを――私自身が、本当は気づいていたことも。
「……ねえ、佐久間くん」
自分でも驚くくらい、声は静かだった。
でも、まっすぐに言えた。
「……ありがとう。私に、ちゃんと、気づかせてくれて」
佐久間――蒼真くんは、少しだけ目を細めて、
「うん」とだけ返してくれた。
それだけで、なんだか胸がいっぱいになった。
「――私ね」
言葉を選ぶように、少しだけ唇を噛んで、そして続ける。
「……ちゃんと、あいつに向き合いたいなって思った」
「スケベなことばっか言ってくるけど、でも、あいつなりにすごく頑張ってて……
大事にしようとしてくれてるのも……なんとなく気づいてた。けど、ちゃんとわかったのは今日が初めてで……」
口にしながら、ちょっとだけ視線を落とす。
(……ほんと、バカだよね私。ちゃんと見えてたのに、見ないフリしてた)
「蓮くんが、私をどう見てるのか。どんなこと考えてるのか……そういうのも、ちゃんと」
言葉にするたびに、胸の奥がじんわりしてくる。
(ちょっとびっくりしたし、恥ずかしかったけど……でも、嫌じゃなかった)
「それでも、やっぱり……私はあいつが好きだなって、思ったの」
そこだけは、はっきりと言えた。
(だって、あんなに必死で――うちのこと、思ってくれてたんだし)
言い終えて、少しだけ息を吐く。
すっきりしたような、でもちょっとだけドキドキするような、そんな感覚が胸の奥に残っていた。
――そして、ふと。
さっきまでの、自分の中にいた“蓮”のことを思い出した。
自分の身体に触れながら、何度も「やべえ」とか「柔らか……」とか言ってたあの感じ。
あれは、全部――蓮くんの本音、だったのかなって。
……そんなふうに思ったら、また少しだけ、胸がドキドキした。
自分の身体が、誰かの欲望の対象になっているっていう、あの感覚。
(……うちのこと、そんなふうに見てるんかな……)
気づいたら、ぽつりと呟いていた。
「……あの時の蓮くんの気持ちって……本物も、あんな感じなの?」
隣にいる蒼真が、ちらりとこちらを見て――肩をすくめる。
「いや、もっとすごいんじゃないか? 本物の方が」
その言葉に、思わず顔が熱くなる。
わかってたけど――やっぱ、恥ずかしい。
佐久間くんが、すっと顔を近づけてきた。
「――よかったね、千夏」
その声は、いつもより少しだけ低くて、落ち着いていて。
でも、どこか“何かが始まる”気配があった。
「じゃあ……頑張った千夏に、ご褒美だよ」
ご褒美。
その言葉に、無意識に身体が反応してしまったのは、たぶんさっきの“催眠の後”だったから。
まだ熱が残ってる。頭の奥が、ふわふわとしたまま。
そんな中で、佐久間くんの言葉が静かに続いていく。
「今度は、蓮じゃない。――千夏のままで、男みたいにスケベにしてあげる」
え……?
頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。
でも、同時に――
さっき自分が、どういう興奮をしていたか。
その手が、どんなふうに感じていたか。
あの“欲望”が、どれだけ強くて……どれだけ、気持ちよかったか。
それを、今度は“自分自身”のものとして抱いてしまう――
そう言われているのだと、なんとなくわかった。
(……いや、どこがご褒美?)
言ってることがおかしい。
それでも佐久間くんは、やさしくささやく。
「今、千夏の中には、もう“それ”の感触が残ってる。覚えてるよね」
「あ……」
そんなの、ずるい。
やっと感じられたあいつの気持ち、忘れるわけないんだから。
「千夏が、自分の身体を見たときのドキドキ。触れたときのゾクゾク」
「それが、どんどん思い出されてくるよ。ゆっくり、じんわり、熱くなっていく」
目を閉じると、脳裏にすぐ浮かんできた。
自分の胸。
自分の脚。
スカートの内側。
そして――あの“奥”。
(……あんなとこ、思い出しちゃダメなのに……)
(でも、思い出しちゃってる……)
息が熱くなってくる。
「思い出すたびに、ちょっとずつ、男の子の気持ちがわかってくる」
「女の子の身体って、ほんとにスゴいんだなって。やわらかくて、甘くて、エロくて――」
「どこを見ても、どこを想像しても、気になってしかたがない。欲しくてしかたがない」
「千夏は、今から、それを全部感じられるようになるよ。千夏のままで、ね」
その言葉が染み込むように、じわじわと広がっていった。
なんだろう――身体の奥の方に、熱い火種みたいなものがある感じ。
じわじわ、じわじわ、熱が大きくなっていって……
「男の子みたいに、欲情できる。そういう風に、変わっていくよ」
「千夏のまま、女の子を見て、想像して、欲しくなる」
「それが、千夏の“ご褒美”だよ」
ご褒美。
その響きが、今度は全身に優しく行き渡っていった。
変だと思ってたのに。
“スケベにされる”なんておかしいのに。
でも――
(……うち、今……すごく、欲しくなってきてる)
誰かの肌。誰かの脚。誰かの胸。
“女の子の身体”という存在が、急に、意味を持ち始めていた。
触れたい。
見たい。
感じたい。
そんなふうに――
男子みたいな気持ちで、女の子のことを考え始めてしまっている自分に、気づいた。
イイハナシダナー
おかしいな? 催眠で面白おかしくやってたはずなのにちゃんと彼女を大切にする彼氏を見せつけられてる。
ヘタレといえばそうなのでぅが、こういう彼氏は結構好きでぅよ。みゃふはらゔらゔものも好きなのでw
まあ、本人ではなく、彼女から見た彼氏なんでぅけどね。
かと思ったら野郎の性欲を植え付けられてしまった千夏ちゃん。目の前に女の子は美琴しかいないぞ!
となると、この先の展開は火を見るより明らかでぅね!
ここ、「彼女視点のこうだったらいいなという願望」でしかない説あるんですが、それは言わないのが優しさです。