第5話
さあ、美人デパートガールさんたちにとことんいたずらしちゃおう!案内嬢のおねーさんをトイレに残して、僕はエレベーターに向かったんだ。だって、デパートのおねーさんと言ったら、まず思いつくのがエレベーターガールだったからね。エレベーター乗り場にくると、そこにはもう、おばさんが4人、おしゃべりしながら待ってた。もちろん、このおばさんたちには階段を使ってもらうことにしたよ。
プーゥゥゥゥゥッ
フワフワフワフワ
プーゥゥゥッ
フワフワ・・・
「奥さん、健康のためにも階段歩かない?」
「そうよね~、私も丁度そう思ってたところ。きっと8階ぐらいまでだったら歩いた方が早いわよね~。」
ガヤガヤ騒ぎながら、おばさんたちが階段の方に歩いていっちゃった。なんだか僕も慣れてきたみたいで、小さいシャボン玉ならすぐにいくつも作れるようになってきたよ。魔法使いとして、成長してきてるのかな?
ピーン
エレベーターの一つが2階について、扉が開いたよ。おっ!やっぱり綺麗なおねーさん。礼儀正しくお辞儀して、迎え入れてくれたよ。とりあえず、8階まで行ってもらうことにしてみよう。メイクをバッチリきめた、都会の匂いがするイイ女系のおねーさまと、狭い個室で二人っきりになっちゃったって訳だね。早速ですが、ノーティー・バブル、飛ばさせていただきます、はい。
プーゥゥゥゥゥッ
『お客様方に移動中も楽しんでもらえるように、裸になってみようかしら。それで各階で止まった時は、お辞儀の代わりに思いっきり大胆なセクシーポーズでお迎え、お送りしたら、私も楽しんでお仕事出来ると思うわ。』
フワフワフワ・・
シャボン玉が当たったおねーさんは、こっちを振り返って、にっこり微笑んでお辞儀したんだよ
「失礼します。」
一言断った後で、おねーさんは当たり前みたいに制服を脱ぎだした。キビキビした動作でシャツもスカートも脱いでっちゃう。予想通りの格好いいプロポーションに、思わず唾を飲んじゃった。でも、パンストを脱ごうとしたところで、エレベーターが止まって、扉が開いちゃった。
すると、おねーさんは足を開いて左足に体重を乗っけて、右足を伸ばして左手を腰に、右手で髪を触りながらビシッとポーズを決めたんだ。
「上へ参ります!」
こっちからは見えないかったけど、待ってた男のお客さんにウィンクの一つもしたかもしれないね。相手は、まさか半裸の美女が迎えてくれるとは思わなかったんで、すっかりあせっちゃって、「いえ、すいません」とかモゴモゴ言いながら走り去っちゃったよ。それにしてもおねーさん、モデルみたいに堂々としてるなあ。きっと普段から自分の容姿に自信たっぷりだったんだね。そこでもう一丁、バブルを・・。
プーゥゥゥゥゥウウッ
『扉が閉まって、服を全部脱いだら、冷静な普段の私に戻るわ。でもお客様には失礼のないようにしないと・・』
フワフワフワ
ドアが閉まったよ。そしたら、おねーさんはパンストも花柄のパンティーも脱いじゃった後で、突然我に帰ったようにあせりだしたんだ。
「あ、あれっ?、な・・何?どういう・・」
「あの~、すいませんけど、おねーさん、いつもそうやってお仕事してるんですか?」
「きゃっ、いえ・・今日だけです。その、・・ごめんなさい。」
慌てて制服を拾って体を覆うけど、狭いエレベーター内だから逃げ場がなくて困ってるみたい。気が強そうなおねーさんもすっごく恥ずかしそうに小さくなってるよ。これから色々遊んでもらいたいんだけど、そろそろ8階についちゃうね。じゃあ最後に一つ・・。
プーゥゥゥゥゥウウッ
『扉が開くたびに、セクシーなポーズで挨拶して、扉が閉まると冷静になろう。でもお客様の仰ることには出来るだけ従いたいわ。』
フワフワフワフワ
