第7話
翌日、日曜日の朝から、生徒会役員は全員集合。不満げな顔つきで区民体育館の前に集まった彼らは、お互いの格好を見て目を見合わせていた。
「や、やあっ。昨日はみんな、オシャレな格好だったけれど、今日はさらに、せ、セクシーだね。」
樹はどもりながらも満面の笑顔。男子たちの服装は全員統一の黒いTシャツとジーンズ。女子はそれぞれ、思い思いの「セクシーな服」で日曜の朝っぱらから集合させられていた。そんな暗示をかけられていたことすら、綺麗に忘れてしまっていた女子たちは、今更ながら自分の格好を見下ろして赤面する。
生徒会長の高倉沙耶は白い襟付きシャツにホットパンツ。シャツは鳩尾のところで裾を結んでいて、綺麗なおなかとオヘソがさらされていた。ホットパンツは太腿から足をしっかり出している。選管委員長の芹沢澪は真っ白なボディコンスーツ。豊満な胸とお尻がパンパンに、伸縮性のあるミニスカワンピースを中から押し出していた。会計の鶴見栞は背中がパックリ開いた、赤いイブニングドレス。電車の中で妙に人目が集まってきていた違和感の理由に、今更気がついた自分に腹を立てている。そして書記の清橋優奈に至っては、シースルーのネグリジェで着てしまっていた。体にサイズが合っていないのは、お母様の寝巻きをこっそり持ち出してきたからだった。
「朝っぱらから、変な格好させんなよ。騒ぎになったら、お前だって困るくせに。」
腰に手を当てて、髪をかきあげる澪。ボディコンスーツを身にまとっているせいか、いつもよりもさらにオトナっぽい。エロさが体中から滲み出していた。
「そうよっ。樹君。変なゲームさせるんだったら、せめて室内にしてよ。私たち、お友達に見つかったら、学校に行けなくなっちゃう。」
沙耶が両手をオヘソの上で隠しながら言う。どうやら、こんな格好で外出したのは、初めてのようだった。樹はみんなの体を嬉しそうに見回しながら、ゴソゴソとリュックサックから黒い立体を取り出そうとしていた。
「学校、行けなくなっちゃうか・・・。ひ、引きこもりの僕を、みんなで復帰させてたはずなのに、た、立場が逆転しちゃったかもね・・・。でも、大丈夫、安心して。ここの駐車場なら、そんなに人通りは多くないから。今日は、合唱サークルと、バトミントンの人たちしか、来てないみたい。」
完全インドア派の可児田樹にしては、色々調べているらしかった。小峰駿斗は樹のリサーチの正確さを理解する。区民体育館はジムに近い方の第2駐車場は車や人の行き来が頻繁にあるが、ここ第3駐車場は小ホールを使う人たちしか利用しない。特定サークルが一日貸切りにしている日は、早朝と昼過ぎくらいしか、人の動きは無い。青空駐車場に車が並んでいるだけだった。
「き、今日は、せっかくの日曜日なんだから、外で、撮影会でもしたいなって思ってね。僕の大事な一眼レフのデジカメ持って来ちゃった。み、みんな、大事に使ってよね。」
樹が男子たちに呼びかける。陸は樹の意図を推し量る。みんな大事に使ってとは、樹のカメラを自分たちに持たせる気だろうか?
「と、とりあえず、いつもみたいに、『生徒会のシエスタ』から始めようか。ゲームのルール説明するからさ。」
布地の少ない服からはみ出す体を隠していた、女子たちの手がブラリと力なく揺れる。キーワードを樹が口にしたせいで、自分たちはまた、深い催眠状態に落とされていくのだ。賢い栞がそう思考した瞬間、その思考は水に溶けるように霧消していった。全員がうつろな目で樹を見据えて、ボンヤリと立ち尽くす。樹の言葉だけに意識が開かれきった状態。樹の言葉を、何の疑問も持たずに受け入れ、深層意識に染みこませるだけのスポンジのような頭になる。それは恐ろしくも妖しい、抗えない快感を秘めた脱力と夢遊の時間だった。
「・・・じゃ、みんな。お、お仕事、はりきっていこうか。ライバルや商売敵に負けないように、ハッスルしないとね。持ち場について。」
可児田樹がパンパンと手を叩く。澪が瞼を開くと、目の前には賑やかなイベント会場が広がっていた。ホールの上、ライトアップされた垂れ幕を見上げる。そこには大きく、「第45回 日本スペシャル・モーターショー」と書き記されていた。
「はいっ。」
沙耶と優奈と栞の声が重なる。
「はいっ、よろしくお願いしまーす。」
澪も負けじと、元気な声を出して持ち場に駆けていった。澪はこの、日本を代表するモーターショーのコンパニオン。これから雑誌社の撮影の時間だったことを思い出した。
「あ、澪ちゃんね。よろしくー。月刊ヤング・ワイルドアニマルの佐倉です。うちの読者はセクシーグラビア系のページを待ってるから、サービスお願いね。」
「はいっ。頑張りますっ。よろしくお願いしますっ。」
笑顔で敬礼してみせる、コンパニオンの澪。澪が担当する車は白い軽トラック。これだけではあまり引きがない。それを補うために、コンパニオンのギリギリまでセクシーなアピールでお客さんを集めることは、メーカーさんにも要請されている。澪はサービス精神満点のセクシーモデルなので、グラビア誌へのチラリズム披露など、お手の物だ。
(このカメラマンさん、アタシの昔の友達に似てるな・・・。佐倉陸・・・。そうだ、陸に似てるんだ。・・・でも、あの陸が今頃、スケベ雑誌のカメラマンになってるなんてこと、ありえないよね。)
ほとんどただの中古車に見えるビンテージ軽トラの、窓を下ろしきっているドアに肘をかけて、芹沢澪がポーズを決める。お決まりのポーズを何枚か撮らせた後は、ドアに両手をついて、背中を反らしてお尻をグッと突き出してみる。ミニスカの裾が太腿をすりあがっていく感触があるが、笑顔は崩さない。多少のパンチラはメーカーさんも認めているし、あんまりドギツいショットになってしまったら、発行前のチェックで、はねてもらえるだろう。今、モデルとして澪が求められていることは、商用車という色気のない商品に、夢とお色気を添えて注目を集めること。そしてカメラマンさんの期待に100%応えることだ。隣をチラリと見てみると、ライバル・コンパニオンの栞が、軽自動車のフロントバンパーに片足をかけて、大胆にカメラを挑発している。負けてはいられない。
澪がカメラの前でかがんで、上目遣いでレンズに微笑みながら、胸元をグッと強調する。胸の谷間を見せる、グラビアアイドルのようなポーズだ。カメラマンが澪を褒め称えながらシャッターを切っていく。ただのスマートフォンのカメラのように見えるが、きっと高性能で小型の、プロユース・カメラなんだろう。栞の軽自動車の向こう側、ライトバンにしがみついているのは清橋優奈。ネグリジェのスケ具合を多少気にしながら、笑顔でアイドルのようなポーズを取っている。優奈担当のカメラマンは、これまた澪の学生時代の知り合い、可児田樹に良く似ていた。そして澪の左隣、近頃良く見るエコカーの横で、はにかんだような笑顔で多少穏和なポーズをとっているのが沙耶だった。カメラマンは同じく、小峰駿斗そっくり。友人に良く似た人ばかりが集まったモーターショーだった。
「ほらほら、ありきたりのショットだけじゃ、スポンサーも読者も納得しないですよ。自分がセクシーさで勝てると思ったら、周りの車やカメラマンも奪っちゃっていいです。プロの世界は弱肉強食ですよ。大胆に、セクシーに、どんどんお仕事をいただいていっちゃいましょう。」
樹に良く似たカメラマンが、周りのカメラマンと比べて一際大きなカメラを構えながら、周りにいるコンパニオン、カメラマンたちに声をかける。それを聞いた途端に、澪の胸のうちに熱がこもったようにある思いが生まれる。
(私・・・、絶対に他の子たちよりもスタイルいいんだから、・・・もっと頑張っちゃおうかな?)
その思いが、ムクムクと成長していって、芹沢澪の頭の中をいっぱいにする。少しずつ、カメラの前での肌の露出が増えていく。スラリと伸びた手足を使って、次々とポーズを取る。胸を突き出し、お尻を強調して、体をクネらせていくと、メリハリのある体が躍動する。その様子を、左隣のエコカーを撮っていたカメラマンまでもがチラチラと伺っている。澪は唇に舌を這わせる。指で自分担当のカメラマンを引き寄せながら、ジリジリと隣のエコカーへと近づいていって、ライバルの沙耶のショットの隅に収まってしまう。沙耶は少し戸惑っているが、まだカメラへ向けた、可愛らしいポーズと笑顔を崩さない。
「ちょっと失礼。ツーショットはどうですか?」
快活にカメラマンに呼びかけて、澪が沙耶と背中を合わせる。髪の毛をかきわけて扇情的な笑顔。沙耶の笑顔が少し強張るが、それでも澪の領空侵犯に声を上げることはしない。澪と抱き合うように、2人で協調的なショットを取ろうと工夫する。
(そんな「いい子ちゃん」じゃ、この業界で生き残れないよ。)
澪は、沙耶のそんな平和な姿勢を心の片隅では好ましく思いつつも、火がついた闘争心を前面に押し出して、両手で自分の体を撫でる。腰の辺りからボディコンスーツを撫で上げて、胸の横あたりに手のひらを沿わせる。オッパイを掴むスレスレの、巨乳アピール。両手で横から、その立派なオッパイをグッと押しつけ、押し上げるような仕種でカメラを挑発する。陸似のカメラマンと駿斗似のカメラマンが手にするカメラのレンズが、心なしか澪と沙耶の間から澪へと傾けられたような気がする。澪がすかさず膝を上げて、バンパーの上に足をかける。内腿がカメラの前に晒される。その膝で、少し沙耶を押しやった。戸惑った沙耶だが、固い笑顔は崩さずに、今度は澪の突き出された膝頭に両手の指先を乗せて、少しだけお尻を突き出すようなポーズをする。澪に煽られるようにして、お嬢様コンパニオンがちょっとだけ大胆な格好を披露したかたちだ。
(あら、沙耶もいい度胸してんじゃん。アタシとセクシーさで張り合うつもり?)
澪が両手で持ち上げたオッパイを、沙耶の頬にムニュムニュと押しつける。頬っぺたがずり上がるかたちで引きつった笑顔になる沙耶が、それでもカメラにむかってピースサインをする。澪が衣装の胸元を人差し指の腹で押し下げる。胸の谷間がさらに晒された。日本人離れしてるといわれる澪の体。腰の位置が高くて足がスラッと長い。S字のカーブを描く、ダイナミックなくびれと重量感ある胸。鍛えられたお尻。普段、意識していなくても、自然に男子や男性教師の目を引き付けてしまう彼女の体を、今は目一杯強調してあげる。すると当たり前のように、カメラマンのフォーカスは芹沢澪に寄せられてきた。
(ふふん。沙耶、ごめんねっ)
澪のポージングがますます大胆になる。お尻を突き出して、沙耶をフレームの外に押し出してしまった。
「きゃっ・・・」
数歩後ずさった高倉沙耶が、そのままなす術なく立ちすくむ。澪は堂々と2つのカメラを独占させてもらった。あの高倉沙耶を押しのけて注目を集める。澪の心の中で、若干の罪悪感を、大きな快感が覆い隠していった。
困惑している沙耶に近づいてきたのは可児田樹。後ろから細い肩に触れると、耳元で何かを囁いた。一瞬遠くを見つめるようにボンヤリと彷徨う沙耶の視点。頷いた沙耶は車の後ろにトボトボと歩いて行った。
(あれ? このカメラマン・・・、この一番カメラ小僧っぽいカメラマン、さっきまでは栞や優奈を撮ってなかったっけ?)
澪がフラッシュを浴びながら、チラリと左方向に視線を送る。ギョッとして息を飲んだ。ライバルコンパニオンの栞と優奈。二人はライトバンの前でポーズを競っているが、衣装が変わっていた。紺色のスクール水着。胸には白いゼッケンが「しおり」、「ゆうな」と手書きの名前が書かれ、縫いこまれている。誰か、男がこんなコスチュームをわざわざ準備してきたのだとしたら、相当気持ち悪い野郎の仕事と思えた。
(栞も優奈も、いつの間にか衣装チェンジしてるんだ・・・。あんな趣味悪いユニフォーム、よく嬉しそうに着てられるな。)
澪が右手で耳を出すように髪に指を入れながら、脇をカメラに晒す。そんなポーズを決めながら、2つ左のライトバン前で抱き合う、水着の少女たちを見ていた。
「あ・・・あの。衣装、替えてきました。よろしくお願いします。」
すこし遠慮がちな声が後ろから聞こえる。振り返って澪はギョッとする。さっき澪のお尻で弾き出された沙耶が、バスタオル1枚だけ体に巻いて、カメラマンにペコペコお辞儀をしている。頭を下げた瞬間に、美乳の谷間が覗く。カメラはあっさりと沙耶に向けられた。
「えっ・・・? 沙耶? ・・・それ、着替えの途中じゃないの?」
「うんん。今日は・・・、これが制服みたい・・・。は、恥ずかしいけど、お仕事だから。」
沙耶がはにかむように口元をモゾモゾさせながら、顔を赤くする。澪は秘かに危機感から汗を垂らした。いかにも「お嬢様モデル」といった風情の高倉沙耶が、バスタオル1枚でポーズを取る。タオルの端から伸びる足を出す。同じ足の露出でも、澪と今の沙耶とでは意味が違う。澪はきわどいとはいえ、衣服を身にまとっている。対する沙耶はタオル1枚。この太腿の先に見えるかもしれないものは・・・。どちらの姿が読者の妄想を掻き立てるかは、女の澪にだって想像出来た。
次々とポーズを変えてカメラに微笑む沙耶。対抗しようと食い下がる澪。それでも2人の間には、勢いに差があるようで、ジリジリと澪がフレームの端に追いやられる。沙耶はカメラの注目を集めるのが嬉しいようで、様々な姿勢でサービスショットを提供していく。少しずつ目が潤んで、熱に浮かされるように自分の体を晒していく高倉沙耶。彼女の息遣いのせいで、澪の周囲まで気温が上がってしまったように感じられた。
しどけない沙耶のポーズ、仕草。気がつけば、カメラマンたちは澪に背中を向けて、沙耶のアップを撮っていた。嬉しそうに着替えた前の衣装を車の後ろから持ってくると、沙耶はエコカーのルーフにシャツとホットパンツを載せる。それだけではない。フロントウィンドウのワイパーを起こすと、その黒いプラスチック棒に、自分がさっきまで身に着けていた、白いパンツとブラジャーを引っかける。そしてフードの上に寝そべった沙耶。気持ちよさそうにフラッシュを浴びながら、バスタオルをスルスルと自分の体からおろしていってしまう。沙耶の白い肌、そしてグリルとフロントバンパーを撫でるようにしてバスタオルがずりおちていく。
「・・・あ・・・。」