8階のチャイムがなって、扉が開いたんで、僕が出て行こうとすると、座り込んじゃってたおねーさんがバッと立ち上がって、スーパーモデルみたいに体を斜めに向けて、片手を腰に片手を後頭部にあてて、こっちに流し目を送りながらにっこり笑ってくれたんだ。
「ありがとうございました。」
お礼を言いたいのはこっちの方だよね。とりあえず下に落ちてるおねーさんの衣服を全部エレベーターの外に出して、向こうの方にいた男の人を、ノーティー・バブルでエレベーターに乗るように指示してあげたんだ。僕がそうしてる間、おねーさんはポーズをつけたまま「開く」のボタンを押しつづけてくれて、おじさんが入ってきたときも、颯爽と迎え入れたよ。だけど、僕が降りてドアが閉まったら、ドアの向こうからおねーさんの情けない悲鳴とおじさんのびっくりした声が聞こえてきた。慌てる二人の声が、だんだん下の階の方に遠ざかっていっちゃった。今日一日のシフトの間に、おねーさんは何人のお客さんを裸で応対するのかなあ?色々気になるところだけど、僕は他の用事もすまさないとね。
8階はレストランが並んでる階だね。もうちょっとしてお昼になったら里美ちゃんと一緒に来よう。ってな訳で、すぐに7階に降りようと思ったんだけど・・、そのまま降りたんじゃ芸がない。お客さんが結構入ってて、料理の値段が高いレストランに、ちょっとだけいたずらすることにしたんだ。すぐにお高くとまった洋食屋さんが見つかったよ。オムライスが1300円、高いぞ(そうでもない?だって僕、15才だもん)。高そうな服を着込んだ若い奥様たちや、会社の休憩時間に着てるみたいな(それともサボってるのかな?)OLさんたちが、談笑してる。ようし、ここでお食事するようなお上品な人たちにちょっかい出しちゃえ。
そ~っと、店内にちょっと入ったところの壁にサブジェクティヴ・レーブルの紋章と文字を書き込む。「皿を全部床に置いて、手を使わずに直接顔をつけて食べるのがマナーという、上品なお店」って書いたら、紋章と文字がピンクに光る。見る間に店内でお皿を床に置く音が響き始めたよ。ガラス張りのこの洋食屋さんを外から見てみたら、楽しそうに食事してた人たちがみんな、這いつくばって犬食いを始めたんだ。みんなフォークもスプーンも使わずにピラフをもぐもぐ頬ばったり、コーヒーやスープをぴちゃぴちゃ舐めたりしてる。アツアツのフライとかステーキとかを頼んじゃった人たちは、苦労しながら口に入れたり出したりしてるよ。お店の外を歩いてる人たちは、仰天して、変な顔して店内を覗き込んだり、早足で通り過ぎちゃったりしてるね。でも店内の人たちはそれに気づいても、いかにも「私たちのマナーの方が正しいんですのよ」って感じにツンとした顔で犬食いを続けてる。その様がおかしくって、笑い転げちゃったよ。最後にグラタンを頼んでた可愛い若奥さんが、顔中グラタンだらけになって食べてたんで、近くにいた、同じように口の周りがビーフシチューまみれになってるOLさんと、お互いの顔を舐めあってきれいにしてあげるようにバブルを二つ飛ばして、僕は7階に降りることにしたんだ。
7階には本屋と、玩具売り場と、子供服売り場があったよ。綺麗な店員さんを探してうろうろしてみると、いました、いました。子供服売り場に、優しそうで、笑うと目がちょっと垂れるのが可愛いおねーさんがいましたよ。さっそくシャボン玉を飛ばしちゃう。
プーゥゥゥゥ・・
『子供服を売るにも、まず自分が着てみて良さをお客様にアピールしなきゃいけないわ。今すぐここで、この服に着替えてみよう』
フワフワフワフワ
バブルが当たった、ほんわかとした雰囲気のおねーさんは、しばらく目をパチクリしてた後で、整頓してた子供服を置いて、自分の制服を脱ぎだしたんだ。周りにちょっと気遣いながら、ゆっくりとした仕草でブラウスも脱いで、シャツのボタンを外していく。ブラジャーをつけたまま、熊さんの絵がプリントされてるピンクの子供服を着ようとするから、慌ててブラジャーも取るようにバブルを飛ばしたよ(だってブラつけて子供服着る子、あんまりいないでしょ?)。白いブラジャーもとって、柔らかそうな素肌を見せてくれた店員さんは、小学生用ぐらいのピンクのお洋服を、無理やり着ようとして、頭が通らなくて苦戦してる。力ずくでちっちゃいシャツを着ちゃうと、丈が短すぎて、おへそも隠れないような、ちんちくりんな格好になっちゃった。袖は肩から腕をちょっと隠してる程度だし、胸がはちきれそうで、熊さんの顔が横に伸びちゃってるし・・、全体的になんかエッチな感じだったんだ。ピチTをもっとエロく、ロリっぽくしたような感じだね。こっちの様子に気づいた、厳しそうな年上の店員さんが慌てて駆け寄ってきたよ。
「酒井さん、何してるのっ。それ売り物でしょ!」
「先輩・・あの、実際に自分でですね・・・その・・」
かわいそうだから、ここはやっぱり魔法で助けてあげたよ。ノーティー・バブルが当たったヤリ手っぽい店員さんも、すぐに酒井さんに微笑んだって訳さ。
「あ、もういいわ。あなたの言いたいこと分かったから。私も子供服を着てみるわね。」
先輩店員さんがそばにあった赤と白の水玉模様のワンピースを手にとって着替え始めると、ほっとした酒井さんも、制服のスカートから、白いフレアスカートに履き替えた。スカートも小学生用かそれより小さいぐらいだったから、マイクロミニみたいになっちゃってて、下からは反対に大人っぽい白いレースのパンツがチラチラ見えるような、やらしい格好になっちゃったよ。だけど酒井さんは大満足って具合にニコニコして、両手でスカートの裾をつまんで近くの鏡を見たりしてる。キャリアウーマン風の先輩もパンティー以外脱ぎ捨てて、無理やりワンピースに体を突っ込むと、ボディコン風のピチピチ服になっちゃった。バドガールみたいな服にも見えるね。パンツは丸出しになっちゃってるし、乳首までしっかり浮き出ちゃってる。二人ともちょっと苦しそうだけど、なかなか面白い格好になったって訳だね。
プーゥゥゥゥ・・
『すごくイイ感じになったわ。このまま子供になったつもりでお客様にねだれば、みんなドンドン買っていってくれるかもしれないわ。』
フワフワフワフワ・・
プーゥゥゥゥウウッ
フワフワ
僕がバブルを二つ飛ばすと、子供服をキツキツに着た二人の店員さんは、おたがい目を見てニッコリ頷きあって、少し離れたところで服を見ていた女性客に近づいてったんだ。
「ね~服買って~ぇぇぇ。」
「買って、買って~ぇぇぇ」
ワンピースの先輩店員さんが、戸惑ってる、同じ年くらいの女の人の足にしがみつくと、酒井さんは横で床に座り込んで足をドタバタさせ始める。パンツが丸見えになっているのも全然気になってないみたいだね。いきなりこんな風にせがまれた、大人しそうな女の人は、訳がわからずにオロオロしてるよ。この人にもシャボン玉を当ててみようかな。
プーゥゥゥゥウウッ
フワフワ
「や~だぁぁあ!買わないぃぃぃいい!」
お客さんの方も子供になりきって、床に寝そべってゴロゴロのたうちまわり始めちゃったよ。店員さんの二人はかんしゃくを起こして泣きながらごねる。みんな涙と涎と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながらわめきだしちゃった。結局売れるのかどうか、最後まで見ていたい気もするけど、騒ぎが大きくなるかもしれないんで、僕はこの場を退散しちゃおっと。だだをこねる、三人のおねーさんの声と、足のドタバタする音を背中で聞きながら、僕はエスカレーターで6階に降りることにしたよ(ひどいかな?)。