澪は地面に落ちたバスタオルを、気が付いたら手を伸ばして拾い上げていた。撮影の邪魔になってはいけない。モデル仲間としては抜群のチームワークだったが、いつの間にかスタッフの一人のような行動をとっている自分に気がついて、澪は少しだけ落ち込んだ。裸のままで夢うつつのような表情でポーズを決める高倉沙耶。体は澪ほどメリハリがあるわけではないが、圧倒的な華があった。美人のなかの美人が醸し出すオーラ。そのオーラの前に、澪はいつのまにか平伏してしまっていたのだろう。フードの上で大股開きになる沙耶。曝け出された秘密の場所が、日曜の日差しのなかでキラキラと輝く。
(濡れてる・・・。沙耶・・、みんなに、裸を見られて、濡れちゃってるんだ・・・。)
澪が車の横に立ち尽くして、沙耶の姿を見守っている。体を反らして、胸から起き上がるように体を起こした沙耶が、フードの上で横を向いて、髪をとかすように手を挙げてカメラに流し目を送る。悪戯っぽく笑った沙耶は、車の上で立ち上がってワイパーブレードを避けるようにしてフロントガラスにもたれかかると、カメラの方にお尻を向けて、窓ガラスに体の前をピッタリとくっつけた。円を描くように腰を動かし始める沙耶。足を開いて、膝を割って、アンダーヘアーをフロントガラスに押し付けて腰を回す。窓を陰毛で拭いているのだ。ヤモリのように窓に貼りついて、腰を卑猥に回す沙耶。もはやモーターショーという概念はどこか遠くに飛び散ってしまっていったようだが、カメラマンは総勢4人。狂ったようにシャッターを切っていた。フラッシュを浴びるたびに、聞いている方が恥ずかしくなるような喘ぎ声を上げて、悶える沙耶。いつの間にか、栞と優奈と澪が、呆然と見つめながら立ち尽くしていた。
「あぁっ・・・やんっ・・・・、みんな・・・・。沙耶を見て~っ。」
高倉沙耶が、カメラの前、全裸でお尻を振りながら、喘ぎ狂う。フロントガラスに股間を押しつけて、円を描きながら、切なそうに顎を上げる。やがてフロントガラスに、音が聞こえるほどの勢いで愛液を噴いた。
沙耶の圧巻のパフォーマンスがカメラを独占して終わった「なりきりコンパニオンゲーム」。最下位の評価となったのは、大方の予想を覆して、生徒会選挙管理委員長の芹沢澪だった。
「に、日曜の朝っぱらから、しょぼい中古車の前でコンパニオンやらされてる時点で、罰ゲームだろうがっ。」
澪の抗議も空しく、樹は審査を確定させる。可児田樹にオデコをチョンッと触られただけで、澪の全身から力が抜けて、にっくき樹の腕のなかに体を委ねてしまった。茹でられた豆腐のように、グズグズ、フニャフニャになる澪の体と頭。気がついた時、すでに生徒会の日曜の集まりは解散されていて、澪は家に帰る途中だった。樹が何を言ったのか、何も覚えていない。まるですべてが夢だったようだ。もしかして、さっきのは全部、夢? 希望的観測を持って自分の体を見下ろした澪は、すぐに溜め息をつく。バスの乗客みんなから注目を集めている、パッツンパッツンのボディコンスーツは、今もそのまま。澪の恥ずかしい思い出も夢じゃなかったということを、痛いほど思い知らせてくれた。
。。。
「ったく、罰ゲームったって、何が来るのか分ってたらまだ心の準備も出来るけど、いつ、何が起きるのか、全くわからないっていうのが、タチ悪いよな。」
「・・・お・・・おう。」
「聞いてる? ・・・可児田の性格悪いのが、丸出しだって言ってんの・・・。」
澪の愚痴を、小峰駿斗が聞き流す。いつも駿斗は、反応がぎこちない。硬派な男は無口だとでも言いたげだが、澪に言わせれば、時代遅れだ。しかし、今日の駿斗。異様に近い。顔が澪の視界の大半を覆い隠すほどだ。
(あれっ・・・駿斗、近くね?)
愚痴をだらだらこぼしていた澪が、ふと駿斗の距離に違和感を覚える。顔を遠ざけて駿斗を見ると、首から下も、引き締まって日焼けした筋肉と肌が見える。
(へ? ・・・・なんで、服着てないの?)
澪が駿斗を上から下まで見る。無意識のうちに、咳き込むように噴出していた。
「ぶっ・・・。ちょっ・・・。アンタ・・・、何してんの? ・・・え?」
裸の駿斗を見て、驚いて見下ろす澪。噴出した瞬間、危うく鼻水まで噴出しそうになってしまった。駿斗の逞しい体は一糸まとわぬ全裸。恐る恐る下腹部を見ると、彼のモノは、あろうことか、澪の大事な場所に深々と挿入されていた。
「やっ・・・やだっ・・・。何これっ? ・・・イタイッ」
「イテッ。澪、落ち着け・・・。引っ張るなよ。」
駿斗も困ったような声を漏らす。皮膚の敏感で弱い部分が暴力的に引っ張られるような痛み。腰を引こうとした澪が、慌てて体を戻す。駿斗のモノが、澪の内部でまた奥までインサートされた。
「痛いよぅ・・・・。何これ?」
澪が焦る自分を落ち着かせながら、痛みを感じる付近を凝視する。なんと自分のアンダーヘアーと、駿斗の陰毛が、紐のように結ばれていた。何本かの束ごとにキツく固結びで縛られている。一本一本、解いていくのは至難の業に思われた。
「これっ・・・。どんな暇人がこんなことやったんだよっ。」
澪が恥ずかしさを怒りに換えて毒づいて見せる。それでも男女が座位のポジションで結合しているというシチュエーションは、恥ずかしさから逃れられるものではなかった。
「多分・・・。俺とお前が、必死で結んだみたいだな。・・・他にはまだ、誰も登校してないぞ。」
駿斗が観念したように言う。澪はそう言われて、やっと周りの状況に意識がいく。ここは生徒会室。窓から差し込む日差しの角度から見て、早朝のようだった。部活の朝練の声が運動場から響く。
「そっか、私。月曜からずいぶん早起きして、ここに来たくなって、駿斗と会ったんだっけ?」
「そう。俺たち、目があった瞬間。服とか、全部、邪魔になった気がして、脱ぎ捨てた後は・・・。」
「もういい。そこまでで、じゅうぶんだから。」
澪が駿斗から顔を反らしながら、うなだれる。脳裏に次々と浮かんでくる、確かな記憶。自分と駿斗が月曜の朝から、神聖なはずの生徒会室で、いきなり全裸になって下半身のぶつかり稽古を始めてしまったのを、ようやく思い出した。派手に中出しされた後で、2人で繋がったまま、几帳面にアンダーヘアーで結び目を作り始めたのだ。どうしてそんなことがしたくなったのか、今では想像もつかない。だがわずか5分ほど前まで、2人して陰毛結びの活動に没頭していたのだった。今では、少し大勢を変えようとしただけで、どこかの陰毛が引っ張られて痛みを発する。2人は、挿入したままの状態を維持していなければならないほど、念入りにヘアーの結び目を大量生産してしまったのだった。
「これ・・・どうする?」
「痛みに耐えて、一気に体を離すか?」
駿斗がハードな結論を選ぼうとする。彼は自分の痛みよりも、彼女である清橋優奈に、この姿を見つけられてしまうことを恐れていたようだった。それでも、澪はやすやすと同意するわけにはいかない。