6階ではスポーツ用品が売ってた。水着売り場に行くと、里美ちゃんが僕に気づいて手を振ってくれたんだ。なんだかすごくデートに来たっていう気がするね。
「どう?いいの見つかった?」
「えぇっとね、この二つの、どっちにしようか、草野君の意見も聞こうと思って。」
僕の好みも知りたくて、待っててくれたんだ。感動だよね。里美ちゃんが手にしてたのは、鮮やかなオレンジのワンピースのハイレグと、コバルトブルーのビキニ。どっちもバブルで指示したとおり、紐みたいに細くて過激なやつだよ。僕もどっちがいいか、悩むところだね。
「よろしければ、ご試着なさいますか?」
悩む僕たちに話しかけてきた店員さんは、スポーツ用品売り場のイメージとは全然違う、小柄で可愛らしい、お嬢様タイプの美人だったよ。どうやらアウトドア派とか文系とか、性格で売り場が決まったりするわけじゃないみたいだね。
「この二つのどっちにしようか迷ってるんで、出来たら店員さんも、この片一方着てみてくれませんか?着替えるのは二人ともここでいいんで。」
「はい?」
笑顔が強ばる美人デパートガールに、すかさずシャボン玉を吹きかける。里美ちゃんにもバブルを当てると、二人は仲良くその場で服を脱ぎ始めたんだ。遠くからチラチラこっちを見る男の客何人かにも無視するように魔法をかけなきゃいけなかったけど、後は順調に二人とも僕の前で素っ裸になって、水着を着始めた。色の白さは二人とも同じぐらいだね。店員さんの方が胸はあるし下の毛もやや濃いけど、体格は似通ってるから、水着の比較にはなるかな。店員さんはオレンジの紐水着で、里美ちゃんは青のビキニで、それぞれ申し訳程度に体を隠したんだ。どっちもほとんど裸の上にヒモを絡ませただけみたいな格好になっちゃったけどね。魔法で、「体を張ったサービス命」って気持ちになってる店員さんをちょっとからかってみようかな。
「お名前はなんていうんですか?」
「片倉美智代と申します。」
「里美ちゃんもそうだけど、美智代さんは特に、水着から下の毛がこんもりはみ出しちゃってますよね。」
片倉さんも里美ちゃんも、もじもじしながら両手で股を隠しちゃった。
「すみません。その、急にこんな切れ込みの激しいのを着ることになるとは思わなくて、ちゃんと処理していませんでした。」
「じゃあ、今から生活用品売り場か化粧品売り場に行って、除毛セットできれいにしてきたらいいですよ。」
「はい、ありがとうございます。そうさせていただきます。」
顔を真っ赤に火照らした片倉さんが、足を開く度にさらに出てきちゃう陰毛を気にしながら、小走りに下の階のほうに降りていこうとする。最後にもう一つバブルを飛ばそう。
プーゥゥゥゥウウッ
フワフワ
小走りの片倉さんの後頭部にやっと追いついたバブルがはじけると、「水着を着てる以上は泳いでるみたいに動いてみて、周りのお客さんに水着の気持ちよさをアピールしなきゃ」って思い込んだ片倉さんは平泳ぎの手つきで、ニコニコしながら、下りのエスカレーターに乗っていったよ。妙な顔で見てる周りのお客さんも、こぼれそうな白いおっぱいも、わっさりとはみ出ちゃってる陰毛も全く気にかけずに、爽やかな笑顔をふりまいてる。片倉さんか・・。また今度来た時もいたずらしたいタイプの人だよね。記念に、置いてっちゃった服の中からパンツもらって行こっと。
「店員さん、行っちゃった・・。草野君、この青の方でいいと思う?」
「うん、いいよ。里美ちゃんにすごく似合ってるよ。」
「本当に?嬉しい。」
里美ちゃんが照れ隠しに前髪をいじる。調子に乗ってここでもう一発・・。
プーゥゥゥゥ・・