「アンタの毛は何か強そうだから、私の毛が全部そっちに持っていかれちゃうよ。痛いの私じゃん。もっと他の方法、考えようよ。」
「これ、全部、解いていくのか?」
腰を浮かせた状態のまま、澪が結合部分をマジマジと見つめる。短気な澪にはとても一本ずつ、結び目を解いていくことは出来なさそうな数であった。
「・・・ハサミ、黒板の横にあったよね?」
「・・・行くか。」
澪も駿斗もスポーツマン。決断は早かった。2人で生徒会室の真ん中から、腰を浮かせたままで両手、両足を使いながら、ゆっくりと黒板に向かって進むようにする。
「痛ッ。アンタ、早すぎるよ。」
「お、おう。悪い。」
2人の手足の長さには男女差がある。少しでも2人の距離が開いてしまうと、股間のヘアーが引っ張られて、悲鳴が上がる。2人は掛け声をかけあいながら、小刻みに手足を動かして、繋がったままで、ジリジリと黒板に近づいた。
「あと、3歩。右足から行くからね。」
「おう・・・。右、左。」
「イタイッ。アタシから見て右だってばっ。」
「お、おう。」
ヘアーが引っ張られる痛み。目の端に涙を溜めながら、澪が駿斗を罵倒する。少しだけ、澪の中に入ったままの駿斗のモノが、固さを失ったような気がする。2人してツイスターゲームのような歪な体勢を維持したままで、なんとか黒板の横。文房具がしまってある木の棚に辿り着いた。澪が下半身を結合させたまま、体を捻って引き出しを開け、ハサミを取り出す。裸のまま刃物を手にしてマジマジと見つめると、なぜか生唾を飲んでしまった。
「お、おい。慎重にやってくれよ。」
いつもは豪胆な小峰駿斗も、澪がハサミを股間付近に構えると、心配そうな声を出す。無言で頷いた澪は、固く結ばれて、一体化してしまったような2人のアンダーヘアーに、ゆっくりと刃を入れていった。親指と人差し指を閉じる。
シャリシャリ。
小さな音をたてて、黒い毛がハラハラと床に落ちる。2人とも無言で、その音が続いていくのを聞いた。腰を上げたままの姿勢は維持するのが大変で、腕がプルプルと震えてくる。特に両足と片手で体を支えている澪は大変だ。それを察した駿斗が、開いた足で彼女の体重を支えた。裸の2人の、緊張と集中が強いられる共同作業。ヘアーの結び目が全て切り離された頃には、2人ともグッタリと床の上に寝そべって体を重ねていた。
「おはようございまーす。駿君、来てる?」
ガラガラと、生徒会室の扉が開く。丁寧なお辞儀と可愛らしい無邪気な声。清橋優奈が入ってきた。その時、澪は扉側に背を向けて、シャツのボタンを留めている途中。駿斗は、朝からなぜか、ホウキとチリトリで床を掃除していた。
「お、おう。優奈。・・・おはよう。」
「あ・・・、優奈。ちょっと待ってね。」
ぎこちない挨拶を返す駿斗。澪の態度もいつもよりもよそよそしい。顔を優奈の方に向けずに返事をする。
「あれっ。澪ちゃんと駿君の2人だったんだ。・・・駿君、朝からお掃除?」
「お・・・、おう。」
駿斗がチリトリを背中の方に隠す。服装を整えた澪が、やっと振り向いた。顔が真っ赤だ。
「ちょっと、その、アタシが朝からストレッチしようとしてて、それにしては部屋が汚れてたんで、駿斗が掃除してくれてたんだ。朝錬のメニューを変えようかと思って、駿斗に相談してたんだよ。悪いな、優奈。彼氏を借りちゃってて。」
「べっ、別にそんな、借りちゃってだなんて、みんなお友達なんだし、駿君も、私だけの、モノじゃないんだし。・・・私だって、駿君だけのモノじゃ・・・、駿君だけのモノかな? 私・・・。キャ~。」
途端にモジモジし始めた優奈。赤くした頬を両手で包んだり、俯いてスカートの裾を整えたりと落ち着きのない様子で独り言に盛り上がる。その隙を見て駿斗に目配せをした澪が、生徒会室の窓を開けて換気を始めた。小峰駿斗も無言で頷いて、チリトリの中のものをゴミ箱に捨てる。今朝の出来事のせいなのか、2人のアスリートの連携プレーはさらに効果的になっていたようだった。まるで心が通じ合ってるかのように、無駄なく仕事を終える。
「優奈。アタシ、用が済んだから教室行くわ。駿斗も、優奈をよろしく。あんまりイチャイチャしてると、1限目の授業に遅れるから、気をつけろよ。」
去り際の格好良さはいつものアネゴ。芹沢澪の仕種だった。扉をガラガラと閉める澪。顔が隠れる前に、駿斗にアイコンタクトを送った。
(うまく誤魔化しきれよ)
そう目で合図しているのだと理解して、駿斗は頷く。
「イチャイチャだなんて・・・。澪ちゃん、酷いよね。私たち、イチャイチャなんて・・・、・・・・しちゃってるのかな? ねぇ、駿君?」
無言で交わされている合図に全く気がつかずに、一人で盛り上がる優奈。駿斗の胸元に頬を寄せて、大きなヌイグルミを抱くように両手を愛しい駿斗の体に回した。
「・・・あれっ? 駿君。シャツのボタンが段違いになっちゃってるよ。」
無邪気な優奈の、大きな両目がパチパチと瞬きする。小峰駿斗は背中と髪の生え際のあたりから、一気に汗が噴き出してくるのを感じた。
「おっ、そうか・・・。今朝、慌てて家を出たから、気がつかなかった。」
「も~。駿君ったら。ほら、優奈が直してあげる。」
向かい合って、シャツのボタンを全部外し、下から順番に留めてくれる優奈。
「何だかこうしてると、本当の夫婦になっちゃったみたいだね。・・・って・・・。私、お馬鹿みたいかな?」
屈託のない笑みを見せて、駿斗を見上げる優奈。小峰駿斗は汗を拭いながら、ぎこちない笑みを浮かべることしか出来なかった。
。。。
昼の休憩時間中に、生徒会室にはランチを早めに済ませた鶴見栞がいる。恐らく他の女子メンバーも、あと数分以内に集まってくるだろう。栞ははっきりと文章で覚えているわけではないが、これから起こる事態については大体の想像がつく。これもどうせ、催眠状態の時に樹から与えられた暗示なのだろう。深層意識が開かれた、特殊なトランス状態にある間に、可児田樹に与えられた指示について、ふだんの生徒会役員たちは思い出すことが出来ない。しかし予め指定された条件が満たされると、生徒会メンバーは途端に指示の内容を思い出して、必ず実行に移す。疑問を持ったり抵抗したりしようとしても、無駄なのだ。深い催眠状態で刷り込まれた樹の暗示は、思い出した瞬間に生徒会メンバーたちにとって、校則よりも法律よりも厳格な天啓となって彼らを縛ってしまう。それらの指示に歯向かうことは、強い生理的な欲求に長期間逆らうことの何倍も難しかった。
ガラガラと、扉が開かれる。不貞腐れたような顔の、芹沢澪が立っていた。
「・・・貴方が最後かと思ったけど、意外と早かったわね。」
栞が冷静さを維持して話しかける。
「もう、今日は朝から罰ゲームもあって、ここに来るの、2回目だぜ? 勘弁して欲しいよ。」
頭を掻きながら、澪が不満を遠慮なく口にする。
「罰ゲームが何だったかは、聞かないでおいてあげるね。・・・ところで澪、今、したいことは何?」
「・・・・。勉強出来る奴は性格悪いな。栞がしたいことと、一緒だよ。・・・これもエロ樹の仕業だろ?」
「間違いないわね。『生徒会の女子メンバー全員で、お昼休みに全裸でオナニーをして、同時にイキたい。エクスタシーのタイミングがずれたら、全員同時にイけるまで再チャレンジ』・・・。いかにも、モテない、根暗な男子の考えそうなことだわ。・・・今、そうしたいのは、私たちなんだけどね。」
頭に浮かんでいる、自分のしたいことと、栞の言葉が一言一句ピッタリと一致することを確認して、澪が面倒臭そうに溜息をつく。
「じゃ・・・、まだ沙耶と優奈が来てないけど、・・・準備だけしとくか?」
「仕方ないわね・・・。嫌がってばかりいたら、次の授業に間に合わないし。」
2人で制服を脱ぎ始める栞と澪。布が擦れる音だけが部屋に響く。無言で脱いでいくのが居心地悪くなったのか、栞が澪に無駄口を叩いてみた。
「あら、澪さん。黒の下着は校則違反ですわよ。生徒会の役員なんだから、校則は守って頂かないと。」
靴下を脱ごうと屈んだ際に、ウェーブのかかった髪が顔に覆いかぶさるのを、鬱陶しそうにかきあげる澪。
「ほいほい、どうもすいません。アタシの体、清楚なインナーは似合わないみたいなんだよな。性格が出るんですかね? 優等生の鶴見さんが羨ましいよ。」
ナイスバディを黒い下着が包み込む澪の体と比べて、白い下着を身につけた栞の体は華奢でスレンダー。胸も本人の希望よりワンサイズ小さい。
「大体、現代の女子高生の体型とか好みと、校則が合ってないんだよ。白を基本に、清潔感のある、高校生らしい下着を、って何だよ。高校生らしさとか、勝手に先生が決めて、アタシらに押し付けるものなの?」
優奈が横でスルスルと制服を脱いでいく間も、澪はまだエキサイトしている。普段は若干斜に構えたようなスタンスで学校生活をやり過ごしている芹沢澪も、親友の鶴見栞の前では、なかなか熱いディスカッションをする。栞の豊かで冷静な知性を、信頼しているからこそのことだろう。
「そうは言っても、高校生っていう年代はまだ、心と体の発達がアンバランスだったり、世の中の誘惑や危険に素で晒されると危ないことが一杯なんだから、ある程度のルールや枠組みが必要なのよ。澪だって、女子高生っていう枠組み自体をそれなりに楽しんだり享受したりしてる時も無いわけじゃないでしょ? もっと大人になったら、服だって下着だって自由にすればいいんだから、学校生活を過ごしてる間くらい、身だしなみお淑やかな優奈お嬢様を見習って・・・。・・・って優奈? いたの?」
したり顔で滑らかな弁舌をぶっていた栞が、清橋優奈を見て絶句する。澪も振り返って、顎を限界まで落としてしまった。
「ゆ、優奈。アンタ。それ・・・・。アタシもそんなん持って・・・。いや、どうしたの?」
生徒会書記。いつも優雅で柔和な優奈が、丁寧に脱いだ制服を畳みながら栞と澪に顔を向けてニッコリ微笑む。小首を傾げながら、2人が何を驚いているのか、様子を伺う。
「へ? どうしたの? 澪ちゃん、栞ちゃん・・・。・・・あ・・・、・・・・これかな?」
優奈が見下ろす自分の下着は、メタリックな深緑の生地が光沢を放つ、大胆不敵なランジェリー。ブラジャーのカップ中央部分とパンティーのクロッチ部分は黒い網目のシースルーになっている。優奈の、まだ少し子供っぽさを残した体型とのアンバランスさが、かえってイヤラシさを強調していた。淡く生え揃っているはずのアンダーヘアーも、スケスケのパンツの中で貼りついているからか、いつもよりも濃く股間を這っているように見える。ブラのシースルー部分には左右の乳首が抑えつけられて横を向いていた。
「そ、そんなにジロジロ見るの、やめようよ。」
あまりに真っ直ぐ差し込んでくる親友たちの視線に、優奈が少し照れて、胸元を腕で隠しながら体を捻った。背中を見せるとパンティーの後ろの部分はほとんど紐のようなTバックになっているのがわかる。大きくはみ出した丸いお尻のお肉がプルルっと震えた。
「お、おい。会計さん。こっちのお嬢様の下着、アタシの黒ブラどころじゃないんだけど・・・。」
澪が釘付けになっている自分に気がついて、咳払いをしながら栞に問う。栞もメガネの弦を右手で触れながら、優奈に遠慮がちに質問する。
「あの・・・、優奈。・・・どうしちゃったの? その下着。自分で買ったの?」
赤い顔のまま、優奈が微笑む。
「そうなの・・・。いつもお母様と買いに行く下着屋さんじゃなくて、内緒でインターネットで買っちゃった。お父様にカード作ってもらってたから・・・内緒で・・・。でも、駿君が喜んでもらえるように、もっと変な下着も買ってるから、今日のはまだ普通な方だよ・・・。」
澪が無言で赤くなる。栞は自分の妄想を掻き消そうとするように、頭の上でバタバタと手を振った。
「・・・ってことは、そんな下着、駿斗に見せてるってこと? ・・・2人とも、そっち方面は、お子ちゃまだし、もっとノーマルな付き合いかと思ってた・・。」
「えっ・・・やだなぁ、澪ちゃん。いっつも私のこと子供扱いして・・・。駿君は優しいから、このパンツ被るとキツいのに、我慢して頭に被りながら、優奈のことスパンキングしてくれるんだよ。だから私も、『もっといい子になります。ごめんなさい』って謝りながら、駿君に一生懸命ご奉仕するの。最後はご褒美に、一杯顔とかにかけてもらうんだよ。終ったら、ヨシヨシってしてくれるの。だから今度は私の首輪を駿君の方にかけなおして・・・。」
「もっ・・・もういいよ。優奈。それ以上、聞いてると。私たちの頭が、どうにかなちゃう。」
栞が必死で止める。優奈が嬉々として語る小峰駿斗とのお付き合いは、度を越して異常なプレイに踏み入れているような気がした。硬派の体育会系男子とお上品そのものの令嬢とのカップルが、いつの間に、そんな世界を突き進んでしまっているのだろう。栞が視線を澪にやると、澪は真っ直ぐ上を向いて、鼻をすすったり、手のひらで鼻の下を触れて確かめたりしていた。生徒会メンバーのなかで一番大人っぽいとされている、選挙管理院長の澪は、自分が鼻血を出していないか、確認しているようだった。
「皆、遅れてごめん。さっき先生に呼び止められて、次の総会の話になっちゃって。」