『水着を着てて嬉しい時は、思わず水着の下を思いっきり引っぱりあげちゃうのが私の癖なのよね。』
「い、痛~い。」
里美ちゃんが自分でビキニのパンツの方を両手でVの字に引っぱりあげて、悲鳴を上げる。もともと切れ込みの鋭いハイレグが、さらに大事なところに食い込んじゃったんだからちょっと痛かったみたい。悪いとは思うんだけど、ついつい笑っちゃった。
「そんなことしちゃ駄目だよ。せっかくの水着も伸びちゃうし、里美ちゃんも痛いでしょ。ほら、みんなも見てる。」
「ごめんなさい。・・癖なの。」
里美ちゃんがしょんぼりする。可愛そうだから元気づけないと。
「いいから、その水着買って、上着だけ羽織って食事に行こっ。初デートだから、おいしいもの御馳走してあげるよ。」
「本当?いいの?・・い、イタイッ」
食事は最高だったよ。サブジェクティヴ・レーブルをちょっと使ったら、8階のレストランは僕たちを「ちょうど1万8千512番目のお客様」として、無料で何でも食べさせてくれたんだ。おなか一杯食べた後で僕らは、電化製品売り場とCD屋さんを回って、4階の待ち合わせ広場に来たんだ。そこにある、ちょっとしたイベントをやったりする開かれたスペースで、貰ってきたコンポとCDを開けちゃって、大エアロビクス大会を始めたってわけ。コンポの接続を済ませて、ステージ付近の床にある電源につないで、テンポのいいコンピュータミュージックをかけたら、バブルを飛ばしまくった。見る間に僕の前には、きれいな店員さんやお客さんが、張り切った笑顔を浮かべて思いっきり踊りながら集まってきたんだよ。里美ちゃんを先頭に、みんなエアロビクスのインストラクターになったつもりで曲にのって上手に踊ってる。「全国大会で、審査員である僕の目にとまるために」必死で体を動かしてるんだ。お昼を過ぎて、店内には学生っぽい人たちを始め若い人たちも増えてるから、みんな振りがダイナミックで個性的で面白いんだよ。踊ってて暑くなったらどんどん服を脱いでくように魔法をかけてあるから、次々と服や下着が宙に舞っていく。みんな(審査員へのアピールかな?)最高の笑顔で自分の裸の健康美をアピールしてくるから、見てるこっちもすがすがしい気持ちになれるね。
と、僕が楽しんでるとこへ、あいつがやって来た。緑色のちっちゃいのが、下の階から飛び込んできたんだ。
「よう、ボウズ。楽しんでるみてぇじゃねえか。てめえが行ってるってんで、こんなゴミゴミした、街の中心部まで来てやったぜ。」
いかにも、デート中(あんまりデートっぽくない?)でも僕がピンプルに会いたくてしょうがなかったかのように振舞うピンプル。困った奴だよね。
「この辺はどうだった?駅前ってビルが立ち並んでて、びっくりしたんじゃない?」
「まあ賑わってるのは結構なことだが、この辺りにゃあ、この世界からオイラたち超常のもんを弾き飛ばそうとする敵がたむろしてやがるな。」
ピンプルがやけに真剣な顔になってるよ。
「えぇっ、誰?」
「この建物の外にもいた。チラシだの、ティッシュだの配ってる連中だ。てめえには何のことか分からねえだろうが、街を歩く人間が少し他人を厄介だと思って警戒するたびに街が少しだけ冷え固まる。際限なく渡されそうになるチラシを誰かが一つ拒絶する度に実はこの世界が閉じていきやがるんだ。スリだの引ったくりだのよりたちが悪いぜ。他人を拒絶するように身構えて歩く奴が増えるたびに俺たちみたいなのは・・まぁいい。ボウズに言ったってしょうがねえ。とにかくてめえは今を楽しめ。何かでっかいことをやれ。」
その楽しんでる時に、割って入って来られて、愚痴をこぼされたんじゃあね~。ま、いいや。
「ほら、見てよ。みんなに食後のエアロビクス大会してもらってるんだ。面白いよ。」