扉を開いて、最後に部屋に入ってきたのは生徒会長の高倉沙耶。そこで下着姿の女子メンバーたちの不思議な空気を察知する。何より目に飛び込んでくるのは、清橋優奈のド派手なランジェリー姿。澪の黒下着が奥ゆかしく見えるほどだった。
「会長・・・。校則違反。」
栞と澪が優奈を指さす。沙耶の目には、真上を向いたまま、黒いブラとショーツだけ身にまとって、優奈のいる方角を指さしている澪の姿が、ずいぶんシュールに映っていた。
「ゆ・・・優奈ちゃん、どうしたの、そんな下着。・・・確かに校則違反だし、・・・そんな恰好、体育の着替えの時とか、他の子に見られたら、問題になっちゃうよ。」
「・・・。沙耶ちゃんたちが、大人しすぎるだけだと思うな。これよりもっとエッチな、変態な下着、優奈いっぱい持ってるよ。」
珍しく優奈がむくれて、不満げに沙耶に言葉を返す。沙耶は栞と視線を交わしながら、言葉を選んで、宥めるように諭そうとする。そして時間がないので、話しながら自分の制服を脱いでいった。
「優奈ちゃん。小峰君とお付き合い始めて、今、毎日がとっても楽しいっていうのは、良くわかるわ。両想いで幸せな優奈ちゃんを見てるのは、私たちも嬉しいの。」
お説教ではなくて、祝福から始まった沙耶の言葉に、優奈は途端に蕩けるように表情を緩める。両手で頬を包んで、満面の笑みを浮かべた。いつもの無邪気なお嬢様だ。沙耶の語り口はいつも巧みで、栞を感心させる。栞の場合はもっと直線的に事実と要点を衝いてしまう。このあたりが秀才と、天性のリーダーとの差なのだろう。
「・・・だけど、優奈ちゃんの、もともと持ってる魅力や可愛らしさを、急に男の子のために変えてしまうのも、ちょっと勿体ないと思うな。小峰君だって、お淑やかで穏やかな、優奈ちゃんのことを好きになったんだと思うし。・・・お付き合いを始めたからって、急いで大人にならなくたって、優奈ちゃんは、優奈ちゃんのままでいいと思うの。」
モジモジしていた優奈。そのまま沙耶の言葉に従って、自分を改めるのかと思いきや、両手で頬を覆ったまま、少し唇を突き出した。上目遣いでも沙耶をギュッと見返す。
「優奈は優奈のままでって・・・、みんな、いつまでも自分のままで、いられないかもしれないよ? 樹君の催眠術に操られたままなのに、いつまでも綺麗な自分でいられると思う? 沙耶ちゃんだって、性癖とかいじられちゃってるかもしれないじゃん。・・・ほら。」
優奈が右手の人差し指でさし示す。その方向には、制服を脱いだ高倉沙耶。清楚な白いショーツに覆われた下半身があった。ショーツの股間。クロッチ部分が濡れてアンダーヘアーを透けさせている。下着姿の沙耶が、耳まで赤くなって体を縮こまる。澪、栞、優奈。親友たちの視線が沙耶の股間に集まると、沙耶はさらに内股になって、恥ずかしい液をいっそう分泌させてしまう。
「沙耶ちゃん最近、裸を見られそうになると、いっつも、そこを濡らしちゃってるよ。それだって樹君の暗示に操られてるんでしょう?」
澪にも思い当たる節がある。昨日の『モーターショーコンパニオン撮影ゲーム』で澪が惨敗を喫したのも、肌を曝け出すほどに妖しく陶酔する、沙耶の異常なまでの発奮っぷりに、場の空気を全て持って行かれたからだ。
「澪ちゃんだって、今朝、駿君と2人っきりでここにいたし、栞ちゃんだって、私のヌイグルミを勝手に『クマ太郎』って、倫太郎君みたいに呼んで公園でイチャイチャするし。みんな、樹君のオモチャになってるじゃない。私ばっかり、変になったみたいに言わないで欲しいの。」
澪もギクッと体を強張らせる。今朝の駿斗との一件。天然ボケっぽい優奈だから誤魔化しきれたかと希望的な観測を抱いていたが、見通しが甘かった。いかに純真無垢でオットリとした優奈と言えど、女の勘はちゃんと働いていたのだ。
「ゴメン・・・。優奈。今朝のは、本当に可児田の大馬鹿野郎のせいで、あいつに罰ゲームを指定されたら、絶対服従しちゃうみたいなんだ。そもそも、罰ゲーム発動ってなる直前まで、中身も忘れてるから、防ぎようもなくて・・・。」
「わかってる・・・。ゲームの結果だから、澪ちゃんが悪いんじゃないよ。・・・でも、みんな、もう樹君のオモチャなんだって、わかってほしい。表面だけ、取り繕ったって、樹君に一声かけられたら、私たち、身も心も裸になっちゃうし、どんなことでもさせられちゃうじゃない。澄ましていたって、私たち、樹君のシナリオに従うだけのロボットだよ。」
「シナリオじゃない。・・・ゲームなの。」
清橋優奈の意外な反撃を受けて、言われるがままになっていると思われた沙耶が、静かに答えた。澪も栞も、身を縮めて恥ずかしさと屈辱にうなだれている時に、沙耶だけは優奈の目をしっかりと見据えた。
「優奈ちゃん。見て。」
背中に手をまわしてホックを外し、ストラップから肩と腕を抜いて、白いブラジャーを脱ぐ。両手でショーツのゴムに手をかけて、ゆっくりとショーツを下す。クロッチ部分が股間にベットリと貼りついていて、離れる前に抵抗した。沙耶の大事な部分は明らかに、優奈の指摘通りに潤っていた。
「見られてると、こんなに濡れちゃう。見られることを考えただけでも、湿ってくるの。・・・それは優奈ちゃんの言う通り。だけど、これ。・・・可児田君の言うには、彼の暗示のせいじゃないみたいなの。」
顔をいっそう赤らめて、沙耶が告白する。優奈も澪も、栞も唖然として沙耶の言葉を聞いた。
「これ・・・、可児田樹君が、私に刷り込んだ暗示じゃ、ないみたい。・・・私の、気づきもしなかった秘められた性癖が・・・。特別な体験をしたせいで、急成長しちゃっただけだって・・・。私自身の隠れた性癖に、勝手に目覚めちゃっただけなんだって・・・。」
沙耶の声は懸命に平静を装っていたが、震えていた。優奈たちの、いや、学校全体の、絶対的なリーダー。その高倉沙耶が、「見られると興奮する」という性癖を、押しつけられたものではなく、自ら密かに培っていたものだということを告白しているのだった。裸で、「きをつけ」の姿勢で、親友たちの前に立ち、沙耶は消え入りそうな様子で震えていた。目から涙は流れていない。気丈な沙耶は必死に持ちこたえていた。ただ股間からはタラタラと愛液が内腿をつたっているのだった。
「私が可児田君のシナリオを、一言一句遂行するだけのロボットになっているんだったら、彼はこんなにしつこく私たちとの遊びに執着しないと思う。そうだったら、どれほど楽だったか・・・。」
沙耶の表情は笑いそうにも泣きそうにも見えた。
「ロボットで遊ぶだけだったら、一度自分の性欲を満足させたら、次のターゲットを探していたと思うの。そうじゃなくて、彼が執着しているのは、ゲーム。私たちに何かを仕掛けて、自分でも予想外のものが飛び出してきた瞬間を、一番喜んでいるんだと思う。私から、飛び出しちゃったのは、露出願望。た、たぶん。物心ついたころから、学級委員とか発表会の司会とか、みんなに注目されて、それを褒められて育ってきたから、こうなったのかな? ・・・言われてみれば、初めて自分を慰めたのも、小学校5年生の時。ピアノの発表会が終わった後、表彰式の夜だったし・・。」
全裸で直立している沙耶。しかし優奈にとってそんなことが全く気にならないほど、今の沙耶は裸以上に裸になっているように感じられた。あの高倉沙耶がオナニー。皆の注目を集めて興奮・・・。優奈の目を見据えて、せつせつと恥ずかしい秘密を打ち明けてくれる沙耶。優奈は勢いに任せて親友たちを非難したことを、心から反省して、傍目にも可哀想なくらいションボリと、しおれていた。
「沙耶ちゃん、ごめんなさい。もう、言わないでいいから・・・。」
「いいの・・・。私はこの、シナリオ通りじゃない、樹君の求めているゲーム性っていうのが、実は私たちが解放されるチャンスを秘めているんじゃないかって思っているの。全部彼が仕組んだ筋書きじゃない。私たちに無理やり共同参画させる遊びだから、彼の期待を上回る喜びや発見を与えてしまう恥ずかしさはあるけれど、その分・・・。」
「可児田樹の想定を下回って、彼を失望させる結果や、あいつの予想を裏切って、ピンチに追いやるような事態も発生しうる。それがゲーム。そういうこと?」
栞が沙耶の言葉を継ぐ。沙耶は大きく頷いた。
「私たちは、ただ可児田君の言うがままに弄ばれてるだけじゃない。これは私たちの戦いなの。何をされても揺るぎない、私たちの尊厳と結束を見せつけて、彼が根負けするまで頑張ることも出来るし、魂の根本から屈服しちゃうことに耐えている間に、彼が予想もしなかったような逆転劇の糸口を探ることも出来るかもしれない。だから、私たちは自分たちを可児田君のロボットだって認めちゃいけないの。今は、散々に弄ばれて、玩具にされちゃってるけど、私たちは学校に選ばれた、清く正しく、賢い模範なの。」
いつもの奥ゆかしい沙耶の言葉からすると、ずいぶんと勝ち気な発言。自分たちを大げさにでも、懸命に鼓舞しているんだということは伝わってきた。
「ハイッ。会長っ。私、頑張りますっ。」
シンプルな優奈が、ド派手なランジェリー姿のまま、ピンッと挙手して沙耶の言葉に同意した。両手を腰に当てた澪も溜め息と一緒に首を縦に振る。お腹のあたりで腕を交差させたまま、栞も小さく頷いた。
「そっ・・・それで、今日・・・。お昼休みが終わらないうちに、しないといけないことは・・・。皆、わかるよね?」
先ほどまでの高らかな宣戦布告の立派な姿とは異なって、沙耶が恥ずかしそうに、ぎこちなくみんなに問いかける。全員、モジモジしながら下着を脱ぎ去った。
「・・・じゃ・・、タイミング合わせるのが難しいと思うけど、その時が近づいて来たと思ったら、ちゃんと教えてね。」
沙耶が苦心しながらみんなをまとめようとする。全員、当たり前のことながら、人前で(意識しつつ)オナニーをするのは初めての経験。それも、4人がタイミングを合わせてオルガスムを迎えるということが、どれほど難しいのか、見当もつかなかった。
生徒会室の中央。机や椅子をどけた床に、4人の美少女が足を開いて、向かい合って腰を下ろす。お互い目が合わないように気を遣いながら、時間に追われてオズオズと自分の体を慰め始めた。片手で胸を触りながら股間に手をやっているのは沙耶。澪は始めは両手で豊満な胸を包み上げるように揉んで、次第に乳首を指で転がす。優奈は膝を割って両手で股間を弄る。栞は、床に背をつけて、モゾモゾと体をクネらせながら、片手の指を口に入れ、湿らせては秘部に指を入れるというのを、右手、左手、交互に繰り返す。
親友同士、互いに気を遣いながらも、少しずつ吐息が大きくなる。ピチャピチャと液体を混ぜるような、指の動く音も大きく、早くなる。悩ましげな溜め息。時折、「んっ」と音になる、くぐもった声。美少女たちの合同オナニーは少しずつだが着実に、ピッチが上がってきた。
「ごっ・・・ゴメンッ・・・私・・・もうすぐっ。」
生徒会長の沙耶が、最初に宣言する。
「えっもう? ・・・ちょっと待っててくれない?」
澪が慌てた声を出す。そういえば、沙耶は裸で性癖を独白していた時点で、相当感じていた様子だった。急いで追いつこうと焦る澪。オッパイがムギュっと変形するほど、強めに揉み絞った。それでもまだ、やっと股間が湿り気を見せてきた程度だ。
「・・沙耶ちゃんっ・・・・。私頑張る・・・・・・んんん、駿く~ん。」
優奈が懸命に、沙耶のエクスタシーに自分を間に合わせようとする。両手で激しく大事な場所を刺激しながら、誰もが予想する、ベタな人名を口にした。
「沙耶っ・・・もう少し待てる? ・・・もうちょっとだけ・・・。」
栞が声をかける。沙耶は顎を突き上げて悶えていた。クリトリスを弄る指を緩めて、時間を調整しようとするが、栞、優奈、澪が心配そうに自分を見ている、その視線を感じた瞬間、脆くも決壊してしまった。
「はぁぁぁあ、ゴメンっ・・・っくっ・・・・うっ・・・・ぁあんっ・・・みんなっ・・・見てるっ・・・・。」
沙耶が盛大に潮を噴く。優奈もキスをするように口をすぼめて、昇天していた。栞と澪は間に合わず、がっくりと両手を床についた。
「ごめんっ、沙耶、優奈っ。間に合わなかった。」
「・・・申し訳ない・・。私たち、自分を壊し切れなかった。」
澪と栞が謝る。呼吸を荒げて、体に貼りつく汗ばんだ髪を掻きあげながら、沙耶がやっとこたえる。
「いいの・・・。はぁ・・・、私こそ、・・・ふぅ・・・・早すぎた・・・よね・・・。・・・次、・・・頑張ろう・・・。」
「はぁ・・・・、もう一回・・・・。ふぇぇ・・・。」
背中を上下させながら、呼吸を整えようとしている沙耶。呆けたように目を白黒させる、半笑いの優奈。4人でもう一度、大勢を整えなおした。
「澪。私たち2人が、まだ自分を守っちゃってるんだと思う。沙耶はみんなの注目を集めたらまたすぐイケそうだから、私たちが30秒くらい早いスタートを切るべきよ。あと、さっきの優奈みたいに、恥じらいもなく声に出した方がいいかもしれない。」
「・・・は・・・恥じらいもなく・・・。」
「褒めてるの。優奈は偉いわ。自分を捨てきって。露出狂の沙耶のスピードにも、ちゃんと追いついた。・・・・もう一回、すぐにイクのは出来そう?」
言い方がストレートになってくるのは、栞の頭脳がフル回転している時。若干、引っ掛かる言葉はあるものの、優奈も沙耶も、生徒会のブレーンの提案に従うことにした。
「うん・・・みんなで心を一つに、チームワークだよな。」