「これが大エロなんとか大会?てめえは、ノーティー・バブルに複数の紋章まで覚えて、そんなことしかしてねえのか?もっとでかいこと出来るだろうが。」
う、そう言えば、紋章魔法も一つ目のやつしか使ってなかったんだ。三つ目の紋章はまだ使うなって言われてたんだけど、二つ目のを使えば、閉鎖空間だけじゃなくて、外でも大勢の人たちに魔法がかけられるんだった。
「分かったよ。ごめんごめん。天気もいいから、外で何かやってみるよ。」
エアロビクス大会をスムーズに解散させて、僕とピンプルと里美ちゃんはデパートの正面出入り口から外に出てみた。さて、ここで何が出来るかな?駅前の広場に続く、大きな階段とエスカレーターを見下ろした。ん、そうだ。レンガ模様の床の目につくところに、二つ目の紋章と『おかしなことはなにもない。若い女は階段の手すりでオナニーをしよう、それ以外はしばらく見物してから、見たものを忘れて立ち去ろう』という文章を大きく書いてみた。紋章と文字が光ると、それを不思議そうに見てた里美ちゃんが、さっそく丸い鉄の棒でできてる手すりにまたがって、腰を擦りつけてよがりだしたよ。二つ目の紋章は、それを見た者全てに影響を及ぼすんだってさ。とりあえずは成功かな?自動ドアから出てくる若い女の人たちが、どんどん里美ちゃんの後ろに連なっててすりでオナニー始めたんだ。階段の下にも下りていって、同じものを書く。見る間に、長くてゆるやかな階段の上と下から、手すりにまたがって腰を振る女の人たちが連なっていくよ。カップル連れも、彼女がその列に加わるのを男が楽しそうに見物してる。駅前に見たこともないような、100人を軽く越える女の子たちのオナニー行列ができたんだ。
階段の上から下まで女の子たちが手すりに行き渡ると、新しく来た娘は、ちょっとでも隙間の開いてる部分に、密着するぐらいに詰めて入り込みんでくるよ。そうなると勝手なリズムで腰を擦り付けることが出来なくなって、みんなの腰を前後する動作が一体になってきた。僕もムカデ競争を見てるみたいな、なんだか不思議で楽しい気分になってきたよ。女の子たちの声と、それを見守る見物客たちの熱気がどんどん高まってきた。僕はパレードを謁見する王様みたいな誇らしい気分で、階段の上からそれを見下ろしてたんだ。わっはっは。
ところがその時、そんな僕の目の前で火花が散った。
ゴンッ!
鈍い音が背骨に響く、僕の頭に何か、重くて固いものが当たったんだ。最初は訳が分かんなくて、頭を抑えて倒れこむ。だんだんジンジンと痺れたような痛みが回ってきたよ。いった~い!。
「外壁を修繕してる野郎の道具だな。びっくりして落としたらしいぜ。」
ハケが僕の斜め前に落ちてる。ピンプルの言葉を聞いて、床に倒れこんだまま寝返りうって上を見てみると、確かに窓拭きか、外壁の修繕か何かしてる業者の人たちが、口を開けて階段を見下ろしてたんだ。ヒサシで死角になってて、上からは紋章が見えなかった業者の人が、階段の以上に目がいって、思わずハケを落としちゃったみたい。それがヒサシで跳ねて、僕に直撃とは・・とほほ、あんまり大それたことは出来ないもんだね。最後にそれだけ思うと、僕の意識は暗転しちゃった。二つ目の紋章か・・見えなければ効果がないっていうところは、細心の注意が必要なわけだね。気をつけます。ぁぁ、ひよこが回る・・。
頭のいいみんななら分かってると思うけど、この時僕を襲ったのは、もちろんアクシデントでたまたま僕の頭に命中したハケなんかじゃなかったんだ。突然誕生したピンク魔術師が、自由に存分に街を玩具にするのを黙認はしないぞっていう存在がいたんだね(言っとくけど、ティッシュ配りの人たちじゃないよ)。でもこういう存在に僕が気づいたのは、もうちょっとだけ後だったんだ・・・。
< 第6話へ続く >