澪も気合を入れる。自分で特に何を意識した訳でもないのだが、『チームワーク』と言葉にした瞬間に、澪はなんだか、どんなことでもしようという覚悟が決まった。この身が引き締まり、躊躇いのリミッターがオフになる感覚。なぜか過去にも思い当たる体験があるような気がした。
「もう一回・・・。ちょっと待ってて。」
優奈が畳まれた制服の胸ポケットから、白い布を取り出してくる。広げると、男物のブリーフだった。周りの目を気にしながら、そのブリーフを頭からスッポリ被る。
「ドーピングか。優奈。」
澪が口にすると、優奈はブーっと唇を震わせてむくれる。布越しに振動音が響いた。
「じゃあみんな。いいわね? 私と澪が始めてから、30秒後に優奈がスタート。みんなが、あと15秒でイケるって思ったところで、沙耶を見るの。見られるだけでまたイキそうになるはずだから、沙耶はそこから追い上げてきて。せーのっ。」
意気込んだ澪は、栞が右手を挙げて、振り下ろす前から自分の両手でオッパイを持って構えていた。栞の合図と同時に、フルスロットルでオッパイを握りしめ、乳首を強めにいじくる。
「くそ~っ・・・・あぁああああっ、オッパイがぁあああああっ」
少し痛いくらいに刺激を強めて、澪が自分の胸を揉みしだく。さっきまでの、お互いに遠慮しあいながらのオナニーとはわけが違う。『チームワーク』のために澪も女を捨てていた。右手が乳首を離れてクリトリスに触れる。空いた右乳首は顔を突き出して口で吸った。このメンバーの中ではダイナマイトボディの持ち主、澪にしか出来ない、アクロバティックなオナニーだった。
「ぁああああ、倫太郎の馬鹿野郎~。女ったらしいぃいいい。」
栞はなぜか同じ生徒会メンバー、湯川倫太郎の名前を出して毒ずきながら、自分の膣に指をグリグリと捻じ込む。人の悪口を言いながら喘ぎ散らすというのは、変わった自分の慰め方だった。指を噛んだり、膣に挿入したり。転げまわってオナニーをする。
2人から遅れること30秒。膝立ちになった優奈が、お尻をプリプリと振りながら左手で自分の粘膜を広げて、右手で刺激し始めた。
「ぁああっ。駿君の匂いっ・・・。駿君の赤ちゃんの素の匂いがするっ。駿君っ・・・大好きっ・・・。大好き~っ。」
生徒会役員3人の、人目も憚らない弾けきったオナニー。その嬌態に戸惑いを隠せずに、両手で目を覆ってしまった沙耶だったが、澪と栞の「そろそろっ」という合図を受けて、意を決する。開脚前転のような姿勢になって、伸ばした両足を限界まで広げた沙耶が、声を張った。
「沙耶の恥ずかしいところっ。みんな見てっ。」
襲いくるオルガスムスの予兆に耐えながら、赤い顔をした澪と栞が、首を捻って沙耶の股間を凝視する。優奈も白ブリーフの足を通す穴から、尊敬する会長のヴァギナを見た。
「もうすぐだっ。・・・沙耶もいい?」
「駿君っ・・・・駿君っ!」
「あっ、ちょっとだけ待ってっ。」
「もうっもうっ・・・やぁあああんっ。」
沙耶が2度目のエクスタシーをものともせず、また潮を噴く。大きく開脚していた足が、平泳ぎの足の動きのように膝を屈伸させた。澪も苦しそうな顔をしながら突き上げた乳首まで痙攣する。優奈は両手首までビショビショになるほど愛液を散らしていた。
「ゴメンッ・・・」
数秒遅れて、栞がやっと達する。全員がエクスタシーには到達したものの。会計の鶴見栞だけが僅かに後れをとってしまった。その事実と昇天の余韻とで、全員床に這いつくばったまま、起き上がれないでいる。
「みんなゴメン・・・。全体の指揮のことを考えてたら、ちょっと私が、のめりこむのが遅れちゃったのと・・・。あと、・・・・途中でちょっと・・・冷静になっちゃって・・・。」
うなだれながら、栞がまたもや冷静に己の敗因を分析していた。
「その・・・。私たち、何やってるんだろうって、一瞬、思っちゃって。」
(それは言わない約束でしょう・・・。)
沙耶と澪と優奈が、汗だくで床に這いつくばりながら、同時に思い浮かべた言葉だった。
「どうしよう・・・。もう、5限目が始まっちゃうよう。」
「緊急の生徒会召集があったっていうことには出来ないかな?」
「それって、男子も全員ここに呼ぶっていうこと?」
「うっ・・・。嫌だ。」
授業への遅刻という結果が迫りつつあるなか、生徒会女子メンバーたちが、裸のまま相談していた。4人が絶望的に見上げる、生徒会室の時計には秒針がない。長い針がカチリと不意に動くと、同時に、スピーカーからチャイムの音が流れた。
キーンコーンカーンコーン
「はうっ・・・・な、なんで?」
「あっ、やっ、やああんっ」
「ふぁあああっ、駿君っ」
「ひっ・・・またっ・・・」
全員がチャイムと同時に腰を断続的に引くつかせる。体から体液を絞り出すように、仰け反って腰を振り、凶暴なまでの快感に打ち震える。シモの絞りがバカになってしまったのかと思うほど、何回も、何回も、股間から粘液を噴き出してしまった。
『もし女子全員、昼休みの終わりまでに同時にイクことが出来なかったら、みんな授業に遅刻しちゃうね。でも完全に授業をサボっちゃうと支障があるから、その時はチャイムの音で全員同時に昇天っていうのはどうかな。快感はこれまでの累計のさらに倍でドン。その瞬間みんなが思い浮かべるのは、僕がこうしてる画っていうのはどう?』
頭の中が爆発するような激しいエクスタシーに振り回されて、腰をグラインドさせる女子たち。永遠とも思えるチャイム音が鳴りやむまで、彼女たちの脳裏に浮かんでいたのは、今まで忘れていた樹の言葉と、彼がニヤニヤしながら貧弱な体でボディビルダーのようなマッスルポーズを決めているところだった。上半身裸になって、青白くガリガリの体を見せる可児田樹。その体の隅から隅までを嫌というほど精緻に思い浮かべながら、学園トップの美少女4人は、体がバラバラになるような至福の快感に悶え狂った。
結局生徒会女子メンバーはこの日、5限目の授業にそれぞれ、15分ほど遅れてしまう。幸い、教師たちは生徒会の急な用があったのだろうと勝手に推測して、彼女らを咎めることはなかった。それでも本日3回目の絶頂を味わった高倉沙耶生徒会長は、他のメンバーよりも立ち直るのに時間がかかったようだった。体を拭くのも、下着や制服を着るのも、すべて澪、栞、優奈にやってもらった。快楽の世界からまだ意識が戻って来れていない沙耶は、身繕いをしてくれる親友たちの、為すがままになっていた。
「沙耶ちゃん、今日はゴメンね。午後の授業も頑張ろうね。」
優奈がハンカチで涎を拭いてくれている間も、沙耶はだらしない笑みを浮かべて放心していた。彼女だけが授業に20分近く遅刻したのは、こうした事情によるものだった。
< つづく >